地球沸騰化とは? 世界に与える影響と期待できる対策を徹底解説
2023年7月、世界平均気温が観測史上最高記録を大幅に更新したことで、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「地球沸騰化」という表現を用いて警鐘を鳴らしました。この記事では、地球沸騰化の原因や対策、課題などについてサイエンスコミュニケーターが解説します。
1997年生まれ。立教大学社会学部卒。大学時代、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのスピーチに心打たれ、Fridays For Future Tokyoのオーガナイザーとして活動。現在は、国立環境研究所対話オフィスにてコミュニケーターを務める傍ら、個人で気候変動に関する情報発信や、企業や教育機関への講演をおこなう。
目次
1.地球沸騰化とは
(1)地球沸騰化とは
地球沸騰化は実際になにかが沸騰するわけではありません。グテーレス事務総長の独特な表現であり、世界平均気温が過去最高を記録した事実と猛暑による災害の大規模化を受けて、危機感を伝えるために使ったと考えられています。そのため、地球沸騰化を考えるうえでは、地球温暖化をセットで考える必要があります。
地球沸騰化の現象は世界各国で見られています。日本では、2023年の「真夏日」と「猛暑日」の日数が過去最多を記録し、熱中症による救急搬送人数が前年から急激に増加しました。
香港では、140年前に観測を始めて以来、最大雨量を記録する豪雨が発生、ギリシャや米ハワイ州マウイ島で生じた山火事は現地に深刻な影響を与えました。
このような事態は、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」にも影響を及ぼすことから、気候変動対策に向けた各国の行動をさらに加速させる必要があります。
(2)地球沸騰化の原因
上記でご紹介したとおり、地球沸騰化は地球温暖化の進行による影響が危機的な状況であることを伝えるために、グテーレス事務総長が発言した言葉です。そのため、地球沸騰化の原因は、地球温暖化が進行し続けていることにあるといえます。
地球温暖化とは、人間活動(農業や工業・商業などの活動)により排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが大気中に蓄積し、地球から宇宙への赤外線の放出が妨げられることで、地球の平均気温が上昇し続けている状態です。
IPCC第6次評価報告書によると、2010~2019 年の世界平均気温は、1850~1900 年と比較して約1.1度上昇しており、その主な原因が人間活動であることは疑う余地がないとしています。
世界気象機関(WMO)は、2023年の世界平均気温は1850~1900年と比較して、約1.4度上昇し、観測史上もっとも高かったと発表しました。熱帯太平洋の東側の海面水温が平年と比較して高くなる「エルニーニョ現象」と気候変動が組み合わさり、2023年後半に気温が上昇したことで、平均気温を押し上げたと考えられています。
2.地球沸騰化(地球温暖化)が世界に与える影響
地球温暖化や地球沸騰化が今後も続く場合、自然災害が多発するなどの悪影響がさらに深刻化する恐れがあります。
具体的には、少しずつ変化していたものごとが、急激な変化に変わってしまう転換点である「ティッピングポイント」を超えてしまう恐れがあります。この転換点を超えると気候システムに大規模な変化が生じ、気候変動がさらに進むと考えられているため、自然災害が多発するといわれています。いちど大規模な変化が生じた気候システムは、元に戻せません。
また、自然災害以外にも、世界中でさまざまな影響が発生すると考えられます。
健康面では、熱波(記録的な高温)にさらされる人口の増加や感染症の蔓延(まんえん)、生活面では国境を超えた水やエネルギーなどの食料問題、紛争の増加が考えられます。生態系においては、固有種の絶滅など多様性喪失の問題が挙げられるでしょう。
地球温暖化は、これまで日本を含めた少数の裕福な国が化石燃料を大量消費し、経済発展を進めてきたことで深刻化しています。しかし、その影響や被害を受けるのは、温室効果ガスの排出量が少ない発展途上国や将来の世代です。
国家間および世代間の理不尽な格差構造がこれ以上拡大するのは避けなければいけません。
3.地球沸騰化(地球温暖化)を防止する対策
地球温暖化や地球沸騰化を防止する対策を五つご紹介します。
| 対策 | 概要 |
|---|---|
| 再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化 | 水力や太陽光、風力などの再エネを主力電源化する社会システムを作る |
| 建物の高断熱化を含めた省エネ | 建物の高断熱化といった省エネ性能を向上させる |
| 自動車のゼロエミッション化 | ビジネスや公共サービスで必要とされる自動車を排ガスを出さない車に転換する |
| CO2排出削減策の強化 | カーボンプライシングなどのCO2排出削減策を強化する |
| 大量消費社会から循環型社会への転換 | 消費サイクルから循環型のサイクルへ社会システムを転換する |
(1)再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化
水力や太陽光、風力をはじめとした、さらなる再エネ開発を加速させ、主力電源化する社会システムを作ることが対策として有効です。
化石燃料(石炭や石油、天然ガスなど)は、採掘・生産・燃焼のすべてで多くのCO2を排出します。そのため、世界各国では、化石燃料の代替エネルギーとして再エネの開発や活用が急速に進んでいます。
(2)建物の高断熱化を含めた省エネ
日本の住宅やビルは断熱性能が低く、省エネ基準は先進国で最低水準です。建物の断熱性が低いと冷暖房の効率が下がり、エネルギー消費が多くなります。そのため、建物の高断熱化を含めた省エネ性能の向上が地球温暖化や地球沸騰化の防止につながります。
欧米諸国では、居住者の健康のために冬季の住宅の最低室温を定めた法令や指針があります。日本では近年の省エネ性能向上を背景に、政府や一部の自治体が建物の一次エネルギー消費を正味ゼロにするZEB(net Zero Energy Building)やZEH(net Zero Energy House)を制度化する動きが出てきました。
(3)自動車のゼロエミッション化
ビジネスや公共サービスで必要とされる自動車を、EVなどの排ガスを出さないゼロエミッション車に転換することが有効です。
自動車のゼロエミッション化を進めるには、ガソリン車の新車販売の終了をはじめ、再エネによる充電ステーションの普及拡大など、社会インフラの整備を急ぐ必要があります。
(4)CO2排出削減策の強化
地球温暖化や地球沸騰化を防ぐ対策として、カーボンプライシングなどのCO2排出削減策の強化が期待されています。
カーボンプライシングとは、CO2などの温室効果ガスを排出量に応じて価格付けし、排出量を抑える仕組みのことです。排出量あたりの税率を決める「炭素税」と、排出量の上限(排出枠)を決め、排出枠を金銭で取引する「排出量取引」があります。
炭素税とは、環境破壊や資源の枯渇に対処する取り組みを促す「環境税」の一種です。化石燃料に含まれている炭素の量に応じて税金がかかります。化石燃料の価格が上がることで代替技術の価格競争力が相対的に上がり、徴収した税金は温暖化対策への投資などに使えます。
排出量取引とは、まず政府などが各企業に温室効果ガス排出量の上限(排出枠)を設定します。排出量が排出枠を下回った企業は、上回っている企業に排出枠を売却して収入が得られる仕組みのことです。
温室効果ガスの排出を削減することでほかの企業に排出枠を売却できるため、経済的なインセンティブが働きます。東京都や埼玉県のみが運用している状況のため、国としての制度を作り、幅広い地域に普及することが望まれます。
(5)大量消費社会から循環型社会への転換
私たちは、大量生産・大量消費社会の恩恵を受けながら、安くて便利な生活を送っていますが、その裏で犠牲を強いられている地域や人々の暮らしがあります。
まずは、こうした生活様式そのものを見直すことが重要です。無駄にモノを作りすぎない、できるだけ長く利用する、リサイクルするなど、一方向的な消費サイクルから循環型のサイクルへ社会システムを転換していく必要があります。
4.地球沸騰化(地球温暖化)を防止するための取り組み事例
地球温暖化や地球沸騰化を防止するために、民間団体や他国では以下のような取り組みが進められています。
(1)ワンジェネレーションの日本版ネクサス
生命が継がれ続ける「Regeneration of Life」をビジョンに掲げ、人と社会のウェルビーイングのために活動する団体「ワンジェネレーション」は、「日本版ネクサス(Nexus)」を公開しています。ネクサスは、気候危機を一世代で終わらせることを目指した解決策リストになります。
2020年に出版された環境活動家ポール・ホーケン氏の著書『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』と、続編『Regeneration リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』と連動しているWebサイトです。書籍に掲載されている70以上の課題と解決策をもとに、誰もがどの分野においてもできることを見つけるヒントになります。
たとえば、立場(個人やグループ、企業など)ごとにできること、作るべき法律や基準、課題の解決に向けて活動している実践家、課題解決に役立つ動画や関連する読み物などが紹介されています。日本版ネクサスでは、日本の文化に配慮した解決策リストの作成が進められています(参照:日本版ネクサスプロジェクト|ワンジェネレーション)。
(2)スペイン・バルセロナ市の脱炭素施策
バルセロナ市では、2030年までのカーボンハーフ、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて、積極的なエネルギー転換政策や交通部門の脱炭素施策、CO2吸収源である緑地の創出など、気候危機に対する施策が進められています。
①市民との協働による気候非常事態宣言
スペインの温室効果ガス排出量削減目標が、パリ協定の1.5度目標に達していないことを受け、バルセロナ市は市民と協働し、2020年1月15日に気候非常事態を宣言しました。
気候非常事態宣言の内容の作成には約200の団体から300人 以上の市民が参加し、240以上の施策を策定しています。市民と協働し、気候危機の対策を作り上げたことが世界から注目されました。
②再生可能エネルギー政策
非営利電力会社を設立し、市民に再生可能エネルギーを利用するように働きかけるとともに、太陽光発電および太陽熱発電などの再生可能エネルギーの積極的な導入を推進しています。
また、民間の建物への導入を後押しするため、設置に関する規制緩和や手続きの簡略化、補助金や減税、資金調達の仕組みを強化しています。
③非営利の電力会社を設立
2018年に設立された非営利の電力会社「Barcelona Energia」は、100%再生可能エネルギーの電力を4700の公共施設(36自治体)、2800の家庭、事業者に供給(2021年1月時点)しています。非営利の電力会社になるため、契約者には安価で電力を供給し、家庭によっては最大36%の割引があります。
④緑地の創出
気候非常事態宣言における施策には、公共的な緑地を40ha創出することが盛り込まれているため、公共スペースには緑地が必須になっています。場所によってはプランターを活用し、大きなコストをかけずに緑地を配置しています。
さらに緑地を創出するために、屋上緑化や壁面緑化など、民間の所有地でも緑化を推進しています。
⑤交通部門の脱炭素化
交通部門から排出される温室効果ガスを削減するため、FCバス(燃料電池バス)を積極的に導入しています。FCバスは2025年までに最大60台の導入を計画しています。
参照:持続可能なマチづくり調査研究事業~バルセロナ市視察~報告書 p.19〜22|所沢市
5.地球沸騰化(地球温暖化)の防止に関する課題
2015年に採択された「パリ協定」では、長期目標として世界平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるために努力することが合意されました。しかし、世界平均気温は2011〜2020年ですでに1.1度上昇していると考えられており、早ければ2030年代前半には1.5度に到達すると見込まれています。
1.5度で温暖化を止めるためには、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに約4割削減し、2050年までにCO2排出量を実質(ネット)ゼロまで減らさなければなりません。
しかし、現状の排出削減ペースは目標に追いついていないため、各国の2030年までの自主的な対策目標(NDCs)をすべて達成しても、世界平均気温は今世紀末に2.5度前後に上昇すると考えられています。
このままでは世界平均気温の上昇を1.5度未満に抑えることが、非常に厳しい状態といえます。
6.地球沸騰化の時代に私たちができること
地球沸騰化と表現されるようになった地球環境の現状と取り組み、課題をご紹介してきましたが、地球温暖化と地球沸騰化を少しでも食い止めるために、私たちはなにができるのでしょうか。
エコバッグやマイボトルを持ち歩く、生活の中で小まめに節電するなどの心がけはとても大切ですが、それだけでは間に合わない状況です。そんななかで、対策に対して我慢や面倒、負担といったネガティブな感情を持つと、地球温暖化の防止はますます実現から遠のいてしまいます。
東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏は、「今後、世界が1.5度目標に大きく近づくとしたら、それは多くの人が想像していなかったような形で〈常識〉が変化したときだろう」といいます。
つまり、私たちにできる本質的な行動は、地球温暖化や地球沸騰化の問題に継続的に関心を持ち、社会システムの脱炭素化を加速するための政策を求め、そのような政策を支持することではないでしょうか。
私たちができるアクションの例としては、以下のようなことが挙げられます。
| ・環境問題に役立つSNSアカウントをフォローし、日常的に情報に触れる ・環境問題のイベントに参加し、専門家や仲間とつながる ・職場や学校などで、電力の再エネ比率などを上司や先生に質問する ・共感できる対策などの署名活動に参加する ・政治家に気候変動対策に対する考えを聞き、選挙で意思表明する ・パブリックコメントで自分の意見を行政に伝える |
一人ひとりが声をあげ、社会システムが変化すれば、これまでの常識が変わっていくはずです。脱炭素化を社会システムが新時代へアップデートすることと捉え、前向きに取り組むことが今、求められています。
(編集協力 スタジオユリグラフ・蟹山正)