ガバメントクラウド利用検討の基本的な考え方について
2025/03/10 公開
本書はガバメントクラウド利用者のためのドキュメントです。
参照利用は自由ですが、質問・コメントは利用者に限定させていただきます。
1 はじめに
ガバメントクラウドは単なるインフラ環境ではなく、公共情報システムを効果的かつ効率的に整備及び運用するための利用環境である。ガバメントクラウドの整備・提供を通じ、国・地方公共団体等のクラウドサービスの利用を拡大し、迅速、柔軟で、情報セキュリティが維持され、費用対効果の高い情報システムの構築を可能にし、行政事務の質の向上及び効率化並びに情報システムに係る予算の効率化を促し、もって利便性の高い公共サービスの提供を可能とすることを目的としている。 デジタル庁は、ガバメントクラウドとして提供される複数のクラウドサービスを調達して国の機関・地方公共団体等の利用者に提供し、利用者は、その中から多様なクラウドサービスを組み合わせて利用し、また自らの情報システムを構築・運用して情報システムの機能を実現することが可能となる。
なお、この文章は、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第二十三条第四項に基づく情報の提供の1つである。
1.0 本文書の目的
今般、クラウドサービスを適切かつ効果的に活用した公共情報システム(国又は地方公共団体の事務の実施に関連する情報システム)の効果的かつ効率的な整備及び運用を推進するため、内閣総理大臣(デジタル庁)が国と国以外の者が共同してクラウドサービスを利用することができるようにするために必要な措置を講じなければならないこととするとともに、当該共同利用が行われる際の金銭の保管に関する規定を整備することを目的に情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律Opens in new tab(平成十四年法律第百五十一号。以下「デジタル行政推進法」という。)が一部改正された。(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律の一部を改正する法律(令和七年法律第四号))
改正後のデジタル行政推進法では、国の行政機関等は、公共情報システムの整備を行おうとするときは、効果的かつ効率的な整備及び運用その他の観点から、ガバメントクラウドを利用することについて検討を行い、その結果に基づいて公共情報システムの整備を行わなければならないこととし、国の行政機関等以外の行政機関等は、同上(利用検討等)の努力義務を負うことになる。
本文書は、ガバメントクラウド利用の検討をより負荷なく進めていただくことを目的に、検討対象となる公共情報システムがガバメントクラウドの利用を検討する場合の基本的な考え方を記した文書である。
1.1 本文書の位置づけ
ガバメントクラウドは「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」に示される考え方に則って運営され、ガバメントクラウドの具体的な利用方法や技術要素はガバメントクラウド概要解説、手続き概要、ガバメントクラウド利用概要及び各種技術マニュアル群が用意され、機微な情報を含むドキュメント以外は、一般に公開されている。(GCASガイド | デジタル庁Opens in new tab)
他方、本文書は、ガバメントクラウドを含む様々な利用環境がある中、情報システムの状態や性能等に応じて、どのような環境が最も効率的かつ効果的に情報システムを整備運用できるかを検討するための基本的な考え方を示したものである。そのため、本文書は、情報システムを整備(更改)する際に、その利用環境の検討に活用いただき、その結果ガバメントクラウドを利用することとなった場合には、GCASアカウントを取得の上、GCASメンバー限定で公開されている文書を含めガバメントクラウドの各種ガイドを活用いただきたい。
なお、政府情報システムについては、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2024年6月21日閣議決定)において、「原則として、政府情報システムは、クラウドに最適化されたシステムをガバメントクラウド上に構築し、クラウドサービス事業者が提供するサービスを活用して効率的に運用する。」とされていることから、ガバメントクラウドの利用を優先的に検討いただきたい。
ガバメントクラウドの全般的なガイドは「ガバメントクラウド概要解説」、職員が予算要求、調達、ガバメントクラウドの利用を行うのに必要な情報は「ガバメントクラウド手続き概要」、事業者が見積作成、提案を行うのに必要な情報は「リファレンスアーキテクチャ」及び「調達仕様書雛形」、受注後の事業者がシステム設計・構築・運用するのに必要な情報をクラウドサービス事業者(Cloud Service Provider。以下「CSP」という。)毎の「技術マニュアル」に記述している。ただし、IT一般やCSPの一般的な情報は原則として記述せず、ガバメントクラウドに特化した記述としている。なお、GCASガイドの全体像については、「GCASガイド_サマリー」を参考にされたい。
図 1-1 本文書と関連文書の関係
1.2 対象読者
本文書の読者は、公共情報システムを整備運用する行政機関等の管理者及びシステムに係る事業者を想定している。
1.3 改訂方針
ガバメントクラウドの仕様変更、クラウドサービスの更改・仕様変更、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」の変更などガバメントクラウドを取り巻く状況の変化等があった場合には、必要に応じて本文書の改訂を実施する。
1.4 用語の定義
本文書における用語の定義を下表に示す。
表 1-1 用語の定義
№ | カテゴリ | 用語 | 説明 |
---|---|---|---|
1 | システム | ガバメントクラウド | 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(以下「重点計画」という。)等の 政府方針に基づき、安全かつ合理的な利用環境としてデジタル庁が選定した 複数のパブリッククラウド(IaaS、PaaS、SaaS)のこと。 デジタル行政推進法第二十三条第一項では、 「国と公共情報システム整備運用者が共同して利用することができるものとされた クラウド・コンピューティング・サービス」とされている。 |
2 | システム | 情報システム | 機関内LAN及び通信ネットワークシステム、ソフトウェア、プログラムを搭載した コンピュータ(メインフレーム、サーバー、ストレージ等)及びその周辺機器並びに 通信ネットワークによって情報処理を一体的に行うよう構成されたコンピュータの体系 (専用のクライアント端末を管理する場合は、その端末を含む。)のこと。 情報システムには、兵器、医療機材など情報処理を一義的な目的としない装置 又は機材等を含まない。 一方、これらの装置又は機材等に関する情報を管理し、解析し、 又は制御するコンピュータの体系は情報システムに該当する。 |
3 | システム | 公共情報システム | デジタル行政推進法第二十三条第一項に規定する 「国又は地方公共団体の事務の実施に関連する情報システム」のこと。 公共情報システムの範囲については、3.1で説明する。 |
4 | 組織・役割 | 公共情報システム整備運用者 | デジタル行政推進法第二十三条第一項に規定する 「公共情報システムの整備又は運用において国と国以外の当該整備 又は運用を行う者」のこと。 |
5 | 組織・役割 | 行政機関等 | デジタル行政推進法第三条第二号に掲げるもの。 具体的には、国の行政機関等、地方公共団体等、独立行政法人、地方独立行政法人、特殊法人等、 指定法人を指す。 |
6 | 組織・役割 | 国の行政機関等 | デジタル行政推進法第三条第三号に掲げるもの。 具体的には、行政機関等のうち、国の行政機関及び政令で定めるもの(日本年金機構)を指す。 |
7 | 組織・役割 | 地方公共団体等 | デジタル行政推進法第三条第二号ハに規定するもの。 具体的には、地方公共団体又はその機関(議会を除く。)のうち、 地方自治法第一条の3に規定する地方公共団体のこと。 |
8 | 組織・役割 | 独立行政法人等 | デジタル行政推進法第三条第二号ニ~トに規定するもの。具体的には、独立行政法人、 地方独立行政法人、特殊法人等、指定法人を指す。 |
9 | システム | 政府情報システム | 国の行政機関等が管理運用する情報システムのこと。 |
10 | システム | 地方公共団体等の情報システム | 地方公共団体等が管理運用する情報システムのこと。 |
11 | システム | 独立行政法人等情報システム | 独立行政法人等が管理運用する情報システムのこと。 |
12 | システム | 利用システム | ガバメントクラウドを利用するシステムのこと。 構築予定、構築中、運用中のシステムを含める。 |
13 | サービス | GSSネットワーク | デジタル庁GSS(ガバメントソリューションサービス)は、アクセス回線、データセンタ接続、 ファブリック、セキュリティ、アプリケーション制御、インターネット接続、CSP接続などを ワンストップで Network as a Serviceとして提供できる GSSネットワークサービスを提供している。 本文章におけるGSSネットワークとは、GSSネットワークサービスにて、 ガバメントクラウドと各府省等を結ぶために構成されるものを指す。 |
14 | サービス | CSP(Cloud Service Provider) | クラウドサービスを提供する事業者のこと。 なお、ガバメントクラウド対象のCSPについては、2.2を参照のこと。 |
15 | サービス | パブリッククラウド | クラウドサービスプロバイダが管理する施設内(データセンター)にITリソースを用意し、 誰でも、どこからでも、インターネットを通じて、 サーバーやストレージなどのITリソース(IaaS、PaaS)、 アプリケーションソフトウェア(SaaS)などを利用できる利用形態 のこと。 ガバメントクラウドでは、そのうち一定の技術要件を満たしたパブリッククラウドを 採用し、利用環境を提供している。 |
16 | サービス | SaaS(Software as a Service) | ソフトウェア(アプリケーション)を、インターネットを通じて遠隔から利用者に提供する クラウドサービスの一つ。利用者はサービスへ登録・加入するだけで、 ソフトウェアの入手や導入を行わなくてもすぐに使い始めることができる。 |
17 | サービス | 外部SaaS | 広く一般的に民間事業者から提供されている ガバメントクラウド以外で構築されているSaaSのこと。 |
18 | サービス | 公共SaaS | ガバメントクラウドを利用環境として、3.1に規定する 「⑤ 重点計画に記載の公共・準公共分野に該当し、 制度官庁が標準仕様を定める情報システム」をSaaSとして構築したもの。 |
19 | ツール | GCAS(Government Cloud Assistant Service) | オンボーディングツールとしてガバメントクラウドの情報提供、問合せ対応、 利用申請、利用案内等を行うWebサービスのこと。 |
20 | 技術 | モダン技術 | 比較的新しい技術のこと。 ただし、研究段階の技術ではなく、既に広く使われている技術を指す。 例えば、令和6年現在では、マイクロサービスアーキテクチャ、API、クラウドネイティブ、 マネージドサービスによる構成などが挙げられる。 |
21 | 技術 | モダン化 | モダン技術を使って、高コストの要因となる旧来技術・運用から脱却し、 自らサーバを構築せずマネージドサービスの組合せだけで情報システムを構成するなど、 クラウドの特性を最大限に活かした考え方。 代表的な構成は、GCASガイド(リファレンスアーキテクチャOpens in new tab)を参照。 ※ 旧来技術・運用の例:クライアントサーバ方式、専用端末のシンクライアント(VDI 等)、 踏み台サーバ、SaaS利用を阻害する閉域ネットワークの みに依存したセキュリティ対策、 ビジネス要求やシステム価値につながらない監視ツール、 メンテナンスを目的とした定期的なシステム(サービス) の停止、 夜間に実施する必要のない夜間バッチ、オンプレミス用ミドルウェア等 |
21 | 技術 | IaC(Infrastructure as Code) | サーバやネットワーク等のインフラ構成をコードで記述することにより、 環境の構築や管理を自動化すること。 |
22 | 技術 | BPR(Business Process Reengineering) | 既存の業務フローを見直し、ビジネスプロセスを最適化する観点から再構築を行うこと。 |
2 ガバメントクラウドが整備された背景・目的・目指す姿・概要
2.0 背景と目的
・「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」の「1.1 背景と目的」より抜粋
2018年6月に初版決定された「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」(以下「旧方針」という。)は、クラウド第一原則(クラウド・バイ・デフォルト原則)に基づき政府情報システムのオンプレミスからクラウドへの移行を促すものであった。旧方針に基づいて多くの政府情報システムがクラウドに移行されたが、一方でクラウドへの移行そのものが目的化されてしまい、必ずしもクラウドサービスの利用メリットを十分に享受できていないといった例も散見された。
こうした状況を踏まえ、ガバメントクラウドは、政府情報システムが単にクラウドに移行するだけではなく、クラウドの利用メリットを十分に得られるようにするための、スマートなクラウド利用を促すことを目的に情報システムの利用環境として用意されたものである。
2.1 目指す姿
ガバメントクラウドは公共情報システムのスマートなクラウド利用を促すことで、システムや運用のモダン化を通じたクラウド最適化によるコスト最適化(インフラ構築管理コスト削減、インフラ構築管理工数削減、セキュリティ品質向上、開発スピード向上、継続的改善の実現)を目指す。
図 2-1 スマートなクラウド利用による効果
2.2 ガバメントクラウドの概要
ガバメントクラウドとは、公共情報システムの効果的かつ効率的な整備及び運用を推進するため、公共情報システムの整備又は運用において国と公共情報システム整備運用者が共同して利用することができるものとされたクラウド・コンピューティング・サービスを利用することができるようにデジタル庁が整備したクラウド環境であり、選定するCSPがサービス機能やリファレンスアーキテクチャとして提供するセキュリティ対策に加え、ガバメントクラウドとして必要と考えられるセキュリティ対策やガバナンス機能が適用されるクラウド環境である。
ガバメントクラウドでは、選定するCSPが提供するクラウドサービスのメリットを最大限享受できるよう、必要最小限のガバナンスおよびセキュリティ設定の適用を除き、原則として独自に共通的な機能・サービスを実装し提供することは行わず、可能な限りクラウドサービスをネイティブに利用することができる。
なお、情報システムの構築や運用は、独自にクラウドを調達する場合と同様、利用機関のポリシーや利用システムの要件を踏まえ、利用システムの責任において行う必要がある。
令和6年度において、ガバメントクラウドとして利用できるクラウドサービスはアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社のAmazon Web Services(以下「AWS」という。)とグーグル・クラウド・ジャパン合同会社のGoogle Cloud、日本マイクロソフト株式会社のMicrosoft Azure(以下「Azure」という。)、日本オラクル株式会社のOracle Cloud Infrastructure(以下「OCI」という。)となる。このほか、さくらインターネット株式会社のさくらのクラウドについては、令和7年度末までにガバメントクラウドとしての技術要件を満たすことができれば、利用環境として利用可能となる。
3 ガバメントクラウドの利用を検討する情報システム
3.0 ガバメントクラウドの利用を検討する情報システムの概要
デジタル行政推進法第二十三条第二項において、「国の行政機関等は、公共情報システムの整備を行おうとするときは、当該公共情報システムの効果的かつ効率的な整備及び運用その他の観点から、前項の規定に基づき講ずる措置を通じて国と公共情報システム整備運用者が共同して利用することができるものとされたクラウド・コンピューティング・サービスを利用することについて検討を行い、その結果に基づいて当該公共情報システムの整備を行わなければならない。」とされており、第三項では、「国の行政機関等以外の行政機関等は、公共情報システムの整備を行おうとするときは、国の行政機関等が前項の規定に基づいて行う検討及び公共情報システムの整備に準じて、共同利用クラウド・コンピューティング・サービスの利用に関する検討及びその結果に基づく当該公共情報システムの整備に係る取組を行うよう努めなければならない。」とされている。
この章では、上記規定を踏まえ、「公共情報システム」の範囲及び「公共情報システム」であってもガバメントクラウドの利用検討を個別に行うことを要しない情報システムについて説明する。
図 3-1 ガバメントクラウドの利用を検討する情報システムの範囲(イメージ)
3.1 公共情報システムの範囲
デジタル行政推進法第二十三条第一項において、「公共情報システム」は、「国又は地方公共団体の事務の実施に関連する情報システム」とされており、具体的には、以下の情報システムを想定している。
なお、公共情報システムといっても多種多様の情報システムが存在しており、①~⑤では分類できない類型であっても、国又は地方公共団体の事務の実施に関連するシステムに該当するものとして利用を希望する場合には、所管部局等からデジタル庁(ガバメントクラウド担当)に申請があれば、内容を確認の上、公共情報システムとして認める場合もある(⑥に該当)。
当該承認申請を行うに当たっては、①を除き、申請用メールアドレス(request-govcloud-sp@digital.go.jp)宛に申請希望の旨を連絡し、デジタル庁から送付される「公共情報システム承認申請書」に必要事項を記載の上、制度官庁等より提出する必要がある。
なお、デジタル庁の確認が完了した場合は、「ガバメントクラウド概要解説」のユーザー登録Opens in new tabを参照しGCASアカウントを取得の上、「ガバメントクラウド手続き概要」(地方公共団体等においては「地方公共団体情報システムガバメントクラウド移行に係る手順書」) を参考に所要の利用手続を進める。
①政府情報システム及び地方公共団体等の情報システム
②デジタル行政推進法に基づく行政手続等に係る独立行政法人等情報システム
③政府又は地方公共団体職員に利用されている独立行政法人等情報システム
④政府又は地方公共団体情報システムとデータ連携している独立行政法人等情報システム
⑤重点計画に記載の公共・準公共分野に該当し、制度官庁が標準仕様を定める情報システム(※)
⑥①~⑤に該当しないものであって、国又は地方公共団体の事務の実施に関連する情報システムに該当するものとして、所管部局等からの申出に基づきデジタル庁が公共情報システムと認めた情報システム(※)
※民間事業者が整備又は運用する場合を含む。
3.2 ガバメントクラウド利用検討を要しない公共情報システムの類型
3.1に記載した「公共情報システム」であっても、以下の情報システムについては、利用者に高度な自律性が求められる情報システム等であることから、個別の検討を要せず、ガバメントクラウドを利用しないものと整理しても差し支えない。なお、公共情報システムでない情報システムはそもそも検討を要しないことに留意いただきたい。
① 特定秘密(特定秘密の保護に関する法律(平成二十五年法律第百八号)第三条第一項に規定する特定秘密をいう。)、「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成23年4月1日内閣総理大臣決定)に掲げる秘密文書中極秘文書に該当する情報並びに安全保障・公共の安全・秩序の維持といった機微な情報及び当該情報になり得る情報(※1)を扱う情報システム(地方公共団体等においては、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」(第2章 情報セキュリティ対策基準 2.情報資産の分類と管理、8.外部委託と外部サービス(クラウドサービス)の利用)に規定する機密文書(自治体機密性3A)を扱う情報システム)、政府及び地方公共団体等以外は、各機関等のセキュリティポリシーに沿って判断)
② ネットワークや端末環境等が主となる情報システム(組織のLANなど)
③ 他のシステムへの統合又は廃止を予定している情報システム(※2)
④ 非常に小規模なシステムであって、他のシステムとの連関性も低く、ガバメントクラウドの利用の必要性がないことが明らかであると考えられる情報システム(※3)
※1 「行政文書の管理に関するガイドライン」に掲げる秘密文書中秘文書に該当する情報及びそれに準ずる情報のこと。
※2 統合を予定している場合、統合先は原則検討対象となる。また、ガバメントクラウドが公共情報システムの利用環境(システム基盤)となるため、これまで独自に整備してきたシステム基盤は原則廃止の対象となる。
※3 例えば、年間運用コストが数万円程度以下であって、当該業務のみに独立的に利用されるシステムなど。
4 ガバメントクラウド利用検討の基本的な考え方
4.0 はじめに
3.0に記載のとおり、デジタル行政推進法第二十三条第二項において、国の行政機関等は、公共情報システムの整備を行おうとするときに、ガバメントクラウド利用の検討義務、国の行政機関等以外の行政機関等は、利用検討の努力義務が課されることになる。
これは、国の行政機関等と国の行政機関等以外の行政機関等ともに、あくまで利用検討の義務(又は努力義務)が課されるものであって、ガバメントクラウド利用を義務付けるものではないことにご留意いただき、本項で示す基本的な検討の考え方や検討のポイントを参考にガバメントクラウドの利用を検討されたい。なお、政府情報システムについては、重点計画において、「原則として、政府情報システムは、クラウドに最適化されたシステムをガバメントクラウド上に構築し、クラウドサービス事業者が提供するサービスを活用して効率的に運用する。」とされていることとから、ガバメントクラウドの利用を積極的に検討いただきたい。
本資料に記載する検討の考え方に沿った検討を行うことは法律上の義務として求められているものではないため、各行政機関等の事情に合わせて、異なる観点から検討を行っていただくことも差し支えない。
4.1 利用検討の基本的な考え方
各利用環境を選択する場合の留意点①~④を参考に下記の検討フローに沿って利用を検討することを基本とするが、これとは異なる観点で検討することも妨げない。
基本的な考え方は、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」にならい、外部SaaS利用を優先し、その利用が難しい場合には、ガバメントクラウドの利用を検討し情報システムの状況や性能等の観点から、機密性、機能面で利用不可とならない場合には、ガバメントクラウドを利用することが推奨される。
このほか、経済合理性(コスト削減や費用対効果)、ガバメントクラウドの優位性(ガバメントクラウド上の情報システムとのデータ連携のし易さ、事務の効率化、効果的効率的なセキュリティの実装や閉域接続が必要な場合に政府情報システムはGSSネットワークの利用など)など情報システムの現状等を踏まえ、最も適した利用環境を選択すること。
なお、政府情報システムについては、一元的プロジェクト監理によるプロジェクト計画書において、ガバメントクラウドの利用を検討した結果、移行しない又は現時点においては移行しないという結論に至ったものについては、 その検討過程・理由等をプロジェクト計画書において明らかにするとともに、ガバメントクラウド移行以外のコスト削減の取組を記載し、当該取組事項の効果(コスト削減見込みを含む。)を明らかにすること。
(各利用環境を選択する場合の留意点)
① 外部SaaSの利用
- 扱う業務の効率化に資する外部SaaSがある場合は積極的に採用する。
- 外部SaaS利用にあたっては、各行政機関等のセキュリティポリシー(地方公共団体においては、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を参考に、各自治体において定めるセキュリティポリシー)等のルールを踏まえる。
既に外部SaaS利用している場合には、ガバメントクラウド上に同種の公共SaaSが提供されている場合にはその利用を検討し、長期間(2~3年)同じ外部SaaSを利用している場合にあっては、最新のSaaS市場の動向やコスト構造等を検証し、ガバメントクラウドを利用した個別システムの開発も含め利用環境の再検討を行うこと。
② ガバメントクラウドの利用
- 政府情報システムについては、モダン化が利用条件となる。(地方公共団体等の情報システムや独立行政法人等情報システムについても、モダン化を強く推奨する。ガバメントクラウド利用のメリットを十分に享受できないことを理解した上でモダン化せずにガバメントクラウドを利用する判断は妨げない。なお、標準準拠システム(関連システムも含む)については、ガバメントクラウドへの移行後のシステムにおいてモダン化を推奨する。)
③ ガバメントクラウド以外のパブリッククラウド利用
- ガバメントクラウドは行政システム用途としてパブリッククラウドの十分な範囲を網羅しているため、技術的な理由でガバメントクラウドに優先されることは想定されないが、情報システムの状態や性能等を踏まえて、ガバメントクラウドが提供しないサービスの利用がガバメントクラウドで提供しているサービスで代替できずその利用が必須である場合に選択する。
④ オンプレミスの利用 (自治体クラウドを含む)
- 各機関のセキュリティポリシー等に基づく機密性要件や超高性能機が必要であるなど、機能面・非機能面でIaaSでのシステム構成が困難な場合に採用する。
図 4-1-1 ガバメントクラウド利用検討フロー図
(注1)機能面・非機能面で利用不可である場合とは、ガバメントクラウドで許容されていないサービス(国外リージョン利用(ガバメントクラウドでは国内リージョンに限定)や料金前払いのサービス(国又は地方公共団体等の会計制度で禁止)を利用したい場合や永続的にハイブリッド構成となる場合等(※)が想定される。
※上記のほか、ガバメントクラウドの機能で代替できない場合であって、以下のような場合が考えられる。
- 管理する組織の対象アカウント・テナント等に独自でコントロールを効かせる必要がある。
- 独自でユーザー管理するIdP(アイデンティティプロバイダ(認証サービスを提供する事業者やシステム))でCSPとSSO(シングルサインオン。一度の利用者認証で複数のコンピュータやソフトウェア、サービスなどを利用できるようにすること)する必要がある。
- 民間再販事業者の請求代行・再販サービスを使う必要がある。
- ガバメントクラウドで禁止しているPaaS(ROSA(Red Hat OpenShift Service on AWS)など、詳細は各CSPのガバメントクラウド利用概要(予防的統制の設定内容)を参照)を使う必要がある。
(注2)経済合理性については、4.1.2を参考にしていただくほか、将来、ガバメントクラウド上に構築されることが予定されている情報連携基盤(公共サービスメッシュなど)の利用にあたっては、ガバメントクラウド上にデータがある(又は連携できる状態にあること)ことが前提となることも想定されることなども踏まえ、PJMOの責任において総合判断されたい。なお、政府情報システムにおいては、重点計画において、原則ガバメントクラウドを利用することとされていることも踏まえること。
図4-1-2 各利用環境の比較
4.1.1 利用環境を検討する場合のポイント①(モダン化)
ガバメントクラウドは単なるインフラ環境やクラウド環境ではない。デジタル庁が精査し、利用者の安心・安全と便利を追求したクラウドであるとともに、システムのモダン化(高コストの要因となる旧来技術からの脱却)を目的とする利用システムに対し、最適なクラウド環境を手段として提供している。
「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」の 3.5 5)では、モダン化の説明として「自らはサーバーを構築せずマネージドサービスの組合せだけでシステムを構成する、IaCを使う、インターネット接続(閉域網依存からの脱却)、フロントエンド・バックエンド分離型のWebシステム(クライアントサーバー方式やWeb3層モデルからの脱却)、APIで連携する、自動化の徹底(テスト、変更、デプロイ、運用管理)、動的なリソース管理(その時点で必要な分のみ)など、クラウドならではの考え方とする。」としている。
具体的には、モダン化した構成とは以下の構成を指す。ただし、Replatform(リプラットフォーム)で移行する情報システムであっても、最終的にはRebuild(リビルド)構成を目指す必要がある。(詳細は、ガバメントクラウド概要解説6.1Opens in new tab参照)
なお、地方公共団体のシステムや独立行政法人等情報システムについても、モダン化した構成を推奨する。
① Repurchase(R3)
- SaaSなどを活用し個別にアプリケーション開発せずにシステムを実現する形態
- SaaS利用は、開発量の削減に繋がるため強く推奨される
- 詳細は、4.1 利用検討の基本的な考え方 の方針を参照。
② Rebuild(R2)
- アプリケーションのコードを新規で書き起こして、旧データの必要な部分を取り込む形態。
- リファレンスアーキテクチャOpens in new tabを参考に完全にモダン化された状態(GCASガイド参照)で移行する。
- 新規システムはこの状態を原則とする。
③ Replatform(R1)
- 一括でのモダン化が難しい場合に、一段階目は部分的(運用監視やデータベース等)にマネージドサービスに置き換えて、 二段階目でR2構成とすることも許容される。
- 二段階目の移行時期については、プロジェクト計画書等にその時期を必ず明示する。
(*1) ガバメントクラウド概要解説_6 必須検討事項Opens in new tab
図 4-2 ガバメントクラウドへの移行パターン
4.1.2 利用環境を検討する場合のポイント②(経済合理性)
利用環境を選択するにあたっては、経済合理性(コスト削減や費用対効果)は重要な指標となる。
コスト削減については、クラウドサービスのスマートな利用(モダン化)が重要な要素であり、マネージドサービスの活用、サーバレスアーキテクチャ、IaCとテンプレートによる環境構築の自動化等を取り入れることが推奨される。(「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」の 1.6 を参照)
費用対効果については、ガバメントクラウドへの移行を行うことで、情報システムに係る整備及び運用等に要する費用と、これにより生じる利用者側の効果、行政機関等側の効果、アプリケーションの刷新を前提としたBPRによる効果等を勘案する。なお、政府情報システムにおいては、「一元的なプロジェクト監理の実施について」に沿って費用対効果を検証されたい。
具体的には、既存のシステムがある場合は移行後のシステム運用の効果が現行のシステム運用の効果を上回るかどうか(※)、新規のシステムの場合には移行後のシステム運用の効果が他の環境へ移行した場合におけるシステム運用の効果を上回るか、システムを導入しなかった場合と比較して利用者の利便性向上や行政の効率化が実現するかどうか、を勘案する。なお、効果を考える上では、運用経費の削減効果だけでなく、アプリケーションの刷新を前提としたBPRに伴う効率化効果も勘案する必要がある。そのほか、利用者にとっての便益についても評価する必要がある。例えば、個人や法人が手続等に要する時間の削減などを定量的に評価するとともに、 これまでにない新たな利用者の体験の向上など利便性が向上することも便益として考慮する必要がある。
(※)ガバメントクラウド移行後の運用効果を算出するにあたり、移行前環境と同じ運用フロー、体制、作業項目により積算するのではなく、作業自動化、IaC活用などモダン化された運用方式を前提として算出すること。
なお、利用環境を検討する際には、上記コスト削減や費用対効果以外にも、ガバメントクラウド利用による様々な優位性(ガバメントクラウド上の情報システムとのデータ連携のし易さ、事務の効率化、効果的効率的なセキュリティの実装や閉域接続が必要な場合に政府情報システムにおいてGSSネットワークを利用できるなど)など情報システムの現状や性能等も踏まえて総合勘案し、最も適した利用環境を選択すること。
4.1.3 利用環境を検討する場合のポイント③(地方公共団体等の情報システム)
地方公共団体標準準拠システムについては、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和三年法律第四十号)に基づき、デジタル行政推進法に優先してガバメントクラウドの利用を検討されたい。
なお、ガバメントクラウドに移行した標準準拠システムについては、次期更改や大規模改修時において、モダン化されたパッケージソフトが提供された場合には、適宜のタイミングでそのパッケージに切り替えることを推奨する。
その他の情報システムは、パッケージソフトの利用、個別システム開発を問わず、検討の結果、ガバメントクラウドを利用する場合には、本資料及びGCASガイド等を参照の上、情報システムのモダン化も検討することを推奨する。なお、モダン化をする場合に不明な点等があれば、ガバメントクラウド担当に個別に相談されたい。
上記は、検討の結果、ガバメントクラウドを利用する場合の留意点であり、ガバメントクラウド以外でのパッケージソフト利用、個別システム開発を妨げるものではない。
以上
改訂履歴
改訂年月日 | 改訂箇所 | 改訂内容 |
---|---|---|
2025年3月10日 | - | 新規作成 |
2025年4月1日 | 1、1.4、2.1、3.0、3.1、4.0 | デジタル行政推進法の改正に伴う条ずれの修正、および記載内容の拡充を行った。 |
2025年7月25日 | 2.0、4.1.1 | 「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」の改訂に伴う修正、 ガバメントクラウドへの移行パターンについて、R2の記載の修正および記載内容の拡充を行った。 |