トランプ氏に刺さった「大きなディール」 赤沢氏との最後の70分
「相互関税は25%で認めてやる。欧州はもっと高いんだ」
米ホワイトハウスのオーバルオフィス(執務室)。赤沢亮正経済再生相と向き合ったトランプ大統領は、こう、口火を切った。
ラトニック商務長官らとの8回目の関税協議を終えた赤沢氏は、現地時間22日夕、ホワイトハウスに呼ばれた。「これで合意できるかも」(日本の交渉関係者)。期待と不安が入り交じるなか、70分にわたる最後のディール(取引)が始まった。
「もう少し積めないか」「それを引っ込めるなら、こっちを上げろ」
トランプ氏の目の前には、日本の提案を記したパネルが差し出されていた。米国への巨額投資計画「ジャパン・インベスト・アメリカ」だ。そこには、4千億ドル(約59兆円)という金額が書き込まれていた。その額の大きさに、トランプ氏が食いついてきた。
日本側は当初、1千億ドルと想定していた。だが「大きなディール」を好むトランプ氏を納得させるために、4倍に増やしていた。さらなる増額を要求するトランプ氏の目の前で、赤沢氏は少しずつ額を積み上げてゆき、最終的には5500億ドル(約80兆円)に膨らんだ。
「No more bowling ball test!」 喜ぶトランプ氏、影の立役者は
「カードはちょっとずつ切れ。そのかわり、これをくれと言うんだぞ」
そうアドバイスしたのは、ラトニック氏だった。赤沢氏は一連の交渉で、トランプ氏とゴルフ仲間であるラトニック氏を「落とす」ことに力をいれた。毎週の訪米や電話協議で気脈を通じるようになり、投資計画の改善にはラトニック氏も関わった。前日には自宅に招かれ、3時間にわたる「予行演習」までした。
トランプ氏がこだわっていた米国産コメの輸入拡大も、ディールが盛り上がったところで対案を切り出した。米国メーカーの乗用車の輸入を増やすため、米国の安全基準にあわせ国内の自動車の審査を簡素化すると持ちかけると、トランプ氏は「No more bowling ball test(ボウリング球のテストは終わりだ)!」と同席者らに自慢してみせた。
カードを切るたび、25%をかけるとした「相互関税」の税率が1%ずつ下がった。最後に達したのが15%。それ以上はトランプ氏が譲らず、目標としていた10%はかなわなかった。一方、日本がこだわった自動車関税は「同じ数字」の15%にそろえることになった。
トランプ氏は最後に赤沢氏と握手をかわし、約100日間に及んだ協議をねぎらった。「Congratulations(おめでとう)」
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合意に達した日、東京株式市場では日経平均株価が急騰した。日米の合意を皮切りに、欧州連合(EU)などでも合意に向けた機運が高まる。だが、日本が本当に成果を勝ち取ったといえるのかは、まだわからない。
石破政権は当初、トランプ関税の全廃をめざしていた。自動車関税は計27.5%から15%に下がるとはいえ、そもそも2.5%だった。いまは世界一律の10%が課せられている相互関税も、5%分上がる。鉄鋼・アルミニウム製品への課税は50%のままだ。
5500億ドルの投資計画にいたっては、日米の認識の差があらわだ。日本側は、政府系金融機関が出資や融資、融資保証をして民間投資を促すための「枠組み」だと説明。実際に国が出すのは「数兆円前後」(複数の政府関係者)という。一方、トランプ氏は「日本は、私の指揮の下に米国へ5500億ドルの投資をし、米国は利益の90%を得る」と主張する。
今後、国会の審議などを通じて、合意の内容を検証していく必要がある。
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