「立皇嗣の礼」による錯覚
皇位継承をめぐる錯覚はそれだけではない。その2番目としては、令和2年(2020年)11月に行われた「立皇嗣の礼」によって、秋篠宮殿下が「皇太子」と同じような立場になられたかのような誤解が生まれたことが、あげられる。
これは明らかに、政府サイドが狙った印象操作だった。それが、まんまと効果を発揮してしまったケースだ。具体的に説明する。
まず、上皇陛下のご退位を可能にする皇室典範特例法が平成29年(2017年)6月の国会で成立した。にもかかわらず、その時の附帯決議で政府が求められた「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」への具体的な検討のスタートが、令和3年(2021年)3月にまでずれ込んだ。
そこには約4年間ものブランクがある。この異常さに気づく必要がある。
まず、附帯決議そのものに“罠”が仕掛けられていた。
政府による検討の開始時点を、「本法(特例法)施行後速やかに」としていた。“成立”後ではなく“施行”後だ。これによって、特例法が成立した平成29年(2017年)でなく、それが施行された後の令和元年(2019年)へと、スタートラインがずらされた。
次に、政府は新しい天皇のご即位にともなう一連の儀式が終わってから検討を開始する、との姿勢を強調した。しかも驚いたことに、その一連の儀式の中に性格が異なる「立皇嗣の礼」をも、あえて押し込んだ。
つまり立皇嗣の礼の後まで、問題への着手をさらに先送りしたことになる。
前例がない「立皇嗣の礼」
立皇嗣の礼という儀式自体、まったく前例がない。その時点で皇位継承順位が第1位の皇族であるにすぎない「皇嗣」という立場の暫定的な性格に照らして、このような儀式をわざわざ新しく案出して、執り行う意味がそもそもない。
皇室典範は、“直系”の皇嗣=皇太子(またはその子の皇太孫)と“傍系”の皇嗣を、明確に区別している。最も分かりやすい違いは、傍系の皇嗣については皇族の身分から離れられる「皇籍離脱」の可能性を認めている、という事実だ。
「やむを得ない特別の事由があるときは」傍系の皇嗣ならば、皇室会議の議決によって、皇族の身分を離れるケースがありえる、としている(第11条第2項)。皇太子のように次の天皇として即位されることが確定した立場ならば、このような規定は設けられるはずがない。
そのため、先の特例法では大急ぎで皇籍離脱の可能性をふさぐ必要があり、第5条に「皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」という条文を挿入した。
しかし、皇嗣と皇太子がもともと同じ立場ならば、このような条文をわざわざ追加する必要はない。
