(耕論)参政党「躍進」の背景 山崎望さん、井上弘貴さん、岡田憲治さん

 ■2025参院選

 参院選で大きく議席を伸ばした参政党。一方で、主張の一部は議論を引き起こした。なぜ支持を広げたのか。欧米のポピュリズムとの共通点と違いは。日本政治に何をもたらすのか。

 ■漠然とした不安感を肯定 山崎望さん(中央大学教授)

 参政党の「躍進」には、いくつかの要因が重なっています。まず、自民党の右派を支持していた人たちが参政党に流れたこと。次に、「減税ポピュリズム」にうまく乗ったところ。そして一番大きいのは「日本人ファースト」でしょう。

 インバウンドで、外国人への違和感を抱いた人が少なくありません。また、動画やSNSを通じて、フェイクも含んだ「外国人問題」が拡散されました。漠然とした不安や体感治安の悪化を感じる人たちにとって、参政党はその被害者感情を否定せず、承認・肯定してくれる存在なのです。

 参政党の主張には、排外主義的、高齢者軽視的なものや国民の権利の制限など、自由民主主義の観点から多くの問題があります。選挙中に参政党への批判はありましたが、批判の方向性に違和感も覚えました。

 神谷宗幣代表の「高齢の女性は子どもを産めない」という発言は、性と身体に対する自己決定権を否定する意見として批判されました。神谷氏の言い方は差別的にも見える不適切なものですが、少子化の文脈では、医学的には誤りと言いにくい。タブー化された論点に切り込んだという見方もできます。

 むしろ神谷氏の構想全体の実効性を問うべきです。「女性が結婚して家庭に入れば、出産する人は増える」という前提ですが、共働きと専業主婦の家庭を比較すると、共働きのほうが子どもが多いという研究がある。社会構想として現実性がないのです。

 「参政党的なもの」を、民主主義の手続きで排除するのは難しい。とはいえ、現在の日本の政治は、自由民主主義に基づいています。自由主義の観点から、人権の軽視を批判することは可能です。また、選挙の期間外でも、デモやパブリックコメント、与野党への陳情など、さまざまな場での議論を通じて民主主義の力は行使できます。

 参政党は、外国人、働く女性、高齢者を次々に切り離すことで、政治の根本を掘り崩している。対抗するには、人々の不安感を頭ごなしに否定せず、外国人がいなくなったらコンビニなどの人手が足りなくなるんじゃないかといった、身近なレベルの想像力に働きかけるべきです。

 怖いのは、既存政党が参政党の主張に引きずられることです。参院選で各党が「外国人問題」に触れざるをえなくなった。民主主義にとって非常に危険な状態です。(聞き手 シニアエディター・尾沢智史)

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 やまざきのぞむ 1974年生まれ。専門は現代政治理論。著書に「来たるべきデモクラシー」、編著に「奇妙なナショナリズムの時代」など。

 ■つまみ食い的主張が増幅 井上弘貴さん(神戸大学教授)

 参政党の躍進には、グローバルな側面と日本固有の状況の両面を考えるべきです。

 まず、米国や欧州で起きているポピュリズムの波が、日本にも押し寄せ、グローバルな文化戦争から無関係ではいられなくなったという側面があります。文化戦争とは、移民、中絶、同性婚などの文化的な争点を巡って、賛成と反対の二極化が進み、対話が困難になっている状況です。

 インターネットとSNSは、文化戦争という現象を増幅させています。知識人や新聞のような既存のメディアを介さずに、情報を手に入れ「自分で考える」ことができるようになったと多くの人が感じています。しかし、「自分で考える」ことは、陰謀論への落とし穴でもあります。

 欧米に比べ、日本では外国人の増加はわずかに過ぎないにもかかわらず、ネット空間でイメージが増幅され、参政党の支持拡大につながっています。

 欧米のポピュリズムとのもう一つの大きな違いは、思想的基盤の欠如ではないでしょうか。参政党は、海外のポピュリズムの動きなどから、いろいろな考えを「つまみ食い」的に寄せ集めているように見えます。これまでは「自分で考えたい」と思う人々をうまく取り込んでいるようです。

 参政党の主張は、従来の左右の構図では捉えきれない部分があり、教育や環境などで一見リベラルに見える主張と、憲法改正や治安維持法のような復古主義的な主張が混在しています。その根底に欧米の保守や右翼にあるような思想的な基盤は感じられません。

 一般論として、様々な政治的な動きが出ること自体は民主主義にとって悪いことではありません。しかし、小さな政党であっても、政治のキャスティングボートを握ることで、政策決定に影響を与える可能性があります。「少数派の横暴」が日本でも起こりうるということを忘れてはいけません。

 参政党の躍進は、単なる一過性の現象ではなく、日本政治の転換点となる可能性を秘めています。

 日本に限らず、世界中のリベラルが、新たな理念を示す必要に迫られています。本来、既存の政治勢力や知識人には、理念的な対案を出すことが求められているのですが、うまくいっていないのが現状です。日本でもこれを機に健全な民主主義のあり方を考え、新たな価値を模索することが求められています。(聞き手・池田伸壹)

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 いのうえひろたか 1973年生まれ。米国政治思想史を専攻。著書に「アメリカの新右翼――トランプを生み出した思想家たち」など。

 ■葛藤不在、心地よい推し活 岡田憲治さん(専修大学教授)

 参政党現象を読み解くキーワードは「推し」です。動画サイトやSNSで支持者が見たい情報にだけ繰り返し触れ、同好の士とつながりアンチと敵対していく過程は、アイドルへの推し活に極めて似ています。

 推し活は多くの場合、その対象に「イノセンス(無垢〈むく〉)」を求めます。結党まもない政党は駆け引きや妥協、取引など「不純な政治」と無縁。最初から既成政党にはない魅力があります。ただ、参政党への投票行動は、かつて新興政党が伸長した際と比べても、よりイノセントでナイーブなものを感じます。

 参政党への支持には、あまり一貫性が見られません。政策からして福祉排外主義、農本主義的自然派志向、文化的極右と一見無関係なものが並び、有権者に響いた「日本人ファースト」にしても「日本人が大切にされていないと言われてみれば、そんな気がする」といったぼんやりした支持。そこに排外意識はないでしょう。だからこそ危うい。

 政党とは様々な社会的利益を集約する集団であり、それを調整するのが議会政治です。仮に自民党と立憲民主党が連立を組むなら、原発や安保法制を棚上げするしかない。そこには大きな葛藤があるはずです。

 主権者も同様で、「支持」には本来、世界観や価値観の共有がある。支持できる候補者や政党がなくても、悩み抜いた上で投票先を選び、その政治家を監視し続けねばならない。そこにも葛藤が付きものです。

 でも「推し」には、ほぼ葛藤も責任もない。批判が介在する余地もない。推すのは単に気持ち良いから。徹頭徹尾「消費者」マインドです。「日本人ファースト」を喝采するなら、外国籍住民が日本国民の生活や安全を脅かす事実があるのか確認すべきだし、まず米軍への「思いやり予算」や横田空域、日米地位協定に怒るべきでしょう。

 ただ、このイノセントな推しの主体には、紛れもなく「名付けられていない弱者」とも言うべき存在が含まれています。財務省前で減税を叫ぶ人と同じく「自分たちは政治から大切に扱われていない」という疎外感を抱えている。今回参政党へ多く投じたのは、就職氷河期世代の男性でした。

 まずは彼らのリアリティーに政治が向き合い、本来の「支持」という営みに回収する。その上で、教育などを通じて消費者を主権者に転換させる息の長い試みを続けていくしかありません。(聞き手・石川智也)

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 おかだけんじ 1962年生まれ。専門は民主主義理論。「半径5メートルのフェイク論」「言いたいことが言えないひとの政治学」など著書多数。

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