汚水をポンプで地下へ流し込む
「家産官僚制」の弊害は顕著
中国の実情を知れば知るほど、この国に将来性がないことを実感させられる。法律を厳格に運用すべき立場の地方官僚が、袖下で現金を掴まされれば、簡単に法律を曲げている。逆に正義の士が、そうした不法手段を用いないと不利益を被るなど、およそ近代国家にあるまじきことが日常茶飯事に行なわれている。これが紛れもない中国の地方行政の実態である。国民もそれを熟知しているので、義務を守るという意識がほとんどなく、すべて裏金を使って、自らの利益を守るという最悪な社会になっている。
歴史的に見るとこれは、圧政社会においてしばしば行なわれている現象である。例えば、南イタリアは歴史的に専制政治の支配下にあり、北イタリアや中部イタリアとは政治状況がまったく違っていた。この結果、南イタリアは暴力と圧政が幅を利かせてきたのである。中国も政治状況は南イタリアと極めて似かよっている。当の中国は、GDP世界2位を鼻にかけて傲慢無礼な態度をしばしば周辺国に見せつる。地方官僚は「ゼニゲバ」に明け暮れている。どう見ても、正常な国家とは思えない。
汚水をポンプで地下へ流し込む
米華字ニュースサイト『多維新聞』(2月14日付け)は、次のように伝えている。
①「中国の地下水汚染は最近、市民の間で大きな注目を集めている。国内メディアの報道によると、一部の企業は高圧ポンプを使うなどして大量の汚水を地下に注入。一部の地方政府は市民の健康や安全を軽視し、汚水排出企業を守ることさえあるという。また、企業の中には地方政府のさまざまな支援を受け、優良企業として上場に成功することすらあるという。専門家の一人は、『過去1年は大気汚染との戦いだった。今後1年は地下水汚染との戦いだ。官民力を合わせて違法排出企業に宣戦布告すべきだ』と主張している」。
中国では大気汚染は言うに及ばず、土壌や水質の汚染も深刻化している。すでに耕地の1割は重金属で汚染されており、ここから獲れる作物は食用に不適とされている。最近、中国の米穀輸入量が急速に増えている原因はここにあると見られる。水質汚染も深刻である。こともあろうに、ここでの記事では地方政府が悪徳企業と組んで、「一部の企業は高圧ポンプを使うなどして大量の汚水を地下に注入」している始末だ。道徳も地に墜ちたという現象だが、企業も役人も金銭に目が眩み、自らの行なっていることが犯罪であるという認識がないのであろう。これが中国の末端行政において日常茶飯事に行なわれているのかと思うと、身の毛がよだつのである。
『チャイナフォトプレス』(2月15日付け)は、大気汚染に苦しむ北京が、旧正月を祝う花火で再び汚染深刻化が懸念されたと報じた。
②「2月10日、中国では年間最大の祝日となる旧暦の正月が明けたばかりである。13日早朝より北京市の大部分で霧が発生しており、大気汚染指数は中度~重度を示している。 北京市当局は市民に屋外活動を控えるように呼びかけているが、14日は旧正月5日目で、『破語(ポーウー)』と呼ばれる大切な節目の日である。この日は、『財神』という福の神をお迎えするため、各地で祝いの爆竹や花火が打ち鳴らされる。これがさらなる深刻な汚染を呼ばないか、懸念される」
2月14日は旧正月でも大切な節目の日とされ、福の神である「財神」を迎える日であるとか。中国人にとっては「道教」の教えである「神仙思想」からみて、爆竹が大気汚染の元凶になろうが成るまいがお構いないのが真相であろう。「神仙思想」とは、不老長寿を祈願する中国古来の民衆信仰である。本来の宗教の分類には入っていない。つまり、来世において魂の救済を求める信仰とは異質のものだ。中国人が総じて物欲に凝り固まる俗物集団と見られがちなのは、道教という神仙思想に囚われている結果だ。
ともかく、自分だけは金持ちになりたいという願いから、北京市当局の警告も聞き入れずに、派手に爆竹を打ち鳴らして興じていた。ここで、日本と比較すれば分るが、昭和天皇のご病状篤しとのニュースが流れるや、全国で歌舞音局の類は一切自粛された。それが日本である。ことの良し悪しは随分と議論されたが、ともかく、昭和天皇のご病状回復を祈念する気持ちが現されたのである。これに比べると、中国では、大気汚染で人命が損なわれているという事実があるにもかかわらず、自らの利益を祈る行為が優先されている。
中国が抱える本質的な問題は、他者への配慮がほとんど存在しないことである。自分さえ利益になれば、他人についてはいっさい関知しないという極めて冷淡な社会なのだ。それが、前記のように悪徳企業と地方官僚が結託して汚水を地中深く流し込むという犯罪行為に走らせている。
「家産官僚制の弊害」は顕著
『日本経済新聞』(2月17日付け)は、論説委員飯野克彦 氏が「中国の隠れたルール」という興味深いエッセイを掲載した。
③「近年、中国で流布している言葉の一つに『潜規則』がある。法令などに明文化されない隠れたルールといった意味で、透明性を欠いた中国の政治に対する批判をはらんでいる。おそらく隠れたルールはどんな社会にもあり、特に官僚たちの世界では大きな役割を果たしている。ただ、官僚たちが最高権力を握る中国では『潜規則』は法令を上回る重みさえ持つようだ。この言葉が広く知られるようになった事実こそが、それを裏付けている」。
私は、この「潜規則」なるものに大変な興味を覚えた。それは、このブログで一貫して強調しているように、中国の官僚制度はマックス・ヴェーバーが指摘したように、「家産官僚制」であることを証明しているからだ。「家産官僚制」とは、専制主義国家の行政機構が恣意的に運営されることを意味している。つまり「潜規則」が裏側に控えており、それが伝家の宝刀になるからである。近代官僚制である民主主義国家では、行政にはいっさいの恣意性が持ち込まれず、全て規則にしたがって執り行われる。こうした彼我の差を見ると、中国の行政制度が外形は整っていても、中身は「潜規則」によって運営されているに違いない。
地下に汚水を流し込む。大気汚染が厳しいにもかかわらず、爆竹を打ち鳴らして喜んでいる。そうした国民の姿を見るにつけて、この民族が世界の覇権を握る資格など最初から持ち合わせていないと見るのだ。やはり中華民族の衰頽は不可避であるという私の見方に狂いはなさそうに思えるのである。要するに、中国社会の民度が余りにも低すぎるのである。
拙著『火を噴く尖閣』の内容は次の通りである。
第1章 国際法から見て尖閣諸島は日本領土
第2章 米国は中国に軍事覇権を渡さない
第3章 中国はバブル・ショックを克服できるか
第4章 産業構造高度化を阻む原因
第5章 環境破壊が生む「アジアの病人」
補論 中華文明「衰頽」どこまで自覚しているか
(2013年2月26日)
中国は「武断外交」へ 火を噴く尖閣―「GDP世界一」論で超強気/勝又 壽良

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