食用油と健康の逆説 XII:不飽和脂肪酸は酸化防止できるのか?
前回までコレステロールについてお伝えしました。
そして、このシリーズを通してPUFAの過酸化が健康に及ぼす影響が大きいという事をお伝えしています。
その発端となるのは、酸化ストレスです。
酸化ストレスが病気に及ぼす影響は、フリーラジカル理論とも呼ばれています。
フリーラジカルとは、不安定な不対電子をもつ分子や原子のことで、フリーラジカルをもつ活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)(過酸化水素やハイドロキシラジカル)が引き起こします。
これによって多価不飽和脂肪酸(PUFA)は過酸化の影響を引き起こします。
それでは、過酸化しないために抗酸化すれば良いのではないか?
そう考えるのも当然だと思います。
抗酸化物質の代表的なものには、ビタミンが挙げられます。
ビタミンが抗酸化に有効だという結果が出ている実験は数多くありますが、その一方で有害になるという報告も多数あります。
それはどうしてなのか、有害報告のその一部を見ていきましょう。
ビタミンC
ビタミンCは酸化防止剤として色んな食品に使われています。その他、野菜や果物、動物の内臓にも含まれています。
人間や一部の霊長類は、体内で合成することができません。
そんなビタミンCは、活性酸素を除去するということが言われています。
別名はアスコルビン酸ともいい、両者は似ており、同一のものとされています。
シャーガス病は、寄生虫によって起こる感染症で、中南米では1,200万人以上が感染しているとされています。
サシガメという昆虫に媒介されて発症します。
寄生虫との接触後は、患者は急性期を迎え、無症状の人もいれば、発熱、頻脈、脱力感、リンパ節腫脹などの症状を示す人もいます。
感染から何年も経過すると、患者の約30%が慢性期に移行し、巨大食道、巨大結腸、心肥大などの特徴的な徴候を示します。
シャーガス病モデルのマウスへのビタミンC投与では、ビタミンCが多いほど骨格筋に大きなダメージで少ない群よりも炎症の程度が高く、プラセボ群よりも壊死が多くなりました。
特に心筋と結腸に大きな損傷がみられました。[1]
また、マウスに500mg相当のビタミンCを毎日補給すると、フリーラジカルの産生と脂質過酸化が有意に増加しました。
アスコルビン酸は銅や鉄などの遷移金属によって酸化促進剤ともなります。[2]
そのためアスコルビン酸は、クローン病や関節リウマチなどの慢性的な炎症性疾患を持つ患者への大量摂取には注意が必要だと指摘しています。
理由は、アスコルビン酸と遷移金属との反応によって、ROSや活性窒素種(RONS)が大量に増加するからです。[3]
ビタミンCの大量投与が炎症性サイトカインを増加させることが確認されています。[4]
僕個人的には、人間が他の動物と違って体内でビタミンCを生成できない理由がここにあると考えています。
人間は食生活や暮らしの上で、鉄などの遷移金属との接点が多くなります。
その遷移金属との反応を防ぐ上で、あえてビタミンCの生成能力を失ったのではないかと思っています。
βカロテン、ビタミンA、ビタミンE
78の無作為試験で296,707人を対象にしたメタ解析があります。
この解析では、バイアスの影響が低い試験で、βカロテン、ビタミンA、ビタミンEは死亡率を有意に増加させてしまいました。[5]
特に単変量メタ回帰分析では、ビタミンAの用量は多くなるほどに死亡率の増加と有意に関連していました。
結論では、
一次予防または二次予防のための抗酸化サプリメントを支持するエビデンスは見出されなかった。 βカロテンとビタミンEは死亡率を増加させるようであり、高用量のビタミンAも同様である。抗酸化サプリメントは医薬品として考慮する必要があり、販売前に十分な評価を受けるべきである。
としています。
喫煙者を対象にビタミンEとβカロテンのサプリメントのがん予防効果を確かめるために、5〜8年間追跡した無作為二重盲検プラセボ対照試験があります。[6]
その結果は、βカロテンサプリメントを投与された男性はされなかった男性よりも肺がんの発生率が8%高かったことが確認されています。
また、ビタミンEサプリメントを摂取した男性はしなかった男性よりも、出血性脳卒中による死亡が多くなりました。
βカロテンやビタミンEをサプリメントで摂取しても、がんを予防できるどころか、悪化してしまう可能性があります。
ビタミンAやβ-カロテン、ビタミンE、ビタミンC、またはそれらの組み合わせを用いた大規模なビタミンサプリメントの補給研究では、がんの予防効果はありませんでした。[7][8][9][10][11][12][13][14]
心血管疾患についても予防効果は確かめられていません。[15][16][17]
このようにビタミンやβカロテンなどのサプリメントは、多くの調査研究で病気のリスクを低下させるような影響は確かめられていません。[18]
抗酸化物質をPUFAの過酸化によってできるアルデヒドの一つ、アクロレインの抗酸化を確かめた実験があります。[19]
その結果、ビタミンAとβカロテンは抗酸化するどころかPUFAをサラサラの状態からドロドロの固形物に変えてしまいました。
この作用を以前お伝えした架橋といいます。
また同じ実験では、ビタミンEは架橋を抑えることができず、PUFAの粘度を低下させるくらいしか効果がありませんでした。
特に、病的な架橋が起こった場合、ビタミンE単独では全く効果がないことが指摘されています。[20]
ビタミンAやβカロテンは、二重結合が複数あります。つまり、PUFAと同じように熱や光で酸化されやすいです。[21]
人参にはβカロテンが多く含まれていますが、僕がスーパーで働いている経験上、生育状態の悪い人参ほどすぐに黒く変色してしまいます。
これは、人参表面のβカロテンが光によって酸化されやすいからだと考えています。
特にβカロテンを大量に補給すると、抗酸化反応と同時に、過酸化反応も起きやすく、それによって反応性が高いアルデヒドやエポキシドであるカロテノイド分解産物(CBP)が生成されます。
CBPは、エネルギー生成の要であるミトコンドリアの呼吸を阻害し、他の抗酸化物質の低下、PUFAが酸化してできるマロンジアルデヒドの蓄積を上昇させてしまいました。[22]
つまり抗酸化のために摂取したβカロテンが逆に過酸化を増加させてしまったのです。
また、ラットの実験では繊維金属である鉄がβカロテンの酸化を増加させていることが示唆されています。[23]
かといって人参を食べるなということではありません。サプリメントのように、高濃度にしたものが危険であると考えています。
グルタチオン
グルタチオンは、酸化ストレスからの保護機能を持つことが示されている反面、
PUFA由来のアルデヒドと結合しグルタチオニルーHNE(GS-HNE)を形成します。
このGS-HNEは炎症促進作用やインスリン抵抗性を引き起こすことが報告されています。[24][25][26][27][28]
どうして抗酸化物質が悪影響を与えてしまったのか?
抗酸化物質をサプリメントのように、高濃度で摂取すると酸化を抑えるどころか、逆に細胞内を還元状態へと変化させるため、還元ストレス(Reductive stress (RS))が起こるからです。[29]
還元型グルタチオンが増加すると、還元ストレスが起こります。[30]
還元ストレスは、ミトコンドリアの機能障害や細胞への毒性を誘発します。[31][32][33]
セレンも高濃度によって還元ストレスをもたらします。[34]
細胞で還元ストレスが起こると、脂肪分解が起こります。
脂肪分解が起こると、血中にPUFAが放出されて、酸化ストレスを起こします。
つまり、抗酸化物質が酸化ストレスを起こすというパラドックスが生まれます。[35][36][37]
抗酸化物質を投与して、脂肪細胞の褐変が抑制できるかどうか実験した結果、
脂肪細胞内のミトコンドリアが活性酸素をより発生させてしまいました。[38]
理由の一つとして、細胞内が還元ストレスによって還元状態になると、細胞内にある鉄が放出されるからです。[39][40]
上記にもありますが、体内に鉄をはじめとする遷移金属が多いと、より活性酸素を発生させたり、PUFAの過酸化へとつながります。[41]
私たちの細胞は、ゆるやかに酸化をしながらエネルギーを作り出しています。
エネルギーのもととなる物質を酸素と共に酸化させないと、エネルギーが作れなくなるからです。
抗酸化物質は、その酸化を止めてしまうため、細胞内の還元ストレスをもたらしてしまいます。
科学や医学は、特定の成分や物質が身体に影響する作用を解き明かしてくれました。
確かにその特定の成分や物質は、身体にそう作用するのかも知れません。
「◯◯が不足するとこんな病気になる」
「その症状は、◯◯が不足しているからです」
「現代人は◯◯が不足している。だからこれを摂った方が良い」
というのをよく耳にしたことがあるのではないでしょうか。
その結果、何十年前には存在していなかった、たくさんの健康サプリメントが蔓延しています。しかし、それで健康になった人が増えているかどうかには疑問が残ります。
食べ物の成分や物質は、抗酸化物質だけではなく、他の栄養素や物質が含まれています。
特定の成分だけを抽出したものを摂取すると、食べ物全体が持つ効果を打ち消してしまったり、
特に高濃度で抽出したものを摂取すると、悪影響が出ることが考えられます。
また多くのサプリメントに含まれるビタミンは科学的に合成されたものが多くなっています。
机上の理論だけでは、◯◯というサプリメントを摂ったら良くなる。というのは夢物語に過ぎないということになります。
つまり、特定の物質を摂ったからといって、不飽和脂肪酸を酸化防止できないと考えられます。
有害報告が起こるということは、それを如実に物語っていると考えられます。
ではどうすればいいのか、
不飽和脂肪酸、特にオメガ3やオメガ6といった多価不飽和脂肪酸が酸化ストレスを引き起こすのならば、
極力、その摂取を控えるというのをオススメします。
代わりに、油を使う場合は酸化しない飽和脂肪酸を使うことをオススメします。
つづく
【関連記事】
【参考文献】
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[4]Mega-dose Vitamin C modulates T cell functions in Balb/c mice only when administered during T cell activation.
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