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つぶあん
アイビーの花を摘んで - つぶあんの小説 - pixiv
アイビーの花を摘んで - つぶあんの小説 - pixiv
3,610文字
アイビーの花を摘んで

死ネタです。

少し捏造した設定も入っていますので注意してください。

 
   

──────────────────────────
私はずっと独りだと思っていた。
頭も良くない、家事も出来ない、才能も無い。
そんな私を誰が愛してくれる? 受け入れてくれる?

そう思っていたの。
でもね、こんな私を好きって言ってくれる人が居た。
私は、そんな彼を永遠に愛している。
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2025年1月17日 13:47


要くんが死んだ。

私と七曜の魔女達に見守られながら、穏やかに、眠るように息を引き取った。
最期の瞬間、彼は微笑んでいたように見えた。

葬式はしないでくれと言われていたからしなかった。代わりに火葬だけきちんとして、道影くん達のお墓の横に眠らせてあげた。
それから小さな死別会を行った。みんな泣いていた。
お父さんも、お母さんも、パトも、みんな。
私も泣いた。テラール達も泣いていた。

「まだ死ぬには早い」誰かがそう呟いた。
要くんはまだ30代だった。

大罪の器となった影響だろう。彼はそう言っていた。
許せなかった。けれど、憎む対象はもう居ない。

私はこの気持ちを一生抱えたまま、家族と一緒に過ごすのだと思った。


道影くんに要くんの死を伝えた。
崩れ落ちて泣いていた。冥界には来ていないらしい。
神威さんも泣いていた。私もつられて涙がこぼれた。
どうして、こんなに早く死んでしまったのだろう。


彼の居ない家は、とても寂しかった。
でも、家族が居てくれた。テラール、ペンプ、パラスケ、トゥリー、デフテー、サーヴァ。
みんなが居てくれたから、私は立ち直れた。

みんな、とても可愛い私の家族。
楽しかった、充実していた。けれど、ふと心に穴が空いたような感覚になる。隣にぽっかりと空いた空間に胸が苦しくなる。
彼に会いたい、もう一度だけ。

冥界に行くと、道影くんと神威さんが出迎えてくれる。
でも、道影くんは元気が無さそうだった。
いつか、六冥王を辞めるのかもしれない。
彼に会いに行くのかもしれない。
少しだけ、羨ましいと思ってしまった。


要くんの部屋を掃除し、綺麗な状態を保つ。
これは私のルーティンだった。
彼が生きている時も、部屋は常に綺麗だったから。
彼の生きた証を、残したかった。

毛布に顔を埋めてみる。
もう、彼の匂いは残っていない。



サーヴァが死んだ。彼女が45歳のとき。
老衰だと言われた。絶望した。魔女は短命だった。
テラール達は黙っていた。
彼女達は自分の運命を受け入れようとしていた。
待って、やめて、私は受け入れられない。
受け入れたくないのに。私を置いていかないで。


テラールが死んだ。彼女は47歳、癌だった。
ペンプが死んだ。彼女は49歳、老衰だった。
トゥリーが死んだ。彼女は51歳、心疾患だった。
デフテーが死んだ。彼女は52歳、急死だった。
パラスケが死んだ。彼女は62歳、癌だった。

みんな、私の可愛い家族。愛しい家族。
みんな、私を置いていってしまった、耐えられなかった。
みんなが居ない家が、寂しくて、広くて、静かで。


冥界に行った。道影くんと神威さんが出迎えてくれた。
私の顔を見た2人は、悲しそうな顔をして、受け入れてくれた。

「要のところに行くのか」
道影くんの言葉に、私は頷いた。
彼は「そうか」とだけ言って目を閉じた。

神威さんは泣いていた。
でも、やめてくれとは言われなかった。

私は2人に、ありがとうと言って冥界を去った。

「俺もアイツのところに行くかな」
「お供しますよ、夜桜様」
2人の会話を、私は耳にしないまま。


久しぶりに実家に帰った。
家にはお母さんだけしかおらず、お父さんとは会えなかった。私はただいまと言った。お母さんはおかえりと返してくれた。
幻想郷の家に帰っても、もうその言葉は聞こえない。

お母さんは神社に帰って、パト達の子供を一緒に育てようと提案してくれた。
私はそうだねと答えた。罪悪感でいっぱいだった。
でも、止めようとは思わなかった。
寂しかった、もう耐えられなかった。

世間話をして、暗くなる前に帰ることにした。
お母さんは私が帰る直前、顔をじっと見つめてきた。
そして「元気でね」と言った。
私は必死に涙を耐えながら「うん」と頷いた。

あの時、お母さんは察していたんだろうね。
ごめんなさい、親不孝者で。
ごめんなさい、お母さんを置いていってしまって。


家に帰って、雪花ちゃんに電話をかける。
予想通り誰も出ない。留守電にメッセージを残す。

全ての部屋を見て回り、最後に要くんの部屋に入る。
いつも通り綺麗だった。なのに寂しい。
いつも彼の気配だけ、感じなかった。

毛布に顔を埋める。
彼の気配も、匂いもしない。それでも安心した。
要くんが傍に居る気がしたの。


リビングの真ん中に立ち、ナイフを右手に持つ。
左手で、彼がいつも着けていた結婚指輪を握る。
不思議と怖くなかった。それどころか穏やかだった。
もうすぐみんなと会えることが、とても嬉しかった。

ありがとう、要くん。
ありがとう、みんな。
私の可愛い家族、愛しい家族。
もう、そっちに行くから。

私はナイフを首に当て、思いっきり引いた。



















『留守電サービスです。メッセージをどうぞ。』

『雪花ちゃん、桜花だよ。突然だけど、今までありがとう。私ね、ずっと独りだと思ってた。頭も悪いし、家事も出来ないし才能も無い。でもね、そんな私を好きって言ってくれる人が居た。私を受け入れてくれる人と出会った。私は要くんを愛してる。だからね、彼の居ない家に、家族が居ない家に、耐えられなくなっちゃった。ごめんね、雪花ちゃん。ごめんね、お母さん、お父さん。ごめんね、みんな。』

『要くん、もうすぐ行くから。待っててね。』











「桜花!!!」
雪花がリビングの扉を開けると、そこには皆が居た。
凍夜も、礼花も、月花も、芦花も、パトも。
みんな泣いていた。倒れている彼女を見て。
「桜花⋯」
雪花も涙を流す。桜花は首から血を流して死んでいた。
その顔は、穏やかに微笑んでいた。

「こうなるんじゃないかと、思っていたの。だって昨日の桜花はおかしかった。戦場に行く隊員の顔をしていたの!!」
礼花は桜花を抱き寄せて泣き叫んだ。
その拍子に桜花の手から指輪が落ちる。

「母さん、それ⋯」
パトが指輪を指差すと、礼花は丁寧にそれを取った。
「これ、要くんのだわ⋯桜花、きっと要くんの傍で死にたかったのね。」
礼花の呟いた言葉に、誰も何も言えなかった。
みんな泣いていた。誰も桜花を責められなかった。

どうか、桜花が愛する家族のもとに行けるよう祈るしかなかった。




















「ん⋯?」
桜花はひとりでに目を覚ます。
彼女は一面に咲く花畑の上で眠っていた。
「ここ、どこ⋯?」
桜花が身体を起こしてそう呟くと、どこからかサクサクという音が聞こえてくる。桜花は息を呑んだ。

「桜花。」

彼女は呼ばれた方向に、勢いよく顔を向ける。
そこに居たのは、死ぬ直前のやせ細った姿ではなく、あの時、顔を赤くしながらもプロポーズしてくれた時の姿をした桜花の愛しい彼だった。
彼は穏やかに微笑み、両手を広げる。

「かなめくん⋯要くん!!」
桜花は涙が頬を伝うのにも構わず、彼の腕の中に入る。
桜花の一番大切な場所、守りたかった場所。
彼は優しく桜花を抱きしめる。
「ごめんな、置いていってしまって。ずっと見ていた。辛かったよな、苦しかったよな。」
桜花は泣きじゃくりながら、何度も頷く。
「うん、辛かった、苦しかった、寂しかった! ずっとずっと、要くんに会いたかった!!」
「うん。」
「要くんが居ないと何にもできない! 私、料理なんて作れないもん!」
「そうだな。」
「テラールも、ペンプも、パラスケも、サーヴァも、トゥリーもデフテーも! みんな死んじゃって、誰も居なくて。ダメだったの、もう生きられないって思っちゃったの!」
「そうか。ごめんな、桜花。」

桜花は彼に抱きしめられながら、長年溜め込んできた感情を全て出す。もう毛布に顔を埋めなくても、彼の気配が、匂いがして、それが桜花を安心させる。

「桜花、本当にごめん。こんなに早く死ぬなんて思っていなかったんだ。」
彼がそう言うと、桜花は首をぶんぶんと横に振る。
「違う、違うよ、要くんは何も悪くない。悪いのは要くんを大罪の器にした人。だから謝らなくていいんだよ。」
「⋯桜花には敵わないな⋯」
彼が苦笑しているような気配がして、桜花は胸がいっぱいになる。彼は心が弱くて、臆病で、怖がり。
桜花はそんな彼を愛している。永遠に。

「なあ桜花、皆が待ってるんだ。行こうか。」
「えっ! みんなって、あのみんな!?」
「ああ、俺達の家族、みんなだ。」
桜花は彼の言葉に再び涙を流す。
そして腕から離れ、桜花は彼の手を取った。

「うん、行こう! 私達の家族のところに!」

彼は照れたように笑いながら「ああ」と頷いた。




風が吹き、花が舞う。
その中には柊の花と、桜の花びらが混じっていた。


アイビーの花を摘んで

死ネタです。

少し捏造した設定も入っていますので注意してください。

 
   

──────────────────────────
私はずっと独りだと思っていた。
頭も良くない、家事も出来ない、才能も無い。
そんな私を誰が愛してくれる? 受け入れてくれる?

そう思っていたの。
でもね、こんな私を好きって言ってくれる人が居た。
私は、そんな彼を永遠に愛している。
続きを読む
1114529
2025年1月17日 13:47
つぶあん
コメント
mira_^
mira_^
一言では表すことのできない感情が込み上げてきました…。桜花ちゃんにとっての幸せは、愛する人と過ごすことで。要くんはきっと桜花ちゃんがあんな風に最後を迎えることは望んでいなかったけど、最後は二人が幸せになれて…泣きそうになりました。素敵な作品をありがとうございます😭
5月11日
スイサイ
スイサイ
素晴らしかったです……作者様の表現力による桜花ちゃんのセリフ群で、とても感情移入できました。質の高い要桜小説は珍しいので、読み終えてから満足感と嬉しさでいっぱいでした…素晴らしい作品をありがとうございます!
2月15日
名無しのナナシ
名無しのナナシ
良い物語を見せてもらいました、とても素晴らしく、とても悲しい… というか、本編でも割と確実に桜花にはこの未来が待ってるのが怖いとこだよね 恨む対象はもういない、その事から要は無事リオ討伐を果たせたんだな そしてその後の余生をきっと要は彼なりに桜花の為に使ってくれたんだろう
1月19日

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