御霊猛疾 ─ アヤカシ・ヴォルテクス ─
夢咲蕾花
【壱】星月夜、狼煙舞い踊りて
序章 イクサビ
幕末の最期
──十一年前
大陸東の諸国で構成された討幕軍──
ランドルフ銃に、六ポンドのグリーズレット砲、手回し
彼らが巨額を投じて装備を揃えた理由は、幕府の──徳河の圧政、悪政、その醜悪とも呼べる迫害に終止符を打つためだ。
我らが
空想上の神を否定するならば、まだわかる。存在しないものを否定したい気持ちというのは、十二分に理解できる。
神も仏も「人のすることなど、いずれ破綻する」と笑っていたが。
けれども、それを奉じ彼らと共に生きてきた人間と妖怪には、耐え続けることなど、とてもじゃないができなかった。
それでも三〇〇年、耐えた。
だが、限界だ。
今ここに、三〇〇年耐え、蜂起し──長らく、十年に
当然だが、幕府軍も負けていない。
四斤山砲に臼砲、ダルタニア帝国製の銃と大砲で武装し、討幕軍と互角に撃ち合っている。
人間の土地には、人間の暮らしがあって然るべし。それが徳河の考えであり、大陸西部では主流の人間至上主義的な考えの根幹である。
カビの生えた古臭い習慣に縛り付けられて、気まぐれな神だの仏だのの顔色を伺い、胃に穴を穿ちながら暮らすのはうんざりだ。そう考えるのだ。
それもまた、言い分の一つ。
いつまでも神や仏のおままごとに付き合う道理はなく、人間はその生まれ持った才覚と力を発揮し、雄飛すべきだという主張だ。
貴様らのくだらぬ儀式だ、祭祀だ──屁の突っ張りに、なるものか。
妖だ、妖術だ、そんな特権階級を祭り上げるからいつまで経っても何の進歩もないのだと。
──これからの世は、人の世、
古いしがらみも、そこにへばりつく亡霊も、消えて然るべし。人の世に、もはや神仏も妖怪も、気味の悪い妖術も不要なのだ。
砲弾が空を切る──飛来音が兵隊の鼓膜を揺すり、直後、爆音が轟いた。土砂を舞い上げて、中身まで金属でできた実体弾が幕府軍の防御陣地を粉砕した。
隊士らの雄叫びが響いた──撃ち合いから斬り合いに、いよいよ両者の主力部隊が、刀剣を握りしめて切り掛かる。
刀が噛み合う。幕府軍は、怪力服という
討幕側はすかさず札を振り、事前にこめておいた妖術を発動。火球が
射手がすぐに抜刀。抜き放たれた短刀には、当然の如く妖術が刻み込まれている。
「そんな力に頼る貴様らが、侍を、名乗ってなるものか!」
「どの口が言う」
両者が切り結び、もつれあう。
別の場所では幕府が、あるところでは討幕勢力が優勢に傾く。
一進一退の攻防。拮抗する戦局はしかし、突如響き渡った声が塗り替えた。
「
討幕軍が悲鳴にも似た雄叫びを上げる。
その視線の先、攘夷の志士を斬り払い戦線を押し上げる、白い隊服に浅葱色のだんだら模様の羽織を身に纏う、幕府最強の
まともに斬り合って勝てる相手では──ない。
彼らは銃弾を刀身で弾くという人外の技を平然とやってのけ、蹴りの一つで相手の顎を粉砕し、カエルのように跳躍してサイクルガンの銃手を切り捨てる。
再び風を切る砲弾の音、深撰組の一人がその砲弾を、切った。
左右に
羅刹の如き深撰組の、威容が火薬の香と共に立ち上る。
高速、かつ重く鋭い動き。随時現場に現れる
「下がっていろ」
その時である。討幕軍の虎の子が現着した。
──
その構成員の大半が妖怪、妖術師というそれであり、神仏や妖怪を忌み嫌い、軽視する徳河幕府にとって、唾棄すべき……最優先抹殺対象の集まり。
その中に、当時十三歳の
十五で元服のこの大陸では、まだ未成年、尻の青い餓鬼である。だが、才ある者を持て余していられるほどの余裕は、討幕軍にも幕府軍にもない。
故に彼は父親の制止を振り切り、忌兵隊に自らを売り込み、ここへ来た。
茶色と橙色と黒がまだらになった髪が風に揺れる。さながら、狐のような毛色。
銀の瞳が、到底十三の年齢では利かない、鮮烈な殺意を紡績する。
少年──朔夜は肩から左右に、そして腰に交差させている、都合四本の帯に括られている紙束を二つ、抜いた。中央に、金色の塗装。
それを放り、彼は詠唱。
「オン・キリカク・ソワカ──〈
光と煙が発せられ、そこから二頭の半人半獣の、金色をした女体型ハクビシンが顕現した。
帯電し、鋭い爪が刀のように鋭く輝く。
妖術。幕府が恐れ、嫌う──異能。忌むべき、世界には過ぎたる異質な力。
深撰組が色めき立つ。意図せず朔夜が皮切りとなり、忌兵隊は各々の術を展開。妖怪らは変化を解いて異相を晒し、じりじりと間合いを図るように──、
砲弾の弾着が、嚆矢となった。
両軍が怒号をあげて激突。凄まじい合戦が始まった──。
それが、後の世に語られる、天下分け目の大合戦と言われる「天瀑・伏辺の戦い」。
討幕軍の勝利が決定打となり、恵戸城の無血開城が進んだ最大の要因であり、
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