子どもや若者が狙われている。急増する「金銭セクストーショ ン」の実態と必要な対策とは
- Admin
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2025年7月17日、衆議院第二議員会館にて、ぱっぷすとヒューマンライツナウ(共催)は「金銭セクストーショ ン」被害の急増を受け、国会議員やメディア向けに緊急記者会見を行いました。計45人のメディアの方がお越しになり、一般参加者を含めると49人の方が参加されました。記者会見では、最新の相談件数や事例、そして日本社会の課題と、これから必要な対策について詳しく共有しました。
金銭セクストーショ ンとは?
「金銭セクストーショ ン」は、性的な画像や動画をきっかけに金銭を脅し取る手口で、Sex(性)+Extortion(脅迫)+Financial(金銭)を組み合わせた言葉です。SNSやチャットアプリなどで接触した相手から画像を求められ、やりとりの中で脅迫・恐喝へと発展していきます。
急増する被害:数字で見る現状
ぱっぷすに寄せられた新規相談件数は以下のように増加しています。2022年度:131件、2023年度:528件、2024年度:1,864件、2025年度(7月16日時点):1,066件。とくに学校の長期休暇の前後に被害が急増する傾向があり、今年8月もさらなる拡大が懸念されています。
男子もターゲット!誰もが被害者に
性別が分かっている相談者のうち68%が男性でした。「男子は大丈夫」という思い込みはすでに現実から外れています。中学生・高校生を中心に、10代の子どもたちが被害に遭い、精神的に追い詰められるケースも後を絶ちません。
被害の実態:高校生のAくんは、言語交換アプリで知り合った相手とテレビ通話をする中で、「カラダを見せて」と言われ、応じてしまいました。その後、「録画してある。5万円払わなければInstagramのフォロワーにばらす」と脅され、コンビニでAppleギフトカードを購入する寸前まで追い込まれました。
実際に届いた脅迫文の一部には「お前の人生を終わらせてやる」「今すぐ2万円払え。そうすれば投稿はやめてやる」といった強い言葉が並びます。
加害者は、じわじわと心を追い詰めてきます
金銭セクストーショ ンの加害者は、ただ脅してくるだけではありません。
はじめから「画像を送らせて金を取る」ことを目的に、相手の心の隙に入り込み、計画的に信頼させ、操作し、支配していくのです。
たとえば、次のような流れがあります:
何気ないやりとりから親しくなり、英語の練習や恋愛トーク、悩み相談など、最初は穏やかで親切な言葉が続きます。何度もメッセージをやりとりするうちに、「この人は大丈夫」「信じていいかも」と思わせます。「あなたのことをもっと知りたい」「見せてくれたら嬉しい」と、お願いする形で画像や動画を求めてくる。相手が先に自分の写真を送ってきたり安心させたりします。一度でも画像を送ってしまうと、 今度は態度が一変します。
「録画した」「すぐにばらまく」「〇〇円払え」 恐怖と焦りで冷静さを奪い、言いなりにさせようとします。
こうした中で、被害に遭った方はこんなふうに思い込んでしまいます。「自分が悪いことをしたんだ」「親にも言えないし、学校にも知られたくない」「払えば終わるかもしれない」「誰にもバレたくないから、相手と連絡を取り続けた方がいい」
実際には、加害者は「払えば終わる」どころか、何度も請求を重ねてきます。相手を完全に追い詰め、金銭だけでなく、心の余裕や人との信頼関係までも奪っていくのです。
なぜ「iPhoneユーザー」が狙われやすいの?
金銭セクストーショ ンの相談のなかで、目立って多いのが「iPhoneを使っている子ども・若者の被害」です。実は、iPhoneならではの機能や使い方の特性が、加害者にとって“都合がいい”構造になっているのです。
iMessageが入り口になる
iPhone同士で使える「iMessage(青い吹き出しのメッセージ)」は、電話番号やメールアドレスさえ知っていれば、簡単に誰とでもメッセージを送れる機能です。しかも、受信側が設定を変えていなければ、見知らぬ人からでもメッセージが届きます。加害者はこの仕組みを利用して、ブロックされても別のアカウントで再び接触してくることがあります。複数のメールアドレスや番号を使い分けることで、何度も追い込んでくるのです。
FaceTime通話で録画される危険も
iPhoneには、音声・ビデオ通話ができる「FaceTime」という標準アプリがあります。加害者はこれを使って「顔を見たい」「声を聞かせて」と誘い、通話中に裸や下着姿を見せるよう促してきます。そして、相手の映像を勝手に録画して保存し、それをもとに脅すというのが典型的なパターンです。FaceTimeはWi-Fiさえあれば無料で使えるため、海外にいる加害者も利用しやすく、被害が拡大しやすい原因になっています。
Appleギフトカードが「支払い手段」にされている
脅された被害者に対して、加害者がよく指定するのが「Appleギフトカード」です。コンビニで手軽に買えて、コードを送るだけで使えるため、足がつきにくく、現金感覚で悪用されやすいのです。しかもiPhoneのユーザーは、すでにAppleアカウントを持っているので、「iTunesや課金と同じようなものかな…」と混乱したまま、コードを送ってしまうケースもあります。
どうすればいいのでしょうか?
被害を受けたとき、一番大事なことは 「すぐに連絡を断つこと」。お金を払っても終わりません。払えば、むしろ“見込み客”として繰り返し脅されてしまいます。そして、SNSの設定で加害者をブロックする方法や、画像の拡散を防ぐツールも存在します。
【18歳未満】Take It Down(NCMEC提供)
【18歳以上】StopNCII.org(Metaほか)
どちらも、拡散された画像をハッシュ化(デジタル指紋化)して、SNSから削除する仕組みです。
世界はすでに動き出しています。日本は?
金銭セクストーショ ンのような、性的な画像や動画を使った脅迫や恐喝に対して、海外ではすでにさまざまな対策が動き始めています。たとえばアメリカでは、各州や連邦レベルで「脅しの段階」でも処罰できる法律が整っていて、FBIやNCMEC(全米失踪・被搾取児センター)が中心となり、被害救済活動を行っています。
高校生が被害を受けたことをきっかけに、議会で特別な公聴会が開かれたこともあります。イギリスやオーストラリア、韓国、台湾などでも、性的な画像を使った脅迫をきちんと「犯罪」として扱い、被害者が画像の削除を依頼できる公的な窓口や制度が用意されています。
こうした国々では、政府や専門機関が子どもたちを守るための仕組みづくりを急ピッチで進めているのです。一方で、日本ではどうでしょうか。脅された時点ではまだ犯罪として扱われないことが多く、削除の手続きも**「本人が自力でやらなければならない」**のが現状です。
被害者支援の制度も整っておらず、どこに相談すればいいのか分からないまま、ひとりで抱え込んでしまうケースが少なくありません。こうした「制度の穴」は、加害者にとっては“攻めどころ”であり、子ども・若年層にとっては“逃げ道のない構造”を意味します。
私たちに求められる対策
金銭セクストーショ ンの被害は、特殊詐欺であり「制度の隙間」でもあります。つまり、子どもや若者のせいではなく、被害救済や加害訴追をすべき社会の側が追いついていないことが問題なのです。
① 「脅し」の段階から処罰できる法律をつくること
現在の日本では、「性的な画像を拡散する」と脅しても、実際に拡散していなければ犯罪として成立しないケースがあります。つまり、「拡散するぞ」と言ってお金を取っても、法的に対処しづらいのです。被害者が相談に来ても「それだけでは警察が動けない」と言われてしまう現状を変えるために、脅された時点で対応できる新しい法律や明確なガイドラインが必要です。
② SNSやプラットフォーム側の責任を明確にすること
InstagramやLINE、メッセージアプリなどのプラットフォームは、加害者が接触し、脅迫をする“現場”でもあります。しかし現状、日本ではこうした企業に画像の削除を義務づける法的な仕組みがありません。海外では、被害者からの申し出によって削除対応やアカウント凍結ができる仕組みがありますが、日本ではその多くが自己責任・自己対応に委ねられています。加害者が使う手段を放置せず、プラットフォームも一緒に子どもを守る責任を果たす社会へ。そのためのルールづくりが必要です。
③ 被害者が“ひとりじゃない”と思える救済制度をつくること
今の日本には、デジタル性暴力被害被害に特化した相談窓口も制度も存在しません。削除依頼も、警察への相談も、すべて本人まかせです。でも実際は、画像を撮られたあとにパニックになり「親や学校に知られたくない」と誰にも言えずに抱え込んでしまう子どもや若年層が多くいます。
だからこそ、専門の支援団体や相談窓口とつながれる仕組み、そして削除や法的手続きを一緒に伴走できる体制が必要です。
④ 国際的な連携や、外国人加害者への対応を強化すること
いま、加害の多くは海外からのSNSアカウントや、暗号通貨・ギフトカードを通じた送金など、国境を越えて起きています。日本国内の法律だけでは限界があるため、警察や国際機関、プラットフォーム運営者との情報連携や摘発ルートの強化が不可欠です。
⑤ 学校・家庭・地域での予防教育を広げること
加害者の手口は年々巧妙になっており、「知らなかった」「まさか自分が」「だまされた」と語る相談者が後を絶ちません。画像を送らせるまでの心理誘導や、追い込まれて判断を誤るプロセスを理解していれば、きっと防げた被害もあったはずです。だからこそ、子どもや若年層たちに性的同意・不同意の知識と教育が不可欠です。そしてそれは、大人自身もアップデートされる必要があるということでもあります。
【配布資料の訂正につきまして】
今回の記者会見にあたり、過去の相談件数データを再度精査した結果、以下のような理由により一部数値の訂正が生じました。まず、2022年度および2023年度においては、セクストーション被害の定義が明確でなかったことから、データ整理の過程で本来は対象外とすべき「リベンジポルノ」等の事例が一部含まれておりました。今回、これらを除外し、該当データの修正を行いましたが、今回の配布資料に修正値を十分に反映できておらず、誤った数値が掲載されてしまいました。
また、2025年度6月分の新規相談件数のうち性別不明者について、当初「106件」としていたものが、正しくは「105件」であることが判明し、訂正しております。
今後はこのような間違いが無いよう、スタッフの間で2重の確認など徹底していきます。
配布資料につきましては下記URLからダウンロードいただけます。
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