黒歴史と青空と。アラフィフゆるフリー女子がジェンダーについて考えてみた。
「お前はさー、隙がないのが欠点!」「同期の男子でも、君付けじゃなくて、さん付けで呼んだ方がいいよ」「会社の電話、真っ先に出ろよ!女だろ!」「太った?」「痩せた?」「家泊まっていい?」「ホレ!お酌」「フリーになるなら、とにかく笑顔!女のフリーは笑顔が大事!」…
あれっ、どうした止まんないぞ。
色々な想いや言葉が、記憶の箱から出番を待ってたように飛び出してきて、ちょっとびっくりしている自分がいる。
広告業界でサバイブすること、ウン10年。セクハラとかジェンダー関連とかその辺の問題は、わりとうまく身をかわしてきた方だと思ってたけど。
私、けっこうずっと、モヤついてたのかもしれないな。
ただ。複雑なのは、
そのモヤモヤは、自分自身に対しても、ゼロじゃないってこと。
女性=弱者、というステレオタイプに頼ったことが、ないわけじゃないから。
就職したてのハタチ過ぎの頃、なぜか急に服の好みが変わった。やたらとカントリーっぽいというか少女っぽい服ばかり好んで着るようになった。
それまでは年齢より大人っぽい、カッコいい系のファッションが大好きだったのに…と、我ながら不思議だった。
口調も、なんか舌足らずというか当時で言うと「ぶりっ子」ぽくなってた。「それなんですか?知らなーいすごーい」って無知を強調する方が、先輩や上司の当たりが柔らかくなると知って、うっすら天然ぽい方向性に行ってた気もする…人生で、あの時期だけ。
あれは「私は若い女性という弱者なんだよ、きついこと言わないで」「私にキツく当たったら、あなたが悪者になるんだからね!」というサインを無意識に出していたのかも…と思い当たる。
家族や友達といるより圧倒的に会社の人といる時間が長くて、それが当たり前の超長時間労働。クライアントは横暴な神様で、セクハラのみでなくパワハラもモラハラも、あらゆるハラスメントがまるで空の雲のようにオフィス上空に立ち込めていた、あの時代の広告業界(ついでにタバコの煙もオフィスを覆い尽くしていた…)!
「弱者」というカードは、体力もなく、何よりメンタルが豆腐だった当時の私(今も島豆腐くらいの硬さだけど→ちょっとだけ硬くなった)の身を守る、数少ない切り札だったのかもしれない。あの頃は、心身ともにいつもギリギリで、この上キツい言葉やハラスメントがあったら、絶対立ち直れないって確信があった。
もちろん、フェアに扱って欲しかった。つまんないことで「女だから」ってフィルターで見て欲しくなかったし、給料で同期の男性社員に差をつけられるのも悔しかった(当時は当たり前だった)。
でも、どっかで「どうせイヤな思いをするなら、利用して生き延びてやる」って気分があったことも否めない…
そんな自分に、フェアネスを声高に問う資格なんか…と、この問題に直面すると、いつだってモヤついてしまう。
と、書いてきて、はたと気づいたことが。
「そもそも、そこまで過酷な労働環境自体が、フェアじゃなさすぎるでしょ!」
体力と気力のサバイバルレースになったら、そりゃどうしても女性が「弱者」になっちゃう割合は高くなる。
私のようなヘタレ女じゃなくても、タフな女性だって結婚・出産となれば、いきなり不利な立場になる。男性だって、頑丈な人ばかりじゃない。振り返れば、心身が頑丈じゃなくても、ハンデを抱えていても、能力はとても高い人は、けっこういた。
みんな、悔しい思いをしたはずだ。
幸い、みんなの努力と世の趨勢で、この業界のブラック度合いも年々薄れ、労働時間もだいぶ常識的になってきた。
各種ハラスメントへの意識も高まり、強者とされている側の人びとも、最低限、「もう、やっちゃいけないんでしょ」との認識は持つようになった(ホントの意味で意識が追いつくのは、まだまだ、これからだろうけど)。
同時に、私も体力を削らなくても色んな工夫でなんとか結果を出せるようになり、精神的にも図太くなり(島豆腐レベルだけど→しつこい)、弱者ぶることもなくなった。
さらに、働き方が大きく変わった2020年。コロナは憎むべき病だけど、誰もが参加しやすい、新しい働き方を、すごい速さで推進してくれた側面は、評価せざるを得ない。
広告代理店の男性が「今日は子どものお迎えだから、16時までにこのオンラインミーティング終わらせます!」と宣言する。
モニタの中、笑顔でOKサインを出すメンバーたち。
いい時代になった…
みんなが起こした風と、時代という突風が、お仕事環境の上にある雲を吹き払い(もちろんタバコの紫煙も)、やっと晴れた空が見えるようになったのだ。
でも、
吹き払った雲は、消えたわけじゃなくて、別のどこかに立ち込めて、空を覆ってるかもしれない。
その雲の下では、空が見えなくなって、くやしい思いをしている人がいる。
だから、いつだって肺に新鮮な空気をいっぱい貯めていたい。風を吹かせて、吹き払う準備はしていたい。ハラスメントの雲は、「誰もが平等に、自分らしく働いていい」という当たり前の青空を見えなくするから。
そして、出番を終えた弱者カードは、人生の最終盤、こりゃもういよいよお迎えだなってタイミングまでは、そっとしまっておこうと思う。その際だけは盛大にぶりっ子して、周囲に甘えさせていただこう!
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