米サイエンス誌、NASAの「ヒ素生命」論文を撤回 掲載15年後に
米科学誌サイエンスは24日、元素のリンの代わりにヒ素で成長する細菌を発見したとする2010年の米航空宇宙局(NASA)などの研究チームによる論文を撤回すると発表した。掲載から15年後に撤回したことについて「論文撤回の基準は拡大されている。今の基準に照らし合わせ、撤回に値すると判断した」と説明する。研究に不正や捏造(ねつぞう)などはないという。
問題となった論文は米カリフォルニア州の塩水湖に生息したとされる細菌に関する研究で、ヒ素濃度が高い環境において増殖を続けていたと報告していた。当時、NASAは研究成果を発表するにあたり記者会見を開いた。細菌は「ヒ素生命」と呼ばれ話題を集めた。
発表当時、生命の常識を覆す発見として注目を集めた一方、再現性に疑義も生じていた。米国とスイスの国際チームは12年、NASAなどの研究成果は間違いだとする論文をサイエンス誌に発表した。細菌を調べたところ、リンがまったくない場合は細菌が生きられなかったと主張した。ただサイエンス誌は当時、NASAの論文に意図的な不正行為はなされていないと判断し、論文を撤回しなかった。
サイエンス誌は「当時、論文を撤回しなかった判断は間違っていない」と説明する。そのうえでホールデン・ソープ編集長らは公開した電子版記事で「論文の重要な結論が欠陥のあるデータに基づいていると考えている」との見解を示した。掲載から15年後に撤回した理由については「実験が主要な結論を裏付けられていないためだ」と説明した。
一方で研究チームの著者は連名で「サイエンス誌の基準は倫理的な範囲を超えている」とし、科学的な検証が必要だと主張している。
深海などの微生物に詳しい海洋研究開発機構の高井研・超先鋭研究開発部門長は「今回の論文撤回は残念だ。もう少し丁寧にじっくり研究を進めていれば、違う結果があったのではないか」と話す。研究チームが細菌の性質を調べる際に、実験結果を誤って解釈した可能性があるという。
リンは様々な試薬に混ざっており、完全に取り除くのが難しい。高井部門長は「論文ではリンがないことの証明ができていなかった。米サイエンス誌の査読も甘かった」と話す。