“東商”の平松、岡山県勢唯一の全国V!

2012.03.04


秋山登【拡大】

 「巨人に来いよ」

 「ハイ!」

 岡山東商3年生の平松政次は、巨人の長嶋茂雄との会話に胸が躍った。昭和40年。巨人ファンで大の長嶋ファンだった平松は知人を介し、オープン戦で岡山に来ていた長嶋と対面した。

 平松が甲子園優勝投手となったのは、長嶋と対面した、その年のセンバツ。岡山県勢で初の全国制覇だった。岡山東商の剛腕は、大会史上4人目の4試合連続完封の後、決勝で市和歌山商(現市和歌山)と対戦。大会ナンバーワン打者・藤田平(元阪神監督)に2安打されたが適時打は許さず、延長13回、2-1でサヨナラ勝ちした。39回連続無失点は、今も大会記録として残る。

 凱旋(がいせん)の岡山駅には約8万人が出迎え、ステージには市民が殺到。大混乱となり、式とパレードは中止になった。2選手の優勝メダルが紛失。パレードは2日後に行われたが、その時も9万5000人が詰めかけている。

 この優勝チームを指揮した監督・向井正剛は、昭和46年夏の4強入りを最後に退任。教育委員会を経て文部省(当時)に入省した。甲子園優勝監督から文部官僚という異例の転身で、スポーツ課長やJOC(日本オリンピック委員会)事務局長を歴任。仙台大学の学長も務めた。

 平松は、第1回のドラフトでの中日の4位指名を蹴って日本石油入り。2年後に大洋の2位指名を受けたが、巨人入りの希望が捨てられず、これも拒否…。翌年、都市対抗の優勝投手となった2日後にやっと契約した。入団時の背番号は「3」。長嶋と同じだった(のちに27番)。

 「カミソリシュート」を武器に18年間、エースを張って通算201勝。大好きだった巨人と長嶋を倒すことに執念を燃やした。巨人戦通算51勝は、金田正一(65勝)に次ぐ歴代2位。長嶋にはめっぽう強く、通算打率・193に抑え込んだ。「巨人キラー」の称号が輝く。

 大洋入団を渋っていた平松を説得したのが、岡山東商の先輩、秋山登と土井淳だった。ふたりは高校-大学(明大)-プロ(大洋)と18年間もコンビを組み、日本野球史を代表するバッテリーとなる。

 土井が岡山東商の前身である岡山商にいて、秋山がいた岡山産業高と昭和24年に統合。岡山東高となったことで、ふたりは出会った(同27年に岡山東商と改称)。同26年夏、甲子園初出場の原動力に。明大では第1期黄金時代を担った。

 下手投げの秋山は、大洋で1年目から25勝。12年間で20勝以上6回で通算193勝を挙げた。チームが日本一となった昭和35年にはMVP。「カミソリシュート」はもともと秋山の武器で、後輩の平松が継承した。大洋の監督(2年間)やOB会長を歴任し、平成12年に66歳で死去。同16年に殿堂入りしている。 

 土井も昭和35年の日本一チームで正捕手を務めるなど、強肩とインサイドワークで史上に残る捕手に。秋山と同じく監督を2年、秋山の死後、OB会長を継いだ。

 岡山東商野球部は、ふたりの著名な俳優も輩出した。八名信夫は、秋山と土井の2年後輩にあたる投手だった。ふたりと同じ明大に進んだが、中退して東映入団。ケガで3年、0勝1敗に終わった。東映球団のオーナーで本社社長の大川博の勧めで東映の専属俳優に転身。ギャングや悪党役専門の集団「悪役商会」のリーダーとなる。青汁のCM、アドリブで出た「あーまずい! もう一杯!」で人気が出た。

 美木良介(本名・寺田)は兵庫県姫路市の実家が寿司店で、常連にプロ野球選手が多くいたことで野球選手に憧れた。岡山東商に進み、正三塁手として昭和49年春と50年夏の甲子園に出場。法大時代にプロから誘われたが、故障で断念した。歌手デビューした後に俳優転向。映画デビュー作が野球を題材にした「瀬戸内少年野球団」だった。

 プロで“いぶし銀”の存在感を示した選手も少なくない。八名と同年齢で昭和29年春出場のエースだった横溝桂。広島入りして外野手に転向し、名脇役として活躍した。広島、南海、阪神でコーチ。阪神では取締役編成部長も歴任した。

 岡義朗は昭和45年夏、46年春出場の遊撃手。広島、南海、阪神の控え野手として支え、昨年まで阪神の野手総合コーチを務めた。

 「代打の神様」も岡山東商から巣立った。八木裕は三菱自動車水島から大型内野手として阪神へ。3年連続20本塁打以上をマークするなど4番も打った。レギュラーを外れてからも勝負強い打撃で貢献。平成9年には代打率4割を記録した。サンケイスポーツ評論家の後、現在は阪神の2軍打撃コーチ。

 巨人で強肩とガッツあれるプレーを見せた捕手・吉原孝介(現巨人育成コーチ)。現役ではソフトバンク2年目の投手・星野大地らもOBだ。

 大正12年創部の岡山東商は、春夏通算19回の甲子園出場。倉敷工と関西が同回数で並び、倉敷商が11回で続く。だが、名門ぞろいの岡山県勢の全国制覇は1回きり。岡山東商以外、優勝旗は手にしていない。=敬称略(次回は広島商)

 

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