ゲーム業界が、消費者から理不尽な要求や誹謗(ひぼう)中傷を受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に頭を悩ませている。以前からゲームへの不満に対してユーザー側の暴力的な言動に発展することは珍しくなかったが、近年はクリエイターを名指しで中傷する投稿が交流サイト(SNS)などで目立つ。各社は「カスハラ対応方針」を発表し、悪質な場合は法的措置も検討すると警告するが、歯止めがかかっていない状況だ。
直近2万件レビュー「圧倒的不評」
「死ね」「土下座しろ」「無能」「クズ」-。カプコンが2月に発売した人気シリーズの最新作「モンスターハンターワイルズ」を巡り、SNS上に投稿された特定のクリエイターへの誹謗中傷の一部だ。
同作ではプレー中にパソコン(PC)やゲーム機が強制終了するなどの不具合が報告されており、ゲーム内容自体への不満と合わせて〝炎上〟する事態となっている。世界最大のPCゲーム配信サービス「Steam(スチーム)」でのユーザーからの直近2万件のレビュー(批評)は最低評価の「圧倒的に不評」となっており、ユーザーの間で不満が渦巻いていることがうかがえる。
こうした中、カプコンは7月4日に自社サイトに重要なお知らせとして「カスタマーハラスメントへの当社対応について」と題したメッセージを掲載。「特定の個人を想起させる形での誹謗、中傷、人格否定、脅迫、加害予告、業務妨害予告、ハラスメントなどの行為が一部で確認されている」として、悪質なケースでは法的措置や刑事手続きを含む対処を行うと表明した。
カプコンは「特定のタイトルを指すものではない」としているが、SNSではモンスターハンターワイルズの事案と関連付けた反応が相次いでいる。
ユーザー意識、時代の変化に追い付かず
カスハラの対応方針に関するカプコンのX(旧ツイッター)への投稿には誹謗中傷を批判する声が複数寄せられている一方で、日本語や英語、中国語などでゲームの不具合を揶揄(やゆ)するコメントも目立つ。
ゲーム業界に詳しい東洋証券シニアアナリストの安田秀樹氏は「ゲームが満足のいく出来じゃなかったときに一部のファンが暴言を吐いてしまうことは昔からあった。近年は、企業がクリエイターを広告塔にするようになったことで個人がターゲットになってしまっている」と説明する。
ゲーム業界に限らず、これまではネット上での誹謗中傷は見過ごされてきた経緯がある。しかし、スマートフォンの普及でネットが多くの人の目に触れるようになり、公共の場と同じようなモラルが求められるようになっている。安田氏は「ゲームに関してはユーザーの意識の変化が追い付いていない部分があるのでは」とみる。
セガは法的措置、示談が成立
こうした状況に、企業側も社員を守るため断固とした対応をとるようになってきている。
セガは2024年7月、従業員個人にSNS上で度を越えた誹謗中傷を行った人物に法的措置を行ったと発表した。発信者情報の開示請求が認められ、当事者と交渉の結果、示談が成立したという。
同社は「ゲーム制作に携わる方々への誹謗中傷が依然として見受けられる現状を深く憂慮している」とコメント。23年にカスハラへの対応方針を策定して以降、従業員が安心して働ける環境づくりに努めているとしている。
スクウェア・エニックスは今年1月にカスハラ対応方針を公表。役員や商品・サービスに携わる関係者への誹謗中傷や脅迫などが起きているとして、悪質な場合は法的措置や刑事手続きを行うことがあると明言した。
担当者は「これまでも啓発や警察への相談はしていたが、対応方針は初めて公表した。SNSだけでなく、オンラインゲーム内でスタッフがユーザーとやり取りをする際にカスハラが起きることもある」と話す。
また任天堂は22年に製品の修理サービス・保証規定にカスハラの項目を追加。バンダイナムコエンターテインメントは24年に対応方針を発表している。
各社ともゲーム内容への批評は概ね受け入れている。個人への誹謗中傷に発展しないようユーザー側にも線引きが求められる。(桑島浩任)