ビジネス

2021.02.12 16:30

男性ばかりの会議から見えてくる日本の未来 食い止める術は

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このような研究機関や国際機関で働く人は、専門分野で豊かな知識や経験を持ち、多くの場合は博士号、最低でも修士号を1つはもち、英語のみならず複数の外国語を操る人がほとんどです。そのようなバックグラウンドを持ち自国外で活躍する人のうち、日本人に限って女性の割合が高いという傾向がみられるのはなぜでしょうか。

他国と比べてそのような女性が日本国内で活躍できる機会が限られていると推察できると考えます。日本人女性自身の資質や能力、主体性の問題というよりは、日本社会の構造上の問題かもしれない、と仮定することはできそうです。

「多様な意見を出し合う場」のはずが…


私自身、政府のとある委員を務めていた際に面白い体験をしました。その委員会は、医師や学者、弁護士、NPO関係者など多様なバックグラウンドを持つ方々で構成されていて、私は国際機関の代表として参加していました。少なくとも当時は若手女性である委員は私だけでした。

ある時気が付いたのですが、委員の一人で年配の男性が普段はずっと黙っていらっしゃるのに、私が発言した時だけ必ずすぐに真っ向から反論され、私の意見に他の男性委員が賛同すると静かになられるのです。最初はどうして私に対してだけ反論されるのか分からず少し戸惑ったのですが、おそらく自分よりずっと若い女性が専門的な知見に基づいて自由に発言するのが生理的に受けつけられないのかもしれない、ということが少しずつわかってきました。

私もコトを荒立てたくありませんでしたし、大事だと思って提案した意見は結果的にほぼ全て委員会全体で受け入れられましたので、その委員の態度について何か不平不満を申し立てたことはありません。おそらくご本人にも私を黙らせようという悪意はなく、古い時代の文化に育って、そういう価値観が潜在的に染みついてしまったのでしょう。

ただ今振り返ってみれば、多様な立場に基づいて多様な意見を出し合い聞き合うことが目的の場で、もし自分と異なるバックグラウンドを持つ人の発言を、その中身ではなく、発言者の性別や年齢によってどうしても生理的に受けつけられないのであれば、そのような公的委員会のメンバーとして適任だったのかどうか、少し疑問に感じています。

頭脳流出だけでなく「エストロゲン流出」との揶揄も


このような記事を書くと、疎ましく思われるかもしれません。それを承知で私がこの記事を投稿する理由はただ、日本の将来を憂いているからです。

私は今、首都圏にある国立大学・私立大学数校の学部・大学院で教鞭をとっています。ほぼ全ての講義を英語で行っているため、私の受講生には、高校まで欧米圏で教育を受けたいわゆる「帰国子女」や留学生が多いのですが、「日本は女性蔑視がひどいし、特に女子はお給料も低いから、卒業後は海外に戻ろうかと思っているんです」と半ばあきらめ気味に相談に来る女子学生が少なくありません。
次ページ > 私たちがすぐにできること

文=橋本直子

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キャリア・教育

2021.02.05 16:30

しゃべり過ぎるのは女性ではない 森会長発言の誤りを示す研究結果

東京五輪・パラリンピック組織委員会 森喜朗会長(Carl Court/Getty Images)

東京五輪・パラリンピック組織委員会 森喜朗会長(Carl Court/Getty Images)

会議が不必要に長引く原因は女性がしゃべり過ぎることにあり、その理由は競争意識の高さにある──。

これは東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が示した見解だが、これまでの研究からは、森会長がどちらの点でも間違っていることが示されている。女性はおしゃべり好きだというステレオタイプとは裏腹に、実際には男性の方が競争意識が高く、発言も多い傾向にある。

問題の発言は3日、女性理事を40%以上にするという日本オリンピック委員会(JOC)の目標に関して質問を受けた際に出たもので、その場にはJOCのメンバーと記者らが同席していた。

森会長は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。(中略)女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困る」と発言。さらに、「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げていうと、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」と説明した。

JOCの理事25人のうち、女性は現在5人。森会長は翌4日、この発言を撤回し、謝罪した。

森会長は驚くかもしれないが、この主張を裏付ける証拠はほとんどない。デボラ・ジェームズとジャニス・ドレーキッチの研究者2人は、男女の話す量を比較した56件の先行研究を分析。結果、女性が男性より話す量が多いと結論づけた研究はわずか2件で、逆に男性の方が発言が多いことを示した研究は34件あった。

実は、ある人の発言が多いかどうかは、その人の性別よりも地位に関係していた。研究チームは、発言が多い人は高い地位に就いていることが多いと結論している。仕事の場面では、地位が高い人物は男性の方が多い。男性が大多数のJOCの会議ではおそらく、男性の方が高い地位にあり、話す量も多いだろう。

女性はおしゃべり好きだというステレオタイプは世間一般に広まっており、そう考えているのは森会長だけではないはずだ。例えば、教室では女の子よりも男の子の方が発言の量が多いことが分かっているが、どちらの発言が多いかを尋ねられた教師は、女子の方が多いと回答。教師らも森会長と同じ、誤った認識を持っていることが分かった。実際には、教師から発言の機会を与えられることが多かったのは男子の方だった。

さらには、女性が発言をすると、主張が強すぎるとして反発を生むこともある。学術誌アドミニストレーティブ・サイエンス・クオータリーに掲載された2011年の論文によると、頻繁に発言する役員が男性だった場合は能力が高いとみなされる一方、女性の場合は能力が低いとみなされる傾向があった。
次ページ > 競争意識も男性の方が高い傾向

編集=遠藤宗生

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テクノロジー

2021.02.01 11:30

Clubhouseのここがすごい。Zoomとの推定差異から考えてみた

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24日のシリーズBラウンドでの資金調達の発表を受け、日本国内でもツイッターのトレンド入りなどで急速に話題になっているClubhouse。「声の扱い方が一体Zoomとどう違うのか?」を考えてみた。

下記は、一般のビジネスパーソン向けに技術的な内容を一部デフォルメしているので、技術系読者にとっては物足りない結果となるがご了承されたい。

結論から言うと、声被りをしない大きな理由はスピーカー(話者)間の遅延の小ささに由来している。インターネットを介した通話をおこなう場合、実はスピーカー間はリアルタイムに通話していない。データが世界中を飛び回って受信者に送られてきているので、テレビのニュースで海外特派員とのやり取りほどは気にならないが、若干の遅延が常に発生している。

人間の脳は10ms(1/100秒)とか20ms(2/100秒)程度の遅延から違和感を感じ始めると言われており、最近5Gの文脈で1ms(1/1000)遅延を目指すというキーワードで通信キャリア各社が努力をしていると聞くのはこれが理由である。

日常会話をしている場合、相手の発話終了などを感じ取って自分の発話を開始するし、相手の発話開始を感じ取って自分の発話を終了することによって、声被りを防いでいる。しかし、インターネットを経由してデータ受信の遅延が発生すると、コンマ数秒単位の発話終了に対する認知の遅れが発生し、これが声被りを生み出す原因となっている。

このデータ受信の遅延を減らす努力によって、インターネット通信における会話のリアルタイム性を高め、人間のコミュニケーションをより自然な声被りの少ない状態にすることができる。

どうやって遅延を減らしているのか?


では、この遅延を減らす努力をClubhouseがどのようにおこなっているか推定してみた。

周辺の技術者の間でおこなわれたパケット解析の結果や討議などを鑑みると、ClubhouseはUDPという、リアルタイム性が高く、データを垂れ流しする通信方式を利用して、通信をしていることが推測出来る。

当初、端末間を直接つなぐP2Pの仕組みでやり取りしていることが想定されていたが、パケット解析の結果、接続先がほとんど1カ所に集約されていることからこの考えは否定された。

例えば、スピーカーが「マイクのテスト」と発言した際に、通常インターネットで利用されているTCPという通信方式の場合は、何度かのデータのやり取りをした後に、「マ、イ、ク、の、テ、ス、ト」の発話データがすべて集まってから音声が再生される。一方で、UDPという通信方式の場合は「の」の発話データが欠落した場合でも、「マ、イ、ク、(無音)、テ、ス、ト」と即座に再生される。
次ページ > 送信開始までの遅延を減らすことが可能な理由

文=久池井淳 編集=石井節子

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