俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

12 / 13
九話 戦闘が終わり、メインフェイズ2が始まる

 

 

 負けてしまった、悔しい。

 

 まあそれもカードゲームあるあるだからしゃあない切り替えていこう。

 出来れば感想戦もしっかりやりたかったなあ。

 バトルフィールドでやると立ってるし、突っ立ってるわけにはいかないから知り合いでもないと出来ねえのが難点だわ。

 

 などと引きずりつつも。休日大会の次の日。

 今日も今日とてMeeKingでのバイトである。

 

「う~~ん、当たらねえな」

 

「茂札くん、何が当たらないって?」

 

「あ、店長」

 

 そんなバイトの閉店時間。

 閉店作業も一段落、あとはゴミを捨てるだけというところで自腹で買ったパックを開けてたところ。

 レジの方の作業が終わったらしい店長から声をかけられた。

 

「欲しいカードあったんですけど、中々当たらなくて」

 

「どのカード?」

 

「この<看破の視鬼>ってやつなんですけど」

 

 印刷しておいた紙を店長に見せる。

 この世界ではLifeカードの詳細を調べるには3つしか方法がない。

 手に入れて実物を見るか、それを持っている人に教えてもらうか。

 

 Lifeの管理機関に問い合わせるかだ。

 

 問い合わせる場合、幾つかの手順がある。

 まずはTCG板での掲示板やカードの調査などの趣味をしている人のブログなどから欲しい効果などで調査、そこで見つけたカードの名前をLifeの国連管理機関(クーヴァディス)……のカード問い合わせセンターにメールを送ることによって知ることが出来る。

 これは正規のカードショップからのアクセスや一部のファイト探偵とか捜査機構じゃないと出来ないらしいが……いやもっと気軽に問い合わせさせろよ……ま、まあそれでも大体一週間以内に詳細データをくれるのだ。

 たまに犯罪者による密造された海賊版のカードとか、効果文章だけ物理的に書き換えられた改造カード類と思しきものを発見した時、それが本物か偽物かを調べる事も出来る。

 特に文章説明文(テキスト)の最後に記載されてるコレクション(シリアル)ナンバーとかで照合出来るし。

 

 前世知識でざっくりだがカード名と効果を憶えている僕が、カードショップでバイトしている理由の一つだ。

 

「えーと……2コスト 1/1で、場に出ると相手の手札一枚を公開して除外……けど、あくまでも出てる間でこれを退けられたら戻って来るからあまり強くなくない?」

 

「そこは<ゴブリン式農耕術>とのコンボで土地にして踏み倒しますので、そうじゃなくても序盤の情報アドや握ってる除去などの避雷針には出来ますから」

 

 あと生贄に捧げる系もそこそこいれてるから、能力の解決順番で踏み倒せるし。

 なによりもそこまで高いレアじゃない。

 

「茂札くん…………本当に手札破壊とか好きだよね」

 

 困ったような顔を浮かべる店長。

 でもしょうがないのだ。

 

「俺、そんなに勝負強くないですから」

 

 なのでどうやってぶっ倒すか、相手の手札を見てから組まないといけない。

 コントロールとはそういうものだ。

 極めればカードのプレイの順番だけで、相手のゲームプランを誘導させられる。

 なんて言っていたのは前世の女狐だったか。

 

 あのアマ、絶対カードやってなかったら結婚詐欺師かなんかになってただろ。

 

「う~~ん。そ、そんなことないでしょ」

 

「そこで断言してくれない時点でもう伝わってるんですよね」

 

「でも、ほら! この間の男を斃した時はすごかったよ?」

 

「まああれはどっちかっていうとあいつの腕がしょぼかったのもでかくないです?」

 

「それは、うーん、意見が分かれると思うなあ。茂札くんぐらいの年齢で、あんなに冷静に戦える人なんてそんな多くないし」

 

「でも店長だって上級ジャッジ資格持ってるじゃないですか」

 

 Lifeの大会においてはジャッジ――Lifeのルールの監督や仲裁、審判は不可欠だ。

 ジャッジの資格は簡単な研修を受ければ下級は簡単に取れるが、大きな大会に不可欠な中級以上はルールの知識の他にも英語を始めとした複数言語の知識が必要とされている。

 一番偉い上級ジャッジにおいては国内でも五十人もいないエリートで、店長が持っていると知った時は驚いたものだ。

 

「そりゃあボクは君よりも大人だからね」

 

「大人っていっても精々5~6年ぐらいじゃないですか、歳」

 

「立派な大人でーす、お酒も飲めない子供が生意気言うんじゃないよ」

 

 ふんっ、と胸を張るところが大人っぽくないと言うのは禁句だろうか。

 油断しそうになると目が張り付きそうになる店長の胸から視線を剥がし、剥いたパックガラをゴミ袋に仕舞う。

 

 まったく仕事だから出来るだけスルーするようにしてるのに、店長はあんまりエッチな仕草をしないで欲しい。

 僕がまともな若くて青春ばりばりの男子高校生だったら危なかったぞ。

 僕は金とカードが欲しいだけのストイックな奴でよかったな。

 

「うーん、このシリアル番号なら【仄暗き深海侵略】じゃなくて【妖鬼楽団(トロルオーケストラ)の怪催】のほうがでやすかったはずだよ」

 

「え? 僕が調べたやつだと<深海侵略種(アビス・エイリアン)>のやつと同じエキスパンションって書いてあったんですけど」

 

 この世界だと買ったパックには平気で過去のカード類が封入されているのだが、さすがに新しいカードの類は収録されたばかりの基本以外の拡張カードセット(エキスパンション)に多めに割り当てられている。

 色々あって特定のテーマとかが偏りにくく、レアもろくに当たらない僕でもそういう風に工夫をすれば珍しくない低レアなら当てられる時もある。

 金は犠牲になるが。

 金は本当に犠牲になるが。

 ま、まあシングル買いよりは安い時もあるし、カード資産は増えるからいいんだが、うん。

 

「妖鬼楽団の次が、アビスの収録だったからね。確かに何枚か鬼クリーチャーが収録されてたと思うけど、この番号は確か妖鬼楽団セット収録だよ。確かまだ在庫はあったはずだけどいる?」

 

「ボックス一つ買っていーです? いらないのはその場で売るんで」

 

「買取査定とか明日にしてくれるなら売ってあげるよ」

 

「あざっす! じゃあ僕、ゴミを捨ててきますね」

 

 ボックスの開封作業(お楽しみ)は家でゆっくり楽しもう。

 箱一つも開ければなんかいいのが出るだろ!

 

 燃えるゴミと段ボールとプラごみにそれぞれまとめたゴミを抱えて、僕は通用口から近所のゴミ捨て場へと向かった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 片付けというのは如何にゴミを捨てられるかどうかで八割決まると思ってる。

 溜め込んでまとめて捨てるというのは捨てどきを見失いがちだから、適時来るゴミ回収の日にちゃんと捨てるのが大事だ。

 

 というわけでバイトし出してからこの半年、MeeKingの倉庫事情は改善の傾向にあるのはなんとなく誇らしいことだ。

 

「あん?」

 

 近所のゴミ捨て場から戻ってくると、MeeKingの店前に見覚えのない車が停まっていた。

 さっき出たときには絶対になかった黒塗りのワゴン車だ。

 

 ……客、か?

 

 周りを見渡すが、近所にあるのは一般住宅地だ。

 MeeKingの土地と元の建物は店長が知り合いから譲り受けた古い喫茶店を改装したものだと聞いている。

 近所の人の憩いの場になればいいという理念で住宅地の片隅に建てられたらしい。

 

「営業時間もう過ぎてんだけど」

 

 駆け足で通用口へと向かう。

 

「ん?」

 

 通用口の扉が開かない。

 デジタルドアロック式だから、うっかりオートロックの電源を入れてたのかと思ってパスワードを入れるが……開かない。

 

「店長?」

 

 何度かノック。

 ゴンゴンと変形しない程度に力を入れたノックでも反応なし。

 一旦ドアから離れて、店の窓まで向かって異常に気づいた。

 

 中が真っ黒なんだが。

 

「電気が消えてるとかありえねえだろ!」

 

 近所の家の明かりはついている。

 だが、店内が暗い、いや墨汁でも流し込まれたように真っ黒だった。

 

 激しく嫌な予感がする。

 まさか嘘だろ。

 販促アニメあるあるのあれか?

 

 あとで店長に謝ることを決めて、財布から小銭を取り出して手袋を嵌めた右手で握る。

 その時だった。

 金切り音と共にバタンとなにか開く音と鈴の音がかすかに聞こえた気がしたのは。

 

「ッ!?」

 

 慌てて店の正面ドア側へと走る。

 

 そこまで回り込んだ時、さっき見かけたワゴン車がエンジンを付ける姿と……

 

「店長!!」

 

 黒尽くめのスーツの男と怪しい真っ白なクソダサ帽子とモノクルを着けたジジイに引きずられて、ワゴン車の中に連れ込まれている店長の姿があった。

 

「おいなにしてんだてめえ!!」

 

「おい、車を出せ!」

 

 せめて怯むかと思って大声を上げながら走るが、ドアをまだ閉め切ってないまま車が走り出す。

 

「まてや!!」 

 

 蹴り倒そうとするも、一瞬掠るだけで飛び蹴りが外れた。

 

「ッ、くそ!」

 

 直線に走っていく車の後ろ姿に、スマホで撮影するべきか迷うが、多分この暗がりだとろくに映らない。

 

「警察を……いや」

 

 この世界はかなりの確率で販促アニメ世界だ。

 警察を呼んだところで役に立たないか、翌日になったらなんか無事かあるいは廃人になって戻って来るパターンだろ。

 間に合わない。

 

 どうする?

 考えろ、考えろ。

 

 その時目に入ったのは店の前に駐めていた――自分の愛車。

 

「ええい、ままよ!」

 

 いつも腰にセットしている3つのカードホルダーの固定を確認。

 愛車を引き起こして、足を掛ける。

 

 そして。

 

 俺は走り出した。

 

 

 

 

 

「あ、ユウキちゃん! 今日はもう店閉まってるから!!」

 

「えっ!?」

 

 

 その途中でなんか見かけた常連客のユウキ少女に、声をかけておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 夢を見ていた。

 いや、悪夢を見ていた。

 

「フィーフィフィヒ! 弱い? 弱い! 弱いですよぉおぉおぉお~?! 手喰(ハンドグール)ビーストロンでトドメです!」

 

「きゃああああ!!」

 

 両手に口がついた怪物の一撃で、残っていたライフデッキと共にボクは吹き飛ばされた。

 ビリビリと破れる音。

 大切な店のエプロンと一緒に服が千切れて、手足に鈍い激痛。

 

 痛み。

 そう痛み、だ。

 ファイトではありえないはずの痛みを伴うダメージ。

 

 

「――……闇のカードッ」

 

 

 闇のカード()い。

 もう関わることはないと思っていた存在に、ボクは負けた。

 ()()()()()()()()()

 

地棺セト……かつては天才の名を欲しいままにしていた才女がこんなにも弱いとは、んっん~がっかりですねぇ」

 

「……むかし、の話だよ」

 

 コツコツと不愉快に足音を立てながら、倒れたボクの近くまで近寄ってくる闇のカード遣い。

 こいつはいきなり現れた。

 

 茂札くんが店から出たのと入れ違いに店の中が真っ暗になり、ドアの隙間から真っ黒なカードが差し込まれて、そこからのは現れたのは青白い肌のモノクルを着けた老人。

 そして、挑まれた闇のファイト。

 それに僕は戦うしかなくて……

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 顔を掴まれて、持ち上げられた先には僕を見下ろす闇のカード遣い。

 その後ろにはファイトは終わったのに消えていない怪物の姿。

 

「貴方のデッキ、銀河乙女(アウターアムニオン)の切り札たる”無垢なる乙女”はどこに?」

 

「お前になんて……アルマーは出すまでもないよ」

 

 こいつの息が臭い。

 ボクは出さなかった……いや、隠したボクのカードを思って言い返す。

 

 闇のカード遣いが狙うとしたら確実にあの子だ。

 だから絶対に渡さない、ボクに何があろうとも絶対に。

 

「そうですか。ハンドグール」

 

 掴んでいた手が離されて、顎が床にぶつかる。

 痛みに呻く暇もなく、両腕が強い力に掴まれて持ち上げられる。

 

 実体化しているハンドグールの口が、ボクの両手を掴噛(つか)んでいた。

 

「それでは探さないといけませんねぇ?」

 

 冷たい感触。

 ダメージで切れ目の入っていた私の上着、その間に青白い指先が挿し込まれる。

 

「ここか?」

 

 布が裂ける音がした。

 息を呑む。

 

「ここか!」

 

 ビリィとまた裂ける音がする。

 冷たく下がった室内の気温が、へその上から伝わってくる。

 

「ここだなぁ!?」

 

 プツンと何かが切れる音がした。

 開放感。

 頼りなくなる胸元の重みに、思わずボクは叫んでしまった。

 

「いやぁあああ!?」

 

「フィーフィフィフィ、下品な身体だ。おかしいですねえ、女のファイターというのは大体ここに隠し持ってる事が多かったんですが」

 

 ジロジロと見下すような視線に、ボクは耐えられなかった。

 必死に足だけでも上げて、胸を隠そうとするが、届かない。

 両腕のハンドグールの力がビクともしない。

 

 こんなのいやだ!

 

「ふぅむ、となるとどこだろうか。ふむふむ、女には幾つもカードポケットがあるといいますし」

 

 ニチャリなんて音がしそうなぐらい気持ち悪い笑み。

 こいつは確信してる。

 ボクが身につけていないことを知っていてただ理由をつけて嬲りたいだけだってわかった。

 

「やだ、やだぁ!」

 

「どうせ”柱”にするのです。危ないものをもっていたらたまりませんからね、隅々まで身体検査もしてあげましょう」

 

「やぁあああああああああああ!!」

 

 誰か、

 誰か助けて!!

 

 

 

 ドゴンッ!

 

 

 激しい轟音がした。

 

「なにっ?」

 

「へ?」

 

 ドゴンッ!!

 

 

 何度も音がした。

 あの方角は……通用口?

 

「馬鹿な! 闇の領域で強化されているはずの門を……捜査機構か?!」

 

 

 ドゴンッ!!!

 

「ええい、目的は達した! 引き上げるぞ、ハンドグール!」

 

『GUIIIEE』

 

「ぐえっ」

 

 ボクの身体がいきなり解放されて、床に落ちた。痛い。

 

 店のドアを内側から他のハンドグールがこじ開ける。

 そして、外から入ってきた黒服の男たちがボクを捕まえて……

 

 

「君への尋問は静かなところでたっぷりとしてやる、眠りたまえ」

 

 そんな気持ち悪い笑顔と共に目の前に掲げられた真っ黒なカード。

 それで目の前も暗くなって……――

 

 

 

 ボクは夢を見た。

 

 ボクは悪夢を見ていた。

 

 

 

 目を覚ました後のより酷い未来を覚悟させるように。

 

 何度も何度も同じ悪夢を見ていた。

 

 忘れられない敗北。

 

 忘れられない痛み。

 

 消えない痛み。

 

 消すことの出来ない過去。

 

 

 

 

 

 

 だから。

 

 

 

「ありえない、ありえない、ありえなぃいいいいいい」

 

 

 ボクは。

 

 目を開けた先の光景が、理解出来なかった。

 

「ありえなあああああああああああ」 「さっさと答えてくれよ」

 

 

 真っ黒な闇の世界で。

 

 何の輝きもない。

 

 見慣れた少年の――いつものふてくされたような顔の、青年の子供のような笑みで。

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

 彼は、立っていた。 




 私は知らない、明日に何が待っているのか
 ボクは知っていた、昨日に何があったのか
 どちらも今日を知らない
 だから恋という未知を選べてしまったのさ

               ――無垢なる乙女 アルマー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。