桜花姫 |
- 日時: 2025/07/24 09:56
- 名前: 黒狼武者
- 参照: http://game.eek.jp/a/cute/db/patio.cgi?mode=view&no=558
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第壱部
第一話
怪談 太古の大昔の出来事である。世界暦四千二百二十二年四月三十日の時期…。極東に存在する青海原の島嶼では俗界の武陵桃源とも呼称される多神教の小規模民国〔桃源郷神国〕が誕生する。桃源郷神国は原生林の島国地帯であるものの…。国内では武力による戦乱が全国各地で頻発したのである。弱肉強食の戦乱時代が終焉してより五百年後の時期…。共存共栄の安穏時代は毎日が平和であり常日頃の日常生活が退屈にも感じられる。世界暦五千二十二年二月下旬の時期である。近頃は度重なる神隠しやら数多の大災厄は勿論…。無数の亡者達による摩訶不思議の超常現象が各地の農村地帯で頻発したのである。無数の亡者達が活発化し始めた同年の四月上旬の真夜中…。南国での出来事である。二人の旅人達が南国の最高峰とされる荒神山の頂上にて一休みする。 「もう少しで目的地の村里に到達するが…今夜は荒神山の頂上で一休みだな…」 大柄の旅人は疲れ果てた様子であり頂上の大岩へと腰掛ける。 「今夜は此処で野宿か…薄気味悪い場所だけど仕方ないな…」 『本当は宿屋で一泊したい気分だけど…今夜だけは止むを得ないか…』 小柄の旅人は不本意であるが…。 「俺も疲れちまったし…今夜は此処で一休みするかな…」 大岩で腰掛けたのである。すると大柄の旅人が警戒した様子で恐る恐る…。 「近頃の噂話だけどさ…」 「噂話だと?」 小柄の旅人は興味深そうな様子で反応する。 「荒神山には神出鬼没の妖怪達が出現するらしいぞ…」 「はっ?妖怪だって?」 『面白くない冗談だな…』 大柄の旅人の発言内容に小柄の旅人は拍子抜けした様子であり呆れ果てる。 「何が妖怪達だよ…所詮妖怪なんて根も葉もない子供騙しだろうが…荒唐無稽の妖怪が本当に存在するのであれば遭遇したいぜ…」 呆れ果てた小柄の旅人は妖怪の存在を全否定したのである。 「普通は否定するよな…妖怪なんて荒唐無稽だし…」 「妖怪が如何したよ?」 小柄の旅人は恐る恐る大柄の旅人に問い掛ける。 「東国での噂話だが…」 問い掛けられた大柄の旅人は恐る恐る返答したのである。 「妖怪を口寄せさせられる秘術が存在するらしいぞ…」 小柄の旅人は一瞬興味深そうな様子で反応する。 「妖怪を口寄せさせられる秘術だと?」 大柄の旅人は再度恐る恐る…。 「怪談百鬼伝説だったかな?妖怪を口寄せ出来る秘術は…」 「怪談百鬼伝説だって?」 怪談百鬼伝説とは摩訶不思議の妖怪を口寄せ出来るとされる禁断の秘術の一種である。怪談を百話口述すると神出鬼没の妖怪を口寄せ出来るとされ…。怪談を百話口述した人間は一生涯呪詛されるとの内容である。 「百話の怪談百鬼伝説で荒唐無稽の物の怪を出現させられるらしいぞ…」 「荒唐無稽の物の怪ね…」 『怪談百鬼伝説なんかで本物の物の怪を口寄せ出来るって?正直胡散臭いな…』 小柄の旅人は怪談百鬼伝説の内心胡散臭いと感じる。 「本当なのか?怪談百鬼伝説だけで荒唐無稽の妖怪を出現させられるのか?」 小柄の旅人は呆れ果てた表情で問い掛ける。 「単なる噂話だぞ…本当に怪談百鬼伝説なんかで本物の妖怪を口寄せ出来るか如何なのかなんて不明瞭だが…」 すると小柄の旅人は再度興味深くなったのか満面の笑顔で…。 「此奴は面白そうだな♪暇潰しに実行するか?怪談百鬼伝説とやら♪」 「えっ!?本気かよ!?」 大柄の旅人は戦慄したのである。 「折角の機会だし…面白そうだぜ♪」 一方の小柄の旅人は笑顔で発言する。 「妖怪が存在するのか如何なのか…今回の秘術で明確化出来るぞ!如何するよ?」 「仕方ないな…」 大柄の旅人は内心不本意であるが…。 『妖怪が本当に存在するなら…一度は遭遇したいな…』 内心神出鬼没の妖怪が俗界に存在するのか気になったのである。 「一先ずは俺から先行する…一話ずつ口述するぞ…」 「嗚呼…」 小柄の旅人は怪談を口述し始める。 「大昔の出来事だが…」 彼等は一話ずつ架空の怪談を面白おかしく口述したのである。荒唐無稽の怪談を開始してより三時間後…。百話の怪談百鬼伝説は終了したのである。 「荒唐無稽の妖怪が…出現するかな?」 大柄の旅人は恐る恐る問い掛ける。 「如何だろうか?」 周囲は非常に物静かであり風音が響き渡る。 「出現するなら…出現しやがれ!物の怪!」 小柄の旅人は大声で威嚇する。二人の旅人は周囲を警戒したのである。数分間が経過するのだが…。 「別に何も…出現しないな…」 大柄の旅人は警戒した様子で発言したのである。 「やっぱり妖怪なんて出鱈目だったな♪今回の秘術で荒唐無稽の妖怪は存在しないって証明されたぞ♪」 今度は小柄の旅人が笑顔で発言する。 「結局…出鱈目だったみたいだな…」 「当然だろう♪荒唐無稽の妖怪なんか存在するかよ♪」 二人は荒唐無稽の妖怪が架空の存在であると認識出来…。安堵したのである。 「今度こそ休眠するか…先程から怪談三昧で疲れちまったぜ…」 「俺も疲れちまったよ…一休みして…」 彼等は休眠する直前…。極度の寒気からか身震いし始める。 「寒気だろうか?」 すると周囲より無数の気配を感じる。 「気配…人気なのか?」 「一体何が…如何して気配が…」 彼等は極度の違和感により気味悪くなる。恐る恐る背後を直視するのだが…。 「何も存在しないな…妖怪が出現するのか?」 大柄の旅人は周囲を警戒したのである。 「多分疲労の所為だろうよ…やっぱり妖怪なんて俗界には存在しないからな!」 全身が身震いした様子であるものの…。小柄の旅人は俗界に妖怪は存在しないと断言したのである。 「所詮妖怪なんて子供騙しだよ!荒唐無稽過ぎる…気にするな!」 小柄の旅人が断言した直後…。 「ん?えっ…」 頂上の地面より無数の人影が出現する。 「此奴は…現実なのか?」 周辺は暗闇の真夜中により正体こそ不明であるが…。周辺の地中より出現した人影が人外なのは確実である。正体不明の無数の人影は二人の旅人に殺到する。 「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」 「殺されちまう!逃げろ!」 二人の旅人は殺到する正体不明の人影から一目散に逃亡したのである。
第二話
真夜中 南国に聳え立つ荒神山にて正体不明の化身が出現してより数日後…。煌びやかな赤色の着物姿の女性が一人で問題の荒神山を視察する。 『目的地の南国に到着したわね♪』 童顔の女性は真夜中の暗闇の村道を一人だけで直行したのである。彼女は無報酬の不寝番として活動…。彼女の名前は不寝番の【月影桜花姫】である。 『荒神山では…一体何が発生したのかしら?』 月影桜花姫とは表向きのみであれば西国出身の小町娘であるが…。自身を悪霊捕食者と自称する無所属の不寝番である。彼女は強大なる妖術を駆使しては多種多様の超常現象は勿論…。無数の亡者達による数多くの怪異事件を解決させた功労者である。数多くの快挙によって彼女の名前は国全体に知れ渡り…。彼女の名前を知らない人間は実質皆無である。外見のみなら人一倍容姿端麗の童顔美少女であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅は非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である煌びやかな赤色の着物は桜吹雪と多種多様の花柄模様であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。桜花姫は背丈が小柄であるものの…。非常に大人びた様子であり颯爽とした雰囲気である。南国の村里に到達した桜花姫は南国の中心部に聳え立つ荒神山を確認する。 『中心部の大山が噂話の荒神山かしら?』 こんなにも人間的雰囲気の桜花姫であるが…。彼女自身は人間の血族とは無縁の超自然的生命体であり妖女の母親と人間の父親の混血である。両目の瞳孔が半透明の血紅色である理由も純血の妖女である母親の血統が影響する。 『久方振りの夜遊びだからね♪思う存分に大暴れしましょう♪』 専門用語の一種とされる妖女とは摩訶不思議なる超常現象やら多種多様の妖術を多用する人外の女性達の総称化である。人外の彼女達は肉体の天寿にこそ束縛されるものの…。半永久的に不老長寿の肉体を維持出来る。全体的に不老長寿とされる妖女だが…。妖女でも一握りとされる最上級妖女であれば通常の妖女よりも妖力が桁違いに強力であり人一倍長命であると予測される。桜花姫は正真正銘最上級に君臨するとされる一握りの最上級妖女である。 『悪霊征伐なんて十四年前以来ね♪』 桜花姫は久方振りの悪霊征伐に大喜びする。 『神出鬼没の悪霊を発見し次第…悪霊を殲滅しちゃおうかしら♪』 桜花姫は基本的に亡者の化身とされる悪霊相手には徹底的に容赦しないものの…。非力の人間やら小動物には手出ししない不殺生の判官贔屓である。余程の難局に遭遇しなければ非力の人間達には手出ししない。彼女自身性格的には温厚篤実である反面…。一度敵対した敵対者であれば相手が人間の子供であろうと徹底的に容赦せず非常に無慈悲の性格である。 『久方振りの悪霊征伐だし♪今回は妖術を連発しちゃおうかな♪』 桜花姫は肉体的には非常に愚鈍であり人一倍ひ弱である反面…。彼女の妖力は天下無双の百人力とされ其処等の妖女とは桁外れに強大である。 『悪霊が出現したとしても…村人達は大袈裟なのよね…』 桜花姫にとって神出鬼没の悪霊とは恐怖の対象ではなく如何して村人達が神出鬼没の悪霊に恐怖するのか理解出来ない。 『こんなにも他愛無い超常現象なのに村人達は不必要に戦慄しちゃって…』 桜花姫は神出鬼没の不吉なる超常現象に遭遇しても戦慄しないものの…。非常に無鉄砲で無計画であり悪戦苦闘の場面も頻回である。 『私自身はこんな暗闇の山道なんて平気だけど…荒神山って普通の人間であれば誰でも戦慄しそうな雰囲気でしょうね…』 桜花姫は娯楽の感覚で暗闇に覆い包まれた荒神山の天辺へと到達する。周囲は非常に物静かな空気であり僅少の風音が山道に響き渡る程度である。 『荒神山の頂上は意外と物静かな場所みたいね…』 桜花姫は周囲を警戒し始め…。恐る恐る暗闇の山道を移動したのである。 「空気が重苦しいわね…」 『神出鬼没の悪霊が出現するかしら?』 悪霊とは亡者達の怨念が実体化した超自然的存在の一種であり俗界の生者を怨敵として憎悪…。俗界の人間達を敵対視する。戦乱時代以前の古来の伝承でも悪霊が出現した記述は数多く存在するものの…。大勢の人間達が殺し合った戦乱時代以降から悪霊の出現頻度が倍増したのである。悪霊は神出鬼没であり突如として各地の村里に出現…。大勢の村人達を襲撃したのである。基本的に神出鬼没の悪霊は亡者が実体化した超自然的存在とされるが…。片田舎の地方によっては単純に荒唐無稽の妖怪やら物の怪とも表現される。桜花姫が悪霊の出現を警戒した直後…。 「えっ?」 山上の天辺から人気を感じる。 「人気だわ…」 『如何してこんな場所に人気が?』 気になった桜花姫は早急に荒神山の山上へと移動したのである。 「ん?何かしら?」 すると天辺の中心地には小柄の人影らしき物体が確認出来…。 『人影みたいだけど…』 桜花姫は恐る恐る小柄の人影らしき物体に接近し始める。 『如何やら人影の正体は人間っぽいわね…』 小柄の人影らしき物体とは人間だったのである。 『こんな真夜中に誰かしら?』 彼女は非常に警戒した様子で恐る恐る荒神山頂上の中心地に近寄る。 「はぁ…」 『誰かと思いきや…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る問い掛ける。 「あんたは…一体何者なのよ?」 頂上に存在する人影の正体とは小柄の体格の僧侶だったのである。 『僧侶っぽいわね…』 人影の正体が人間の僧侶である事実に桜花姫は一安心する。 「ひょっとしてあんたは…人間の僧侶かしら?」 僧侶は非常に物静かな紳士的雰囲気であり表情は無表情であるものの…。 「大変失礼しましたね…私の名前は僧侶の【八正道】ですよ…」 八正道と名乗る僧侶は紳士的に謝罪したのである。 「あんたは人間の僧侶だったのね…一瞬悪霊と勘違いしちゃったわよ…」 「私を神出鬼没の悪霊と勘違いされたのですね…娘さんが戦慄されたのであれば大変失礼しました…」 「私は別に悪霊なんかで戦慄しないわよ…神出鬼没の悪霊は平気だからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。すると八正道は恐る恐る…。 「大変恐縮なのですが…ひょっとすると娘さんは芸妓さんでしょうか?」 桜花姫は八正道と名乗る僧侶の自身に対する花魁発言に苛立ったのである。 「なっ!?誰が芸妓ですって!?勘違いしないでよね!私は単なる小町娘よ…」 桜花姫に怒号された八正道は即座に謝罪する。 「大変失礼しました…ですが貴女様みたいな容姿端麗の娘さんがこんなにも不吉の荒神山で一体何を?」 「えっ?」 『私が容姿端麗ですって♪』 八正道の容姿端麗の発言に桜花姫は内心大喜びしたのである。 「あんたの名前は八正道様だったかしら♪こんな私が容姿端麗なんて八正道様は非常に大袈裟ね♪」 彼女は八正道の質問に即答する。 「私は神出鬼没の悪霊捕食者の妖女だからね♪今回は荒神山で頻発する超常現象を追跡中だったのよ♪」 「貴女様は崇高なる妖女だったのですか…」 近頃南国に聳え立つ荒神山では不吉なる超常現象が合計十四件も発生したのである。荒神山は不吉の名称であるものの…。荒神山の天辺から眺望出来る南国の村里の景色は非常に絶景である。観光地としては勿論…。大勢の旅人達が荒神山の頂上で野宿するのは定番であり野営目的としても大人気である。今現在では荒神山は平穏の観光地として有名であるが大昔の戦乱時代…。荒神山は五百年前の戦乱時代では各戦場で戦死した戦死者達やら大飢饉によって餓死した領民達の火葬場として利用されたのである。戦乱時代に成仏出来なかった神出鬼没の亡者達の目撃情報が噂話として南国全域に出回る。各地方の武士達やら桃源郷神国全域を実効支配する東国武士団にも荒神山に出没した悪霊征伐の依頼が殺到したのである。数多くの討伐依頼が殺到するのだが東国の武士団は勿論…。各地方の武士団も静観状態であり悪霊関連の問題には実質放置状態だったのである。 「娘さんは荒神山で発生した超常現象を追跡中だったのですね…」 「近頃は国全体で超常現象が頻発し始めたからね♪」 「近頃は大変物騒ですからね…亡者達が各地で徘徊中なのですね…」 一時期では神出鬼没の悪霊事件は沈静化した状態であったが…。近頃では無数の悪霊による怪異事件が各地の村里で多発化し始めたのである。 「僧侶の私に法力が扱えれば…無数の悪霊を浄化出来るのでしょうが…生憎私自身は法力を扱えませんからね…」 八正道は列記とした僧侶であるのだが…。法力を使用出来ない。 「修行不足でしょうね…」 「法力ね…法力を扱えるのは一握りの僧侶だけだし仕方ないわよ…」 悪霊を消滅させられる程度の法力を扱えるのは実質一握りの僧侶とされる。 「であれば調理を開始しますかね…」 八正道は地面の無数の石ころに野外用の土鍋を設置したのである。野外用の土鍋に多種多様の野菜類やら鹿肉は勿論…。貴重品である鯨肉と猪肉で料理する。 「折角ですし…貴女様も如何でしょうか?味見するだけでも…」 八正道は炬火によって土鍋の食材を煮付ける。 「味見ですって♪」 『味噌汁だわ♪美味しそうね…』 煮込まれた土鍋の味噌汁を凝視し続ければ桜花姫も八正道の調理した味噌汁の具材を頬張りたくなる。 「八正道様の夕食かしら?美味しそうな味噌汁だわ♪」 桜花姫は無我夢中に土鍋の味噌汁を凝視し続けたのである。 「炭火の鶏肉も如何でしょうか?麦飯も用意しますよ…」 「えっ!?私にも!?」 桜花姫は一瞬困惑するものの…。 『大変美味そうだからね♪』 桜花姫は食欲が急上昇し始める。 「折角だし…空腹だから私にも食事させてね♪御免あそばせ♪」 食いしん坊の桜花姫は手渡された味噌汁を即座に平らげる。 「娘さんは相当空腹だったのですね…」 八正道は味噌汁を一瞬で平らげた桜花姫を直視し始め…。 『一瞬で味噌汁を平らげるなんて…』 想像以上の光景に苦笑いしたのである。 「非常に美味だったわよ♪最高ね♪八正道様♪こんな場所で御馳走出来るなんて♪」 彼女は満足気に炭火の鶏肉を頬張る。 「娘さん…飲料水は如何でしょうか?水分補給は大事ですからね…」 八正道は恐る恐る瓢箪を桜花姫に手渡したのである。 「瓢箪?ひょっとして梅酒かしら?私は酒類が人一倍大嫌いなのよね…」 桜花姫は酒類が人一倍苦手であり微量であっても酒類を摂取すると気味悪くなる。 「大丈夫ですよ…単なる緑茶ですから一安心しなされ…」 「緑茶なら一安心だわ♪」 すると八正道は恐る恐る問い掛けたのである。 「娘さん?大変失礼なのですが…私は娘さんの名前を知りたくなりました…貴女様の名前は?如何しても無理であるなら娘さんは名乗らずとも構いませんが…」 八正道の問い掛けに桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「私の名前は桜花姫♪不寝番の月影桜花姫よ♪」 「えっ!?不寝番の月影桜花姫様ですと!?」 物静かな様子の八正道であるが…。桜花姫が自身の名前を名乗ると大変驚愕した反応だったのである。 「ひょっとして貴女様が多種多様の超常現象を解決させた伝説の最上級妖女…月影桜花姫様でしたか…」 「勿論よ♪」 『見ず知らずの人間の僧侶にも…私の名前が知られるなんて♪』 桜花姫は内心大喜びする。 『私は有名人ね♪』 一方の八正道は最上級妖女である桜花姫との対面に多少緊張するものの…。 「ですがこんなにも不吉の荒神山で最上級妖女である月影桜花姫様と対面出来るなんて…大変光栄ですな♪ひょっとすると桜花姫様との対面は運命なのかも知れませんね…」 「運命なんて…八正道様は大袈裟ね♪」 すると桜花姫も八正道に問い掛ける。 「八正道様はこんなにも暗闇の荒神山で一体何を?」 八正道は暗闇の夜空を眺望したのである。 「山中での夜食は私にとっての道楽ですかね…」 「道楽ですって?」 「私にとっては自然界での食卓こそが醍醐味なのですよ♪春夏秋冬の季節の変化…常日頃から森林浴の音色…川水の風音は精神的にも肉体的にも非常に沈静化されましょう…こんなにも殺伐とした雰囲気の荒神山でも…邪心が浄化されますよ…」 「邪心が浄化ですって?如何にも聖職者っぽい主義主張だわ…」 『八正道様は典型的に堅苦しい人間みたいね…』 桜花姫は内心八正道の思考を堅苦しく感じる。 「想像力は十人十色多種多様ですからね…」 八正道は無表情で広大無辺の夜空を眺望したのである。 「無数の星月夜が認識出来る森羅万象とは非常に広大無辺ですな…摩訶不思議の森羅万象には圧倒されますよ…」 「えっ?はぁ…」 『八正道様…非常に失礼なのかも知れないけれど…愚鈍の私には何が何やら全然理解出来ないわ…』 八正道の発言に桜花姫は困惑する。 「広大無辺の森羅万象とは非常に興味深い超常現象ですな…私達人類はこんなにも広大無辺の森羅万象を解明出来るのでしょうか?」 「えっ…」 『八正道様は…一体何を発言したいのかしら?』 桜花姫は八正道の発言に困惑し続けるものの…。彼女は無言で首肯したのである。すると八正道から意味深の発言を拝聴する。 「近頃…私の寺院近隣の墓場は勿論ですが…各地の墓場から不吉の気配を察知しましてね…」 無表情だった八正道の表情が一瞬険悪化したのである。 「不吉の気配ですって?一体何かしら?」 「近頃…不運にも大勢の村人達が息絶えたのでしょうね…極度の胸騒ぎを感じるのですよ…」 「大勢の村人達が息絶えた?胸騒ぎですって…」 桜花姫は無表情で反応する。 「死去された亡者達の怨恨なのでしょうか?非常に無念ですね…」 「ひょっとすると悪霊の仕業かも知れないわね…」 すると突如として不穏の空気が荒神山全域を覆い包んだのである。 『先程から悪霊の気配が…荒神山に悪霊が出現したのかしら?』 桜花姫は不吉の霊力を感じる。 「非常に戦慄だわ…亡者達の気配を感じるわ…」 「桜花姫様?悪霊の追跡は如何されるのですか?」 「勿論悪霊の追跡は継続するわよ!神出鬼没の悪霊と遭遇したとしても最上級の妖女である私が問答無用で悪霊を征伐しちゃうからね♪」 「最上級妖女である桜花姫様が悪霊を征伐されるのであれば一安心ですな…」 桜花姫は荒神山の天辺で八正道と対談し続けても無意味であると判断…。 「八正道様…御免あそばせ♪」 桜花姫は笑顔で八正道に謝罪する。 「桜花姫様…如何されましたか?」 「私は常日頃から悪霊征伐で大忙しだからね…即刻今回の超常現象の主原因を特定しないと…」 桜花姫は即座に超常現象を追跡したのである。 「私は是非とも桜花姫様の上首尾を見届けなくては…」 八正道は桜花姫を見届ける。
第三話
死闘 桜花姫の周辺は非常に物静かな自然林であるものの…。 「気味悪くなったわね…」 『真夜中の森林は悪霊の魔窟みたいだわ…』 普段は観光地として有名であるが真夜中の荒神山は闇夜の魔窟同然であり極度の不吉さと殺伐さを感じさせる。 『此処では何が出現しても可笑しくないわね…』 すると自身の背後より無数の気配が自身に急接近するのを察知…。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認する。 『突然胸騒ぎが…何かしら?』 桜花姫は極度の胸騒ぎを感じる。同時に背後からの襲撃に警戒したのである。 『一体何が出現するのかしら?』 背後からの襲撃を恐る恐る警戒するのだが…。 『此処では人間の気配は感じられないわね…』 周辺の自然林は漆黒の暗闇であり自身の背後には何も確認出来ない。 『ひょっとして私の勘違いだったのかしら?』 桜花姫は自身の誤認識かと思いきや…。 「えっ!?」 何やら背後の地面より無数の殺気を感じる。 『何かしら…』 無数の殺気に桜花姫は再度警戒する。 「地面?」 『無数の気配は地面からだわ…一体何が出現するのかしら?』 背後の地面より小柄の人影が無数に出現したのである。 『此奴は…神出鬼没の悪霊!?』 無数の人影は真夜中の暗闇によって姿形の認識が非常に困難であるものの…。正体不明の人影は極度の腐敗と悪臭により神出鬼没の悪霊であると再認識したのである。人影は全身が血塗れの状態であり皮膚の腐敗が原因なのか両目からは眼球が噴出する。彼等の下腹からは体内の臓物が噴出した醜悪なる姿形…。全体的に皮膚と人骨のみの肉体であり非常にどす黒い醜悪なる風貌である。 『彼等は死滅した亡者達の末路だわ…』 体格的には成人の女性よりも一回り小柄であり初生児の体格であるものの…。姿形による老若男女の区別は出来ない。 『死臭かしら?』 彼等の体表からは死臭らしき悪臭が周囲の空間全体より充満する。彼等の身動きは非常に鈍足であり発語も支離滅裂である。 「悪臭から判断して…」 『彼等は悪霊の【悪食餓鬼】かしら…』 悪食餓鬼とは大昔の戦乱時代…。再起不能の疫病やら飢饉による無念の衰弱死から悪霊へと変貌した醜悪なる亡者達の総称化である。埋葬されなかった悪影響により未来永劫成仏出来ないらしく今現在も俗界の各地にて半永久的に徘徊し続ける。彼等の性質上非常に強欲であり極度の空腹感からか生者と遭遇すると即刻敵対視…。悪食餓鬼は新鮮なる人間の生身の血肉を無我夢中に捕食する。新鮮なる人間の生身の血肉こそ悪食餓鬼にとっての嗜好品であり捕食こそが彼等の共通性である。南国の地方では別称として疫病神やら飢餓の亡霊とも呼称される。 『久方振りだわ♪』 悪食餓鬼の大群は身動きが非常に緩慢であるものの…。彼等は人海戦術により無抵抗の桜花姫へと殺到する。 『悪食餓鬼の大群なんて…即刻面白くなったわね♪』 普通の人間であれば極度に戦慄する状況下であるものの…。 『私に大勢で真剣勝負なんて軽佻浮薄だわ♪』 対する桜花姫は無数の悪霊との遭遇を娯楽的に感じられる。 『悪霊は悪霊でも♪雑魚の悪食餓鬼が相手なら片手間の妖力で仕留められるわ♪』 桜花姫は咄嗟に妖術を発動…。 『神性妖術…』 血紅色であった両目の瞳孔が半透明化した瑠璃色の碧眼へと変化したのである。 『〔天道天眼〕…発動!』 天道天眼とは自然界を翻弄出来る屈指の神性妖術であり多種多様の超常現象を無制限に発動出来るとされる。天道天眼を発動すると妖力が一時的に通常の状態よりも数百倍から数千倍へと急上昇させられる。天道天眼を開眼した妖女は念力の妖術やら摩訶不思議の超常現象は勿論…。応用出来れば現存する多種多様の超自然を自由自在に発揮出来る。天道天眼から発動される妖術は非常に怪力乱神であり噂話では広大無辺の森羅万象をも翻弄させる超自然的超常現象を実現化させられるとも…。存命中の妖女でさえも天道天眼の秘密は不明瞭であり誰一人として明確化出来なかったのである。特定の地方では別名として万能の眼光やら神族の眼光とも呼称される。月影桜花姫が一握りの最上級妖女として認識されるのも神性妖術の天道天眼の影響である。 『私も人気者だわ♪』 彼等が桜花姫の近辺へと到達する寸前…。天道天眼の発動によって殺到する悪食餓鬼の皮膚が超高温の熱量を発生させる火炎の妖術により焼殺されたのである。 『醜悪なる亡者達…あんた達は成仏しなさい♪』 悪食餓鬼の肉体は高熱の発火現象によって一瞬で黒焦げに焼殺される。 『悪霊でも所詮は悪食餓鬼…楽勝だったわ♪』 桜花姫の佇立する地面周辺には黒焦げに焼殺された無数の悪食餓鬼の焼死体が地面を埋没させたのである。 『他愛無いわね♪神出鬼没の悪霊でも微弱の悪食餓鬼程度が相手なら…火炎の妖術だけでも容易に仕留められちゃうわね♪』 すると彼女の背後から無数の霊力が感じられる。 「えっ?」 『今度は何かしら?』 背後の地面より無数の悪食餓鬼が出現したのである。 『今度も悪食餓鬼の大群みたいだわ…』 背後から無数の悪食餓鬼が桜花姫に殺到する。 「あんた達は鬱陶しい奴等ね…」 無数の悪食餓鬼に桜花姫は一瞬苛立った様子であるが…。 「あんた達は命知らずだわ♪氷結しなさい♪」 桜花姫の妖力によって彼等の肉体が一瞬で凍結化したのである。氷結の妖術により無数の悪食餓鬼は身動き出来なくなる。 「あんた達も成仏するのね♪」 全身が凍結してより数秒後…。 『念力の妖術…発動!』 桜花姫は念力の妖術によって凍結化した悪食餓鬼の肉体を完膚なきまでに粉砕させる。凍結化した彼等の肉体は一瞬で崩れ落ちたのである。 「えっ?」 今度は悪食餓鬼とは別物の霊力を感じる。 『今度は何が出現するのかしら?悪食餓鬼とは別物みたいだけど…』 すると眼前の地面より戦乱時代の甲冑を装備した巨体の人骨が出現する。 『此奴は鎧兜の人骨だわ…随分巨体ね…』 甲冑の人骨は非常に巨体であり背丈は大柄の成人男性を一回り上回る。 『此奴はひょっとして…戦死者達の悪霊【骸骨荒武者】かしら?』 骸骨荒武者とは戦乱時代にて度重なる戦闘で息絶えた戦死者達の無念の集合体とされる悪霊である。特定の地方では骸骨荒武者は髑髏武将とも呼称される。悪食餓鬼と同様に骸骨荒武者も俗界の生者を敵対視する。 『こんな場所に埋葬されなかった戦死者達の亡霊が出現するなんてね…』 骸骨荒武者は右手の刀剣で桜花姫に斬撃するものの…。骸骨荒武者の身動きは非常に鈍足であり人一倍身体能力が愚鈍の桜花姫でも容易に回避出来る。 『危機一髪だったわ…』 桜花姫は骸骨荒武者から恐る恐る後退りしたのである。 「戦乱時代の戦死者達…成仏するのね…」 桜花姫は骸骨荒武者に砂金の妖術を発動する。 「あんたは砂金に変化しなさい!」 砂金の妖術を発動した影響により骸骨荒武者の肉体を砂金に変化させたのである。全身が砂金に変化した骸骨荒武者の肉体は一瞬で崩れ落ちる。 『初戦骸骨荒武者も他愛無いわね♪』 骸骨荒武者を仕留めた桜花姫は一安心するのだが…。 「えっ?」 暗闇の背後より複数の霊力が自身に近寄るのを感じる。 『今度も霊力かしら?』 警戒した桜花姫は恐る恐る背後を確認する。すると彼女の背後には三体もの骸骨荒武者が出現したのである。 『骸骨荒武者だわ…今度は三体も出現するなんてね…』 桜花姫にとって悪霊を仕留めるのは余裕であるものの…。 「はぁ…」 先程から出現し続ける悪霊が鬱陶しく感じる。 『鬱陶しい奴等ね…』 桜花姫は体内の妖力を収縮…。両手に高熱の火球を形成したのである。 「あんた達も…成仏しなさい♪」 形成した高熱の火球を発射…。一体の骸骨荒武者を粉砕する。 『今度は骸骨荒武者を二体とも仕留めましょう♪』 桜花姫は二体の骸骨荒武者を仕留める直前である。 「えっ?」 背後から何者かによって火縄銃で銃撃され…。背中を狙撃されたのである。 「ぐっ!」 火縄銃で狙撃された桜花姫は地面に横たわる。 『背後から狙撃されるなんて…迂闊だったわ…』 背後からの銃撃によって背中の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。 『一体誰が…狙撃したのよ…』 暗闇の自然林より火縄銃を武装した一体の骸骨荒武者が出現する。暗闇の自然林より桜花姫の背後から彼女の背中を狙撃したのである。骸骨荒武者は鈍足の身動きで地面に横たわった状態の桜花姫に近寄る。 『彼等は…私を如何するのかしら?』 二体の骸骨荒武者も地面に横たわった状態の桜花姫に接近すると護身用の刀剣を抜刀し始める。 『骸骨荒武者に殺されちゃうわね…兎にも角にも一か八かよ…』 彼等に攻撃される寸前に桜花姫は分身の妖術を発動…。血塗れの肉体から白煙が発生したと同時に桜花姫は一瞬で消滅する。突然消滅した桜花姫に彼等は動揺し始め…。三体の骸骨荒武者は周囲を警戒したのである。 「残念だったわね♪あんた達が攻撃したのは私の分身体なのよ♪」 暗闇の自然林から桜花姫の本体が出現し始め…。 「あんた達!成仏なさい!」 桜花姫は両手より高熱の雷撃の妖術を発動したのである。雷撃の妖術によって三体の骸骨荒武者を撃破出来…。彼等を完膚なきまでに仕留めたのである。 『骸骨荒武者は退治出来たわね♪』 すると荒神山の無数の悪霊を全滅させた影響からか突如として荒神山から感じられた重苦しい霊力が感じられなくなる。 『霊力が感じられなくなったわ…』 桜花姫は周囲を警戒するも悪霊が出現する気配は感じられない。 「如何やら荒神山に蔓延る骸骨荒武者と悪食餓鬼の大群は全滅したみたいね…」 『荒神山の超常現象は無事解決だわ♪』 一安心した桜花姫は恐る恐る荒神山から脱出したのである。
第四話
山道 桜花姫は暗闇の山道を移動中…。 「えっ?」 とある山中の獣道にて小柄の老婆と小柄の美少女に遭遇する。 『こんな真夜中の夜道に何者かしら?』 彼女達は非常に小柄の体格である。 「あんた達は薬屋の【蛇体如夜叉】婆ちゃんと山猫妖女の【小猫姫】かしら!?」 「えっ!?ひょっとして桜花姫姉ちゃんなの!?」 小猫姫は純血の山猫の妖女であり外見的には人間の美少女とも間違えられる。彼女は蛇体如夜叉の孫娘であり桜花姫にとっては妹分である。 「蛇体如夜叉婆ちゃん♪桜花姫姉ちゃんだよ♪」 小猫姫は桜花姫との遭遇に大喜びする。 「こんな真夜中の夜道に誰と遭遇したかと思いきや…あんたは最上級妖女の月影桜花姫ちゃんだね?」 蛇体如夜叉は真夜中の山道を一人で出歩く桜花姫に一瞬呆れ果てるも…。 「久方振りだね…桜花姫ちゃん♪あんたが元気そうで安心したよ♪」 蛇体如夜叉は彼女との再会に大喜びする。 「あんた達こそ♪」 一方の桜花姫も久方振りの蛇体如夜叉と小猫姫との再会に大喜びだったのである。 「こんなにも暗闇の荒神山で最上級妖女の桜花姫ちゃんと出くわしちゃうなんて奇遇だね…」 蛇体如夜叉は神族と命名される人外種族の一人であり異名は蛇神とも呼称される。蛇体如夜叉は外見のみなら小柄の人間の老婆であり村里の村人達からは小柄の人間の老婆とも間違えられる。神族とは太古の大昔より世界各地に君臨したとされる超自然的存在の一種であり俗界では人外の少数種族である。神族は多種多様の姿形に変化が可能であり蛇体如夜叉は基本的に人前では小柄の老婆の姿形で活動する。太古の古代世界では大勢の神族が世界各地で活動中であったが…。今現在では絶滅状態であり蛇神の蛇体如夜叉を除外する神族は皆無である。唯一純血の神族として断定出来るのは桃源郷神国出身者である蛇体如夜叉…。純血の神族は実質彼女のみである。蛇体如夜叉の同行者である小猫姫は蛇体如夜叉にとって孫娘であり唯一の家族であるものの…。小猫姫自身は正真正銘の純血の妖女であり神族とは無縁の孤児である。 「あんた達はこんなにも暗闇で物騒なのに大丈夫なのかしら?」 「私は大丈夫だよ♪真夜中の夜道は面白いもん♪」 小猫姫は真夜中でも平気なのか満面の笑顔で断言する。 「桜花姫ちゃん…あんたみたいな人一倍容姿端麗の小娘が真夜中の夜道を単独で出歩くなんて…人間の小娘なら悪霊に食い殺されるだろうね…」 「こんな私が容姿端麗なんて♪蛇体如夜叉婆ちゃんは大袈裟よね♪」 『私が容姿端麗ですって♪』 桜花姫は蛇体如夜叉に大袈裟と表現するも内心では大喜びしたのである。 「私は毎日が任務で大忙しだからね…真夜中の夜道なんて平気よ♪」 「桜花姫姉ちゃんの任務って?」 小猫姫は不思議そうな表情で桜花姫に問い掛ける。 「私の任務はね…とある客人との夜遊びなのよ♪」 桜花姫は満面の笑顔でとある客人との夜遊びと返答したのである。 「夜遊びって面白いのかな?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 小猫姫は不思議そうな表情で蛇体如夜叉に問い掛けるのだが…。 『夜遊びって…桜花姫ちゃんは…純粋無垢の小猫姫には悪影響だね…』 蛇体如夜叉は桜花姫の発言に呆れ果てる。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「小猫姫…」 真剣そうな表情で問い掛ける小猫姫に困惑したのである。夜遊びと発言する桜花姫に蛇体如夜叉は呆れ果てた表情で苦笑いする。 「桜花姫ちゃんは今回も悪霊征伐かね?こんなにも不吉の真夜中にあんたも勇猛果敢だね…」 「別に…私自身悪霊征伐は面白いから大丈夫なのよ♪内心私にとって悪霊征伐なんて常日頃の道楽だからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。 「あんたが悪霊征伐の悪影響で過労死しちゃったら大変だからね…私の傷薬でも必要不可欠かな?」 「残念だったわね♪私には凡庸の傷薬なんて不必要なのよ…何よりも私にとっての傷薬は私自身の妖力だからね♪私の妖力は万万能の傷薬なのよ♪」 桜花姫は自身の妖力の強大さを自慢する。 「蛇体如夜叉婆ちゃんこそ常日頃の薬品の研究なんかで過労死しないでよ♪」 「あんたが心配せずとも私は過労死しないよ…最上級妖女の桜花姫ちゃんには私の傷薬は不必要みたいだね…」 『桜花姫ちゃんには私の傷薬が不必要だったか…』 蛇体如夜叉は内心残念がる。 「達者でね♪桜花姫姉ちゃん♪」 「あんた達こそ達者でね♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪小猫姫♪」 すると蛇体如夜叉と小猫姫は暗闇の荒神山より退去する。 『私も即刻…西国の村里に戻ろうかしら…』 桜花姫は祖国である西国の家屋敷へと無事に戻ったのである。
第五話
天神山 西国の領内には天神山と命名される裏山が存在する。荒神山での亡者達との戦闘から三日後の真夜中の時間帯である。 「えっ…」 不寝番の桜花姫は自宅の居室で寝転ぶのだが…。不吉の霊力に反応する。 『複数の霊力だわ…一体何かしら?』 西国の故山である天神山から複数の霊力を感じる。 『場所は…近隣の天神山みたいね…』 天神山とは太古の大昔に天空の女神が降臨したとされる伝説から天神山と命名されたのである。十数年前は天神山に七軒もの集落家屋が建築され村人達が住居したものの…。今現在では無人の廃屋のみが残存した状態であり居住者達の行方は不明とされる。行方不明者達の捜索は継続中であるが…。今現在でも居住者達の消息は確認出来ない現状である。居住者達は神出鬼没の悪霊によって食い殺されたのではと噂話が西国全域に出回る。真相が気になった桜花姫は即座に問題の天神山へと直行する。桜花姫の自宅から天神山への距離は三町程度であり比較的近辺だったのである。 『如何やら天神山に悪霊が出現したみたいね…』 自宅から移動してより十数分後…。桜花姫は天神山の近辺に到達したのである。 『胸騒ぎだわ…』 天神山に接近すると極度の胸騒ぎを感じる。 「気味悪いわね…」 『天神山では一体何が出現したのかしら?』 極度の胸騒ぎに桜花姫は警戒するものの…。彼女は恐る恐る天神山の天辺へと移動したのである。暗闇の山道を移動中…。 『こんな場所に六地蔵かしら?』 山道の道端には罅割れた六地蔵が確認出来る。 『気味悪いわね…悪霊が出現しそうな雰囲気だわ…』 すると周辺の天然林より蛍光色の無数の鬼火が飛来し始める。 『無数の鬼火だわ…』 無数の鬼火は天神山の天辺に移動したのである。 『天神山の天辺に無数の鬼火…気になるわね…』 数分間が経過すると桜花姫は天神山の天辺に到達したのである。天辺には荒廃した廃墟神社と劣化状態の鳥居が確認出来る。 『廃墟の神社かしら…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る劣化状態の鳥居を潜り抜ける。 『廃墟神社から不吉の霊力を感じるわね…』 鳥居を潜り抜けたと同時に不吉の霊力を感じる。 『此処では一体何が出現するかしら?』 桜花姫は恐る恐る周辺の様子を警戒するのだが…。彼女の周囲は蛍光色の鬼火ばかりで悪霊らしき物体は何一つとして確認出来ない。 『霊力は感じられるけれど…悪霊の正体は一体何かしら?』 直後…。 「えっ?」 『何かしら?』 背後より極度の悪寒戦慄が桜花姫の全身を膠着させる。 『何が出現したのかしら?』 桜花姫は恐る恐る背後を警戒…。背後の存在を凝視する。 「霊力の正体は…あんただったのね…」 桜花姫の背後に出現したのは空中を浮遊する女性の頭部らしき巨体の生首…。本体である頭部の全長は推定五尺程度であり非常に巨体である。 「あんたは悪霊の【亡霊生首】だったかしら…」 『此奴は相当気味悪いわね…』 亡霊生首とは全身の肉体が巨大頭首のみの異形の悪霊であり戦乱時代の最中大勢の匪賊達に暴行され…。最終的に斬首された女性と子供達の無念の集合体とされる存在である。亡霊生首は色白の女性の生首であるが…。頭部である本体は規格外に巨大であり不吉の大目玉が桜花姫を直視すると不吉の笑顔で微笑み始める。 『亡霊生首と遭遇したのは十五年前以来だったかしら?』 別の個体であるが桜花姫は十五年前にも亡霊生首と遭遇したのである。 「えっ…」 すると今度は赤子らしき産声が天神山の頂上全域に響き渡る。 『今度は子供の産声かしら?』 暗闇の天然林より浮遊する赤子らしき巨体の頭首が三体も出現したのである。 『今度は子供の亡霊生首かしら?』 桜花姫は合計四体もの亡霊生首に包囲される。 『天神山の集落で村人達が行方不明なのは亡霊生首の仕業っぽいわね…』 天神山の行方不明事件は亡霊生首の仕業であると予想する。すると四体の亡霊生首は口先を開口し始め…。 「えっ!?」 桜花姫は亡霊生首の行動に警戒する。 『亡霊生首は一体何を?』 亡霊生首は周辺の鬼火を洗い浚い吸収したのである。 『亡霊生首…周囲の鬼火を吸収したわ…』 四体の亡霊生首が周辺の鬼火を吸収した結果…。先程よりも亡霊生首の霊力が強大化したのである。 『周辺の鬼火を吸収した影響かしら?先程よりも亡霊生首の霊力が増幅されたみたいね…非常に厄介そうだわ…』 桜花姫は両目を瞑目すると体内の妖力が増大化し始め…。 『天道天眼…発動!』 神性妖術の天道天眼を発動させたのである。天道天眼の効力により桜花姫の妖力が数十倍へと急上昇したのである。 『私は天道天眼さえ発動しちゃえば数多の妖術を使用出来るのよね♪』 天道天眼は伝説の神性妖術であり天道天眼を開眼した妖女は数多の妖術を発動出来…。あらゆる超自然的超常現象を発現させられる。天道天眼の発動により桜花姫の妖力は通常よりも数十倍へと増大化したのである。 「あんた達は鬱陶しいから成仏しなさい♪」 桜花姫は火炎の妖術を発動…。両手から超高温の火球を発射したのである。発射された火球は真正面に対峙する女性の亡霊生首に直撃…。女性の亡霊生首は即座に爆散したのである。周辺の地面には無数の血肉が飛散する。 『楽勝だわ♪他愛無いわね…』 親玉である女性の亡霊生首を仕留めたかと思いきや…。 「えっ?」 飛散した亡霊生首の血肉からは猛毒の黒煙が発生する。 「なっ!?」 『ひょっとして瘴気かしら?』 亡霊生首の血肉から発生した猛毒の瘴気は非常に強力であり周辺の地面を溶解させたのである。 『亡霊生首は仕留められた直後に霊能力を発動するのね…』 桜花姫は妖女と人間の混血であり多少の瘴気であれば平気であるものの…。肉体的には通常の人間と同様に脆弱である。 『私でも多少の瘴気なら大丈夫だけれど…』 桜花姫は妖力こそ随一であるが…。肉体の屈強さのみなら純血の妖女を下回る。 『私自身は勿論…西国全体が亡霊生首の瘴気で汚染されちゃうわね…』 地面の草木が猛毒の瘴気で枯死し始める。 「ぐっ!」 一方の桜花姫も猛毒の瘴気により息苦しくなる。 『瘴気かしら?息苦しいわね…』 最早瘴気によって毒死するのは時間の問題である。 『止むを得ないわね…猛毒の瘴気に対抗するなら…』 桜花姫は一か八か浄化の妖術を発動する。 『浄化の妖術…発動!』 自身の妖力で浄化の涼風を生成…。亡霊生首の血肉から発生した猛毒の瘴気を浄化の涼風で浄化させたのである。同時に浄化の涼風に影響された三体の赤子の亡霊生首が笑顔で消滅…。彼等は浄化の涼風によって成仏したのである。 『赤子の亡霊生首は成仏したみたいね♪一件落着だわ♪』 赤子の亡霊生首は成仏出来…。桜花姫は一安心する。すると先程火炎の妖術で粉砕された女性の亡霊生首は土壌へと戻ったのである。猛毒の瘴気で汚染された地面の草木が元通りに生成される。 『瘴気で汚染された自然も元通りに戻ったわね♪』 天神山全域を覆い包んだ不吉の霊力も亡霊生首を浄化させた影響で消滅する。 『天神山の悪霊を征伐出来たし…』 「私は家屋敷に戻って熟睡しましょう♪」 無事に天神山の事件を解決させた桜花姫は自宅へと戻ったのである。
第六話
和菓子屋 荒神山での重苦しい闇夜から一週間後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。東国とは国内最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桃源郷神国でも比較的老熟した城下町であり全国一の歓楽街としても知られる。総人口も桃源郷神国では国内最多である。 『非常に美味だわ♪』 桜花姫は和菓子屋にて大好きな餡蜜と桜餅を頬張る。 『やっぱり和菓子は最高ね♪』 彼女は無我夢中に和菓子を頬張り続けるものの…。 「えっ?」 『誰かしら?僧侶っぽいわね…』 桜花姫の隣席には錫杖を所持した僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。 『彼には見覚えが…』 桜花姫は恐る恐る隣席の僧侶を凝視し続ける。 『誰だったっけ?ひょっとすると僧侶は…』 僧侶らしき人物とは一週間前の闇夜の荒神山にて対面した僧侶の八正道だったのである。奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店…。彼と再会したのである。 「ひょっとしてあんたは…僧侶の…」 桜花姫は恐る恐る僧侶らしき人物に…。 「八正道様だったかしら?」 「ん?」 一方の八正道も桜花姫の存在に気付いたのである。 「誰かと思いきや…貴女様は最上級妖女の月影桜花姫様でしたか!?南国の荒神山からは無事に戻られたのですね♪」 「勿論よ♪山中の悪霊も退治出来たわよ♪」 「悪霊を退治されたので荒神山は一安心ですね♪」 八正道は荒神山の悪霊が退治され…。大喜びしたのである。 「本当に八正道様だったのね♪こんな場所で八正道様と再会出来るなんてね♪」 「本当ですね♪桜花姫様♪ですがこんな茶店で桜花姫様と再会出来るなんて非常に奇遇ですな♪」 八正道は桜花姫との再会に大喜びする。 「如何して八正道様が和菓子屋なんかに?」 「茶店で満喫するのは私にとって道楽ですからね♪」 八正道は満面の笑顔で即答したのである。 「奇遇だわ…勿論私もね♪」 桜花姫は無我夢中に机上の和菓子を頬張り続ける。 「ひょっとして桜花姫様は和菓子が大好きなのですか?」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「勿論よ♪私以外に和菓子を愛好する人間は存在しないでしょうけど…ひょっとすると八正道様も和菓子は好物かしら?」 八正道も笑顔で返答したのである。 「勿論私も和菓子は大好きですよ♪私にとっても和菓子屋は醍醐味ですからね♪」 すると八正道は突発的に顔色を変化させ恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫様?」 「何かしら?八正道様?」 八正道は一瞬沈黙すると恐る恐る…。 「桜花姫様は悪霊捕食者として粉骨砕身されたと各村落の村人達から拝聴したのですがね…」 「えっ…何よ?」 「近頃の噂話なのですがね…」 八正道は小声で発言し始める。 「噂話ですって?一体何かしら?」 桜花姫は即座に八正道からの噂話を拝聴する。 「近頃の出来事ですが…北国の各村落では何者かによる赤子の神隠しが頻発したらしいのですよ…」 近頃北国の村里では幼子の行方不明事件が頻発したのである。近辺の村人達は必死に行方不明の子供達を捜索するのだが…。行方不明の子供達は誰一人として発見出来なかったのである。近隣の武士団も捜索に協力するのだが…。依然として行方不明の子供達は誰一人として発見出来なかったのである。神出鬼没の悪霊による神隠しか匪賊達による人攫いであるとの根も葉もない噂話が各地の村里に出回り始める。 「赤子の神隠しですって?」 桜花姫は事件の内容に興味深くなる。 「神隠しなんて…非常に興味深いわね♪一体何が原因なのかしら?」 「村人達の噂話では一昨日の出来事ですかね?神隠しが匪賊達による悪逆無道なのか…神出鬼没の悪霊の仕業なのかは不明瞭とされますが…」 「一昨日の出来事ね…」 『非常に面白そうだわ♪私の出番が到来したかしら♪』 桜花姫は突発的に闘争心が充溢したのである。 「八正道様!如何やら今回の大事件は私の出番みたいね♪」 「ひょっとして桜花姫様…」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「勿論悪霊なら徹底的に征伐するわよ!人攫いの悪霊は即刻仕留めないとね♪」 「ですが桜花姫様…」 八正道は心配そうな表情で…。 「何よ?八正道様?」 「現段階では今回の神隠しの主原因が悪霊の仕業なのか如何なのかは不明瞭ですよ…極悪非道の匪賊達による人攫いかも知れませんし…神隠しが悪霊の仕業であるとは断言出来ません…」 八正道は極度の心配性なのか非常に不安視したのである。 「村人達の噂話では桜花姫様は敵対者が極悪非道だったとしても人間には手出しされないみたいですが…今回の敵対者が極悪非道の匪賊達であれば如何されるのですか?」 桜花姫は極度に不安視する八正道に即答する。 「無論♪人一倍温厚篤実の私でも…極悪非道の匪賊達であれば即刻仕留めちゃうからね♪相手が非力の人間だからって私は手加減しないから大丈夫よ♪八正道様は心配性ね♪」 普段は温厚篤実の桜花姫であるものの…。非力の人間であっても残虐非道の匪賊達には滅法無慈悲である。反面自身に手出ししないか無抵抗であれば相手が極悪非道の匪賊でも手出ししない。 「であれば一安心ですね!桜花姫様は極楽浄土の女神様を連想する人物ですからね♪相手が人間の匪賊達であれば困惑されるのではと私自身心配しちゃいましたよ♪正直余計でしたね…」 「私が極楽浄土の女神様ですって♪こんな私が極楽浄土の女神様なんて八正道様も大袈裟ね♪」 極楽浄土の女神様と同一視された桜花姫は内心では大喜びする。 「私に手出し出来る人間がこんな島国の桃源郷神国に実在するのかしら♪最上級妖女の私に手出し出来るのであれば是非とも対面したいわね♪」 莫大なる妖力を保有する最上級妖女の桜花姫にとって多人数による人海戦術は無意味である。桜花姫が単独であったとしても戦力的には全国各地の武士団全勢力に匹敵するのではと各村落の領主達が独自で推測…。各地の村人達には間違っても最上級妖女の月影桜花姫だけには絶対に手出しするなとこっ酷く忠告したのである。 「ですが今回の神隠しの敵対者が極悪非道の匪賊だとしても油断大敵ですよ!桜花姫様の多用される妖術は天下無双かも知れませんが…油断すれば絶体絶命へと直結するでしょう…」 『八正道様は極度の心配性だわ…』 彼女自身内心では口喧しいと感じるものの…。八正道に感謝する。 「助言感謝するわね…八正道様…」 桜花姫は即座に北国へと出掛けたのである。 「桜花姫様…」 『彼女は電光石火みたいですね…』 八正道は城下町から疾走する桜花姫を見届ける。
第七話
墓場 東国の城下町から移動を開始してより一時間後…。桜花姫は東国と北国の国境に位置するとある片田舎へと到達する。 『此処が北国との国境みたいね…』 北国の村里は非常に殺風景であり過疎化した麦畑ばかりである。 『北国って随分と殺風景の田舎町なのね…』 不可解にも国境の村里には村人が誰一人として確認出来ない。 『無人地帯だわ…』 桜花姫は適当に麦畑を眺望し続ける。 「えっ?」 すると赤子を抱き抱えた白装束の長髪の女性が村里にて佇立したのである。 『村里の親子かしら?』 赤子を抱き抱えた女性を発見した桜花姫は恐る恐る女性へと近寄る。 『母親は大怪我したみたいね…』 母親の白装束は彼方此方が血塗れであり皮膚の表面には無数の外傷が確認出来る。 『彼女に一体何が?』 桜花姫は一瞬戦慄するものの…。 「一寸あんた…大丈夫かしら?大怪我したの?」 桜花姫は恐る恐る女性の安否を確認する。母親は無表情であったものの…。恐る恐る近寄る桜花姫を凝視し続けると無言の様子で睥睨したのである。 『腹立たしいわね…此奴…何様かしら?』 見ず知らずの母親に睥睨された桜花姫は内心母親の態度に腹立たしくなる。 「あんた…何よ?」 桜花姫も母親に睥睨し返したのである。すると数秒後…。 「えっ!?一寸!?」 母親は無言の様子で一目散に逃走し始めたのである。 『如何して母親は私から逃走しちゃったのかしら?』 桜花姫は即座に逃走中の母親を追跡する。 『彼女って…俗界の人間だったのかしら?』 母親の様子は異質的であり彼女の正体が人間の女性なのか非常に気になる。 『彼女の正体…気になるわね…』 一方正体不明の母親は墓場へと潜入したのである。 『此処は墓場だわ…』 桜花姫は只管に正体不明の母親を追尾し続ける。 『母親は?』 彼女も恐る恐る墓場へと潜入したのである。 「先程の母親は一体何者だったのかしら?」 『彼女からは霊力らしい霊力は感じられなかったけれども…』 桜花姫は赤子を抱き抱えた母親らしき人物が俗界に存命する人間なのか如何なのかを疑問視し始める。 「母親の雰囲気と姿形から判断して…」 『ひょっとすると彼女の正体って俗界とは無縁の化身なのかも知れないわね…母親は黄泉の世界の亡霊なのかしら?』 桜花姫は母親の正体が黄泉の世界の亡霊であると推測する。正体不明の母親を追尾してより数分後…。先程の母親らしき女性と再度遭遇したのである。桜花姫は即刻彼女に近寄ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 桜花姫は異様の光景に驚愕する。 「あんたは如何して全裸なのよ!?」 母親は白装束を脱衣した状態であり裸体の状態だったのである。 『恥知らずだわ…彼女は正気なの?』 彼女は赤子を抱き抱えた状態から母乳と赤子の前頭部を密着させる。 「一寸あんた!?赤子に何するのよ!?」 目前の光景は処女の桜花姫にとって非常に不愉快であり一瞬膠着化する。桜花姫は恐る恐る墓石から母親の様子を観察したのである。 『母親は一体何を!?』 すると赤子の肉体が液体化したのである。 「えっ…」 『赤子が…』 全身が液状化した赤子は全身の肉体諸共母親の体内へと一瞬で捕食され…。母親の体内に吸収されたのである。 「ひっ!」 『赤子の肉体を吸収するなんて…』 予想外の出来事により桜花姫は愕然とする。 『人間の血肉を吸収出来る特質…』 桜花姫は母親の正体を確信したのである。 『母親の正体は…』 対する母親は桜花姫を凝視したかと思いきや…。不吉の表情で桜花姫を冷笑し始める。桜花姫は恐る恐る…。 『ひょっとして神隠しの真犯人は悪霊の【亡霊女房】だったのね…』 亡霊女房とは人間の赤子を捕食する母親の悪霊であり姿形のみなら人間の女性である。亡霊女房の正体は戦乱時代に頻発した戦乱やら疫病によって赤子が死去した母親達の無念の集合体とされ…。人間の赤子を自身の体内へと吸収する性行為も赤子に対する極度の執着心と愛情表現である。別名としては産女やら鬼子母神とも呼称される。 「亡霊女房!」 桜花姫は咄嗟に亡霊女房の近辺へと接近する。 「私が母親達の霊魂であるあんたを成仏させるわ!」 桜花姫は体内の妖力を蓄積させると落雷の妖術を発動…。 「亡霊女房…覚悟するのね!」 小規模の入道雲を近辺の天空へと凝縮させたのである。 「落雷で死滅しなさい…亡霊女房!」 近辺の天空全域が黒色の入道雲に覆い包まれたかと思いきや…。小規模の入道雲から落雷攻撃を発動させる。高火力の落雷は亡霊女房の頭頂部へと落下したのである。 「落雷が直撃したわね…」 強烈なる落雷攻撃によって桜花姫は一瞬両目を閉眼させる。落雷の破壊力は非常に絶大であり地面を容易く陥没させたのである。 『亡霊女房は他愛無いわね♪瞬殺だったわ♪』 亡霊女房は常人と同様に肉体が非常に脆弱であり無数の血肉やら手足の肉片は勿論…。体内の臓物が陥没した地面に飛散する。 「亡霊女房…」 『彼女を仕留めたかしら?』 桜花姫は恐る恐る両目を見開いたのである。標的の亡霊女房を仕留めたか如何なのかを再確認する。 『如何やら亡霊女房を完全に仕留めたみたいね♪正直亡霊女房相手には過剰攻撃だったでしょうけど…』 目前の光景は叫喚地獄の光景であるものの…。 『無防備の状態で落雷が直撃しちゃえば誰だって死滅するわよね♪』 桜花姫は今度こそ手応えを感じる。 『亡霊女房を無事征伐したから私は西国に戻りましょうかね…』 桜花姫は一安心したのか西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 背後から極度の胸騒ぎを感じる。 『胸騒ぎだわ…』 背後より微弱の霊力を察知したのである。 『何かしら!?』 彼女は恐る恐る背後を警戒…。 「えっ…」 背後の様子を確認する。 『亡霊女房の血肉が…』 落雷攻撃によって全身の肉体を粉砕された亡霊女房の無数の血肉が融合化し始めたのである。 『此奴…再生能力なんて鬱陶しいわね…』 亡霊女房の肉体は数秒間で元通りに復活する。 『粉砕された肉体が一瞬で元通りなんて…亡霊女房は不死身の肉体なのね…』 元通りの亡霊女房に桜花姫は苛立ったのである。 『彼女は生命力と治癒力だけなら規格外だわ…』 亡霊女房は桜花姫の愕然とした表情を凝視すると不吉の表情で微笑み始める。すると亡霊女房は口辺から猛毒の溶解液を噴射したのである。 『毒液かしら!?』 桜花姫は咄嗟に妖力で半透明の防壁を形成し始め…。妖力の防壁によって危機一髪猛毒の溶解液から本体を防備したのである。妖力の防壁周辺の地面は亡霊女房が噴射した猛毒の溶解液によって液状化する。 「如何やら危機一髪だったわ…」 『妖力の防壁を発動しなかったら大怪我したでしょうね…』 桜花姫は一安心するものの…。彼女の表情が険悪化したのである。 『私は亡霊女房の霊力を見縊り過ぎたわね…』 桜花姫は体内の妖力を蓄積させる。 「亡霊女房…今度こそ覚悟なさい…」 桜花姫は念力の妖術を発動…。すると亡霊女房は全身の肉体が肥大化し始めたのである。一方の亡霊女房は無表情で桜花姫を凝視し続ける。 「亡霊女房♪」 亡霊女房の皮膚の表面からどす黒い大量の血液が流れ出始める。 「あんたは破裂するのね♪」 超常現象によって亡霊女房の体内から全身の肉体を破裂させたのである。周辺の地面には破裂した無数の肉片やら血肉が飛散する。 『亡霊女房は再復活するかしら?』 先程発動した念力の妖術は様子見であり亡霊女房の肉体が再生能力によって元通りに復活するのか如何なのかを再確認したかったのである。亡霊女房の肉体は一瞬で破裂したものの…。破裂した無数の肉片が再度融合化し始める。亡霊女房の肉体は数秒間で元通りに戻ったのである。 「亡霊女房…本当に再復活したわね…」 『正直亡霊女房は鬱陶しい悪霊だけど私にもこんな不老不死の再生能力が…』 桜花姫は内心亡霊女房の再生能力を羨望する。 『亡霊女房の再生能力の攻略法は?』 即座に透視能力を発揮出来る天眼の妖術を発動させる。 『亡霊女房の弱点は何かしら?』 「えっ?」 天眼の妖術の透視能力によって亡霊女房の腹部中心部より正体不明の水晶体を発見したのである。 『亡霊女房の体内から水晶体だわ…一体何かしら?』 桜花姫は亡霊女房の体内の水晶体を凝視する。 『亡霊女房の水晶体が気になるわね…ひょっとして体内の水晶体は亡霊女房の本体なのかしら?』 桜花姫は念力の妖術を再発動…。体内から亡霊女房の腹部を破裂させたのである。亡霊女房の腹部が破裂した直後…。亡霊女房の破裂した体内より彼女の本体と思しき半透明の水晶体を摘出したのである。 『亡霊女房の水晶体だわ♪』 半透明の水晶体が地面へと落下したかと思いきや…。 「ん?」 地面に落下した水晶体は蛍光色へと発光したのである。直後に周辺の地面に散乱した無数の血肉が蛍光色の水晶体へと密着し始める。 『如何やら体内の水晶体こそが亡霊女房の本体っぽいわね…』 念力の妖術で粉砕された亡霊女房の肉体であるが…。粉砕された彼女の肉体は数秒間で元通りに復活したのである。 「亡霊女房は元通りに戻ったでしょうけど…弱点さえ見破れちゃったら亡霊女房なんて楽勝だわ♪覚悟するのね♪」 亡霊女房の弱点を見破った桜花姫は爆破の妖術によって体内の水晶体を粉砕…。体内の水晶体が粉砕されると亡霊女房の再生能力が発動しなくなる。 「亡霊女房…完全消滅しなさい…」 即座に火炎の妖術を発動…。 『今度こそ亡霊女房を仕留められたわね…』 粉砕された亡霊女房の肉体諸共体内の水晶体の破片を完膚なきまでに焼失させる。 「子供を亡くした母親達の霊魂…今度こそ成仏するのね…」 桜花姫は周辺を恐る恐る警戒したのである。 『西国に戻ろうかしら…』 亡霊女房との戦闘が終了してより二時間後…。桜花姫は無事に西国の村里へと戻ったのである。 『彼女は…』 「亡霊女房は予想外に手強かったわね…」 無事に家屋敷へと戻った桜花姫は一息すると寝転び始める。 『随分派手に妖術を連発しちゃった影響かしら…』 妖力を余分に連発した結果…。 『極度に息苦しいのよね…』 体内の妖力を過剰に消耗したのである。 「亡霊女房は私より格下の相手だったけれど…」 『最上級妖女である私が格下の悪霊を相手に消耗戦なんてね…』 桜花姫は今回の出来事から自分自身の傲慢さと力不足を痛感する。 『今回は完全に軽率だったわね…』 極度の疲労困憊の影響からか桜花姫は熟睡したのである。
第八話
傀儡 母親達の無念の集合体…。亡霊女房との血みどろの戦闘から二日後の出来事である。近頃…。南国の村里では若齢の村娘達が衰弱化する不吉の超常現象が頻発したのである。 『今回も面白そうな事件ね♪今度は一体何が出現したのかしら♪』 彼女達の噂話を聴取した桜花姫は欣喜雀躍の気分で南国の村里へと直行する。移動を開始してより一時間半後…。 『此処が今回の事件現場みたいね…』 桜花姫は南国の村里へと到達したのである。 『今回も悪霊の仕業かしら♪ひょっとして今度も面白そうな悪霊が出現するかしら♪』 桜花姫は目的地である南国の村里へと到達したものの…。南国の村里は非常に物静かであり外出中の村人は誰一人として確認出来ない。 『過疎地だからかしら?此処では人気が感じられないわね…住宅街は如何かしら?』 住宅街へと移動するのだが…。 『やっぱり人気は皆無ね…』 村里全体が重苦しい空気であり極度の息苦しさを感じさせる。 「不吉だわ…」 『村里の空気も重苦しいし…即刻事件を解決して西国に戻りましょう…』 すると直後…。 「えっ?」 各家屋敷から無数の物音が響き渡る。 『何かしら?』 各家屋敷より出刃包丁やら鈍器を所持した老若男女の村人達が同時に外出する。 『彼等は村人達!?』 村人達の様子は非常に殺伐とした雰囲気であり桜花姫は大勢の村人達に包囲されたのである。 「あんた達…何よ?」 桜花姫は村人達に警戒する。 「正気かしら?」 『彼等の様子が可笑しいわね…』 村人達の表情を観察すると彼等は無表情であり誰一人として自身に対する殺気は勿論…。精気は感じられない。 『無感情の傀儡人形みたいな雰囲気だわ…村人達は如何しちゃったのかしら?』 村人達は無表情で桜花姫を直視し続けた直後…。 「あんた達は何よ?」 村人達は無言の様子で彼女に殺到したのである。 「本気なの?」 『人間の分際で私に手出しするなんて無謀なのよ♪』 桜花姫は即座に睡眠の妖術を発動…。 「悪いけど…非力のあんた達は私の妖術で熟睡しちゃいなさい♪」 睡眠の妖術により殺到する村人達を気絶させたのである。 『所詮相手は非力の人間♪他愛無いわね♪』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る何人かの村人達に接触する。 「非常に不自然だったわね…」 『村人達は何者かによって洗脳された状態だったわ…一体誰が村人達を洗脳したのかしら?』 直後…。 「きゃっ!」 近辺の路地裏から人間の少女らしき悲鳴が響き渡る。 「えっ?」 『少女の悲鳴だわ…一体何事かしら?』 気になった桜花姫は即座に路地裏へと急行したのである。
第九話
幻術 桜花姫が急行した同時刻…。村道の路地裏では一人の若齢の村娘が花魁らしき色白の女性に捕捉されたのである。 「あんたは私からは逃げられないわよ♪好い加減観念しなさい♪」 「きゃっ!誰か!誰か!」 村娘は必死に抵抗するものの…。花魁らしき色白の女性は小柄の外見とは裏腹に非常に力強く村娘の力量では抵抗すら出来ない。 「あんたは大人しくするのね…村里で無事なのは小娘のあんただけよ♪あんたの清心を頂戴するわね♪覚悟なさい♪」 色白の女性は赤面した表情で無理矢理に村娘に接吻…。 「ぎゃっ!ぐっ!」 村娘は色白の女性に口移しされた直後である。 「はぁ…」 村娘は全身が脱力し始め…。意識が喪失した状態であり地面に横たわったのである。色白の女性は満足気に…。 「美味しかったわね♪人間の少女の清心は純真無垢だから♪非常に美味だわ♪」 色白の女性は村娘の清心を完食…。 「今度は♪」 即座に村里から脱出する直前である。 「えっ?何者かしら?」 何者かが色白の女性の背後に出現する。 「一部始終様子を目撃しちゃったけど…如何やら今回の事件はあんたの仕業だったみたいね♪」 「誰かと思いきや…」 色白の女性は背後の桜花姫を直視した直後…。冷笑し始める。 「あんたは最上級の妖女…月影桜花姫だったかしら♪」 「あんたは悪霊の【亡霊新婦人】だったわね♪悪霊なのに人語で喋れるなんて…」 亡霊新婦人とは亭主に殺害された令夫人の亡霊である。姿形こそ素肌が色白であり煌びやかな花柄の着物姿の女性であるが…。亡霊新婦人は正真正銘女性の悪霊であり人間界の公用語で他者とも会話出来る。彼女は他者との接吻によって人間の清心を吸収出来…。純真無垢の女子の清心こそ悪霊の亡霊新婦人にとっては最高の嗜好品である。 「所詮は悪霊の分際なのにひ弱の女の子を相手に接吻なんてね…あんたは余程の悪趣味みたいね♪悪霊らしいけれど♪」 桜花姫に挑発された亡霊新婦人であるが…。彼女は不吉の笑顔で返答する。 「あんたは口喧しい小娘だわ…折角だからね♪口喧しいあんたの清心も吸収しちゃおうかしら♪」 「私の清心ですって?あんたなんかに出来るかしら♪亡霊新婦人♪」 一方の桜花姫は再度亡霊新婦人に挑発したのである。 「私は其処等の人間の女の子みたいに♪簡単には接吻出来ないわよ♪」 「月影桜花姫…無論あんたは人外の妖女だから手加減しないからね…」 亡霊新婦人は笑顔の表情から険悪化した表情に一変する。 「えっ?」 亡霊新婦人は幻術を発動すると地面より半透明化した触手が無数に出現したかと思いきや…。 『半透明の触手かしら!?』 半透明の無数の触手が桜花姫の全身に密着し始める。 「きゃっ!」 半透明の触手は彼女の身体髪膚を拘束したのである。 「ぐっ!」 桜花姫は半透明の触手によって身動き出来なくなる。 『ひょっとして触手は幻術かしら…身動き出来ないわ…』 亡霊新婦人は一歩ずつ膠着状態の桜花姫に近寄る。 「いい気味だわ♪触手で拘束された気分は如何かしら?」 亡霊新婦人は冷笑した様子で桜花姫に問い掛ける。 「私の幻術で身動き出来なくなったわね♪最上級妖女の月影桜花姫♪先程の威勢は如何しちゃったのかしら?」 彼女の目の前へと近寄ると亡霊新婦人は桜花姫の頬っぺたを接触する。 「折角の機会だからね♪暇潰しにあんたの清心も頂戴するわね♪月影桜花姫♪」 亡霊新婦人は非常に興奮したのか表情が赤面し始める。 「私に遭遇したのが不運だったのよ…月影桜花姫♪あんたは観念するのね♪」 亡霊新婦人は身動き出来なくなった桜花姫に口移ししたのである。 「ぎゃっ!」 『体内の妖力が…彼女に吸収されちゃうわ…』 桜花姫は亡霊新婦人の口移しによって体内の妖力が吸収される。 「あんたは腹立たしい妖女だったけれど…あんたの清心も美味だわ♪」 『衰弱死するのね…桜花姫♪』 亡霊新婦人は大喜びした直後…。 「ん!?ぎゃっ!」 亡霊新婦人は突然気味悪くなったのか口先から大量の鮮血を吐血したのである。 「えっ!?」 『一体何が…』 一方の桜花姫は亡霊新婦人の突然の吐血に何事かと驚愕する。 『如何して亡霊新婦人は吐血したのかしら?』 吐血した亡霊新婦人は恐る恐る桜花姫から後退りし始める。 「ぐっ…月影桜花姫…あんたは…純真無垢の清心とは程遠い存在だったみたいだわ…私を吐血させるなんてね…」 亡霊新婦人は膠着状態の桜花姫を睥睨したのである。 「如何してあんたの心情は…人一倍どす黒く下劣なのかしら?あんたみたいな不潔と遭遇したのは久方振りね…」 亡霊新婦人の発言に苛立ったのか桜花姫は腹立たしくなる。 「なっ!?誰よりも温厚篤実の女神様である私に不潔ですって!?」 亡霊新婦人の失言に反応したのか桜花姫の金縛りが解除されたのである。亡霊新婦人に怒号した桜花姫は即座に天道天眼を発動…。亡霊新婦人の幻術を無力化したのである。桜花姫の全身に密着する半透明の触手も幻術の無力化によって消滅し始める。 「あんたは…私の幻術を自力で解除するなんてね…」 亡霊新婦人は自力で幻術を解除させた桜花姫に驚愕したのである。 「残念だったわね♪亡霊新婦人♪神性妖術の天道天眼を発動しちゃえばあんたの幻術だって容易に無力化出来るのよ♪」 桜花姫の発言に亡霊新婦人は動揺し始める。 「なっ!?天道天眼ですって!?」 『こんな妖女の小娘が…神性妖術の天道天眼を…』 亡霊新婦人は桜花姫に畏怖したのか恐る恐る後退りする。 「亡霊新婦人♪私に対する恐怖心かしら?今度は私が反撃するからね♪」 「反撃ですって…」 桜花姫は一歩ずつ亡霊新婦人に近寄る。 「あんたは覚悟なさい♪亡霊新婦人♪」 桜花姫は亡霊新婦人に変化の妖術を発動…。 「女神様の私に不潔って失言した天罰よ♪あんたは飴玉に変化しちゃいなさい♪」 十八番である変化の妖術により亡霊新婦人の肉体を自身の大好きな果実の飴玉に変化させたのである。 「亡霊新婦人は飴玉に変化したわね♪成仏しなさい♪」 桜花姫は即座に果実の飴玉に変化した亡霊新婦人を頬張る。 『本来が悪霊だとしても果実の飴玉に変化させれば美味だわ♪』 すると直後…。 「えっ…私は…」 先程亡霊新婦人に清心を吸収された村娘が恐る恐る目覚めたのである。 「私は…一体何を…悪霊は?単なる悪夢だったのかしら?」 村娘の様子に桜花姫は一安心する。 『如何やら亡霊新婦人に吸収された村人達の清心が無事に戻ったみたいね♪』 「一先ずは一件落着ね♪」 事件が解決すると桜花姫は即刻西国の村里へと戻ったのである。
第十話
土偶 花魁の悪霊…。亡霊新婦人との死闘から六日後である。北国の山奥には黄金山と呼称される大山が存在する。黄金山は古代文明の宝庫とされ…。古代文明時代に使用された数多くの土器やら宝物が発見されたのである。黄金山は古代文明の宝庫として有名であるが…。近頃の出来事である。黄金山の洞窟に存在するとされる祭壇には四体の土偶が安置されたのだが…。真夜中の深夜帯にて祭壇に安置された四体の土偶が勝手に動き出すとの噂話が北国の村里全域に出回ったのである。 『土偶が動き出すなんて不吉ね…今回も悪霊の仕業なのかしら?』 最上級妖女の桜花姫は真夜中に動き出す土偶の噂話を傾聴…。即座に北国の村里へと移動したのである。北国の村里から移動してより三時間後…。桜花姫は北国の山奥に聳え立つ黄金山へと到達したのである。 『如何やら此処が問題の黄金山ね…』 時間帯は真夜中の深夜帯であり人気は感じられず…。山中の風音と川音が物静かに響き渡る。 『洞窟を探索しましょう…』 桜花姫は洞窟の探索を開始したのである。探索を開始してより数十分後…。 『洞窟だわ…』 山中の洞窟らしき場所を発見したのである。 『問題の場所は此処かしら?』 時間帯が真夜中であり洞窟内部は漆黒の暗闇であったが…。 『こんな場合は♪』 桜花姫は発光体の妖術を駆使したのである。 『暗闇でも移動出来るわね♪』 桜花姫の周囲より複数の鬼火が出現し始め…。空中を浮遊する。 『こんな場合こそ発光体の妖術は便利なのよね♪』 発光体の妖術により視界が安定化したのである。 『洞窟内部へと移動しましょう…』 桜花姫は暗闇の洞窟を直進する。洞窟を直進してより十数分後…。大昔の祭壇らしき場所へと到達したのである。 『祭壇だわ…』 祭壇らしき場所には身長三尺程度の土偶が四体確認出来…。 『四体の土偶だわ…如何やら此処が問題の場所みたいね…』 此処が事件現場であると確信する。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る四体の土偶に近寄り始め…。一体ずつ土偶の表面に接触したのである。 『土偶…今夜は動き出すかしら?』 数分間が経過するのだが…。 『別に…大丈夫そうだけど…』 四体の土偶からは悪霊特有の霊力も感じられなかったのである。 「はぁ…」 『当然だけど土偶は動き出さないわね…』 何も進展せず…。桜花姫は落胆する。 「霊力も感じられないし…今迄の苦労は何だったのかしら?」 『戻って熟睡しましょう…』 桜花姫は西国へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 突如として四体の土偶の両目が蛍光色に発光し始める。両目が発光した数秒後…。四体の土偶が空中を浮遊したのである。 『土偶が…空中を!?』 突然の超常現象に桜花姫は驚愕する。 「彼等の正体は…」 『【霊魂土偶】かしら?』 霊魂土偶とは亡者の霊魂が器物である土偶に憑霊…。誕生したとされる器物の悪霊の一種である。特定の地方では別名として古代の亡霊やら土偶の付喪神とも呼称される。 『真夜中に動き出す土偶の正体は…霊魂土偶だったのね…』 すると四体の霊魂土偶は侵入者である桜花姫を敵対視し始め…。発光した両目から微細の殺人光線を射出したのである。 『両目から光線ね…』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。霊魂土偶の殺人光線を無力化したのである。 「こんな程度の攻撃なんて…私には通用しないわよ!」 桜花姫は念力の妖術を発動…。 「砕け散りなさい!」 浮遊し続ける四体の霊魂土偶を粉砕したのである。 「霊魂土偶は…他愛無いわね…」 周辺の地面には霊魂土偶の破片が飛散する。 『片付いたし…西国の村里に戻ろうかしら…』 桜花姫は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。背後より気配を感じる。 「えっ…」 『何かしら?気配…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認する。 『如何やら…簡単には仕留められないわね…』 粉砕された四体の霊魂土偶が再生し始め…。数秒間で元通りに戻ったのである。 『霊魂土偶の再生能力は亡霊女房に匹敵するわね…』 すると四体の霊魂土偶は両目が蛍光色に点滅し始める。 『霊魂土偶の両目が点滅したわ…』 桜花姫は霊魂土偶の異変に警戒する。 『一体何が…』 警戒した直後…。四体の霊魂土偶が同時に全身の肉体が発光したのである。 「きゃっ!」 桜花姫は霊魂土偶の突然の発光に瞑目する。四体の霊魂土偶は全身が発光した状態で融合化…。 「えっ…」 『四体の霊魂土偶が…』 四体の霊魂土偶は一体の巨大霊魂土偶として一体化したのである。 『如何やら本領みたいだわ…』 一体化した霊魂土偶は六尺程度の体躯へと巨大化する。 『一体化した影響かしら?先程の霊魂土偶よりも霊力が上昇したわね…』 融合化の効力により霊魂土偶の霊力は倍以上に上昇したのである。すると霊魂土偶は桜花姫の方向を直視する。両目から殺人光線を射出するのだが…。融合化した霊魂土偶は殺人光線を広範囲に拡散させたのである。 『一体化した霊魂土偶は光線を拡散させられるの!?』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪霊魂土偶の殺人光線を無力化する。霊魂土偶の攻撃は無力化出来たものの…。 「えっ…」 霊魂土偶は浮遊した状態から高速移動で桜花姫に突進したのである。 「きゃっ!」 桜花姫は霊魂土偶の突進により吹っ飛ばされ…。 「ぐっ!」 背中が背後の岩壁に強打したのである。桜花姫は地面に横たわる。 「ぐっ…」 『迂闊だったわ…突進攻撃なんて…』 桜花姫は全身の強打により背中の一部を骨折…。極度の苦痛により身動き出来なくなる。一方の霊魂土偶は地面に横たわった状態の桜花姫の目前へと着地…。再度両目が発光し始める。 『こんな悪霊を相手に…』 桜花姫は霊魂土偶に変化の妖術を発動する。 『霊魂土偶…桜餅に変化しろ!』 霊魂土偶が殺人光線を射出する寸前…。霊魂土偶は桜花姫の大好きな桜餅へと変化したのである。 「はぁ…」 『危機一髪だったわね…』 桜花姫は安堵する。数秒間が経過すると背中の骨折も治癒の妖術により元通りに再生したのである。 「元通りに再生出来たわ…」 『早速…』 桜花姫は小皿に配置された桜餅を一口で平らげる。 『霊魂土偶を捕食した影響ね…』 洞窟内部の霊力が沈静したのである。 『事件は無事に解決したわね♪今度こそ西国に戻りましょう…』 桜花姫は暗闇の洞窟を無事に脱出出来…。西国の村里へと戻ったのである。
第十一話
猛吹雪 土偶の付喪神…。霊魂土偶との戦闘から二日後の出来事である。とある三人の匪賊達が北国の過疎化した廃村へと侵入する。 「頭領♪頭領♪此処は無人の廃村みたいですぜ♪」 小柄の匪賊が笑顔で近寄る。 「無人の過疎地か…」 大柄の匪賊が周辺を眺望したのである。 「如何やら人気は無さそうだな…」 小柄の匪賊が笑顔で発言する。 「無人の廃村なら俺達の潜窟として思う存分に利用出来ますぜ♪」 廃村は人気が全体的に皆無である。 「非常に好都合だ…であれば早速此処の廃村を占拠するか…」 潜窟として利用するのであれば非常に好都合であると判断する。 「頭領!頭領!」 すると中柄の匪賊が小声で恐る恐る…。 「今度は何事だ?」 大柄の匪賊は面倒臭そうな様子で反応する。 「村娘ですよ…村娘を発見しましたぜ…」 「ん?こんな無人の廃村に村娘だって?本当なのか?」 中柄の匪賊は仲間の二人を案内したのである。無人の廃村中心地にはとある祭壇が設置され…。祭壇の近辺には小柄の女性が徘徊中だったのである。女性は素顔こそ不明であるものの…。女性は黒髪の長髪であり服装は白装束の着物姿である。三人の匪賊達は近辺の民家から恐る恐る白装束の女性を観察する。 「如何やら本当だな…」 「彼奴は一体何を?」 すると小柄の匪賊が赤面した様子で…。 「彼奴…可愛らしい雰囲気ですね♪胸部の谷間とか♪」 「えっ…」 「此奴は…相当の物好きだな…」 赤面する小柄の匪賊に二人は苦笑いしたのである。 「ですが如何してこんな場所に村娘が一人で?」 中柄の匪賊が身震いした様子で発言する。 「ひょっとして彼奴の正体…女人の悪霊とか?考え過ぎだろうが…」 中柄の匪賊の発言に二人は困惑したのである。 「はっ?悪霊って…」 「其方は馬鹿者か?村娘は人間の小娘だろう…所詮悪霊なんて単なる子供騙しだな…悪霊が本当に存在するなら一度遭遇したいぜ…」 二人の匪賊は悪霊の存在を全否定するのだが…。 「ですがこんなにも人気の無さそうな無人の廃村で…人間の村娘が一人で行動するなんて絶対に可笑しいですよ!不自然ですぜ…」 「大袈裟だな…」 すると小柄の匪賊が恐る恐る…。 「えっ…村娘は?」 「ん?」 先程祭壇の近辺で徘徊中だった村娘を見失ったのである。 「村娘は雲隠れしたか?」 中柄の匪賊が畏怖した様子で…。 「恐らく彼女は廃村の地縛霊ですよ…即刻廃村から逃げましょう…こんな場所に長居し続ければ俺達は村娘の悪霊に呪い殺されちまいますよ…」 畏怖し続ける中柄の匪賊に匪賊の頭領が怒号する。 「馬鹿者が!何が悪霊だ!大体村娘が悪霊だって証拠は?彼奴の正体が本物の悪霊だって確証出来るのか!?」 大柄の匪賊が怒号した直後…。背後より極度の悪寒戦慄と気配を感じる。 「えっ…」 彼等は背後を警戒…。恐る恐る背後の様子を確認する。 「ひっ!」 彼等の背後には先程祭壇の近辺で徘徊中だった白装束の女性が三人の背後に佇立したのである。 『此奴…一瞬で移動しやがったのか?』 彼女は美的の容姿であるが青色の口紅…。両目の瞳孔は血紅色であり人間の女性とは無縁の雰囲気だったのである。大柄の匪賊は恐る恐る…。 「此奴は…本物の悪霊なのか!?」 すると白装束の女性は笑顔の表情で大柄の匪賊に接触したのである。 「ん?あんたは…一体何を?」 直後…。 「なっ!?」 大柄の匪賊は一瞬で全身が氷結され肉体が崩れ落ちる。 「ひっ!此奴は本物の悪霊だぞ!」 「俺達も悪霊に打っ殺されちまう!逃げろ!」 二人の匪賊は極度の恐怖心からか一目散に逃走したのである。二人は廃村の郊外にて一休みする。 「はぁ…はぁ…」 「俺達…廃村で本物の悪霊と遭遇しちまうなんて…」 「最悪だな…頭領は小娘の悪霊に打っ殺されちまったし…」 「今後は…如何するよ?」 直後である。 「えっ?」 「寒気か?」 再度極度の寒気を感じる。 「ひょっとして寒気の正体は…」 すると小柄の匪賊の左側真横より先程の白装束の女性が笑顔で凝視する。 「ひっ!小娘の悪霊!?」 彼等は白装束の女性との遭遇に落涙すると一目散に逃走…。全力で疾走したのである。同日の真昼…。桃源郷神国全域にて猛吹雪による寒風が各農村地帯で頻発したのである。突如として頻発した猛吹雪は農村の村人達を衰弱死させる。 『暴風雪が頻発しますね…暴風雪の主原因は一体?』 僧侶の八正道はとある蔵屋敷の窓際から恐る恐る外部の雪景色を眺望したのである。 「ひょっとして今回も悪霊が出現した悪影響なのでしょうか?であれば非常に不吉ですね…」 八正道は突如として発生した猛吹雪を超常現象の悪影響であると認識する。 「超常現象による天変地異ですかね?」 猛吹雪の発生により誰しもが外出出来なくなったのである。
第十二話
雪国 猛吹雪が発生した翌日の真昼…。最上級妖女の桜花姫は自宅にて無我夢中に大好きな小倉汁粉を頬張ったのである。 『非常に美味だわ♪』 単独での間食であるものの…。人一倍食いしん坊の桜花姫は一瞬で小倉汁粉を平らげたのである。 『如何して突然猛吹雪が発生したのかしら?』 桜花姫は極度の胸騒ぎを感じる。 『こんなにも猛吹雪が発生するなんて不吉だわ…』 桜花姫は突然の猛吹雪が気になったのか天道天眼を発動したのである。 「えっ?」 『妖力かしら?』 すると北国の廃村より珍妙なる妖女特有の妖力を察知する。 「北国の廃村から妖力を感じるわ…」 『ひょっとして今回の猛吹雪は妖女の仕業かしら?』 即座に北国の廃村へと出向いたのである。 『今回の相手は一体誰なのかしら?』 桜花姫は亡霊女房での悪戦苦闘により極度の胸騒ぎを感じる。桜花姫は移動を開始してより一時間後…。目的地である北国の廃村へと到着する。 『目的地の廃村だけれども…正真正銘雪国なのね…』 廃村全域が雪景色一色であり村人は誰一人として確認出来ない。 『如何やら廃村は無人地帯みたいね…当然だけど人間の気配は感じられないわ…』 乱層雲と極度の猛吹雪の悪影響により妖力を感じられなくなる。 『暴風雪の悪影響かしら?超常現象の正体を特定出来ないわね…』 桜花姫は適当に探索し始めた直後…。 『人肉の悪臭だわ…一体何かしら?』 積雪より大勢の凍結化した村人達が確認出来る。 『村人達は凍結化で息絶えたのね…』 彼女は天道天眼を発動したのである。 「なっ!?」 突発的に胸騒ぎが彼女の身体髪膚を膠着化させる。 『極度の殺意と妖力を感じるわ…』 今回は神出鬼没の悪霊ではなく妖力を察知…。 『如何やら今回の相手は純血の妖女みたいね…』 相手は同種の妖女であると確信する。 「えっ?」 桜花姫の背後から莫大なる妖力の気配が接近したのである。 『私の背後かしら…』 桜花姫は恐る恐る背後を凝視する。 『女性だわ…一体誰かしら?』 白装束の長髪の女性が桜花姫の隣接へと無表情で接近したのである。白装束の女性が自身に接近した直後…。 「きゃっ!」 白装束の女性は突如として口移しにより桜花姫に接吻したのである。 「あんたは何するのよ!下手物!」 一方接吻された桜花姫は白装束の女性を非常に気味悪がる。 「見ず知らずの女性に突然口移しなんて不潔だわ…」 女性の破廉恥さから桜花姫は恐る恐る後退りする。 「あんたの感触…ひょっとして氷水かしら?」 先程の口移しにより白装束の女性から極度の悪寒戦慄を感じる。 「ぐっ!」 『接吻の影響かしら?体内の妖力が…』 白装束の女性による接吻の悪影響からか桜花姫の妖力が微量に消耗する。 「誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の【雪美姫】だったのね…」 粉雪妖女の雪美姫とは純血の妖女であり氷雪系統の妖術を多用する妖女の一人である。雪美姫は恐る恐る後退りし始めた桜花姫に不吉の表情で冷笑し始める。 「今回の猛吹雪の主原因は雪美姫…あんたの仕業だったのね…」 『不吉だわ…』 雪美姫は純血の妖女であるのだが…。 『彼女からは…悪霊特有の霊力が感じられるわ…一体何故かしら?』 雪美姫の肉体から僅少の霊力が感じられたのである。 『兎にも角にも雪美姫を仕留めないと!』 「雪美姫!覚悟するのね!」 桜花姫は雪美姫に火炎の妖術を発動させる。超高温の火炎の妖術によって雪美姫の肉体が一瞬で崩れ落ちたのである。 『雪美姫を仕留めたかしら?』 「えっ!?」 すると桜花姫の周辺の積雪から無数の女体が形作られ…。元通りの雪美姫の姿形に変化する。 『ひょっとして雪美姫は粉雪分身の妖術を?』 雪美姫は粉雪分身の妖術で自身の分身体を無数に形作ったのである。 『厄介だわ…彼女達は雪美姫の分身体かしら?』 雪美姫の分身体は冷風を放出するものの…。 「私にはあんたの攻撃は通用しないわよ!」 桜花姫は咄嗟に妖力の防壁を発動したのである。雪美姫の放出する寒冷の冷風から本体を防備…。雪美姫の冷風を無力化したのである。 『粉雪の分身なんて面倒臭いわね…』 雪美姫の本体の判別は非常に困難であるものの…。 「雪美姫にとって私は相性的に最悪だったわね♪」 桜花姫にとって火炎系統の妖術は得意中の得意妖術である。 「雪美姫♪あんたは敵対する相手を間違えたわね♪」 桜花姫は氷雪系統の妖術を多用する雪美姫を相手に余裕の態度である一方…。雪美姫は警戒したのである。 「其処等の凡庸の妖女が最上級妖女の私に真剣勝負なんて無謀なのよ♪」 すると雪美姫は氷柱の妖術を発動する。雪美姫の周辺より無数の氷柱が形作られる。 『氷柱の妖術かしら?』 桜花姫は警戒したのである。雪美姫は無数の氷柱を浮遊させた直後…。桜花姫に攻撃したのである。 『氷柱で攻撃するなら…』 桜花姫は火炎の結界を発動…。雪美姫の氷柱攻撃を無力化したのである。 「雪美姫の攻撃は私には通用しないわ♪あんたは最上級妖女の私に敵対されたのを後悔するのね♪」 氷雪系統の妖術を多用する雪美姫にとって桜花姫は相性的にも最悪の天敵である一方…。桜花姫は雪美姫に冷笑する。 「雪美姫♪あんたは喋れなくても恐怖心は感じられるのね♪」 雪美姫は冷笑する桜花姫に戦慄したのである。 「覚悟しなさい…雪美姫ちゃん♪」 桜花姫は神性妖術の天道天眼を発動…。 「本体諸共完膚なきまでに死滅しなさいね♪雪美姫♪」 天空より無数の火球を廃村全域に落下させたのである。 「雪美姫…最上級妖女の私に挑戦したのを後悔するのね♪」 猛烈なる火球の猛攻撃によって雪美姫の無数の分身体を完膚なきまでに完全焼失させる。落下した火球の破壊力は非常に強力であり猛攻撃による超高温の火炎攻撃が雪美姫本体を一瞬で焼失させたのである。 『雪美姫は死滅したかしら?』 雪美姫の悲痛の阿鼻叫喚が廃村全域へと響き渡る。 『猛吹雪が沈静したわ…』 雪美姫を仕留めた影響からか各地の猛吹雪が沈静化する。 『雪美姫を仕留めた影響かしら?』 極度の寒風も感じられなくなる。 『如何やら天変地異は無事解決ね♪』 「即刻村里に戻ろうかしら…」 雪美姫による天変地異は無事終息出来…。一段落すると桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。 『相手は同族の妖女だったけれど…今回は相性的にも楽勝だったわね♪』 一安心した彼女は家屋敷の居室で寝転び始めるものの…。 『やっぱり気になるわね…如何して雪美姫の肉体から悪霊特有の霊力が…』 桜花姫は先程雪美姫の肉体から感じられた霊力が非常に気になる。 『ひょっとして雪美姫は悪霊に憑霊されて…』 彼是と思考した直後である。 「ん?」 左耳より極度の悪寒戦慄を感じる。 「きゃっ!」 悪寒戦慄に身震いした桜花姫は恐る恐る左辺を直視…。すると先程焼殺した雪美姫が寝転んだ状態で桜花姫を凝視し続ける。 「えっ!?あんたは雪美姫!?」 突然の出来事により桜花姫は驚愕したのである。 『如何して彼女はこんな場所に!?』 一方の雪美姫は桜花姫を凝視…。驚愕した表情の彼女を冷笑したのである。すると雪美姫は不吉の笑顔で…。 「あんたは人一倍容姿端麗の妖女だわ♪」 雪美姫は人間の口言葉で発言したのである。 「えっ!?」 『雪美姫って普通に喋れるの!?』 桜花姫は人間界の公用語で発語する雪美姫に愕然とする。 「あんたは最上級妖女の月影桜花姫だったわね♪」 すると雪美姫は満面の笑顔で桜花姫に接触したのである。直後…。 「ぎゃっ!」 『金縛りの妖術かしら?身動き出来なくなるなんて…』 桜花姫は雪美姫の発動した金縛りの妖術によって身動き出来なくなる。 「残念だったわね♪桜花姫♪あんたが雪国で死滅させたのは私の分身体なのよ♪こんなにも簡単に追尾が成功するなんてね♪」 雪美姫は粉雪分身の妖術で形作った分身体の欠片のみでも残存した場合…。彼女の本体が死滅したとしても容易に復活出来る。 「私は分身体からでも復活出来るから本体が焼殺されたとしても大丈夫だからね♪油断大敵よ…最上級妖女の月影桜花姫ちゃん♪」 先程は雪国にて氷雪の欠片を桜花姫の着物に密着させた状態から彼女の家屋敷に潜入出来…。雪美姫は桜花姫の追尾に成功したのである。 『氷雪の欠片から復活ですって!?此奴…』 雪美姫は桜花姫に密着し始める。 「私はね…あんたみたいな妖女の小娘が人一倍大好きなのよ♪あんたみたいな小娘とこんな小部屋で二人きりだと接吻したくなっちゃうわ♪我慢出来ないのよ…」 雪美姫は表情が赤面すると再度桜花姫に口移ししたのである。雪美姫によって無理矢理に口移しされた直後…。 「ぐっ!」 桜花姫の体内の妖力が雪美姫の吸収能力によって吸収されたのである。 「えっ…」 『体内の妖力が雪美姫に吸収されちゃうわ…』 妖力の消耗によって衰弱死するかと思いきや…。桜花姫の肉体が白煙により一瞬で消滅したのである。 「えっ!?桜花姫は?」 『如何して彼女は消滅しちゃったの!?』 雪美姫の背後より何者かが背中に接触する。 「きゃっ!」 「残念だったわね♪粉雪妖女の雪美姫♪あんたが口移ししたのは私の分身体なのよ♪」 「桜花姫!?」 桜花姫は雪美姫に接吻される直前に分身の妖術を発動…。雪美姫の吸収能力の無力化に成功する。雪美姫の口移しによって吸収された妖力は実質微量だったのである。 「分身体で欺瞞するなんて…あんたは悪知恵だけは一人前だわ…桜花姫!」 雪美姫は激怒…。鬼神の形相で桜花姫を睥睨したのである。 「雪美姫…所詮は悪因悪果よ♪今度こそ死滅するのね♪」 桜花姫は変化の妖術を発動する。変化の妖術とはあらゆる物体を別の物体に変化させられる変幻自在の妖術である。 「桜餅に変化しなさい♪雪美姫♪」 すると雪美姫の肉体が桜花姫の大好きな桜餅に変化…。 「変化の妖術は大成功ね♪」 変化の妖術が成功すると桜花姫は大喜びしたのである。 『美味しそうな桜餅だわ♪』 桜花姫は変化の妖術によって桜餅に変化した雪美姫を捕食…。雪美姫を食い殺したのである。 「桜餅♪」 『やっぱり美味だわ♪』 桜餅に変化させた雪美姫を捕食すると吸収された妖力が一瞬で回復する。変化の妖術で食べ物に変化させた対象物を摂取すれば消耗した妖力も回復させられる。 『彼女に吸収されちゃった妖力も戻ったし♪』 「一石二鳥ね♪」 今度こそ粉雪妖女の雪美姫を征伐出来たのである。 『事態は一件落着ね♪今度こそ熟睡するわよ♪』 桜花姫は再度寝転んだのである。
第十三話
巨大蜘蛛 粉雪妖女の雪美姫との死闘から四日後の真夜中…。東国と西国の国境の山道にて五人の匪賊達が一休みする。 「今日は大量でしたね♪米俵を二石も入手出来るなんて♪大儲けですぜ♪」 小柄の匪賊が満面の笑顔で発言したのである。 「明日は如何しますかい?」 中肉中背の匪賊が周囲の者達に問い掛ける。すると小柄の匪賊が笑顔で…。 「明日は西国の村里を襲撃するなんて如何かな!?西国は片田舎だし食糧品を分捕るには最適の場所ですぜ♪」 小柄の匪賊の発言に大柄の匪賊が身震いしたのである。 「西国って…貴様は馬鹿者か!?」 「えっ!?誰が馬鹿者だって!?」 大柄の匪賊の馬鹿者発言に小柄の匪賊は腹立たしくなる。 「此奴!俺と喧嘩したいのか!?」 大柄の匪賊は恐る恐る…。 「貴様は知らないのか?不寝番の月影桜花姫の存在を…」 「不寝番の月影桜花姫だって?一体誰だよ?ひょっとして遊女の名前なのか?桜花姫なんて知らない名前だな…」 「貴様は本当に世間知らずだな…」 周囲の者達は小柄の匪賊に呆れ果てる。 「西国の村里って最上級妖女の月影桜花姫が居住する殺伐とした魔窟だぞ…」 今度は中肉中背の匪賊が発言する。 「西国の村里なんか襲撃すれば…俺達みたいな其処等の凡人なんて桜花姫に瞬殺されちまうだろうな…俺は御免だぜ…」 「桜花姫って妖女は最強なのか?」 小柄の匪賊が問い掛けると大柄の匪賊が即答したのである。 「勿論最強だぞ…噂話だが桜花姫は其処等の妖女とは別格に最強らしいし…俺達みたいな爪弾きされた人間にも容赦しないだろうよ…」 桜花姫は神出鬼没の悪霊が出現しなければ時たまであるが匪賊を征伐する。すると今度は別の小柄の匪賊が赤面した表情で…。 「月影桜花姫って…世間の噂話では絶世の美女らしいな♪俺は本物の桜花姫に遭遇出来るなら遭遇したいぜ♪」 「貴様は相当の物好きだな…外見が絶世の美女だとしても桜花姫は人外の妖女だからな…所詮妖女なんて神出鬼没の悪霊と同類だろうに…」 大柄の匪賊は妖女の桜花姫を神出鬼没の悪霊と同一視して揶揄したのである。 「兎にも角にも…明日は西国以外の人気の少なそうな村里を襲撃するか?」 「決定だな…」 「仕方ないな…」 すると直後…。 「うっ…」 突如として中肉中背の匪賊が極度の寒気により凍え始める。 「ん?」 「大丈夫か?」 「突然寒気が…悪寒戦慄だろうか?気味悪いぜ…」 極度の寒気からか全身が身震いしたのである。すると今度は大柄の匪賊が突然の寒気により凍え始める。 「俺も…寒気だ…」 「大丈夫かよ!?風邪か?」 直後…。周囲より気配を感じる。 「ん!?」 「気配だ…」 「気配だと?人気か?」 「ひょっとして武士団の奴等か!?」 「武士団だとしたら面倒だな…」 突然の気配に匪賊達は警戒したのである。中肉中背の匪賊は恐る恐る…。 「此奴は人気なのか?」 中肉中背の匪賊は気配の正体が人外であると察知する。 「気味悪いな…恐らくだが雰囲気的に人外っぽいぞ…」 「人外だと?本当なのか?」 「人外であれば気配の正体は山犬だろうか?」 匪賊達は恐る恐る護身用の刀剣を抜刀したのである。 「何が出現するか?」 目前の樹海より正体不明の人影を確認…。正体不明の人影はふら付いた様子で匪賊達に急接近する。 「彼奴は人影みたいだぞ…」 「人影か…物の怪の一種だろうか?」 正体不明の人影が接近してより数秒後…。暗闇の樹海より全身の皮膚が腐敗した小柄の怪物が出現したのである。 「ひっ!此奴は…」 「悪食餓鬼って悪霊だったよな!?」 「悪霊でも此奴なら其処等の子供でも打っ殺せるぜ♪全員で袋叩きだ!悪食餓鬼を打っ殺しちまえ!」 小柄の匪賊は警戒した様子で悪食餓鬼に近寄ると悪食餓鬼の頭部を斬首…。一体の悪食餓鬼を仕留めたのである。 「大丈夫か?」 「此奴…仕留めたのか?」 周囲の匪賊達は身動きしなくなった悪食餓鬼に恐る恐る近寄る。 「此奴…身動きしなくなったぞ…」 「此奴は本当に雑魚みたいだな…其処等の子供でも仕留められそうだ…」 悪食餓鬼は非常に脆弱の悪霊として知られる。悪食餓鬼の脆弱さは頑張れば人間の子供でも容易に仕留められる程度である。 「如何してこんな場所に悪霊が出現しやがった…」 「悪霊は神出鬼没らしいからな…突然出現しやがるぞ…」 「兎にも角にも…悪霊は仕留めたからな…一休みしないか?」 彼等は再度一休みするのだが…。再度寒気を感じる。 「今度も寒気を感じるぞ…」 「ひょっとして今度も悪霊が出現しやがったのか?」 彼等は再度警戒…。即座に刀剣を抜刀したのである。 「今度は何が出現する?悪霊か!?山犬か!?」 直後…。 「此奴は現実なのか…大群とは…」 周辺の樹海より数十体もの悪食餓鬼が出現したのである。 「今度は悪霊が大量に出現したぞ…如何する?」 「相手するか?」 すると大柄の匪賊が恐る恐る…。 「馬鹿者が…多勢に無勢だぜ…悪食餓鬼が雑魚だとしても相手が大群では俺達が打っ殺されちまうよ!」 悪霊は悪霊でも悪食餓鬼は比較的非力の子供でも仕留められる程度の脆弱さであるが多勢に無勢であり圧倒的に不利である。 「一か八か…此処から逃げないか?」 「同感だ…俺もこんな場所では死にたくないからな…」 不本意であるが彼等は逃走を決意したのである。 「止むを得ないか…」 彼等は悪食餓鬼の大群から逃走する寸前…。 「ん?」 突如として悪食餓鬼の大群は身動きしなくなる。 「えっ!?一体何が?」 身動きしなくなった悪食餓鬼の大群に匪賊達は何が発生したのか不思議がる。悪食餓鬼の大群は恐る恐る後退りし始め…。鈍足の身動きで逃走し始めたのである。 「悪霊の奴等…如何して俺達から逃げやがった?」 「何はともあれ…俺達は命拾い出来たな…」 「はぁ…人騒がせな悪霊だぜ…」 彼等は命拾いに安堵するのだが…。 「えっ…」 背後より不吉の気配を感じる。 「今度は…」 五人の匪賊達は警戒した様子で恐る恐る背後を直視…。 「ひっ!」 「うわっ!此奴は蜘蛛の怪物だ!」 彼等の背後に存在するのは正体不明の巨大蜘蛛らしき異様の怪物が出現する。 「蜘蛛の怪物に食い殺されちまう!今度こそ逃げろ!」 彼等は一目散に逃走したのである。
第十四話
悪戦苦闘 翌日の真昼…。西国に隣接する荒廃化した廃村の地面より野良犬に咀嚼されたと思しき大量の血肉やら人骨が無数に発見されたのである。近隣の村人達からは無間地獄の亡者達を目撃…。出没したとの噂話が国全体に出回る。同時刻…。東国近辺の辺境地より悪食餓鬼の大群が隣接する各地に出没したのである。村人達の噂話が気になった桜花姫は即刻問題の廃村へと直行する。 「廃村の無数の人骨と肉片…東国に出没した悪食餓鬼の大群…」 『無数の悪霊が出現した因果関係は一体何かしら?』 西国から非常に近辺なのか数分間で到着する程度の近距離である。桜花姫は恐る恐る廃村の様子を眺望する。 「随分殺風景ね…」 『廃村だから当然かしら?』 廃村は誰一人として村人が定住しない魔窟であり無人の廃村から無数の霊力を察知したのである。 『廃村から無数の霊力を感じるわ…悪霊なのかしら?』 人気は皆無であり廃村の雰囲気から黄泉の世界を連想させる。 「廃村は気味悪いわね…」 『空気も息苦しいし…』 廃村は非常に息苦しい場所であり普通の人間であれば卒倒しそうな雰囲気である。 「今回の超常現象では何が出現するのかしら?」 『恐らく今回出現した悪霊は…亡霊新婦人は勿論…亡霊女房よりも面倒臭いかも知れないわね…』 桜花姫は廃村の重苦しい空気からか非常に気味悪くなる。廃村の雰囲気から気力が無気力化するものの…。 『廃村中心部の楼閣が非常に不吉だわ…』 廃村中心地の楼閣から非常に重苦しい無数の霊力を察知したのである。 『妖力を消耗するのも面倒臭いからね…此処は力任せで強行突破よ!』 彼女は鈍足であるものの…。真正面から荒廃した廃村へと突入する。 「えっ?」 周辺より無数の気配を感じる。 『何かしら?』 すると周辺の地面より無数の悪食餓鬼が出現…。 『悪食餓鬼の大群だわ…私に対する彼等なりの挨拶かしら?』 悪食餓鬼の大群は道中を移動する桜花姫に殺到したのである。 『悪食餓鬼にとって私は嗜好品みたいね…』 桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動…。半透明化した妖力の防壁を発動したのである。防壁の表面より半透明化した血紅色の魔手を無数に出現させる。 『鬱陶しい奴等だわ…』 妖力の防壁から出現した無数の魔手は彼女に殺到する無数の悪食餓鬼の猛攻撃から桜花姫本体を防備…。妖力の防壁から出現した血紅色の魔手は桜花姫に殺到する悪食餓鬼の大群を縦横無尽に蹴散らせる。 『人気者も災難だわ♪』 桜花姫は泰然自若とした様子である。一方悪食餓鬼の大群は只管我先にと桜花姫に接近し続ける。 「あんた達は相当の命知らずね♪」 無謀にも殺到し続ける悪食餓鬼の大群を容易に死滅させたのである。桜花姫の発動した魔手に接触した悪食餓鬼は一瞬で肉体が粉砕され…。彼等は死滅したのである。桜花姫が通過した直後…。桜花姫の通過した地面には悪食餓鬼の無数の肉片やら血肉が彼女の路傍に散乱したのである。一方の桜花姫は只管一直線に驀進し続ける。移動を開始してより十数分後…。桜花姫は廃村中心部の楼閣へと到達する。 『楼閣から悪食餓鬼以外の霊力を感じるわね…』 楼閣の最上階から不吉の霊力が感じられる。 『楼閣には何が出現したのかしら?』 桜花姫は一息すると警戒した様子で恐る恐る楼閣内部へと潜入したのである。各居室には異国風の調度品が散乱した状態であり居住者は誰一人として確認出来ない。 『如何やら大昔は富裕層の居住地だったみたいね…』 楼閣の各室内は全面的に洋式風の雰囲気だったのである。 『室内の雰囲気は異国を意識したのかしら?室内だけが異世界みたいだわ…』 洋式風の調度品ばかりであり室内全体が異世界みたいに感じられる。 『最上層に移動しましょう…』 階段を利用すると楼閣の最上層へと到達する。 『此処は骨董品の博物館みたいな場所だわ…』 楼閣の最上階に到達すると最上層には骨董品の貯蔵庫であり桜花姫は無尽蔵の異国風の骨董品に魅了されたのである。 『楼閣の骨董品を競売しちゃえば私も富裕層の仲間入りかしら♪』 すると貯蔵庫の中心部には摩訶不思議なる骨董品を発見…。 「えっ…」 中心部の骨董品が非常に気になったのである。 「何かしら?」 『ひょっとして能面?』 桜花姫が気になった代物とは精巧に形作られた能面であるものの…。 『能面の表情が気味悪いわね…』 能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。表情も気味悪く相手を冷笑するかのように感じられる。 『芸術的だけど非常に悪趣味だわ…能面って外見的にも不吉なのよね…』 桜花姫は巨大能面を直視し続けると全身に鳥肌が立つのか非常に気味悪くなる。 『私には所有者の感受性が理解出来ないわね…』 桜花姫は気味悪くなるのだが…。警戒した様子で恐る恐る巨大能面に近寄る。 『能面なんて気味悪いだけなのよ…私は大嫌いだわ…』 迂闊にも巨大能面の表面に接触したのである。 『普通の能面よりも随分特大なのね…単なる装飾品なのかしら?』 先程から不思議に感じるのか桜花姫が楼閣へと潜入した数分後…。 「えっ?」 室内に充満した霊力が完全に消失する。 「先程から内部の霊力が感じられないのよね…」 『内部の悪霊は別の場所に移動しちゃったのかしら?』 室内では霊力が皆無であると判断…。 『仕方ないわ…此処は出直しね…』 桜花姫は撤収を余儀無くされる。 『一先ずは楼閣から脱出しましょう…』 桜花姫は恐る恐る外部の庭園へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 突如として背後から物音が響き渡る。 『物音!?』 彼女は即座に背後を警戒…。 『一体何事なの!?』 先程の巨大能面に注目する。 『能面?』 巨大能面の両目部分が蛍光色へと変色した状態であり八本の人間の細腕らしき脚部が形作られる。姿形は巨大化した巨大人面蜘蛛であり中心部の胴体部分が巨大能面である。 「ひょっとしてあんたは器物の悪霊…【小面袋蜘蛛】かしら!?」 『こんな場所で厄介なのが出現するなんてね…』 小面袋蜘蛛とは器物である巨大能面に悪霊が憑霊した憑依系統の悪霊…。南国では別名巨大能面の付喪神やら肉食能面とも呼称される。小面袋蜘蛛の性質上…。器物に憑霊出来る呪力によって天道天眼を保有する最上級妖女の桜花姫をも錯覚させたのである。 『楼閣から感じられた気配の正体は小面袋蜘蛛だったのね…』 すると小面袋蜘蛛の胴体部分である巨大能面の両目が桜花姫を凝視…。不吉の形相で冷笑し始める。 「げっ!?」 『此奴は気味悪いわね…』 不吉の形相で冷笑し続ける小面袋蜘蛛に桜花姫は気味悪くなる。すると巨大能面の口先より粘着性の蜘蛛の白糸を噴出したのである。 「きゃっ!」 小面袋蜘蛛の粘着性の白糸が彼女の皮膚に接触した直後…。 「ぐっ!」 『何かしら?妖力が消耗するなんて…』 桜花姫は体内の妖力が急速に消耗したのである。体内の妖力が一瞬で半減したのか肉体の身動きすらも負担に感じられる。 『迂闊だったわ…巨大能面の正体が悪霊の小面袋蜘蛛だったなんて…如何して今迄存在に気付かなかったのかしら?』 小面袋蜘蛛の粘着性の白糸に接触すると莫大なる妖力を一瞬で消耗する。大量の妖力を駆使する攻撃法では小面袋蜘蛛を仕留めるのは非常に困難である。莫大なる妖力と天道天眼による多種多様の妖術を保有化…。妖術を自由自在に扱える桜花姫にとって小面袋蜘蛛は相性的にも最悪の天敵だったのである。 『私は小面袋蜘蛛の餌食に…』 桜花姫は莫大なる妖力の消耗によって力尽きたのか床面へと横たわる。 『小面袋蜘蛛…』 床面に横たわった状態の彼女の隣接にて小面袋蜘蛛が急接近する。 『私を食い殺したければ食い殺しなさいよ…』 桜花姫は小面袋蜘蛛に捕食されるのを覚悟したのである。 『最上級妖女の私が…格下の悪霊を相手にこっ酷く圧倒されるなんてね…』 彼女は僅少の妖力によって時空間停止の妖術の使用を決意する。 『止むを得ないわね…一か八かの大博打よ…』 桜花姫は時空間停止の妖術を発動したのである。 『小面袋蜘蛛…身動きしなくなったわね…』 直後…。小面袋蜘蛛は一時的に身動きしなくなる。時空間停止の妖術とは一定時間のみ周囲の時間と空間を急停止させられる高等妖術の一種…。自身の肉体のみは自由自在に身動き出来るが周囲の時空間は何もかもが急停止した状態だったのである。 『時空間停止の妖術…一先ずは成功ね…』 桜花姫は周囲を警戒…。時空間停止の妖術成功に安堵したのである。 『今度は…』 今度は空間移動の妖術を発動する。空間移動の妖術とは所謂瞬間移動の一種であり瞬時に安全地帯に移動出来る移動系統の妖術である。桜花姫は空間移動の妖術の駆使によって楼閣から無事脱出出来…。近辺の山道へと移動したのである。 「はぁ…はぁ…」 『危機一髪だったわ…一瞬小面袋蜘蛛に食い殺されるかと…』 桜花姫は恐る恐る周囲を警戒…。無事に楼閣から脱出出来たのである。 『脱出には成功したみたいね…』 桜花姫は妖力の消耗によって妖術の使用は不可能であり一時的に退却を余儀無くさせられる。 『時空間停止の妖術は解除されたし…』 桜花姫は大量の妖力消耗によって妖術が使用出来なくなる。 『こんな状態では小面袋蜘蛛は勿論…悪食餓鬼にも対抗出来ないわね…』 桜花姫は不本意であるが…。 『即刻西国に戻らないと…妖力が空っぽだわ…』 一時的に退却しなくては悪霊征伐が出来なくなる。 『こんなにも妖力を消耗した状態では妖術を駆使出来ないわね…』 桜花姫は西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 周囲の地面より数体の悪食餓鬼が出現する。 『今度は悪食餓鬼!?』 彼等は地面に横たわった状態の桜花姫へと殺到したのである。 『こんな場所でも無数に出現するなんて…』 最早桜花姫は妖力を消耗した満身創痍の状態であり数体の悪食餓鬼さえも仕留められなくなる。 『本調子の私だったら悪食餓鬼なんて片手間の妖術で片付けられちゃうのに…』 本調子の彼女にとって悪食餓鬼の大群相手は片手間の存在であるものの…。大量の妖力を消耗した状態では複数の悪食餓鬼でさえも仕留められなくなる。彼等は地面に横たわった状態の桜花姫へと無我夢中に殺到したのである。 「きゃっ!」 桜花姫は数体の悪食餓鬼に戦慄し始め…。恐る恐る後退りする。 『私は悪食餓鬼に食い殺されちゃうのね…』 数体の悪食餓鬼が彼女の肉体に接触する直前…。 「えっ!?」 悪食餓鬼は突発的に身動きしなくなる。 『如何して彼等は身動きしなくなったの?』 恐る恐る地面を注視…。 「きゃっ!」 『蜘蛛の白糸だわ…』 悪食餓鬼の身動きを封殺したのは小面袋蜘蛛の白糸だったのである。 『ひょっとして小面袋蜘蛛かしら?』 彼等の背後には標的である桜花姫を追撃する小面袋蜘蛛が近寄る。 「小面袋蜘蛛!?」 『今度こそ私は小面袋蜘蛛に食い殺されちゃうわ…』 小面袋蜘蛛に戦慄した桜花姫は全身が膠着したのである。金縛りの妖術によって楼閣から危機一髪脱出出来たものの…。小面袋蜘蛛は強大なる桜花姫の妖力を目印に彼女の居場所を察知する。必死に逃走する桜花姫を見逃さなかったのである。小面袋蜘蛛は体内から噴出させた蜘蛛の白糸によって身動き出来なくなった数体の悪食餓鬼を捕食し始める。 『神出鬼没の悪霊が悪霊を共食いするなんて…』 桜花姫は悪霊が悪霊を食い殺す残虐非道の場面に気味悪くなる。食い殺される悪食餓鬼みたいに自分自身も小面袋蜘蛛に食い殺されるのではと想像すると希死念慮が根強くなる。小面袋蜘蛛は地面に横たわった状態の桜花姫に近寄ったかと思いきや…。小面袋蜘蛛の鋭利の脚部が桜花姫の腹部を抉り抜いたのである。 「ぎゃっ!」 桜花姫は小面袋蜘蛛に急所を抉り抜かれた直後…。 「ぐっ!」 桜花姫は吐血したのである。自身の着物は勿論…。周辺の地面は桜花姫の大量の出血によって血紅色に変色する。 『結局私は…小面袋蜘蛛に捕食されちゃうのね…』 桜花姫は致命傷であり失血死寸前の瀕死状態である。最早全身の無感覚によって痛覚すらも感じられなくなる。 『もう少しだけ…長生きしたかったな…』 完全に身動き出来なくなった桜花姫は今度こそ自身の最期を覚悟したのである。すると直後…。 「きゃっ!」 両目を瞑目すると耳元より強烈なる爆発音が耳元全体に響き渡る。 「えっ!?」 『爆発音かしら?』 恐る恐る両目を見開くと無数の血肉が確認出来る。 『一体何が発生したの?』 桜花姫は恐る恐る周囲を確認すると肉体を粉砕された小面袋蜘蛛の血肉が散乱した状態だったのである。 「えっ…」 『小面袋蜘蛛!?如何してこんな状態に…』 死滅した小面袋蜘蛛の背後には携帯式の榴弾砲を武装した僧服の何者かが地面に横たわった状態の桜花姫に恐る恐る近寄る。 『誰なのかしら?人間の僧侶?』 僧服の人物とは以前南国の荒神山で遭遇した僧侶の八正道だったのである。精神的にも肉体的にも衰弱化した桜花姫にとって僧侶の八正道は守護神にも感じられる。 「危機一髪でしたね…桜花姫様…」 「あんたはひょっとして…八正道様?」 「私ですよ…月影桜花姫様…大丈夫ですか?」 八正道は桜花姫の抉り抜かれた胸背の外傷を直視…。 「えっ…桜花姫様…」 『胸背が…』 八正道は桜花姫の傷口に戦慄したのである。 『致命傷ですね…最早こんな状態では…』 桜花姫の外傷を直視した八正道は絶望的であると感じる。 「私なら大丈夫よ…八正道様…外傷なら自力で治癒出来るから…」 「自力で治癒ですと?」 すると桜花姫の傷口は体内の妖力によって治癒されたのである。 「なっ!?致命的外傷も一瞬で元通りなんて…」 『桜花姫様の妖力は正真正銘万能薬ですね…』 八正道は桜花姫の再生能力に驚愕する。 『ですが桜花姫様は出血多量の悪影響によって衰弱化された状態ですね…』 桜花姫は多量の出血により肉体的にも精神的にも疲弊した状態だったのである。 「如何して人間の八正道様が悪霊の小面袋蜘蛛を仕留められたのかしら?小面袋蜘蛛って悪霊でも段違いに強敵なのよ…」 「小面袋蜘蛛は妖力を無力化させる悪霊ですよね?妖力を多用すれば悪戦苦闘は必須でしょうが妖力の未利用である攻撃法によって撃退出来るのでしょうね…今回の悪霊は莫大なる妖力を行使する妖女では最悪の天敵かと…」 八正道は妖力を利用しない物理的攻撃法こそが器物の悪霊小面袋蜘蛛にとって唯一の弱点であると推測する。小面袋蜘蛛は摩訶不思議の妖力を多用する妖女では相性的にも最悪であるものの…。武装化した人間には滅法脆弱であり通常の装備でも小面袋蜘蛛は容易に撃退出来るとされる。 「ですが一安心ですね♪桜花姫様♪桜花姫様が無事なのが何よりですから…」 「はぁ…八正道様…」 桜花姫は落涙し始め…。涙腺から大粒の涙が零れ落ちる。 「八正道様!」 桜花姫は八正道の腹部に力一杯密着したのである。 「桜花姫様!?突然如何されましたか!?」 八正道は突如として密着した桜花姫に動揺するも…。 『桜花姫様の様子…純粋無垢の幼子みたいですね…』 彼女の様子は幼女であり純情可憐に感じられる。 「桜花姫様…」 疲弊した桜花姫を直視し続けると悲痛に感じる 『余程辛苦だったのですね…桜花姫様…』 八正道は落涙する桜花姫を直視し続けると人一倍病弱だった愛娘の存在を想起したのである。 『私の愛娘は一昨年…疫病によって…』 八正道は一昨年不治の疫病で死去した愛娘を追想…。一瞬であるが八正道も落涙したのである。桜花姫が落涙してより数分後…。 「桜花姫様?空腹なのでは?」 「えっ…」 「麦飯ですが…如何でしょう?桜花姫様は疲労の様子ですし…」 八正道は空腹の彼女に俵型の麦飯を手渡したのである。 「御免あそばせ…八正道様…こんな貴重品を私なんかに大丈夫なのかしら?八正道様の食事が…」 「先程の戦闘で桜花姫様が空腹状態なのは一目瞭然ですし…桜花姫様が無事なのが何よりですからね♪桜花姫様は気になさらなくても私なら大丈夫ですよ♪」 「八正道様…」 桜花姫は八正道と一緒の雰囲気が一瞬父親との距離感を想像したのである。すると感情が高揚したのか彼女の両目から再度大粒の涙が零れ落ちる。 『父親との距離感って…こんな雰囲気なのかしら?』 彼女は力一杯麦飯を平らげる。一瞬で麦飯を完食したのである。 「桜花姫様は相当空腹だったのですね…」 一瞬で麦飯を完食した桜花姫に八正道は苦笑いする。 「小面袋蜘蛛に体内の妖力を消耗させられちゃったからね…妖力を回復させないと妖術は駆使出来ないわ…」 すると桜花姫は恐る恐る八正道に告白したのである。 「私…一瞬だけど八正道様が私の父親だったらって…妄想しちゃったわ…」 「えっ!?私が桜花姫様の父親ですと?」 桜花姫の発言に一瞬驚愕するものの…。 『こんな私が桜花姫様の父親ですか♪』 八正道は桜花姫との親子関係を想像すると内心大喜びしたのである。 「八正道様?」 「如何されましたか?桜花姫様?」 桜花姫は叫喚地獄だった幼少期の出来事から悪霊捕食者として活動し始めた経緯を八正道に一部始終追憶する。 「大昔の私はね…」 桜花姫の血筋は名門の武家一族…。月影一族の一人娘であり彼女の家系は分家に分類される。彼女の父親は東国武士団夜番警備隊所属の最上級武士【月影鉄鬼丸】であり母親は人魚妖女の【月影春海姫】…。人間の鉄鬼丸と純血の妖女である春海姫の混血が愛娘の桜花姫である。父親の鉄鬼丸は世界暦四千九百九十二年四月六日に死去…。同年四月七日の桜花姫の出産日前日での出来事だったのである。月影鉄鬼丸の死後…。桜花姫は母親の春海姫と一緒に生活したのである。東国武士団の最上級武士であった鉄鬼丸の財産によって毎日が暖衣飽食の生活であり非常に裕福であったものの…。桜花姫は春風駘蕩の毎日が非常に退屈であり武陵桃源の暖衣飽食に極度の倦怠感を感じる。四六時中憂鬱であった幼少期であるが…。彼女にとって人生最大の変化が到来したのである。不運にも十二歳の誕生日後日…。断崖絶壁の落石に直面する。不運にも桜花姫は突然の落石によって背中を手酷く損傷したのである。 「落石ですか…」 「私は落石で絶体絶命だったのよね…」 落石による事故後…。桜花姫は半死半生の瀕死状態であったものの背中の外傷が一瞬で自然治癒したのである。落石による外傷が全治した直後…。血紅色であった半透明の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。彼女は伝説の神性妖術として認識される天道天眼を唐突に開眼したのである。突如として体内の妖力が通常の妖女よりも桁違いに増大化…。規格外の妖力の覚醒により日に日に強大化し続ける彼女は体内で蓄積された妖力を自力で抑制出来なくなる。 「当時子供だった私はね…妖力を自由自在に扱えなかったのよ…」 妖力を抑制出来なくなった桜花姫は不本意にも妖力の暴走によって唯一の肉親である母親の春海姫を殺害…。 「私は肉親の母親を殺害した…極悪非道の重罪犯なのよ…」 「えっ!?桜花姫様…」 『温厚篤実の桜花姫様が血縁者である母君様を…殺害ですと!?』 衝撃の事実に八正道は驚愕する。 「桜花姫様が自身の母君様を殺害されたなんて非常に信じ難い内容ですが…先程の内容は事実なのでしょうか?」 八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「残念だけど…私が母様を殺したのは事実なのよね…」 「ですが正直…信じ難い内容ですね…桜花姫様が母君様を殺害されたなんて…」 八正道は桜花姫自身の誤認識であると感じる。 「八正道様は全否定したいかも知れないけれどね…私は正真正銘…残虐非道の殺人鬼である事実は否定出来ないのよね…」 残虐非道の殺人鬼として明断された桜花姫は東国武士団の看守達により一時的に身柄を隔離される。東国の監獄にて武士団の看守達から一晩中拷問されたものの…。看守達は桜花姫の規格外の生命力に戦慄したのである。看守達は桜花姫の常人をも超越した生命力に戦慄…。不本意であるが武士団の看守達は彼女を監獄から釈放されたのである。人間達にとって害悪である悪霊から村人達を守護する不寝番としての活動を必須要件として神出鬼没の悪霊は勿論…。大勢の匪賊達を問答無用に征伐したのである。妖力の順応化は非常に困難であったものの日に日に妖力を多用し続けた結果…。十五歳の中頃には神性妖術の天道天眼を自由自在に駆使出来る程度に抑制出来たのである。 「桜花姫様が悪霊捕食者として活動された理由とは…不本意にも母君様を殺害された自分自身の罪悪感だったのですね…」 「内心…忘却したい黒歴史なのよね…」 「ですが桜花姫様は人一倍勇猛果敢の女神様ですよ…勿論誰よりも♪」 桜花姫は八正道の女神様発言に返答する。 「私が女神様なんて…八正道様は随分表現が大袈裟なのね…」 「桜花姫様は不本意にも幼少期に母君様を殺害されたのは事実なのかも知れません…ですが何よりも桜花姫様は罪滅ぼしとして今迄に無数の悪霊は勿論…極悪非道の匪賊達から村人達を守護する悪霊捕食者として粉骨砕身されたのも事実なのですからね…」 「八正道様…」 桜花姫の顔色が変化したのである。 「所詮妖女も神族も森羅万象の一部であり微細の生命体なのです…森羅万象に実在する生命体とは善悪の集合体であり非常に複雑ですからね…勿論こんな私自身にも邪心は存在しますよ♪所詮私も一人の人間ですからね♪」 桜花姫は八正道の鼓舞激励によって微弱であるものの…。 「八正道様♪八正道様には大変感謝するわ…」 八正道の発言に桜花姫は笑顔が戻ったのである。 「桜花姫様♪笑顔が戻りましたね♪私自身桜花姫様に役立てただけでも恐悦至極に感じられますよ♪」 「八正道様♪」 桜花姫は八正道の鼓舞激励に一安心する。 「桜花姫様…今後は如何されますか?」 「無数の霊力が国全体に分散しちゃったみたいだからね…」 『亡者達が国全体に徘徊し続けると非常に大変だわ…』 突如として莫大なる無数の悪食餓鬼の気配を察知したのである。 「なっ!?国全体に霊力ですと!?一大事ですね…即刻神出鬼没の悪霊を撃退しなければ被害が国全体に拡大するでしょうね…」 「悪食餓鬼が増大化した悪影響ね…」 「ですがこんなにも突発的に悪食餓鬼の大群が出現するなんて…一体何が原因なのでしょうか?」 「正直私にも何が何やら…如何してこんなにも悪食餓鬼の大群が各地の村里に出現しちゃったのかしら?」 すると桜花姫は八正道に協力を要望する。 「八正道様?」 「如何されましたか?桜花姫様?」 「今回ばかりは八正道様の協力が必要不可欠なのよ…正直今回の悪霊征伐は私だけで解決するのは心細いのよね…」 正直今回も単独で悪霊事件を解決させたい桜花姫であるが…。先程の予想外の悪戦苦闘によって桜花姫は極度に心細くなる。 「勿論ですとも♪桜花姫様♪」 桜花姫の要望に八正道は大喜びで承諾したのである。 「私は是非とも桜花姫様に協力しますよ♪何よりも神出鬼没の悪霊は放置出来ませんからね…」 「八正道様と一緒なら心強いわ♪」 「私と一緒に極悪非道の悪霊を征伐しましょう!桜花姫様!」 二人は早速行動を開始する。
第十五話
敗走 移動を開始してより一時間が経過したのである。桜花姫と八正道は増大化した無数の霊力を感じる東国へと到達…。 「城下町の中心街みたいね…」 「潜入しましょう…」 二人は警戒した様子で恐る恐る城下町の中心街に潜入したのである。東国の絶景は全域が主戦場であり城下町の地面には腐敗した無数の肉片は勿論…。散乱した血塗れの臓器やら血肉が無数に確認出来る。 「本物の地獄絵ですね…桜花姫様…東国の城下町では一体何が?」 先程遭遇した悪食餓鬼の大群が無数に出現したのである。悪食餓鬼は大勢で逃走中の町民達に殺到…。彼等は人間の血肉を無我夢中に捕食したのである。 「町民達が…」 八正道は前代未聞の惨劇に戦慄する。 「彼等にとって人間の血肉は嗜好品だからね…」 すると徘徊中の無数の悪食餓鬼が移動中の桜花姫と八正道に殺到し始める。 「桜花姫様!?悪食餓鬼が!」 彼等は大勢で襲撃するものの…。 「止むを得ないわね…」 桜花姫が念力の妖術を発動すると悪食餓鬼の大群は容易に瞬殺される。 「鬱陶しい悪霊だわ…」 桜花姫と八正道の地面周辺には悪食餓鬼の血肉やら体内の臓器が無数に散乱する。 『桜花姫様は直接手出ししなくとも悪霊を確実に征伐出来るなんて…妖術とは摩訶不思議ですが私が想像する以上に荒唐無稽なのですね…』 八正道は桜花姫の天道天眼の効力に驚愕したのである。 「桜花姫様の妖力を肉眼で拝見しましたが…こんなにも天下無双とは非常に心強いですな…」 「私にとって悪食餓鬼は大群でも片手間よ♪」 「なっ!?こんな大群を相手に片手間ですと!?」 『ですが桜花姫様の妖力がこんなにも強力であれば私の協力なんて無意味なのでは?正直悪霊征伐なら桜花姫様だけで事足りるでしょうね…』 八正道は内心最上級妖女の桜花姫には同行者の協力は不必要なのではと感じる。 「鬱陶しい奴等ね…」 桜花姫は苛立った様子であり町民達の血肉を無我夢中に捕食し続ける悪食餓鬼の大群に猛反撃したのである。無数の悪食餓鬼の頭部を念力の妖術によって破裂させる。頭部が破裂した悪食餓鬼は途端に身動き出来なくなる。 「相手が微弱の悪食餓鬼であれば…桜花姫様の妖力は天下無敵ですね♪」 「私にとって悪食餓鬼なんて問題外よ…」 最上級妖女の桜花姫にとって其処等の悪霊やら通常の妖女であれば滅法天下無双であるものの…。 『悪食餓鬼が問題外でも…妖力の消耗戦で私自身疲弊状態なのよね…』 先程の予想外の悪戦苦闘により妖力の消耗戦が影響したのか息苦しい深呼吸が目立ったのである。 「桜花姫様?」 「何かしら…八正道様?」 「大丈夫ですか?何やら桜花姫様の顔色が…」 八正道は息苦しそうに深呼吸し続ける桜花姫を心配する。 「別に…私なら大丈夫よ…八正道様…」 「ですが桜花姫様の顔色が…」 桜花姫は内心過剰に心配する八正道が口煩いと感じる。 「八正道様は人一倍心配性なのね…」 『桜花姫様…空元気ですね…本当に大丈夫なのでしょうか?』 今現在の桜花姫が空元気なのは一目瞭然である。 「八正道様が心配しなくても私なら大丈夫よ…」 桜花姫は苦し紛れであるが自身は大丈夫であると断言する。 「心配したって仕方ないわ…兎にも角にも…城下町の中心地に直行しましょう…」 「勿論ですとも…桜花姫様…」 二人は移動を開始してより数分後…。中心地区域内に到達したのである。 「桜花姫様…城下町の中心地に到達しました…」 「城下町の中心地?」 二人は城下町の中心地区域内へと到達するものの…。 「城下町は無人地帯だわ…人気は感じられないわね…」 東国の町民達は誰一人として確認出来ない。 「町民達の居場所は?」 「東国の町民達は武士団の本拠地である根城へと避難されたみたいですね…最早東国全域が大勢の亡者達によって占拠されましたからね…最早城下町には神出鬼没の悪霊以外は存在しません…」 「城下町は悪霊の魔窟なのね…」 すると八正道は桜花姫に助言する。 「桜花姫様の妖術は変幻自在かも知れませんが…先程の小面袋蜘蛛みたいな最上級の悪霊にでも遭遇すれば確実に苦戦するでしょう…桜花姫様には護身用の装備品が必要不可欠かと…油断大敵ですよ…」 「護身用の装備品ですって?」 「備えあれば患いなしですよ…武士団の駐屯地で装備品を確保しましょう…私が道案内しますから…」 八正道は桜花姫を道案内…。彼女と一緒に武士団の駐屯地へと移動したのである。二人が移動を開始してより数分後…。桜花姫と八正道は武士団の駐屯地に到達する。 「此処が武士団の駐屯地かしら?無人の廃屋っぽいわね…」 「武士団の駐屯地も悪食餓鬼の大群に占拠されましたからね…」 二人は恐る恐る無人の駐屯地へと潜入したのである。 「武士団は撤退しちゃったのかしら?」 駐屯地は無人化した廃屋であり東国武士団の守備隊は悪食餓鬼の猛攻撃によって危機一髪撤退…。彼等は一時的に本拠地である武士団の根城へと退却したのである。 「彼等は此処を放棄したのでしょうね…」 通路は血塗れの刀剣やら甲冑が彼方此方に散乱…。人気は皆無である。 「如何やら今回は空前絶後の非常事態みたいね…」 「何しろ今回の相手は神出鬼没の悪霊ですからね…」 二人は桃源郷神国が滅亡するのは時間の問題であると実感する。 「武士団の守備隊が少数精鋭であったとしても現実的に無数の悪霊を撲滅させるなんて夢物語でしょう…ですが彼等が撤退した恩恵によって武器庫へは容易に潜入出来ましたからね…」 最早守備隊の駐屯地は無防備の状態であり非武装の町民達でも容易に潜入出来る。 「駐屯地への行き来は自由に出来そうね…」 「先程は私も駐屯地の武器庫で榴弾砲を確保出来ましたからね…」 桜花姫と八正道は恐る恐る無人の武器庫へと入室する。武器庫には多種多様の火縄銃やら手榴弾は勿論…。 「異国の銃火器ばかりだわ…此処は武器屋かしら?」 異国で購入された最新式の散弾銃やら携帯式の迫撃砲が無尽蔵に確認出来る。 「桜花姫様?連発銃なんて如何でしょうか?」 「連発銃ですって?」 「連発銃であれば誰でも手軽に扱えるでしょう…護身用で使用するのであれば持って来いですね…」 八正道は軽量化された携帯式の連発銃を桜花姫に手渡したものの…。 「八正道様…残念だけど私には連発銃は相応しくないわね…」 「桜花姫様?」 桜花姫は連発銃の使用を拒絶する。 『私自身砲術は未経験だからね…連発銃なんて代物は私には扱えないわ…』 基本的に荒唐無稽の妖術を駆使する桜花姫にとって自身の肉体を行使する砲術やら武芸は不向きであり連発銃の使用法は滅法専門外の領域である。 『短刀の懐刀だったら愚鈍の私でも…』 桜花姫は体術やら武術を多用する兵法は不向きであるものの…。比較的誰にでも扱えそうな短刀の懐刀を護身用に所持する。 「八正道様…即刻武器庫から脱出しましょう…」 「承知しました…桜花姫様…」 すると通路より物音が響き渡る。 『通路から物音だわ…相手は悪食餓鬼かしら?』 「気になるわね…移動しましょう…」 通路より無数の霊力を察知したのである。 『無数の霊力が密集した状態だわ…正体は何かしら!?』 桜花姫は恐る恐る武器庫から脱出…。物音の正体に桜花姫は驚愕する。 『怪物!?』 通路に佇立する正体不明の怪物とは無数の悪食餓鬼が融合化した一頭身の肉団子の悪霊である。 『此奴は悪食餓鬼とは別物だわ…悪霊の変異体かしら?』 姿形のみなら肉団子を連想させる一頭身の肉塊人間であるものの…。巨体の体格であり全身の皮膚の表面には醜悪なる悪食餓鬼の顔面が無数に確認出来る。 『先程から感じる無数の霊力って…肉団子の怪物だったのね…』 八正道も恐る恐る武器庫から退室する。 「ひょっとして悪霊の【百鬼悪食餓鬼】では?」 「百鬼悪食餓鬼ですって?」 「悪食餓鬼の集合体でしょうね…」 「悪食餓鬼の集合体?」 八正道は桜花姫に解説したのである。百鬼悪食餓鬼とは通常の悪食餓鬼の亜種とされる強化型の悪霊であり別名としては悪食餓鬼の親玉やら疫病神の集合体とも呼称される。特徴的なのは一頭身の巨体は勿論…。全体像の皮膚の表面には数十体から数百体もの悪食餓鬼の頭部やら顔面が全身の彼方此方に確認出来る。 「征伐された彼等の…無数の悪食餓鬼の怨恨が具現化した悪霊の親玉でしょうね…」 「無数の悪食餓鬼の怨恨が具現化ですって…」 図体は等身大の人間と同程度であり一体のみの悪食餓鬼の霊力は非常に微弱であるものの…。百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の集合体であり霊力のみなら非常に強力である。 「傍迷惑なのが出現したわね…こんな場所で親玉の百鬼悪食餓鬼と遭遇するなんて私達は不運だわ…」 悪食餓鬼の大群が無数に融合化した影響によって最上級妖女である桜花姫も百鬼悪食餓鬼から恐る恐る後退りする。 『畜生…私が万全の状態であれば…悪食餓鬼の集合体なんて片手間の妖術で仕留められちゃうのに…』 桜花姫は妖力の消耗戦により百鬼悪食餓鬼との徹底抗戦は非常に難局である。 『迂闊にも小面袋蜘蛛から大量の妖力を消耗させられちゃったからね…』 すると百鬼悪食餓鬼の全体像から確認出来る表面の悪食餓鬼の口辺より超高温の熱風を放射する。桜花姫は咄嗟に霊力の防壁を発動…。同行者である八正道にも妖力の防壁を発動したのである。 「八正道様…命拾い出来たわね♪」 危機一髪百鬼悪食餓鬼の熱風から彼を守護する。 「感謝しますよ♪桜花姫様♪即刻ですが桜花姫様の強大なる妖術で集合体の百鬼悪食餓鬼に猛反撃しちゃいましょう♪」 八正道は桜花姫の妖術に期待したのである。 「えっ…」 『八正道様…』 一方の桜花姫は苦笑いし始める。 「桜花姫様が天下無敵の妖術を駆使しちゃえば集合体の百鬼悪食餓鬼だって容易に撃退出来るでしょう!百鬼悪食餓鬼を征伐するのです!」 八正道は桜花姫の猛反撃に期待するのだが…。 「八正道様…御免あそばせ…」 桜花姫は苦笑いした表情で八正道に謝罪したのである。 「えっ?桜花姫様…如何されたのですか?何故私に謝罪を…」 八正道は苦笑いの表情で謝罪する桜花姫に恐る恐る問い掛ける。 『先程の妖力の防壁で私の妖力が空っぽの状態なのよね…正直こんな状態では百鬼悪食餓鬼に反撃なんて出来ないわね…』 桜花姫は妖力が空っぽの状態であり百鬼悪食餓鬼と応戦としたとしても敗戦は確実であると判断したのか苦し紛れに…。 「八正道様!即刻だけど…一か八か駐屯地から脱出しましょう!」 不本意であるものの桜花姫は八正道に逃走を合図したのである。 「えっ?桜花姫様?脱出ですと?」 八正道は桜花姫の突然の逃走合図に一瞬困惑するのだが…。 『桜花姫様…仕方ないですね…』 桜花姫の表情から八正道は咄嗟に掌握する。 「承知しました!桜花姫様…一時的に退却しましょう!」 桜花姫と八正道は全力疾走により駐屯地から無事脱出出来たのである。桜花姫は恐る恐る背後を警戒…。 『脱出には成功出来たけれど…』 悪霊の襲撃に注意深く用心したのである。 「八正道様…危機一髪だったわね♪」 「ですが如何して桜花姫様は逃走を判断されたのですか?最上級妖女の桜花姫様が悪霊を相手に敵前逃亡なんて桜花姫様らしくないですね…」 八正道は桜花姫に逃走した理由を恐る恐る問い掛ける。 「桜花姫様が天下無敵の妖術を駆使すれば…悪食餓鬼の集合体である百鬼悪食餓鬼と交戦したとしても容易に撃退出来るのでは?」 「度重なる消耗戦で妖術が発動出来なくなったのよ…こんな空っぽの状態で百鬼悪食餓鬼と徹底抗戦なんて無謀だわ…自害するのと一緒よ…」 度重なる妖力の消耗戦によって桜花姫は満身創痍の状態だったのである。妖力を消耗した状態では圧倒的に不利であり悪食餓鬼の集合体である百鬼悪食餓鬼は勿論…。相手が格下とされる悪食餓鬼の大群だったとしても絶体絶命である。 「人間の八正道様は勿論…最上級妖女の私だって確実に瞬殺されるでしょうね…妖力が空っぽの状態なら…」 「えっ…最上級妖女の桜花姫様が悪霊を相手に瞬殺されるなんて…正直信じ難いのですが…」 『桜花姫様は先程から随分と弱気ですね…』 八正道は桜花姫が非常に弱気であると感じるものの…。桜花姫は息苦しく深呼吸したのである。 『桜花姫様…本当に重苦しい様子ですね…相当手一杯だったのでしょうか?』 八正道は恐る恐る…。 「桜花姫様…如何やら妖力が消耗されたのは本当みたいですね…」 八正道は桜花姫の状態を理解する。 「御免なさいね…八正道様…」 一方の桜花姫は八正道に謝罪したのである。 「何も謝罪されなくても…桜花姫様…」 「大半の妖力を消耗した状態では悪食餓鬼の大群を相手するのも正直悲痛なのよね…西国の…〔精霊故山〕の露天風呂にでも入浴出来れば妖力の問題は解決するのだけど…」 「精霊故山の露天風呂ですか?」 精霊故山とは西国に聳え立つ丘陵地であり俗界の温泉郷と命名される。人外の妖女にとって精霊故山の露天風呂は消耗した妖力を回復させられる正真正銘の妖力補給所であり俗界の極楽浄土である。 「西国の露天風呂なら思う存分に妖力を回復させられるのよね…」 「西国は俗界の温泉郷との異名ですからね…常日頃の疲労を回復させるのに温泉は最適ですね♪」 西国は桃源郷神国唯一の温泉郷とも呼称されるものの…。不運にも東国から片田舎の西国は遠距離である。 「距離的にも西国の村里からは遠距離なのよね…」 困惑し続ける桜花姫と八正道であるが…。 「桜花姫様!?百鬼悪食餓鬼ですよ!私達に接近中です!」 二人の背後より先程遭遇した百鬼悪食餓鬼が二人に接近する。 「彼奴…私達を追尾したみたいね…」 『如何やら私達に選択肢は皆無みたいだわ…西国の村里に戻りましょう…』 桜花姫と八正道は止むを得ず一目散に逃走したのである。 「八正道様…超特急で西国の村里に戻りましょう…」 桜花姫は不本意であるが…。一時的に西国への撤収を決意する。 「承知しました!桜花姫様!」 二人は恐る恐る悪霊の襲撃を警戒…。山中の獣道にて西国へと全力疾走したのである。親玉の百鬼悪食餓鬼は勿論…。百鬼悪食餓鬼の格下とされる悪食餓鬼の身動きは非常に鈍足であり彼等から追尾されなかったのである。
第十六話
妖獣 桜花姫と協力者の八正道が百鬼悪食餓鬼から逃走する同時刻…。北国のとある山奥の山道での出来事である。蛇神の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫は旅先にて悪食餓鬼の大群に追撃され…。彼等から必死に逃亡したのである。 「ぐっ!」 獣道の道中にて蛇体如夜叉は地面に横たわる。 「蛇体如夜叉婆ちゃん!大丈夫!?」 蛇体如夜叉は北国の山奥にて悪食餓鬼の大群から必死に逃走中…。蛇体如夜叉は極度の腰痛により身動き出来なくなる。 「御免よ…小猫姫…」 蛇体如夜叉は小猫姫に謝罪する。 「畜生が…」 『こんな状況下で腰痛なんて…不運だね…私は…』 蛇体如夜叉は自分自身に呆れ果てる。 「蛇体如夜叉婆ちゃん!悪食餓鬼の大群が!奴等に食い殺されちゃうよ!」 すると彼女達の背後より無数の悪食餓鬼が急接近したのである。 「はぁ…」 背後の光景に蛇体如夜叉は絶望する。 『如何やら今日が…私の命日かね…』 蛇体如夜叉は恐る恐る背後の悪食餓鬼の大群を直視する。 『今回の大騒ぎは五百年前の悪霊大事件を想起するね…当時の再現だろうかね?今回は何者の…仕業だろうかね?』 太古の五百年前にも全国規模で同様の大規模悪霊事件が発生したのである。 「小猫姫…残念だけど…本日で神族も絶滅するかも知れないね…」 蛇体如夜叉は小声で発言する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…」 「小猫姫…」 蛇体如夜叉は自身の死期を覚悟したのである。 「小猫姫…あんただけでも此処から逃げな…」 すると小猫姫は無表情で…。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…私は…」 「如何したのかい?小猫姫?」 小猫姫の体内より強大化した妖力を感じる。 「えっ!?小猫姫!?」 『小猫姫の肉体から強大化した妖力を感じられるね…一体彼女の体内で何が発生したのか?』 小猫姫の全身の皮膚から秘められた妖力が表面化したかと思いきや…。表面化した妖力が蛍光色に発光し始める。 『肉眼でも小猫姫の妖力が直視出来るなんて…』 今現在の小猫姫の妖力は非常に絶大であり肉眼でも彼女の体内に秘められた潜在的妖力が直視出来る。 「小柄の小猫姫に…こんなにも潜在的妖力が…」 『ひょっとすると小猫姫は妖力だけなら幼少期の桜花姫ちゃんに匹敵するかも知れないね…』 蛇体如夜叉は小猫姫の潜在的妖力に驚愕したのである。すると小柄だった小猫姫の肉体に変化が発生し始め…。彼女は神獣を連想させる伝説の妖獣へと変化したのである。 「ひょっとして伝説の…妖獣!?」 『子供の小猫姫が…伝説の妖獣に変化出来るなんて…』 小猫姫の潜在的能力に蛇体如夜叉は勿論…。悪霊の悪食餓鬼でさえも伝説の妖獣へと変化した小猫姫に愕然とする。 『悪霊でも恐怖するとは…』 彼等は妖獣形態の小猫姫に畏怖した様子であり一瞬後退り…。蛇体如夜叉は悪食餓鬼の反応に意外であると感じる。 『小猫姫…迫力だけなら桜花姫ちゃん以上だね…』 一方の小猫姫は背後の蛇体如夜叉を凝視する。 「私はこんな場所で蛇体如夜叉婆ちゃんを絶対に死なせないからね…神族は絶滅させないから安心してね…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 小猫姫は神族の絶滅を否定したのである。 「小猫姫…あんたは…」 小猫姫は再度前方の悪食餓鬼を凝視…。睥睨したのである。 「あんた達!私の蛇体如夜叉婆ちゃんには…誰一人として手出しさせないからね!覚悟しなよ!」 伝説の妖獣に変化した小猫姫は悪食餓鬼の大群へと力一杯突進…。真正面に位置する数体の悪食餓鬼を力任せに撃退する。極度に腐敗した悪食餓鬼の肉体は非常に脆弱であり伝説の妖獣に変化した小猫姫が力一杯突進するだけで容易に粉砕されたのである。悪食餓鬼の大群が再度妖獣の小猫姫に殺到するものの…。小猫姫は口先を開口すると体内の妖力を凝縮させる。すると直後…。小猫姫は口先から高熱の雷球を射出したのである。高熱の雷球により獣道は焦土化…。悪食餓鬼の大群を一瞬で消滅させ獣道の推定二町規模の界隈が焦土化したのである。 『小猫姫…一撃で悪食餓鬼の大群を一掃するなんてね…』 蛇体如夜叉は小猫姫の絶大なる破壊力に驚愕する。圧倒的妖力により悪食餓鬼の大群を消滅させた小猫姫であるが…。小猫姫は莫大なる妖力の消耗によって元通りの少女の姿形へと戻ったのである。 「はぁ…はぁ…」 彼女は精神的にも肉体的にも疲弊したのか地面に横たわる。 「小猫姫!?大丈夫かい!?」 蛇体如夜叉は地面に横たわった状態の小猫姫を心配したのである。すると小猫姫は疲れ果てた表情で返答する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…私なら大丈夫だよ…疲れ果てただけだから…妖力を消耗しちゃったな…」 「小猫姫…」 『あんたは未熟なのに無茶しちゃって…』 小猫姫の様子に蛇体如夜叉は一安心したのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?桜花姫姉ちゃんは…大丈夫かな?」 彼女は桜花姫が大丈夫なのか非常に気になる。 「桜花姫ちゃんなら恐らく…小猫姫が心配しなくても大丈夫だよ♪桜花姫ちゃんの場合妖女は妖女でも最上級の妖女だからね♪彼女の妖力は其処等の妖女とは別格だよ…」 蛇体如夜叉は満面の笑顔で断言する。 「桜花姫姉ちゃんなら…私が心配しなくても大丈夫だよね♪」 「桜花姫ちゃん…彼女なら今頃は…」 蛇体如夜叉は桜花姫の行動を想像したのである。
第十七話
精霊故山 小猫姫が悪食餓鬼の大群を一掃してより同時刻…。桜花姫と八正道は無事に西国の村里へと到達する。 「如何やら西国に到達したみたいですね♪西国は桜花姫様の祖国ですか?」 「勿論よ♪無事に西国に戻れたから一安心だわ…」 時間帯は真夜中であり物静かな暗闇の夜空を眺望すると桜花姫と八正道は一安心したのである。 「夜空だわ…」 「星空が非常に神秘的ですね…」 桜花姫と八正道は物静かな夜空を眺望し続ける。すると八正道は笑顔で…。 「西国は悪食餓鬼の大群による襲撃は皆無だったみたいですね♪桜花姫様の祖国が無事なので一安心ですよ♪」 西国の村里は片田舎であり過疎地である。総人口も比較的少数であり神出鬼没の悪食餓鬼も片田舎の西国へは襲撃せず…。二人は西国が武陵桃源であると実感する。 「油断大敵だけれどね…西国は正真正銘武陵桃源だったみたいだわ…」 桜花姫と八正道は桜花姫の自宅の近辺に隣接する近山…。精霊故山へと直行する。 「此処が目的地の精霊故山よ…」 「精霊故山とは…こんなにも低山だったのですね…」 八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「ですが精霊故山の露天風呂なんかで…先程の戦闘により消耗された妖力を回復させられるのでしょうか?」 「精霊故山の露天風呂は私達妖女にとって極楽浄土だからね♪精霊故山の露天風呂なら消耗しちゃった妖力だって思う存分に回復させられるわ♪」 精霊故山は全体的に物静かな雰囲気であるが桜花姫は極度に周囲を警戒…。恐る恐る精霊故山の天辺へと到達したのである。 「桜花姫様…此処が精霊故山の露天風呂なのですね…」 精霊故山の天辺中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。 「精霊故山は本物の幻想郷みたいですね♪」 「精霊故山は神秘の場所なのよ♪私にとって精霊故山の露天風呂で入浴するのが毎晩の醍醐味だからね♪」 桜花姫は毎晩精霊故山の露天風呂で入浴するのが一日の日課である。 「自然界での入浴とは非常に健康的ですからね♪」 すると彼女は人前であるものの…。 「兎にも角にも♪」 特段気にならなかった様子であり着物を脱衣し始めたのである。 「なっ!?桜花姫様!?一体何を…」 八正道は突如として公明正大に着物を脱衣し始める桜花姫に驚愕…。 「桜花姫様…」 突然の桜花姫の行動に八正道は動揺し始める。 「えっ?何かしら?八正道様…」 桜花姫は無表情で返答したのである。 「桜花姫様は…人前で何を!?」 一方の彼女は平気そうな表情で…。 「何って…私は入浴するから着物を脱衣しただけよ…えっ?八正道様にとって不都合かしら?」 「えっ…別に不都合では…」 桜花姫は全裸の状態であり八正道の表情が赤面し始める。すると赤面した八正道の苦し紛れの反応に桜花姫は満面の笑顔で…。 「八正道様は大袈裟ね♪」 桜花姫は赤面する八正道の様子に微笑ましくなる。 『生真面目の八正道様も悩殺しちゃったわね♪私は脱衣しただけだけど♪』 八正道は人前で脱衣しても平常心である桜花姫に愕然とする。 「私にとって八正道様は特別だから大丈夫なのよ♪別に全裸だからって私は気にしないから…」 「気にしないって…人外の妖女であっても桜花姫様は正真正銘女性なのですよ…」 桜花姫は全裸の状態であろうとも平常心の様子だったのである。 「私自身全裸でも特段気にならないのよね♪人前で全裸だからって何よ?八正道様は大袈裟ね♪」 「妖女とは…」 『妖女は超自然的存在ですが…私達人間とは感覚が別次元なのでしょうね…やっぱり妖女って私が想像する以上に摩訶不思議ですね…』 八正道は摩訶不思議の妖女が人間とは異質的であると再認識する。 「折角だからね♪早速変化の儀式を発動するわよ…」 「変化の儀式ですと?桜花姫様は一体何を開始されるのでしょうか?」 すると桜花姫の全身の皮膚が虹色に変化したかと思いきや…。 「なっ!?桜花姫様!?」 八正道は強烈なる無数の発光体によって両目を瞑目させる。すると桜花姫の血紅色であった両目が瑠璃色へと変化したのである。直後…。彼女の下半身が銀鱗の大魚へと変化し始める。桜花姫は人間の女性から美貌を感じさせる人魚の肉体へと変化したのである。黒毛だった頭髪が銀髪へと変色する。 「えっ…魚体?」 『桜花姫様の肉体が…本物の人魚に!?』 変化の妖術は変幻自在の妖術であり万物の物体を別物に変化させられるが…。自分自身の肉体さえもあらゆる動植物やら器物に変化させられる。雰囲気の一変した彼女に八正道は驚愕の様子であるものの…。 『非常に魅力的ですな…桜花姫様♪』 内心人魚に変化した桜花姫に見惚れる。 「八正道様♪如何かしら♪」 人外の人魚に変化した桜花姫は普段の体格を一回り上回る程度の巨体である。彼女は人魚の状態で露天風呂に入浴したのである。 『桜花姫様が人外の人魚に変化出来る理由とは天道天眼の効力なのでしょうか?』 「桜花姫様は妖術で人魚にも変化出来るのですね…」 「私の母様が人魚の血筋だからね♪」 彼女の母親である月影春海姫は純血の人魚の血筋であり桜花姫自身も春海姫の血筋に影響されたのか人魚に変化出来る。 「折角だからね♪八正道様も私と一緒に混浴しないかしら?適度の湯加減よ♪」 「えっ!?」 八正道は混浴の一言に反応…。驚愕したのである。 「私が桜花姫様と混浴ですと!?」 八正道は桜花姫に満面の笑顔で混浴を歓迎されたものの…。 「桜花姫様…生憎なのですが今回ばかりは桜花姫様との混浴は遠慮しますよ…」 八正道は緊張したのか今回ばかりは彼女との混浴を拒否したのである。 「私は無事超常現象が解決してから桜花姫様と一緒に混浴でも♪」 八正道は赤面した様子で返答する。 「八正道様は遠慮深いのね♪」 桜花姫は満足気の様子である。度重なる悪戦苦闘により消耗した妖力が彼女の体内に蓄積され…。万全の状態へと戻ったのである。 『如何やら温泉の効力で桜花姫様の妖力が回復したみたいですね…』 八正道は露天風呂の水面下で水遊びする桜花姫を見守り続けるものの…。 『今更なのですが…』 八正道は後悔したのである。 『私も桜花姫様と一緒に混浴したかったな…如何して私は折角の機会なのに遠慮しちゃったのか…』 無我夢中に水遊びする桜花姫の様子を注視し続けると内心彼女と混浴したくなる。 「やっぱり精霊故山の露天風呂は極楽浄土だわ…先程の悪戦苦闘が単なる悪夢だったって感じられるのよね…」 桜花姫は先程の戦闘が悪夢だったと感じる。 「ですが桜花姫様は今後如何されるのですか?悪食餓鬼の大群は勿論ですが…百鬼悪食餓鬼の暴走を黙殺し続ければ国全体が彼等に占拠されましょう…」 八正道は東国の城下町の状況が気になり騒然とする。 「体力と妖力を回復させたら即刻猛反撃するからね♪私が全身全霊で悪食餓鬼の大群と親玉の百鬼悪食餓鬼を蹴散らしちゃうわよ!」 「であれば桜花姫様の反撃を期待しますよ…」 八正道は桜花姫の反撃を期待したのである。 「もう少しだけ入浴させてね…」 桜花姫は真夜中の夜空を眺望する。
第十八話
別行動 入浴し始めてより数分後…。 「妖力と体力が戻ったわ♪」 温泉の効力によって桜花姫は消耗した妖力と体力が完全に回復したのである。 「変化の妖術を解除するわね♪」 桜花姫は変化の妖術を解除…。桜花姫は一瞬で人魚の状態から人間の姿形へと戻ったのである。 「桜花姫様♪元通りに戻りましたね♪」 入浴終了後…。桜花姫は即座に脱衣した着物を着衣する。 「八正道様…妖力は万全よ!万全の状態なら悪食餓鬼の大群は勿論…親玉の百鬼悪食餓鬼が襲撃したとしても容易に撃退出来るわ!」 「如何やら本調子が戻ったみたいですね♪桜花姫様♪」 「八正道様♪」 桜花姫は満面の笑顔で八正道に接触したのである。 「えっ?桜花姫様?」 直後…。桜花姫と八正道は一瞬で東国の国境へと到達したのである。 「えっ!?此処は東国の国境!?」 八正道は驚愕し始める。 「如何して私はこんな場所に…」 「瞬間移動の妖術…成功ね♪」 「瞬間移動の妖術ですと?」 桜花姫は小面袋蜘蛛との戦闘で使用した瞬間移動の妖術を駆使…。二人は一瞬で西国の村里から東国郊外へと移動したのである。 「やっぱり桜花姫様の妖術は摩訶不思議ですね…」 「私は万全の状態だからね♪」 すると八正道は突発的に彼女に提案したのである。 「桜花姫様?突発的なのですが…此処から別行動は如何でしょうか?」 「別行動ですって?」 「桜花姫様は東国の城下町に出現した悪食餓鬼の大群と彼等の親玉である百鬼悪食餓鬼の征伐に全身全霊を…私は彼等の大群が出現した主要因を徹底的に探索します…」 「百鬼悪食餓鬼は勿論…東国の城下町には神出鬼没の悪食餓鬼の大群が徘徊中なのよ…人間の八正道様が単独で出歩くのは自害するのと一緒だわ…私と一緒に行動しましょうよ…一人で行動するのは危険過ぎるわ…」 桜花姫は非常に危惧するものの…。 「桜花姫様♪私は先程武器庫で無尽蔵の弾薬と護身用の連発銃を確保出来ましたからね♪心配せずとも私なら大丈夫ですよ…」 八正道は大丈夫であると断言する。今現在の八正道は完全武装の状態であり悪食餓鬼程度の悪霊なら容易に撃退出来る。 「悪霊が大群であれば即座に避難するのよ…八正道様…」 「承知しました…桜花姫様…」 八正道は桜花姫の心配事を把握…。恐る恐る東国の城下町へと戻ったのである。此処から桜花姫と八正道は本格的に別行動を開始する。 「八正道様は単独で大丈夫かしら…」 『八正道様が心配だわ…』 桜花姫は八正道が単独で大丈夫なのか非常に不安視したのである。 『私に妖力が戻ったし…』 桜花姫は十八番の天道天眼を発動…。東国の中心街を徘徊する悪食餓鬼の大群と百鬼悪食餓鬼の居場所を察知する。 『百鬼悪食餓鬼の気配を感じるわ…』 通常の悪食餓鬼と比較して百鬼悪食餓鬼の霊力は規格外であり周辺には無数の悪食餓鬼が徘徊中であるものの…。容易に百鬼悪食餓鬼の居場所を特定出来る。 「百鬼悪食餓鬼だけは規格外だからね…霊力が目立ち過ぎだわ…」 『百鬼悪食餓鬼は霊力が強力過ぎるから容易に居場所を特定化出来るのよね♪』 桜花姫は即座に東国の城下町へと直行する。獣道にて徘徊中の無数の悪食餓鬼に遭遇するものの即座に念力の妖術を発動…。容易に徘徊中の彼等を蹴散らしたのである。 『周辺の妨害者達が鬱陶しいわね…』 無数の悪食餓鬼が大勢で殺到するものの…。彼女の本体に接触する直前に彼等の肉体が念力の妖術によって粉砕されたのである。温泉の効力からか先程よりも桜花姫の妖力が増強化する。移動してより数分後…。 『百鬼悪食餓鬼は中心街で徘徊中みたいね…』 桜花姫は東国の中心街へと到達する。 『百鬼悪食餓鬼は私が仕留めるからね♪』 「覚悟しなさいよ…」 桜花姫は恐る恐る東国の中心街へと潜入したのである。 「えっ…」 『町民達だわ…』 中心街は悪食餓鬼の大群に襲撃され…。 『非常に心苦しい光景ね…』 惨殺された町民達の血肉やら無数の肉片が彼方此方に散乱する。 「気の毒に…」 『彼等は悪食餓鬼の襲撃によって惨殺されたのね…』 すると地面に横たわった状態の町民達が突発的に身動きし始めたのである。彼等は通行中の桜花姫に殺到する。 「きゃっ!」 桜花姫は咄嗟に念力の妖術を発動…。 『生身の人間が相手なのは不本意だけどね…』 「あんた達…死滅しなさい!」 不本意であるが桜花姫は殺到する町民達の腹部を念力の妖術で破裂させたのである。町民達を仕留めたかと思いきや…。 「えっ!?」 念力の妖術で仕留められた町民達は上半身のみの状態で身動きしたのである。 『彼等は…上半身だけで身動き出来るなんて…』 彼等は上半身のみの状態で桜花姫に急接近する。桜花姫は即座に念力の妖術を再活用…。悪食餓鬼へと変化した村人達の頭部を粉砕したのである。 『彼等も…脳味噌を粉砕しちゃえば身動き出来なくなるみたいね…』 町民達は頭部を粉砕された影響からか身動きしなくなる。 『如何して悪食餓鬼に食い殺された町民達が身動きしたのかしら?』 桜花姫は何故悪食餓鬼によって殺害された町民達が突発的に身動きしたのか思考したのである。 『ひょっとすると悪食餓鬼に食い殺された人間も…悪食餓鬼の仲間として復活するのかしら?』 「悪食餓鬼の毒素は想像以上に厄介そうね…再起不能の疫病みたいだわ…」 通常の悪食餓鬼であれば捕食されても悪食餓鬼には変化しなかったが…。今回の天災地変で出現した悪食餓鬼は強毒性なのか今迄に出現した悪食餓鬼とは完全に別物だったのである。彼等に捕食…。殺害された人間は悪霊の悪食餓鬼として復活するのである。 『悪食餓鬼に襲撃された人間達が悪霊の悪食餓鬼として復活するのであれば相当厄介だわ…』 今回の悪霊大事件は今迄とは桁外れの被害が予想される。 『東国は勿論…最悪桃源郷神国が滅亡するかも知れないわね…』 最早祖国存亡の瀬戸際であり最悪の場合…。悪食餓鬼の増大化による桃源郷神国の滅亡が危惧される。 「えっ…」 すると突発的に胸騒ぎを感じる。 『霊力かしら!?』 彼女の背後には無数の人面が融合化した百鬼悪食餓鬼が佇立する。 『百鬼悪食餓鬼だわ…こんな場所で再会するなんてね…』 百鬼悪食餓鬼の無数の人面が桜花姫を睥睨の眼力で凝視し始め…。全身の体表から超高温の熱風を放射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。放射された超高温の熱風から本体を防備したのである。 『危機一髪だったわね♪』 天道天眼の効力により百鬼悪食餓鬼の頭頂部から雷撃の妖術を発動する。 「あんたは死滅しなさい!百鬼悪食餓鬼…」 すると高熱の落雷によって地面は陥没…。百鬼悪食餓鬼の肉体が粉砕される。 『百鬼悪食餓鬼を仕留めたかしら?』 落雷で粉砕された無数の肉片が小柄の人型を形成し始めたかと思いきや…。無数の悪食餓鬼へと分裂したのである。 『粉砕された肉片が無数の悪食餓鬼に分裂したのね…』 桜花姫は超高温の火炎の妖術を発動…。 『亡者達…あんた達も成仏しなさい…』 分裂した悪食餓鬼の大群を火炎の妖術で焼殺する。火炎の妖術により悪食餓鬼の大群は数秒間で完全焼失したのである。 『悪食餓鬼は焼失したわね…楽勝だったわ♪』 桜花姫は手応えを感じる。 『八正道様は大丈夫かしら?』 桜花姫は八正道が無事なのか如何なのか非常に気になる。
第十九話
元凶 桜花姫が百鬼悪食餓鬼を仕留めた同時刻…。八正道は無事に東国の住宅街へと到達したのである。各家屋敷の路地裏を移動中…。 「ん?彼女は…」 『町内の女性みたいですが…』 八正道はとある血塗れの女性と遭遇したのである。 『彼女は大怪我されたのでしょうか?』 八正道は恐る恐る血塗れの女性に近寄る。 「大丈夫ですか?」 女性は無表情であり目前の八正道を凝視し続けるだけである。 「如何されましたか?」 『失礼かも知れませんが…彼女は非常に不吉ですね…』 女性の様子は不自然であり八正道は非常に気味悪くなる。すると数秒後…。無表情の女性は突発的に卒倒したのである。 「うわっ!」 女性の突然の卒倒に八正道は驚愕する。 『一体…何が?』 恐る恐る地面に横たわった状態の彼女の皮膚に接触する。 「如何やら彼女は失血死したみたいですね…」 『女性は悪霊の猛毒によって死亡されたのでしょうか?非常に無念です…』 すると数秒後…。 「えっ…」 失血死した女性の身体髪膚が一瞬で腐敗したのである。 『肉体が一瞬で腐敗するなんて…不吉ですね…』 八正道は気味悪がる。 「ん?」 地面に横たわった状態の女性が腐敗したかと思いきや…。 「なっ!?」 『此奴は悪食餓鬼!?』 腐敗した彼女の体内から小柄の悪食餓鬼が出現したのである。 『ひょっとして悪食餓鬼によって殺害された人間は彼等と同様に悪食餓鬼として復活するのでしょうか?』 突如として女性の体内から出現した悪食餓鬼が生者の八正道を凝視…。八正道に接近し始める。 『止むを得ないですね…』 一方の八正道は即座に護身用の連発銃で悪食餓鬼の頭部を狙撃したのである。 「亡者…御免!」 悪食餓鬼は頭部を狙撃された直後に即死…。完全に身動きしなくなる。 『如何やら悪食餓鬼は即死したみたいですね…』 八正道は恐る恐る即死した悪食餓鬼の肉体に接触する。 『今回の厄災は…疫病みたいですね…』 「ん?」 すると背後より無数の殺気を感じる。 『殺気か!?』 八正道は恐る恐る背後を警戒…。背後の様子を観察したのである。 『彼等は悪食餓鬼の大群と…町民達でしょうか?』 無数の悪食餓鬼と血塗れの町民達が大勢で山奥へと移動する。 『大名行列みたいですね…』 「彼等の目的地は一体?」 彼等の行動が気になった八正道は彼等の背後から恐る恐る追尾したのである。彼等の同行を追尾してより数分後…。八正道は日和山と命名される低山へと到達したのである。日和山の天辺には虹色に光り輝く摩訶不思議の広葉樹が確認出来る。 『虹色の広葉樹とは…摩訶不思議ですな…』 広葉樹は非常に神秘的であったが…。殺伐した雰囲気も感じられる。 『無数の殺気でしょうか?人間の私でも感じられるとは…広葉樹の正体は一体?』 すると無数の悪食餓鬼と血塗れの町民達が虹色に発光する広葉樹の表面へと殺到したのである。直後…。 「なっ!?」 『樹木から…無数の触手…』 広葉樹の表面から無数の触手が出現したのである。樹木の表面に密着する悪食餓鬼と血塗れの町民達は広葉樹の表面より出現した触手によって肉体諸共捕食…。血肉は樹体へと吸収されたのである。 『広葉樹が悪食餓鬼の大群と大勢の町民達を捕食するなんて…此奴は樹木の悪霊なのでしょうか?』 数秒後…。 「えっ!?」 広葉樹の表面より無数の悪食餓鬼の集合体とされる百鬼悪食餓鬼が二体も出現したのである。 「百鬼悪食餓鬼が二体も!?」 『悪霊の親玉が二体も出現するなんて…』 八正道は目前の光景が気味悪くなり恐る恐る後退りしたのである。 『摩訶不思議の広葉樹…此奴が黄泉の亡者達を出現させた悪霊事件の元凶だったのでしょうか?』 「広葉樹が悪霊事件の元凶であれば早速!桜花姫様に報告しなくては…」 元凶の正体を明確化した八正道であるが…。突然である。 「ぐっ!」 八正道は金縛りによって全身が身動き出来なくなる。 『一体何が!?突然身動き出来なくなるなんて…金縛りでしょうか!?』 八正道は身動き出来なくなった状態から突発的に衰弱化したのである。 「ん?」 『突然眠気が…』 八正道は疲れ果てた様子で地面に横たわる。 『桜花姫様…私は…』 八正道の視界は暗闇に覆い包まれたのである。
第二十話
神通力 八正道が衰弱化した同時刻…。 『突然八正道様の気配が感じられなくなったわ…』 八正道の気配を感じられなくなった桜花姫は即座に東国近辺に位置する日和山へと急行したのである。 『八正道様は一体何に遭遇しちゃったのかしら?』 低山の日和山から悪食餓鬼の無数の霊力とは別物の神通力を感じる。 「悪食餓鬼の霊力なら感じるけれども…」 『中心部から百鬼悪食餓鬼を上回る霊力?摩訶不思議の神通力を感じるわ…』 未知なる神通力に畏怖…。全身が身震いし始める。 『神通力の正体は一体何かしら?』 すると道中である。 「えっ…悪霊かしら?」 桜花姫の背後より無数の悪食餓鬼は勿論…。二体の百鬼悪食餓鬼が出現したのである。彼等はふら付いた身動きで桜花姫に接近する。 『こんな場所に大物の百鬼悪食餓鬼が二体も出現するなんて…』 一方の桜花姫は大物の出現に大喜びしたのである。 『今日は贅沢三昧の一日だわ…』 悪食餓鬼の大群と二体の百鬼悪食餓鬼が桜花姫に殺到し始める。 『鬱陶しい奴等だわ…多勢に無勢なら♪』 こんなにも絶体絶命の状況下であるものの…。桜花姫は余裕なのか平常心の様子だったのである。 「あんた達は…桜餅に変化しなさい♪」 桜花姫は変化の妖術を発動すると無数の悪食餓鬼は勿論…。二体の百鬼悪食餓鬼を自身の大好物である高級そうな桜餅に変化させたのである。 「美味しそうな桜餅だわ♪」 『桜餅で消耗しちゃった妖力を回復させられるわね♪』 桜花姫は無尽蔵の桜餅を鱈腹頬張り始める。 『桜餅♪やっぱり美味しいわね♪』 桜花姫は無我夢中に無尽蔵の桜餅を鱈腹頬張り続けるものの…。 『私はこんな場所で桜餅を味見して如何するのよ!?八正道様の安否を確認しないと!私は馬鹿者だわ…』 すると彼女の背後より四人の匪賊達が近寄る。 「よっ♪花魁の姉ちゃんよ♪」 桜花姫は警戒した様子で背後を確認したのである。 「えっ?あんた達は…何者よ?」 四人の匪賊達は桜花姫を包囲する。 「俺達に畏怖したか?花魁の姉ちゃん♪」 「俺達は手出ししないから安心しろよ♪花魁の姉ちゃん♪」 「私が花魁ですって?」 彼等の花魁の一言に腹立たしくなる。 「私は十中八九普通の小町娘だからね…花魁なんかと勘違いしないでよね…」 桜花姫は接触する匪賊達に苛立ったのである。 『面倒臭いわね…ひょっとして彼等は命知らずの匪賊達かしら?こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…』 正直面倒だと感じるものの…。彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃である。 『武器だわ…』 桜花姫は彼等の装備品に警戒し始め…。 『非常に厄介ね…』 恐る恐る後退りしたのである。 「小町娘の姉ちゃんよ♪不用意に警戒しなくても大丈夫だからな♪俺達に大人しく金品を手渡しちまえば小町娘の姉ちゃんには手出ししないからよ♪」 「俺達は誰よりも温厚篤実の若武者だからな♪大人しく俺達に服従しろよ♪」 「小町娘の姉ちゃんだってこんな場所では手出しされたくないだろう?手出しされたくなかったら所持品の金品を手渡せよ♪」 「大人しく俺達に服従するのが無難だぜ♪如何するよ?小町娘の姉ちゃん♪」 桜花姫は彼等の発言に呆れ果てる。 「はぁ…あんた達が温厚篤実の若武者ね…」 『滑稽だわ…匪賊の分際で何が温厚篤実の若武者よ…』 桜花姫は温厚篤実の若武者を自称する彼等を軽蔑する。 「私はあんた達みたいな田舎町の荒武者とは大違いで常日頃から大忙しなのよ…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」 桜花姫は無表情で反論したのである。 「はっ?殺されたくなかったらって姉ちゃんは非力そうだが…随分と強気だな…」 「こんな状況下で姉ちゃんは随分と余裕だな…あんたは大怪我したいのか?」 「姉ちゃんよ…あんたは俺達を相手に本気かよ…」 彼等は桜花姫の無関心そうな態度に腹立たしくなる。腹立たしくなると同時に四人の大男達に包囲されても動揺しない彼女の態度に驚愕する。 「俺達を田舎町の荒武者って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪小町娘の姉ちゃんよ♪」 「小町娘の姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」 「如何やら此奴には折檻が必要かな?小娘は如何するべきか?」 彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。 「命知らずなのはあんた達でしょう?こんなにも前代未聞の天災地変なのよ…あんた達だって其処等の悪霊に食い殺されるかも知れないのに死にたいのかしら?」 桜花姫は只管に無表情で反論する。対する彼等は極度の怒気からか身震いし始める。 「如何やら此奴は本当に打っ殺されたいらしいな…非力の小娘風情が…」 「此奴は止むを得ないな…相手は所詮非力の小娘一人だ!力尽くでも小娘から金品を強奪しちまえ!」 抜刀した匪賊達は桜花姫に殺到したのである。 「あんた達に会話は通用しないわね…鬱陶しい奴等だわ…」 桜花姫は非常に呆れ果てる。 『止むを得ないわね…』 即座に天道天眼を発動…。桜花姫の妖力が数百倍にも増幅されたのである。 『非力の雨蛙に変身しちゃえ♪』 巨漢の匪賊を標的に変化の妖術を発動…。 「えっ?」 変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させたのである。すると三人の匪賊達は桜花姫の変化の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視し始め…。 「なっ!?此奴は現実なのか!?」 彼等は突然の超常現象に驚愕したのである。 「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?妖術なのか!?」 「此奴は…小娘は荒唐無稽の妖術を駆使しやがったのか…」 すると小柄の匪賊が恐る恐る…。 「ひょっとして貴様は…」 「私が誰かって?」 桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。 「私は悪霊捕食者の桜花姫…不寝番の月影桜花姫よ♪留意しなさいね♪」 笑顔で自身の名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのである。 「なっ!?不寝番の月影桜花姫って…」 「冗談だろ…」 匪賊達は極度の恐怖心からか恐る恐る桜花姫から後退りし始める。 「貴様が最上級妖女って噂話の…不寝番の月影桜花姫なのか!?」 「此奴は…本物の桜花姫かよ!?」 匪賊達は桜花姫から恐る恐る後退りするものの…。 「馬鹿者が!こんな小娘を相手に狼狽えるな!」 中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させたのである。 「月影桜花姫が最上級の妖女だとしても所詮は単なる小娘風情だ!連発銃で狙撃しちまえば最上級の妖女だって打っ殺せるさ…」 対する桜花姫は匪賊の発言に呆れ果てた様子であり失笑し始める。 「最上級妖女の私を打っ殺すなんて♪あんたは本気なのかしら?如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪脳味噌は空っぽなのかしら?」 桜花姫は中肉中背の匪賊に挑発したのである。 「此奴…覚悟しやがれ!桜花姫!」 中肉中背の匪賊は連発銃から弾丸を装填…。発砲したのである。一方の桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。 「私に連発銃は通用しないわよ…」 桜花姫は妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。 「畜生が…此奴は荒唐無稽の妖術で連発銃の弾丸を無力化しやがったか…」 桜花姫は不本意であるものの…。 「状況が状況だから仕方ないわね…」 『人間に対する禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪』 桜花姫は匪賊の一人に人間に対する禁断の妖術を発動する。 『果実の飴玉に変化しちゃえ…』 すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の人間に対する禁断の妖術によって彼女の大好きな果実の飴玉に変化したのである。 「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化したぞ…」 周囲の者達は桜花姫の妖術に驚愕する。 「飴玉を頂戴するわね♪」 一方の桜花姫は満面の笑顔で飴玉に変化した匪賊を捕食したのである。 「えっ…捕食しやがったぞ…」 「此奴は…正気なのか…」 匪賊達は桜花姫に戦慄する。一方の桜花姫は無表情で周囲の者達を凝視…。 「今度は誰が…私に食い殺されたいのかしら?」 桜花姫は小声で発言したのである。桜花姫の問い掛けに彼等は戦慄する。 「ひっ!桜花姫に打っ殺されちまうよ!一先ず逃げろ!」 匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。 『鬱陶しい奴等だったわ…』 桜花姫は現場へと急行する。
最終話
仙女 匪賊達を撃退してより数分後…。桜花姫は摩訶不思議の神通力を目印に目的地の日和山へと到達したのである。 『虹色の広葉樹だわ…』 天辺の中心部には虹色に光り輝く広葉樹が確認出来る。 『非常に幻想的ね…』 虹色の広葉樹は非常に幻想的であり魅了されたのである。 「えっ?」 広葉樹の近辺には八正道らしき僧侶の人物が地面に横たわった状態で確認出来る。 「八正道様!?」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る地面に横たわった状態の八正道に近寄るものの…。警戒する。 『彼って八正道様だよね…大丈夫かしら?』 目前の人物は普段の温柔敦厚の八正道とは別人であり非常に薄気味悪い雰囲気だったのである。不吉にも人間である八正道の肉体からは摩訶不思議の神通力を感じる。 『純血の人間なのに八正道様の肉体から神通力を感じるわ…如何してなの?』 すると地面に横たわった状態の八正道が恐る恐る目覚める。 「八正道様!?大丈夫なの?」 八正道は無表情で桜花姫を凝視し始める。 「人外の小娘風情よ…私が八正道であると?人違いであるな…」 「えっ!?人違いですって?」 八正道の返答に桜花姫は困惑したのである。 「あんたは八正道様でしょう?」 桜花姫は恐る恐る八正道の様子を観察する。 『姿形は八正道様でも…彼自身の中身は完全に別物みたいだわ…』 外見のみなら地上世界の聖人とされる八正道であるが…。 『八正道様の姿形の此奴は一体何者なのかしら?』 桜花姫は八正道の雰囲気の変化に恐る恐る後退りしたのである。一方の八正道らしき人物は桜花姫を睥睨した表情で…。 「私は造物主であり…世界樹とされる【妖星巨木】であるぞ…」 八正道らしき人物は自身を造物主の妖星巨木と名乗り始める。 「あんたは…造物主の妖星巨木ですって!?」 桜花姫は妖星巨木の一言に反応…。驚愕する。 「私は僧侶の肉体に憑霊したのだ…」 妖星巨木の霊魂は一時的に八正道の肉体に憑霊したのである。 『妖星巨木って…大昔の伝承では世界樹だったかしら?』 妖星巨木とは森羅万象の造物主とされ…。太古の古代人達の伝承では古来より森羅万象の世界樹として認識される。 『こんな小山みたいな日和山に本物の世界樹と遭遇しちゃうなんてね…』 妖星巨木は太古の大昔に存在した神秘の超自然的樹木であり死滅した神族の鮮血を養分として誕生したのである。妖星巨木は人畜無害の超自然的存在とされる。太古の古代人達からは森羅万象の創造主やら地上世界の世界樹として神格化されたものの…。戦乱時代末期の出来事である。とある片田舎の村娘が妖星巨木の果実を菜食…。人間の女性であり人一倍病弱であった彼女は超自然的存在へと覚醒したのである。彼女は摩訶不思議の妖力を入手…。人外の化身へと変化したのである。妖星巨木の果実を菜食した彼女こそが事実上妖女の元祖であり今現在では空想の昔話として伝承される。 「造物主である私と対峙し続けても正気を維持出来るとは…貴様の正体は…妖女は妖女でも最上級に君臨する一握りの最上級妖女であるな…」 対する桜花姫は八正道の肉体に憑霊した妖星巨木を睥睨したのである。 「妖星巨木…あんたは即刻人間の八正道様を元通りに戻しなさい!」 桜花姫は勇往邁進の気構えで断言する。 「妖女の小娘風情よ…貴様の仲間である僧侶の肉体を元通りに戻したいのであれば…貴様は私の目的に協力するのだ…」 「私があんたの目的に協力ですって?妖星巨木…あんたは一体何が目的なのよ?」 妖星巨木は一息したのである。 「貴様の荒唐無稽の妖術で…全世界の人間達を完膚なきまでに殲滅せよ…」 「はっ?全世界の人間達の殲滅ですって?」 妖星巨木の発言に桜花姫は呆れ果てる。 「貴様の妖力は非常に強力である…最上級妖女の貴様であれば一晩中のみで一国の人間達を全滅させられるだろう…」 桜花姫は苛立った表情で妖星巨木に睥睨する。 「面倒臭いわね…誰があんたの協力なんて…人間達を殲滅したいのであればあんたが一人で実行しちゃえば?人間達を殲滅するなんて面倒臭いし私は御免だわ…」 「であれば貴様の僧侶は一生涯元通りには戻れない…僧侶を元通りに戻したいのであれば私の目的に協力すべし…」 桜花姫は妖星巨木に腹立たしくなる。 「あんたは…卑劣だわ…」 「私が卑劣だと?何を今更…卑劣なのは貴様だって同一の存在であろうに…」 桜花姫の卑劣の一言に妖星巨木は反論したのである。 「貴様は自身の妖力で今迄に何人もの人間達を殺害したのだ?不本意だとしても…貴様は自身の母親だって殺害したのだろう?」 「えっ…」 桜花姫は母親の一言に反応する。 『母様…』 桜花姫は実母である月影春海姫の存在を想起すると妖星巨木に反論出来なくなる。すると桜花姫は睥睨した表情で妖星巨木に問い掛ける。 「如何してこんなにも無数の悪霊が俗界に出現したのよ?世界樹のあんただったら天災地変の主要因を特定出来るわよね?一体何が要因でこんな事態に?」 問い掛けられた妖星巨木は断言する。 「今回の騒動…大勢の亡者達を俗界に口寄せしたのは私自身の神通力である…」 『妖星巨木が…』 「神通力って…あんたが今回の悪霊事件の黒幕だったのね!」 桜花姫は突如として表情が強張ったのである。 「今回私が…私自身の神通力によって大勢の亡者達を口寄せさせた主原因とは…所詮人間達の自業自得であるからな…」 「人間達の…自業自得ですって?」 「愚劣なる人間達は戦乱時代以前の太古の大昔から同族同士で殺し合い…自然界の多種多様の動植物を殺戮し続けたからな…」 戦乱時代以前の太古の古代文明時代からも人間達は同族同士で紛争し合い…。地上の彼方此方で殺し合ったのである。 「私は彼等の野蛮さと傲慢さにより愚劣なる俗界の人間達を見限ったのだ…地上世界に下劣なる人類は不要なのだ…貴様にも理解出来るだろう?」 表情が強張った桜花姫であるものの妖星巨木の思考に意気投合…。妖星巨木の思考には全否定しなかったのである。 「妖星巨木…一部だけどあんたの主義主張も理解出来るかも知れないわ…内心私自身も人間達は大嫌いよ…私自身も幼少期は周囲の村人達に妖女だからって迫害されたのよね…人間達って野蛮で強欲よね?」 今現在でこそ桜花姫は悪霊捕食者であり不寝番として各地方で活躍中であるが…。幼少期では一部の村人達から疫病神やら妖怪の子供と嫌悪され迫害されたのである。 「私自身も人間なんて…誰一人として信頼出来なかったわ…」 桜花姫は幼少期に一部の村人達による偏見…。迫害から人間達を憎悪したのである。 「無論である…人間とは卑劣であり醜悪なる生命体であるからな…森羅万象の唯一の汚点であろう…」 妖星巨木は人類が森羅万象の唯一の汚点であると即答する。 「結局人間は誰も信頼出来なかったけれどね…」 「ん?貴様は何を発言したいのであるか?」 桜花姫は妖星巨木に問い掛けられてから数秒後…。 「八正道様…彼だけは私の唯一の理解者であり…私にとって唯一信頼出来る人間だったのよ…」 「僧侶が唯一の貴様の理解者であると?」 「私にとって八正道様は家族同然なのよ!」 桜花姫は八正道を一人の家族と表現したのである。 「家族だと?こんな人間の僧侶が貴様にとっての家族なのか?傑作だな…」 妖星巨木は桜花姫の発言に冷笑し始め…。内心滑稽であると感じる。 「私の家族である八正道様に手出しするなら言語道断よ!あんたが森羅万象の世界樹だからって私は手加減しないからね!」 「であれば折角の機会である…造物主の私と一対一の真剣勝負でも如何かな?最上級妖女の小娘よ…」 妖星巨木は桜花姫に一対一の真剣勝負を提案する。 「私があんたと一対一の真剣勝負ですって?」 「無論最上級妖女の小娘が私に敗戦したならば…貴様の寿命を収縮させる…貴様が自身の家族であると豪語する人間風情の僧侶も未来永劫呪詛し続けるからな…」 すると桜花姫は恐る恐る妖星巨木に質問したのである。 「反対に私が…あんたとの真剣勝負に勝利出来たら如何するのよ?」 妖星巨木は桜花姫の質問に一息するものの…。返答したのである。 「小娘風情が私との真剣勝負に勝利したならば貴様の寿命を収縮させないし…貴様が自身の家族であると豪語する人間の僧侶も私の呪詛から無条件に解放する…無数の悪霊による天災地変も私の神通力で鎮静化させるからな…」 桜花姫は一瞬度重なる悪戦苦闘により困惑するものの…。妖星巨木の提案を承諾したのである。 「私は全身全霊であんたを仕留めるからね!妖星巨木!覚悟なさい!」 「であれば決定だ…妖女の小娘よ…貴様こそ覚悟するのだな…」 すると突如として八正道の肉体は脱力し始めたかと思いきや…。地面に横たわったのである。 「八正道様!?」 八正道は意識を喪失…。気絶した状態だったのである。桜花姫は地面に横たわった状態の八正道に一瞬動揺するものの…。 『ひょっとして八正道様は妖星巨木の呪縛から一時的に解放されたのかしら?』 八正道の肉体に憑霊した妖星巨木の神通力が本体である広葉樹の樹体に戻ったのである。八正道の肉体からは妖星巨木の神通力は感じられなくなる。 「如何やら私は此奴を相手に手加減しなくても大丈夫みたいね♪」 彼女にとっては好都合だったのである。 「先制攻撃よ!妖星巨木!」 桜花姫は即座に天道天眼を発動…。 『火球の妖術で…妖星巨木の樹体諸共!』 火球の妖術を発動すると手首より超高温の発光体を形成したのである。 「妖星巨木!死滅しなさい!」 発射された超高温の発光体は非常に特大であり妖星巨木の表面に直撃…。爆散したのである。 「直撃♪直撃♪」 超高温の発光体で妖星巨木を仕留めたかと思いきや…。妖星巨木は神通力の防壁を発動したのである。直撃した超高温の発光体を神通力の防壁で無力化…。 『攻撃を無力化されたわ…神通力の防壁かしら?』 発射された超高温の発光体は妖星巨木の樹体に吸収されたのである。 『私の妖術を無力化するなんて非常に厄介ね…』 「当然だけど妖星巨木は一筋縄では対処出来ないわね…」 今度は妖星巨木が神通力で無数の亡魂を口寄せする。 『鬼火かしら…』 妖星巨木の樹木から口寄せされた無数の亡魂は融合化され…。特大の鬼火を形作る。 『此奴は死滅した亡魂の集合体である…妖女の小娘よ…貴様は完膚なきまでに死滅するのだ!』 妖星巨木の発動した特大の鬼火は死滅した亡魂の集合体であり桜花姫を標的に放射したのである。一方の桜花姫は即座に寒風の妖術を発動…。妖星巨木の鬼火を消失させたのである。 「非常に手緩いわね…妖星巨木♪こんな程度の攻撃では最上級妖女の私は仕留められないわよ♪」 妖星巨木は鬼火を消失させた桜花姫を強豪であると再認識する。 『寒風の妖術のみで私の鬼火を無力化するとは…一筋縄では妖女の小娘は仕留められないな…』 今度は全身の樹体から猛毒の瘴気を放出したのである。 「えっ!?」 『猛毒の瘴気かしら!?』 桜花姫は必死に呼吸を停止させる。 『妖女は妖女でも此奴は片親が人間の血筋か…肉体的には脆弱みたいだな…』 妖星巨木は桜花姫が人間と妖女の混血であると察知したのである。 『如何やら小娘には猛毒の瘴気は有効そうだ…』 一方の桜花姫は瘴気により身動き出来ず…。呼吸すら出来なかったのである。 『如何しましょう…瘴気なら…』 桜花姫は浄化の妖術を発動…。妖星巨木の樹体から放出された猛毒の瘴気を浄化させたのである。 『小娘風情が…私の瘴気を浄化するとは…』 対する桜花姫は満面の笑顔で挑発する。 「妖星巨木♪私は最上級妖女だからね♪こんな瘴気では私は仕留められないわよ♪」 すると今度は周辺の地面より半透明の触手を無数に出現…。 「今度は触手の攻撃!?」 桜花姫は咄嗟に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁を発動すると半透明の触手の無力化に成功する。 「危機一髪ね♪」 妖星巨木は精神感応により桜花姫の脳裏に自身の思考を伝達したのである。 『妖女の小娘よ…天道天眼の防壁で私の神通力を無力化するとは…』 「妖星巨木!?精神感応かしら?」 『太古の大昔から数多くの妖女が伝説の神性妖術である天道天眼を保有したが…貴様に匹敵する妖女は誰一人として皆無であった…』 一方の桜花姫も精神感応で返答する。 『勿論♪私は最上級の妖女だからね♪其処等の妖女とは別格なのよ♪』 桜花姫は自身が最強の妖女であると自負したのである。 『無論貴様は屈強の最上級妖女であるが…所詮肉体はか弱き小娘…森羅万象の造物主である私には勝利出来ないであろう…』 『私が妖星巨木に勝利出来ないかは…断言出来ないわよ♪』 両手より雷光の光線を発動…。妖星巨木の樹木に直撃させる。 『最上級妖女の小娘…絶大なる雷撃であるが…』 妖星巨木は桜花姫の発動した雷光の光線を吸収したのである。 『私には貴様程度の妖術は通用しないぞ…只管貴様の妖力を吸収し続けるだけだ…』 『妖星巨木は私の妖力を吸収したのね…当然だけど一筋縄ではあんたは仕留められないわね…』 『当然である…私にとっては貴様程度の妖術なんて…』 妖星巨木は金縛りを発動…。 『貴様の身動きを封殺する…覚悟するのだな…妖女の小娘!』 一方の桜花姫は妖星巨木の金縛りにより身動きを封殺されたのである。 「ぐっ!」 桜花姫は妖星巨木の金縛りによって身動き出来なくなる。 『身動きが出来ないわ…ひょっとして金縛りかしら?』 『最上級妖女の小娘よ…身動き出来なくなった気分は如何かな?貴様の強大なる妖力を頂戴するぞ…』 地面より半透明の無数の触手が出現し始め…。桜花姫の全身に接触する。 「きゃっ!」 『私の妖力が…妖星巨木に…』 半透明の触手によって身動き出来なくなった桜花姫は妖星巨木の吸収能力により体内の妖力が一瞬で吸収され…。体力が消耗したのである。 『妖力と体力が…消耗するわね…』 妖力と体力の消耗により桜花姫は地面に横たわる。 『妖力が妖星巨木に吸収されちゃうわ…私…衰弱死しちゃうかも…やっぱり一人では妖星巨木には勝利出来ないの?』 桜花姫は衰弱死を覚悟するのだが…。 「えっ…」 『何かしら?』 直後である。背後の自然林から一匹の白猫が出現したかと思いきや…。 『白猫!?』 白猫の目力は非常に強力であり全身から衝撃波を発生させたのである。直後…。白猫の発生させた衝撃波は妖星巨木の無数の触手を消滅させたのである。 「きゃっ!」 衝撃波の発生に桜花姫は地面に横たわる。 『白猫の体内から妖力を感じるわね…』 白猫の体内からは妖女特有の妖力が感じられる。 『ひょっとして白猫の正体は妖女なのかしら?白猫の正体が妖女だとしたら…』 すると白猫の全身から白煙が発生したのである。 「白猫…ひょっとしてあんたの正体は…」 白猫は人間の少女の姿形へと変化する。 「桜花姫姉ちゃん…大丈夫?」 白猫の正体は誰であろう山猫妖女の小猫姫だったのである。 「あんたは…山猫妖女の小猫姫!?」 小猫姫は変化の妖術によって白猫にも変化出来る。すると地面に横たわった状態の桜花姫の背後より神族の蛇体如夜叉が恐る恐る近寄る。 「桜花姫ちゃんよ…あんたは大丈夫かね?」 「神族の蛇体如夜叉婆ちゃんも?」 「最上級妖女の桜花姫ちゃんがこんなにも衰弱化しちゃうなんてね…相手が相手だから当然かね?」 蛇体如夜叉は自身の特殊能力によって左手を白蛇に変化させたのである。恐る恐る桜花姫の背中に接触…。 「妖力が戻ったわ…」 『蛇体如夜叉婆ちゃんの…神力かしら?』 蛇体如夜叉の左手の白蛇は桜花姫の消耗した妖力を瞬間的に回復させる。 「妖星巨木を相手に命拾い出来たね…桜花姫ちゃん…あんたは幸運だよ…」 「感謝するわね…蛇体如夜叉婆ちゃん♪小猫姫♪」 蛇体如夜叉の特殊能力によって桜花姫の消耗した妖力は完全に回復したのである。蛇体如夜叉は恐る恐る妖星巨木を凝視し始め…。 『今回の相手は世界樹の妖星巨木だけど…』 妖星巨木は本来人畜無害の超自然的存在である。 『姿形は神聖なる樹木でも…此奴の中身は別物だね…恐らく此奴の正体は…』 蛇体如夜叉は妖星巨木の正体を察知する。 「桜花姫ちゃんよ…」 蛇体如夜叉は地面に横たわった状態の桜花姫を直視したのである。 「桜花姫ちゃんらしいけど…こんな荒唐無稽の造物主を相手に真正面から真剣勝負なんてね…普通の妖女なら暴虎馮河だよ…あんたは死にたいのかね?」 蛇体如夜叉は桜花姫に妖星巨木との真剣勝負は自殺行為であると指摘する。 「私は…八正道様を元通りに戻したかっただけなのよ…」 「八正道様だって?八正道とは一体誰かね?」 「八正道様は…」 蛇体如夜叉は桜花姫の背後の地面に横たわった状態の八正道を凝視し始める。 「誰かと思いきや…此奴は人間だけど男前の僧侶だね♪」 蛇体如夜叉は八正道を男前の僧侶と表現したのである。 「私にとって八正道様は人間では唯一の理解者だからね…私は如何しても彼を妖星巨木から救済したいのよ…」 『彼が桜花姫ちゃんの理解者とはね…こんな世の中でも温柔敦厚の人間が実在するなんて…』 蛇体如夜叉は微笑み始める。 「今迄人間達を人一倍毛嫌いした桜花姫ちゃんが…本心から一人の人間を救済したがるとはね♪」 蛇体如夜叉は桜花姫の心境の変化に大喜びだったのである。 「小猫姫よ♪」 「何よ?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「折角の機会だからね…あんたは桜花姫ちゃんに協力して妖星巨木の暴走を阻止しな♪思う存分に大暴れしなよ♪小猫姫♪」 小猫姫は大喜びで承諾する。 「勿論だよ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪私は桜花姫姉ちゃんに協力するよ♪」 小猫姫は大喜びで体内の妖力を増強化し始め…。強大なる伝説の妖獣へと変化したのである。伝説の妖獣に変化した小猫姫に桜花姫は驚愕する。 「えっ!?小猫姫が…変化の妖術で伝説の妖獣に!?」 「私も変化出来るのよ♪桜花姫姉ちゃん!私と一緒に精一杯共闘しましょう!」 『小猫姫が伝説の妖獣に変化出来るなんてね…非常に心強いわ!』 桜花姫は小猫姫との共闘に心強く感じる。 「勿論よ♪小猫姫♪私と共闘しましょうね♪」 対する妖星巨木は桜花姫と小猫姫の一枚岩に危惧し始める。 『此奴は非常に厄介だな…天道天眼の小娘は勿論…妖獣の小娘も出現するとは…』 妖星巨木の神通力が先程よりも増大化したのである。 『止むを得ないな…強豪の妖女が二人では私も本領を発揮しなくては…』 妖星巨木の神通力によって天空全体が黒雲により覆い包まれる。 「黒雲かしら?先程よりも妖星巨木の神通力が増大化したわ…如何やら妖星巨木は本気みたいね…」 桜花姫は妖星巨木の本気に一瞬身震いしたのである。 「油断大敵よ…小猫姫…如何やら妖星巨木は本領を発揮するみたいよ…」 「桜花姫姉ちゃんこそ油断大敵だからね♪」 彼女達は妖星巨木の反撃に警戒した直後…。 「えっ!?雷撃だわ!」 すると強烈なる落雷攻撃が彼女達の直上より落下する。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖星巨木の落雷攻撃を無力化したのである。小猫姫も雷光の防壁を発動…。桜花姫と同様に妖星巨木の発動した落雷攻撃の無力化に成功する。 「死滅しろ!妖星巨木!」 今度は小猫姫が妖力を凝縮…。口先から高熱の雷球を発射したのである。 「直撃!」 小猫姫の高熱の雷球は妖星巨木の樹木表面に直撃するものの…。妖星巨木の吸収能力によって小猫姫の発射した高熱の雷球は無力化されたのである。 「私の攻撃が妖星巨木に吸収されちゃった…やっぱり此奴は容易には仕留められないね!桜花姫姉ちゃん!」 「妖星巨木は本物の世界樹だからね…此奴には私達の妖術は通用しないみたいよ…」 『私と小猫姫は妖力だけなら確実に妖星巨木を上回ったけれども…妖星巨木の吸収能力には私達の妖術は確実に無力化されちゃうし…一体如何すれば世界樹の妖星巨木を仕留められるのかしら?』 桜花姫は妖星巨木の攻略に苦悩する。一方の小猫姫も同様である。 「桜花姫姉ちゃん?如何すれば妖星巨木を退治出来るの?妖力は吸収されちゃうし妖星巨木を退治出来ないよ…」 「残念だけど…現状では不明だわ…」 通常の妖術では無力化される妖星巨木に彼女達は困惑する。 「妖星巨木に対抗出来るとすれば…妖女の私にも此奴に対抗出来る…荒唐無稽の神通力が扱えるなら…」 桜花姫は小声であったが地獄耳の蛇体如夜叉は彼女の口走った神通力の一言を傾聴…。反応する。 「えっ?桜花姫ちゃんよ…神通力だって?」 蛇体如夜叉は頭陀袋からとある木材の破片を桜花姫に手渡したのである。 「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃん?何かしら?木材の破片?」 「何って…此奴は器物の悪霊小面袋蜘蛛の肉片だよ♪」 蛇体如夜叉は満面の笑顔で木材の破片が小面袋蜘蛛の肉片であると即答する。 「げっ!?」 『小面袋蜘蛛の肉片ですって!?』 木材の破片が小面袋蜘蛛の肉片である事実に桜花姫は一瞬気味悪がる。 「桜花姫ちゃんよ…あんたも摩訶不思議の神通力を入手したいのであれば思う存分に小面袋蜘蛛の肉片を頬張りな♪本来小面袋蜘蛛は妖星巨木の樹体の一部から形作られた能面だからね♪桜花姫ちゃんでも神通力を扱えるかも知れないよ♪」 「私が…神通力を…」 共存共栄の安穏時代でも小面袋蜘蛛が誕生した経緯は不明瞭であり真偽は明確化出来ないものの…。小面袋蜘蛛の正体は一説によると古代世界の古代人達によって迫害された神族の怨恨が器物である巨大能面に憑霊した付喪神の一種であるとも解釈される。 「付喪神である小面袋蜘蛛の肉片を食べちゃえばあんたの天道天眼も覚醒させられるかも知れないよ…」 「天道天眼の覚醒ですって…」 桜花姫は一瞬沈黙する。一方の妖星巨木は神族の蛇体如夜叉にも警戒したのである。 『此奴は姿形のみなら人間の老婆だが…純血の神族の一人だな…こんな老婆が小面袋蜘蛛の肉片を入手したとは…』 妖星巨木も小面袋蜘蛛の肉片を察知する。小面袋蜘蛛の肉片を手渡された桜花姫であったものの…。 「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 『こんな代物…食いしん坊の私でも頬張りたくないわね…如何しましょう?』 小面袋蜘蛛の肉片を捕食するべきか桜花姫は非常に困惑したのである。 「桜花姫ちゃん…如何するのさ?此奴を頬張らないと造物主の妖星巨木には対抗出来ないよ…」 「仕方ないわね…」 生理的に無理であり小面袋蜘蛛の肉片を捕食したくない桜花姫であるが…。 『一か八かの大博打よ!』 桜花姫は小面袋蜘蛛の肉片に変化の妖術を発動したのである。 『小面袋蜘蛛の肉片…桜餅に変化しなさい!』 変化の妖術を発動した直後…。小面袋蜘蛛の肉片は桜花姫の大好きな桜餅に変化したのである。 『変化の妖術…成功ね…』 桜花姫は変化の妖術の成功に安堵する。 「桜花姫ちゃんらしい判断だけど…小面袋蜘蛛の肉片をあんたの大好きな桜餅に変化させるなんてね…」 「桜餅だ…」 蛇体如夜叉と小猫姫は桜花姫らしい発想に苦笑いしたのである。 「桜餅に変化しちゃえば小面袋蜘蛛の肉片だって思う存分に吟味出来るからね♪」 桜花姫は変化の妖術で桜餅に変化した小面袋蜘蛛の肉片を一口で平らげる。 『所詮妖女の小娘が私の樹体の欠片である小面袋蜘蛛の肉片を捕食したとしても扱える神通力は微量…造物主の私には程遠いのだぞ!』 妖星巨木は桜花姫を脆弱であると判断する。 「えっ?」 突如として桜花姫の肉体が粒子状の虹色の発光体に覆い包まれる。 「桜花姫ちゃん!?」 「桜花姫姉ちゃん!?」 蛇体如夜叉と小猫姫は強烈なる虹色の発光体により瞑目したのである。すると数秒後…。無数の発光体の中心部より大宇宙の真理とされる大日如来を連想させる巫女装束の女神が誕生する。 「彼女は地上世界の女神様かな?」 「えっ?あんたは仙女?桜花姫ちゃん?」 巫女装束の女神の頭部には金無垢の金冠…。背中には大日如来を連想させる黄金色の光背が形作られる。蛇体如夜叉と小猫姫は恐る恐る巫女装束の女神に問い掛ける。 「ひょっとしてあんたは…桜花姫ちゃんなのかい?」 「貴女は桜花姫姉ちゃんだよね?」 すると巫女装束の女神は背後の小猫姫と蛇体如夜叉を直視し始め…。二人の問い掛けに満面の笑顔で返答する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん♪小猫姫♪私よ…桜花姫♪私は月影桜花姫よ♪」 蛇体如夜叉は仙女へと覚醒した桜花姫に驚愕したのである。 「えっ…」 『桜花姫ちゃんが容姿端麗の仙女に覚醒するなんて…』 小猫姫は仙女の桜花姫に見惚れる。 「本物の女神様みたいだね♪桜花姫姉ちゃん♪」 「私が女神様なんて…小猫姫は大袈裟ね♪」 『私が女神様ですって♪』 桜花姫は赤面するものの…。内心大喜びしたのである。 『私は…普段よりも妖力が増強化したのかしら…』 対する妖星巨木は精神感応で桜花姫に返答する。 『天道天眼の覚醒によって小娘の体内の妖力が神通力に変化したが…貴様の体内の神通力は私よりも数段階下回るのは周知の事実!所詮貴様はか弱き妖女の小娘…貴様程度の微弱の肉体では扱える神通力も微量である!造物主の私には程遠いぞ…』 「現段階の私だったら…圧倒的に劣勢かも知れないわね♪」 「えっ?桜花姫姉ちゃん?」 彼女は笑顔で背後の小猫姫を凝視したのである。 「小猫姫♪」 「何よ?桜花姫姉ちゃん?」 「小猫姫…あんたの妖力を私に♪妖星巨木に対抗するには小猫姫の妖力が必要不可欠なのよ…」 小猫姫は一時的に変化の妖術を解除…。伝説の妖獣から本来の美少女の姿形へと戻ったのである。 「桜花姫姉ちゃん…私の妖力を一思いに吸収しちゃって…」 小猫姫は恐る恐る桜花姫の背中に接触する。すると桜花姫の吸収能力により小猫姫の莫大なる妖力が一瞬で消耗したのである。 「ぐっ!」 『私の妖力が一瞬で…』 小猫姫は妖力の消耗で一瞬息苦しくなる。 「御免あそばせ♪小猫姫…」 『小猫姫…あんたの妖力を頂戴するわね…此奴を仕留めるにはあんたの妖力が必要不可欠なのよ…』 桜花姫は小猫姫に謝罪する。一方の小猫姫は妖力の消耗によって非常に息苦しくなるものの…。 「私なら大丈夫だから…気にしないで…桜花姫姉ちゃん♪」 小猫姫は息苦しい様子であったが笑顔で返答したのである。 「感謝するわね♪小猫姫♪」 桜花姫に吸収された小猫姫の妖力は彼女の体内にて神通力へと変化し始める。すると桜花姫の神通力は先程よりも数段階増大化したのである。 『微弱であった小娘の神通力が造物主である私に匹敵?上回るなんて…』 急速に神通力が増大化し続ける桜花姫に妖星巨木は驚愕する。小猫姫の妖力によって桜花姫の神通力が妖星巨木の神通力を数段階上回ったのである。 「桜花姫ちゃんが天道天眼の覚醒と小猫姫の妖力によって造物主である妖星巨木の神通力を完全に上回るなんてね…」 『ひょっとすると彼女は…』 蛇体如夜叉は仙女に覚醒した桜花姫を見守る。 『桜花姫ちゃんは正真正銘…大昔の戦乱時代に実在した元祖妖女の再来なのかも知れないね…』 蛇体如夜叉は大昔の伝説を連想…。月影桜花姫が五百年前に実在したとされる元祖妖女の再来なのではと推測する。 「妖星巨木…あんたの本体から戦乱時代の無念の亡者達の霊力を感じるわ…」 桜花姫は瞑目したのである。 「私があんたの本体に憑霊する亡者達を強制的に成仏させるからね…覚悟しなさい!妖星巨木!」 『仙術…〔日輪天光〕!』 桜花姫は虹色の神通力を諸手に凝縮…。両手より虹色に光り輝く螺旋状の発光体を射出する。桜花姫が発動させた虹色の日輪天光は妖星巨木の樹木に直射したのである。 『こんな微弱の小娘風情が…最強の仙術とされる日輪天光を発動させるとは…』 妖星巨木は咄嗟に神通力の防壁にて樹木本体を防備するものの…。 『防壁が…』 仙女へと覚醒した桜花姫の日輪天光は妖星巨木の神通力の防壁を容易に無力化する。妖星巨木の防壁を無力化した日輪天光は妖星巨木の樹木表面に直撃したのである。すると妖星巨木の樹体に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚が国全体へと響き渡る。 「ぐっ!」 「きゃっ!」 「小猫姫!?蛇体如夜叉婆ちゃん!?」 妖星巨木の樹木本体に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚は蛇体如夜叉と小猫姫は勿論…。近隣の村人達をも卒倒させたのである。 『戦乱時代の亡者達は一筋縄では成仏出来ぬ!所詮小娘風情の貴様では亡者達を成仏させるなんて絶対的に不可能なのだ…』 桜花姫は即答する。 「沈黙するのね!人畜無害の妖星巨木に憑依した悪霊の集合体!」 桜花姫は全身全霊の神通力を発動…。 「戦乱時代の亡者達!あんた達は好い加減成仏しなさい!」 『私の亡魂が…浄化される…こんな小娘風情を相手に!?何故なのだ!?』 桜花姫の全身全霊の神通力によって妖星巨木に憑霊する無念の亡者達の阿鼻叫喚を沈黙させたのである。数秒後…。 「はぁ…はぁ…」 神通力の消耗戦によって桜花姫は疲労困憊の状態であり力尽きたのである。 「私…妖力が空っぽだわ…」 『こんな状態では…変化の妖術も…駆使出来ないわね…』 疲れ果てた桜花姫は地面に横たわる。桜花姫は仙女の状態から元通りの姿形に戻ったのである。妖星巨木からは醜悪なる亡者達の重苦しい霊力は何一つとして感じられない。すると浄化された妖星巨木は半透明の触手を生成し始め…。 「妖星巨木…私を…如何するのよ?」 浄化された妖星巨木の触手が疲れ果てた桜花姫の皮膚に接触する。妖星巨木の触手は彼女の消耗した妖力を回復させたのである。 『私の肉体に妖力が戻ったわ…』 妖星巨木の行動に桜花姫は驚愕する。 「あんたは如何して私に妖力を…あんたは一体何が目的なの?」 すると直後…。 「えっ!?あんたは…」 妖星巨木が樹木の状態から桜色の着物姿の小柄の童顔美少女に変化し始め…。自身と瓜二つの姿形だったのである。 「あんたは樹木に憑霊する…妖星巨木の精霊なのかしら?」 自身と瓜二つの童顔美少女は身体髪膚が半透明であり温厚の表情で目前の桜花姫を凝視し始める。 「ひょっとして妖星巨木の正体は…女体の精霊だったの?」 妖星巨木の精霊は桜花姫の問い掛けに即答する。 「私自身の本来の姿形である…今迄は大勢の醜悪なる亡者達に憑霊されてより…私は本来の姿形には戻れなかったからな…」 妖星巨木の精霊は両目を瞑目…。一息したのである。 「其方は神通力で…私の樹体に憑霊した戦乱時代の亡者達を無事に成仏させたからな…私は天道天眼の所有者に無念の亡者達を浄化…彼等を成仏させたかったのだ…」 「えっ…戦乱時代の亡者達を成仏ですって?」 妖星巨木の真意に意外であると感じる。 「大勢の成仏出来ぬ亡者達が私の体内に密集したからな…私の神通力は彼等によって悪用されたのだ…」 「ひょっとして今回の天災地変は…あんたが意図的に私の天道天眼を覚醒させ…戦乱時代の亡者達を成仏させる魂胆だったのね…」 「無論であるぞ…最上級妖女の小娘…」 妖星巨木の精霊は恐る恐る返答したのである。 「人間達には傍迷惑だったのかも知れないが…其方の孤軍奮闘によって無数の亡者達の無念を浄化出来たのが何よりだ…」 妖星巨木の精霊の本音に桜花姫は沈黙する。すると妖星巨木の精霊が恐る恐る地面に横たわった状態の八正道を直視したのである。 「妖女の其方にとって彼が…人間の僧侶が唯一の理解者だったな…僧侶の名前は八正道だったか?」 桜花姫は地面に横たわった状態の八正道を凝視…。即答したのである。 「勿論よ…あんたの神通力で人間の八正道様を元通りに戻しなさい…」 妖星巨木の精霊は返答する。 「承知したぞ…其方の人間の僧侶…八正道を元通りに戻そう…其方の神通力が…私の体内で忘却された戦乱時代の亡者達を無事成仏させられたからな…是非とも妖女の貴様には感謝しなければ…」 直後…。暗闇であった天空の黒雲も消失したのである。各地の村里にて徘徊中だった悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼の大群も妖星巨木の精霊の神通力によって白砂へと変化し始め…。各地の村里を徘徊し続けた亡者達は天空世界へと昇天したのである。 「其方にとって家族と豪語する僧侶…八正道の肉体を無事元通りに戻したぞ…桃源郷神国の天災地変も終息させたからな…」 妖星巨木は半透明化し始め…。桜花姫の脳裏に妖星巨木の精神感応が響き渡る。 『最上級妖女の小娘よ…其方の名前は?』 桜花姫は精神感応で妖星巨木の問い掛けに即答する。 『私は桜花姫…最上級妖女の月影桜花姫よ…』 『月影桜花姫と名乗る妖女よ…其方は天道天眼を所有する唯一の妖女…天寿によって其方の肉体が死滅したとしても極楽浄土の守護神として覚醒する…月影桜花姫とやら…太古の妖女は戦乱で荒廃化した桃源郷神国に安寧秩序を樹立させた…其方の神通力であれば一天四海全域の安寧秩序を樹立させられるかも知れないな…』 『私が極楽浄土の守護神?一天四海の安寧秩序ですって?』 『其方は彼女の後継者に相応しいからな…最上級妖女の月影桜花姫よ…』 直後である。 「えっ?」 妖星巨木の精霊が無数の粒子状へと変化し始め…。天空にて消滅したのである。 「妖星巨木が…」 『神通力が感じられなくなったわ…妖星巨木が消滅するなんてね…』 すると地面に横たわった状態の八正道が恐る恐る目覚める。 「えっ?私は一体何を?」 「八正道様…意識が戻ったのね…」 「桜花姫様…私は一体?」 今度は卒倒した蛇体如夜叉と小猫姫も目覚めたのである。 「桜花姫ちゃん?」 「桜花姫姉ちゃん?」 桜花姫は力一杯八正道に密着する。 「八正道様!」 「ぐっ!桜花姫様!?突然如何されたのですか!?」 突然の出来事に八正道は動揺したのである。 「八正道様…無事で良かった…無事で良かったわ…」 「心配させましたね…桜花姫様♪」 八正道は笑顔で返答する。すると直後である。 「桜花姫姉ちゃん!私にも♪」 小猫姫は桜花姫の胸元に力一杯密着する。 「小猫姫…妹分のあんたでもおっぱいに密着されちゃったら…私…」 桜花姫は赤面したのである。 「最上級妖女でも人間の混血である桜花姫ちゃんが…造物主の妖星巨木を仕留めるなんてね…」 桜花姫は一瞬困惑するものの…。恐る恐る返答する。 「妖星巨木は仕留めたわよ…徘徊中の亡者達もね…」 「桜花姫ちゃん…」 蛇体如夜叉は桜花姫の様子から察知する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?」 桜花姫は恐る恐る蛇体如夜叉に問い掛ける。 「如何して蛇体如夜叉婆ちゃんが小面袋蜘蛛の破片を?」 「偶然にも西国の廃村で小面袋蜘蛛の破片を確保したのさ♪本来なら破片は傷薬の原料品として役立てたかったのだけどね…」 「傷薬って…」 桜花姫は苦笑いする。 「私が神通力を扱えたのは小面袋蜘蛛の肉片を捕食したからなのよね♪小面袋蜘蛛の肉片を吟味しなかったら今頃私達は妖星巨木の悪霊に敗北したでしょうね…」 「こんな老婆の私でも♪桜花姫ちゃんに役立てたみたいだね♪」 蛇体如夜叉は微笑み始める。すると小猫姫も桜花姫に密着した状態で…。 「私だって…私だって桜花姫姉ちゃんに協力したよ!今回は私だって役立ったでしょう!?桜花姫姉ちゃん!?」 「勿論よ♪小猫姫もね♪」 桜花姫は瞑目すると恐る恐る小猫姫に接吻する。 「えっ!?桜花姫様!?」 「桜花姫ちゃん!?あんたは正気なのかい!?」 八正道と蛇体如夜叉は驚愕したのである。 「えっ…」 桜花姫に接吻された小猫姫は無言であり表情が赤面し始め…。 『桜花姫姉ちゃん…』 彼女の身体髪膚が膠着化したのである。すると八正道が恐る恐る…。 「談笑中に…大変失礼なのですが…」 「八正道様?何かしら?」 「先日なのですが…私のとある隣人から良質の白米たっぷりの米俵と猪肉を提供されましてね♪是非とも今晩は私の寺院で食事しませんか?」 蛇体如夜叉と小猫姫が反応する。 「食事会とは非常に面白そうだね♪出来るなら私達も食事会に参加したいね♪」 「猪肉だって♪私も桜花姫姉ちゃんと一緒に食事会に参加したいよ♪」 「勿論大丈夫ですとも♪折角の機会です♪是非とも蛇体如夜叉婆様と小猫姫様も一緒に食事しましょうね♪」 蛇体如夜叉と小猫姫は大喜びしたのである。 「勿論…桜花姫様も一緒に食事しましょう♪」 「折角だからね♪私も食事させてね♪八正道様♪」 桜花姫は一息すると恐る恐る八正道に近寄る。 「えっ?桜花姫様?如何されましたか?」 すると桜花姫は八正道の耳元で…。 「私はね…人間では誰よりも八正道様が大好きなの♪」 「えっ…」 『桜花姫様…』 八正道は一瞬驚愕するものの…。 「私にとって桜花姫様は愛娘同然ですからね♪」 八正道も満面の笑顔で返答する。 「精一杯長生きしてよね…八正道様♪」 「勿論ですとも!桜花姫様も精一杯長生きするのですよ…約束です!」 桜花姫と八正道は握手したのである。 『私は精一杯長生きするからね…』 桜花姫は精一杯長生きしなければと決心する。 完結
第壱部 特別編
第一話
寒気 粉雪妖女…。雪美姫による大寒波の事件が発生する二日前の出来事である。 「うっ…」 『如何して彼奴は不倫なんか…』 雪美姫は宿六の不倫により怒気…。 『私の何が…駄目だったよ?』 自宅の裏庭にて号泣したのである。 『私が今迄に干渉し過ぎたからなの?一体如何して彼奴は?』 彼女は自分自身に自問自答する最中…。 「えっ…」 突如として極度の寒気を感じる。 「寒気だわ…」 『悪寒戦慄かしら?』 雪美姫は粉雪妖女であり多少の寒気は平気であったが…。 『一体何かしら?』 今回感じられた寒気は粉雪妖女の雪美姫でさえも肌寒くなる悪寒戦慄だったのである。突然の悪寒戦慄に雪美姫は気味悪くなり…。警戒したのである。 『寒気の正体は一体…』 すると彼女の背後より…。 「粉雪の妖女…粉雪の妖女よ…」 「えっ!?」 背後より不吉の声音が響き渡る。 「誰なの!?えっ…」 雪美姫は背後を直視すると全身黒色の人影が彼女の背後に佇立する。 「あんたは…一体何者なの?」 正体不明の人影は全身が半透明であり人外の化身なのは一目瞭然である。 『此奴…悪霊かしら?私自身の…幻影とか?』 雪美姫は全身が身震いしたものの…。恐る恐る正体不明の人影に問い掛ける。 「警戒するな…妖女の小娘…私は其方の味方なのだ…其方には手出ししないから安心するのだぞ…」 正体不明の人影は自身の味方であると断言する。 「あんたは私の…味方ですって?あんたは何者なのよ?」 雪美姫は正体不明の人影に何者なのか再度問い掛ける。 「私は悪霊…悪霊の始祖とでも…」 正体不明の人影は自身を悪霊の始祖と名乗る。 「あんたは悪霊の始祖ですって!?」 正体不明の人影の返答に雪美姫は再度警戒したのである。 「悪霊だからって私を敵対視するなよ…警戒せずとも…先程も口述したが私は其方には手出ししない…何故なら私は其方の味方なのだからな…」 人影は只管に自身の味方であると自負する。 「あんたは…何が目的なのよ?」 「私の目的だと…」 人影は一瞬沈黙するも…。 「愚劣なる人間達への…復讐とでも…」 「人間達への復讐ですって…」 「人間達は同族同士で殺し合い…自然界を汚染させた有害なる迷惑千万の存在なのだ…其方だって今現在人間である宿六の不倫により宿六を信用出来ないのだろう?」 「えっ…」 『如何して此奴…私の裏事情を…』 すると雪美姫は反応し始め…。一瞬身震いしたのである。 「如何やら図星みたいだな…」 「あんたは…何を主張したいのよ?」 雪美姫は再度恐る恐る問い掛ける。 「復讐する機会だ…其方は宿六を殺害したら如何なのだ?其方は宿六諸共残虐非道の人間達を惨殺したくないか?」 「えっ…」 「私自身と同様に妖女も所詮は人外の存在なのだ…所詮奴等は異分子を排除したがる極悪非道の連中だ…其方の母親だって妖女を理由として残虐非道の村人達に殺害されたのだろう?」 「母様…」 雪美姫も幼少期では大勢の村人達から迫害され…。彼女の母親は極悪非道の村人達によって暗殺されたのである。 「其方の妖力は非常に絶大だ…妖力を解放すべき時期だぞ…」 人影は雪美姫の肉体に接触する。 「其方は愚劣なる人間達に復讐するのだ…」 「復讐…復讐…」 雪美姫は人影の洗脳により脳内が朦朧としたのである。 「其方の妖力で…愚劣なる人間達を完膚なきまでに仕留めるのだ…」 「承知したわ…」 雪美姫は人影の命令に承諾する。 「私は…具体的に如何すれば?」 人影に如何するべきなのか問い掛ける。 「であれば其方は手始めに…」 人影は雪美姫の洗脳に成功…。彼女に如何するべきか指示したのである。
第二話
占拠 世界暦五千二十二年五月初旬…。造物主妖星巨木と無数の亡者達による天災地変から大凡二週間後の出来事である。妖星巨木による悪霊事件が解決してより桃源郷神国に安寧秩序が戻ったものの…。南国の荒神山は極悪非道の匪賊達によって牛耳られたのである。近頃…。匪賊達による悪巧みの噂話が国全体に出回る。噂話が気になった月影桜花姫は即座に南国の荒神山へと移動したのである。 『荒神山では極悪非道の匪賊達が潜伏中みたいね…』 以前荒神山にて発生した悪霊大事件で桜花姫が出没した悪霊の大群を仕留めて以降…。荒神山は元通りの観光地に戻ったのである。一方近頃は十数人もの匪賊達が荒神山の山中より出現し始め…。彼等の不法活動によって荒神山は完全占拠されたのである。桜花姫は西国の村里から移動を開始してより二時間後…。 『荒神山だわ…久方振りね…』 彼女は目的地である南国の荒神山に到達する。 『何かしら?』 周辺の自然林より無数の人間達の殺気を感じる。 『人間達の殺気を感じるわ…』 「匪賊かしら?」 登山中に一瞬身震いするものの…。 『手出しするなら相手が人間でも私は手加減しないわよ!』 桜花姫は警戒した様子で荒神山の天辺へと突入したのである。 『天道天眼…発動!』 桜花姫は神性妖術の天道天眼を発動…。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が瑠璃色の碧眼へと発光したのである。同時に妖力が通常よりも数百倍にも増大化する。 「天道天眼を発動するのは久方振りね…」 『妖星巨木との戦闘以来かしら?』 妖星巨木に憑霊した無数の亡者達よる悪霊大事件が無事解決してからは毎日が平穏の日常であり摩訶不思議の超常現象も神出鬼没の悪霊も出現しなかったのである。平穏の日常は不寝番の桜花姫にとって極度の憂鬱であったものの…。 『正直退屈中だったし…私にとって今回の大騒ぎは絶好機なのよね♪』 彼女にとって匪賊達の征伐は久方振りの道楽であり内心大喜びだったのである。すると突然…。周辺の自然林より人間達の殺気を感じる。 『人間達の殺気だわ…』 突如として周辺より無数の火縄銃の弾丸が乱射される。 『敵襲かしら!?』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。火縄銃の弾丸を無力化したのである。近辺の地面には無数の弾丸が散乱する。 『陣地の見張り役は数人程度かしら?』 自然林から桜花姫を狙撃した見張り役の匪賊達は恐る恐る後退りし始め…。火縄銃の弾丸を無力化した彼女に戦慄したのである。 「畜生が…彼奴は弾丸を無力化するなんて…」 「ひょっとして彼奴は妖術で弾丸を無力化しやがったのか!?」 「如何やら侵入者は妖女の小娘みたいだな…」 匪賊達は恐る恐る後退りする。 「こんな場所に妖女の小娘が出現しやがるとは厄介だな…如何するよ?」 「即刻本拠地に戻ろう…火縄銃程度では妖女の小娘は仕留められまい…」 彼等は天辺の本拠地に戻ろうかと思いきや…。 「ん!?ぎゃっ!」 突如として小柄の見張り役の頭部が肥大化したのである。周囲の匪賊達は肥大化した頭部を直視すると戦慄する。 「えっ…此奴…如何して頭部が?」 数秒間が経過した直後…。肥大化した頭部が破裂したのである。 「ひっ!」 「此奴の頭部が破裂しやがった!」 地面には無数の血肉やら粉砕された脳味噌が散乱する。 「如何してこんな状態に…一体何が…」 「妖術なのか!?妖女の小娘は妖術で人間の頭部を破裂させたのか!?」 「一先ずは逃げろ!妖女に殺されるぞ!」 戦慄した見張り役達は一目散に逃走したのである。
第三話
死者蘇生 彼等が逃走した数秒後…。 『如何やら見張り役は逃走しちゃったみたいね…』 桜花姫は自然林へと潜入する。 「えっ?」 地面に散乱した血肉やら脳味噌を直視…。 『最悪だわ…気味悪いわね…』 生身の血肉を直視し続けると桜花姫も気味悪くなる。 『折角だからね♪匪賊の血肉を桜餅に変化させちゃおうかしら♪』 桜花姫は変化の妖術によって散乱した見張り役の血肉を大好きな桜餅に変化させたのである。 『消耗しちゃった妖力を回復させなくちゃね♪』 桜花姫は地面に散乱した桜餅を無我夢中に頬張り始める。 『人間の血肉だとしても…やっぱり桜餅は美味ね♪』 桜餅を頬張ると消耗した妖力を回復させる。 『妖力も万全だし♪本拠地に潜伏中の匪賊達を蹴散らせないと…』 桜花姫は荒神山天辺の本拠地へと進行したのである。すると背後より…。 『雑魚の分際で鬱陶しいわね…』 異国の洋弓連発銃を装備した匪賊が出現したのである。 「侵入者は毒死しやがれ!」 洋弓連発銃から猛毒の毒矢を発射…。背後から桜花姫に射撃したのである。 『毒矢かしら?』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。毒矢を無力化する。 「命知らずね♪あんたは雨蛙に変化しなさい♪」 すると匪賊は変化の妖術によって雨蛙に変化したのである。 「私は常日頃から大忙しなのよ♪邪魔しないでね♪」 獣道を通行中…。獣道の道端で一休みしたのである。 「所詮相手は非力の人間だし…」 『私だけで匪賊達を全滅させるのは片手間だけれども…』 桜花姫は単純に匪賊達を征伐するだけでは面白くないと感じる。 「はぁ…」 一息すると両目を瞑目させたのである。 『此処からは禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪』 神通力による禁断の妖術を発動したくなる。地面の石ころを直視する。 『口寄せの妖術…発動!』 すると数秒後…。地面の石ころが蛍光体に変化したのである。蛍光体の石ころが等身大の女体を形成…。白装束の女性が地面に横たわった状態で出現したのである。白装束の女性が恐る恐る目覚める。 「えっ…私は…一体何を?」 白装束の女性は寝惚けた様子であったものの…。 「えっ?あんたは誰かしら…」 白装束の女性は桜花姫と目線が合致する。 「ひっ!あんたは!?」 白装束の女性が桜花姫の存在に気付いたかと思いきや…。桜花姫を直視すると彼女は極度に戦慄したのである。 「別に戦慄しなくても大丈夫よ♪私よ…桜花姫よ♪月影桜花姫♪」 「あんたは最上級妖女の…月影桜花姫!?」 白装束の女性は桜花姫の名前に畏怖し始める。 「如何してあんたがこんな場所に!?」 「久方振りね…粉雪妖女の雪美姫♪あんたが元気そうで安心したわ♪」 口寄せの妖術によって俗界に口寄せされた人物とは数週間前の戦闘で桜花姫の変化の妖術により食い殺された粉雪妖女の雪美姫…。死没者である彼女だったのである。 「如何してあんたが!?私は桜花姫に捕食されて…食い殺されたのよ…如何して亡者の私が俗界に?」 雪美姫は何故亡者である自身が俗界に存在するのか混乱し始める。 「口寄せの妖術で亡者のあんたを俗界に再臨させたのよ♪」 「えっ…口寄せの妖術ですって?」 口寄せの妖術とは伝説の神性妖術である天道天眼と造物主の神通力を保有する妖女のみが使用出来る前代未聞の禁断の妖術…。所謂時空間妖術の一種であり黄泉の世界の死没者でさえも俗界の生者として元通りに復活させられる。 「捕食された私を復活させるなんて…あんたは本物の女神様だね…」 前代未聞の妖術に雪美姫は苦笑いしたのである。 「こんな私が女神様なんて…雪美姫は大袈裟ね♪」 雪美姫の女神様発言に桜花姫は内心大喜びする。 『黄泉の世界から死没者を簡単に復活させちゃうなんて…月影桜花姫…彼女は末恐ろしくなるわね…』 黄泉の世界の死没者でさえも元通りの状態に復活させた桜花姫を雪美姫は戦慄したのである。 「如何してあんたみたいな小娘がこんなにも夢物語みたいな荒唐無稽の妖術が扱えるのかしら?口寄せの妖術って禁断の妖術だったわよね?」 「仕方ないわね♪雪美姫♪」 雪美姫の問い掛けに桜花姫は雪美姫との戦闘以後の経緯を洗い浚い告白する。 「あんたが森羅万象の造物主である妖星巨木を仕留めちゃったの!?妖星巨木って世界樹として有名だったわよね?」 桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。 「無論ね♪造物主の妖星巨木は仕留められたけれど私一人では断然勝利出来なかったわよ…正確には妹分の小猫姫と一緒に共闘したのだけれどね♪」 「仲間と共闘したとしても結果的にあんたみたいな妖女の小娘が森羅万象の造物主に勝利しちゃったみたいだからね…私みたいな凡庸の妖女では到達したくても到達出来ない天空の領域だわ…桜花姫は天道の化身なのかしら?」 雪美姫にとって今現在の桜花姫は異次元の超越的存在であり自身が低次元の微生物であると感じる。すると桜花姫は妖力の消耗からか一度深呼吸したのである。 「口寄せの妖術は妖力を莫大に消耗しちゃうわね♪普通の妖女なら妖力の消耗で過労死するかも知れないわ…」 「口寄せの妖術は桜花姫でも辛苦なのね…」 「口寄せの妖術は特殊だからね♪」 口寄せの妖術は通常の妖術とは桁違いの妖力が必要不可欠であり唯一神性妖術の天道天眼と造物主の神通力を扱える最上級妖女のみが口寄せの妖術を使用出来る。大量の妖力を所持した妖女を復活させるのであれば莫大なる妖力を消耗…。場合によっては妖力の消耗によって術者の過労死も否定出来ないとされる。 「普通の人間とか悪霊なら極小の妖力でも復活出来るけどね♪死滅した妖女を元通りに復活させるのは最上級妖女の私でも一苦労だわ…」 桜花姫は口寄せの妖術で粉雪妖女の雪美姫を復活させた影響により莫大なる妖力を消耗したのである。 「えっ!?」 『人間と悪霊なら極小の妖力で復活させられちゃうの!?』 雪美姫は桜花姫の発言に絶句する。 『ひょっとすると桜花姫の正体って天道の化身なのかしら?』 雪美姫は桜花姫の正体が天道の化身なのではと連想したのである。 「雪美姫?」 桜花姫は雪美姫に問い掛ける。 「何よ?桜花姫?」 「以前から疑問だったのだけど…如何して雪美姫は西国の廃村で村人達を氷結させちゃったのよ?」 「えっ…」 雪美姫は一瞬困惑するものの…。恐る恐る口述する。 「私の宿六が…別の女人なんかと不倫したからよ…」 「宿六の不倫ですって?」 「宿六の不倫に苛立っちゃって無関係の村人達を氷結させたのよ…」 「はぁ…あんたは人騒がせな人妻ね…」 『雪美姫…完全に八つ当たりだわ…』 桜花姫は雪美姫が暴走した理由に呆れ果てる。 「金輪際夫婦間の八つ当たりで無関係の人間には手出ししないのよ…」 桜花姫の警告に雪美姫は恐る恐る承諾したのである。 「勿論よ…」 「苛立って無関係の誰かに手出しすれば今度こそ私が征伐するからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で断言する。 『桜花姫…本気そうだわ…』 雪美姫は不吉の笑顔で冷笑し始める桜花姫に戦慄するものの…。内心気恥ずかしくなったのか沈黙したのである。 「雪美姫♪即刻匪賊達の本拠地に潜入しましょう♪」 「匪賊達の本拠地ですって?」 「今回は荒神山を牛耳る匪賊達を徹底的に征伐するのよ♪雪美姫♪勿論あんたも私に協力するわよね?」 雪美姫は笑顔の桜花姫に戦慄する。 「勿論…私も桜花姫に協力するわよ…」 『折角元通りに復活出来たのに…此処で桜花姫に協力しなかったら今回も食い殺されちゃうかも知れないからね…』 雪美姫は折角第二の人生を満喫出来るのにこんな場所で二度も食い殺されては元も子もないと感じる。雪美姫は笑顔の桜花姫に身震いしたのである。 「勿論♪今回私が傍若無人のあんたを復活させたのは私自身の気紛れだからね♪」 桜花姫の傍若無人の一言に一瞬腹立たしくなる。 『傍若無人なのはあんただって一緒でしょうが!桜花姫!』 桜花姫の言動に苛立った雪美姫であるが…。堪忍したのである。 「先程の口寄せの妖術で私は空腹だし敵対視するのであれば即刻あんたを桜餅に変化させて食い殺しちゃうかも知れないわよ♪」 雪美姫は笑顔で発言する桜花姫に苛立つものの…。不本意であるが雪美姫は桜花姫に服従したのである。 「別に私は桜花姫には敵対視しないわよ…あんたを裏切れば食い殺されるのは明白だし…二度もあんたなんかに殺されたくないわ…」 「交渉成立ね♪雪美姫♪」 雪美姫は不本意であるが桜花姫と一致団結…。 「奴等の本拠地に移動しましょう♪」 彼女達は匪賊達の本拠地へと移動したのである。
第四話
休憩 移動してより数分後…。彼女達は荒神山の天辺へと到達する。 「荒神山の天辺みたいだわ…」 「匪賊の根城に到達したわね♪」 天辺の中心部には大陸の楼閣らしき家屋敷が確認出来る。 「匪賊達の家屋敷だわ…随分と豪華そうだけど此処が奴等の本拠地っぽいわね…」 「表門の門番は二人ね…桜花姫…」 家屋敷の表門には二人組の門番が見張り役として表門を警護する。 「門番を突破しちゃえば楽勝ね♪」 「如何するのよ?桜花姫?」 「勿論♪正面突破で門番達を仕留めるわよ♪」 桜花姫の即答に雪美姫は苦笑いするものの…。 「桜花姫…真正面から攻撃なんてあんたらしいわね♪」 「当然でしょう♪」 彼女達は家屋敷の表門へと近寄る。 「あんた達♪御免あそばせ♪」 桜花姫は満面の笑顔で門番達に挨拶する。 「なっ!?貴様達は一体何者であるか!?」 表門の門番達は妖女の二人に警戒したのか即座に抜刀したのである。 「芸妓の小娘かと思いきや…貴様は人外の妖女であるな!?」 「先程の妖女の噂話とやらは事実であったか!」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 「私が人外の妖女だから何よ?あんた達…私に殺されたくなければ即刻表門を開放しなさい♪表門を開放すればあんた達は命拾い出来るかも知れないわよ♪」 桜花姫の発言に二人の門番は非常に腹立たしくなる。 「何を!?貴様…小娘の分際で!」 「斬首されたいか!?妖女の小娘!?」 桜花姫の挑発的発言に苛立った門番達は桜花姫に殺到したのである。 「地上世界の女神様のである私に小娘なんて…あんた達は余程の命知らずなのね♪」 桜花姫は即座に念力の妖術を発動…。 「ぐっ!」 「ぎゃっ!」 門番達の肉体を完膚なきまでに破裂させる。本拠地の表門には彼等の血肉やら肉片が飛散する。 「桜花姫…」 表門の光景に雪美姫は恐る恐る…。 「あんたは相手が非力の人間でも手加減しないのね…」 「手加減するも何も…敵対者が非力の人間だったとしても確実に仕留めるのが不寝番の私だからね♪」 「えっ…」 『桜花姫は…本当に無慈悲ね…』 非力の人間相手に手加減しない桜花姫に雪美姫は内心気味悪がる。 「無論…無抵抗の人間なら相手が極悪非道の匪賊だったとしても私は手出ししないから安心しなさい♪」 「相手が匪賊でも?」 桜花姫は冷笑した表情で…。 「反対に抵抗すれば非力の子供でも私は容赦しないわよ♪」 桜花姫は満面の笑顔で断言したのである。 「えっ…」 『桜花姫…其処等の匪賊達?悪霊以上に無慈悲だわ…』 雪美姫は桜花姫が想像する以上に無慈悲であると感じる。 「雪美姫♪あんたは私を無慈悲の悪女って主張したいのかも知れないけれど…あんただって以前の騒動では八つ当たりで大勢の村人達を殺戮したでしょう♪私は相手が誰であっても八つ当たりでは人間は殺さないからね♪無論神出鬼没の悪霊は別だけどね♪」 桜花姫の反論に雪美姫は沈黙したのである。 「雪美姫♪一先ずは一休みしましょう♪私は空腹なので♪」 桜花姫は変化の妖術を発動…。表門に散乱した門番達の血肉を無数の桜餅に変化させたのである。 「えっ!?人間の血肉が桜餅に!?あんたの妖術なの!?」 「勿論よ♪」 雪美姫は桜餅を美味しそうに鱈腹頬張る桜花姫を直視すると気味悪くなる。 『数週間前は私自身も桜花姫の変化の妖術で桜餅に変化させられて…彼女に食い殺されたのよね…』 雪美姫は生前の出来事を想起…。桜花姫の悪食に身震いしたのである。 「消耗した妖力を回復させないと♪」 桜花姫は極度の空腹であり散乱する桜餅を無我夢中に頬張り続ける。 「桜餅だとしても本来は人間達の血肉なのよ…笑顔で頬張れるなんて…」 桜花姫の悪食に雪美姫は全身に鳥肌が立つのか極度の悪寒を感じる。 『桜花姫…此奴はやっぱり悪趣味だわ…』 雪美姫は目前の光景に戦慄したのである。 「本来が人間の血肉だとしても♪変化の妖術で人肉以外の食べ物に変化させれば気にならないから大丈夫よ♪折角だから雪美姫も一緒に桜餅を味見しない?桜餅は絶品よ♪」 「私は味見したくないわ!桜餅を頬張りたければあんたが一人で頬張りなさい…」 『人間の血肉なんて桜餅だとしても食べたくないわね…』 雪美姫は断然拒否する。 『やっぱり桜花姫は異質的だわ…』 雪美姫は桜花姫の異質さに絶句したのである。
第五話
門番 休憩から数分後…。 「やっぱり桜餅は美味だわ♪」 桜花姫は表門に散乱した無数の桜餅を鱈腹平らげたのである。 「数分間で無数の桜餅を平らげるなんて…桜花姫の胃袋は広大無辺の天空世界なのかしら?」 雪美姫は数分間で無数の桜餅を平らげた桜花姫に苦笑いする。 「妖力も回復出来たし♪」 「桜花姫は匪賊達を蹴散らせるのよね?」 「今回は普通に蹴散らせるのは面白くないからね…」 「如何するのよ?桜花姫?」 桜花姫は地面の石ころに注目したのである。 「今度も…」 桜花姫は口寄せの妖術を再発動する。 『口寄せの妖術…発動!』 口寄せの妖術を発動すると地面の石ころが蛍光体へと変化したかと思いきや…。一瞬で人間の姿形を形成したのである。妖術を発動してより数秒後…。 「えっ!?」 先程念力の妖術で仕留めた門番の一人を元通りの姿形に復活させたのである。 「彼って先程桜花姫の妖術で仕留められた人間の門番だわ…ひょっとして門番も口寄せの妖術で復活させたのかしら?」 桜花姫は雪美姫の問い掛けに笑顔で即答する。 「勿論よ♪彼も私が口寄せの妖術で元通りに復活させたのよ♪口寄せの妖術は普通の人間は当然♪大抵の悪霊程度なら微量の妖力で復活させられるから非常に便利でしょう♪」 「便利って…」 口寄せの妖術は同種の妖女を復活させた場合妖力の消耗は通常の妖術よりも桁外れである反面…。非力の人間やら通常の悪霊を復活させるには微量の妖力のみで容易に復活させられる。 『やっぱり世の中は理不尽よね…こんな荒唐無稽の小娘が夢物語みたいな非人道的妖術を自由自在に扱えるなんて…』 黄泉の世界からの死没者さえ元通りに復活させる口寄せの妖術に雪美姫は再度末恐ろしくなる。 「えっ?如何しちゃったのかしら?」 雪美姫は復活した門番に恐る恐る近寄る。 「桜花姫?あんたが復活させた門番は一言も喋らないし無反応だわ…如何して門番は一言も喋らないのよ?」 口寄せの妖術で元通りに復活させた門番であるが…。彼自身は沈黙した様子であり何一つとして身動きせず一言も発言しない。 「何も身動きしないわよ…門番は無表情の雛人形みたいね…」 門番の人形みたいな様子に雪美姫は不吉に感じる。 「勿論♪身動き出来ないし彼自身は単なる傀儡人形だからね…所詮門番は無感情の傀儡人形だから喋りたくても喋れないわよ♪」 本来禁断の口寄せの妖術で復活させた対象者は妖術を発動した使用者の傀儡人形として扱われる。無論口寄せされた対象者の自我は妖術の使用者に完全掌握され…。妖術の使用者が掌握を軽減化させなければ復活した対象者は束縛された状態の手駒であり姿形が生身の傀儡人形同然である。桜花姫は冷笑した表情で雪美姫に説明する。 「雪美姫が意思表示を自由自在に表現出来るのは私の気紛れで掌握を軽減化させただけだからね♪本来なら口寄せの妖術で復活させたあんただって私の傀儡人形なのよ♪」 口寄せの妖術で復活させた門番は微量の妖力で形作られた不良品同然である。姿形は元通りでも自我は皆無であり彼自身は自己の意思表示は出来ない。 「匪賊だとしても…気の毒ね…」 雪美姫は復活させられた門番に同情したのか気の毒に感じる。 「所詮は匪賊の一員なのよ♪大悪党だし気にしないの♪」 『枯れ木も山の賑わいかしら♪こんな悪人でも今回の戦闘では役立ちそうね♪』 桜花姫は冷笑したのである。 『桜花姫…彼女は何を思考したのかしら?』 雪美姫は冷笑し始める桜花姫に身震いする。 『桜花姫の思考力は予想外だからね…』 すると桜花姫は復活させた門番に問い掛けたのである。 「私から質問だけど…あんた達の家屋敷では何人の匪賊達が潜伏中なのかしら?」 桜花姫の質問に門番は忠実に即答する。 「本拠地には十三人の守備隊が潜伏中なのだ…地下壕の牢獄には六人の見張り役達が合計四人の村娘を監禁中であるぞ…」 「えっ?村娘ですって?」 村娘の一言が気になったのか桜花姫は門番に再質問したのである。 「村娘って何よ?気になるわね…」 「仲間達が…南国の各村落から四人の村娘達を連行したのだ…」 「如何してあんた達は村娘を四人も連行したのよ?」 桜花姫の問い掛けに門番は一瞬沈黙するものの…。 「連行された村娘達は近隣の異国に身売りする予定なのだ…連行した村娘は金儲けの商品だからな…」 「はっ?村娘を身売りですって…」 門番の発言に彼女達は一瞬絶句する。 「金儲けの商品?ひ弱の女性を異国なんかに身売りさせるなんて極悪非道だわ…」 桜花姫は勿論…。 「今時身売りなんて完全に時代錯誤ね…」 雪美姫さえも腹立たしくなる。 「桜花姫…即刻彼女達を救出しましょう!」 「勿論よ!今回ばかりは地上世界の女神様である私でも腹立たしくなったわ!」 「えっ…女神様?」 『無慈悲のあんたが…地上世界の女神様って自称しちゃうなんて…』 雪美姫は自分自身を地上世界の女神様と自称する桜花姫に一瞬苦笑いしたのである。すると桜花姫は門番に接触する。 「匪賊の門番♪あんたは即刻匪賊達の本拠地に潜伏しなさい♪無事に潜伏出来たら匪賊の親玉諸共本拠地で自爆するのよ♪」 「えっ!?一寸…折角復活させたのに彼を自爆させるの!?」 桜花姫の自爆発言に雪美姫は驚愕したのである。 「当然でしょう♪所詮門番は自爆要員だからね♪彼自身の自我は私が掌握したから意思表示も反論も出来ないわよ…何もかもが私の気分次第なのよ♪」 「はぁ…やっぱりあんたは私以上に無慈悲ね…」 『意外と狡賢いし…』 雪美姫は苦笑いする。一方の桜花姫は再度門番に命令したのである。 「即刻あんたは本拠地に戻って親玉と部下の奴等諸共爆殺しなさい…勿論親玉には二人の妖女を仕留めたって報告するのよ♪絶対だからね♪」 「承知した…早速行動を開始する…」 桜花姫の命令を承諾した門番は表門から家屋敷へと入室…。家屋敷最上階の本拠地に戻ったのである。 「桜花姫…あんたも人一倍鬼畜ね…」 「勿論私は敵対者には手加減しないからね♪手段が残虐非道でも敵対者を徹底的に仕留めるのが私だから…利用出来るなら人間の悪党でも悪霊でも利用するわよ♪」 桜花姫は雪美姫の発言に満面の笑顔で即答する。 『桜花姫…』 雪美姫は一瞬身震いするのだが…。 「あんたらしいわね…桜花姫♪」 笑顔で返答したのである。 「雪美姫♪即刻監禁された女性達を救出しましょう♪」 彼女達は表門から恐る恐る家屋敷へと潜入する。 「屋内は宿屋みたいね…」 「宿屋なら一泊したいわね♪」 屋内は意外にも宿屋みたいな雰囲気だったのである。 「屋内では人間達の気配は感じられないわね…桜花姫?如何するのよ?」 周辺からは人間の気配も殺気も何一つとして感じられない。 「門番の情報源では連行された四人の村娘達の居場所は地下豪だったわね…」 すると通路の右側片隅に地下室へと通ずる階段を発見する。 「階段だわ♪地下豪に潜入出来そうよ♪」 「地下壕ね…」 すると突然…。 「えっ!?」 『殺気かしら!?』 背後より殺気を感じる。 「桜花姫!敵襲よ!」 「えっ?」 彼女達の背後には火縄銃を武装した匪賊が突如として出現…。 「妖女!死滅しやがれ!」 桜花姫は背中を狙撃される。 「ぎゃっ!」 火縄銃で狙撃された桜花姫は多量の出血により床面に横たわったのである。 「桜花姫!?大丈夫!?」 桜花姫の背中からは大量の鮮血が出続ける。 「雪美姫…私は…」 「桜花姫…如何して…」 突発的出来事により雪美姫は狼狽える。 「油断大敵ね…迂闊だったわ…ぐっ!」 桜花姫は吐血したのである。 「桜花姫!?」 雪美姫は流れ出る鮮血に動揺する。 「私は如何すれば…」 すると匪賊が狼狽える雪美姫に背後から近寄る。 「白装束の姉ちゃんよ♪即刻あんたも打っ殺すから覚悟しろよ♪」 雪美姫は無表情で匪賊を睥睨したのである。 「打っ殺されるのはあんたよ…」 「はっ?」 雪美姫は妖力により匪賊の肉体を一瞬で氷結させる。 「死滅しなさい!」 「なっ!?」 数秒後…。氷結された匪賊の肉体は一瞬で崩れ落ちる。 「桜花姫…大丈夫!?」 雪美姫は床面に横たわった状態の桜花姫に恐る恐る接触…。戦慄する。 「ひゃっ!」 『桜花姫の肉体…低体温だわ…』 桜花姫の肉体は低体温であり全身が冷感状態だったのである。 『桜花姫が失血死しちゃうわ…』 雪美姫は桜花姫の状態に絶望視する。 『最上級妖女の桜花姫が…人間相手に殺されちゃうなんて…』 雪美姫は桜花姫の絶体絶命に絶望した直後…。突如として床面に横たわった状態の桜花姫の肉体から白煙が発生し始める。 「えっ?」 桜花姫の身体髪膚は白煙に覆い包まれたかと思いきや…。 「えっ!?」 彼女の肉体は一瞬で消滅したのである。 「桜花姫!?」 突然消滅した桜花姫に雪美姫は驚愕する。 『桜花姫の肉体は?』 すると背後より何者かが雪美姫の背中に接触したのである。 「きゃっ!」 突如として何者かに背中を接触された雪美姫は驚愕する。 「雪美姫♪」 「えっ!?あんたは桜花姫!?」 吃驚した雪美姫は桜花姫に怒号したのである。 「吃驚させないでよ!一瞬心臓が急停止するかと…」 「御免あそばせ♪雪美姫♪」 桜花姫は満面の笑顔で謝罪する。 「分身体だから私自身は大丈夫なのよ♪」 「はぁ…分身体だったのね…あんたは本当に人騒がせだわ…」 先程狙撃された肉体が妖力によって形作られた桜花姫の分身体であり雪美姫は一安心したのである。 「冷や冷やさせないでよ…桜花姫…一瞬あんたが本当に殺されちゃったのかと…」 「私に接吻したあんたが私を心配するなんてね♪感謝するわね♪雪美姫♪」 すると雪美姫は赤面した表情で否定する。 「なっ!?勘違いしないで!私は別に…あんたが死んじゃったら私自身が此処から脱出出来なくなるかも知れないからね…誰があんたの心配なんか…」 赤面した雪美姫であるが…。彼女は無理矢理に表情を強張らせる。 『雪美姫…無理に表情を強張らせなくても…』 桜花姫は無理矢理に表情を強張らせる雪美姫に苦笑いする。 「悪者はあんたが仕留めたみたいだから…即刻地下壕に潜入するわよ♪雪美姫♪」 「仕方ないわね…」 二人は再度地下壕へと移動したのである。
第六話
自爆 二人が移動を再開した同時刻…。桜花姫の口寄せの妖術によって復活させられた門番は天守閣とされる最上階の本拠地へと到達したのである。 「ん?こんな場所に門番が…」 天守閣最上階の大部屋には十三人の匪賊達が待機中であり大部屋の中心部には親玉らしき巨漢の無頼漢が待機する。 「二人組の妖女が出現してから山中が随分と大騒ぎみたいだが…通路は大丈夫なのかよ?最上層に妖女が出現したら面倒だぜ…」 「武士団の奴等も面倒だが…妖女に潜入されちまったら対処出来ないぞ…」 周囲の匪賊達が騒然とし始める。 「貴様は門番だな…何事かな?」 匪賊の親玉らしき巨漢の無頼漢が門番に問い掛ける。 「報告だ…」 「報告だと?」 門番は無表情で匪賊の親玉に報告したのである。 「親玉…」 「ん?」 門番は周囲を警戒した様子で一息…。 「見張り役が何人か仕留められちまったが…噂話の二人組の妖女なら先程…俺が確実に仕留めたから安心しな…」 「貴様が二人組の妖女を…」 「二人組の妖女を確実に仕留めたって?本当なのかよ?」 匪賊達は門番が桜花姫と雪美姫を本当に仕留めたのか疑問視したのである。 「貴様が二人組の妖女とやらを仕留めたのは事実であるか?」 巨漢の無頼漢は再度門番に問い掛ける。 「本当に妖女を仕留めたのかよ?」 「胡散臭いな…妖女を仕留めたのが事実なら二人の生首を此処に持って来い…口先だけでは信用出来ないぞ…」 正直彼等は門番の報告に疑心暗鬼だったのである。 「俺が妖女を仕留めたのは勿論事実だ…」 門番は只管に妖女を仕留めたと主張する。 「外部は物静かだけどな…」 「結局妖女は仕留めたのかよ…」 外部は非常に物静かであり数人の匪賊達は門番が二人の妖女を仕留めたのは事実であると信用したのである。 「兎にも角にも…問題は解決したのかな?」 彼等は安堵する。 「ん?貴様…」 『様子が可笑しいな…』 匪賊の親玉は門番の異変に気付いたのである。すると数秒後…。門番の体内から超高温の熱気が凝縮されたのである。 「なっ!?此奴の体内から熱気だぞ…」 「一体何が!?」 周囲の匪賊達が突然の超常現象に動揺し始める。門番の肉体から超高温の熱気が凝縮された瞬間…。 『此奴は…妖女の仕業だな!?』 匪賊の親玉は妖女の仕業であると察知したのである。熱気により門番の肉体が肥大化し始めた直後…。門番の肉体が爆散したのである。 「うわっ!」 「ぎゃっ!」 門番の突発的自爆によって周辺の匪賊達諸共爆殺される。家屋敷全域に爆発音が響き渡ったのである。
第七話
鉄格子 最上層の匪賊達が爆殺された同時刻…。地下豪では最上層の本拠地から響き渡った爆発音により六人の見張り役達が狼狽える。 「爆発音だと!?一体何が!?」 「最上階からだったよな…」 「如何して最上階から爆発音が…天守閣では一体何が発生したのだ!?」 一方連行された四人の村娘達も先程の爆発音に戦慄したのである。 「一体何かしら?」 「何事なの?火薬の爆発音みたいだったけど…」 「私達…こんな牢獄で殺されちゃうのかな…」 「私は…こんな牢獄で死にたくないよ…」 彼女達は極度の戦慄により涙腺から涙が零れ落ちる。すると地下豪の鉄扉から二人組の妖女が潜入する。 「あんた達♪御免あそばせ♪」 満面の笑顔で挨拶する桜花姫に見張り役達は戦慄したのである。 「うわっ!貴様達は!?」 「誰かと思いきや…貴様達は噂話の二人組の妖女だな…」 「如何して妖女が地下豪に潜入出来た!?」 「門番の奴等…警備をすっぽかしやがったのかよ!」 「結局俺達が此処で尻拭いとは…」 桜花姫は満面の笑顔で断言する。 「如何やらあんた達の仲間の門番が私達に寝返っちゃったみたいよ♪今頃仲間内で内輪揉めでしょうね♪」 「はっ!?内輪揉めだって!?」 彼等は桜花姫の発言に驚愕したのである。 「門番の野郎が俺達を裏切りやがったのか!?」 問い掛けられた桜花姫であるが彼女は笑顔で…。 「如何でしょうね♪自分達で確認すれば?」 見張り役達は桜花姫の態度に苛立ったのである。 「此奴…」 「貴様出鱈目を…打っ殺されたいのか!?」 桜花姫の返答に腹立たしくなった巨漢の見張り役が護身用の連発銃で無防備の桜花姫を狙撃…。 「桜花姫!?」 同行者の雪美姫は畏怖したのである。連発銃で狙撃された桜花姫であるものの…。危機一髪妖力の防壁を発動したのである。 「妖力の防壁…成功♪危機一髪だったわね♪」 桜花姫は妖力の防壁により連発銃の弾丸を無力化…。一方の雪美姫は桜花姫の無事に一安心する。 「はぁ…桜花姫…あんたは本当に人騒がせね…」 『一瞬心臓が破裂しちゃうかと…』 すると桜花姫は満面の笑顔で…。 「心配しなくても私なら大丈夫よ♪雪美姫♪あんたは意外と心配性なのね♪」 雪美姫は非常に呆れ果てる。 「桜花姫…あんたね…」 一方の見張り役達は恐る恐る後退りしたのである。 「畜生が…妖女の小娘は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」 桜花姫は見張り役達に挑発する。 「残念だったわね♪連発銃の弾丸では私は殺せないわよ♪」 「此奴!」 桜花姫は変化の妖術を発動…。 「地上世界の女神様である私に手出ししたあんたは即刻招き猫に変化しなさい♪」 巨漢の見張り役を精巧に形作られた招き猫に変化させたのである。 「うわっ!人間が招き猫に!?」 「此奴は妖術か?」 見張り役達は勿論…。牢獄の村娘達も桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられた見張り役の姿形に驚愕したのである。 「えっ!?人間が招き猫に変化するなんて…現実なの?」 「妖術かしら?」 四人の村娘達は恐る恐る桜花姫に注目する。 「えっ?彼女はひょっとして…」 「西国の…月影桜花姫様かしら?」 月影桜花姫の名前に見張り役達は驚愕したのである。 「月影桜花姫だって!?冗談だろ…」 「桜花姫って最上級妖女の!?本物かよ?」 「本物の桜花姫がこんな場所に!?」 すると小柄の見張り役が桜花姫に戦慄し始め…。全身が身震いしたのである。 「貴様達!こんな小娘を相手に狼狽えるな!西国の月影桜花姫とて所詮は非力の小娘だ!打っ殺しちまえ!」 見張り役達は連発銃で桜花姫に総攻撃するものの…。対する桜花姫は妖力の防壁によって連発銃の弾丸を無力化したのである。 「はぁ…鬱陶しい奴等だわ…」 桜花姫は彼等の愚行に呆れ果てる。 「あんた達は…私に挑戦するなんて馬鹿者ね…」 見張り役達に変化の妖術を発動する。 『飴玉に変化しなさい♪』 連発銃で狙撃した見張り役達を自身の大好きな飴玉に変化させたのである。 「ひっ!」 唯一無抵抗だった小柄の匪賊が極度の恐怖心により落涙する。 「如何やら無事なのはあんただけね♪あんたは如何するのかしら♪抵抗するなら私は容赦しないけど♪」 桜花姫が笑顔で発言すると小柄の匪賊は恐る恐る…。 「俺は抵抗しない…降参するよ…」 匪賊は極度の戦慄により全身が身震いしたのである。 「金輪際悪さしないから…今回だけは見逃して…」 匪賊は桜花姫に身震いした様子で一歩ずつ後退りし始める。 「別に…私は誰よりも温厚篤実の女神様だからね♪相手が極悪非道の匪賊だとしても無抵抗の人間には手出ししないから安心しなさい♪」 桜花姫は即座に匪賊の装備品を飴玉に変化させたのである。 「入念だけど♪」 「えっ!?飴玉!?」 匪賊は飴玉に驚愕する。 「武器は無力化したわ♪狙撃したくても出来なくなったわね♪」 桜花姫は牢獄の内部を直視したのである。 「即刻彼女達を救出しないと♪」 すると雪美姫が牢獄の鉄格子に接触する。 「えっ?雪美姫?如何するのよ?」 「桜花姫…私にも役立たせてよ…」 『彼女なりの罪滅ぼしかしら♪如何やら彼女も役立ちたいみたいね♪』 「雪美姫…承知したわ♪あんたは思う存分に役立ちなさい♪」 桜花姫は笑顔で雪美姫の要望を承諾したのである。雪美姫は恐る恐る四人の村娘達に警告する。 「あんた達…村里に戻りたかったら鉄格子には接触しないのよ…」 「承知しました…」 彼女達は恐る恐る鉄格子から後退りしたのである。雪美姫は鉄格子に接触した状態で氷結の妖術を発動…。一瞬で鋼鉄の鉄格子を氷結させたのである。 「えっ…鋼鉄の鉄格子が…」 「鉄格子が一瞬で氷結しちゃうなんて…妖術なのかしら?」 四人の村娘達は驚愕する。すると数秒後…。 「鋼鉄の鉄格子が評決で崩れ落ちたわ…」 氷結の妖術で氷結させた鋼鉄の鉄格子が一瞬で崩れ落ちる。 「私達…村里に戻れるのね♪」 「私達は無事なのね♪」 牢獄から解放された四人の村娘達は無事を大喜びしたのである。 「桜花姫様と…貴女様は誰でしたっけ?」 「私は粉雪妖女の雪美姫よ…」 「粉雪妖女の雪美姫様ですか♪」 「大変感謝します♪妖女の桜花姫様と雪美姫様が参上されなかったら…私達は今頃異国に身売りされたかも知れません…」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 「別に…あんた達が無事なのが何よりよ♪匪賊達を征伐するのも案外面白かったし♪今日は最高の一日だったわ♪」 「えっ…」 『面白かったのかな?』 雪美姫は満面の笑顔で発言する桜花姫に苦笑いしたのである。 「あんた達…即刻地下壕から脱出しましょう♪」 すると雪美姫は警戒した表情で…。 「油断大敵だよ…桜花姫…匪賊達の残党が屋内に潜伏中かも知れないし…」 桜花姫は笑顔で即答する。 「雪美姫♪心配しなくても大丈夫よ♪匪賊の残党が襲撃したとしても私が即刻仕留めちゃうから♪」 彼女達は警戒した様子で恐る恐る地下壕から脱出する。
第八話
解散 移動を開始してより数分後である。 「もう少しで脱出出来そうだわ♪」 彼女達は無事に匪賊達の家屋敷から脱出出来…。安堵したのである。 「私達は…戻れたのね…」 「無事に戻れるなんて…現実なのかしら?」 四人の村娘達は涙腺から涙が零れ落ちる。 「桜花姫様…雪美姫様…貴女達には大変感謝します…」 「私達…貴女達に何も謝礼が出来なくて御免なさいね…」 彼女達は桜花姫と雪美姫に謝罪する。 「別に謝礼なんて…あんた達は大袈裟ね…」 謝罪された桜花姫は困惑するものの…。 「別に気にしないの♪私にとって匪賊征伐なんて道楽同然だから♪所詮夜遊びと一緒だからね♪あんた達は気にしなくても大丈夫なのよ♪」 事実桜花姫にとって悪霊征伐も匪賊征伐も所詮は娯楽であり報酬は不要である。匪賊征伐を夜遊びと断言する桜花姫に雪美姫は苦笑いする。 『匪賊達を征伐するのが道楽って…桜花姫は人一倍異端者だわ…一体何が面白いのかしら?』 桜花姫は異端者であると感じる。 「あんた達…無事に戻りなさいね♪」 「承知しました♪」 「あんた達♪達者でね♪」 「桜花姫様と雪美姫様も♪」 四人の村娘達は恐る恐る南国の村里へと戻ったのである。すると桜花姫は背後の雪美姫を直視する。 「雪美姫…あんたは今後如何するのよ?」 「桜花姫…私は…」 雪美姫は一瞬沈黙するも…。 「今回あんたと一緒に行動してから…私もあんたみたいに悪霊とか匪賊を征伐したくなったわ♪」 笑顔で返答したのである。 「雪美姫♪」 桜花姫は笑顔で発言した雪美姫に微笑み始める。 「あんたの妖力でも其処等の匪賊程度なら確実に仕留められるでしょうね♪あんたなりに精一杯頑張りなさい♪」 「私も…八つ当たりで大勢の人間達を殺しちゃったからね…精一杯贖罪しないと!」 『彼女…本当に雪美姫本人なのかしら?以前とは別人みたいね…』 雪美姫は生前とは別人だったのである。 「反省したのね♪雪美姫…」 「私も遣り過ぎちゃったからね…」 桜花姫は改心した雪美姫に感心する。 「桜花姫♪今回はあんたの気紛れかも知れないけれどね…感謝するわね♪」 「雪美姫…」 半年前は敵対者だった雪美姫の変貌に一瞬驚愕するものの…。 『本来なら口寄せの妖術は非人道的妖術かも知れないけれど…結果的に悪くなかったのかも知れないわね♪』 口寄せの妖術で雪美姫を復活させたのは怪我の功名であると桜花姫は感じる。 「私は第二の人生…精一杯長生きするからね…桜花姫♪」 断言する雪美姫に桜花姫も笑顔で返答したのである。 「私もね♪」 彼女達は山道を下山してより数分後…。 「私は北国の村里に帰郷するわね…」 「達者でね♪雪美姫♪」 「桜花姫も♪」 彼女達は解散したのである。桜花姫は帰宅中…。 『久し振りに東国の八正道様に挨拶しましょうかね♪』 桜花姫は久方振りに東国の八正道の寺院へと訪問する。
第九話
寺院 荒神山から移動してより二時間後…。桜花姫は東国の寺院に到達したのである。 『此処が八正道様の寺院だったわね♪』 桜花姫は寺院の玄関にて満面の笑顔で…。 「八正道様♪」 桜花姫の美声に反応したのか八正道は超特急で玄関口へと移動する。 「誰かと思いきや…貴女様は月影桜花姫様でしたか♪桜花姫様と再会するのは二週間前の妖星巨木の一件以来でしょうか♪久方振りですな♪桜花姫様♪」 八正道は桜花姫との再会に大喜びの様子だったのである。 「八正道様♪元気そうで安心したわ♪」 「桜花姫様こそ元気そうで何よりですよ♪折角ですし…茶話会でも如何でしょうか♪桜花姫様の大好きな和菓子を用意しますよ♪」 「和菓子ですって♪何かしら♪」 八正道は桜花姫を応接間へと案内する。 「桜花姫様♪麦茶と…大好物の和菓子ですぞ♪」 八正道は客人である桜花姫に麦茶と牡丹餅を用意したのである。 「牡丹餅だわ♪美味しそうね♪」 桜花姫は牡丹餅に大喜びする。 「桜花姫様が大喜びの様子なので一安心ですよ♪本来であれば桜花姫様の一番の大好物である桜餅を用意したかったのですが…生憎桜餅は著名の和菓子屋でも完売しちゃったみたいですね…」 桜花姫は恐る恐る謝罪する八正道に満面の笑顔で…。 「別に気にしないで♪八正道様♪桜餅なら先程腹一杯平らげたから♪」 「頬張ったのですね…桜花姫様が桜餅を頬張られたのであれば一安心です♪」 八正道は桜花姫の返答に安堵したのである。 「八正道様♪今日の事件だけどね♪」 「えっ?今日の事件ですと?桜花姫様?」 桜花姫は先程の出来事を八正道に洗い浚い告白する。 「桜花姫様は荒神山で匪賊達を征伐しに出掛けられたのですか!?彼等に連行された村里の女性達を無事に救出されたのですね…」 「神出鬼没の悪霊は出現しなかったけれど…今回の事件も面白かったわよ♪」 「ですが私も桜花姫様と一緒に行動したかったですよ…正直今回の事件では桜花姫様に協力出来なかったので非常に残念ですね…」 八正道は桜花姫に協力出来ず非常に残念であると感じる。 「今回は御免あそばせ♪八正道様♪」 桜花姫は笑顔で謝罪する。 「今回ばかりは敵対者が極悪非道の匪賊だったとしても相手は普通の人間だからね…正直聖職者の八正道様は呼び辛かったのよ♪八正道様は人一倍温柔敦厚で心配性だから人外の悪霊は征伐出来ても…人殺しなんて出来ないでしょう?」 桜花姫は笑顔で発言したのである。 「桜花姫様…」 『やっぱり彼女は正真正銘…桃源郷神国の女神様ですね♪』 桜花姫と八正道は談笑し合ったのである。
第十話
秘密 同日の真夜中の出来事である。大騒ぎが鎮静化した真夜中の荒神山では蛇神の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫が天辺へと到達する。 「なっ!?荒神山の天辺中心部にこんな家屋敷が築造されたなんて…」 「誰の家屋敷なのかな?宿屋みたいだね…」 すると家屋敷の表門より…。 「えっ?誰だろう?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 小猫姫は表門の近辺の地面に横たわった状態の小柄の人物を発見する。 「男の人みたいだけど…」 小猫姫は恐る恐る近寄る。小柄の匪賊であり地面に横たわった状態だったのである。蛇体如夜叉も表門に近寄る。 「ん?ひょっとして家屋敷の宿主かね?」 「熟睡中なの?大丈夫かな?」 蛇体如夜叉と小猫姫は恐る恐る地面に横たわった状態の匪賊の若者に近寄ると匪賊の背中に接触する。 「人間の若者よ…あんたは大丈夫かね?」 蛇体如夜叉が背中に接触しても小柄の匪賊は無反応だったのである。 「如何やら此奴は気絶したみたいだね…大丈夫だろうか?」 蛇体如夜叉は小柄の匪賊を心配する。 「如何して表門で気絶しちゃったのかな?」 「私にも何が何やらさっぱりだね…」 「悪霊にでも遭遇したのかな?」 「此処では悪霊特有の霊力は感じられないね…」 すると数秒後…。 「ん?俺は…」 気絶した状態の匪賊が恐る恐る目覚める。 「ん?俺は一体何を?」 匪賊は寝惚けた状態だったのである。 「目覚めたかね?若者よ…あんたは大丈夫かね?」 「大丈夫なの?」 匪賊は寝惚けた様子であったものの蛇体如夜叉と小猫姫を直視した直後…。突如として匪賊は身震いし始めたのである。 「ひっ!俺を食い殺さないで!」 匪賊は極度の恐怖心からか彼女達を直視しただけで非常に戦慄…。警戒したのである。警戒し始めた匪賊に蛇体如夜叉と小猫姫は吃驚する。 「如何しちゃったのかね?別に私達はあんたを食い殺したりしないよ…」 「心配しなくても私達は手出ししないから大丈夫だよ…」 蛇体如夜叉は勿論…。小猫姫も匪賊に対する敵意は皆無であるが匪賊は不用意に警戒したのである。 「私は単なる通りすがりの薬屋だから大丈夫さ…」 蛇体如夜叉は匪賊に近寄るものの…。 「ひっ!鬼婆…俺に近寄るな!近寄らないで!」 匪賊の鬼婆発言に小猫姫は一瞬失笑する。 「蛇神の蛇体如夜叉婆ちゃんに鬼婆だって♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪面白いね♪」 匪賊に鬼婆と発言された蛇体如夜叉は腹立たしくなり…。全身が身震いし始める。 「えっ!?誰が鬼婆だって!?」 蛇体如夜叉は力強く睥睨した鬼神の形相で匪賊に怒号したのである。 「あんたは私に食い殺されたいのかい!?あんたは命知らずな若者だね!」 「ひっ!失礼しました…女神様…」 「えっ…女神様?」 『蛇体如夜叉婆ちゃんが…女神様って♪』 匪賊の女神様発言に小猫姫は内心大笑いする。一方の匪賊は彼女達から恐る恐る後退りし始め…。 「俺は金輪際…悪さしないから俺を食い殺さないで…」 匪賊は落涙した様子で一目散に荒神山から逃走したのである。 「金輪際妖女は懲り懲りだ!」 全力疾走する小柄の匪賊に蛇体如夜叉と小猫姫は非常に困惑する。 「一体何事だったのかね?彼奴は…」 「如何して逃走しちゃったのかな?ひょっとして悪者の妖女にでも遭遇したのかな?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「私が神族だからかね?私にも何が何やら理由は不明瞭だけどね…」 「蛇体如夜叉婆ちゃんに鬼婆とか女神様って失言しちゃったのは大笑いしちゃったよ♪最高に面白かったね♪」 揶揄する小猫姫に蛇体如夜叉は赤面したのである。 「小猫姫…今回の荒神山での出来事は私とあんただけの秘密だからね!絶対に私以外の誰かに喋ったら承知しないよ!」 蛇体如夜叉は小猫姫に断言するものの…。 「今回の出来事を桜花姫姉ちゃんに喋っちゃおうかな♪面白かったし♪」 小猫姫の返答に蛇体如夜叉は怒号する。 「小猫姫!桜花姫ちゃんに喋ったら承知しないからね!勿論私とあんたの二人だけの秘密だよ!留意しな!」 すると小猫姫の腹部から腹鳴が響き渡る。 「えっ…」 「小猫姫♪ひょっとして空腹かね…」 小猫姫は突然の腹鳴により赤面する。 「戻って夕食だね♪小猫姫♪」 「勿論だよ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪戻ろう♪戻ろう♪私は白身魚が食べたいな♪」 蛇体如夜叉と小猫姫は南国の村里へと戻ったのである。
第十一話
夜警 荒神山で匪賊達との戦闘から三日後の早朝…。とある二人組の夜番警備隊の邏卒が東国の中心街を警備する。 「はぁ…眠たいぜ…」 「夜番の活動は面倒臭いよな…」 中心街の通路にて二人の邏卒は疲れ果てたのか日頃の愚痴を連発しては警備を継続したのである。 「もう少しで俺達の任務は終了するからな…もう少しの辛抱だぞ…」 「真夜中では何も発生しなかったのが何よりだぜ…」 夜番活動中には特段何も発生しなかったのか二人の邏卒は安堵する。 「こんな場所で神出鬼没の悪霊なんかと遭遇しちまったら面倒だからな…」 「神出鬼没の悪霊が出現したとしても西国の月影桜花姫様に悪霊退治を依頼すれば大丈夫だろう…俺達では神出鬼没の悪霊なんて対処出来ないからな…」 神出鬼没の悪霊は屈強の武士団でも対処が困難とされ難題である。 「悪霊関連は不寝番の桜花姫様が専門だろうからな…神出鬼没の悪霊が出現したら桜花姫様に依頼するのが妥当だろうよ…」 今現在不寝番の桜花姫は武士団にとって必要不可欠である一方…。 「桜花姫様に依頼するのが妥当かも知れないけれど…悪霊問題は桜花姫様ばかりに頼りっ放しだからな…」 近年では武士団の他力本願を指摘する役人も出始める。 「武士団の他力本願は大問題だけど…悪霊は超自然的存在だし…」 彼等が町内を出回ってから数分間が経過する。 「兎にも角にも…警備を終了するか…」 「早朝だからな♪」 「一先ずは根城に戻ろうぜ…俺は一眠りしたいし…」 「根城に戻ろうか♪」 彼等は武士団の根城へと戻ろうかと思いきや…。 「ん?気配?」 突如として彼等の背後より不吉の気配を感じる。 「気配だと?」 「一体何が…」 彼等は恐る恐る背後を直視すると全身が身震いする。 「ひっ!」 「此奴は!?」 彼等の背後に佇立するのは背丈が八尺程度の巨体の女性である。煌びやかな赤色の着物姿であり彼女は無表情で彼等を凝視する。 「此奴は女人の怪物だ!」 「怪物に食い殺されるぞ!逃げろ!」 彼等は規格外に巨体である異形の女性に畏怖したのか一目散に逃走したのである。巨体の女性と遭遇した彼等は仲間の邏卒に早朝の出来事を洗い浚い説明するものの…。誰一人として疲労の所為やら見間違いであると一方的に信用しなかったのである。二人の邏卒が巨体の女性と遭遇してより数日後の真夜中…。数人の町民達が規格外に巨体の女性と遭遇したのである。最初に遭遇した邏卒の報告と同様の報告であり東国の中心街全域が騒然とし始める。今回の出来事から巨体の女性の噂話は東国以外の各地に出回る。
第十二話
潜入 東国中心街の噂話を熟知した桜花姫は武士団の根城へと移動したのである。 『武士団の根城に到達したわね…』 根城の表門には二人の番兵が表門を厳重に警備する。 「根城への入城は原則禁止ですよ…」 桜花姫は根城の表門へと近寄ると番兵達に制止されたのである。 「部外者は即刻中心街に戻りなさい…部外者の入城は許可出来ません…」 「私は最上級妖女の月影桜花姫なのよ♪此処で怪談の情報源を入手したいの!私を武士団の根城に入城させてよ♪」 桜花姫は表門の番兵達に根城への入城を必死に依頼するのだが…。 「駄目です!貴女が最上級妖女の月影桜花姫様であっても規則は規則なのですから…平時では関係者以外の入城は許可出来ませんよ!」 「杓子定規ね…」 『仕方ないわ…』 桜花姫は止むを得ず変化の妖術を発動したのである。桜花姫の肉体から白煙が発生したかと思いきや…。 「ん!?」 「なっ!?」 桜花姫は変化の妖術により高身長で全裸の童顔美少女に変化したのである。 「いや~ん♪女の子の全裸を覗き見するなんて♪あんた達は助平ね♪」 二人の番兵達は高身長の童顔美少女に変化した桜花姫の妖艶さと乳房に赤面すると鼻血を噴出し始める。彼等は変化した桜花姫の色気に悩殺され…。気絶したのである。 「意外と単純なのね♪」 『変化の妖術…大成功だわ♪』 桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。彼女は元通りの姿形に戻ったのである。 『早速根城に潜入しますかね♪』 今度は透過の妖術を発動…。透過の妖術で表門を容易に突破したのである。 「透過の妖術♪成功♪」 『表門の突破は案外楽勝だったわね♪』 城内では人気が皆無であり誰一人として城内の役人は確認出来ない。 『城内は案外無防備なのね…』 桜花姫は城内の無防備さに内心驚愕する。 『今度は雲隠れの妖術で…』 桜花姫は雲隠れの妖術を発動…。自身の姿形が透明化する。 「早速…」 『悪霊に遭遇した二人の邏卒を捜索しないと…』 彼女は透明化した状態で城内を出歩いたのである。城内の彼方此方を移動すると数人の役人達と遭遇するも彼等は雲隠れの妖術で透明化した桜花姫の姿形を視認出来ない。 「私♪本物の忍者みたいだわ♪」 『人間相手なら雲隠れの妖術は非常に便利ね♪』 城内を探索し回ってより数分後…。道場らしき大部屋にて二人の役人達が私語するのが確認出来る。 『彼等は根城の役人達だわ…』 桜花姫は恐る恐る役人達の背後に近寄る。 『会話の内容を詮索しましょう…』 彼等の会話の内容を洗い浚い詮索したのである。 「結局…六日前に遭遇した巨体の女子は一体何者だったのかな?」 「彼女の正体は神出鬼没の悪霊だろうか?背丈は多分八尺だったよな…」 桜花姫は彼等の八尺の一言に反応する。 『背丈が八尺ですって?ひょっとすると今回の悪霊は…』 今回出現した悪霊の正体を解明したのである。 「俺達以外にも数人の町民達が巨体の女子に遭遇したらしいからな…」 「巨体の女子の正体が悪霊であれば徹底的に退治しないと夜番なんて金輪際出来ないよ…誰か悪霊を退治出来ないかな?」 二人の役人達は困り果てる。困り果てた二人に桜花姫は満面の笑顔で…。 「如何やら今回も私の出番みたいね♪」 突然の声色に二人の役人達は動揺する。 「なっ!?」 「誰だ!?えっ!?」 突然の桜花姫の発言に彼等は驚愕するものの…。大部屋に存在するのは二人の役人だけである。彼等以外には誰一人として他者の存在は確認出来ない。 「誰だったのか?」 「背後には何も…」 二人は正体不明の女声に身震いしたのである。 「先程の美声は女子みたいだったが…単なる俺の空耳だろうか?」 「本当に空耳なのかな?本物の地声っぽかったが…」 小柄の役人が恐る恐る…。 「此奴はひょっとして…女子の悪霊なのか?」 「こんな場所に悪霊なんて冗談だろ…」 「はぁ…今度こそ疲労の所為だろうか?」 「金輪際悪霊は懲り懲りだぜ…二度と遭遇したくないよ…」 「悪霊は勘弁だな…」 彼等は一息する。 「あんた達…女神様の私を悪霊なんて失礼しちゃうわね…」 桜花姫は彼等の発言に腹立たしくなったのか雲隠れした状態で発言したのである。 「えっ…」 「今度は…一体何が?」 彼等は度重なる超常現象に畏怖し始める。 「あんた達…仕方ないわね…」 桜花姫は悪霊の一言に腹立たしくなったのか雲隠れの妖術を解除する。 「うわぁ!?此奴は小娘だ!」 「如何してこんな場所に小娘が!?貴様は一体何者だ!?ひょっとして人間の小娘に変化した物の怪か!?」 突如として彼等の背後に出現した桜花姫に二人の役人達は驚愕したのである。 「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪物の怪なんて失礼しちゃうわね…」 「月影桜花姫って?」 「あんたが西国の月影桜花姫様なのか?」 「本物かよ!?あんたが桜花姫様なのか!?」 「勿論よ♪私は本物の桜花姫よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「妖術でこんな場所でも容易に潜入出来るなんて…あんたは本物の忍者みたいだな…気配も感じられなかったぜ…」 「妖術って相当便利だな…あんたなら諜報員としても活躍出来そうだぜ…」 すると小柄の役人が恐る恐る…。 「本来であれば侵入者は重罪だが…今回ばかりは特別だぞ…桜花姫様…」 武士団の根城は非常に閉鎖的である。基本的に緊急時以外で部外者が根城の内部に進入するのは原則厳禁とされる。 「今回の根城への潜入は黙殺するからよ…桜花姫様の妖術で中心街に出現した女子の悪霊を退治出来ないかな?」 「俺も同感だ…あんたの荒唐無稽の妖術で神出鬼没の悪霊を退治出来ないか?」 桜花姫は役人達の依頼に大喜びしたのである。 「勿論よ♪私が根城に潜入したのも悪霊の情報収集が目的だからね♪」 「であれば好都合だな♪」 二人の役人は安堵する。 「単刀直入に質問するけれど…あんた達が夜番の活動中に遭遇した悪霊は巨体の女人だったわね?」 「勿論…背丈は八尺規模だぜ…俺達が遭遇した女人の怪物の正体が悪霊か妖怪なのかは断言出来ないが…女人が人外なのは確実だな…」 桜花姫の問い掛けに中肉中背の役人が返答したのである。 「恐らくあんた達が遭遇したのは【八尺姉女房】って女人の悪霊でしょうね…」 「八尺姉女房って名前の…」 「八尺姉女房だと?やっぱり彼奴は女人の悪霊だったのか?」 「八尺姉女房はね…」 八尺姉女房とは女性の悪霊であり姿形のみなら背丈が八尺もの巨体…。女子の悪霊として認識された超自然的存在の一種である。八尺姉女房の正体は遊女として各地に身売りされた少女達の無念の集合体とされる。八尺姉女房の霊力は非常に強大であるものの…。八尺姉女房は出現頻度が僅少であり十数年間に数回程度しか出現しない。一部の村落では巨体女房とも呼称される。 「八尺姉女房の正体とは…遊女として身売りされた小娘達の亡霊なのか…」 「境遇は気の毒だけど…凡人の俺達にとっては傍迷惑だな…」 「兎にも角にも八尺姉女房は私が浄化するからあんた達は安心なさい♪」 「期待するぜ♪桜花姫様♪」 「あんたは八尺姉女房とやらを仕留めろよ♪」 「勿論よ♪」 会話が終了すると桜花姫は大部屋から脱出したのである。
第十三話
巨体 同日の真夜中…。桜花姫は東国の中心街にて悪霊の八尺姉女房が出現するのか出回ったのである。 『今夜は八尺姉女房が出現するかしら?』 彼女は中心街の彼方此方を移動するのだが…。 『出現しないわね…』 八尺姉女房は出現しない。 『八尺姉女房…今夜は出現しないのかしら…』 桜花姫は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。 「えっ…」 突如として背後より極度の寒気を感じる。 『寒気だわ…一体何かしら?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。 「えっ?」 『特段何も…』 悪霊特有の悪寒戦慄からか背後の様子を確認するものの…。 『可笑しいわね…気配は感じられるのに…』 背後には何も存在しない。 「はぁ…」 桜花姫は悪霊の出現を期待するも落胆する。 『悪霊は出現しないし…今夜は戻ろうかしら…』 前方を直視した直後…。 「えっ!?」 桜花姫の前方には背丈は八尺規模の巨体の女性が佇立する。 『巨体の女人…背丈が八尺だわ…』 彼女の表情は無表情であり煌びやかな花柄の着物姿が特徴的である。 「あんたはひょっとして…八尺姉女房?」 彼女の肉体からは亡者の霊力が感じられる。 『悪霊特有の霊力だわ…此奴の正体は正真正銘八尺姉女房ね…』 八尺姉女房の出現に桜花姫は内心一安心する。 「八尺姉女房が出現したのであれば…」 『西国に戻らなくても大丈夫そうね♪好都合だわ♪』 八尺姉女房は敵対者である桜花姫を直視すると不吉の笑顔で冷笑し始める。 『何かしら?』 すると八尺姉女房は自身の霊力で蛍光色の火の玉を形作る。 「えっ?」 『火の玉?』 八尺姉女房は自身の霊力で形作った無数の火の玉で桜花姫に攻撃する。 「火の玉なんて!私には通用しないわよ!」 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。八尺姉女房の火の玉を無力化したのである。 「残念だったわね♪八尺姉女房♪こんな程度の攻撃では私は仕留められないわよ♪」 桜花姫は余裕の様子であったが…。 「ん?」 八尺姉女房は無表情であり平常心の様子である。 『此奴…随分と冷静ね…』 平常心の八尺姉女房に桜花姫は警戒し始める。すると八尺姉女房は目前の桜花姫を凝視し続けると再度冷笑したのである。彼女が冷笑した直後…。 「えっ…」 『八尺姉女房の両目が…』 八尺姉女房の両目全体が黒化すると桜花姫は全身が脱力し始める。 『何かしら?全身が…』 桜花姫は全身の筋力が脱力し始め…。地面に横たわったのである。 『一体何が?』 桜花姫は目前の視界全体が暗化し始め…。何が発生したのか理解出来ず意識が遠退き始める。全身が衰弱化すると数秒後には肉体は身動きしなくなる。自身の特殊能力で桜花姫を衰弱死させた八尺姉女房は地面に横たわった状態の桜花姫を凝視し続けると不吉の笑顔で微笑み始める。数秒間が経過…。地面に横たわった状態の桜花姫であるが突如として身体髪膚が金無垢の砂金へと変化したのである。砂金の状態で崩れ落ちる桜花姫の身体髪膚に八尺姉女房は驚愕の表情で地面の砂金を直視し続ける。 「残念だったわね♪八尺姉女房♪」 八尺姉女房の背後より…。先程衰弱死させた桜花姫が出現したのである。 「砂金分身の妖術…成功ね♪」 桜花姫は八尺姉女房の特殊能力で衰弱死する寸前に砂金分身の妖術を発動…。間一髪衰弱死を回避出来たのである。 『八尺姉女房は両目を黒化すると対象者の魂魄を吸収出来るみたいね…』 八尺姉女房の黒化した両目を直視した対象者は問答無用で魂魄を吸収される。魂魄を吸収された対象者は確実に衰弱死する。今回は桜花姫が砂金分身の妖術を駆使した影響で間一髪無力化されたのである。 『先程は砂金分身の妖術で無力化出来たけど…八尺姉女房の両目は要注意ね…』 桜花姫は両目を瞑目させる。 『八尺姉女房を相手に長期戦は面倒ね…』 桜花姫は圧縮の妖術を発動する。 「八尺姉女房!あんたは圧死しなさい!」 圧縮の妖術とは天空から高圧の重力波を相手の頭上に落下させる攻撃用の妖術である。高圧の重力波はあらゆる物体を一瞬で破壊…。高圧の重力波に直撃した対象者は完膚なきまでに圧死する。八尺姉女房は桜花姫の発動した圧縮の妖術によって圧死…。地面には円形に形作られた鮮血の湖水が構築されたのである。 『八尺姉女房は確実に仕留めたわね♪』 今回の戦闘で八尺姉女房が仕留められて以降…。東国の中心街では八尺姉女房は出現しなくなる。
第十四話
廃墟神社 八尺姉女房との戦闘から一週間後の真昼…。桜花姫の妹分である山猫妖女の小猫姫は暇潰しに西国の廃墟神社にて一休みしたのである。 「はぁ…」 小猫姫は退屈そうな表情で一息する。 「毎日…毎日…退屈だな…」 『悪霊でも出現しないかな?退屈しちゃうよ…』 小猫姫は最上級妖女である桜花姫を人一倍憧憬する一人である。数週間前に勃発した造物主の妖星巨木との大激闘以後…。各地の村里に出現する悪霊の征伐に執心し始める。彼女にとって憧憬の対象者である月影桜花姫みたいに悪霊征伐に尽力するのだが…。近頃は悪食餓鬼以外の悪霊とは何一つとして遭遇せず小猫姫は退屈の毎日だったのである。 『私だって最強の悪霊が出現すれば桜花姫姉ちゃんみたいに悪霊を仕留めちゃうのに…毎回遭遇するのは悪食餓鬼ばかりで面白くないね…』 小猫姫は一息した直後…。 「えっ?」 『気味悪いな…一体何だろう?』 突如として極度の胸騒ぎを感じる。 「胸騒ぎかな…」 彼女は非常に気味悪くなり周囲を警戒したのである。 『気配を感じるけど…霊力なのかな?』 小猫姫は不吉の気配に警戒するものの…。 『ひょっとして神出鬼没の悪霊が出現したのかな?』 小猫姫は内心悪霊の出現には大喜びだったのである。すると直後…。 「えっ?」 『鬼火?』 突如として暗闇の天然林より無数の鬼火が出現する。 『ひょっとして神出鬼没の悪霊が出現したのかな?』 無数の鬼火の出現に小猫姫は大喜びしたのである。 『如何やら今回は本物の悪霊っぽいね♪』 小猫姫は今回の悪霊が大物であると確信する。 『今回は確実に悪食餓鬼以外の大物だね♪』 自身の背後より強烈なる霊力を察知…。 『背後から…』 小猫姫は恐る恐る背後の鳥居を直視する。 「えっ?」 『此奴は人間の…生首?』 廃墟神社の鳥居から女性らしき巨体の生首が出現したのである。 『此奴は外見だけなら人間の生首っぽいけれど…随分と巨体だね…』 突如として規格外の巨大生首が出現…。巨大生首の出現に小猫姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。 『ひょっとして此奴は…以前桜花姫姉ちゃんが退治した亡霊生首って悪霊かな?』 悪霊の正体とは女性の頭部のみの悪霊…。亡霊生首だったのである。亡霊生首は以前西国の天神山にて出現…。桜花姫が浄化の妖術で退治した巨大生首の悪霊である。亡霊生首は浮遊した状態で小猫姫を直視…。亡霊生首は不吉の笑顔で微笑み始める。 「早速私の出番みたいだね♪」 対する小猫姫は亡霊生首の征伐に意気込んだのである。 「悪霊を退治するよ!」 すると突然…。 「えっ…」 亡霊生首は口先を開口したのである。周囲に浮遊する無数の鬼火を吸収し始める。 『周辺の鬼火を吸収したけど?亡霊生首は一体何を?』 亡霊生首は無数の鬼火を吸収すると先程よりも亡霊生首の霊力が増幅される。 『鬼火の吸収で亡霊生首の霊力が強化されたみたいだね…』 すると亡霊生首は口先より無数の火の玉を放出したのである。 「えっ!?火の玉!?」 『火の玉なら変化の妖術で…』 小猫姫は変化の妖術を発動…。伝説の妖獣に変化したのである。亡霊生首が放出した無数の火の玉が伝説の妖獣に変化した小猫姫へと接近する。小猫姫は体内の妖力を増幅させた直後…。 「はっ!」 全身から強烈なる衝撃波を発生させたのである。小猫姫が衝撃波を発生させた直後…。亡霊生首の火の玉は一瞬で消失したのである。 「あんた程度の火の玉なんて私には通用しないからね!」 小猫姫は口先より高熱の雷光を凝縮させる。 「死滅しろ!亡霊生首!」 口先から高熱の雷球を放出したのである。小猫姫が放出した高熱の雷球は亡霊生首に直撃するのだが…。 「えっ!?」 突如として亡霊生首の姿形が消滅したのである。 『亡霊生首が消滅した!?』 小猫姫は周囲を警戒するものの…。 『亡霊生首の居場所は?』 亡霊生首の姿形は確認出来ない。 『如何して亡霊生首は消滅しちゃったのかな?』 周辺から亡霊生首の霊力こそ感じられるのだが…。 『亡霊生首の霊力は感じられるけれど…亡霊生首の居場所は一体?』 姿形は確認出来ず亡霊生首の居場所は不明だったのである。 『先程の亡霊生首は単なる幻影だったのかな?』 小猫姫は先程消滅した亡霊生首が幻影なのか混乱する。 『亡霊生首の本体は一体?』 すると突然…。 「えっ?」 周囲の地中より無数の悪食餓鬼が出現したのである。 『今度は悪食餓鬼の大群?』 無数の悪食餓鬼が生者である小猫姫に殺到し始める。 『悪食餓鬼が相手なら…』 小猫姫は衝撃波を再度発動…。 「はっ!」 高威力の衝撃波によって自身に殺到する悪食餓鬼の大群を一瞬で粉砕したのである。悪食餓鬼は肉体が非常に脆弱であり僅少の妖力で仕留められるものの…。多勢に無勢であり地中より更なる大量の悪食餓鬼が再度出現したのである。 『悪霊がこんなにも大量に出現するなんて…妖星巨木の悪霊騒動以来だね…』 再度出現した無数の悪食餓鬼は小猫姫に殺到…。小猫姫は口先に妖力を凝縮させる。 「死滅しろ!極悪非道の悪霊!」 小猫姫は口先より高熱の雷球を発射…。殺到する悪食餓鬼の大群を一瞬で焼失させたのである。 『悪食餓鬼の大群は一掃出来たね…』 小猫姫は一安心した直後…。 「えっ?」 再度霊力を感じる。 『無数の霊力?今度は何だろう?』 すると背後の地面より無数の悪食餓鬼が一体化した肉団子の一頭身悪霊…。百鬼悪食餓鬼が出現したのである。 『此奴は…百鬼悪食餓鬼だっけ?』 一頭身の体表には無数の悪食餓鬼の顔面が確認出来る。 『此奴は以前…妖星巨木との戦闘で桜花姫姉ちゃんが退治した悪霊の一体…悪食餓鬼の集合体だったよね?』 百鬼悪食餓鬼の体表の悪食餓鬼が小猫姫を凝視する。 『百鬼悪食餓鬼…此奴も気味悪いね…』 体表の無数の悪食餓鬼が口先から高熱の火炎を放射し始めたのである。 『火炎攻撃!?』 小猫姫は即座に雷光の結界を発動…。 「こんな程度の火炎なんて私には通用しないよ!」 百鬼悪食餓鬼の火炎攻撃を無力化したのである。 「此奴は奥の手だよ…」 小猫姫は落雷の妖術を発動…。 「成仏しろ!極悪非道の悪霊!」 天空全域が広範囲の黒雲により覆い包まれる。すると黒雲の中心部より高熱の落雷が百鬼悪食餓鬼の頭上に直撃…。百鬼悪食餓鬼が佇立した地面が抉れる。百鬼悪食餓鬼は高熱の落雷によって完膚なきまでに消滅したのである。 『悪霊は消滅したね…』 小猫姫は百鬼悪食餓鬼を仕留めた直後…。 「えっ!?」 自身の背後より強烈なる霊力が突発的に出現したのである。 『亡霊生首の霊力!?』 小猫姫は警戒した様子で恐る恐る確認する。 「あんたは亡霊生首…」 先程姿形が消失した主敵の亡霊生首が小猫姫の背後より出現したのである。亡霊生首は小猫姫を直視し続けると不吉の笑顔で微笑み始める。 「亡霊生首…あんたは本当に気味悪いよね…」 小猫姫は高熱の雷球を発射したのである。発射された高熱の雷球は亡霊生首に直撃するのだが…。 「えっ!?」 突如として亡霊生首の姿形が消失したのである。 『今度も亡霊生首の幻影!?』 直後…。亡霊生首の本体が小猫姫の目前より出現する。 「此奴が亡霊生首の本体なの!?」 すると亡霊生首は人間界の公用語で発語し始める。 「妖女の小娘よ…伝説の妖獣に変化出来るとは…貴様の妖力は非常に絶大だな…」 「えっ!?あんた…」 『亡霊生首って…普通に喋れちゃうの!?』 人語で発語する亡霊生首に小猫姫は驚愕したのである。 「妖獣の小娘よ…先程の戦闘で貴様の妖力は消耗したみたいだな…」 亡霊生首が妖力の消耗を指摘すると小猫姫は変化の妖術が解除され…。 「えっ!?」 伝説の妖獣形態から元通りの人間の姿形に戻ったのである。 『私…元通りの状態に戻っちゃった…』 妖力の消耗により小猫姫は身動き出来なくなる。 「ぐっ!」 『迂闊だった…妖力の消耗で身動き出来なくなるなんて…悪食餓鬼を相手に大技を連発し過ぎちゃったからかな?』 亡霊生首は不吉の笑顔で身動き出来なくなった小猫姫を冷笑したのである。 「妖獣の小娘よ…貴様は私に食い殺される運命なのだ♪覚悟するのだな…」 「畜生…」 『私は…如何すれば?』 亡霊生首は浮遊した状態で身動き出来ない小猫姫に急接近する。 「妖獣の小娘よ…貴様のか弱き肉体を頂戴するぞ♪妖獣の小娘は大人しく私に食い殺されるのだ…」 「ひっ!」 『私…悪霊に食い殺されちゃうよ…蛇体如夜叉婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…私は…こんな場所で死にたくないよ…』 小猫姫は恐怖心により瞑目したのである。亡霊生首に食い殺される直前…。 「ん?貴様は…何者だ?」 亡霊生首は小猫姫の背後に注目する。 「亡霊生首♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」 すると亡霊生首の肉体は白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。 「えっ!?」 『一体何が発生したの?』 小猫姫は恐る恐る両目を見開くと目前の地面には小皿と桜餅が確認出来る。 「えっ?如何して桜餅が?こんな場所に…」 「小猫姫♪」 「えっ…」 すると小猫姫の背後より最上級妖女の桜花姫が近寄る。 「小猫姫♪危機一髪だったわね♪大丈夫かしら?」 「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?如何してこんな場所に?」 桜花姫は小皿に配置された桜餅を一口で頬張る。 「ひょっとして桜餅の正体は…」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「勿論亡霊生首よ♪変化の妖術で亡霊生首を私の大好きな桜餅に変化させたのよ♪」 「えっ…桜花姫姉ちゃん…」 『亡霊生首を桜餅に…』 桜花姫は変化の妖術で悪霊の亡霊生首を桜餅に変化…。頬張ったのである。 「悪霊でも桜餅に変化させちゃえば美味ね♪」 『桜花姫姉ちゃん…桜餅だとしても神出鬼没の悪霊を食べちゃうなんて…桜花姫姉ちゃんは平気なのかな?』 美味しそうに桜餅を頬張る桜花姫の様子に小猫姫は苦笑いする。 「如何やら今回出現した亡霊生首は以前私が天神山で退治した亡霊生首よりも若干強敵だったみたいね…」 すると小猫姫は恐る恐る…。 「桜花姫姉ちゃんは如何して私の居場所を察知出来たの?」 「近辺の廃墟神社であんたの妖力と無数の悪霊の霊力を察知したのよ♪何よりもあんたの妖力は其処等の妖女よりも強力だから非常に目立つわよ♪」 「桜花姫姉ちゃん…」 小猫姫は苦笑いしたのである。 「私に内緒で悪霊征伐なんて♪小猫姫は意地悪ね♪」 「意地悪も何も…結局悪霊の大物は桜花姫姉ちゃんが仕留めちゃったけどね…」 「今回はあんたも頑張ったみたいね♪小猫姫♪」 「えっ…」 小猫姫は赤面するも内心では大喜びする。 「桜花姫姉ちゃん…」 西国の廃墟神社は幽霊屋敷として有名であったが彼女達の奮闘により神出鬼没の悪霊は浄化され…。元通りの神社として再建されたのである。
第十五話
海中 小猫姫と桜花姫が西国の廃墟神社で亡霊生首と無数の悪霊を仕留めてより三日後…。東国の海域に位置する最南端には弁天島と命名される孤島が存在する。孤島の弁天島では数百人もの島民達と漁師達が移住…。漁業が盛況だったのである。弁天島は漁業として有名である一方…。桃源郷神国の観光地の一種とされる。時たま本土からの旅行者達が観光地の弁天島に来訪…。弁天島は観光地としても盛況だったのである。 「今日も大量だな♪最低でも一週間は漁獲しなくても大丈夫だぞ♪」 弁天島の近海にて二人の漁師達が一隻の小舟で大量の小魚を漁獲したのである。 「こんなにも大量だと一週間は安泰だな♪島民達も大喜びだろうよ♪」 すると大柄の漁師が笑顔で…。 「今度は大物を漁獲したいな♪」 「大物だって?」 小柄の猟師は興味深そうな表情で反応する。 「折角の機会だし…大物を漁獲して島民達を驚愕させたくないか?」 「大物か♪面白そうだな♪」 小柄の漁師が賛同したのである。 「早速移動するぞ…」 二人の漁師達は大物の漁獲を目的に小舟を驀進させる。驀進してより数十分後…。 「戻らないか?」 最初こそ気乗りであったが小柄の漁師は次第に畏怖し始める。周辺を直視すると孤島から大分移動したらしく視界に確認出来るのは青海原の水平線だけである。海面上では自分達の漁船以外は何も確認出来ない。 「弁天島から大分移動しちまったみたいだし…此処は危険そうだ…」 「はっ?何を今更…」 大柄の漁師は呆れ果てる。 「今更本島に戻れるかよ!大魚の一匹でも仕留めないと俺は戻らないぜ!」 大柄の漁師は強気の姿勢だったのである。 「こんな場所に長居し続ければ本島に戻れなくなるかも知れない…海中から悪霊でも出現したら如何するよ!?」 「海中から悪霊だって?悪霊なんて俗界に存在するかよ♪」 『何が悪霊だよ…所詮子供騙しだな♪』 悪霊の一言に大柄の漁師は冷笑…。悪霊の存在を全否定したのである。すると直後…。突如として極度の寒気を感じる。 「ん?寒気だろうか?」 小柄の漁師は極度の寒気により全身が身震いしたのである。 「寒気だって?大丈夫かよ?風邪か?」 大柄の漁師は恐る恐る小柄の漁師に問い掛ける。 「俺は大丈夫だが…村里に戻りたいな…此処は気味悪いし…」 不本意であるが…。大柄の漁師は承諾したのである。 「仕方ないな…今回ばかりは弁天島に戻ろうか…」 二人は弁天島に戻ろうかと思いきや…。小舟の真下より正体不明の巨大物体が浮揚したのである。 「ん!?」 「なっ!?此奴は!?」 水面下の巨大物体は正体こそ不明であるが…。全長は推定三町規模であり規格外に巨大だったのである。水面下の巨大物体に二人の漁師達は畏怖…。大急ぎで小舟を動かそうと踏ん張るのだが小舟は前進しない。 「畜生が!小舟が動かないぞ!一体海上の真下には何が!?」 真下を直視すると海面上から小舟よりも一回り巨体の触手が出現したのである。 「なっ!?蛸足だと!?」 小舟の船体は触手の吸盤に密着…。捕捉されたのである。 「ひっ!此奴は真蛸の怪物だ!」 漁師達は漁船諸共暗闇の海中へと溺水する。
第十六話
港湾 今回の出来事から数日後の真昼…。最上級妖女の桜花姫は極度の退屈さからか家屋敷の居室で寝転び続けたのである。 「はぁ…」 『四六時中退屈だわ…』 八尺姉女房の悪霊事件以降…。神出鬼没の悪霊は出現せず桜花姫は平穏の日常が退屈だったのである。 『大物の悪霊でも出現しないかしら?退屈で仕方ないわ…』 桜花姫は平穏の日常生活が退屈で仕方なく憂鬱に感じる。 『退屈過ぎて死にそう!』 居室で寝転び続ける桜花姫であるが…。 「邪魔するわよ♪桜花姫♪」 「誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の雪美姫?」 突如として粉雪妖女の雪美姫が桜花姫の家屋敷に訪問したのである。 「何事かしら?あんたは私に用事でも?」 「桜花姫♪あんたは水臭いわね♪」 桜花姫は他人行儀の雪美姫は水臭いと感じる。 「桜花姫?あんたは知らないの?噂話を…」 「えっ?知らないって…何が?噂話って何よ?」 桜花姫は噂話の一言に反応する。雪美姫の突然の発言に桜花姫は何が何やら理解出来ず困惑したのである。 「大事件よ♪大事件♪」 「大事件ですって?一体何かしら?」 雪美姫の大事件の一言に桜花姫は再度反応する。 「弁天島で面白そうな大事件が発生したのよ♪」 「弁天島で面白そうな大事件ですって?一体何が発生したのかしら?」 「近頃の出来事だけどね…弁天島では…」 雪美姫は桜花姫に遠島の弁天島で発生した漁師達の行方不明事件を一部始終説明したのである。 「弁天島で漁師達が行方不明なのね…」 『面白そうだわ♪』 漁師達の行方不明事件の発生に桜花姫の闘争心が急上昇する。 「面白そうな事件ね♪今回も悪霊の仕業かしら?」 「恐らくは悪霊の仕業でしょうけど♪調査が必要かも知れないわね♪」 「雪美姫♪早速行動開始よ♪」 彼女達は即座に出掛けたのである。二人が外出してより数十分後…。 「到着したわね♪桜花姫♪」 彼女達は東国の港湾へと移動したのである。 「港湾だわ…」 港湾では数十隻もの漁船が確認出来る。 「此処で小舟を一隻確保しないとね…」 「如何するのよ?桜花姫?今回ばかりは有事だし…漁師達から小舟を無理矢理強奪しちゃう?」 雪美姫の突発的提案に桜花姫は苦笑いする。 「雪美姫…無理矢理強奪って不道徳過ぎるわよ…私でも誰かの所有物を強奪するのは抵抗しちゃうかも…」 「桜花姫…」 『彼女は中途半端に真面目だわ…面倒臭いわね…』 雪美姫は桜花姫の返答に内心面倒に感じる。 「桜花姫?小舟の強奪が駄目なら如何するのよ?生身で海中を力泳するとか?最上級妖女のあんたなら出来そうだけどさ…」 「はぁ…」 『如何するべきか?』 桜花姫は困惑したのである。 『変化の妖術で人魚に変化すれば海中を移動するのは大丈夫でしょうけど…』 変化の妖術で人外の人魚に変化出来れば海中を自由自在に遊泳出来るものの…。 『妖力の消耗がね…』 妖力の消耗が回避出来ず小舟は必要不可欠である。すると一人の漁師が恐る恐る彼女達に近寄る。 「二人の娘さん?こんな場所で一体如何されましたかい?」 「えっ?漁師さん…」 桜花姫は恐る恐る漁師に小舟の借用を依頼する。 「漁師さん…私達に小舟を一隻…借用出来ないかしら?」 「小舟を一隻ね…」 桜花姫の依頼に漁師は困惑したものの…。 「二人の娘さん…仕方ないですな…」 桜花姫が小舟の借用を依頼すると漁師は意外にも簡単に承諾したのである。 「一日だけの借用なら構いませんが…小舟で一体何方に移動されるのですか?」 「私達の目的地は弁天島よ…」 「えっ…弁天島だって…」 弁天島の一言に漁師は戦慄し始め…。全身が身震いしたのである。 「弁天島って…あんた達は本気なのかい?」 漁師は身震いした表情で恐る恐る彼女達に問い掛ける。 「勿論よ♪漁師さん♪私達は本気よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「二人の娘さん…あんた達は死にたいのかい?」 漁師は戦慄した様子で彼女達に警告したのである。 「近頃の出来事ですがね…弁天島の近海では数人の漁師達が行方不明なのですよ…危険過ぎますぜ…」 弁天島での噂話は各地で出回り…。大勢の漁師達が畏怖したのである。当然として漁獲活動が出来なくなる。 「あんた等みたいな娘さんが二人だけで弁天島に移動するのは危険過ぎるよ…」 すると同行者の雪美姫が満面の笑顔で…。 「私達は漁師達の行方不明事件の詳細を調査中なの♪漁師さんが心配しなくても私達なら大丈夫よ♪月影桜花姫が参上すれば事件なんて簡単に解決出来るからね♪」 「えっ?月影桜花姫って?」 漁師は恐る恐る桜花姫を直視し始める。 「貴女様は…西国の月影桜花姫様ですか!?」 問い掛けられた桜花姫は満面の笑顔で自身の名前を名乗る。 「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪」 「貴女様が数多くの悪霊を退治された不寝番の月影桜花姫様でしたか!?」 漁師は同行者の彼女が桜花姫本人であると認識した直後…。先程とは態度が一変したのである。 「不寝番の桜花姫様であれば…小舟の一隻?二隻なんて無料で貸与しますよ♪」 「感謝するわね♪漁師さん♪」 漁師は桜花姫に恐る恐る問い掛ける。 「桜花姫様?ひょっとすると今回の大事件も…悪霊の仕業なのでしょうか?」 「現段階では悪霊の仕業なのかは断言出来ないけれど…可能性としては否定出来ないわね…」 海面からは不吉の気配を感じる。 『海中から不吉の気配は感じられるし…神出鬼没の悪霊だとしたら相当の大物なのは確実でしょうね…』 今回は相当の大物であると予想する。
第十七話
蛸足 交渉から数分後…。漁師から小舟を一隻借用した彼女達は目的地の弁天島へと移動したのである。海上を移動中に雪美姫が恐る恐る…。 「桜花姫?あんたは気味悪くないかしら?」 雪美姫は海中から胸騒ぎを感じる。 「あんたも感じるのね…雪美姫…」 「胸騒ぎの正体は神出鬼没の悪霊なのかしら?」 「恐らくはね…」 『今回の悪霊…今迄に出現した悪霊で一番厄介そうね…大物なのは確実かしら?』 桜花姫は今回出現する悪霊が規格外の大物であると確実視する。 「雪美姫…今回の悪霊は想像以上の強敵かも知れないわ…注意してね…」 「勿論よ…桜花姫…」 二人は悪霊の出現に警戒したのである。港湾から移動してより数十分後…。桜花姫と雪美姫は弁天島の近海へと到達したのである。 「桜花姫…もう少しで弁天島に到達しそうよ…」 桜花姫は警戒した様子で海面上を凝視し続ける。 「今回の相手は想像以上に巨体みたいね…悪霊なのかしら?」 「えっ!?本当に!?」 雪美姫は桜花姫の発言に畏怖する。 「桜花姫…勝算は如何なのよ?今回の悪霊…退治出来そうなの?」 雪美姫は不安そうな様子で恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「大抵の悪霊なら楽勝だけど…相手が暗闇の海中だと正直微妙ね…」 雪美姫は桜花姫の返答に絶句する。 「微妙って…桜花姫…」 『こんな調子で大丈夫なのかしら?今回の事件…解決出来るの?』 桜花姫の返答に雪美姫は不安が募り始める。 「如何やら大物が此方に接近中みたいね…」 「えっ!?大物が接近中ですって!?」 暗闇の海中より強大なる霊力は勿論…。正体不明の巨大移動物体が小舟の真下に確認出来る。 「止むを得ないわね…」 桜花姫は天道天眼を発動したのである。天道天眼の効力により桜花姫の妖力が数十倍へと急上昇する。 「一体何が出現したのよ!?桜花姫!?」 正体不明の巨大移動物体に雪美姫は大騒ぎし始める。 「雪美姫…あんたは大袈裟ね…」 桜花姫は一人で大騒ぎし続ける雪美姫に呆れ果てる。 「こんな状況であんたは平気なの!?桜花姫!?」 「別に…こんな場所で大騒ぎしたって仕方ないでしょう…」 桜花姫は冷静だったのである。すると直後…。 「えっ!?何よ!?」 雪美姫は海面上に注目する。突如として全身が赤色の巨大触手が海面上から出現したのである。 「ひゃっ!蛸足なの!?」 雪美姫は海面上から出現した正体不明の巨大触手に戦慄する。 「如何やら蛸足みたいね…此奴は触手の部分かしら?」 桜花姫は冷静だったのである。 『如何して桜花姫は冷静なのよ!?』 桜花姫は冷静沈着であり雪美姫は如何して彼女は正体不明の巨大触手に畏怖しないのか不思議に感じる。海面上から出現した規格外の巨大触手は小舟の桜花姫を標的に力一杯拘束したのである。 「えっ!?桜花姫!?」 正体不明の巨大触手は拘束した桜花姫諸共…。神速の身動きで彼女を暗闇の海中へと沈潜させたのである。 「桜花姫!?」 桜花姫は暗闇の海中へと連行され…。 『桜花姫が海中に…私は如何すれば…』 雪美姫は絶望したのである。一方の桜花姫は海中の巨大触手によって沈潜させられた数秒後…。 『変化の妖術…成功ね♪』 漆黒の海中へと連行された桜花姫であるが彼女は即座に変化の妖術を発動すると人外の人魚に変化したのである。 『雷撃の妖術で…』 今度は雷撃の妖術を発動…。自身の体内から高威力の雷撃を放出すると巨大触手の拘束から解放されたのである。 「あんたは…」 視界に存在する巨大移動物体とは全身赤色の巨大触手が八本も確認出来…。巨大移動物体の正体とは規格外の巨大真蛸だったのである。不吉にも本体の頭部は女性の巨大頭部であり無表情で人魚状態の桜花姫を凝視する。 「海中の悪霊…【海難姫君】みたいね…」 海難姫君とは巨体の女性の頭部と巨大真蛸の肉体が一体化した姿形の巨大悪霊である。正体は戦乱時代の大海戦で入水したとされる大名の正室の無念が海中の悪霊へと変貌…。悪霊でも強力の部類とされる上級悪霊の一体であり特定の地方によっては蛸足女房やら真蛸大女とも呼称される。海難姫君は神出鬼没の悪霊としては異質的であり本体の全長は推定三町規模と規格外に巨体だったのである。 『弁天島で漁師達が行方不明だったのは此奴の仕業だったのね…』 すると海難姫君は不吉の表情で桜花姫に冷笑し始める。 「其方は…妖女の小娘だな…」 海難姫君は高知能の悪霊であり他者とも人語で会話出来る。 『海難姫君…此奴は神出鬼没の悪霊なのに人語で喋れるのね…』 すると海難姫君は桜花姫に名前を問い掛ける。 「其方の…名前は?」 「私の名前ですって?」 桜花姫は自身の名前を名乗ったのである。 「私の名前は月影桜花姫…最上級妖女の月影桜花姫よ…」 「其方は最上級妖女の月影桜花姫であると?其方が今迄に数百体…数千体もの亡者達を仕留めたとされる伝説の妖女か…」 『私って…霊界でも有名なのね♪』 神出鬼没の悪霊にも自身の名前が知れ渡り…。桜花姫は内心大喜びする。 「其方は強大なる妖力を保持するが…私を仕留めるには力不足だな…」 「力不足ですって?」 「私は其処等の悪霊とは別格の存在なのだ…」 「あんたが別格ね…」 『海難姫君の霊力は今迄に出現した悪霊とは比較出来ないわね…』 海難姫君は上級に君臨する悪霊の一体とされる強豪の存在である。当然として通常の妖女では上級悪霊の海難姫君には対抗出来ない。 「其方は…無理に人外の人魚に変化した悪影響なのか…妖力の消耗で満身創痍の状態なのだろう?其方の肉体からは絶大なる苦痛が感じられるぞ…」 「ぐっ…」 『此奴は…体内の妖力も察知出来るのね…』 現実問題…。桜花姫は変化の妖術で人魚に変化したのと海中の水圧の悪影響により妖力が急速に消耗したのである。 「桜花姫とやら…如何やら図星みたいだな♪其方は満身創痍の状態で…私に勝利出来るかな?」 「妖力が消耗したとしても…私ならあんたを一撃で仕留められるわ…覚悟するのね…海難姫君…」 桜花姫は海難姫君を一撃で仕留められると断言する。 「はっ?其方は満身創痍の状態で私を一撃で仕留められると?満身創痍の其方に…出来るかな?」 海難姫君は強気の桜花姫に冷笑したのである。 「所詮強がったとしても其方の妖力が消耗し続けるのは何よりも事実…其方は大人しく私に捕食されるのだな…」 桜花姫の妖力は一秒毎に現在進行形で消耗し続ける。 『此奴との長時間の戦闘は危険だわ…海難姫君は短時間で仕留めないと…』 桜花姫は海難姫君に変化の妖術を発動する直前…。 「最上級妖女の月影桜花姫…完膚なきまでに死滅するのだ…」 海難姫君は触手の吸盤から水中光弾を無数に発射する。 『吸盤から水中の光弾!?』 触手の吸盤から発射された無数の水中光弾は合計数千発である。海難姫君の吸盤から発射された水中光弾は誘導し始め…。海中の桜花姫に殺到したのである。 『こんな攻撃なんて…妖力の防壁で…』 無数の水中光弾が直撃する直前…。桜花姫は妖力の防壁を発動したのである。 『危機一髪だったわね♪』 妖力の防壁の発動により間一髪海難姫君の攻撃を無力化する。 「月影桜花姫…妖力の防壁で私の攻撃を無力化したか…」 「私にはあんたの攻撃は通用しないのよ♪残念だったわね♪海難姫君♪」 桜花姫は海難姫君を挑発したのである。 「私の攻撃を無力化出来たのは事実であるが…妖力の防壁で其方の妖力は先程よりも消耗したぞ…私を相手に如何するのだ?」 妖力の消耗により桜花姫は大技が使用出来なくなる。 「妖力が消耗したから何よ?妖力が消耗したとしても私は妖術であんたを仕留められるわよ♪」 桜花姫は御大層に強がるのだが…。 『正直…海中で海難姫君を相手するのは無謀なのよね…』 海中での戦闘では妖力の消耗が桁外れであり人魚の状態を維持し続けるだけでも辛苦だったのである。桜花姫は海中での環境下に適応出来ず…。刻一刻と体内の妖力が消耗し続ける。 『如何しましょう…海中では圧倒的に不利だわ…』 海中での戦闘は桜花姫が圧倒的に不利であり彼女は苦悩したのである。 『一か八か海中から撤退して…海上の雪美姫の協力が必要不可欠だわ…』 桜花姫は不本意であるが…。 『止むを得ないわね…』 一か八か撤退を決意する。 『瞬間移動の妖術…発動!』 瞬間移動の妖術を発動…。突如として桜花姫の姿形が消滅したのである。 「なっ!?月影桜花姫!?」 一方の海難姫君は桜花姫の突然の消滅に吃驚する。 『妖術で逃げられたか…絶対に彼奴を捕食する!覚悟するのだな…月影桜花姫!』 海難姫君は桜花姫の行方を追撃したのである。
第十八話
浮上 海難姫君が追撃を開始してより同時刻…。 「瞬間移動の妖術♪成功ね♪」 桜花姫は海面上の小舟へと無事戻れたのである。 「えっ!?桜花姫!?」 突如として戻った桜花姫に雪美姫は驚愕する。 「あんたは…無事に戻れたのね…」 僅少であるが…。雪美姫の涙腺から涙が零れ落ちる。 「あんたが敵対者の私を心配するなんてね♪雪美姫♪」 桜花姫は落涙し始めた雪美姫を揶揄する。 「なっ!?誰があんたの心配なんか…最強のあんたが死んじゃったら私も悪霊に捕食されちゃうからよ…」 雪美姫は腹立たしくなったのか桜花姫を睥睨したのである。 「別に睥睨しなくても…雪美姫…」 『雪美姫は強情ね…』 桜花姫は雪美姫の様子に苦笑いする。 「私はこんな場所で悪霊なんかに食い殺されたくないわよ…」 すると直後…。海中から再度強大なる霊力が急接近したのである。 「霊力だわ…海難姫君かしら?」 「海難姫君って?」 「海難姫君は今回出現した悪霊なの♪上級の悪霊よ…」 桜花姫は満面の笑顔で発言するが…。一方の雪美姫は驚愕する。 「えっ!?上級の悪霊ですって!?」 雪美姫は上級悪霊の一言に畏怖したのである。 「あんたは大袈裟ね…雪美姫…」 畏怖する雪美姫に桜花姫は大袈裟であると感じる。 「如何して桜花姫は平常心なのよ!?相手は上級の悪霊なのに…」 「大騒ぎしたって仕方ないでしょう♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 「桜花姫は上級悪霊の海難姫君を仕留められるの?」 雪美姫は不安そうな表情で問い掛ける。一方の桜花姫は恐る恐る…。 「妖力を消耗しちゃったから…正直一人で大物の海難姫君を仕留められるかは微妙なのよね…」 桜花姫は先程の海中での戦闘により大半の妖力を消耗したのである。普段なら満面の笑顔で仕留めると断言出来るのだが…。今回は妖力の消耗で満身創痍であり得意の大技が使用出来ない。 「微妙なんて…桜花姫らしくない返答だわ…」 「実際問題…私は海中での戦闘で大量の妖力を消耗しちゃったのよ…こんな空っぽの状態では雑魚の悪食餓鬼も仕留められないわ…」 「最上級妖女の桜花姫が海中で妖力を消耗しちゃうなんてね…変化の妖術って余程妖力を消費するみたいね…」 「変化の妖術だけなら大丈夫だけど…暗闇の海中では人魚の状態を維持し続けるのは私でも辛苦なのよね…」 現実問題…。桜花姫自身は人魚に変化出来ても海中での長時間の活動は困難であり母親の月影春海姫みたいに長時間の遊泳は不可能である。 「何方にせよ…一時的に陸地に戻らないと…海難姫君には対抗出来ないわ…」 「仕方ないわね…桜花姫…本土に撤収しましょう…」 『悪霊を仕留め切れずに撤退なんて…桜花姫らしくないわ…』 今回の桜花姫は普段よりも非常に慎重だったのである。彼女達は桃源郷神国本土に戻ろうかと思いきや…。 「霊力が接近中だわ…」 「海難姫君かしら!?如何するのよ!?桜花姫!?」 警戒し始めた数秒後である。小舟の真横から巨体の女性の頭部…。八本もの巨大触手が海面上より出現したのである。 「きゃっ!触手の怪物だわ!」 「此奴が海難姫君よ…」 「此奴が海難姫君なの!?人面の…巨大真蛸だわ…」 雪美姫は突如として海面上から出現した海難姫君に戦慄する。すると海難姫君は無表情で発言し始める。 「二人の妖女の小娘達よ…私からは逃げられないぞ…二人とも今迄の漁師達みたいに捕食するからな…」 「私達を捕食出来るかしら?海難姫君♪」 桜花姫は海難姫君に再度挑発したのである。 「其方…命知らずの小娘風情が…」 海難姫君は桜花姫の態度に苛立ち始める。 「桜花姫!?あんたは正気なの!?此奴に挑発したら今度こそ…」 雪美姫は海難姫君に挑発する桜花姫が正気なのか不安がる。 「私は正気よ♪雪美姫♪」 桜花姫は恐る恐る雪美姫の左手に接触する。 「えっ?桜花姫?何かしら?」 「雪美姫♪御免あそばせ♪」 直後…。雪美姫の体内の妖力が桜花姫に吸収されたのである。 「ぐっ!」 『私の妖力が…桜花姫は私の妖力を吸収したのかしら?』 「御免なさいね…雪美姫…」 桜花姫は恐る恐る雪美姫に謝罪する。 「此処で海難姫君を仕留めるには…あんたの妖力が必要不可欠なのよ…」 『雪美姫の妖力を吸収した影響かしら?私の妖力が大分回復したわね♪』 雪美姫の妖力を吸収すると体内に妖力が蓄積される。 「貴様は…苦し紛れに仲間の妖力を吸収したみたいだが…貴様達程度の妖力で私を仕留めるには力不足だな…」 海難姫君は豪語するのだが…。 「私の妖力が力不足かしら?」 「ん?」 『小娘風情は…随分と余裕みたいだな…』 桜花姫の様子に海難姫君は警戒する。 「桜花姫!今度は私も加勢するわよ!」 雪美姫は氷結の妖術を発動…。直後である。推計三里規模の海面上全域が氷結し始め…。氷結の妖術により氷塊の陸地を構築させたのである。 「なっ!?其方!?」 雪美姫の氷結の妖術は非常に強力であり一時的であるが海難姫君の全身を凍結化…。海難姫君の身動きを封殺したのである。 「ぐっ!」 『氷結の妖術か!?私がこんな小娘を相手に身動き出来なくさせられるとは…』 身動き出来なくなった海難姫君に桜花姫は勝利を確信する。 「雪美姫♪加勢♪感謝するわね♪」 「はぁ…はぁ…桜花姫…今度こそ確実に海難姫君を仕留めなさいよ…」 「勿論よ!雪美姫!」 一方の雪美姫は先程の氷結の妖術で体内の妖力を消耗…。小舟の船上にて横たわったのである。 「雪美姫…海難姫君は確実に仕留めちゃうからね♪」 桜花姫は凍結化により身動き出来なくなった海難姫君に変化の妖術を発動する。 『海難姫君…桜餅に変化しちゃえ♪』 海難姫君は桜花姫の発動した変化の妖術で桜餅に変化…。先程巨体の海難姫君が存在した海面上には桜花姫の大好物である桜餅が浮遊する。 『変化の妖術♪成功ね♪』 桜花姫は変化の妖術で桜餅に変化した海難姫君を捕食したのである。 『やっぱり神出鬼没の悪霊でも…桜餅は美味だわ♪』 海中での戦闘では苦戦したものの…。粉雪妖女の雪美姫の協力によって桜花姫は上級悪霊の海難姫君に勝利出来たのである。 「本当…あんたは色んな意味で最強ね…桜花姫…」 「当然でしょう♪雪美姫♪」 彼女達は大喜びする。
第十九話
一仕事 海難姫君を仕留めてより一時間後…。桜花姫と雪美姫は弁天島の砂浜へと上陸したのである。 「桜花姫?如何して悪霊の海難姫君を仕留めたのに弁天島に上陸するのよ?」 雪美姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「最後の一仕事よ♪」 「最後の一仕事ですって?一体何するのよ?」 桜花姫は恐る恐る瞑目する。 『口寄せの妖術…発動!』 禁断の妖術である口寄せの妖術を発動すると周辺の地中より十数人もの漁師達が出現したのである。突然の漁師達の出現に雪美姫は驚愕する。 「えっ!?人間の漁師達だわ…あんたはひょっとして…」 「口寄せの妖術で海難姫君に食い殺された漁師達を元通りに復活させたのよ♪」 「最後の一仕事って…漁師達の復活だったのね…」 『正直私には理解出来ないけれど…如何して桜花姫は見ず知らずの漁師達を口寄せの妖術で復活させたのかしら?』 如何して桜花姫が見ず知らずの漁師達を復活させるのか彼女には理解出来なかったのである。口寄せの妖術により復活した漁師達は驚愕した表情で周囲を見渡し始める。 「えっ!?一体何が!?」 「俺達は蛸足の怪物に食い殺されて…」 すると雪美姫は漁師達に近寄ったのである。 「あんた達…桜花姫に感謝しなさいよ!」 「桜花姫って…」 「西国の妖女…月影桜花姫様ですか!?」 「本物だ…本物の月影桜花姫様だな…」 漁師達は桜花姫の名前に反応する。雪美姫は漁師達に一連の出来事を一部始終説明したのである。 「俺達は桜花姫様の口寄せの妖術と命名される妖術で復活出来たのですね♪」 「此処は現実だよな?俺達は…家屋敷に戻れるのか♪」 「女房と再会出来るぞ♪」 漁師達は大喜びする。 「桜花姫が口寄せの妖術を駆使しなかったら…あんた達は未来永劫復活出来なかったのよ♪桜花姫はあんた達の恩人だからね♪」 「勿論ですとも♪」 「大変感謝します♪月影桜花姫様♪」 漁師達は桜花姫に一礼したのである。 「折角俗界に戻れたのよ♪あんた達は自分達の家屋敷に戻りなさい♪あんた達の家族が心配するわよ♪」 彼等は大喜びの様子で解散…。各自家屋敷へと戻ったのである。 「事件は無事解決ね♪桜花姫♪」 「一件落着だわ♪私達は桃源郷神国に戻りましょう♪」 最上級悪霊…。海難姫君による漁師達の行方不明事件は桜花姫と雪美姫の大活躍によって無事解決したのである。今回の大事件以後…。弁天島では桜花姫と雪美姫は伝説的人物として後世へと伝承されたのである。
第二十話
観音山 弁天島近海に出現した上級悪霊の海難姫君を仕留めてより四日後の真夜中…。西国の山奥には観音山と命名される神聖なる霊峰が存在する。近頃は神聖なる霊峰の観音山に強大なる悪霊が出現するとの噂話が全国各地に出回り…。悪霊の噂話を熟知した桜花姫は西国の山奥に聳え立つ観音山へと移動したのである。 『観音山に到達したわね…』 時間帯は真夜中の深夜帯であるが…。 『此処では悪霊特有の霊力が感じられないわ…こんな神聖の場所に神出鬼没の悪霊なんて出現するのかしら?』 観音山は神聖なる霊峰である。此処では悪霊特有の霊力らしい霊力は何一つとして感じられない。 『悪霊が出現したとしても…観音山の空気で簡単に浄化されそうだけれど…』 観音山は神聖なる山風より確実に悪霊が出現出来ない聖域と豪語されるのだが…。近頃は登山者やら修行僧からも強大なる悪霊らしき超自然的存在の出現が霊峰の観音山で確認されたのである。 『兎にも角にも…観音山の頂上に移動しないと判断出来ないわね…』 暗闇の山道を移動してより一時間後…。 『頂上には到達出来たけど…』 桜花姫は観音山の頂上に到達する。 『悪霊は?』 頂上では悪霊らしき姿形は勿論…。獣類の気配すらも何一つとして感じられない。 「はぁ…」 『頂上に移動しても霊力は感じられないわね…』 周囲は物静かな風音…。清涼の川音に心情が安定する。 「観音山は本当に天国みたいな場所みたいね…」 『俗界の極楽浄土かしら?』 観音山は別名地上世界の極楽浄土とも呼称され…。大勢の修行僧やら僧侶達が神聖なる観音山で修行する。 「本当にこんな場所で悪霊なんか出現するのかしら?」 『山中からは霊力は感じられないし…村里に戻ろうかしら?』 悪霊特有の霊力は感じられず桜花姫は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。 「ん?」 背後から物音が響き渡る。 『物音だわ…一体何かしら?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視…。 「えっ…」 彼女の背後には全長六尺程度の巨大能面が確認出来る。 「如何してこんな場所に能面が…」 『特大だし…』 すると直後…。巨大能面の視線が桜花姫の方向へと動き始めたのである。 「ひゃっ!」 桜花姫は気味悪くなったのか巨大能面から恐る恐る後退りする。 『ひょっとして巨大能面の正体って…』 巨大能面の正体を察知した直後である。突如として巨大能面から八本もの蜘蛛の脚部が生成され…。胴体部分が能面の巨大人面蜘蛛へと変化したのである。 『此奴は器物の悪霊…小面袋蜘蛛…』 巨大能面の正体とは器物の悪霊…。小面袋蜘蛛であり前回の廃村で出現した個体よりも一回り巨体だったのである。 『観音山に出現したのが悪霊の小面袋蜘蛛なんてね…』 小面袋蜘蛛は悪霊の一体であるものの…。 『霊力を察知出来なかったのも納得だわ…』 小面袋蜘蛛の本体とされる珍妙の巨大能面は造物主の妖星巨木の樹木から形作られた代物である。小面袋蜘蛛本体からは悪霊特有の霊力は感じられない。 「此奴は非常に厄介ね…」 『如何して悪霊の小面袋蜘蛛が観音山に出現出来るのかしら?』 観音山はあらゆる霊力やら他者への殺意を浄化する霊峰の場所であるものの…。桜花姫は如何して悪霊の小面袋蜘蛛が霊峰の観音山に出現出来るのか不可思議に感じる。すると蜘蛛の胴体部分であるが巨大能面が笑顔で…。 「か弱き小娘よ…貴様は不思議そうな表情だな♪」 「えっ!?」 突如として人語で発語する小面袋蜘蛛に驚愕したのである。 『小面袋蜘蛛って…喋れるの!?』 衝撃の事実に桜花姫は一瞬沈黙する。 「か弱き小娘よ…其方の正体は人外の妖女だな♪初見で其方が人外の妖女であると認識したぞ…」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。 「あんたは…神出鬼没の悪霊なのに如何して観音山に出現出来るのよ?本来観音山はあんたみたいな悪霊が出現すれば即座に浄化されちゃう場所なのに…」 「残念であったな…妖女の小娘よ♪」 小面袋蜘蛛は桜花姫の問い掛けに即答する。 「私自身の肉体は地上世界の世界樹…妖星巨木…所謂造物主から誕生した肉体であるからな…神聖なる観音山でも私は自由自在に行き来出来るのだ…」 「私を妖女の小娘って…あんたは腹立たしい悪霊ね!手加減しないわよ!」 桜花姫は神性妖術…。十八番の天道天眼を発動したのである。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。同時に桜花姫の妖力は通常よりも数百倍へと増大化したのである。 「其方は…神性妖術の天道天眼を開眼したか?であれば其方は…幾多の悪霊を食い殺したとされる伝説の妖女か…」 「勿論♪私は最上級の妖女…月影桜花姫よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で最上級妖女と豪語するのだが…。 『小面袋蜘蛛は神出鬼没の悪霊でも妖星巨木の樹体から誕生した器物の悪霊だからね…私が此奴に妖術を発動しても妖力を吸収されちゃうのよね…如何しましょう?』 小面袋蜘蛛も母体である妖星巨木と同様にあらゆる妖力を吸収出来る特異体質の悪霊である。妖星巨木の一部である性質上小面袋蜘蛛に高等の妖術を駆使したとしても妖力は吸収され…。発動した妖術が無力化されるのは明白である。 「如何やら私に警戒した様子だな…月影桜花姫とやら…其方が攻撃しないのであれば此方から攻撃するぞ…」 すると小面袋蜘蛛は胴体部分の巨大能面の口先より…。 「えっ?」 瑠璃色の発光体を無数に放出したのである。 『何かしら?』 瑠璃色の発光体は雷撃の雷球でありやんわりと浮遊し始め…。桜花姫に接近する。 『雷球みたいね…』 桜花姫は妖力の防壁を発動…。無数の雷球を無力化したのである。 『こんな程度の雷球で私を仕留めるなんて無謀なのよ…』 小面袋蜘蛛の攻撃を無力化出来ても…。実質妖術が主体の桜花姫では小面袋蜘蛛に対する反撃は事実上不可能である。 『小面袋蜘蛛を相手に通常の妖術は使用出来ないわ…変化の妖術も小面袋蜘蛛には通用しないだろうし…』 桜花姫は苦悩する。 『仕方ないわね…』 桜花姫は覚悟したのである。 『一か八か神通力を使用しますかね…』 強大なる神通力を駆使すれば世界樹の妖星巨木が相手でも対抗出来るが…。神通力を活用すると肉体への負担は絶大であり最悪の場合衰弱死も否定出来ない。 『所詮相手は悪霊の一体…遠慮は不要ね…』 桜花姫の全身より瑠璃色の発光体が放出される。 「其方は…小娘の分際で神通力を使用出来るのか?其方の体内からは妖星巨木の気配を感じるぞ…」 「私は以前の戦闘で妖星巨木の樹体の一部を捕食したのよ…」 「であるからこそ月影桜花姫…其方は妖星巨木の木材を捕食した影響で強大なる神通力を使用出来るのだな…」 小面袋蜘蛛は意味深の様子で…。 「小娘の分際で神通力を行使するとは…其方は命知らずだな…」 「命知らずなのはあんたよ…小面袋蜘蛛…」 小面袋蜘蛛の発言に返答する。 桜花姫は神通力を加味させた落雷の妖術を発動…。 「あんたを仕留めるわよ…小面袋蜘蛛…覚悟なさい!」 観音山の上空は黒雲に覆い包まれたのである。 「死滅しなさい!小面袋蜘蛛!」 落雷の妖術により上空の黒雲から高熱の落雷が落下…。小面袋蜘蛛の直上に落雷が直撃したのである。 『小面袋蜘蛛は…仕留めたかしら?』 高熱の落雷により地面が陥没する。 『小面袋蜘蛛は?』 落雷によって陥没した地面には小面袋蜘蛛の姿形は何一つとして確認出来ない。 『小面袋蜘蛛の姿形は確認出来ないけれど…』 桜花姫は再度警戒したのである。 『手応えは感じられないわ…』 すると自身の背後より気配を感じる。 『背後かしら?』 彼女の背後より小面袋蜘蛛が再度出現したのである。 「えっ…小面袋蜘蛛!?」 無傷の小面袋蜘蛛に桜花姫は一瞬動揺する。 「非常に残念であったな…最上級妖女の月影桜花姫よ…先程其方が攻撃したのは私自身の分身体なのだ…」 小面袋蜘蛛は分身体の使用によって神通力を駆使した桜花姫の落雷攻撃を間一髪回避したのである。 「あんたの分身体だったのね…」 『此奴…悪霊の分際で器用に分身体を駆使出来るなんてね…』 すると小面袋蜘蛛は胴体部分の能面の口先を開口し始める。 「えっ?」 『小面袋蜘蛛は一体何を?』 小面袋蜘蛛の能面部分は再度閉口する。 「観音山の自然力を吸収したのだ…私自身の霊力は先程よりも強大化したぞ…」 「観音山の自然力を吸収ですって…」 小面袋蜘蛛は自然界の自然力を吸収した影響からか先程よりも小面袋蜘蛛の霊力が強大化したのである。 「如何やらあんたを相手に手加減は不要みたいね…」 桜花姫は神通力を加味した火球の妖術を発動する。無数の火球が小面袋蜘蛛に直撃する直前…。小面袋蜘蛛は霊力の防壁を発動させ強大なる神通力を加味させた桜花姫の火球攻撃を全弾無力化したのである。 「最上級妖女の月影桜花姫…其方程度の妖術では妖星巨木の樹体の一部である私は仕留められないぞ…」 小面袋蜘蛛の胴体部分である能面の口先より粘着性の白糸を放出し始め…。桜花姫を拘束したのである。 「ぐっ!」 白糸の粘着力は非常に強力であり桜花姫は身動き出来なくなる。 『身動き出来ないわ…』 身動き出来なくなるばかりか体内の妖力が白糸に吸収され…。妖力が消耗し始める。 『体内の妖力が吸収されるわ…やっぱり単独で小面袋蜘蛛を仕留めるのは不可能なのかしら?』 現実問題…。あらゆる妖術の通用しない小面袋蜘蛛系統の悪霊は人外の妖女にとっては最悪の難敵である。桜花姫は妖術の戦法に特化した妖女であり基本的に妖術以外の攻撃手段を所持せず…。妖術以外の攻撃手段を所持しない彼女単独のみで難敵である小面袋蜘蛛を仕留めるのは実質困難である。桜花姫は体内の妖力を吸収され…。衰弱化したのである。最早彼女は虫の息であり完全に身動き出来なくなる。 「月影桜花姫は衰弱死したな…」 『今度こそ大敵の月影桜花姫を食い殺せるぞ…』 小面袋蜘蛛は空腹であり腹部の口先を開口し始め…。 「私は空腹なのだ…月影桜花姫…其方の貧弱そうな肉体を頂戴するぞ…」 完全に身動き出来なくなった桜花姫を捕食する寸前である。 「ん?」 『白煙だと?』 突如として桜花姫の肉体から白煙が発生し始め…。彼女の肉体は白煙に覆い包まれたと同時に消滅したのである。 「なっ!?月影桜花姫の肉体は!?」 『何故月影桜花姫の肉体が完膚なきまでに消滅したのだ!?』 突発的超常現象に小面袋蜘蛛は動揺し始める。 『月影桜花姫の本体は一体?』 すると驚愕する小面袋蜘蛛の背後より…。 「残念だったわね♪小面袋蜘蛛♪」 「其方は…月影桜花姫の本体か?」 小面袋蜘蛛の背後には無傷の桜花姫が佇立する。 「先程あんたが白糸で拘束したのは私の分身体なのよ♪」 桜花姫は拘束される寸前に分身の妖術を発動したのである。 「分身体だと?其方は分身の妖術を駆使したのか?」 「勿論ね♪今度こそ反撃開始よ♪」 桜花姫は神通力を加味した金縛りの妖術を発動する。直後…。一時的であるが小面袋蜘蛛は金縛りの妖術により身動き出来なくなる。 「金縛りの妖術…成功ね♪」 すると小面袋蜘蛛は険悪化した鬼神の形相で桜花姫を睥睨し始める。 「月影桜花姫…今回ばかりは…其方は私を単独で仕留められたのかも知れないが…其方みたいな脆弱の小娘が神通力を駆使し続ければ…肉体への負担は絶大…今後…安易に高等の神通力を多用し続ければ…其方の脆弱の肉体では確実に寿命は収縮されるだけだぞ…覚悟するのだな…」 「寿命の…収縮ですって…」 小面袋蜘蛛の忠告に桜花姫は一瞬動揺する。 「神通力を使用し続ける愚行は…自身の肉体の破滅を意味するのだぞ…」 「破滅ね…」 一瞬動揺した桜花姫であるが…。 「私への忠告かしら♪感謝するわね♪小面袋蜘蛛♪」 桜花姫は満面の笑顔で神通力を加味した爆破の妖術を発動する。爆破の妖術により小面袋蜘蛛の肉体は爆散し始め…。地面には小面袋蜘蛛の血肉やら破片が彼方此方に飛散したのである。 『気味悪いからね…』 今度は通常の変化の妖術を発動…。 『桜餅に変化しなさい♪』 飛散した小面袋蜘蛛の血肉は無数の桜餅に変化したのである。 『悪霊の死骸でも桜餅に変化させちゃえば平気ね♪』 すると直後…。 「ぐっ!」 突如として桜花姫は全身が重苦しくなる。 『神通力を多用した影響かしら…』 神通力を多用した影響からか極度の苦痛が全身に伝播させる。先程の小面袋蜘蛛の発言は事実であると実感したのである。 『今後は…安易に神通力は使用出来ないわね…』 今回の戦闘で神通力の副次効果を痛感した桜花姫であるが…。小皿に配置された無数の桜餅を直視すると食欲が上昇し始める。 『大量の妖力を消耗しちゃったし…早速桜餅を食べちゃおうかしら♪』 桜花姫は桜餅を一口で頬張ると消耗した妖力を回復させたのである。 『やっぱり桜餅は美味ね♪』 無数の桜餅を完食してより数分後…。桜花姫は村里へと戻ったのである。
第二十一話
市松人形 神聖なる観音山での小面袋蜘蛛との死闘から五日後の真夜中…。とある二人組の匪賊が南国近隣の山道を移動する。 「此奴は予想以上に暗闇だな…」 「一度…一休みしないか?四六時中歩きっ放しで疲れちまったぜ…」 小柄の匪賊が大柄の匪賊に問い掛ける。 「真夜中だし仕方ないな…一休みするか…」 二人は道端の巨岩の片隅に腰掛ける。 「はぁ…今日は疲れちまったぜ…明日は如何するよ?」 問い掛けられた小柄の匪賊は笑顔で…。 「明日は南国の村里でも襲撃するかな♪」 「南国の村里だったら米俵一石程度なら分捕れそうだな♪」 彼等は愉快そうに談笑したのである。すると突然…。 「ん?」 「如何した?」 「気味悪いな…子供の笑い声が…」 小柄の匪賊は子供の笑い声に反応する。 「子供の笑い声だと?」 突如として子供らしき笑い声が山道に響き渡る。 『こんな場所に子供の笑い声なんて冗談だろう…』 大柄の匪賊は単純に冗談であると本気にしなかったのである。 「子供の笑い声なんて本当なのか?単なる空耳とか?」 大柄の匪賊は懐疑的に問い掛ける。 「本当だって!本当に子供みたいな笑い声だったぞ!」 小柄の匪賊は感情的に返答したのである。すると再度…。暗闇の自然林から子供の笑い声が響き渡ったのである。 「本当だな…子供の笑い声っぽいな…如何してこんな場所で子供の笑い声が?」 大柄の匪賊は子供の笑い声に極度の寒気を感じる。小柄の匪賊は恐る恐る…。 「こんな真夜中の山道で子供が一人で出歩くなんて絶対可笑しいよ…ひょっとして子供の亡霊が出現したとか…」 「ひっ!」 子供の亡霊の一言に大柄の匪賊は身震いする。 「馬鹿者か!?何が亡霊だよ!亡霊なんて存在するかよ!単なる空耳だろうが!」 大柄の匪賊は子供の笑い声を空耳だと断言…。激怒したのである。 『第一亡霊とか…悪霊なんて単なる子供騙しだろうに…』 大柄の匪賊は亡霊やら悪霊の存在を子供騙しであると全否定するのだが…。内心戦慄したのである。 『悪霊が出現しそうな雰囲気だな…』 極度の恐怖心からか全身は身震いし続ける。 「気味悪いし…場所を変更しないか?こんな場所では野宿出来ないよ…」 大柄の匪賊は恐る恐る小柄の匪賊に問い掛ける。 「危険そうだからな…」 『何よりも気味悪いし…』 小柄の匪賊も承諾したのである。二人は移動する直前…。 「ん!?」 地面の真下を直視すると一体の子供の市松人形が転がったのである。 「ひっ!此奴は子供の人形!?」 「如何してこんな代物が地面に…」 彼等は地面の市松人形に畏怖する。すると小柄の匪賊が再度恐る恐る…。 「ひょっとして…先程の子供の笑い声って…此奴なのか?」 「えっ…」 大柄の匪賊は絶句したのである。直後…。 「馬鹿者が!此奴は単なる人形だって!子供の笑い声も俺達の空耳だろうが!面白くない冗談だな!」 大柄の匪賊は只管に悪霊の存在を全否定したのである。 「本当に俺達の空耳なのかな?」 小柄の匪賊は内心納得出来ず先程の子供の笑い声が人形であると確信する。 「絶対に空耳だって!人形が爆笑するかよ!」 大柄の匪賊は空耳だと断言したのである。 「えっ?此奴…」 「人形が!?此奴は現実なのか…」 子供の市松人形の首部が動き始めたかと思いきや…。無表情の市松人形が彼等を凝視し始める。 「ひっ!」 「人形の頭部が!?」 すると無表情だった市松人形が不吉の笑顔で…。 「あんた達も…私の仲間入りね♪」 人語で発言した市松人形に二人の匪賊は極度の恐怖心からか意識が遠退いたのである。不吉の出来事から二日後…。南国の山道では人攫いに遭遇するとの噂話が全国各地で出回ったのである。
第二十二話
怪異事件 怪異事件発生から二日後の真昼…。桜花姫は暇潰しに東国の八正道の寺院にて桜餅を頬張る。 「八正道様♪感謝するわね♪桜餅♪美味だわ♪」 「桜花姫様は大満足の様子ですね♪」 桜花姫は只管に机上の桜餅を頬張り続ける。 「桜花姫様は五日前の戦闘では弁天島の近海に出現した海難姫君でしたかね?海難姫君と命名される巨大悪霊を退治されたみたいですね♪大変感謝しますよ♪桜花姫様♪」 「気にしないで♪八正道様♪私にとって悪霊征伐は単なる娯楽だから♪」 「桜花姫様にとって悪霊征伐は単なる娯楽なのかも知れませんが…桜花姫様の功績によって大勢の村人達が安心して生活出来るのも事実ですからね♪」 「八正道様♪」 八正道の発言に桜花姫は赤面したのである。 「桜花姫様…」 八正道は真剣そうな表情で恐る恐る…。 「えっ?何かしら?八正道様?」 「近頃の出来事なのですがね…南国の山道で通行中の旅人達が正体不明の人攫いに遭遇するとの怪異事件が頻発したらしいのですよ…」 「正体不明の人攫いですって?一体何かしら?」 桜花姫は怪異事件の一言に反応したのか途端に表情が一変する。 「本題なのですが…」 数週間前の出来事である。南国の山道を通行した村人達の失踪する行方不明事件が偶発的に発生…。怪異事件が発生する時間帯は真夜中の深夜帯であり近所の村人達からは子供らしき笑い声が響き渡るとの情報である。度重なる怪異事件に各地の村里では子供の悪霊の仕業であるとの噂話が出回る。 「近隣の住民達からは子供らしき笑い声が響き渡ったとの報告です…」 「真夜中の山道で子供の笑い声…行方不明事件ね♪」 『今度も神隠しかしら♪面白そうだわ♪』 桜花姫は怪異事件の発生に闘争心が急上昇する。 「桜花姫様の妖術で行方不明の旅人達を救出出来ませんか?子供らしき笑い声の正体も気になりますし…」 「勿論よ♪八正道様♪何が出現したかは不明だけど…神出鬼没の悪霊を仕留めるのが私の本業だからね♪」 桜花姫は八正道の問い掛けに満面の笑顔で即答したのである。 「非常に心強いですね♪桜花姫様♪」 「私にとっては悪霊征伐なんて所詮娯楽だけどね♪」 「であれば桜花姫様…今回も事件の解決を期待しますよ♪」 一方の桜花姫は今回の怪異事件が気になったのか彼是と思考し始める。 『今回の神隠し事件…悪霊の仕業なのかしら?何よりも子供みたいな笑い声が響き渡ったみたいだし…恐らくは悪霊の仕業でしょうけど…』 桜花姫は今回の行方不明事件が神出鬼没の悪霊の仕業であると予想する。
第二十三話
付喪神 同日の真夜中…。桜花姫は悪霊征伐と行方不明者達の救出を主目的に南国の山道へと参上する。 『真夜中の山道…』 「神出鬼没の悪霊が出現しそうな雰囲気だわ…」 桜花姫は周囲の暗闇の自然林を警戒したのである。 「此処では悪霊特有の霊力は感じられないわね…」 『今回の神隠し事件は本当に悪霊の仕業なのかしら?』 何一つとして霊力が感じられず桜花姫は今回の行方不明事件が悪霊の仕業なのか疑問視する。 「はぁ…」 『残念ね…今夜は出直しかしら?』 桜花姫は一時的に悪霊征伐の断念を決意したのである。 「今夜は何も進展しないし…村里に戻ろうかしら…」 『仕方ないわね…』 桜花姫は西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 突如として近辺から子供らしき笑い声が響き渡る。 「何かしら?」 『子供の笑い声!?』 突然の子供らしき笑い声に桜花姫は再度警戒する。 『如何やら今回の来客が出現したみたいね♪』 桜花姫にとって敵対者の出現は好都合であり内心一安心だったのである。 『今回は何が出現するのかしら♪』 子供らしき笑い声は響き渡るのだが…。 「ん?」 『別に何も…』 特段何も出現せず周囲の様子を警戒し続けても何一つとして確認出来ない。 『笑い声の正体は一体…』 桜花姫は何気無く地面を直視した直後…。 「きゃっ!」 真下の地面に子供の市松人形が転がったのを確認する。 「市松人形!?」 『吃驚させないでよね…』 突然の市松人形の出現に桜花姫は吃驚したのである。 『市松人形よね?如何してこんな場所に子供の市松人形が?』 桜花姫は恐る恐る地面の市松人形を回収する。 『最初は吃驚したけれど…随分と可愛らしい女の子の市松人形だわ♪小猫姫なら大喜びしそうな代物ね♪』 山猫妖女の小猫姫は人一倍子供の人形が大好きであり市松人形を本物の子供みたいに可愛がる。 「えっ!?」 市松人形を回収した直後である。 『市松人形の両目が…』 突如として市松人形の両目が桜花姫を直視したかと思いきや…。市松人形は不吉の笑顔で桜花姫を冷笑し始める。 『此奴の姿形は子供の市松人形でも…中身は完全に別物みたいね…此奴の正体は何者かしら?』 市松人形の正体は神出鬼没の悪霊であると予想するのだが…。市松人形の本体からは悪霊特有とされる霊力らしい霊力は何一つとして感じられない。 『市松人形からは悪霊特有の霊力が感じられないわ…ひょっとして此奴も…』 すると市松人形が笑顔で…。 「あんたの正体♪人外の妖女ね♪」 市松人形は人間の口言葉で発語したのである。 「あんたは…市松人形なのに喋れるのね…あんたは一体何者なのかしら?」 桜花姫は人間の口言葉で発語する市松人形に恐る恐る問い掛ける。 「私は市松人形の付喪神とでも♪俗世間では神出鬼没の悪霊とか…【亡霊菊人形】って揶揄されるけれどね♪」 「亡霊菊人形ですって?」 『此奴も小面袋蜘蛛と同様に妖星巨木の樹木から誕生した器物の悪霊なのね…』 亡霊菊人形とは肉親からの虐待により惨殺された子供達の怨念が器物である市松人形と一体化した無念の集合体…。本体である市松人形に子供達の無念が憑霊した付喪神の一種として知られる。亡霊菊人形は列記とした器物の悪霊であるものの…。本体である市松人形は造物主妖星巨木の樹木から形作られた代物である。小面袋蜘蛛と同様に本体の霊力を感知出来ない。 「妖女の小娘♪残念だったわね♪」 亡霊菊人形には桜花姫の妖術が通用せず亡霊菊人形は余裕だったのである。 「私の肉体は妖星巨木の樹木から誕生した肉体なの…私自身の本体からは霊力は感じられないわよ♪」 豪語した直後…。亡霊菊人形の両目が蛍光色に発光したのである。 「きゃっ!」 桜花姫は亡霊菊人形の両目を直視…。直後である。 「今夜であんたも私達の仲間入りね♪随分と可愛らしいわよ♪」 亡霊菊人形は今現在の桜花姫の状態に冷笑する。 「えっ?」 『一体何が発生したの?』 突然何が発生したのかは不明瞭であるものの…。 『如何して私は身動きが出来ないのかしら?』 亡霊菊人形の両目を直視したのを契機に桜花姫は身動き出来なくなる。 『ひょっとして金縛りなの?亡霊菊人形の霊能力なのかしら?』 すると亡霊菊人形が桜花姫を直視すると不吉の笑顔で…。 「あんたの肉体は私の霊能力で市松人形に変化したのよ♪市松人形の肉体では身動きしたくても身動き出来ないわよ♪」 「えっ!?」 『私の肉体が…市松人形に!?』 桜花姫は亡霊菊人形の霊能力により市松人形に変化させられたのである。市松人形の肉体では身動き出来ない。 『市松人形の肉体では…身動き出来ないわね…如何しましょう?』 桜花姫は市松人形に変化させられた影響からか極度の眠気により熟睡したくなる。 『何かしら?突然眠気が…』 数秒後…。 「はぁ…」 桜花姫は極度の眠気により真夜中の山道で熟睡したのである。一方の亡霊菊人形は熟睡中の桜花姫を凝視し始め…。 『妖女の小娘は熟睡したわね♪』 熟睡した桜花姫の様子に亡霊菊人形は冷笑する。 『彼女を連行しましょう…』 すると暗闇の自然林より巨体の何者かが出現…。地面の亡霊菊人形と市松人形に変化した桜花姫を回収したのである。
第二十四話
人形部屋 亡霊菊人形と遭遇してより数時間後…。 「えっ…」 『私は…一体?』 市松人形に変化した桜花姫はとある場所で目覚めたのである。 『如何してこんなにも無数の人形達が?此処は不吉ね…』 目覚めた場所はとある家屋敷の一室であり彼女の周囲には数百体もの市松人形達が確認出来…。保管された状態だったのである。 『周囲の人形達からは人間達の精気を感じられるわね…』 数百体もの市松人形達は老若男女の多種多様の市松人形であり精気を感じる。 『ひょっとして彼等も私と同様に市松人形に変化させられた人間なのかしら?』 部屋全体の彼方此方に精巧に形作られた市松人形が無数に保管され…。部屋全体が市松人形達によって密閉された状態だったのである。 『こんな場所で長居し続ければ元凶の悪霊を征伐出来なくなるわ…』 桜花姫は一か八か変化の妖術を発動する。 『変化の妖術!発動!』 変化の妖術を発動すると市松人形の肉体が元通りの姿形へと戻ったのである。 『変化の妖術…大成功ね♪』 桜花姫は周囲の市松人形達を直視すると生身の人間の気配を感じる。 「黒幕の亡霊菊人形を仕留めて…市松人形のあんた達も元通りの姿形に戻しちゃうから安心なさいね♪」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る人形部屋を退室したのである。 『亡霊菊人形の気配は感じられないわね…』 室内では人気は勿論…。悪霊特有の霊力すらも感じられない。 『相手は妖星巨木から誕生した一体だからね…』 「霊力を感知出来ないのは当然でしょうけど…」 すると室内から跫音が響き渡る。 「えっ…」 『何かしら?』 桜花姫は即座に雲隠れの妖術を発動…。彼女の姿形が一瞬で透明化する。すると桜花姫の背後より背丈が規格外の巨大市松人形が出現したのである。 『此奴は…』 巨大市松人形は姿形こそ少女の人形であるが…。全体像の背丈は十三尺規模と桁外れだったのである。 『姿形は市松人形みたいだけど…規格外に巨体だわ…』 桜花姫は市松人形の巨大さに驚愕する。一方の巨大市松人形は姿形が透明化した桜花姫の存在には気付かず素通りしたのである。 『此奴…市松人形みたいだけど…規格外でしょう…一体何者なのかしら?』 桜花姫は規格外の巨大市松人形に愕然とする。巨大市松人形は地下通路へと移動したのである。 『彼奴…地下通路に移動したわね…』 「巨体の彼奴も…亡霊菊人形の一体なのかしら?」 桜花姫は即座に巨大市松人形を追尾する。
第二十五話
祭壇 巨大市松人形の行方を追尾してより数分後…。桜花姫は石造りの大部屋らしき地下壕へと到達したのである。 『石造りの地下壕?此処は儀式用の大部屋なのかしら?』 地下壕は全面的に石造りであり周囲の石垣には無数の炬火が設置され…。室内全体の視界は良好だったのである。 「えっ?」 『巨大市松人形は?』 不可解にも地下壕では先程遭遇した巨大市松人形が存在しない。地下壕の中心部には祭壇が確認出来…。祭壇の中心部には身長一尺程度の亡霊菊人形が鎮座する。 『彼奴は亡霊菊人形だわ…こんな場所に…』 すると亡霊菊人形の首部が桜花姫の佇立する方向へと動作し始める。 「えっ…」 雲隠れの妖術によって全身を透明化させた桜花姫であるが…。 『ひょっとして亡霊菊人形は…私の居場所を察知出来るの?』 祭壇の亡霊菊人形と目線が合致する。 「妖女の小娘♪」 亡霊菊人形は不吉の笑顔で発言したのである。 「あんたは子供騙しみたいな雲隠れの妖術で全身の肉体を透明化したみたいね♪」 桜花姫は雲隠れの妖術により透明化した状態であるものの…。本体である亡霊菊人形は自身の霊能力によって透明化した彼女の居場所を容易に特定出来る。 「巨体の分身体は誤魔化せても♪本体である私は誤魔化せないわよ♪大人しく雲隠れの妖術を解除したら如何なのかしら?妖女の小娘♪雲隠れの妖術を解除なさい…」 桜花姫は亡霊菊人形に指摘されると恐る恐る…。 「はぁ…」 『誤魔化せないなら仕方ないわね…』 桜花姫は仕方なく雲隠れの妖術を解除したのである。 「自力で元通りの姿形に戻れるなんてね♪やっぱりあんたは其処等の人間とは別格みたいだわ…」 「私は最上級妖女の月影桜花姫様なのよ♪当然でしょう♪」 桜花姫は得意満面の表情で豪語する。 「月影桜花姫ですって?」 亡霊菊人形は桜花姫の名前に反応したのである。 「あんたが数多の悪霊の天敵…月影桜花姫なのね…」 桜花姫の背後から先程遭遇した巨大市松人形が出現したかと思いきや…。桜花姫に接近し始める。 「此奴は?」 「彼女は私の分身体よ♪」 「巨体だけど…此奴はあんたの分身体なのね…」 巨大市松人形の正体とは本体である亡霊菊人形が形作った巨体の分身体である。巨体の分身体には自我が存在せず本体である亡霊菊人形の思考によって身動きする。 「私の分身体♪彼女は私達の大敵よ♪思う存分に彼女を殺害しなさい♪」 巨体の分身体は亡霊菊人形の命令に服従…。分身体の口先が開口したのである。 『分身体は一体何を?』 分身体の口先から猛毒の毒液が噴射される。 「きゃっ!」 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪猛毒の毒液を無力化したのである。分身体の毒液は非常に強力であり石造りの地面が液状化する。 『危機一髪だったわ…分身体の毒液に接触したら大変だったわね…』 亡霊菊人形は桜花姫の妖術を直視すると脅威に感じる。 『月影桜花姫は最上級妖女だったかしら?彼女の妖力…予想以上に強力だわ…桜花姫は妖力を無力化出来ても油断は出来ないわね…』 「分身体…私達の本領を発揮するのよ…」 亡霊菊人形の命令に巨体の分身体は無言で点頭する。 「ん?」 『今度は何を?』 巨体の分身体は再度口先を開口したかと思いきや…。今度は高熱の火球を発射したのである。 『火球ですって!?』 高熱の火球に桜花姫は再度妖力の防壁を発動する。 「きゃっ!」 高熱の火球は非常に強力であり妖力の防壁でも防ぎ切るのが精一杯だったのである。桜花姫は火球の爆風に吹っ飛ばされ…。背後の壁面に激突する。 「ぐっ!」 背後の壁面に激突した衝撃により桜花姫は石造りの床面に横たわる。 『意外と強力なのね…』 巨体の分身体は床面に横たわった状態の桜花姫に急接近する。一方本体の亡霊菊人形が床面に横たわった状態の桜花姫を冷笑したのである。 「いい気味だわ♪月影桜花姫♪随分と辛苦みたいね♪あんたは私達に降参かしら?」 「滑稽だわ…誰があんた達に降参なんて…」 桜花姫は苦し紛れに否定する。 「強がったとしてもあんたが圧倒的に不利なのは事実でしょうに♪本体である私を仕留められれば形勢逆転は可能かも知れないけれど…最上級妖女だとしても妖女のあんたでは私を仕留めるのは実質的に不可能なのよ♪大人しく私達に降参するのが無難ね♪」 器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に亡霊菊人形は荒唐無稽の妖術を無力化出来…。基本的に妖術が主体の桜花姫にとって妖術の通用しない亡霊菊人形は小面袋蜘蛛と同様に最悪の天敵である。 「私の分身体♪彼女を殺害するのよ♪今度こそ桜花姫を完膚なきまでに仕留めなさい♪」 亡霊菊人形は再度巨体の分身体に桜花姫の殺害を命令する。 「ぐっ…如何すれば…」 『亡霊菊人形には…私の妖術は無力でしょうけれども…』 内心妖術による反撃は無益であると自覚するのだが…。 『一か八か…変化の妖術で…』 桜花姫は巨体の分身体に変化の妖術を行使したのである。 「ん?あんたは…私の分身体に妖術を駆使したわね♪」 当然として発動した変化の妖術は無力化され…。桜花姫の妖力は巨体の分身体に吸収されたのである。 「あんたは馬鹿者なの?私の肉体は妖星巨木の樹体なのよ♪」 亡霊菊人形は桜花姫を冷笑し始める。 「あんたが最強の妖女でも私にはあんたの妖術なんて通用しないからね♪あんたが妖術を発動し続ければ私は強大化し続けるだけなのよ♪」 桜花姫は一歩ずつ後退りしたのである。 『妖術の通用しない亡霊菊人形を攻略するには…妖力を駆使しない武器が必要不可欠なのよね…』 「ん?」 桜花姫はとある人物の存在を想起する。 『八正道様…』 桜花姫の想起した人物とは誰であろう僧侶の八正道だったのである。 『八正道様なら…妖術の通用しない亡霊菊人形を…攻略出来るかしら?』 「一か八かね…」 桜花姫は一か八か口寄せの妖術で僧侶の八正道と携帯式の榴弾砲を口寄せする。桜花姫の目前から白煙が発生し始め…。八正道と携帯式の榴弾砲が出現したのである。 「えっ!?桜花姫様!?一体何が発生したのでしょうか!?」 突然の超常現象に何が何やら状況を理解出来ず八正道は動揺し始め…。 「如何して突然…私はこんな場所に!?一体…何事です?」 愕然とした様子で周囲を確認する。 「こんな真夜中の時間帯に御免なさいね…八正道様…」 桜花姫は恐る恐る八正道に謝罪したのである。 「桜花姫様!?一体何が発生したのでしょうか?桜花姫様の妖術ですか!?」 桜花姫は八正道に問い掛けられると苦し紛れに返答する。 「御免なさいね…一か八かの大博打だったのよ…私が口寄せの妖術で八正道様と…榴弾砲を口寄せしたのよ…」 「えっ…私自身と榴弾砲ですと?」 八正道は恐る恐る地面の榴弾砲に注目したのである。 「ひょっとして地面の榴弾砲は妖星巨木の悪霊事件で回収した代物ですね…」 携帯式の榴弾砲とは以前小面袋蜘蛛との戦闘で使用した代物であり八正道は恐る恐る榴弾砲を回収する。 「今現在亡霊菊人形に対抗出来るのは八正道様だけなのよ…」 「えっ?亡霊菊人形ですと?」 八正道は祭壇の亡霊菊人形と巨体の分身体を直視したのである。 「亡霊菊人形とは…小面袋蜘蛛と同様に器物の悪霊ですか…非常に厄介ですね…」 八正道は状況を整理する。 「最初は吃驚しましたが…余程の一大事だったのですね…桜花姫様…」 一方の亡霊菊人形は突如として出現した八正道を凝視する。 「誰かと思いきや…彼奴は人間の僧侶みたいね…」 亡霊菊人形は呆れ果てる。 「僧侶だとしても非力の人間風情に何が出来るのかしら?私の分身体♪非力の人間である僧侶諸共…月影桜花姫を完膚なきまでに殺害しなさい♪最早二人は不要よ♪」 巨体の分身体は全身から雷撃を発生…。人間の八正道に雷撃を仕掛ける。 「八正道様!」 桜花姫は即座に八正道に妖力の防壁を発動する。 「間一髪だったわね…八正道様…」 「桜花姫様♪感謝します♪」 桜花姫は勿論…。八正道も一安心する。 「今回は私が極悪非道の悪霊を退治しますからね♪」 八正道は榴弾砲に砲弾を装填させたのである。 「八正道様!此奴の弱点は祭壇の市松人形よ!祭壇の市松人形が亡霊菊人形の正体だからね!」 「弱点は祭壇の市松人形なのですね♪桜花姫♪」 八正道は勝利を確信する。 「であれば極悪非道の亡霊菊人形…覚悟するのですよ!」 八正道は祭壇の亡霊菊人形を目標に砲撃…。榴弾砲の砲口から一発の砲弾が発射されたのである。 「人間の分際で!直撃させるか!」 祭壇の亡霊菊人形は即座に巨体の分身体に指示する。巨体の分身体は一瞬で祭壇の間近へと瞬間移動したかと思いきや…。本体である祭壇の亡霊菊人形を防備したのである。榴弾砲の砲弾によって巨体の分身体は破壊され…。祭壇の周辺には無数の木片が飛散したのである。 「残念だったわね♪あんた達♪」 亡霊菊人形は巨体の分身体を防備に利用…。 「折角の努力が無意味だったみたいね♪所詮私達にあんた達の小細工なんて通用しないわよ♪」 亡霊菊人形本体は間一髪無事だったのである。 「亡霊菊人形の本体は無事でしたか…非常に無念です…」 「彼奴の分身体は仕留めたわ…八正道様は砲弾を再装填して…」 「承知しました…桜花姫様…」 桜花姫の指示により八正道は再度榴弾砲に砲弾を再装填させる。 「人間の武器は非常に強力だけど…残念だったわね♪」 一方の亡霊菊人形は自身の霊能力で飛散した無数の木材を融合化…。砲弾で破壊された巨体の分身体を元通りの姿形に復活させたのである。 「えっ!?分身体は榴弾砲で仕留められたのに…」 「分身体が復活するなんて…亡霊菊人形は想像以上に厄介ですね…」 桜花姫と八正道は復活した亡霊菊人形の巨体の分身体に絶望する。 「私の分身体はね♪本体である私自身が無事なら何度でも復活させられるからね♪最早あんた達が私達に勝利する可能性は皆無なのよ♪あんた達は大人しく降参して不老不死の市松人形として未来永劫長生きし続けるのね…」 「市松人形として長生きし続けるなんて…私は御免だわ…」 桜花姫は亡霊菊人形の思考を全否定したのである。 「はっ?あんたは馬鹿者なの?」 対する亡霊菊人形は桜花姫の返答に呆れ果てる。 「市松人形の肉体なら未来永劫不朽なのよ♪実質不老不死が約束されるのに…あんた達は何が不満なのよ?所詮生身の肉体なんて寿命に束縛されるだけなのに…」 亡霊菊人形の主張に桜花姫は無表情で反論する。 「長生き出来るのは否定しないけれどね…所詮人形の肉体では自由自在に身動き出来ないでしょう…大好きな桜餅も食べられなくなるし…人形の肉体では桜餅の美味しさも感じられなくなるわ♪」 桜花姫の反論に八正道も賛同したのである。 「私も桜花姫様の意見に同意しますよ…私も自由を束縛される人形の肉体なんて正直御免ですね…私も生身の人間として人生を満喫したいですよ…」 二人の反論に亡霊菊人形は苛立ち始める。 「腹立たしい奴等ね…」 亡霊菊人形は桜花姫と八正道を無価値と判断…。 「私の分身体!今度こそ二人を完膚なきまでに殲滅しなさい!」 再度巨体の分身体に二人の殺害を指示する。 「八正道様!彼奴の分身体に砲撃して!」 「えっ!?ですが桜花姫様!?巨体の分身体に砲撃しても本体である亡霊菊人形の霊能力で即座に復活させられちゃいますよ…」 八正道は桜花姫の指示に混乱したのである。 「今度は大丈夫♪私を信頼して♪八正道様♪」 桜花姫は満面の笑顔で断言する。 『桜花姫様…ひょっとして作戦でしょうか?』 八正道は桜花姫の思考を察知…。 『止むを得ないですね…最早後戻りは出来ません!』 八正道は一か八か巨体の分身体に再度砲撃したのである。 「愚か者達が♪分身体には何度攻撃しても…復活し続けるだけよ♪」 亡霊菊人形は冷笑する。 「如何かしら♪悪霊の御人形さん♪」 桜花姫は冷笑する亡霊菊人形に満面の笑顔で返答したのである。 「えっ?」 『桜花姫は…随分と余裕ね…彼女は一体何を?』 亡霊菊人形は余裕の桜花姫に警戒する。榴弾砲の砲弾が亡霊菊人形の分身体に直撃する直前…。 「今度こそ死滅なさい♪亡霊菊人形の本体♪」 桜花姫は発射された砲弾に瞬間移動の妖術を発動したのである。すると砲弾が一瞬で消失する。 「なっ!?」 『如何して砲弾が消滅したの!?』 消失した榴弾砲の砲弾は桜花姫の発動した瞬間移動の妖術により祭壇の方向へと瞬間移動させられ…。 「えっ…」 榴弾砲の砲弾は一直線で亡霊菊人形本体が鎮座する祭壇へと直撃したのである。 「ぎゃっ!」 砲弾が炸裂したかと思いきや…。祭壇の中央に設置された亡霊菊人形本体諸共祭壇が粉砕されたのである。 「砲弾が…祭壇に直撃しましたね…」 八正道は一瞬の出来事に驚愕する。 「桜花姫様?先程の砲撃で亡霊菊人形の本体は…仕留められたのでしょうか?」 砲弾の炸裂によって亡霊菊人形の本体が粉砕され…。直後に亡霊菊人形の巨体の分身体は自然消滅したのである。 「如何やら亡霊菊人形の分身体が消滅しましたね…」 「亡霊菊人形は…死滅したわね…」 亡霊菊人形の破壊によって重苦しかった室内の空気も沈静化する。 「八正道様♪感謝するわね♪」 「無事亡霊菊人形も仕留められたので一安心ですよ♪」 八正道は満面の笑顔で返答したのである。亡霊菊人形が消滅した数秒後…。亡霊菊人形の本体を仕留めた影響からか家屋敷に収納された人形部屋の市松人形達も元通りの人間の姿形へと戻ったのである。人間の姿形へと戻れた村人達は亡霊菊人形の家屋敷から無事に解放される。一方今回の大事件解決の功労者である桜花姫と八正道も亡霊菊人形の家屋敷から無事に脱出する。 「無事に大事件が解決出来たので一安心ですね♪桜花姫様♪」 「御免なさいね…こんな真夜中に八正道様を半強制的に参加させちゃって…」 桜花姫は八正道に再度謝罪したのである。 「桜花姫様が気にされなくとも私なら大丈夫ですよ♪」 「八正道様♪」 「神出鬼没の悪霊は放置出来ませんからね♪私は桜花姫様に協力出来るのであればいつ何時であっても協力する覚悟ですよ♪」 八正道の意向に桜花姫は一安心する。すると桜花姫は山道の道中…。 「八正道様…御免なさいね…」 「如何されましたか?桜花姫様?」 桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させると神性妖術の天道天眼を発動する。 『桜花姫様の瞳孔が…半透明の瑠璃色に発光しましたね…』 半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。 「桜花姫様…天道天眼ですか?」 「口寄せの妖術…」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。すると地面の石ころが一尺程度の人型を形成すると地面の石ころは美少女の市松人形の姿形へと変化したのである。 「なっ!?亡霊菊人形ですか!?」 桜花姫は口寄せの妖術で亡霊菊人形の本体を復活させる。 「如何して石ころが亡霊菊人形の姿形に?桜花姫様の妖術なのですか?」 「勿論私の妖術よ♪彼女は亡霊菊人形の本体だけど…大部分の霊力は浄化させたから心配しなくても大丈夫よ♪」 「ですが桜花姫様…彼女は器物の悪霊なのですよ…正直不安ですね…」 八正道は復活した亡霊菊人形の本体に戦慄したのである。 「彼女は器物の悪霊だけど…大切に扱われれば元通りの市松人形に戻れるわ♪」 「本当に大丈夫なのでしょうか?私は正直亡霊菊人形が暴走しないか不安ですね…」 八正道は亡霊菊人形が再度暴走しないか不安がる。桜花姫は八正道との解散後…。南国の蛇体如夜叉と小猫姫の家屋敷へと訪問したのである。 「小猫姫♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪深夜帯に御免あそばせ♪」 「桜花姫姉ちゃんだ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪桜花姫姉ちゃんだよ♪」 小猫姫は桜花姫の訪問に大喜びする。 「桜花姫ちゃんかね?こんな真夜中に何事かね?」 すると桜花姫は満面の笑顔で市松人形を小猫姫に手渡したのである。 「小猫姫♪私からの手土産よ♪」 「女の子の市松人形だ♪」 市松人形に小猫姫は大喜びする。 「私からの手土産だからね♪市松人形を大事にしてね♪小猫姫♪」 「女の子の市松人形♪勿論大事にするよ♪桜花姫姉ちゃん♪」 手土産の市松人形に小猫姫は再度大喜びしたのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃん♪女の子の市松人形だよ♪」 小猫姫は子供みたいに大はしゃぎし始める。一方の蛇体如夜叉は市松人形を直視すると一瞬苦笑いしたのである。 『桜花姫ちゃん…此奴は器物の悪霊…亡霊菊人形の本体とはね…単なる手土産としては随分と物騒だよ…』 蛇体如夜叉は一目で市松人形の正体が器物の悪霊…。亡霊菊人形の本体であると察知したのである。 『小猫姫が市松人形を大切に扱えば亡霊菊人形の無念の霊力は浄化されるだろうし…一先ずは大丈夫だろうね♪』 蛇体如夜叉は決意…。小猫姫には市松人形の正体が悪霊の亡霊菊人形である事実を秘密にしたのである。
第二十六話
手鏡 真夜中の出来事である。場所は東国の片田舎…。暗闇の山道にて二人の匪賊達が山道の中央を闊歩する。 「大都会の東国でも…こんな片田舎が存在するとは意外だな…」 小柄の匪賊が片田舎の村里を発見したのである。 「明日の早朝は此処を襲撃するか♪此処なら武士団の御加護は無さそうだし…」 仲間の中肉中背の匪賊は楽観的に発言する。 「大丈夫だろうか?」 小柄の匪賊は非常に不安がる。村人達の人口は少なそうだが…。 『先程から感じる寒気…一体何だろうか?』 小柄の匪賊は非常に敏感なのか村里から極度の寒気を感じる。 「本当に大丈夫なのか?」 中肉中背の匪賊は心配したのである。 「村里に近付いてから寒気を感じる…何だろうか?」 「風邪かよ?」 小柄の匪賊は身震いし始める。 「一体…如何しちまったのやら…」 すると直後…。二人の背後より気配を感じる。 「えっ…」 「気配だ…」 二人は恐る恐る背後を直視する。 「誰かと思いきや…」 気配の正体とは雪模様の着物姿の少女である。 「此奴は…村里の小娘か?」 「こんな真夜中に一人で出歩くとは…あんたは命知らずなのか?」 二人の匪賊は少女に警戒する。少女は円形の手鏡を所持…。無表情で二人の匪賊を凝視し続ける。 「嬢ちゃんよ…こんな真夜中に一人で出歩くと悪人に捕縛されちまうぞ♪嬢ちゃんは命知らずの馬鹿者なのかよ?」 中肉中背の匪賊は相手が自身よりも非力そうな少女であり余裕の気分だったのである。反対に相棒の小柄の匪賊は目前の少女が人間なのか疑問視する。 『小娘の正体…人間なのか?こんな真夜中に少女が一人で出歩くなんて絶対に可笑しいよ…危険かも知れないな…』 一方の少女は只管無表情であり中肉中背の匪賊を凝視し続ける。 「無視かよ…」 すると中肉中背の匪賊は護身用の刀剣を携帯し始め…。小柄の匪賊に近寄る。 「小娘!俺の問い掛けに無視するとは命知らずだな!相手が子供だからって俺は容赦しないぞ!」 中肉中背の匪賊が少女に斬撃する寸前…。 「小娘に手出しするな!此奴は危険だぞ!」 小柄の匪賊は彼を制止したのである。 「はっ?こんな小娘が危険だって?こんな小娘の何が危険なのか…」 中肉中背の匪賊は小柄の匪賊の警告に呆れ果てる。 「小娘は俺の問い掛けに無視しやがったからな…打っ殺す!」 すると小柄の少女が無表情で発語したのである。 「貴方…異界は如何かしら?」 「はっ?異界だと?」 直後…。少女の所持する手鏡が黄色く発光し始める。同時に中肉中背の匪賊は姿形が消失したのである。 「えっ…」 小柄の匪賊は目前の超常現象に驚愕…。絶句したのである。 「一体何が!?」 『手鏡が発光した瞬間に人間が消滅するなんて…』 先程の超常現象により小柄の少女が人外の存在であると確実視する。 『やっぱり小娘の正体は人外みたいだな…』 すると小柄の少女は小柄の匪賊を凝視し始める。 「今度は貴方も…異界に…」 手鏡を発光させる寸前…。 「ひっ!」 『即刻逃げないと殺される!』 小柄の匪賊は一目散に逃走したのである。以後も東国の片田舎では神隠しが頻発…。村人達は神隠しの頻発に戦慄したのである。
第二十七話
手鏡少女 器物の悪霊亡霊菊人形との戦闘から五日後の真昼…。 「桜花姫姉ちゃん♪」 山猫妖女の小猫姫が桜花姫の自宅へと訪問したのである。 「あんたは山猫妖女の小猫姫ね…蛇体如夜叉婆ちゃんは如何したのよ?」 「今日は休日だからね♪」 本日の薬屋は休日であり小猫姫は暇潰しに桜花姫の自宅へと訪問する。 「桜花姫姉ちゃん♪折角だから私達で神出鬼没の悪霊を退治しましょうよ♪」 小猫姫は満面の笑顔で発言するのだが…。 「小猫姫…悪霊が神出鬼没でも…毎日は出現しないわよ…」 『悪霊が出現するなら即刻出掛けるし…』 桜花姫は小猫姫に指摘したのである。 「えっ?桜花姫姉ちゃんは最近の噂話を知らないの?」 「えっ…最近の噂話って何よ?」 桜花姫は真剣そうな表情で小猫姫に問い掛ける。 「東国の片田舎で村人達が神隠しに遭遇したらしいよ…」 「東国の片田舎で神隠しですって?一体何かしら?」 「噂話の内容では…」 小猫姫は桜花姫に一連の出来事を説明する。 「目撃者の情報だと…手鏡を所持した少女と遭遇したって…」 「手鏡の少女ね…」 『ひょっとして悪霊かしら?』 手鏡の少女が神出鬼没の悪霊であると予測したのである。 「東国の片田舎で神隠しが頻発したなんて…」 「桜花姫姉ちゃんって意外と情報音痴なのね♪」 小猫姫は情報音痴の桜花姫を揶揄する。 「小猫姫…私が情報音痴で悪かったわね…」 一方の桜花姫は鬼神の形相で小猫姫を凝視したのである。 「兎にも角にも…桜花姫姉ちゃん♪私達で東国の片田舎を調査しましょうよ…手鏡の少女も気になるし♪」 「今回も面白そうな事件だからね♪東国の片田舎に直行するわよ♪小猫姫♪」 二人は一致団結…。即座に東国の片田舎へと直行したのである。 「桜花姫姉ちゃん?目撃者の手鏡の少女って神出鬼没の悪霊なのかな?」 小猫姫は移動中に恐る恐る問い掛ける。 「多分悪霊でしょうね…」 『噂話の内容で判断するなら…』 桜花姫は手鏡の少女の正体を予想したのである。西国から移動してより二時間後…。二人は目的地の片田舎へと到達したのである。 「到着したわね…此処が事件現場の東国の片田舎かしら?」 「此処からだと人気は感じられないし…殺風景だね…」 山道から直視すると村里は殺風景であり人気は感じられない。 「早速調査開始よ♪小猫姫♪」 「勿論だよ♪桜花姫姉ちゃん♪」 二人は娯楽の感覚であり村里へと潜入する。 「可笑しいわね…昼間なのに誰一人として遭遇しないなんて…」 「此処は過疎地みたいだね…」 時間帯は昼間であるものの…。誰一人として村人と遭遇しなかったのである。各家屋にも接触するのだが人気は感じられない。 「やっぱり此処は可笑しいわね…」 「桜花姫姉ちゃん?ひょっとして村人達が失踪したのは悪霊の仕業なのかな?」 東国の片田舎に滞在してより一時間が経過するものの…。誰一人として村人が出歩く様子は無かったのである。 「こんな芸当は悪霊以外には出来ないからね…」 「やっぱり神出鬼没の悪霊の仕業なのね…」 すると直後…。二人の背後より気配を感じる。 「気配だわ?」 「誰なの?」 二人は警戒した様子で背後を直視したのである。 「あんたは何者なの?」 「村里の女の子かな?」 少女は無表情であり雪模様の着物は勿論…。両手には円形の手鏡を所持する。背丈は小猫姫よりも一回り小柄であり雰囲気は物静かな様子である。 「手鏡だわ…あんたは神出鬼没の悪霊ね…」 彼女は姿形こそ人間の少女であるが…。皮膚は死没者を連想させる灰白色であり生身の人間らしい精気は感じられない。 「此奴が神隠しの正体だね!」 小猫姫は小柄の少女を敵対視し始め…。睥睨したのである。 「あんたの正体…【魔鏡童女】ね…」 「魔鏡童女って?」 魔鏡童女とは手鏡を所持した少女の亡霊であり別名としては神鏡の付喪神やら手鏡少女とも呼称される。彼女の正体としては戦乱時代の最中…。暗闇の貝塚に幽閉された少女の亡霊とされる。 「貴女は…」 魔鏡童女は無表情で桜花姫を凝視したのである。 「異界は如何かしら?」 「はっ?異界って…突然何よ?」 桜花姫は魔鏡童女の問い掛けに困惑する。 「桜花姫姉ちゃん!こんな悪霊の質問なんて無視して…退治しちゃおうよ!」 小猫姫は殺気立った形相で魔鏡童女を睥睨したのである。対する魔鏡童女は只管無表情で桜花姫を凝視し続ける。 「貴女を…異界に…」 直後である。魔鏡童女の所持した円形の手鏡が黄色く発光し始めたと同時に…。 「えっ…」 桜花姫の姿形が消失したのである。 「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」 小猫姫は突然の桜花姫の消失に驚愕…。何が発生したのか動揺したのである。 『如何して桜花姫姉ちゃんは消滅しちゃったの!?』 すると魔鏡童女は動揺中の小猫姫に近寄る。 「彼女は魔鏡の異界に幽閉させたわ…」 「えっ…」 小猫姫は魔鏡童女の発言により絶句する。 『桜花姫姉ちゃんを魔鏡の異界に…幽閉ですって?』 一方の魔鏡童女は無表情で…。 「今度は貴女も…異界に…」 手鏡を発光させる寸前である。 「ひゃっ!」 小猫姫は極度の恐怖心からか一目散に逃亡し始める。 『桜花姫姉ちゃんが異界に幽閉されちゃった…こんな悪霊…私一人では…』 彼女の涙腺から涙が零れ落ちる。
第二十八話
異界 桜花姫は魔鏡童女の霊能力により荒唐無稽の異界へと幽閉されたのである。 「此処は殺風景だわ…」 『如何やら此処が魔鏡童女の異界みたいね…』 周辺は荒廃化した村里であり極度の寒気を感じる。 『私は平気だけど…普通の人間なら寒気で身動き出来ないでしょうね…』 桜花姫は冷静であり各家屋を一軒ずつ調査する。 『多分だけど…片田舎の村人達も此処に幽閉されたみたいね…』 調査を開始してより数分後…。罅割れた武家屋敷から大勢の人気を感じる。 『大勢の人気だわ…恐らく此処に幽閉された村人達が…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る武家屋敷に潜入する。 「ん?誰だ?」 「誰かと思いきや…今度は女子か…」 武家屋敷の大部屋には大勢の老若男女が密集…。大部屋へと入室した桜花姫に注目し始める。 「如何やらあんたは…別の村里の女子みたいだな…」 「あんたも気の毒だな…」 「あんたも少女の悪霊に遭遇しちまって…こんな世界に幽閉されちまうとは…」 村人達は異界に幽閉された桜花姫に同情したのである。一方の桜花姫だが平気そうな様子であり無表情で…。 「別に…私の目的はあんた達の捜索だからね…」 桜花姫の返答に何人かの村人達が反応する。 「捜索って…あんたは何者だよ?外見だけなら普通の小町娘みたいだが…あんたは忍者なのか?」 「私が何者なのか…私は桜花姫♪最上級妖女の月影桜花姫よ♪」 桜花姫は村人の問い掛けに満面の笑顔で返答したのである。 「えっ!?桜花姫って…あんたが不寝番の月影桜花姫様なのか!?」 「貴女が桜花姫様本人なの!?」 村人達は桜花姫の名前に驚愕し始める。 「如何やらあんた達は無事みたいね…」 村人達は魔鏡童女の霊能力により異界に幽閉されるも全員無事だったのである。 「此処では何が発生したのかしら?神出鬼没の悪霊とか…出現しなかったの?」 桜花姫が村人達に問い掛けると一人の若者が返答する。 「此処では特段何も…悪霊とも遭遇しませんでした…」 「此処では悪霊は存在しないのね…」 『霊力も感じられないし…悪霊は出現しないでしょうね…』 悪霊特有の霊力も感じられず…。此処には悪霊は出現しないと判断する。 「私は一週間前に異世界に幽閉されました…」 今度は村里の少女が発言したのである。 「あんたは一週間前に?」 「一週間前の昼間に…」 少女は一週間前の真昼…。父親と二人で片田舎の山道を散歩したのである。近辺の山道の道中…。手鏡を所持した魔鏡童女と遭遇したのである。少女は父親諸共…。魔鏡の異界に幽閉されたのである。 「私等親子が異世界に幽閉されてから…」 今度は父親が証言する。 「毎日何人もの村人達が異世界に迷い込んだのですよ…」 すると今度は大柄の無頼漢が桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫様よ…あんたは最強の妖女だろう?あんたの妖術で俺達を元通りの現実世界に戻せないのか?俺はこんなにも気味悪い世界から脱出したいぜ…」 桜花姫は無頼漢の問い掛けに瞑目し始め…。一息する。 「悪いけど…私でも一度に全員は戻せないわよ…」 『正直…異界で口寄せの妖術が通用するのか如何なのかもだけど…妖力の消耗も桁外れでしょうし…』 妖力の消耗は勿論…。異界で口寄せの妖術が効果を発揮出来るのか如何なのかは未知数だったのである。 『異界から脱出するには…現実世界の魔鏡童女を仕留める以外には無さそうね…』 魔鏡の異界から脱出するには現実世界の魔鏡童女を仕留めるのが条件であるが…。今現在の桜花姫は異界へと幽閉された状態であり現実世界の魔鏡童女には手出し出来ない。 「はぁ…やっぱり桜花姫様の妖術でも駄目なのか…」 「私達…此処で野垂れ死にするのね…」 「もう少しだけ長生きしたかったな…」 「俺はこんな場所で死にたくない…現実世界に戻りたいよ…」 周囲の村人達は絶望する。 「あんた達…絶望するのは早計よ…」 桜花姫の発言に先程の無頼漢が反応したのである。 「はっ?あんたは俺達全員を戻せないって…」 「大丈夫♪私に任せないって♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 『小猫姫♪今回は彼女に彼奴を退治させましょうかね♪』 桜花姫は天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。 『今度は♪霊体分身の妖術で…』 すると半透明の霊体の分身体が形作られる。 「えっ…一体何が?」 「半透明の…分身?桜花姫様の妖術なのか?」 何人かの村人達が愕然とした様子で桜花姫の分身体を注視したのである。霊体分身の妖術とは分身の妖術の応用として知られる。自身の妖力で半透明の霊体分身を形作る妖術である。活用法としては諜報活動やら外部の偵察に利用される。神族やら妖女には肉眼でも視認出来るものの…。霊感体質の人間でも霊体の分身体を視認出来るとされる。以外の特性として物理的に攻撃されても分身体自体が霊体であり物理的攻撃が無力化出来る反面…。霊体の分身体では敵対者への攻撃は不可能であり物理的戦闘は不向きとされる。 「私の分身体♪小猫姫を援護するのよ♪」 桜花姫が分身体に指示したのである。 「了解したわ♪私の本体♪」 一方の分身体は満面の笑顔で承諾したのである。 「あんたは俗界に戻りなさい♪」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。彼女の分身体は俗界にて口寄せされたのである。
第二十九話
白猫 山猫妖女の小猫姫は極度の恐怖心により一目散に逃走…。東国の山奥へと逃げ込んだのである。 「はぁ…はぁ…」 『桜花姫姉ちゃん…桜花姫姉ちゃんが…』 小猫姫は涙腺から涙が零れ落ちる。 『桜花姫姉ちゃんが魔鏡童女に異界に幽閉されちゃった…蛇体如夜叉婆ちゃんに知らせないと…私だけでは如何にも出来ないよ…』 村里に戻ろうにも自身の現在地が不明であり戻れなくなる。 『此処って?』 「やっぱり私って…一人では何も出来ないな…」 小猫姫は自身が情けなく感じる。 『こんな場合…桜花姫姉ちゃんなら簡単に解決出来るのかな?』 すると背後より…。 「小猫姫?」 「えっ…」 小猫姫は背後を直視したのである。 「桜花姫姉ちゃん!?」 「小猫姫?大丈夫かしら?」 背後に存在するのは最上級妖女の桜花姫であるが…。 「全身が半透明だけど…桜花姫姉ちゃんは幽霊なの!?」 背後の桜花姫は身体髪膚が半透明であり小猫姫は吃驚した様子で半透明の彼女に問い掛ける。 「厳密には分身体だけど♪所謂幽霊みたいな存在なのは否定出来ないわね♪」 「分身体?ひょっとして桜花姫姉ちゃんの妖術なの?」 「勿論♪私の本体は魔鏡童女の異界で霊体分身の妖術を駆使したのよ♪」 桜花姫の分身体は満面の笑顔で即答する。 「霊体分身の妖術?桜花姫姉ちゃんは無事なのね…」 「安心なさい♪小猫姫♪魔鏡童女に幽閉された村人達も無事だからね♪」 「はぁ…」 『桜花姫姉ちゃん…無事で良かった…』 小猫姫は桜花姫の無事に安堵したのである。 「魔鏡童女は如何するの?彼奴は桜花姫姉ちゃんを幽閉した強敵だし…私だけでは魔鏡童女を対処出来ないよ…」 「心配しなくても大丈夫よ♪小猫姫♪今現在の状況下で魔鏡童女を仕留められるのは実質あんただけだからね♪」 桜花姫の分身体は小猫姫に激励する。 『魔鏡童女を退治するなんて…私に出来るのかな?』 小猫姫は内心困惑し始め…。一人で魔鏡童女に対抗出来るのか不安視する。 「小猫姫…不安そうだから助言するわね♪魔鏡童女と遭遇したらあんたは変化の妖術で白猫に変化しなさい♪」 「白猫に変化するの?如何して白猫に?」 小猫姫は恐る恐る問い掛ける。 「所詮魔鏡童女も神出鬼没の悪霊だからね♪動物相手には無関心でしょうし…無抵抗の動物には手出ししないでしょう♪あんたは彼奴に油断させるのよ♪」 神出鬼没の悪霊は人間を憎悪する存在である。基本的に人間以外の動植物には無関心であり手出ししないのが通例とされる。 『白猫に変化しただけで魔鏡童女を油断させられるのかな?』 小猫姫は再度不安に感じる。数秒後…。 「えっ…」 背後より何者かが近寄ったのである。 『ひょっとして背後は…』 小猫姫は恐る恐る背後を警戒…。背後の様子を直視したのである。 「あんたは…」 背後の正体とは先程遭遇した魔鏡童女…。無表情で小猫姫を凝視し続ける。 「貴女…異界は如何かしら?」 一方の小猫姫は極度の恐怖心を感じるものの…。 『一か八かよ!』 変化の妖術を発動したのである。 「はっ!」 彼女の全身から白煙が発生し始め…。白煙の中央より白猫が出現したのである。 『こんな程度の妖術で…魔鏡童女を油断させるなんて無理だよね…』 小猫姫は苦し紛れの最終手段であり内心絶望する。一方の魔鏡童女は目前の白猫を凝視したかと思いきや…。 「白猫だわ…私は見間違えたのかしら?」 魔鏡童女は無関心なのか白猫の小猫姫を素通りしたのである。 『彼女…私を素通りしちゃった…やっぱり動物には無関心なのかな?』 一方の桜花姫の分身体は満面の笑顔で発言する。 「小猫姫♪やっぱり動物には無関心だったわね♪魔鏡童女を仕留める絶好機よ!背後から彼奴を攻撃しちゃいなさい!」 桜花姫の分身体は小猫姫に攻撃を指示するのだが…。 「桜花姫姉ちゃん…彼女の行動が気になるの…魔鏡童女を退治するのは後回しね…」 「えっ?構わないけれど…」 小猫姫は魔鏡童女の行動が気になり追尾したのである。
第三十話
貝塚 魔鏡童女を追尾してより一時間が経過…。魔鏡童女はとある洞窟らしき場所へと進入したのである。 「洞窟だね…」 「如何やら此処が彼奴の魔窟みたいね♪潜入しちゃいましょう♪」 小猫姫と桜花姫の分身体は警戒した様子で暗闇の洞窟らしき場所へと潜入する。数分間が経過すると洞窟の奥側へと到達したのである。 「此処って…」 「貝塚かしら?」 周辺の地面には無数の貝殻が確認出来…。此処が貝塚であると認識する。貝塚の中央には一体の白骨体が確認出来る。 「子供の…白骨体かな?」 「多分子供の白骨体でしょうね…恐らく此処で子供が幽閉されたみたいね…」 「幽閉って…えっ?」 小猫姫は幽閉の一言に反応する。 「桜花姫姉ちゃん?中央の白骨体って…生前の魔鏡童女なのかな?」 小猫姫が問い掛けた直後である。 「私は生前…此処で悪人達に幽閉されたのよ…」 「えっ!?」 小猫姫は吃驚する。小猫姫と分身体の背後には魔鏡童女が佇立…。白猫の小猫姫を凝視したのである。 『如何やら魔鏡童女は私の姿形は視認出来ないみたいね…』 魔鏡童女は桜花姫の分身体を視認出来ず…。只管白猫の小猫姫を凝視し続ける。 「貴女は…白猫なのに喋れるのね♪」 魔鏡童女は僅少であるが…。微笑んだのである。 「えっ…あんた…」 魔鏡童女は列記とした神出鬼没の悪霊であるが…。白猫の小猫姫を敵視した様子は感じられない。 『魔鏡童女…』 小猫姫は退治する気力を喪失したのである。一方の桜花姫の分身体も魔鏡童女の様子から敵意は感じられず…。内心驚愕したのである。 『此奴…本当に悪霊なの?悪霊としては異質的だわ…』 直後…。桜花姫の分身体は一定の時間が経過したのか消滅する。一方の小猫姫は恐る恐る…。 「私は…」 小猫姫は変化の妖術を解除したのである。 「本当の私は妖女なの…」 白猫の正体が判明したものの…。 「貴女は…妖女だったのね…」 魔鏡童女は涙腺から涙が零れ落ちる。 「私は浄化されたい…此処から解放されたいの…何十年間も…こんな暗闇の場所に幽閉されて…毎日が孤独だったの…私は…此処の存在を気付いて貰いたかったのよ…」 魔鏡童女は小猫姫に泣訴したのである。 「あんたね…」 小猫姫は困惑する。沈黙してより数十秒後…。 「あんたが過去に幽閉されて辛苦だったのは同情するけれど…無関係の村人達を幽閉するのは大間違いだよ!折角此処とあんたの存在を気付いて貰えるかも知れなかったのに…何もかもが台無しだよ!こんな悪事を継続させれば何時迄も問題は解決しないよ…」 指摘された魔鏡童女は落涙した様子で謝罪する。 「御免なさい…御免なさい…私は自由に出歩ける人間達が羨ましかったの…私も人間として自由に出歩きたかったのに…」 魔鏡童女は只管落涙し続ける。 「はぁ…仕方ないね…」 小猫姫は呆れ果てる。 「あんたは成仏したいなら魔鏡に幽閉した桜花姫姉ちゃんと村人達を解放しなさい…今直ぐよ!」 「承知したわ…」 小猫姫が断言すると魔鏡童女が所持した手鏡の表面が罅割れ…。魔鏡童女は消滅したのである。同時に手鏡が地面に落下すると手鏡の破片が彼方此方に散乱する。手鏡の破片が散乱してより数秒後…。今迄魔鏡童女に幽閉された村人達が出現したのである。 「えっ?此処って?」 「俺達…現実世界に戻れたのか!?」 「はぁ…村里に戻れるのね♪」 村人達は大喜びする。一方の桜花姫は満面の笑顔で小猫姫に近寄る。 「小猫姫♪対話だけで問題を解決させるなんてね♪私には出来ない芸当よ♪」 「桜花姫姉ちゃん♪」 小猫姫は桜花姫に絶賛され赤面したのである。小猫姫は翌朝…。貝塚での出来事を桜花姫と幽閉された村人達に一部始終口述したのである。事件解決から二日後…。貝塚の白骨体は手厚く埋葬されたのである。
第三十一話
東大寺 魔鏡童女を埋葬してより四日後の真昼…。桜花姫は暇潰しに八正道の寺院へと訪問したのである。 「八正道様♪邪魔するわね♪」 「桜花姫様ですか♪本日は如何されましたか?」 「何って暇潰しよ♪暇潰し♪」 「本日も暇潰しですか…早速桜花姫様には桜餅を用意したいのですが…」 「えっ?八正道様?」 「桜花姫様…」 八正道は真剣そうな表情で恐る恐る…。 「桜花姫様に依頼したいのですが…」 「私に依頼ですって?一体何かしら?」 桜花姫は恐る恐る八正道に問い掛ける。 「東国郊外の山奥には天王山と命名される大山が存在しましてね…」 「天王山ですって?」 「天王山の頂上には東大寺と呼称される古寺が存在するのですよ…」 「東大寺の古寺ね…」 東国郊外の山奥に聳え立つ天王山には東大寺と呼称される古寺が存在する。東国の東大寺には多種多様の仏像が鎮座される古寺として有名であり祈祷のみならず観光地としても有名である。 「東大寺で事件が発生したのかしら?」 「近頃の出来事なのですがね…古寺に展示された数体の仏像が深夜帯に動き出すとの目撃情報を現場の住職達から入手したのですよ…」 近頃は東大寺の内部に展示された仏像の数体が動き出すとの噂話が各地に出回り…。住職達は真夜中に動き出す仏像に戦慄したのである。 「真夜中に東大寺の仏像が勝手に身動きするのね…」 「非常に信じ難い内容なのかも知れませんが…今回の超常現象も前回の亡霊菊人形と同様に神出鬼没の悪霊の仕業なのでしょうか?桜花姫様?」 八正道が恐る恐る問い掛けると桜花姫は一息する。 「器物の仏像が動き出すのは十中八九…悪霊の仕業でしょうね…」 桜花姫は動き出す仏像が悪霊の仕業であると予測したのである。 「ですが神聖なる仏様の仏像に極悪非道の悪霊が憑霊するなんて言語道断です…絶対に許容出来ませんね…」 八正道は住職の一員であり今回ばかりは非常に腹立たしくなる。 「桜花姫様の絶大なる妖術で…神聖なる仏様に憑霊した極悪非道の悪霊を…退治出来ないでしょうか?」 今回の怪異事件は桜花姫にとって非常に好都合であり満面の笑顔で断言する。 「仏像に憑霊した悪霊は私が仕留めるわ♪安心してね♪八正道様♪」 「桜花姫様!極悪非道の悪霊を徹底的に撃退して下さいね!」 「勿論よ♪」 すると八正道はとある代物を桜花姫に手渡したのである。 「桜花姫様…此奴は予備用の小道具です…」 「何かしら?」 「今回の悪霊退治に役立つかも知れません…」 桜花姫は手渡された代物に注目する。
第三十二話
仏像 同日の深夜帯…。桜花姫は目的地である天王山の頂上に聳え立つ東大寺へと到達したのである。 「如何やら此処が問題の東大寺ね…」 『此処では悪霊特有の霊力は感じられないけれど…』 問題とされる東大寺の内部より一瞬だが…。 「えっ?」 『殺気みたいだけど…複数だわ…』 内部から複数の殺気を感じる。 『一体何かしら?』 桜花姫は複数の殺気に身震いしたのである。 『兎にも角にも…東大寺の内部に潜入しましょう…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る東大寺の内部へと潜入する。東大寺の内部は非常に物静かな場所であり全体的に神秘的である。 『やっぱり神秘的ね…』 東大寺の内部には数十体もの多種多様の仏像が確認出来る。 『此処は仏像の博物館みたいね…』 桜花姫は基本的に能面やら特定の人物の彫像は苦手なのだが…。意外にも仏像は平気だったのである。桜花姫は内部に展示された数体の仏像に接触する。 『意外だわ…東大寺の仏像って木彫なのね…』 周囲の仏像は樹体から彫刻された代物だったのである。 『仏像を見物するのは悪霊事件が解決してからよ…探索を再開しないとね…』 桜花姫は東大寺内部を一部始終探索するのだが…。 「はぁ…」 悪霊特有の霊力らしい霊力は感じられない。 『仏像…当然だけど身動きしないわね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る数体の仏像に接触する。 『どれも普通の仏像よね?』 展示された仏像は何一つとして変化は皆無であり微動した様子は確認出来ない。 『仏像…今夜は身動きしないのかしら?』 仏像に変化は皆無であり桜花姫は内心落胆する。 「はぁ…」 『残念だけど今夜は出直しかしら…』 桜花姫は外部へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ…」 背後より僅少の物音が響き渡る。 「物音!?」 『一体何かしら?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視するのだが…。 「えっ?」 変化は皆無であり仏像が動作した様子は何一つとして確認出来ない。 『可笑しいわね…先程の物音は何だったのかしら?』 再度前方を直視した直後…。 「きゃっ!」 前方の直前より千手観音の仏像が自身の直前に存在したのである。桜花姫は直前の千手観音に驚愕する。 「えっ!?」 『如何して千手観音の仏像がこんな場所に!?』 千手観音の仏像が身動きした様子は皆無だったのである。 『ひょっとして千手観音は本当に身動きしたのかしら?』 如何して自身の前方直前に千手観音の仏像が存在するのか理解出来ない。 『吃驚させないでよね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る千手観音の表面に接触する。 『此奴は何時の間にか身動きしたのかしら?』 桜花姫が何気無く千手観音の表面に接触した直後である。無表情だった千手観音の形相が変化し始め…。 「貴様は…人間の小娘であるか?」 千手観音の仏像は目前の桜花姫を凝視したのである。 「えっ!?千手観音が喋った!?」 桜花姫は突如として人間の口言葉で発語し始めた千手観音から後退りする。 「あんたは…一体何者なの!?」 『如何やら仏像が勝手に動き出すって噂話は本当だったみたいね…』 問い掛けられた千手観音の仏像であるが…。 「貴様こそ何者なのだ?余所者が無断で此処に潜入するとは不道徳であるな…」 千手観音の仏像は桜花姫に呆れ果てた様子で発言する。 「愚か者の小娘風情が…こんなにも神聖なる場所に潜入するとは…」 千手観音は侵入者である桜花姫を不愉快に感じる。 「非常に不愉快だ…私は人間達には何一つとして手出ししなかったのだが…貴様は無抵抗の私に手出しするのか?」 千手観音は無表情で問い掛けると桜花姫は即答する。 「当然でしょう!何が無抵抗なのよ!?あんたは人畜無害の仏像に憑霊した神出鬼没の悪霊でしょうに!無抵抗でも神出鬼没の悪霊を仕留めるのが私の使命だからね!」 千手観音は悪霊征伐が使命であると断言する桜花姫に両目を発光させたのである。 「貴様は私を仕留めるのが使命であるか…であれば私も極悪非道の貴様には容赦しないぞ…小娘風情…」 対する桜花姫も千手観音に挑発し始め…。 「私こそ容赦しないわよ!神出鬼没の悪霊は徹底的に浄化しないとね♪」 桜花姫は早速目前の千手観音に変化の妖術を発動する。 「悪霊のあんたは…私の大好きな桜餅に変化しなさい!」 数秒間が経過するのだが…。 「えっ?」 『如何して千手観音は桜餅に変化しないのかしら?』 千手観音の仏像は桜餅に変化しない。 「貴様は外見のみなら人間の小娘風情みたいだが…如何やら貴様の正体は人外の妖女風情か…私には貴様程度の小細工は通用しないぞ…」 「ひょっとしてあんたの肉体は…」 桜花姫は桜餅に変化しない千手観音から恐る恐る後退りする。すると千手観音は無表情であったが…。不吉の笑顔で発言し始める。 「私の肉体は神聖なる造物主…妖星巨木で形作られた仏像であるからな…」 「やっぱりあんたの肉体は造物主の妖星巨木だったのね…あんたの正体は悪霊の【樹体千手観音】かしら…」 樹体千手観音とは妖星巨木の樹体から彫刻された千手観音の仏像に憑霊…。誕生した悪霊である。樹体千手観音も小面袋蜘蛛やら亡霊菊人形と同様…。列記とした器物の悪霊であり別名では仏像の付喪神とも呼称される。 「死滅せよ…妖女の小娘風情…」 樹体千手観音は所持した無数の刀剣で桜花姫を斬撃し始め…。 「ぎゃっ!」 桜花姫は樹体千手観音の神速の斬撃により一瞬で惨殺されたのである。 『瞬殺とは…妖女でも他愛無いな…所詮は口先だけか…』 樹体千手観音の斬撃によって木像の床面には桜花姫の鮮血が飛散…。 『薄汚い侵入者の妖女は仕留められたが…神聖なる聖域が極悪非道の妖女の鮮血で汚染されたのは非常に残念だ…』 樹体千手観音は無表情で飛散した桜花姫の鮮血を直視する。 『妖女の鮮血とは…非常に不愉快であるな…』 樹体千手観音は飛散した桜花姫の鮮血を不快に感じる。 「ん?」 『此奴は…』 すると直後である。床面に飛散した鮮血は勿論…。床面に横たわった状態の桜花姫の遺体が白煙に覆い包まれる。 『何事だ?』 桜花姫の遺体は完膚なきまでに消滅する。 「妖女の肉体が完膚なきまでに消滅するとは…」 『一体何故だ?妖女の遺体は?』 樹体千手観音は周囲を警戒したのである。すると樹体千手観音の背後より…。 「残念だったわね♪樹体千手観音♪」 「貴様は…先程の妖女の小娘風情か…」 樹体千手観音の背後には無傷の桜花姫が佇立する。 「先程の斬撃で無傷とは…貴様は分身の妖術を駆使したのだな…」 「無論ね♪」 樹体千手観音は警戒した様子で桜花姫に問い掛ける。 「妖女の小娘よ…貴様は一体何者なのだ?妖女は妖女でも…貴様は其処等の妖女とは別格みたいだな…」 樹体千手観音は本能的に桜花姫が異質的存在であると察知したのである。一方の桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「私の名前は桜花姫♪最上級妖女の月影桜花姫よ♪」 「貴様は最上級妖女…月影桜花姫か…」 樹体千手観音は再度桜花姫に警戒したのである。 『此奴が多種多様の悪霊を退治したとされる残虐非道の妖女であったか…此奴を相手に手加減は不要だな…』 樹体千手観音は桜花姫を相手に手加減は不要であると判断…。突如として樹体千手観音の両目が発光し始める。 「えっ…」 『樹体千手観音の両目が発光したわ…』 桜花姫は樹体千手観音の両目に警戒する。 「完膚なきまでに死去せよ…月影桜花姫とやら…」 樹体千手観音は両目の瞳孔より高熱の殺人光線を射出したのである。一方の桜花姫は妖力の防壁を発動…。樹体千手観音の殺人光線を無力化したのである。 「危機一髪だったわ…」 「月影桜花姫とやら…私の攻撃を無力化したか…」 「私は最上級妖女だからね♪簡単には仕留められないわよ♪」 桜花姫は余裕の表情であるが…。 『如何しましょう?如何やら樹体千手観音には妖力は通用しないし…秘密道具を使用する以外に選択肢は無さそうね…』 秘密道具とは帰宅直前に八正道から譲与された秘密兵器だったのである。吸収系統の悪霊対策として八正道から頂戴…。非常用として隠し持ったのである。 『私の性質上…武器を使用するのは非常に不適当だけど…』 桜花姫は武器の使用は不本意であるが…。今回ばかりは非常用である秘密道具の使用を決意する。 「今回ばかりは仕方ないわ!」 桜花姫は隠し持った秘密道具を携帯したのである。 「ん?貴様は…爆弾を隠し持ったとは…」 樹体千手観音は彼女の携帯した秘密道具に注目する。 「此奴は妖術が通用しないあんたを仕留められる最強の秘密兵器なのよ♪」 「私を仕留められる最強の秘密兵器だと?」 桜花姫が隠し持った秘密道具とは小型の手榴弾だったのである。 『導火線に着火させないと♪』 桜花姫の火炎の妖術で手榴弾の導火線に着火し始め…。 「樹体千手観音…あんたは覚悟なさい!」 樹体千手観音に手榴弾を力一杯投擲したのである。 「ん?」 手榴弾は樹体千手観音の目前より爆散…。樹体千手観音の身体髪膚は手榴弾の爆散によって粉砕されたのである。 『秘密道具で樹体千手観音を仕留められたわね♪案外楽勝だったわ♪』 秘密兵器の手榴弾で樹体千手観音を仕留められ…。桜花姫は一安心する。 『今回の怪異事件は解決出来たし♪私は西国に戻ろうかしら♪』 一安心した桜花姫は西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 背後より物音が響き渡る。 『今度は…何かしら?』 背後には無数の仏像が存在する。 『如何やら怪異事件は未解決みたいね…』 桜花姫は再度警戒したのである。 『樹体千手観音以外に標的が存在するなんてね…』 すると自身の背後に設置された毘沙門天の仏像が両目を開眼したかと思いきや…。動き始める。 『別の仏像が動き始めたわ…今度は何が出現したのかしら?』 毘沙門天の仏像は桜花姫に接近したのである。毘沙門天の仏像は一際巨体であり鬼神の形相で侵入者の桜花姫を敵対視し始め…。 「貴様は小娘の分際で…私の同胞を惨殺するとは非常に罪深いな…」 毘沙門天の仏像は先程の樹体千手観音と同様に人語で発言したのである。 「同胞って…樹体千手観音かしら?」 桜花姫は毘沙門天の仏像に問い掛けると毘沙門天の仏像は即答する。 「無論である…」 桜花姫は恐る恐る後退り…。 「あんたは【樹体毘沙門天】ね…」 樹体毘沙門天とは先程仕留めた樹体千手観音の亜種である。樹体毘沙門天も樹体千手観音と同様に妖星巨木の樹体から彫刻された仏像の一体とされる。樹体毘沙門天の特徴として右手には金無垢の宝塔…。左手に金剛石の三叉戟を所持する巨体の武神木像である。 『樹体毘沙門天…樹体千手観音と同様に霊力は感じられないけれど…』 樹体毘沙門天も樹体千手観音と同様に器物の悪霊であり悪霊特有の霊力は感じられないが…。樹体毘沙門天は対峙するだけで敵対者に対する殺気が痛感させられる。 「私の同胞を惨殺した貴様は許容出来ない…極悪非道の存在である貴様は完膚なきまでに死滅すべし…」 樹体毘沙門天は右手に所持した金無垢の宝塔から微細の破壊光線を射出する。一方の桜花姫は妖力の防壁を発動…。金無垢の宝塔から射出された破壊光線を無力化したのである。妖力の防壁に直撃した破壊光線は室内の周辺に拡散されたと同時に…。周囲に破壊光線が直撃した部分は粉状に崩れ落ちる。 『樹体毘沙門天の破壊光線は物質に直撃すると粉化するのね…』 妖力の防壁を発動しなければ自身の肉体が粉化…。分解されるのは明白である。 『樹体毘沙門天の破壊光線は危険ね…』 桜花姫は樹体毘沙門天の破壊光線に警戒する。 「私の破壊光線は直撃すればあらゆる物体を粉状に分解させられるのだ…先程は結界で私の破壊光線を無力化出来たが…貴様の妖力が消耗するのは時間の問題だぞ…」 樹体毘沙門天の破壊光線は直撃すれば万物を粉状に分解させられる。先程は妖力の防壁で無力化には成功したものの…。 『恐らく樹体毘沙門天の肉体も妖星巨木の一部でしょうし妖術は通用しないわよね…予備用の手榴弾は樹体千手観音に使用しちゃったし…』 樹体毘沙門天は妖星巨木から誕生した器物の悪霊であり妖術を発動しても妖力を吸収されるのは明白である。 『如何しましょう?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。 「貴様は…私から逃亡するのか?今更逃亡したとしても…貴様は私の同胞を殺害したのは列記とした事実であるからな…貴様の重罪は免除出来ないぞ…」 樹体毘沙門天は一歩ずつ桜花姫に近寄る。 『一か八かよ…』 桜花姫は不本意であるが…。一目散に外部へと逃走したのである。 『妖女の小娘は逃亡したか…』 樹体毘沙門天は逃走中の桜花姫を追撃する。
最終話
秘術 桜花姫は東大寺近辺の自然林へと移動したのである。 『一先ず脱出は成功ね…』 桜花姫は恐る恐る周辺を警戒する。 『樹体毘沙門天は?』 警戒してより数秒後…。自身の背後より先程出現した樹体毘沙門天が追撃したのである。樹体毘沙門天は無表情で桜花姫を凝視する。 「あんたは樹体毘沙門天…」 「貴様は…こんな場所に逃亡して如何するのだ?極度の恐怖心で逃亡したのか?」 樹体毘沙門天が問い掛けると桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。 「私が神出鬼没の悪霊を相手に恐怖心ですって♪冗談かしら?東大寺の内部で大暴れすれば無関係の仏像を破壊しちゃうでしょう♪私は仏像の紛い物であるあんたを外部に誘い込んだのよ♪」 「妖女の小娘は意図的に私を誘導させたか…何方にせよ…貴様が死滅するのは確定なのだが…」 「死滅するのは紛い物のあんたよ!樹体毘沙門天!」 「妖女の小娘は随分と余裕だな…高火力の爆弾でも駆使出来れば私を攻略出来ただろうが…奥の手の爆弾が無くなった状態では私は仕留められない…覚悟するのだな…」 樹体毘沙門天の指摘は図星であるが…。桜花姫は平常心だったのである。 「ん?貴様は…爆弾以外にも奥の手が?」 桜花姫の平常心に樹体毘沙門天も警戒し始める。 「私の奥の手は…」 『一か八かだけど…此処で樹体毘沙門天を仕留めるには…』 桜花姫は妖力とは別物の神通力を発動させる。 「樹体毘沙門天に憑霊した悪霊を排除するわ!」 両手より虹色の光線を樹体毘沙門天に照射させたのである。 「なっ!?貴様!?神通力だと!?」 樹体毘沙門天は虹色の光線に直撃した直後…。 「ぐっ!貴様…」 樹体毘沙門天の霊力が浄化されたのである。 『私の霊力が…小娘の神通力により…浄化される…』 霊力の浄化により樹体毘沙門天は弱体化し始める。 「樹体毘沙門天!完全に成仏なさい!」 「私が…」 『こんな妖女の小娘風情を相手に…浄化されるとは…』 数秒間が経過すると樹体毘沙門天は元通りの毘沙門天の仏像に戻ったのである。 『樹体毘沙門天は…元通りの仏像に戻れたわね…』 桜花姫は一安心する。 「はぁ…はぁ…」 『日輪天光は体力的にも消耗が桁外れね…』 今回強敵の樹体毘沙門天に使用したのは妖星巨木との戦闘で使用した秘術…。日輪天光だったのである。 「えっ…はぁ…」 精神的にも肉体的にも疲労困憊状態であり桜花姫は地面に横たわる。極度の睡魔により地べたで熟睡したのである。 『眠気が…』 翌朝の早朝…。桜花姫は目覚めたのである。 「えっ…私は…」 昨夜の出来事を想起する。 『私は樹体千手観音と樹体毘沙門天との戦闘で…』 彼女は自宅へと戻ろうかと思いきや…。 『一仕事しないとね…』 桜花姫は再度東大寺へと戻ったのである。 『口寄せの妖術で元通りに戻さないと…』 口寄せの妖術を使用すると昨夜の戦闘により破壊された数多くの仏像は勿論…。樹体千手観音と樹体毘沙門天に変化させられた二体の仏像を元通りの状態に戻したのである。 『大切に扱えば樹体千手観音と樹体毘沙門天の霊力は浄化されるでしょうね♪』 桜花姫は一仕事すると西国の村里へと帰還する。 完結
太平記
第一話
武陵桃源 太古の戦乱時代の出来事である。世界暦四千二百五十年の中頃より桃源郷神国は東西南北の四国に分裂…。各陣営の領主達が全身全霊で国全体の主導権の争奪戦に尽力する。頻発する戦乱の悪影響からか各村落では神出鬼没の悪霊が出没するとの超状現象も日に日に頻発したのである。長引く戦乱の影響によって死去した亡者達は勿論…。動植物の亡霊も多数彼方此方に出現し始める。戦乱時代末期の出来事である。世界暦四千五百六年十一月の中頃…。国内最大勢力である東国よりとある若武者の美青年と家来が武陵桃源とされる西国へと移動したのである。彼等は西国の村里へと到達すると若武者の家来が真夜中の農村地帯を眺望する。 「西国の村里に到着しましたよ!正真正銘…武陵桃源ですな♪」 美青年の若武者も西国の広大無辺の麦畑を眺望したのである。 「西国が武陵桃源なのは事実だったのか…こんなにも戦乱が頻発する世の中で…西国だけは本当に桃源郷みたいだな…」 若武者の名前は【夜桜崇徳王】…。崇徳王は東国出身の最上級武士であり名門の武家一族である夜桜一族総本家の長男である。 「ですが崇徳王様?」 家来は恐る恐る若武者の崇徳王に問い掛ける。 「如何した?」 「如何して崇徳王様はこんなにも片田舎の西国なんかを視察されたかったのですか?西国の村里は農村地帯ばかりですよ…」 家来に理由を問い掛けられた崇徳王は一息し始め…。無表情で返答する。 「私は…武陵桃源の西国で定住したかったからな…」 崇徳王の返答に家来は驚愕したのである。 「崇徳王様!?突発的に何を!?こんな片田舎の西国に定住されるなんて…崇徳王様は本気なのですか?」 家来は崇徳王の返答が冗談であると感じる。 「勿論…私は本気だよ…」 驚愕する家来に崇徳王は即答する。 「えっ…崇徳王様…」 「私は冗談が苦手だからな…」 「崇徳王様…突然如何されたのですか?ひょっとして再起不能の疫病にでも?」 家来は崇徳王が疫病を発症したのではと思考したのである。 「私が疫病なんて…其方は大袈裟だな…」 崇徳王は本気の様子であり即答する。 「崇徳王様は名門の夜桜一族の最上級武士なのですよ!最上級武士の崇徳王様がこんなにも片田舎の西国なんかに移住されるなんて♪前代未聞の事態ですよ♪」 夜桜一族は名門の武家一族であり崇徳王は最上級武士としては勿論…。東国の軍神として大勢の敵兵達を斬撃する。 「はっ?」 崇徳王は家来の発言に苛立ったのか表情が険悪化…。微笑する家来を鬼神の形相で睥睨したのである。 「結局は其方も…国内の奴等と同様に…」 「えっ?崇徳王様?」 崇徳王の目力に家来は圧倒される。 「崇徳王様…一体如何されたのですか?」 『崇徳王様…普段は誰よりも温厚なのに…鬼神みたいな形相だな…』 家来は睥睨し続ける崇徳王に畏怖したのである。崇徳王は再度一息したかと思いきや…。恐る恐る発言する。 「本日より私は東国…武家一族の夜桜一族とは絶縁する…金輪際私は東国へは戻らないからな…」 「絶縁ですと!?」 家来は崇徳王の突発的発言に混乱したのである。 「崇徳王様は突然何を…」 家来は警戒した様子で恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「一族との絶縁なんて…崇徳王様は本気なのですか!?一大事ですよ!?」 「何を今更…私は本気だよ…」 崇徳王は即答したのである。 「崇徳王様…」 『崇徳王様は本気みたいだ…私には崇徳王様の思考が理解出来ませんね…』 家来は崇徳王の思考に困り果てる。 「是非とも其方には感謝しなければ…」 崇徳王は瞑目したのである。 「崇徳王様?如何されましたか?」 家来は崇徳王の不穏の雰囲気に身震いし始める。 「こんな私なんかと一緒に…片田舎の西国に随伴して…」 崇徳王は即座に護身用の刀剣を抜刀し始め…。家来を威嚇したのである。 「なっ!?崇徳王様!?一体何を!?」 『崇徳王様の目力…本気の殺意だ…』 崇徳王の表情から本気の殺意を感じる。 「其方は命拾いしたければ…即刻私から逃走しろ…」 「崇徳王様…」 「其方だってこんな場所では死にたくないだろう?即刻逃走するのだ…出来るなら私は其方を殺したくないのだ…」 「ひっ!」 家来は崇徳王の殺意に戦慄する。 「父様と母様には…」 一方の崇徳王は涙腺より涙が零れ落ちる。 「息子の…夜桜崇徳王は闇夜の山道で匪賊に殺害されたと伝達しろ…」 「崇徳王様…承知しました…」 すると家来は闇夜の自然林へと一目散に逃走したのである。 「邪魔者は逃走したな…」 『一安心だ…』 崇徳王は家来の逃走に安堵する。 『一先ずは…』 崇徳王は恐る恐る西国の村里へと潜入したのである。 『やっぱり西国は物静かな場所だ…武陵桃源との噂話は本当みたいだな…』 片田舎の西国は人口増の東国とは桁違いの少人数であり崇徳王は内心一安心する。 『西国は極楽浄土を想念させる場所だな…本当に此処が俗界なのか?』 すると西国の精霊故山と命名される低山から露天風呂の薫風が西国全体に浸透化したのである。 「ん?」 『温泉郷の薫風っぽいな…』 気になった崇徳王は薫風を目印に精霊故山の頂上へと疾走する。
第二話
入浴中 疾走し始めてより数分後…。崇徳王は精霊故山の頂上へと到達したのである。 「えっ!?」 崇徳王は頂上の光景に驚愕する。 『こんな場所に露天風呂が…』 精霊故山の天辺中心部には神秘性を感じさせる石造りの露天風呂が確認出来る。 『西国は正真正銘温泉郷だったとは…』 崇徳王は恐る恐る露天風呂を凝視し続ける。 『非常に神秘的だな…』 崇徳王は神秘の光景に魅了されたのである。 「ん?」 露天風呂には一人の女性らしき小柄の人影が確認出来る。 『人影だ…人間なのか?』 崇徳王は人影の正体が気になり…。 『人影の正体は一体…』 崇徳王は露天風呂の様子を観察したのである。 『誰かと思いきや…人影は小柄の女性っぽいな…』 露天風呂の湯気によって誰が入浴中なのかは不明瞭であるものの…。 『彼女は入浴中なのか?』 小柄の人影は入浴中の人間の女性であると認識出来たのである。 「えっ…」 驚愕した崇徳王は極度の胸騒ぎを感じるものの…。即座に岩陰にて入浴中の女性の様子を眺望し続ける。 『女性は入浴中みたいだが…彼女は一体何者なのか?』 「人間なのだろうか?」 女性は年齢十四歳程度の童顔美少女であり非常に神秘的雰囲気だったのである。 「女性は本物の天女みたいな人物だ…」 『彼女は何者なのだろうか?人間の…女性なのか?天空世界の…天女なのか?』 崇徳王は彼女が天空世界の天女にも感じられ…。彼女が人間の女性なのか疑問視する。黒毛の長髪…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり非常に異質的である。 「なっ!?」 何よりも気になったのは彼女の巨乳のおっぱいであり普段は人一倍生真面目の崇徳王も女性のおっぱいに反応…。見惚れたのである。 『私は一体全体何を…私にとって本来の天敵とは私自身の下心なのかも知れないな…下心とは非常に厄介だ…』 崇徳王は極度の忍耐力により自分自身の性欲を抑圧するものの…。入浴中の女性の様子が気になるのか赤面した様子で恐る恐る入浴中の女性を覗き見し続けたのである。 『私は名門の武家一族…夜桜一族の最上級武士なのだぞ!』 すると崇徳王の背後より…。 「あんたは最低ね!」 突如として背後の何者かが覗き見し続ける崇徳王の後頭部を棍棒で力一杯打擲したのである。 「ぎゃっ!」 強烈なる打撃力によって崇徳王は地面に横たわる。 「あんたは助平!変態!」 力一杯崇徳王の後頭部を打擲したのは茶髪の長髪であり小柄の女性である。彼女は地面に横たわった状態の崇徳王を凝視し始め…。強烈なる目力で彼を睥睨する。 「ぐっ!貴様…突然何しやがる!?」 腹立たしくなった崇徳王も茶髪の女性に睥睨し返したのである。 「あんたは敵国の刺客ね!?私の大好きな【桃子姫】姉ちゃんに手出しするなら…私は手加減しないわよ!覚悟しなさい!」 崇徳王は強気の彼女に圧倒される。 「なっ!?私は…別に…何も…」 『彼女…相当強気だな…彼女はひょっとして人外の鬼女なのか?』 女性は非常に強気であり崇徳王は一瞬人外の鬼女を連想したのである。すると入浴中だった桃子姫が全裸の状態で恐る恐る岩陰へと近寄り始める。 「如何しちゃったの…【胡桃姫】?一体何事かしら?」 茶髪の女性が地面に横たわった状態の崇徳王を指差したのである。 「桃子姫姉ちゃん!近寄らないで!此奴は敵国の刺客よ!此奴に近寄れば桃子姫姉ちゃんが手出しされるわよ!」 「えっ…敵国の…刺客ですって?」 突然の出来事に桃子姫は動揺し始める。 「彼が入浴中の桃子姫姉ちゃんを覗き見したのよ…」 「えっ?覗き見ですって?誰が覗き見したの?」 桃子姫は極度の鈍感なのか危機感が皆無だったのである。 「えっ…桃子姫姉ちゃん?」 『桃子姫姉ちゃん…本当に鈍感だわ…大丈夫かしら?』 桃子姫は極度の鈍感なのかのほほんとし続ける。 『桃子姫姉ちゃんは危機感が皆無だわ…』 桃子姫の様子に胡桃姫は苦笑いする。一方の崇徳王も彼女の様子に苦笑いし始める。 『如何やら彼女は人一倍鈍感みたいだな…人騒がせな女性だ…』 桃子姫の様子に崇徳王は内心一安心したのである。沈黙し続ける崇徳王であるが…。即座に否定したのである。 「別に私は覗き見なんて…私は敵国の刺客ではなく東国出身の夜桜崇徳王ですよ!一兵卒の身分ですが守護するべき女性には手出ししませんから…」 「東国ですって?あんたは東国の出身者なの?」 胡桃姫は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「私は列記とした東国の武士なのです…」 「如何して東国の武士であるあんたが…西国なんかに?」 胡桃姫は不思議そうな表情で再度崇徳王に問い掛けたのである。 「私は…」 崇徳王は彼女達に東国から西国に来訪した経緯を一部始終告白する。 「あんたは…戦乱に嫌悪感がね…」 崇徳王の事情に胡桃姫は勿論…。桃子姫も崇徳王に同情したのである。 「ですが祖国と一族を絶縁されるなんて…相当の覚悟が必要不可欠でしょうに…」 「今回の私の行為は前代未聞の愚行ですからね…罪深いのは承知ですが…何よりも私にとって祖国と一族の堅苦しい風習は重荷であり…私にとっては最大の呪縛でしたからね…正直呪縛から解放されたかったのですよ…」 すると崇徳王は満面の笑顔で…。 「ですが西国が武陵桃源なのは事実みたいですね♪戦乱の世の中に…こんなにも物静かな天国が俗界に存在するのは驚愕ですよ…」 崇徳王は西国が俗界なのか認識出来なくなる。 「此処は本当に俗界なのでしょうか?天国みたいな場所ですね♪」 武陵桃源の西国が気に入ったのか崇徳王は満足気に発言する。 「貴方は夜桜崇徳王様だったかしら?」 桃子姫は恐る恐る崇徳王に謝罪したのである。 「胡桃姫が勘違いしちゃったみたいで大変失礼しました…御免なさいね…」 崇徳王は謝罪する桃子姫に一瞬困惑するものの…。 「桃子姫様ですかね♪気になさらないで下さいな…私なら大丈夫ですから♪」 崇徳王は満面の笑顔で返答したのである。すると胡桃姫が満面の笑顔で…。 「崇徳王様が助平なのは事実よね♪あんたは入浴中の桃子姫姉ちゃんを興味深そうに覗き見したでしょう♪」 「えっ…私は別に…」 崇徳王は揶揄する胡桃姫に苦笑いしたのである。 「何も…興味なんて…私は頂上の露天風呂が気になっただけで…」 崇徳王は苦し紛れに覗き見を否定するものの…。 「崇徳王様は♪無理しちゃって…」 胡桃姫は再度揶揄する。 「胡桃姫!」 桃子姫は崇徳王を揶揄する胡桃姫に怒号したのである。 「崇徳王様に失礼でしょう!崇徳王様に謝罪しなさい!」 「御免あそばせ♪夜桜崇徳王様♪」 胡桃姫は笑顔で謝罪する。 「胡桃姫様…私なら気にしませんから大丈夫ですよ♪」 「崇徳王様…」 『崇徳王様は…誰よりも温厚なのね…』 桃子姫は崇徳王を人一倍温厚篤実であると感じる。 「私達は失礼しますね…崇徳王様…」 桃子姫と胡桃姫は崇徳王に黙礼すると恐る恐る村里の家屋敷へと戻ったのである。
第三話
軍神 胡桃姫は下山中に恐る恐る…。 「桃子姫姉ちゃん?」 「何よ…胡桃姫?」 「桃子姫姉ちゃんが赤面しちゃうなんてね♪」 胡桃姫は満面の笑顔で発言する。 「ひょっとして桃子姫姉ちゃんは夜桜崇徳王様に見惚れちゃったのかしら♪」 胡桃姫は桃子姫を揶揄したのである。 「胡桃姫!私は別に…崇徳王様に恋心なんて…」 桃子姫は猛反発するものの…。 「崇徳王様が誰よりも紳士的で温厚なのは事実かしらね…崇徳王様は男前だし…」 「崇徳王様は人一倍助平だけどね♪彼が誰よりも男前なのは私も同感だけど♪」 崇徳王を助平と揶揄する胡桃姫に桃子姫は注意したのである。 「胡桃姫…助平なんて彼に失礼よ…」 「御免あそばせ♪桃子姫姉ちゃん♪」 胡桃姫は笑顔で桃子姫に謝罪する。 「えっ!?何かしら?」 胡桃姫は突如として周辺の暗闇の自然林から無数の気配を察知したのである。 「如何したのよ?胡桃姫?」 一方の桃子姫は不安そうな様子で恐る恐る問い掛ける。 「気配だわ…人気かしら?」 「人気ですって?」 数秒後である。暗闇の自然林から四人の無頼漢達が出現したかと思いきや…。下山中の桃子姫と胡桃姫を包囲する。 「あんた達は…一体何者よ!?」 「ひょっとして彼等は匪賊かしら?」 彼女達は恐る恐る後退りしたのである。 「姉ちゃんよ♪匪賊なんて失礼だな…俺達は南軍の最精鋭の最上級武士だぞ♪」 匪賊の一人が冷笑した様子で自分達を南軍の最精鋭だと自称する。 「姉ちゃん達よ♪殺されたくなったから大人しく俺達に有りっ丈の金品を手渡しな♪姉ちゃん達だってこんな暗闇の場所では死にたくないだろう?」 「俺達だって姉ちゃん達に手出ししたくないからよ♪大人しく有りっ丈の金品を手渡すなら命拾い出来るかも知れないぜ♪如何するよ?姉ちゃん達♪」 匪賊達は即座に刀剣を抜刀し始める。 「今回の相手は非武装の姉ちゃん達だからな♪俺達でも楽勝で打っ殺せるぜ♪」 胡桃姫は匪賊達に睥睨したのである。 「あんた達…何が最精鋭の最上級武士よ!守護するべき女性に手出しするなんて…あんた達は本当に最上級の武士なの!?」 相手は自分達よりも大柄で屈強の無頼漢達であるものの…。胡桃姫は強烈なる目力により大柄の彼等に威嚇したのである。 「茶髪の姉ちゃんよ…あんたは人一倍小柄なのに随分と強気だな♪其処等の兵卒達よりは勇敢だぜ♪」 「俺達は南軍の最上級武士だからな♪南国の女子達だったら守護するぜ♪所詮姉ちゃん達は敵国の人間だから対象外なのさ♪」 「大人しく金品を手渡すなら命拾い出来るが♪」 「金品を手渡せないなら…悪いが今日が姉ちゃん達の命日みたいだな…」 彼等の発言に二人は嫌悪する。 「あんた達…卑劣だわ…何が私達の命日よ…」 「卑劣で結構だ♪」 匪賊達は失笑したのである。すると桃子姫は恐る恐る…。 「胡桃姫…私達殺されちゃうよ…」 桃子姫は極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。 「桃子姫姉ちゃん…」 『畜生…如何するべきなのよ?こんな奴等…私一人では対処出来ないし…』 胡桃姫と桃子姫は匪賊達に戦慄したのか恐る恐る後退りしたのである。 「一安心しな♪姉ちゃん達は即刻安楽死させるからよ♪」 「姉ちゃん達は一瞬で片付けるからな♪覚悟しろよ♪」 胡桃姫と桃子姫は覚悟する。二人が死期を覚悟した直後…。 「ぐっ!」 小柄の匪賊が何者かによって投擲された石ころにより気絶したのである。 「なっ!?何者だ!?」 「石ころだと!?一体誰が!?」 突然の出来事に彼等は驚愕する。すると匪賊達の背後より…。 「ん!?貴様は一体何者だ!?」 匪賊達の背後には若齢の美青年が出現する。 「愚か者達が…」 美青年は匪賊達に睥睨したのである。 「本来なら守護するべきか弱き女性達を相手に…経世済民の武士達が多人数で二人のか弱き女性に手出しするとは言語道断だな!か弱き女性に手出しする愚か者達は私が即刻征伐するぞ…」 「なっ!?最精鋭の俺達を…愚か者だと!?」 「此奴!死にたいのか!?」 若齢の美青年に苛立ったのか匪賊達は怒号したのである。 「貴様…青二才の分際で随分と生意気だな…貴様は相当の死にたがりなのか?」 一方の桃子姫と胡桃姫であるが…。美青年の出現に一安心したのである。 「貴方はひょっとして夜桜崇徳王様!?」 「匪賊の一人を気絶させたのはあんただったのね♪崇徳王様♪」 すると匪賊の一人が恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「えっ!?夜桜崇徳王って…貴様は東国の軍神…夜桜崇徳王なのか!?」 崇徳王は匪賊の問い掛けに即答したのである。 「無論!私が東国の若武者…夜桜崇徳王だからな…」 「誰かと思いきや…貴様が名門の武家一族…夜桜一族の夜桜崇徳王だったとは…」 「此奴は…本物の夜桜崇徳王なのか?」 突如として出現した若齢の武士が東国の軍神…。夜桜崇徳王である事実に匪賊達は畏怖し始める。すると巨漢の無頼漢が小柄の崇徳王を睥睨したのである。 「貴様達!こんな野郎に畏怖して如何する!?今回は俺達にとって好都合なのだぞ!俺達南軍の戦友達は東軍の荒武者達によって大勢惨殺されちまったからな…此奴に復讐するには最高の絶好機だ!」 巨漢の無頼漢が崇徳王に殺到する。 「覚悟しやがれ!崇徳王!」 「所詮は敗残兵の分際で…覚悟するのは貴様だ!」 一方の崇徳王は無表情であり即座に刀剣を抜刀したかと思いきや…。 「ぐっ!無念…」 崇徳王の一瞬の身動きによって巨漢の無頼漢は瞬殺されたのである。巨漢の無頼漢は多量の出血により地面に横たわる。崇徳王の超人的瞬発力と剣術に周囲の匪賊達は勿論…。桃子姫と胡桃姫も愕然とする。 『自身よりも大柄の匪賊を一撃で…崇徳王様って誰よりも勇猛果敢で男前だわ♪』 桃子姫は崇徳王の瞬発力と剣術を直視…。崇徳王に見惚れたのである。 「桃子姫姉ちゃん…」 『如何やら私は勘違いしたみたいね…夜桜崇徳王様は単なる助平ではなく正真正銘剣客だったのね…桃子姫姉ちゃんが崇徳王様に見惚れちゃうのも納得出来るわ♪』 一方の胡桃姫も崇徳王に魅了される。 「貴様達…私に殺されたくなければ即刻逃走するのだな…貴様達もこんな殺伐とした場所では死にたくないだろう?」 「ひっ!崇徳王の野郎に打っ殺されちまう!」 「畜生!逃げろ!」 「崇徳王に殺されるぞ!」 匪賊達は崇徳王に戦慄したのか一目散に逃走する。 「はぁ…一件落着だな…」 崇徳王は事態の収拾に一安心したのである。 「大丈夫でしたか?桃子姫様?胡桃姫様?」 桃子姫は崇徳王の問い掛けに満面の笑顔で即答する。 「私達なら大丈夫よ♪感謝しますね…崇徳王様♪」 「か弱き女性を守護するのはこの上なく当然の行為です…桃子姫様と胡桃姫様が無事なのが何よりですよ♪」 今度は胡桃姫が笑顔で発言したのである。 「あんたって正真正銘凄腕の剣客だったのね♪誰よりも男前だし♪」 「私が男前なんて…胡桃姫様は表現が非常に大袈裟ですな♪」 『こんな私が男前ですって♪』 崇徳王は胡桃姫の男前発言に赤面するものの…。内心では大喜びしたのである。 「崇徳王様?」 桃子姫は赤面した表情で…。 「如何されましたか?桃子姫様?」 「崇徳王様は…私達の家屋敷で居候しない?」 「えっ!?居候ですと!?こんな私が…」 崇徳王は桃子姫の居候の一言に驚愕したのである。 「西国は全体的に閉鎖的だからね…」 「こんな見ず知らずの私が…桃子姫様と胡桃姫様の家屋敷に居候しても大丈夫なのでしょうか?」 崇徳王は内心不安がる 「正直…迷惑なのでは?」 桃子姫は満面の笑顔で即答したのである。 「迷惑なんて…崇徳王様が居候するなら私は大喜びですよ♪」 すると胡桃姫も満面の笑顔で賛成する。 「私も桃子姫姉ちゃんと同意見よ♪崇徳王様は助平だけど勇猛果敢で温厚篤実で人一倍男前だし♪是非とも居候してね♪夜桜崇徳王様♪あんたなら大歓迎よ♪」 「えっ…胡桃姫様…」 『助平は…一言余計だな…』 崇徳王は胡桃姫の助平発言に苦笑いするものの…。恐る恐る承諾したのである。 「承知しました♪桃子姫様♪胡桃姫様♪」 困惑した崇徳王であるが…。 『桃子姫様と胡桃姫様と居候出来るなんて♪』 内心では居住地が確保出来て一安心だったのである。
第四話
事件現場 桃子姫と胡桃姫との居候から一週間後…。安穏であった西国の村里では無数の悪霊による超常現象が頻発したのである。崇徳王は居間にて昼寝中であったが…。 「崇徳王様!大変よ!」 胡桃姫は大急ぎで居間へと入室する。 「うわっ!如何されましたか!?胡桃姫様!?」 大急ぎの彼女に崇徳王は驚愕する。 「一体何事ですか?胡桃姫様?随分と大騒ぎの様子ですね…」 「一大事なのよ…麦畑で村人が…村人が何者かによって殺害されたらしいのよ…」 「えっ!?村人が殺害されたって!?本当ですか!?」 崇徳王は即刻胡桃姫と一緒に事件現場である近隣の麦畑へと疾走したのである。事件現場である麦畑には大勢の村人達が殺到…。現場の様子を傍観し続ける。 「村人達がこんなにも…」 『一体何事でしょうか?』 崇徳王と胡桃姫は恐る恐る現場である麦畑へと潜入…。事件現場の光景に崇徳王と胡桃姫は身震いしたのである。 「一体何が…誰がこんな…」 麦畑の中心部には無数の肉片やら腐敗した血肉が散乱する。 「匪賊達の…仕業かしら?」 「外傷から判断して…山中の獣類に食い殺されたのでしょうね…」 崇徳王は遺体の損傷から獣類によって捕食されたのだと予想したのである。 「人間ではこんな殺し方は出来ませんからね…」 「山中の獣類ね…」 胡桃姫は戦慄したのか全身が身震いする。すると二人の真横に位置する村人が恐る恐る発言したのである。 「此奴は恐らく…野良犬の悪霊の仕業だろうな…」 「えっ?野良犬の…悪霊ですと?」 崇徳王は村人の悪霊発言に反応する。 「先日の真夜中だったかな?」 目撃した村人は先日の出来事を洗い浚い告白したのである。 「俺は山奥の樹海で人間の血肉を咀嚼する野良犬の悪霊を目撃しちまってよ…周辺は暗闇だったが確実に野良犬の悪霊だって認識出来たよ…」 胡桃姫は恐る恐る目撃者である村人に問い掛ける。 「野良犬の悪霊って…何よ?」 「野良犬の悪霊は…別名【邪霊餓狼】って命名される動植物の悪霊だよ…人間に打っ殺されちまった怨恨で妖怪化しちまった野良犬の化身だろうか…」 「悪霊の邪霊餓狼ですか…正体が気になりますね…」 邪霊餓狼とは無数の動植物が妖怪化…。自然界から誕生した人外の悪霊であり非常に獰猛で肉食である。邪霊餓狼は人間達によって惨殺された無数の動植物の怨恨が融合化した無念の集合体であり人間達を憎悪する。怨敵である人間が邪霊餓狼に遭遇した場合…。遭遇した人間は誰であろうと邪霊餓狼によって問答無用に食い殺される。 「殺害された村人達は野良犬の悪霊とされる邪霊餓狼によって惨殺されたのでしょうか?村人達が邪霊餓狼に惨殺されたのであれば非常に無念です…」 すると突然…。 「ん!?」 『胸騒ぎか!?』 崇徳王は極度の胸騒ぎを感じる。 「えっ…崇徳王様?」 一方の胡桃姫は崇徳王の様子に動揺し始める。 「大丈夫かしら?崇徳王様の顔色が…」 突如として警戒し始めた崇徳王の様子に胡桃姫は非常に不安がる。 「胡桃姫様…戦慄させちゃいましたね…失礼しました♪」 崇徳王は苦笑いするものの…。表情が険悪化したのである。 『私が感じるのは…ひょっとして殺気でしょうか!?』 崇徳王は険悪化した表情で恐る恐る胡桃姫を凝視したかと思いきや…。 「えっ…崇徳王様?一体何よ…」 胡桃姫は不安そうな様子で恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「胡桃姫様…ひょっとすると一大事かも知れません…」 「一大事ですって?何が一大事なのよ?崇徳王様?」 崇徳王は胡桃姫の問い掛けに恐る恐る返答する。 「先程から極度の胸騒ぎを感じるのです…胸騒ぎの正体が人間なのか人外の悪霊なのかは断言出来ませんが…西国の村里に急接近中なのは確実でしょうね…」 崇徳王の感じる殺気とは人間は勿論…。獣類とも別物であったのである。胡桃姫は恐る恐る返答する。 「ひょっとして邪霊餓狼かしら?今度も村人達の誰かを殺しに…」 崇徳王は邪霊餓狼の一言に身震いしたのである。 『邪霊餓狼…』 「邪霊餓狼の可能性は否定出来ませんね…」 崇徳王は険悪化した表情で…。 「胡桃姫様…」 「何よ…崇徳王様?」 「胡桃姫様は即刻家屋敷に戻りなされ…」 「えっ…即刻って…崇徳王様…」 胡桃姫は正直無茶であると感じるものの…。 『普段は温厚篤実の大仏様みたいな崇徳王様が…こんなにも仁王様みたいな表情なんてね…』 胡桃姫は崇徳王の目力に圧倒されたのである。 『如何やら今回は余程の一大事みたいね…』 胡桃姫は恐る恐る…。 「崇徳王様…無理は禁物だからね…絶対に死なないでよ…あんたが死んじゃったら私も桃子姫姉ちゃんも承知しないわよ…」 「勿論ですとも…胡桃姫様!」 崇徳王は胡桃姫の発言に即答する。 「心配せずとも私なら大丈夫ですから…」 胡桃姫は即刻自宅へと戻ったのである。 『胡桃姫様は自宅に戻られましたね…』 胡桃姫が自宅へと戻った直後…。 『私は即刻…元凶の邪霊餓狼を撃退しなくては…』 崇徳王は即座に殺気の感じる近辺の連山へと全力疾走したのである。
第五話
亡霊 崇徳王は近辺に聳え立つ連山の獣道を通過中…。 『此処から殺気を感じるぞ…』 先程よりも胸騒ぎの元凶が刻一刻と急接近するのである。 『獣道では一体何が発生したのか?』 すると崇徳王の背後より…。 『背後か!?』 崇徳王は即座に背後の様子を警戒したのである。 『此奴は…本物の怪物なのか?』 崇徳王は背後の存在に一瞬現実の出来事なのか混乱する。 『こんなにも荒唐無稽の怪物が俗界に実在するなんて…』 崇徳王の背後に出現したのは満身創痍の野良犬の化身であり左脚と右側の前頭部は白骨化した状態である。 『ひょっとして此奴が…』 崇徳王は出現した野良犬の化身を事件の元凶である邪霊餓狼と確信する。 『野良犬の悪霊とされる…邪霊餓狼だな…』 邪霊餓狼は血塗れの腐敗した皮膚と極度の出血により極度の悪臭は勿論…。邪霊餓狼の表情からは怨敵である人間達に対する憎悪と極度の悲痛さを感じさせられる。 『此奴が神出鬼没の悪霊なのは確実だな…』 崇徳王は極度の恐怖心からか身震いしたのである。 『今回の敵対者は人間ではなく正真正銘神出鬼没の悪霊だからな…』 今回の相手は人外の悪霊であり一人で撃退出来るのか不安視する。 『私の〔天道金剛石〕の刀剣で邪霊餓狼を仕留められるのか?』 天道金剛石とは南国の金剛山で発掘された不朽性の鉄鉱石である。従来型の金剛石を傑出する金剛不壊さと半永久的に原物を持続し続けられる耐久性により戦乱時代では名門の武家一族のみが保有を認許される。 『相手が神出鬼没の悪霊でも…』 崇徳王にとって強大なる悪霊相手の戦闘は前代未聞であるものの…。 「邪霊餓狼よ…私が悪霊の貴様を成仏させる!」 正直人間である自身に悪霊の邪霊餓狼を対処出来るのかは不安であるが崇徳王は即座に天道金剛石の刀剣を抜刀したのである。一方の邪霊餓狼は刀剣を抜刀した崇徳王を睥睨し始めたかと思いきや…。崇徳王を標的に超特急で突進したのである。 『即刻とは!』 崇徳王は即座に邪霊餓狼の突進を回避する。突進を回避した崇徳王は神速の身動きで邪霊餓狼の背後に急接近…。 「成仏せよ!野良犬の悪霊!」 崇徳王は邪霊餓狼の背後から斬撃したのである。 「なっ!?」 渾身の斬撃であったが…。邪霊餓狼には寸前で回避されたのである。 『私の斬撃を回避するなんて…』 すると邪霊餓狼が血塗れの全身を武者震いさせた直後…。 「ん!?」 『邪霊餓狼は一体何を!?』 邪霊餓狼は口先より超高温の火球を射出したのである。 『鬼火だと!?』 崇徳王は口先より射出された火球を即座に一刀両断…。危機一髪邪霊餓狼の火球を無力化したのである。寸前の一刀両断によって超高温の火球は両断されたものの…。 『ひょっとして妖術なのか!?』 両断された火球は崇徳王の背後にて爆散する。 『こんなにも規格外の破壊力とは…天道金剛石の刀剣ではなく凡庸の刀剣であれば確実に屈折しただろうな…』 超高温の火球を切断した影響からか天道金剛石の刀剣が火球の熱量により灼熱…。本来であれば銀色に光り輝く白刃が高熱によって赤化したのである。 「邪霊餓狼は想像以上の強敵かも知れないが…」 『こんな場所で私が邪霊餓狼に敗北すれば…西国の村里は勿論…十中八九桃子姫様と胡桃姫様が殺害されるかも知れない…』 崇徳王は如何するべきなのか混乱する。 『畜生…私は如何するべきなのか…』 すると天空が黒雲により覆い包まれる。 「なっ!?」 『黒雲だと?』 邪霊餓狼の霊力が先程よりも増大化したのである。 「邪霊餓狼から極度の殺気を感じる…」 『邪霊餓狼の霊能力なのか?』 崇徳王は天空の黒雲を恐る恐る直視する。黒雲を直視してより数秒後…。黒雲の中心部から落雷が発生する。 「うわっ!」 落雷攻撃により黒雲から強烈なる稲光を落下させる。 『落雷なのか!?』 崇徳王は即座に邪霊餓狼の落雷攻撃を回避する。落雷攻撃には無事回避出来たものの…。落雷攻撃によって地面が半球型に陥没したのである。崇徳王は半球型に陥没した地面を直視…。 『こんな落雷が頭部にでも直撃すれば…私は確実に絶体絶命だったな…』 目前の光景に戦慄したのである。 『先程から…現実なのか?何もかもが荒唐無稽過ぎる…』 崇徳王は邪霊餓狼の荒唐無稽の攻撃を直視すると現実の出来事なのか混乱する。一方の邪霊餓狼は背後から崇徳王に突進するものの…。 『背後だと!?』 崇徳王は即座に邪霊餓狼の気配を察知したのである。 「邪霊餓狼!覚悟しろ!」 背後から突進する邪霊餓狼の左辺の前脚を斬撃…。左辺の前脚を切断された邪霊餓狼は断末魔の悲鳴により地面に横たわったのである。崇徳王は恐る恐る地面に横たわった状態の邪霊餓狼へと近寄る。 「野良犬の悪霊よ…成仏しろ…」 瀕死の邪霊餓狼を斬撃する寸前…。 『畜生…』 邪霊餓狼の悲憤慷慨の表情を直視し続けると非常に心苦しくなる。 『即座に邪霊餓狼を仕留めなければ…西国の村里は勿論…桃子姫様と胡桃姫様が殺害されるかも知れないのに…』 すると突然…。 「愚劣なる人間よ…刀剣のみで私を敗北させるとは…貴様は傑物だな…」 虫の息であった邪霊餓狼が人間界の公用語で発語したのである。 「えっ…」 『邪霊餓狼は…人語で喋れるのか!?』 崇徳王は突如として人語で発言した邪霊餓狼に驚愕する。 「ひょっとして邪霊餓狼は…人間の口言葉で喋れるのですか?」 驚愕した崇徳王であるが…。恐る恐る邪霊餓狼に問い掛けたのである。数秒後…。崇徳王の問い掛けに邪霊餓狼は即答したのである。 「無論である…」 普通なら驚愕する場面であるものの…。崇徳王は会話の通じる相手に内心一安心したのである。邪霊餓狼は崇徳王を凝視し始め…。 「貴様は醜悪なる人間の…武士であるな…」 崇徳王は再度邪霊餓狼に問い掛ける。 「如何して邪霊餓狼は西国の村人達を襲撃するのですか!?邪霊餓狼にとって彼等は無関係なのでは?」 邪霊餓狼は崇徳王の発言に反論する。 「奴等が無関係であると?貴様達…愚劣なる人間達の殺し合いによって自然界は汚染されたのだ…私は愚劣なる人間達によって惨殺された動植物の亡魂の集合体である…」 「邪霊餓狼が動植物の亡魂ですと…」 邪霊餓狼の正体とは人間達によって惨殺された多種多様の動植物の霊魂が融合化した悪霊の集合体とされ…。各地で戦乱を頻発させる人間達を憎悪する。 「私自身も列記とした一人の人間であり一兵卒の身分ですが…頻発する戦乱の世の中を毛嫌いするからこそ武陵桃源の西国に移住したかったのです…悪霊の邪霊餓狼も私達人間によって自然界を汚染されたかも知れませぬが…西国の村人達には手出ししないと約束出来ないでしょうか?」 崇徳王は邪霊餓狼に哀願したのである。 「武陵桃源の西国は戦乱とは程遠い場所なのです…如何しても手出ししたいのであれば部外者である私のみに限定出来ませんか?」 「貴様は…自己犠牲とは…」 邪霊餓狼は崇徳王の発言に影響されたのか霊力が弱体化する。 「貴様は武士の人間であるが非常に人格者であるな…是非とも勇猛果敢の貴様には呪詛しなければ…」 「私に呪詛ですと!?」 すると突然…。 「ぐっ!」 『全身から熱気が…邪霊餓狼の呪詛なのか!?』 体内より強烈なる熱気を感じる。 「人格者の貴様には私の呪力を分け与えた!戦乱を頻発させる大勢の極悪非道の人間達を呪殺するべし…」 「呪殺ですと!?私に邪霊餓狼の呪力で大勢の人間達を殺害しろと…」 崇徳王は邪霊餓狼の呪力に身震いする。 「勿論である…貴様であれば出来るぞ…大勢の醜悪なる人間達を完膚なきまでに虐殺するのだ!」 崇徳王の問い掛けに返答した直後である。邪霊餓狼は衰弱化…。満身創痍の肉体が白骨化したのである。 「えっ…」 全身が白骨化した邪霊餓狼の死骸からは殺気は感じられない。 『邪霊餓狼が…』 すると数秒後…。背後より桃子姫と胡桃姫が恐る恐る崇徳王に近寄る。 「崇徳王様!」 「崇徳王様!?大丈夫ですか?」 「桃子姫様と胡桃姫様でしたか…」 桃子姫は力一杯崇徳王に密着したのである。 「崇徳王様が無事で…無事で何よりです…」 桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。 『桃子姫様…』 崇徳王は内心嬉しくなる。 『こんな私を心配して…』 崇徳王は桃子姫に満面の笑顔で…。 「ですが私にとって桃子姫様と胡桃姫様が無事なのが何よりですよ♪大事件の元凶である邪霊餓狼の暴走も阻止出来ましたからね…」 「崇徳王様…」 すると胡桃姫が背後の白骨化した邪霊餓狼の存在に気付いたのである。 「崇徳王様?ひょっとして野犬の遺骨かしら?」 「此奴は邪霊餓狼の死骸ですよ…」 「邪霊餓狼の?随分巨体だけど…白骨化した野良犬みたいね…」 胡桃姫は白骨化した邪霊餓狼の死骸に恐る恐る接触する。 「えっ?」 「一体如何されましたか?胡桃姫様?」 胡桃姫は白骨化した邪霊餓狼の頭蓋骨より罅割れを発見…。罅割れの中心部からは正体不明の金属類らしき破片を発見したのである。 「何かしら?えっ…鉄屑?」 胡桃姫は恐る恐る正体不明の鉄屑を入手する。 「一体何かしら?」 崇徳王は鉄屑を凝視したのである。 「如何やら金属類の…破片ですね…」 胡桃姫は愕然とした表情で…。 「ひょっとして火縄銃の弾丸かしら?」 すると崇徳王が恐る恐る発言する。 「ひょっとすると邪霊餓狼の正体とは…人間達によって惨殺された犬神の亡霊だったのかも知れませんね…」 犬神とは神族の一角である。崇徳王は邪霊餓狼との対話から邪霊餓狼の正体が神族の化身であると確信する。 「邪霊餓狼の正体は人間によって殺害された犬神の亡霊だったのね…」 一同は戦乱の悲劇を痛感したのである。 「崇徳王様?如何して人間達って殺し合うのかしら…」 桃子姫は無表情で発言する。 「桃子姫様…」 「桃子姫姉ちゃん…」 崇徳王と胡桃姫は困惑するものの…。 「人間とは非常に強欲で罪深いですからね…結局は誰しもが強欲だからこそ大勢で殺し合うのでしょうね…こんな私自身も数週間前は罪深い彼等の一員でしたからね…」 崇徳王は気難しく発言するが数秒後に満面の笑顔で断言する。 「ですが西国は正真正銘武陵桃源です!私自身出身地の東国よりも武陵桃源の西国が大好きですよ♪今回みたいに神出鬼没の無礼者が出現したとしても私は全身全霊で西国の村里は勿論!桃子姫様と胡桃姫様を守護しますから…」 崇徳王は天空を眺望し始める。 「事件は無事解決しましたし…戻りませんか?」 すると胡桃姫が笑顔で発言する。 「戻りましょう♪祝賀会よ♪」 「祝賀会ですと?一体誰の祝賀会なのでしょうか?」 崇徳王は恐る恐る問い掛ける。 「勿論崇徳王様の祝賀会よ♪当然でしょう♪」 「えっ…私の祝賀会ですか?」 崇徳王は動揺し始める。 「私達は毎回崇徳王様に守護されてばかりだし♪私達からも崇徳王様に精一杯恩返ししないとね…」 崇徳王は非常に困惑したのである。 「別に恩返しなんて…二人とも大袈裟ですな…」 「崇徳王様は遠慮深いのね♪」 「遠慮しないで♪崇徳王様♪」 「生憎ですが私は別に…何も…」 崇徳王は気恥ずかしくなる。桃子姫は恐る恐る…。 「崇徳王様は梅酒とか大丈夫?」 崇徳王は即答する。 「生憎ですが…私は酒類が苦手なのです…」 「えっ…意外だね…」 すると突然…。 「ぐっ!」 崇徳王は突発的に息苦しくなり卒倒したのである。 「崇徳王様!?」 「崇徳王様!?大丈夫!?」 すると地面に横たわった状態の崇徳王の身体髪膚より血紅色の発光体が無数に発生し始める。 「きゃっ!血紅色の発光体だわ…」 「何かしら…」 彼女達は恐る恐る血紅色の発光体に接触するものの…。崇徳王は平然とした様子である。超常現象が発生してより数秒後…。崇徳王は平常心の様子で目覚める。 「えっ?桃子姫様と胡桃姫様?如何されたのですか?」 「崇徳王様…大丈夫ですか?突然卒倒されて…」 桃子姫は極度の心配性であり崇徳王に気遣ったのである。 「私が卒倒ですと!?一体私に何が発生したのでしょうか…」 崇徳王は自身が卒倒した事実に驚愕する。 「あんたが突然気絶しちゃったから…私達…一瞬膠着しちゃったわ…」 胡桃姫は不機嫌そうに発言したのである。 「二人とも…心配させちゃいましたね…大変失礼しました…」 崇徳王は二人に謝罪する。 「崇徳王様…別に崇徳王様が謝罪しなくても…」 桃子姫は苦笑いしたのである。 「桃子姫様と胡桃姫様…即刻家屋敷に戻りましょう!極悪非道の悪霊は退治しましたから一先ずは安心ですよ♪」 崇徳王は満面の笑顔で先走る。 「崇徳王様…」 無表情だった胡桃姫は崇徳王の様子に身震いしたのである。 「桃子姫姉ちゃん?」 胡桃姫は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。 「何よ…胡桃姫…」 「彼って…悪霊の邪霊餓狼に呪詛されちゃったのかも知れないわね…」 胡桃姫は超常現象やら超自然関連の神秘学が人一倍大好きであり独力で神秘学を勉学したのである。 「邪霊餓狼に…呪詛ですって?」 「桃子姫姉ちゃんも肉眼で認識したでしょう?血紅色の発光体を…」 「血紅色の発光体…」 桃子姫は気味悪くなったのか全身が身震いする。 「崇徳王様は邪霊餓狼の怨恨に憑霊されちゃったのよ…」 「崇徳王様が邪霊餓狼の怨恨に憑霊されたって?」 桃子姫は胡桃姫の発言に困惑したのである。 「現段階では断言は出来ないけれども…今後私達も彼に…崇徳王様に殺されちゃうかも知れないわ…」 崇徳王の暴走を不安視する胡桃姫に桃子姫は猛反発する。 「胡桃姫!崇徳王様に失礼よ…彼が…誰よりも温厚篤実の崇徳王様が私達に手出しするなんて…荒唐無稽だわ…」 「桃子姫姉ちゃん!大昔の伝承では自然界の悪霊を征伐した人間が悪霊に憑霊されて…大勢の村人達を殺戮したのよ…」 桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。 「崇徳王様は…」 「桃子姫姉ちゃん…」 胡桃姫は恐る恐る桃子姫に接触…。 「現時点では大丈夫かも知れないけれども…金輪際崇徳王様とは注意深く接触しましょう…崇徳王様の肉体に憑霊した悪霊の呪力が私達に手出しするのか如何なのかは断言出来ないけれどね…」 「胡桃姫…」 桃子姫は極度の不安からか冷静に思考出来なくなる。
第六話
世界樹 邪霊餓狼の出現から三日後の出来事である。桃子姫は暇潰しに西国の中心部に位置する精霊故山へと移動中…。 「えっ?」 摩訶不思議なる薫風と虹色に発光する広葉樹に魅了されたのである。 『何かしら…』 彼女は恐る恐る虹色の広葉樹へと近寄る。 「霊木かしら?」 『摩訶不思議の異世界みたいだわ…』 桃子姫は無我夢中に広葉樹の表面へと恐る恐る接触したのである。 「えっ…」 すると直後…。 『突然…眠気が…』 彼女は強烈なる睡魔によって熟睡したのである。桃子姫が熟睡し始めた同時刻…。家屋敷にて昼寝中だった崇徳王は恐る恐る胡桃姫の自室へと入室する。 「胡桃姫様…失礼します…」 「崇徳王様…何かしら?」 「胡桃姫様?桃子姫様は出掛けられたのですか?」 「桃子姫姉ちゃんなら暇潰しに登山中よ♪」 「桃子姫様は登山中でしたか…」 崇徳王は桃子姫に対面したくなる。 「彼女が暇潰しに出掛けたのであれば…私も暇潰しに…」 すると胡桃姫は険悪化した表情で恐る恐る…。 「崇徳王様…桃子姫姉ちゃんには絶対に手出ししないでよ…」 「えっ…」 崇徳王は赤面し始める。 「胡桃姫様!私は別に桃子姫様に手出しなんて…」 崇徳王の返答に胡桃姫は赤面した表情で恐る恐る…。 「崇徳王様は…人一倍助平だから…桃子姫姉ちゃんに何を仕出かすか…」 「なっ!?」 崇徳王は胡桃姫の発言に気分が消沈したのである。 『私って…胡桃姫様にとって人一倍助平なのかな…』 すると胡桃姫は身震いし始め…。不安そうな表情で恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「崇徳王様?気分は大丈夫かしら?気味悪くない?」 「気味悪いって?別に私は何も気味悪くないですよ♪胡桃姫様♪」 崇徳王は満面の笑顔で即答したのである。 「ですが突然如何されたのですか?胡桃姫様?ひょっとして心配事でも?」 問い掛けられた胡桃姫は恐る恐る…。 「先日の出来事だけど崇徳王様は…邪霊餓狼を仕留めた直後に卒倒しちゃったから大丈夫かなって…正直私は不安だったのよ…」 「胡桃姫様…」 『胡桃姫様♪こんな私なんかを心配して下さったとは…』 心配する胡桃姫に崇徳王は内心大喜びする。 「胡桃姫様は極度の心配性なのですね♪私なら大丈夫ですよ♪」 崇徳王は胡桃姫に揶揄したのである。 「なっ!?」 胡桃姫は赤面し始める。 「誰があんたの心配なんか!桃子姫姉ちゃんが不必要に崇徳王様を心配するからよ!別に私自身はあんたなんか!」 胡桃姫は赤面した表情で全否定する。 「私なら胡桃姫様が気にされなくても大丈夫ですよ♪意気衝天こそが私にとって唯一の美点ですから♪」 「意気衝天ね…崇徳王様らしいわね…」 断言する崇徳王に胡桃姫は苦笑いしたのである。数秒後…。 「私は即刻出掛けますね…」 「崇徳王様…」 崇徳王は即座に出掛ける。 『崇徳王様は本当に大丈夫なのかしら?』 胡桃姫は崇徳王の様子が気になるのか心配したのである。 「心配だわ…崇徳王様…」 一方の崇徳王は周辺の農村を眺望する。 『桃子姫様の居場所は一体…』 すると突然…。 「えっ?」 『精霊故山の自然林から果実の薫風が…』 崇徳王は果実の薫風を目印に精霊故山へと直行したのである。 「えっ…」 すると精霊故山の自然林より地面に横たわった状態の女性を発見する。 『女性か!?』 女性は桃色の着物姿だったのである。 『彼女は…』 崇徳王は即座に地面に横たわった状態の女性に恐る恐る近寄る。 「桃子姫様!?」 地面に横たわった状態の女性とは誰であろう桃子姫だったのである。崇徳王は身震いした様子で桃子姫に接触したのである。 「桃子姫様!?大丈夫ですか!?桃子姫様!?」 数秒後…。桃子姫は地面に横たわった状態から恐る恐る目覚める。 「えっ…崇徳王様?如何してこんな場所に崇徳王様が…」 「桃子姫様…一瞬驚愕しましたよ…大丈夫ですか?」 「何かしら?私は…如何しちゃったの?」 「はぁ…桃子姫様…」 桃子姫は多少寝惚けた様子であったが崇徳王は一安心する。 「崇徳王様…」 桃子姫は心配性の崇徳王に微笑んだのである。 「崇徳王様は極度の心配性なのね♪崇徳王様が心配しなくても私なら大丈夫よ♪」 「桃子姫様…」 「崇徳王様…汗水が…」 崇徳王は極度の緊張感により前額部から大量の汗水が出始める。 「えっ?」 流れ出る大量の汗水に崇徳王は赤面したのである。 「失礼しました…桃子姫様…」 すると桃子姫が恐る恐る背後を凝視し始める。 「えっ…摩訶不思議の広葉樹は?」 「えっ?摩訶不思議の広葉樹ですと?桃子姫様?」 「虹色の広葉樹…無くなっちゃったのかしら?ひょっとして先程の光景は私自身の幻覚だったのかしら?」 『虹色の広葉樹ですって?』 崇徳王は虹色の広葉樹に反応したのである。 「桃子姫様…」 崇徳王は恐る恐る発言する。 「先程の出来事ですが…私が精霊故山に到達出来たのは果実の薫風…ひょっとすると虹色の広葉樹とは世界樹として認識される妖星巨木なのかも知れませんね…」 「世界樹の妖星巨木ですって?」 崇徳王は空覚えであるものの…。桃子姫に妖星巨木の伝承を説明したのである。 「妖星巨木とは森羅万象の造物主ですよ…大昔の伝承やら各文献では世界樹として有名ですね…」 「森羅万象の造物主?世界樹ですって?」 「霊力やら神通力やら…摩訶不思議の広葉樹だと認識されますね…噂話では各村落の辺境地で出現するらしいのですが…崇徳王様が神出鬼没の妖星巨木に遭遇されたのは運命なのかも知れませんよ…」 「私が遭遇した妖星巨木は本物の世界樹なのね…」 すると桃子姫は突発的に崇徳王の腹部に力一杯密着する。 「桃子姫様!?一体如何されましたか!?」 力一杯密着し始めた桃子姫に崇徳王は驚愕したのである。 「桃子姫様…」 崇徳王は恐る恐る彼女の表情を直視…。 「大丈夫ですか?桃子姫様…」 桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。 「崇徳王様…」 「如何されましたか?桃子姫様?」 彼女は恐る恐る…。 「崇徳王様は…絶対に私と胡桃姫に手出ししないよね?絶対に私達姉妹を殺さないって約束出来るわよね?」 崇徳王は桃子姫の突発的発言に困惑する。 「えっ!?私が桃子姫様と胡桃姫様に手出しですって!?突然如何されたのですか?桃子姫様…貴女は一体何を心配して…」 「胡桃姫が…胡桃姫がね…」 「胡桃姫様ですと?胡桃姫様が如何されましたか?」 桃子姫は一部始終崇徳王に告白したのである。 「桃子姫様と胡桃姫様は邪霊餓狼の呪力の悪影響で…私が桃子姫様と胡桃姫様に手出しするのではと心配されたのですね…」 『ひょっとして近頃…胡桃姫様が極度に私の様子を心配されたのは…邪霊餓狼の呪力が主原因だったのか…』 崇徳王は胡桃姫が極度に自身を心配した理由を納得する。 「桃子姫様♪桃子姫様が不用意に危惧されなくても私なら大丈夫ですよ!」 崇徳王は桃子姫に満面の笑顔で断言したのである。 「私が邪霊餓狼の呪詛なんかで桃子姫様と胡桃姫様に手出ししませんからね♪最悪手出しするのなら私は私自身で自害する覚悟ですから!一安心しなされ♪」 桃子姫は満面の笑顔で断言する崇徳王に一安心する。 『崇徳王様…』 すると桃子姫は笑顔で…。 「崇徳王様♪」 「如何されましたか?桃子姫様…」 「崇徳王様♪私と一緒に…」 彼女は赤面する。 「天辺の露天風呂で私と混浴しないかしら?折角の機会だし♪」 「えっ!?」 『私が桃子姫様と混浴ですって!?』 桃子姫の衝撃的発言に崇徳王は困惑したのである。 「桃子姫様が…私みたいな人間なんかと混浴しても大丈夫なのですか?」 崇徳王は非常に困惑するものの…。一方の桃子姫は満面の笑顔で即答する。 「勿論私は大丈夫よ♪相手が崇徳王様なら一緒に混浴しても…胡桃姫には秘密にするからね♪」 「ですが混浴する相手が私なんかで本当に大丈夫でしょうか?」 崇徳王は極度に不安がったのである。 『私と桃子姫様が混浴する光景を胡桃姫様が目撃すれば…助平だって大騒ぎしそうですね…』 心配性の崇徳王に桃子姫は笑顔で断言する。 「崇徳王様だからこそ一緒に混浴したいのよ…遠慮しないでね♪崇徳王様♪」 「桃子姫様が平気なら一安心ですね…」 崇徳王と桃子姫は一息すると精霊故山の天辺へと到達出来…。二人は恐る恐る石造りの露天風呂にて混浴したのである。 『桃子姫様と混浴出来るなんて♪夢物語みたいですね♪胡桃姫様に目撃されたら大目玉でしょうが…』 崇徳王は桃子姫との混浴に内心大喜びする。すると桃子姫は恐る恐る崇徳王に近寄り始める。 「崇徳王様…」 彼女は力一杯崇徳王に密着したのである。 「桃子姫様!?突然如何されたのですか!?」 崇徳王は全裸の状態の彼女に密着され…。 『桃子姫様の素肌が…』 崇徳王は気恥ずかしくなる。桃子姫は表情が赤面…。 「崇徳王様…私は…私は崇徳王様が…」 桃子姫は一息した直後である。 「崇徳王様が大好きなの…」 桃子姫の一心不乱の恋心に一瞬膠着化するものの…。 「私だって桃子姫様が大好きですよ♪」 崇徳王は満面の笑顔で返答する。 「崇徳王様♪」 桃子姫は大喜びの様子であり涙腺から涙が零れ落ちる。 『私は人一倍福運だったわ…私にとって夜桜崇徳王様は運命の男性だったのかも知れないわね…』 大喜びした桃子姫であるが…。直後である。 「ぐっ!」 桃子姫は突発的に吐血し始める。 「えっ!?桃子姫様!?大丈夫ですか!?」 「崇徳王様…」 桃子姫は悲痛の表情で恐る恐る崇徳王を凝視する。 『桃子姫様…』 崇徳王は恐怖心からか身震いしたのである。 「桃子姫様…如何してこんな…」 一方の桃子姫は悲痛の表情で…。 『今迄秘密にしたのに…』 「崇徳王様…御免なさいね…私は…幼少期から…人一倍病弱だったのよ…」 桃子姫は落涙した表情で崇徳王に謝罪したのである。 「病弱ですと!?」 『如何して桃子姫様は秘密に…』 崇徳王は一瞬腹立たしくなるものの…。 『桃子姫様…』 桃子姫の表情を直視し続けると悲痛に感じるのか沈黙したのである。 「私は疫病で…近頃吐血が増悪しちゃったのよね…」 「疫病ですか…桃子姫様にとっては非常に辛苦かも知れませんが…胡桃姫様には疫病である事実を相談されなかったのですか?」 崇徳王は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。 「胡桃姫にも相談しなかったのよ…」 「如何して彼女に相談しなかったのですか?」 桃子姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。 「私が疫病神だって…胡桃姫に毛嫌いされたくなかったからよ…」 「ですが即刻胡桃姫様に相談しなければ!胡桃姫様が疫病を理由に桃子姫様を疫病神なんて毛嫌いしませんよ…」 崇徳王は必死に桃子姫に説得するものの…。 「私は疫病神だって毛嫌いされるわよ…」 桃子姫は納得しない。 「はぁ…」 『桃子姫様は人一倍頑固ですね…彼女を説得するのは不可能なのか…』 内心桃子姫を人一倍頑固であると感じる。 「私は恐らく…長生き出来ないでしょうね…」 「桃子姫様…」 すると桃子姫は崇徳王に熱願する。 「私は赤ちゃんを出産したいのよ…」 「なっ!?出産ですって!?」 崇徳王は桃子姫の熱願に驚愕したのである。 「こんなにも病弱なのに出産なんて桃子姫様は正気なのですか!?」 崇徳王は内心桃子姫の願望に困惑する。 『桃子姫様は出産以前に自身の生命が危険かも知れないのに…』 一方の彼女は本気の様子であり即答したのである。 「崇徳王様…勿論…私は正気よ…私自身長生き出来ないからね…」 「桃子姫様…」 崇徳王は混乱するものの…。 『私が説得しても…桃子姫様は納得されないでしょうね…』 「承知しました…桃子姫様♪」 崇徳王は不本意であるが笑顔で彼女の願望に承諾したのである。崇徳王は笑顔で承諾するのだが…。内心では非常に心苦しくなる。 『ですが桃子姫様が病弱だったなんて…桃子姫様は長生き出来ないのか?』 崇徳王は長生き出来ない桃子姫に涙腺から涙が零れ落ちる。
第七話
忍者部隊 自然界の悪霊とされる邪霊餓狼との戦闘から五日後の真昼…。 「はぁ…」 胡桃姫は気分転換に西国の村里郊外を一人で散歩したのである。 『最近は憂鬱ね…』 胡桃姫は崇徳王の様子が非常に気になり異変が発生しないか四六時中警戒する。 「はぁ…」 『一日中疲れちゃうわね…』 近頃は夜中も一睡も出来ず不眠症に苦悩したのである。 『崇徳王様…最近は崇徳王様の様子が気になって夜中も眠れないのよね…』 今後の生活が不安に感じられ…。如何するべきなのか当惑したのである。 『今後は如何しましょう…』 胡桃姫は自宅に戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 『人気だわ…』 周辺の自然林より無数の人気を感じる。 『一体…何かしら?』 胡桃姫は警戒した様子で恐る恐る疾走したのである。 「即刻家屋敷に戻らないと…」 『崇徳王様と桃子姫姉ちゃんが私を心配しちゃうわよね…』 彼女は必死に全力疾走するのだが…。背後より何者かが鉄砲で発砲したのである。背後からの銃撃により一発の銃弾が胡桃姫の右足に命中する。 「ぎゃっ!」 胡桃姫は右足を銃撃され…。地面に横たわったのである。 「ぐっ!」 地面には大量の鮮血が流れ出る。 『一体何が…銃弾かしら?』 すると地面に横たわった状態の彼女の周辺より…。 『彼等は…何者なの?』 頭巾と黒服の無頼漢達が地面に横たわった状態の胡桃姫の周辺を包囲したのである。 「如何やら此奴は西国の女子みたいだな♪」 「こんな片田舎の村里で天女みたいな可愛らしい女子に遭遇出来るなんて♪俺達は幸運だな♪」 「即刻拠点に戻ろうぜ♪此奴の美貌なら高値で密売出来るぞ♪」 胡桃姫は重苦しい様子で…。 「あんた達…一体何者なのよ?」 『高値で密売って…私を如何するのかしら?』 重苦しい様子で問い掛ける胡桃姫に彼等は冷笑した様子で即答したのである。 「俺達が何者かって?俺達は北軍最強の少数精鋭…忍者部隊だよ♪」 忍者とは基本的に諜報活動は勿論…。要人の暗殺が主体であるが北国の忍者部隊は戦闘に特化された戦闘集団であり装備も通常の足軽集団をも上回る。 『彼等は忍者部隊ですって?』 胡桃姫は再度彼等に問い掛ける。 「如何して北軍の忍者部隊が…武陵桃源の西国なんかに…あんた達は私を…如何するのよ?」 火縄銃を所持する忍者が胡桃姫の問い掛けに返答したのである。 「如何するかって?俺達はあんたみたいな容姿端麗の小娘を連行して…異国に身売りするのさ♪」 「えっ…」 『私を…身売りですって…』 身売りの一言に胡桃姫は畏怖し始める。 「私を…異国に身売りですって?如何して私なんかを異国に…」 近年北国は東国との戦闘で大敗北…。戦力が大幅に低下したのである。彼等は低下した戦力の回復を名目に各村落の女子達を異国の商人達に高値で密売…。大量の武器やら食糧品を交換したのである。 「俺達に遭遇しちまったあんたは不運だったのさ♪悪いが北国を救済するにはあんたの犠牲が必要不可欠なのさ♪」 「えっ…北国の…救済ですって?」 『私を…高値で密売して…私は異国に…』 胡桃姫は絶望する。 「安心しろ…本拠地に戻れば薬草で治療するからよ♪何しろあんたは正真正銘天女だ…こんな大怪我した状態では異国に身売りさせられないからな♪」 「俺達は姉ちゃんには手出ししないからな…安心しろよ♪」 刀剣を所持した忍者が地面に横たわった状態の胡桃姫に近寄る。 「兎にも角にも…あんたは安眠しな♪こんな場所で大騒ぎされちまうと面倒だからな♪一先ずは…」 「ぐっ!」 刀剣の柄頭で彼女の背中を打撃すると胡桃姫は気絶したのである。 「小娘は気絶しただろうか?」 彼等は胡桃姫が気絶したか確認する。 「大丈夫そうだ…如何やら小娘は気絶したみたいだな…」 「俺達は本拠地に戻ろうぜ…近隣の村人達に遭遇すると非常に面倒臭いからな…」 北軍の忍者部隊は気絶した胡桃姫を背負った状態で西国の郊外から一目散に撤退したのである。
第八話
蛮声 北軍の忍者部隊が撤退した同時刻…。散歩から戻った崇徳王は家屋敷の居室へと移動したのである。 「崇徳王様?散歩から戻ったのね…」 「桃子姫様?」 崇徳王は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。 「何かしら?崇徳王様?」 「胡桃姫様は如何されましたか?」 「えっ?胡桃姫ですって?胡桃姫なら先程散歩に出掛けたわよ…」 「胡桃姫様は散歩だったのですね…」 すると桃子姫が恐る恐る…。 「如何しちゃったの?崇徳王様?崇徳王様が胡桃姫の居場所を気にするなんて…」 「別に…単純に胡桃姫様は如何されたのかなって…」 崇徳王は苦笑いしたのである。 「彼女の様子が気になっただけですよ…」 崇徳王は苦笑いした様子で即座に居室から退室する。 『先程から胸騒ぎを感じるな…方角は北方みたいだが?』 崇徳王は北方の山里から不吉の気配を複数感じる。 『北方では一体何が発生したのか?気になるな…』 複数の気配が気になった崇徳王は即座に北方の方角へと移動したのである。北方の方角へと通ずる山道へと到達…。 「なっ!?」 山道の地面より血痕を発見したのである。 『こんな道端に血痕なんて…』 「誰かが大怪我したのだろうか?」 直後…。 「ん!?」 周辺の自然林より複数の殺気を感じる。 『殺気だと!?』 崇徳王は複数の殺気に警戒したのである。 『殺気の正体は恐らく人間だな…相手は匪賊達だろうか?』 殺気の正体は人間であり匪賊達であると察知する。数秒後…。 「ん?」 突如として八人ものとある奇怪集団が出現したのである。 「貴様達は容姿から判断して…匪賊達か?」 正体不明の奇怪集団は崇徳王を包囲する。 『随分と統率された身動きだな…ひょっとして彼等は…』 奇怪集団の彼等は頭部に頭巾が確認出来…。黒服の装束集団であり彼等は忍者集団であると認識したのである。 『装束から判断して…彼等は敵国の忍者部隊みたいだな…』 崇徳王は彼等に睥睨した表情で…。 「貴様達は…一体何者だ?」 八人の忍者集団は崇徳王の問い掛けに返答する。 「俺達は北軍最強の忍者部隊だよ…俺達が匪賊とは失礼だな♪」 「貴様は東国の軍神…夜桜崇徳王だな?こんな場所で東国の軍神と遭遇しちまうとは…奇遇だな…」 崇徳王は再度忍者部隊に問い掛ける。 「北軍の忍者部隊が武陵桃源の西国で一体何を?」 すると鎖鎌を所持する忍者が失笑した様子で…。 「事情を知りたければ…俺達を仕留めるのだな♪軍神の崇徳王よ…」 「無論…貴様一人で俺達を仕留められるかな?」 失笑する彼等に崇徳王は力強く睥睨したのである。 「忍者風情が…」 崇徳王は非常に彼等の態度に腹立たしくなる。 「止むを得ないな…であれば実力行使だ…」 即座に天道金剛石の刀剣を抜刀し始める。 「崇徳王は刀剣を抜刀しやがったか…此方も止むを得ないな…」 崇徳王が刀剣を抜刀すると忍者部隊は警戒したのである。 「狼狽えるな!忍者は忍者でも…俺達北軍の忍者部隊は其処等の忍者集団とは別格なのだぞ!」 大柄の忍者が自分達を別格であると豪語する。 「全員で軍神の夜桜崇徳王を打っ殺せ!」 「仕方ないか…貴様が実力行使であれば…此方も実力行使だ…」 「各自…分散するぞ…」 彼等は神速の身動きで周囲の自然林へと雲隠れしたのである。 「奴等は…雲隠れしたか…」 『忍者らしい行動だが…』 一方の崇徳王は完全に四面楚歌…。圧倒的に不利の状態だったのである。 『四面楚歌だな…』 崇徳王は忍者部隊の攻撃に警戒する。 『奴等は?』 警戒してより数秒後である。雲隠れした忍者部隊は四方八方の自然林から鋼鉄の手裏剣を投擲し始め…。四方八方から崇徳王に攻撃を仕掛けたのである。 『四方八方から手裏剣か!?』 崇徳王は即座に天道金剛石の刀剣で鋼鉄の手裏剣を斬撃…。鋼鉄の手裏剣は左右に両断されたのである。 「なっ!?崇徳王の野郎は鋼鉄の手裏剣を両断しやがったぞ!」 忍者部隊は刀剣で手裏剣を両断した崇徳王に驚愕する。 「各地の噂話では…崇徳王は百人力の兵卒と豪語されるが…」 『如何やら此奴の噂話は本当みたいだな…』 崇徳王の実力に忍者部隊は一瞬畏怖したのである。すると直後…。崇徳王に異変が発生したのである。 「ぐっ!」 『一体何が?全身から熱気が…』 崇徳王は体内の極度の熱気により地面に横たわる。 「ん?如何した?崇徳王の様子が可笑しいぞ…」 「身動きしなくなったぞ♪崇徳王を仕留められる絶好機だな♪」 彼等は崇徳王を殺害出来る絶好機に大喜びする。 「崇徳王の野郎は一体何を?恐怖心で可笑しくなったのか?」 一方地面に横たわった状態の崇徳王であるが…。 『夜桜崇徳王…夜桜崇徳王よ!』 『誰だ?一体誰なのだ?誰かが…私の脳裏に…』 何者かの蛮声が彼自身の脳裏に響き渡る。 『夜桜崇徳王よ…周囲の者達を…死滅させろ…周囲の者達を死滅させるのだ…貴様自身の呪力で…卑劣なる人間達を…完膚なきまでに死滅させるのだ…貴様の呪力で周囲の者達を惨殺せよ…完膚なきまでに奴等を惨殺するのだ…夜桜崇徳王…』 崇徳王は自身の脳裏に響き渡る蛮声に返答する。 『貴様は一体何者だ?如何して私の脳裏に…』 崇徳王が蛮声に問い掛けると蛮声は即答したのである。 『私が何者だって?私は…先日貴様によって惨殺された…悪霊…邪霊餓狼だよ…』 蛮声の正体とは先日退治した野良犬の悪霊…。邪霊餓狼の呪力だったのである。 『貴様は…邪霊餓狼だと!?』 崇徳王は蛮声の正体が邪霊餓狼の呪力である事実に驚愕する。 『貴様はこんな場所で死にたくなければ…一人でも大勢の人間達を殺害するのだ…軍神の貴様なら出来るよな?夜桜崇徳王…死にたくなければ人間達を完膚なきまでに惨殺するのだ…貴様とてこんな場所では死にたくないだろう?軍神…崇徳王よ…』 問い掛けられた崇徳王は沈黙し続けたのである。 『貴様なら出来るぞ…死滅させろ…大勢の人間達を…自身の呪力で死滅させるのだ…貴様なら出来る…夜桜崇徳王よ…』 直後…。邪霊餓狼の呪力の影響からか血紅色の霊力が地面に横たわった状態の崇徳王の肉体を覆い包んだのである。 「ん!?彼奴!?」 「なっ!?一体何が…崇徳王の野郎は妖怪化したのか!?」 「崇徳王は本物の物の怪なのか!?」 崇徳王の身体髪膚を覆い包んだ霊力は肉眼でも直視出来る。崇徳王の体内から発生した血紅色の霊力に北軍の忍者達は畏怖したのである。 「此奴は危険だ!全員!撤退するぞ!即刻撤退だ!」 自分達では対処出来ないと察知した大柄の忍者は周囲の忍者達に大声で撤退を合図するのだが…。彼等に異変が発生する。 「なっ!?」 突如として七人の忍者達の頭部が肥大化し始めたのである。彼等の頭部が肥大化した数秒後…。 「ぎゃっ!」 肥大化した頭部が呪力により破裂したのである。周辺の地面には大量の鮮血と肉片が飛散する。 「大丈夫か!?返事しろ!」 小柄の忍者が七人の仲間達に問い掛けるものの…。誰一人として仲間達からの返事は皆無である。 『一体何が発生した?』 「何故…誰も返事しない?」 同時刻…。 『崇徳王…外部の奴等を全員殺害せよ…一人だ…一人だけだぞ…極悪非道の人間を完膚なきまでに殺害するのだ…』 崇徳王の脳裏では邪霊餓狼の蛮声が只管人間達の殺害を指示し続ける。 『軍神崇徳王よ…奴等を殺さなければ貴様が惨殺されるのだぞ…殺害せよ…殺害せよ…夜桜崇徳王…貴様の呪力で大勢の人間達を完膚なきまでに呪殺するのだ…』 沈黙し続けた崇徳王であるが…。大声で怒号したのである。 『沈黙しやがれ!極悪非道の悪霊風情が!私に命令するな!』 『貴様は…私に反抗するとは…貴様は扱い辛いな…夜桜崇徳王…一筋縄では不可能であるな…』 崇徳王が心中で怒号すると邪霊餓狼の蛮声が消失したのである。同時に崇徳王の体内から発生した血紅色の霊力も消滅する。 『先程の超常現象は一体…』 崇徳王は正気に戻ったのである。 『私は邪霊餓狼の呪力に…誘導されたのか?』 一方唯一無事だった小柄の忍者は怪死した忍者部隊の頭領の死骸を直視…。 「ひっ!」 極度の恐怖心からか全身が膠着したのである。 『如何してこんな状態に…』 「一体何が発生した!?」 背後より何者かが自身の背中に接触する。 「うわっ!」 背後に存在するのは誰であろう崇徳王だったのである。 「ひっ!其方は!?」 小柄の忍者は崇徳王の存在に畏怖する。 「其方は夜桜崇徳王!?如何して其方がこんな場所に!?」 崇徳王は小柄の忍者を睥睨したのである。 「貴様は…私に殺されたくなければ此処で何が発生したのか洗い浚い説明しろ…返答次第では貴様を斬首するぞ…」 崇徳王は小柄の忍者に恫喝…。一方の小柄の忍者は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。 「ひっ!」 畏怖した小柄の忍者は小声で返答する。 「俺にも…何が何やら不明だよ…突然仲間達の悲鳴が…」 「悲鳴だと?何故…貴様の仲間達が悲鳴を?」 「何故って俺が知りたいよ…物の怪の仕業だろうか?」 「物の怪だって?」 崇徳王は頭部の破裂した忍者の遺体を直視したのである。 「えっ…」 『如何してこんな状態に?一体此処で何が…』 崇徳王は目前の惨劇に身震いし始め…。 『此奴はひょっとして…邪霊餓狼の呪力なのか…』 邪霊餓狼の呪力に戦慄したのである。 「邪霊餓狼の…呪力なのか?」 崇徳王は身震いし始める。 「えっ?崇徳王?邪霊餓狼って?」 小柄の忍者は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「ひょっとすると今後…」 『邪霊餓狼の呪力が発動すれば桃子姫様は勿論…胡桃姫様を…私が彼女達を呪力で呪殺するかも知れないのか…』 崇徳王は想像するだけで自身の呪力に恐怖したのである。 『逃げられそうだな…』 一方小柄の忍者は恐る恐る周囲を警戒…。 「俺は…退避して…」 小柄の忍者は逃走し始める。 「なっ!?貴様!?」 崇徳王は逃走する小柄の忍者を即座に捕捉したのである。 「貴様!?死にたくなければ白状しろ…」 「ひっ!殺さないで!」 「貴様達は一体何が目的で西国の村里に潜入したのだ!?返答次第では貴様を惨殺するぞ!」 問い掛けられた小柄の忍者は恐る恐る…。 「近頃北国は東軍との合戦で戦力を消耗したから各地の女子達を連行して…異国に身売りさせ…大儲けする予定だったのさ…」 小柄の忍者は北国の悪事を洗い浚い口述したのである。 『か弱き女性達を異国の商人達に高値で身売りだと…』 小柄の忍者の説明から崇徳王は極度の怒気によって全身が身震いし始める。 「貴様…か弱き女性達を異国の商人達なんかに身売りさせるとは言語道断だな!」 崇徳王は睥睨した表情で再度…。 「ひょっとして貴様達は西国の村里でも若齢の女性を本拠地に連行したのか?」 小柄の忍者は恐る恐る返答する。 「西国では橙色の…着物姿の小娘を…一人だけ…」 「橙色の着物姿の小娘って…」 崇徳王の脳裏には胡桃姫以外には該当しない。 『ひょっとして胡桃姫様か…彼女以外には…』 先程から感じる崇徳王の胸騒ぎの正体が判明したのである。 「貴様達によって連行された…橙色の着物姿の女性は無事だろうな?」 「多分…小娘は大丈夫だ…左足を火縄銃で怪我しちまったが…」 「左足を怪我だと!?貴様!女性に大怪我させたのか!?」 崇徳王は小柄の忍者に怒号すると小柄の忍者の頭部を力一杯殴打…。 「ぎゃっ!」 頭部を殴打された小柄の忍者は地面に横たわったのである。 「ぐっ…小娘は多分大丈夫だ…死んじまったら異国に身売り出来なくなるから…小娘は殺さない程度に…」 すると崇徳王は無表情で…。 「最悪の場合…橙色の着物姿の女性が失血死すれば…今度こそ貴様を打っ殺すから覚悟しろよ…絶対だからな!逃亡しても私は呪力で未来永劫貴様を呪詛し続けるからな!」 「ひゃっ!」 小柄の忍者は極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。崇徳王は再度小柄の忍者に問い掛ける。 「貴様達の本拠地は?貴様等の悪巧みは無視出来ないからな…」 「俺達の…本拠地は…」 小柄の忍者は洗い浚い自分達の本拠地を告白する。
第九話
救出 同時刻…。北国の国境に位置する忍者部隊の本拠地では彼等に連行された胡桃姫が地下壕の牢獄に閉じ込められる。 「えっ…」 胡桃姫は気絶した状態であったが恐る恐る目覚める。 「私は…」 恐る恐る目覚めると周囲には五人の若齢の女性達が確認出来る。すると一人の村娘が恐る恐る…。 「貴女…大丈夫かしら?如何やら貴女も悪者の忍者達に連行されたのね…」 「えっ?忍者達ですって?」 胡桃姫は周囲の様子を直視したのである。 「あんた達も悪者の忍者に連行されたの?」 胡桃姫は恐る恐る周囲の者達に問い掛ける。 「勿論よ…私は散歩中に奴等に遭遇しちゃって…」 「私も北国の忍者達に連行されちゃったの…不運よね…」 村娘の涙腺から涙が零れ落ちる。隅っこの少女が恐る恐る胡桃姫の左足を直視…。 「姉ちゃん…大丈夫?左足…大怪我しちゃったみたいね…」 「大丈夫よ…火縄銃で銃撃されちゃったけど単なる掠り傷だから…私は平気よ♪」 胡桃姫は満面の笑顔で返答する。 「掠り傷なのかな?」 彼女の着物の左足の足先は血塗れだったのである。 「本当に大丈夫なの?」 「大分出血したみたいね…」 周囲の者達は胡桃姫を心配する。 「心配しなくても私なら大丈夫よ♪あんた達は心配性なのね♪」 胡桃姫は只管満面の笑顔で大丈夫であると断言したのである。すると高身長の村娘が不安そうな表情で…。 「私達…本当に異国なんかに身売りされちゃうのかな?村里に戻りたいよ…」 高身長の村娘は涙腺から涙が零れ落ちる。 「私も…村里に戻りたいわ…」 「父ちゃん…母ちゃん…私はこんな場所で死にたくないよ…」 「私…異国なんかに身売りされたくないよ…」 彼女達の不安感に影響されたのか胡桃姫も不安が増大化したのである。 『私だって…私だって!西国の村里に戻りたいわよ…桃子姫姉ちゃん…崇徳王様…私は異国なんかに身売りされたくないよ…』 彼女の涙腺より涙が零れ落ちる。すると直後である。 「貴様一体!?ぐっ!」 「うわっ!」 外部より大勢の見張り役達の悲鳴が響き渡る。 「えっ!?一体何が?」 「如何しちゃったのかしら?」 「大騒ぎみたいだけど…何事かしら?」 彼女達は外部で何が発生したのか気になる。数秒後…。 「皆様方♪大丈夫ですよ!悪党達は私が退治しましたからね♪」 頑強に構築された鉄扉から一人の武士が参上したのである。 「えっ!?あんたは…」 彼女達は驚愕する。突如として鉄扉から出現した武士とは誰であろう東国の軍神…。夜桜崇徳王だったのである。 「あんたは夜桜崇徳王様…」 崇徳王の参上に胡桃姫は一安心した反面…。涙腺より涙が零れ落ちる。 「安心しなされ♪何時でも脱出出来ますよ♪」 崇徳王は天道金剛石の刀剣で牢獄の鉄格子を破壊する。 「あんたって…男前ね♪」 「夢物語みたいだわ♪現実なの?」 「私達♪村里に戻れるのね♪」 胡桃姫以外の女性達は赤面し始め…。彼に見惚れる。 『私が男前ですと♪』 崇徳王は内心大喜びしたのである。すると胡桃姫は小声で…。 「崇徳王様…」 「胡桃姫様…」 『左足を…山道で発見した血痕は胡桃姫様の血痕だったのですね…』 胡桃姫は左足を大怪我した状態であり着物の足先は血塗れの状態だったのである。 「胡桃姫様…即刻家屋敷に戻って治療しなければ…」 胡桃姫は歩行が困難であり崇徳王が彼女を背負った状態で移動する。五人の女性達も警戒した様子で恐る恐る崇徳王の背後を追尾したのである。 「皆様方…油断大敵ですよ…悪党達の悪巧みは無事に阻止出来ましたが…彼等は全員気絶させた状態ですからね…」 崇徳王は邪霊餓狼の命令に服従したくなかったのか今回ばかりは憎悪すべき敵兵達であっても誰一人として殺害せず…。牢獄の彼女達を救出したのである。連行された女性達は無事に忍者部隊の本拠地から脱出すると各自村里へと帰郷する。一方の崇徳王と胡桃姫は帰宅中…。 「崇徳王様…」 「如何されましたか?胡桃姫様?」 「感謝するわね♪」 胡桃姫は満面の笑顔で崇徳王に謝礼したのである。 『胡桃姫様…』 「胡桃姫様が無事なのが何よりですよ♪」 崇徳王は笑顔で返答する。 『今回の…崇徳王様…』 普段は一方的に崇徳王を助平と揶揄する胡桃姫であるが…。 『普段も男前だけど♪今回は普段の崇徳王様よりも何万倍も男前だったわよ♪』 今回の崇徳王は普段よりも男前であると胡桃姫は感じる。
第十話
覚悟 世界暦四千五百七年五月十三日の出来事である。真夜中の深夜帯…。南国の南軍侍大将と北国の北軍侍大将が武陵桃源の西国で密談する。 「此処が武陵桃源の西国ですか…」 「西国とは…殺風景の片田舎みたいですね…」 両者は西国の農村にて今後の動向を計画したのである。 「こんなにも物静かな武陵桃源の西国なんかで…無尽蔵の天道金剛石が確保出来るのでしょうか?」 南国と北国は本来水と油の関係であり両勢力は敵対関係であったものの…。西国の地表に沈黙する無尽蔵の天道金剛石の確保と両勢力にとって共通の宿敵である東国の打倒を主目的に利害が一致する。 「西国総攻撃は翌日の真夜中でしたね…」 「こんなにも片田舎の村里ですからね…両軍の戦力を結集すれば翌朝には西国の全域を占拠出来るでしょう…」 「面白くなりますな♪」 彼等は各自の本国へと戻ったのである。彼等が撤収した翌日の真昼…。妊娠により腹部が肥大化した桃子姫は非常に重苦しい様子だったのである。彼女は自宅の居室で寝転び続ける。 「桃子姫姉ちゃん?大丈夫?」 胡桃姫は一日中重苦しく寝転び続ける桃子姫に恐る恐る近寄る。 「胡桃姫…私なら大丈夫よ♪貴女は気にしなくても大丈夫だからね…」 胡桃姫は笑顔で…。 「桃子姫姉ちゃん♪桃子姫姉ちゃんも…数日後には一児の母親なのね…」 「御免なさいね…胡桃姫…私は…正直足手纏いだよね?」 近頃の桃子姫は妊娠によって只管寝転んだ状態が習慣化する。 「足手纏いなんて…気にしないで♪桃子姫姉ちゃん♪」 胡桃姫は満面の笑顔で返答したのである。 「無事に赤ちゃんを出産出来たら…胡桃姫と崇徳王様に精一杯恩返しするから♪」 「桃子姫姉ちゃん…」 今現在でこそ胡桃姫は笑顔で接触するのだが桃子姫の妊娠が発覚した当初は猛反発…。当事者である崇徳王にこっ酷く怒号したのである。桃子姫との会話から数分後…。胡桃姫は家屋敷の庭園にて崇徳王に恐る恐る接触する。 「崇徳王様…」 「えっ…胡桃姫様…」 一方の崇徳王も恐る恐る返答したのである。 「胡桃姫様…如何されましたか?」 二人は非常に気難しい雰囲気であったものの…。 「崇徳王様…私は崇徳王様に頭ごなしに怒号しちゃって御免なさいね…私は…感情的だったわ…」 胡桃姫は恐る恐る崇徳王に謝罪したのである。 「私は崇徳王様に…崇徳王様は何も悪くないのにね…」 胡桃姫に謝罪されたものの…。 「えっ…」 『揉め事の発端である私自身が…何も悪くないのだろうか?』 崇徳王は苦笑いしたのである。二人は一度一息する。 「胡桃姫様…私なら大丈夫ですよ♪」 崇徳王は笑顔で返答したのである。 「私は気にしませんから…本来であれば今回の揉め事の発端は胡桃姫様に秘密にした私こそが加害者であり…主原因なのですから…」 「崇徳王様…」 すると胡桃姫は真剣そうな表情で告白する。 「正直私は…私達は悪霊の邪霊餓狼に呪詛された崇徳王様に殺されるかも知れないって…毎日が息苦しい雰囲気だったのよね…」 「胡桃姫様…」 胡桃姫は一息すると笑顔で…。 「崇徳王様が悪霊を征伐してから毎日の生活が息苦しい雰囲気だったけどね♪助平だけど崇徳王様は純粋に誰よりも人一倍温厚篤実で紳士的だったわ…私は不必要に悲観視し過ぎちゃったみたいね♪」 「えっ…」 『胡桃姫様…私が助平なのは…』 崇徳王は胡桃姫の助平発言に苦笑いしたのである。胡桃姫に助平と揶揄された崇徳王であるが…。笑顔で返答したのである。 「別に私自身は気にしませんし♪最悪…私が桃子姫様と胡桃姫様に手出ししそうになれば私は私自身で自害する覚悟ですからね♪」 「崇徳王様♪」 胡桃姫は崇徳王の様子に一安心する。すると数秒後である。 「胡桃姫様…大変心苦しいのですが…」 「えっ…崇徳王様?何が心苦しいのよ?」 崇徳王は沈黙し始める。 『崇徳王様…如何しちゃったのかしら?如何して何も喋らないのよ…』 胡桃姫は無言の雰囲気に気まずく感じる。 「崇徳王様?」 一方の崇徳王は何も喋れず数分間沈黙するのだが…。 「胡桃姫様…」 「えっ…何よ?崇徳王様…」 崇徳王は突然涙腺から涙が溢れ出たのである。 「崇徳王様!?突然如何しちゃったのよ!?」 落涙し始めた崇徳王に胡桃姫は非常に困惑する。 「胡桃姫様…桃子姫様の秘密なのですが…」 「えっ?桃子姫姉ちゃんの秘密ですって?何かしら?」 「桃子姫様は…」 崇徳王は桃子姫が赤子を出産したかった本当の理由を一部始終告白したのである。 「えっ…桃子姫姉ちゃんが…不治の疫病に…」 胡桃姫は衝撃的事実に絶句し始め…。全身が膠着化したのである。 「桃子姫姉ちゃんは今迄に…不治の疫病と闘病中だったのね…」 すると胡桃姫は一時的に沈黙する。沈黙から数秒間が経過…。 「はぁ…やっぱり桃子姫姉ちゃんは病気だったのね…」 胡桃姫は平常心に戻ったのである。 「胡桃姫様?」 「近頃…桃子姫姉ちゃんの顔色が病人みたいな様子だったから…」 胡桃姫は涙腺から涙が零れ落ちる。 「長生き出来ないのよね…桃子姫姉ちゃん…」 崇徳王は胡桃姫の発言に小声で返答する。 「非常に残念ですが…桃子姫様は…」 涙腺から涙が零れ落ちる胡桃姫であるものの彼女は笑顔で…。 「私達は精一杯桃子姫姉ちゃんに助力しないと…」 「胡桃姫様…」 崇徳王は胡桃姫の前向きな姿勢に一安心したのである。 「勿論ですとも…胡桃姫様…」 胡桃姫と崇徳王は約束…。誓い合ったのである。
第十一話
開戦直前 同時刻…。南軍と北軍の軍勢が西国の山奥にて合流する。総兵力は合計七百人規模であり過疎地の西国を占拠するには過剰戦力である。 「西国の国境に到達したぞ!総攻撃は本日の真夜中に決行する!」 「翌日の早朝には確実に西国全土を占拠するからな…全軍覚悟せよ!」 両陣営の侍大将が各兵卒達に伝播させる。 「翌日の早朝には西国全土を占拠出来るのか?」 「西国は過疎地だからな…村内で遭遇するとすれば非武装の農民とか♪」 「相手が非武装の農民だったら俺達でも楽勝だけどな♪」 「手前勝手の殺戮であるが…普段の戦闘よりは一方的だろうよ…」 両陣営の兵卒達は雑談し始めたのである。 「貴様達!」 南国の総大将が鬼神の形相で断言する。 「間違っても非武装の農民達は勿論…無抵抗の老人達やら女子達には手出しするなよ!極力村民達への被害は最小限に努力すべし!」 意外にも南国は残虐非道として知られる北国の軍勢とは対象的に人道的である。南国では略奪やら非力の村人達への虐殺は厳禁…。重罪として扱われる。 「えっ…」 「意外だな…」 南国の総大将の発言に北国の総大将は勿論…。周囲の兵卒達は一瞬沈黙する。すると一人の足軽が恐る恐る…。 「近頃南国の匪賊達の噂話だったかな?何やら東国出身者の夜桜崇徳王って若武者と遭遇しちまったらしいが…」 南国の匪賊達の噂話により両陣営の兵卒達は突如として戦慄する。 「東国の夜桜崇徳王だって!?本当なのか!?」 「夜桜崇徳王って東軍の最上級武士だったよな!?如何して東国出身者の夜桜崇徳王が過疎地の西国なんかに?」 崇徳王は各勢力から存在を危惧される剣客の有名人であり各勢力の武将達は勿論…。各勢力の領主達からも極悪非道の軍神として戦慄されたのである。 「所詮噂話であるからな…常識的にこんな過疎地に剣客の最上級武士が移住するなんて面白くない冗談だな…」 「はぁ…崇徳王の野郎が西国に移住なんて戦慄させるなよ…」 「一瞬冷や冷やしちまったよ…俺はこんな場所で死にたくないぜ…」 両陣営の総大将達が鬼神の形相で兵卒達に怒号する。 「貴様達!此処は戦場なのだぞ!沈黙せよ…」 両陣営の兵卒達は即座に沈黙したのである。 「今夜の総攻撃は非常に容易いかも知れないが…絶対に楽観視するなよ!主戦場が過疎地だったとしても油断大敵であるからな…」 「其処等の農民とて屈強の武具を所持すれば脅威だ…油断は出来ないぞ…」 兵卒達が沈黙すると暗闇の森林浴から風音と川音が響き渡る。
第十二話
夜襲 同日の真夜中の時間帯である。崇徳王は家屋敷の庭園にて真夜中の夜空を眺望するのだが…。 『胸騒ぎだろうか?』 崇徳王は山奥から極度の胸騒ぎを感じる。 「嵐の前の静けさか…」 『山奥から無数の気配を感じるぞ…非常に気味悪いな…』 すると崇徳王の背後より胡桃姫が恐る恐る近寄る。 「崇徳王様?」 「うわっ!」 崇徳王は驚愕する。 「私よ…崇徳王様…吃驚しなくても…崇徳王様は大袈裟ね…」 「誰かと思いきや…胡桃姫様でしたか…失礼しました…」 胡桃姫は不安そうな表情で恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「崇徳王様…大丈夫なの?」 「えっ?大丈夫って何が?」 「崇徳王様の表情が非常に重苦しいから…」 「えっ…」 『私の表情が…重苦しいですと?』 崇徳王は苦笑いした表情で返答したのである。 「私の表情が重苦しかったですかね?失礼しました♪」 崇徳王は満面の笑顔で返答するものの…。表情が険悪化する。 「ですが胡桃姫様…私は先程から極度の胸騒ぎを感じるのです…」 「胸騒ぎですって?ひょっとして今回も悪霊の気配とか!?」 崇徳王は一息したのである。 「恐らくですが大勢の人間達の…殺気でしょうか…」 近辺の山奥より大勢の殺気を感じる。 「前回みたいに悪霊の気配とは完全に別物ですね…」 「人間達の殺気ですって?」 胡桃姫は不安そうな表情で恐る恐る…。 「ひょっとしてこんな真夜中に夜戦とか?」 胡桃姫の発言に崇徳王は恐る恐る返答する。 「断言は出来ませんが…恐らくは夜戦かも知れませんね…」 「武陵桃源の西国で夜戦なんて傍迷惑だわ…如何にか出来ないのかしら?」 すると崇徳王は真剣そうな表情で発言したのである。 「胡桃姫様…私達は即刻家屋敷から脱出しなければ…家屋敷に長居し続けるのは危険かも知れません…」 「えっ!?家屋敷から脱出ですって!?崇徳王様!?」 胡桃姫は崇徳王の発言に驚愕する。 「山奥から不穏の気配を多数感じるのです…ひょっとすると今回も一大事かも知れません!胡桃姫様…即刻家屋敷から脱出しましょう!」 「脱出って…崇徳王様?」 胡桃姫は突然の崇徳王の指示に困惑したのである。 「桃子姫姉ちゃんは妊娠中で寝転んだ状態なのよ…突然家屋敷から脱出するなんて無茶よ…」 すると二人の背後より桃子姫は重苦しい表情で近寄る。 「二人とも…」 崇徳王と胡桃姫は背後の桃子姫に反応する。 「二人とも…私なら…大丈夫よ…私は大丈夫だから…」 「桃子姫姉ちゃん!?」 「私でも徒歩だけなら自力で出来るわ…二人とも私を心配しないで…」 桃子姫は息苦しい様子であり自力で出歩くのは非常に困難の状態である。 「桃子姫姉ちゃん…無理しないで!桃子姫姉ちゃんには…赤ちゃんが…」 「私は足手纏いだからこそ…徒歩だけでも自力で…」 桃子姫は断言する。 「桃子姫様…承知しました…」 崇徳王は承諾したのである。 「桃子姫様も即刻私達と一緒に家屋敷から脱出しましょう…」 すると突然…。南方の山奥より無数の大砲の筒音と同時に村人達の阿鼻叫喚が西国全域に響き渡る。 「村人達の悲鳴だわ…」 「爆発音かしら!?」 桃子姫と胡桃姫は村人達の阿鼻叫喚と爆発音に戦慄したのである。 「一触即発ですね…桃子姫様!胡桃姫様!即刻家屋敷から脱出しましょう!」 崇徳王は敵軍の刺客に警戒…。恐る恐る自宅の玄関口から脱出したのである。外部は村人達の鮮血やら肉片が散乱する。 「きゃっ!」 「流血だわ!」 前代未聞の光景に桃子姫と胡桃姫は戦慄したのである。 「畜生…」 崇徳王は外部の光景から東国での従軍時代を想起する。 『武陵桃源の西国が血みどろの戦場に…』 村道では大勢の村人達が一目散に逃走したのである。 「桃子姫様!胡桃姫様!敵襲です!」 すると南方の山奥より大勢の鎧兜の兵卒達が西国の麦畑へと進撃する。 「二人とも!即刻精霊故山に避難するのですよ!」 崇徳王は一触即発の緊急事態に大声で背後の二人に脱出を指示したのである。 「崇徳王様は如何するのよ!?」 桃子姫が必死の表情で問い掛ける。 「敵軍は私が撃退しますから…桃子姫様と胡桃姫様は即刻避難を…」 「止むを得ないわね…崇徳王様…」 胡桃姫は崇徳王の指示に承諾するのだが…。 「崇徳王様!一人で大勢の敵軍を撃退するなんて無謀よ!」 一方の桃子姫は崇徳王の意向に猛反対したのである。 「桃子姫様…」 「崇徳王様も私達と一緒に村里から脱出しましょう!崇徳王様が殺されちゃったら…私は…崇徳王様も私達と一緒に此処から脱出して…」 桃子姫は必死の様子で崇徳王に説得するものの…。 「桃子姫様♪私なら大丈夫ですよ♪無事に戻れますから…」 崇徳王は自身が無事に戻れると自負したのである。 「私は誰であろう東国の軍神なのです…戦場であっても確実に戻れますから♪無事に戻れると約束しましょう…」 一方の胡桃姫は内心不本意であるものの…。 「無理しないでね…崇徳王様…」 崇徳王の意向を尊重する。 「えっ…胡桃姫!?如何して…」 桃子姫は崇徳王の意向を受容出来なかったのである。 「崇徳王様が敵兵達に殺されちゃうかも知れないのよ!?胡桃姫も崇徳王様を説得してよ!」 胡桃姫は冷静沈着の様子で桃子姫に返答する。 「桃子姫姉ちゃん…観念しましょうよ…こんな状況は非力の私達では如何にも出来ないし…」 「胡桃姫…あんたね…」 桃子姫は険悪化した表情で胡桃姫を睥睨し始める。 「桃子姫姉ちゃん…私と一緒に精霊故山に逃げましょうよ…私はこんな場所では死にたくないわ…」 「崇徳王様!」 「桃子姫姉ちゃん…御免ね…」 桃子姫は落涙した様子であるが胡桃姫は彼女を無理矢理に引致すると家屋敷から脱出…。二人は精霊故山を目標に逃走したのである。 『彼女達は…無事に避難しましたね…』 二人の脱出を確認出来…。 『一先ずは安心です…』 崇徳王は一安心する。 『正直面倒ですが…私は一仕事しますかね…』 最前線の敵兵達を凝視すると崇徳王は武者震いしたのである。 「敵軍は…南国と北国の軍勢だな…」 『武陵桃源の西国に出現するとは…』 彼等に対する怒気が急上昇する。すると直後…。 「ん!?」 崇徳王は極度の熱気により敵兵達に対する殺意の感覚が芽生える。 『半年前の忍者部隊との戦闘以来か…私自身…こんなにも殺意が…』 崇徳王は邪霊餓狼の呪力の悪影響からか理性を抑制出来なくなる。 『ひょっとして邪霊餓狼の呪力とやらの…悪影響なのか?こんなにも人間を殺したくなるとは…』 すると村道にて大勢の敵兵達が崇徳王の存在に気付いたのである。 「ん?貴様は…東国の軍神夜桜崇徳王か!?如何して東国の貴様が片田舎の西国なんかに…」 「噂話は事実であったか…」 「貴様が西国に移住する理由は不明瞭だが…東軍の荒武者達によって大勢の戦友達が惨殺されちまったからな!今回の聖戦は東国の崇徳王に復讐する絶好機だぞ!」 軍配を所持する大柄の武将らしき人物が将兵達を先陣した直後…。 「戦死した戦友達への正義の弔い合戦である!」 実際に崇徳王の従軍時代では彼との戦闘によって何百人もの戦友達が戦死したのである。南軍と北軍にとって東国の崇徳王は列記とした仇敵であり崇徳王に対する彼等の憎悪は非常に根深い。 「全軍よ…東国の軍神夜桜崇徳王を完膚なきまでに打っ殺せ!容赦するな!」 すると崇徳王の身体髪膚から無数の血紅色の発光体が出現したのである。 「ん!?」 「崇徳王の肉体から…一体何が!?」 敵兵達は血紅色の発光体を凝視すると恐怖によって身震いし始める。 「ひっ!」 「崇徳王は…妖怪化したのか!?」 「此奴は…本物の物の怪みたいだな…」 彼等は豹変し始めた崇徳王に戦慄したのか恐る恐る後退りする。 「貴様等は…」 彼等の様子に武将は呆れ果てる。 「狼狽えるな!夜桜崇徳王とて所詮は人間の若武者!此奴は同胞達を惨殺した仇敵なのだ!斬殺しろ!」 武将の威勢により大勢の敵兵達が崇徳王に殺到したのである。 「崇徳王の野郎!」 「覚悟するのだな!」 直後…。 「ん?」 「えっ…」 殺到した敵兵達の頭部が崇徳王の眼力によって肥大化し始めたのである。 「なっ!?」 数秒後…。彼等の頭部が破裂したのである。 「ぐっ!」 「ぎゃっ!」 地面には敵兵達の無数の肉片やら鮮血が散乱する。 「うわっ!」 「ひっ!此奴は怪物だ…」 「崇徳王は…何者だ!?」 前代未聞の地獄の光景に将兵達は戦意を喪失したのである。 「えっ…」 『如何してこんな…』 一方の崇徳王本人も呪力の強大さに一瞬驚愕するものの…。数秒後には平常心へと戻ったのである。 『邪霊餓狼の呪詛の効力なのか…こんなにも絶大とは…』 一方の敵兵達は崇徳王に戦慄するものの…。 「鉄砲隊!夜桜崇徳王を射殺しろ!彼奴は本物の妖怪だ!今直ぐ崇徳王を殺害しなくては俺達が殺されるぞ!」 火縄銃を装備した鉄砲隊が最前線にて並列化したのである。 「鉄砲隊!射撃せよ!崇徳王を完膚なきまでに射殺するのだ!」 鉄砲隊は火縄銃で崇徳王に狙撃する。崇徳王は通常の人間をも上回る神速の身動きによって無数の火縄銃の弾丸を一刀両断…。斬撃により無数の弾丸を無力化したのである。崇徳王は猛反撃すると神速の身動きによって鉄砲隊に急接近したかと思いきや…。最前線に並列した鉄砲隊の数人を瞬殺する。 「ひっ!」 崇徳王の猛攻によって最前線の鉄砲隊は総崩れ…。 「撤退だ!全軍!撤退しろ!」 崇徳王に戦慄した敵兵達は一目散に撤退したのである。 『敵軍は撤退したか…』 崇徳王は邪霊餓狼の呪力により敵軍の撃退には成功したものの…。 「はぁ…はぁ…」 精神的にも肉体的にも疲弊した様子であり全身が身震いしたのである。 『危機一髪だったな…』 崇徳王は一安心した直後…。 「ぐっ!」 邪霊餓狼の呪力によって右腕の皮膚が腐敗したのである。 「代償か…右腕がこんなにも腐敗するとは…」 『畜生が…邪霊餓狼の呪力とやらの悪影響なのか…』 崇徳王の右腕は腐敗と出血により完全に麻痺する。 『右腕が…麻痺するなんて…』 右腕の腐敗に戦慄するものの…。 『桃子姫様と胡桃姫様と合流しなくては…』 逃亡中の桃子姫と胡桃姫と合流する寸前である。すると背後より…。 「がっ!」 敵軍の狙撃兵によって崇徳王は背中を狙撃されたのである。 『背後からの攻撃だと?迂闊だったか…畜生…』 狙撃された崇徳王は地面に横たわる。 『桃子姫様…胡桃姫様…無事に避難して…無事に子供を…』 皮肉にも邪霊餓狼の呪力によって敵軍を撤退させた崇徳王であるが…。邪霊餓狼の呪力の悪影響と敵軍の狙撃により衰弱化したのである。
第十三話
妖女 夜桜崇徳王の孤軍奮闘によって南軍と北軍を撃退させた同時刻…。桃子姫と胡桃姫は全身全霊で故山の精霊故山へと逃走する。 「胡桃姫…」 「桃子姫姉ちゃん♪精霊故山の頂上だわ♪」 彼女達は精霊故山の天辺へと到達したのである。 「はぁ…はぁ…」 「桃子姫姉ちゃん?大丈夫なの?」 胡桃姫は重苦しそうな様子の桃子姫に恐る恐る問い掛ける。 「御免なさいね…胡桃姫…私が足手纏いなばかりに…」 「足手纏いなんて…桃子姫姉ちゃん…気にしないで…」 桃子姫は山道の道端で横たわったのである。 「はぁ…はぁ…」 桃子姫は精神的にも肉体的にも疲弊した状態であり一時的に身動き出来なくなる。 「桃子姫姉ちゃん!?大丈夫!?」 胡桃姫は地面に横たわった状態の桃子姫に恐る恐る近寄る。 「御免なさいね…胡桃姫…正直足手纏いだよね?私…」 桃子姫は自身の無力さからか涙腺より涙が零れ落ちる。 『桃子姫姉ちゃん…』 すると突然…。 「ぐっ!」 『陣痛かしら?』 桃子姫は腹部より極度の陣痛を感じる。 「えっ!?桃子姫姉ちゃん!?」 胡桃姫は桃子姫の様子に動揺する。恐る恐る桃子姫の腹部に接触…。 『ひょっとして出産かしら!?』 胡桃姫は対処出来ず困惑する。 「最悪だわ…」 『こんな状況で…私は如何すれば…桃子姫姉ちゃん…』 すると彼女達の背後より大勢の追討軍が彼女達を追撃したのである。 「ん?貴様等は西国の女子達だな♪」 「こんなにも武陵桃源の片田舎に容姿端麗の女子達と出くわしちまうなんて俺達は福運だよな♪」 「此奴は如何するよ?」 「正直こんな場所で女子達を打っ殺しちまうのは勿体無いよな♪」 火縄銃を武装する狙撃兵が弾丸を装填させる。 「妊婦の小娘か?此奴は勿体無いが…仕方ないな…」 桃子姫が狙撃される寸前…。 『桃子姫姉ちゃんが…敵兵に殺されるわ!』 危惧した胡桃姫は咄嗟の判断により全力疾走したのである。危機一髪地面に横たわった状態の桃子姫を庇護した胡桃姫であるが…。 「ぎゃっ!」 胡桃姫は地面に横たわった状態の桃子姫の真正面にて敵兵に銃撃されたのである。胡桃姫は敵兵の銃弾により腹部を貫通…。 「ぐっ…」 腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。 『桃子姫姉ちゃん…私…』 胡桃姫は落涙した様子で地面に横たわる。 「胡桃姫…」 地面は胡桃姫の鮮血によって染色されたのである。 「胡桃姫…胡桃姫!?」 桃子姫は力一杯…。地面に横たわった状態の胡桃姫に近寄る。 「胡桃姫…胡桃姫…」 桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。 「如何して…如何して私なんかを…胡桃姫…」 「ぐっ…桃子姫姉ちゃんが…無事で…何よりだわ…」 多量の出血により胡桃姫は衰弱化したのである。 「桃子姫姉ちゃん…死なないでね…無事に赤ちゃんを…出産してね…」 「胡桃姫…胡桃姫!?如何して…」 胡桃姫の生命は最早風前の灯火であり両目を瞑目させた直後…。 「えっ…胡桃姫…」 彼女は息絶える。 『胡桃姫が…死んじゃった…』 桃子姫は極度の無念と悲痛により無気力化するものの…。 「えっ…」 遠方の森林浴より無数の虹色の発光体を確認したのである。 『虹色の発光体だわ…一体何かしら?』 桃子姫は精一杯虹色の発光体を目印に疾走し始める。 「妊婦の小娘が逃走しやがったぞ…如何するよ?」 「妊婦の小娘を追尾しろ…」 追討軍の将兵達は一心不乱に全力疾走する桃子姫を追撃したのである。一方の彼女は虹色の発光体の居場所へと到達する。 『摩訶不思議の場所ね…何かしら?』 無数の発光体の中心部には虹色に発光する広葉樹が確認出来る。 『ひょっとして世界樹の…』 虹色に発光する摩訶不思議の広葉樹とは去年の十一月中旬に遭遇した世界樹の妖星巨木だったのである。 「造物主の妖星巨木だったかしら…」 『如何してこんな場所に妖星巨木が?』 桃子姫は恐る恐る妖星巨木へと近寄る。 『結局私は…私は如何するべきだったのよ?』 桃子姫は恐る恐る樹体の表面に接触する。 『本来なら私が殺されるべきだったのに…如何して胡桃姫が殺されたのよ?父様と母様だって…如何して匪賊に殺されたのよ…』 桃子姫の両親は十五年前に匪賊によって惨殺されたのである。 『如何して私の家族は誰かに殺されるのよ…天罰なの?』 「如何してなのよ…如何してよ!?私達に対する天罰なの!?」 桃子姫は極度の悲哀と怒気が増大化する。 『如何して…私ばかり…私達ばかりが…』 桃子姫は自身の非力さから涙腺より涙が零れ落ちる。すると妖星巨木の一筋の小枝から虹色に発光する果実を発見…。 『虹色なんて…摩訶不思議の果実だわ…』 桃子姫は恐る恐る虹色の果実を確保する。 『ひょっとして私に…食べろと?』 入手した虹色の果実を無我夢中に菜食したのである。すると彼女の体内より異変が発生する。超常現象により彼女の全身からは無数の血紅色の放射体が出現したのである。 「先程の妊婦の小娘だぞ!」 「ん?小娘の様子が可笑しいぞ…一体何が?」 大勢の追討軍が妖星巨木の聖域へと到達したものの…。 「彼奴は…村里の小娘は妖怪化しやがったのか!?」 彼等は変貌し始めた彼女の雰囲気から恐る恐る後退りしたのである。 「狼狽えるな!人間の小娘が妖怪化したとしても所詮は非力の小娘だ!大勢で妖怪化した小娘を完膚なきまでに根絶やしにせよ!」 桃子姫の血紅色であった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。 「あんた達…沈黙しなさい…」 彼女が殺気立った眼力によって周囲の敵兵達を力強く睥睨した直後である。 「ん?」 最前線の敵兵達は頭部が肥大化し始める。彼等は頭部の皮膚に亀裂が発生したかと思いきや…。 「なっ!?ぎゃっ!」 突如として敵兵達の肥大化した頭部が破裂する。地面に無数の血肉と彼等の脳味噌が散乱したのである。 「ひっ!」 「うわっ!何事であるか!?」 背面の敵兵達は突然の超常現象により戦慄する。 「一体全体何が!?如何してこんな…」 「貴様達!狼狽えるな!妖怪の小娘を根絶やしにせよ!妖怪の小娘を徹底的に退治するのだ!」 敵兵達は大勢で無防備の桃子姫に殺到するものの…。桃子姫は全身から血紅色の放射体を炸裂させると半透明化した血紅色の防壁を形作る。防壁の表面より無数の魔手が出現したのである。 「無数の魔手だと!?此奴は小娘の妖術か!?」 無数の魔手が出現しては殺到する敵兵達に接触したかと思いきや…。 「ひっ!」 無数の魔手は敵兵達の肉体諸共圧縮したのである。大勢の敵兵達が魔手によって全身を圧縮…。 「ぎゃっ!」 血肉やら体内の臓物が噴出したのである。 「現実なのか!?」 「部隊長殿!即刻撤退しましょう!物の怪の彼奴を相手するのは危険です!全滅しますよ!」 予想外の惨劇に部隊長は撤退を余儀無くされる。 「止むを得ないな…一先ずは退却だ!全軍…撤退せよ!」 敵兵達は一目散に桃子姫から逃走したのである。
第十四話
陣痛 桃子姫の猛反撃により両軍の将兵達が撤退し始めた同時刻…。南軍と北軍の本拠地では両陣営の総大将達が談笑する。 「本日は福徳円満ですな♪早朝には西国全域は私達の勢力圏ですし…西国の地中には無尽蔵の天道金剛石が採掘出来ます♪何よりも怨敵である東国は完膚なきまでに滅亡されましょう…最早私達が天下を統一するのは時間の問題ですな♪」 「一石三鳥ですな♪難敵の東国を打倒出来れば正真正銘桃源郷神国全域が私達の支配圏ですからね♪」 「桃源郷神国全域を完全制覇出来れば…今度は異国も征服しましょうかね♪」 「異国の征服ですか♪面白そうですな♪」 すると本拠地より血塗れの一兵卒が一目散に乱入したのである。 「総大将殿!大変です!」 「ん!?突然何事であるか!?」 「随分大慌ての様子だな…一体何事だ?農民に反撃されたのか?」 総大将達は血塗れの一兵卒に驚愕する。 「西国の精霊故山より…荒唐無稽の妖女が…妖女が出現しました!」 「荒唐無稽の妖女だと?」 一兵卒の報告に二人の総大将は呆れ果てる。 「妖女なんて面白くない冗談だな…」 「妖女なんて実在するのか♪」 「何が荒唐無稽の妖女だ…所詮貴様の見間違いだろう…妖女なんて魑魅魍魎が本当に実在するなら是非とも遭遇したくなるな♪」 「本当に実在するなら今直ぐ妖女を此処へ招待するのだな♪」 総大将達は疲弊する一兵卒の報告を揶揄する。 「荒唐無稽の妖女が出現したのは本当です!妖女の猛反撃によって大勢の足軽が殺害されました!即刻西国から全軍の撤退を…」 「馬鹿者!何が撤退だ!」 「冗談も大概にせよ!何が荒唐無稽の妖女だ!妖女とやらが本当に存在するのであれば即刻妖女とやらを本拠地に連行するのだな!」 「妖女なんて子供騙しは通用しないぞ…今更撤退なんて出来るか!」 撤退の一言に総大将達は怒号したのである。すると直後…。 「なっ!?」 突如として一兵卒の頭部が肥大化し始める。 「ぎゃっ!」 頭部が肥大化した数秒後…。一兵卒の頭部は破裂したのである。 「うわっ!」 「げっ!如何して足軽の頭部が!?一体全体何が…発生したのだ?」 突発的出来事により総大将達は戦慄する。 「如何して足軽の頭部が破裂した…」 「ひょっとして妖女とやらの仕業なのか!?」 「先程の内容は事実であったのか!?妖女が荒唐無稽の妖術で足軽の頭部を破裂させたのか…」 「えっ…妖女は本当に存在すると!?」 騒然とする彼等だが…。突如として本拠地より小柄の女性が潜入したのである。 「ひっ!」 「うわっ!貴様は何者であるか!?」 着物は血塗れであり亡霊みたいな雰囲気の女性に総大将達は恐る恐る後退りする。 「一体何者だ?ひょっとして貴様は…村娘の悪霊なのか?」 彼女の表情は無表情であり精気は感じられず亡霊みたいな雰囲気だったのである。すると血塗れの女性が無表情で総大将達を凝視し始め…。 「私は西国の…桃子姫よ…」 女性は自身を桃子姫と名乗ったのである。 「桃子姫だと?」 「貴様は西国の村娘か…」 すると無表情だった桃子姫の表情が険悪化し始める。 「あんた達ね…私の唯一の家族を…胡桃姫を殺させたのは…」 「胡桃姫とは?」 「一体何者であるか?」 桃子姫は総大将達に問い掛けられると険悪化した表情で即答する。 「胡桃姫は…胡桃姫は私の…私の実妹よ!」 数秒後…。 「あんた達も…同罪よ…部下達と一緒に死滅するのね…」 桃子姫は妖力で総大将達の頭部を肥大化させたのである。 「ぎゃっ!」 「がっ!」 摩訶不思議の超常現象により彼等の頭部が破裂したのである。両陣営の総大将達の落命によって南軍と北軍は完全に総崩れ…。妖怪化した桃子姫の猛反撃により西国の村里に出兵した南軍と北軍の軍勢は事実上全滅したのである。残存した数十人もの敗残兵は各地の村里に逃亡する。一方摩訶不思議の妖力で敵軍を撃退した桃子姫であるものの…。直後である。 「ぐっ!」 『陣痛かしら…』 桃子姫は極度の陣痛により地面に横たわる。
第十五話
出産 桃子姫が荒唐無稽の妖術で敵軍の総大将を殺害した同時刻である。火縄銃の敵弾によって地面に横たわった状態の夜桜崇徳王であるが…。 「ぐっ…」 『私は…』 驚異の生命力により目覚めたのである。 『敵軍の奴等は?』 崇徳王は敵軍の奇襲を警戒…。恐る恐る一歩ずつ移動したのである。 『不吉だな…随分物静かだな…』 「奴等は…撤退したのか?」 主戦場であった西国の村里であるものの…。 『村里では一体何が発生したのだ?』 何一つとして殺気の気配は感じられず周囲の物静かな雰囲気に崇徳王は身震いしたのである。 『如何して村里全体がこんなにも物静かなのか…』 邪霊餓狼の呪力と大量の出血によって眼前が朦朧とする。 「ぐっ!」 『畜生が…桃子姫様と胡桃姫様に再会したいけど…こんな瀕死の状態では私は失血死するかも知れないな…』 最早崇徳王は虫の息であり歩行するだけでも息苦しくなる。 『桃子姫様と胡桃姫様は…無事に西国の村里から脱出出来たのでしょうか?』 村道を歩き続けると桃子姫と胡桃姫が逃走した精霊故山へと到達したのである。 「えっ…」 獣道の地面には大勢の敵兵達の鎧兜は勿論…。鮮血やら無数の肉片が彼方此方に散乱したのである。 「敵軍の!?」 『誰がこんなにも敵兵達を殺害したのか…』 西国の村里には若武者は勿論…。力自慢の農民すら少数派であり統率された南軍と北軍の兵卒達を撃退出来る該当者は実質皆無である。 『如何して敵軍の兵卒達がこんなにも殺害されたのか!?村里では一体何が発生したのだ!?』 崇徳王は誰が敵軍の兵卒達を殺害したのか非常に気になる。 「ん?」 すると直後である。 『赤子の産声か!?』 遠方の自然林より赤子らしき産声が響き渡る。 「ひょっとして桃子姫様!?」 精霊故山の自然林から響き渡る産声に崇徳王は一安心したのである。 『桃子姫様は勿論♪胡桃姫様も無事みたいですね♪』 獣道の遠方より血塗れの着物姿の女性と抱き抱えられた赤子が確認出来る。 『ひょっとして彼女は桃子姫様!?如何やら桃子姫様は無事だったみたいですね♪』 崇徳王は恐る恐る女性と赤子に近寄る。 「桃子姫様でしたか♪無事に避難出来たのですね♪」 血塗れの着物姿の女性は正真正銘桃子姫…。彼女本人だったのである。 「桃子姫様♪無事に再会出来て一安心ですよ♪」 「崇徳王様…」 「えっ?」 崇徳王は桃子姫に抱き抱えられた赤子を凝視…。大喜びする。 「桃子姫様♪無事に子供を出産されたのですね♪」 「赤ちゃんは無事に出産出来たわ…私達の子供…性別は女の子よ…」 「女の子ですか♪彼女は誰よりも容姿端麗ですね♪」 すると崇徳王は同行中の胡桃姫の行方を問い掛ける。 「桃子姫様?胡桃姫様は如何されましたか?無事なのですかね?」 「えっ…胡桃姫は…」 崇徳王に問い掛けられた直後…。桃子姫は絶句し始める。 「えっ?桃子姫様?」 崇徳王は恐る恐る無表情の桃子姫を直視すると一瞬戦慄したのである。 『桃子姫様の表情が無表情!?彼女には一体何が…』 桃子姫は悲痛そうな表情であり崇徳王は恐る恐る彼女に問い掛ける。 「桃子姫様…大丈夫ですか?一体如何されたのでしょうか?」 「胡桃姫が…胡桃姫がね…」 「えっ…胡桃姫様が…如何されたのですか?桃子姫様?」 崇徳王は極度の緊張感からか全身が身震いしたのである。崇徳王が再度問い掛けると桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。 「胡桃姫が敵軍の襲撃で…殺されちゃったのよ…」 「はっ?えっ…」 崇徳王は衝撃の事実に身体髪膚が膠着する。 「えっ!?胡桃姫様が…敵軍の襲撃に!?」 崇徳王は驚愕した直後…。涙腺より涙が零れ落ちる。 「胡桃姫様…」 『胡桃姫様が息絶えられたなんて…私自身の力不足の所為で胡桃姫様が…』 崇徳王は自身の力不足に悔恨する。 「崇徳王様…私は…」 「桃子姫様?」 桃子姫は先程の出来事を一部始終告白したのである。 「桃子姫様は妖星巨木の果実を!?」 「私が…摩訶不思議の神通力で敵軍の将兵達を全滅させたのよ…」 「えっ…」 『桃子姫様が敵軍の将兵達を全滅させたって?先程から西国全域が物静かだったのは桃子姫様が妖星巨木の神通力で敵軍を全滅させたのか…』 崇徳王は納得する。 「崇徳王様?」 「如何されましたか?桃子姫様?」 「崇徳王様は…こんなにも妖女みたいな私に戦慄しないの?今現在の私は本物の妖怪みたいな人外なのよ…崇徳王様はこんな私が平気なの?」 桃子姫は不安そうな表情で恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「私なら桃子姫様が人外の妖女でも戦慄しませんよ…桃子姫様が正真正銘妖女だったとしても桃子姫様は桃子姫様なのですから♪」 崇徳王は自身が平気であると満面の笑顔で即答する。 「崇徳王様…」 無表情だった桃子姫に笑顔が戻ったのである。 『桃子姫様♪』 笑顔が戻った桃子姫に崇徳王は一安心する。 「崇徳王様?」 「如何されましたか?桃子姫様?」 彼女は赤面した表情で瞑目…。恐る恐る崇徳王に接吻したのである。 「えっ…」 『桃子姫様!?一体何を?』 崇徳王は突然の桃子姫の接吻に一瞬動揺するものの…。 「なっ!?」 桃子姫の神通力による効力なのか背中の外傷と呪力による体内の熱気が一瞬で浄化されたのである。 『体内の熱気と外傷が一瞬で浄化されるなんて…ひょっとして桃子姫様の神通力とやらは治癒力は勿論…邪霊餓狼の呪詛でさえも浄化出来るのか…』 崇徳王は桃子姫の神通力の強大さに驚愕する。 『腐敗した右腕が…再生するなんて…』 腐敗した右腕も桃子姫の神通力により元通りに再生したのである。 『現実なのか?』 崇徳王は桃子姫の神通力に驚愕…。現実の出来事なのか理解出来なくなる。 『桃子姫様の神通力…摩訶不思議だな…』 崇徳王の右腕が再生した直後…。 「ぐっ!」 桃子姫は突如として吐血する。 「えっ!?桃子姫様!?大丈夫ですか!?」 「崇徳王様…私…」 桃子姫は抱き抱えた赤子を恐る恐る崇徳王に手渡したのである。 「崇徳王様…私は…」 最早桃子姫は精神的にも肉体的にも疲弊した半死半生の瀕死状態であり深呼吸が非常に重苦しくなる。 「私と胡桃姫にとって…崇徳王様が居候してから…私達は毎日が幸福だったのよ…」 桃子姫の生命は風前の灯火であるものの…。彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。 『桃子姫様…』 「桃子姫様…私こそ…」 崇徳王も落涙したのである。すると桃子姫は涙目で赤子を凝視し始め…。 「私にとって唯一の心残りなのは…無事に出産出来た私達の子供と…一緒に生活出来ないのが何よりも残念なのよね…」 「桃子姫様…」 すると彼女の肉体が血紅色の粒子状の発光体へと変化したのである。 「えっ?桃子姫様!?」 「崇徳王様…精一杯…長生きしてよね♪絶対に約束よ…」 「桃子姫様…勿論約束しますよ…」 桃子姫は笑顔で崇徳王に密着し始め…。 「私は未来永劫…天国の胡桃姫と一緒に見守るからね♪崇徳王様♪」 無数の血紅色の発光体へと変化し始めた彼女は天空にて消滅する。 『桃子姫様…私は今後…如何すれば?』 崇徳王は息絶えた桃子姫の安眠により一晩中落涙し続けたのである。
第十六話
要望 後日の早朝…。東国から崇徳王の家来が訪問する。 『西国の村里では一体何が!?』 西国の農村地帯全域が血塗れであり武陵桃源とは程遠い地獄絵だったのである。 『戦場みたいな光景だな…』 家来は地獄の光景に戦慄するものの…。崇徳王の安否が気になる。 『崇徳王様は無事なのでしょうか?』 すると遠方の山間部より血塗れの武士が佇立するのを確認したのである。 「なっ!?何者でしょうか?」 家来は恐る恐る武士に近寄る。 「貴方は夜桜崇徳王様!?崇徳王様ですよね!?」 崇徳王は家来に気付いたのである。 「誰かと思いきや…其方だったのか…如何して東国の其方が西国の村里なんかに?此処は戦場だぞ…」 「敵国である南軍と北軍が西国の村里に出兵するとの悪巧みを察知しましてね…私自身崇徳王様の安否が気になったのですよ…」 「今更祖国を裏切った逆賊の安否を確認するなんて…其方は本物の馬鹿者だな…」 崇徳王は家来に呆れ果てる。 「私は正真正銘逆賊の身分だぞ…本来ならば死罪でも可笑しくないのに…」 「ですが祖国を裏切ったとしても…夜桜崇徳王様は正真正銘夜桜一族を代表する最上級武士ですからね♪私にとって崇徳王様が無事なのが何よりですよ♪」 家来は満面の笑顔で発言する。 「えっ?崇徳王様…」 家来は抱き抱えられた赤子に注目したのである。 「ん?如何した?」 「赤子ですね…」 家来は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「崇徳王様?一体…誰の赤子なのでしょうか?」 家来は誰の赤子なのか気になったのである。 「誰の赤子って…彼女は正真正銘私の愛娘だよ…」 家来は驚愕する。 「えっ!?彼女は崇徳王様の愛娘ですと!?」 家来は驚愕するものの…。直後に大喜びしたのである。 「ひょっとして崇徳王様は西国の村里で令夫人と婚姻されたのですね♪」 家来は大喜びするものの…。 「えっ?崇徳王様?突然如何されたのですか?」 崇徳王は涙腺から涙が零れ落ちる。 「私の…私の大切だった女房は…」 崇徳王は西国での出来事を一部始終告白したのである。 「崇徳王様の令夫人は先程永眠されたのですね…非常に無念です…」 崇徳王は恐る恐る自身が抱き抱える赤子を直視したのである。 「彼女を…私の愛娘を東国の…夜桜家の武家屋敷で養育出来ないか?」 崇徳王は家来に要望する。 「所詮私は祖国を裏切った極悪非道の人間だからな…斬首刑は覚悟するさ…」 斬首刑を覚悟した崇徳王であるが家来は笑顔で…。 「崇徳王様♪何も斬首刑なんて…東軍の武士達には私が説得しますから!崇徳王様の愛娘は是非とも夜桜家の武家屋敷で養育しますから♪彼女は正真正銘…夜桜崇徳王様の愛娘なのですからね♪」 「其方には感謝するよ…」 すると崇徳王は断言したのである。 「本日より私は人殺しの武士としてではなく…僧侶として精一杯贖罪したい…」 「なっ!?崇徳王様が…僧侶ですと!?突然如何されたのですか!?僧侶なんて崇徳王様らしくないですね…」 家来は崇徳王の突発的発言に驚愕する。 「私は今迄に大勢の人間達を斬殺したからな…金輪際僧侶として悪逆非道である私自身の数多くの悪行を贖罪しなければ…」 「何も崇徳王様が悪逆非道なんて…崇徳王様は大勢の敵兵達を仕留められたかも知れませぬが…崇徳王様の奮闘によって大勢の村人達は勿論…東国に粉骨砕身されたのも周知の事実ですよ!東国が安泰なのも今迄に崇徳王様の粉骨砕身された結果なのです…」 「敵国の敵兵達であっても所詮相手は一人の人間だ…人殺しなのは周知の事実であるからな…」 「崇徳王様…」 「私は出家する!戦乱で辛苦される大勢の村人達…兵卒達を救済したいのだ…」 家来は恐る恐る崇徳王の表情を直視したのである。 「崇徳王様が僧侶として各地で活動されたいのであれば…私は崇徳王様の意向を尊重しましょう…」 「其方…感謝するよ…」 家来は崇徳王の決意を尊重…。承諾したのである。
最終話
愛娘 世界暦四千五百七年六月十二日より夜桜崇徳王は出家…。修行僧として再活動したのである。同年の五月十五日に誕生した愛娘は東国の武家屋敷にて養育される。崇徳王が本格的に僧侶として活動し始めてからも各村落では小規模の局地戦が頻発したのである。各地の戦乱により大勢の武士達は勿論…。大勢の村人達が各村落の局地戦によって死去したのである。西国の村里にて出兵した南軍と北軍は人外の妖女へと覚醒した桃子姫の猛反撃によって二人の侍大将と数百人もの兵卒達を喪失…。総兵力喪失の悪影響により両勢力は唐突に弱体化したのである。弱体化した南国と北国の両勢力は東国の漁夫の利により本格的に属国化し始め…。東国の東軍は桃源郷神国の東国武士団として桃源郷神国全域を牛耳ったのである。東国の天下統一により二百年以上長期化した弱肉強食の戦乱時代は本格的に終焉…。世界暦四千四百十九年一月十一日により桃源郷神国は共存共栄と安寧秩序の安穏時代へと突入したのである。弱肉強食の戦乱時代から共存共栄の安穏時代へと変化した数年後…。桃子姫は伝説の元祖妖女として国全体の村人達から認識される。桃子姫が死没してより十二年後の世界暦四千四百十九年五月十五日の真昼…。各村落にて僧侶として活動中の夜桜崇徳王は久方振りに祖国である東国地帯の武家屋敷へと訪問したのである。 「父様♪」 武家屋敷の玄関口より三つ編みの小柄の美少女が笑顔で崇徳王に力一杯密着する。 「【小梅姫】だったか♪元気そうで安心したよ♪」 「父様こそ元気そうね♪」 小梅姫とは崇徳王と桃子姫の一人娘であり二人の愛娘である。崇徳王は小梅姫との久方振りの再会に大喜びする。 「小梅姫は人一倍容姿端麗で誰よりも美人だな♪本物の天女みたいだよ♪」 「私が誰よりも美人で天女なんて…父様は大袈裟ね♪」 小梅姫は赤面するものの…。 『私が容姿端麗ですって♪』 内心では大喜びだったのである。 「小梅姫…私は毎日が一晩中大忙しだから悪かったな…」 小梅姫は謝罪する崇徳王に満面の笑顔で返答する。 「父様…気にしないで♪私は大丈夫だから♪」 「小梅姫…」 すると突然…。 「えっ!?」 何者かが崇徳王の背中に接触する。 『誰かが…私の背中を…』 崇徳王は背後より人気を感じる。恐る恐る背後を直視するものの…。 『誰かの気配は感じるのだが…一体何が?』 すると小梅姫が満面の笑顔で崇徳王の背後を指差したのである。 「父様♪二人の女神様だよ♪」 「えっ!?二人の女神様だって?」 崇徳王は小梅姫の女神様発言に反応する。 『ひょっとして桃子姫様と胡桃姫様が…』 桃子姫と胡桃姫を想像すると崇徳王は涙腺から涙が溢れ出る。 「父様…大丈夫?」 小梅姫は落涙する崇徳王を心配したのである。 「心配させちゃったね…小梅姫…私なら大丈夫だよ♪」 崇徳王は満面の笑顔で…。 「ひょっとすると二人の女神様の正体は…小梅姫の母さん達かも知れないな♪」 「えっ…私の母様?」 「小梅姫?久方振りに母さん達の墓参りに出掛けないか?」 「えっ?母様達の墓参りに?」 「無理強いしないが…小梅姫が墓参りしたら天国の母さん達が大喜びするかも知れないぞ♪何しろ小梅姫は私と桃子姫母さんの愛娘だからな♪」 小梅姫は一瞬困惑するものの…。笑顔で承諾する。 「勿論よ♪母様の…墓参りしないとね♪父様♪」 「小梅姫♪」 崇徳王は小梅姫と一緒に桃子姫と胡桃姫の墓参りに出掛ける。 完結
太平記 特別編
第一話
野良犬 世界暦四千五百五年八月下旬の時期…。戦乱時代末期の出来事である。北国には【月影幽鬼王】と名乗る最上級の若武者が北軍の強兵として各戦場で活躍する。北軍の月影幽鬼王は最強の武家一族である月影一族総本家の長男坊であり年齢十五歳の青二才であるものの…。外見のみなら大柄の美青年であり今迄の各戦場での功績から北軍の時期総大将に任命されたのである。同年の八月二十九日…。真昼の出来事である。幽鬼王は久方振りの気分転換に南国の最高峰である荒神山の頂上より…。南国の絶景の景色を眺望する。 『こんな殺伐とした時代に南国は平穏だな…』 荒神山の頂上から眺望出来る景色は非常に絶妙であり空気も清涼である。荒神山全体は非常に物静かな雰囲気であり自然林からは僅少の風音が響き渡る。 『南国は荒武者の集合地帯って命名されるが…此処は案外平和そうだな…』 南国は荒武者達の集合地帯とも呼称され…。各国の領主達からは必要以上に畏怖される。領土の大半は農村地帯であり南軍の兵卒達も大半が農村の村人達である。平時では非常に物静かであり荒武者達の巣窟とは程遠く感じられる。 『こんな場所で長居し続けても無意味だな…』 幽鬼王は祖国の北国に戻ろうかと思いきや…。 『私は北国に戻ろうか…』 「ん?」 背後より摩訶不思議の気配を感じる。 『気配を感じるな…人外か?』 幽鬼王は冷静の表情であるが…。 『非常に異質的だ…一体何が出現した?』 警戒した様子で恐る恐る背後を直視したのである。 『此奴は…』 幽鬼王の背後には白色の野良犬が一匹…。 『此奴は単なる野良犬みたいだが…』 白色の野良犬は全身が血塗れであり大怪我した状態だったのである。野良犬は瀕死の状態であるものの…。無表情で幽鬼王を凝視し続けたのである。 『人騒がせな野良犬だな…瀕死の状態とは…』 気配の正体は瀕死状態の野良犬であり幽鬼王は一安心するものの…。野良犬の気配は異質的であり其処等の野良犬とは雰囲気が別格だったのである。 『此奴の正体は一体…やっぱり気配は異質だな…物の怪が瀕死の野良犬にでも変化したのか?』 幽鬼王は野良犬が物の怪の一種であると推測する。 「折角の機会だ…野良犬の物の怪よ…」 幽鬼王は護身用の拳銃を携帯したのである。 『異国の拳銃とやらが本当に役立つのか…』 「此奴で試射するか…」 幽鬼王は人一倍負けず嫌いな性格であるが…。非常に獰猛で野蛮であり敵味方の将兵達からは北国の鬼神と呼称されたのである。舞台が主戦場であれば相手が無抵抗の女性やら子供は勿論…。非力の老人であっても平気で殺害する残虐非道の冷血漢である。場合によっては敵軍の攻撃により瀕死状態だった仲間でさえも問答無用で殺害…。自軍の将兵達やら一族の身内からも無慈悲であると嫌悪されたのである。数多くの者達から嫌悪される幽鬼王であるが…。彼自身は特段周囲の評価を気にせず普段から公明正大に各地の村里を闊歩し続けたのである。 「悪いが野良犬の物の怪よ…私に遭遇したのを後悔するのだな…」 幽鬼王は拳銃を発砲…。野良犬の前頭部に拳銃の銃弾が直撃したのである。前頭部を銃撃された野良犬は即死…。地面に横たわったのである。 『物の怪…他愛無いな…』 地面は銃殺された野良犬の鮮血により赤色に染色する。 『其処等の人間を打っ殺す場合でも…此奴は案外役立ちそうだな…』 幽鬼王は祖国の北国へと戻ったのである。
第二話
城郭 世界暦四千五百五年九月十三日の真夜中…。南国の国境に位置する城壁にて北軍の軍勢が集結したのである。北軍の侍大将が鉄壁の城壁を直視する。 「此処が難攻不落とされる南国の城郭か…」 南国の国境には難攻不落の城郭が聳え立ったのである。 「北軍の勇士達よ!」 北軍の侍大将は声高に発言し始める。 「今回の目的は南国の難攻不落…城郭の突破だ!今回の戦闘で難攻不落の城郭を突破出来れば…俺達の強大さを南国の奴等に熟知させられるだろう!」 今回の北軍の目的とは難攻不落として知られる城郭の突破である。今回は南国領土の攻略ではなく基本的に城郭を突破…。南国の将兵達と村人達に北軍の強大さを熟知させるのが北軍の目的である。 「勇士達よ…貴様達の健闘を期待するぞ…」 北軍の軍勢は推計九百人規模であり小国の北国にとっては最大級の兵力とされる。対する城郭守備隊の総兵力は推計四百人前後であり兵力のみなら北軍が圧倒的である。 「城郭の突破か…」 「東国でも攻略出来なかった難攻不落の城郭を俺達だけで突破出来るのか?」 難攻不落の城郭は桃源郷神国史上最大の大勢力東国でも攻略が困難だったとされ…。北軍の兵卒達は南軍の城郭を突破出来るのか不安視したのである。 「情けないな…弱卒ばかりか…」 北軍の鬼神…。月影幽鬼王は呆れ果てた表情で周囲の兵卒達を弱卒だと口走る。 「城郭を突破出来ずとも…城内の敵兵を仕留められれば私は満足だ…」 周囲の将兵達は幽鬼王の発言に愕然とする。 「えっ…幽鬼王…」 「あんたは本当に好戦的だな…戦闘さえ出来れば満足って…」 「やっぱり幽鬼王は異端者だな…」 周囲の者達は幽鬼王が人一倍異端者であると感じる。すると突然…。城郭に設置された大砲から一発の砲弾が発射されたのである。 「なっ!?敵軍の砲撃だ!」 北軍の将兵達は突如として発射された砲弾に冷や冷やする。 「大袈裟だな…」 幽鬼王は周囲の兵卒達に呆れ果てる。城郭から発射された砲弾は偶然にも幽鬼王の頭上へと落下…。 「幽鬼王!砲弾が頭上に!」 落下し続ける砲弾に周囲の将兵達は身震いしたのである。 「こんな石ころで…」 幽鬼王は神速の身動きで抜刀し始めたかと思いきや…。 「貴様達は大袈裟だな…」 幽鬼王は神速の身動きで地上に着弾寸前の砲弾を両断する。間一髪砲弾の直撃を阻止したのである。 「こんな砲弾で私を仕留められるか…」 周囲の将兵達は幽鬼王の身動きに驚愕する。 「砲弾を…直前で一刀両断とは…」 「幽鬼王は…人間なのか?幽鬼王は何者だ?」 「やっぱり幽鬼王は人外だ…此奴が鬼神と呼称されるのも納得だな…」 将兵達は月影幽鬼王が自分達と同様に人間なのか疑問視したのである。 『月影幽鬼王…此奴は人間に変化した物の怪なのか?』 周囲の将兵達と同様に侍大将も身震いするのだが…。 「兎にも角にも…全軍で突撃せよ!城郭を突破するぞ!」 北軍は攻城兵器とされる破城槌を使用したのである。 「全力で表門を破壊するのだ!」 「表門を打っ壊せ!」 対する南軍は弓矢やら火縄銃等で表門の北軍将兵達を攻撃…。一方の北軍も弓矢等の遠距離武装で応戦したのである。一分間が経過すると表門は破壊され…。 「表門を破壊したぞ!全軍!城内に突撃せよ!」 『東軍でも困難だった城郭の表門を突破するとは…北軍は最強かも知れないな♪』 侍大将は内心大喜びする。北軍の将兵達は城内へと侵入したのである。城内の彼方此方で将兵達の叫び声が響き渡る。一方鬼神の幽鬼王も城郭内部へと侵入すると城内の敵兵達と遭遇…。彼等と交戦したのである。 「ん!?貴様は一体何者だ!?」 「貴様が敵軍の強豪なのは確実だな!覚悟せよ!」 三人の守備隊の将兵達が幽鬼王に殺到する。 『弱卒風情が…』 一方の幽鬼王は神速の身動きで三人の将兵達を斬撃…。 「うわっ!」 「ぎゃっ!」 「ぐっ!」 幽鬼王は三人の将兵達を瞬殺したのである。 『他愛無いな…所詮は弱卒だ…』 幽鬼王は遭遇する敵兵達を瞬殺し続けると城郭の天守閣へと到達する。天守閣には総大将は勿論…。二人の側近達が総大将を警護したのである。 「なっ!?貴様は!?」 「敵軍の将兵か…」 二人の側近達は天守閣に到達した幽鬼王に驚愕する。 「貴様達…狼狽えるな…城郭は難攻不落の鉄壁なのだぞ…」 冷や冷やし始めた側近達とは相反して城郭の総大将は冷静沈着であり平常心だったのである。 「ですが総大将殿…天守閣に敵兵が…」 総大将は幽鬼王を直視し始める。 「貴殿…一人で難攻不落とされる城郭の天守閣に到達するとは偉大である…」 すると城郭の総大将は幽鬼王に興味深くなったのか満面の笑顔で…。 「貴殿の剣術は超一流である♪貴殿の名前は?」 名前を問い掛けられた幽鬼王は一瞬沈黙するも名乗り始める。 「私は…北国の鬼神…月影幽鬼王だ…」 幽鬼王が名前を名乗ると二人の側近達が驚愕する。 「月影幽鬼王だと!?貴様は名門の月影一族の!?」 「貴様が鬼神と畏怖された月影幽鬼王なのか!?」 周囲の側近達は動揺するものの…。 「貴殿が鬼神の月影幽鬼王であるなら…鉄壁の城郭が突破されるのも納得だ…」 総大将は再度笑顔で発言する。 「貴殿の名前が月影幽鬼王なのであれば♪本日より貴殿は南軍の将兵として活動しないか?」 「私が南国の将兵だと?」 総大将は幽鬼王を南軍の将兵として勧誘したのである。 「えっ!?」 「総大将殿!?月影幽鬼王を…南国の将兵に!?」 二人の将兵達は総大将の発言に愕然とする。 「相手は北軍の将兵ですよ!本気なのですか!?」 「将兵は将兵でも…此奴は月影一族の月影幽鬼王なのですよ!」 「鬼神と畏怖される危険人物を南軍の将兵として勧誘されるなんて…総大将殿は正気なのですか!?」 「心配せずとも…私は正気だぞ…」 総大将は側近達の問い掛けに即答したのである。 「噂話では貴殿は戦闘と殺戮が大好きなのだな…手駒の将兵としては上出来だ♪是非とも本日より南軍の将兵として活動しないか?貴殿が南軍の将兵として活動すれば思う存分に大暴れ出来るぞ♪」 『此奴が南軍に勧誘出来れば…百人力の戦力だからな♪』 南軍にとって月影幽鬼王の勧誘は戦力の増強も期待出来…。総大将の意向としては幽鬼王の勧誘は実現したかったのである。 「貴殿には高値の酒類も獣肉も思う存分に提供する♪条件としては悪くないだろう?貴殿の希望を優遇するが如何する?」 幽鬼王は沈黙し始める。数分後…。 「俺の目的は…敵対者の殺戮だけだ…」 幽鬼王は再度抜刀したのである。 「幽鬼王!?貴様!?」 「総大将に手出しするのか!?」 幽鬼王は総大将に斬撃する寸前…。 「幽鬼王!南軍の総大将には手出しするな!」 「ん?誰かと思いきや…」 幽鬼王は寸前で制止したのである。 「貴様等は?」 北軍の侍大将は勿論…。大勢の将兵達が天守閣に集結したのである。 「北軍の軍勢か…であれば城郭の守備隊は全滅したか?」 南軍の総大将が問い掛けると北軍の侍大将は即答する。 「城内の将兵達は…全員投降した…」 「奴等は投降したのか…」 南軍の総大将は自軍の敗北を自覚したのである。 「難攻不落とされる城郭を容易に陥落させるとは…貴様等の強大さは本物だ…大国の東国以上だろう…」 南軍の総大将と二人の側近達は北軍の強大さを認識する。 「今回の戦闘は私達南国の敗北だ…不用意に抵抗しない…私を斬首するなら思う存分に斬首せよ…」 「総大将殿!?」 「何も総大将だけが斬首なんて…私達も同様に…」 二人の側近達は総大将の意向に動揺したのである。南軍の総大将は無抵抗の意思を表明するのだが…。 「安心しなされ♪斬首は不要ですぞ…」 北軍の侍大将は笑顔で返答する。 「今回の俺達の目的は…南国の将兵達は勿論…村人達に北軍の強大さを知らしめるのが目的なのです♪敵国の総大将だとしても貴方は斬首しませんよ♪俺達にとっての本当の敵対者は仇敵の東国ですからね♪」 「東国ですか…」 南軍の総大将は一瞬沈黙するのだが…。 「私達にとっても…東国は打倒すべき敵対者です…今後は貴方達北軍とも共闘したいですな♪」 南国の総大将は満面の笑顔で返答する。 「勿論ですとも♪共闘しましょう…大敵の東国を打倒するのです♪」 結果的に難攻不落とされる城郭の突破によって南軍は敗北するものの…。南軍の総大将は間一髪命拾い出来たのである。両陣営の総大将達は和解すると北軍の将兵達は撤退を開始…。今回の戦闘は北軍の大勝利に終焉する。自軍の強大さを南国の民衆達に知らしめる北軍の主目的は見事に達成出来たのである。今回の城郭を突破した北軍の戦績は敵国である東国を戦慄させる。
第三話
進軍 世界暦四千五百五年九月二十一日…。北国の武士達は東国が牛耳る金剛山への侵攻作戦を謀議したのである。金剛山は東国の支配領域であるが金剛山を攻略出来れば無尽蔵の天道金剛石が確保出来…。東国領内への侵攻が容易くなる。北国の領主は即座に兵卒達を集結させ東国の金剛山侵攻作戦を本格的に実行したのである。北軍の本拠地である根城より大勢の兵卒達が集結する。 「全軍…覚悟せよ!」 北軍の侍大将が発言したのである。 「今回東国の金剛山を陥落させれば大量の天道金剛石も確保出来…大敵の東国を弱体化させられる絶好の機会である!総軍で奮闘すれば確実に勝利出来る戦闘であるぞ!」 直後…。北軍の兵卒達の士気が鼓舞したのである。 「金剛山を守備する東軍の総兵力は俺達よりも数倍上回るだろうが…所詮奴等は単なる烏合の衆である!相対する貴様達は百戦錬磨の歴戦の勇士達なのだぞ!貴様達歴戦の精鋭達が奮闘すれば…確実に東軍の烏合の衆を容易に蹴散らせられる!貴様等の健闘を期待するぞ…」 今回大集結した北軍精鋭部隊の総兵力は推計三百人規模…。金剛山を守備する東軍の総兵力は最低でも推計九百人規模であり主要兵力では北軍が圧倒的に不利であるものの…。今回の作戦に抜擢された北軍の兵卒達は百戦錬磨の歴戦の勇士達であり北軍最強の鬼神と呼称される月影幽鬼王も北軍の少数精鋭部隊に抜擢されたのである。 「全軍!即刻進撃を開始するぞ!目標は東軍の金剛山だ!」 侍大将を先頭に北軍は東国の支配領域である金剛山への侵攻作戦を開始する。彼等は破竹の勢いで村道を移動中…。二人の足軽が私語し始める。 「あんた…敵兵を何人打っ殺せるか…俺と一緒に競争しないか♪」 小柄の足軽が競争を提案するのだが…。大柄の足軽は嫌悪した様子で返答する。 「こんな状況下で人殺しの競争なんて…不謹慎だな…俺は一日も早く村里に戻りたいのに…競争したいなら俺以外の人間と競争しろ…」 足軽は農民が大半であり村里に戻りたい兵卒達も少なくない。大柄の足軽が返答すると小柄の足軽が…。 「あんたって図体だけは巨漢なのに随分弱腰だよな♪敵兵を二百人以上打っ殺せれば三石の米俵を獲得出来る絶好の機会なのに♪勿体無いな♪」 北国では敵国の兵卒を二百人以上殺害した場合は褒美として三石の米俵を譲渡される。敵軍の総大将…。強豪の兵卒を斬首した場合は領主の側近として一生涯従事出来る。 「人殺しの競争なんて俺は御免だね…」 大柄の足軽は競争を拒否する。 「仕方ないか♪」 すると小柄の足軽は無口の幽鬼王に競争を提案したのである。 「武士の兄ちゃんよ♪あんたは敵兵を何人打っ殺せるか…俺と仲良く敵兵打っ殺し競争しないか?折角の機会だし♪」 小柄の足軽に周囲の者達は呆れ果てる。 「はぁ…此奴は…勇気だけは一人前だな…」 『此奴は相当の命知らずだな…相手は鬼神の月影幽鬼王だぞ…殺されたいのか?』 小柄の足軽に大柄の足軽が命知らずであると感じる。すると幽鬼王が睥睨した表情で返答する。 「貴様は…鬱陶しいな…」 幽鬼王は非常に苛立った様子で返答したのである。 「貴様は私に殺されたいのか?命知らずが…」 「ひっ!俺が悪かったよ…」 幽鬼王の威厳と目力に圧倒されたのか小柄の足軽は勿論…。周囲の兵卒達が月影幽鬼王に戦慄したのである。月影幽鬼王は北軍では最強の武人である反面…。相手が味方の将兵であっても気に入らなければ問答無用に殺害する。幽鬼王が殺害を断言すると周囲の者達は即座に沈黙し始めたのである。
第四話
陥落 北軍精鋭部隊が破竹の勢いで進撃を開始してより三時間後…。彼等は北国と東国に位置する国境へと到達する。 「勇士達よ!東国の国境に到達したぞ!目的地の金剛山は間近だ!」 侍大将を先頭に北軍の精鋭部隊は再度金剛山へと直行したのである。金剛山の天辺には東軍の根城が増築され根城の表門には二人の番兵が警備する。暗闇の真夜中であるが表門の番兵達が無数の跫音に気付いたのである。 「ん?無数の跫音だ…味方の軍勢なのか?」 「こんな真夜中に味方の軍勢が大勢で行動するかな?」 彼等が疑問視した直後…。真正面の山道より大勢の武士達が天辺の根城へと突入したのである。 「なっ!?夜襲か!?ん!?」 番兵の一人が旗印を直視…。 「奴等…北国の軍勢だぞ!」 番兵達は北国の紋章を確認したのである。 「敵襲だと!?北軍の奴等だな!」 旗印を直視すると敵軍は北国の軍勢であると認識…。根城内部の兵卒達が番兵の呼号に反応したのである。 「敵襲だって…本当か!?」 「北軍が襲撃だと!?」 「北軍の奴等が!?」 「こんな真夜中に…敵襲とは…」 守備隊の兵卒達は即座に抜刀する。すると進撃中の北軍は攻城兵器である破城槌で真正面の表門を破壊…。 「城内の表門が敵軍に破壊されたぞ!」 城内の表門を突破した北軍は破竹の勢いで城内へと進撃したのである。 「全軍!東国の荒武者達を打っ殺せ!完膚なきまでに奴等を仕留めるのだ!」 北軍の侍大将が命令したと同時に北軍の足軽…。武士達が東国の兵卒達に襲撃する。一方の東軍守備隊も必死に抵抗したのである。 「根城を守備しろ!敵軍を撃退するのだ!」 根城の城内は乱戦状態であり敵味方の鮮血は勿論…。将兵達の肉片が城内全域に散乱したのである。一方北軍最強の鬼神…。月影幽鬼王は神速の身動きと達人相当の剣術を駆使しては殺到する東国の兵卒達を瞬殺したのである。 「彼奴は北国の鬼神…月影幽鬼王だぞ!」 「幽鬼王だと!?」 東軍の兵卒達は鬼神幽鬼王の出現に殲滅し始め…。彼等は身体髪膚が膠着する。一方幽鬼王は戦闘開始からの五分間で東国の兵卒達を十二人も殺害したのである。 「所詮東国の兵卒達は…」 『雑魚ばかりか…』 幽鬼王は敵兵を一蹴すると根城の最上階へと直行し始める。幽鬼王が最上階へと移動する同時刻…。根城の最上階には根城の東軍総大将と側近が停留する。 「総大将殿…敵軍は北国の少数精鋭部隊みたいです…」 「北国の少数精鋭部隊か…恐らく奴等は金剛山に埋没する無尽蔵の鉄鉱石を確保したいみたいだな…」 「即刻援軍を要請しなくては金剛山が陥落するのも時間の問題です…援軍を要請するべきかと!」 金剛山の陥落は時間の問題である。 「援軍も止むを得ないか…」 総大将は援軍の要請を決断した直後…。障子の奥側より見張り役達の悲鳴が室内全体に響き渡る。 「うわっ!」 「ぎゃっ!」 障子には鮮血の飛沫が飛散したのである。 「何事だ!?」 障子の鮮血の飛沫を直視すると総大将と側近は畏怖する。 「ひっ!」 「狼狽えるな…根城は鉄壁の城郭なのだ…短時間で落城するか…」 総大将は恐る恐る護身用の懐刀を抜刀したのである。 「敵軍の兵卒か…」 すると血塗られた何者かにより障子が蹴破られる。 「貴様は一体…何者だ!?」 鬼神を連想させる甲冑を装備した一人の武士が出現したのである。武士の右手には鮮血により赤色に染色した刀剣が確認出来る。 「私は…北国の月影幽鬼王だ…」 幽鬼王が自身の名前を名乗ると根城の総大将と側近は極度に畏怖…。 「月影幽鬼王って…」 「貴様が北国最強の鬼神として畏怖された…月影幽鬼王なのか!?」 彼等は後退りし始める。総大将は恐る恐る幽鬼王に問い掛ける。 「貴様…城内の若武者達は如何したのだ?」 「奴等か?今頃は城内から一目散に撤退したか…主戦場で全滅しただろうな…」 総大将に問い掛けられた幽鬼王は即答したのである。 「貴様…一体如何するのだ!?」 幽鬼王は恐る恐る問い掛ける総大将に再度即答する。 「私が如何するかって?私は貴様達が重宝する東国の軍神…夜桜崇徳王みたいに相手が無抵抗でも手加減しないからな…相手が非力の老人でも子供であっても同様だ…俺は平等に仕留める…」 断言した直後…。幽鬼王は神速の身動きにより総大将と側近の頭首を斬撃したのである。幽鬼王は総大将の頭首を回収し始め…。根城の最上階から脱出する。城内での戦闘は継続中であり敵味方の兵卒達が乱戦したのである。幽鬼王は一息…。 「全軍!注目せよ!」 幽鬼王の大声に敵味方の兵卒達が幽鬼王に反応したのである。 「えっ?」 「一体何事だ!?」 「彼奴は鬼神の月影幽鬼王か!?」 幽鬼王は東国総大将の頭首を敵味方に注目させる。 「全員…此奴の頭首を直視せよ!」 北軍の兵卒達は勿論…。東軍の兵卒達も愕然とした表情で斬首された東軍総大将の頭首を直視したのである。 「えっ…ひょっとして総大将の頭首…」 「なっ!?総大将が…」 「総大将は北軍の兵卒に斬首されたのか!?」 「俺達は北軍に…敗北したのか…」 総大将の戦死により東軍守備隊の兵卒達は絶望し始め…。一目散に根城から逃走したのである。 「敵軍が撤退したぞ!俺達の大勝利だ!」 北軍の将兵達は撤退し始めた東軍守備隊の兵卒達に大喜びする。 「金剛山は俺達の領地だぞ!」 北軍の大勝利に侍大将は勿論…。味方の兵卒達は大喜びしたのである。侍大将は大勝利の貢献者である幽鬼王に近寄る。 「月影幽鬼王♪大変見事だったぞ!今回の大戦果だ…敵軍の総大将を仕留めた貴殿は次期領主に確定したからな♪」 すると幽鬼王は無表情で返答する。 「生憎だが…私には一国の領主なんて不向きだ…」 「不向きだと?貴殿は領主の地位が気に入らないのか?」 北軍の侍大将は恐る恐る問い掛ける。 「当然だろう…」 幽鬼王は侍大将の問い掛けに即答したのである。 「私は敵対した人間を徹底的に斬首するだけだ…」 幽鬼王にとって地位と大名誉は無価値であり他者の殺害…。最前線での戦闘こそが彼にとっての信念であり最大の娯楽だったのである。 「私は今後も思う存分に気に入らない人間達を打っ殺せれば大満足だ…一生涯自由を束縛される一国の領主なんて地位は私には不要なのだ…」 幽鬼王の発言に一瞬畏怖するも侍大将は笑顔で…。 「月影幽鬼王よ…貴殿らしい返答だな♪貴殿は今後とも思う存分に大勢の敵兵達を仕留めるのだぞ…」 周囲の者達は幽鬼王の意向が理解出来なかったのである。 「次期領主は確定なのに勿体無いよな…幽鬼王の野郎…」 「次期頭首なんて大名誉…俺だったら大喜びだけどな…」 今回の戦闘で金剛山の根城は北軍の少数精鋭部隊に襲撃され…。金剛山は彼等によって完全に占拠されたのである。
第五話
惨殺 翌朝の九月二十二日早朝…。北軍の少数精鋭部隊は金剛山守備隊の東軍残存勢力殲滅を名目に金剛山の東側近辺に位置する小規模の村里への襲撃を実行したのである。彼等は村里を襲撃するものの…。東軍守備隊の残存勢力は皆無であり北軍精鋭部隊の襲撃によって数十人もの村人達が殺害されたのである。 「畜生が…結局東軍の残党は一目散に逃げやがったか…」 「東軍の奴等…逃走だけは一人前だな…」 彼等は東軍守備隊の残存勢力殲滅こそ達成出来なかったが…。 「ですが大量の米俵を入手出来ましたぜ♪」 「当分は大丈夫そうだな!」 大量の食糧品を確保出来たのである。村里の中心地では北軍の兵卒達が飲酒…。大声で談笑する。 『退屈だな…』 幽鬼王は中心地のとある民家にて一人で焼酎を飲酒したのである。 『近頃は相手が雑魚ばかりで面白くないな…』 幽鬼王は自身と接戦出来そうな強敵と遭遇出来ず…。内心苛立ったのである。すると二人の兵卒達が民家に進入する。 「ん?誰かと思いきや…あんたは鬼神の月影幽鬼王か…」 大柄の兵卒が幽鬼王に近寄る。 「あんたの昨日の活躍は絶大だったな♪あんたは正真正銘北国の英雄だよ♪あんたの大活躍で月影一族も当分は安泰だろうよ♪」 今度は中柄の兵卒が笑顔で発言する。 「俺もあんたみたいに主戦場で大活躍したいぜ♪俺も主戦場で幽鬼王みたいに活躍出来れば今頃は北国の時期領主確定だな♪一体如何すれば俺達みたいな凡人でも幽鬼王みたいに活躍出来るのかな?」 中柄の兵卒は大柄の兵卒に笑顔で問い掛ける。 「俺達では頑張っても鬼神の幽鬼王みたいに大活躍するなんて不可能だろうぜ♪」 「幽鬼王は伝説の神童かな?やっぱり俺達とは別次元だな♪」 彼等は愉快に談笑したのである。すると幽鬼王は無表情で…。 「私は単純に気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…私にとって地位も大名誉も無価値であり無用の長物なのだ…」 戦闘こそが幽鬼王にとっての娯楽である。地位やら大名誉は幽鬼王にとっては不要以外に他ならない。 「地位と名誉が無用の長物だって?」 『此奴は…本当に戦闘以外では無関心だな…一匹狼だし…』 二人とも幽鬼王が戦闘以外の物事には極度の無関心であると感じる。 「ん?」 すると突然…。民家の板戸より物音が響き渡る。 「誰だ?」 「此奴は…村里の小娘か?」 彼等は板戸の少女に注目する。 「はぁ…はぁ…」 民家の板戸より血塗れの着物姿の少女が民家の玄関口へと進入したのである。 「如何やら此奴は村里の子供みたいだな…」 「村里の小娘か?包丁なんて…随分と物騒だな…着物も血塗れだし…」 少女の左手には血塗れの出刃包丁が確認出来る。 「あんた…あんたね…」 少女は幽鬼王を凝視し始め…。睥睨したのである。 「あんたが…あんたが私の父ちゃんと母ちゃんを殺した武士ね…」 少女は鬼神を連想させる形相で力一杯幽鬼王を睥睨し続ける。 「村里の嬢ちゃんよ…相手は北軍最強の武人だぜ♪嬢ちゃんみたいな小娘なんて簡単に打っ殺されちまうぞ♪」 「譲ちゃんには警告するが…此奴はあんたみたいなひ弱の子供が相手でも容赦しないからな♪死にたくなかったら即刻逃げちまいな♪こんな場所で長居し続ければ嬢ちゃんは命拾い出来なくなるぞ…」 二人の兵卒は少女に警告したのである。一方の少女は二人の警告には無反応…。 「此奴は…俺達の警告を無視かよ…」 「気に入らない譲ちゃんだぜ…大怪我しても知らないぞ…」 少女は只管に幽鬼王を睥睨し続ける。 「ん?幽鬼王?」 幽鬼王は無表情で少女に近寄る。 「幽鬼王の野郎…譲ちゃんに何を?」 すると少女は恐る恐る…。 「如何して…如何してあんたは私の父ちゃんと母ちゃんを惨たらしく殺したのよ?私の父ちゃんと母ちゃんは何一つとしてあんた達には迷惑なんて…」 少女は目前で父親と母親が惨殺されたのである。 「如何して…私の父ちゃんと母ちゃんを殺したのよ?」 少女の涙腺から涙が零れ落ちる。 「であればあんたも地獄の世界で父ちゃんと母ちゃんに再会しな…両親に笑顔で出迎えられるかも知れないぜ…」 「えっ?」 幽鬼王は即座に刀剣を抜刀すると無表情で少女の頭首を一刀両断…。室内には彼女の鮮血が飛散する。 「えっ…幽鬼王…」 『此奴は小娘を打っ殺しちまうとは…』 「幽鬼王…本当に無慈悲だな…」 『幽鬼王の野郎…こんな非力の子供を相手にも容赦しないとは…』 二人の兵卒達は相手がひ弱の子供でも容赦しない幽鬼王に畏怖し始め…。無慈悲の幽鬼王に嫌悪したのである。 「幽鬼王…何も殺さなくても…相手はひ弱の子供だぜ…」 「あんたは本当に無慈悲の鬼神だな…非力の子供にも容赦しないとは…」 二人の兵卒達は何故月影幽鬼王と呼称される人物が無慈悲の鬼神として畏怖されるのか理解する。二人は警戒した様子で恐る恐る幽鬼王から後退りしたのである。 「であれば今度は…貴様達も先程の小娘みたいに斬首されたいか?」 「ひっ!」 「此奴は本気だ!逃げろ!」 幽鬼王に畏怖した二人の兵卒達は一目散に逃走する。 『此処は戦場なのに…所詮奴等も小心者だな…』 幽鬼王は一目散に逃走する兵卒達に呆れ果てる。
第六話
討伐部隊 北軍の精鋭部隊が村里を占拠した同時刻…。東国の中心地に位置する東軍本拠地では北国の領土拡大により東軍の根城全体が大騒ぎする。 「北軍の領土拡大なんて本当なのかよ!?」 「如何やら北軍の領土拡大は事実らしいぞ…敗残兵の報告では金剛山の根城が奴等の少数精鋭の軍勢によって陥落したって内容だ…」 「金剛山守備隊の総大将も敵兵によって斬首されたらしいな…」 「金剛山の総大将が斬首されちまったのかよ!?」 「此奴は一触即発の一大事だな…」 「金剛山が陥落したとすれば…今度は東国本土が進撃されるぞ…」 東軍の領主達は北軍の進撃に畏怖したのである。東国の領主達は即座に北軍の討伐部隊を新編成する。一番に北軍討伐部隊に抜擢されたのは東国の軍神と呼称される夜桜崇徳王である。夜桜崇徳王は東軍最強の若武者であり各地の主戦場で大活躍した随一の剣豪の一人…。愛刀である天道金剛石の刀剣と鬼神を連想させる甲冑の装備が特徴的である。若武者の崇徳王以外には推計八百人もの精鋭達が北軍討伐部隊として抜擢される。東国中心地の根城より北軍討伐部隊が集結する。 「俺達は即刻東国の領内に侵攻する北軍の軍勢を撃退する!全軍で奮闘すれば確実に撃退出来る戦闘であるぞ!貴様等勇士達の奮闘を期待する!北軍の進撃を徹底的に阻止するのだ!」 東軍の北軍討伐部隊は侍大将を先頭に総勢八百人もの兵卒達が追尾したのである。東軍の北軍討伐部隊は破竹の勢いで移動中…。崇徳王に隣接する若齢の足軽が恐る恐る問い掛ける。 「あんたは名門の夜桜一族の…夜桜崇徳王様だよな?」 すると崇徳王は即答したのである。 「勿論ですが…如何されましたか?」 若齢の足軽は小声で…。 「こんな場所で発言するのも不謹慎だろうが…正直あんたは自分の村里へは戻りたくないのか?俺は正直…村里に戻れるのであれば一目散に戻りたい気分だよ…」 「えっ…」 崇徳王は足軽の問い掛けに一瞬沈黙するものの…。 「正直私は…祖国なんかよりも武陵桃源の西国に安住したいですね…」 足軽は崇徳王の本音が予想外だったのか一瞬驚愕する。 「えっ?あんたは西国の村里に?意外だね…」 西国は戦乱時代では唯一の武陵桃源と命名される山間部であり人口は少数である。今現在西国では一度も戦闘が発生せず…。近隣の村里では俗界の武陵桃源やら極楽浄土と呼称される。 「如何して崇徳王様は西国の村里なんかに?あんたは自分自身の祖国に戻りたくないのか?」 崇徳王は困惑した表情で…。 「正直私にとって東国の風習は堅苦しくて苦痛なのです…出来るのであれば物静かな武陵桃源の土地で安住したいですね…」 崇徳王にとって東国の風習は堅苦しく人一倍苦痛だったのである。 『私は金輪際誰にも…束縛されたくないからな…』 崇徳王は戦乱時代が無事に終焉したら何者にも束縛されない物静かな場所に安住したいと思考する。 「武陵桃源ですか…」 すると足軽は笑顔で発言したのである。 「崇徳王様よ♪東国が無事に天下統一出来れば…武陵桃源の西国で安住しなされ♪」 「感謝します♪私も貴方様の無事を切願しますよ♪無事に村里に戻りましょう♪」 「崇徳王様♪勿論俺も崇徳王様の無事を切願しますぜ♪」 「感謝しますよ♪」 彼等は意気投合…。握手したのである。
第七話
衝突 東軍の北軍討伐部隊は本拠地から移動してより三時間後…。周囲は非常に物静かであり清涼の風音が響き渡る。東軍の北軍討伐部隊は金剛山の近辺に位置する村里の郊外へと到達するのだが…。 「なっ!?」 「村里では一体何が発生したのか?」 彼等が直視したのは荒廃化した村里である。人気は皆無であり腐敗した鮮血の悪臭が村里全体に蔓延する。 「腐敗した鮮血の悪臭でしょうか?如何やら村里は北軍の奴等に襲撃されたみたいですね…」 崇徳王は一瞬両目を瞑目し始め…。 『村里の内部からは無数の殺気を感じられる…村里では一体何が?』 崇徳王は幼少期から気配やら殺気を察知する感知能力が人一倍顕著であり敏感である。すると侍大将が恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「夜桜崇徳王よ…此処からの距離で敵軍の総兵力が何人なのか判別出来るか?」 侍大将に問い掛けられた崇徳王は即座に返答する。 「気配から判断して…敵軍の総兵力は推定三百人前後かと…人数的に凄腕の者達でしょうね…」 「敵軍の兵力は三百人前後か…恐らくは敵軍の最精鋭部隊だろうな…」 周囲の兵卒達は崇徳王に驚愕したのである。 「崇徳王はこんな場所からでも気配だけで敵軍の人数を判断出来るのか!?」 「相手の実力も察知出来るなんて…」 「本当に人間なのか?此奴は?」 「夜桜崇徳王は妖怪の間違いでは?」 周囲の兵卒達は崇徳王が別次元の存在であると感じる。 「全軍…」 侍大将が村里への突入を合図する。 「村里の内部へは慎重に突入するのだ…敵兵を発見すれば手加減せず即座に仕留めよ…敵兵が投降するなら殺害せず拘束するのだ…各自の努力に期待する…」 北軍討伐部隊の将兵達は侍大将の合図と同時に恐る恐る荒廃化した村里へと潜入したのである。村里に突入すると惨殺された村人達の遺体は勿論…。新鮮なる肉片やら鮮血が村里の彼方此方に確認出来る。 「敵軍は村人達を無差別的に虐殺したのか…」 「北国の奴等は卑劣だな…」 一方崇徳王は仲間の将兵達と移動中…。 「えっ…」 『ひょっとして妊婦の遺体だろうか?』 崇徳王は腹部を斬撃された妊婦の遺体を発見したのである。 『奴等は無抵抗の妊婦にも手出ししたのか…』 周辺の惨劇に崇徳王は涙腺から涙が零れ落ちる。崇徳王は殺害された妊婦に恐る恐る両手で合掌したのである。先程一緒に談笑し合った足軽が恐る恐る崇徳王に近寄る。 「あんたは大勢の敵兵達からは極悪非道の荒武者だって畏怖されるみたいだが…今現在のあんたは本当に仏様だよ…」 「武人の私が仏様なんて…大袈裟ですよ…何よりも本物の仏様に失礼かと…」 『こんな私が仏様か…』 足軽の一言に崇徳王は内心嬉しくなる。 「俺達が頑張って殺し合いの世の中を終了させましょう!」 足軽の発言に…。 「勿論ですとも!こんな惨劇は二度と御免ですからね…」 『本当だよ…一日も早く私達の時代で殺し合いの世の中を終了させなくては…』 崇徳王は戦乱時代の終焉を決意したのである。 「崇徳王様!中心地に移動しましょう…俺達は仲間の将兵達と合流しなくては…」 彼等は再度村里の中心地へと直行する。一方東国の北軍討伐部隊は村里の中心地に到達したのである。村里の中心地には北軍精鋭部隊の兵卒達が潜伏中であり彼等は東国の北軍討伐部隊と対峙…。 「総大将殿…奴等は東国の軍勢ですぜ…」 「東軍の奴等か…奴等も百戦錬磨の精鋭部隊みたいだな…」 一方北軍討伐部隊の総大将は恐る恐る北軍の兵卒達に問い掛ける。 「貴様達か!?村里を襲撃したのは!?」 すると北軍の兵卒が即答する。 「勿論村人達を打っ殺したのは俺達だよ♪俺達にとって東国の領内に居住する奴等は全員殲滅の対象だからな!」 「俺達は相手が非力の女人だろうと子供だろうと一視同仁に打っ殺すぜ♪俺達に服従するなら命拾い出来るかも知れないが♪」 「貴様等も俺達に投降するなら命拾い出来るぜ♪如何するよ?」 対する北軍討伐部隊の兵卒達は彼等の言動に腹立たしくなる。 「極悪非道の外道が…」 「奴等の愚行…許容出来ないな…」 一方の北軍侍大将が刀剣を抜刀する。 「こんな場所に東軍の奴等が出向くとは…非常に好都合である♪」 すると北軍の侍大将は総攻撃を合図したのである。 「全軍!東国の奴等は憎悪すべき殲滅の対象なのだ!大勢の戦友達を惨殺した東軍の奴等を皆殺しにせよ!」 侍大将の合図と同時に北軍の兵卒達が殺到する。 「全軍!東軍の奴等を討伐せよ!」 東軍の侍大将も反撃を合図したのである。北軍の軍勢と東軍の北軍討伐部隊の軍勢が衝突…。両軍の将兵達は乱戦状態へと発展する。
第八話
贖罪 両軍が衝突し始めた同時刻…。両陣営の将兵達の雄叫びが村里全域へと響き渡り移動中の崇徳王と若齢の足軽が兵卒達の雄叫びに気付いたのである。 「如何やら中心地で戦闘が開始されたみたいですね…」 「俺達も参戦しましょう♪崇徳王様!」 「勿論ですとも!移動しましょう!」 二人は移動を開始する。すると道中…。三人の北軍将兵と遭遇したのである。 「ん?貴様達は東軍の奴等か?」 三人の将兵達は即座に抜刀する。崇徳王と若齢の足軽は警戒した様子で刀剣を抜刀したのである。 「如何やら奴等は…北軍の敵兵みたいですね…」 「如何しますかい?崇徳王様?」 若齢の足軽は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「彼等を仕留めなければ私達が殺害されます…即刻奴等に反撃しましょう…」 すると北軍の兵卒達が崇徳王の名前に反応する。 「貴様が東国の軍神…夜桜一族の夜桜崇徳王なのか?」 「こんな場所で軍神の崇徳王に遭遇するとは…」 彼等は殺気立った形相で崇徳王に睥睨し始める。 「貴様の愚行によって俺達の戦友達が大勢惨殺されたのだ!俺達は怨敵である貴様に復讐する!覚悟するのだな!夜桜崇徳王!」 崇徳王は今迄の戦闘で数十人もの敵兵達を斬殺したのである。味方の将兵達からは軍神やら英雄として扱われる反面…。各地の敵軍将兵達からは憎悪すべき怨敵の対象として認識されたのである。 「夜桜崇徳王!俺達にとって貴様は仇敵だ!覚悟せよ!」 三人の兵卒達が崇徳王に殺到するものの…。 「覚悟するのは…貴様達だ!」 崇徳王は神速の身動きにより数秒間で三人の兵卒達を瞬殺したのである。 「ぎゃっ!」 「ぐっ!」 「無念!」 彼等は崇徳王の反撃によって地面に横たわる。若齢の足軽は三人の敵兵を瞬殺した崇徳王に愕然とする。 「一瞬で三人の敵兵を秒殺するなんて…如何やらあんたが最強の軍神って呼称されるのは本当みたいだな…」 「貴方も大袈裟ですね…所詮私は一人の人間なのに…」 「崇徳王様は列記とした人間様ですけれど…」 『凡人の俺達とは次元が違い過ぎる…』 返答する崇徳王に若齢の足軽は苦笑いしたのである。 「私達は即刻討伐部隊に合流して…敵軍に反撃しなくては…」 彼等が移動する直前…。 「なっ!?」 『殺気だと!?』 崇徳王は強大なる殺気に反応する。 「如何されましたか!?崇徳王様!?」 「殺気です…」 崇徳王は強大なる殺気に気味悪くなる。 「殺気ですと?崇徳王様?」 彼等の目前より…。 「今度の相手は私だぞ…軍神…夜桜崇徳王…」 鬼神を連想させる甲冑を装備した敵軍の荒武者が出現したのである。荒武者は左手には拳銃を携帯…。右手には刀剣を装備した状態である。 「貴様は…一体?」 『此奴の雰囲気…異質的だな…殺気も其処等の兵卒達とは比較出来ない…』 崇徳王は荒武者の雰囲気から身震いし始める。 『此奴が強敵なのは確実だろうな…一体何者だ?』 崇徳王は荒武者に警戒する。一方同行者の足軽は恐る恐る崇徳王を直視…。 『軍神の崇徳王様がこんなにも畏怖するなんて…此奴は崇徳王様が畏怖する程度に強敵なのだろうな…』 足軽も荒武者に警戒したのである。すると荒武者は崇徳王を凝視し始め…。 「貴様は目障りだ…夜桜崇徳王…覚悟しろ…」 荒武者は左手の拳銃を崇徳王に発砲する。 「崇徳王様!」 若齢の足軽が咄嗟の判断により崇徳王を庇護…。拳銃の銃弾が胸部に命中する。 「ぐっ!」 若齢の足軽は銃撃され地面に横たわる。 「えっ…」 突然の出来事に崇徳王は愕然とする。 「大丈夫ですか!?」 すると若齢の足軽が重苦しい表情で恐る恐る…。 「崇徳王様が…無事で…何よりです…ぐっ!」 若齢の足軽は息絶える。 『如何して私は敵襲に対処出来なかったのだ…畜生…』 崇徳王は若齢の足軽の戦死に涙腺より涙が零れ落ちる。すると崇徳王の背後より…。敵軍の荒武者が落涙し続ける崇徳王に近寄る。 「今度こそ貴様を仕留める…東国の軍神…夜桜崇徳王…」 崇徳王は強烈なる目力で敵軍の武士を睥睨したのである。 「貴様は…」 「軍神の崇徳王よ…仲間を殺した私に復讐したいか?」 敵軍の武士は無表情で名前を名乗り始める。 「私の名前は北国の鬼神…月影幽鬼王だ…貴様も地獄の世界で先程貴様を庇護した仲間と再会するのだな♪」 普段は無表情の幽鬼王であるが…。一瞬冷笑したのである。 「貴様は…北国の鬼神…月影幽鬼王だと?」 『此奴が北軍最強の鬼神か…こんな場所で最強の鬼神と遭遇するとは…』 幽鬼王自身も東国は勿論…。南国の武士達から畏怖される武人の一人である。 「今度こそ覚悟しろ!夜桜崇徳王!」 幽鬼王は神速の身動きで崇徳王に急接近…。 「覚悟するのは貴様だ!月影幽鬼王!」 一方の崇徳王も全身全霊で幽鬼王に突撃したのである。両者の刀剣が接触…。双方が通過した数秒後である。 「ぐっ!」 幽鬼王が胸部より出血し始め…。 「ん?」 幽鬼王は恐る恐る胸部の傷口に接触したのである。 「なっ!?崇徳王…」 幽鬼王は崇徳王の背中を睥睨した直後…。 「貴様は…俺に…致命傷を…」 幽鬼王は地面に横たわったのである。 「月影幽鬼王…残念だが…所詮貴様では私を殺せない…」 「畜生が…崇徳王…」 崇徳王は無表情で地面に横たわった状態の幽鬼王に近寄る。 「月影幽鬼王…貴殿は今迄に…大勢の兵卒達のみならず…非武装の村人達を惨殺したみたいだな…」 「俺が非武装の村人達を…惨殺だと?」 幽鬼王は崇徳王の指摘に苛立ち始める。 「所詮は…世の中に役立たない雑魚を打っ殺したから如何なるのだ?貴様は制裁として敗北者である俺を打っ殺したいのか?」 幽鬼王は苛立った様子で崇徳王に問い掛ける。 「夜桜崇徳王よ…俺を殺したければ思う存分に打っ殺せよ…」 崇徳王は一息…。地面に横たわった状態の幽鬼王に断言する。 「月影幽鬼王よ…貴殿は大悪党の一人だったが…今後は罪滅ぼしとして大勢の村人達を守護しろ…貴殿が本物の武人であるなら今度は本物の武人らしくか弱き他者に贖罪するのだ…急所は無事だ…貴殿なら崇高なる武人として遣り直せる…」 崇徳王は即座に村里の中心地へと移動したのである。 「俺が…罪滅ぼしだと?」 すると幽鬼王は全身が身震いし始める。 『何が…』 「何が罪滅ぼしだ!夜桜崇徳王!貴様だって…貴様だって今迄に数え切れない足軽を打っ殺しただろうが!」 普段は冷静であり無表情の幽鬼王であるが…。非常に感情的だったのである。 『俺だけが悪者かよ…崇徳王…所詮貴様だって俺と同類だろうが…』 今回ばかりは崇徳王の発言で幽鬼王の表情が本物の鬼神の表情へと変化する。
第九話
悲痛 同時刻…。崇徳王は主戦場へと戻ったのである。 「貴様達!今度は私が相手だ!」 すると十数人もの敵兵達が崇徳王に注目する。 「何を!?貴様!?」 「彼奴は軍神の夜桜崇徳王だ!」 「俺達の戦友を斬殺した極悪非道の冷血漢だぞ!崇徳王を打っ殺せ!」 敵兵達は崇徳王に殺到したのである。 「極悪非道なのは貴様達だ!」 一方の崇徳王は村里の中心地へと移動したのである。 「覚悟しろ!」 崇徳王は殺到する十数人もの敵兵達を無我夢中に仕留める。開戦当初こそ北軍精鋭部隊は東国の北軍討伐部隊を相手に互角以上に交戦するのだが…。 「崇徳王が参戦したのか!?」 「反撃開始だ!北軍を撃退しろ!」 剣豪である崇徳王の参戦によって東軍の北軍討伐部隊の士気が発揚したのである。崇徳王の参戦から数分間の戦闘で北軍の少数精鋭部隊は総兵力の約半分以上を喪失…。北軍の軍勢は後退したのである。 「畜生!東軍の奴等!」 「予想以上に手強いな…」 「崇徳王が参戦した影響だろうか!?」 北軍の兵卒達は東軍の必死の抵抗に疲弊する。 「総大将殿!」 すると血塗れの兵卒が恐る恐る北軍の侍大将に近寄る。 「戦闘を継続し続ければ軍勢が全滅します!金剛山の根城に撤退しましょう!」 「止むを得ないな…金剛山で奴等を迎え撃つか…」 不本意であるが北軍の侍大将は金剛山への撤退を決断する。 「全軍!一先ずは金剛山の根城に撤退するぞ!金剛山で徹底抗戦だ!」 北軍侍大将の撤退の合図と同時に北軍の軍勢は一目散に金剛山へと撤退したのである。無事に北軍の少数精鋭部隊を撃退出来…。北軍討伐部隊の兵卒達は大勝利に大喜びしたのである。北軍討伐部隊の侍大将が満面の笑顔で崇徳王に近寄る。 「今回も見事であったぞ♪崇徳王♪貴殿の活躍で敵軍を撃退出来たのだからな!」 「ですが侍大将…」 崇徳王は落涙したのである。 「えっ…一体如何したのだ?崇徳王?大丈夫か?」 侍大将は落涙し始めた崇徳王に動揺する。 「敵軍を撃退出来たとしても…」 崇徳王は恐る恐る…。 「今回の悲劇によって…大勢の戦友達は勿論…無関係の村人達が大勢惨殺されたのですから…」 戦死した足軽は勿論…。惨殺された大勢の村人達の惨劇を想起すると自身が無力であると感じる。 「私は何一つとして守護出来なかったのです…私が精一杯に奮闘すれば一人でも大勢の者達を守護出来たのでは?」 「夜桜崇徳王…其方は一人の武人として誰よりも奮闘したのは周知の事実だ…何よりも一人の人間では全員を守護するのは現実的に不可能だぞ…誰も崇徳王を悔恨しないよ…其方の孤軍奮闘で今回の戦闘は辛勝出来たのだからな…」 「侍大将…私は…」 「崇徳王…」 『崇徳王は精神的に大分疲弊した様子だな…』 侍大将は疲弊した崇徳王を気遣ったのか沈黙し始める。一方の崇徳王は数多くの惨劇の場面を直視し続けた影響からか精神的にも肉体的にも疲弊した状態だったのである。崇徳王は東側に位置するとある民家にて一休みするのだが…。 「えっ!?」 民家の居間には両目を失明した少女が血塗れの状態で床面に横たわり虫の息だったのである。 『北軍の奴等はこんなにも非力の少女にも手出ししたのか…』 崇徳王は民家の床面に横たわった状態の少女が悲痛に感じる。 『彼女は気の毒に…』 崇徳王は目の前の惨劇に落涙し始め…。 『彼女は虫の息だ…救済出来ないとは…』 床面に横たわった状態の少女に恐る恐る合掌したのである。すると直後…。 「はぁ…はぁ…私は…」 少女が再度呼吸し始めたのである。 「なっ!?」 崇徳王は吃驚する。一方失明した少女は瀕死の状態であったが小声で…。 「貴方は…」 床面に横たわった状態の少女は一休みする崇徳王に恐る恐る接触したのである。 「貴方は…味方の…将兵ですか?敵方の…将兵ですか?」 瀕死の少女に問い掛けられた崇徳王は落涙した様子で…。 「安心しなさい…私は…味方の将兵だよ…」 崇徳王は瀕死の少女の問い掛けに自身が味方の将兵であると返答したのである。 「大丈夫だから…私は貴女には手出ししないからね…」 崇徳王が返答すると少女は安心したのか微笑み始める。 「貴方は…味方の…将兵でしたか…」 直後…。瀕死だった少女は今度こそ息絶えたのである。 『彼女は…力尽きたのか…』 崇徳王は戦闘の悲惨さを再度痛感する。 『こんな悲劇は絶対に終焉させなくては…』 崇徳王は息絶えた少女に再度合掌したのである。 『村里の中心地に戻らなくては…』 家屋敷から退室する。
第十話
奪還作戦 移動してより数分後…。崇徳王は村里の中心地へと戻ったのである。一休みする侍大将に恐る恐る近寄る。 「侍大将…」 「崇徳王か…気分は大丈夫なのか?」 問い掛けられた崇徳王は即答する。 「私なら大丈夫です!」 「崇徳王♪」 『普段の崇徳王だな♪』 侍大将は崇徳王の様子に一安心したのである。 「侍大将?」 「ん?如何した?崇徳王?」 崇徳王は恐る恐る侍大将に意見する。 「即刻ですが…北軍の軍勢によって占拠された金剛山の根城を…総攻撃により奪還しましょう…」 「なっ!?金剛山の奪還だと!?」 侍大将は困惑した様子であり再度崇徳王に問い掛ける。 「今直ぐなのか!?崇徳王よ…」 「勿論ですとも!侍大将!今直ぐですよ!」 「如何するべきか?」 崇徳王の意見に侍大将は困惑したのである。 「占拠された金剛山の根城を奪還出来るのであれば即座に奪還したいのだが…生憎将兵達は先程の大激戦で体力を消耗した状態だからな…北軍から金剛山の根城を奪還するなら明日の早朝からでも…必要以上に深追いするのは…」 「明日の早朝なんて悠長過ぎます!敵軍の増援が到達すれば何もかもが水の泡なのですよ!即刻私達だけで金剛山の根城を奪還するべきかと…」 すると周囲の兵卒達も崇徳王の意見に賛同する。 「侍大将!俺は崇徳王の意見に同感します!即刻奴等から金剛山の根城を奪還しましょう!」 「俺も崇徳王と同意見ですよ!俺達だけで金剛山を奪還するのです!」 「俺達なら思う存分に大暴れ出来ますよ♪」 「金剛山から北軍の奴等を蹴散らしましょう!侍大将!」 「俺も崇徳王の意見に賛同します!金剛山は東国の拠点ですからね!」 「金剛山の奪還…今直ぐにでも実行するべきです!」 侍大将は彼等の闘志に圧倒される。 「貴様達…」 侍大将は一瞬瞑目したのである。 「止むを得ないな!即刻金剛山を奪還するか!」 奪還作戦を決断した北軍討伐部隊は即座に金剛山奪還作戦を開始する。金剛山は間近であり十数分間で到達出来たのである。北軍精鋭部隊により占拠された頂上の根城からは無数の火縄銃の銃弾は勿論…。火矢が彼方此方に乱射されたのである。北軍精鋭部隊の猛反撃により東軍の北軍討伐部隊は推計二百人以上の将兵達が死傷する。絶望的状況下であっても彼等は洗い浚い敵軍の猛攻を突破し続けたのである。金剛山の根城へと到達した東軍の北軍討伐部隊の将兵達は全身全霊で敵陣へと突入…。彼等は破竹の勢いで北軍の守備隊を圧倒したのである。剣豪の崇徳王は十四人もの敵兵達を斬殺…。根城の最上階へと単身で到達したのである。 『敵軍の総大将は…最上階だな…』 すると背後より火縄銃を発砲されるも感知能力により火縄銃の銃弾を一刀両断…。 「あんたが北軍の総大将だな…」 火縄銃で狙撃したのは北軍の侍大将である。 「此奴は東国の軍神…夜桜崇徳王か?」 侍大将は再度弾丸を再装填させる。 「今度こそ夜桜崇徳王!貴様を仕留める…軍神の貴様さえ仕留められれば東軍全体は総崩れだ…今現在貴様の生命と東国は風前の灯火であるからな!」 北軍の侍大将は余裕の様子であるが…。 「私自身の生命と東国が…風前の灯火だと?」 崇徳王は無表情であり冷静だったのである。 「無論である♪此処で主力の貴様が戦死すれば東国の大敗北は確定的だ!覚悟するのだな!東国の軍神…夜桜崇徳王!」 侍大将が再度火縄銃で崇徳王を狙撃する直前…。崇徳王は神速の身動きにより侍大将の所持する火縄銃を両断したのである。 「なっ!?私の火縄銃が!?」 「降参しろ…所詮あんたでは私は仕留められない…」 崇徳王は根城の最下層へと戻ろうかと思いきや…。 「油断大敵だぞ…軍神の夜桜崇徳王…」 「ん!?」 背後より北軍の侍大将は護身用の懐刀を携帯し始める。 「今度こそ覚悟せよ!夜桜崇徳王!」 背後から懐刀で斬撃される寸前である。崇徳王は即座に殺気を察知…。 「其方は如何して!?」 崇徳王は即座に猛反撃したのである。 「ぎゃっ!」 一方の侍大将は崇徳王の猛反撃によって胸部を斬撃される。 「無念だ…」 侍大将は崇徳王に胸部を斬撃され…。即死する。 「馬鹿者が!何故抵抗する!?」 『私に手出ししなければ無事であったのに…』 崇徳王は無表情の様子で根城の最下層へと戻ったのである。敵軍の敗残兵は北国の領土へと撤退…。北軍侍大将の戦死によって金剛山奪還作戦は東国の北軍討伐部隊の辛勝に終結する。
第十一話
因果応報 同日の真夜中である。夜桜崇徳王との一対一の戦闘で胸部を斬撃された北軍精鋭部隊の敗残兵の一人…。月影幽鬼王は血塗れの状態で東国のとある山奥の夜道を徘徊する。 「ぐっ!彼奴…」 傷口の苦痛からか幽鬼王はふら付いたのである。 『崇徳王…夜桜崇徳王…』 崇徳王の発言を想起すると幽鬼王は非常に腹立たしくなる。 「崇徳王の野郎…誰が贖罪なんて…」 『今度こそ…私が彼奴に復讐する…夜桜崇徳王…覚悟しろよ…俺が貴様を確実に打っ殺すからな…』 幽鬼王は崇徳王への復讐を決意した直後…。 「ん?」 『何事だ…』 すると周囲の夜道より胸騒ぎを感じる。 『胸騒ぎか…』 突然の胸騒ぎにより幽鬼王は周囲を警戒したのである。 『先程から空気が重苦しい…気味悪いな…』 周囲の空気も非常に重苦しく感じる。 『一体何が?』 幽鬼王は警戒した様子で恐る恐る背後を直視するのだが…。 「可笑しいな…」 『背後には何も…』 夜道の自然林から気配は感じるものの自身の背後には何も存在しない。 『連戦の影響だろうか?疲労の所為で可笑しくなったのか?』 幽鬼王は連戦の疲労による誤認識かと思いきや…。 「なっ!?」 『此奴は…』 幽鬼王の前面より一体の異形の化身が出現したのである。 『如何やら人外みたいだな…此奴の正体は一体…』 異形の化身とは全身の皮膚が血塗れであり小柄の肉体…。両目の眼球が噴出した不吉の風貌である。 『醜悪だな…』 幽鬼王は異形の化身に一瞬気味悪くなる。 『ひょっとして近頃村人達が大騒ぎした…悪霊なのか?』 幽鬼王に近寄る悪霊とは疫病神として知られる悪食餓鬼だったのである。 『此奴の名前は…悪食餓鬼だったか?』 悪食餓鬼はふら付いた身動きで幽鬼王に近寄る。 『幻覚なのか?』 彼自身悪霊の存在は否定的だったのである。 『こんなにも薄気味悪い悪霊が本当に実在するなんて…』 実際に悪霊と遭遇する以前は単なる子供騙しであると揶揄したのだが…。幽鬼王は悪霊の存在に驚愕する。 『如何して悪霊がこんな場所に出現したのか?』 幽鬼王は接近する悪食餓鬼に睥睨すると即座に抜刀したのである。 「私と勝負するか…悪霊!?」 幽鬼王は神速の身動きにより接近する悪食餓鬼の頭部を斬首…。 『他愛無いな…悪霊であっても所詮は雑魚か…』 悪食餓鬼を瞬殺したのである。 『こんな程度の脆弱さでは其処等の子供でも打っ殺せるな…所詮悪霊なんて子供騙しみたいだな…』 幽鬼王は悪食餓鬼の脆弱さに拍子抜けする。すると今度は周辺の地中より無数の悪食餓鬼が出現したのである。 「私を食い殺したいか?悪霊?」 無数の悪食餓鬼が幽鬼王に殺到するも悪食餓鬼は非常に貧弱であり簡単に仕留められる。数分間が経過すると地面には数十体以上の悪食餓鬼の肉片…。血肉が地面の彼方此方に散乱したのである。 「はぁ…はぁ…」 『終了したか?』 幽鬼王は恐る恐る地面の肉片に警戒する。 『大群でも所詮雑魚は雑魚だ…他愛無いな…』 一安心した直後…。背後より無数の悪食餓鬼が融合した一頭身の肉塊人間が出現したのである。 「畜生が…今度の相手は百鬼悪食餓鬼か…」 『此奴は先程の悪食餓鬼よりは手強そうだな…』 百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の集合体であり悪食餓鬼の亜種とされる。 「俺を敵対視するか?」 百鬼悪食餓鬼の体表の頭部が幽鬼王を睥睨し始め…。全身の頭部から高熱の火炎を放射したのである。 『火炎攻撃か!?』 幽鬼王は神速の身動きで火炎攻撃を回避する。 『此奴が相手なら多少手応えを感じられそうだな…』 神速の身動きにより百鬼悪食餓鬼に急接近すると百鬼悪食餓鬼を一刀両断…。両断された百鬼悪食餓鬼の肉体が無数の肉片へと分裂したのである。 「ん!?」 分裂した肉体が融合化すると複数の悪食餓鬼に変化する。 『今度も悪食餓鬼か…先程から鬱陶しい悪霊だ…』 幽鬼王は鬱陶しいと感じるも複数の悪食餓鬼を瞬殺したのである。 「多少は手間取ったが…悪霊なんて所詮は雑魚だな…」 『こんな脆弱さでは面白くないな…』 幽鬼王は悪霊の脆弱さに拍子抜けした様子であり呆れ果てる。 『其処等の民衆達は何故こんな雑魚に畏怖するのだ?』 悪霊は予想よりも脆弱であり如何して村里の人間達が不用意に悪霊を畏怖するのか幽鬼王には理解出来なかったのである。 『所詮悪霊なんて頑張れば其処等の子供でも仕留められる雑魚だろうに…俺には理解出来ないな…』 すると背後から別物の気配を察知…。 『今度も悪霊か?』 背後を警戒すると重厚そうな甲冑を装備した巨体の骸骨が出現したのである。 『此奴は骸骨荒武者?戦死者達の亡霊か…』 骸骨荒武者とは大勢の戦死者達の無念が融合化した超自然的存在…。別名としては髑髏武将やら戦死者の亡霊とも呼称される。骸骨荒武者の背丈は成人男性よりも一回り上回る程度に巨体である。 『悪霊でも手応えを感じられそうな相手が出現したか!』 強敵の出現に幽鬼王は内心大喜びする。 「貴様等程度で俺を相手取れるかな?」 二体の骸骨荒武者は抜刀すると鈍足で幽鬼王に殺到したのである。 『鈍間が…』 骸骨荒武者は刀剣で幽鬼王に斬撃するも容易に回避される。 「拍子抜けだな!」 『こんな鈍間の攻撃では私には通用しないぞ…』 幽鬼王は骸骨荒武者に急接近し始め…。 『挑戦する相手を間違えたな…』 全身全霊で骸骨荒武者の腹部に斬撃する。 「黄泉の地獄に戻りやがれ…悪霊風情が!」 幽鬼王は刀剣で一体の骸骨荒武者に腹部を斬撃するのだが…。 「ん!?」 骸骨荒武者の鎧兜は予想以上に硬質であり幽鬼王の刀剣が屈折したのである。 「なっ!?」 普段は冷静の幽鬼王であるが…。 『私の刀剣が…』 幽鬼王は刀剣の屈折に動揺したのである。 『刀剣がこんなにも簡単に屈折するなんて…此奴は想像以上の怪物か?』 骸骨荒武者は愕然とした幽鬼王の左腕を斬撃…。 「ぐっ!」 骸骨荒武者の斬撃で幽鬼王は左腕を切断されたのである。 『迂闊だったか…北国の鬼神である私が鈍間の悪霊を相手に左腕を…身動きが鈍間だからと油断しちまったな…』 地面は赤色の血液により染色する。 「畜生が…」 『私が本調子であれば…こんな鈍間の悪霊なんて…簡単に仕留められるのに…』 幽鬼王は最早戦闘継続は不可能であると判断…。不本意であるが一目散に逃走したのである。 「はぁ…はぁ…」 幽鬼王は悪霊の大群から逃走してより十数分後…。無数の亡者達から逃走し続けた幽鬼王であるが精神的にも肉体的にも疲弊した様子であり獣道の道中にて地面に横たわる。 「ぐっ…」 『今夜が…私の最期みたいだな…神出鬼没の悪霊なんかを相手に…』 幽鬼王は傷口からの出血多量が影響したのか瀕死寸前の状態であり肉体は刻一刻と衰弱化する。 『畜生が…』 幽鬼王は衰弱化する自身が情けなく感じる。 『夜桜崇徳王…彼奴を仕留められなかったのは…非常に心残りだな…』 自身にとって最大の怨敵である夜桜崇徳王の存在を想起したのである。自身の生命が風前の灯火であると自覚してより数分後…。 『今度は…何だろうか?』 極度の死臭と強烈なる殺気を感じる。 『極度の死臭と殺気…今度も悪霊か?今度は何が出現しやがった?』 正体不明の不吉の気配は刻一刻と地面に横たわった状態の幽鬼王に急接近したのである。気配を察知してより数秒後…。 『此奴は…』 全身が血塗れであり規格外に巨体の山犬が暗闇の自然林から出現したのである。 『山犬の…怪物か?』 巨体の山犬は殺気立った様子で幽鬼王を凝視する。 『此奴は随分と巨体だな…』 左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の山犬は正真正銘山犬の悪霊であると認識出来る。 『一夜で…こんなにも多種多様の悪霊と遭遇するとは…今夜は悪霊三昧だな…』 幽鬼王は内心自身が不運であると感じる。 『此奴も…山犬の…悪霊なのか?』 山犬の口先には咀嚼された肉片らしき物体が確認出来…。山犬の悪霊は獣類の血肉を捕食したのであると推測する。 「山犬の悪霊よ…瀕死の俺を…食い殺したいか?」 すると山犬の悪霊は人語で発言し始める。 「私は自然界の化身…邪霊餓狼だ…」 「邪霊餓狼だと?」 『此奴は悪霊の分際で…人間様の口言葉で喋れるのか?』 幽鬼王は衰弱化した小声で問い掛ける。 「邪霊餓狼だったか?人間様と会話出来るとは…貴様は一体…何者だ?」 すると邪霊餓狼は即答する。 「私は南国の荒神山で…貴様によって殺害された野良犬の亡霊である…」 邪霊餓狼の発言に幽鬼王は想起したのである。 「此奴の正体は…」 『南国の荒神山で私が打っ殺した…野良犬の亡霊だったとは…』 邪霊餓狼の前頭部を直視すると銃弾の傷跡が確認出来る。 「俺が打っ殺した野良犬の亡霊が…地獄の世界から復活しやがったのか…こんな暗闇の場所で再会するとは…奇遇だな…」 すると幽鬼王は恐る恐る…。 「邪霊餓狼…こんなにも瀕死状態の俺を…食い殺したいか?瀕死の俺を食い殺したければ思う存分に食い殺せよ…最早俺の肉体は虫の息だぜ…」 「貴様は覚悟するのだな…極悪非道の人間よ…」 邪霊餓狼は物静かな様子で返答する。 「貴様は無間地獄で無限の苦痛を体感し続けるのだ…」 幽鬼王は邪霊餓狼の発言に僅少であるが小声で冷笑したのである。 「無間地獄か…」 『無間地獄なんて…私にとっては本望だ…』 すると邪霊餓狼は無表情で発言する。 「私を銃殺した卑劣なる貴様が…私によって捕食されるとは…因果応報だな…」 「因果応報か…」 幽鬼王は邪霊餓狼の因果応報の一言に一瞬反応したのである。 『恐らくは偶然だろうが…荒神山で虫の息だった野良犬を打っ殺した俺が…野良犬の亡霊に食い殺されるとは皮肉だな…』 幽鬼王は皮肉であると感じる。 『因果応報とは…本当なのだな…』 因果応報が本当であると実感した直後…。 「貴様の肉体を頂戴するぞ…覚悟するのだな…極悪非道の人間風情よ…」 邪霊餓狼は衰弱化した幽鬼王の肉体を咀嚼したのである。
第十二話
回収 北国の鬼神月影幽鬼王が死去してより一週間後…。 『此処では無数の血の気を感じる…』 若齢の修行僧が金剛山を登山したのである。 『金剛山では一体何が発生したのか?』 登山してより一時間後…。修行僧は金剛山の頂上へと到達する。 『想像以上の惨劇だな…』 金剛山の頂上には木造の根城が確認出来るのだが…。根城の表面には飛散した鮮血が彼方此方に確認出来る。 『金剛山の根城で大勢の将兵達が殺し合ったのか…』 城内で戦死した将兵達の遺体は回収されたものの…。根城は放棄された状態であり今現在は無人地帯だったのである。 『此処で戦死された英霊達を供養しなくては…』 修行僧は恐る恐る合掌する。 「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」 念仏を唱え始める。修行僧が念仏を唱え始めてより数分後…。 『戻ろうか…』 修行僧は東国の山奥へと移動したのである。山奥を移動してより数時間後…。 「ん?」 山道にて血痕を発見する。 「血痕だ…」 『血痕は動物なのか?人間なのか?』 血痕が人間の血液なのか動物の血液なのかは不明であるが…。無数の血痕に修行僧は気味悪くなる。 『何方にせよ…大怪我したのだろうな…』 修行僧は血痕を目印に血痕の痕跡へと移動したのである。移動してより数分後…。 「なっ!?」 修行僧の目前に存在するのは獣類によって食い散らかされた武士の遺体だったのである。修行僧は遺体が戦死した武士であると確信する。 『戦死した…武士の遺体なのか!?』 遺体の状態を確認すると鎧兜と屈折した刀剣は勿論…。左腕は切断された状態だったのである。 『気の毒に…戦死された敗残兵の遺体だろうか?』 修行僧は武士が戦死したのだと予測する。 『恐らく遺体は死後に…獣類によって食い散らかされたのだろうな…』 修行僧は恐る恐る武士の遺体に合掌したのである。武士の遺体に念仏を唱え始めてより数分後…。 「えっ!?」 修行僧は驚愕する。武士の甲冑には北軍の紋章が確認出来…。甲冑は全体的に鬼神を連想させる異質的形状だったのである。 『ひょっとすると武士は北国の鬼神…月影一族の月影幽鬼王様では!?』 武士の遺体が北国の鬼神…。月影幽鬼王であると確信する。 『幽鬼王様は何故こんな状態に…此処で一体何が?』 修行僧は遺体の正体が鬼神の月影幽鬼王であると確信したのである。 『幽鬼王様…』 涙腺から涙が零れ落ちる。修行僧は北国出身であり修行中の若齢僧侶だったのである。彼自身も人一倍月影幽鬼王を神格化する一人であり北国による天下統一を夢見る。 『武神の幽鬼王様が戦死されたなんて…』 修行僧は落涙してより数分後…。 『兎にも角にも…戦死された月影幽鬼王様を手厚く埋葬しなくては…』 故人の幽鬼王を埋葬する寸前である。 「えっ…」 突如として背後より複数の人気を感じる。 『人気なのか?』 修行僧は警戒した様子で恐る恐る背後を直視…。 「なっ!?」 『彼等は虚無僧!?』 修行僧の背後には五人の虚無僧が佇立する。 「貴方達は一体何を!?」 鈍器を所持した虚無僧集団が問答無用に修行僧を殴打したのである。 「ぎゃっ!」 修行僧は問答無用に鈍器によって頭部を殴打され…。意識が消失する。 「鬼神の月影幽鬼王様を埋葬だと?愚か者が…」 「幽鬼王様の遺体を埋葬するとは邪道なり…幽鬼王様は不滅の存在なのだ…」 「であれば幽鬼王様の遺体を回収するぞ…開始するのだ…」 五人の虚無僧は鬼神月影幽鬼王の遺体を回収したのである。
第十三話
復活 世界暦四千五百二十二年六月中旬の時期…。北国の山奥に存在する洞窟ではとある白装束の虚無僧集団が集結する。 「同志達よ…全員…集結したな…」 虚無僧集団の人数は合計六人であり松明を所持する虚無僧集団の頭領が五人の虚無僧の人数を確認したのである。 「頭領…こんな暗闇の洞窟に私達を集合させるなんて…此処で一体何を?」 「今回は何事でしょうか…」 「不吉だな…村里に戻りたいよ…」 場所が暗闇の洞窟であり虚無僧の若者達は非常に不安がる。 「早速私が目的地へと道案内する…各自…私に追尾するのだ…」 「承知しました…頭領…」 頭領と五人の虚無僧は恐る恐る洞窟の奥底へと移動する。洞窟内部を移動してより数分後…。彼等が洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。 「えっ!?此奴は木乃伊ですか!?」 彼等は地面の木乃伊を直視すると一瞬戦慄する。木乃伊は山犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。 「洞窟に木乃伊なんて気味悪いですね…」 「非常に不吉ですな…」 「頭領?木乃伊は一体…誰の遺体なのでしょうか?」 虚無僧集団の一人が恐る恐る頭領に問い掛ける。 「彼こそは誰であろう私達北国の英雄であり…各地の大名達から畏怖された北軍最強の鬼神…月影幽鬼王様の遺体であるぞ!」 「なっ!?」 「木乃伊が北国の鬼神月影幽鬼王様ですか!?」 虚無僧の若者達は月影幽鬼王の名前に愕然とする。 「木乃伊の正体が幽鬼王様ですと!?」 月影幽鬼王とは名門の月影一族総本家の長男坊であり戦乱時代に活躍したとされる北軍最強の武人である。生前では北国の鬼神とも呼称され各国の領主達は勿論…。大勢の武士達からは恐怖の象徴として畏怖されたのである。弱肉強食の戦乱時代当時は北軍最強の英雄的存在として大勢の村民達から崇敬されたものの…。幽鬼王の愚行によって大勢の戦友達が惨殺されたのも周知の事実であり故郷の北国でさえも彼自身を憎悪する者達も少なくない。共存共栄の安穏時代では極悪非道の荒武者として月影幽鬼王は数多くの者達から嫌悪されたのである。世間では極悪非道の大悪党と認識される幽鬼王であるが…。一部の村里では今現在でも大悪人の彼を北国の英雄的存在として神格化し続けたのである。 「えっ…私達の英雄…武神の月影幽鬼王様は死去されたのですか?」 「非常に信じ難い出来事であるが…如何やら武神の月影幽鬼王様が死去されたのは事実みたいだ…不滅の幽鬼王様が死去されたなんて非常に遺憾であるが…」 今迄幽鬼王は失踪状態であり彼自身の生死は不明とされたのだが…。 「私達の英雄…月影幽鬼王様が死去されたなんて…」 五人の虚無僧は幽鬼王の死去に動揺したのである。 「幽鬼王様は戦死されたのでしょうか?遺体は本当に幽鬼王様本人なのでしょうか?人違いなのでは?」 一人の虚無僧は木乃伊の正体が幽鬼王本人なのか疑問視する。 「私も幽鬼王様が死去されたなんて否定したいのだが…鎧兜の形状から幽鬼王様以外の人物には該当しないのだ…今迄幽鬼王様は消息が不明だったからな…」 頭領も当初は幽鬼王の死去を疑問視するのだが…。幽鬼王の鎧兜は一般の将兵とは形状が異質的であり遺体が幽鬼王以外の人物には該当しないと結論付けたのである。金剛山での戦闘以後…。幽鬼王は北国へは戻らず彼自身の消息は不明だったのである。 「幽鬼王様が死去されたのは否定しません…ですが幽鬼王様の死因とは…一体?」 今度は別の虚無僧が頭領に問い掛ける。 「幽鬼王様の死因か…」 頭領は虚無僧の質問に即答する。 「遺体の外傷から判断して…幽鬼王様は山中の山犬によって食い殺されたのかも知れないな…人間ではこんな殺し方は出来ないだろうからな…」 幽鬼王の遺体には無数の咀嚼の痕跡が確認され…。山中の獣類に食い殺されたのだと推測する。 「非常に残念であるが…幽鬼王様は逝去されたのだ…」 頭領は幽鬼王が死去した事実に無念であると感じる。 「武神の幽鬼王様が山犬を相手に食い殺されたのですか!?最強の鬼神である月影幽鬼王様が名誉の戦死ではなく山犬によって敗死されるとは…」 「幽鬼王様が山中の山犬に食い殺されたなんて…正直信じ難いですね…」 彼自身の本当の死因こそは不明瞭であるものの…。 「無論幽鬼王様の本当の死因は不明瞭だが…」 月影幽鬼王は死亡したのだと断定する。 「勿論…月影幽鬼王様が死去された衝撃の事実を熟知するのは私達だけだぞ…何よりも十七年前に月影幽鬼王様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」 虚無僧集団の頭領は十七年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼神の月影幽鬼王を神格化した一人である。奇遇にも幽鬼王が死去した数日後に北国の山奥にて山犬によって食い殺された幽鬼王の遺体を発見…。仲間達の協力により死亡した月影幽鬼王の遺体を回収したのである。 「頭領は幽鬼王様の遺体を如何されるのですか?」 虚無僧の一人が恐る恐る頭領に問い掛けると頭領は一息する。 「黄泉の世界から死没者である月影幽鬼王様を死者蘇生の儀式によって…完全なる生身の生者として復活させるのだ…」 「なっ!?」 彼等は頭領の発言に驚愕したのである。 「最早死没者である月影幽鬼王様を…完全なる生者として復活させられるのですか!?信じ難いですね…」 「黄泉の世界の死没者を完全なる生者として復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?非現実的ですね…」 「死没された月影幽鬼王様が完全なる生者として復活されるのであれば…私達は当然として幽鬼王様の復活を熱望しますが…死者蘇生の儀式なんて成功しますかね?」 「死没者を生身の生者として復活させるなんて…神族の領域ですね…」 「死者蘇生の儀式で逝去された幽鬼王様は復活出来るのでしょうか?」 『死者蘇生の儀式なんて…多分迷信だろうな…』 周囲の者達は死者蘇生の儀式に内心胡散臭いと感じるものの…。 「鬼神の月影幽鬼王様は完全なる生者として復活出来るとも…儀式は絶対に成功する!絶対に成功させなくては!」 問い掛けられた虚無僧の頭領は即答する。 「無論であるが…黄泉の世界の死没者を生身の生者として復活させるには…相応の犠牲が必要不可欠であるが…」 「相応の…犠牲ですと?」 「儀式では一体何を?犠牲に?」 すると虚無僧の頭領は隠し持った連発銃を所持したのである。 「えっ?拳銃ですか?」 「此奴は異国の連発銃だ…此奴で貴様達の鮮血を頂戴する…北国の鬼神…月影幽鬼王様を完全なる生者として復活させるには貴様達の鮮血が必要不可欠であるからな…」 「えっ!?私達の鮮血ですと!?」 「頭領は本気なのですか!?」 虚無僧の頭領は周囲の者達の問い掛けに返答したのである。 「私は本気だとも…覚悟せよ…」 五人の虚無僧は頭領の所持する連発銃に畏怖したのか即座に逃走する。 「ひっ!頭領は本気だ!」 「俺達は頭領に殺される!逃げろ!」 五人の虚無僧は必死に逃走するのだが…。 「幽鬼王様に貴様達の鮮血を提供するのだ…貴様達は…極楽浄土で安眠せよ…」 虚無僧の頭領は背後から四人の虚無僧に発砲する。 「ぎゃっ!」 「ぐっ!」 「うわっ!」 虚無僧の頭領は連発銃の発砲により四人の虚無僧を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。 「頭領…俺を…俺を殺さないで…俺は…こんな場所では死にたくないよ…」 若者は極度の恐怖心からか身震いした様子であり涙腺からは涙が零れ落ちる。 「勿論…其方が恐怖するのは理解出来るのだが…本来死没者を復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ…」 戦乱時代以前の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに合計百人もの人間達を人身御供として利用した死者蘇生の儀式が各地の村里で実行されたのである。当時は頻繁に実行された死者蘇生の儀式であるが…。死者蘇生の儀式で特定の死没者が復活した事例は実質皆無である。非人道的理由から今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも死者蘇生の儀式は史上最悪の愚行として全面的に厳禁されたのである。 「私は今迄に合計九十五人もの人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだな…」 頭領は恐る恐る…。連発銃に弾丸を再装填したのである。 「北国の鬼神…月影幽鬼王様を完全なる生身の生者として復活させるには…生者である其方の犠牲が必要不可欠なのだ…成仏せよ…」 一発の銃弾が虚無僧の頭部を貫通…。 「ぐっ!」 『頭領…如何して?』 最後の一人である虚無僧を即死させたのである。 『死者蘇生の儀式で月影幽鬼王様を復活させるには…彼等の血液が必要だな…』 頭領は今迄に九十五人もの人間達を殺害…。幽鬼王の木乃伊に殺害した人間達の血液を含有させたのである。 『今回で五人の血液を入手出来たぞ…』 殺害した五人の遺体から血液を指先に採取…。 『五人の血液を幽鬼王様の遺体に…』 恐る恐る幽鬼王の木乃伊に接触したのである。 『北国の英雄であり…最強の鬼神…月影幽鬼王様♪』 頭領は死没者である幽鬼王の復活に期待する。 『月影幽鬼王様…黄泉の世界から俗界に戻られよ…』 儀式を開始してから一分間が経過するのだが…。 『何故だ!?幽鬼王様!?』 幽鬼王の木乃伊は復活せず何一つとして身動きしない。 「何故…月影幽鬼王様は完全なる生者として復活されないのだ!?」 『ひょっとして死者蘇生の儀式に不備が…』 すると直後である。 「えっ…」 突如として幽鬼王の遺体が炸裂し始め…。 「ひっ!」 洞窟内部に幽鬼王の腐敗した遺体の血肉が飛散する。 『一体何が…』 突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。 「なっ!?」 破裂した幽鬼王の肉片に頭領は驚愕する。 「幽鬼王様の…肉体が…破裂するなんて…」 『如何してこんな超常現象が…』 頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。 『最早こんな状態では…月影幽鬼王様は二度と生者として復活出来なくなる…』 頭領は誰よりも幽鬼王の復活を渇望する人物であったが…。幽鬼王は先程の超常現象で復活出来ないと直覚したのである。 『結局死没者を復活させる死者蘇生の儀式とは…出鱈目だったのか…』 頭領は死者蘇生の儀式が出鱈目であると直覚した直後…。 『結局…私は単なる人殺しだったのか?』 今迄の非人道的行為を後悔したのである。 『如何して私は成功しない儀式を…実行したのか?何故だ?何故私はこんな出鱈目の儀式を実行した?』 自身の行動が単なる殺人であったと自覚した直後…。頭領は背後より不吉の胸騒ぎを感じる。 「えっ…」 恐る恐る背後を直視すると背後には不定形の黒雲が存在する。黒雲の内部には無数の人面が確認出来…。黄泉の存在であると認識する。 『一体何が!?此奴はひょっとして…神出鬼没の悪霊なのか!?』 すると不定形の黒雲が人語で発言し始める。 「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの同族を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…其処等の悪霊よりも醜悪であるな…非常に滑稽だぞ…」 虚無僧の頭領は恐る恐る…。 「貴方は一体何者なのでしょうか?黄泉の…存在でしょうか?」 問い掛けられた不定形の黒雲は即答する。 「私は死没者達の亡魂…大勢の亡者達の集合体とでも…」 「亡者達の…集合体ですと?」 不定形の黒雲は自身を大勢の亡者達から誕生した集合体であると自負する。 「貴殿は…戦乱時代の月影幽鬼王と命名される…極悪非道の亡者を俗界に復活させたいみたいだな…」 不定形の黒雲に問い掛けられた虚無僧の頭領は恐る恐る返答する。 「勿論ですとも…私にとって鬼神の月影幽鬼王様は未来永劫北国の英雄的存在であり…北国にとって唯一無二の武神なのですから…」 「貴殿は自身の崇拝する月影幽鬼王を…完全なる生者として復活させて如何するのだ?貴殿の主目的とは?」 再度問い掛けられた頭領は真剣そうな表情で即答したのである。 「武神の月影幽鬼王様を全軍の総大将として…北国を中心とした桃源郷神国の天下再統一ですよ…」 「桃源郷神国の天下再統一とは…」 「今現在…東国の大名達が牛耳る安穏時代では北国と南国は賊軍ですからね…」 現実問題として世の中は勝てば官軍負ければ賊軍であり東国に敗北した北国と南国は極悪非道の賊軍として扱われ…。北国と南国出身の武士達は下級武士として其処等の村人達から迫害されたのである。 「私は東国を中心とした新時代が気に入らない…出来るなら月影幽鬼王様を中心とした大軍団で東国武士団を打倒…北国による天下再統一を実現させたいのです…」 「貴殿の野望は…北国による天下再統一か…」 「勿論ですとも…私は幽鬼王様の重臣として幽鬼王様に貢献したいのです…」 頭領が即答してより数秒後…。 「貴殿の野望…承知した…」 不定形の黒雲は頭領の野心に承諾したのである。 「貴殿の崇拝する鬼神…月影幽鬼王を俗界に復活させたいのであれば…貴殿は人柱として自身の生命力を私に授与するのだ…私に貴殿の生命力を授与すれば死没者の月影幽鬼王を黄泉の世界から復活させられるぞ…」 「私自身の…生命力ですと…」 頭領は一瞬沈黙する。 「地獄の亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠なのだ…生者の肉体を授与しなければ地獄の亡者である月影幽鬼王を復活させるのは未来永劫不可能であるぞ…如何する?自身の生命力を死没者の幽鬼王に授与するのか?幽鬼王を復活させないで命拾いし続けるのか?」 『私自身が幽鬼王様の人柱か…』 頭領は一瞬躊躇するものの…。決断したのである。 『自分自身の生命力だとしても英雄の月影幽鬼王様を復活させるのであれば…止むを得ないな…』 頭領は最早後戻りは出来ないと覚悟する。 「承知しました…最早私には選択肢は存在しません…私自身の生命力を月影幽鬼王様に授与しましょう…」 不本意であるが…。頭領は自身の生命力の授与を承諾したのである。 「であれば貴殿の生命力を代償として…亡者である月影幽鬼王を屈強なる悪霊として復活させる…」 「幽鬼王様を屈強なる悪霊ですと?」 直後…。 「なっ!?発火!?ぎゃっ!」 頭領の全身の皮膚が突発的に発火し始めたのである。 「幽鬼王様!復活されよ!」 高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生し始め…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。 「ぐっ!私は…一体…」 地面に横たわった状態の美青年が恐る恐る目覚める。 「目覚めたか…地獄の亡者…月影幽鬼王よ…」 焼死した頭領の肉体は死没者である月影幽鬼王へと変化したのである。 「如何して私はこんな場所に?」 復活した幽鬼王は素肌こそ死没者を連想させる灰白色であったが…。生前と同様の姿形に復活したのである。 「私は一体…如何してこんな場所に?私は野良犬の亡霊に食い殺されて…」 「月影幽鬼王よ…貴殿は…」 不定形の黒雲は幽鬼王に復活した経緯を一部始終説明する。 「私は黄泉の世界から神出鬼没の悪霊として復活したのか…」 「貴殿の肉体は悪霊の肉体であるが…今現在の貴殿は生前よりも強大なる存在なのだ…其処等の悪霊とは別格の霊力であるぞ…」 普段は無表情の幽鬼王であるが…。 「正直悪霊の肉体なのは気に入らないが…」 幽鬼王は冷笑したのである。 「彼奴に復讐出来るのであれば悪霊の肉体でも止むを得ないな♪彼奴に復讐するには相応しい肉体だ…」 「彼奴とは?一体何者なのだ?」 幽鬼王は即答する。 「東国の軍神…夜桜崇徳王…私が唯一憎悪する人間だ…」 「貴殿が夜桜崇徳王と名乗る人間に復讐したいのであれば…思う存分に夜桜崇徳王と名乗る人間を完膚なきまでに殲滅するのだ…」 「当然だ…貴様に命令されなくとも私は実行するさ…」 「復活した最重要条件として…」 「最重要条件だと?」 すると不定形の黒雲は復活した代償として幽鬼王に最重要条件を提示したのである。 「貴殿は愚劣なる人間達に大攻勢を仕掛けるのだ…強大なる貴殿の霊力で大勢の愚劣なる人間達を完膚なきまでに殲滅せよ!貴殿への至上命令であり悪霊である貴殿にとっての最大の使命なのだ…最強の悪霊として復活した貴殿であれば出来るだろう?北国の鬼神…月影幽鬼王よ…」 不定形の黒雲に問い掛けられた幽鬼王は一瞬沈黙するが…。 「折角復活出来たのであれば…貴様との約束は厳守するさ…安心しろ…」 両者は交渉成立する。幽鬼王は不定形の黒雲に問い掛ける。 「貴様は一体何者だ?人間達を憎悪するみたいだが…貴様の正体は…」 「私自身は悪霊の一種であり…亡者達の集合体とでも…」 幽鬼王に問い掛けられた不定形の黒雲は自身を亡者達の集合体と名乗る。 「貴様は亡者達の集合体なのか…」 数秒後…。 「月影幽鬼王よ…」 不定形の黒雲は幽鬼王に指示する。 「黄泉の世界に戻りたくなければ俗界で思う存分に人間達を殺害し続けよ…貴殿の強大さを愚劣なる人間達に知らしめるのだ…奴等を恐怖させろ!」 不定形の黒雲は消滅したのである。 「思う存分に人間達を殺害か…」 『亡者達の集合体に命令されるのは正直気に入らないが…悪霊の肉体でも折角復活出来たのだからな…思う存分に霊力とやらを活用するぜ…』 心情より人間達への殺意が芽生える。 『近日中にでも…平和を謳歌する愚劣なる人間達を思う存分に蹴散らせるか…』 幽鬼王は洞窟から脱出したのである。 『何よりも夜桜崇徳王…俺が貴様を打っ殺すからな…』 「覚悟するのだな…崇徳王…」 幽鬼王は早速行動を開始する。
第十四話
埋葬 鬼神の月影幽鬼王が完全なる悪霊として復活した同時刻…。 『此処は金剛山か…久方振りだな…』 東国の防波堤である金剛山では一人の僧侶が登山したのである。 『十七年前以来だろうか?』 僧侶とは名門の夜桜一族の夜桜崇徳王であり戦乱時代では東国の軍神として各地の大名達から畏怖される。 『戦死した英霊達を供養するか…』 崇徳王は金剛山の頂上へと到達すると荒廃した根城を眺望したのである。 『根城は以前と比較すれば随分と荒廃化したな…』 「十七年も経過すれば当然か…」 長期間の年月によって鉄壁の城壁は罅割れ…。木材は劣化した状態だったのである。崇徳王は恐る恐る罅割れた城壁に接触する。すると直後…。 『戦死した亡者達の…叫び声だろうか?』 崇徳王の脳裏より当時の将兵達の叫び声やら呻き声が響き渡る。 『やっぱり英霊達は今現在でも成仏出来ないみたいだな…』 崇徳王は戦場の光景を想起…。涙腺から涙が零れ落ちる。 「彼等を…」 『戦死された英霊達を供養しなくては…』 崇徳王は小規模であるが…。荒廃化した根城の近辺より石碑を設置したのである。 『戦死された数多くの英霊達…安眠されよ…』 崇徳王は両目を瞑目…。恐る恐る目前の石碑に合掌したのである。合掌してより数分間が経過する。 「戻ろうか…ん?」 『一体誰だろう?』 すると一人の高齢の男性が荒廃した根城を無表情で凝視し続ける。 「貴方は?」 崇徳王は恐る恐る高齢男性に近寄る。高齢男性は左目に眼帯を装着…。右腕を切断した状態だったのである。 「私は当時…北軍の一兵卒だった人間ですよ…」 高齢の男性は物静かな様子で返答する。 「貴方は当時…北軍の将兵だったのですか…」 「十七年前に此処で左目と右腕を負傷しましてね…今現在はこんな状態ですよ…」 彼自身は十七年前に北軍の将兵であったが…。金剛山での戦闘で左目と右腕を喪失したのである。 「貴方は…気の毒に…」 崇徳王は高齢男性に同情する。 「今現在では単なる農民ですがね…」 すると高齢男性は崇徳王を凝視したのである。 「和尚様?貴方は一体…何者でしょうか?」 高齢男性は崇徳王が何者なのか恐る恐る問い掛ける。 「私は当時…東軍の将兵でしたよ…」 崇徳王の返答に一瞬沈黙するのだが…。 「貴方は東軍の将兵だったのですか…当時であれば私達は敵対関係でしたね…」 高齢男性は非常に大人しい様子で発言したのである。 「今現在では私は僧侶として活動中なのですよ…金剛山で戦死された両軍の英霊達を供養したくて…此処で石碑を構築したのですよ…」 「石碑ですか…貴方は戦死した私の戦友達も供養して下さったのですね…大変感謝しますよ…和尚様…」 高齢男性は涙腺から涙が零れ落ちる。崇徳王は物静かな様子で発言する。 「私は当時…大勢の将兵達を死なせた極悪非道の罪人ですからね…僧侶として活動し始めたのも戦死された大勢の将兵達は勿論…遺族への贖罪なのですよ…」 「温厚そうな貴方が極悪非道の罪人なんて…当時は大勢の人間達が殺し合った戦乱時代なのです…仕方ないですよ…貴方が極悪非道の罪人であれば私自身も極悪非道の罪人です…喧嘩両成敗ですよ…」 高齢男性は自身を罪人だと自負する崇徳王の発言を否定したのである。 「喧嘩両成敗ですか♪」 僅少であるが…。高齢男性の発言に崇徳王は一安心したのである。 「和尚様…私は村里に戻りますね…」 高齢男性は一礼すると下山したのである。 『私も戻ろうか…』 今度こそ戻ろうかと思いきや…。 「ん?」 『気になるな…』 すると当時鬼神の月影幽鬼王と遭遇した村里の様子が気になったのである。崇徳王は即座に下山する。金剛山から下山してより一時間後…。崇徳王は目的地の村里へと到達したのである。 『此処が…当時の…』 崇徳王は内心愕然とする。今現在の村里は荒廃化した廃村の状態であり当然として人気は皆無だったのである。 『こんなにも廃村状態だったとは…』 崇徳王は恐る恐る廃村へと進入する。村内へと到達すると各家屋は当時の状態だったのである。罅割れた状態の鈍器やら木材の破片が彼方此方に確認出来る。 『当時の状態を物語るな…』 崇徳王の脳裏に当時の記憶が鮮明に再現されたのである。一通り廃村を散策してより数十分後…。崇徳王は北国の鬼神月影幽鬼王と遭遇した場所へと到達したのである。 『私は此処で…鬼神の幽鬼王と遭遇したのだな…』 恐る恐る地面を直視する。 『私は此処で…戦友を死なせたのだ…』 崇徳王は戦死した戦友の足軽を想起したのである。過去の記憶を想起すると涙腺から涙が零れ落ちる。 『私は貴方の名前を知らないなんて…』 生前に戦死した足軽の名前を熟知すべきだったと後悔する。崇徳王は先程の金剛山と同様に村里にも小規模の石碑を設置したのである。 『戦死された英霊達…逝去された村人達よ…』 崇徳王は恐る恐る合掌する。 『安眠されよ…』 合掌してより数分後…。 『今度は…西国に移動するか…』 崇徳王は西国に移動する途中である。 『北国の鬼神…月影幽鬼王は無事なのだろうか?』 崇徳王は移動中に幽鬼王の安否が気になり始める。 『私にとって幽鬼王は敵対者だったが…出来るなら彼とも再会したいな…』 当時の敵対者であるものの…。崇徳王は月影幽鬼王とも再会したくなる。
第十五話
白蛇 世界暦四千五百二十二年六月二十六日の早朝…。東国郊外での出来事である。 「えっ?何かしら?」 一人の少女が散歩中に一匹の大怪我した小体の白蛇を近所の村道で発見する。 「白蛇なのかしら?」 少女は恐る恐る小体の白蛇に接触したのである。 「気の毒に…白蛇は大怪我しちゃったのね…」 『私の妖術で白蛇の傷口を治療出来るかしら?』 少女の正体は誰であろう妖女の小梅姫…。彼女は東国の軍神である夜桜崇徳王と元祖妖女とされる桃子姫の混血であり俗界では唯一の妖女である。小梅姫の年齢は十五歳…。彼女は童顔の美少女であり東国の町民達から大変可愛がられる。 『一か八か…私の妖術で白蛇を治癒しましょう…』 小梅姫は治癒の妖術を発動…。治癒の妖術の効力からか大怪我した白蛇の傷口は完全に治癒されたのである。 『白蛇の外傷が完治したわ♪一件落着ね♪』 白蛇の傷口の完治に小梅姫は大喜びする。 『傷口は治癒出来たし♪白蛇は大丈夫みたいね♪』 すると白蛇も傷口の完治に大喜びしたのか微笑み始める。 「如何やら貴方も嬉しかったみたいね♪」 すると白蛇は何処かへと移動したのである。 『私も家屋敷に戻ろうかな…』 翌日の昼間…。 「はぁ…」 小梅姫は暇潰しに東国と西国の国境にて散歩したのである。 『正直…退屈だわ…』 小梅姫は毎日の生活が退屈に感じられ…。毎日が憂鬱だったのである。すると彼女の背後より…。 「突然失礼だけど…あんたは妖女の小娘だね…」 「えっ!?」 背後の人物の発言に小梅姫に驚愕したのである。 「貴女は誰なの!?」 『彼女…老婦っぽいわね…』 背後には背丈三尺程度の小柄の老婦らしき人物が佇立…。彼女は笑顔で小梅姫を凝視したのである。 「小娘よ…突然で失礼かも知れないけどあんたは人外の妖女だね♪」 高齢の女性は小梅姫が人外の妖女であると察知…。 「えっ…」 妖女として指摘された小梅姫は一瞬動揺する。 「如何して私が妖女だって…貴女は一体何者ですか?」 高齢の女性は外見のみなら人間の高齢女性であるものの…。 『彼女は何者なのかしら?人間っぽくないわね…』 雰囲気は異質的であり人間らしくない。 「私が誰かって♪」 小梅姫が問い掛けると高齢の女性は笑顔で即答したのである。 「私の名前は蛇体如夜叉♪神族の一人さ♪」 高齢の女性は自身を神族の蛇体如夜叉と名乗る。 「えっ!?貴女様は神族の一人ですって!?」 神族の一言に小梅姫は驚愕したのである。 「あんたは随分と大袈裟だね♪別に私が神族だからって驚愕しなくても…」 蛇体如夜叉は小梅姫の反応が大袈裟であると感じる。 「ですが神族って…伝承では太古の大昔に全滅されたと…」 神族とは数十万年前の地上世界全域を支配した伝説の人外少数種族…。多種多様の生命体の姿形に変化が可能であり摩訶不思議の特殊能力を所持する摩訶不思議の人外種族だったのである。 「太古の大昔に人間達との大戦争で私以外の神族は全滅しちゃったけれどね…」 数万年前の古代文明時代に勃発した地上世界の大戦争により大勢の神族が極悪非道の人間達に殺害され…。迫害されたのである。今現在神族で生存が確認出来るのは桃源郷神国に安住する蛇体如夜叉のみとされる。 「古代文明時代の大戦争ですか…ですが如何して摩訶不思議の特殊能力を所持する神族が非力の人間達を相手に敗北したのでしょうか?」 小梅姫の問い掛けに蛇体如夜叉は即答する。 「人間達と大戦争する以前の出来事だけどね…地上世界の大天災として認識される天空の魔獣との死闘で大半の神族が殺されちゃったのが最大の主要因だね…天空魔獣との大激戦で神族は激減しちゃったのさ…」 「天空の…魔獣ですか…」 数十万年前の太古の出来事である。地上世界の大天災として認識される天空世界より降臨した天空魔獣の出現により地上世界は荒廃化され…。天空魔獣の襲撃によって大勢の神族と人間達が殺害されたのである。天空魔獣は神族でも最高神と命名される最上位の神族の神力によって暗闇の深海底に封印されたが…。天空魔獣との死闘による悪影響から神族は総体的に弱体化したのである。 「今現在では私以外の神族は完膚なきまでに死滅しちゃったよ…私の悪友もね…」 「えっ…」 小梅姫は神族の悲劇に落涙…。非常に切なくなったのか小梅姫は小声で返答する。 「大変でしたね…神族も…」 小梅姫は蛇体如夜叉に同情したのである。すると蛇体如夜叉は恐る恐る…。 「あんたは神族の真実を信用するかい?今時は神族の伝説は子供騙しの迷信とか…根も葉もない作り話だって揶揄されるがね…」 「神族の伝説を子供騙しの迷信なんて非常に失礼ですね!私は信用しますよ!」 問い掛けられた小梅姫は神族の伝説を信用すると断言する。 「あんたは本当に純粋無垢だね♪私はあんたを気に入ったよ♪」 すると突然である。蛇体如夜叉の肉体が白煙に覆い包まれ…。全身が白色の大蛇に変化したのである。 「えっ!?蛇体如夜叉婆様が…白色の大蛇に!?」 小梅姫は白色の大蛇に変化した蛇体如夜叉に再度驚愕する。 「吃驚したかい♪白色の大蛇こそ私の本来の姿形だよ…」 蛇体如夜叉の正体は白色の蛇神であり本来の姿形は白色の大蛇であるが…。普段は小柄の老婦人として活動する。 「私と蛇体如夜叉婆様…似た者同士ですね…」 「種族こそ別物だけど…私達は人外だからね♪」 蛇体如夜叉は変化を解除…。彼女は白色の大蛇の状態から人間の老婦人の姿形に戻ったのである。 「妖女の小娘よ…あんたの名前は?」 蛇体如夜叉に問い掛けられると小梅姫は満面の笑顔で即答する。 「私の名前は小梅姫♪妖女の小梅姫です♪」 「あんたは妖女の小梅姫かね…小梅姫とは天女らしい名前だね♪」 「私が天女なんて…蛇体如夜叉婆様は大袈裟ですね♪」 『私が天女ですって♪』 小梅姫は天女の一言に赤面するも内心では大喜びだったのである。 「小梅姫…あんたは人外の妖女だからね…恐らく人間社会では今後も大変だろうが…あんたは精一杯頑張りな♪私は妖女のあんたを応援するよ♪」 「勿論ですとも♪蛇体如夜叉婆様♪」 彼女達は談笑するのだが…。 「ん?」 「えっ…」 蛇体如夜叉は恐る恐る警戒した様子で小梅姫を直視する。 「蛇体如夜叉婆様…」 「小梅姫よ…如何やらあんたも不吉の気配を感じるみたいだね…」 「胸騒ぎでしょうか?相手は人外の存在なのは確実ですね…此処では一体何が出現したのでしょうか?」 すると周囲の樹海より全身が腐敗した無数の人影が出現したのである。 「無数の…人影?」 「彼等…恐らくは神出鬼没の悪霊だね…」 「彼等は神出鬼没の悪霊!?」 無数の人影は神出鬼没の悪霊であり小梅姫と蛇体如夜叉に接近する。 「如何やら彼等は…悪霊の悪食餓鬼だね…」 暗闇の樹海から出現したのは悪霊の悪食餓鬼…。彼等はふら付いた身動きで歩行したのである。 「悪食餓鬼ですか?不吉ですね…」 悪食餓鬼とは不治の疫病…。飢餓で死去した亡者とされ悪霊の代表格である。悪食餓鬼は比較的出現頻度が多大であり各地に出没…。遭遇する確率は高確率である。 「悪食餓鬼は疫病で死んじまった亡者達の末路だよ…」 彼等は大群で小梅姫と蛇体如夜叉に接近する。 「彼等は疫病で亡くなった村人達の亡霊ですか…非常に気の毒ですね…」 小梅姫は悪食餓鬼に同情したのである。 『彼女は…こんな神出鬼没の悪霊にも同情するなんてね♪小梅姫は地上世界の天女みたいな小娘だね♪』 蛇体如夜叉は小梅姫を地上世界の天女であると再認識する。 「蛇体如夜叉婆様…彼等は私が成仏させますね…」 「小梅姫は一人で大丈夫かい?私も手伝おうか?」 小梅姫を心配した蛇体如夜叉であるが…。 「蛇体如夜叉婆様♪私は妖女ですから大丈夫ですよ♪」 悪食餓鬼の大群は彼女達に殺到する。 「貴方達…非常に気の毒だけど…御免なさいね…」 小梅姫は無数の悪食餓鬼に謝罪…。 『発火の妖術!発動!』 小梅姫は発火の妖術を発動したのである。小梅姫が発火の妖術を発動した直後…。突如として無数の悪食餓鬼が自然発火により燃焼し始めたのである。 「悪食餓鬼が自然発火したね…あんたの妖術かね?」 蛇体如夜叉は恐る恐る小梅姫に問い掛ける。 「勿論ですとも!発火の妖術ですよ…」 悪食餓鬼の大群は地獄の業火で焼死…。彼女達の周囲には数十体もの悪食餓鬼の焼死体が周辺の地面を埋没させる。 『浄化の妖術…発動!』 今度は浄化の妖術を発動すると自然界の涼風により悪食餓鬼の焼死体は半透明の霊魂に変化…。 「無数の悪食餓鬼…貴方達は完膚なきまでに成仏しなさい…」 悪食餓鬼の浄化された霊魂は消滅したのである。 「危険を回避出来ました♪樹海は安全ですよ♪蛇体如夜叉婆様♪」 悪食餓鬼は小梅姫の発動した浄化の妖術により浄化され二人は一安心する。 「小梅姫よ…あんたは神出鬼没の悪霊を浄化出来たね♪」 すると蛇体如夜叉は小梅姫に笑顔で…。 「あんたは誰よりも純粋無垢で…温厚篤実だね♪小梅姫が旧時代に存在する人間だったら…私の悪友も…」 「悪友ですって?」 小梅姫は悪友の一言が気になったのか蛇体如夜叉に問い掛ける。 「悪友って…誰ですか?」 「気にしないで…彼女は数万年前に人間達との大戦争で戦死しちゃったから…」 「えっ…戦死ですって…」 大昔の惨劇に小梅姫は絶句する。 「あんたの妖術は本物だったよ♪余計かも知れないけれど…あんたは今後とも…荒唐無稽の妖術で神出鬼没の悪霊から非力の村人達を守護しな♪悪霊征伐に貢献出来るよ♪」 『蛇体如夜叉婆様…』 小梅姫は蛇体如夜叉の発言に感化されたのか笑顔で返答したのである。 「私♪頑張ります♪蛇体如夜叉婆様♪」 今回の蛇体如夜叉との遭遇を契機に…。小梅姫は悪霊の浄化に専念し始める。
第十六話
巣窟 二日後の真夜中…。北国の山奥に位置するとある洞窟では数十人もの匪賊達が集結したのである。首領らしき巨漢の大男が周囲を確認する。 「全員集合したな…戦乱時代の同志達よ!」 彼等は戦乱時代当時に南軍と北軍として奮闘した残党勢力…。東国武士団が牛耳る世の中を憎悪する者達である。南軍と北軍の残党以外にも東国武士団の政策に反対する者達は勿論…。 「敵国だった東国の奴等が…俺達に合流するとは意外だな…」 「呉越同舟か?十数年前迄の俺達は敵対した犬猿の仲だったのに…東国の奴等と共闘出来るとは…」 当時東軍の兵卒として奮闘した下級武士達も不穏分子の彼等に合流したのである。今現在でこそ平穏の世の中であるが…。 「俺達だって今現在の東国武士団の政策は気に入らないからな…」 「俺達は戦乱時代では必死に奮闘したのに…首脳陣からの恩恵は何一つとして無いからな…大名達にとって俺達は無用の長物らしいぜ…」 「首脳陣の奴等には一喝しなければ…」 当時一兵卒として粉骨砕身した将兵達であるが…。東国武士団の政策が気に入らない者達が数多く不審に感じる者達は少なくなったのである。 「襲撃は明日の早朝だ…東国の城下町に移動後…奴等の根城を完膚なきまでに落城させるぞ…」 頭領らしき人物が計画の実行を公表する。 「武器は洞窟の奥側だ…各自確認しろ…」 首領らしき巨漢の大男が洞窟の奥側を指差すと洞窟の奥側には戦乱時代当時に使用された大砲が四門…。火縄銃が合計二十丁確認出来る。 「平和を謳歌する…東国の奴等を畏怖させるのだ…」 「戦乱時代の雰囲気を再現出来るな♪」 「面白そうだな♪城下町で思う存分に大暴れするぜ♪」 周囲の者達は大暴れ出来る絶好機に大喜びしたのである。すると直後…。 「ぐっ!」 「ぎゃっ!」 洞窟の出口近辺より二人の悲鳴が響き渡る。 「ん!?何事だ!?」 彼等は即座に洞窟の出口を注視すると二人の匪賊が何者かによって殺害され…。血塗れの状態で地面に横たわったのである。 「此奴は即死だな…」 「一体何が…ん!?」 すると出口の方向には鬼神を連想させる甲冑を装備した重厚の武士が佇立…。武士は無表情で洞窟の匪賊達を凝視したのである。 「貴様は…一体何者だ!?人間の武士みたいだが…」 「貴様は俺達の仲間を殺しやがったな!?」 匪賊達は警戒した様子で正体不明の武士に問い掛ける。 「であれば如何する?貴様等は俺に復讐するか?貴様等程度で俺を仕留められるかは保証出来ないが…」 武士は彼等に挑発したのである。 「何を!?貴様!?」 数人の匪賊達が武士の挑発に苛立ったものの…。 「あんたはひょっとして…」 一人の匪賊が武士の形相に反応したのである。 「人違いだろうか?あんたは北国の鬼神の…月影幽鬼王なのか?あんたは鬼神の幽鬼王っぽいが…」 月影幽鬼王の名前に周囲の者達が驚愕する。 「えっ!?月影幽鬼王だって!?」 「幽鬼王って…北国の鬼神って畏怖された武士の名前か!?」 「此奴が…北国の月影幽鬼王なのか!?」 一方の武士は無表情で…。 「俺は月影幽鬼王だ…今現在は列記とした死没者だが…」 武士の正体とは北国の鬼神として数多くの者達から畏怖された月影一族の月影幽鬼王だったのである。幽鬼王は自身を死没者であると自負する。 「死没者だって!?」 「此奴…幽鬼王は亡霊なのか!?」 「死没者って本当なのか!?幽鬼王は死んじまったのか!?」 「あんたは一体誰に殺された!?」 「ひょっとして幽鬼王は金剛山での戦闘で戦死したのか?」 亡霊の一言に周囲の匪賊達は再度反応…。極度の恐怖心から身震いし始める。 「月影幽鬼王?」 すると首領らしき巨漢の大男が恐る恐る発言する。 「今現在の幽鬼王は列記とした亡霊なのかも知れないが…今回も俺達と一緒に東国の奴等を蹴散らさないか?俺達にとっては生前のあんたは戦乱時代の同志であり戦友の一人だ…あんたが人外の亡霊だとしても俺は同志としてあんたを歓迎するよ…今回も金剛山での戦闘みたいに大暴れしないか?」 「俺が貴様等の同志だと?」 幽鬼王は同志の一言に失笑したのである。 「悪いが俺は貴様等には協力出来ない…今現在の俺は神出鬼没の悪霊だ…俺の使命は貴様等人間を排除するだけだ…」 直後…。幽鬼王は自身の霊力を駆使すると両手に雷光の刀剣を形作る。 「貴様達は列記とした人間だ…排除する…」 「なっ!?」 「幽鬼王!?貴殿は本気なのか!?」 幽鬼王は神速の身動きで彼等に急接近…。 「ぐっ!」 「ぎゃっ!」 「幽鬼王!?」 匪賊達は抵抗すら出来ず雷光の刀剣で斬殺されたのである。殺戮から数分後…。幽鬼王は地面の遺体を凝視したのである。 『一先ずは片付いたな…』 両手の雷光の刀剣は消失する。 『排除は完了したな…洞窟から脱出するか…』 幽鬼王は洞窟を脱出する直前…。 「月影幽鬼王…鬼神の月影幽鬼王よ…」 「ん?貴様は…」 突如として幽鬼王の背後より不定形の黒雲が出現したのである。 「誰かと思いきや…貴様は俺を悪霊として復活させた悪霊の集合体か…」 「如何やら使命は順調そうだな…幽鬼王とやら…」 「こんなのは序章だが…一歩出歩けば人間は其処等に存在する…こんなのは氷山の一角だな…」 「貴殿には期待するぞ…月影幽鬼王…今後とも貴殿の絶大なる霊力で愚劣なる人間達を完膚なきまでに排除するのだぞ…」 「貴様に命令されずとも…俺は…」 一瞬であるが…。幽鬼王は苛立った態度で反応する。 「私に命令されるのが気に入らないか?幽鬼王?」 不定形の黒雲は幽鬼王に問い掛ける。 「俺はあんたの目的には協力するが…俺の目的は軍神…夜桜崇徳王への復讐に他ならない…彼奴を仕留めるのが俺にとっての最大の使命だ…」 「夜桜崇徳王とは今後も遭遇出来るだろう…」 すると不定形の黒雲は自身の霊力を最大限に活用…。先程幽鬼王が殺害した匪賊達の遺体に霊力を混入させたのである。 「悪霊の集合体?貴様は一体何を?こんな無価値の奴等に自身の霊力を流し込むとは…こんな奴等に霊力を流し込んで如何する?」 幽鬼王は恐る恐る不定形の黒雲に問い掛ける。 「幽鬼王は彼等の肉体を直視し続けよ…」 「直視だと?」 幽鬼王は匪賊達の遺体を凝視し続ける。すると直後である。 「ん?」 其処等の遺体に変化が発生し始める。 「匪賊達の残骸を悪霊として活用するとは…」 匪賊達の遺体は飢餓の悪霊…。悪食餓鬼に変化したのである。 「匪賊の残骸が無数の悪食餓鬼に変化しやがったか…」 「悪食餓鬼の大群…人間達への大攻勢に彼等を活用するのだ…」 「人間達への大攻勢だと?人間達を相手にこんな奴等が役立つだろうか?悪食餓鬼は非力の子供でも仕留められる程度の雑魚だぞ…」 悪食餓鬼は生前の幽鬼王は勿論…。頑張れば其処等の子供でも仕留められる程度の脆弱さである。 「無論悪食餓鬼は一体のみならば脆弱だろうが…こんな奴等でも…生身の人間にとっては数多く投入し続ければ脅威だろうな…」 悪食餓鬼にとっての利点は微弱の霊力で利用出来…。集団で行動すれば相手が常人ならば脅威である。悪食餓鬼に捕食され…。殺害された人間は悪食餓鬼に変化する。無制限に仲間を増殖させられるのが悪食餓鬼の最大の利点である。 「こんな奴等でも…多少役立つなら活用するべきだな…」 「であれば鬼神の月影幽鬼王…貴殿の戦果には期待するぞ…生前の貴殿にとって大敵である夜桜崇徳王にも復讐するのだぞ…」 不定形の黒雲は消失…。 『止むを得ないな…行動を開始するか…』 幽鬼王は暗闇の洞窟から脱出したのである。
第十七話
暗闇 数日後の真夜中…。北国のとある山奥での出来事である。とある高齢の僧侶と若齢の修行僧が暗闇の山中を移動する。 「和尚様…寺院に戻りませんか?」 若齢の修行僧が畏怖した様子であり高齢の僧侶に密着したのである。 「其方よ…こんな暗闇で畏怖して如何するのだ?こんな暗闇程度で畏怖する様子では…其方が一人前の僧侶に昇格するには五百年は必要だな♪」 高齢の僧侶は冗談っぽく表現する。 「えっ!?五百年間も!?」 「冗談だよ♪冗談♪」 「はぁ…冗談ですか…和尚様は意地悪ですね…」 若齢の修行僧は一安心したのである。 「ですが和尚様?近頃は悪霊の出現も否定出来ません…早急に戻らないと神出鬼没の悪霊に遭遇するかも知れませんよ…」 「神出鬼没の悪霊か…」 近頃は悪霊の目撃情報も頻回であり国全体で悪霊出現の噂話が出回る。修行僧は暗闇の自然林を直視すると身震いし始める。 「悪霊が出現しそうな雰囲気ですね…」 「其方は情けないな…近頃の若者は未知の物事に畏怖し過ぎなのだ…」 「ですが私は…暗闇の場所が人一倍苦手なのです…」 「其方は暗闇の場所が苦手なのか?であれば暗闇の場所に長居し続けるのも修行の一環であるぞ♪」 高齢の僧侶は再度満面の笑顔で発言する。 「今回は其方にとって暗闇の場所を克服出来る絶好機だな♪」 「はぁ…和尚様…」 若齢の修行僧は苦笑いしたのである。すると直後…。 「ん?」 「えっ…和尚様?」 突如として高齢の僧侶は周囲に警戒したのである。 「気配か…」 「気配ですと?和尚様?」 高齢の僧侶は長年の修行により無数の気配を察知する。 「一体…何事ですか?和尚様?」 若齢の修行僧は恐る恐る問い掛ける。 「無数の気配を感じるのだ…恐らくは人外の存在だろう…」 「えっ!?人外の…存在ですと!?」 若齢の修行僧は畏怖したのか再度高齢の僧侶に密着する。二人が警戒してより数秒後…。周囲の自然林より無数の人影がふら付いた様子で二人に接近したのである。 「和尚様…何やら無数の人影が此方に接近します…」 「相手は悪食餓鬼か…止むを得ないな…」 数秒間が経過すると人影の正体とは飢餓の悪霊…。悪食餓鬼だったのである。 「ひっ!和尚様!神出鬼没の悪霊です!大群ですよ!」 若齢の修行僧は悪食餓鬼の外見に畏怖…。全身が膠着化したのである。 「仕方ないな…」 高齢の僧侶は法力を駆使する。 「大飢饉…疫病で死去された黄泉の亡者達よ…貴様等は成仏されよ…」 直後である。接近する周囲の悪食餓鬼が法力の業火によって燃焼され…。悪食餓鬼の大群は完膚なきまでに焼失したのである。 「悪霊の浄化は…完了だな…」 「えっ!?悪霊の大群が浄化された…和尚様の法力ですか!?」 若齢の修行僧は周囲の光景に驚愕する。 「私にとってこんな程度の法力…序の口だぞ…」 「序の口ですと!?」 『一体如何すればこんな法力を扱えるのだろうか?』 若齢の修行僧は高齢の僧侶が程遠い存在であると感じる。 「其方も度重なる修行を継続し続ければ…私みたいに法力を扱えるだろう…」 「私にも…法力が…」 すると今度は遠方より銃声が響き渡る。 「銃声か!?」 高齢の僧侶は法力の結界を形成…。遠方からの銃弾を無力化したのである。 「結界が間に合った…間一髪であったな…」 「銃撃ですか…」 遠方の自然林より三体もの巨体の武将が出現…。二人に接近したのである。 「うわっ!今度は髑髏の武将!?」 「彼等は骸骨荒武者か…」 「骸骨荒武者ですと?」 「彼等は戦乱時代で息絶えた戦死者達の亡霊だよ…」 「戦死者達の…亡霊ですって?」 三体の骸骨荒武者は二人を敵視…。携帯用の刀剣で斬撃し始める。 「貴様達が相手なら!」 上空全域が黒雲により覆い包まれる。 「戦死者達の亡霊よ…貴様等も成仏されよ!」 黒雲から落雷が発生…。骸骨荒武者は落雷により完膚なきまでに仕留められる。 「えっ!?三体の骸骨荒武者が…和尚様の法力ですか?」 「はぁ…はぁ…」 高齢の僧侶は体力の消耗からか深呼吸したのである。 「骸骨荒武者は悪食餓鬼よりも強力だからな…」 「ですが和尚様の法力がこんなにも強力なんて…想像以上でした♪」 若齢の修行僧は笑顔で発言する。 「今後とも真面目に修行し続ければ…其方でも私を超越出来るだろう…」 「今後とも頑張りますよ♪和尚様♪」 談笑した直後である。 「なっ!?」 「えっ!?和尚様!?」 悪食餓鬼は勿論…。骸骨荒武者をも上回る霊力を察知したのである。 「今迄以上の気配を感じる…」 「今迄以上の…今度は一体何が出現するのですか!?」 すると暗闇の自然林から一人の武士が出現する。 「えっ?武士ですと?人間っぽいですが…」 「姿形は人間の武士でも…此奴は列記とした悪霊だろう…」 『霊力は非常に強力だな…こんな悪霊が俗界に出現するとは…』 武士は鬼神を連想させる甲冑が特徴的であり全身の皮膚は死没者を連想させる灰白色である。高齢の僧侶は恐る恐る武士の悪霊に問い掛ける。 「其方…一体何者だ?其方が亡者なのは確実だろうが…」 すると悪霊の武士は名前を名乗り始める。 「私は…月影幽鬼王だ…」 武士の正体は北国の鬼神…。月影幽鬼王だったのである。 「月影幽鬼王だと!?其方が北国の鬼神か…」 高齢の僧侶は殺気立った表情で幽鬼王を凝視…。睥睨し始めたのである。 「えっ…」 『普段は大仏様みたいな和尚様の形相が…』 高齢の僧侶は鬼神の形相であり一瞬畏怖する。 「極悪非道の大悪党が…神出鬼没の悪霊として復活するとは…」 「えっ?和尚様…」 すると修行僧は恐る恐る高齢の僧侶に問い掛ける。 「極悪非道の大悪党って…和尚様?此奴と過去に何が?」 「私の女房は二十年前に…極悪非道の此奴によって殺害されたのだ…」 「えっ!?此奴が…和尚様の奥様を!?」 二十年前の出来事である。北国のとある村里にて僧侶の女房は幽鬼王の気紛れにより殺害され…。彼女の遺体は村道にて放棄されたのである。 『こんなにも暗闇の場所で仇敵の月影幽鬼王と遭遇するとは…』 一方の幽鬼王は無表情で発言する。 「人間の僧侶よ…俺に復讐したいか?」 すると直後…。幽鬼王は神速の身動きにより刀剣で僧侶の胸部を刺突したのである。 「ぐっ!」 僧侶は吐血する。 「和尚様!?」 一方の修行僧は抵抗出来ず恐怖心により全身が膠着化したのである。 「万全の状態なら貴様の法力で俺を浄化出来たかも知れないな…貴様は地獄の世界で女房に再会するのだな…」 先程の戦闘により僧侶は体力を消耗…。満身創痍の状態であり法力を駆使出来なかったのである。僧侶は重苦しい表情で身動き出来ない修行僧を凝視し始め…。 「其方は…今直ぐにでも逃げるのだ…此奴は想像以上に危険だ…僧侶の私でも対処出来ない…」 「和尚様…」 修行僧は涙が零れ落ちる。 「承知しました…和尚様…」 修行僧は落涙するものの…。必死で逃走したのである。 「僧侶…自身の生命よりも小僧の心配か…」 幽鬼王は失笑する。 「思う存分に失笑するのだな…月影幽鬼王…」 「ん?貴様?一体…何を?」 幽鬼王は僧侶の態度に一瞬警戒したのである。 「其方が神出鬼没の悪霊でも…此奴が通用するかな?」 僧侶は護身用の手榴弾を携帯する。 「貴様…手榴弾だと?こんな代物で悪霊の俺を仕留められるとでも?」 僧侶は隠し持った手榴弾に着火し始める。 「私の手榴弾は特殊性なのだ…」 『こんな場所で幽鬼王相手に駆使するとは…』 僧侶の手榴弾は自身の法力を混入させた特殊性だったのである。 「完膚なきまでに浄化されよ…大悪党…月影幽鬼王…」 「貴様…」 導火線に着火した直後…。特殊性の手榴弾は幽鬼王の目前で爆散したのである。僧侶と幽鬼王は全身の肉体諸共焼失…。地面は黒焦げに一掃されたのである。特殊性の手榴弾が炸裂してより数秒後…。炭化した状態の幽鬼王の肉片が融合化し始める。幽鬼王の肉体は数秒間で元通りに再復活したのである。 『愚か者が…人間の武器が…悪霊の俺に通用するか…』 幽鬼王は悪霊の肉体であり元通りに再復活出来たものの…。 「畜生が…」 『先程の手榴弾は僧侶の法力を混入させた特殊性だったな…俺の霊力がこんなにも弱体化するとは…』 法力の影響で霊力の大部分が一時的に浄化されたのである。 「止むを得ないか…」 『一休みしなくては…』 幽鬼王は予想外の痛手により暗闇から脱出する。
第十八話
廃城 小梅姫が悪霊の浄化に専念してより二週間後…。近頃西国と東国の国境に位置する廃村では大量の人骨やら死骸が発見されたのである。近隣の村里では無間地獄から出現した怨霊達の仕業であるとの噂話が国全体に出回る。同日の早朝には東国の連山から大量発生した悪食餓鬼の大群が隣接する各農村にて出没したのである。悪霊事件の真相が気になった小梅姫は即刻問題の廃村へと出発する。 『村人達の行方不明事件と廃村の大量の人骨…そして悪食餓鬼の大群…』 「今回の悪霊事件と関係するのか…確認しないとね!」 東国からは非常に近辺なのか徒歩でも数分間で到着する近距離である。彼女は山岳地帯から廃村の様子を眺望…。 「廃村って…」 『随分殺風景なのね…』 村里の雰囲気から過疎化した無人の城下町であり村里の中心地には古惚けた廃城が確認出来る。 『不吉だわ…神出鬼没の悪霊が出現しても可笑しくない雰囲気ね…』 誰一人として人間が存在しない無人の廃村であり無数の霊力が充満するのは察知出来る。時間帯は真昼であるものの…。 『夕方みたいな雰囲気だわ…』 廃村の雰囲気から夕方同然だったのである。 『こんな場所に長時間長居し続けると可笑しくなりそうだわ…』 小梅姫は気味悪くなる。実際問題…。廃村の空気は非常に重苦しく通常の人間であれば卒倒しても可笑しくない程度の感覚である。 『恐らく今回は今迄の悪霊とは比較出来ない悪霊が出現しそうだわ…』 「私一人で対処出来るかしら?」 村里の雰囲気から無気力化するものの…。 『村里中心部の廃城が非常に奇怪だわ…』 小梅姫は廃村の中心地に位置する廃城から強烈なる霊力を察知したのである。 『妖力を過剰に消耗するのも面倒臭いし…真正面から強行突破よ!』 彼女は鈍足であるものの…。無人の廃村へと真正面から驀進し始める。すると周囲の土中から無数の悪食餓鬼が出現…。 『悪食餓鬼の大群かしら?』 彼等は無防備状態の小梅姫へと殺到する。 『亡者の彼等にとっては私への挨拶なのかしら?』 「悪食餓鬼にとって私は大歓迎みたいね…嬉しくないけど…」 小梅姫は即座に妖力の防壁を発生させたのである。 「あんた達は気の毒だけど…此処で浄化するわね…」 今度は妖力の防壁を攻撃用に転用させた半透明の魔手を形成…。防壁の表面より無数の魔手が形作られる。半透明の魔手は外敵である悪食餓鬼の猛攻から小梅姫本体を守備しては自動的に動作し続ける。 『彼等は予想以上に大群ね…』 魔手の発動によって殺到し続ける悪食餓鬼の大群を容易に駆逐したのである。半透明の魔手に接触した悪食餓鬼は只管全身が燃焼され…。彼等の亡魂は完膚なきまでに浄化されたのである。小梅姫が通過すると大量の肉塊と鮮血が彼女の道端に散乱する。一直線に侵攻し続けると中心地の廃城へと到達する。 『廃城から強大なる霊力を感じるわね…霊力の正体は一体何かしら?』 小梅姫は恐る恐る廃城へと進入する。 『不吉だわ…』 城内は家具が散乱した状態である。 『人気は感じられないわね…』 当然であるが…。城内の居住者は誰一人として確認出来ない。 『此処って…戦乱時代で処分された根城なのかしら?』 城内は全体的に純和風ではなく異国風の雰囲気だったのである。 「異国の文化財だわ…」 『ひょっとすると廃城の城主は異国の愛好家みたいね…』 小梅姫は階段を利用しては廃城の天守閣最上階へと到達する。廃城の天守閣最上階には高価値の骨董品が多数発見されたのである。 『廃城の城主は異国の愛好家みたいだわ…』 すると室内中心部にて摩訶不思議の骨董品を一品発見する。 『一体何かしら?』 彼女が注目したのは室内の内壁に装飾された能面であるものの…。 『ひょっとして能面かしら?』 能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。 「えっ…悪趣味だわ…」 『正直能面とか鬼女の仮面って外見的にも不吉なのよね…私は大嫌いだわ…』 彼女は室内に装飾された巨大能面を非常に気味悪がり…。嫌悪したのである。 『芸術的でしょうけど…私には所有者の感受性が理解出来ないわね…』 小梅姫は迂闊にも巨大能面に接触する。 「普通の能面よりも随分特大なのね…」 『本当に能面なのかしら?単なる装飾品っぽいわね…』 先程から疑問であったのか彼女が廃城へと進入した途端に城内の霊力が一瞬で消失したのである。 「えっ?」 『霊力が感じられなくなったわ…廃城には悪霊は存在しないのかしら?』 正直納得出来ないが…。 『仕方ないわね…廃城から脱出しましょう…』 小梅姫は止むを得ず城内では霊力が皆無であると判断したのである。小梅姫は即座に外部の石庭へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ…」 突如として背後から物音が響き渡る。 『物音?』 彼女は恐る恐る背後を警戒…。先程の巨大能面に注目したのである。 『一体何事かしら?』 背後の内壁に装飾された巨大能面の両目が蛍光色に発光した状態であり八本もの蜘蛛の脚部が生成される。形状的には巨大蜘蛛の怪物であり中心部の巨大蜘蛛の胴体部分は先程の巨大能面だったのである。 『此奴はひょっとして…器物の悪霊…小面袋蜘蛛かしら!?』 油断した小梅姫は愕然とする。 『小面袋蜘蛛…』 「城内から感じられた気配の正体は此奴だったのね…」 内壁の巨大能面の正体とは器物の悪霊…。小面袋蜘蛛であり装飾品である巨大能面に死没者の亡魂が憑依した憑依系統の悪霊である。小面袋蜘蛛は特定の器物に憑依する性質上からか特定の地方では能面の付喪神とも呼称される。特定の道具への憑依が可能であり妖女である小梅姫をも油断させたのである。巨大能面である胴体部分の両目が小梅姫を凝視すると巨大能面の口先から蜘蛛の白糸を噴出し始める。 「きゃっ!」 粘着性の蜘蛛の白糸が彼女の皮膚に接触した直後…。 「えっ…」 体内の妖力が急速に消耗し始める。 『何かしら?妖力が消耗するなんて…』 消耗は妖力のみならず…。 『体力も…消耗するなんて…』 体力をも半減したのである。小梅姫は肉体の身動きすらも負担に感じられる。 「ぐっ…迂闊だったわ…」 『能面の正体が小面袋蜘蛛だったなんて…』 小面袋蜘蛛の体内から噴出される粘液は妖力を消耗させる効力を発揮出来る。妖力を多用する攻撃法では小面袋蜘蛛を攻略するのは非常に困難である。莫大なる妖力を所持…。自由自在に操作出来る小梅姫にとって小面袋蜘蛛を相手するのは相性的にも最悪であり圧倒的に不利である。 『私は小面袋蜘蛛の餌食に…』 小梅姫は莫大なる妖力の消耗によって力尽きたのか床面に横たわる。床面に横たわった状態の彼女の視界間近に小面袋蜘蛛が急接近…。 「私を捕食したければ捕食しなさいよ…小面袋蜘蛛…」 彼女は小面袋蜘蛛に食い殺されるのを覚悟したものの…。 『妖女の私が…』 「こんな悪霊を相手に敗北するなんて…」 彼女は僅少の妖力によって金縛りの妖術使用を決意する。 『止むを得ないわね…』 「一か八かよ…」 金縛りの妖術を発動すると一時的に小面袋蜘蛛は身動きしなくなる。金縛りの妖術は対象である相手の身動きを一時的に封殺出来る妖術である。 『今度は…』 今度は瞬間移動の妖術を発動…。小梅姫は即座に廃城の天守閣最上階から安全地帯へと移動したのである。小梅姫は瞬間移動の妖術の使用により廃城から無事脱出出来…。 『命拾い出来たわ…危機一髪だったわね…』 近辺の山道へと移動出来たのである。 「はぁ…」 『一瞬小面袋蜘蛛に食い殺されるかと…やっぱり私では力不足ね…』 小梅姫は自身の非力さを痛感する。 『此処は安全そうだけど…』 小梅姫は恐る恐る周囲を警戒…。無事に廃城から脱出出来たのである。 『一か八かだったけど…脱出には成功したみたいね…』 小梅姫は脱出成功に安堵するものの…。妖力の消耗によって妖術の使用は不可能であり一時的に退却を余儀無くさせられる。 『金縛りの妖術は解除されたでしょうし…即刻東国に戻らないと…』 東国の家屋敷へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 地面より数体の悪食餓鬼が小梅姫の視界間近へと突発的に出現したのである。 『今度は悪食餓鬼!?』 最早小梅姫は妖力を消耗した満身創痍の状態であり本来ならば雑魚である複数の悪食餓鬼ですらも仕留められない。 『本調子なら悪食餓鬼なんて容易に浄化出来るのに…』 本来の彼女にとって悪食餓鬼程度なら仕留められる程度の存在であるものの…。衰弱化した状態では悪食餓鬼の大群すらも脅威の対象である。 「きゃっ!」 大量の妖力を消耗した状態では悪霊では比較的最弱の部類である悪食餓鬼でさえも恐怖の対象であり小梅姫は一歩ずつ後退りする。 『私は…悪食餓鬼に捕食されるのね…』 複数の悪食餓鬼が彼女の視界間近へと殺到する寸前…。 「えっ…」 悪食餓鬼は突発的に身動きしなくなる。 『一体何が?如何して悪食餓鬼は身動きしなくなったのかしら?』 彼等の足場を直視すると白色の粘液が確認出来る。 『白色の粘液だわ…』 「此奴はひょっとして…」 彼等の背後には獲物である小梅姫を追撃する主敵の小面袋蜘蛛が急接近したのである。小面袋蜘蛛に畏怖した彼女は全身が膠着する。 「えっ!?」 『小面袋蜘蛛!?』 小梅姫は廃城からは危機一髪脱出出来たものの小面袋蜘蛛は小梅姫の妖力を目印に彼女の居場所を察知…。逃走した小梅姫の行方を見逃さなかったのである。小面袋蜘蛛は体内の白糸によって捕獲した数体の悪食餓鬼を捕食し始める。 『此奴…』 「小面袋蜘蛛は仲間の悪食餓鬼を食い殺すなんて…」 凄惨なる光景に小梅姫は恐怖したのである。最早自分自身も彼等と同様に小面袋蜘蛛に捕食されるかも知れないと思考すると希死念慮が芽生え始める。数体の悪食餓鬼を捕食した小面袋蜘蛛は目的の獲物である小梅姫に急接近…。 『私は今度こそ…小面袋蜘蛛に食い殺されるわ…』 極度の恐怖心からか小梅姫は全身が身震いした様子であり身動きしたくても身動き出来ない。すると小面袋蜘蛛の鋭利なる脚部が小梅姫の胸部を貫通させる。 「ぐっ!」 小梅姫は小面袋蜘蛛の脚部に心臓を貫通させられた直後…。彼女の胸部から大量の鮮血が流血し始める。流血により地面が赤色に染色したのである。 『私は今度こそ…小面袋蜘蛛に捕食されるのね…』 最早小梅姫は失血死しても可笑しくない致命傷であるものの…。神経の麻痺によって全身の苦痛すらも感じられなくなる。抵抗出来なくなった小梅姫は観念する。 「はぁ…」 『出来るなら私はこんな場所で死にたくなかったな…』 両目を瞑目したと同時に耳元から爆発音が響き渡る。 「えっ…」 『今度は何事かしら?爆発音?』 恐る恐る両目を開眼すれば…。 『小面袋蜘蛛が粉砕されたわ…一体如何して?』 彼女の周囲は粉砕された小面袋蜘蛛の血肉やら肉片が地面の彼方此方に散乱した状態だったのである。 「えっ?」 『誰なのかしら?』 背後には焙烙火矢を装備した僧服の小柄の男性が地面に横たわった状態の小梅姫に恐る恐る近寄る。 「貴方はひょっとして…人間の僧侶かしら?」 「小梅姫…」 「貴方は…」 「私だよ…其方の実父…夜桜崇徳王だ…」 「えっ…夜桜崇徳王って…」 僧侶の正体とは父親の夜桜崇徳王であり脆弱化した小梅姫にとって崇徳王は救済の守護神同然である。 「ひょっとして父様なの…」 「大丈夫か?小梅姫…なっ!?」 崇徳王は小梅姫の胸部の外傷を直視すると身震いする。 「小梅姫…如何してこんな状態に…一体何が?」 崇徳王は涙腺から涙が零れ落ちる。 『小梅姫が…最早こんな状態では…』 崇徳王は瀕死状態の小梅姫に絶望したのである。すると直後…。 「えっ…現実なのか?」 小梅姫の胸部の外傷は自身の妖力により数秒間で自然的に治癒したのである。 「小梅姫…傷口が…治癒した!?」 「父様…私は大丈夫よ…外傷なら自力で治癒出来るから…」 「本当に大丈夫なのか!?小梅姫…」 小梅姫は心配し続ける崇徳王に無表情で…。 「私なら大丈夫よ…父様は心配性なのね…」 小梅姫は自身が大丈夫だと断言するも呼吸が重苦しい様子だったのである。崇徳王は小梅姫が極度の疲労状態であると察知する。 『小梅姫は本当に大丈夫なのか?出血多量の影響で大分衰弱化した状態だな…』 小梅姫は肉体的にも精神的にも疲弊した状態だったのである。 「父様…感謝するわね…」 すると小梅姫は力一杯崇徳王に密着する。 「小梅姫…」 「父様…私は…もう少しで小面袋蜘蛛に食い殺されるかと…」 小梅姫は涙腺より涙が零れ落ちる。 「大丈夫だ…小梅姫…小梅姫が無事で何よりだ…」 一方の崇徳王は小梅姫の無事に安堵したのである。 「父様?」 小梅姫は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「如何した?小梅姫?」 「如何して人間の父様が強豪の小面袋蜘蛛を簡単に仕留められたのよ?妖女の私がこんなにも苦戦した強敵だったのに…初見で小面袋蜘蛛を仕留めちゃうなんて…」 「恐らくだが小面袋蜘蛛は荒唐無稽の妖力を使用しない現実的手段によって撃退出来る異質の悪霊みたいだな…今回の相手は荒唐無稽の妖術を多用する妖女では最悪の天敵だろうよ…」 「小面袋蜘蛛…私にとって最悪の天敵ね…」 妖力を使用しない現実的戦法こそが小面袋蜘蛛の弱点であると推測する。荒唐無稽の妖術を使用する妖女が相手では相性的にも最悪である反面…。武装した人間には滅法貧弱である。 「小梅姫…一人で無茶するなよ…」 「御免なさい…父様…心配させちゃったわね…」 小梅姫は崇徳王に恐る恐る謝罪する。 「悪霊の出現は深刻だからな…神出鬼没の悪霊関連は小梅姫一人で対処出来る問題じゃない…」 殺伐とした戦乱時代が無事に終焉した一方…。近年では神出鬼没の悪霊が頻発に出現し始める。悪霊の出現は国全体の大問題であり大勢の村人達は勿論…。各地の武士達は神出鬼没の悪霊の出現に常日頃から冷や冷やしたのである。 「小梅姫は誰よりも純情可憐で温厚だし…無数の悪霊から村人達を守護したい真意も理解出来るけどな…」 すると崇徳王は満面の笑顔で…。 「小梅姫は私にとっても母さんにとっても一番の宝物だからな♪極悪非道の悪霊なんかに殺されるなよ…」 「父様♪」 小梅姫は内心嬉しくなる。 「小梅姫…空腹だろう?」 崇徳王は小梅姫に俵型の麦飯を手渡したのである。 「えっ…父様?私に…麦飯を…」 「小梅姫は空腹そうだからな…遠慮せずに麦飯を食べろよ…」 「感謝するわね♪父様♪」 小梅姫は麦飯を手渡されてより数秒後…。 「はぁ…」 小梅姫は一息すると手渡された麦飯を一瞬で頬張ったのである。 「えっ…」 『小梅姫…相当空腹だったのか?』 崇徳王は麦飯を一瞬で頬張る小梅姫に苦笑いする。小梅姫は極度の不安が解消したのか再活動を開始しなければと意気込み始める。 『こんな山道で長居し続ければ…悪霊が村里全域に出没するわね…』 小梅姫の表情が険悪化したのである。崇徳王は恐る恐る…。 「ん?小梅姫?如何した?」 「父様…無数の霊力が国全体に蔓延したみたいなの…」 突如として莫大なる悪食餓鬼の気配を瞬時に察知したのである。 「霊力が国全体に!?今回は予想以上の一大事だな…」 「恐らく悪食餓鬼の仕業ね…各地の村里で大量発生したみたいだわ…」 「こんな短期間で悪霊の大群が国全体に蔓延するとは…今回の悪霊騒動は一体何が原因なのだ?神出鬼没の悪霊がこんなにも大量に出現するとは前代未聞の天変地異だな…」 「残念だけど…悪霊騒動の原因は不明なのよね…」 すると小梅姫は崇徳王に依頼する。 「父様?今回ばかりは父様の協力が必要不可欠なのよ…」 先程の戦闘によって彼女は余程自信を喪失したのである。 「勿論だとも…依頼されずとも私は小梅姫に協力するからな♪安心しろ♪」 「父様と一緒なら心強いわ♪感謝するわね♪」 崇徳王の協力に小梅姫は大喜びする。 「前代未聞の天変地異だ…亡者達の暴走を阻止するぞ!小梅姫!」 「勿論よ♪父様♪悪霊を浄化しましょう!」 小梅姫と崇徳王は早速行動を開始したのである。
第十九話
武器庫 二人は東国の城下町へと急行する。 「えっ…」 『如何してこんな…』 城下町では無数の強大なる霊力が感じられ…。無数の悪霊が彼方此方に徘徊中だったのである。 「城下町では一体何が…」 崇徳王と小梅姫は衝撃の光景に絶句する。 「此奴は戦乱時代の主戦場みたいな光景だな…」 崇徳王は城下町の惨劇に殺伐とした戦乱時代の光景を想起したのである。 「父様…戦乱時代の主戦場ですって?」 東国の城下町は主戦場であり大勢の町民達の叫び声やら悲鳴が響き渡る。最早城下町全体が弱肉強食の戦乱時代を連想させる光景だったのである。町道の地面には赤色の鮮血が飛散…。散乱した人間の臓器やら胃腸らしき肉塊が無数に飛散したのである。彼方此方の各家屋からは火の粉が確認出来る。 「ん?殺気か…」 「何かしら?」 すると二人の背後より…。 「悪食餓鬼だわ…」 「此奴は悪霊か…」 先程遭遇した悪食餓鬼の大群が爆発的に出現したらしく町民達に殺到しては町民達の人肉を捕食したのである。徘徊中である無数の悪食餓鬼が移動中の小梅姫と崇徳王に反応…。彼等は大勢で二人に襲撃したのである。 「あんた達!覚悟しなさい!」 小梅姫は火炎の妖術によって悪食餓鬼の大群を燃焼…。悪食餓鬼の大群は焼殺されたのである。 「悪霊の大群を一掃出来たわ…」 地面には悪食餓鬼の無数の焼死体が地面を埋没させる。 「今度は…」 小梅姫は悪食餓鬼の無数の焼死体に浄化の妖術を発動…。 「亡者達…成仏しなさい…」 すると悪食餓鬼の無数の焼死体は霊魂へと変化したのである。 「悪霊が消滅するとは…小梅姫の妖術なのか?」 「悪霊は浄化出来たわね…」 浄化された悪食餓鬼の霊魂は消滅する。 「小梅姫の妖術を肉眼で拝見したが…予想外に絶大だな…」 崇徳王は小梅姫の摩訶不思議の妖術に驚愕したのである。小梅姫は只管村人達の遺体を捕食し続ける悪食餓鬼の大群を相手に逆襲…。 『止むを得ないわね…』 「あんた達!覚悟なさい!」 小梅姫は不本意であるが爆破の妖術により悪食餓鬼を仕留めたのである。爆破の妖術で頭部を破壊された悪食餓鬼は途端に身動きしなくなる。 「今度も…」 小梅姫は仕留めた悪食餓鬼に再度浄化の妖術を発動したのである。自然界の冷風により悪食餓鬼の遺体は完膚なきまでに消滅する。 「悪食餓鬼が相手ならば…小梅姫の妖力は天下無敵だな…」 崇徳王は小梅姫の妖術に圧倒されたのである。 「こんな程度で天下無敵なんて…父様は大袈裟ね…」 彼女にとって通常の悪霊が相手ならば余裕であるものの…。 『正直悪食餓鬼が相手でも…妖力の消耗で息苦しいのよね…』 小梅姫は先程から重苦しい深呼吸が目立ち始める。 『小梅姫…大丈夫か?ひょっとして連戦の疲労だろうか?』 悪戦苦闘による妖力の消耗が影響したのである。 「小梅姫?」 崇徳王は恐る恐る小梅姫に問い掛ける。 「何よ?父様?」 「息苦しそうだな…大丈夫か?先程から小梅姫の顔色が…」 崇徳王は彼女の様子が気になり心配する。 「別に…私なら大丈夫よ…父様…私を心配しないで…」 「本当に大丈夫なのか?小梅姫?」 崇徳王は小梅姫の顔色が気になるのか再度問い掛ける。 「私は大丈夫だよ…父様は極度の心配性なのね…」 「無理するなよ…小梅姫…」 「私は無理しないわよ…心配しないでね…父様…」 二人は城下町の中央区へと進行するものの…。城下町の中央区では生存者は誰一人として確認出来ない。 「誰一人として領民が確認出来ないな…彼方此方が悪霊ばかりだ…」 「無人地帯だわ…領民達の居場所は?」 「領民達は根城に避難したみたいだな…最早東国は悪霊の巣窟だ…」 今現在の城下町は無数の悪霊が徘徊する魔窟同然だったのである。 「領民達は無事避難したのね…」 小梅姫は一安心する。すると崇徳王は彼女に助言したのである。 「小梅姫の妖力は非常に強力だが…油断すれば悪食餓鬼が相手でも苦戦するかも知れないからな…小梅姫も護身用の武器を装備するべきだ…妖力の消耗も気になるし…」 「護身用の武器ですって?」 「小梅姫の妖術が非常に強力なのは事実だが…必要以上に妖術を過信するのは危険過ぎる…正直妖力の消耗で限界なのだろう?」 「えっ…」 小梅姫は崇徳王の指摘に絶句する。 「如何やら図星みたいだな…小梅姫…」 崇徳王は小梅姫が妖力の消耗により限界であると察知したのである。 「今後は先程の小面袋蜘蛛みたいに…荒唐無稽の妖術では対処出来ない相手だって出現するかも知れないからな…備えあれば患いなしだぞ…小梅姫…」 「小面袋蜘蛛…」 一瞬だが小梅姫は小面袋蜘蛛の名前に反応する。 「余計かも知れないが念には念を入れよ…小梅姫…」 「承知したわ…父様…」 小梅姫は承諾したのである。 「私が武士団の駐屯地に案内するぞ…」 崇徳王は東国武士団の駐屯地へと案内する。 「廃屋だわ…人気は無さそうね…」 「駐屯地も悪霊の大群に襲撃されたからな…」 如何やら駐屯地は無人地帯であり駐屯地の守備隊は悪食餓鬼の襲撃により撤退…。彼等も本拠地である東国の都城へと移動したのである。 「武士団の守備隊は退却したのかしら?」 「今回の相手は悪霊の大群だからな…東国の武士達が屈強でも相手が大群では対応するのは困難だろうよ…」 最早武器庫は警備が手薄状態であり無力の町民でも容易に潜入出来る。 「先程は私も武器庫で焙烙火矢を入手出来たからな…」 小梅姫は恐る恐る慎重に武器庫へと入室する。 「武器庫にはこんなにも無数の武器が…」 駐屯地の武器庫には多種多様の刀剣やら弓矢が確認出来る。火薬を使用する火縄銃やら焙烙火矢は勿論…。異国で製造された最新式の拳銃も確認出来る。 「小梅姫…異国の拳銃でも装備するか?此奴なら小梅姫でも簡単に扱えそうだが…」 崇徳王は比較的素人でも扱えそうな軽量の拳銃を小梅姫に手渡したのである。 「拳銃なんて随分と物騒ね…正直私には不向きだわ…」 小梅姫は体術やら武術が人一倍苦手であり拳銃の使用を拒否する。 「私は…」 小梅姫は軽量の小刀を発見…。 「私は護身用の小刀を所持するわ…」 「小刀か…」 小梅姫は護身用に軽量の小刀を携帯したのである。 「小刀でも其処等の悪食餓鬼程度なら仕留められるか…」 「気味悪いし駐屯地から脱出しましょうよ…父様…」 「武器庫に長居し続けても仕方ないからな…武器庫から脱出するか…」 小梅姫は退室する直前…。 「えっ?物音だわ…一体何かしら?」 「ん?何事だ?物音だって?」 廊下より物音が響き渡る。 「物音は廊下からだな…今度は何が出現したのか?」 「無数の霊力だわ…」 「無数の霊力だと?今度も悪霊の大群だろうか?」 小梅姫は無数の霊力を瞬時に察知したのである。 『無数の霊力が一点に集中した状態だわ…今度は何が出現したのかしら?』 小梅姫と崇徳王は警戒した様子で恐る恐る武器庫から脱出…。すると直後である。 「此奴は怪物かしら!?」 『悪食餓鬼とは別物だわ…此奴はひょっとして…』 小梅姫の視界間近に佇立する怪物とは無数の悪食餓鬼が融合化した一頭身の肉塊人間…。肉塊の怪物は等身大の人間よりも一回り巨体であり廊下を牛歩したのである。すると小梅姫の背後より…。 「此奴は悪霊の…百鬼悪食餓鬼だったな…」 「父様…厄介なのが出現したわね…百鬼悪食餓鬼と遭遇するなんて…」 体表の悪食餓鬼の頭部が小梅姫と崇徳王を睥睨し始める。 『私が万全の状態であれば…悪食餓鬼の集合体なんて楽勝に仕留められるでしょうけれども…』 今現在の小梅姫では百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは困難である。 「奴等は熱風を!?」 すると百鬼悪食餓鬼は全身の口先から高熱の熱風を放射し始める。 「父様!」 小梅姫は咄嗟に妖力によって妖力の防壁を形成させたのである。無防備である崇徳王にも防壁の形成によって彼を守護する。 「父様…命拾い出来たわね…」 「小梅姫…感謝する!」 小梅姫は防壁の形成に成功したものの…。 『先程の同時結界で大半の妖力を消耗しちゃったのよね…』 今現在小梅姫の妖力は空っぽの状態である。 『妖術は発動出来ないわね…』 悪食餓鬼の親玉である百鬼悪食餓鬼と交戦したとしても敗北は濃厚であると判断…。小梅姫は崇徳王に逃亡を合図したのである。 「父様!即刻退却しましょう…」 「退却だと?」 崇徳王は小梅姫の様子を直視すると彼女は満身創痍の状態であると察知する。 『小梅姫…』 「承知したぞ…小梅姫…」 小梅姫と崇徳王は全力疾走により魔窟状態の駐屯地から無事脱出したのである。
第二十話
天女 無事に武士団の駐屯地から脱出した小梅姫と崇徳王は東国の郊外に聳え立つ小規模の低山…。日和山に到達したのである。 「はぁ…はぁ…此処は安全そうだな…」 崇徳王は背後を警戒した様子で恐る恐る…。 「小梅姫?先程の百鬼悪食餓鬼は小梅姫の妖術でも…仕留められないのか?」 問い掛けられた小梅姫は即答する。 「本調子の私だったら…百鬼悪食餓鬼程度の悪霊なら十数体以上出現しても簡単に仕留められるわ…」 百鬼悪食餓鬼は所謂悪食餓鬼の集合体であり通常の人間が単独で百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは非常に困難とされるが…。摩訶不思議の妖術を駆使する妖女であれば容易に仕留められる程度の悪霊である。 「えっ…百鬼悪食餓鬼を十数体も…」 『小梅姫が本調子なら百鬼悪食餓鬼を十数体も仕留められるのか…』 崇徳王は小梅姫の発言に絶句する。 『小梅姫は末恐ろしいな…今後は彼女を激怒させると大変かも知れないな…』 崇徳王は小梅姫の妖力に一瞬畏怖…。内心冷や冷やしたのである。 「今現在の私の妖力は空っぽだからね…こんな空っぽの状態では悪食餓鬼の大群も仕留められないわよ…」 小梅姫は妖力の消耗により妖術を発動出来なくなる。 「であれば一度一休みするか…小梅姫?此処は安全そうだ…」 すると小梅姫は小声で発言する。 「精霊故山の露天風呂にでも入浴出来れば…」 「ん?精霊故山の露天風呂だと?」 崇徳王は露天風呂の一言に反応したのである。 「精霊故山って…西国の故山だったよな?」 『桃子姫様と…胡桃姫様…』 崇徳王にとって西国の精霊故山とは愛妻である桃子姫と胡桃姫との天運の場所であり崇徳王は一瞬彼女達の存在を想起する。 「父様?如何したの?」 小梅姫は沈黙し始めた崇徳王の様子が気になったのである。 「御免…気にするな…小梅姫…」 崇徳王は恐る恐る謝罪する。 「小梅姫?精霊故山の露天風呂に入浴すれば妖力を回復させられるのか?」 崇徳王の問い掛けに小梅姫は即答したのである。 「精霊故山の露天風呂に入浴すれば消耗した妖力を回復させられるのよ…怪我の治癒効果も期待出来るわ…」 精霊故山の露天風呂は妖力の回復のみならず怪我の治癒効果も期待出来…。一般の村人達も時たま怪我の治療目的で精霊故山の露天風呂に入浴する。 「妖力を回復させられるのであれば…即刻西国に移動するか…」 崇徳王が移動を開始する直前…。 「悠長に西国なんかに移動して入浴すれば…悪霊による被害が拡大化するわ…」 小梅姫は各地の被害の拡大化を懸念したのである。 「今直ぐ西国に移動するのは非現実的だな…小梅姫は瞬間移動みたいに一瞬で別の場所に移動出来ないのか?」 「私が本調子であれば出来るけれど…妖力が空っぽだからね…」 小梅姫は瞬間移動の妖術で別の場所には移動出来るものの…。今現在の彼女は妖力が空っぽの状態であり妖術は駆使出来ない。 『畜生…西国への移動は無理か…』 崇徳王は落胆する。 「ん?」 直後…。無数の霊力が日和山に接近するのを感じる。 「殺気か…」 「無数の霊力だわ…」 「先程の百鬼悪食餓鬼か?」 無数の霊力の正体とは親玉の百鬼悪食餓鬼であり先程遭遇した百鬼悪食餓鬼が日和山に出現したのである。 「彼奴は…」 「百鬼悪食餓鬼だわ…如何やら私達を追尾したみたいね…」 「仕方ないな…」 すると崇徳王は一息する。 「久方振りに…此奴の出番が到来したみたいだ…」 「えっ?父様?一体何を?」 崇徳王は天道金剛石の刀剣を抜刀したのである。 『父様…刀剣を…』 小梅姫は崇徳王の身構えに本物の武士を連想する。 『父様は本物の武士みたいだわ…』 一方の崇徳王は十六年前の邪霊餓狼との死闘を想起したのである。 『極悪非道の悪霊との戦闘は…』 「十六年前の戦闘以来だな…こんな場所で剣豪として再戦とは予想外だった…」 百鬼悪食餓鬼は鈍足の身動きで崇徳王に接近する。 「極悪非道の悪霊よ…」 崇徳王は殺気立った鬼神の形相で百鬼悪食餓鬼を睥睨し始め…。 「私の愛娘には手出しさせないぞ…」 神速の身動きで百鬼悪食餓鬼に接近したのである。 「成仏せよ…極悪非道の悪霊!」 崇徳王の斬撃により巨体の百鬼悪食餓鬼は一瞬で両断される。 「えっ!?百鬼悪食餓鬼を瞬殺!?」 『父様って…こんなにも精強だったの!?』 小梅姫は崇徳王の想像以上の強大さに愕然とする。 「こんな私でも…戦乱時代では東国の一兵卒だったからな…」 小梅姫は赤面し始め…。 『やっぱり父様って…男前ね♪母様が見惚れちゃうのも納得だわ♪』 崇徳王の精強さに見惚れたのである。 「ん?」 すると両断された百鬼悪食餓鬼が無数の肉片に分裂し始め…。数十体もの悪食餓鬼に変化したのである。 「此奴は…悪食餓鬼に分裂するとは…厄介だな…」 無数の悪食餓鬼が崇徳王と小梅姫に殺到する。 「父様!剣豪でも多勢に無勢だわ…此処から逃げましょう!」 「安心しろ!小梅姫!心配せずとも悪食餓鬼の大群は私が仕留めるからな…」 「父様!?」 多勢に無勢であり圧倒的に不利であるものの…。崇徳王は再度神速の身動きにより自身に殺到し続ける無数の悪食餓鬼を斬撃したのである。崇徳王は数分間で数十体もの悪食餓鬼を完膚なきまでに仕留める。 「他愛無いな…此奴は意外と楽勝だったぞ…小梅姫♪」 地面には悪食餓鬼の無数の血肉が彼方此方に散乱したのである。小梅姫は目前の光景に沈黙する。 『戦乱時代…父様が東国の軍神だって噂話は本当だったのね…』 小梅姫は百鬼悪食餓鬼と無数の悪食餓鬼との交戦で崇徳王の軍神としての精強さを再認識したのである。 「こんな程度の奴等なら私一人でも容易に仕留められそうだ…小梅姫は即刻西国の精霊故山で妖力を回復させるのだぞ…」 すると崇徳王の背後より…。 「ん?」 『此奴は…』 巨体の髑髏の武者が二体出現したのである。 「此奴は骸骨荒武者よ…戦死者達の亡霊だわ…」 骸骨荒武者とは戦死者達の無念の集合体とされ特定の地方では髑髏武将とも呼称される。骸骨荒武者は体格が非常に巨体であり背丈は成人男性を一回り上回る。 「今度は骸骨荒武者が相手か…」 二体の骸骨荒武者は崇徳王を直視し始め…。刀剣を抜刀したのである。 「刀剣で私と勝負か…」 二体の骸骨荒武者は鈍足の身動きで崇徳王に接近し始め…。斬撃したのである。 「鈍足だな…」 骸骨荒武者は身動きが非常に鈍足であり容易に回避出来る。 「外見とは裏腹に骸骨荒武者は相当鈍足だな…」 「父様…油断しないで…此奴の甲冑は相当硬質よ…」 骸骨荒武者の甲冑は非常に硬質である。通常の刀剣で斬撃すれば刀剣が屈折する強度とされる。 「小梅姫♪心配せずとも大丈夫だぞ!私の刀剣は天道金剛石だからな!」 崇徳王は神族の身動きで骸骨荒武者に接近したかと思いきや…。天道金剛石の刀剣で二体の骸骨荒武者に斬撃したのである。 「えっ…父様…」 小梅姫は愕然とする。 『刀剣だけで二体の骸骨荒武者が一瞬で…』 二体の骸骨荒武者は崇徳王の所持する天道金剛石の刀剣で一刀両断…。二体の骸骨荒武者は仕留められたのである。 「成仏せよ…戦死者達の亡霊よ…」 二体の骸骨荒武者は仕留められ…。二人は安心したのである。 「父様…一先ずは安心ね…」 「小梅姫…今度こそ西国に移動してから妖力を…」 二人が安堵した直後…。 「えっ!?」 小梅姫は百鬼悪食餓鬼をも上回る霊力を察知したのである。 「何かしら!?」 「ん?如何した?小梅姫?」 前代未聞の強大なる霊力に小梅姫は警戒する。 『悪霊特有の霊力だけど…今迄の悪霊とは桁違いに強力だわ…一体何が出現したのかしら!?強敵なのは確実ね…』 畏怖し始める小梅姫の様子に崇徳王も極度の胸騒ぎを感じる。 『如何やら小梅姫も感じるみたいだな…今度は何が出現する?』 二人は強大なる霊力に警戒したのである。すると背後の獣道より…。 「ん?」 崇徳王は背後を直視すると背後の存在に身震いしたのである。 「なっ!?其方は…」 一方の小梅姫も動揺し始める。 「えっ…此奴は誰なの!?父様!?」 突如として獣道に出現したのは鬼神を連想させる甲冑を装備した武士…。彼が崇徳王を直視すると殺気立った鬼神の形相で崇徳王を睥睨し始めたのである。 『此奴の肉体からは不吉の霊力を感じるわ…』 武士の悪霊は強大なる霊力が感じられるものの…。 『彼が神出鬼没の悪霊なのは確実だけど…』 神出鬼没の悪霊としては非常に異質的だったのである。 『此奴は今迄の悪霊と比較すると異質的だわ…父様の顔見知りみたいだけど…此奴は一体何者なのかしら?』 「父様?此奴は…一体何者なの?」 武士の正体が神出鬼没の悪霊なのは確実であり小梅姫は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。問い掛けられた崇徳王は一瞬後退りする。 「此奴は…北国最強の鬼神…月影幽鬼王だ…」 「月影幽鬼王ですって?一体何者なの?」 「月影幽鬼王は…戦乱時代に活躍した武人の一人だよ…」 月影幽鬼王は戦乱時代で大活躍した北国出身の武士であり北軍の鬼神として各地の大名達は勿論…。大勢の武将達から畏怖された人物として有名である。すると無表情だった幽鬼王が発言し始める。 「久方振りだな…東国の軍神…夜桜崇徳王よ…戦乱時代では極悪非道の人殺しだった貴様が…今現在では僧侶の身分とは呆れ果てるな…」 幽鬼王は僧侶の身分である崇徳王を揶揄したのである。 「私は戦乱時代で大勢の人間達を殺害したからな…一人の僧侶として戦乱時代で死去された数多くの死没者達に贖罪したいのだ…」 崇徳王は即答する。 「死没者達への贖罪か…崇徳王らしい返答だな…」 小梅姫は恐る恐る崇徳王を直視する。 「父様!幽鬼王は正真正銘悪霊よ!姿形は人間みたいだけど…此奴の肉体からは死没者の霊力を感じるわ!」 「えっ…幽鬼王が悪霊だと!?」 崇徳王は幽鬼王が神出鬼没の悪霊である事実に驚愕したのである。 「幽鬼王?ひょっとして其方…亡者だったのか?」 幽鬼王は崇徳王の問い掛けに即答する。 「俺は十七年前に野良犬の亡霊に食い殺された…今現在の俺は悪霊の肉体なのだ…」 「野良犬の亡霊とは…」 『恐らくは邪霊餓狼だろうな…』 崇徳王は野良犬の亡霊が邪霊餓狼であると推測したのである。 「今現在の俺は皮肉にも…とある悪霊の集合体によって復活させられた神出鬼没の悪霊なのだ…」 「悪霊の集合体が死没者である貴様を悪霊として復活させたのか?」 「人間達を全滅させるのが悪霊としての俺の使命だからな…手始めに復讐の対象者である夜桜崇徳王…仇敵の貴様から片付ける!」 すると小梅姫が発言する。 「幽鬼王!父様を殺さないで!」 「ん?誰だ…貴様は?」 幽鬼王は鬼神の形相で小梅姫を睥睨したのである。 「小梅姫…即刻逃げろ!此奴は私が阻止する!」 崇徳王は再度抜刀する。 「えっ?父様!?本気なの!?相手は百鬼悪食餓鬼よりも強力なのよ!」 「安心しろ…小梅姫♪私は正真正銘東国の軍神だぞ♪」 崇徳王は満面の笑顔で断言したのである。 「私はこんな場所では死なないよ♪母さんとも長生きするって約束したからな♪」 「父様…」 一方の幽鬼王は小梅姫を直視すると冷笑する。 「如何やら小娘は…貴様の愛娘みたいだな…」 「幽鬼王よ…私の愛娘には手出しさせない!其方の相手は復讐相手である私なのだからな!」 「安心しろ…崇徳王…貴様を完膚なきまでに打っ殺してから貴様の愛娘も打っ殺すからな…」 幽鬼王は右手に霊力を収縮…。雷光の刀剣を形作ったのである。 「雷光の刀剣だと?」 『月影幽鬼王…本当に人外の悪霊なのだな…』 崇徳王は本格的に幽鬼王が神出鬼没の悪霊なのだと実感する。 「此奴は雷光の霊剣だ!人間の貴様を仕留めるには…此奴で事足りる!」 「神出鬼没の悪霊が相手でも…」 両者は殺意の表情で睥睨し合い…。 「覚悟しろ!幽鬼王!」 「崇徳王!貴様こそ覚悟するのだな!」 両者は神速の身動きで移動し始める。 「えっ!?」 両者の身動きは肉眼では視認出来ず…。小梅姫は突発的に何が発生したのか理解出来なかったのである。 『一体全体…何が発生したの!?』 直後…。両者の刀剣が接触したのである。 「崇徳王…貴様の刀剣が私の霊剣と互角とは…」 「私の刀剣は天道金剛石だ!貴様の雷光の霊剣でも…簡単には屈折しないぞ…」 すると幽鬼王は後退…。雷光の刀剣は消滅する。 「ん?」 崇徳王は警戒したのである。 『幽鬼王は…一体何を?』 幽鬼王は左手より霊力で高熱の火球を形作る。 「完膚なきまでに死滅せよ…夜桜崇徳王…」 左手から高熱の火球を発射したのである。 『火球か…』 崇徳王は高熱の火球を一刀両断…。左右に両断された霊力の火球は崇徳王の背後で爆散したのである。 「幽鬼王…貴様は其処等の悪霊とは桁外れの実力者みたいだな…」 「当然であろう…悪霊は悪霊でも俺は其処等の悪霊とは別格の存在なのだからな!所謂最上級の悪霊とでも…」 幽鬼王は自身を最上級の悪霊と自称する。 「であれば最上級悪霊の月影幽鬼王よ…本来の其方は死没者であるからな…死没者である其方を死後の世界に戻らせるだけだ…」 「最上級の悪霊である私を死後の世界に戻らせるか…であれば私は貴様を死後の世界である無間地獄に招待するだけだ…」 幽鬼王は崇徳王の両足を直視し始め…。 「えっ?幽鬼王?」 すると崇徳王の両足は氷結したのである。 「父様の両足が氷結したわ…幽鬼王の霊力なの?」 小梅姫は勿論…。崇徳王も突然の氷結に動揺し始める。 「なっ!?氷結だと!?幽鬼王…其方一体何を?」 「残念だったな…夜桜崇徳王…」 幽鬼王は動揺する崇徳王に冷笑したのである。 「私の強大なる霊力で貴様の身動きを封殺したからな…最早貴様は自力では身動き出来ないのだ…」 両腕と両足の氷結により崇徳王は完全に身動き出来なくなる。 「ぐっ…」 『迂闊だった…身動き出来なくなるとは…』 一方の幽鬼王は再度雷光の霊剣を発動したのである。 「今度こそ貴様を地獄の世界に招待する…覚悟せよ!夜桜崇徳王…」 幽鬼王は一歩ずつ身動き出来なくなった崇徳王に近寄る。 「畜生…」 『私は…こんな場所で幽鬼王に殺されるのか?』 崇徳王は自身の最期を覚悟するものの…。 『私が殺されたら小梅姫は無論…桃子姫様と胡桃姫様との約束も…』 突如として崇徳王の脳裏より小梅姫の笑顔を想起する。今度は死別した桃子姫と胡桃姫の笑顔が想起されたのである。 『こんな場所で私が敗死すれば誰が小梅姫を…守護出来るのか!?』 一方普段は冷静であり人一倍無表情の幽鬼王であるが…。 『今回で崇徳王への復讐を達成出来るぞ♪』 今回ばかりは冷笑したのである。 「観念するのだな!崇徳王!」 崇徳王は最期を覚悟する。 『今日が…私の命日なのか…』 直後…。桃子姫と胡桃姫の物悲しそうな表情を想起したのである。 『桃子姫様…胡桃姫様…私は長生きすると約束したのに…』 崇徳王は幽鬼王に頭首を斬首される寸前…。 「月影幽鬼王!私の父様を殺さないで!」 小梅姫は幽鬼王に哀願する。 「はっ?貴様は?」 幽鬼王は勿論…。一時的に錯乱状態であった崇徳王も小梅姫に注目する。 「幽鬼王…私の父様を殺さないで…」 「小梅姫…」 小梅姫は落涙した様子で幽鬼王に切願したのである。落涙する小梅姫に幽鬼王は無表情で…。 「安心しろ…崇徳王の小娘…此奴を無間地獄に招待してから愛娘の貴様も死後の無間地獄に招待するからな…貴様も無間地獄で死没した父親と再会出来るのだぞ…」 すると小梅姫は鬼神の形相で幽鬼王を睥睨したのである。 「ん?小娘?」 『此奴…様子が可笑しいぞ…』 幽鬼王は警戒し始める。 「如何しても父様に復讐したいのであれば…」 小梅姫は身体髪膚より血紅色の妖力が溢れ出たかと思いきや…。莫大なる妖力は彼女の全身を覆い包んだのである。 「小娘…貴様は…」 幽鬼王は勿論…。 「小梅姫…一体何が…」 崇徳王も小梅姫の変化に絶句する。肉体から溢れ出た小梅姫の妖力は肉眼でも視認出来る程度に実体化したのである。普段は温厚篤実の女神様を連想させる小梅姫であるが…。今迄の小梅姫とは別人であり今現在の彼女は正真正銘鬼神の形相だったのである。 『彼女は本当に小梅姫なのか!?普段の小梅姫とは別人みたいだ…土壇場で彼女の妖力が覚醒したのか!?』 崇徳王は殺気立った鬼神の形相である小梅姫に戦慄する。 「父様に…手出しさせない…」 すると数秒後である。妖力が覚醒した影響からか小梅姫の全身から溢れ出た妖力が再度彼女の全身を覆い包み…。小梅姫は常人よりも一回り巨体の化け猫らしき妖獣へと変化したのである。 「小娘が…妖怪化するとは…」 『此奴の正体は化け猫の妖怪なのか?』 無表情であった幽鬼王も恐る恐る後退りする。 「月影幽鬼王…私を殺せるなら殺しなさい!」 巨体の妖獣へと変化した小梅姫は力一杯幽鬼王を睥睨したのである。 『小娘の正体は妖獣だったのか…』 幽鬼王は右手に高熱の火球を形作る。 「貴様は死滅しろ!妖獣の小娘!」 高熱の火球で妖獣の小梅姫に攻撃したのである。 「小梅姫!」 崇徳王は冷や冷やする。一方の小梅姫は雷撃の結界を発動…。幽鬼王の発射した火球を無力化したのである。 「畜生…妖獣の小娘は結界で俺の攻撃を無力化しやがったか…」 直後…。 「なっ!?」 幽鬼王は突如として身動き出来なくなる。 「ぐっ…」 『身動き出来ないだと…此奴は金縛りの妖術か!?』 小梅姫は幽鬼王に金縛りの妖術を発動したのである。 「私からは逃げられないわよ…極悪非道の悪霊!」 口先より高熱の雷光を凝縮…。雷光の火球を形成させる。 「あんたは完膚なきまでに…成仏しなさい!」 小梅姫は身動き出来なくなった幽鬼王を標的に雷光の火球を発射したのである。 「えっ…」 前方の地面は高熱により焦土化…。地面は黒焦げに抉れたのである。幽鬼王は小梅姫の雷光の火球によって完膚なきまでに完全消滅…。炭化した肉片すら確認出来なかったのである。 「悪霊の幽鬼王が…小梅姫の攻撃で仕留められたか…」 小梅姫の雷光の火球は高威力であり幽鬼王は完膚なきまでに仕留められ…。霊力も感じられなかったのである。 「小梅姫…予想以上の威力だ…最強の幽鬼王を仕留め切れるなんて…」 『小梅姫の妖力は私の想像以上だな…こんなにも強力とは…』 崇徳王は小梅姫の強大なる妖力に圧倒される。 「大丈夫よ…父様…妖力は基本的に神出鬼没の悪霊にしか使用しないから…」 「小梅姫が本領を発揮すれば国全体を天下統一出来るな…」 「天下統一なんて…冗談かしら?父様?」 小梅姫は再度警戒したのである。 「幽鬼王は…仕留めたかしら?霊力は感じられないけれど…」 すると彼女の背後より…。 「小梅姫!悪食餓鬼だ!」 「えっ?」 小梅姫の背後に一体の悪食餓鬼が出現したのである。 「無謀ね…悪食餓鬼程度なら…簡単に…」 一体の悪食餓鬼を攻撃する直前…。突如として悪食餓鬼の肉体から白煙が発生したのである。悪食餓鬼の全身は白煙に覆い包まれたかと思いきや…。 「此奴は…」 「えっ…如何してなのよ?」 白煙の内部からは先程仕留められた月影幽鬼王が再度出現したのである。 「残念であったな…夜桜崇徳王と…妖獣の小娘…小梅姫よ…」 幽鬼王は崇徳王と小梅姫に冷笑する。 「一体何故だ!?如何して幽鬼王が出現したのだ!?其方は先程の小梅姫の攻撃によって完膚なきまでに死滅したのでは!?」 すると幽鬼王は崇徳王に説明したのである。 「貴様達は完全に油断したな…今現在の俺の肉体は正真正銘悪霊の肉体なのだ…実体としての肉体が破壊されたとしても…俺は霊体のみでも半永久的に活動出来るのだぞ…俺は何度肉体が破壊されても復活し続ける…」 幽鬼王は小梅姫に攻撃される寸前…。近辺で徘徊する悪食餓鬼に憑霊したのである。 「本物の不死身が存在するとは…幽鬼王は油虫みたいだな…」 「残念だったな…俺は本物の不老不死なのだ!実体としての肉体を何度破壊されたとしても…他者の肉体に憑霊し続ければ何度でも復活出来るのだからな!」 幽鬼王は自身を不老不死であると豪語するのだが…。 『畜生が…先程の攻撃で肉体のみならず…霊力の大半が浄化されちまったからな…再度妖女の小娘に攻撃されれば…』 先程の小梅姫の攻撃は肉体の殲滅は無論であるが…。 『俺は今度こそ完膚なきまでに浄化されるだろう…妖女の小娘は非常に厄介だな…』 霊力の浄化作用により上級悪霊の霊力さえも容易に浄化出来る。 『幽鬼王の様子…悪霊の悪食餓鬼に憑霊したみたいだが大分弱体化した様子だな…肉体が不老不死だとしても欠点は存在するみたいだ…』 崇徳王は幽鬼王の様子を観察すると一時的に弱体化したのではと察知したのである。 『ひょっとすると幽鬼王を完全に浄化させる絶好機なのかも知れないな…』 崇徳王は絶好の機会であると察知すると小梅姫に攻撃を合図する。 「小梅姫!幽鬼王は弱体化したぞ!今度こそ幽鬼王を仕留められる!小梅姫の妖術で今直ぐに彼を浄化しろ!」 「なっ!?」 『俺を…浄化だと…』 普段は無表情の幽鬼王であるが…。浄化の一言に一瞬だが動揺し始める。 「動揺したな…幽鬼王…今日が貴様にとって二度目の命日だ…覚悟するのだな…」 「俺にとって…二度目の命日だと…」 崇徳王は幽鬼王の反応から勝利を確信するのだが…。 「父様…此奴を浄化したいのだけれど…」 「ん?小梅姫?」 小梅姫は妖力の消耗により妖獣の形態から元通りの少女の姿形に戻ったのである。 「えっ…」 『小梅姫…人間の状態に戻ったのか…』 崇徳王は拍子抜けする。 『小梅姫の…先程の威勢は一体…』 一時的に妖力の覚醒で妖獣へと変化した小梅姫であるが小面袋蜘蛛との戦闘で大量の妖力を吸収され…。衰弱化した状態からの覚醒であり妖力の消耗が加速したのである。 「妖女の小娘が…冷や冷やさせるな…」 幽鬼王は命拾いにより内心一安心する。 『危機一髪だったな…今度も妖女の小娘に攻撃されたら…俺は今度こそ地獄の世界に逆戻りだったな…』 一方の小梅姫は妖力の消耗により空っぽの状態である。 「はぁ…はぁ…」 彼女は非常に疲れ果てた様子であり地面に横たわる。 「えっ…小梅姫!?大丈夫か!?」 「父様…私…妖力が…」 小梅姫は妖力の消耗により返事するのも辛苦だったのである。 「妖女の小娘風情が…」 幽鬼王は地面に横たわった状態の小梅姫に近寄る。 「妖女の小娘…貴様は俺にとって復讐の対象者である夜桜崇徳王の愛娘だからな…愛娘の貴様も同罪なのだ…」 悪霊の幽鬼王にとって小梅姫の存在は非常に厄介であり復讐対象者の崇徳王よりも脅威である。 「妖女の小娘…貴様は覚悟するのだな…」 幽鬼王は自身の霊力で再度雷光の霊剣を形作る。 「幽鬼王!其方の復讐に彼女は無関係だぞ!復讐したいなら私だけに復讐しろ!其方の個人的理由で私の愛娘には手出しするな!」 崇徳王は必死に彼を制止するのだが…。 「崇徳王は情けないな…この期に及んで愛娘への命乞いとは…観念するのだな…」 幽鬼王は地面に横たわった状態の小梅姫が気に入らないのか鬼神の形相で小梅姫を睥睨したのである。 「崇徳王…残念だが亡者の俺にとって此奴は脅威の存在なのだ…俺は貴様の愛娘を完膚なきまでに打っ殺すと決意したからな…」 『悪霊の肉体だとしても折角俗界に戻れたのだ…こんな場所で二度も地獄の世界に戻されるのは御免だからな…』 地獄の世界とは生身の生者では実体験出来ない黄泉の世界であるが…。死没者である幽鬼王にとって地獄の世界は非常に重苦しい場所だったのである。 『最早二人を相手に手加減は出来ないな…最低でも妖女の小娘だけは確実に仕留めなければ俺が不老不死の霊体でも浄化されるだろうからな…』 幽鬼王は最終手段である奥の手を駆使する。幽鬼王の霊力が先程よりも増大化したのである。 「えっ…」 『幽鬼王の霊力が先程よりも増幅するなんて…』 小梅姫は勿論…。 『幽鬼王の殺気が…』 崇徳王も幽鬼王の本気の殺意を感じる。数秒間が経過した直後…。幽鬼王の肉体が大幅に変化し始める。 「えっ!?」 「幽鬼王!?其方は!?」 小梅姫と崇徳王は幽鬼王の予想外の変化に驚愕する。 「其方は…一体何者なのだ?」 崇徳王は恐る恐る幽鬼王に問い掛ける。 「其方は月影幽鬼王なのか?」 幽鬼王は戦闘の鬼神…。阿修羅を連想させる三面六臂の怪物へと変化したのである。幽鬼王の変貌に小梅姫は勿論…。崇徳王は絶句したのである。 「幽鬼王よ…最早其方は天道の化身だな…」 「あんたは…【阿修羅武神】に覚醒したのね…」 阿修羅武神とは強大なる霊力を所持する特定の亡者が覚醒出来る形態の一種…。上級悪霊の一体とされる超自然的存在である。 「阿修羅武神だと?小梅姫…阿修羅武神って一体?」 崇徳王は恐る恐る小梅姫に問い掛ける。 「阿修羅武神は特定の亡者が変貌出来る上級の悪霊らしいのよ…阿修羅武神がこんなにも強大なんて…」 小梅姫は阿修羅武神に覚醒した幽鬼王に畏怖したのである。 「阿修羅武神は小梅姫が畏怖する程度に強大なのか…」 『人間の私でも痛感出来る…阿修羅武神は私が想像する以上に強力なのだろうな…』 阿修羅武神の霊力は霊力の感じられない人間の崇徳王でも痛感出来る。 「阿修羅武神…私自身の霊力を最大限に発揮させた最強の状態なのだ…」 幽鬼王は強大化した自身が最強であると豪語し始める。 「今現在の俺であれば相手が誰であろうと確実に勝利出来る!相手が人外の妖女だとしても同様だ!」 今現在阿修羅武神へと進化した月影幽鬼王は全身全霊の霊力を最大限に発揮させた暴走状態であり其処等の悪霊は勿論…。妖女の小梅姫をも上回る。 「阿修羅武神の霊力を発揮する絶好機!手始めに妖女の小娘…貴様から仕留める…阿修羅武神の強大さを体感するのだ…」 幽鬼王は六本の掌中から六本もの雷光の刀剣を生成させたのである。 「父様…私は…死にたくないよ…」 小梅姫は落涙した表情で崇徳王を直視する。 「小梅姫…」 『畜生…私は如何すれば!?今度こそ小梅姫が殺されるかも知れないのに…人間の私では悪霊の幽鬼王を阻止出来ないのか?』 崇徳王は何も出来ない自身を情けなく感じる。 『一体如何すれば…幽鬼王の暴走を阻止出来るのか?』 愛娘の小梅姫が殺害されるかも知れない絶望的状況下であったが…。 「ん!?」 小梅姫が斬撃される寸前である。天空より神秘的気配を感じる。 『天空から気配だと?一体何が?』 暗闇の黒雲で覆い包まれた天空であるが…。突如として光り輝く発光体が地上へと降下したのである。 「天空から発光体だわ…一体何かしら?」 「今度は何が出現した?今度も…悪霊なのか?」 小梅姫と崇徳王は勿論…。 「天空から発光体か?一体何事だ?」 阿修羅武神へと覚醒した幽鬼王も天空より出現した発光体に注目し始める。正体不明の発光体が日和山の頂上に着地したかと思いきや…。発光体の正体とは巫女装束の女性だったのである。女性は背丈が非常に小柄であり頭部には金冠…。彼女の背中には円形の光背が確認出来る。天女を連想させる摩訶不思議の女性に崇徳王は愕然とする。 「えっ!?貴女様はひょっとして…」 天女らしき女性は崇徳王を直視すると微笑み始める。 「夜桜崇徳王様♪久し振りね♪貴方が元気そうで安心したわ♪」 「勿論ですとも…桃子姫様♪」 天女の正体とは十六年前に逝去した愛妻の桃子姫だったのである。 『桃子姫って…私の母様の名前だわ…』 崇徳王と小梅姫は桃子姫との再会に涙が零れ落ちる。 『彼女が…私の母様なのね…』 すると幽鬼王が天空より出現した桃子姫を睥睨し始め…。 「貴様は一体何者だ!?俺の復讐を邪魔するのであれば…相手が人外の妖女であろうが…天女の小娘であろうが問答無用に打っ殺すぞ…」 幽鬼王は桃子姫に威嚇するのだが桃子姫は無表情で返答する。 「私の家族には手出しさせないわよ…極悪非道の悪霊…」 すると半透明の血紅色だった桃子姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に変化し始め…。発光したのである。 「桃子姫様の両目が瑠璃色に発光するなんて…」 『桃子姫様の神通力でしょうか?』 崇徳王は半透明の瑠璃色に発光する桃子姫の両目を不思議がる。 「所詮は小細工だろうが!」 一方の幽鬼王は強気の態度で桃子姫に威嚇したのである。 「相手が最強の妖女だろうと神族だろうと…最強の阿修羅武神に覚醒した俺には荒唐無稽の妖術は通用しないぞ!」 阿修羅武神形態の幽鬼王に威嚇された桃子姫であるが…。 「貴方は阿修羅武神?生前は月影幽鬼王だったかしら?最早貴方は黄泉の世界の死没者なのです…死後の住人である貴方は即刻黄泉の世界に戻りなさい…」 幽鬼王は桃子姫が腹立たしくなる。 『妖女の…小娘風情が…』 腹立たしくなった幽鬼王は全身が身震いし始める。 「妖女の小娘!死滅しろ!」 阿修羅武神へと覚醒した幽鬼王の霊力は非常に強力であり天空の黒雲より落雷を発生させる。 「母様!」 「桃子姫様!」 桃子姫の頭上より高威力の落雷が発生したかと思いきや…。地面が抉れたのである。陥没した地面には桃子姫の姿形は確認出来ない。 「所詮は妖女の小娘風情だ…阿修羅武神の霊力は予想以上に絶大だな…やっぱり此奴の霊力なら相手が誰であろうと勝利出来そうだ…」 幽鬼王は再度阿修羅武神の強大さを実感する。一方の小梅姫と崇徳王は絶望…。二人は涙腺より涙が零れ落ちる。 「母親の妖女は仕留めた…今度こそ阿修羅武神の霊力で貴様達親子を…」 直後である。 「ん?貴様は!?」 先程消滅した桃子姫が再度小梅姫と崇徳王の前面より出現する。 「母親の妖女…如何して貴様は無事なのだ!?」 幽鬼王は不思議そうな表情で桃子姫に問い掛ける。 「今現在の私の肉体は霊体よ…霊体の私には貴方の霊力は通用しないわ…」 「貴様も霊体なのか?」 今現在の桃子姫の肉体は霊体でありあらゆる物理攻撃が通用しない。 「阿修羅武神の霊力は非常に強力だけど…所詮人間である貴方では扱い切れないみたいね…」 「貴様は…何が主張したい?」 「阿修羅武神は神族の亡魂が霊化した超自然的存在…貴方程度の死没者が扱える代物とは無縁なのよ…」 阿修羅武神は死没した神族の亡魂が霊化した超自然的存在であり人間の亡者では本来の阿修羅武神の霊力は発揮出来ない。 「貴方の身動きを阿修羅武神諸共封殺するわ…」 桃子姫は幽鬼王と阿修羅武神に金縛りの妖術を発動する。 「なっ!?貴様は一体!?私に…何を!?」 最強の阿修羅武神へと覚醒した幽鬼王であるが…。桃子姫が神通力を発動すると身動きを完全に封殺されたのである。 「ぐっ!」 『身動き出来なくなるとは…此奴は天女の妖術なのか!?』 幽鬼王は桃子姫の神通力によって身動き出来なくなったと同時に…。 「月影幽鬼王…貴方を阿修羅武神から解放するわ…地獄の世界に戻りなさい…」 桃子姫は浄化の妖術を発動する。 「畜生が…」 『俺は結局…地獄の世界に逆戻りとは…』 幽鬼王の肉体は阿修羅武神諸共虹色の粒子状の発光体へと変化したのである。無数の発光体へと変化した幽鬼王は天空にて消滅…。霊力も感じられなくなる。 「幽鬼王と阿修羅武神が消滅しちゃった…霊力も感じられないわ…」 「幽鬼王と阿修羅武神は桃子姫様の神通力で浄化されたのでしょうか?」 小梅姫と崇徳王は桃子姫の強大さに驚愕したのである。 「俗界の亡者達は私が浄化したわ♪二人とも安心してね♪」 「亡者達は母様の神通力で浄化されたのね♪一先ずは安心だわ♪」 桃子姫の神通力により各地の村里で徘徊する悪食餓鬼の大群と百鬼悪食餓鬼は完全に浄化され…。完膚なきまでに消滅したのである。 『各地に分散した霊力が消滅したわ…母様が一人で悪霊の大群を浄化させたの!?母様って一体何者なの?』 小梅姫は桃子姫の神通力の絶大さに愕然とする。崇徳王と小梅姫は事態の収束に一安心したのである。 「危険は回避されたので一件落着ですね♪桃子姫様♪一安心ですよ♪」 すると小梅姫は恐る恐る桃子姫に近寄り始める。 「貴女は本当に…私の母様なのね…」 「勿論よ♪私は…貴女の母親よ♪」 一方の桃子姫は小梅姫の問い掛けに笑顔で即答する。 「小梅姫…貴女は美人の女性に成長したわね♪」 桃子姫の美人の一言に小梅姫は赤面したのである。 「私が美人なんて…母様は大袈裟よ…」 小梅姫は桃子姫の美人の一言に赤面するのだが…。 『私が美人ですって♪』 内心では大喜びだったのである。 「母様こそ…救済の女神様みたいで容姿端麗よ♪」 容姿端麗の一言に桃子姫も赤面する。 「私が容姿端麗なんて♪小梅姫は大袈裟ね♪」 桃子姫も内心では大喜びしたのである。 「ですが桃子姫様…貴女様の救済で私と小梅姫は命拾い出来たのです…桃子姫様には感謝しても感謝し切れません…」 崇徳王は桃子姫に一礼する。 「気にしないで♪崇徳王様…貴方達二人が無事なのが何よりだから♪」 『桃子姫様は本当に救済の女神様だな…』 直後…。桃子姫の肉体が半透明化したのである。 「桃子姫様の肉体が…半透明に…」 「二人とも…如何やら時間みたいね…」 「えっ…母様…」 小梅姫の涙腺から一粒の涙が零れ落ちる。 「小梅姫♪心配しなくても大丈夫よ♪私は天国で小梅姫を見守るからね♪」 「母様…約束だからね♪私達を見守ってよね♪」 小梅姫に笑顔が戻ったのである。 「勿論よ♪約束するわ♪崇徳王様もね♪」 「桃子姫様♪私は今後も長生きしますからね♪」 「長生きしてね♪崇徳王様…」 すると桃子姫は消滅する寸前…。 「私達は…来世で再会しましょうね♪」 数秒後に桃子姫は消滅したのである。 『来世ね…』 『来世か…』 二人は一瞬沈黙する。 「父様?」 小梅姫は桃子姫の来世の一言に恐る恐る崇徳王に問い掛ける。 「如何した?小梅姫?」 「私達は来世でも…再会出来るのかしら?」 崇徳王は一息したのである。 「勿論だとも♪私達は来世でも再会出来るさ♪」 崇徳王は満面の笑顔で返答する。事件が解決してより数分後…。 「事件は無事解決したからな…私達も解散するか?小梅姫?」 「解散しましょう…父様♪私も東国の家屋敷に戻らないと女中達が心配するでしょうし…達者でね♪父様♪」 「嗚呼♪小梅姫こそ♪」 小梅姫と崇徳王は解散したのである。今回の悪霊大事件は桃子姫の霊魂により無事解決出来たが…。今回の大事件以後も各地の村里では小規模の悪霊関連の怪異事件が頻発したのである。今回の悪霊大事件を契機に小梅姫は悪霊掃除人を自称し始め…。各地の村里に出没する多種多様の悪霊を征伐したのである。当初は差別的であった片田舎の村人達も小梅姫の人道的活躍によって妖女に対する認識も次第に変化し始める。悪霊征伐に専念した小梅姫は一年後の初春には東国出身者である領主の若殿と無事婚姻したのである。若殿との婚姻から一年後…。小梅姫は一人の母親として無事に三人の妖女の子供を出産したのである。小梅姫が三人の妖女を出産して以後…。世の中は本格的に妖女による新時代が到来する。
最終話
交流 世界暦四千五百二十四年九月中旬の時期である。上級悪霊の一角とされる北国の鬼神月影幽鬼王と阿修羅武神は勿論…。多数の悪霊との大戦闘から二年後の出来事である。小梅姫は祖国である西国の精霊故山の頂上へと移動…。 『母様…胡桃姫叔母さん…』 小梅姫は母親である桃子姫と叔母である胡桃姫の墓石に恐る恐る合掌する。 『私はもう少しで…一児の母親です…』 小梅姫は涙腺より涙が零れ落ちる。 『出来るなら母様と…胡桃姫叔母さんにも…』 内心母親の桃子姫と叔母の胡桃姫に孫娘を抱かせられない現実は彼女にとって非常に辛苦であり心残りだったのである。 『母様…』 すると彼女の背後より…。 「あんたは妖女の小梅姫だったかね♪」 「えっ!?誰ですか?」 小梅姫は吃驚した様子であり即座に背後を直視する。 「貴女様は…神族の蛇体如夜叉様ですか…」 背後の人物とは蛇神の蛇体如夜叉だったのである。 「こんな場所で妖女のあんたと再会出来るなんてね♪私達は奇遇だね♪」 奇遇にも神族の蛇体如夜叉と精霊故山の頂上で再会する。 「小梅姫♪あんたは二年前よりも随分と大人びた様子だね♪見違えちゃったよ♪」 今現在小梅姫は年齢十七歳…。列記とした成人女性であり二年前の容姿よりも女性らしく成長したのである。 「えっ…」 『私って…以前よりも大人びたのかしら?』 小梅姫は蛇体如夜叉の発言に赤面するものの…。内心では大喜びだったのである。 「小梅姫は誰かの墓参りかね?」 「母様と叔母さんの墓参りですよ♪」 小梅姫は満面の笑顔で即答する。 「あんたは今迄…妖女の身分で差別され…非常に大変だっただろう?」 蛇体如夜叉は小梅姫に同情するのだが…。 「私なら大丈夫ですよ♪蛇体如夜叉様♪」 小梅姫は満面の笑顔だったのである。 「小梅姫…」 「私には人間の父様は勿論♪町内の皆様方が私の理解者達ですからね♪」 実際数多くの悪霊征伐の功績によって大勢の町民達は勿論…。各地の村人達も人外の妖女に対する認識が変化し始めたのである。 『彼女の様子なら…今後も大丈夫そうだね…』 小梅姫を心配した蛇体如夜叉であるが…。彼女の様子から一安心したのである。 『如何やら私は…彼女が列記とした妖女だからって…不必要に小梅姫を心配し過ぎちゃったみたいだね…』 蛇体如夜叉は自身が必要以上に心配性だったと自覚する。 「小梅姫よ♪折角の機会だし…あんたは私の家屋敷で茶会でも如何かね?」 「えっ!?本当ですか!?」 「和菓子も沢山用意するからね♪」 小梅姫は蛇体如夜叉との茶会に大喜びしたのである。 「私は是非とも参加しますよ♪蛇体如夜叉様♪」 「今後とも♪妖女のあんたとは交流したいからね♪」 「勿論ですとも♪蛇体如夜叉様♪」 小梅姫は笑顔で即答する。 「あんたは非常に興味深いからね♪私はあんたを洗い浚い知りたいのさ♪」 「私こそ♪蛇体如夜叉様♪」 小梅姫は早速…。蛇神の蛇体如夜叉と一緒に彼女の原住地である南国の村里へと移動したのである。 完結
第弐部
第一話
連続殺人事件 世界樹の妖星巨木との死闘から半年後の出来事である。桃源郷神国に安寧秩序が再到来したものの…。以降も各地の村里では神出鬼没の悪霊が彼方此方に出現したのである。世界暦五千二十二年十一月上旬の時期…。近頃東国の中心街では何者かによって頭首を斬首される怪奇的連続殺人事件が多発したのである。連続殺人事件の発生に東国の町民達は誰しもが畏怖…。夜間に出歩けなくなる。 「折角中心街は復興したのに…殺人事件が連続的に発生するなんて物騒だよな…殺害された三人の被害者達は全員斬首された状態だったって…」 真夜中に東国武士団の二人の邏卒が東国の中心街を夜番したのである。 「斬首か…国内に平穏が戻ったのに今度は殺人事件が三件も発生なんて…踏んだり蹴ったりだな…」 小柄の邏卒は身震いし始める。殺害された被害者達は三人とも頭首を斬首された状態であり翌朝には斬首された頭部と遺体が事件現場で発見されたのである。 「恐らくは匪賊の仕業だろうが…被害者達を斬首するなんて随分と悪質だよな…早急に殺人鬼を拘束しないと夜番なんて安心して出来ないよ…」 小柄の邏卒がブルブルと寒気を感じる。 「こんな暗闇の真夜中に人殺しなんかと出くわしたくないぜ…勘弁しろよな!」 「東国の武士団である俺達が人殺しに畏怖して如何する?こんな小事件で畏怖しちまったら俺達は世間様の笑い者だぜ…」 「俺は笑い者だとしても構わんさ…今回の大事件も不寝番の月影桜花姫様の出番だよな?彼女だったら百人力?千人力の大戦力だろうし人間の殺人鬼なんて桜花姫様の妖術なら楽勝だろうよ…」 邏卒が口走った月影桜花姫の一言に大柄の邏卒が苛立ち始める。 「桜花姫…桜花姫って…毎回不寝番の桜花姫に頼りっ放しだと泣く子も黙る東国の武士団は不必要だって各地の村人達から造反されちまうよ!好い加減武士団の上役達も内部を改革化させないと武士団全体が形骸化しちまうぞ…」 「内部の形骸化には同意するよ…現体制は今一度大改革させないと…」 近年では不寝番の最上級妖女…。月影桜花姫の悪霊征伐により泣く子も黙る東国武士団の権威が失墜し始めたのである。東国武士団の形骸化と他力本願が問題視され武士団内部からも現体制への改革派が出現し始め…。東国武士団全体の再構築が各地の村里で公言されたのである。 「相手が人間の匪賊だけなら俺達でも対処出来るかも知れないが…現実問題として…神出鬼没の悪霊なんて非力の俺達では頑張っても如何にも出来ないだろう…」 「相手が神出鬼没の悪霊だったら俺達では対処出来ないよな…悪霊対策だけは不寝番の桜花姫に依頼する以外の選択肢は無さそうだな…」 彼等が雑談中…。 「ん?人影かな?」 「人影だって?」 東国と北国の国境に直結する両国橋より正体不明の人影を確認したのである。 「こんな真夜中に…誰だ?」 両国橋には番傘を所持した煌びやかな赤色の着物姿の女性がポツンと佇立した様子であり夜空の満月を眺望し続ける。 「彼奴は女人みたいだが…一体誰だろう?」 「こんな真夜中に女人が一人で何を…月見だろうか?」 二人の邏卒は警戒した様子で恐る恐る両国橋へと移動したのである。番傘の女性の背後から恐る恐る近寄る。女性は小柄の背丈であるが…。非常に美的の雰囲気であり黒髪の頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。 「真夜中だぞ…近頃は斬首事件で物騒だし…こんな真夜中にあんたみたいな非力の小町娘が一人で出歩くのは危険だぜ!」 大柄の邏卒は強気の態度で女性に命令する。 「斬首事件の殺人鬼に遭遇したくなかったら即刻家屋敷に戻りやがれ!あんたは殺人鬼に遭遇したいのか?」 大柄の邏卒は強気の態度で警告するのだが…。一方の女性は邏卒の警告に無反応であり見向きすらしなかったのである。 「此奴…何様だ?」 『畜生が…俺の警告を無視しやがって!』 大柄の邏卒は女性の態度に苛立ったのかピリピリし始める。 「貴様は重度の痴人なのか!?返事すら出来ないのかよ!?」 大柄の邏卒は非常に苛立った様子であり番傘の女性に大声で怒号したのである。すると小柄の邏卒が恐る恐る…。 「失礼なのですが…」 小柄の邏卒は物静かな言動で発言したのである。 「貴女様みたいな容姿端麗の女性がこんな真夜中に一人で出歩かれたら人攫いに遭遇するかも知れませんし…即刻家屋敷に戻られませんか?こんな真夜中の夜道を一人で出歩くのは非常に危険ですよ…」 小柄の邏卒は物静かな姿勢で女性に帰宅を指示するものの…。番傘の女性は小柄の邏卒の声掛けにはピクリとも反応しない。 「えっ?彼女は無反応だな…」 「如何やら此奴…重度の聾者っぽいな…論外だぜ…」 大柄の邏卒は女性に呆れ果てる。一方の小柄の邏卒も女性の様子に困惑する。 「失礼だけど彼女は雛人形みたいだな…俺達の問い掛けには何も反応しないし…」 『不吉だな…』 ゾッとした小柄の邏卒は女性の雰囲気に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。畏怖する小柄の邏卒だが大柄の邏卒は彼を揶揄し始める。 「貴殿よ…こんな小町娘相手に畏怖しやがるなんて♪余程の小心者みたいだな♪」 大柄の邏卒は女性の背後へと恐る恐る近寄る。 「あんたは外見だけなら可愛らしい雰囲気だな♪素顔は別嬪だろうか?」 大柄の邏卒が女性に接触する寸前…。 「見ず知らずの女人に手出しするなよ!」 小柄の邏卒はビクビクした様子で大柄の邏卒に制止したのである。 「俺達の任務は夜間警備だ!任務を放棄して如何する!?」 大柄の邏卒は小柄の邏卒に強気の態度で返答する。 「任務なんて後回しだよ♪後回し♪真夜中だぜ!気にするなよ♪」 大柄の邏卒は非常に楽観的様子だったのである。 「後回しって…」 『任務中だろうに…此奴は無責任だな!』 小柄の邏卒は大柄の邏卒の無責任さに呆れ果てる。 「時間帯は深夜帯だし…人目は貴殿だけだからな♪別に大丈夫だろう♪」 大柄の邏卒はムラムラした様子であり赤面し始める。 「小町娘の姉ちゃんよ♪折角だし♪俺達と一緒に夜遊びしようぜ♪」 「えっ…此奴は?」 『見ず知らずの女性を相手に…正気なのか?』 小柄の邏卒はムラムラし始めた大柄の邏卒にドン引きしたのである。 『俺は一体…如何するべきか?』 小柄の邏卒は困惑した直後…。突如として番傘の女性が背後の大柄の邏卒を直視し始めたのである。 「えっ?姉ちゃん…」 女性は半透明の血紅色の瞳孔であり無表情で大柄の邏卒を凝視する。 「やっぱり姉ちゃんは素顔も別嬪みたいだな♪あんたは絶世の美女だぜ♪」 女性は絶世の美女であり大柄の邏卒は彼女の容姿に大喜びしたのである。 「あんたは最高だな♪こんな場所で絶世の美女と遭遇出来るなんて♪」 大柄の邏卒が微笑した直後…。 「ん?」 突如として大柄の邏卒の喉元から血液が流れ出る。 「えっ?流血だと?」 大柄の邏卒は恐る恐る自身の喉元に接触する。 「えっ…如何して流血したのか?」 すると直後…。 「えっ?」 突如として大柄の邏卒の頭首がポロッと橋板に落下したのである。 「ひっ!」 『一体全体何が!?如何して頭首が…』 大柄の邏卒の頭首を直視すると小柄の邏卒は極度の恐怖心からか恐る恐る後退り…。女性に戦慄したのである。 『此奴は物の怪!?殺される!』 戦慄した小柄の邏卒は一目散に逃走する。 翌日の早朝…。東国と北国の国境に直結する両国橋にて頭首を斬首された大柄の邏卒の遺体が発見されたのである。
第二話
風評被害 同日の真昼…。最上級妖女の月影桜花姫は久方振りに東国の八正道の寺院へと訪問したのである。 「八正道様♪」 「貴女様は桜花姫様でしたか♪久方振りですな♪本日は如何されましたか?」 八正道は久方振りの桜花姫の訪問に大喜びする。 「勿論暇潰しよ♪暇潰し♪私は退屈で仕方ないのよね…」 「承知しました♪桜花姫様♪時間帯が時間帯ですからね…折角ですし昼食でも如何でしょうか?桜花姫様♪」 「昼食ですって♪私も空腹だから頂戴するわね♪」 八正道は桜花姫に応接間へと案内したのである。 「桜花姫様…早速食事を用意しますので…」 八正道は応接間から退室する。 「妖星巨木の悪霊事件は無事に解決出来たけれども…俗界に悪霊が出現しないと面白くないわね…」 半年前の四月下旬に発生した妖星巨木による悪霊大事件は桜花姫一行の大奮闘によって無事に解決出来たのだが…。 『近頃は悪霊が出現しないから毎日が退屈で仕方ないわ…』 安寧秩序の平和が到来すると弊害として非常に退屈だったのである。 『悪霊が出現しなくなったら今後は如何しましょう?』 桜花姫は普通の日常生活が辛苦であり憂鬱に感じられる。 『毎日がこんなにも退屈だと…私は…今後は如何するべきか?』 桜花姫は今後の生活を如何するべきか苦悩する。すると八正道が恐る恐る応接間へと戻ったのである。 「桜花姫様♪昼食を用意しましたよ♪」 「八正道様…食事は何かしら?」 「本日の昼食は天丼ですよ♪」 八正道が用意した昼食の食事は美味しそうな海老天豊富の天丼であり桜花姫は頬張りたくなる。 「昼食は天丼なのね♪美味しそうだわ♪早速美味しそうな海老天から頂戴するわね♪」 桜花姫は天丼のメインである海老天を頬張る直前…。 「御二方!食事中に失礼します!」 突如として何者かがソワソワした様子で寺院の応接間へと乱入したのである。一方の桜花姫と八正道は突然の出来事に驚愕する。 「きゃっ!」 「うわっ!こんな時間帯に一体誰でしょうか!?」 桜花姫は苛立った様子で…。 「突然何事よ!?吃驚するじゃない!」 応接間へと乱入した人物とは小柄の邏卒だったのである。 「誰かと思いきや…貴方は武士団の駐在員さんでしょうか?如何されましたか?」 「如何して武士団の駐在員さんが八正道様の寺院なんかに?」 小柄の邏卒は桜花姫を直視した直後…。 「ひっ!こんな場所に神出鬼没の悪霊!?」 「なっ!?」 『私を…神出鬼没の悪霊ですって…』 桜花姫は邏卒の悪霊発言にムッとし始める。 「一寸あんた!失礼しちゃうわね!地上世界の女神様である私を神出鬼没の悪霊ですって!?私を悪霊呼ばわりするなんてあんたは何様かしら!?」 桜花姫は小柄の邏卒に怒号する。 「ひっ!御免なさい!」 小柄の邏卒は必死に桜花姫に謝罪するものの…。 「如何やらあんたは命知らずみたいね…」 桜花姫は失言した小柄の邏卒を睥睨したのである。 「命知らずのあんたは招き猫に変化しなさい♪」 すると小柄の邏卒は桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられる。 「えっ!?如何して駐在員さんが招き猫に!?ひょっとして桜花姫様の妖術でしょうか!?」 八正道は変化の妖術で招き猫に変化した小柄の邏卒を直視…。一瞬の出来事に八正道は驚愕する。 「私の天道天眼は変化の妖術で多種多様のあらゆる物体を別物に変化させられるのよ♪悪霊は勿論…普通の人間だって無条件に変化させられるからね♪」 すると八正道は苦笑いした表情で恐る恐る桜花姫に…。 「ですが桜花姫様…多少遣り過ぎなのでは?桜花姫様の妖術で彼を元通りには戻せないのでしょうか?」 桜花姫の短気さには温厚の八正道も遣り過ぎであると感じる。 「勿論元通りに戻せるわよ♪」 桜花姫は変化の妖術を解除…。 「仕方ないわね…」 変化の妖術を解除すると招き猫に変化させられた小柄の邏卒は元通りの人間の姿形に戻ったのである。 「はぁ…元通りに戻れた…」 小柄の邏卒はホッとする。 「反省しなさいね♪」 桜花姫は笑顔で発言したのである。すると邏卒はビクビクした様子で恐る恐る…。 「桜花姫様…先程の失言は大変失礼しました…」 小柄の邏卒は桜花姫に謝罪したのである。 「気にしないで♪駐在員さん♪金輪際地上世界の女神様である私に悪霊なんて失言したら今度こそ桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね♪」 「えっ…はぁ…」 小柄の邏卒は勿論…。 『桜花姫様は私が想像する以上に短気みたいですね…』 八正道も桜花姫の発言には苦笑いする。すると八正道は恐る恐る小柄の邏卒に何が発生したのか問い掛ける。 「ですが突然如何されたのですか?重役である東国武士団の駐在員さんがこんな寺院に訪問されるなんて…東国で大事件でも発生したのでしょうか?」 「前代未聞の一大事ですよ…」 八正道の問い掛けに小柄の邏卒は即答したのである。 「前代未聞の一大事ですと?非常に気になりますね…前代未聞の一大事とは一体何が発生したのでしょうか?」 「昨夜の出来事なのですが…」 小柄の邏卒は昨夜の出来事は勿論…。昨今に頻発した連続斬首事件の詳細を洗い浚い告白する。 「真夜中の連続斬首事件ですか…一大事ですね…」 「あんたの仲間が殺人鬼に殺されちゃったのは自業自得でしょうけど…手出しせずに頭首が斬首されるのは不吉ね…」 「昨夜に遭遇した正体不明の小町娘によって私の同僚が殺害されましたからね…彼女は一体何者だったのか…」 「小町娘ですって?」 小町娘の一言に桜花姫が反応したのである。 「駐在員さんの仲間は正体不明の小町娘に殺されちゃったの?」 桜花姫が問い掛けると小柄の邏卒は恐る恐る…。 「断言は出来ませんが…恐らく彼女は荒唐無稽の妖術らしき摩訶不思議の超常現象で…私の同僚の頭首を斬首したのでしょう…被害者達は全員共通して頭首を斬撃された状態でしたからね…恐らくは同様の手口で被害者達を殺害したのでしょう…」 「ひょっとして妖女の仕業かしら?」 「妖女の仕業ですと?」 八正道と小柄の邏卒は桜花姫の妖女の一言に反応したのである。 「斬首事件の真犯人が妖女なのかは現段階では断定は出来ないけれど…彼女の特徴とかは?」 小柄の邏卒は桜花姫の質問に恐る恐る返答する。 「私が遭遇した小町娘の特徴なのですか…彼女の特徴であれば赤色の着物姿でしたね…右手には番傘を所持して…頭髪には寒椿の髪装飾でしょうか?」 「赤色の着物姿…右手には番傘…頭髪には寒椿の髪装飾ね…」 桜花姫は一瞬沈黙したのである。八正道は沈黙し始めた桜花姫に恐る恐る…。 「桜花姫様…如何されましたか?」 「ひょっとすると今回発生した連続斬首事件も…悪霊の仕業かも知れないわ…」 「悪霊の仕業ですと!?」 八正道と小柄の邏卒は悪霊の一言に反応する。 「ひょっとすると【小椿童女】って名前の小町娘の悪霊の仕業かしら…」 「小椿童女ですと?小椿童女と命名される悪霊とは…一体何者なのでしょうか?」 「小椿童女はね…」 小椿童女とは戦乱時代にとある極悪非道の荒武者によって頭首を斬首…。惨殺された村娘の亡霊とされる存在である。 「小椿童女は戦乱時代に斬首された村娘の亡魂なのよね…」 小椿童女は外見のみなら容姿端麗の小町娘であるが…。可愛らしい外見とは裏腹に小椿童女の霊能力は非常に強力とされ彼女の瞳孔を直視した人間は彼女の強大なる霊力によって頭首を斬首され…。誰であろうと彼女の瞳孔を直視した人間は問答無用に殺害される。反対に小椿童女の瞳孔を直視しなかった人間は命拾い出来るとされる。小椿童女は今現在でも成仏出来ず…。番傘の小町娘の姿形で真夜中の各地を徘徊しては遭遇した人間の頭首を自身の霊能力で斬首し続けるのである。地方によっては小椿童女を神出鬼没の斬首女房やら妖花の亡霊と呼称する村里も一部存在する。 「小椿童女は戦乱時代に斬首された村娘の悪霊でしたか…正体が神出鬼没の悪霊だとしても小椿童女は非常に気の毒ですね…如何にか彼女を昇天させたい気分ですよ…」 八正道は悪霊の小椿童女を気の毒に感じる。 「小椿童女の瞳孔を直視した人間は彼女の霊能力によって問答無用に頭首を斬首されるわ…」 「ひょっとして私が…彼女に斬首されなかったのは…」 小柄の邏卒はゾッとし始める。 「あんたが小椿童女に斬首されなかったのは幸運にも彼女の瞳孔を直視しなかったからよ…間一髪だったわね♪駐在員さん♪あんたは命拾い出来て幸運だわ♪」 小椿童女の瞳孔を直視せず命拾い出来た小柄の邏卒であるが…。 「ですが正直…私も彼女の素顔を拝見したかったですよ♪彼女の雰囲気は別嬪の女性っぽかったですし…」 「駐在員さんが死にたくなったら彼女の素顔を思う存分に直視しなさいよ♪一瞬で即死出来るでしょうね♪」 桜花姫は満面の笑顔で発言する。 「えっ…桜花姫様…」 八正道は苦笑いしたのである。 「桜花姫様は意地悪ですね♪」 小柄の邏卒は笑顔で返答する。談笑した桜花姫と邏卒であるが…。桜花姫は再度邏卒に質問したのである。 「如何してあんたは初対面の私を神出鬼没の悪霊と勘違いしたのよ?」 桜花姫の問い掛けに小柄の邏卒は苦笑いする。 「小椿童女と命名される悪霊が奇遇にも桜花姫様と姿形が合致しましてね…桜花姫様が一瞬悪霊かと勘違いしちゃったのですよ♪先程は失礼しましたね…」 「桜花姫様は普段から赤色の着物姿ですからね♪仕方ないでしょうね♪」 「八正道様も…失礼しちゃうわね…」 八正道に揶揄された桜花姫は表情が赤面する。 「勿論桜花姫様は誰よりも別嬪ですよ♪」 「勿論ですとも♪野郎であれば誰であっても桜花姫様を別嬪と感じるでしょうね♪」 「私が別嬪なんて♪八正道様も駐在員さんも大袈裟ね♪」 『私が別嬪ですって♪』 桜花姫は内心別嬪の一言に大喜びしたのである。 「小椿童女は即刻仕留めないと温厚篤実の女神様である私が極悪非道の悪霊と勘違いされちゃうからね!傍迷惑だわ…」 「桜花姫様の風評被害は勿論ですが…今回の問題を放置し続ければ小椿童女の霊能力によって大勢の町民達が斬首されますからね!」 八正道は真剣そうな表情で桜花姫を凝視する。 「桜花姫様…即刻悪霊の小椿童女を征伐しなくては…」 一方の桜花姫は困惑した表情で…。 「本来なら即刻小椿童女を征伐したいのだけれど…生憎小椿童女が出現する時間帯は真夜中だけなのよね…」 「えっ!?小椿童女は真夜中でしか活動出来ないのですか!?」 小椿童女が出現するのは暗闇の深夜帯のみであり朝方やら昼間の日中では出現しない。桜花姫は小柄の邏卒に指示する。 「駐在員さんは武士団の役人達に今夜の夜番活動を全面的に中止させなさい…勿論東国の町民達には夜間の外出を厳禁させてね♪」 「承知しました…桜花姫様…私は失礼しますね…」 承諾した小柄の邏卒は寺院から退出したのである。 「ですが桜花姫様…今回の悪霊事件も非常に厄介そうですね…」 「厄介かしら?悪霊捕食者の私にとっては好都合だけれどね♪何よりも悪霊征伐なんて久方振りだし♪」 桜花姫は久方振りの悪霊出現に大喜びする。 「ですが奇妙ですね…」 八正道の表情が険悪化したのである。 「えっ?何が奇妙なのよ?八正道様?」 「妖星巨木の悪霊の集合体を桜花姫様が成仏させたのに…今回は女性の悪霊が出現しましたからね…」 半年前の悪霊大事件で妖星巨木に憑霊した悪霊の集合体は桜花姫の神通力によって成仏されたが…。以降も小規模であるが各地に悪霊が再出現し始めたのである。悪霊の出現頻度こそ小規模であるが…。八正道は悪霊の再出現に極度の胸騒ぎを感じる。 「桜花姫様…私は極度の胸騒ぎを感じるのです…」 「胸騒ぎですって?」 「今後は今迄に出現した以上の…強豪の悪霊が各地の村里に出現するかも知れません…私は今後も悪霊事件によって大勢の被害者が続出しそうで非常に不安なのですよ…」 八正道は今迄に出現した悪霊とは桁外れの霊力を保持…。強大なる悪霊の出現を危惧したのである。八正道は人一倍心配性の性格であるが…。桜花姫も悪霊の再出現は非常に気になる。 「兎にも角にも…私は今回の悪霊を征伐するわね…」 「承知しました…桜花姫様…」 「早速昼食を頂戴するわね♪」 桜花姫と八正道は昼食の天丼を食事したのである。
第三話
斬首 当日の真夜中…。桜花姫は久方振りの悪霊征伐にワクワクしたのである。彼女は獅子奮迅の様子で闇夜の東国に直行する。 『小椿童女…今夜は出現するかしら♪』 西国の村里から移動してより二時間後…。桜花姫は東国の中心街へと到達する。 『真夜中の東国って普段は大都会なのに無人の過疎地みたいだわ…』 日中は人通りが過多である東国の中心街であるが…。真夜中の時間帯では人通りは皆無であり武士団の夜間の外出禁止命令によって出歩く町民は誰一人として確認出来ない。 『非常に好都合ね♪』 今夜は武士団の巡邏も全面的に厳禁されたのである。 『早急に悪霊を仕留めて思う存分に熟睡するわよ♪』 桜花姫は適当に中心街を出回るのだが…。中心街では悪霊特有の霊力らしい霊力を感じられず悪霊らしき物体は何一つとして確認出来ない。 「はぁ…」 『中心街では悪霊の気配も霊力も感じられないわね…』 困惑した桜花姫であるが…。 『問題の両国橋は如何かしら…』 東国と北国を直結する両国橋を想起したのである。 『両国橋に直行するわよ♪』 桜花姫は即座に事件現場の両国橋へと移動する。 『今回も両国橋に小椿童女が出現するかしら?』 移動してより数分後…。桜花姫は事件現場の両国橋へと到達したのである。 『問題の両国橋には到着したけれど…』 周囲を警戒するが霊力も人影も皆無であり桜花姫は落胆する。 「如何しましょう?」 『真夜中に発見出来なければ小椿童女を仕留められなくなるわ…』 桜花姫は一息したのである。 「はぁ…非常に残念ね…」 『悪霊は発見出来ないし…今夜は出直しかしら…』 悪霊の小椿童女を発見出来ず西国の村里に戻ろうかと思いきや…。 「えっ…」 突如として背後より正体不明の気配を感じる。 『気配だわ…一体何かしら?』 町民達の外出は禁止された状態であり桜花姫は気配の正体を人外であると思考したのである。 「気配だわ…」 『恐らく気配の正体は人外でしょうね…』 彼女は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。 「えっ…」 桜花姫の背後には番傘を所持した赤色の着物姿の小町娘が真夜中の満月を眺望したのである。 『こんな真夜中に一体誰かしら?』 彼女の頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。 『番傘と寒椿の髪装飾…ひょっとして彼女の正体は小椿童女…』 桜花姫は背後の小町娘に警戒した様子で恐る恐る…。 「あんたの正体は…悪霊の小椿童女ね…」 桜花姫は一歩ずつ慎重に番傘を所持する小町娘の背後へと近寄る。 「こんな暗闇の真夜中にあんたみたいな小町娘が一人で外出するなんて非常に不自然だわ…あんたは何者なのよ?」 桜花姫は番傘の小町娘に問い掛けるのだが…。番傘の小町娘は無反応の様子である。彼女は沈黙した様子であり只管に天空の満月を眺望し続ける。 「此奴…」 『私の問い掛けに無視するなんて…小椿童女は腹立たしい悪霊ね…』 桜花姫は彼女の態度にピリピリし始める。 『此奴は問答無用征伐しないと!』 すると直後である。小椿童女は背後に位置する桜花姫の方向を直視した直前…。 「えっ!?」 桜花姫は即座に両目を瞑目させたのである。 『危機一髪だったわ!下手に小椿童女の瞳孔を直視しちゃうと頭首を斬首されちゃうのよね…』 冷や冷やした桜花姫は瞑目し続けた状態で恐る恐る後退りする。 『小椿童女は非常に厄介だわ…如何しましょう?』 桜花姫は咄嗟の瞑目により命拾い出来たものの…。瞑目し続けた状態では身動きすら不安定である。 『こんな状態では圧倒的に不利だわ…』 こんな状態では妖術を発動したくても集中出来ず思う存分に妖術を発動出来ない。 『一か八かよ…一度安全地帯に逃げましょう!』 桜花姫は止むを得ず両国橋から一目散に逃走したのである。 「はぁ…はぁ…」 桜花姫は近辺の路地裏にて逃亡する。 『如何やら小椿童女は…私を追撃しないみたいね…』 追撃しない小椿童女に桜花姫は一安心したのである。安堵する反面…。 『緊張しちゃったから変化の妖術も発動出来ないわね…如何しましょう?』 桜花姫は事態の打開に苦悩する。先程は極度の緊張感と小椿童女の素顔が気になり変化の妖術を発動したくても発動出来なかったのである。 「正直彼女の素顔も気になるし…」 『小椿童女の瞳孔を直視すると本当に斬首されるのかしら?』 桜花姫は斬首を覚悟…。 「一か八かよ…」 『両国橋に戻りましょう…』 移動してより数分後…。桜花姫は現場である両国橋に到達する。 『両国橋は此処だったわね…』 現場の両国橋には夜空の満月を眺望し続ける小椿童女の姿形が確認出来る。 『小椿童女だわ…』 彼女は身動きせずに只管夜空の満月を眺望し続ける。 『今度こそ妖術で徹底的に小椿童女を仕留めるわよ♪』 桜花姫は恐る恐る小椿童女の背後に近寄る。 「小椿童女!今度こそ悪霊のあんたを成仏させるからね!覚悟しなさいよ!」 すると数秒後…。小椿童女は背後の桜花姫に反応したのか再度背後の彼女を直視したのである。 「えっ…」 彼女は無表情で背後の桜花姫を凝視し続ける。 「あんたは…」 『小椿童女って…神出鬼没の悪霊なのに意外と美少女なのね♪』 神出鬼没の悪霊であっても小椿童女の素顔は非常に美的であり同性の桜花姫でさえも彼女は容姿端麗であると感じる。 『本当に彼女の霊能力で斬首されるのかしら?』 数秒間が経過したものの…。超常現象は何も発生しない。 『別に…大丈夫そうね♪』 桜花姫は大丈夫であると確信した直後…。 「えっ?」 桜花姫の喉元からポタポタッと赤色の液体が流れ出る。 「えっ…何かしら?」 『赤色の…液体?』 桜花姫は恐る恐る自身の首筋の液体に接触したのである。 「えっ…」 『流血だわ…如何して流血なんか…』 皮膚から流れ出る赤色の液体が自身の鮮血であると確信した直後…。桜花姫の頭首がポロっと橋板に落下したのである。小椿童女は霊能力で桜花姫の頭首を斬首すると不吉の表情で冷笑し始める。桜花姫の頭首を斬首した小椿童女は再度夜空の満月を眺望し始めるのだが…。 「残念だったわね♪小椿童女♪」 小椿童女は女性の美声に反応したのか背後を直視したのである。小椿童女の背後には両目を瞑目した状態の桜花姫が佇立する。 「小椿童女♪あんたの表情を直視出来ないのは非常に残念だけれど♪あんたが霊能力で斬首したのは私の分身体なのよね♪」 先程小椿童女の霊能力によって斬首された桜花姫の肉体と頭首から白煙が発生し始める。切断された桜花姫の頭首と肉体は白煙が発生したと同時にポンッと消滅したのである。基本的に無表情の小椿童女であるが…。ハッとした表情で瞑目し続ける桜花姫を凝視したのである。 「作戦は成功ね♪」 桜花姫は分身の妖術で形作った分身体を利用して小椿童女と接触…。彼女の形相を認識させたのである。 「あんたの素顔は分身体で確認出来たからね♪」 桜花姫は小椿童女に変化の妖術を発動…。 「小椿童女は桜餅に変化しなさい♪」 変化の妖術により小椿童女を小皿に配置された桜餅に変化させたのである。 『消耗した妖力を回復させないと♪』 桜花姫は桜餅に変化した小椿童女をパクッと頬張り始める。 『桜餅は美味だわ♪』 すると両国橋から感じられた不吉の霊力が消失する。 「元凶の小椿童女を仕留められたし♪」 『今回の悪霊事件は無事解決ね♪』 元凶の小椿童女を仕留められ…。 『私は西国の村里に戻って思う存分に熟睡するわよ♪』 無事に悪霊事件を解決させた桜花姫は即座に西国の村里へと戻ったのである。
第四話
鬼面山 南国の鬼面山と命名される岩山にて無数の悪霊が出現したとの噂話が国全体に出回る。小町娘の悪霊…。小椿童女との死闘から四日後の真昼の出来事である。鬼面山の噂話が気になった桜花姫は真昼の時間帯…。悪霊征伐にワクワクしたのか西国の村里から南国に聳え立つ鬼面山へと直行したのである。 『今度は南国の鬼面山に悪霊の大群が出現したのね♪』 鬼面山とは標高九町規模の巨大岩山であり大山全体が巨体の岩鬼を連想させる外観から鬼面山と命名される。造物主妖星巨木との戦闘から悪霊の出現頻度は減少傾向であったものの…。桜花姫は久方振りの悪霊の大群出現に大喜びしたのである。西国の村里から徒歩により三時間後…。桜花姫は南国の村里に到達する。 『南国の村里に到着したわね♪』 南国の村里は非常に殺風景であるものの…。大勢の農民達が農作業に尽力中だったのである。 「今回は何が出現したのかしら♪」 『半年前の荒神山での戦闘みたいに大量の悪霊が出現したら面白いわね♪』 桜花姫は半年前の荒神山での悪霊征伐を想起する。 『即刻問題の鬼面山に移動しないと…』 目的地の鬼面山に直行したいものの…。 「えっ…」 桜花姫は場所が不明瞭であり困惑する。 『鬼面山の場所って…』 困惑した桜花姫は恐る恐る耕作中の農民に近寄る。 「耕作中に御免あそばせ♪百姓さん♪」 すると耕作中の農民が恐る恐る桜花姫を直視する。 「えっ?あんたは大都会の芸妓さんかね?あんたみたいな芸妓の娘さんが南国の村里に訪問されるなんて…一体何事ですかね?」 「なっ!?誰が芸妓ですって!?」 桜花姫は農民の花魁発言に苛立ったのか即答したのである。 「失礼しちゃうわね…私は最上級妖女の桜花姫!月影桜花姫よ!最上級妖女の私を其処等の芸妓なんかと勘違いしないでよね…」 桜花姫の返答に農民は驚愕する。 「えっ…貴女様は伝説の最上級妖女の…月影桜花姫様ですか!?」 農民は即座に桜花姫に謝罪したのである。 「大変失礼しました!月影桜花姫様…花柄の着物姿だったので桜花姫様を芸妓さんの娘さんと勘違いしちゃいました…」 「私自身奇抜だから芸妓さんと見間違えるでしょうね♪仕方ないわね♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 「ですが桜花姫様?こんなにも早朝から如何して南国の村里なんかに訪問されたのですか?南国の村里はこんなにも片田舎なのですよ…桜花姫様は此処で何を?」 南国の領土の広大さは首都圏の東国に匹敵するものの…。領地の大半は農村地帯であり娯楽らしい娯楽は皆無である。 「近頃は南国の鬼面山に悪霊の大群が出現したらしいからね♪私は鬼面山に出現した悪霊の大群を征伐しに南国に出掛けたのよ♪」 「鬼面山の悪霊征伐ですね…」 「百姓さん?」 桜花姫は恐る恐る鬼面山の場所を質問する。 「私は鬼面山の場所を知りたくてね…あんたは鬼面山の場所は知らないかしら?」 「鬼面山であれば北方の岩山ですよ…」 農民は北方の側面に聳え立つ岩山を指差したのである。 「えっ…北方の岩山ですって?」 桜花姫は農民が指差した北方の岩山を眺望する。鬼面山は農村から非常に近辺であり徒歩でも十数分で到達出来る近距離である。 「鬼面山は案外近辺だったのね♪感謝するわね♪百姓さん♪」 桜花姫は北方の岩山を目印に直進する。すると直後…。 『霊力かしら?』 農村からは感じられなかったが鬼面山に近寄ると重苦しい無数の気配を感じる。 『空気が異常に重苦しいわね…今回は大群かしら…』 鬼面山の表面は非常に暗闇であり無数の霊力の悪影響からか山中の空気も全体的に重苦しく感じられる。 『こんなにも山中の空気が重苦しいなんて…普通の人間なんて鬼面山には近寄りたくても近寄れないでしょうね…』 桜花姫は恐る恐る殺伐とした鬼面山へと突入する。
第五話
頂上 鬼面山の山道の周辺はゴツゴツとした岩壁ばかりであり天然の動植物は何一つとして確認出来ない。 『昼間なのに真夜中みたいな雰囲気だわ…鬼面山は本当に気味悪いわね…』 時間帯は真昼であるが…。山道は非常に薄暗い雰囲気であり真夜中の夜道に感じられる。すると山道の周辺より…。 『無数の霊力だわ…悪霊の大群かしら?』 無数の霊力が自身に近寄るのを感じる。 『天道天眼…発動!』 桜花姫は襲撃を警戒したのか即座に神性妖術の天道天眼を発動…。血紅色だった彼女の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。 「ん?」 直後…。 『悪食餓鬼かしら?』 目前の地面より無数の悪食餓鬼が出現したのである。 『悪食餓鬼の大群なんて…最高だわ♪』 彼女は無数の悪食餓鬼との遭遇に大喜びする。 『一思いに悪霊の大群を蹴散らせるわよ♪』 地面から出現した無数の悪食餓鬼が桜花姫に殺到したのである。 「あんた達は無謀ね♪」 桜花姫は即座に念力の妖術を発動…。 「命知らずのあんた達は死滅しなさい♪」 殺到する無数の悪食餓鬼の頭部を破裂させたのである。 『楽勝♪楽勝♪』 周辺の地面には頭部を破裂させられた無数の悪食餓鬼の血肉やら肉片が彼方此方に飛散する。桜花姫は一安心するものの…。 『気配だわ…』 背後からも無数の霊力を感じる。 『背後かしら?』 背後の地面からも無数の悪食餓鬼が出現したのである。 『鬱陶しい奴等だわ…』 桜花姫は仕留めても出現し続ける悪食餓鬼の大群に苛立ったものの…。 「鬱陶しいからあんた達も死滅しなさい♪」 背後から殺到する無数の悪食餓鬼を念力の妖術によって粉砕する。一瞬で悪食餓鬼の大群を仕留めたのである。 『妖力を消耗しちゃったから悪食餓鬼を桜餅に変化させちゃおうかしら♪』 彼女はルンルンの気分であり十八番である変化の妖術を発動…。破裂させた悪食餓鬼の無数の肉片を自身の大好物である桜餅に変化させたのである。 『消耗しちゃった妖力を回復させないと♪』 本来は悪霊の血肉であるが桜花姫は無我夢中に無数の桜餅をパクパクと鱈腹頬張る。桜餅を頬張り続けてより数分後…。道端に散乱した無数の桜餅を平らげたのである。 『妖力は回復したわね♪』 無数の桜餅によって妖力を回復させた直後…。 「えっ!?」 背後より複数の霊力を感じる。 「複数の霊力を感じるわね…」 『悪食餓鬼を上回る霊力だわ…今度は一体何が出現したのかしら?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。 『今度の相手は集合体の百鬼悪食餓鬼かしら?』 桜花姫の背後に出現した悪霊とは無数の悪食餓鬼が一体化した一頭身の百鬼悪食餓鬼であり三体も出現したのである。桜花姫は百鬼悪食餓鬼の出現に大喜びする。 「こんな場所に百鬼悪食餓鬼が三体も出現するなんてね♪」 『私は空腹だから好都合だわ♪』 すると百鬼悪食餓鬼の体表である無数の悪食餓鬼の頭部はギロッとした表情で怨敵の桜花姫を睥睨し始める。 「あんた達って気味悪さだけなら抜群ね♪」 百鬼悪食餓鬼の体表である悪食餓鬼の口先から猛毒の瘴気を周辺に放出する。 『瘴気かしら?』 百鬼悪食餓鬼の瘴気は非常に強力であり地面の石道が融解されたのである。 『百鬼悪食餓鬼の瘴気は非常に強力ね…皮膚に接触すると危険そうだわ…』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。百鬼悪食餓鬼の瘴気を無力化したのである。 「鬱陶しいからあんた達は飴玉に変化しなさい♪」 百鬼悪食餓鬼を標的に変化の妖術を発動…。三体の百鬼悪食餓鬼を大好きな飴玉に変化させたのである。桜花姫は飴玉に変化した百鬼悪食餓鬼を一口でパクッと頬張る。 『美味だわ♪』 大喜びした桜花姫であるが…。直後である。 「えっ…」 鬼面山の頂上より殺伐とした強大なる霊力を感じる。 『今度は何かしら?』 気になった桜花姫は一目散に鬼面山の頂上へと直行したのである。 『天辺から霊力を感じるわ…』 桜花姫は頂上に到達すると周囲を警戒する。 『百鬼悪食餓鬼を上回る霊力なのは確実ね…百鬼悪食餓鬼とは別物だわ…』 霊力の性質から悪食餓鬼は勿論…。百鬼悪食餓鬼とは別物であると察知する。すると自身の背後より強烈なる熱気を感じる。 「えっ!?」 『熱気だわ…今度は何が出現したのかしら?』 彼女は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。 「如何やら天辺から感じられた霊力の正体はあんただったみたいね…」 桜花姫の背後に出現したのは空中を浮遊する牛車の車輪である。超高温の火炎に覆い包まれた車輪の中心部には僧侶らしき男性の巨大頭部が確認出来る。 「あんたは車輪の悪霊…【地獄輪入道】ね…」 地獄輪入道とは戦乱時代にて惨殺された僧侶達の無念の集合体が器物である牛車の車輪に憑霊…。同系統の悪霊である小面袋蜘蛛やら亡霊菊人形と同様に器物の悪霊の一種とされる。 『此奴は惨殺された僧侶達の無念の集合体だったわね?』 桜花姫は地獄輪入道の出現に警戒する。一方の地獄輪入道は空中を浮遊した状態から鬼面山頂上の桜花姫を睥睨し始める。 「命知らずの人間の小娘風情が…鬼面山の天辺に到達するとは無謀なり!」 地獄輪入道は人間界の公用語で発言したのである。 「誰が人間の小娘ですって!?」 桜花姫は地獄輪入道の人間の小娘発言に腹立たしくなる。 「失礼しちゃうわね!私は正真正銘最上級妖女なのよ!」 桜花姫は強気の態度で地獄輪入道に即答する。 「貴様は小娘の分際で随分と強気であるな…最上級妖女の小娘よ…」 「あんたなら其処等の悪霊よりは私とも接戦出来そうね♪地獄輪入道が相手なら手応えを感じられそうだわ♪」 「命知らずの妖女の小娘が!俺に遭遇したのを後悔するのだな!」 地獄輪入道は口先より強烈なる火炎を凝縮させたのである。 『此奴は予想外ね…地獄輪入道は霊力だけなら百鬼悪食餓鬼は勿論…小面袋蜘蛛よりも強力だわ…』 地獄輪入道の霊力は非常に強力であり悪食餓鬼の集合体とされる百鬼悪食餓鬼は勿論…。同種の器物の悪霊である小面袋蜘蛛をも上回る。 『地獄輪入道…多少は危険かも知れないわね…』 桜花姫は地獄輪入道の強大なる霊力に一瞬後退りする。 「俺に戦慄したか!?か弱き小娘の妖女よ!」 地獄輪入道から後退りした桜花姫であるが…。彼女は笑顔で反論したのである。 「誰があんたなんかに戦慄ですって♪」 地獄輪入道の口先に凝縮された火の粉は高熱の火球へと変化する。 「貴様は完膚なきまでに死滅せよ!妖女の小娘風情が!」 地獄輪入道は口先から高熱の火球を発射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪地獄輪入道の火球を無力化したのである。 「残念でした♪地獄輪入道♪危機一髪ね♪」 桜花姫は地獄輪入道に挑発する。 「妖女の小娘よ…貴様は妖力の防壁で俺の攻撃を無力化するとは…」 「私も猛反撃しちゃうわよ♪あんたは桜餅に変化しちゃいなさい♪」 桜花姫は地獄輪入道に変化の妖術を発動するものの…。 「えっ!?」 『如何して!?』 地獄輪入道は空中を浮遊した状態であり依然として桜餅には変化しない。 『如何して地獄輪入道には私の妖術が発動しないのよ!?』 桜花姫は予想外の事態に動揺し始める。 「残念であったな…妖女の小娘よ!貴様程度の妖術は俺には通用しないのだ!」 「念力の妖術だったら如何かしら?」 今度は地獄輪入道に念力の妖術を発動するのだが…。 「痛くも痒くもない!貴様程度の妖術が俺に通用するか!」 地獄輪入道は平然とした状態であり念力の妖術さえも発動されない。 「如何して私の妖術が無力化されるのよ?」 『ひょっとして地獄輪入道には妖術が通用しないのかしら?』 地獄輪入道は動揺し始めた桜花姫に…。 「不思議そうな表情だな…妖女の小娘よ♪」 「あんたの肉体はひょっとして…」 桜花姫は造物主の妖星巨木を連想する。 「本来…俺の肉体は世界樹の妖星巨木の肉片から誕生した器物であるからな♪貴様程度の妖術では俺は仕留められまい!妖女である貴様が俺に妖術を発動すれば貴様の妖術は無力化…妖力は必然的に俺の肉体に吸収され…俺は半永久的に強大化し続けるだけだ!」 「やっぱりあんたの肉体は妖星巨木の樹木だったのね…妖力を吸収するなんて小面袋蜘蛛みたいね…」 本来地獄輪入道の肉体は造物主である妖星巨木の木材から形作られた牛車の車輪であり器物の悪霊である。特定の地方では器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に車輪の付喪神とも呼称される。性質上小面袋蜘蛛と同様に荒唐無稽の妖術で地獄輪入道に攻撃すると本体の吸収能力で妖力は吸収され…。妖術は完全に無力化される。 「所詮貴様程度の妖術では俺には勝利出来ない!観念するのだな!妖女の小娘!」 豪語する地獄輪入道であるが…。 「半年前の私だったら…悪戦苦闘は確実だったかも知れないわね♪」 桜花姫は余裕の表情である。 「ん?」 『此奴は俺を相手に随分と余裕の様子だな…如何して妖女の小娘は平常心なのだ?奥の手でも隠し持って…であれば小娘は非常に厄介だが…』 地獄輪入道は冷静沈着の桜花姫を不可思議に感じる。一方の桜花姫は空中を浮遊し続ける地獄輪入道を直視するとニコッと微笑み始める。 「地獄輪入道♪口寄せの妖術なら如何かしら♪」 「口寄せの妖術だと?今更小細工か?俺に荒唐無稽の妖術は通用しない…貴様は俺を相手に無謀であると理解出来ないのか?」 「無謀だと断言するのは早計よ…地獄輪入道♪」 「ん?貴様は一体何を?」 桜花姫は妖星巨木にも通用する神通力を活用…。口寄せの妖術を発動する。桜花姫は口寄せの妖術により俗界とは無縁の異世界に存在するとされる近代兵器…。小型地対空ミサイルを召喚したのである。 「なっ!?」 『異次元空間から火箭弾を口寄せしたのか!?』 口寄せの妖術で小型地対空ミサイルを鬼面山天辺へと一瞬でワープさせる。 「如何かしら?口寄せの妖術は器物も召喚出来るのよ♪」 口寄せの妖術は別名としては時空間妖術とも呼称される。多種多様の生命体やら黄泉の世界に存在する死没者のみならず…。本来俗界には存在せず異世界に存在するとされる超絶的物品さえも自由自在に口寄せ出来る。 『今度は♪』 桜花姫は異世界から口寄せされた小型地対空ミサイルの導火線に火炎の妖術を発動…。導火線に着火したのである。 「地獄輪入道♪あんたは異世界の火箭弾で完膚なきまでに死滅するのね♪」 「なっ!?貴様!」 小型地対空ミサイルは導火線が着火されたと同時に小型地対空ミサイルは超音速で飛翔し始める。小型地対空ミサイルが飛翔してより数秒後…。鬼面山の天辺に浮遊する地獄輪入道へと直撃したのである。 「ぎゃっ!」 小型地対空ミサイルの直撃によって地獄輪入道の肉体はバラバラに粉砕される。 『地獄輪入道を仕留められたわね♪』 周囲の地面には地獄輪入道の肉片が彼方此方に散乱する。 『今度こそ地獄輪入道は桜餅に変化しなさい♪』 桜花姫は地獄輪入道の死骸に変化の妖術を駆使…。バラバラに粉砕された地獄輪入道の肉片を自身の大好きな桜餅に変化させる。 「空腹だし…」 『折角だから桜餅を食べちゃおうかしら♪』 彼女はムシャムシャと無数の桜餅を平らげる。無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫であるが…。 「えっ?」 『複数の霊力だわ…』 背後より強大なる複数の霊力を感じる。 『今度は何かしら?』 桜花姫は警戒した様子で背後を直視する。 『鬱陶しいわね…今度は地獄輪入道が三体も出現するなんて…』 彼女の背後には三体もの地獄輪入道が空中を浮遊した状態で出現したのである。彼等は鬼神の形相で桜花姫を睥睨…。図太い地声で発言し始める。 「俺達の同志が…こんな妖女の小娘に死滅させられるとは…」 「如何やら貴様は普通の妖女とは別格であるな…」 「ひょっとして小娘は…一握りとされる最上級妖女だな?」 桜花姫は満面の笑顔で彼等の問い掛けに返答する。 「勿論♪私は一握りの最上級妖女なのよ♪私は其処等の妖女とは別格だからね♪あんた達も私の変化の妖術で桜餅に変化させるわよ♪」 三体の地獄輪入道は即答したのである。 「止むを得ないな…同志達よ…奥の手だ!」 「こんな妖女の小娘を相手に…俺達の本領を発揮させられるとは…」 「仕方ないが…折角の機会であるからな…奥の手を駆使するか!同志達よ…」 三体の地獄輪入道の肉体がピカッと発光したかと思いきや…。 「えっ!?今度は何事!?」 三体の地獄輪入道が融合化すると巨大牛車の悪霊へと一体化する。 「コレナラドウダ!?ヨウジョノコムスメ…コレデキサマヲヒキコロシテヤル…カクゴスルノダナ!」 巨大牛車の悪霊は片言の人語で発言したのである。 「今度は地獄輪入道よりも厄介なのが出現したわね…」 『此奴は今迄に出現した悪霊とは桁違いの霊力だわ…』 桜花姫は牛車の悪霊を直視すると恐る恐る後退りする。 『三体の地獄輪入道が一体化して…牛車の悪霊…【地獄朧車】が出現するなんて…』 地獄朧車とは戦乱時代に斬首された武将達の怨念が融合化した集合体とされる超自然的存在である。本体である牛車の前方部分には等身大の巨大鬼首が確認出来る。 「此奴は…今迄出現した悪霊とは別格みたいだわ…」 『地獄朧車は霊力だけなら以前弁天島に出現した海難姫君よりも強力そうね…』 地獄朧車は半年前に出現した上級悪霊の海難姫君と同様に霊力のみなら上級に君臨する上級悪霊の一体である。 『畜生…こんな悪霊は妖術を発動したとしても妖力は吸収されるでしょうね…如何すれば地獄朧車を仕留められるのかしら?』 地獄朧車の肉体も妖星巨木の木材から誕生した器物の悪霊であり妖術を駆使したとしても確実に吸収される。 「ヨウジョノコムスメヨ!コレデシメツセヨ!」 地獄朧車は口先より蛍光色の火球を発射したのである。直後…。 『止むを得ないわ…一か八かよ!』 桜花姫は妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁によって地獄朧車の発射した火球の無力化には成功するものの…。 「きゃっ!」 桜花姫は火球の大爆発によって十数メートルほど吹っ飛ばされる。 「ぐっ!」 地獄朧車の攻撃力は桁外れの高威力であり妖力の防壁を発動したとしても本体を防ぎ切るのが精一杯だったのである。 『地獄朧車の火球は予想以上に強力だわ…妖力の防壁を発動しなければ全身がバラバラに粉砕されたでしょうね…』 桜花姫は地獄朧車の火球攻撃に吹っ飛ばされた影響で地面に横たわる。 「コノママキサマヲヒキコロシテヤル…オロカナヨウジョノコムスメ!カクゴスルノダナ!」 桜花姫は地面に強打した影響で身動き出来なくなる。 『全身を強打しちゃったわね…身動き出来ないわ…』 一方の地獄朧車は猛スピードで走行し始め…。 「ヨウジョノコムスメ!コノママキサマヲヒキコロシテヤル!」 地面に横たわった状態の桜花姫に急接近する。 『一か八かの大博打よ…今度こそ口寄せの妖術で…地獄朧車を…』 桜花姫は一か八かの苦肉の策により口寄せの妖術を発動する。地獄朧車に轢死させられる寸前…。 「ナッ!?コレハ!?」 桜花姫は口寄せの妖術によって未来世界の巨大産業文明で製造されたであろう最新式の巨大戦艦固定型砲台を口寄せしたのである。 「ニンゲンノ…ツクッタタイホウダト!?」 「死滅するのはあんたよ!地獄朧車!覚悟しなさい!」 地獄朧車の前面に出現した巨大戦艦固定型砲台が突進する地獄朧車を砲撃…。 「シマッタ…」 絶大なる爆風と衝撃波が発生する。砲撃による爆発音が鬼面山全域に響き渡る。 『異世界の兵器…予想以上に高威力ね…』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪爆風と衝撃波の無力化に成功する。 「ギャッ!」 一方の地獄朧車は巨大戦艦固定型砲台の真正面からの砲撃によって巨大砲弾が前面に直撃…。地獄朧車はバラバラに粉砕されたのである。 「地獄朧車を仕留めたわね♪久方振りの強敵だったわ…」 今回の主敵とされる地獄朧車を仕留めた影響によって鬼面山全域を覆い包んだ霊力が消失…。悪霊の霊力が感じられなくなる。 「鬼面山の事件は無事に解決かしら♪」 危機一髪強豪の地獄朧車に辛勝出来た桜花姫は一安心する。 『親玉の地獄朧車は仕留められたけど…今回は予想以上に妖力を消耗したわね…』 桜花姫は巨大兵器の砲撃によってバラバラに粉砕された地獄朧車の肉片に変化の妖術を発動…。 『地獄朧車の肉片を桜餅に♪』 バラバラに粉砕された地獄朧車の肉片を無数の桜餅に変化させる。 『消耗しちゃった妖力を回復させないと♪』 桜花姫は無我夢中に無数の桜餅を鱈腹頬張ったのである。 『満腹♪満腹♪』 「多少は苦戦しちゃったけれど悪霊事件は無事に解決出来たし…西国の村里に戻りましょう♪」 桜餅を腹一杯平らげた桜花姫は鬼面山から下山し始める。
第六話
人魚 南国の鬼面山から下山してより三時間後…。 『無事に戻れたわね♪』 桜花姫は無事に西国の村里へと戻ったのである。 『悪霊征伐で疲れちゃったし♪』 「精霊故山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら♪」 時間帯は夕方であり彼女は即刻精霊故山天辺の露天風呂へと直行する。 「えっ!?」 すると突然…。 『何かしら!?』 突如として精霊故山の天辺より摩訶不思議の妖力を感じる。 『妖力っぽいけれど…ひょっとして精霊故山の天辺に妖女が?』 「一体誰なのかしら?」 桜花姫は妖力の正体が気になったのか即座に精霊故山の天辺へと急行したのである。すると露天風呂の中心部には一人の女性らしき人影が確認出来る。 『女性だわ…彼女は一体何者なのかしら?』 桜花姫は岩陰から恐る恐る入浴中の女性の様子を観察したのである。彼女の頭髪は赤髪のストレートロングであり頭髪には星型を連想させる海星のヘアアクセサリー…。両方の耳朶には金剛石のイヤリングが確認出来る。 『容姿から判断して…彼女は異国の女性みたいね…』 入浴中の女性は異国の人間であると認識する。 「えっ…」 『特大だわ…』 何よりも気になったのは彼女の胸部は巨乳のおっぱいであり桜花姫はジーッと凝視し続ける。 「彼女は…」 『おっぱいだけなら…私に拮抗するかも知れないわね…』 桜花姫は入浴中の女性を凝視し続けるのだが…。 「えっ!?」 桜花姫は彼女の下半身を直視すると極度の驚愕により口走る。 「彼女は人魚なの!?」 露天風呂の水面より銀鱗の大魚の尾鰭が確認出来たのである。入浴中の女性の正体が人外の人魚であると認識する。 『如何やら彼女が本物の人魚なのは確実ね…如何して人魚が地上世界なんかに?』 今現在では地上世界で人魚の血族と断定出来るのは実質的に桜花姫のみである。彼女を除外すると国内のみで確認出来る人魚の血族は皆無とされる。 『今時私以外の人魚なんて希少価値だわ…世紀の大発見ね♪』 一瞬であるが桜花姫は世紀の大発見に感動する。すると直後…。入浴中の人魚はピクッと反応したのである。彼女は背後の岩陰を警戒した様子であり恐る恐る背後の岩陰をジーッと凝視し続ける。 『彼女に気付かれちゃったわ…即刻家屋敷に戻らないと…』 桜花姫は非常に気まずくなったのか恐る恐る精霊故山から下山したのである。無事自宅に帰宅すると居室の中央でゴロゴロと寝転び始める。 『結局…露天風呂の人魚は何者だったのかしら?』 桜花姫は人魚の女性が何者なのか非常に気になる。 『彼女からは妖力が感じられたし…彼女が人外の妖女なのは確実でしょうけど…』 結局人魚の女性が気になり深夜帯も寝付けなかったのである。
第七話
依頼 一連の出来事から翌朝…。 「御免あそばせ♪八正道様♪」 桜花姫は娯楽目的にて東国の八正道の寺院へと訪問する。 「お早う御座います♪桜花姫様♪」 八正道は満面の笑顔で挨拶したのである。 「こんな早朝に訪問されるなんて…一体如何されましたか?桜花姫様?」 問い掛けられた桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「妖星巨木の悪霊を成仏させてから毎日が退屈で仕方なかったからね♪単なる暇潰しよ♪暇潰し♪」 「本日も暇潰しでしたか…」 八正道は内心…。 『如何やら国全体が平穏なので一安心ですね♪』 桜花姫が暇潰しで東国の寺院に訪問するのは国全体が平和の証拠であると思考したのである。 「折角なので桜花姫様には緑茶と…菓子類を用意しなくては♪」 「菓子類ですって♪何かしら?」 「応接間に案内しましょう…」 八正道は桜花姫に応接間へと案内する。 「御免あそばせ♪八正道様♪」 桜花姫は大喜びした様子で応接間へと入室したのである。八正道は緑茶と異国の洋菓子であるカステラケーキを用意する。 「異国の洋菓子みたいだけど♪一体何かしら?」 異国の菓子類とは桃源郷神国では滅多に入手出来ない高額品の代物であり桜花姫は大喜びしたのである。 「カステラケーキと命名される異国の洋菓子ですよ♪昨晩北国の知人から頂戴しました♪異国の洋菓子なんて桃源郷神国では滅多に吟味出来ない貴重品ですからね♪是非とも桜花姫様には異国のカステラケーキを提供しますよ…」 「感謝するわね♪八正道様♪」 桜花姫は恐る恐る洋菓子のカステラケーキを味見する。 「カステラケーキ♪美味だわ♪」 彼女はカステラケーキが大変美味しかったのか満足気の様子である。 「やっぱり異国の洋菓子も絶品ね♪」 「桜花姫様が大喜びされたので安心しましたよ…」 すると桜花姫は昨夕の出来事を想起する。 「突然だけど八正道様?」 「一体如何されましたか?桜花姫様?」 「昨夕の出来事なのだけど…」 精霊故山の露天風呂にて正体不明の人魚と遭遇した出来事を八正道に一部始終告白したのである。 「桜花姫様は精霊故山の露天風呂で人魚の女性に遭遇されたのですか?」 八正道は人魚の存在に興味深くなる。 「人魚なんて…非常に興味深い内容ですね♪」 「正直…島国の桃源郷神国では私以外の人魚の血族なんて皆無でしょうし…精霊故山で私と遭遇した人魚は一体何者だったのかしら?」 八正道は恐る恐る…。 「ひょっとすると桜花姫様が精霊故山の頂上で遭遇された人魚の女性とは…異国出身の人魚なのでは?」 桜花姫は一瞬異国の人魚に反応する。 「異国出身の…人魚ですって?」 「非常に信じ難い内容かも知れませんが…西洋の異国では桃源郷神国以上に人魚の伝説は有名なのですよ…」 異国の青海原では多数の人魚が目撃され人魚伝説は桃源郷神国よりもメジャーであり異国の人間達にとって人魚は親近的存在だったのである。 「恐らく桜花姫様が昨夕に遭遇された人魚の女性とは…桃源郷神国に入国された異国出身の妖女なのかも知れませんね…」 「私が遭遇した人魚が異国出身の妖女である可能性も否定出来ないわね…」 「ですが正直…私も遭遇したかったですよ♪異国の人魚に♪一体どんな女性なのか非常に気になりますね♪」 「八正道様♪勿論おっぱいは私に匹敵する巨乳ちゃんだったわよ♪」 八正道は満面の笑顔で発言する桜花姫に赤面し始め…。 「なっ!?」 八正道は一瞬動揺するも必死に誤魔化したのである。 「桜花姫様は列記とした女性なのに…非常に破廉恥なのですな…」 八正道は苦し紛れに誤魔化すものの…。 「私は別に…何も…女性の肉体に興味は…微塵も…」 赤面したのである。 『普段は生真面目の八正道様でも♪内面は助平みたいね♪』 桜花姫は赤面し始めた八正道を揶揄する。 「ですが桜花姫様が遭遇された人魚の女性が何者なのかは非常に気になりますし…興味深いですね…」 「今度彼女と遭遇したら実際に会話したいわね…彼女の様子から私に対する敵意は無さそうだったし…」 桜花姫はカステラケーキをペロリと頬張ると西国の村里へと戻ったのである。無事に家屋敷の近辺へと到達するのだが…。 「えっ?」 桜花姫の家屋敷の玄関口よりピンク色のロングドレスを着用した小柄の女性らしき人物が佇立する。赤髪のストレートロングであり頭髪には星型を連想させる海星のヘアアクセサリーが確認出来る。 『彼女は一体誰なのかしら?外見だけなら異国の人間っぽいわね…』 桜花姫は恐る恐る赤髪の女性の背後へと近寄るとポンッと彼女の背中に接触する。 「一寸あんた!」 「きゃっ!」 驚愕した赤髪の女性は即座に背後を直視したのである。赤髪の女性はアクアカラーの碧眼であり異国の人間であると認識出来る。 「突然何するのよ!?吃驚するじゃない!」 赤髪の女性は背後の桜花姫に怒号する。 「はっ!?突然何するのよって…私の台詞よ!あんたは私の家屋敷に用事かしら?要件は何よ…」 桜花姫が発言すると彼女は即座に謝罪したのである。 「御免なさい…此処は貴女の家屋敷だったのね…」 「別に…えっ?」 赤髪の女性を昨夕に遭遇した異国の人魚であると確信する。 「ひょっとしてあんたは…昨夕に精霊故山の露天風呂で入浴中だった異国の人魚かしら?あんたは精霊故山の露天風呂に入浴したわよね?」 問い掛けられた赤髪の女性はハッとした表情で…。 「えっ…貴女は入浴中の私を覗き見した…人間の小娘!?」 桜花姫は彼女の小娘発言にムッとしたのか即答する。 「なっ!?誰が人間の小娘ですって!?私は誰よりも温厚篤実の女神様なのよ!姿形は人間の美少女でも私は列記とした人外だからね!」 「えっ…」 『自分で自分を美少女とか…女神様って自称しちゃうなんて…彼女は相当のナルシストなのかしら?』 赤髪の女性は女神様を自称し出した桜花姫に苦笑いしたのである。一方の桜花姫は恐る恐る赤髪の女性に問い掛ける。 「あんたの名前は?」 問い掛けられた赤髪の女性は恐る恐る自身の名前を名乗る。 「私の名前は【アクアヴィーナス】よ…深海底の人魚王国…〔アクアユートピア〕の人魚の末裔なのよ…」 「人魚王国アクアユートピアですって?」 「アクアユートピアは深海底に存在する私の祖国なのよ…」 「深海底に人魚の王国が存在するなんてね…」 アクアユートピアとは未知の領域とされる聖域…。深海底に存在する摩訶不思議の理想郷である。大勢の人魚達が深海底に存在するアクアユートピアにて安住する。地上世界では別名として人魚王国やら人魚の楽園とも呼称される。 「やっぱりアクアヴィーナスは異国の人魚だったのね…」 「無論ね…」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「極東のイーストユートピアでは天下無敵の魔法使いが君臨するって噂話が世界各地で出回ったのだけど…彼女は月影桜花姫って名前だったかしら?貴女は月影桜花姫って名前の魔法使いの居場所は知らないかしら?」 「えっ?」 『イーストユートピアって…何かしら?』 世界各地では桃源郷神国は極東の理想郷であると認識され…。極東のイーストユートピアと呼称される。 「私が正真正銘月影桜花姫よ!」 桜花姫はアクアヴィーナスの問い掛けに即答する。 「天下無敵の魔法使いって何者なのよ!?私は列記とした妖女だからね!」 「妖女ですって?極東のイーストユートピアでは魔法使いは妖女って呼称されるのね…意外だったわ…」 世界各国では妖女は魔法使いか魔女と呼称されるのが通説である。 「勿論妖女は妖女でも…私は一握りの最上級妖女なのよ!留意しなさいね!」 「はぁ…あんたが噂話の月影桜花姫だったのね…」 アクアヴィーナスは桜花姫に対するイメージとのギャップからか非常にガッカリした様子であり正直落胆する。 「勿論よ!私が正真正銘最上級妖女の月影桜花姫様だからね♪留意するのよ…」 桜花姫は只管に自身が最上級妖女であると豪語し続ける。 「第一印象だけど…貴女って世間知らずの小娘っぽいわね…」 対するアクアヴィーナスはボソッと本音を口走る。 「桜花姫には悪いけど…正直貴女は最上級の魔法使いとは程遠い雰囲気だわ…」 「なっ!?」 桜花姫はアクアヴィーナスの本音にピリピリし始める。 『此奴…』 桜花姫は鬼神の形相でアクアヴィーナスを睥睨する。 「あんたは…誰よりも温厚篤実で地上世界の女神様である私に世間知らずの小娘ですって!?覚悟なさい!」 「ひっ!御免なさい!」 アクアヴィーナスは怒号する桜花姫に畏怖したのである。 「御免なさい!御免なさい!」 アクアヴィーナスは必死に謝罪するものの…。 「絶対に承知しないわよ!あんたは天罰として…」 「えっ…貴女は私に何を?」 桜花姫はアクアヴィーナスに変化の妖術を発動する。 「命知らずのあんたは…小汚い溝鼠に変化しなさい!」 直後である。突如としてアクアヴィーナスの肉体からポンッと白煙が発生する。 「えっ?」 全身から白煙が発生した直後…。アクアヴィーナスは桜花姫の変化の妖術によって小汚い溝鼠に変化したのである。 「きゃっ!」 アクアヴィーナスは恐る恐る自分自身の肉体を直視…。 「えっ!?」 『現実なの!?』 アクアヴィーナスはハッとした表情で驚愕する。 『如何して私の肉体が溝鼠に!?ひょっとして彼女の魔法なのかしら!?』 アクアヴィーナスは桜花姫の荒唐無稽の妖術に戦慄したのである。 「地上世界の女神様である私を世間知らずの小娘なんて…失言した天罰だからね♪いい気味だわ♪アクアヴィーナス♪」 桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。アクアヴィーナスを溝鼠の状態から元通りの姿形に戻したのである。 「えっ!?」 『私は元通りに戻れたのね…』 アクアヴィーナスはビクビクした様子であるがホッとする。 「反省しなさいね♪アクアヴィーナス♪金輪際女神様の私に失言すれば…今度こそ私の大好きな桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね♪」 桜花姫は満面の笑顔でアクアヴィーナスに警告したのである。 「ひっ!」 満面の笑顔で食い殺すと警告した桜花姫に…。 『彼女の表情…本気みたいだわ…』 アクアヴィーナスは彼女の警告に畏怖したのか再度ビクビクし始める。 「御免なさい…月影桜花姫様…」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に謝罪したのである。 「気にしないで♪アクアヴィーナス♪金輪際私には失言しないのよ♪」 桜花姫は満面の笑顔で発言する。 「私の呼び方は桜花姫で構わないわよ♪」 「桜花姫…本当に御免なさいね…」 アクアヴィーナスはホッとするのだが…。 「はぁ…」 『桜花姫は予想以上に曲者みたいね…口は禍の元だわ…』 桜花姫は油断出来ないと感じる。すると桜花姫はアクアヴィーナスに問い掛ける。 「如何してあんたは島国の桃源郷神国なんかに?ひょっとして観光目的とか?」 問い掛けられたアクアヴィーナスは恐る恐る…。 「私達の祖国であるアクアユートピアが…極悪非道の深海底魔女と彼女の手下達によって占拠されちゃったのよ…」 「極悪非道の深海底魔女ですって?」 人魚達の理想郷アクアユートピアは極悪非道の深海底魔女と彼女の部下達によって侵略されたのである。深海底魔女と部下達の襲撃からアクアユートピアの人魚達は必死に抵抗したのだが…。深海底魔女の魔力は桁違いに強力であり深海底魔女の猛反撃によって抵抗した大勢の人魚達が惨殺される。 「平和だったアクアユートピアが深海底の魔女と魔女の手下達に侵略されちゃって…私の母様…【アクアキュベレー】母様が深海底の魔女達に連行されちゃったの…」 「アクアキュベレーってあんたの母様が深海底魔女に連行されたのね…」 「アクアキュベレー母様が深海底の魔女達に連行されて…母様が無事なのか不安で仕方ないのよ…」 アクアキュベレーとはアクアヴィーナスの母親である。今現在深海底のアクアユートピアは深海底魔女と部下達の魔窟であり母親のアクアキュベレーは深海底魔女に連行される。幸運にも愛娘であるアクアヴィーナスは危機一髪アクアユートピアから脱出出来たものの…。母親のアクアキュベレーを見殺した事実に自分自身の無力さとアクアキュベレーに対する極度の罪悪感が芽生え始める。 「結局私は何も出来ず…アクアキュベレー母様を見殺しに…アクアユートピアから一人で逃げちゃったの…私が弱虫だった所為で母様は…」 アクアヴィーナスの涙腺から涙が零れ落ちる。 「私にあんたの母様の救出を依頼したかったのね♪」 「噂話では貴女の母親も人魚の血族みたいだし…伝説の魔法使いの貴女だったら深海底の魔女にも対抗出来るかなって…」 「あんたの祖国を牛耳る深海底魔女を徹底的に征伐するのね♪面白そうだわ♪」 深海底魔女の征伐に桜花姫は非常にワクワクしたのである。 「最上級妖女の私が退屈凌ぎに深海底の魔女と…彼女の部下達を徹底的に蹴散らせるから安心しなさい♪」 桜花姫は満面の笑顔で深海底魔女を征伐すると宣言する。 『桜花姫の魔法は本物だったわ…最強の魔法使いである彼女なら…私達のアクアユートピアを侵略した深海底魔女が相手でも…撃退出来るかも知れないわね…』 アクアヴィーナスは先程の変化の妖術で桜花姫の妖力の絶大さを実感したのである。 「即刻出掛けちゃおうかしら♪アクアヴィーナス♪」 「桜花姫は下準備しなくても大丈夫なの?出掛けるなら下準備してからでも…」 「別に下準備なんて不要よ♪早速あんたの祖国に道案内してよ♪」 「承知したわ…桜花姫…」 アクアヴィーナスは桜花姫に道案内すると西国の海岸へと直行する。 「案外近辺なのね♪」 「私は人魚に変身するわね…」 アクアヴィーナスは変身魔法を発動したのである。アクアヴィーナスの全身が虹色に発光したかと思いきや…。彼女の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。 「アクアヴィーナス♪人魚のあんたも美人ね♪」 「えっ…」 桜花姫の美人発言にアクアヴィーナスは赤面し始める。 「貴女も…桜花姫も人魚に変身出来るのよね?」 「勿論よ♪私の母様は人魚の血族だからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。 「今度は私も♪」 桜花姫は変化の妖術を発動…。下半身が銀鱗の大魚へと変化する。するとアクアヴィーナスは赤面した表情で恐る恐る…。 「貴女も…人魚の桜花姫も…海水の女神様って雰囲気よ…」 「私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスは大袈裟ね♪」 『私が海水の女神様ですって♪』 ボソッと発言するアクアヴィーナスに桜花姫は内心大喜びしたのである。 「人魚に変化出来たし!アクアヴィーナス!私達は早速アクアユートピアに直行しましょう!」 「承知したわ…桜花姫…即刻アクアユートピアに道案内するわよ…」 彼女達は暗闇の海中へと潜行すると深海底のアクアユートピアへと驀進する。
第八話
消耗 人魚に変身した桜花姫とアクアヴィーナスが深海底に存在する人魚王国アクアユートピアへと移動中…。 「えっ?」 深海底地帯の失楽園〔ブルーデストピア〕では深海底魔女が魔法の水晶玉にて直進中の彼女達の様子を観察したのである。 『アクアユートピアの赤毛の人魚と…同行者の小娘は一体何者なのかしら?』 魔法の水晶玉に投影された桜花姫を直視すると彼女が何者なのか非常に気になる。 「異国の人魚みたいだわ…彼女は一体何者なの?」 『であれば手始めに…彼女達を復活させましょう…』 深海底の魔女は荒唐無稽の桜花姫に警戒したのか死霊魔術を発動…。殺害した大勢の人魚達を女性型の深海底アンデッドとして復活させたのである。 「人魚の下級アンデッド…【アビスセイレーン】…侵入者である彼女達を思う存分に食い殺しなさい…」 アビスセイレーンとは死霊魔術によって復活した人魚の女性型深海底アンデッド…。死霊魔術で復活したアビスセイレーンは復活させた術者には忠実であり嗜好品は生命体の血肉とされる。基本的には海中の魚介類やら鯨類の血肉を捕食するものの…。場合によっては船上の陸生動物やら人間の血肉さえも時たまであるが捕食する。無数のアビスセイレーンが行動を開始してより同時刻…。必死に海中を力泳し続ける桜花姫であるが移動中に極度の疲労を感じる。 「はぁ…はぁ…」 同行者のアクアヴィーナスは不安そうな様子で恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫?大丈夫なの?先程から貴女の顔色が…」 アクアヴィーナスは疲労困憊の桜花姫を心配したのである。 「私なら…心配しなくても大丈夫よ…アクアヴィーナス…」 桜花姫は多少疲労した様子であるが笑顔で返答する。 『本当に大丈夫なのかしら?桜花姫?』 桜花姫は強張った表情でありアクアヴィーナスは正直不安に感じる。 「アクアヴィーナスは極度の心配性なのね…あんたが心配しなくても私は大丈夫だから…私は平気なのよ…」 『正直…息苦しいわ…今回はヤバいかも知れないわね…』 心配するアクアヴィーナスに桜花姫は苦笑いの表情で返答したのである。 『深海底って予想以上に体力と妖力を消耗するわね…一度だけでも一休み出来るなら一休みしたいのよね…』 深海底の自然環境は予想外に苛烈であり桜花姫は苦難に感じられる。 「ん?」 すると突如として無数の殺気を感じる。 『無数の殺気だわ…一体何かしら?』 周辺は暗闇の深海底であるものの…。 『私達に接近中ね…』 無数の殺気が彼女達に急接近するのを感じる。 「桜花姫…如何しちゃったの!?一体何が発生したのよ!?」 アクアヴィーナスは警戒中の桜花姫に不安がる。 「複数の殺気を感じるのよ…複数の何者かが私達に接近中みたいね…」 「えっ!?複数の殺気ですって!?一体何よ!?」 すると遠方の海中より全身血塗れの人魚達が出現…。彼女達に急接近する。 「えっ?彼女達は人魚かしら?」 「えっ…」 アクアヴィーナスは恐怖したのか身動き出来なくなる。 「えっ?如何しちゃったのよ?アクアヴィーナス?」 血塗れの人魚を直視したアクアヴィーナスはビクビクした様子で…。 「奴等は…深海底アンデッドのアビスセイレーンよ!」 「アビスセイレーンって?」 「死亡した人魚達の下級アンデッドよ…彼女達は海中の色んな生命体の血肉を捕食するわ…」 「面白そうだわ♪悪霊の悪食餓鬼みたいな奴等ね♪」 桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。 「桜花姫?」 『桜花姫の瞳孔が変色したわ…一体何かしら?』 アクアヴィーナスは瑠璃色に発光した桜花姫の瞳孔に驚愕する。 「天道天眼…私の得意妖術よ♪」 天道天眼の発動によって桜花姫の妖力は数百倍に急上昇し始める。 「天道天眼ですって?」 『彼女の瞳孔は宝石みたいなレッドアイだったのに…半透明のブルーカラーに発光するなんて…天道天眼って魔法は桜花姫にとって最強の魔法なのかしら?』 アクアヴィーナスは桜花姫の瞳孔を直視し続けると魅了されたのである。 「主戦場は暗闇の海中だからね…油断は出来ないわね♪」 桜花姫は殺到し続ける無数のアビスセイレーンを睥睨する。 「深海底の悪霊…死滅しなさい♪」 直後である。突如として無数のアビスセイレーンが身動きしなくなったかと思いきや…。彼女達の全身が肥大化するとパンッと一瞬で破裂したのである。 「きゃっ!」 桜花姫の念力の妖術によって無数のアビスセイレーンは完膚なきまでに仕留められたものの…。予想外の超常現象にアクアヴィーナスはビクビクした様子で戦慄する。 「戦慄しなくても大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪」 アクアヴィーナスは極度の戦慄によりビクビクと身震いしたのである。 「桜花姫…何が大丈夫なのよ…」 周辺はアビスセイレーンの無数の血肉が散乱する。 「念力の妖術で妖力を消耗しちゃったからね…」 今度は変化の妖術を発動…。念力の妖術により仕留めたアビスセイレーンの無数の血肉を大好きな桜餅に変化させたのである。 「人魚に変化した状態で妖術を発動しちゃうと全身の疲労が蓄積されちゃうのよね♪消耗した妖力を回復させないと…」 桜花姫はパクパクと桜餅を鱈腹頬張り始める。 「アクアヴィーナス♪折角だしあんたも桜餅を味見しないかしら♪桜餅は絶品よ♪」 アクアヴィーナスは苦笑いした表情で…。 「私は…遠慮するわ…」 『異国のスイーツだとしても…本来はアビスセイレーンの血肉なのよね…』 アクアヴィーナスは予想外の桜花姫の悪食にドン引きした様子であり気味悪くなる。 『異国の魔法使いって…こんなにも荒唐無稽の魔法を乱用するのね…』 アクアヴィーナスは桜花姫に対するイメージのギャップに一瞬放心したのである。桜餅を食べ始めてから数分後…。桜花姫は桜餅を鱈腹完食する。 「私は即刻アクアユートピアに直行して…極悪非道の深海底魔女を徹底的に仕留めるわよ♪」 彼女達は再度行動を開始したのである。
第九話
深海底アンデッド 桜花姫とアクアヴィーナスが再度行動を開始してより同時刻…。失楽園ブルーデストピアでは深海底の魔女が魔法の水晶玉で桜花姫の様子を観察する。彼女の荒唐無稽の妖術に深海底の魔女は驚愕したのである。 「げっ!」 桜花姫の予想外の下劣さには深海底魔女もドン引きする。 『彼女…魔法で殺害したアビスセイレーンの肉片を異国のスイーツに変化させて頬張っちゃうなんて悪趣味ね…』 「異国の魔法使いは予想外に厄介だし…何よりも彼女の発想が下劣だわ!」 殺害した無数のアビスセイレーンの肉片を自身の大好きな桜餅に変化…。無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視し続けると気味悪くなる。 『異国の魔法使いってこんなにも悪食で下劣なのね…正直ドン引きだわ…』 桜花姫の悪食に気味悪くなった深海底魔女であるものの一息したのである。 「異国の魔法使いを相手するなら彼が適任かしら?」 深海底魔女は召喚魔法を発動する。 「目覚めなさい…」 召喚魔法を発動した直後である。根城の外側の海底下より半径数百メートル規模の巨大魔方陣が出現…。巨大魔方陣の中心部より規格外に巨体の超大型クリーチャーが出現したのである。 「彼なら異国の魔法使いが相手でも容易に捕食出来るでしょうね…」 深海底魔女が召喚魔法で召喚した異類の超大型クリーチャーは規格外に巨体であり本拠地の外部にて召喚される。姿形はワーム型の巨大生命体であり全身の皮膚には無数の人面が確認出来る。深海底魔女は本拠地の窓際から巨体のクリーチャーに命令する。 「ワーム型深海底アンデッド…【アビスシーワーム】よ…あんたは即刻異国の魔法使いと小判鮫の人魚を捕食しなさい♪」 アビスシーワームとは規格外に巨体のワーム型深海底アンデッドであり溺死した人間達の霊魂は勿論…。多種多様の魚介類の怨念が融合化した深海底アンデッドの集合体とされる超自然的存在である。アビスシーワームは性格が非常に獰猛で強欲であり哺乳類の鯨類やら人魚の血肉は勿論…。場合によっては海面上の船舶を襲撃しては船内の船員達さえも捕食する。アビスシーワームは深海底魔女の命令に服従…。即座に移動を開始したのである。アビスシーワームが移動を開始した同時刻…。移動中の桜花姫とアクアヴィーナスは必死に目的地であるアクアユートピアへと力泳し続ける。 「桜花姫…一息頑張ればもう少しでアクアユートピアに到達するわよ…」 アクアヴィーナスは桜花姫を直視したのである。 「えっ…桜花姫?」 桜花姫は非常に険悪化した表情であり彼女の息苦しそうな表情を直視するとアクアヴィーナスは極度に不安が募り始める。 『桜花姫…大丈夫なのかしら?やっぱり顔色が…』 アクアヴィーナスは桜花姫に恐る恐る大丈夫なのか如何なのか問い掛ける。 「桜花姫?一体如何しちゃったの?大丈夫?」 すると桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。 「アクアヴィーナス…規格外の霊力が接近中よ…」 「えっ!?規格外の…霊力ですって!?」 アクアヴィーナスは全身がブルブルした様子で桜花姫に密着する。 「今度は何が出現するのよ!?桜花姫!?」 すると遠方の暗闇の海中より正体不明の移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。 「一体何かしら?随分巨体ね…」 規格外に巨体のワーム型の巨大クリーチャーが出現する。 「ひっ!此奴は!?」 アクアヴィーナスはワーム型の巨大クリーチャーを直視すると極度に戦慄…。極度の恐怖心からかアクアヴィーナスは身動き出来ずに全身が膠着したのである。 「こんな怪物に畏怖するなんてアクアヴィーナスは大袈裟ね…」 桜花姫は極度に戦慄し続けるアクアヴィーナスに苦笑いする。 『彼女は本当に小心者だわ…アクアヴィーナスが桃源郷神国の悪霊と遭遇しちゃえば確実に気絶するか悪霊に捕食されるでしょうね♪』 アクアヴィーナスが桃源郷神国の悪霊と遭遇する場面を想像すると桜花姫は内心大笑いしたのである。アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫は…深海底アンデッドに遭遇しても平気なの?」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「別に♪こんな怪物と遭遇するのは桃源郷神国では日常茶飯事だからね♪」 「えっ…日常茶飯事って…」 『イーストユートピアって名前とは裏腹に相当物騒なのかしら?』 桜花姫の返答にアクアヴィーナスは絶句したのである。 「深海底にはこんなにも規格外の怪物が生息するのね…此奴は巨大蚯蚓かしら?」 「此奴はワーム型の巨大深海底アンデッド…アビスシーワームよ!」 「アビスシーワームですって?」 「アビスシーワームは深海底のアンデッドでは最強クラスの超大型深海底アンデッドなのよ…大型の鯨類だって簡単に食い殺しちゃうわ…アビスシーワームは油断大敵よ…」 「此奴は深海底の強豪悪霊なのね♪鯨類を捕食するなんてアビスシーワームは相当の大物だわ♪」 アクアヴィーナスは恐る恐る…。 「桜花姫…即刻逃げましょう!あんたがアビスシーワームに食い殺されるわ!」 「逃げましょうって…アクアヴィーナスは本当に小心者ね…」 「アビスシーワームはアビスセイレーンよりも厄介なのよ!魔法使いのあんたでも簡単に食い殺されちゃうわ!」 「食い殺されちゃうって…アビスシーワームが私に食い殺されちゃうのかしら♪」 「えっ?あんたは何を?」 桜花姫は笑顔でアビスシーワームを凝視する。 「私の食欲は悪霊以上だからね♪相手が地獄の悪霊だろうと巨体の深海底アンデッドだろうと私が問答無用に食い殺しちゃうわよ♪」 「桜花姫…」 桜花姫は余裕の様子だったのである。 『桜花姫って…何者なの?』 一方のアクアヴィーナスは絶句した表情で桜花姫に注目する。すると直後…。 「きゃっ!」 アビスシーワームは猛スピードで桜花姫に急接近する。彼女の肉体諸共一口で桜花姫をパクッと捕食したのである。 「えっ!?桜花姫!?」 桜花姫は一瞬でアビスシーワームに捕食され…。アクアヴィーナスは一瞬の出来事に混乱する。 『桜花姫がアビスシーワームに捕食されちゃったわ…』 桜花姫はアビスシーワームに捕食され…。 『私は…如何すれば?』 アクアヴィーナスは絶望したのである。逃げられるのであれば一目散に逃げたい彼女であるが…。極度の恐怖心からか身動き出来ず全身が膠着化したのである。一方のアビスシーワームは猛スピードで膠着状態のアクアヴィーナスに急接近…。 「きゃっ!」 細長い胴体でアクアヴィーナスの全身を拘束したのである。 「ひっ!」 アビスシーワームは口先を開口させる。 『私も…アビスシーワームに捕食されちゃうわ…』 アクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。アビスシーワームは口先を開口した直後…。突如として身動きしなくなる。 「えっ!?」 『一体何が発生したのよ!?如何してアビスシーワームは身動きしなくなったのかしら!?』 突如として身動きしなくなったアビスシーワームにアクアヴィーナスは何が発生したのか理解出来ない。アビスシーワームが身動きしなくなってから数秒間が経過したのである。すると巨体であるアビスシーワームの全身がポンッと白煙に覆い包まれ消滅したかと思いきや…。 「えっ!?桜花姫!?」 桜餅と妖力の防壁を発動した桜花姫が出現したのである。 『アビスシーワームは一体?』 桜花姫は妖力の防壁を解除する。 「危機一髪だったわね♪アクアヴィーナス♪」 桜花姫は満面の笑顔で桜餅をパクッと頬張る。 「深海底の怪物でも桜餅に変化させちゃえば非常に美味だわ♪」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に近寄る。 「桜花姫…貴女はアビスシーワームに食べられちゃったのに無事だったのね…」 桜花姫の無事にアクアヴィーナスは内心ホッとしたのか涙腺から涙が零れ落ちる。 「私は一瞬貴女が…深海底アンデッドに食い殺されちゃったのかと…」 「心配させちゃったわね♪アクアヴィーナス♪御免あそばせ♪私なら大丈夫よ♪」 桜花姫はアクアヴィーナスに謝罪する。 「最強クラスの深海底アンデッドを簡単に仕留めちゃうなんて…やっぱり桜花姫の魔法は私が想像する以上に強力だわ…」 「勿論♪私は最上級の妖女だからね♪其処等の悪霊が私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」 するとアクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「如何して桜花姫はアビスシーワームに捕食されたのに無事だったの?」 「私はアビスシーワームに捕食される直前に妖力の防壁を発動したの♪アビスシーワームの胃袋で変化の妖術を発動したのよ♪」 「要約すると桜花姫はアビスシーワームの体内で最強の魔法を使用したのね…」 「私にとっては楽勝だったけれどね♪」 「何よりも桜花姫…貴女が無事でホッとしたわ…」 アクアヴィーナスは一安心したのである。 「何はともあれ…アクアユートピアに直行するわよ♪アクアヴィーナス♪」 「勿論よ…アクアユートピアへ移動しましょう…」 桜花姫とアクアヴィーナスが行動を再開してより同時刻…。 「えっ!?」 失楽園のブルーデストピアでは深海底魔女が魔法の水晶玉に投影された深海底の光景を一部始終直視する。 『如何して私のアビスシーワームが…』 最強クラスのアビスシーワームが桜花姫に仕留められた光景に深海底魔女は愕然としたのである。 「最上級の深海底アンデッドであるアビスシーワームが見ず知らずの異国の魔法使いに仕留められるなんて前代未聞だわ…」 『異国の魔法使い…彼女は私が想像する以上に厄介みたいだわ…』 深海底魔女にとって最強クラスのアビスシーワームが仕留められたのは正直予想外であり桜花姫の妖力の絶大さに畏怖し始める。 『異国の魔法使いに私の居場所を察知されると非常に不都合だわ…即刻彼女の封印を解除しなければ…』 「彼女を解放させないと異国の魔法使いには対抗出来ないでしょうね…」 深海底魔女にとって桜花姫の出現は非常に不都合であり一触即発の事態だったのである。彼女は不本意であるものの…。 「一か八か地下壕の牢獄に…」 『問題児の彼女を解放させる事態に発展するなんてね…今日は激動の一日だわ…』 深海底魔女は恐る恐る地下壕の牢獄へと移動したのである。
第十話
アクアユートピア 桜花姫とアクアヴィーナスは移動を再開してより同時刻…。彼女達は無事に深海底の人魚王国アクアユートピアへと到達したのである。 「えっ!?暗闇の深海底に村里だわ…此処が目的地のアクアユートピアかしら?」 「私の祖国…アクアユートピアなのよ…」 アクアユートピアは貝殻みたいなデザインの住宅地が無数に隣接…。全体的に独特の景観だったのである。 「あんたの祖国って…異世界みたいね♪」 深海底地帯のアクアユートピアは異世界でありアクアユートピアの幻想的雰囲気に桜花姫は非常にワクワクする。 「アクアヴィーナスの祖国って幻想的雰囲気なのに殺風景ね…国内からは人気が感じられないわ…」 「アクアユートピアは深海底の魔女に侵略されちゃったからね…何よりもアクアキュベレー母様が無事なのか心配だわ…」 「私は即刻あんたの母様を救出するわよ♪」 桜花姫は満面の笑顔であるものの…。妖力の消耗により深呼吸が目立ち始める。 「大丈夫なの?桜花姫?先程から貴女の深呼吸が気になるのよね…」 「アクアヴィーナスは極度の心配性ね…心配しなくても私なら大丈夫よ…」 桜花姫は大丈夫であると自負するものの…。 『深海底の水圧と人魚に変身した影響かしら?妖力を回復させたのに数分間で消耗しちゃうなんて…』 水圧の影響からか深海底での長時間の人魚の変身は妖力と体力の消耗が桁違いである。人魚に変身し続けた場合深海底の水圧による溺死…。妖力の消耗による衰弱死の可能性すら否定出来ない。 『長時間の人魚の変化は衰弱死に直結するわね…変化の妖術を解除しちゃったら水圧で溺死するかも知れないし…今回の大事件は短時間で解決させないと私自身が…』 桜花姫は当初こそ娯楽の感覚であったものの…。深海底の環境下では妖力の消耗が予想外であり短時間での事件解決は困難であると実感する。 「アクアヴィーナス…アクアユートピアに潜入しましょう…」 彼女達は恐る恐る物静かなアクアユートピアに潜入したのである。 「あんたの祖国…アクアユートピアって普段からこんなにも物静かな雰囲気なの?」 「人魚は少数民族だし場所が暗闇の深海底だから深海底の生物以外では誰も近寄れないのよね…深海底の魔女に侵略されてからは本物の無人地帯みたいだわ…」 アクアヴィーナスは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の住宅街では人魚の住民は誰一人として確認出来ない。 「えっ?」 すると桜花姫は無数の殺気を察知…。 「桜花姫?如何したのよ?」 アクアヴィーナスは恐る恐る問い掛ける。一方の桜花姫は即座に民家の路地裏へと移動する。 「きゃっ!」 桜花姫の悲鳴に戦慄したのかアクアヴィーナスは恐る恐る居住地の路地裏へと移動したのである。 「一体何事よ!?ひゃっ!」 アクアヴィーナスは目前の光景に戦慄する。 「如何してこんな…深海底アンデッドの仕業かしら?」 居住地の路地裏には殺害された抹香鯨の水死体が転がった状態である。死骸の体表には無数の小魚によって食い破られた形跡が彼方此方に確認出来る。 「如何やら抹香鯨の水死体みたいね…人魚悪霊のアビスセイレーンに食い殺されちゃったのかしら?」 「私にも何が何やらサッパリだわ…ひっ!」 突如として抹香鯨の体内がモゴモゴッと蠢動したかと思いきや…。 「今度は何かしら!?」 抹香鯨の胃袋を食い破ると体内から血塗れの肉食怪魚が無数に出現したのである。 「きゃっ!此奴は【アビスフィッシュ】だわ!」 「アビスフィッシュですって?」 アビスフィッシュとは深海魚の肉食魚類タイプの魚型深海底アンデッドでありアビスセイレーンによって食い殺された小型の魚介類が深海底のアンデッドとして復活…。多種多様の新鮮なる魚介類やら大型海洋生物の血肉を捕食する。先程出現した巨体のアビスシーワームと同様にアビスフィッシュも性格が非常に獰猛で強欲であり生身の人魚の血肉は勿論…。場合によっては海面上を漂流中の人間やら陸生動物系統の哺乳類の血肉さえも捕食する。アクアヴィーナスはアビスフィッシュの大群にパニック状態であったが…。桜花姫は冷静である。 「相手が小魚の悪霊でも♪」 『桜餅に変化しなさい♪』 桜花姫は殺到する無数のアビスフィッシュに変化の妖術を発動…。無数のアビスフィッシュを無数の桜餅に変化させたのである。 「雑魚の分際で私を捕食するなんて無謀なのよ♪」 桜花姫は桜餅に変化した無数のアビスフィッシュを無我夢中に頬張り始める。 「正直あんたの魔法って荒唐無稽だけど相当便利よね…魔法で捕食者を食い殺しちゃうなんて…」 桜花姫の荒唐無稽の妖術にアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。 「えっ?」 すると背後から殺気を感じる。 『背後から気配だわ…今度は何が出現したのかしら?』 桜花姫は背後の気配に警戒したのである。 「桜花姫?」 アクアヴィーナスはビクビクした表情で再度桜花姫に問い掛ける。 『今度は何が出現したのよ…』 アクアヴィーナスは何が出現したのか戦慄する。 「今度は…」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。 「あんたは…」 二人の背後には両手に刀剣を所持した人魚が存在する。 「姿形は人魚みたいだけど…彼女は何者かしら?」 背後の人魚は上半身の皮膚が死没者を連想させる灰白色であり非常に悪魔的雰囲気だったのである。彼女は無表情で桜花姫を凝視し続ける。 『彼女からは魔力が感じられるわね…ひょっとして此奴も…』 背後の人魚は今迄の深海底アンデッドと同様…。深海底アンデッド特有の魔力が感じられたのである。 「アクアヴィーナス?此奴も深海底アンデッドなのかしら?」 桜花姫が問い掛けるとアクアヴィーナスはビクビクした表情で返答する。 「此奴は【アビスダーキニー】…彼女も深海底アンデッドの一体よ…」 「アビスダーキニーですって?」 アビスダーキニーとは二刀流の深海底アンデッドとして知られる。外見のみなら二刀流の悪魔的人魚である。一部の地域では別名として深海底の殺人姫やら殺戮人魚とも呼称される。 『アビスダーキニー…彼女からは私達に対する殺意を感じるわね…』 アビスダーキニーは無表情であるものの…。桜花姫は警戒する。アビスダーキニーは両手の刀剣を二振りしたのである。 「ん?」 桜花姫は彼女の動作にポカンとするのだが…。直後である。 「えっ…」 突如として桜花姫の両腕が切断され…。両腕の傷口から大量の出血が流れ出る。周辺の海水が彼女の鮮血により赤色に染色する。 「きゃっ!桜花姫の両腕が!」 アクアヴィーナスは目前の光景に戦慄…。恐怖心で身動き出来なくなる。一方の桜花姫はアビスダーキニーを凝視し始め。鬼神の形相で睥睨したのである。 「アビスダーキニー…あんたは…」 『此奴は直接斬撃しなくても相手を斬殺出来るのね…』 アビスダーキニーは直接斬撃せずとも自身の魔力によって遠方から刀剣を一振りするだけで対象者を斬撃出来る。桜花姫は両腕を切断された影響で出血多量…。 「ぐっ…」 目前の視界が黒化し始める。 『視界が…』 出血多量により意識が遠退いたのである。 「えっ!?桜花姫!?」 桜花姫は息絶えた状態でありアクアヴィーナスは動揺する。 「桜花姫!?桜花姫!?」 一方のアビスダーキニーはアクアヴィーナスを凝視したのである。 「えっ…あんたは…」 凝視されたアクアヴィーナスは恐怖心でビクビクする。無表情だったアビスダーキニーであるが…。動揺し続けるアクアヴィーナスに不吉の笑顔でニヤッとする。 『アビスダーキニーは…今度は私を殺そうと…』 アビスダーキニーは標的をアクアヴィーナスに変更したのである。アビスダーキニーは刀剣を一振りする直前…。 「残念だったわね♪アビスダーキニー♪」 アビスダーキニーの背後には先程息絶えた桜花姫が存在する。 「えっ!?桜花姫…貴女はアビスダーキニーの魔法で…」 彼女は無傷の状態でありアクアヴィーナスは勿論…。アビスダーキニーもハッとした表情で愕然とする。桜花姫は驚愕するアビスダーキニーに冷笑したのである。 「あんたが魔法で攻撃したのは私の分身体なのよ♪」 桜花姫はアビスダーキニーが魔力を発動する寸前に分身の妖術を発動…。アビスダーキニーの攻撃の無力化に成功したのである。一方のアクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫の分身体に直視する。 「えっ…」 『桜花姫の遺体が消滅したわ…』 アビスダーキニーの魔法で両腕を切断された桜花姫の分身体が消滅したのである。 「今度は私が攻撃するわよ♪覚悟するのね♪アビスダーキニー!」 桜花姫はアビスダーキニーに十八番の変化の妖術を発動…。アビスダーキニーは定番の桜餅に変化したのである。 「アビスダーキニーを無力化出来たわね♪頂戴するわよ♪」 桜花姫はパクッと桜餅に変化したアビスダーキニーを捕食…。消耗した妖力を回復させたのである。 「桜花姫…」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に近寄る。 「はぁ…あんたは人騒がせだわ…正直冷や冷やしちゃったわよ…」 「御免あそばせ♪相手を油断させないとね♪」 桜花姫は満面の笑顔で発言するのだが…。 『相手を油断させるのが目的だとしても…大袈裟過ぎるわね…』 アクアヴィーナスは内心桜花姫の演出が過剰であると感じる。アビスダーキニーとの戦闘から数分後…。 「桜花姫…折角だし私の自宅で休憩しない?こんな場所で長居し続けるとあんたの体力が消耗しちゃうからね…」 「勿論よ♪休憩しましょう♪アクアヴィーナス♪」 桜花姫は大喜びの様子でありアクアヴィーナスの自宅へと同行する。 「此処が私の自宅よ…」 「あんたの家屋敷なのね…地上世界と比較すると随分特異的雰囲気ね♪」 アクアヴィーナスの家屋敷も貝殻のデザインであり非常に独特の雰囲気である。桜花姫はワクワクした様子でアクアヴィーナスの自宅に入室するのだが…。屋内の空間は魔力によって防水された状態であり地上世界と同様普通に呼吸出来る。 「えっ?此処では普通に呼吸出来るわ…ひょっとして妖術かしら?」 「防水用の魔法の効力で室内では人間の状態でも呼吸出来るのよ…此処なら地上世界みたいに普通に生活出来るわ…」 アクアユートピアの各家屋敷には防水用のシールド魔法によって通常の二足歩行状態でも生活出来る。 『私…元通りに戻れるのね♪』 桜花姫はホッとしたのである。彼女は即刻変化の妖術を解除…。元通りの人間の姿形に戻ったのである。 「長時間の人魚の状態は疲れ果てるわね♪こんなにも疲れ果てたのは久方振りよ♪」 アクアヴィーナスも人間の姿形に変化する。 「私達純血の人魚は真逆なのよね…大昔から深海底のアクアユートピアで生活し続けた影響かしら?」 アクアユートピアの人魚達は長期間の深海底での生活により深海底の環境下に適応…。魔力の消耗は軽微であり人魚に変身し続けた状態でも多少は平気なのである。すると桜花姫はソファーベッドの壁際に配置された写真の女性に注目する。 「えっ?本物みたいな似顔絵だわ…一体誰の似顔絵なのかしら?」 「写真よ…」 「写真ですって?」 桃源郷神国では写真の文化が皆無であり桜花姫は珍紛漢紛だったのである。 「写真って…何かしら?アクアヴィーナス?」 桃源郷神国では長年の鎖国によって銃火器を除外する異国の科学技術は勿論…。異国の文化財は実質皆無であり桜花姫は写真の存在に魅了されたのである。 「アクアユートピアではこんな代物が出来るのね♪写真とやらも魔法の小道具なのかしら?」 「魔法の小道具って…別に今時写真なんて地上世界でも普通に一般的でしょうよ…其処等の写真が魔法の小道具なんて大袈裟ね…」 アクアヴィーナスは苦笑いする。 「写真の女性は誰なのかしら?」 桜花姫は写真の女性が誰なのか気になる。 「彼女が私の母様…アクアキュベレー母様よ…」 「彼女があんたの母様なのね♪随分美人の女性だわ♪」 アクアキュベレーは金髪碧眼の童顔美少女である。 「アクアキュベレー母様が無事なのか気になるわね…」 するとアクアヴィーナスはフッと想起する。書棚の宝石箱から水色の水晶玉を入手すると恐る恐る桜花姫に手渡したのである。 「桜花姫?折角だし…」 「えっ?何かしら…水晶玉?」 水晶玉に接触した直後…。消耗された妖力が一瞬で回復する。 「妖力が戻ったわ…一体如何してなの!?」 「水晶玉は魔法石の〔ブルークリスタル〕よ…」 「魔法石?ブルークリスタルって?」 ブルークリスタルとは深海底地帯で採掘された摩訶不思議の魔法石である。人魚がブルークリスタルに接触すると消耗した魔力が蓄積される。深海底の環境下では魔力の消耗が地上世界とは桁違いでありアクアユートピアの人魚達が深海底の自然環境で長時間適応出来るのはブルークリスタルの効力とされる。 「私達深海底の人魚達にとってブルークリスタルは必要不可欠だからね…」 「私にとっての桜餅みたいね♪」 するとアクアヴィーナスは紅茶と洋菓子のショートケーキを用意する。 「えっ?何かしら?」 「紅茶とショートケーキよ…折角の機会だし味見したら…」 「ショートケーキ?洋菓子の一種かしら♪」 桜花姫はペロリとショートケーキを平らげる。 「ショートケーキって洋菓子も美味だわ♪」 彼女はショートケーキの美味しさに大喜びする。 「桜花姫…貴女はショートケーキを一瞬で平らげちゃうなんて…」 アクアヴィーナスはショートケーキをペロリと平らげた桜花姫を直視…。 『桜花姫は抹香鯨かしら?』 ショートケーキを平らげる桜花姫にアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。 「休憩は終了よ!アクアヴィーナス!」 「大丈夫なの?桜花姫?」 アクアヴィーナスは桜花姫を心配するが…。 「私なら大丈夫よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「ブルークリスタルの効果で妖力は戻ったし♪アクアヴィーナスは心配性ね…兎にも角にも私達は即刻あんたの母様を救出しないと!」 桜花姫は変化の妖術を発動…。再度銀鱗の人魚に変身する。 「アクアヴィーナス…あんたも人魚に変身しちゃいなさい♪即刻あんたの母様を救出しに出掛けるわよ♪」 「承知したわ…桜花姫…」 アクアヴィーナスも変身魔法で人魚に変身したのである。人魚に変身した彼女達は警戒した様子で恐る恐る外出する。 「ひっ!アビスフィッシュとアビスセイレーンだわ…」 外部の道端を確認すると無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンが住宅街の彼方此方を徘徊したのである。 「如何して深海底アンデッドがこんなにも徘徊中なのよ…」 アクアヴィーナスは徘徊中のアビスフィッシュとアビスセイレーンの大群に戦慄したのである。 「先程の奴等ね…」 「如何して深海底アンデッドが大群に?」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「恐らくは深海底の魔女の仕業かしらね…」 深海底魔女は召喚魔法により無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンをアクアユートピアの中心街にて召喚…。国全体に徘徊させる。無数の深海底アンデッドがアクアユートピア全域に徘徊中であり最早アクアユートピアは深海底アンデッドの巣窟状態だったのである。徘徊する無数の深海底アンデッドにアクアヴィーナスは極度に戦慄するのだが…。一方の桜花姫は余裕の表情であり深海底アンデッドの出現に大喜びする。 「相手は大群なのに…桜花姫は平気なの?」 「別に♪深海底アンデッドがこんなにも徘徊中なんて♪私にとっては桜餅の調味料ね♪」 すると玄関口近辺には複数のアビスセイレーンと数匹のアビスフィッシュが徘徊中であり玄関口の彼女達をギロッと睥睨…。猛スピードで彼女達に殺到したのである。 「きゃっ!」 深海底アンデッドの大群にアクアヴィーナスは戦慄するのだが…。桜花姫は満面の笑顔だったのである。 「鬱陶しい奴等だわ♪あんた達には♪」 桜花姫は変化の妖術を発動…。殺到するアビスセイレーンとアビスフィッシュを桜餅に変化させる。 「桜花姫の魔法は荒唐無稽ね…」 桜花姫はムシャムシャと桜餅を鱈腹頬張る。数分間が経過すると桜花姫は桜餅を食べ終わる。 「全員を相手するのは面倒臭いし…」 『こんな場合には…口寄せの妖術で片付けましょうかね♪』 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。先程仕留めた無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンを口寄せの妖術で復活させたのである。 「きゃっ!深海底アンデッドの大群だわ!」 アクアヴィーナスは突如として出現したアビスセイレーンとアビスフィッシュの大群を直視…。ビクビクしたのである。 「アクアヴィーナスは大袈裟ね…大丈夫よ♪所詮彼等は私が口寄せの妖術で復活させた手駒だから♪」 「えっ?手駒ですって?」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「如何して桜花姫は仕留めた深海底アンデッドを召喚出来るの?ひょっとして高等の死霊魔法かしら?」 桜花姫はアクアヴィーナスの質問に即答する。 「口寄せの妖術は死滅した生命体は勿論…地獄の世界の悪霊だって元通りに復活させられるからね♪」 「死滅した生命体を元通りの状態に復活させられるなんてね…桜花姫は本物の女神様だわ…」 『正直私には理解出来ないけど…』 アクアヴィーナスは倫理観と常識が通用しない桜花姫の荒唐無稽の妖術に理解出来なくなる。 「私が本物の女神様なんて…アクアヴィーナスは大袈裟ね♪」 桜花姫は内心大喜びしたのである。 「あんた達♪アクアユートピアで徘徊中の深海底アンデッドを一掃しなさい♪」 無数の深海底アンデッドは無言で桜花姫の命令に承諾…。周辺で徘徊中のアビスセイレーンとアビスフィッシュに接触すると自身の肉体諸共自爆したのである。アクアユートピアの彼方此方で爆発音が響き渡る。 「彼方此方で爆発音だわ…一体何が?」 「相手するのも面倒臭いからね♪復活させた深海底アンデッドを自爆させたのよ♪」 「えっ…自爆ですって!?」 アクアヴィーナスは桜花姫の手段にドン引きしたのである。 「復活させた深海底アンデッドを自爆に利用するなんて…」 一方の桜花姫はアクアヴィーナスの発言に笑顔で即答する。 「所詮深海底アンデッドは瀕死寸前の自爆要員だからね♪非常に合理的でしょう♪」 「合理的なのかも知れないけれど…」 復活させた深海底アンデッドの自爆攻撃によってアクアユートピアに徘徊中のアビスフィッシュとアビスセイレーンは一掃される。 「彼等の自爆で徘徊中の深海底アンデッドは一掃出来たし…」 桜花姫は先程仕留めたアビスセイレーンの一体を口寄せの妖術により再復活させたのである。 「如何して深海底アンデッドのアビスセイレーンを復活させたの?」 「今度は情報収集よ♪」 「情報収集ですって?」 「アビスセイレーン♪あんた達の親玉の居場所を告白しなさい…」 桜花姫は復活させたアビスセイレーンに笑顔で問い掛ける。 「告白って無茶よ…アビスセイレーンは列記とした深海底アンデッドなのよ…深海底アンデッドなんて喋れないでしょう…」 喋れないと断言するアクアヴィーナスであるが…。アビスセイレーンは恐る恐る人間の口言葉で発言し始めたのである。 「ワタシタチノ…ハハギミサマ…【ダークスキュラン】サマノ…イバショハ…シツラクエン…ブルーデストピアノ…シンカイテイマオウジョウノ…オクジョウダ…」 「えっ!?アビスセイレーンって…普通に人語で会話出来るのね…」 アビスセイレーンは多少片言であるが人間界の公用語で喋れる。片言の人語で発言するアビスセイレーンにアクアヴィーナスは驚愕する。 「ダークスキュランって深海底魔女があんた達悪霊の黒幕なのね♪即刻ブルーデストピアの深海底魔女の本拠地に直行しないと♪」 事件の黒幕を特定出来…。黒幕の居場所を把握した桜花姫は即刻ブルーデストピアへの直行を決意したのである。 「アビスセイレーン♪情報提供…感謝するわね♪」 桜花姫はアビスセイレーンに満面の笑顔で感謝するのだが…。 「折角だけど♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」 口寄せの妖術によって復活させたアビスセイレーンに変化の妖術を発動したのである。復活したアビスセイレーンは白煙に覆い包まれポンッと桜餅に変化…。桜花姫は即座に桜餅に変化したアビスセイレーンをパクッと平らげる。 「やっぱり桜餅は美味ね♪」 「桜花姫は…アビスセイレーンを復活させたのに結局食い殺しちゃうのね…」 「私は空腹だからね♪所詮相手は瀕死状態の深海底アンデッドだし♪気にしないの♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 『空腹だからって…桜花姫は…』 桜花姫の返答にアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。 「消耗した妖力も回復したわ♪アクアヴィーナス!即刻ブルーデストピアの深海底魔王城に直行して深海底の魔女を仕留めるわよ♪」 深海底魔女討伐に意気込む桜花姫であるが…。 「道案内してよ♪アクアヴィーナス♪」 ブルーデストピアに聳え立つ深海底魔王城の場所が不明でありアクアヴィーナスに道案内を依頼する。 「道案内するけれど…ブルーデストピアは深海底アンデッドの魔窟なのよね…」 ブルーデストピアは深海底アンデッドの魔窟であり悪魔の海域として認識される。今現在ではアクアユートピアのみならず近隣諸国ではブルーデストピアは危険区域として指定されたのである。ブルーデストピアに潜入した人魚で生還して戻った人魚は実質的に皆無でありアクアユートピアではブルーデストピアを移動禁止区域に指定され…。誰一人としてブルーデストピアへは近寄らない。 「ブルーデストピアに潜入した人魚で生還した人魚は皆無なのよね…私は…ブルーデストピアなんかで死にたくないわ…」 桜花姫はウジウジし続けるアクアヴィーナスに苛立ち始め…。 「あんたね!確りしなさい!」 桜花姫はウジウジし続けるアクアヴィーナスに怒号する。 「アクアヴィーナス!あんたは本当に煮え切らないわね…」 「えっ…桜花姫…」 「あんたは自分の母様を無事に救出したいのよね!?今更当事者のあんたが畏怖しちゃって如何するのよ!?こんな場所で尻込みし続ければあんたの母様は極悪非道の深海底魔女に食い殺されちゃうかも知れないわよ…」 桜花姫の怒号にアクアヴィーナスはハッとした表情で…。 「御免なさいね…桜花姫…私は…恐怖心で畏怖しちゃったわ…私がアクアキュベレー母様を救出しないと…」 極度の恐怖心によりビクビクしたアクアヴィーナスであるが桜花姫の大目玉によって平常心に戻ったのである。 「桜花姫…道案内するわね…」 「勿論よ♪アクアヴィーナス♪」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に道案内する。
第十一話
ブルーデストピア 桜花姫とアクアヴィーナスが行動を再開してより同時刻…。失楽園ブルーデストピアの深海底魔王城にて深海底魔女のダークスキュランは恐る恐る地下壕の牢獄へと移動したのである。 『再度彼女を解放するなんてね…』 地下壕の牢獄へと到達したダークスキュランは警戒した様子で恐る恐る鋼鉄の鉄格子を直視…。警戒した様子で牢獄の奥側を凝視したのである。 『赤髪の人魚と異国の魔法使いが深海底魔王城に到達するのも時間の問題だからね…止むを得ないわね…』 鉄格子の奥側には上半身が巨体の人間の女性…。下半身が巨大海蛇の巨大女性型深海底アンデッドが収容される。巨体の女性型深海底アンデッドがダークスキュランをギロッとした形相で睥睨し始める。 「あんたは真蛸の小母さん…如何してあんたが地下壕の牢獄なんかに?」 ダークスキュランは上半身が人間の女性であり下半身は真蛸である。 「深海底魔女の私を真蛸って…」 『失礼しちゃうわね…此奴は鬱陶しいビッチだわ…』 巨大女性型深海底アンデッドの真蛸発言にピリピリする。 「今更真蛸のあんたが食いしん坊の私に何を要求するのよ?」 彼女の発言に苛立ったダークスキュランであるが…。 「最上級アンデッド…【アビスラメイアス】…あんたを牢獄から解放するのよ…」 アビスラメイアスはダークスキュランの牢獄からの解放の一言に反応する。 「えっ!?私を解放ですって!?」 アビスラメイアスとはダークスキュランが自身の血肉から魔法で誕生させた最上級クラスの巨大女性型深海底アンデッドであり魔力のみなら深海底魔女のダークスキュランをも上回る。彼女の素肌は水色であり頭髪は青色…。赤色の口紅とリング状の純金イヤリングが特徴的である。アビスラメイアスは非常に暴れん坊で食いしん坊の深海底アンデッドであり深海底魔女のダークスキュランでさえも彼女を抑制させるだけで体内の魔力を消耗…。彼女を抑制させるだけでも精一杯であり今現在では地下壕の牢獄にて永久封印させたのである。ダークスキュランの封印魔法によって完全に身動き出来なくなったアビスラメイアスであるが…。 「ダークスキュラン♪あんたは本当に私を解放するの♪」 ダークスキュランの解放の一言にアビスラメイアスは態度が一変する。 「勿論よ…アビスラメイアスを解放するわよ…」 ダークスキュランはビクビクした様子で返答したのである。 「今更私をこんな場所から解放するなんてね♪私はあんたを食い殺すかも知れないのに♪ひょっとしてあんたは食いしん坊の私に食い殺されたいのかしら♪」 アビスラメイアスはダークスキュランを揶揄する。 「沈黙しなさい…アビスラメイアス…今頃はあんたの大好きな人魚の血肉が危険区域のブルーデストピアに接近中なのよ…」 「えっ!?本当に!?」 ダークスキュランの人魚の一言にアビスラメイアスは反応…。 「人魚の血肉がブルーデストピアに接近中ですって♪」 アビスラメイアスは大喜びしたのである。 「ダークスキュラン♪即刻私を解放しなさいよ♪私は空腹だから思う存分に生身の人魚を頬張りたいわ♪生身の人魚を捕食出来るなんて久方振りね♪」 彼女は両目をキラキラさせた表情でダークスキュランに問い掛ける。 「今回の人魚は?」 「今回の餌食は…赤毛の人魚と…人魚にも変身出来る異国の魔法使いの二体よ…」 「えっ?」 アビスラメイアスは異国の魔法使いの一言に再度反応したのである。 「人魚にも変身出来る異国の魔法使いですって!?面白そうだわ♪異国の魔法使いなんて激レアね♪一体何者なのかしら♪」 大喜びするアビスラメイアスであるものの…。腹部から腹鳴がグーッと響き渡る。 「私は空腹なのよ♪人魚と異国の魔法使いを捕食したいわ♪ダークスキュランは暗闇の牢獄から私を解放させなさいよ♪」 ダークスキュランはプルプルと身震いした様子で…。鉄格子の封印魔法を解除したのである。アビスラメイアスはワクワクした様子で鋼鉄の鉄格子を破壊する。 「久方振りに大食い出来るわね♪今日は最高の一日だわ!」 アビスラメイアスは海蛇の尻尾でダークスキュランを力任せに拘束したのである。 「なっ!?アビスラメイアス!?私を…如何するのよ!?」 ダークスキュランは極度の戦慄によりビクビクし始める。 「ダークスキュラン♪私に対する恐怖心かしら♪飼い犬に手を噛まれる…今現在のダークスキュランにはピッタリの金言ね♪」 「ぐっ…アビスラメイアス…あんたね…」 「あんたは私を♪こんなにも小汚い牢獄に何十年間も封印魔法で束縛し続けたからね♪如何しましょうかね?」 アビスラメイアスは満面の笑顔で発言するのだが…。 「本来であれば私を封印したあんたを即刻食い殺したいのだけれどね…ダークスキュランを捕食するのは後回しだからね♪私は即刻異国の魔法使いと赤毛の人魚を食い殺しに出掛けるわ♪御免あそばせ♪」 アビスラメイアスはダークスキュランを解放すると城外へと直行する。 「はぁ…はぁ…」 『彼奴は…末恐ろしいわ…』 ダークスキュランは食い殺されるかも知れない恐怖心から冷や冷やしたのである。 『私は一瞬…彼女に食い殺されるかと…アビスラメイアスは本当に厄介だわ…』 ダークスキュランはアビスラメイアスの気紛れに命拾いしたのか内心ホッとする。 『兎にも角にもアビスラメイアスが異国の魔法使いと潰し合えば確実に共倒れか…最低でも何方かが食い殺されるでしょうね…』 ダークスキュランの思惑として桜花姫とアビスラメイアスが潰し合えば高確率で両者ともが魔力を消耗…。彼女達の潰し合いで魔力を消耗した何方かを殲滅するのがダークスキュランの魂胆である。 「今回の戦闘でトラブルメーカーは確実に排除出来るでしょうし…アクアユートピア全域も順風満帆に征服出来そうね♪」 『物事がこんなにも好都合に進展するなんてね♪一石二鳥だわ♪』 ダークスキュランは冷笑する。 「自室に戻ってアビスラメイアスと異国の魔女の様子を見物しましょう…」 『私は高みの見物よ♪』 ダークスキュランが自室へと戻ったのである。
第十二話
ブルークリスタル 同時刻…。暗闇の海中を移動し続ける桜花姫とアクアヴィーナスであるが遠方の海中より強大なる妖力を感じる。 「えっ?深海底アンデッドの魔力かしら…」 桜花姫は警戒した様子で遠方を凝視し始める。 「深海底アンデッドの魔力ですって?」 「遠方の海中から深海底アンデッドの魔力を感じるのよ…」 「魔力って…ひょっとして今度もアビスセイレーンの大群が出現したのかしら?」 アクアヴィーナスは魔力の正体がアビスセイレーンなのか不安に感じる。 「アビスセイレーンとは別物みたいだわ…今度の相手は単体っぽいけれど…」 「単体?アビスセイレーンとは別物ですって?一体何が出現したのかしら?」 「単体でも此奴は非常に強力だわ…一体何が出現するのかしら?」 魔力の正体は不明であるものの…。彼女達は警戒する。すると遠方より正体不明の巨大移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。 「えっ!?何かしら!?」 正体不明の巨大移動物体にアクアヴィーナスは畏怖し始め…。 「桜花姫!」 アクアヴィーナスは力一杯桜花姫に密着したのである。正体不明の巨大移動物体は猛スピードで彼女達に急接近…。正体不明の巨大移動物体は力一杯暗闇の海中を力泳し続けると数秒間で彼女達の目前より到達する。 『此奴は海蛇の…深海底アンデッドかしら?上半身は人間の女性みたいね…』 巨大移動物体の正体とは上半身が巨体の人間の女性であるものの…。下半身は巨体の海蛇である。 「彼女は海蛇の女王…アビスラメイアスだわ!」 アクアヴィーナスはアビスラメイアスとの遭遇に身震いする。 「アビスラメイアス?海蛇の女王ですって?」 「彼女は最上級クラスの深海底アンデッドよ!」 「最上級の深海底アンデッドですって!?早速面白くなったわね♪」 『此奴も大物みたいね♪』 桜花姫は強敵との遭遇により非常にワクワクする。するとアビスラメイアスは桜花姫を注視したのである。 「あんたがね…」 アビスラメイアスは蛍光色の瞳孔で桜花姫をジロジロと凝視し始める。 「如何やらあんたが人魚にも変身出来る異国の魔法使いみたいね♪美味しそうな人魚の小娘だわ♪今直ぐにでも食べたいわね♪」 アビスラメイアスは両目をキラキラさせる。 「私もあんたを桜餅に変化させて食べちゃいたいわ♪」 笑顔で発言するアビスラメイアスに桜花姫も満面の笑顔で返答したのである。 「あんたの名前はアビスラメイアスだったかしら?アビスラメイアスは私の大好きな桜餅に変化しなさい♪」 桜花姫は彼女に変化の妖術を発動するのだが…。 「えっ…」 アビスラメイアスは桜餅に変化しない。 『可笑しいわね…妖術が発動しないわ…普通なら桜餅に変化するのに…』 桜花姫は再度アビスラメイアスに変化の妖術を発動するものの…。 『一体何故なの?アビスラメイアス…彼女は桜餅に変化しないわね…』 変化の妖術を発動してもアビスラメイアスは桜餅に変化しなかったのである。一方のアビスラメイアスは不思議そうな表情で桜花姫に注目する。 「えっ?あんたは私に何したのかしら♪」 アビスラメイアスは痛くも痒くもない様子であり桜花姫は動揺し始める。 「えっ!?如何して彼女には変化の妖術が発動しないのよ!?」 「桜花姫の魔法が無力化された!?一体如何してなの!?」 『アビスラメイアスには桜花姫の魔法が通用しないのかしら?小細工とか?』 アクアヴィーナスは恐る恐るアビスラメイアスに問い掛ける。 「アビスラメイアス…貴女は一体何したのよ?ひょっとしてあんたは荒唐無稽の小細工を?如何して貴女には桜花姫の魔法が通用しないのよ?」 アクアヴィーナスの質問にアビスラメイアスは満面の笑顔で返答したのである。 「何って♪私は彼女の魔力をペロペロッと平らげただけよ♪荒唐無稽の小細工なんて失礼しちゃうわね…」 先程は余裕だった桜花姫であるが…。 「平らげたって…ひょっとして彼女も吸収能力で私の妖力を吸収したの?」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りし始める。 「えっ…」 『桜花姫?』 アクアヴィーナスは桜花姫の様子を観察すると彼女は全身がプルプルと身震いした様子だったのである。 『ひょっとして彼女は…桜花姫はアビスラメイアスに恐怖心を…』 アビスラメイアスに対する恐怖心からプルプルと身震いし続ける桜花姫を直視するとアクアヴィーナスは極度の不安感が芽生える。 『私一人では何も出来ないし…一体如何すれば?』 深海底地帯の自然環境では妖力の消耗は桁外れであり吸収能力を保持する深海底アンデッドは最悪の難敵である。圧倒的に不利であると判断した桜花姫は苦し紛れに…。 「アクアヴィーナス…残念だけどあんたは即刻祖国のアクアユートピアに戻りなさい…戻らなければあんただって確実にアビスラメイアスに食い殺されるかも知れないのよ…アクアヴィーナスは即刻アクアユートピアに戻りなさい…」 「えっ…桜花姫…」 「あんたはアビスラメイアスに食い殺されたくないでしょう?」 桜花姫は恐る恐るアクアヴィーナスに指示したのである。一方彼女に指示されたアクアヴィーナスであるが…。 「えっ…私は…」 アクアヴィーナスは一瞬沈黙したのである。 「桜花姫…私は…アクアユートピアへは…戻らないよ…」 彼女は強張った表情で桜花姫の指示を拒否する。 「えっ?アクアヴィーナス?」 「私は…一人でアクアユートピアへは戻れないよ…此処で逃げちゃったら…」 「えっ?あんたは…一体何を!?正気なの!?アクアヴィーナス!?」 桜花姫は指示を拒否するアクアヴィーナスが正気なのか不安がる。 「私は正気よ…桜花姫…」 「正気なら即刻逃げなさいよ…アクアヴィーナス…」 桜花姫は再度彼女に指示したのである。 「あんたはこんな場所で死にたくないでしょう?アクアヴィーナス…」 「私には恩人の桜花姫を…見殺しになんて出来ないわ…」 『本当は…死にたくないし…逃げたいけど…』 本心では逃げられるのであれば一目散に逃げたいアクアヴィーナスであるが…。 『私は最愛の母様を…見殺しに…』 彼女は母親のアクアキュベレーを見殺した自身への無力感と罪悪感に影響され恩人である桜花姫を見殺しには出来なかったのである。 「私を見殺しにって…あんたね…」 桜花姫はアクアヴィーナスの発言に呆れ果てる。 「今回ばかりは…私だって殺されるかも知れないのに…一人では何も出来ないあんたは正直足手纏いなのよ!此処では非力のあんたは邪魔なだけよ!」 桜花姫は非常に苛立った様子であり攻撃的に発言したのである。 「えっ…桜花姫…」 アクアヴィーナスは足手纏い発言にピクッと反応する。 「はっ!?」 『私は一体何を…』 一方の桜花姫は本音を口走りハッとした表情で…。 「御免なさい…アクアヴィーナス…気にしないで…」 桜花姫は即座にアクアヴィーナスに謝罪する。 「本当に御免なさい…苛立っちゃっただけだから…アクアヴィーナス…本当に気にしないでね…」 謝罪した桜花姫であるもののアクアヴィーナスは無表情で…。 「別に…私は気にしないから大丈夫よ…桜花姫…所詮私が足手纏いなのは周知の事実だし…私は人一倍弱虫だから…」 「アクアヴィーナス…」 すると沈黙したアビスラメイアスが笑顔で発言し始める。 「あんた達♪女同士の雑談は終了したかしら?」 アビスラメイアスは一息したのである。 「何方にせよ…あんた達は私の餌食決定だからね♪二人とも私に仲良く食い殺されちゃいなさい♪あんた達二人は私に食い殺される運命なのだから♪」 アビスラメイアスは召喚魔法を発動…。 「私の下僕達♪出現なさい♪」 桜花姫とアクアヴィーナスの背後より突如として四体ものアビスセイレーンがアビスラメイアスの配下として召喚されたのである。 「えっ!?彼女達はアビスセイレーン!?」 「アビスラメイアスは魔法でアビスセイレーンを召喚したの!?」 アビスラメイアスは笑顔で自身の配下であるアビスセイレーンに命令する。 「私のアビスセイレーン♪あんた達は目前の彼女達を拘束しなさい♪」 アビスラメイアスが四体のアビスセイレーンに命令すると彼女達は桜花姫とアクアヴィーナスの背後に密着し始める。彼女達は力任せに桜花姫とアクアヴィーナスの身動きを封殺したのである。 「きゃっ!」 「ぐっ!あんた達!」 アビスラメイアスはアビスセイレーンによって身動き出来なくなった桜花姫に近寄ると彼女の素肌に密着し始める。 「異国の魔法使い♪手始めに美味しそうなあんたから血肉を味見するわね♪」 するとアクアヴィーナスは力一杯鼓舞すると恐る恐る発言する。 「アビスラメイアス…彼女を…桜花姫を見逃しなさい!」 「はっ?あんたは…何よ?」 アビスラメイアスはアクアヴィーナスの発言に反応したのである。アクアヴィーナスは多少ビクビクするものの…。 「本来彼女はアクアユートピアの問題とは無関係なのよ…生身の人魚を食い殺したければ…私だけを食い殺しなさい!」 「えっ!?アクアヴィーナス!?」 『彼女は正気なの!?』 桜花姫はアクアヴィーナスの突発的発言に驚愕する。 「はぁ…小判鮫の分際で…あんたは相当の馬鹿者ね…」 苛立ったアビスラメイアスはギロッとした形相でアクアヴィーナスを睥睨し始める。 「別に心配しなくても…小判鮫のあんたも食い殺すから安心しなさいよ♪私は異国の魔法使いから食事したいの♪私の食事中に口出しするのであれば私の魔法であんたを二度と喋れなくしちゃうわよ…」 「ひっ!」 アビスラメイアスの恫喝にアクアヴィーナスは畏怖したのである。 「あんたの素肌…一口だけ♪味見しちゃおうかな♪」 アビスラメイアスは桜花姫の頬っぺたをペロペロする。 「異国の魔法使い♪あんたみたいな可愛らしい小娘は大好きよ♪食い殺しちゃうのが勿体無いわね♪」 『アビスラメイアス…彼女は余程の物好きなのかしら?私は悪霊なんかに気に入られるなんて…』 桜花姫は内心苦笑いしたのである。 「ぐっ!」 『妖力が一瞬で…消耗しちゃうんなんて…』 アビスラメイアスに接触された悪影響からか桜花姫は体内の妖力が消耗し始める。 『ひょっとしてアビスラメイアスの吸収能力かしら?接触しただけで妖力が吸収されるなんて…』 アビスラメイアスの吸収能力は器物の悪霊である小面袋蜘蛛よりも強力であり皮膚に接触しただけで体内の妖力が消耗…。吸収されたのである。 「あんたの魔力は誰よりも美味だわ♪あんたの肉体諸共食べちゃおうかしら♪」 アビスラメイアスが桜花姫に接触した直後…。 『桜花姫がアビスラメイアスに食べられちゃうわ!』 アクアヴィーナスは覚悟する。 『一か八かよ…私だって…私だって!』 彼女は咄嗟の判断により背後のアビスセイレーンに力一杯頭突きしたのである。 「ギャッ!」 アクアヴィーナスは力一杯の頭突きにより背後のアビスセイレーンを一瞬怯ませる。 「えっ!?アクアヴィーナス!?」 桜花姫はアクアヴィーナスの突発的行動に再度驚愕したのである。 「桜花姫!」 アクアヴィーナスは咄嗟に所持品のブルークリスタルを力一杯投擲する。 「えっ!?」 『アクアヴィーナス!?ブルークリスタルを!?』 桜花姫は即座にアクアヴィーナスの方向を直視したのである。力一杯投擲されたブルークリスタルに変化の妖術を発動…。ブルークリスタルは桜花姫の変化の妖術により大好きな桜餅に変化したのである。 『ブルークリスタルを頂戴するわね!』 桜花姫は桜餅に変化したブルークリスタルをパクッと頬張る。 「こんなにも絶体絶命の状況下で異国のスイーツなんて頬張っちゃって如何するのかしら♪あんた達は極度の恐怖心で脳味噌が発狂しちゃったのね…気の毒だわ♪」 アビスラメイアスは彼女達の咄嗟の行動に失笑するものの…。 「何方にせよ…あんた達は私に捕食されちゃう運命なのよ♪今更身悶えても無意味なのよ…観念するのね♪」 桜餅を頬張った影響からか桜花姫の妖力が先程よりも増大化したのである。 「えっ?」 アビスラメイアスは妖力が増大化した桜花姫に不思議がる。 『彼女の魔力が先程よりも桁違いに増幅されたみたいだわ…一体如何してなの?』 不思議がるアビスラメイアスにアクアヴィーナスが解説する。 「残念だったわね!アビスラメイアス!私が桜花姫に食べさせた最強のアイテムは魔法石のブルークリスタルなのよ!」 「なっ!?魔法石のブルークリスタルですって!?」 『魔法石のブルークリスタルを頬張るなんて…異国の魔法使いは正気なの!?』 アビスラメイアスはブルークリスタルの一言に一瞬驚愕したのである。 「桜花姫は異国のスイーツに変化させたブルークリスタルを頬張ったのよ…魔力だけなら確実にあんたの魔力を上回ったわ…」 「はぁ?異国の魔法使いが私の魔力を上回ったって?」 一時的であるが…。ブルークリスタルの効果で桜花姫の妖力が強大化したのである。 「ブルークリスタルの効果で妖力が戻ったからね♪早速反撃開始よ!」 桜花姫はアビスラメイアスと四体のアビスセイレーンに変化の妖術を発動…。 「あんた達は即刻♪私の大好きな桜餅に変化しちゃいなさい♪」 桜花姫とアクアヴィーナスの背後で彼女達を拘束する四体のアビスセイレーンは桜餅に変化したのである。 「えっ…私のアビスセイレーンが…異国のスイーツに!?」 四体のアビスセイレーンには変化の妖術は通用したが…。アビスラメイアスは魔力の吸収能力によって桜花姫の変化の妖術を無力化させたのである。 「こんな子供騙しで…」 アビスラメイアスは鬼神の形相で桜花姫を睥睨し始める。一方の桜花姫はヘラヘラした表情で…。 「如何やら親玉のアビスラメイアスには変化の妖術は通用しなかったみたいね♪非常に残念だったわ♪」 「何が非常に残念なのよ?」 桜花姫の余裕の様子にアビスラメイアスは苛立ったのである。 『此奴…小娘の分際で腹立たしいわね…』 「異国の魔法使いが…私には魔力による攻撃法は何一つとして通用しないからね!馬鹿にしないで!」 アビスラメイアスは変化の妖術を発動した桜花姫の妖力を自身の吸収能力によって即座に吸収…。先程よりもアビスラメイアスの魔力が強大化する。 「先程のあんたの魔法で私の魔力は急上昇したのよ…」 「アビスラメイアス!今度の攻撃で親玉のあんたを仕留めるわ!」 「はっ?魔法が通用しない私を魔法で仕留めるなんて本気かしら?滑稽だわ!」 アビスラメイアスは桜花姫の発言に反論したのである。 「私よりも魔力が上回ったとしてもあんた達は圧倒的に不利なのよ!私に魔法なんて通用しないのに魔法以外で攻撃手段が存在しないあんた達に何が出来るのよ?」 桜花姫は圧倒的に不利であるが…。冷静沈着であり両目を瞑目させたのである。 「鬱陶しいあんたは…」 『口寄せの妖術…発動!』 桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動する。 「えっ…」 『一体何よ?』 口寄せの妖術を発動するとアビスラメイアスの真後ろより巨大異次元空間ワームホールが出現したのである。 『ワームホールかしら?』 直後…。 「なっ!?」 『ワームホールから鋼鉄の武器が!?』 巨大ワームホールの中心部より近代兵器である大型の魚雷が出現したのである。 『ワームホールから魚型の武器が召喚されるなんて…彼女の魔法なの?』 アビスラメイアスの背後に魚雷が出現したかと思いきや…。アビスラメイアスの背後より魚雷が一直線に直進する。彼女の背中に魚雷が接触した直後…。魚雷が爆散する。 「ぎゃっ!」 アビスラメイアスは魚雷攻撃によって全身がバラバラに粉砕されたのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。爆散した魚雷の水圧から危機一髪本体を防備したのである。一方同行者のアクアヴィーナスにも妖力の防壁を発動…。アクアヴィーナスも無事だったのである。 「一件落着だわ♪アクアヴィーナス…大丈夫かしら?」 「私なら大丈夫よ…感謝するわね♪桜花姫♪」 アクアヴィーナスもホッとしたのか微笑み始める。 「アクアヴィーナス♪あんたの笑顔♪可愛らしいわね♪」 桜花姫は笑顔のアクアヴィーナスに可愛らしいと発言する。 「えっ!?」 アクアヴィーナスはハッとした表情から赤面し始め…。 「ぐっ!」 彼女は無理矢理に表情を強張らせる。 「えっ…アクアヴィーナス…」 『彼女は意外と強情なのね…無理に表情を強張らせなくても…』 桜花姫は無理矢理に表情を強張らせるアクアヴィーナスに苦笑いしたのである。 「私は先程の戦闘で妖力を消耗したからね♪」 桜花姫は魚雷攻撃によってバラバラに粉砕されたアビスラメイアスの無数の血肉を直視すると満面の笑顔で…。 「今度こそ♪桜餅に変化しちゃえ♪」 変化の妖術でバラバラに粉砕されたアビスラメイアスの無数の血肉を自身の大好きな桜餅に変化させる。 「アクアヴィーナス♪折角だしあんたも桜餅を味見しないかしら?桜餅は絶品よ♪」 「えっ…悪いけど私は食べたくないわ…今回は遠慮するわね…」 アクアヴィーナスは苦笑いの様子であり遠慮したのである。 『桜花姫の感性は…異常ね…』 アクアヴィーナスは内心桜花姫の悪食にドン引きする。一方の桜花姫は即座に散乱した桜餅をムシャムシャと平らげる。無数の桜餅を食べ始めてより数分後…。桜餅を完食したのである。 「桜餅を食べ過ぎちゃったわね♪」 桜餅を鱈腹頬張ると桜花姫の腹部がプクプクの状態であり一時的に肥満化する。 「桜花姫…貴女は食べ過ぎでしょう…」 『桜花姫の体内って無限の宇宙空間なのかしら?本当…彼女は鯨類以上の食いしん坊なのね…』 アクアヴィーナスは苦笑いしたのである。 「御免あそばせ♪即刻ブルーデストピアに直行するわよ!アクアヴィーナス♪」 彼女達はブルーデストピアの深海底魔王城へと直行する。
第十三話
深海底魔王城 二人が移動を再開してから一時間が経過したのである。アクアヴィーナスは桜花姫と暗闇の海中を移動中…。 『月影桜花姫…』 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫を直視する。 『人一倍ヘタレの私でも彼女と一緒だったら…危険区域のブルーデストピアに到達したとしても生還出来るかも知れないわ…』 普段は人一倍ネガティブ思考のアクアヴィーナスであるが…。桜花姫と一緒に行動すると希望が芽生える。すると突如として周辺が漆黒の暗闇に覆い包まれる。 「周辺は暗闇だわ…」 「ブルーデストピアは間近っぽいわね…」 「如何やら目的地は目前みたいね♪」 視界は暗闇であり不良であるものの…。 「私達は超特急で移動するわよ♪アクアヴィーナス♪」 桜花姫は非常にワクワクする。 「えっ…」 『如何して桜花姫は平気なのかしら?』 アクアヴィーナスは桜花姫の大胆不敵の態度に羨望したのである。 「ん?」 暗闇の周辺より無数の殺気と魔力を感じる。 『無数の殺気と魔力を感じるわね…』 「深海底アンデッドの大群かしら♪」 桜花姫は深海底アンデッドの出現を期待したのである。 「深海底アンデッドの大群が出現したの!?」 アクアヴィーナスはビクビクし始め…。力一杯桜花姫に密着したのである。 「アクアヴィーナスは大袈裟ね♪戦慄しなくても大丈夫よ♪」 「御免なさい…桜花姫…」 アクアヴィーナスは恐る恐る謝罪する。 「結局私一人では力不足だし…私は何も出来ないから…」 アクアヴィーナスは自身を卑下したのである。 「えっ…アクアヴィーナス…」 『先程の彼女の度胸は何だったのかしら?火事場の馬鹿力とか?』 桜花姫は極度に畏怖し続けるアクアヴィーナスの様子に苦笑いする。彼女達は暗闇の海中を直進し続けると無数の殺気と霊力を感じる。 『無数の魔力を感じるわ…敵陣だから当然かしら?』 桜花姫は即座に天道天眼を発動…。妖力の防壁を形作る。 「桜花姫…今度は何が出現するのよ?」 アクアヴィーナスは極度の恐怖心によりソワソワし始める。 「無数の深海底アンデッドが接近中ね♪」 暗闇の海中より数百体…。数千体ものアビスセイレーンとアビスフィッシュの大群が移動中の桜花姫とアクアヴィーナスに殺到する。 「きゃっ!深海底アンデッドの大群よ!桜花姫!私達は食べられちゃうわ!」 「アクアヴィーナスは本当に大袈裟ね…大騒ぎしなくても大丈夫よ…」 桜花姫は一人で大騒ぎし続けるアクアヴィーナスに大袈裟であると感じる。 「何が大丈夫なのよ!?桜花姫!私達は深海底アンデッドに食い殺されちゃうかも知れないのに!」 「心配しなくても大丈夫だって…アクアヴィーナス…あんたは心配性ね…」 「えっ?桜花姫?」 「こんな奴等…先程のアビスラメイアスと比較すれば小魚同然よ♪」 桜花姫は余裕の様子だったのである。アビスセイレーンとアビスフィッシュの大群が彼女達に接触する直前…。妖力の防壁から半透明の血紅色の魔手を形作る。 「あんた達は雑魚の分際で私に接触するなんて無謀なのよ♪」 アビスセイレーンとアビスフィッシュの大群は桜花姫とアクアヴィーナスに殺到するものの…。 「死滅するのね♪」 妖力の防壁から出現した無数の血紅色の魔手によって瞬殺されたのである。防壁の魔手に接触したアビスセイレーンとアビスフィッシュは肉体が粉砕され…。暗闇の海中には無数の血肉やら肉片が散乱したのである。 「シールド魔法から紅色の魔手が…一体何かしら?」 「単純に妖力の防壁を攻撃用に応用しただけなのよ♪」 「桜花姫の魔法は本当に変幻自在で万能なのね…」 「私にとってこんな妖術は序の口だから♪」 桜花姫の返答にアクアヴィーナスは絶句する。 「こんなにも荒唐無稽なのに序の口って…」 『やっぱり桜花姫には私達の常識なんて通用しないわね…』 桜花姫の荒唐無稽さにアクアヴィーナスは普段の自分達の常識が微細に感じられる。暗闇の海中を直進し続けると遠方より異国風の根城らしき巨大シルエットが確認出来る。 「えっ?何かしら?」 「深海底魔女の根城っぽいわね…」 「根城は深海底魔女の本拠地かも知れないわね♪」 正体不明の巨大シルエットに接近すると巨大シルエットの正体は暗闇に覆い包まれた根城であると確信する。 「如何やら此処の根城が深海底魔女の本拠地みたいだわ…」 「根城の内部から人魚達と無数の深海底アンデッドの魔力を感じるわね♪」 桜花姫は根城の内部から人魚達の魔力は勿論…。無数の深海底アンデッドの魔力を察知したのである。 「人魚達と深海底アンデッドの魔力ですって?」 「此処からでも魔力を察知出来るわ…如何やらあんたの祖国の人魚達は此処に幽閉されたみたいね…」 「深海底魔女の本拠地にアクアキュベレー母様が…」 アクアヴィーナスは恐る恐る暗闇に覆い包まれた深海底魔王城を直視…。 『母様は無事なのかしら?』 アクアヴィーナスは母親のアクアキュベレーが無事なのか不安に感じる。 「アクアヴィーナス…根城に潜入するわよ♪」 「勿論よ…桜花姫…」 「深海底魔女に遭遇したら即刻彼女を食い殺してアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を救出しましょう♪」 「えっ…桜花姫…」 『深海底魔女を食い殺すって…』 アクアヴィーナスは深海底魔女を食い殺すと笑顔で発言する桜花姫に内心ゾッとしたのである。彼女達は恐る恐る深海底魔王城の表門へと近寄る。 「折角だからね♪念力の妖術で根城の表門を粉砕しちゃいましょう♪」 桜花姫は念力の妖術によって深海底魔王城の表門を粉砕…。 「表門が破壊されたわ…」 アクアヴィーナスは再度絶句したのである。 「アクアヴィーナス♪城内に潜入するわよ…」 「勿論よ…桜花姫…」 彼女達は警戒した様子で恐る恐る深海底魔王城の城内へと潜入する。 「如何やら私達は深海底アンデッドに歓迎されたみたいね♪」 深海底魔王城の城内では無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンが徘徊中だったのである。 「ひゃっ!深海底アンデッドの大群だわ!」 無数の深海底アンデッドは侵入者である桜花姫とアクアヴィーナスを発見した直後…。彼女達に殺到したのである。 「きゃっ!殺されちゃう!」 アクアヴィーナスは戦慄する。 「あんたは畏怖し過ぎよ…アクアヴィーナス…」 「桜花姫は平気なの?食い殺されるかも知れないのよ…」 「別に♪こんなのは私の祖国では日常茶飯事だし♪平気よ♪」 桜花姫は冷静であり余裕の様子だったのである。 「あんた達は私に挑戦するなんて相当の命知らずね♪」 桜花姫は余裕の様子であり念力の妖術を発動…。体内から深海底アンデッドの肉体を破裂させたのである。 『他愛無いわね♪』 念力の妖術によって周辺には深海底アンデッドの血肉が飛散する。 「桜花姫…こんなにも深海底アンデッドの大群を一人で瞬殺しちゃうなんて…」 「私は最上級妖女なのよ♪当然の結果よ♪」 アクアヴィーナスは再度桜花姫の強大さを実感したのである。 「兎にも角にも根城の守備陣は蹴散らしたわ♪根城の最上階に直行しましょう♪」 「勿論よ…桜花姫…」 彼女達は深海底魔王城の最上階へと直進する。城内を直進中にも無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンに遭遇するものの…。 「あんた達は鬱陶しいわね…」 桜花姫の猛反撃によって城内の深海底アンデッドの大群は容易に蹴散らされる。 「楽勝ね♪」 桜花姫は余裕の様子であり天下無敵だったのである。 『やっぱり桜花姫は別次元の存在ね…』 アクアヴィーナスは桜花姫が別次元の存在であると思考する。すると二人の目前より二刀流の悪魔的人魚…。アビスダーキニーが二体出現する。 「彼女達はアビスダーキニーだったかしら?」 『刀剣を一振りされると厄介だからね…』 桜花姫は即座に変化の妖術を発動したのである。すると二体のアビスダーキニーは自身の大好きな桜餅に変化する。 「変化の妖術♪成功ね♪」 桜花姫は桜餅に変化した二体のアビスダーキニーをパクッと捕食したのである。 「本当…桜花姫は深海底アンデッドを捕食出来るわね…」 アクアヴィーナスは桜花姫が深海底アンデッドを捕食する光景に苦笑いする。 「深海底アンデッドでも桜餅だから平気よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。 「アクアヴィーナス♪兎にも角にも移動しましょう♪」 二人は再度行動を開始する。
第十四話
光球 彼女達が再度行動を開始してより数分後…。 「ブルークリスタルの効力かしら♪妖力の消耗が気にならなくなったわ♪」 桜花姫は桜餅に変化させたブルークリスタルの効力により深海底地帯の自然環境でも妖力の消耗が緩和されたのである。 「もう少しで根城の最上階かしら?」 アクアヴィーナスは恐る恐る…。 「桜花姫…緊張するわね…」 アクアヴィーナスは極度の緊張感により全身がプルプルし始める。 「緊張するかしら?私は別に平気だけどね♪」 「桜花姫らしい返答だわ…」 彼女達は深海底魔王城の最上階へと到達する。 「如何やら根城の最上階っぽいわね…ん?」 最上階の中心部より下半身が真蛸の女性が確認出来る。 「誰かしら?」 「彼女が…」 するとアクアヴィーナスがプルプルと身震いし始める。 「えっ?如何しちゃったのよ?アクアヴィーナス?大丈夫?」 アクアヴィーナスは恐る恐る下半身が真蛸の女性に指差したのである。 「彼女よ…彼女がね…」 「えっ?彼女?彼女が何よ?」 「彼女が…私達のアクアユートピアを襲撃した張本人…深海底の魔女…ダークスキュランよ…」 ダークスキュランは上半身が人間の女性であるものの…。下半身は真蛸の肉体であり八本の蛸足が確認出来る。 「彼女が親玉のダークスキュランね…」 『如何やら此奴がアクアユートピアを襲撃した黒幕の深海底魔女…ダークスキュランなのね…』 桜花姫は深海底魔女ダークスキュランとの遭遇に微笑み始める。 「あんたが彼女の祖国を侵略した深海底魔女…ダークスキュランなのね♪あんたの下半身は可愛らしい真蛸みたいだわ♪」 一方のダークスキュランは桜花姫の真蛸発言にピクッと反応…。 「なっ!?誰が真蛸ですって!?」 ダークスキュランは鬼神の形相でヘラヘラし続ける桜花姫を凝視する。 「あんたは失礼しちゃうわね…私は深海底の魔女…ダークスキュランなのよ!」 真蛸と揶揄されたダークスキュランは桜花姫を睥睨し始める。 「ダークスキュラン…如何やらあんたが今回の事件の黒幕っぽいわね♪」 「あんたが異国の魔法使いか…」 ダークスキュランは一息する。 「ワーム型深海底アンデッドのアビスシーワームと…最上級の深海底アンデッドのアビスラメイアスを死滅させ…ノーダメージで深海底魔王城の最上階に到達出来るなんて異国の魔法使いは予想外に手強いわね…あんたは天空世界の化身なのかしら?」 ダークスキュランは桜花姫の妖力を高評価したのである。 「勿論♪私は最上級妖女だからね♪私に挑戦するとあんたは後悔するわよ♪」 桜花姫は満面の笑顔で断言する。 「即刻深海底魔女のあんたを仕留めて…あんたの部下達に連行されたアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を無事に救出するわよ♪」 「彼女達を無事に救出出来るかしら?現実を直視しない単細胞のあんた達に…」 「現実ですって?一体何よ?」 ダークスキュランは平常心の様子であり桜花姫は彼女の様子に警戒したのである。 『ダークスキュランは随分と冷静ね…妖力だけなら手下のアビスラメイアスよりも数段階下回るのに…如何して彼女は圧倒的に不利なのに冷静なのかしら?』 するとアクアヴィーナスは恐る恐るダークスキュランに問い掛ける。 「如何してダークスキュランは私達のアクアユートピアを侵略したのよ?」 「私がアクアユートピアを侵略した理由ですって?」 ダークスキュランは恐る恐る一息する。 「深海底のアクアユートピアでは…無尽蔵の魔法石…ブルークリスタルを入手出来るからね…」 「無尽蔵のブルークリスタルですって?」 桜花姫とアクアヴィーナスはダークスキュランのブルークリスタルの一言に反応したのである。 「魔法石のブルークリスタルは米粒大のサイズだとしても地上世界の一国を引っ繰り返せる魔力を発揮出来るのよ♪」 魔法石のブルークリスタルは消耗した魔力の回復のみならず超一流の魔法使いがブルークリスタルを所持した場合…。体内の魔力を数十倍から数百倍にも増大化させられる。無論ブルークリスタルから発生した魔力は無尽蔵でありブルークリスタルを所持した魔女は魔力が枯渇しない。 「米粒大のブルークリスタルでも超一流の魔法使いが所持すれば超大国を陥落させられるし…超大国の征服だって実現出来る程度の…魔力を入手出来るからね♪」 「米粒大のブルークリスタルだけで…超大国を征服出来るなんて…」 超大国のスケールにアクアヴィーナスは勿論…。 「超大国ですって…」 桜花姫も絶句したのである。 「如何して深海底魔女のダークスキュランに魔法石のブルークリスタルが必要なのかしら?魔法石のブルークリスタルを所持しなくてもあんたの魔力は桁外れに強力でしょうよ…」 ダークスキュランの魔力を高評価したアクアヴィーナスであるが…。ダークスキュランは一瞬沈黙したのである。彼女は一度一息する。 「私は莫大なるブルークリスタルで私自身の魔力を増大化させ…魔法の海水で地上世界全域を水没させるのよ♪広大無辺の地上世界全域を水没させるには私自身の魔力のみだと力不足だからね…人魚王国…アクアユートピアのブルークリスタルで私自身の魔力を数千倍に増大化させたかったのよ♪」 桜花姫とアクアヴィーナスはダークスキュランの主目的に沈黙したのである。 「極悪非道の人間達を魔法の海水で溺死させ…地上世界全体を魔法の海水で覆い包ませるのよ♪ブルークリスタルの魔力で海水の惑星が誕生するのよ♪」 桜花姫は恐る恐るダークスキュランに問い掛ける。 「ダークスキュラン?」 「何よ?」 「ひょっとしてあんたも…ダークスキュランも…人間達が大嫌いなの?」 「人間達ですって?無論ね…」 桜花姫の問い掛けにダークスキュランは即答したのである。 「如何してあんたは地上世界の人間達を溺死させたいのよ?」 再度問い掛けられたダークスキュランは無言で魔法を発動…。桜花姫とアクアヴィーナスの目前に蛍光色の発光体を発生させたのである。 「発光体みたいね…一体何かしら?」 「発光体は時空の光球よ…」 「時空の光球ですって?」 「時空の光球はね…」 時空の光球とは別名予言の発光体とも命名される予言魔法の一種とされる。蛍光色の発光体に接触すると太古の古代世界から遼遠の未来世界の出来事は勿論…。あらゆる並行世界にて今後発生すると予測される出来事を鮮明に実体験出来る魔法の発光体である。時空の光球は幻術とは別物に分類される。 「面白そうだわ♪時空の光球に接触しましょうよ♪アクアヴィーナス♪」 桜花姫は時空の光球にワクワクするものの…。 「えっ…大丈夫なの?桜花姫?火傷しないかな…」 一方のアクアヴィーナスは極度に不安がる。 「安心しなさい…火傷しないから…」 ダークスキュランは火傷しないと発言するのだが…。 『本当に…大丈夫かな…』 アクアヴィーナスは正直半信半疑でありビクビクした様子で恐る恐る時空の光球に接触したのである。 「折角だし♪私も♪」 桜花姫は娯楽感覚で時空の光球に接触する。 「えっ?」 すると彼女達の脳内にとある大地の大平野にて獣類の毛皮を羽織った大勢の大部族が鋭利の尖頭器を所持…。闘争する光景が鮮明に発現されたのである。 『何かしら?乱闘?』 すると闘争の光景がパッと消滅したかと思いきや…。今度はとある海峡での合戦場の光景が発現されたのである。とある巨大船団と別の巨大船団が衝突する戦闘の光景であり主戦場が船上で足場が不安定であるが…。両勢力とも必死に奮闘し続ける。数秒間が経過すると戦闘の光景がパッと消滅したのである。今度は数百隻もの大陸の軍船がとある砂浜にて上陸を開始…。巨漢の兵士達が火薬を投擲して甲冑を装備した武士達に攻撃する光景が鮮明に発現されたのである。暴風雨により無数の軍船が沈没…。大勢の兵士達が溺死する光景も確認出来る。暴風雨の光景が消滅すると今度は各地の各勢力が多種多様の家紋を掲揚した甲冑の武士達がとある荒野にて奮闘する光景が発現される。 『ひょっとして状況的に戦乱時代の光景なのかしら?』 桜花姫は五百年前の戦乱時代を連想したのである。総大将らしき武将の目前には斬首された武士達の生首が並列される。場面が消滅…。すると今度は炎上する家屋にて一人の家臣に裏切られた武将が自害する光景が発現されたのである。場面が一変すると今度の光景は蒸気を放出する異国風の巨大軍船が馴染み深いとある湾港に上陸する光景が発現され…。異国風の軍服を着用した巨漢の男性達と和服の男性達が対談する光景が確認出来る。すると場面は一変…。異国風の軍服と鉄砲を所持した異国風の軍勢と和服と甲冑を装備した純和風の軍勢が交戦する戦闘の光景が発現されたのである。 『一体何が?先程から戦乱の光景ばかりね…』 桜花姫は鮮明に発現された数多くの戦闘の場面に圧倒される。両勢力の戦闘の光景が消滅すると今度は鉄砲を所持した異国風の黒服の兵士達がとある丘陵地にて突撃する場面が発現され…。突撃する大勢の兵士達が丘陵地の狙撃兵達により銃殺されたのである。場面が一変すると今度はとある青海原にて数十隻もの鋼鉄の巨大軍船が前方を直進し続ける数十隻もの鋼鉄の巨大軍船を無数の大砲で砲撃する海戦の光景が発現される。すると今度は鋼鉄の鳥類らしき無数の飛翔体がとある異国の湾港にて飛行中…。湾港に停泊中の巨大軍船を鋼鉄の爆弾で攻撃する光景が発現されたのである。十数隻もの巨大軍船が沈没…。大勢の兵士達が鋼鉄の火薬で吹っ飛ばされたのである。直後…。とある海面上にて鋼鉄の爆弾を抱き抱えた鋼鉄の鳥類らしき飛翔体が大砲を装備した鋼鉄の巨大軍船に自爆攻撃する光景が発現されたのである。すると今度は鋼鉄の爆弾を抱き抱えた小柄の少年兵が大砲を装備した鋼鉄の巨大牛車に突撃…。鋼鉄の巨大牛車諸共自爆攻撃を実行する光景も鮮明に発現されたのである。先程の戦闘の光景が消滅したかと思いきや…。今度は鋼鉄の巨大鳥類らしき無数の飛翔体がとある城下町にて何千発もの鋼鉄の爆弾を投下する光景が発現されたのである。業火の火炎に覆い包まれた村人達…。防火頭巾の女性達が必死に炎上し続ける各家屋敷を消火する光景が鮮明に発現されたのである。場面が一変すると突如としてピカッと高熱の閃光が一面に光り輝いたかと思いきや…。とある大都市部全域にてどす黒い巨大キノコ雲と漆黒の雨水も確認出来る。焦土化した陸地には眼球やら全身の皮膚がドロドロに焼け爛れ…。大勢の幽霊みたいな村人達が各地を彷徨し続ける。荒廃化した各地には黒焦げの無数の焼死体が地面全体に埋没…。焼け爛れた焼死体の皮膚には無数の蛆虫が大量発生したのである。 『如何してこんな状態に…』 桜花姫は前代未聞の異様の光景にゾッとする。 「桜花姫…私…」 一方のアクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が溢れ出る。全身がプルプルと身震いし始め…。身体髪膚が膠着したのである。 「アクアヴィーナス…」 『如何やら彼女は限界みたいね…』 すると時空の光球はパッと消滅する。ダークスキュランは無表情で桜花姫とアクアヴィーナスを凝視したのである。 「常日頃から単細胞のあんた達でも…理解出来たでしょう?」 「理解って…何が?」 ダークスキュランは無表情で桜花姫を直視し始める。 「地上世界の…人間達の野蛮さと…数多くの愚行を…」 「先程の光景は幻術なのかしら?」 桜花姫の返答にダークスキュランは全否定する。 「幻術なんて甘っちょろい子供騙しの魔法とは別物なのよ!時空の光球は太古の古代世界から遼遠の未来世界は勿論…無限の並行世界で発生する出来事を鮮明に再現させる予言の魔法なの…」 「予言の…魔法ですって?」 「先程の光景は太古の古代世界から遼遠の未来世界の戦乱は勿論…別の時間軸で勃発する一連の出来事を再現したのよ…醜悪なる人間達の悪行かしら…」 桜花姫は沈黙する。 「こんなにも同族同士で殺し合って…自然界の自然環境を汚染させ続ける全人類を滅亡させたいからこそ…私はブルークリスタルの絶大なる魔力を利用して醜悪なる全人類諸共地上世界全域を水没させたいのよ…」 すると桜花姫は無表情で…。 「別にあんたが人間達を完膚なきまでに溺死させたいのであれば思う存分に殺傷しなさいよ…先程の光景を直視させられちゃったら人間界を守護するのも笑止千万だわ…所詮人間達があんたの魔法で溺死しちゃうのも自業自得でしょうね…」 「異国の魔女…あんたって意外だわ…」 ダークスキュランは桜花姫の返答に意外であると感じる。 「えっ?何が意外なのよ?」 ダークスキュランは冷笑した表情で…。 「正直あんたは姿形も発想も世間知らずの単細胞って印象だったけど…思考力だけなら赤髪の女友達よりは大人の女性みたいな様子ね♪正直あんたが大人らしい思考力でホッとしたわ♪」 「はっ?」 『鬱陶しい真蛸の女狐ね…何が大人の女性みたいな思考力よ…腹立たしくなるわ…』 ダークスキュランから大人の女性と認識された桜花姫であるが…。内心では腹立たしくなりピリピリする。 「あんたが私の主目的に協力するのであれば♪赤髪の女友達もアクアユートピアの人魚達も無事に解放するけれど♪如何するかしら?」 「人間達が自滅するのは勝手だけど…誰が真蛸のあんたなんかに協力するか…」 桜花姫はダークスキュランの協力を拒否したのである。 「地上世界を水没させちゃうと桃源郷神国の桜餅は二度と食べられなくなるし…八正道様と小猫姫が溺死しちゃうかも知れないからね…何よりも金輪際悪霊征伐と匪賊征伐が出来なくなるわ♪」 数秒後…。 「ダークスキュラン…悪いけど私はあんたの野望には賛同出来ないわね…」 「はっ?」 「勿論共感は出来るわ♪共感するけど協力は出来ないわね…」 ダークスキュランは笑顔で返答した桜花姫にピリッと苛立ったのである。 「異国の魔法使いが…所詮あんたも人間達に味方する愚者なのね…」 「私が人間達の味方ですって?勘違いしないでね…私は誰にも干渉されず自由奔放に生活したいだけなのよ♪地上世界の水没なんて面倒臭いのよね♪」 桜花姫は全否定する。 「あんたね…」 一方のダークスキュランは苛立ち始め…。 「私の目的に協力しないのであれば…あんた達の身動きを半永久的に封殺するわ…覚悟するのね!」 桜花姫とアクアヴィーナスに金縛りの魔法を発動したのである。すると突如…。 「えっ?」 『身動き出来ないわね…』 彼女達は金縛りの魔法により身動き出来なくなる。 『ひょっとして金縛りの妖術かしら?ダークスキュランは金縛りの妖術で私達二人の身動きを封殺したのね…』 桜花姫は身動き出来ずとも冷静沈着であったが…。 『如何してなの!?突然身動き出来なくなったわ…一体何が!?』 一方のアクアヴィーナスはパニック状態であり動揺し始める。 『私は…如何しましょう…』 ダークスキュランは金縛りの魔法によって桜花姫とアクアヴィーナスの身動きの封殺に成功したのである。 「いい気味だわ♪」 『二人とも身動き出来なくなったわね♪』 金縛りの魔法により身動き出来なくなった桜花姫とアクアヴィーナスに催眠術魔法を発動する。 「えっ…」 『何かしら?』 『突然眠気が…』 桜花姫とアクアヴィーナスはダークスキュランの催眠術魔法の影響からか極度の眠気により熟睡し始めたのである。 「あんた達は精一杯熟睡しなさい♪」 ダークスキュランは熟睡中の桜花姫に恐る恐る接触する。 「異国の魔法使いは人一倍生意気で腹立たしい小娘だったけど…熟睡すると寝顔だけは誰よりもキュートだわ♪食べちゃうのが非常に勿体無いわね♪」 『早速彼女達をピチピチの甘海老に変化させちゃおうかしら♪』 ダークスキュランの魔法によって睡眠中の桜花姫とアクアヴィーナスの肉体を小指サイズの甘海老に変化させたのである。 「美味しそうな甘海老ね♪」 『異国の魔法使いはピチピチした素肌の感触が誰よりも美味しそうだわ♪』 ダークスキュランは即刻小指サイズの甘海老に変化させた桜花姫を頬張ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 桜花姫の肉体から白煙がポンッと発生したのである。 『一体何が…』 小指サイズの甘海老に変化した桜花姫の肉体が突発的に消滅…。 『如何して彼女の肉体が消滅したのよ!?』 ダークスキュランは突然消滅した甘海老の桜花姫に驚愕する。 『彼女は一体!?』 すると彼女の背後より…。 「きゃっ!」 ダークスキュランの背中に何者かがポンッと接触したのである。突然の出来事によりダークスキュランはビクッと反応する。 「御免あそばせ♪ダークスキュラン♪」 「えっ!?あんたは…」 ダークスキュランの背中を接触したのは誰であろう最上級妖女の月影桜花姫だったのである。 「あんたは異国の魔法使い!?如何して元通りの姿形に…あんたは私が魔法で甘海老に変化させたのよ…」 ダークスキュランは元通りの姿形に戻った桜花姫に動揺する。 「一体何が?如何してあんたは元踊りに…」 「不思議そうね♪ダークスキュラン♪」 桜花姫は不思議がるダークスキュランに満面の笑顔で説明したのである。 「あんたが妖術で甘海老に変化させたのは私の分身体なのよ♪残念だったわね♪ダークスキュラン♪」 「えっ…分身体ですって!?」 ダークスキュランが魔法を発動する直前に分身の妖術を発動…。ダークスキュランの魔法で小指サイズの甘海老に変化したのは桜花姫の分身体であり彼女の本体は無事だったのである。 「分身体の魔法で私の魔法を無力化するなんて…異国の魔法使いは悪知恵も超一流みたいね…」 「残念だったわね♪下半身が真蛸の小母さん♪」 「はっ!?誰が真蛸ですって!?」 ダークスキュランは桜花姫の真蛸発言に反応…。怒号し始める。 「私こそ真蛸のあんたを桜餅に変化させて頬張っちゃうわよ♪」 ダークスキュランは満面の笑顔で発言する桜花姫に恐る恐る忠告したのである。 「異国の魔法使い…深海底の魔女である私を食い殺せば…甘海老に変化させたあんたの女友達は勿論…アクアユートピアの人魚達も二度と元通りには戻れなくなるわよ…元凶の私を食い殺せば何もかもが水の泡だからね…」 ダークスキュランに忠告された桜花姫であるが…。 「別に♪」 「えっ!?」 ダークスキュランは桜花姫の予想外の返答に愕然とする。 「彼女が元通りに戻れないから何よ?」 「えっ…仲間の人魚達が元通りに戻れなくなるのに…あんたは平気なの!?」 『彼女は正気なのかしら?』 ダークスキュランは桜花姫の予想外の返答に絶句したのである。 「私なら平気よ♪私は単純に深海底魔女のあんたが気に入らないから深海底魔女のあんたを食い殺したいだけなのよ♪残念だったわね♪ダークスキュラン♪結局…私に対する苦し紛れの忠告も無意味だったみたいね♪」 桜花姫はダークスキュランに挑発する。 「あんたは…可愛らしい外見とは裏腹に内面はどす黒い小悪魔みたいね…」 小悪魔と誹謗された桜花姫であるが…。 「私がどす黒い小悪魔だから何よ♪鬱陶しいあんたは桜餅に変化しちゃいなさい♪」 桜花姫は変化の妖術を発動するとダークスキュランを大好きな桜餅に変化させる。 「美味しそうな桜餅だわ♪頂戴するわね♪」 一口で桜餅に変化したダークスキュランをパクッと頬張る。 「やっぱり桜餅は美味だわ♪」 甘海老に変化したアクアヴィーナスを凝視したのである。 「口寄せの妖術でダークスキュランを元通りに復活させれば問題解決なのよね♪」 桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動する。先程変化の妖術で食い殺したダークスキュランを元通りに復活させたのである。 「えっ?私は一体何を?」 ダークスキュランは無表情で周辺をキョロキョロする。 「元通りに戻れたわね♪ダークスキュラン♪」 ダークスキュランは無感情の様子であり何も反応しない。姿形こそ生前と瓜二つであるが…。術者である桜花姫によって自我を掌握された状態からか今現在のダークスキュランは彼女の傀儡人形同然である。 「ダークスキュラン♪あんたの魔法によって甘海老に変化させられちゃったアクアヴィーナスとアクアユートピアの人魚達を即刻元通りに戻しちゃいなさい♪」 「承知したわ…魔法を解除するわね…」 ダークスキュランは桜花姫の命令を承諾…。即座に変化の魔法を解除したのである。魔法を解除されたアクアヴィーナスは勿論…。深海底魔王城で拘束された人魚達も甘海老の状態から元通りの人魚の姿形へと戻ったのである。熟睡中だったアクアヴィーナスが恐る恐る目覚める。 「えっ?桜花姫?私は今迄一体何を?」 彼女は寝惚けた様子であったが…。 「えっ!?彼女はダークスキュラン!?」 アクアヴィーナスは深海底魔女のダークスキュランを直視するとビクッとした反応で戦慄したのである。 「アクアヴィーナス♪あんたは本当に小心者ね…心配しなくても大丈夫よ♪」 「えっ!?桜花姫!?」 アクアヴィーナスはダークスキュランを直視…。警戒した様子で恐る恐るダークスキュランの素肌に接触する。 「えっ?彼女は無反応だわ…無感情のビスクドールみたいね…彼女は本物のダークスキュランなの?」 ダークスキュランはアクアヴィーナスにジーッと凝視されても無反応であり無表情だったのである。 「今現在の彼女は口寄せの妖術で復活させた傀儡人形だからね♪本物のダークスキュランなら私が征伐しちゃったから大丈夫よ♪」 「えっ?征伐って…桜花姫が本物のダークスキュランを仕留めちゃったの!?」 「勿論よ♪」 「ダークスキュランを単独で仕留めちゃうなんて…貴女は何者なの?」 『桜花姫…貴女だったらブルークリスタルの魔力を使用しなくても其処等の超大国を征服出来そうね…』 アクアヴィーナスは桜花姫が事件の黒幕である深海底の魔女ダークスキュランを仕留めた事実に驚愕する。 「ダークスキュランに魔法を解除させたからあんたは勿論♪今頃はアクアユートピアの人魚達もダークスキュランの呪力から無事に解放されたでしょうね♪」 「アクアキュベレー母様も解放されたのね…」 すると背後の鉄扉が開放され…。金髪碧眼の人魚の女性がアクアヴィーナスに近寄ると力一杯密着したのである。 「アクアヴィーナス♪」 「えっ…アクアキュベレー母様!?無事だったのね…」 アクアヴィーナスは母親のアクアキュベレーとの再会に涙腺から涙が零れ落ちる。 「アクアキュベレー母様…私は…母様が深海底魔女のダークスキュランに食い殺されちゃったのかと…」 『現実なのよね?』 アクアヴィーナスは現実を実感出来ないのか全身がプルプルする。 「アクアキュベレー母様が無事で何よりだわ…」 「大丈夫よ…大丈夫だからね…アクアヴィーナス…」 「アクアキュベレー母様…」 アクアキュベレー自身も殺害される恐怖心によって落涙したものの無事に解放され…。感動の再会に二人は大喜びしたのである。 「私だけ逃げちゃって御免なさいね…」 アクアヴィーナスは恐る恐るアクアキュベレーに謝罪する。 「アクアキュベレー母様…私は母様を見殺して一人で国外に逃亡しちゃった…親不孝だよね…」 謝罪するアクアヴィーナスであるがアクアキュベレーは満面の笑顔で…。 「何が親不孝よ…気にしないで♪アクアヴィーナス♪無事に戻れただけでも結果オーライでしょう♪貴女が無事なのが何よりだから…」 「アクアキュベレー母様…」 アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。 「えっ?彼女は誰かしら?異国の女性みたいね…」 するとアクアキュベレーは桜花姫の存在に気付いたのである。 「アクアキュベレー母様…桜花姫に感謝してよね…彼女の協力が無ければ母様は今頃深海底魔女に食い殺されちゃったかも知れないのよ…」 「えっ…」 アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫を直視する。一方のアクアキュベレーは目前の女性が月影桜花姫である事実に驚愕したのである。 「ひょっとして貴女様がイーストユートピアの伝説の魔法使いとされる月影桜花姫様ですか!?」 「勿論♪私が誰よりも温厚篤実で最上級妖女であり…地上世界の女神様♪桜花姫…月影桜花姫よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「えっ…桜花姫…」 『人一倍短気で無慈悲の貴女が地上世界の女神様を自称するなんて…』 アクアヴィーナスは地上世界の女神様を自称する桜花姫に苦笑いしたのである。 「あんたがアクアヴィーナスの母様ね♪美人の女性だわ♪」 「私が美人なんて…桜花姫様は大袈裟ですわね♪」 するとアクアキュベレーは桜花姫に謝意する。 「大変感謝しますわ♪桜花姫様♪」 アクアヴィーナスも恐る恐る桜花姫に謝意したのである。 「桜花姫…私からも感謝するわね…」 アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。 「貴女の孤軍奮闘で私達は勿論!アクアユートピアの人魚達が無事に解放されたわ…私達にとって桜花姫…あんたは正真正銘本物の救世主…地上世界の女神様よ…」 桜花姫は落涙するアクアヴィーナスに困惑したのである。 「私が地上世界の女神様なんて…あんた達は大袈裟ね♪私にとって悪霊征伐なんて所詮道楽だし夜遊びと一緒なのよ♪私は今回の大事件で暇潰し出来たからね♪感謝したいのは私自身だから♪」 「桜花姫…」 「桜花姫様…」 一方の桜花姫は先程から無言のダークスキュランを凝視し始める。 「ダークスキュラン…あんたは今後アクアユートピアの守護神として再活動しなさい♪金輪際アクアユートピアを侵略するなんて悪巧みは厳禁だからね♪」 桜花姫はダークスキュランの魔力は非常に強力であり彼女をアクアユートピアの用心棒として利用出来ると思考したのである。 「承知したわ…月影桜花姫…」 ダークスキュランは無表情であるものの…。桜花姫の指示に承諾したのである。 「ダークスキュラン…肉体が真蛸では見苦しいし気の毒だからね♪」 ダークスキュランの下半身を気の毒に感じるのか変化の妖術を発動する。 「ダークスキュラン♪あんたは容姿端麗の人魚に変身しちゃいなさい♪」 桜花姫がダークスキュランに変化の妖術を発動した直後…。ダークスキュランは下半身の真蛸の肉体が銀鱗の大魚に変化したのである。 「えっ!?ダークスキュランが人魚に!?」 「彼女も魔法で人魚に変身出来るの!?」 人魚に変化したダークスキュランにアクアヴィーナスは勿論…。アクアキュベレーも驚愕したのである。 「桜花姫様の魔法かしら…」 ダークスキュランは素肌こそ悪魔的灰白色であるものの…。彼女は正真正銘小柄の人魚に変化したのである。 「ダークスキュラン♪アクアユートピアに戻りなさい♪」 「承知したわ…」 ダークスキュランはテレポート魔法を発動…。人魚王国アクアユートピアへと瞬間移動したのである。 「事件も無事に解決出来たし♪一件落着ね♪」 桜花姫は事件解決に一安心した直後…。 「えっ?」 桜花姫は突如として息苦しくなる。 「ぐっ!」 『息苦しいわね…疲労の影響かしら…』 アクアヴィーナスとアクアキュベレーは突如として息苦しくなった桜花姫にゾッとしたのである。 「えっ…桜花姫!?如何しちゃったのよ!?」 「大丈夫ですか!?桜花姫様!?」 「妖力の消耗かしら…突然息苦しくなったのよ…深海底に長居し続けると私は…」 桜花姫は妖力の消耗と水圧の影響で息苦しいのかアクアヴィーナスの問い掛けに小声で返答…。 「桜花姫…」 桜花姫は最早返答するだけでも辛苦の状態だったのである。 「ひょっとすると桜花姫は魔力の消耗で長時間の人魚の状態が維持出来なくなったのかも知れないわ…」 「アクアヴィーナス…早急に地上世界に戻らないと桜花姫様が溺死しちゃうわ!如何しましょう!?」 アクアキュベレーは冷や冷やする。 「私は即刻…桜花姫を地上世界に浮上させるわよ!」 「えっ?アクアヴィーナス!?」 「一か八かよ!桜花姫!」 アクアヴィーナスは衰弱化し始めた桜花姫を力一杯抱き抱えると海面上へと急行したのである。 『桜花姫…こんな場所で溺死しないでよ!あんたが死んじゃったら…私は承知しないからね!』 アクアヴィーナスは全身全霊の力泳によりとある無人島へと漂着する。
最終話
漂着 無人島に漂着してより数分後…。桜花姫の変化の妖術が解除され元通りの姿形へと戻ったのである。 「桜花姫!?大丈夫!?」 数秒後…。 「はぁ…はぁ…私は…」 桜花姫は力一杯深呼吸したのである。 「えっ?私は一体…此処って?」 「桜花姫…如何やら意識が戻ったみたいね…」 アクアヴィーナスは意識が戻った桜花姫の様子にホッとする。 「あんたは…アクアヴィーナス?えっ?」 桜花姫は真夜中の天空を直視したのである。 「星空だわ…」 地上世界であると認識する。 「私は地上世界に?何時の間にか戻っちゃったのかしら?」 「突然桜花姫が息苦しくなるからビクビクしちゃったわよ…もう少しで貴女…疲労困憊で窒息死しちゃうかと…」 「心配させちゃったわね…アクアヴィーナス♪御免あそばせ♪」 桜花姫は心配するアクアヴィーナスに笑顔で謝罪したのである。 「貴女が…桜花姫が無事で何よりだわ…」 彼女達は周辺を眺望するのだが…。視界一面が無人島である。遠方は闇夜の青海原であり陸地は何一つとして確認出来ない。 「アクアユートピアから随分遠方に移動しちゃったからね…」 「口寄せの妖術で私達諸共目的地に口寄せしましょう♪」 「えっ!?目的地にテレポーテーション出来るの!?」 「一か八かよ…」 桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動…。自分自身とアクアヴィーナスを桃源郷神国の西国の村里を目印に口寄せしたのである。 「ひょっとしてイーストユートピアの小山かしら?」 彼女達は一瞬で西国の精霊故山の頂上へと瞬間移動する。 「如何やら私達は無事に桃源郷神国に戻れたみたいね♪」 「私達は…一瞬で陸地にテレポーテーションしちゃったの!?」 「勿論よ♪アクアヴィーナス♪」 アクアヴィーナスは恐る恐る精霊故山の頂上から西国の村里を眺望したのである。 「あんたの祖国だったわね…」 「私とあんたが遭遇した記念すべき場所よ♪」 アクアヴィーナスは涙腺から涙が零れ落ちる。 「一日間の出来事なのに…長期間の長旅に感じられるわね…」 「私も極度の疲労感が蓄積したから…久方振りに精霊故山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら♪」 突如として桜花姫は着物を脱衣し始める。 「えっ!?桜花姫!?」 「何よ?アクアヴィーナス?」 アクアヴィーナスは人前で着物を脱衣し始めた桜花姫に赤面したのである。 「貴女は人前で何するのよ!?」 「何って…入浴するから脱衣しただけよ♪不都合かしら?」 「えっ!?桜花姫は人前なのに…全裸で平気なの!?」 アクアヴィーナスに問い掛けられた桜花姫であるが…。 「別に♪人前だからって何よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「折角だからね♪あんたも私と一緒に入浴しましょうよ♪女同士だから全裸でも平気でしょう♪」 「えっ…」 アクアヴィーナスはビクビクした様子で周囲を警戒するものの…。 『大丈夫そうね…相手は桜花姫だし…』 彼女は赤面した表情で恐る恐る衣服を脱衣したのである。 「折角だし…私も入浴しちゃおうかしら?」 衣服を脱衣するとアクアヴィーナスは警戒した様子で露天風呂へと入浴する。するとアクアヴィーナスは恐る恐る…。 「桜花姫…」 「何よ?アクアヴィーナス?」 「御免なさいね…桜花姫…」 アクアヴィーナスは小声で謝罪したのである。 「今回…桜花姫には何一つとして謝礼が出来なくて…」 桜花姫は謝罪するアクアヴィーナスに笑顔で即答する。 「別に謝礼なんて…気にしないの♪」 「結局私自身は足手纏いで…桜花姫に守護されてばかりだし…」 アクアヴィーナスは赤面した表情で…。 「アクアユートピアに平和が戻ったから…私からの恩返しに今度はショートケーキでも如何かなって…桜花姫は人一倍スイーツが大好きみたいだし…」 「えっ?私にショートケーキですって♪」 ショートケーキの一言に反応したのか桜花姫は大喜びしたのである。 「あんたのショートケーキは本当に美味しかったから…今度は是非ともショートケーキを食べさせてよ♪」 「勿論よ♪桜花姫♪約束するわ♪」 アクアヴィーナスは満面の笑顔で即答する。 完結
第弐部 特別編
第一話
女体地獄 小町娘の悪霊小椿童女が出現するより二週間前…。西国の山奥では真夜中に大勢の女性達の呻き声が響き渡るとの噂話が全国的に出回ったのである。 『悪霊征伐なんて東大寺の事件以来ね♪』 最上級妖女の月影桜花姫は久方振りの悪霊事件にワクワクする。 『噂話の内容では…大勢の女性達の呻き声だったかしら?』 呻き声の噂話が気になった桜花姫は真夜中の深夜帯…。大勢の女性達の呻き声が響き渡ったとされる問題の山奥へと移動したのである。 『一体何かしら?』 村里から移動してより一時間半後…。 『如何やら此処っぽいわね…』 桜花姫は目的地の山奥へと到達したのである。 『最近大勢の女性達が匪賊によって拷問されたのかしら?』 女性達の呻き声は大勢の匪賊達の仕業であると思考するのだが…。 『匪賊の仕業なら社会問題化するでしょうし…武士団だって無視出来ないわよね?』 今現在大勢の女性達が匪賊によって連行されたとされる情報は存在せず別の原因であると推測する。 『匪賊以外なら…やっぱり悪霊の仕業なのかしら?』 桜花姫は彼是と思考し続ける。彼是と思考し続けてより数十分後…。 「えっ?」 遠方の山中より大勢の呻き声が響き渡ったのである。 『何かしら?』 傾聴し続けると女性の声質であり桜花姫はハッとした表情で反応し始める。 『ひょっとすると噂話の呻き声かしら!?』 噂話の呻き声であると確信したのである。 『大勢の呻き声だわ…』 桜花姫は咄嗟に行動を開始する。 『呻き声の正体は…何かしら?』 大勢の女性達の呻き声が響き渡る場所へと直行し始め…。十数分後である。 「なっ!?」 桜花姫は目前の光景に驚愕する。暗闇の自然林に存在するのは全長三十三間規模の巨大移動物体なのだが…。 「えっ…」 巨大移動物体の表面を凝視し続けると数千体もの全裸の女体が融合化した状態だったのである。 『此奴は…無数の女体だわ…』 桜花姫は異様の光景に絶句する。 『此奴は女体の百鬼悪食餓鬼みたいだわ…』 悪食餓鬼の集合体である百鬼悪食餓鬼を連想したのである。女体の集合体はノソノソとした身動きで蠢動…。桜花姫に接近し始める。 『ひょっとして此奴の正体は…【女体海鼠】かしら?』 女体海鼠とは数千体もの女体が融合化した集合体の悪霊である。女体海鼠の正体としては戦乱時代に奴隷として扱われた女性達の無念が集合体として実体化したとされる。女体海鼠は全体的に海鼠みたいな形状であり女体海鼠と命名されたのである。女体海鼠は一部の村里では地獄女体とも呼称される。 「女性達の呻き声の正体は…女体海鼠…あんただったのね!」 すると女体海鼠の体表に存在する無数の女体は呻き声を発生させる。 「うわっ…」 『呻き声が気味悪いわね…やっぱり呻き声の正体は女体海鼠みたいね…』 女体海鼠の呻き声は非常に不吉であり桜花姫は気味悪くなる。 『止むを得ないわね…』 桜花姫は最大の十八番である天道天眼を発動する。天道天眼の発動により桜花姫の妖力が普段の状態よりも数百倍へと急上昇したのである。 『天道天眼の効果で私の妖力が数百倍に急上昇したわね♪』 桜花姫は満面の笑顔で女体海鼠を凝視…。 「早速あんたを成仏させるからね♪覚悟しなさいよ♪女体海鼠♪」 一方女体海鼠の無数の女体が桜花姫に注目し始める。すると全身の女体が口部を開口させたのである。 「えっ…」 『女体海鼠は一体何を?』 女体海鼠は女体の口部より高濃度の瘴気を放出し始め…。 『猛毒の瘴気だわ!』 女体海鼠の瘴気は非常に強力であり周辺の植物が一瞬で枯死したのである。桜花姫は即座に呼吸を停止させる。 『女体海鼠の瘴気は僅少でも吸収しちゃうと即死するわね…』 桜花姫は息苦しい様子であるが…。必死に我慢し続ける。 『正直…呼吸を我慢し続けるのは困難だわ…』 呼吸を我慢し続けるのが辛苦に感じられる。 『止むを得ないわね…こんな場合は…』 桜花姫は浄化の妖術を発動したのである。清涼の冷風が発生し始め…。女体海鼠の全身から発生した瘴気を浄化したのである。 「浄化は成功ね♪」 『女体海鼠の瘴気を浄化出来たわ♪』 桜花姫は瘴気の浄化に大喜びするものの…。今度は桜花姫の方向に位置する一部の女体が口部より高熱の火炎を放射したのである。 『今度は火炎攻撃!?』 即座に妖力の防壁を発動…。女体海鼠の火炎攻撃を無力化出来たのである。 『間一髪だったわ…一歩間違えれば私は今頃黒焦げだったでしょうね♪』 一安心した桜花姫であるが…。女体海鼠の全身の女体が高音の奇声を発生させる。 「なっ!?」 『今度は奇声攻撃かしら!?』 女体海鼠の奇声は非常に強力であり通常の人間であれば鼓膜が破壊される程度には強力である。 『女体海鼠の奇声…普通の人間なら気絶させられるわね…』 桜花姫は正気を維持出来るものの…。女体海鼠の奇声攻撃により身動き出来ない。 『身動き出来ないわ…如何しましょう?』 すると直後である。女体海鼠の一体の女体口部から衝撃波が発生…。 「きゃっ!」 桜花姫は女体海鼠の衝撃波により地面に横たわる。 「ぐっ…」 地面に横たわった衝撃により脊髄を損傷したのである。 『脊髄が損傷しちゃったのかしら?身動き出来ないわ…』 桜花姫は脊髄の損傷で身動き出来なくなる。対する女体海鼠はノソノソと地面に横たわった状態の桜花姫に急接近する。 「あんた達は…私を如何するのよ?」 桜花姫は恐る恐る女体海鼠に問い掛ける。すると女体海鼠の無数の女体が冷笑した表情で桜花姫を凝視する。女体の無数の手腕が桜花姫の肉体に接触し始め…。 『如何やら女体海鼠は…私を捕食したいみたいね…』 女体海鼠に捕食される寸前である。桜花姫は分身の妖術を発動すると女体海鼠に捕捉された桜花姫の肉体はポンッと消滅…。女体海鼠の無数の女体は突如として消滅した桜花姫にハッとした表情で周囲をキョロキョロさせる。すると女体海鼠の目前の地面より…。 「残念だったわね♪女体海鼠♪」 目前の地面から桜花姫が出現する。 「あんたが捕捉したのは私の分身体なのよね♪」 桜花姫は女体海鼠に挑発したのである。 「早速定番の♪」 桜花姫は十八番である変化の妖術を女体海鼠に発動する。 「女体海鼠♪あんたは私の大好きな桜餅に変化しなさい♪」 女体海鼠を標的に変化の妖術を発動した直後…。女体海鼠は全身からポンッと白煙が発生したのである。白煙が発生すると地面には小皿に配置された桜餅が確認出来る。 『変化の妖術は成功ね♪』 女体海鼠は桜花姫の変化の妖術により桜餅に変化させられたのである。 『桜餅♪頂戴するわね♪』 桜花姫は桜餅に変化した女体海鼠をパクッと一口…。捕食したのである。 「女体海鼠…」 『彼女の瘴気は厄介だったけど…仕留められたわね♪』 女体海鼠を捕食した影響からか山中では霊力が感じられない。 『女体海鼠を退治出来たし♪一先ずは安心ね♪』 桜花姫は村里へと戻ったのである。女体海鼠が仕留められて以降…。西国の山奥では大勢の女性達の呻き声は響き渡らなくなる。
第二話
女子会 女体の悪霊…。女体海鼠との死闘から五日後の出来事である。南国の村里は非常に平穏であり一人の少女が村道を移動する。 「はぁ…」 『今日も村里は長閑だね…』 一人の少女とは誰であろう山猫妖女の小猫姫…。小猫姫は神族の一人とされ別名では蛇神とも呼称される蛇体如夜叉の列記とした孫娘の一人である。人一倍甘えん坊の性格であり非常に人懐っこい妖女の彼女であるが…。小猫姫は最上級妖女とされ自身にとって姉貴分である月影桜花姫を憧憬する一人である。造物主の妖星巨木との大激闘から半年後…。小猫姫は姉貴分の桜花姫を意識したのか常日頃から悪霊の出現を希求し続ける。 「はぁ…」 『退屈だな…』 小猫姫は退屈凌ぎに南国の村里で散歩したのである。 『悪霊は…出現しないかな?私も桜花姫姉ちゃんみたいに極悪非道の悪霊とか悪人達を退治したいよ…』 すると村道の道中…。 「えっ?」 『女の人だ…』 村里の道端より白装束の小柄の女性と遭遇する。 『一体誰だろう?』 白装束の女性は黒髪の長髪であり表情は無表情であるものの…。彼女は非常に容姿端麗であり摩訶不思議の雰囲気から人間の女性とは無縁であると感じる。 『ひょっとして彼女の正体は妖女なのかな?』 すると白装束の女性は小猫姫と遭遇すると彼女を直視…。微笑み始める。 「あんた♪可愛らしい女の子だけど非常に異質的雰囲気ね♪ひょっとするとあんたの正体は人外の妖女かしら?」 「えっ!?」 『初対面なのに一目で私を妖女だって認識出来るなんて…彼女は一体何者なの?』 小猫姫は女性の洞察力に驚愕する。 「如何してあんたは初対面の私を妖女だって察知出来るの?あんたは一体何者なの?ひょっとしてあんたも…人外の妖女なの?」 小猫姫は恐る恐る女性に問い掛けると女性は笑顔で自身の名前を名乗る。 「私はね♪粉雪妖女の雪美姫よ♪」 「粉雪妖女の?雪美姫?」 『粉雪妖女の雪美姫って以前…』 小猫姫は雪美姫の名前に反応したのである。雪美姫は桜花姫に関連する人物であると思考する。 『雪美姫って…桜花姫姉ちゃんに退治された極悪非道の妖女の名前だったかな?ひょっとして彼女は桜花姫姉ちゃんに退治された雪美姫本人なのかな?』 小猫姫は雪美姫と名乗る女性が半年前の戦闘で桜花姫によって退治された粉雪妖女の雪美姫と同一人物か如何なのか恐る恐る問い掛ける。 「人違いだったら御免なさい…ひょっとして雪美姫姉ちゃんは以前…桜花姫姉ちゃんに退治されちゃった極悪非道の妖女なの?」 雪美姫は小猫姫に問い掛けられた直後である。 「えっ!?桜花姫ですって!?」 『如何して彼女の口先から桜花姫の名前が…』 桜花姫の名前の一言だけで雪美姫は一瞬動揺する。 「えっ…」 『雪美姫姉ちゃんの様子だとしたら…如何やら図星みたいだね…』 小猫姫は雪美姫の反応から桜花姫に退治された本人であると確信したのである。 『やっぱり彼女が桜花姫姉ちゃんに退治された粉雪妖女の雪美姫なのね…』 一方の雪美姫は動揺した様子であるが…。 「私は一度桜花姫に退治されてから改心したのよ…半年前みたいに誰かに八つ当たりしないから警戒しなくても大丈夫なのよ♪私が極悪非道なんて勘違いしないでね…」 雪美姫は苦笑いした様子で自身は改心したと断言したのである。 「雪美姫姉ちゃんは改心したのね♪」 すると今度は雪美姫が小猫姫に問い掛ける。 「あんたこそ一体何者なのよ?桜花姫を姉ちゃんなんて…ひょっとしてあんたは彼奴の親戚なのかしら?」 「私の名前は山猫妖女の小猫姫♪桜花姫姉ちゃんの妹分だよ♪」 小猫姫は満面の笑顔で自身の名前を名乗る。 「あんたは桜花姫の妹分なのね…」 『彼女は桜花姫とは正反対で純粋そうね…』 小猫姫の様子から人一倍純粋無垢であると感じる。 「雪美姫姉ちゃん♪折角だし私の家屋敷で一服しない?」 「えっ?」 雪美姫は一瞬困惑するものの…。 「折角だからね♪暇潰しにあんたの家屋敷で一服するわよ♪」 小猫姫は雪美姫の承諾に大喜びしたのである。 「雪美姫姉ちゃん♪早速道案内するね♪」 小猫姫と雪美姫は家屋敷へと移動し始める。二人が移動を開始してより数分後…。彼女達は蛇体如夜叉の家屋敷へと到達する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん♪戻ったよ♪」 「小猫姫♪戻ったのかい♪ん?」 『彼女は…』 蛇体如夜叉は玄関口にて佇立する雪美姫に注目したのである。 「誰かと思いきや…あんたは中堅の妖女みたいだね…」 「私は粉雪妖女の雪美姫よ…中堅って表現は不適切だけど…」 雪美姫は無表情で自身の名前を名乗る。 「あんたは粉雪妖女の雪美姫だって?」 すると蛇体如夜叉は恐る恐る…。 「あんたは半年前…大寒波の妖術で国全体を寒冷化させた極悪非道の粉雪妖女だね…あんたは最上級妖女の桜花姫ちゃんに退治されたらしいね…」 「ぐっ…」 蛇体如夜叉の発言は図星であり雪美姫は何も反論出来ずに沈黙し始める。 『私って…別の意味で有名みたいね…』 雪美姫にとって半年前の出来事は忘却したい黒歴史だったのである。 「本当…あんたは人騒がせな妖女だよ…金輪際夫婦間の苛立ちで誰かに八つ当たりしたら駄目だよ…雪美姫…」 「承知です…」 雪美姫の反省した様子に蛇体如夜叉は一安心する。 「折角だし…あんたも一休みしな♪雪美姫♪」 「勿論よ♪暇潰しには好都合だからね…」 「小猫姫よ♪折角の客人だからね♪客人の雪美姫に緑茶でも用意しな♪」 小猫姫は雪美姫に緑茶を用意したのである。 「緑茶だよ♪雪美姫姉ちゃん♪」 「感謝するわね♪小猫姫♪」 すると直後…。 「あんた達!邪魔するわよ!」 最上級妖女の桜花姫が家屋敷の居室へと乱入する。 「えっ!?あんたは桜花姫!?」 「桜花姫ちゃん!?」 「桜花姫姉ちゃん!?」 彼女達は突然の桜花姫の乱入に驚愕したのである。 「吃驚するじゃない!桜花姫!」 雪美姫は桜花姫に怒号し始める。 「何よ!?私に内緒であんた達だけで女子会なんて意地悪ね♪私も女子会に参加させなさい♪」 「小猫姫よ…折角だから桜花姫ちゃんにも緑茶を用意しな…」 蛇体如夜叉は小猫姫に緑茶の提供を指示したのである。 「了解♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 小猫姫は承諾する。 「桜花姫姉ちゃん♪緑茶だよ♪」 小猫姫は即座に桜花姫にも緑茶を用意したのである。 「感謝するわね♪小猫姫♪」 小猫姫に緑茶の茶碗を手渡された直後…。桜花姫は手渡された緑茶を数秒間で摂取したのである。 「桜花姫ちゃん…」 「あんたは…緑茶を一瞬で…」 「桜花姫姉ちゃん…飲み方が酒豪の親父さんみたいだよ…」 緑茶を一瞬で摂取した桜花姫に三人は苦笑いする。 「地上世界の女神様である私を酒豪の親父さんみたいって…小猫姫は失礼しちゃうわね…あんたを私の大好きな桜餅に変化させちゃおうかしら?」 「桜花姫姉ちゃん…桜餅って…」 小猫姫は一瞬戦慄…。身震いする。 「冗談よ♪冗談♪本気にしないでね♪小猫姫♪」 「はぁ…冗談か…正直吃驚しちゃったよ…桜花姫姉ちゃん…」 小猫姫は一安心したのである。 『桜花姫の冗談は冗談っぽくないのよね…』 雪美姫は内心冷や冷やする。 「桜花姫ちゃんは仕方ないね…」 蛇体如夜叉は桜花姫の冗談に苦笑いしたのである。すると直後…。 「ん?」 『一体何かしら?』 桜花姫は突如として不吉の気配を感じる。 「桜花姫?」 「桜花姫姉ちゃん?」 「不吉の気配を感じるのよ…悪霊かしら?」 「不吉の気配とは…如何やら村里の近辺で悪霊が出現したみたいだね…」 「えっ…悪霊が出現したの!?」 小猫姫が興味深そうな様子で悪霊の一言に反応する。雪美姫は恐る恐る…。 「悪霊って唐突に出現するのね…」 「雪美姫姉ちゃん♪悪霊は神出鬼没だからね♪唐突に出現するよ♪」 小猫姫は笑顔で雪美姫に説明する。 「如何やら今回も♪私の出番みたいね♪」 桜花姫は大喜びした様子で外出したのである。 「えっ!?桜花姫姉ちゃん!私も神出鬼没の悪霊を退治するよ!」 小猫姫も即座に桜花姫を追尾…。外出したのである。 「小猫姫も…」 『彼女は大丈夫かね?』 蛇体如夜叉は小猫姫を心配する。 「二人とも仕方ないわね…私も暇潰しに彼女達に援護するわ…」 雪美姫も二人の様子が気になるのか外出したのである。 「はぁ…」 『結局全員出掛けちゃったね…』 蛇体如夜叉は彼女達の活発さに苦笑いする。 「彼女達は大丈夫だろうかね…」 『小猫姫が一番心配だよ…』 蛇体如夜叉は小猫姫が無茶しないか正直心配だったのである。
第三話
濃霧 妖女の三人が外出してより数分後…。 『到着したわね…』 桜花姫は霊力の感じる場所へと到達したのである。霊力の感じる場所は殺風景の農村地帯であり人気らしい人気は何一つとして感じられない。 『一体何が出現するのかしら?』 桜花姫は悪霊の出現に警戒したのである。すると桜花姫の背後より…。 「桜花姫姉ちゃん!」 「桜花姫!」 「えっ…あんた達は…」 背後より小猫姫と雪美姫が近寄る。 「別に…今回も私一人で大丈夫なのに…あんた達は余程心配性なのね…」 桜花姫は内心呆れ果てる。 「桜花姫♪あんたばっかり悪霊退治なんて欲張り過ぎよ…」 「今回は私達にも手伝わせてよ♪桜花姫姉ちゃん♪」 小猫姫も雪美姫も悪霊征伐に参加したかったのである。 「あんた達ね…今回ばかりは仕方ないわね…」 桜花姫は内心不本意であるものの…。彼女達の意向を承諾したのである。 『霊力から判断して…今回も大群みたいだわ…』 周囲より無数の霊力を感じる。 「二人とも…今回の相手も大群よ…油断大敵だからね…」 「桜花姫姉ちゃんこそ♪油断大敵だよ♪」 「悪霊の大群か♪面白そうね♪今回は何が出現するのやら…」 小猫姫も雪美姫も悪霊の出現にワクワクする。突如として周囲の空間より高濃度の濃霧が発生したかと思いきや…。周囲から気味悪い呻き声が彼方此方に響き渡る。 『悪霊の呻き声かしら?大群みたいね…』 突然発生した濃霧と無数の呻き声に彼女達は警戒したのである。 「悪霊が出現したのかしら…」 「呻き声が気味悪いわね…桜花姫…」 「一体何が出現するのかな?桜花姫姉ちゃん?」 周辺の空間は濃霧の影響により視界が不良であるが…。 「えっ?人影かしら?」 濃霧より無数の人影が確認出来る。 「人影だよ…桜花姫姉ちゃん…相手は大群みたいだね…」 無数の人影は鈍足であるが…。無数の人影はふら付いた様子で彼女達に急接近したのである。 「如何やら霊力の正体みたいね…」 無数の人影の正体とは全身が腐敗した小柄の人型であり両目の眼球は噴出…。皮膚の腐敗によって全身が血塗れの悪霊である。 「此奴は悪食餓鬼ね…久方振りの再会だわ…」 「悪食餓鬼って…半年前の大事件で桜花姫姉ちゃんが神通力で浄化させたのに復活しちゃったの!?」 造物主の妖星巨木との戦闘以降は悪食餓鬼の大群は出現しなかったが…。今回の悪食餓鬼の大量出現により小猫姫は動揺する。 「小猫姫…悪霊は神出鬼没よ…悪食餓鬼は唐突に出現するからね…」 「何方にせよ…悪霊は仕留めないと厄介なのよね…桜花姫…」 「私は早速…」 桜花姫は妖力を蓄積させたのである。 「桜花姫姉ちゃんの両目が瑠璃色に…」 桜花姫は神性妖術の天道天眼を発動する。 「桜花姫の両目…天道天眼かしら?」 天道天眼を発動すると半透明だった両面の血紅色の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。天道天眼を発動した影響により桜花姫の妖力が普段の状態よりも数百倍へと増大化する。 『悪食餓鬼の大群が相手なら…小技で仕留められるわ…』 桜花姫は即座に火炎の妖術を発動…。 「あんた達♪成仏なさい♪」 突如として数体の悪食餓鬼の皮膚が火炎の妖術により燃焼し始める。彼等の全身が発火し始めてより数秒後…。地面には数体の黒焦げの焼死体が確認出来る。 「悪食餓鬼が一瞬で仕留められちゃったね…桜花姫姉ちゃんの妖術かな?」 「桜花姫だから当然でしょう…こんな雑魚なら私達だけでも事足りるわね♪」 「私だって頑張れるよ♪」 相手が悪食餓鬼の大群であり小猫姫と雪美姫は楽勝であると感じる。 「二人とも…相手が悪食餓鬼でも油断は出来ないわよ…」 小猫姫と雪美姫の方向にも無数の悪食餓鬼が殺到する。 「折角の機会だからね♪今回はあんた達も手伝いなさい♪」 桜花姫は二人にも手柄を提供したのである。 「私は早速♪はっ!」 小猫姫は変化の妖術を発動…。体高のみで等身大の人間をも上回る巨体の妖獣に変化したのである。 「小猫姫は巨体の化け猫に変化したのかしら?」 「化け猫なんて失礼しちゃうね!雪美姫姉ちゃん…」 小猫姫は雪美姫の発言に落胆する。 「私は伝説の妖獣に変化出来るの!」 「伝説の妖獣ですって?」 『最上級妖女の桜花姫よりは若干下回るけど…小猫姫の妖力も非常に強力ね…』 小猫姫は伝説の妖獣に変化すると妖力が普段よりも数十倍に急上昇…。妖力のみなら最上級妖女の桜花姫に拮抗する領域である。 「私は悪霊の大群を一掃しちゃうよ♪」 彼女は口先より妖力を蓄積し始め…。雷撃の球体を形作る。 「悪霊!成仏しろ!」 小猫姫は口先から雷撃の球体を発射…。彼女の前方より殺到する数十体もの悪食餓鬼を一瞬で一掃したのである。 「えっ!?小猫姫!?」 小猫姫の雷球の破壊力は絶大であり地面の射程圏内が焦土化する。小猫姫の妖力の強大さに雪美姫は驚愕したのである。 『彼女は…攻撃力だけなら桜花姫を上回るわね…』 小猫姫は完全に攻撃力に特化した妖女であり攻撃力のみなら桜花姫をも上回る。 「攻撃力は私以上ね♪小猫姫♪」 桜花姫は小猫姫の攻撃力を高評価する。 「攻撃力だけだけどね♪」 『私って♪攻撃力だけなら桜花姫姉ちゃん以上なのね♪』 小猫姫は姉貴分の桜花姫に高評価され…。内心大喜びしたのである。すると雪美姫が恐る恐る…。 「油断大敵よ…小猫姫…」 「えっ?」 濃霧から再度数十体もの悪食餓鬼が再度出現し始め…。彼女達に殺到したのである。 「悪食餓鬼は私が一掃したのに…」 「悪食餓鬼は地面から無限に出現するからね♪油断出来ないわよ♪」 「今度は私の出番みたいね…」 雪美姫は恐る恐る両目を瞑目させる。 「無数の悪食餓鬼…氷結なさい…」 雪美姫は即座に氷結の妖術を発動したのである。直後…。地面から無数に出現した数十体もの悪食餓鬼が雪美姫の発動した氷結の妖術により全身が氷結したのである。 「氷結の妖術…成功ね…」 氷結から数秒後…。氷結の妖術により身動き出来なくなった無数の悪食餓鬼の肉体が崩れ落ちたのである。 「雪美姫♪あんたでも悪食餓鬼程度なら仕留められるのね♪」 「はっ!?失礼しちゃうわね!桜花姫!」 雪美姫は笑顔で発言した桜花姫に睥睨し始める。 「私だって悪食餓鬼程度…何百体?何千体が相手でも仕留められるわよ!」 雪美姫は桜花姫に怒号したのである。 「御免♪御免♪冗談よ♪雪美姫♪」 彼女は満面の笑顔で雪美姫に謝罪する。 「桜花姫…私の実力を過小評価しないでよね…」 「雪美姫♪心配しなくてもあんたの実力も本物だから♪」 濃霧の遠方より数体の巨体の人影が鈍足で彼女達に接近したのである。 「桜花姫姉ちゃん?今度は…」 「此奴…先程の悪食餓鬼よりは大物っぽいわね♪」 『如何やら悪霊の集合体みたいだわ…』 出現した悪霊は悪食餓鬼の亜種とされる悪霊の集合体…。百鬼悪食餓鬼が五体も出現したのである。 「二人とも♪此奴は百鬼悪食餓鬼よ♪五体も出現するなんてね♪」 「えっ…此奴…気味悪いわね…」 「百鬼悪食餓鬼は全体的に肉団子みたいな体躯だね…」 百鬼悪食餓鬼は体表には無数の悪食餓鬼の頭部が確認出来…。雪美姫と小猫姫は百鬼悪食餓鬼の姿形を気味悪がる。 「初見では気味悪いかも知れないけれど♪私は平気よ♪」 「桜花姫姉ちゃんはこんな怪物が相手でも平気なの?」 「桜花姫は経験豊富よね…」 百鬼悪食餓鬼の出現頻度は数多く通常の悪食餓鬼と同様…。遭遇する可能性も高確率である。悪霊征伐の経験者である桜花姫も遭遇した当初は非常に気味悪かったものの…。数多くの百鬼悪食餓鬼との遭遇からか平然とした様子だったのである。 「早速♪」 桜花姫は変化の妖術を発動…。三体の百鬼悪食餓鬼を大好物の桜餅に変化させる。 「桜花姫姉ちゃんは百鬼悪食餓鬼を桜餅に変化させたのね♪」 小猫姫は口先から高熱の雷球を発射…。一体の百鬼悪食餓鬼を消滅させたのである。 「私だって…こんな悪霊!」 雪美姫は氷結の妖術を発動…。一体の百鬼悪食餓鬼を氷結させたのである。数秒間が経過…。 「あんたは成仏なさい…」 全身が氷結した百鬼悪食餓鬼は肉体が一瞬で崩れ落ちる。 「如何やら片付いたわね♪二人とも♪」 桜花姫一行が五体の百鬼悪食餓鬼を仕留めた直後…。無数の悪霊を仕留めた影響からか周囲の濃霧が霧消したのである。 「濃霧が…」 「悪霊の大群を仕留めた影響でしょうね♪」 「悪霊の大群を仕留められたし♪一安心だね♪桜花姫姉ちゃん♪」 無数の悪霊を退治出来桜花姫一行は安堵したものの…。 「えっ!?」 『今度は何かしら!?』 桜花姫は突如として不吉の気配を感じる。 「桜花姫姉ちゃん?如何しちゃったの?」 小猫姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「気配を感じるのよ…」 「気配?今度は何が出現したの?」 「ひょっとして今度も悪霊が出現したのかしら?」 小猫姫と雪美姫は悪霊の出現に警戒するのだが…。 「可笑しいよ…悪霊の霊力が感じられないけど…」 「本当だわ…霊力は感じられないわよ…本当に悪霊なの?」 悪霊が出現する場合は僅少であっても悪霊特有の霊力が感じられるのだが…。不自然にも今回は悪霊特有の霊力が何一つとして感じられない。 『恐らく此奴は…小面袋蜘蛛みたいに自身の霊力を器用に消失させられるのね…』 大抵の悪霊であれば霊力は感知出来るものの…。唯一の例外として器物の悪霊である小面袋蜘蛛は悪霊特有とされる霊力やら気配を感知出来ない。 「非常に厄介だわ…」 『霊力を察知出来ないのは小面袋蜘蛛以来ね…』 桜花姫の様子に雪美姫と小猫姫も正体不明の気配に警戒する。 「二人とも…油断しないでね…」 「勿論よ…」 「桜花姫姉ちゃんこそ♪油断大敵だよ♪」 すると直後である。 「きゃっ!」 「えっ!?何よ!?桜花姫!?」 「大丈夫!?桜花姫姉ちゃん!?」 雪美姫と小猫姫は突然の桜花姫の悲鳴に吃驚する。 「ぐっ!左足が…」 何時の間にか桜花姫の左足に小針が刺さったのである。 「桜花姫姉ちゃんの左足に小針が…」 「小針ですって?」 雪美姫が恐る恐る桜花姫の左足に接触…。 「此奴はひょっとして…毒針かしら?」 「えっ!?毒針だって!?」 雪美姫の毒針の一言に小猫姫が大騒ぎし始める。 「小猫姫…如何してあんたが大騒ぎするのよ?」 桜花姫は一人で大騒ぎし始めた小猫姫に苦笑いしたのである。 「毒針だとしても私は列記とした妖女なのよ♪大抵の毒素では非力の人間みたいに簡単には死なないわよ♪」 桜花姫は満面の笑顔で無理矢理に左足の毒針を引っこ抜いたのである。 「桜花姫は大胆不敵ね…毒針を無理矢理に引っこ抜くなんて…」 「桜花姫姉ちゃん…本当に大丈夫なのかな?」 小猫姫は桜花姫を心配する。 「私なら大丈夫よ♪小猫姫♪あんたは心配性ね…」 桜花姫は満面の笑顔で大丈夫であると断言したのである。 「ん?」 彼女達の背後より大蛇らしき移動物体が出現したかと思いきや…。大蛇らしき移動物体は神速の身動きで彼女達の前方へと移動する。 「此奴は…」 「肉体は大蛇みたいだけど…」 「上半身は人間の女体だわ…此奴は一体何者なの?」 彼女達の前方より出現した大蛇らしき移動物体とは上半身が巫女装束の女性…。下半身が大蛇の怪物である。 「桜花姫姉ちゃん!?此奴は一体何者なの!?此奴の正体は神出鬼没の悪霊なの?」 桜花姫は小猫姫の問い掛けに恐る恐る…。 「此奴は巫女の亡霊…上級悪霊の【毒蛇巫女】でしょうね…」 「上級悪霊の毒蛇巫女ですって!?」 「えっ!?毒蛇巫女は上級悪霊なの!?」 雪美姫と小猫姫は驚愕する。毒蛇巫女とは名前と同様に巫女の悪霊であり上級悪霊の一角である。毒蛇巫女は戦乱時代以前…。太古の大昔にとある儀式により人身御供として殺害された巫女の怨念が実体化した超自然的存在とされる。彼女は上半身こそ巫女装束の女性であるが…。下半身は大型の毒蛇であり異形の悪霊である。 「桜花姫姉ちゃん?此奴って悪霊なの?毒蛇巫女から霊力は感じられないよ…」 「本当だわ…毒蛇巫女からは霊力が感じられないわね…奇妙だわ…」 毒蛇巫女は器物の悪霊である小面袋蜘蛛同様に霊力が感じられない。 「如何やら毒蛇巫女は器物の悪霊…小面袋蜘蛛みたいに体内の霊力を器用に消失させられるみたいね…」 「桜花姫ならこんな悪霊…楽勝よね?」 雪美姫に問い掛けられた桜花姫であるが…。 「えっ…桜花姫?」 「桜花姫姉ちゃん?」 桜花姫は毒蛇巫女に畏怖したのか恐る恐る後退りする。 「此奴は…毒蛇巫女は相当危険かも知れないわ…」 「えっ!?危険なの!?此奴!?」 「本当に危険なの!?桜花姫姉ちゃん!?」 小猫姫と雪美姫は毒蛇巫女に畏怖する桜花姫の様子に不安がる。 『桜花姫姉ちゃんは毒蛇巫女を退治出来るのかな?』 『最上級妖女の桜花姫が畏怖するなんて…毒蛇巫女って悪霊は余程強力なのね…』 すると毒蛇巫女は彼女達に冷笑し始める。 「中央の妖女は本能的に私の危険性を察知出来たみたいね♪」 毒蛇巫女は高知能であり人語で喋ったのである。 「えっ!?」 『毒蛇巫女って悪霊なのに喋れるの!?』 三人は人間の口言葉で発言する毒蛇巫女に驚愕する。 「早速♪あんた達の身動きを封殺するわね♪」 毒蛇巫女は金縛りの効力で三人の身動きを封殺したのである。 「なっ!?」 『身動き出来ないわ!金縛りかしら!?』 彼女達は毒蛇巫女の霊能力で身動き出来なくなる。 「金縛りの効果よ♪あんた達は身動きしたくても身動き出来ないでしょう?」 毒蛇巫女は身動き出来なくなった彼女達に冷笑する。 「ぐっ!」 すると桜花姫は突如として全身の筋力が低下し始め…。グッタリとした様子で地面に横たわったのである。 『何かしら?全身の筋力が…』 桜花姫は全身の筋力低下により麻痺し始める。 「私の毒針の効果よ♪相手が人外の妖女でも猛毒の効果は抜群みたいね♪」 毒蛇巫女の体内で生成される猛毒の毒針は非常に強力だったのである。毒蛇巫女の毒針は常人の何十倍もの屈強の肉体である超自然的存在の妖女でさえも麻痺させられる。 「私の毒針は普通の人間なら数分間で毒死するでしょうね♪純血の妖女であれば二日間?一日が限度かしら♪」 毒蛇巫女の体内の毒液は猛毒であり通常の人間であれば数分間程度で毒死するとされ…。通常の瘴気では死なないとされる屈強の妖女でも一日か二日程度で毒死させられる。 「親玉っぽいあんたは妖女の血統みたいだけど…非力の人間との混血みたいだし半日間が限度かしら♪肉体的には貧弱ね…」 『半日間ですって?』 桜花姫は毒蛇巫女の半日間の一言に身震いしたのである。 『私は…半日間で死んじゃうのかしら?』 すると桜花姫は意識が遠退き始める。 『最上級妖女の桜花姫が毒針だけでこんなにも衰弱化するなんて…』 『毒蛇巫女の猛毒は予想以上に強力みたいだね…』 雪美姫と小猫姫は毒蛇巫女の強大さを実感したのである。 「親玉の彼女は人間の混血だから半日間で衰弱死するでしょうね♪」 毒蛇巫女は地面に横たわった状態の桜花姫に冷笑し始める。 『天下無敵の桜花姫が半日間で…』 『桜花姫姉ちゃん…』 雪美姫と小猫姫は戦闘不能の桜花姫に絶望したのである。すると毒蛇巫女は満面の笑顔で…。 「無論♪あんた達二人も私の毒針で毒死させるから安心なさい♪遅かれ早かれ…今日はあんた達の命日なのだから♪」 毒蛇巫女は雪美姫と小猫姫に命日を断言する。 「えっ!?」 『此奴…』 二人は毒蛇巫女に恐怖したのである。 『私達は…一体如何すれば…私達も毒蛇巫女に殺されるかも知れないわ…最強の桜花姫姉ちゃんがこんな状態だし…』 『最上級妖女の桜花姫がこんな瀕死の状態では…上級悪霊の毒蛇巫女なんて私達では無理でしょうね…』 彼女達が絶望した直後…。 「上級悪霊の毒蛇巫女よ…」 突如として小柄の老婆が毒蛇巫女の背後に出現したのである。 「其方!?一体何者だ!?其方は妖女とも…人間とも該当しない存在だな…」 毒蛇巫女は小柄の老婆に警戒し始める。すると小柄の老婆は笑顔で…。 「私は神族の一人…蛇神の蛇体如夜叉だよ♪」 雪美姫と小猫姫の背後より出現したのは誰であろう蛇神の蛇体如夜叉である。 『蛇体如夜叉婆ちゃんだ♪』 蛇体如夜叉の出現に小猫姫は大喜びする。 「神族!?蛇神の蛇体如夜叉だと!?」 毒蛇巫女は突如として出現した蛇体如夜叉に驚愕したのである。 「毒蛇巫女…古代文明時代に人身御供として惨殺された巫女の怨念よ…あんたを昇天させるよ…」 「神族の老婆風情が…私を昇天させるって?片腹痛いわ!」 蛇体如夜叉は毒蛇巫女に強制成仏の神術を発動…。 「なっ!?其方…一体私に何を!?」 「成仏しな…毒蛇巫女よ…」 すると毒蛇巫女の身体髪膚が無数の発光体に覆い包まれる。 「一体何が…私は?こんな神族の老婆に…」 毒蛇巫女は無数の発光体に覆い包まれてより数秒後…。蛇体如夜叉の発動した強制成仏の神術によって完全に消滅したのである。 「毒蛇巫女は私の強制成仏の神術で昇天しちゃったね♪」 毒蛇巫女を強制成仏させた影響からか桜花姫一行の金縛りの効力が解除される。 「はっ!?蛇体如夜叉婆ちゃん!?」 「はぁ…私達は…身動き出来るわね…」 小猫姫と雪美姫は金縛りが解除され一安心する。 「蛇体如夜叉婆ちゃんの神術で毒蛇巫女の金縛りが解除されたのね♪」 「あんたは蛇体如夜叉だっけ?感謝するわね♪」 雪美姫は蛇体如夜叉に一礼したのである。一方の桜花姫は毒蛇巫女の毒針の影響で衰弱化…。地面に横たわった状態である。 「蛇体如夜叉婆ちゃん!?桜花姫姉ちゃんが毒蛇巫女の猛毒で毒死しちゃうよ…」 桜花姫は毒蛇巫女の毒針によって瀕死の状態であり小猫姫は落涙し始める。 「小猫姫…心配しなくても桜花姫ちゃんなら大丈夫だよ♪」 蛇体如夜叉は桜花姫の背中に接触したかと思いきや…。 「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん?」 彼女の神力は非常に強力であり桜花姫の体内の毒気を完全に解毒させたのである。 「毒蛇巫女の毒素は完全に解毒したから桜花姫ちゃんは大丈夫だからね♪」 「はぁ…桜花姫姉ちゃんは大丈夫なのね…」 「桜花姫…彼女は冷や冷やさせるわね…」 桜花姫は無事であり小猫姫と雪美姫は一安心する。 「桜花姫ちゃんは命拾い出来たけれど油断は出来ないよ…桜花姫ちゃんは毒蛇巫女の毒針で相当体力を消耗した状態だからね…数日間は安静にしないと…」 すると小猫姫は恐る恐る…。 「桜花姫姉ちゃんが畏怖しちゃう上級悪霊の毒蛇巫女を強制成仏させちゃうなんてね♪やっぱり蛇体如夜叉婆ちゃんの神通力は千人力だね♪」 「私の神力が千人力なんて大袈裟だね…小猫姫は…」 「最上級妖女の桜花姫を畏怖させた毒蛇巫女を一撃で仕留められたのよ♪蛇体如夜叉の神通力は千人力よ♪」 小猫姫と雪美姫は蛇体如夜叉の神力を絶大であると再認識する。 「毒蛇巫女は上級悪霊の一体だからね…通常の妖女では最上級悪霊の毒蛇巫女は対処出来ないだろうよ…」 毒蛇巫女は上級に君臨する上級悪霊の一体である。上級に該当する上級悪霊の対処は通常の妖女は勿論…。一握りの最上級妖女でさえも上級の悪霊を対処するのは非常に困難とされる。 「今回ばかりは蛇体如夜叉婆ちゃんが参上しなかったら私達…今頃毒蛇巫女に殺されたかも知れないよ…感謝するね♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 一段落すると桜花姫一行は村里へと戻ったのである。
第四話
安静 悪霊の大群と上級悪霊とされる毒蛇巫女との死闘から四日後の真昼…。毒蛇巫女の毒針攻撃により身動き出来なくなった桜花姫は蛇体如夜叉の家屋敷で長時間休眠し続けたのである。 「ん?」 『此処は…』 突如として休眠中の桜花姫が恐る恐る目覚める。 「えっ…私は…一体何を?」 「蛇体如夜叉婆ちゃん!桜花姫姉ちゃんが目覚めたよ!」 小猫姫は目覚めた桜花姫に大喜びしたのである。 「桜花姫ちゃん♪如何やら目覚めたみたいだね♪あんたが元気そうで安心したよ♪」 蛇体如夜叉と小猫姫は桜花姫の復活に一安心する。 「えっ…目覚めたって…何が?私は今迄何を?」 桜花姫は寝起きした直後であり今迄の記憶が曖昧なのか何が何やら理解出来なかったのである。 「仕方ないね…桜花姫ちゃん…あんたは四日前にね…」 蛇体如夜叉は桜花姫に一連の出来事を一部始終説明する。 「えっ!?私!?毒蛇巫女との戦闘から四日間も熟睡しちゃったの!?」 桜花姫は四日間も熟睡し続けた事実に驚愕したのである。 「桜花姫ちゃんは毒蛇巫女の猛毒の影響で体力が相当消耗しちゃったからね…」 「私って…毒蛇巫女の毒針で瀕死の状態だったのよね…」 『最上級妖女の私が毒蛇巫女の毒針程度で瀕死なんて…』 桜花姫は自身の非力さに落胆する。 「蛇体如夜叉婆ちゃんが神力で毒蛇巫女の猛毒を解毒したから大丈夫だよ♪桜花姫姉ちゃん♪」 「今回も感謝するね♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪心配させちゃって御免なさいね♪」 桜花姫は蛇体如夜叉に感謝したのである。 「あんたは気にしないの♪桜花姫ちゃんに死なれちまったら極悪非道の悪霊が国全体に出回っちまって大変だからね♪」 すると直後…。 「桜花姫様!?大丈夫ですか!?」 僧侶の八正道が大慌ての様子で蛇体如夜叉の家屋敷に乱入する。 「えっ!?八正道様!?」 「八正道よ…騒然とするね…一体何事かね?」 「八正道様?如何しちゃったの?大丈夫かしら?」 一同は大慌ての八正道に困惑したのである。 「桜花姫様が悪霊の猛毒で瀕死の状態であると町民達の噂話を傾聴しまして…」 今回の出来事は国全体の噂話として彼方此方に出回る。 「桜花姫様!?体調は大丈夫なのですか!?」 桜花姫は八正道の必死の問い掛けに恐る恐る…。 「私なら…大丈夫よ…八正道様…心配しないで…」 『やっぱり八正道様は人一倍心配性だわ…』 桜花姫は苦笑いした様子で返答する。 「今現在の桜花姫様の様子なら大丈夫そうですね♪はぁ…一瞬ですが心配し過ぎて私自身の心臓が心停止しちゃうかと…」 八正道は桜花姫の元気そうな様子から一安心したのである。 「八正道様にも心配させちゃったわね♪御免なさいね♪」 「謝罪は不要ですよ♪桜花姫様♪桜花姫様が無事なのが何よりですからね♪」 「八正道様♪」 桜花姫は八正道に感謝する。 「桜花姫様♪折角ですし♪」 「えっ…私に桜餅を?」 八正道は桜花姫に大好きな桜餅を手渡ししたのである。 「感謝するわね♪八正道様♪」 桜花姫は手渡された桜餅を一口で平らげる。 「桜餅を一口で平らげちゃうなんて…桜花姫ちゃんらしいけど…」 『桜花姫ちゃんの食欲は…悪霊の悪食餓鬼以上かも知れないね…』 「桜花姫姉ちゃん…」 『失礼かも知れないけれど…桜花姫姉ちゃんは食いしん坊の怪物みたいだね…』 蛇体如夜叉と小猫姫は桜花姫の様子に苦笑いする。桜花姫は桜餅を頬張った影響からか消耗した体力と妖力が戻ったのである。 「私!元気が戻ったわ!やっぱり桜餅の効果は抜群ね!」 元気が戻った直後…。桜花姫は力一杯爆走し始める。 「えっ…桜花姫様は猪突猛進ですね…」 彼女は爆走した状態で自身の家屋敷へと戻ったのである。 「桜餅を頬張った影響なのかな?桜花姫姉ちゃんに元気が戻ったみたいだね…」 「桜餅の効果だろうかね?」 『恐らく桜花姫ちゃん特有の超常現象なのかも知れないけれど…疾走出来るだけの元気なら…彼女は大丈夫そうだね…』 一同は桜花姫の活発さに苦笑いする。
第五話
巨人 人魚王国アクアユートピアで大事件が発生した同時期の出来事である。時間帯は真夜中の深夜帯…。東国郊外での出来事である。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…私は一日中歩きっ放しで疲れちゃったよ…空腹だし…」 「小猫姫は疲れちゃったのかい?であれば思う存分に川辺の川魚でも食べちゃいな…私も一休みしたいし…」 山猫妖女の小猫姫と神族の蛇体如夜叉が川辺にて一休みする。 「早速♪川魚を♪」 小猫姫は川辺を眺望したのである。 「美味しそうな川魚が沢山♪」 小猫姫は大喜びした様子で川辺へと移動する直前…。 「えっ…」 無数の気配を感じる。 「何だろう?気配…」 小猫姫は周囲を警戒したのである。 「如何やら小猫姫も察知したみたいだね…異様の気配を…」 蛇体如夜叉も小猫姫と同様に異様の気配を察知する。暗闇の自然林は勿論…。周囲の地中より数十体もの悪食餓鬼が出現したのである。 「奴等は悪食餓鬼だね…大群とは…」 「悪食餓鬼の大群!?こんな場所に出現するなんて!」 『気配の正体は悪食餓鬼だったのね…悪霊なんて毒蛇巫女との戦闘以来だよ…』 小猫姫は悪食餓鬼の大量出現に毒蛇巫女との死闘を想起する。悪食餓鬼の大群は小猫姫と蛇体如夜叉に殺到したのである。 「極悪非道の悪霊!蛇体如夜叉婆ちゃんには手出しさせないよ!」 「小猫姫!?」 小猫姫は殺気立った様子で両手から雷撃の妖術を発動する。 「雷撃の妖術!はっ!」 小猫姫は殺到する悪食餓鬼の大群を雷撃の妖術で瞬殺…。無数の黒焦げの焼死体が周囲の地面に埋没したのである。 『伝説の妖獣に変化しなくても悪食餓鬼が相手なら大群でも瞬殺だね♪』 数秒間が経過すると無数の悪食餓鬼の焼死体が砂粒へと変化し始め…。彼等の肉体は一瞬で崩れ落ちたのである。 「悪霊は成仏したみたいだね♪一安心だよ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 一安心した小猫姫と蛇体如夜叉であるが…。 「えっ…今度は何だろう?」 「此奴は厄介だね…」 悪食餓鬼よりも強大なる霊力が接近するのを感じる。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?今度は何が出現するのかな?」 「ん!?黒雲!?」 すると目前より黒雲が発生したかと思いきや…。 「此奴は…」 無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼が出現する。 「此奴は百鬼悪食餓鬼だね…其処等の悪食餓鬼よりは強力だよ…」 「百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の親玉だったよね?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「百鬼悪食餓鬼が相手なら相応の妖力が必要不可欠だよ…小猫姫…」 「相手が強敵なら仕方ないね!」 小猫姫は全身の妖力を急上昇させると変化の妖術を発動…。全身から白煙が発生すると小猫姫は巨体の妖獣形態へと変化したのである。 「神出鬼没の悪霊…覚悟するのね!」 百鬼悪食餓鬼は鈍足の身動きで妖獣形態の小猫姫へと近寄る。全身の体表に存在する無数の悪食餓鬼の口先より高熱の火炎を放射したのである。高熱の火炎を放射された小猫姫であるが…。 「こんな程度の火炎攻撃…妖獣の私には通用しないよ!」 妖獣形態の小猫姫は肉体も頑丈であり無傷だったのである。 「今度は私が反撃するからね!」 小猫姫は猛スピードで百鬼悪食餓鬼の真正面から突進…。小猫姫の突進攻撃により百鬼悪食餓鬼はバラバラに粉砕されたのである。百鬼悪食餓鬼の肉体は非常に貧弱であり容易に砕け散る。砕け散った百鬼悪食餓鬼の肉片は数十体もの悪食餓鬼に分裂…。悪食餓鬼の大群は妖獣形態の小猫姫に殺到したのである。 「今度は…」 小猫姫は全身から衝撃波を発生…。衝撃波の発生により悪食餓鬼の大群は容易に粉砕されたのである。小猫姫の孤軍奮闘によって悪食餓鬼の大群は退治され小猫姫と蛇体如夜叉は一安心する。 「今度こそ一安心だよ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 安堵したのも束の間…。 「えっ…今度は…」 小猫姫は不吉の気配を感じる。 「悪食餓鬼は勿論…百鬼悪食餓鬼とは別物だね…」 「一体何が出現したのかね?今度の相手が強豪なのは確実そうだけど…」 蛇体如夜叉も不吉の気配に警戒する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?今度は何が出現するのかな?」 数秒間が経過した直後…。突如として二人の目前より黒雲が発生したのである。 「えっ!?黒雲!?」 「如何やら此奴が今回の本命みたいだね…」 すると黒雲の内部より背丈が十間にも相当する巨体の僧兵が出現…。僧兵の霊力は非常に強力であり小猫姫と蛇体如夜叉を身震いさせたのである。小猫姫は恐る恐る…。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?此奴は一体何者なの?」 問い掛けられた蛇体如夜叉は恐る恐る返答する。 「此奴は…【亡霊破戒僧】だね…」 「亡霊破戒僧って?」 亡霊破戒僧とは戦乱時代に戦死したとされる僧兵達の無念の集合体であると認識され…。戦死者達の無念の集合体とされる骸骨荒武者と類似する。亡霊破戒僧は背丈十八メートルにも相当する規格外の巨体は勿論…。顔面中央には閉眼した状態の縦長の単眼が特徴的である。亡霊破戒僧の装備品として等身大の人間が五人分にも相当する巨大携帯式大砲が確認出来る。特定の地方だと亡霊破戒僧の名称は単純に巨人僧兵やら単眼僧侶とも呼称される。 「小猫姫…此奴は上級悪霊の一体だからね…油断は出来ないよ…」 「亡霊破戒僧は上級悪霊なのね…」 すると亡霊破戒僧は小猫姫を標的に携帯式の大砲で砲撃したのである。小猫姫は咄嗟に亡霊破戒僧の砲撃を間一髪回避する。 「こんな砲撃!私には通用しないよ!」 小猫姫は断言したのである。 「小猫姫!亡霊破戒僧の武器を破壊しな!」 蛇体如夜叉は小猫姫に大砲の破壊を指示する。 「亡霊破戒僧の武器だね!蛇体如夜叉婆ちゃん!」 小猫姫は口先より得意の高熱の雷球を発射したのである。高熱の雷球は亡霊破戒僧の携帯式大砲に直撃…。携帯用の大砲は破壊されたのである。 「亡霊破戒僧の武器を破壊出来たよ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 小猫姫と蛇体如夜叉は大喜びする。 「小猫姫♪亡霊破戒僧を無力化出来たね♪」 最早装備品の武器を破壊され…。亡霊破戒僧は無力化した状態だったのである。 「今度こそ亡霊破戒僧を退治するよ!」 小猫姫が攻撃する直前…。突如として亡霊破戒僧の閉眼し続ける縦長の単眼が開眼し始めたのである。 「えっ?」 「ん?」 開眼し始めた亡霊破戒僧に二人は動作が一瞬停止する。亡霊破戒僧の動向に蛇体如夜叉は危惧したのである。 『此奴は…奥の手か?』 「小猫姫!此奴の動向に注意しな!」 小猫姫は蛇体如夜叉の警告に反応する。 「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 亡霊破戒僧の縦長の単眼がピカッと発光したかと思いきや…。開眼した単眼の瞳孔中心部より高熱の眼光が射出されたのである。亡霊破戒僧の高熱の眼光は小猫姫に直撃…。 「きゃっ!」 小猫姫は吹っ飛ばされ地面に横たわる。小猫姫は妖獣形態であったが…。大ダメージの影響からか元通りの姿形に戻ったのである。 「小猫姫!?大丈夫かい!?」 蛇体如夜叉は地面に横たわった状態の小猫姫に近寄る。 「ぐっ…蛇体如夜叉婆ちゃん…私…」 小猫姫は先程の大ダメージにより大半の妖力を消耗する。 「やっぱり亡霊破戒僧は奥の手を…」 『小猫姫の変化の妖術を一撃で解除させるなんて…亡霊破戒僧…此奴が上級の悪霊なのは確実だね…』 小猫姫と蛇体如夜叉は亡霊破戒僧の強大さを実感したのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?如何するの?」 「亡霊破戒僧は非常に強力だからね…一先ずは逃げないと…」 逃亡する直前…。突如として亡霊破戒僧の頭部が氷結したのである。 「えっ!?亡霊破戒僧の頭部が…」 「氷結?突然何が?如何して亡霊破戒僧の頭部が氷結したのかね?」 突然の超常現象に二人は愕然とする。すると二人の背後より…。 「あんた達♪逃げなくても大丈夫よ♪」 「えっ…」 「あんたは…一体誰だい?」 二人の背後には扇子を所持した水色の煌びやかな着物姿の女性が佇立する。 「貴女は…花魁かな?」 「あんたからは妖女特有の妖力を感じるけれど…あんたは何者かね?」 蛇体如夜叉は恐る恐る花魁の女性に問い掛ける。蛇体如夜叉の問い掛けに花魁の女性は笑顔で…。 「私は粉雪妖女…雪美姫なのよ♪」 花魁は自身を粉雪妖女の雪美姫と名乗る。 「えっ!?雪美姫姉ちゃんは花魁だったの!?」 「雪美姫よ…あんたは花魁だったのかね…」 花魁の正体が雪美姫である事実に小猫姫と蛇体如夜叉は驚愕する。 「暇潰しよ♪暇潰し♪今後は花魁として活動するのよ♪」 「随分と一変したね…雪美姫よ…あんたは一瞬別人かと…」 「私も吃驚しちゃったよ…雪美姫姉ちゃんが花魁だったなんて…」 雪美姫は亡霊破戒僧を直視したのである。 「亡霊破戒僧は随分と巨体だわ…此奴が今回出現した悪霊みたいね…こんなにも規格外の悪霊は弁天島の海難姫君以来ね…」 雪美姫は半年前に発生した弁天島での事件を想起する。 「亡霊破戒僧の頭部を氷結させたのは雪美姫姉ちゃんなの?」 「勿論私よ♪」 雪美姫は小猫姫に問い掛けられると満面の笑顔で即答したのである。 「毎回不寝番の桜花姫ばかりに活躍させないからね♪私だって列記とした妖女の一人なのよ♪私も彼奴みたいに活躍したいわよ♪」 小猫姫と蛇体如夜叉は桜花姫の名前に苦笑いし始める。 「兎にも角にも…亡霊破戒僧は小猫姫♪あんたが仕留めなさい♪」 「えっ?雪美姫姉ちゃん?」 「あんたも姉貴分の桜花姫みたいに神出鬼没の悪霊を退治したいのでしょう?折角の機会よ♪今回はあんたが大物を仕留めなさい♪」 「雪美姫姉ちゃん♪」 雪美姫の親切心に小猫姫は大喜びする。小猫姫は残存した妖力を最大活用…。再度変化の妖術で伝説の妖獣に変化したのである。 「今度こそ亡霊破戒僧を仕留めるよ!」 小猫姫は口先より妖力を凝縮…。高熱の雷球を形成させたのである。 「死滅しろ!亡霊破戒僧!」 小猫姫は口先から高熱の雷球を発射する。発射された高熱の雷球は亡霊破戒僧の頭部に直撃…。亡霊破戒僧の頭部は一瞬で破壊され亡霊破戒僧は絶命したのである。一方の小猫姫は妖力が空っぽの状態であり地面に横たわる。 「はぁ…はぁ…」 「小猫姫…あんたは精一杯頑張ったね…亡霊破戒僧は仕留められたよ…」 蛇体如夜叉は小猫姫に近寄ると疲労状態の彼女の腹部に接触する。すると小猫姫の消耗した妖力が蓄積され回復したのである。 「如何やら一件落着ね♪私は東国の中心街で夜遊びしましょう♪」 雪美姫は東国の中心街へと移動する。 「小猫姫よ…私達も戻ろうかね…」 蛇体如夜叉が問い掛けると小猫姫は笑顔で返答したのである。 「戻ろう♪戻ろう♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪私は腹ペコだよ♪」 「小猫姫は精一杯頑張ったからね…御馳走を用意しないとね♪」 「御馳走だって♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 小猫姫は大喜びする。
第六話
三眼 深海底の魔女…。ダークスキュランと配下の深海底アンデッドによるアクアユートピア侵略大事件から二週間後の出来事である。同年十一月下旬の真夜中…。近頃の出来事である。北国の村里では真夜中の深夜帯に高身長の女性が一人で徘徊中との噂話が出回る。高身長の女性と遭遇した人間は彼女に対する恐怖心で全身が膠着化…。身動き出来なくなったとの内容である。高身長の女性の正体が気になった桜花姫は真夜中の深夜帯…。 『噂話の女性は高身長みたいだけど…一体何者なのかしら?』 北国の村里へと移動したのである。 『北国の村里に到達したわね…』 時間帯は真夜中であり村里を出歩く人間は誰一人として確認出来ない。悪霊特有の霊力は何一つとして感じられず…。妖女特有の妖力も感じられなかったのである。 『周辺は物静かだわ…』 村里は全体的に物静かであり山中の川音と風音が響き渡る。 『ひょっとすると嵐の前の静けさかしら?気味悪いわね…』 数秒間が経過した直後…。 「えっ…」 『何かしら?』 突如として不吉の気配を感じる。 『気配だわ…気味悪いわね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認するのだが…。 「えっ?」 『何も…』 背後には何も存在しなかったのである。 『誤認識かしら?』 探索を再開する寸前…。 「えっ!?」 彼女の前方には高身長の女性が佇立する。女性は煌びやかな青色の着物姿が特徴的なのだが…。 『ひょっとして彼女は噂話の…』 彼女の前額部には第三の眼目が存在したのである。僅少であるが彼女からは悪霊特有の霊力が感じられる。 『霊力だわ…やっぱり彼女は神出鬼没の悪霊ね…』 すると前方の女性は無表情で桜花姫を凝視し続けるのだが…。 「あんたは私の三眼を直視しても…膠着しないなんてね♪」 彼女は冷笑した表情で発言する。一方の桜花姫は恐る恐る…。 「ひょっとしてあんたは…【三眼姉女房】ね…」 三眼姉女房とは戦乱時代に両目の眼球を引っこ抜かれた少女の亡霊とされる。外見は高身長の女性であり前額部の三眼が特徴的である。三眼姉女房は霊力が非常に強力であり彼女の第三の三眼を直視した場合…。極度の恐怖心により卒倒するとされる。彼女の三眼を直視した人間は三日後には衰弱死する。 『如何やら村人達が膠着した原因は此奴の仕業みたいね…』 桜花姫は村人達が目覚めず…。膠着し続けるのは彼女の霊能力が原因であると確信したのである。すると三眼姉女房は満面の笑顔で…。 「普通の人間なら卒倒しちゃうのに…あんたは私を直視しても卒倒しないわね♪ひょっとするとあんたは人外の妖女かしら?」 三眼姉女房は桜花姫が人外の妖女であると確信する。三眼姉女房の三眼の効力は非力の人間には有効であるが…。常人よりも屈強の妖女には無効である。すると桜花姫は満面の笑顔で名乗り始める。 「私はね♪妖女は妖女でも♪最上級妖女の月影桜花姫なのよ♪私はあんたの眼力程度で卒倒しないから安心してね♪」 「あんたが卒倒しないのであれば仕方ないわね…」 三眼姉女房は両目を瞑目させる。 「私の霊力で卒倒しないあんたは…」 前額部の三眼の瞳孔が赤色にピカッと発光したのである。 『彼女の第三の瞳孔が赤色に?三眼姉女房は一体何を?』 三眼が赤色に発光した直後…。三眼の瞳孔から高熱の光線が照射されたのである。 「えっ…」 桜花姫は三眼姉女房の光線により胸部を貫通させられ…。 「がっ!」 吐血したのである。桜花姫は吐血した直後に地面に横たわる。三眼姉女房は地面に横たわった状態の桜花姫に近寄る。 『彼女は即死したかしら?』 三眼姉女房が桜花姫の皮膚に接触した直後…。 「ん?彼女は…」 地面に横たわった状態の桜花姫の肉体から白煙が発生したのである。同時に桜花姫の肉体が一瞬で消滅する。 『彼女の肉体は分身体なのね…』 三眼姉女房は周囲に警戒したのである。 『小癪だわ…彼女の本体は?』 すると三眼姉女房の背後より…。 「残念でした♪三眼姉女房♪」 三眼姉女房の背後には無傷の桜花姫が近寄る。 「あんたは月影桜花姫…死になさい!」 三眼姉女房は再度三眼の光線をピカッと射出するのだが…。 「残念だったわね♪三眼姉女房♪」 桜花姫は妖力の防壁により三眼姉女房の光線を無力化したのである。 「私にはあんたの攻撃なんて二度も通用しないわよ♪」 すると桜花姫は満面の笑顔で…。 「三眼姉女房♪あんたは覚悟するのね♪」 桜花姫は天道天眼を発動すると普段よりも妖力が数十倍に急上昇したのである。 「えっ…」 『彼女…両目の瞳孔が瑠璃色に発光してから…先程よりも妖力が急上昇したわ…』 三眼姉女房は桜花姫に警戒する。 「如何かしら?三眼姉女房♪」 桜花姫は満面の笑顔で三眼姉女房に挑発したのである。 「此奴…」 三眼姉女房は桜花姫の態度に腹立たしくなる。 「であれば私も奥の手よ…」 「奥の手ですって?」 『三眼姉女房は一体何を?』 桜花姫は警戒する。 「覚悟するのね!」 三眼姉女房は前額部の三眼をピカッと橙色に発光させたのである。 「此奴は奥の手よ♪私の瞳孔を直視すれば人外の妖女でも卒倒するでしょうね…」 三眼姉女房は勝利を確信するのだが…。 「あんたの霊能力♪私以外の其処等の妖女だったら有効的だったでしょうね♪」 桜花姫は平気だったのである。 「なっ!?あんたは…如何して身動き出来るのよ!?」 三眼姉女房は平気そうな桜花姫に動揺し始める。 「天道天眼を発動した状態では…金縛りやら幻術系統は無力化出来るのよ♪三眼姉女房の効力も私には通用しないのよ♪」 「天道天眼ですって?」 天道天眼はあらゆる妖術を発動出来るのは当然であるが…。金縛りやら幻術系統の特殊能力さえも無力化出来る。 「何しろ私は列記とした最上級妖女なのよ♪」 桜花姫は十八番の変化の妖術を発動…。 「三眼姉女房♪折角だからね♪あんたは美味しそうな林檎の飴玉に変化しなさい♪」 すると三眼姉女房は変化の妖術により林檎の飴玉に変化する。 『林檎の飴玉♪頂戴するわね♪』 桜花姫は林檎の飴玉に変化した三眼姉女房を捕食したのである。 『やっぱり神出鬼没の悪霊だとしても♪林檎の飴玉も美味だわ♪』 桜花姫は林檎の飴玉に大満足…。即座に西国の村里へと戻ったのである。三眼姉女房が仕留められた同時刻…。三眼姉女房の呪力で全身が膠着化した村人達は彼女の呪縛から無事解放されたのである。
第七話
殺人鬼 三眼姉女房との戦闘から三日後の真夜中…。東国の中心街にて正体不明の殺人鬼が出没するとの通り魔事件が三件も発生したのである。目撃者達の証言としては事件現場では十代前後の少女が確認され…。彼女が歩行するとカラカラッと作り物らしき物音が響き渡るとの内容だったのである。連続殺人事件は小椿童女の悪霊事件以来であり度重なる殺人事件に町民達は戦慄…。武士団の邏卒も夜番が出来なくなる事態に発展したのである。前回の小椿童女の一件から犯人は人外であるとの噂話が各地に出回る。当然として不寝番の桜花姫も殺人鬼の情報は熟知したのである。町民達から殺人鬼の情報源を入手した桜花姫は早速行動を開始…。東国の中心街へと移動したのである。 「今度は東国中心街で殺人鬼ね…」 『東国の中心街なんて…小椿童女の事件以来ね…』 桜花姫は小椿童女による斬首事件を想起する。 『今回の事件では何が出現するのかしら?』 西国の村里から移動してより三時間後…。 『東国の中心街だわ…』 桜花姫は東国の中心街へと到達したのである。 『人気は無さそうね…真夜中だし当然かしら?』 時間帯は真夜中の深夜帯であり中心街を出歩く町民は勿論…。夜番の邏卒も誰一人として確認出来ない。殺人鬼の噂話が出回った影響からか誰しもが真夜中の時間帯は出歩かなかったのである。 『無人なのは好都合だけど♪』 桜花姫は気軽の気分であり早速調査を開始する。 『殺人鬼は出現するかしら?』 桜花姫は一時間程度中心街全域を探索するのだが…。 『殺人鬼らしき人物は確認出来ないわね…』 殺人鬼らしき人物は発見出来なかったのである。 『今回も簡単には出現しないわね…』 「村人達の噂話では殺人鬼は十代前後の少女で…作り物みたいな物音だったわね…悪霊の一種なのかしら?」 今回の標的も悪霊であると予測するのだが…。悪霊特有の霊力が感じられない。 『悪霊特有の霊力が感じられないわ…ひょっとすると今回は小面袋蜘蛛みたいな器物の悪霊とか?』 器物の悪霊小面袋蜘蛛を連想した直後である。 「えっ…」 『何かしら?』 背後よりカラカラッと作り物らしき物音が響き渡る。 『作り物みたいな物音だわ…一体何が?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。 「如何やら物音の正体はあんたみたいね…」 背後には自身よりも一回り小柄の少女が佇立する。小柄の少女は煌びやかな赤色の着物姿であるものの…。彼女の表情は無表情であり全身の素肌の質感は非常に無機的だったのである。 「あんたは…姿形は可愛らしい外見だけれども…」 『作り物の人形みたいね…』 人形みたいな小柄の少女は只管無表情で桜花姫を凝視し続けるのだが…。 「ワタシハ…クグツ…ニンギョウダ…」 小柄の少女は片言の人語で自身が傀儡人形であると発言する。 『此奴はやっぱり傀儡人形なのね…片言だけど人語で喋れるみたいだし…』 すると直後…。無表情だった少女の顔面が不吉の鬼面の形相へと変形したのである。ギロッと桜花姫を睥睨し始める。 「なっ!?」 一方の桜花姫は少女の表情の変化に驚愕したのである。 「オマエハ…ジャマモノ…コロス…ゼッタイニコロス…」 小柄の少女は無機質の傀儡人形であるものの…。彼女の無機質の肉体からは僅少の霊力が感じられる。 『霊力だわ…此奴はひょっとして【傀儡処女】かしら?』 傀儡処女とは機械類の悪霊として知られる。正体としては通り魔によって殺害された少女の怨念が機械式の傀儡人形に憑霊…。誕生した機械式の悪霊である。傀儡処女は別名としては殺戮人形やら無感の殺人鬼とも呼称される。 「如何やら殺人鬼の正体は傀儡処女…あんたみたいね…」 すると傀儡処女は口部を開口させた直後…。 「オマエヲ…ヤキコロス…シネ…」 傀儡処女は口先から高熱の火炎を放射する。 「なっ!?火炎!?」 傀儡処女の火炎攻撃は非常に強力であるものの…。霊力による超常現象ではなく単なる物理的攻撃だったのである。 『止むを得ないわね!』 桜花姫は咄嗟に妖力の防壁を発動…。 「はぁ…」 間一髪傀儡処女の火炎放射を無力化したのである。 『危機一髪だったわ…』 傀儡処女の火炎攻撃を無力化出来…。桜花姫はホッとする。 「コンドコソ…オマエヲコロス…カクゴシロ…」 傀儡処女は両腕の表面をパカッと開放させたのである。両腕内部から内蔵型の機械式刀剣が解放され…。彼女の両腕が機械式の刀剣に変形したのである。 『傀儡処女の両腕が刀剣に変形したわね…』 傀儡処女は神速の身動きで桜花姫に急接近…。 「えっ!?」 桜花姫は傀儡処女の神速の身動きに驚愕する。 『此奴は…身動きだけなら随一だわ…』 傀儡処女の物理的速度は随一であると評価したのである。傀儡処女が高スピードで桜花姫に急接近した直後…。 「オマエヲキリコロス…シネ!」 傀儡処女は桜花姫に斬撃したのである。 「えっ…」 一瞬の出来事により桜花姫は何が発生したのか理解出来なかったが…。 『腹部から…出血だわ…』 自身の腹部を直視すると腹部から鮮血がドロドロと流れ出るのを理解する。 『私は…』 傀儡処女に斬撃された直後…。桜花姫の上半身がボトッと地面に落下し始める。桜花姫は傀儡処女の斬撃により上半身と下半身が両断されたのである。 『今日が…私の命日なんて…』 桜花姫は腹部を両断された影響により意識が消失する。一方の傀儡処女は即死状態の桜花姫を確認したのである。 「ジャマモノハ…シンダノカ?」 傀儡処女は両断された状態の桜花姫の皮膚に接触する。 「ウゴキハナイナ…タダノシカバネノヨウダ…」 桜花姫の即死を確信したのである。 「ジャマモノハ…ハイジョシタ…コンドハ…」 傀儡処女はカラカラッと歩き始める。傀儡処女が歩き始めた直後…。突如として両断された桜花姫の遺体から白煙が発生し始めるとポンッと消滅したのである。 「ン?アイツノ…シカバネハ?ドコダ?」 傀儡処女は周辺をキョロキョロし始める。 「分身の妖術♪成功ね♪」 突如として傀儡処女の目前より無傷の桜花姫が出現したのである。 「オマエハ…イキテイタノカ?」 「当然でしょう♪相手を油断させないと♪」 桜花姫は傀儡処女の問い掛けに満面の笑顔で返答する。 「デハコンドコソ…オマエヲキリコロス…カクゴシロ…」 傀儡処女は先程と同様に両腕を刀剣に変形…。身構える。 「傀儡処女♪今度は私が反撃するわよ♪」 すると桜花姫は傀儡処女に十八番の変化の妖術を発動したのである。 「所詮機械式の傀儡人形が最上級妖女の私に挑戦するなんて無謀なのよ♪あんたは美味しそうな桜餅に変化しなさい♪」 傀儡処女は変化の妖術により小皿に配置された桜餅へと変化…。 「変化の妖術も成功ね♪」 桜花姫は桜餅に変化した傀儡処女を捕食したのである。 「やっぱり桜餅は美味だわ♪」 傀儡処女を捕食してより数分後…。桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。傀儡処女による事件後…。悪霊関連の夜間の通り魔事件は発生しなくなる。
第八話
吸血鬼 傀儡人形の悪霊…。傀儡処女との死闘から三日後の出来事である。近頃東国の歓楽街に位置する宿屋では吸血鬼が出現するとの噂話が東国全体に出回る。宿屋の吸血鬼の噂話が出回ってより二日後の真昼…。桜花姫は暇潰しに八正道の寺院に訪問する。 「八正道様♪」 「桜花姫様ですか♪本日は如何されましたか?」 「暇潰しよ♪暇潰し♪」 「今回も暇潰しですか?」 すると八正道は笑顔で…。 「桜花姫様♪三日前は中心街に出没したとされる悪霊の傀儡処女を退治されたみたいですね♪見事ですよ♪」 八正道は桜花姫の傀儡処女の征伐に大喜びしたのである。 「別に♪私にとって悪霊征伐は娯楽同然だし♪」 「ですが桜花姫様にとって悪霊征伐は娯楽だとしても…桜花姫様の孤軍奮闘で私達は安心して熟睡出来るのも事実なのですからね♪」 「八正道様は大袈裟ね…」 「折角訪問されたのですし…桜花姫様の大好きな桜餅でも食べられますか?」 「えっ!?桜餅ですって!?」 桜花姫は桜餅に大喜びしたのである。 「勿論よ♪食べさせて♪桜餅♪」 「承知しました♪桜花姫様♪早速応接間に案内しますね…」 八正道は桜花姫を応接間へと案内する。 「えっ…随分と異国風だわ…八正道様は応接間の室内を改装したのかしら?」 応接間の室内は全面的に洋風へと改装された状態であり異世界に感じられる。 「勿論ですとも♪応接間を洋室に全面改装したのですよ♪異国の異文化も最高ですね♪桜花姫様♪」 「面白いけれど…応接間だけ異世界みたいな雰囲気だわ…」 桜花姫は返答に困惑し始め…。苦笑いしたのである。桜花姫は恐る恐る洋式風のソファーベッドに着席する。八正道は満面の笑顔で…。 「将来的には自室も洋室に改装させたいですな♪」 八正道は人一倍異国の異文化が大好きであり少しでも異国の雰囲気を吟味したかったのである。 「えっ…頑張ってね…八正道様…」 桜花姫は反応に再度困惑…。 『やっぱり八正道様は存在感もだけど…趣味も摩訶不思議ね…』 八正道の個性的趣味に苦笑いしたのである。 「兎にも角にも…桜花姫様に桜餅を用意しなくては…」 八正道は一時的に退室する。 『本当…八正道様は余程の物好きだわ…』 桜花姫は周囲全体をキョロキョロしたのである。 『八正道様は面白いけれど…相当に異国の異文化が大好きなのね…』 桜花姫は応接間でリラックスしたいのだが…。 『アクアユートピアのアクアヴィーナスの家屋敷もだけど…』 彼女は緊張したのかソワソワしたのである。 『異国の家屋敷に順応するには時間が必要だわ…』 緊張し始めた数秒後…。 「桜花姫様♪」 八正道が応接間へと戻ったのである。 「八正道様…」 「準備出来ました♪念願の桜餅ですよ♪」 八正道は桜花姫に桜餅を提供する。 「桜餅だわ♪感謝するわね♪八正道様♪」 桜花姫は大喜びした様子で桜餅をパクパクと平らげる。 「桜花姫様?相談なのですが…」 「えっ?相談って何かしら?八正道様?」 八正道は深刻そうな表情で恐る恐る…。 「数週間前の出来事でしょうか…」 八正道は近頃の出来事を桜花姫に口述し始める。 「近頃…歓楽街の宿屋での出来事らしいのですがね…」 近頃の出来事である。大都市部である東国中心街の隣町には大勢の町民達が娯楽を吟味出来る歓楽街が存在する。東国の歓楽街は昼間の時間帯は勿論…。真夜中の深夜帯では町民達の夜遊びの場所であり大勢の町民達が行き来する場所としては持って来いである。こんな歓楽街の中心地にとある人気の宿屋が存在する。 「歓楽街の宿やって…大人気の?」 「勿論です…本題なのですが…」 歓楽街の宿屋は各地の旅人達にとって極楽浄土の場所であり大勢の客人に愛好されたのである。こんなにも町民達から大人気の宿屋であるが…。近頃歓楽街の宿屋に一泊した旅人が宿屋に一泊して以降神隠しに遭遇するとの行方不明事件が七件も連続的に発生したのである。 「歓楽街の宿屋で神隠しが七件も発生したのね…」 「人気の宿屋で神隠しが発生するなんて不自然ですし不吉ですよね…行方不明者達が無事なのか気になりますし…一説では西洋の悪霊…吸血鬼の仕業とか?」 「不自然ね…」 『人気の宿屋で神隠しの事件なんて面白そうだわ♪吸血鬼の存在も気になるし♪』 宿屋の神隠しに興味深くなったのか桜花姫は満面の笑顔で…。 「如何やら調査が必要みたいね♪私が宿屋の神隠しの正体を判明させるわ♪吸血鬼の存在も明確化出来るし♪」 『吸血鬼関連の神隠しの事件なんて面白そうね♪』 桜花姫は事件発生にワクワクし始める。 「桜花姫様なら大喜びで調査されると予期しましたよ♪是非とも桜花姫様には宿屋の調査を依頼しますね…」 「私は今夜…問題の宿屋に一泊するわね♪」 「事件の解決を期待しますよ…」 「勿論よ♪八正道様♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。
第九話
宿屋 同日の夕方である。桜花姫は観光気分で歓楽街の宿屋へと到達…。宿屋の看板の文字を確認する。 『如何やら此処が問題の宿屋みたいね…』 桜花姫は神隠し事件の調査を目的に神隠しが発生したとされる歓楽街の宿屋に一泊したのである。 「一見すると普通の宿屋だわ…」 『宿屋の内部も特段問題無さそうだけど…』 宿屋は全体的に純和風の楼閣であるが…。宿屋の各室内には機械式の歯車やら昇降機が設置され近代的設備が無数に確認出来る。 「設備は随分と近代的なのね♪」 『面白そうな設備だわ♪』 珍妙の機械式装置が多数確認出来…。歓楽街の宿屋が旅人達にとって人気の理由も納得である。一通り宿屋の見物終了後…。桜花姫は一泊用の応接間へと戻ったのである。 『結局…宿屋では悪霊特有の霊力らしい霊力は感じられなかったわね…』 桜花姫は今回の神隠しの事件が悪霊の仕業であると予想するのだが…。 『如何してこんな宿屋で神隠しが発生するのかしら?悪霊特有の霊力が感じられないのが不吉ね…』 宿屋では悪霊特有とされる霊力らしい霊力は何一つとして感じられない。 「恐らく神隠しは悪霊の仕業でしょうけど…非常に不自然なのよね…」 『ひょっとすると今回宿屋に出現した悪霊は小面袋蜘蛛やら毒蛇巫女みたいに自身の霊力を雲隠れさせられるのかしら?』 桜花姫は神隠しの正体を彼是と思考したのである。すると直後…。 「えっ?何かしら?」 宿屋の従業員が恐る恐る応接間の板戸をノックする。 「御客様…失礼します…本日の食事を用意しました…」 宿屋の従業員は夕食を提供したのである。 「夕飯かしら♪美味しそうね♪」 宿屋の食事は非常に豪華であり高額そうな寿司料理は勿論…。高級そうな炭火の鶏肉が提供されたのである。 「御客様…失礼しました…」 従業員は恐る恐る退室する。 「こんなにも豪華なんて…歓楽街の宿屋は贅沢三昧ね♪」 『無事に神隠しの事件が解決出来たら蛇体如夜叉婆ちゃんや小猫姫にも勧奨しちゃおうかしら♪折角だからね♪』 桜花姫は食事をペロリと平らげる。 「御馳走様♪」 『美味だったわ♪』 桜花姫は満足したのかゴロリと畳表へと寝転び始める。 「はぁ…」 『眠たくなったわ…』 満腹なのか突然眠気を感じる。 「折角だし…」 『一眠りしちゃおうかしら♪』 桜花姫は室内の中央で熟睡したのである。熟睡してより数十分後…。 「えっ…」 『私は…長時間熟睡しちゃったのかしら?』 熟睡から目覚めた桜花姫であるが…。 『入浴したくなったわ…』 途端に入浴したくなる。 『折角の宿屋だし♪定番の温泉にでも入浴しちゃおうかしら♪』 桜花姫はルンルンの気分で更衣室へと移動したのである。 『温泉♪温泉♪』 着物を脱衣し始め…。桜花姫は全裸の状態で女湯へと突入する。女湯には数人の女性が入浴中だったのである。 「温泉♪温泉♪極楽浄土♪極楽浄土♪」 周囲の女性達は子供みたいに大はしゃぎし始めた桜花姫にドン引きする。 「えっ…彼女は変人かしら?」 「彼女は子供みたいだわ…一体何者なの?」 周囲の女性達にドン引きされた桜花姫であるが…。彼女は周囲が気にならず只管全裸の状態で浴場へと驀進したのである。 「やっぱり温泉は最高ね♪」 すると桜花姫は洗浄中の女性に満面の笑顔で…。 「あんたの素肌は純白だわ♪雛人形みたいな素肌ね♪」 「なっ!?誰が雛人形ですって!?」 女性は桜花姫の発言に苛立ったのである。 「失礼しちゃうわね!」 「御免あそばせ♪」 桜花姫はヘラヘラした様子で女性の背中に接触する。 「きゃっ!突然何するのよ!?助平!」 桜花姫は入浴中の女性に怒号されたのである。 「女同士だし♪大丈夫だって♪気にしないの♪気にしないの♪一休み♪一休み♪」 女性に怒号された桜花姫であるものの…。彼女は只管ヘラヘラした様子で浴槽へと入浴したのである。 「極楽浄土♪極楽浄土♪」 『温泉は本当に地上世界の極楽浄土だわ♪最高ね♪』 桜花姫は入浴出来大満足する。入浴終了後…。 『再度宿屋を探索しますかね…』 桜花姫は再度宿屋全体を一回りする。 「はぁ…」 『やっぱり宿屋では霊力らしい霊力は何一つとして感じられないわね…』 悪霊特有の霊力が感じられず…。本当に神隠しが神出鬼没の悪霊の仕業なのか疑問視し始める。 『ひょっとして今回の事件は…人間の仕業なのかしら?』 再度彼是と思考したのである。 『ひょっとすると宿屋の従業員達が意図的に客人を誘拐したとか?』 可能性としては否定出来ないものの…。宿屋の従業員達が何を目的に七人もの客人を誘拐するのかは不明瞭だったのである。 『如何やら再調査が必要みたいね…』 桜花姫は自身の応接間に戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 突如としてゾッとしたのである。 『彼女は…何者かしら?』 橙色の着物姿の女性が無表情でジロジロと桜花姫を凝視し続ける。 『気味悪いわね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る女性に問い掛ける。 「あんたは…何よ?私に用事かしら?」 彼女の雰囲気は異質的であり普通の人間とは無縁であると感じる。 『彼女は…一体何者なの?雰囲気が異質的だわ…人外っぽいわね…』 彼女が人外なのは確実であり一目瞭然であるが…。 『彼女の肉体からは悪霊特有の霊力が感じられないわ…』 女性からは悪霊特有の霊力が感じられない。 『彼女は悪霊とは無縁の存在なのかしら?』 女性は警戒し続ける桜花姫に不吉の笑顔で…。 「貴女は…私を視認出来るのね♪」 「はっ!?視認って…あんたは一体何者よ!?」 桜花姫は女性の突発的発言に驚愕したのである。 『彼女の姿形は…私以外の人間には視認出来ないのかしら?』 桜花姫は睥睨した様子で彼女を凝視する。 「私はね♪」 女性が名前を名乗る直前…。宿屋の従業員が何気無い様子で通行すると彼女の姿形がパッと消失したのである。 「えっ!?」 『彼女の姿形が一瞬で消失したわ…彼女は一体何者だったのかしら?』 桜花姫は恐る恐る通行中の従業員を観察する。 『従業員には彼女の姿形が認識出来なかったのかしら?』 桜花姫は自身の応接間へと戻ったのである。 「先程の正体不明の少女…結局何者だったのかしら?」 『ひょっとすると彼女は今回の神隠しの事件と関係しそうね…』 先程の少女が今回の神隠し事件と関連すると予測する。 『私は一度…一休みしましょう…』 時間帯は消灯時間であり桜花姫は熟睡したのである。
最終話
吸血姫 桜花姫が客室で熟睡してより二時間後…。 「えっ…」 時間帯は真夜中の深夜二時半であるが通路より無数の悲鳴が響き渡る。 「何事なの?誰かの悲鳴だわ…」 『通路では一体何が発生したのかしら!?』 桜花姫は通路から響き渡る無数の悲鳴により目覚めたのである。 「如何やら一大事みたいね…」 『通路から無数の霊力を感じるわ…』 突如として宿屋全体に悪霊特有の無数の霊力が充満し始める。 『やっぱり今回の神隠し事件…神出鬼没の悪霊が関係したみたいね…』 今回の神隠し事件が悪霊関連であると確信したのである。 『如何やら最上級妖女としての私の出番が到来したみたいね♪』 桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動…。妖力が普段の状態から数百倍にも増大化したのである。 『準備は万全ね…』 桜花姫は恐る恐る警戒した様子で客室用通路へと移動する。 『行動開始よ!』 客室用通路には彼方此方に鮮血やら肉片が確認出来…。逃走中の客人の背後には数十体もの悪霊が確認出来る。 「奴等は悪食餓鬼ね…神出鬼没だわ…」 『如何してこんな場所に悪食餓鬼の大群が出現したのかしら?』 悪食餓鬼の大量出現に疑問視するも…。 『悪霊が出現した要因は後回しよ…』 桜花姫は彼等に対する反撃を開始する。 「あんた達♪桜餅に変化しなさい♪」 桜花姫が変化の妖術を発動したのである。すると客人に襲撃中の無数の悪食餓鬼が小皿に配置された桜餅に変化…。無力化されたのである。 『やっぱり楽勝ね♪』 すると逃走中の客人が恐る恐る桜花姫に近寄る。 「貴女様はひょっとして…西国の月影桜花姫様では?」 「私は最上級妖女の月影桜花姫よ♪」 彼等は桜花姫に一礼したのである。 「感謝します…桜花姫様の妖術で私達は命拾い出来ました…」 「こんな宿屋に不寝番の桜花姫様が参上されるなんて…」 一方の桜花姫は逃走中の客人に宿屋からの脱出を指示する。 「今現在宿屋は悪霊の巣窟だからね…こんな場所で死にたくなかったらあんた達は宿屋から脱出しなさい…」 「承知しました…桜花姫様…」 彼等は即座に宿屋から脱出したのである。 『再度…悪霊を退治しますかね♪』 すると数十体もの悪食餓鬼が客室用の通路に出現し始め…。彼等は殺気立った様子で桜花姫に殺到したのである。 「毎度…毎度…あんた達は命知らずね♪」 桜花姫は呆れ果てた表情で悪食餓鬼の大群を変化の妖術で瞬殺する。客室用の通路には無数の小皿と桜餅がポツンと配置された状態だったのである。 「悪食餓鬼の大群は片付いたわね…」 『悪食餓鬼は一掃出来たけど…違和感が…』 宿屋では悪食餓鬼以外の霊力を感じるのだが…。通常の霊力とは異質的であり精気も感じられる。 『神出鬼没の悪霊だけど…生命力も感じられるわ…』 「違和感の正体を確認しましょう…」 桜花姫は不吉の霊力の感じる場所へと移動したのである。不吉の霊力の感じられる場所とは宿屋の窓口であり数人の従業員達が床面に横たわった状態で確認出来る。 『宿屋の従業員達だわ…彼等は大丈夫かしら?』 桜花姫は恐る恐る従業員達に近寄る。 『従業員達は気絶した状態みたいね…』 彼等の状態を確認すると全員気絶した状態であり皮膚は土気色だったのである。 『彼等は悪霊に体内の血液を吸収されちゃったのかしら?』 すると背後より異質の気配を感じる。 「誰なの?」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。 「誰かと思いきや…」 彼女の背後には先程遭遇した正体不明の少女が佇立…。彼女は無表情で桜花姫を凝視したのである。 「あんたは先程遭遇した…」 『彼女の正体は恐らく…』 一方正体不明の少女はニコッと冷笑したかと思いきや…。 「如何やら貴女の様子から判断して♪私の正体を察知出来たみたいね…」 すると直後である。少女の黒髪の長髪が白銀の銀髪に変化し始め…。全身の皮膚も死没者を連想させる灰白色に変化したのである。服装も平安貴族の女性を連想させる和装に変化し始める。 「えっ…」 『悪霊特有の霊力!?やっぱり此奴の正体は人外の悪霊だったのね…彼女も小面袋蜘蛛やら毒蛇巫女みたいに体内の霊力を最小限に遮断出来るのね…』 突如として彼女の肉体から悪霊特有の霊力が感じられるのだが…。 『此奴の霊力…恐らくだけど地獄朧車は勿論…毒蛇巫女以上だわ…』 少女の霊力は上級悪霊とされる地獄朧車やら毒蛇巫女をも上回る破格の霊力である。今迄出現した悪霊では彼女は最強の分類に君臨する。 「あんたの正体は…最上級悪霊の【吸血貴婦人】ね…」 吸血貴婦人とは戦乱時代以前の古代文明時代に存在したとされる悪霊である。吸血貴婦人の正体はとある儀式により人身御供として利用され…。惨殺された少女の怨念が悪霊へと実体化した超自然的存在とされる。西洋の異国では別名として吸血鬼やら吸血妖婦とも呼称され…。吸血貴婦人の存在は桃源郷神国以外の異国でも同様の事例が多数報告されたのである。 『吸血貴婦人…別名吸血姫…西洋の異国でも多数出現したって噂話の…最強の悪霊がこんな宿屋に出現するなんてね…』 吸血貴婦人は一握りとされる最上級悪霊であり今現在彼女の霊力を上回る悪霊は存在しない。 『吸血貴婦人…対峙するだけでも気味悪いわね…』 吸血貴婦人の霊力は非常に強力であり桜花姫は彼女と対峙するだけでも極度の嘔気が感じられ…。気味悪くなる。 『普通の妖女なら此奴と遭遇しただけで卒倒するでしょうね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。 「宿屋に無数の悪食餓鬼を発生させた張本人は…あんたの仕業なのかしら?」 「亡者達を発生させたのは私だけど♪何かしら?不都合でも?」 吸血貴婦人は意外にも率直に返答したのである。 『彼女…悪霊だけど意外と率直なのね…』 率直に返答する吸血貴婦人に驚愕する。桜花姫は再度吸血貴婦人に問い掛ける。 「最後の質問だけど…宿屋で七人の客人が行方不明なのだけど…ひょっとして客人の神隠しもあんたの仕業なのかしら?」 「私の仕業だから何よ?折角の機会だし…あんたの鮮血も吸収しちゃおうかしら♪あんたの血液は其処等の人間よりも美味しそうだからね♪」 桜花姫は吸血貴婦人の発言に警戒…。恐る恐る後退りする。 『吸血貴婦人…神隠しはやっぱり此奴の仕業だったのね…』 「如何やら吸血貴婦人には手加減なんて無用みたいね…」 桜花姫は吸血貴婦人に変化の妖術を発動する直前である。 「妖術は駆使させないわよ…妖女の小娘♪」 吸血貴婦人は自身の霊能力により桜花姫の肉体を切断…。 「えっ…」 桜花姫の両腕と頭部がポロッと落下したのである。 『如何して両腕が…』 桜花姫は突然の両腕の切断に愕然とする。 「ぐっ…」 桜花姫は出血多量によりバタッと床面に横たわる。切断された両腕と頭首からは大量の鮮血がドロドロと流れ出る。 『如何やら彼女は失血死したみたいね…』 「所詮妖女なんて他愛無いわね♪」 床面は桜花姫の鮮血により赤黒く染色したのである。 『所詮人外の妖女でも♪小娘風情が私を仕留めるなんて無謀なのよね♪』 吸血貴婦人は実質上級悪霊とされる地獄朧車やら毒蛇巫女をも上回る一握りの最上級悪霊…。通常の妖女では最上級悪霊の吸血貴婦人を仕留めるのは自殺行為であり一握りの最上級妖女でも吸血貴婦人を仕留めるのは困難とされる。 『早速彼女の美味しそうな血液を…』 「頂戴するわね♪」 吸血貴婦人は惨殺した桜花姫の遺体に近寄るのだが…。 「えっ?」 突如として切断された桜花姫の遺体から白煙が発生したのである。 『白煙かしら?』 全身から白煙が発生してより数秒後…。 『彼女の肉体が消滅したわ…』 桜花姫の遺体はポンッと完膚なきまでに消滅したのである。 『ひょっとして彼女は…分身の妖術を発動したのかしら?』 吸血貴婦人は背後を警戒し始める。 『彼女は…雲隠れの妖術でも駆使したのかしら?』 桜花姫は雲隠れの妖術により姿形を透明化させたのである。 『彼女の本体は?』 吸血貴婦人は桜花姫の気配を察知したのか自身の背後より彼女が雲隠れしたのを逸早く察知する。 「妖女の小娘…私に子供騙しの雲隠れの妖術なんて通用しないわよ…」 吸血貴婦人は桜花姫に金縛りを発動…。背後で雲隠れし続ける桜花姫の身動きを封殺したのである。 「残念だったわね♪妖女の小娘♪」 吸血貴婦人は金縛りで身動き出来なくなった桜花姫に冷笑する。 「ぐっ!」 『やっぱり吸血貴婦人には通用しないわね…』 一方身動き出来なくなった桜花姫は雲隠れの妖術による肉体の透明化を維持出来ず…。姿形が表面化したのである。 「所詮あんた程度の浅知恵なんて私には通用しないのよ♪」 吸血貴婦人は身動き出来なくなった桜花姫に近寄る。 「今度こそあんたの血液を頂戴するわね…妖女の小娘♪」 桜花姫の血液を吸収する寸前…。 「残念だったわね♪吸血貴婦人♪」 桜花姫は満面の笑顔で発言する。 「私に血液を吸収されるのに何が可笑しいのよ?あんたは私を苛立たせるわね…」 冷静だった吸血貴婦人であるが…。ヘラヘラし続ける桜花姫に苛立ったのである。 「今度も♪分身体なのよね♪」 桜花姫の肉体がポンッと消滅する。 「彼女の肉体が消滅したわ…」 『寸前で分身の妖術を駆使したのね…小癪だわ…』 今度も吸血貴婦人の背後より桜花姫の本体が出現したのである。 「今度こそ♪吸血貴婦人は私の大好きな桜餅に変化しなさい♪」 桜花姫は今度こそ吸血貴婦人に変化の妖術を発動するのだが…。 「きゃっ!」 反対に術者である桜花姫自身が小皿に配置された桜餅に変化したのである。 「残念だったわね♪妖女の小娘♪悪因悪果かしら?あんたは私に妖術を発動したのを後悔するのね…」 吸血貴婦人は自身の強大なる霊能力により相手が自身に発動させたあらゆる妖術を無条件に反射出来る。反射の霊能力は吸血貴婦人特有の最大の特異能力である。当然として相手の術者が発動させた妖術は発動した相手の術者に問答無用に発動され…。あらゆる妖術を無条件に無力化出来る。 「私は反射の霊能力が駆使出来るの…私にはあんた程度の子供騙しみたいな妖術なんて通用しないのよ…残念だったわね♪」 吸血貴婦人が地獄朧車やら毒蛇巫女をも上回る最強の悪霊と呼称されるのは実質的に反射の霊能力が最大の理由とされる。 「折角美味しそうな血液だったのに…彼女の鮮血を吸収出来ないのは非常に残念だったわ…」 吸血貴婦人は床面の小皿に近寄る。 「ん?」 『一体何かしら?和菓子?』 吸血貴婦人は小皿の中央に配置された桜餅をパクッと頬張る。 『和菓子も意外と美味ね♪』 吸血貴婦人は満足したのか宿屋から脱出する。 『今度は中心街の人間達の血液を吸収しちゃおうかしら…』 彼女は行動を開始する直前…。 「ん?」 吸血貴婦人は突如として身動き出来なくなる。 「えっ…」 すると数秒後…。 「一体何が?はっ?」 吸血貴婦人の体内から白煙が発生したのである。ポンッと白煙の中心部より桜花姫が出現する。 「はぁ…はぁ…」 『今回ばかりは危機一髪だったわ…』 自身の発動した変化の妖術で桜餅に変化した桜花姫であるが…。吸血貴婦人に捕食された彼女は吸血貴婦人の体内で融合化の妖術を発動したのである。 『一か八かの大博打だったけれども…融合化の妖術は成功したみたいね…』 融合化の妖術は自身の肉体に密着した他者の肉体を吸収する妖術…。体内であろうと相手の肉体に接触出来れば常時発動出来る。桜花姫は滅多に駆使しない妖術であるが…。吸血貴婦人に捕食された桜花姫は彼女の体内で融合化の妖術を発動したのである。今現在吸血貴婦人は桜花姫の肉体の一部として消化される。 「吸血貴婦人が無力化した影響かしら?宿屋の霊力も浄化されたわね…」 吸血貴婦人を仕留めた影響からか宿屋の不吉の気配が消失したのである。 「吸血貴婦人は久方振りの強敵だったけど♪無事事件は解決ね♪」 吸血貴婦人を仕留めてより数分後…。 『神隠しの事件は解決出来たし♪私は戻ろうかしら♪』 桜花姫は西国の家屋敷へと無事戻ったのである。吸血貴婦人による悪霊事件が発生した翌日の早朝…。東国の武士団が早急に事件現場である宿屋を徹底的に再調査したのである。東国武士団が再調査した結果…。宿屋の地下壕より七人もの旅人達が衰弱化した状態で発見されたのである。宿屋の従業員達と七人もの旅人達は吸血貴婦人に体内の血液を吸血されたものの…。早急の治療によって旅人達全員が無事だったのである。悪霊事件が発覚したものの…。一週間後には営業が再開されたのである。宿屋の悪霊事件が解決してより十日後の真昼…。桜花姫は再度八正道の寺院へと訪問したのである。 「桜花姫様♪非常に見事でしたね♪宿屋での行方不明事件が無事に解決出来たので一安心ですよ♪桜花姫様が参上されなければ更なる被害の拡大化は確実だったでしょうし…」 「今回の相手は本当に強敵だったわよ…私でも仕留めるのに一苦労だったわ…」 「ですが桜花姫様…宿屋の被害者達が全員無事だったみたいなので一安心ですよ…桜花姫様には感謝しても感謝し切れませんね…」 すると桜花姫は満面の笑顔で…。 「今回の悪霊事件も案外面白かったわよ♪何よりも宿屋では入浴も食事も最高だったし♪折角だから八正道様も宿屋に一泊しちゃえば?」 「私も宿屋に一泊したいですね♪」 「八正道様も今度宿屋に一泊したら♪女性とも混浴も出来るわよ♪」 「なっ!?混浴ですと!?」 途端に八正道の表情が赤面する。 「僧侶の私が女性と混浴なんて…非常に破廉恥ですな…桜花姫様は…私は…混浴なんて…大嫌いですからね…」 八正道は苦し紛れな表情で女性との混浴を否定するのだが…。 『無理しちゃって♪八正道様は本当に助平ね♪』 桜花姫は八正道の苦し紛れの否定発言に微笑み始める。 「冗談よ♪冗談♪」 「冗談ですか…突発的なので吃驚しましたよ…桜花姫様は意地悪ですね…」 「御免あそばせ♪八正道様♪」 桜花姫は満面の笑顔で謝罪したのである。 「昼食の時間帯ですな♪折角ですし桜花姫様も一緒に食事しませんか?」 「昼食ですって♪勿論よ♪八正道様♪食事しましょう♪」 八正道は応接間から退室…。昼食を用意したのである。 完結
第参部
第一話
古墳 人魚王国アクアユートピアでの大事件から一年後…。世界暦五千二十三年四月下旬の出来事である。東国の北方に位置する山岳地帯では太古の大昔…。小規模の旧王朝が存在したのである。今現在旧王朝の歴史は不明瞭とされるが山岳地帯の中心部には旧王族達の古墳が存在…。今現在では観光地として数多くの登山者達が古墳を見物する。 『古墳に悪霊が出現するなんてね♪』 近頃…。古墳では真夜中に神出鬼没の悪霊が出没するとの噂話が出回ったのである。噂話が気になった最上級妖女の月影桜花姫は早速行動を開始…。東国北方の山岳地帯へと移動する。 『悪霊事件は去年の吸血貴婦人以来ね♪』 悪霊関連の事件は吸血貴婦人による宿屋の行方不明事件以来である。 『古墳では一体何が出現したのかしら?』 桜花姫は真夜中の古墳では何が出現するのかワクワクする。移動を開始してより二時間後…。東国の山岳地帯に到達したのである。 『如何やら噂話の山岳地帯は此処っぽいわね…』 時間帯は真夜中であり神出鬼没の悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…。 『悪霊は…出現しないかしら?』 桜花姫は平気であり悪霊の出現を期待したのである。 『此処では霊力が感じられないわね…』 山道の夜道では悪霊特有の霊力は感じられず…。神出鬼没の悪霊は出現しなかったのである。真夜中の山道を移動し続けてより三時間後…。 『如何やら此処が…旧王族達の墓場…』 桜花姫は山岳地帯の頂上へと到達したのである。 『目的地の古墳みたいね…』 山岳地帯の中心部には円形の円墳が確認出来…。此処が古代の旧王族達の墓場であると認識したのである。 『此処に古代の旧王朝が存在したのね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。 『鬼火の妖術…発動!』 鬼火の妖術を発動すると自身の周囲に複数の火の玉が出現したのである。 『鬼火の妖術は照明灯として最適なのよね♪』 複数の火の玉を照明として利用出来…。暗闇の場所でも安心して使用出来る。桜花姫は暗闇の円墳内部に進入したのである。 『霊力だわ…』 石造りの通路の奥側へと直進し続けると僅少の霊力が複数感じられる。 『僅少だけど複数ね…やっぱり此処に悪霊が出現したみたいね…』 桜花姫は暗闇の通路を驀進し続ける。暗闇の通路を驀進してより数分後…。 『此処は…』 桜花姫は石造りの密室へと到達する。周辺は暗闇であったが周囲の火の玉により内部の構造を直視出来たのである。 『桃源郷神国にこんな場所が存在するなんてね…』 密室の中央には石棺が確認出来…。周辺の床面には無数の宝石やら黄金の宝物が無数に確認出来る。 「古代の宝物がこんなにも大量に…えっ?」 『何かしら?』 石棺の真上の中央には一体の埴輪が設置された状態だったのである。 『ひょっとして埴輪?』 桜花姫は警戒した様子で石棺真上の埴輪に接近し始め…。恐る恐る埴輪に接触したのである。 『如何して石棺の真上に埴輪が?』 すると直後…。 「えっ!?」 突如として埴輪の両目がピカッと蛍光色に発光したのである。 『埴輪の両目が発光したわ…』 桜花姫は突然の超常現象に驚愕する。一方の埴輪は空中を浮遊し始める。同時に埴輪本体から悪霊特有の霊力が放出されたのである。 『円墳内部から感じられた霊力の正体は…』 「埴輪に憑霊した悪霊だったのね…」 桜花姫は即座に十八番の天道天眼を発動…。妖力が普段の状態よりも数百倍へと急上昇したのである。 「あんたは器物の悪霊…【霊魂埴輪】ね…」 霊魂埴輪とは一年前に出現した霊魂土偶の亜種とされる。霊魂埴輪の正体としては古代の戦乱で滅亡したとされる旧王朝の王族達の怨念が器物の埴輪に憑霊…。誕生したとされる器物の悪霊である。霊魂埴輪の別名としては埴輪の付喪神やら古墳の地縛霊とも呼称される。 『如何やら今回の標的は霊魂埴輪みたいね…』 霊魂埴輪は蛍光色の両目から超高温の光線を射出する。 『光線!?』 霊魂埴輪の光線は桜花姫の胸部を貫通…。 「ぐっ!」 桜花姫は胸部を貫通され床面に横たわる。床面に横たわった直後…。床面に横たわった状態の桜花姫は全身から白煙が発生したと同時にポンッと消滅したのである。霊魂埴輪は警戒した様子で周辺をキョロキョロさせる。数秒後…。 「如何やら霊魂埴輪の注意点は両目からの光線だけみたいね♪」 突如として密室の中央より桜花姫が出現したのである。 「残念だったわね♪霊魂埴輪が光線で攻撃したのは私の分身体なのよ♪」 桜花姫は霊魂埴輪が出現したと同時に分身の妖術を発動したのである。彼女自身は雲隠れの妖術で全身の肉体を透明化…。自身の身体髪膚を透明化させた状態で霊魂埴輪の動向を観察したのである。 「初見だと即死だったでしょうけど♪分身体で残念だったわね♪霊魂埴輪♪」 桜花姫は霊魂埴輪を挑発する。すると霊魂埴輪は再度両目から超高温の光線を射出したのである。 『こんな攻撃で♪』 桜花姫は妖力の防壁を発動…。霊魂埴輪の光線を無力化したのである。 「今度は私が反撃するわね♪」 念力の妖術を発動する。すると空中を浮遊し続ける霊魂埴輪の表面がバリッと罅割れ…。容易に粉砕されたのである。 『霊魂埴輪♪他愛無いわね♪』 床面には彼方此方に霊魂埴輪の破片が散乱する。 『霊魂埴輪は片付けられたし…西国に戻ろうかしら♪』 桜花姫は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。 「えっ…」 気配を察知すると背後には十数体もの霊魂埴輪が空中を浮遊したのである。 「霊魂埴輪…」 『こんなにも無数に存在するなんてね…』 桜花姫は背後の光景に呆れ果てる。 『仕方ないわ…サクッと片付けますかね…』 十数体もの霊魂埴輪は桜花姫を標的に超高温の光線を射出するのだが…。桜花姫は妖力の防壁で彼等の攻撃を無力化したのである。 『今度こそ…』 先程と同様に念力の妖術で周辺の霊魂埴輪を粉砕…。床面には無数の破片が飛散したのである。 『今度こそ解決かしら?』 すると直後…。床面に飛散した無数の破片が融合化し始める。 「えっ…」 桜花姫は霊魂埴輪の変化に警戒したのである。 『一体何が?』 数秒後…。先程仕留めた無数の霊魂埴輪が一体の霊魂埴輪として復活したのである。一体化した霊魂埴輪は非常に巨体であり身長は推定二メートル以上に巨大化する。 『此奴も霊魂土偶みたいに一体化出来るのね…』 霊魂埴輪は一年前に出現した霊魂土偶の亜種であり霊魂土偶同様に複数の個体が融合化すると巨大化出来る。すると一体化した霊魂埴輪は両目から超高温の光弾を射出したのである。 『両目から光弾!?』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動するのだが…。一体化した霊魂埴輪の光弾は非常に強力であり妖力の防壁では防ぎ切れなかったのである。 「きゃっ!」 妖力の防壁により霊魂埴輪の攻撃力は多少軽減出来たものの…。容易に吹っ飛ばされたのである。 「ぐっ!」 桜花姫は吹っ飛ばされた衝撃で背後の内壁に激突…。床面に横たわったのである。 『霊魂埴輪…想像以上に強力ね…』 桜花姫は先程の霊魂埴輪の攻撃によって脊髄を損傷…。 『身動き出来ないわ…脊髄を損傷したみたいね…』 桜花姫は脊髄の損傷により身動き出来なくなる。すると霊魂埴輪は床面に横たわった状態の桜花姫に接近する。再度両目を発光させたのである。 『霊魂埴輪は身動き出来なくなった私を…』 再度光弾を射出する寸前…。 『一か八かよ…』 桜花姫は即座に霊魂埴輪に十八番の変化の妖術を発動したのである。霊魂埴輪は飴玉に変化させられ…。攻撃も無力化されたのである。 「はぁ…」 『間一髪だったわね…』 数分間が経過すると損傷した脊髄も自然に治癒され…。桜花姫は身動き出来始めたのである。 『身動き出来たし♪』 「飴玉は…頂戴するわね♪」 桜花姫は飴玉に変化した状態の霊魂埴輪を捕食…。 『事件は無事解決出来たわね…』 同時に円墳内部の霊力が感じられなくなる。 『霊力も感じられないし…今度こそ西国に戻りましょう♪』 桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。
第二話
放火犯 埴輪の付喪神霊魂埴輪との死闘から三日後の真昼…。近頃西国の村里では家屋の火災が数軒発生したのである。火災の原因は不明であるものの…。火災が発生した時間帯は真夜中の一時から二時前後であり非常に不自然だったのである。村人達は放火犯による放火事件であると決定付ける。度重なる原因不明の火災に村人達は夜間に眠れず…。寝不足に苦悩させられたのである。村人達は総出で夜間警備を強化するのだが…。放火犯らしき人物は特定出来なかったのである。誰しもが疑心暗鬼により村里全体で人間関係が日に日にギクシャクし始める。放火犯が人間ではなく悪霊の仕業であると思考する村人も少なくない。今現在は村里全体が閉鎖的であり非常に殺伐とした雰囲気だったのである。 「はぁ…」 桜花姫は真昼の村道にて散歩中…。 『原因不明の火災ね…』 何が原因で火災が頻発したのか思考したのである。 『火災が発生する時間帯は真夜中の深夜帯…放火犯の仕業なのかしら?』 村人達が総出で夜番を徹底するのだが放火犯を目撃した村人は誰一人として存在せず…。村里全体が殺伐とした雰囲気であり今現在では出歩く村人達も少数である。 「村人達が総出で夜間警備しても放火犯らしい人物は特定出来ないのよね…」 『一体何が原因で火災が発生したのかしら?』 桜花姫は火災の原因を彼是と思考し続けるのだが…。火災の原因を結論付けるのは不可能だったのである。 『今夜…私自身が調査して火災の主原因が放火犯の仕業なのか如何なのか結論付けるわよ…』 同日の真夜中…。桜花姫は深夜帯の二時前後に村里を警備したのである。 『今夜は…問題の放火犯は出現するのかしら?』 桜花姫は一時間程度村里全体を一通り警備するのだが…。 『放火犯は発見出来ないわね…』 道中では放火犯らしき人物は発見出来なかったのである。 「やっぱり放火犯なんて存在しないのかしら?」 『結局火災の原因って単純に小火の不始末だったのかしら?』 火災の主原因は放火犯の仕業ではなく小火の不始末であり数軒の家屋で火事が頻発したのは偶然であると結論付けるのだが…。 「えっ…」 突如として寒気を感じる。 『寒気だわ…一体何が?』 桜花姫は正体不明の寒気に警戒したのである。 『人気は感じられないわね…寒気の正体は何かしら?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。 「えっ?」 すると遠方の家屋にて正体不明の発光体が確認出来…。家屋の玄関口にて浮遊したのである。 『発光体だわ?』 発光体の正体が気になった桜花姫は即座に家屋へと急行する。 『発光体は一体…』 桜花姫は恐る恐る発光体に近寄る。 「えっ!?」 発光体を凝視すると発光体は黄色に光り輝く火の玉だったのである。 『此奴は火の玉!?』 火の玉は不定形であるものの…。火の玉の中心部には悲痛そうな老婆の顔面らしき形状が確認出来る。 「火の玉の正体…」 『此奴は…悪霊の【人魂老婆】だわ…』 人魂老婆とは鬼火の一種である。特定の地方では老婆の怪火とも呼称される。人魂老婆は安穏時代初頭…。年老いた老婆が自身の身内によって殺害された悲劇の悪霊として知られる。異説としては高齢により労働出来なくなった高齢者達が暗闇の山奥に放棄され…。彼等の無念の集合体が人魂老婆の正体であるとも解釈される。人魂老婆は出現頻度こそ時たまであるが…。社会問題を体現化させた存在であり認知度は悪霊の代表格である悪食餓鬼にも相当する。 『放火犯の正体は人魂老婆だったのね…』 すると人魂老婆は悲痛そうな表情で桜花姫を凝視し始める。直後…。人魂老婆は不定形の口先より高熱の火炎を放射したのである。 『火炎攻撃!?』 桜花姫は即座に妖力の結界を発動…。人魂老婆の火炎攻撃を無力化したのである。 「はぁ…」 『間一髪だったわ…』 桜花姫は人魂老婆の突然の火炎攻撃に冷や冷やする。すると人魂老婆は悲痛そうな表情で…。 「結局は其方も…私を毛嫌いするのか!?如何して私は放棄された!?」 人魂老婆は桜花姫に力強く泣訴したのである。 「えっ!?」 『此奴は…何を?』 桜花姫は突然の人魂老婆の泣訴に困惑し始め…。ドン引きしたのである。 「如何して私を…暗闇の山中に…私が年老いたからか?何も出来ないからか?私は年老いた邪魔だったのか?」 人魂老婆は只管泣訴し続ける。 「其方も…私を…放棄するのか?」 人魂老婆は落涙した表情で桜花姫を凝視したのである。 「えっ…」 『人魂老婆…』 桜花姫は泣訴する人魂老婆にドン引きするものの…。 『人魂老婆は列記とした悪霊だけど…気の毒よね…』 桜花姫は人魂老婆が気の毒に感じる。 『今回ばかりは…仕方ないわね…』 桜花姫は神性妖術の天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。 『妖力が上昇したわね♪』 天道天眼の効力によって桜花姫の妖力は通常よりも数百倍へと上昇したのである。一方の人魂老婆は只管に桜花姫を凝視…。 「其方は…私を如何するのだ?其方も…私を…放棄するのか?」 桜花姫は笑顔で即答する。 「人魂老婆…覚悟するのね♪」 『浄化の妖術…発動!』 桜花姫は人魂老婆に浄化の妖術を発動したのである。周辺より清涼の涼風が発生…。人魂老婆の表情が和らぎ始める。 「はぁ…涼風か…其方は…其方だけは私を…」 涼風の影響により人魂老婆は落涙し始め…。笑顔で消滅したのである。 『人魂老婆…成仏するのね…』 浄化の妖術で人魂老婆は浄化され…。霊力も感じられなくなる。 『人魂老婆は浄化されたわね♪』 人魂老婆は無事に成仏出来…。桜花姫は安堵する。 『今回の事件は無事解決ね♪』 今回各家屋で火事を頻発させた放火犯の正体とは人魂老婆だったのである。桜花姫は後日…。村人達に今回の放火事件の真相を説明したのである。意外にも村人達はすんなりと納得する。疑心暗鬼だった村人達は謝罪し合い…。殺伐とした村里の雰囲気は解消されたのである。人魂老婆の放火事件から数日後…。今回の悪霊事件を契機に年老いた高齢者達を放棄したとされる山奥にて人魂老婆の石碑が構築されたのである。人魂老婆が浄化されてからは真夜中の火事は発生しなくなる。
第三話
大黒島 老婆の亡霊人魂老婆による放火事件から二日後の出来事である。北国の最北端に位置する大黒島にて無数の悪霊が出現…。大黒島全域を占拠したのである。事件発生から翌日の真昼…。大黒島の悪霊出現の噂話を熟知した桜花姫は即座に北国の村里へと直行したのである。 『大黒島に悪霊の大群が出現するなんて…』 大黒島は今現在でこそ大勢の漁民達が移住する小規模の離島であるが…。大昔の戦乱時代では無実の囚人達が配流された悲劇の場所として有名である。 『今回は大黒島に何が出現したのかしら?』 西国の村里から移動を開始してより二時間後…。桜花姫は北国の海岸へと到達する。 『此処からでも孤島が確認出来るわ…』 海岸の砂浜から海面上を眺望したのである。 『大黒島かしら?』 海面上を眺望し続けると小規模の孤島を発見する。 『如何やら孤島は大黒島っぽいわね…』 海岸の砂浜から大黒島への距離は推定十五キロメートルの長距離であるが…。大黒島から漁民達の無数の鮮血と霊力を感じる。 『無数の鮮血と霊力を感じるわ…』 「大黒島の漁民達は悪霊の大群に食い殺されちゃったみたいね…」 桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。人外の人魚に変化したのである。 『悪霊の大群を征伐するわよ…』 桜花姫は人魚の状態で海面上を力泳し始め…。大黒島へと直行したのである。大黒島へは数分間で到達する。 『大黒島に到達したみたいね♪』 人魚の状態から元通りの姿形に戻ったのである。 『島内は…閑寂だけど…』 大黒島は閑散とした場所であり島民達は誰一人として確認出来ない。周囲は非常に物静かであるが…。 『無数の悪霊の気配だわ…』 島内全域に無数の霊力が徘徊するのを感じる。 『如何やら今回の相手も大群みたいね…』 桜花姫は即座に警戒…。神性妖術の天道天眼を発動する。すると数秒後である。周囲の砂浜より数十体もの悪食餓鬼が出現し始め…。彼等は桜花姫を注視したのである。 『悪食餓鬼の大群だわ♪』 一方の桜花姫は悪霊の出現に大喜びする。 『早速出現したわね♪』 数十体の悪食餓鬼が桜花姫に殺到し始める。 「毎度だけど…あんた達は無謀ね…」 桜花姫は彼等の行動に呆れ果てる。 「命知らずなあんた達は…桜餅に変化しなさい♪」 殺到する無数の悪食餓鬼に変化の妖術を発動…。 『悪食餓鬼の大群は桜餅に変化したわね♪』 悪食餓鬼は数十個もの桜餅と小皿に変化したのである。 『消耗しちゃった妖力を回復させたいからね♪早速頂戴するわよ♪』 桜花姫は小皿に配置された周辺の桜餅をパクパクッと食べ始める。大好きな桜餅を食べ始めてから数分後…。 『妖力は回復出来たし…』 桜花姫は周辺の桜餅を鱈腹完食する。 『島内に出現した悪霊の大群を征伐しましょう♪』 桜花姫は島内の住宅街へと移動したのである。 「住宅街から無数の霊力を感じるわね…」 『今度は何が出現するのかしら?』 桜花姫は島内の探索を開始する。
第四話
花魁 桜花姫が探索を開始した同時刻…。 「はぁ…はぁ…」 大黒島の住宅街にて一人の村娘が無数の悪霊から必死に逃走したのである。 『逃げないと…悪霊に食い殺されちゃう…』 村娘はとある住居へと進入…。恐る恐る戸棚に潜伏したのである。 『父ちゃん…母ちゃん…』 彼女は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。 『私は…如何すれば?』 すると直後…。戸口よりガタガタッと物音が響き渡る。 「ひっ!」 『死にたくないよ…父ちゃん…母ちゃん…』 村娘は涙腺より涙が零れ落ちる。すると突然…。 「あんたは…可愛らしい小娘ね♪」 背後の美声に吃驚する。 「えっ!?」 村娘は警戒した様子で恐る恐る背後を直視…。背後には色白の花魁らしき女性が家屋敷の居室でビクビクする村娘を凝視し続ける。 「えっ…あんたは誰なの?」 花魁は煌びやかな着物姿の女性であり非常に妖美の雰囲気であるが…。素肌は死没者を連想させる灰白色であり花魁の女性が人外なのは一目瞭然である。 「私はあんたみたいな純粋無垢の少女が大好きなのよね♪大人しく私に食べられちゃいなさい♪」 花魁の発言に極度の恐怖心を感じる。 「ひっ!」 『彼女は悪霊!?』 村娘は背後の花魁が人外の悪霊であると察知…。 『私は悪霊に食い殺されちゃう!此処から逃げないと!』 村娘は即座に家屋敷から脱走したのである。彼女は必死に逃走するのだが…。 「私からは逃げられないわよ♪観念するのね…小娘♪」 先程遭遇した花魁らしき存在が路地裏にて再度遭遇する。 「えっ!?」 『如何して…彼女は先回りしたの!?』 村娘は恐る恐る後退りしたのである。すると背後には二体の悪食餓鬼がふら付いた身動きで村娘に近寄る。 「背後からも悪霊!?」 直後…。 「きゃっ!」 村娘は花魁らしき存在に両手で捕捉されたのである。 「私からは逃げられないのよ♪人間の小娘♪あんたは好い加減観念しなさい♪」 「きゃっ!誰か!誰か!」 村娘は必死に抵抗するものの…。花魁の女性は非力そうな外見とは裏腹に非常に力強く村娘の力量では抵抗すら出来ない。 「如何やら村里で無事なのはあんただけね♪早速あんたの清心を頂戴するわね♪」 花魁らしき存在は赤面した表情で無理矢理に接吻し始め…。 「ぐっ!」 一方の村娘は花魁らしき存在に口移しされた直後である。 『父ちゃん…母ちゃん…』 彼女は意識が遠退き始め…。村娘は全身が衰弱化する。 『私は…』 村娘は意識が完全に喪失した昏睡状態であり地面に横たわったのである。一方の花魁らしき存在は満足気に…。 『やっぱり美味しいわね♪女子の清心は純真無垢だから非常に美味だわ♪』 村娘の清心を完食した花魁らしき存在は即座に退散したのである。花魁らしき存在が退散してより数分後…。 「悲鳴は此処からだったわね…えっ?」 桜花姫が路地裏にて地面に横たわった状態の村娘を発見する。 『彼女は島内の村娘かしら?』 桜花姫は地面に横たわった状態の村娘に近寄る。 『彼女は…大丈夫かしら?』 恐る恐る彼女に接触し始め…。 『如何やら村娘は仮死状態みたいね…即刻元凶の悪霊を仕留めないと彼女が衰弱死するわね…』 時間が経過し続ければ村娘の生命が危険であると察知する。 「えっ?」 直後である。突如として周囲より無数の気配を感じる。 『霊力かしら?如何やら大群みたいね…』 すると地面より十数体もの悪食餓鬼が出現する。 「毎度…毎度…あんた達は鬱陶しい奴等ね…」 地面から出現した十数体の悪食餓鬼が桜花姫に殺到したのである。 「はぁ…」 桜花姫は悪食餓鬼の大群に呆れ果てるものの…。 「あんた達は砂金に変化しなさい…」 砂金の妖術を発動する。自身に殺到する十数体もの悪食餓鬼がサラサラの砂金に変化し始め…。彼等の肉体は一瞬で崩れ落ちる。 『楽勝♪楽勝♪』 無数の悪食餓鬼を一蹴した桜花姫であるが…。 「ん?」 今度は背後から五体もの百鬼悪食餓鬼が地面より出現する。 『今度の相手は百鬼悪食餓鬼かしら?大物が五体も出現するなんてね♪』 無数の悪食餓鬼の顔面が桜花姫を睥睨したのである。 『百鬼悪食餓鬼は私を殺したいみたいね…』 百鬼悪食餓鬼は全身の悪食餓鬼の顔面から高熱の熱風を放出し始め…。桜花姫に攻撃したのである。 『熱風かしら?』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。 「こんな程度の攻撃で私を仕留めるなんてあんた達は無謀ね…」 妖力の防壁により百鬼悪食餓鬼の熱風を無力化したのである。 「あんた達は…」 再度変化の妖術を発動…。五体の百鬼悪食餓鬼を大好きな桜餅に変化させる。 『妖力が消耗しちゃったからね♪』 再度桜餅をパクッと鱈腹頬張り始める。 『満腹♪満腹♪』 桜花姫は桜餅の完食に満足するが…。 「えっ?」 『殺気かしら!?』 今度は十数人もの人間達の気配を感じる。 『人間達の殺気だわ…』 「厄介ね…今度の相手は人間かしら?」 桜花姫は再度人間達の襲撃に警戒する。周辺を警戒し始めてより数秒後…。 「あんた達は…何よ?」 『彼等は島内の村人達かしら?』 周囲の各家屋より刃物を所持した十数人の漁民達が桜花姫を包囲し始める。 「あんた達は正気なの?」 彼等の表情は無表情であり骨抜きの傀儡人形みたいな雰囲気だったのである。 『殺気は感じられないわね…』 漁民達は殺気立った様子は皆無であり桜花姫に対する敵意も殺意も感じられない。 『彼等は傀儡人形みたいだわ…漁民達は何者かに憑霊されちゃったのかしら?』 漁民達が桜花姫に殺到する。 『仕方ないわね…』 桜花姫は即座に睡眠の妖術を発動…。 「あんた達…大人しくしなさい…」 睡眠の妖術を発動すると殺到する漁民達はバタッと地面に横たわる。 『漁民達は全員熟睡したみたいね…』 「えっ?」 背後より悪霊の気配を感じる。 『気配だわ…悪霊かしら?』 恐る恐る背後を警戒…。背後には色白の花魁らしき女性が佇立する。 『彼女は花魁かしら?』 花魁の女性は桜花姫を直視するとニコッと微笑み始める。一方の桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。 「あんたは悪霊の亡霊新婦人ね…」 『幻術で村人達を傀儡人形みたいに操作したのかしら?』 亡霊新婦人は亭主に殺害された令夫人の悪霊とされる超自然的存在である。亡霊新婦人は人語で会話も可能であり荒唐無稽の幻術を駆使出来る。桜花姫の問い掛けに亡霊新婦人は人語で返答したのである。 「あんたは妖女の月影桜花姫かしら?折角だからあんたの清心も頂戴するわね♪」 対する桜花姫は呆れ果てた様子で彼女に返答する。 「あんたなんかに出来るかしら?私は最上級妖女なのよ…」 『此奴は一年前に出現した亡霊新婦人とは別物っぽいわね…』 亡霊新婦人は一年前にも同種の悪霊が出現したのだが…。今回出現した亡霊新婦人は一年前の個体とは別物であると察知したのである。 「勿論♪私だけでは最上級妖女のあんたを仕留められないからね…」 直後…。 「あんた達♪出番よ♪」 すると周辺の地面より数十体もの悪食餓鬼が再度出現する。 「悪食餓鬼の大群かしら?」 『如何やら彼等も幻術で操作したのね…』 亡霊新婦人の幻術は非常に強力であり仲間の悪霊さえも傀儡人形として思う存分に翻弄出来…。自身の手駒として利用出来るとされる。 「こんな奴等で私を仕留めるなんて…あんたは余程の馬鹿者みたいね♪」 桜花姫は即座に氷結の妖術を発動…。周囲の悪食餓鬼を凍結化させる。全身を凍結化された悪食餓鬼の肉体はバリバリッと崩れ落ちる。 「はぁ…」 亡霊新婦人は目前の光景に呆れ果てたのである。 「結局悪食餓鬼は役立たずの手駒だったわね…此奴なら如何かしら?」 すると桜花姫の背後の地面より巨大能面が出現したかと思いきや…。八本もの脚部が生成されたのである。 「えっ…」 『此奴は…』 桜花姫も突如として出現した巨大能面にドキッとする。 『此奴は器物の悪霊…小面袋蜘蛛…』 普段は冷静の桜花姫であるが…。 『こんな場所に小面袋蜘蛛が出現するなんてね…』 桜花姫は突然の小面袋蜘蛛の出現により恐る恐る後退りする。小面袋蜘蛛の出現に亡霊新婦人は冷笑し始める。 「桜花姫♪先程の威勢は如何しちゃったのかしら♪あんたの大好きな悪霊よ♪」 桜花姫にとって小面袋蜘蛛の存在はトラウマの対象であり極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。 「観念するのね♪月影桜花姫♪」 亡霊新婦人は桜花姫に挑発する。 「小面袋蜘蛛にあんたの妖術は通用しないわよ♪あんたは大人しく小面袋蜘蛛に食い殺されちゃいなさい♪」 すると小面袋蜘蛛は口先から粘着性の蜘蛛の白糸を放出…。 「きゃっ!」 桜花姫を拘束したのである。小面袋蜘蛛の粘着性の白糸で拘束された直後…。 「ぐっ!」 『妖力が…消耗するわ…』 桜花姫は身動き出来ないばかりか体内の妖力が吸収されたのである。 『私は…衰弱死しちゃうわ…』 桜花姫は妖力の消耗により衰弱化…。バタッと地面に横たわったのである。 『如何やら桜花姫は妖力の消耗で衰弱化したみたいね…』 亡霊新婦人が地面に横たわった状態の桜花姫に近寄る。 『折角だからね♪』 亡霊新婦人は赤面した表情で…。 「桜花姫♪あんたの清心を頂戴するわよ♪」 身動き出来なくなった桜花姫を無理矢理に接吻したのである。 「ぐっ…」 桜花姫は亡霊新婦人に接吻されるとスーッと全身の筋力が脱力…。 「えっ?」 『眠気が…』 亡霊新婦人の霊能力の効力からか桜花姫は意識が遠退き始める。 「美味しいわね♪あんたの清心も♪」 亡霊新婦人は接吻により桜花姫の清心を吸収出来…。大喜びしたのである。 「えっ!?」 直後…。突如として気味悪くなり亡霊新婦人は吐血したのである。 「ぎゃっ!」 吐血した亡霊新婦人は地面に横たわった状態の桜花姫を睥睨する。 「如何やら彼女…純粋無垢とは程遠い存在みたいね…外見とは裏腹に中身は邪心だらけだわ…彼女は邪心の集合体なのかしら?」 直後である。突如として地面に横たわった状態の桜花姫の肉体より白煙が発生したかと思いきや…。 「えっ!?如何して彼女の肉体から白煙が!?」 彼女の肉体がポンッと一瞬で消滅したのである。 「一体何が!?」 『如何して桜花姫の肉体が消滅したのよ!?』 突然の超常現象に亡霊新婦人は驚愕する。 『彼女の肉体は!?』 すると亡霊新婦人の背後より…。 「亡霊新婦人?誰が邪心の集合体ですって?」 彼女の背後には桜花姫が佇立したのである。 「あんたは桜花姫なの!?」 桜花姫の出現に亡霊新婦人は愕然とする。 「残念だったわね♪亡霊新婦人♪あんたが接吻したのは私の分身体なのよ♪」 「なっ!?分身体ですって!?」 亡霊新婦人は桜花姫に畏怖したのは恐る恐る後退りしたのである。 「地上世界の女神様である私を…邪心の集合体なんて失言するあんたは…」 桜花姫は変化の妖術を発動…。亡霊新婦人は桜餅に変化したのである。 『亡霊新婦人は無力化出来たし…大丈夫そうね♪』 桜花姫は背後の小面袋蜘蛛に警戒する。 「妖術が通用しないあんたは…」 『口寄せの妖術で…』 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。 「完膚なきまでに死滅するのね…小面袋蜘蛛…」 口寄せの妖術により上空から小規模のワームホールが発生すると近代兵器である小型無人爆撃機が出現したのである。小型無人爆撃機は小面袋蜘蛛を標的に小型の誘導爆弾一発を投下…。小面袋蜘蛛は小型無人機の低空爆撃によりバラバラに粉砕されたのである。元凶の亡霊新婦人と小面袋蜘蛛を仕留めた影響からか大黒島を覆い包む重苦しい空気が浄化され…。無数の霊力が感じられなくなる。 『大黒島の霊力が消失したわ…』 「空気も浄化されたし♪事件は無事解決ね♪」 桜花姫は桜餅に変化した亡霊新婦人をパクッと頬張る。 『やっぱり桜餅は美味だわ♪』 数秒間が経過すると亡霊新婦人の幻術により彼女の傀儡人形として利用された漁民達は勿論…。 「えっ?私は一体…悪霊は?」 先程亡霊新婦人に清心を奪取された村娘も意識が戻ったのである。
第五話
路地裏 近頃…。北国の村里では真夜中の深夜帯に出歩くと女性らしき笑い声が響き渡るとの噂話が出回る。女性らしき笑い声を傾聴した人物は極度の恐怖心により気絶…。無事に自宅へと戻れたとしても廃人の状態であり農作業の人員不足が深刻化したのである。今回の大問題から現地の武士達は勿論…。東国からも屈強の武士団が派遣されるのだが笑い声の正体とは遭遇出来ず問題の解決は困難だったのである。大黒島での戦闘から三日後…。笑い声の噂話を熟知した桜花姫は真夜中の深夜帯に北国の村里へと出掛けたのである。 『今回は正体不明の笑い声ね…』 西国の村里から移動してより二時間後…。 『北国に到達したわね…』 桜花姫は北国の村里へと到達したのである。 『当然だけど人気は感じられないわね…』 時間帯は真夜中であり出歩く村人は誰一人として確認出来ない。 『笑い声の正体は一体何かしら?』 すると直後である。 「えっ!?」 背後よりケラケラッと女性らしき笑い声が響き渡る。 『女性の…笑い声だわ…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認する。 「なっ!?」 背後に存在するのは背丈が推定三間程度の巨体の女性であり満面の笑顔で桜花姫を凝視し続ける。 『彼女からは霊力が感じられるわ…』 巨体の女性からは悪霊特有の霊力が感じられる。 『此奴の正体は神出鬼没の悪霊みたいね…』 桜花姫は巨体の女性に警戒する。 『恐らくだけど…此奴は悪霊の【失笑大女】ね…』 失笑大女とは巨体の女性の悪霊である。煌びやかな群青色の着物姿が特徴的であり背丈は推定三間程度に巨体…。表情は常時満面の笑顔である。失笑大女の正体としては生前…。村八分により周囲の村人達から迫害された女性の無念が実体化したのだと解釈される。失笑大女の別名としては外見が巨体であるのを理由に三間女将…。表情が常時満面の笑顔であり爆笑女房とも呼称される。 「如何やら笑い声の正体は失笑大女…あんただったみたいね!」 桜花姫は即座に十八番の天道天眼を発動…。半透明の瑠璃色だった瞳孔が半透明の血紅色へと発光したのである。同時に彼女の妖力が通常よりも数十倍へと急上昇する。 「失笑大女♪覚悟するのね♪」 十八番の変化の妖術を発動する直前…。失笑大女はケラケラッと大笑いし始める。 「あんたね…何が可笑しいのよ!?」 桜花姫は只管大笑いし始める失笑大女に苛立ち始め…。腹立たしくなる。 「あんたは問答無用に…」 失笑大女に変化の妖術を発動する寸前である。 「えっ…ぐっ!」 突如として極度の頭痛は勿論…。極度の嘔気を感じる。 『頭痛と嘔気だわ…ひょっとして失笑大女の霊能力かしら?』 突然の頭痛と嘔気により桜花姫は地面に横たわったのである。一方の失笑大女は只管地面に横たわった状態の桜花姫に爆笑し続ける。 『こんな状態では圧倒的に不利ね…』 桜花姫は再度失笑大女を直視するのだが…。 「えっ!?」 周囲には数十体もの失笑大女が地面に横たわった状態の桜花姫を包囲する。 『失笑大女は分身体を…』 周囲の分身体も本体である失笑大女同様に桜花姫の様子を凝視し始め…。満面の笑顔で爆笑したのである。 『視界が…失笑大女の霊能力かしら?』 失笑大女の霊能力により桜花姫は目前の視界が黒化し始める。 「はぁ…」 今度は意識が遠退き始めたのである。 『意識が…』 数秒間が経過すると桜花姫は意識を喪失する。一方失笑大女と周囲の分身体は気絶状態の桜花姫に爆笑し続ける。数秒間が経過…。気絶状態の桜花姫の肉体から白煙が発生し始める。一瞬であるが目前の光景に失笑大女と分身体が無表情で注視したのである。直後…。桜花姫の肉体はポンッと消滅したのである。突然の超常現象に失笑大女と分身体は驚愕し始め…。周辺をキョロキョロさせたのである。 「残念だったわね♪失笑大女♪」 すると本体の失笑大女と無数の分身体の背後より桜花姫が出現…。彼女は健全の様子であり失笑大女本体と無数の分身体に失笑する。 「あんたが気絶させたのは私の分身体なのよ♪」 先程失笑大女が霊能力で気絶させたのは桜花姫の分身体だったのである。本体の彼女自身は気絶する寸前に間一髪分身の妖術を発動…。失笑大女の霊能力の無力化に成功したのである。 「失笑大女…今度は私が反撃するからね♪」 桜花姫は心眼の妖術を発動する。 「如何やらあんたが失笑大女の本体みたいね♪」 心眼の妖術で失笑大女の本体を発見したのである。 「失笑大女♪覚悟しなさいよ♪」 桜花姫は十八番の変化の妖術を発動…。 「あんたは桜餅に変化しなさい♪」 直後である。失笑大女の本体は小皿に配置された桜餅に変化する。 「変化の妖術…成功ね♪」 すると本体を無力化された影響からか周囲の分身体が消滅し始める。 『本体を仕留められた影響で分身体が消滅したのね…』 村里の霊力も感じられなくなる。 『霊力が感じられなくなったわ…事件は解決ね♪』 桜花姫は小皿に配置された桜餅をパクリと平らげる。 『悪霊だとしても…やっぱり桜餅は美味だわ♪』 同時刻…。元凶の失笑大女が退治された影響からか廃人状態だった村人達が元通りの状態に戻ったのである。
第六話
警備中 失笑大女との死闘から二日後の真夜中である。二人の邏卒が東国武士団根城の城内を警備中…。 「はぁ…気味悪いな…如何して俺達が城内の夜間警備なんか…」 大柄の邏卒はビクビクした様子で愚痴り始める。 「仕方ないよ…俺だって真夜中の夜間警備なんて御免だけどさ…」 小柄の邏卒も内心では逃げたい一心なのだが…。 「俺達の仕事だからな…」 小声で返答したのである。 「あんたは生真面目だな…真夜中の警備は面倒臭いし…」 すると大柄の邏卒は小声で発言する。 「最近…真夜中の城内で何者かが進入したって噂話だけど…」 近頃の出来事である。一週間前より…。真夜中の城内にてカラカラッと作り物らしき物音が響き渡るとの報告が武士団全体に出回ったのである。基本的に城内への入城は東国武士団の関係者以外は厳禁とされるのだが…。 「ひょっとして悪霊の…仕業なのかな?」 小柄の邏卒は悪霊の一言にビクビクし始める。 「物音の正体が神出鬼没の悪霊だったら…俺達だけでは対処出来ないよ…」 「こんな場合こそ常人の俺達なんかより…西国の月影桜花姫様に依頼したいよな…」 大柄の邏卒は桜花姫の名前を口走る。 「俺も同感だな…こんな正体不明の超常現象を解決するなら不寝番の桜花姫様に依頼するべきだよな…」 夜間の警備を開始してより数秒後…。突如としてカラカラッと作り物らしき物音が通路全体に響き渡る。 「えっ…」 「物音だな…」 時間帯は真夜中の深夜帯であり城内は実質二人の邏卒だけである。 「何だろう?俺達以外にも当直員の誰かが…」 二人の邏卒は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認するのだが…。 「誰も…」 背後には人影らしき物体は確認出来ず二人の邏卒は一息したのである。 「はぁ…吃驚させるなよ…」 大柄の邏卒は内心ホッとする。 「先程の物音は何だったのかな?」 「単なる空耳だろう…気にするな!」 「空耳だったのかな?」 二人の邏卒は先程の物音の正体が気になったものの…。 「不本意だが…警備を再開するか?」 「嗚呼…」 城内の夜間警備を再開したのである。警備を再開してより数分後…。再度カラカラッと作り物らしき物音が通路全体に響き渡る。 「畜生が!今度も物音かよ!?」 「一体何が!?」 二人は正体不明の物音に畏怖するのだが…。 「出現するなら出現しやがれ!神出鬼没の悪霊!」 極度の精神的ストレスにより苛立ち始める。二人は周囲を警戒…。護身用の刀剣を抜刀したのである。 「俺達は…逃げないぞ…」 「近付くなら近付きやがれ!俺達は…容赦しないからな…」 二人は強がるのだが…。内心では極度の恐怖心によりビクビクしたのである。すると二人の背後からカラカラッと作り物らしき物音が響き渡り…。物音は次第に接近する。 「跫音みたいだな…」 「嗚呼…確認するか?」 二人は恐る恐る背後を直視…。背後には等身大の人影が佇立したのである。 「貴様は…一体何者だ?」 「城内に…侵入者が…」 すると直後…。人影は神速の身動きで二人の目前に接近したのである。 「えっ?」 「はっ?」 二人は自身の肉体の彼方此方を直視し始める。首筋からは勿論…。手足と胴体からドロドロと鮮血が流れ出る。数秒間が経過すると首筋…。切断された手足やら胴体がポロッと床面に落下したのである。
第七話
暗殺者 翌朝…。東国武士団根城の城内から二人の邏卒のバラバラ遺体が発見されたのである。当然として城内は大騒ぎ…。事件発生に東国全体が騒然としたのである。同日の真昼…。桜花姫の自宅より東国武士団の使者が訪問したのである。 「失礼します…桜花姫様…」 「あんたは武士団の役人よね?ひょっとして大事件でも発生したの♪」 桜花姫は大事件を期待したのか両目をキラキラさせる。 「昨夜の出来事なのですが…」 使者は真夜中の正体不明の作り物らしき物音…。当直の邏卒二人が何者かによって殺害された事実を洗い浚い口述したのである。 「作り物みたいな物音と邏卒が殺害されたのね…」 「外部から暗殺者が進入した可能性も否定出来ませんが…」 実際根城には表門と裏門にも番兵達が厳重に警備…。外部から進入するのは実質不可能である。 「今回の事件は城内から発生した可能性が濃厚ね…犯人は武士団の関係者か…人外でしょうね…」 「遺体は二人ともバラバラの状態でしたし…正直人間業は考え難いですね…」 「暗殺者は人外の可能性が濃厚そうね…」 神出鬼没の悪霊を連想する。 「仕方ないわね♪今夜の夜番は私が担当するわ♪物音の正体も気になるし♪」 桜花姫は満面の笑顔で夜番を承諾したのである。 「本当ですか♪であれば本日の夜番を依頼しますね…桜花姫様♪」 武士団の使者は彼女の承諾に大喜びする。同日の真夜中…。特別枠として今夜の夜番は桜花姫が担当したのである。 『城内への進入は八尺姉女房の事件依頼ね…』 桜花姫は一年前に発生した八尺姉女房の事件を想起する。 『城内は物静かだけど…物音の正体は一体何かしら?』 表門と裏門には番兵達が厳重に警備…。外部からの進入は実質的に不可能である。城内の通路は物静かな様子であり桜花姫は無言で通路を直進する。すると道中…。 「うわっ…」 道中の床下には二人の血痕らしき痕跡が確認出来る。 『事件現場だわ…此処で二人の邏卒が殺害されたのね…』 桜花姫は床下の血痕に気味悪くなる。すると直後である。 「えっ?」 背後よりカラカラッと作り物らしき物音が通路全体に響き渡る。 『物音だわ…』 物音は小刻みに響き渡り…。 『跫音みたいね…』 物音は跫音であると認識する。物音の正体は一歩ずつ桜花姫の背後に接近…。 『何かしら?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認する。 「あんたは…」 彼女の背後には甲冑を装備した武者の姿形の人形だったのである。体格は等身大の成人男性と同程度…。装備品としては護身用の刀剣が確認出来る。 「武士の人形みたいだけど…」 『人形からは悪霊特有の霊力は感じられないわね…』 すると武者の人形は片言で…。 「オナゴヨ…ワタシハ…ソナタヲセイバイスル…」 武者の人形はぎこちない動作で刀剣を抜刀する。 「あんたの正体…【傀儡軍神】ね…」 傀儡軍神とは亡者の霊魂が武者の姿形を模範とした傀儡人形に憑霊…。誕生したとされる器物の悪霊である。詳細は不明であるが…。以前遭遇した傀儡処女と類似する。傀儡軍神の別名としては武者人形の付喪神やら無血武将等と呼称される。 『傀儡軍神の人形って…偉人の夜桜崇徳王の人形よね?』 余談であるが傀儡軍神の本体である傀儡人形は戦乱時代の歴史人物の一人…。夜桜崇徳王を模範として製造された傀儡人形であり戦乱時代の演劇等で使用される。 『悪霊に憑依されるなんてね…人形だとしても夜桜崇徳王が気の毒だわ…』 桜花姫は偉人の崇徳王が気の毒に感じる。 「キサマヲ…キリコロス…」 傀儡軍神は男性らしき片言で断言したのである。 「如何やらあんたも喋れるのね…」 桜花姫は傀儡軍神の動向に警戒する。 「カクゴスルノダ…」 傀儡軍神は身構えたかと思いきや…。神速の身動きで桜花姫に接近する。 『此奴…傀儡処女以上の身動きだわ…』 傀儡軍神のスピードは傀儡処女以上であり常人では視認出来ない。 「ジゴクニオチロ…」 傀儡軍神が刀剣で斬撃する寸前…。 「如何かしら?」 桜花姫は妖力の防壁を発動したのである。 『私に斬撃なんて…』 「えっ…」 傀儡軍神の刀剣は妖力の防壁を透過…。彼女の腹部を斬撃したのである。 「ぐっ!」 桜花姫は腹部を斬撃され…。腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。 『如何して…妖力の防壁が無力化されたのよ?』 桜花姫は傀儡軍神の小細工に動揺したのである。 「ワタシニハ…キサマノヨウジュツハ…ツウヨウシナイノダ…」 「ひょっとしてあんたの…肉体は…妖星巨木の樹木かしら?」 「ソノトオリダ…ヨッテキサマハ…ワタシニハカテナイ!」 傀儡軍神の本体である傀儡人形の部品とは造物主…。妖星巨木で製造された代物である。器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に妖術は通用しない。 『厄介だわ…傀儡軍神の部品も妖星巨木だったなんて…』 すると傀儡軍神は床面に横たわった状態の桜花姫に近寄る。 「トドメダ…ヨウジョノコムスメ…」 一方の桜花姫は満面の笑顔で…。 「残念だったわね…傀儡軍神♪」 「キサマ…ナニガオカシイ?」 直後である。桜花姫の肉体から白煙が発生し始め…。ポンッと消滅したのである。 「ブンシンタイカ?」 傀儡軍神は周囲を警戒…。頭部をキョロキョロさせる。 「私なら此処よ♪」 傀儡軍神の背後にて桜花姫が出現する。 「フザケタマネヲ…コウカイスルガイイ!」 傀儡軍神は口部を開口し始め…。口先から猛毒の瘴気を放射したのである。 『猛毒の瘴気だわ…』 桜花姫は猛毒の瘴気に警戒…。即座に浄化の妖術を駆使したのである。 「はぁ…」 浄化の妖術により傀儡軍神の瘴気は無力化される。 「危なかったわね…」 瘴気の無力化に一安心するのだが…。 「コレデオワリダト…オモウナヨ!」 傀儡軍神は胸部を開放させたのである。 「何かしら?鉄砲?」 傀儡軍神の胸部の内部には回転型の固定型機関砲を内蔵…。目前の桜花姫を標的に照準させたのである。 「コレデオワリダ…ハチノスニシテヤル!」 直後…。銃口より数十発もの弾丸が炸裂したのである。 「ぐっ!ぎゃっ!」 一方の桜花姫は全身の彼方此方に無数の弾丸が直撃…。瀕死の状態であり床面に横たわったのである。 「コムスメハ…シトメタカ?」 傀儡軍神は床面に横たわった状態の桜花姫に近寄る。 「コイツモ…ブンシンタイトハ…」 白煙が発生したと同時に桜花姫は消滅したのである。 「ヤツハ…ニゲタカ…」 桜花姫は傀儡軍神が銃弾を炸裂させる直前に分身の妖術を発動…。逃亡に成功したのである。 「ヤツヲミツケシダイ…カナラズコロシテヤル!」 傀儡軍神は桜花姫の捜索を開始する。
第八話
手榴弾 一方の桜花姫は城内の二階へと逃亡…。倉庫らしき場所へと移動したのである。 「はぁ…はぁ…」 『間一髪だったわね…』 桜花姫は命拾い出来…。安心したのである。 『非常に厄介だわ…傀儡軍神の肉体は妖星巨木の樹体だし…私が妖術を発動しても彼奴には無力化されるでしょうね…』 傀儡軍神を相手に如何するべきか苦悩する。 『此処でも武器を入手出来れば傀儡軍神を攻略出来るかも知れないけれど…』 「武器?」 桜花姫は室内の様子を確認したのである。 『此処って…武器庫みたいね!』 彼女が逃亡した場所とは城内の武器庫であり刀剣等の近接武器は勿論…。火縄銃等の銃火器やら弓矢も多数確認出来る。 『以前東大寺に出現した樹体千手観音みたいに手榴弾を入手出来るかしら♪』 今現在の桜花姫にとって武器庫は宝物の宝庫であり大喜びする。室内を探索してより数分後…。鉄球らしき物体を発見したのである。 『手榴弾だわ♪』 鉄球らしき物体は手榴弾であり桜花姫は大喜びする。 『手榴弾なら傀儡軍神を仕留められるかも知れないわね♪』 桜花姫は手榴弾の発見により勝利を確信したのである。 「えっ…」 数秒後…。通路からカラカラッと作り物らしき跫音が響き渡る。 『物音だわ…恐らく傀儡軍神ね…』 桜花姫は覚悟したのである。 『一か八かよ…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る武器庫から退室…。 「あんたは傀儡軍神…」 暗闇の通路には傀儡軍神が佇立する。 「サキホドノコムスメカ…シヌカクゴハデキタナ?」 傀儡軍神は再度抜刀すると身構える。 「傀儡軍神…覚悟するのはあんたよ!」 桜花姫は力一杯手榴弾を投擲…。 「キサマハ…イッタイナンノマネダ?」 投擲した手榴弾は傀儡軍神の足場に落下したのである。 「コンナモノデ…ワタシヲタオセルトデモ?シノキョウフデクルッタノカ?シンパイスルコトハナイ!スグニジゴクノソコヘ…オクッテヤル!」 傀儡軍神は余裕の態度であったが…。 「如何かしら♪」 桜花姫は失笑した表情で返答したのである。 「ン?」 『コムスメノ…タイドハナンダ?イッタイナニヲ…タクランデイル?』 傀儡軍神は桜花姫の態度に警戒し始める。 「傀儡軍神♪あんたは死滅するのね♪」 直後である。 「ナッ!?」 足場の手榴弾が炸裂し始め…。爆散したのである。傀儡軍神は手榴弾の爆発により全身が吹っ飛ばされ…。床面の彼方此方に木片やら金属製の歯車が飛散したのである。 「はぁ…」 『傀儡軍神を仕留められたわね…』 手榴弾によって傀儡軍神を退治出来…。城内の霊力が消失したのである。 『正直手榴弾を入手出来なかったら…殺されたのは私だったわね…』 今回は一か八かの大博打であり傀儡軍神を仕留め切れず…。戦場からの撤退か最悪敗死する可能性も否定出来ない。 『やっぱり妖星巨木の樹体は厄介ね…』 桜花姫は変化の妖術を発動…。床面に散乱した傀儡軍神の各部品を自身の大好きな桜餅に変化させたのである。 『変化の妖術♪成功ね♪』 桜花姫は大喜びした様子で無数の桜餅を頬張り始める。 『今回の事件は無事解決ね♪』 今回の事件後…。真夜中の城内では不吉の物音は響き渡らなくなる。
第九話
化身 武者人形の付喪神…。傀儡軍神との死闘から三日後の出来事である。東国の山奥にて老齢の僧侶と若齢の修行僧が真夜中の山道を前進する。二人は暗闇の山道を移動中…。 「和尚様…」 若齢の修行僧がビクビクした様子で発言する。 「如何したのだ?」 「真夜中の山道は不吉ですし…神出鬼没の悪霊が出現しそうですね…」 若齢の修行僧は非常に畏怖した様子だったのである。老齢の僧侶は修行僧の様子に呆れ果てるものの…。 「其方は修行不足だな♪聖職者が神出鬼没の悪霊に畏怖して如何するのだ?」 老齢の僧侶は悪霊に畏怖する若齢の修行僧を揶揄したのである。 「ですが和尚様…本当に神出鬼没の悪霊が出現しても可笑しくない雰囲気ですよ…山道は暗闇ですし…こんな場所で神出鬼没の悪霊と遭遇したら如何しましょう?」 若齢の修行僧は暗闇の山道に畏怖…。落涙したのである。 「其方は仕方ないな…」 極度に畏怖し続ける修行僧に老齢の僧侶は苦笑いする。 『こんな状態で大丈夫なのだろうか?小僧にとって僧侶への道筋は程遠いな…』 老齢の僧侶は内心若齢の修行僧が僧侶として本格的に活動出来るのは前途遼遠であると感じる。 「暗闇の山道は不吉かも知れないが…真夜中の山道も修行の一環だぞ♪其方は今回の修行で真夜中の山道を克服出来るかも知れないな♪」 「真夜中の山道も修行の一環なのかも知れませんが…和尚様…移動中に神出鬼没の悪霊にでも襲撃されたら如何するのですか?生憎修行僧の私は法力を扱えませんし…私は悪霊の餌食に…」 「悪霊の襲撃だと?」 悪霊の一言に老齢の僧侶は失笑したのである。 「悪霊か♪心配せずとも…本物の悪霊が出現したとしても私が法力を駆使すれば一目散に退散するだろうよ♪其方は安心するのだぞ♪」 「私は和尚様の法力に期待しますよ…」 『本当に大丈夫なのかな?正直期待出来ないかも…』 若齢の修行僧は正直不安がる。すると暗闇の道中…。不吉の物音が響き渡る。 「ん?物音か?」 「和尚様…一体何でしょうか?」 「気になるな…確認するか…」 「えっ…確認ですと!?大丈夫なのですか!?和尚様!?」 修行僧は非常に不安がる。 「不安であれば其方は目的地の東国に移動するのだ…」 「えっ…私一人で?」 修行僧は一人だけで暗闇の山道を移動するのは辛苦であると感じる。 『真夜中の山道は不吉だし…』 「仕方ないですね…和尚様…今回は私も同行しますよ…」 二人は物音が響き渡る場所へと移動し始める。接近し続けると物音の正体とは何者かが肉類を咀嚼する音質だったのである。二人は問題の場所へと到達するのだが…。周囲は漆黒の暗闇であり様子は確認出来ない。近辺の岩陰から様子を観察する。 「一体何でしょうか?和尚様?」 「非常に不吉だな…気配は非常に不穏だ…」 問題の場所には巨体の野獣らしき物体が血肉を頬張る様子だったのである。 「和尚様…山中の野獣でしょうか?非常に巨体ですね…」 「恐らくは其処等の獣類には該当しない…神族の化身だろうか?」 老齢の僧侶は巨体の野獣が神族の化身であると予想する。 「えっ…神族の化身ですと!?」 『こんな場所で神族の化身に遭遇するなんて…』 極度の戦慄からか若齢の修行僧は全身が身震いし始める。すると正体不明の化身は二人の話し声に反応したのである。 「なっ!?化身に気付かれたか…」 「和尚様!?神族の化身に気付かれました!如何しましょう!?」 若齢の修行僧は大騒ぎし始める。 「化身に気付かれたのであれば…止むを得ないか…」 老齢の僧侶は即座に数珠を所持…。念仏を唱え始める。 「和尚様…化身の成敗を!」 一方の化身は怯まず二人を凝視し続ける。次第に殺気立った表情で二人を睥睨したのである。 「ひっ!此奴は私では駄目だ!」 老齢の僧侶は一筋縄では神族の化身を浄化出来ないと判断…。一目散に逃走する。 「えっ!?和尚様!?」 化身は殺気立った様子で若齢の修行僧に接近し始める。 「ひっ!」 『殺される…』 若齢の修行僧も全身全霊で逃走したのである。彼等は一目散に逃亡してより数十分後…。二人は東国の城下町にて再度合流する。 「はぁ…はぁ…和尚様…」 「其方か…神族の化身から無事に逃走出来たのだな…」 若齢の修行僧は無事に生還出来…。涙腺から涙が零れ落ちる。 「其方が無事で良かった…」 二人は命拾い出来…。安堵したのである。 「ですが和尚様?先程の怪物は和尚様でも成敗出来ないのですか?」 若齢の修行僧が問い掛けると老齢の僧侶は恐る恐る…。 「先程の化身…非常に強力だぞ…彼奴は私一人では成敗出来ない…」 化身は想像以上に協力であり其処等の僧侶では対処出来ない。 「和尚様でも成敗出来ないなんて…先程の化身は一体何者なのですか?」 「私の予想だが…恐らくであるが彼奴の正体は大昔に極悪非道の人間によって惨殺された神族の亡霊なのだろう…」 「神族の…亡霊ですと?」 先程は周囲が暗闇であり視界が不良であったが…。 「恐らくだが…化身の正体は大昔に惨殺された犬神なのかも知れないな…」 「犬神の…化身ですか…」 老齢の僧侶は巨体の化身が野良犬の亡霊であると知覚する。 「和尚様の法力でも犬神の亡霊を浄化出来ないのなら…一体如何すれば犬神の亡霊を浄化出来るのでしょうか?」 老齢の僧侶は一瞬沈黙するが…。 「犬神の亡霊を浄化出来るとすれば…西国の最上級妖女…月影桜花姫様…彼女以外には存在しないだろうな…」 「西国の月影桜花姫様ですか…」 「桜花姫様…彼女なら犬神の亡霊を浄化出来るかも知れない…」 犬神の亡霊を浄化出来るのは最上級妖女の月影桜花姫以外には存在しないだろうと認識する。
第十話
因縁 翌朝の出来事である。僧侶の八正道は室内を清掃するのだが…。 「えっ?」 摩訶不思議の刀剣を発見したのである。 『ひょっとして刀剣でしょうか?』 八正道は恐る恐る刀剣に接触する。 「なっ!?」 『名刀の〔退魔霊剣〕では!?』 退魔霊剣とは国宝一級の名刀であり戦乱時代の英雄とされる最上級武士…。東国の軍神として熟知される夜桜崇徳王が所有した天道金剛石の刀剣である。戦乱時代では単なる刀剣として扱われるのだが崇徳王の没後…。神出鬼没の悪霊を征伐する名刀退魔霊剣と命名されたのである。当時の怨敵であった南国と北国の武士達の子孫達からは今現在でも不吉の妖刀として皮肉られる。 『如何してこんな国宝一級の代物が…私の寺院なんかに?』 不思議がる八正道であるものの…。フッと想起する。 『一昨年に知人に贈呈された代物でしたね♪』 一昨年にとある知人から退魔霊剣を頂戴した内容を忘却したのである。 「清掃中に退魔霊剣を発見出来たのは何かしらの因果関係かも知れませんね♪」 『折角ですし…退魔霊剣は記念品として私の自室にでも装飾しますかね♪』 八正道はルンルンとした気分で自室の屏風に退魔霊剣を装飾する。 『ですが退魔霊剣が五百年前の代物なんて…私には想像も出来ませんね…』 退魔霊剣は列記とした五百年前の代物であるものの…。非常に新品だったのである。八正道は退魔霊剣に魅了される。 『こんな新品の刀剣で♪大勢の悪者達を撃退出来れば…僧侶の私でも本物の武士みたいに大勢の村人達から敬愛されるのですがね♪』 八正道は自身が退魔霊剣で奮闘する光景を妄想したのである。 『明日の早朝にでも…暇潰しに西国の国境で素振りするのも悪くないですね♪』 翌日の早朝…。八正道は退魔霊剣を所持すると東国と西国の国境に位置する山道へと移動したのである。恐る恐る周囲の人通りを警戒する。 『早朝であれば国境の山道でも人通りは少数ですし…大丈夫でしょうね…』 時間帯は早朝で人通りも皆無であり八正道は力一杯素振りしたのである。 「常日頃の気苦労も解消出来ますし…最高ですね♪」 『私も歴史人物の夜桜崇徳王様みたいに大勢の悪者達を撃退して…誰かを守護したいですな♪』 八正道にとって戦乱時代に大活躍した夜桜崇徳王は憧憬の対象者であり八正道は只管に彼を意識する。八正道は無我夢中に何度も何度も素振りを反復し続ける。 『不寝番の桜花姫様みたいですが…極悪非道の悪霊でも出現しませんかね?』 神出鬼没の悪霊が出現しないか妄想したのである。 『退魔霊剣で極悪非道の悪霊を仕留められるのであれば…是非とも夜桜崇徳王様の退魔霊剣で極悪非道の悪霊を仕留めたいですな♪』 すると直後…。 「なっ!?」 突如として極度の胸騒ぎを感じ始めたのである。 『胸騒ぎでしょうか…』 突如として極度の死臭と強烈なる殺気が此方に接近するのを感じる。 『非常に不吉ですね…』 八正道は正体不明の気配に警戒したのである。 『極度の死臭と殺気…一体何が出現するのでしょうか?』 正体不明の不吉の気配は刻一刻と山道へと急接近する。 『気配の正体…人外なのは確実でしょうね…』 本来八正道は霊感が皆無であるものの…。今回は強烈なる殺意を感じる。 『一体何が接近中なのか?』 八正道が警戒し始めた数秒後…。全身が血塗れで規格外に巨体の野良犬が国境の山道に出現したのである。 「えっ…」 『血塗れの…野良犬!?』 八正道は規格外の野良犬にゾッとする。 『野良犬は怪物みたいに巨体ですね…此奴は一体何者でしょうか?』 左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野良犬は正真正銘神出鬼没の悪霊であると認識出来る。 『此奴は…野良犬の悪霊なのか!?』 野良犬の口先には咀嚼された肉片らしき物体が確認出来…。山中の野獣を捕食したのであると推測出来る。 『野良犬の悪霊は遭遇した山中の野獣でも食い殺したのでしょうか?』 八正道は極度の恐怖心により恐る恐る後退りする。 「殺気の正体は野良犬の悪霊だったのか…」 『人間の私でも感じられる強烈なる殺気…此奴は非常に厄介かも知れませんね…私は如何するべきか?』 八正道は野良犬の悪霊に殺害されるかも知れないと危惧するのだが…。 「えっ!?」 野良犬の悪霊と対峙すると不自然にも退魔霊剣がカタカタッと震え始める。 『退魔霊剣が…』 八正道は突然の超常現象に動揺するものの…。平常心に戻ったのである。 『ひょっとして退魔霊剣は私に野良犬の悪霊を仕留めろと?非力の私に野良犬の悪霊を仕留められるのか?』 本音としては逃亡出来るのであれば一目散に逃亡したい八正道であるが…。無表情で野良犬の悪霊を凝視する。 『現在地は東国と西国との国境…最前線の私が逃亡すれば東国にも西国の村里にも悪影響が…』 戦闘を放棄して逃亡すれば自身だけは命拾い出来るものの…。 『私が主戦場から逃亡すれば東国は勿論…西国の村里にも被害が及びましょう…何よりも西国の村里は桜花姫様が安住される武陵桃源…』 此処で戦闘を放棄すれば悪霊の暴走によって確実に大勢の村人達が惨殺されるのは明白である。 『最前線の私が全身全霊で桜花姫様の武陵桃源を死守しなくては!』 八正道は野良犬の悪霊との一対一の血戦を決意する。 「野良犬の悪霊よ…私と真剣勝負です!」 八正道の表情が変化すると野良犬の悪霊がピクッと反応したのである。野良犬の悪霊は鬼神の形相でギロッと八正道を睥睨し始める。 「なっ!?」 野良犬の悪霊は神速の猛スピードで八正道へと突進したのである。一方の八正道は野良犬の悪霊の突進を咄嗟に回避…。 『危なかった…』 八正道は回避に成功する。一方野良犬の悪霊は一直線に突進すると八正道の背後に位置する岩壁へと突っ込んだのである。 「はぁ…」 野良犬の悪霊の突進によって頑強なる岩壁が抉れる。 『危機一髪ですね…』 八正道は間一髪回避には成功したものの…。 『こんなのに突進されたら全身が粉砕されますね…』 野良犬の悪霊の想像以上の頑強さに戦慄したのである。八正道は野良犬の悪霊に戦慄するものの…。 『反撃しなくては!』 八正道は野良犬の悪霊に反撃したのである。 「野良犬の悪霊!覚悟するのです!」 八正道は神速の身動きにより野良犬の悪霊の背後へと移動…。野良犬の悪霊の背後から退魔霊剣で斬撃したのである。 『野良犬の悪霊を…仕留めたか!?』 八正道は手応えを感じるものの…。 「なっ!?」 野良犬の悪霊の姿形がパッと消滅する。 『ひょっとして先程の姿形は残像なのか!?』 野良犬の悪霊は神速の身動きによって八正道の斬撃を咄嗟に回避したのである。 『先程の姿形は悪霊の残像だったか…』 野良犬の悪霊は一瞬で八正道の背後へと移動する。 「神速の身動きだ…」 『野良犬の悪霊は一瞬の身動きで私の背後に移動したのか?』 すると野良犬の悪霊は再度ギロッとした鬼神の形相で八正道を睥睨した直後…。 「えっ?」 退魔霊剣がピカッと蛍光色に発光したのである。 『退魔霊剣が発光した…一体何が?』 すると全身に重苦しい殺気を感じる。天空一面が黒雲により覆い包まれる。 『天空が…黒雲に覆い包まれるなんて…』 直後…。ピカッと落雷が八正道の頭上より落下したのである。 『落雷か!?』 八正道は咄嗟の判断により落雷の回避に成功する。 「危機一髪だった…」 八正道は落雷を回避出来…。安堵したのである。 『ひょっとして退魔霊剣は私に生命の危機を予知したのか…』 すると突然…。 「貴様は僧侶の身分であるが…彼奴に酷似するな…」 野良犬の悪霊は突如として人語で発言し始める。 「なっ!?」 『人語で喋った!?』 八正道は突然人間の口言葉で発語した野良犬の悪霊に驚愕したのである。 「野良犬の悪霊は…人語で喋れるのか!?」 「貴様も彼奴と同様の反応であるな…」 「彼奴とは…一体誰なのでしょうか?」 八正道は恐る恐る野良犬の悪霊に問い掛ける。すると野良犬の悪霊は八正道の問い掛けに即答する。 「夜桜崇徳王と名乗る…愚劣なる人間の若武者である…」 「なっ!?」 『夜桜崇徳王だって!?』 野良犬の悪霊から夜桜崇徳王の名前を傾聴した直後…。八正道は何が何やら困惑したのである。 「ひょっとすると僧侶の貴様は…戦乱時代に実在した夜桜崇徳王と名乗る人間の武士の…再来であるな…」 「えっ…貴方は一体何を?」 『私が…夜桜崇徳王様の再来ですと!?』 野良犬の悪霊の発言に八正道は絶句する。 「貴様は雰囲気もだが…醜悪なる人間としては非常に清心であるからな…貴様は愚劣なる人間…夜桜崇徳王に共通する…」 「夜桜崇徳王様が…」 『ですが私の前世が…偉人の夜桜崇徳王様ですか♪』 八正道は自身が崇徳王の再来である事実に内心大喜びしたのである。 『こんな私が崇徳王様に共通するなんて…非常に感慨深いですね♪』 八正道は警戒した様子で恐る恐る…。 「貴方は列記とした神出鬼没の悪霊みたいですが…其処等の神出鬼没の悪霊とは異質的ですね…貴方は一体何者でしょうか?」 問い掛けられた野良犬の悪霊は即答する。 「私は邪霊餓狼とでも…五百年前の戦乱時代…醜悪なる人間達によって惨殺された野良犬の亡霊であるぞ…」 「野良犬の亡霊…邪霊餓狼…」 邪霊餓狼とは極悪非道の人間に惨殺された野良犬の亡霊である。単なる野良犬の悪霊と認識される反面…。汚染された自然界から誕生した悪霊の集合体とも呼称される。共通する伝承では邪霊餓狼は人間達に憎悪…。邪霊餓狼と遭遇した人間は確実に食い殺されるのが通説とされる。邪霊餓狼の肉体を死滅させたとしても邪霊餓狼の呪力は本体を死滅させた人間に憑霊…。邪霊餓狼に憑霊された人間は大勢の人間達を自身の呪力で呪殺するとされる。大勢の人間達を殺害し続けると最終的には邪霊餓狼の呪力に憑霊された人間の肉体は腐敗し始め…。腐敗した肉体は確実に崩れ落ちるとされる。 『悪霊は悪霊でも…最初に遭遇した悪霊が邪霊餓狼なんて…私は人一倍不運ですね…今回は私に対する試練なのでしょうか?』 八正道は自身の不運さに嫌悪したのである。 「ですが如何して今更邪霊餓狼が出現したのですか?」 邪霊餓狼は一瞬沈黙するものの…。 「今迄に愚劣なる人間の亡者達を利用したが…結局貴様達愚劣なる人間達を呪殺出来なかったからな…私自身が直接的に愚劣なる人間達を全滅しに顕現したのだ…」 邪霊餓狼の発言に八正道はピクッと反応する。 「ひょっとして今迄…各地の村里に出現した幾多の亡者達は…邪霊餓狼が意図的に出現させたのですか?」 八正道の発言に邪霊餓狼は即答したのである。 「勿論だとも…一年前に世界樹である妖星巨木に憑霊して…大勢の地獄の亡者達を利用したのも私自身であるからな…」 「邪霊餓狼…去年発生した悪霊大事件の黒幕は貴方だったのですね…」 妖星巨木とは本来純粋無垢で人畜無害の樹木であるが悪霊の集合体である邪霊餓狼の怨念が人畜無害の妖星巨木に憑霊…。戦乱時代で死去した大勢の亡者達を冥界から復活させ各地で村人達を襲撃させたのである。 「結局は…夜桜崇徳王の花嫁の…再来によって亡者達の暴走は阻止されたが…」 「崇徳王様の…花嫁の再来ですと?」 『ひょっとすると崇徳王様の花嫁の再来とは…月影桜花姫様でしょうか?』 八正道は崇徳王の花嫁の再来が桜花姫であると予想する。 「如何やら今回ばかりは幸運にも夜桜崇徳王の花嫁の再来は不在であるからな…非常に好都合である!」 「ですが今回は私が全身全霊で邪霊餓狼の野望を阻止しますよ!貴方は今回も各地の村里を襲撃するみたいですからね!」 八正道は強気で返答したのである。 「貴様は人間の分際で随分と強気であるな…手始めに僧侶の貴様を呪殺してから…愚劣なる人間達を殲滅するか…」 『僧侶を呪殺して僧侶の肉体に憑霊出来れば…花嫁の再来とて迂闊には手出し出来なくなるからな…』 邪霊餓狼は口先より高熱の火球を発射したのである。 「今度こそ死滅せよ!夜桜崇徳王の再来!」 「火球だと!?」 八正道は高熱の火球を一刀両断…。高熱の火球を斬撃したのである。両断された火球は八正道の背後にて爆散…。 「危機一髪ですね…」 『こんなのが直撃すれば私は即死したでしょうね…』 八正道の背後の地面には半球型のクレーターが形作られる。 『先程の火球で…天道金剛石の白刃が高熱で赤化するなんて…』 火球の灼熱によって退魔霊剣の白刃が赤化する。 『通常の刀剣であれば確実に屈折したでしょうね…』 邪霊餓狼は再度口先から高熱の火球を発射したのである。 「今度こそ死滅しろ!崇徳王の再来!」 「なっ!?」 八正道は咄嗟に火球を回避する。 『畜生…崇徳王の再来は間一髪回避したか…』 「愚劣なる人間の分際で私の攻撃を回避するとは…貴様が夜桜崇徳王の再来なのは決定的であるな…」 邪霊餓狼は再度鬼神の形相で八正道を睥睨…。 「崇徳王の再来!」 『今度こそ死滅せよ!』 邪霊餓狼は全身全霊で八正道に突進したのである。相手は猛スピードであり八正道は回避出来ない。 『止むを得ないか…』 八正道は咄嗟の斬撃で邪霊餓狼の右側の前脚を斬撃したのである。 「ぎゃっ!」 間一髪邪霊餓狼の右側の前脚を斬撃…。 「はぁ…」 『間一髪でしたね…』 八正道は邪霊餓狼の突進攻撃を無力化したのである。 『一歩間違えれば…殺害されたのは私だったでしょうね…』 前脚を斬撃された邪霊餓狼はバタッと地面に横たわる。 『此処で邪霊餓狼を仕留められれば…東国も西国の村里も無事に守護出来る…』 八正道は警戒した様子で恐る恐る衰弱化した邪霊餓狼へと近寄る。 「戦乱時代の悪霊…成仏せよ…」 瀕死の状態である邪霊餓狼を斬撃する寸前…。 「えっ!?」 『邪霊餓狼…』 八正道は斬撃したいが邪霊餓狼の悲哀の表情を直視すると手出し出来なくなる。 『駄目だ…悪霊だとしても私には殺せないな…』 八正道は自分自身が情けなく感じる。 「私が此処で元凶の邪霊餓狼を仕留めなければ…」 『東国と西国の大勢の村人達が殺害されるかも知れないのに…如何して私は瀕死の邪霊餓狼を仕留められないのか?』 相手が極悪非道の悪霊であっても衰弱化した表情を直視し続けると心苦しくなる。 「貴様は…こんな虫の息の悪霊を相手に躊躇いとは…所詮貴様の慈悲は愚劣なる夜桜崇徳王と同様であるな…貴様の躊躇いが愚劣なる人間達の殺戮に直結するのだ…」 「なっ!?」 八正道はゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じ始める。 『強烈なる殺意…邪霊餓狼は一体何を!?』 八正道は邪霊餓狼に警戒すると恐る恐る後退りする。 「崇徳王の再来よ…私の霊力で貴様の身動きを封殺する…覚悟するのだな…」 「私の身動きを封殺ですと!?」 すると突然…。 「ぐっ!」 『一体何が!?身動き出来ないとは…』 突如として八正道は身動き出来なくなる。 『ひょっとして邪霊餓狼の金縛りなのか?身動き出来なくなるなんて…』 邪霊餓狼の金縛りは非常に強力であり八正道は指先一本すら動かせない。 「金縛りで貴様の身動きを封殺したのだ…最早貴様は身動きしたくとも身動きが出来まい…崇徳王の再来よ…金縛りの気分は如何だろうか?」 邪霊餓狼は一息したかと思いきや…。 「私の霊魂は貴様の肉体に憑霊する…最早私には腐敗し掛けた野良犬の肉体も不必要なのだ!」 直後である。 『邪霊餓狼の肉体から…』 邪霊餓狼の肉体から黒煙が発生すると八正道の肉体へと憑霊し始める。 「なっ!?」 邪霊餓狼の肉体から発生した不定形の黒煙こそが邪霊餓狼の本体であり亡魂である。邪霊餓狼の亡魂は幽体離脱により八正道の肉体へと憑霊し始める。同時に目前の視界が黒化し始め…。 『目前の視界が…』 八正道の意識が遠退き始める。 「ぐっ!」 『私の意識が…』 邪霊餓狼の憑霊により八正道は完全に意識を喪失する。邪霊餓狼が八正道の肉体に憑霊した数秒後…。邪霊餓狼の野良犬の肉体が腐敗し始めると一瞬で崩れ落ちる。 「人間の肉体に憑霊出来たな♪思う存分に行動出来るぞ…」 『人間は人間でも…此奴は私が憎悪する夜桜崇徳王の再来であるからな♪思う存分に悪用出来そうだ…』 八正道の肉体に憑霊出来…。邪霊餓狼は大喜びする。 「即刻愚劣なる人間達を呪殺したい気分だが…」 『手始めに夜桜崇徳王の花嫁の…再来から呪殺するか…』 邪霊餓狼の霊体は八正道の肉体に憑霊した状態で西国の村里へと移動を開始…。標的である桜花姫の家屋敷へと直行する。
最終話
消滅 八正道の肉体に憑霊した邪霊餓狼が移動を開始してより同時刻…。 「えっ?」 桜花姫は不吉の気配に反応する。 『何かしら?』 桜花姫は自宅にて昼寝中であったものの…。 「近辺の山中から無数の霊力を感じるわ…」 『霊力の集合体が出現したのかしら?』 極悪非道の霊力の集合体を察知すると一目散に起床したのである。 「非常に強力だわ…」 『霊力だけなら以前退治した吸血貴婦人に匹敵するわね…』 無数の霊力は非常に強力であり霊力のみなら最上級悪霊の代表格とされる吸血貴婦人に拮抗する。 『東国との国境に悪霊の集合体が出現したのかしら?』 桜花姫は外出する直前…。 「えっ!?」 霊力が突然パッと消失すると霊力を感じられなくなる。 『如何して突然…』 「霊力が消失しちゃったのかしら?不吉だわ…」 桜花姫は警戒した様子でありソワソワし始める。 『一体…何が…出現したのかしら?』 「気味悪いわね…」 すると直後である。 「きゃっ!」 突然の何者かによる板戸のノックに驚愕する。 「突然誰よ?吃驚するじゃない…」 桜花姫は玄関の板戸へと移動したのである。 『一体…誰かしら?』 「何よ?」 彼女は警戒した様子で恐る恐る玄関の板戸を開放させる。 「えっ!?」 玄関口には血塗れの刀剣を所持した八正道が無表情で佇立する。 「誰かと思いきや…あんたは八正道様?」 桜花姫は突然の八正道の訪問に驚愕したのである。 「八正道様が私の家屋敷に訪問するなんて…一体如何して?」 何よりも気になるのは血塗れの刀剣であり僧侶である八正道が如何してこんな代物を所持するのか非常に気になる。 『刀剣なんて物騒だわ…如何して八正道様が血塗れの刀剣を?』 恐る恐る八正道の表情を直視…。 『八正道様…精気が感じられないわ…』 八正道の表情は精気が感じられない無表情だったのである。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。目前の人物は姿形こそ八正道本人なのだが…。 『相手は八正道様なのに…不吉だわ…』 人一倍温柔敦厚の八正道が別人みたいに感じられる。 『普段の八正道様とは別人みたいだわ…ひょっとして八正道は妖星巨木の事件みたいに何者かによって憑依されちゃったのかしら?』 桜花姫は八正道らしき人物に睥睨したのである 「あんたは一体何者よ?姿形は八正道様本人でも…中身は完璧に別物よね?」 すると八正道らしき人物が無表情で発言し始める。 「最上級の妖女である貴様には通用しまいか…一瞬で私の正体を見破られるとは…」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。 「はっ?あんたは一体何者なのよ?」 八正道らしき人物は桜花姫の問い掛けに即答する。 「私が誰かって?私は邪霊餓狼…一年前の戦闘では最上級妖女である貴様によって成仏させられた…悪霊の片鱗とでも…」 「悪霊の片鱗?邪霊餓狼ですって?」 桜花姫は何が何やら理解出来なかったのか珍紛漢紛だったのである。 「私は一年前に世界樹の妖星巨木に憑霊した悪霊…所謂悪霊の集合体だよ…」 「妖星巨木ですって!?」 桜花姫は妖星巨木の一言にピクッと反応する。 「あんたが妖星巨木に憑霊した悪霊の正体だったのね…」 邪霊餓狼は一年前の悪霊大事件の黒幕であり桜花姫は驚愕したのである。 「無論であるが…貴様の神通力によって霊体の九分九厘が浄化されたのは非常に無念であるぞ…」 「今現在のあんたは悪霊の集合体の…所謂残滓なのね…」 邪霊餓狼は余裕の態度であり表情が変化しない。 「如何やら今現在の貴様は一年前の戦闘みたいに莫大なる神通力を使用出来ないみたいだな…最強の妖女である貴様さえ呪殺出来れば其処等の愚劣なる人間達の殲滅は片手間である…」 邪霊餓狼にとって脅威なのは実質最上級妖女の桜花姫のみであり彼女以外の妖女やら人間達は虫けら同然だったのである。 『今現在の僧侶の肉体が死滅したとしても…再度別の人間に憑霊するだけだからな♪誰であっても私は仕留められない…相手が崇徳王の花嫁だったとしても同様だ♪』 本来邪霊餓狼の本体は不定形の霊体であり幽体離脱によって実体としての多種多様の生命体は勿論…。多種多様の器物にも自由自在に憑霊出来る。 「自身を最上級の妖女と豪語する貴様であっても…私が憑霊した人間の僧侶には手出し出来ないであろう♪」 桜花姫はピクッと反応する。 「あんたね…」 『私でも八正道様には妖術なんて使用出来ないわ…一体如何すれば…』 邪霊餓狼は困惑した桜花姫に冷笑したのである。 「如何やら貴様は本当に人間の僧侶には手出し出来ないみたいだな♪」 『夜桜崇徳王の再来に憑霊したのは正解であったな♪憑霊したのが別人であれば問答無用に猛反撃されただろうが…』 邪霊餓狼は退魔霊剣で桜花姫の右手首を斬撃…。 「きゃっ!」 桜花姫は掠り傷であったがバタッと床面に横たわったのである。 「最上級の妖女である貴様にとって…こんな人間の僧侶は妖術を駆使すれば簡単に仕留められるのに勿体無いな♪」 妖術を駆使すれば事態の打開は容易なのだが…。中身こそ邪霊餓狼であるが相手は恩人の八正道であり桜花姫は彼に手出し出来ない。 「いい気味だな…所詮貴様は荒唐無稽の妖術が使用出来なければ何も出来ない非力の小娘同然なのだ♪」 邪霊餓狼は八正道に手出し出来ない桜花姫に冷笑し続ける。 「ぐっ…」 『八正道様…』 極度の悲痛により桜花姫は精神的に参ったのか落涙し始める。 「夜桜崇徳王の花嫁の再来よ…本日が貴様にとって最期の命日である!皮肉にも貴様が自身の家族と豪語する人間の僧侶によって貴様は惨殺されるのだ!」 『勿論貴様が家族と豪語する僧侶も呪殺するから…無間地獄で崇徳王の再来とも再会出来るだろうが♪』 桜花姫は退魔霊剣で斬撃される寸前…。 「えっ…」 邪霊餓狼は寸前で身動きしなくなる。 「ぐっ!」 突如として邪霊餓狼の両腕が氷結したのである。 「なっ!?氷結だと!?妖術なのか!?一体何が発生したのだ!?」 邪霊餓狼の両腕が突然の氷結により退魔霊剣を扱えなくなる。 「えっ!?氷結?」 「危機一髪だったわね…桜花姫♪」 邪霊餓狼の背後には煌びやかな水色の着物姿…。花柄の扇子を所持する花魁の女性が佇立したのである。 「えっ…」 『彼女は花魁かしら?』 桜花姫は恐る恐る花魁の女性に問い掛ける。 「花魁みたいだけど…あんたは一体誰なの?ひょっとしてあんたも妖女かしら?」 花魁の女性は満面の笑顔で…。 「桜花姫♪私よ…私♪粉雪妖女の雪美姫よ♪」 「えっ!?あんたは…粉雪妖女の雪美姫だったの!?」 粉雪妖女の雪美姫は口寄せの妖術で復活してからは花魁として活動中だったのである。桜花姫は雪美姫の雰囲気が以前とは別人であり驚愕する。 『花魁の正体が雪美姫だったなんて…一瞬別人かと…』 「雪美姫…如何してあんたがこんな場所に?」 「西国の村里から薄気味悪い霊力を察知したのよ…問題の場所があんたの家屋敷だったのは正直意外だったけどね♪」 「一年前は敵対者だったあんたが…私に助太刀するなんて意外ね…」 桜花姫は雪美姫の行動が意外であると感じる。 「別に…私は単純に同族の妖女に手出しする人間が気に入らないだけよ…」 雪美姫は助太刀を否定したのである。 『雪美姫…強情ね…』 一方の桜花姫は雪美姫の発言に苦笑いする。 「雪美姫♪助太刀…感謝するわね♪」 桜花姫は雪美姫の助太刀にニコッと微笑んだのである。 「勘違いしないで!誰があんたの助太刀なんか…別に私はあんたなんて…」 雪美姫は表情が赤面し始め…。桜花姫の発言を再度否定したのである。 「私は人間の分際で妖女に手出しする此奴が気に入らないだけよ!」 すると邪霊餓狼は恐る恐る背後の雪美姫を凝視し始め…。 「貴様は…」 「あんた…何よ?」 邪霊餓狼は背後の雪美姫を睥睨したのである。 「如何やら貴様も…妖女の小娘みたいだな…」 「あんたは人間の僧侶みたいだけど…桜花姫に手出しするなら私は相手が人間の僧侶でも手加減しないわよ!」 雪美姫は強気の姿勢であったが…。 「雪美姫!八正道様には手出ししないで!」 桜花姫は雪美姫に切願する。 「えっ!?僧侶はあんたを殺そうと…」 「八正道様は悪霊に憑霊されただけなの!彼を殺さないで…」 雪美姫は恐る恐る両目を瞑目させる。 『彼自身は普通の人間なのに…八正道って僧侶の肉体からは無数の亡者達の霊力が感じられるわね…』 「人間の僧侶は極悪非道の亡者達に憑霊されちゃったのね…」 彼女は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫?此奴に憑霊した悪霊を除霊するとか…一度変化の妖術で僧侶を食い殺してから口寄せの妖術で再度僧侶を元通りに復活させるとか…出来ないの?」 雪美姫に問い掛けられた桜花姫であるが彼女は困惑した表情で…。 「生憎私は…除霊の妖術は苦手なのよね…」 「えっ…」 桜花姫は除霊の妖術が苦手であり雪美姫は拍子抜けする。 「あんたは…除霊の妖術が出来ないの?」 『桜花姫…今迄私はあんたが全能だって認識だったけど…』 桜花姫にも苦手分野が存在するのだと認識したのである。 「最強のあんたが除霊の妖術が苦手なんて…意外ね…」 「除霊の妖術は危険なのよ…」 『除霊に失敗すれば八正道様の人格を破壊する可能性だって否定出来ないし…』 現実問題として除霊の妖術は除霊に成功したとしても悪霊に憑霊された人間は最悪の場合…。副次効果により人格が破壊される可能性も否定出来ない。何よりも術者が不得意である場合は再起不能の精神崩壊により悪霊に憑霊された人間は廃人へと堕落する可能性も否定出来なくなる。何よりも邪霊餓狼は悪霊でも最強の一角である。除霊の妖術が成功したとしても何度でも他者へと憑霊出来る。 「除霊の妖術が駄目なら…一体如何すれば人間の僧侶から悪霊を除霊させられるのかしら?」 「一度変化の妖術で八正道様を桜餅に変化させて食べちゃえば簡単でしょうけど…人一倍食いしん坊の私でも八正道様を食い殺すなんて出来ないわ…」 『桜花姫にとって悪霊に憑霊された人間の僧侶は余程大切なのね…此奴は余程の聖人なのかしら?』 雪美姫は一人の人間を助力したい桜花姫が一瞬意外であると感じる。 『僧侶の身動きは封殺出来ても…私には彼を殺さずに除霊なんて絶対に出来ないし…一体如何すれば人間の僧侶に憑依した悪霊を除霊出来るのよ?』 雪美姫は困惑した直後…。 「桜花姫ちゃんよ♪如何やら間に合ったみたいだね♪」 「私が悪者を徹底的に征伐するから安心してね!」 突如として神族の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫が参上する。 「あんた達は蛇神の蛇体如夜叉婆ちゃんと山猫妖女の小猫姫!?如何してあんた達が私の家屋敷に…」 「西国の村里から極悪非道の霊力を察知したからね♪」 「現場が桜花姫ちゃんの家屋敷だったとはね…」 蛇神の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫も邪霊餓狼の強大なる霊力を目印に桜花姫の家屋敷へと参上したのである。 「えっ!?桜花姫姉ちゃん?悪者は?」 小猫姫は家屋敷全体を警戒するものの…。 「小猫姫よ…悪者はね…」 「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 蛇体如夜叉は苦笑いした表情で氷結により身動き出来なくなった八正道を恐る恐る指差したのである。 「えっ?八正道様でしょう?如何して刀剣を?」 蛇体如夜叉は呆れ果てた様子で八正道の肉体に憑霊した邪霊餓狼を直視する。 「邪霊餓狼も非常に執念深いね…最早戦乱時代は終焉したのに…」 「貴様…」 『此奴は老婆の分際で…』 邪霊餓狼は憤慨の表情で蛇体如夜叉を睥睨し始める。 「邪霊餓狼よ…今更人間達に復讐して如何するのさ?」 蛇体如夜叉の問い掛けに邪霊餓狼は即答したのである。 「貴様達は私を浄化出来たとしても…愚劣なる人間達は未来永劫戦乱時代を頻発させる…愚劣なる人間達を全滅させなければ今後も自然界は汚染させられるだけだぞ…貴様達は人間達の愚行を理解出来ないのか!?」 邪霊餓狼は感情的に発言する。 『最早復讐心と悪意の集合体である邪霊餓狼に説得は無意味だね…』 邪霊餓狼は亡者達の復讐心と悪意の集合体であり蛇体如夜叉は説得が不可能であると判断する。 「邪霊餓狼よ…覚悟しな…」 「貴様は…一体何を?」 「何って?今日があんたの命日だよ…」 蛇体如夜叉は左手が白蛇へと変化したかと思いきや…。蛇体如夜叉の左手である白蛇が八正道の肉体に接触したのである。直後…。 「ぐっ!」 『蛇神の蛇体如夜叉…愚劣なる人間達によって迫害された純血の神族が人間達に加勢するとは…』 八正道の肉体から不定形の黒雲が発生したのである。一方の蛇体如夜叉は神力の使用で疲労を感じる。 『こんな程度の神力だけで辛苦に感じるなんてね…私の寿命も…逼迫状態かも知れないね…』 蛇体如夜叉は平常心の様子であったが…。自身の寿命が逼迫した状態であると自覚し始める。 「不定形の黒雲だわ…ひょっとして邪霊餓狼の本体かしら?」 すると八正道は意識が消失した直後…。バタッと床面に横たわったのである。 「八正道様が…」 桜花姫は八正道の様子を心配する。 「桜花姫ちゃん…心配しなくても八正道は大丈夫だよ…」 「えっ…本当に八正道様は大丈夫なの?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「邪霊餓狼の霊体を除霊出来たから八正道は一時的に気絶しただけだよ…」 「八正道様は無事なのね…」 桜花姫は蛇体如夜叉の発言によりホッとしたのである。一方の小猫姫と雪美姫は蛇体如夜叉と桜花姫の会話にポカンとする。 「あんた達…先程から何を?邪霊餓狼の霊体って何かしら?」 「私にも何が何やら…不定形の黒雲なんて確認出来ないよ…桜花姫姉ちゃん?一体何が発生したの?」 『小猫姫と雪美姫…二人には邪霊餓狼の霊体が認識出来ないのね…』 邪霊餓狼の霊体を認識出来るのは神性妖術天道天眼の所有者と神族のみであり普通の人間は勿論…。凡庸の妖女では邪霊餓狼の霊体は認識出来ない。 「邪霊餓狼の憑霊から無事に八正道を解放出来たからね…今度こそ桜花姫ちゃんの出番だよ♪思う存分に邪霊餓狼を昇天させちゃいな♪」 桜花姫は蛇体如夜叉の効力に驚愕したのである。 『物理的に八正道様の肉体から邪霊餓狼を除霊させちゃうなんて…』 桜花姫は蛇体如夜叉の神力に驚愕するものの…。即座に変化の妖術を発動する。 「邪霊餓狼の霊体!覚悟しなさい!あんたは私の大好きな桜餅に変化しちゃえ!」 すると不定形の霊体である邪霊餓狼が白煙を発生させたと同時に…。ポンッと小皿に配置された桜餅に変化したのである。小猫姫と雪美姫は桜餅として実体化した邪霊餓狼を直視する。 「えっ!?突然桜餅が!?桜花姫姉ちゃんの妖術なの?」 「不定形の霊体さえも桜餅に変化させちゃうなんて…桜花姫は天道の化身かしら?」 小猫姫と雪美姫は荒唐無稽の桜花姫に苦笑いしたのである。 「桜餅を頂戴するわね♪」 桜花姫は実体化した桜餅をパクっと一口で頬張る。 「やっぱり神出鬼没の悪霊でも♪桜餅に変化させると美味だわ♪」 「桜花姫ちゃん♪本日で戦乱時代の因縁を完全に浄化させたね…」 小猫姫は蛇体如夜叉に問い掛ける。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?結局邪霊餓狼って何者だったの?」 「邪霊餓狼は戦乱時代に極悪非道の人間によって殺されちまった野良犬の悪霊だよ…邪霊餓狼は自然界から誕生した悪霊でね…多種多様の悪意と怨念を吸収するから多種多様の悪霊を実体化させられるのさ♪所謂亡者達の悪意と復讐心の集合体だね…」 「今迄各地の村里に出現した悪霊は邪霊餓狼が復活させたの?」 「勿論♪一年前の悪霊大事件で妖星巨木に憑霊して大量の悪霊を復活させたのも邪霊餓狼の霊体だからね…一年前の悪霊大事件では桜花姫ちゃんと小猫姫の力戦で霊体の九分九厘を浄化させられたけれど…今回は霊体の片鱗が八正道の肉体に憑霊しちゃったみたいだね…」 すると蛇体如夜叉は小声でボソッと発言したのである。 「五百年前の元祖妖女…桃子姫が健康体ならば邪霊餓狼は完全に浄化されたのだけれどね…彼女は病弱で非力だったから邪霊餓狼を浄化し切れなかったのさ…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん?桃子姫って誰なのよ?」 一同は桃子姫の名前に反応する。 「桃子姫はね…所謂桜花姫ちゃんの前世だよ…」 「えっ!?前世ですって!?」 桜花姫の前世の一言に一同は驚愕したのである。 「桃子姫って元祖妖女が…桜花姫姉ちゃんの前世なの!?」 「桜花姫の前世が…元祖妖女ですって!?」 「桃子姫って妖女が…私の…前世?」 「桃子姫はね…」 蛇体如夜叉は五百年前の伝承である桃子姫の伝説を一部始終力説する。桃子姫の伝説を傾聴した一同は絶句…。三人とも落涙し始めたのである。 「戦乱時代って…想像以上に壮絶だったのね…」 「桃子姫って妖女…気の毒だね…」 「えっ…あんた達…」 『別に落涙しなくても…』 落涙…。沈黙した桜花姫一同に蛇体如夜叉は苦笑いする。 「何よりも今回の一件で邪霊餓狼は完全に浄化させられたからね♪金輪際桃源郷神国では神出鬼没の悪霊は出現しなくなるだろうよ♪」 「えっ…今後は悪霊が出現しないのね…」 「神出鬼没の悪霊は金輪際出現しないのね♪」 「桜花姫姉ちゃん♪今後は悪霊が村里に出現しないから一安心だね♪」 悪霊の根絶に小猫姫と雪美姫は大喜びするものの…。桜花姫はパッとしなかったのか寂然とした表情だったのである。こんな彼女に蛇体如夜叉は恐る恐る問い掛ける。 「桜花姫ちゃん?大丈夫かい?」 「私は大丈夫だけれど…」 彼女は寂然とした表情で一息したのである。 「正直…今後は悪霊征伐が出来なくなるから…毎日の生活が退屈だなって…」 桜花姫の返答に雪美姫は呆れ果てる。 『桜花姫…毎日の生活が退屈って…』 「あんたは相当の異端者ね…神出鬼没の悪霊なんて四六時中出現されたら傍迷惑でしょうに!悪霊天国なんて私は懲り懲りだわ!」 すると蛇体如夜叉がボソッと発言したのである。 「今回で邪霊餓狼が完全に浄化されたとしても…人間達が再度戦乱時代みたいな悲劇を頻発させた場合は今後も第二…第三の邪霊餓狼が出現するかも知れないからね…今後とも人間達が殺し合う戦乱時代は絶対的に阻止しないと!」 「勿論だよ!蛇体如夜叉婆ちゃん!今後は私も桜花姫姉ちゃん達と一緒に人間の悪者を征伐するから安心してね!」 豪語する小猫姫に雪美姫は苦笑いする。 『山猫妖女の小猫姫は桜花姫の後継者なのかしら?』 蛇体如夜叉は沈黙し続ける桜花姫に満面の笑顔で…。 「桜花姫ちゃんよ♪あんたは金輪際匪賊征伐に専念しな♪」 桜花姫はボソッと返答する。 「勿論よ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 すると直後…。 「桜花姫ちゃんよ…如何やら彼が目覚めたみたいだね…」 気絶した八正道が恐る恐る目覚める。 「八正道様!?」 「えっ?私は今迄…一体何を?此処は…」 八正道は警戒した様子でハッとしたのである。 「桜花姫様ですか!?悪霊は!?私は即刻野良犬の悪霊を征伐しなくては!」 蛇体如夜叉は満面の笑顔で八正道にポンっと接触する。 「八正道よ♪一安心しな…野良犬の悪霊なら桜花姫ちゃんが成仏させたから僧侶のあんたが心配しなくても大丈夫だよ♪」 「えっ!?桜花姫様が…野良犬の悪霊を成仏させられたのですか…」 八正道は一安心したのかホッとしたのである。 「桜花姫様の妖術で悪霊は無事に成仏させられたのですね…一件落着ですな♪」 すると桜花姫は落涙し始める。 「うわっ!桜花姫様!?」 桜花姫は力一杯八正道の腹部に密着し始める。一方の八正道は突然の出来事に吃驚したのである。 「一体如何されましたか?」 「八正道様!」 『桜花姫様…』 雪美姫が恐る恐る八正道に近寄る。 「人間の僧侶?あんたの名前は八正道だったわね…」 「私は僧侶の八正道ですが…一体如何されましたか?」 雪美姫は鬼神の形相で八正道を睥睨し始める。 「八正道は悪霊に憑霊されちゃったみたいだけど…あんたは桜花姫に手出しする寸前だったのよ…あんたは即刻桜花姫に謝罪しなさい!下手すれば桜花姫はあんたの過失で殺されるかも知れなかったのよ…」 「えっ!?僧侶である私が…恩人の桜花姫様を殺そうと…」 八正道は極度の精神的ショックにより絶句したのである。 『僧侶の私が…恩人の桜花姫様に手出しを…』 八正道の涙腺から涙が零れ落ちる。 「今回は私にとって人生最大の過誤です…」 落涙する八正道に桜花姫は満面の笑顔で…。 「八正道様…気にしないで♪今回ばかりは仕方ないわよ…」 「ですが桜花姫様…私は桜花姫様に前代未聞の愚行を…」 「八正道様は悪霊に憑霊されただけだから八正道様は何も悪くないわよ♪八正道様が無事で何よりだから♪」 「私は悪霊によって憑霊されたかも知れませんが桜花姫様に手出ししたのは周知の事実みたいですし…私にとって今回の過誤は一生の不覚です…」 「気にしないの♪八正道様♪」 「ですが桜花姫様!私は何としてでも桜花姫様に贖罪しなければ駄目なのです!」 彼自身今回の罪悪を贖罪しなければ一生後悔するのではと感じる。すると桜花姫は満面の笑顔で発言する。 「八正道様が如何しても贖罪したいのであれば♪東国の和菓子屋で桜餅を腹一杯頬張らせてよ♪」 「えっ!?桜餅って…」 「贖罪が桜餅なんて…」 『桜花姫ちゃんらしい返答だね…』 桜花姫の発言に一同はポカンとした反応である。 「贖罪は贖罪でも桜花姫にとっての贖罪は非常に軽薄なのね…」 『桜花姫らしい回答だけれども…』 一同は苦笑いする。 「八正道様♪即刻東国の和菓子屋に直行しましょう♪」 「勿論ですとも♪桜花姫様♪」 桜花姫と八正道は東国の和菓子屋へと直行したのである。 完結
第参部 特別編
第一話
石像 無数の悪霊の集合体であり悪霊の黒幕とされる邪霊餓狼が完全消滅してより半年後…。世界暦五千二十三年十二月上旬の出来事である。南国の海域では十数人もの漁師達が石化する摩訶不思議の超常現象が発生する。数日間が経過すると南国の砂浜では石化した無数の漁師達が聳え立ったのである。超常現象の正体が気になった桜花姫は真昼の時間帯…。南国の海岸に位置する砂浜へと直行したのである。 『何かしら?漁師達の石像みたいだけど?』 海岸の砂浜には木造の漁船が数隻と十数体もの石像が確認出来る。 『精巧に形作られた石像だけど…』 僅少であるが…。 『生命力だわ…』 漁師達の石像から生命体の生命力が感じられる。 『気味悪いわね…石像の正体は一体何かしら?』 石像は非常に気味悪いのだが…。 『止むを得ないわね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る石像に近寄ったのである。 『恐らくだけど悪霊の仕業かしら?』 桜花姫は今回の超常現象が悪霊の仕業であると予想するのだが…。 『悪霊は元凶の邪霊餓狼が半年前の一件で消滅しちゃったし…神出鬼没の悪霊は該当しないわよね…』 神出鬼没の悪霊は主要因とされる邪霊餓狼が消滅した影響により出現しなくなる。 『悪霊以外の仕業だとすれば…ひょっとして妖女の仕業かしら?』 荒唐無稽の妖女の可能性が濃厚であり今回の怪異事件は妖女の仕業であると各地で噂話が出回る。 『今回の石像事件が誰の仕業なのか明確化させないと!』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る一体の漁師の石像に接触する。 『漁師の石像から人間の生命力を感じられるわね…』 「石像の正体は人間の漁師達かしら?」 今度は別の石像に接触したのである。 『やっぱり彼等が超常現象で石化した漁師なのは確実みたいね…』 砂浜の石像を一通り確認すると石像の正体は石化した漁師達であると認識する。 『妖女特有の妖力は感じられないのよね…』 不可解にも石像の表面からは妖力は感じられなかったのである。 「悪霊は勿論…妖女も該当しないわね…」 『一体誰の仕業なのかしら?』 彼是と思考した直後…。 『海中から不吉の気配を感じるわ…何者かしら?』 近海の海中より異様の気配を感じる。 『妖力とは別物だわ…一体何が海中に…』 海中から感じられる異様の気配が気になるのか桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。銀鱗の人魚に変化したのである。 『兎にも角にも海中に直行よ!』 桜花姫は人魚の状態で恐る恐る暗闇の海中へと直行…。異様の気配の感じる場所へと驀進したのである。 『気配の正体は何かしら?』 海中は意外にも漆黒の暗闇であり遊泳中の魚類は確認出来ても異様の物体は何一つとして確認出来ない。 『こんなにも漆黒の暗闇では気配の正体を特定するのは困難だわ…』 すると直後である。強大なる殺気が猛スピードで自身に接近するのを感じる。 「殺気!?」 桜花姫は接近中の殺気に警戒したのである。 『殺気の正体は一体何かしら?』 気配に警戒してより数秒後…。 『気配の正体…海蛇かしら?』 暗闇の海中より巨大海蛇らしき移動物体が急接近する。桜花姫は巨大海蛇らしき移動物体と対峙したのである。 「あんたはひょっとして…」 巨大海蛇らしき移動物体とは上半身が巨体の人間の女性…。下半身が巨大海蛇の人獣生命体である。 「あんたは最上級アンデッドの…アビスラメイアスだったかしら?」 巨大移動物体の正体とは最上級の巨大女性型深海底アンデッド…。アビスラメイアスだったのである。 『此奴は以前…アクアユートピアに出現した個体とは別物なのかしら?』 するとアビスラメイアスは桜花姫を直視し始める。 「ひょっとしてあんたは異国の人魚かしら?」 「異国の人魚なんて…私は最上級妖女の月影桜花姫よ…」 桜花姫はアビスラメイアスに自身の名前を名乗ったのである。 「最上級妖女の月影桜花姫ですって?何方にせよ…あんたが異国の魔法使いなのは確実みたいね♪」 アビスラメイアスは空腹なのか満面の笑顔で桜花姫を凝視し続ける。 「美味しそうな肉感だわ♪あんたは私の餌食として食べられちゃいなさい♪」 「私こそ空腹なのよね♪あんたこそ私に食べられちゃいなさい♪」 一方の桜花姫も満面の笑顔で返答したのである。 「早速♪アビスラメイアスは私の大好きな桜餅に変化しちゃいなさい♪」 桜花姫はアビスラメイアスを相手に変化の妖術を発動する。 「えっ?あんたは私に何したのかしら?ひょっとして小細工とか♪」 数秒間が経過するものの…。 「えっ…如何して?」 変化の妖術は発動されず標的のアビスラメイアスは桜餅に変化しない。 『如何して彼女には変化の妖術が発動しないのよ!?』 桜花姫は桜餅に変化しないアビスラメイアスに動揺したのである。 「ひょっとしてあんたは私に魔法を駆使したのかしら?」 アビスラメイアスは失笑し始める。 「残念だったわね♪異国の魔女♪私にはあんたの魔法は通用しないわよ♪」 アビスラメイアスは器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に妖力を吸収出来る。当然妖力を吸収出来るアビスラメイアスには荒唐無稽の妖術等は通用しない。 『アビスラメイアスには妖術が無力化されちゃうのよね…迂闊だったわ…』 桜花姫はアビスラメイアスに変化の妖術を駆使するも無力化され…。アビスラメイアスが魔力を吸収する性質を完全に度忘れしたのである。するとアビスラメイアスは満面の笑顔で…。 「あんたの魔力は非常にデリシャスだったわ♪余計に魔法使いのあんたを食べたくなったわ♪」 一方の桜花姫はアビスラメイアスに警戒したのか恐る恐る後退りしたのである。 「後退りしちゃって♪あんたは如何しちゃったのかしら♪」 アビスラメイアスは後退りし始める桜花姫に冷笑する。 「あんたはこんな場所で私に遭遇したのが不運だったのよ♪あんたは私の獲物だから絶対に見逃さないわよ♪覚悟するのね♪」 「ぐっ…」 『人魚に変化し続けた状態では妖力が消耗しちゃうし…アビスラメイアスには妖術は通用しないし…如何しましょう?』 海中では妖力の消耗が桁外れであるばかりか相手は妖術が通用しない吸収系統の強敵である。普段は冷静沈着の桜花姫でも戦場が暗闇の海中では苦悩する。 『口寄せの妖術で異国の武器を口寄せする以外には…』 「あんたの名前は月影桜花姫だったかしら♪」 「私が桜花姫だから何よ…」 「桜花姫…あんたは陸地の砂浜で無数の石像と遭遇したかしら?」 「砂浜の石像って…漁師達の!?」 桜花姫はアビスラメイアスの問い掛けに反応したのである。 「彼等は私の魔法で石化した人間達なのよ♪」 アビスラメイアスは桜花姫の反応にニヤリとする。 「芸術的でしょう♪」 「何が芸術的なのよ…」 桜花姫は芸術的と表現するアビスラメイアスにドン引きしたのである。 「生身の人間を石像に変化させるなんて非常に悪趣味だわ…気味悪いだけなのよ…」 芸術的と豪語するアビスラメイアスに桜花姫は全否定…。アビスラメイアスの悪趣味に呆れ果てる。 「結局漁師達を魔法で石化させたのはあんただったのね…アビスラメイアス…」 「魔女のあんたも私の魔法で石化させるから安心なさい♪」 すると直後である。アビスラメイアスの両目が赤色に発光したかと思いきや…。 「えっ?」 桜花姫は身動き出来なくなり一瞬で身体髪膚が石化したのである。アビスラメイアスの魔法で石像へと変化した桜花姫は暗闇の海底下へと落下し始め…。数分間で海底下へと着地する。 『異国の魔女は石化したわ…他愛無いわね♪』 アビスラメイアスは全身が石化した桜花姫の落下地点へと移動したのである。 「石像を発見したわ…」 『異国の魔女ね♪』 アビスラメイアスは猛スピードで桜花姫の落下地点へと接近する。 『随分と可愛らしい石像が完成したわね♪』 アビスラメイアスは石化した桜花姫の石像を最高傑作と高評価したのである。 『彼女は今迄で最高傑作だわ♪』 アビスラメイアスは石化した桜花姫の石像の表面に接触する。 『彼女は完全に衰弱死しちゃってから食べちゃいましょう♪』 海底下で衰弱化した段階で桜花姫を捕食する魂胆だったのである。 「彼女の完成度は抜群だからね…正直石化した桜花姫を生身の状態で食べちゃうのが勿体無いわね♪」 『私のコレクションとして彼女を装飾するのも悪くないかも知れないわ♪』 アビスラメイアスは表情が赤面し始め…。 『折角の記念品だからね♪彼女の石像にキスしちゃおうかしら♪』 アビスラメイアスは石化した桜花姫の表面にキスしたのである。石像の表面にキスした直後…。 「えっ!?」 桜花姫の石像から白煙が発生したかと思いきやポンッと消滅したのである。 『一体何が発生したの!?』 アビスラメイアスは突如として消滅した桜花姫の石像に驚愕する。 「桜花姫は!?如何して桜花姫の石像が消滅しちゃったのよ!?」 『彼女は一体!?』 するとアビスラメイアスの背後より気配を感じる。 「えっ!?あんたは!?」 背後には人魚状態の桜花姫が満面の笑顔でアビスラメイアスを凝視する。 「残念だったわね♪アビスラメイアス♪」 対するアビスラメイアスは予想外の事態に動揺し始める。 「桜花姫!?あんたは私が魔法で石化させたのよ!?一体何が…」 「あんたが魔法で石化させたのは私の分身体だったのよ♪」 「はっ?分身体ですって?」 桜花姫はアビスラメイアスが石化の魔法を発動させる直前に分身の妖術を発動したのである。アビスラメイアスの石化の魔法で身体髪膚が石化したのは彼女の分身体…。桜花姫本体は無事だったのである。 「アビスラメイアス♪今度は私が反撃するからあんたは覚悟なさいね♪」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。 「えっ?何かしら?」 アビスラメイアスの頭上より巨大ワームホールが発生したのである。 『ワームホールみたいね…』 すると巨大ワームホールの中心部から数発の爆雷が出現…。アビスラメイアスの周囲より数発の爆雷が落下したのである。 「えっ…今度は何かしら?」 『ひょっとして…水中用の爆弾とか?』 アビスラメイアスは周囲の物体が水中用の爆弾であると気付いたものの…。 「なっ!?」 数発の爆雷が目前で起爆し始める。 「ぎゃっ!」 アビスラメイアスは爆雷の起爆で肉体がバラバラに粉砕され…。暗闇の海中では彼女の鮮血やら肉片が飛散する。 『アビスラメイアスを仕留めたわね♪』 「一件落着だわ♪」 元凶であるアビスラメイアスを仕留めた影響からか海岸の砂浜で石化した漁師達も元通りの生身の肉体に戻ったのである。 『石像事件も無事に解決出来たし♪私は西国の村里に戻ろうかしら♪』 桜花姫は自身の肉体に再度口寄せの妖術を発動…。暗闇の深海底から自宅へと無事に戻れたのである。
第二話
千里眼 最上級の深海底アンデッドであるアビスラメイアスとの大海戦から三日後…。時間帯は夕方である。 『極楽♪極楽♪』 桜花姫は毎日の日課である精霊故山の露天風呂にて入浴する。 『精霊故山の温泉は一日分の妖力が蓄積されるわね♪』 精霊故山の露天風呂に入浴すると一日分の浪費した妖力が蓄積されたのである。 「やっぱり精霊故山の露天風呂は最高だわ♪」 『消耗した妖力も自然に蓄積されちゃうし♪湯加減も良好ね♪』 桜花姫は露天風呂の湯加減に大満足するのだが…。 「折角だし♪」 『変化の妖術を駆使しちゃいましょう♪』 彼女は十八番である変化の妖術を駆使する。変化の妖術を発動すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。すると同時に長髪の黒髪が銀髪に変色…。小柄の人間の状態から銀鱗の人魚の姿形へと変化し始める。 『変化の妖術♪完了ね♪』 桜花姫は人魚に変化した状態から露天風呂にて遊泳したのである。西国の村里は温泉郷として有名である反面…。精霊故山の露天風呂に入浴するのは桜花姫が大半である。地元民の彼女を除外すると桜花姫以外の妖女やら人間は滅多に精霊故山の露天風呂へは入浴しない。実質精霊故山の露天風呂は常連客の桜花姫が私物化した状態だったのである。 「なっ!?」 すると突然…。 『妖力だわ…』 近辺より妖女特有の僅少の妖力が精霊故山の露天風呂に接近するのを感じる。 『妖女なのは確実ね…』 「一体誰なのかしら?」 妖力を察知した桜花姫は恐る恐る背後の様子を警戒したのである。 「えっ?あんたは…」 桜花姫の背後には水色のロングドレスを着用した金髪碧眼の白人女性が佇立する。 「貴女様はイーストユートピアの魔法使い…月影桜花姫様でしょうか?」 「えっ?ひょっとしてあんたは人魚王国アクアユートピア出身者の…アクアヴィーナスの母様かしら?」 精霊故山の露天風呂に来訪したのはアクアユートピア出身者の一人…。アクアヴィーナスの実母アクアキュベレーだったのである。 「如何しちゃったのよ?深海底のアクアユートピアからこんな場所に入国するなんて…今度もアクアユートピアで大事件でも発生したのかしら?」 桜花姫が問い掛けるとアクアキュベレーは深刻そうな表情で…。 「桜花姫様!大変です!」 「えっ?何が大変なのよ?」 『ひょっとして今回もアクアユートピアで大事件が発生したのかしら♪』 桜花姫は驚愕した様子であるが内心大事件発生に期待したのである。アクアキュベレーの様子から一大事であると察知する。 「一昨日の出来事なのですがね…」 「一昨日の出来事ですって?何が発生したのよ?」 アクアキュベレーはソワソワした表情で恐る恐る口述し始める。 「アクアヴィーナスが気分転換に地上世界へと出掛けて以降…彼女は全然アクアユートピアに戻らなくて…」 今日より二日前の出来事である。深海底の魔女ダークスキュランと無数の深海底アンデッドによる大騒ぎから一年後…。アクアヴィーナスは久方振りの気分転換に地上世界へと出掛けたのである。彼女が出掛けてから二日間が経過するのだが…。アクアヴィーナスは人魚王国アクアユートピアへは戻らなかったのである。 「二日間が経過しても…アクアヴィーナスが自宅に戻らないの?」 「彼女が出掛けても普段なら四時間程度…場合によっては二時間程度で帰宅するのですが…今回ばかりは二日間が経過しても戻りません…」 「えっ…」 『二時間程度って…アクアヴィーナスは本当に小心者だわ…』 桜花姫は呆れ果てた様子で苦笑いする。アクアヴィーナスは人一倍小心者であり半日間出歩くだけでも彼女にとってはハイレベルであり普段は短時間で帰宅するのが通例である。桜花姫は恐る恐るアクアキュベレーに問い掛ける。 「アクアヴィーナスの母様?深海底魔女のダークスキュランには彼女の捜索を依頼しなかったのかしら?」 「えっ!?」 桜花姫が問い掛けるとアクアキュベレーはビクッと反応する。 『彼女の様子から判断して…深海底魔女のダークスキュランには依頼しなかったみたいね…』 アクアキュベレーの様子に桜花姫は苦笑いしたのである。 「御免なさい…桜花姫様…」 一方のアクアキュベレーは正直に告白する。 「非常に心苦しいのですが…私は人一倍深海底魔女のダークスキュランが苦手でして…彼女に依頼は勿論…相談すら出来ませんでした…」 「彼女は深海底では最強の深海底魔女でしょうし…ダークスキュランの魔法だったら小心者のアクアヴィーナスが行方不明でも簡単に発見出来そうよ…」 アクアキュベレーにとって深海底魔女のダークスキュランはトラウマの対象であり桜花姫が口寄せの妖術により浄化された状態でダークスキュランは復活出来たものの…。国内では深海底の魔女である彼女を毛嫌いする人魚の平民達も少なくない。 『彼女は一度アクアユートピアを侵略した張本人だからね…首謀者のダークスキュランが国内の人魚達に信用されないのは自業自得だから仕方ないわね…暇潰しにアクアヴィーナスの捜索に協力しますかね♪』 桜花姫はニコッと微笑み始める。 「承知したわ♪アクアヴィーナスの母様♪最上級妖女の私がアクアヴィーナスの捜索に協力するわよ♪」 「感謝しますね♪桜花姫様♪」 アクアキュベレーは一安心したのか笑顔が戻ったのである。 「アクアヴィーナス…彼女の現在地を特定するなら…」 『こんな場合こそ…千里眼の妖術が有効なのよね…』 桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させる。 『千里眼の妖術…発動!』 千里眼の妖術とは広範囲に存在する物体やら特定の人物を正確に知覚出来る感知系統の高等妖術である。当然背後からの透視能力も発揮出来る。 『アクアヴィーナスの行方は?』 千里眼の妖術を発動すると桜花姫の脳内より…。広大なる青海原を航行中の大型帆船が一隻発現されたのである。 「えっ…何かしら?」 『青海原に…異国の…軍船みたいね…』 大型帆船は船体に無数の大砲を装備…。 『船内の旗印が髑髏模様?非常に物騒だわ…』 船内には人間の髑髏らしき黒色の旗印が確認出来る。すると船内の密室には拘束された状態の小柄の赤髪童顔美少女がソワソワした表情で落涙するのを発見…。 「えっ!?」 『彼女は…』 拘束された童顔美少女はピンク色のロングドレスに頭髪は赤毛のストレートロングだったのである。 『ひょっとして彼女は行方不明のアクアヴィーナス!?彼女は何者かに拘束されたのかしら!?』 船内の密室で拘束された状態の赤髪童顔美少女が人魚のアクアヴィーナスであると確信する。以上の光景から桜花姫は恐る恐る…。 「アクアヴィーナスの母様…行方不明のアクアヴィーナスを発見したわよ…」 するとアクアキュベレーはハッとした表情で反応する。 「えっ!?本当ですか!?桜花姫様?」 アクアキュベレーは緊張した様子であり恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「彼女は…アクアヴィーナスは無事なのですか!?桜花姫様!?」 桜花姫は深刻そうな表情で問い掛けるアクアキュベレーに笑顔で返答する。 「如何やらアクアヴィーナスは無事みたいよ♪安心なさい♪」 「はぁ…アクアヴィーナスは無事でしたか…」 桜花姫は行方不明のアクアヴィーナスが無事であると返答するとアクアキュベレーはホッとしたのである。アクアキュベレーはアクアヴィーナスの無事に一安心するものの…。彼女は再度桜花姫に問い掛ける。 「ですが彼女は…アクアヴィーナスの居場所は一体?」 「アクアヴィーナスは異国の軍船なのかしら?彼女は船内の密室で拘束された状態だったわ…」 桜花姫は険悪化した表情で返答したのである。 「えっ!?異国の軍船ですって!?如何して彼女が異国の軍船なんかに…」 「私が千里眼の妖術で確認したのは髑髏模様の旗印の軍船だったわ…アクアヴィーナスが軍船の船内で拘束された状態なのは確実よ…ひょっとして人攫いかしら?」 アクアキュベレーは髑髏模様の旗印に反応する。 「桜花姫様が魔法で確認された異国の軍船の正体とは…ひょっとすると海賊団の海賊船では?」 「えっ?海賊団の海賊船ですって?海賊団って…何かしら?」 桃源郷神国では海賊団と命名される専門的用語が皆無であり桜花姫は海賊団の意味が理解出来なかったのである。 「海賊団はね…」 海賊団とは海上で略奪行為を実行する盗賊達の反社会的集団であり近年では多数の海賊達が大海原を大航海…。非力の小国家やら遭遇した非武装の商船を多数襲撃したのである。今現在世界は大航海時代であり各国の海賊達による海賊行為も活発化し始める。 「海賊団って…戦乱時代に活躍した水軍みたいな奴等なのね…」 弱肉強食の戦乱時代では桃源郷神国の海域にも極悪非道の水軍が各地の近海で活動…。海岸近辺の村里を襲撃しては大勢の村人達から畏怖されたのである。戦乱時代末期から安穏時代初期には勢力の規模が縮小化され…。今現在では水軍の存在は完全に自然淘汰されたのである。 「桜花姫様…アクアヴィーナスは極悪非道の海賊達に誘拐されたのですね…」 すると桜花姫は笑顔で断言する。 「私が誘拐されたアクアヴィーナスを救出してから…海賊団って名前の匪賊の集団を徹底的に蹴散らせるわね♪」 「桜花姫様…」 「兎にも角にも…私達は行動開始よ♪」 桜花姫とアクアキュベレーは早速行動を開始したのである。
第三話
懸賞金 千里眼の妖術でアクアヴィーナスを発見してより同時刻…。残虐非道の海賊達により誘拐されたアクアヴィーナスは海賊船の船内密室にて拘束されたのである。 『如何して私がこんな場所に…』 船内密室の天井中心部にはオレンジカラーのマリンランプが室内全体を発光させる。 『私…海賊達に殺されちゃうのかな?』 アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。 『私は…こんな場所で死にたくないよ…』 魔力の消耗により彼女は人魚の状態から人間の姿形に戻ったのである。 『変身魔法が…』 「魔力の消耗かしら?下半身が人間の両足に戻っちゃったわ…」 すると二人の海賊達が船内の密室に入室する。 「人魚の姉ちゃんよ♪あんたは魔法で人間の小娘に変身したのか?」 「人魚の姉ちゃんは人間の姿形でも可愛らしいけどな♪」 海賊達は床面に横たわった状態のアクアヴィーナスに近寄る。一方のアクアヴィーナスは恐る恐る…。 「あんた達は…私を如何するの?殺しちゃうの?私の血肉を食べちゃうの?」 海賊達はビクビクし続けるアクアヴィーナスに大笑いする。 「人魚の姉ちゃんよ♪あんたは傑作だな♪」 「俺達は極悪非道の海賊団だけどな…人魚のあんたを食い殺しちまったら折角の懸賞金を頂戴出来なくなるからな♪俺達は此処であんたを食い殺さないから安心しろよ♪」 「えっ?はぁ…」 『一先ずは大丈夫そうね…』 アクアヴィーナスは海賊達の返答にホッとしたのか全身が脱力したのである。すると小柄の船員がボソッと小声で…。 「正直…人魚の姉ちゃんを犯せるなら問答無用で犯しちまいたいが…こんな場所で犯しちまったら折角の懸賞金が水の泡だからな…」 小柄の船員はムラムラした様子で力一杯アクアヴィーナスの乳房に接触する。 「ひっ!」 「此奴は高値で密売出来そうだぜ♪」 アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか全身が膠着したのである。すると大柄の船員が恐る恐る…。 「貴様は好い加減にしろよ!こんな人魚の小娘は激レアだから犯しちまいたいのは同意するが…今回ばかりは我慢しろよ…」 注意する大柄の船員に小柄の船員が睥睨する。 「はっ?貴様は一般船員の分際で俺に指図するのか?」 小柄の船員は大柄の海賊に反抗する。 「此奴を必要以上に畏怖させて自害されちまったら元も子もないだろ…深海底の人魚なんて滅多に捕獲出来ない代物だぞ!こんな場所で人魚の小娘に自害されちまったら折角の懸賞金がワンゴールドも確保出来なくなるぞ…」 ワンゴールドとは金貨一枚分であり現実世界であれば推計五百万円規模の高価値である。人魚は世界各国でも僅少の少数種族であり一人でも人魚を捕獲出来れば最低でも金貨五十枚は獲得出来ると予測される。 「此奴を無傷で密売出来れば最低でも金貨五十ゴールド以上は余裕でゲット出来るぞ!絶対に人魚の小娘には手出しするなよ…」 「畜生が…」 制止された小柄の船員は大柄の船員を睥睨すると後退りしたのである。するとアクアヴィーナスは恐る恐る大柄の船員に問い掛ける。 「結局…あんた達は私を如何したいのよ?」 大柄の船員は恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスの質問に即答する。 「今後…貴様を地上世界の超大国に密売する予定なのだ…恐らくは貴様一人でも金貨五十ゴールドは確実だろうからな♪」 「私を超大国に密売ですって?ひょっとして私を異国に身売りするとか?」 「あんたは明敏だな…勿論だとも…」 アクアヴィーナスの身売りの発言に大柄の船員は即答したのである。 「えっ…」 『私は…異国に身売りされちゃうの?』 するとアクアヴィーナスは極度の恐怖心からかビクビクし始める。涙腺から涙が零れ落ちる。 「安心しろよ♪最低でも海賊船の船内ではあんたは殺されないからな…こんな場所で人魚の小娘に大怪我されちまったら折角の懸賞金が台無しだからな♪」 すると大柄の船員は小声で…。 「無論…超大国に密売されてからの生存は保証出来ないけどな♪」 「えっ…」 アクアヴィーナスは極度の精神的ショックからか意識を喪失…。 「なっ!?此奴は…恐怖心で気絶しちまったのか!?」 アクアヴィーナスは再度床面に横たわったのである。 「人魚の小娘が気絶しちまったぜ…如何するよ?」 小柄の船員は呆れ果てる。 「仕方ないな…下手に船内で大騒ぎされるよりは…」 「此奴は随分大人しい人魚の小娘だったな…」 「俺達は甲板に戻ろうぜ…」 「仕方ないな…此奴は冷や冷やさせるぜ…」 彼等は密室から退室…。密室のドアを厳重にロックしたのである。
第四話
救出作戦 海賊船の船内にてアクアヴィーナスが気絶した同時刻…。桜花姫とアクアキュベレーは西国の海辺へと移動したのである。 「変化の妖術で人外の人魚に変化しちゃいましょう♪」 桜花姫は変化の妖術を発動すると下半身が銀鱗の大魚へと変化…。ストレートロングの黒髪が銀髪へと変色したのである。普段の桜花姫は小柄の背丈であるが…。変化の妖術で人魚に変化すると体長は推定八尺程度に巨大化する。同行したアクアキュベレーが人魚に変化した桜花姫を直視すると恐る恐る…。 「桜花姫様は人魚に変身しても可愛らしいですね…人魚に変身した桜花姫様は誰よりも海水の女神様って雰囲気ですよ♪」 アクアキュベレーが海水の女神様と発言すると桜花姫は赤面した様子で返答する。 「こんな私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスの母様は大袈裟ね♪」 『私が海水の女神様ですって♪』 アクアキュベレーに大袈裟であると表現するのだが…。内心では大喜びしたのである。一方のアクアキュベレーも魔法で人魚に変身する。アクアキュベレーは下半身が大魚へと変化…。水色の魚鱗へと変化したのである。 「勿論母様も深海底の天女みたいで可愛らしいわよ♪」 桜花姫の深海底の天女発言にアクアキュベレーは大喜びする。 「私が深海底の天女なんて♪桜花姫様も大袈裟ですわね♪」 彼女達は即座に暗闇の海中へと潜水したのである。アクアキュベレーは移動中に恐る恐る…。 「桜花姫様?アクアヴィーナスは無事なのでしょうか?」 桜花姫は不安そうな様子で問い掛けるアクアキュベレーに笑顔で即答する。 「大丈夫よ♪アクアヴィーナスの母様♪アクアヴィーナスは海賊船の船内で気絶した状態だったけど彼女は無事だからね♪母様が心配しなくてもアクアヴィーナスは大丈夫だから安心しなさい♪」 桜花姫は千里眼の妖術でアクアヴィーナスの状態を正確に知覚したのである。 「はぁ…アクアヴィーナスは無事でしたか…」 『アクアヴィーナス…無事で良かったわ♪』 アクアキュベレーはホッとした様子であり一安心する。 「今回の事件は人間が相手だから楽勝でしょうね♪」 桜花姫とアクアキュベレーはアクアヴィーナスを誘拐した海賊船を目標に暗闇の海中を直進したのである。彼女達が暗闇の海中を直進してより二時間後…。西国近海から推定二百キロメートルの海域よりとある無人島を発見する。 「はぁ…はぁ…アクアヴィーナスの母様…」 「えっ?桜花姫様?」 「一度だけ…無人島で休憩しましょう…」 桜花姫は人魚に変身した影響からか息苦しそうな表情だったのである。 「桜花姫様…」 『ひょっとして彼女は体内の魔力が消耗しちゃったのかしら?』 人魚に変身した状態で長時間力泳し続けると普段の戦闘よりも大量の妖力が消耗する。彼女達は無人島の砂浜へと上陸すると桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。 「はぁ…はぁ…」 『体力の消耗かしら?』 桜花姫は元通りの童顔美少女の姿形へと戻ったのである。 『此処で一休みしないと妖力が空っぽに…』 桜花姫は極度の疲労困憊により深呼吸する。 「桜花姫様…」 『桜花姫様は…疲労かしら?苦痛そうだわ…』 アクアキュベレーは桜花姫を心配したのか恐る恐る…。 「桜花姫様?大丈夫ですか?ひょっとして疲労でしょうか?」 「私なら大丈夫よ…私は平気だから♪心配しないで…此処で一度一休みすれば体力は自然に回復するでしょう…」 桜花姫は疲労した様子であるが多少強張った笑顔でアクアキュベレーに返答する。 「桜花姫様…」 『彼女は本当に大丈夫なのかしら?正直桜花姫様が心配だわ…』 桜花姫は非常に強張った笑顔でありアクアキュベレーは内心不安に感じる。すると桜花姫は恐る恐る…。 「アクアヴィーナスの母様…御免なさいね…」 アクアキュベレーに謝罪したのである。 「御免なさいって…一体如何されましたか?桜花姫様?」 「アクアヴィーナスは私一人で救出するわね…正直人間の海賊団が相手でも妖力を消耗した状態ではアクアヴィーナスの母様を守護出来ないわ…」 妖力を消耗した状態では同行者を守護して戦闘し続けるのは非常に困難であると判断…。戦闘用の魔法を使用出来ないアクアキュベレーは正直足手纏いだったのである。 「アクアヴィーナスの無事は保証するから…私が彼女を無事に救出するわ!」 桜花姫はアクアヴィーナスの救出を断言…。アクアキュベレーと約束したのである。 「承知しました…桜花姫様…」 アクアキュベレーは桜花姫の発言に承諾する。彼女は意外にも率直であり桜花姫は内心ホッとしたのである。 「アクアヴィーナスの母様は無人島で待機してね…」 桜花姫はアクアキュベレーに無人島での待機を指示する。 「私は大丈夫ですけれど…今現在アクアヴィーナスは無事なのでしょうか?」 「彼女なら大丈夫よ♪アクアヴィーナスの母様♪」 桜花姫は心配性のアクアキュベレーに満面の笑顔で即答する。 「無人島の近辺からアクアヴィーナスの妖力を感じられるわ♪彼女なら無事よ♪」 拘束されたアクアヴィーナスの魔力が近辺の海域より感じられる。桜花姫は彼女を拘束した海賊船が間近であると確信したのである。 「私は即刻海賊達を蹴散らして…拘束されたアクアヴィーナスを救出するからね!」 桜花姫は再度変化の妖術を発動…。即座に銀鱗の人魚に変化すると再度海中へと潜水したのである。 『桜花姫様…御無事で…』 アクアキュベレーは桜花姫を見届ける。 『彼女達は大丈夫かしら?』 アクアキュベレーは桜花姫と愛娘のアクアヴィーナスが無事に戻れるのか心配だったのである。
第五話
クラーケン アクアキュベレーが桜花姫を見届けた同時刻…。暗闇の海中へと潜水した桜花姫であるが妖力の消耗は想像する以上だったのである。 『やっぱり今回も…』 長時間の人魚の状態を維持し続けるのは実質不可能であると確信する。 『短時間で事件を解決させないと…私自身が妖力の消耗で力尽きちゃうわね…』 時間の猶予は実質皆無である。海中での活動時間が長期化し続ければアクアヴィーナスの無事が遠退くばかりか桜花姫自身が妖力の消耗で衰弱死する可能性も否定出来ない。 『私自身が妖力の消耗戦で衰弱死すれば本末転倒だわ…一刻も早くアクアヴィーナスを誘拐した海賊船を発見しないと!』 桜花姫は短時間での活動を余儀無くされる。行動を再開してより十数分後…。 「えっ?」 数十キロメートルもの長距離より木造の大型船らしき船体の船底を発見する。 『何かしら?』 桜花姫は即座に海面上へと浮上し始め…。警戒した様子で恐る恐る海面上の移動物体を注視し続ける。 『船影だわ…』 海面上から数十キロメートルもの長距離より木造の船影らしき移動物体を発見したのである。 『異国の…軍船かしら?』 形状的には木造の大型帆船であり髑髏の旗印が確認出来る。 『ひょっとして私が千里眼の妖術で発見した海賊団の海賊船かしら?』 桜花姫は両目を瞑目させると海賊船の船内から僅少の魔力を感じる。 『海賊船の船内からアクアヴィーナスの妖力を感じるわ…』 海賊船の船内よりアクアヴィーナスの妖力を察知…。木造の大型帆船がアクアヴィーナスを誘拐した海賊船であると確信する。 『短時間でアクアヴィーナスを救出して…海賊団の奴等を蹴散らしましょう…』 桜花姫は変化の妖術を発動…。全長数百メートル規模の巨大真蛸の妖怪とされる海難入道へと変化する。海難入道とは俗界の怪談絵巻物に登場する妖怪の名称である。架空の超自然的存在として認識される巨大妖怪の一体…。桃源郷神国では深海底の巨大妖怪として有名である。 『妖怪海難入道に変化して海賊達を征伐しましょう♪』 桜花姫は妖怪海難入道の状態で即座に海中へと潜水し始め…。暗闇の海中から恐る恐る海賊船に急接近する。海難入道状態の桜花姫が海賊船に接近し始めた同時刻…。海賊船甲板の見張り役が十数キロメートルもの遠距離から正体不明の巨大物体が海面上に出現したのを発見したのである。 「ん!?十数キロメートルの西海から正体不明の巨大物体が出現したぞ…」 見張り役の発言に乗組員達が反応する。 「はぁ?正体不明の巨大物体だと?」 「正体不明の巨大物体だって?一体何が出現しやがった?」 「ひょっとして白鯨でも出現したのか?」 乗組員の一人が双眼鏡で恐る恐る西方の海面上を確認するのだが…。 「海面上には何も確認出来ないぞ…単なる見間違いだろう…」 「えっ…俺の見間違いだったのかな?」 すると直後である。 「ん!?」 突如として海賊船の船体全体がグラグラッと振動し始めたのである。 「うわっ!」 「突然船体が揺れ動いたぞ!一体何事だ!?」 「一体何が!?船底に!?」 船内が騒然とした直後…。 「ん?」 「なっ!?」 「此奴は…」 甲板より巨大真蛸の触手らしき規格外の巨大物体が八本も出現したのである。八本の巨大触手は海賊船の甲板に密着する。 「ひっ!」 「蛸足だ!」 「此奴は触手か!?」 八本の巨大触手が出現した数秒後…。海賊船の左舷中央から数百メートルサイズの規格外の巨大真蛸が海面上より出現したのである。 「うわっ!此奴は深海底の魔物…クラーケンか!?」 「此奴は…本物のクラーケンなのか!?」 クラーケンとは西洋神話に登場する深海底の巨大魔物…。俗界では架空の伝説的存在であるが世界各地の船員達が深海底の魔物とされるクラーケンの超自然的存在に畏怖したのである。 「此奴は本物のクラーケンだぞ!」 「魔物のクラーケンは本当に実在したのか!?」 海賊船の乗組員達は突如として海面上から出現した規格外の巨大真蛸に驚愕する。 「即刻カノン砲を用意しろ!海面上のクラーケンを撃退するのだ!」 「カノン砲をぶっ放せ!カノン砲で魔物のクラーケンを仕留めちまえ!」 船内全域が騒然とした同時刻…。船内の密室にて気絶したアクアヴィーナスであるが船体の振動により目覚めたのである。 「ひっ!」 『船外では…一体何が発生したのかしら!?』 アクアヴィーナスは突然の船体の振動にビクビクし始める。 『アクアキュベレー母様…桜花姫…私は…こんな場所で死にたくないよ…』 極度の恐怖心からかアクアヴィーナスの涙腺より涙が零れ落ちる。海賊船の乗組員達は突如として海面上から出現した巨大真蛸にカノン砲を発砲し掛ける直前…。巨大真蛸は体表から発生した白煙に覆い包まれポンッと一瞬で消滅したのである。 「なっ!?魔物のクラーケンが突然消滅しやがったぞ!」 規格外の巨体の消滅に海賊船の乗組員達は愕然とする。 「えっ…一体何が?」 「先程の超常現象は何だったのか?」 「結局先程の光景は…クラーケンは単なる幻影だったのかな?」 すると直後…。 「なっ!?貴様は誰だ!?」 海賊船の左側の甲板には着物姿の小柄の女性が佇立する。 「此奴は…異国の小娘か!?」 「異国の小娘っぽいな…」 「貴様は一体何者だ!?如何して異国の小娘がこんな場所に…」 海賊達は警戒した様子で恐る恐る女性に近寄る。すると女性は笑顔で…。 「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で名前を名乗ったのである。 「はっ!?月影桜花姫だと!?」 「貴様は…異国の名前っぽいな…異国の小娘か?」 「如何やら先程のクラーケンの正体は貴様だったのか!?ひょっとして貴様は異国の魔女なのか!?」 桜花姫は海賊達に問い掛けられるも…。 「えっ?クラーケンって…何かしら?」 桜花姫は挑発的態度で彼等の問い掛けを無視する。 「異国の魔女風情が!」 「兎にも角にも俺達は魔女である貴様を打っ殺す!」 乗組員の一人が護身用のピストルを携帯したと同時に無防備の桜花姫に発光する。一方の桜花姫は妖力の防壁を発動…。 「あんたは…随分と乱暴なのね…」 桜花姫は妖力の防壁により発砲されたピストルの弾丸を無力化したのである。 「畜生…此奴!魔法で本体をガードしやがったのか!?」 「何しろ相手は本物の魔女だ…一筋縄では仕留められないか…」 すると桜花姫は無表情で…。 「私に手出しする愚か者には…」 乗組員の一人に十八番の変化の妖術を発動する。 「あんたは桜餅に変化しなさい♪」 変化の妖術を発動した直後…。ピストルを所持した海賊船の乗組員が小皿に配置された桜餅に変化したのである。 「えっ!?魔法なのか!?」 「船員が…魔法で異国のスイーツに!?」 海賊船の乗組員達は恐る恐る後退りする。 「此奴は魔法で俺達の仲間を異国のスイーツに変化させたのか!?」 海賊船の乗組員達は恐怖心によりプルプルしたのである。 「此奴は女体の怪物だ!逃げろ!」 「逃げないと異国の魔女に食い殺されちまうぞ!」 桜花姫は乗組員達の女体の怪物発言にピクッと反応する。 「誰が女体の怪物ですって!?地上世界の女神様である私に女体の怪物なんて…あんた達は失礼しちゃうわね…」 桜花姫は逃走し始めた海賊船の乗組員達に冷笑したのである。 「今回は折角だし♪あんた達は全員…ショートケーキに変化しなさい♪」 十八番の変化の妖術を発動すると海賊船の乗組員達全員が美味しそうなショートケーキに変化させる。 『早速♪頂戴するわね♪』 桜花姫は変化の妖術でショートケーキに変化させた海賊船の乗組員達をパクパクと食い殺したのである。 『妖力が回復したわね♪』 桜花姫はショートケーキを完食すると消耗した妖力が回復する。 『早速♪海賊達に誘拐されたアクアヴィーナスを救出しないとね♪』 桜花姫はアクアヴィーナスの魔力が感じられる密室へと移動したのである。船内を移動してより数分後…。桜花姫は密室のドアへと到達する。 「アクアヴィーナス…」 『室内から彼女の妖力を感じるわね…』 桜花姫は念力の妖術を発動すると厳重にロックされた鉄壁のドアを開放したのである。密室へと進入すると床面に横たわった状態のアクアヴィーナスが確認出来る。 「アクアヴィーナス?大丈夫かしら?」 アクアヴィーナスは恐る恐る目覚めると無表情だった表情が変化し始め…。 「えっ…あんたは桜花姫?イーストユートピアの月影桜花姫なの!?」 アクアヴィーナスは桜花姫との再会にホッとしたのか緊張感が緩和されたのである。 「あんたは大丈夫かしら?アクアヴィーナス?」 桜花姫はアクアヴィーナスに近寄る。 「桜花姫…桜花姫!」 アクアヴィーナスは力一杯彼女に密着し始め…。涙腺から涙が零れ落ちる。 「桜花姫…私は…私は海賊達に身売りされちゃうかと…」 「アクアヴィーナス♪安心しなさい♪極悪非道の海賊達は私が征伐したから…」 「感謝するわね…桜花姫…やっぱりあんたは私の恩人よ…」 「アクアヴィーナスは本当に人騒がせね♪あんたの母様も相当心配した様子だったわよ…人一倍小心者のあんたが極悪非道の海賊団に誘拐されちゃったからね♪」 「アクアキュベレー母様が…」 すると桜花姫は口寄せの妖術を発動…。とある無人島にて待機中であった母親のアクアキュベレーが海賊船の密室にて強制的にテレポーテーションされたのである。 「えっ!?一体何が?」 アクアキュベレーは突然の出来事に驚愕する。 「母様!?」 アクアヴィーナスも突如として出現したアクアキュベレーに驚愕したのである。 「口寄せの妖術であんたの母様を口寄せしたのよ♪」 「えっ…桜花姫様が私を海賊船の船内にワープさせたのかしら?」 ポカンとするアクアキュベレーであるが…。 「母様…私は…」 アクアヴィーナスが恐る恐る近寄る。 「アクアヴィーナス…」 アクアキュベレーは力一杯アクアヴィーナスに密着したのである。 「アクアヴィーナス!貴女が無事で良かったわ…」 アクアキュベレーは涙腺から涙が零れ落ちる。 「御免なさいね…アクアキュベレー母様…心配させちゃって…」 「気にしないでアクアヴィーナス…貴女が無事なのが何よりよ…」 「何はともあれ…一件落着ね♪」 桜花姫は一息する。 「兎にも角にも…今回の誘拐事件は無事に解決出来たからね♪私は桃源郷神国に戻ろうかしら♪」 直後である。 「桜花姫?」 「えっ?何よ?アクアヴィーナス?」 アクアヴィーナスは桜花姫に恐る恐る…。 「折角だし…アクアユートピアでショートケーキでも…如何かしら?貴女はショートケーキ…大好きでしょう?」 「えっ!?ショートケーキですって!?」 桜花姫はショートケーキの一言に反応する。 「去年発生したダークスキュランの大事件では桜花姫には何一つとして謝礼が出来なかったからね…今回こそは恩人の貴女に謝礼したいのよ…」 「ショートケーキね♪」 桜花姫は大喜びした様子であり満面の笑顔で承諾したのである。 「即刻アクアユートピアに移動しましょう♪私はショートケーキを食べたいわ♪」 「桜花姫には感謝したくても感謝し切れないからね…」 彼女達は人魚に変化すると海賊船の船内から脱出…。深海底地帯のアクアユートピアへと直行する。
第六話
神殿 アクアヴィーナス救出作戦から四日後の真夜中…。北方の海域にて三人の人魚達が漆黒の海底下を移動し続ける。 「あんた達…目的地は間近よ…」 一行のリーダー格らしき人魚が二人の部下達に合図したのである。すると部下の一人が恐る恐るリーダー格の人魚に問い掛ける。 「委員長?目的地には一体…何が存在するのでしょうか?」 「古代文明時代の遺産よ…」 「古代文明時代の遺産ですか?」 彼女達は暗闇の海底下を移動してより十数分後…。彼女達は海底下の古代遺跡らしき神秘の場所へと到達したのである。 「此処は非常に神秘的ですね…此処が古代遺跡でしょうか?」 人魚の委員長が解説する。 「此処は太古の大昔に存在した神族の神殿なのよ…」 「神族の神殿ですか?」 部下の人魚達は古代遺跡が神族の神殿である事実に驚愕したのである。 「数十万年前の出来事かしら…」 数十万年前の古代文明時代…。本来北海の海域は広大無辺の大陸であったが天空世界より出現した天空魔獣の襲撃によって世界各地の地形は大幅に変化したのである。極悪非道の天空魔獣が暴れ回った悪影響により北海に存在した広大無辺の陸地も海底下に埋没…。今現在では神族の神殿は深海底の古代遺跡として認識されたのである。 「北海の海底下に…こんなにも歴史的建造物が存在したなんて…」 すると委員長が恐る恐る…。 「目的の代物は神殿の内部なのよね…移動しましょう…」 彼女達は警戒した様子で恐る恐る神殿の内部へと進入する。 「神殿は空っぽの状態ですね…神殿には特段何も無さそうですが…一体此処では何が存在するのでしょうか?」 神殿の内部は空っぽの状態であり何一つとして確認出来ない。 「目的の代物は石造りの床面よ…直視しなさい…」 委員長は石造りの床面を指差したのである。 「石造りの床面ですか?」 「此処に目的の代物が存在するのですね…」 すると委員長は呪文を唱え始める。 「はっ!」 直後…。委員長は破壊の魔法を発動する。石造りの床面は破壊の魔法により崩壊したのである。 「えっ!?石造りの床面が…」 破壊の魔法で石造りの床面を崩壊させた直後…。神殿の最下層に存在する地下壕の中心部には全長六十メートルサイズの巨大石棺が確認出来る。 「地下壕に石棺が…」 「非常に巨大ですね…」 彼女達は地下壕の巨大石棺へと近寄る。 「神殿の地下壕にこんな代物が…」 「石棺の内部には一体何が存在するのでしょうか?」 委員長は恐る恐る解説する。 「石棺には二百年前に封印された最強の深海底アンデッドが存在するのよ…」 二百年前の出来事である。二百年前に最強の深海底アンデッドが人魚王国のアクアユートピアを襲撃…。深海底アンデッドは自身の強大なる魔力で大勢の人魚達を大虐殺したのである。深海底アンデッドの魔力は非常に強大でありアクアユートピアは全滅寸前であったが…。人魚の魔法使い達の奮闘により深海底アンデッドは北海の海底下に埋没した神族の神殿にて永久封印されたのである。 「大昔に封印された…最強の深海底アンデッドを復活させるのよ…」 委員長の発言に二人の人魚達は驚愕する。 「えっ!?委員長!?貴女は本気なのですか!?」 「相手は大昔にアクアユートピアを襲撃した怪物なのですよ!正気なのですか!?」 深海底アンデッドは海中に出現する死霊の一種とされ俗界の生命体とは相容れない関係性である。二人の人魚は深海底アンデッドの復活を躊躇するものの…。 「あんた達は今更何を躊躇するのかしら?最早私達は後戻りなんて出来ないのよ…結局深海底魔女のダークスキュランもアクアユートピアの征服には失敗しちゃったからね…今度こそアクアユートピアの人魚達を全滅させるには…最強の深海底アンデッドを利用しなければ私達の目的は未来永劫達成出来なくなるのよ…」 彼女達は過激派思想の人魚達でありアクアユートピアの人魚達から半永久的に追放されたのである。 「私達を追放したアクアユートピアの人魚達は殲滅の対象なのよ…私達にとって深海底アンデッドの復活はアクアユートピアの人魚達に対する復讐なのよ…」 「私達を追放した奴等に対する復讐だとしても…」 「死霊である深海底アンデッドを利用するのは…愚行なのでは?」 二人の人魚達は自分達とは相反する深海底アンデッドの復活には躊躇する。 「あんた達ね…」 躊躇する人魚達に委員長は呆れ果てる。 「愚行だからって何を今更…最早私達は後戻りなんて出来ないのよ…私は目的を遂行するならば…死霊の深海底アンデッドでも地上世界の人間達でも利用する覚悟だわ!」 委員長は破壊の魔法で巨大石棺を粉砕したのである。 「きゃっ!」 「石棺から…規格外の怪物が…」 石棺には上半身が人間の女性…。下半身が巨大海蛇の怪物が金剛石の鉄鎖により拘束された状態の女性型の怪物が確認出来る。 「委員長?此奴は一体何者ですか?」 部下の一人が恐る恐る委員長に問い掛ける。 「彼女は史上最強とされる最上級の深海底アンデッド…【アビスエキドナス】なのよ…所謂現存する深海底アンデッドの母体とでも…」 「アビスエキドナスですと?」 「彼女が…深海底アンデッドの母体…」 アビスエキドナスとは深海底アンデッドでも最強の部類とされる最上級アンデッドに分類され…。多種多様の深海底アンデッドの母親的存在として認識される。アビスエキドナスは最上級の深海底アンデッドの代表格とされるアビスラメイアスの亜種に該当する。アビスエキドナス自身も亜種のアビスラメイアスと同様…。上半身は人間の女性型であるが下半身は巨大海蛇でありアビスラメイアスに近似する。現存する深海底のアンデッドは彼女の万能細胞から誕生した超自然的存在とされる。 「アビスエキドナスが全身全霊の魔力を発揮すれば…アクアユートピアは一日で滅亡するでしょうね…」 すると直後…。 「私は…」 熟睡中だったアビスエキドナスが目覚め始める。 「えっ?あんた達は…生身の人魚かしら?」 目覚めたアビスエキドナスは彼女達に気付くと彼女達を凝視する。 「委員長…アビスエキドナスが目覚めましたわ…如何します?」 二人の人魚達は目覚めたばかりのアビスエキドナスに畏怖したのである。すると委員長が封印されたアビスエキドナスに恐る恐る近寄る。 「アビスエキドナス…封印からあんたを解放するわよ…」 「えっ!?本当に!?あんたは私の封印を解除するの!?」 委員長の発言した封印解除の一言にアビスエキドナスは大はしゃぎし始める。 「早速♪封印を解除しなさいよ♪」 委員長は封印解除の魔法を発動…。金剛石の鉄鎖はバリッと破壊されたのである。 「予想外だったわ♪今日から私は未来永劫…自由が約束されたのね♪」 アビスエキドナスは三人の人魚達を凝視する。 「私は…封印から解放されたわ…」 アビスエキドナスは封印魔法から解除され…。 「感謝するわね♪あんた達♪」 アビスエキドナスは自由が余程嬉しかったのか大喜びしたのである。大喜びしたアビスエキドナスであるが…。 「はぁ…私はね…」 彼女は冷笑した表情で人魚達を凝視し始める。 「私は長期間の封印で空腹なのよね♪」 人魚達は警戒した様子で恐る恐るアビスエキドナスから後退りしたのである。 「えっ…」 「委員長…」 「彼女は…私達に何を?」 三人の人魚達はアビスエキドナスに戦慄する。 「手始めに♪あんた達の身動きを…」 アビスエキドナスは三人の人魚達に金縛りの魔法を発動…。彼女達の身動きを封殺したのである。
第七話
急用 アビスエキドナスの復活から三日後の真昼…。桜花姫は退屈そうに家屋敷の居間でゴロゴロし続ける。 「はぁ…」 亡者達の復讐心と悪意の集合体とされる邪霊餓狼は月影桜花姫の妖術によって完膚なきまでに完全征伐されたが…。 『元凶の邪霊餓狼は半年前の初夏に消滅しちゃったからね…神出鬼没の悪霊が出現しないと毎日が退屈だわ…』 桜花姫は平穏の日常生活を退屈に感じる。 『退屈だし面白そうな大事件でも発生しないかしら?』 元凶の邪霊餓狼が仕留められてから半年間が経過するのだが…。 『今後もこんな日常が四六時中永続されるのかしら?退屈過ぎて死にそうだわ…』 桃源郷神国では大事件らしい大事件は何一つとして発生せず非常に退屈の毎日だったのである。桜花姫は毎日が憂鬱であり四六時中ピリピリする。 『折角だし…退屈凌ぎに深海底のアクアユートピアにでも直行しましょう♪』 桜花姫は一先ず変化の妖術を発動…。 『変化の妖術…成功ね♪』 桜花姫の下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。 『今度は…』 今度は自身の肉体に口寄せの妖術を発動…。自身の肉体をアクアユートピアの歓楽街へと口寄せしたのである。 『口寄せの妖術…一先ずは成功ね♪』 すると周囲の人魚達が不思議そうな表情で桜花姫に注目し始める。 「えっ?誰かしら?」 「彼女は一体何者なの?」 「貴女は異国の人魚なのかしら?」 周囲の人魚達が桜花姫に近寄る。 「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪」 桜花姫は周囲の人魚達に笑顔で名前を名乗る。すると周囲の人魚達は両目をキラキラさせた表情で…。 「貴女様が異国の魔法使い♪イーストユートピアの月影桜花姫様なのですね♪」 「私♪貴女様の大ファンです♪」 彼女達は桜花姫に殺到したのである。 「えっ…はぁ…」 『人気者も大変ね…如何しましょう?』 一方の桜花姫は彼女達の反応に困惑したのか苦笑いし始める。 『仕方ないわね…』 不本意であるが再度口寄せの妖術を発動…。すると桜花姫の姿形はポンッと消滅したのである。 「えっ!?桜花姫様は!?」 「桜花姫様!?」 「突然消滅されたわ…桜花姫様はテレポート魔法で移動しちゃったのかしら?」 突如として姿形が消滅した桜花姫に彼女達は驚愕する。同時刻…。 「えっ!?あんたは桜花姫!?」 「アクアヴィーナス♪御免あそばせ♪」 桜花姫は口寄せの妖術により自身の肉体をアクアヴィーナスの自室へと口寄せしたのである。 「何が御免あそばせよ…吃驚するじゃない…」 アクアヴィーナスは突如として出現した桜花姫に吃驚する。 「桜花姫…あんたは神出鬼没ね…」 アクアヴィーナスは神出鬼没の桜花姫に呆れ果てる。 「如何してあんたがこんな場所に?吃驚し過ぎて心停止しちゃうかと…」 「突然だから御免なさいね…アクアヴィーナス♪」 彼女はヘラヘラした表情でアクアヴィーナスに謝罪したのである。 「私に用事かしら?桜花姫?」 「退屈だったからね…暇潰しよ♪暇潰し♪」 「暇潰しね…あんたらしいけれど…」 アクアヴィーナスは苦笑いする。 「桃源郷神国は毎日が退屈過ぎて憂鬱だったのよね…面白そうな大事件でも発生すれば私は大歓迎なのに…」 「大事件なんて四六時中発生されたら…私なんて一番に淘汰されるでしょうね…」 直後である。何者かが玄関のドアをノックする。 「えっ?誰かしら?」 アクアヴィーナスは恐る恐る玄関へと移動したのである。 「誰なの?」 彼女は恐る恐る玄関のドアを開放させる。 「突然ですが失礼します…」 「えっ…貴女は?」 見ず知らずの人魚の女性がアクアヴィーナスの家屋敷に訪問したのである。 「私はダークスキュラン様の側近です…」 アクアヴィーナスが問い掛けると人魚の女性は深海底魔女ダークスキュランの側近と名乗る。 「えっ…」 『彼女はダークスキュランの側近ですって…』 ダークスキュランの側近と名乗る人魚の女性にアクアヴィーナスは畏怖したのかビクビクし始める。 「ダークスキュラン様が貴女の自宅に異国の魔法使いの気配を察知されました…ダークスキュラン様は異国の魔法使いに協力を要請したいと希求されたのです…」 「異国の魔法使いって…桜花姫なの?」 「私に用事かしら?」 桜花姫が玄関へと近寄る。 「異国の魔法使いは貴女様でしたか…」 側近の人魚が桜花姫に会釈したのである。 「真蛸のダークスキュランが私に用事なの?何かしらね♪」 桜花姫は側近の人魚に問い掛ける。 「今現在ダークスキュラン様は中心街の根城で待機中です…突然ですがダークスキュラン様に面会出来ませんか?」 「面会って今直ぐに?」 「勿論ですとも…大至急です!」 桜花姫は側近の問い掛けに一息するも…。 「承知したわ♪暇潰しには好都合だからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で承諾する。 「感謝します…異国の魔法使いの桜花姫様…」 側近の人魚は桜花姫に一礼したのである。 「アクアヴィーナス…急用が出来ちゃったから私はダークスキュランの根城に移動するわね♪」 「えっ…桜花姫?」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。一瞬で桜花姫の姿形が消滅する。 「えっ!?桜花姫は!?」 「桜花姫様は…テレポート魔法を使用されたのでしょうか?一瞬で彼女の姿形が消失しましたね…」 「彼女は…行動が迅速過ぎるわね…」 アクアヴィーナスと側近の人魚は突然の超常現象に驚愕したのである。同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術で自身の肉体をダークスキュランの根城に口寄せしたのである。 「口寄せの妖術♪成功ね♪」 桜花姫は周囲を確認する。 「此処はダークスキュランの根城城内かしら?」 桜花姫はダークスキュランの魔力を目印に根城の最上階に自身の肉体を口寄せしたのである。すると桜花姫の背後より…。 「誰かと思いきや…あんたは地上世界最強の魔女…月影桜花姫かしら?」 背後には深海底魔女ダークスキュランが彼女を直視する。 「ダークスキュラン♪久し振りね♪あんたが元気そうで安心したわ♪」 「あんたは…以前の私達は敵対関係だったのに随分とフレンドリーね…桜花姫は余程の天然なのかしら?」 ダークスキュランは友達感覚の桜花姫に呆れ果てる。 「えっ?フレンドリーですって?フレンドリーって何かしら?」 「フレンドリーは友好的って意味よ…前回の私達は敵対関係だったのに…」 「気にしない♪気にしない♪私達の関係性は所謂呉越同舟でしょう♪」 「呉越同舟ね…」 桜花姫は人一倍ドライでありダークスキュランは内心ホッとする。すると桜花姫は恐る恐る…。 「ダークスキュラン?私に用事なの?今回の用件は何かしら?」 ダークスキュランの表情が険悪化する。 「以前私が統治した失楽園…ブルーデストピアの深海底魔王城が三日前に深海底アンデッドの大群によって占拠されたらしいのよ…」 「えっ!?ブルーデストピア…深海底アンデッドの大群ですって?」 以前発生した大事件以降…。失楽園ブルーデストピアの中心地に聳え立つ深海底魔王城は無人の状態だったのである。三日前より突如出現した無数の深海底アンデッドによってブルーデストピアは完全占拠され…。今現在無人地帯のブルーデストピアは深海底アンデッドの魔窟として実効支配されたのである。 「深海底にはアビスラメイアス以外にも強豪の深海底アンデッドが多数存在するのね…一体何者なのかしら?」 桜花姫はワクワクした様子でダークスキュランに問い掛ける。 「彼女達はね…」 ダークスキュランが桜花姫に詳細を口述し始める。
第八話
侵略計画 同時刻…。失楽園ブルーデストピアに聳え立つ深海底魔王城では神族の神殿から復活した深海底の女王アビスエキドナスが深海底魔王城全域を占拠する。根城の最上階にて下半身が銀鱗の大魚…。上半身が人間の女性である悪魔的人魚が入室する。 「失礼するわよ♪アビスエキドナス♪」 「誰かと思いきや…あんたは【アビスサキュバス】…一体何かしら?」 アビスサキュバスとはアビスエキドナスが自身の深海底アンデッド細胞と既存のアビスセイレーンの深海底アンデッド細胞を混合…。誕生させた女性型の実験体アンデッドの一体である。アビスサキュバスは姿形こそ女性の一般的人魚であるが素肌は灰白色であり生命体特有の精気は感じられない。 「アビスエキドナス♪深海底魔女のダークスキュランがアクアユートピアの人魚達に寝返るなんてね♪前代未聞の笑い話だよね♪」 アビスサキュバスはダークスキュランに冷笑する。すると呆れ果てたアビスエキドナスが返答したのである。 「所詮彼女は出来損ないの軟体動物の亜種だったのよ…彼女の魔力は私自身のクローンであるアビスラメイアスを下回る駄作だったからね…」 深海底魔女ダークスキュランの正体とは瀕死の状態だった人間の少女に海中の軟体動物とアビスエキドナスの深海底アンデッド細胞を混入させた実験体…。人工性の深海底魔女だったのである。彼女は多種多様の魔法を扱える反面…。魔力は最上級の深海底アンデッドであるアビスラメイアス以下とされる。するとアビスサキュバスは恐る恐る…。 「不自然ね…深海底魔王城には深海底アンデッドの死骸すら何一つとして存在しないもの…城内がこんなにも空っぽなんてね…ひょっとしてダークスキュランがアクアユートピアの人魚達に降参しちゃったのかしら♪」 「あんたはフールね…アビスサキュバス…」 アビスエキドナスは笑顔で発言するアビスサキュバスに呆れ果てる。 「軟体動物のダークスキュランがアビスラメイアス以下の面汚しであったとしても…人魚王国のアクアユートピアで深海底魔女の彼女を降参させられる人魚なんて存在しないわ…恐らくは部外者の仕業でしょうね…」 「えっ…部外者ですって?誰が該当するのかしら?魔力だけで私達に匹敵する魔女なんて地上世界に存在するのかしら?」 「私達に匹敵する魔女…存在するとすれば…極東のイーストユートピアかしら…」 「イーストユートピアって…極東の島国だったわよね?極東の島国なんかに私達に匹敵する魔女が存在するなんて正直意外だわ…」 「あんたは未熟児だから無知なのは当然だけど…イーストユートピアは魔法の発祥地だからね…アクアユートピアの人魚達も本来はイーストユートピアに存在する魔女達の子孫なのだから…」 詳細こそ不明瞭であるが…。伝承ではアクアユートピアの人魚達の祖先は桃源郷神国出身の人魚系統の妖女であると推測される。 「イーストユートピア…面白そうね♪」 アビスサキュバスはイーストユートピアに興味深くなる。 「兎にも角にも♪私達の当面の目標は人魚達の巣窟アクアユートピアよ…アクアユートピアに君臨する人魚達を排除して…私達深海底アンデッドが人魚王国アクアユートピアを未来永劫君臨し続けるのよ…」 「ダークスキュランは如何するのよ?アビスエキドナス?」 アビスサキュバスの問い掛けにアビスエキドナスは即答する。 「ダークスキュランですって?最早アビスラメイアス以下の出来損ないの手駒なんて不要なのよ…当然として人魚達と同様に彼女も排除すべき対象だわ…」 「当然よね♪」 アビスサキュバスは冷笑したのである。するとアビスエキドナスは口先からペッとビー玉サイズの肉塊を放出…。 「えっ?アビスエキドナス?何かしら?」 直後である。ビー玉サイズの肉塊は一瞬で巨大化…。肉塊は女体を形成すると上半身が人間の女性で下半身が海蛇である全長数十メートルもの巨大女性型怪物へと変化したのである。巨大女性型の怪物はアビスエキドナスに酷似する。 「此奴はアビスエキドナスのクローン…アビスラメイアスだったわね♪」 巨大女性型の怪物は最上級アンデッドのアビスラメイアスだったのである。 「アクアユートピアの人魚達は雑魚ばかりだけど…アクアユートピア制圧作戦を完遂するには下準備が必要不可欠だからね…」 数秒後…。誕生したばかりのアビスラメイアスが目覚めたのである。 「えっ…私は…一体?」 アビスラメイアスは周囲をキョロキョロさせる。 「目覚めたかしら?アビスラメイアス…私は貴女の母親…アビスエキドナスよ…」 アビスラメイアスは恐る恐るアビスエキドナスを凝視し始める。 「あんたが…私の母様なの?」 「勿論よ…私が貴女の母親なのよ…留意しなさいね…」 するとアビスエキドナスはアビスサキュバスと誕生したばかりのアビスラメイアスに今後の大規模計画を口述する。 「突然だけど…明日はアクアユートピア侵略計画を実行するわ…今度こそ私達で人魚王国のアクアユートピアを完全占拠するのよ…」 「実行するのね♪アビスエキドナス♪」 アビスサキュバスはワクワクし始める。 「今現在アクアユートピアで厄介なのはアビスラメイアス以下のダークスキュランだけよ…私達が協力すれば半日程度でアクアユートピアは制圧出来るでしょう…」 するとアビスサキュバスは満面の笑顔で…。 「相手がダークスキュランだけなら私だけで仕留められるわよ♪アビスエキドナスが参上しなくても私一人でアクアユートピアの人魚達を片付けられるわ♪」 アビスエキドナスは桜花姫の存在を危惧したのかアビスサキュバスに指摘する。 「貴女の魔力はダークスキュラン以上だけど…イーストユートピアの魔法使いの存在も気になるわ…油断大敵よ…アビスサキュバス…」 「異国の魔法使いが相手なら下準備が必要不可欠ね…アビスエキドナス♪」 『イーストユートピアの魔法使いか…面白そうだわ♪』 アビスサキュバスは内心最上級妖女であり世界最強の魔女として知られる桜花姫との遭遇にワクワクしたのである。彼女達がアクアユートピア侵略計画を画策した同時刻…。アクアユートピア中心地の根城では桜花姫がダークスキュランから深海底アンデッドの情報を把握したのである。 「アビスラメイアス以外にあんた以上の深海底アンデッドが複数存在するのね♪」 『面白そうだわ♪』 桜花姫は内心強豪とされる深海底アンデッドの存在にワクワクする。 「早速ブルーデストピアの深海底アンデッドを征伐しに出掛けるわね♪」 早速行動を開始し始める桜花姫にダークスキュランは制止したのである。 「一人で深海底地帯に出掛けるのは危険よ…桜花姫…」 「えっ?如何してよ?」 「基本地上世界の魔法使いが深海底地帯で魔法を多用し続ければ相当の魔力を消耗するでしょうし…あんたは平気そうだけど肉体は疲労困憊の状態よ…」 桜花姫は深海底に滞在し続けるだけでも地上世界よりも相当の妖力を消耗…。彼女自身は無自覚であるが肉体は疲労困憊の状態だったのである。 「今回の相手は強豪アビスラメイアス以上の深海底アンデッドなのよ…桜花姫が地上世界最強の魔法使いでも…深海底の環境下では圧倒的に不利だわ…」 『地上世界の生命体が深海底に長時間滞在出来るだけでも摩訶不思議なのに…桜花姫はミュータントなのかしら?』 通常の生命体の場合…。深海底では長時間の滞在は実質不可能である。 「如何するのよ?私が出向かなければ…今度もアクアユートピアが深海底のアンデッドに侵略されちゃうわよ…」 「あんたは一度一休みしなさい…あんたが出向かなくても遅かれ早かれ深海底アンデッドからアクアユートピアに出向くでしょうし…一先ずは安静にしなさい…」 桜花姫は一息する。 「はぁ…承知したわ…ダークスキュラン…」 不本意であるが桜花姫はダークスキュランの指示に承諾したのである。 『今回ばかりは仕方ないわね…』 「退屈だし…私は一休みするわね…」 桜花姫は両目を瞑目させたかと思いきや…。数秒間で熟睡したのである。 「えっ…」 『桜花姫は一瞬で睡眠出来るなんてね…』 ダークスキュランは一瞬で爆睡し始めた桜花姫に苦笑いする。
第九話
攻防戦 翌日の早朝…。 「えっ…私は…」 ダークスキュランの家屋敷で熟睡した桜花姫であるが目覚める。 「はぁ…」 『私は長時間寝過ごしちゃったみたいね…』 するとダークスキュランが入室する。 「如何やら熟睡から目覚めたみたいね…月影桜花姫…」 「えっ?あんたは…ダークスキュラン?」 ダークスキュランは満面の笑顔で…。 「あんたって普段は大物ぶっても♪睡眠中の寝顔だけは人一倍可愛らしいわね♪」 「なっ!?私の寝顔ですって!?」 桜花姫は気恥ずかしくなったのか表情が赤面し始める。 「桜花姫は余程疲れ果てた状態だったのね…あんたは昨日の昼間から全然目覚めなかったのよ…」 「えっ…」 『昨日の昼間から?』 体力の消耗からか桜花姫は長時間熟睡状態だったのである。 「無自覚だったけれど…如何やら私は疲労困憊の状態だったみたいね…」 「長時間の睡眠で魔力が戻ったみたいだから一安心だわ…今現在のあんたなら深海底アンデッドの大群がアクアユートピアに侵攻したとしても対抗出来るでしょう…」 桜花姫は長時間の熟睡で妖力が回復…。ダークスキュランは深海底アンデッドに対抗出来ると判断する。 「ん?」 突如として遠方より無数の魔力が接近するのを感じる。 「何かしら?無数の魔力を感じるわ…」 「深海底アンデッドの魔力だわ…如何やら奴等は大群で侵攻を開始したみたいね…此方も早急に行動しないと…」 桜花姫は深海底アンデッドの侵攻にワクワクする。 「如何やら私の出番が到来したみたいね♪」 桜花姫は変化の妖術を発動すると人魚へと変化したのである。 「早速私が最前線で深海底アンデッドの大群を仕留めるわ♪私には援護は不要よ!ダークスキュラン♪」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。自身の肉体を無数の魔力の感じられる最前線へと瞬間移動させたのである。 「えっ!?桜花姫!?」 『彼女…無理しちゃって…』 ダークスキュランは桜花姫が大丈夫なのか心配する。 『桜花姫は一人で大丈夫かしら?』 同時刻…。桜花姫は最前線の国境にて瞬間移動したのである。 『此処から無数の魔力は感じられるけれど…何が出現するのかしら?』 最前線へと瞬間移動した桜花姫であるが…。周辺は暗闇の海底下であり何一つとして移動物体は確認出来ない。 『深海底は暗闇だから視界が不良だし肉眼では何も確認出来ないわね…』 桜花姫は恐る恐る周囲の海中を警戒したのである。すると数秒後…。数キロメートルの遠方の海中より数百体から数千体もの小型移動物体が急接近するのを確認する。 「えっ…」 『大群だわ…一体何かしら?』 無数の小型移動物体の正体とは無数の小魚であり皮膚の腐敗からか肉体の一部からは白骨化が確認出来る。 『ひょっとして小魚の深海底アンデッドかしら?』 「奴等はアビスフィッシュだったわね…」 遠方の海中より数千体…。数万体ものアビスフィッシュが猛スピードで最前線の桜花姫に殺到したのである。 『相手は大群ね!猛反撃するわよ!』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。彼女に殺到した無数のアビスフィッシュであるが桜花姫の発動した妖力の防壁に接触するとアビスフィッシュはバラバラに粉砕されたのである。 『所詮は雑魚だわ♪楽勝ね♪』 彼女の周囲には粉砕されたアビスフィッシュの肉片が飛散する。戦闘は桜花姫が圧倒的に優勢であるものの…。 『深海底の影響かしら?妖力の防壁だけでも妖力の消耗が桁違いだわ…』 桜花姫は水圧の影響からか極度の疲労を感じる。 『やっぱり長時間の戦闘は不可避だけど危険過ぎるわね…早急に仕留めないと…』 深海底の影響からか妖力の防壁を発動するだけでも妖力の消耗が桁外れであり長期戦は危険であると再認識したのである。 『妖力を回復させないと…』 即座に変化の妖術を発動…。周囲に散乱するアビスフィッシュの無数の肉片やら血肉を自身の大好きな桜餅に変化させる。 『桜餅を頂戴するわね♪』 桜花姫は海中をプカプカと浮遊する無数の桜餅をパクパクと頬張り始める。 「桜餅♪美味だわ♪」 『深海底アンデッドの肉片でも桜餅は最高ね♪』 数十個もの桜餅を鱈腹頬張ると消耗した妖力が戻ったのである。 『桜餅で消耗した妖力が回復したわ♪』 大喜びした桜花姫であるが…。再度遠方の海中から無数の魔力を察知する。 『今度も無数の魔力だわ…』 「今度は何が出現するのかしら?」 遠方の海中を凝視し続けると今度は数百体もの人魚の大群が急接近したのである。 『奴等は…人魚の大群かしら?』 暗闇の遠方から人魚の大群が出現するものの…。 『不吉だわ…』 彼女達は全身が血塗れであり腐敗した肉体の一部は劣化の影響からか白骨化した状態だったのである。 『彼女達は人魚の深海底アンデッドね…名前はアビスセイレーンだったかしら?』 血塗れの人魚の正体とは人魚の女性型深海底アンデッドであるアビスセイレーン…。アビスセイレーンは死霊魔術によって無理矢理に復活させられた死亡した人魚の女性型深海底アンデッドである。彼女達は生身の生者である桜花姫を発見すると殺気立った形相で桜花姫に殺到し始める。 「私に挑戦なんて…あんた達は相当の命知らずね♪」 殺到する無数のアビスセイレーンに念力の妖術を発動する。直後…。接近中のアビスセイレーンが身動きしなくなったと同時に全身の肉体が肥大化したのである。彼女達の肉体がパンッと破裂する。 「楽勝♪楽勝♪」 『アビスセイレーンも仕留められたわね♪』 バラバラに破裂したアビスセイレーンの肉片も先程のアビスフィッシュと同様…。無数の桜餅に変化させる。 『消耗した妖力を回復させないとね♪』 桜花姫は再度海中の桜餅を鱈腹頬張ったのである。戦闘開始から数分間が経過する。妖力を消耗した桜花姫だが桜餅を鱈腹頬張ると妖力が蓄積され…。一時的に妖力が回復したのである。 『妖力が戻ったわ♪』 すると今度はアビスセイレーンをも上回る絶大なる魔力を感じる。 「深海底アンデッドの魔力を感じるわ…」 『今度は何が出現するのかしら?大物っぽいわね…今迄の深海底アンデッドよりも強力なのは確実だけど…』 数キロメートルの遠方から猛スピードで全長百数十メートル規模の規格外の怪物が彼女に急接近したのである。 『彼奴は怪物かしら?随分と巨体だわ…』 規格外の怪物は巨大ワーム型の形状であり全身には無数の人面が確認出来る。 「此奴は巨大蚯蚓みたいな怪物ね…」 『ひょっとすると以前遭遇したアビスシーワームだったかしら?』 アビスシーワームは非常に巨体であり深海底アンデッドでは最大級の巨大さである。 『アビスシーワームが出現するなんてね♪』 桜花姫の間近へと接近したアビスシーワームは全身の無数の人面から猛毒の毒液を放射し始める。 『此奴の毒液は危険そうだわ…』 一方の桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。アビスシーワームの毒液を無力化したのである。 『間一髪だわ…』 妖力の防壁により毒液は無力化出来たものの…。アビスシーワームの毒液は非常に強力であり海底下の表面が毒液に接触すると液状化する。 『仕方ないわね…』 「アビスシーワーム…あんたは凍結するのね…」 桜花姫は凍結の妖術を発動したのである。直後…。 『アビスシーワームは凍結で身動き出来なくなったわね♪』 アビスシーワームの全身は凍結化により身動き出来なくなる。 『今度は♪』 今度は凍結化したアビスシーワームに変化の妖術を発動…。巨体のアビスシーワームを特大の桜餅に変化させる。 『変化の妖術…成功ね♪』 桜花姫は特大の桜餅に変化したアビスシーワームを捕食したのである。 『特大の桜餅も美味だわ♪』 特大の桜餅を完食した直後…。 「えっ!?」 『アクアユートピアから魔力だわ…』 突如としてアクアユートピア国内にて無数の強大なる魔力を察知する。 『何かしら?アクアユートピアから魔力を感じるけれど…相当強力そうだわ…』 「アビスシーワーム以上だわ…魔力の正体が大物なのは確実ね…」 桜花姫はアクアユートピアへと戻ろうかと思いきや…。突如として二刀流の悪魔的人魚アビスダーキニーが三体も出現したのである。 『今度は二刀流の人魚かしら?』 「あんた達はアビスダーキニーだったかしら?三体も出現するなんてね…」 彼女達は無表情で桜花姫を凝視し続ける。 『彼女達は遠方からでも一振りするだけで相手を切断出来るのよね…アビスダーキニーに特殊能力を発動されたら厄介だし…』 桜花姫は三体のアビスダーキニーに変化の妖術を発動…。すると三体のアビスダーキニーは美味しそうな桜餅に変化したのである。 『変化の妖術は成功ね♪』 「桜餅♪頂戴するわよ♪」 桜花姫は即座に桜餅に変化した三体のアビスダーキニーを捕食する。 『今度こそアクアユートピアに戻りましょう…』 桜花姫は即座にアクアユートピアへと戻ったのである。 「アビスシーワーム以上に大物の深海底アンデッドが…」 『如何してアクアユートピア内部に侵入出来たのかしら?』 アクアユートピアは無数のアビスセイレーンやらアビスフィッシュが彼方此方に徘徊中であり国内に人魚は誰一人として確認出来ない。 『当然だけど国内の人魚は確認出来ないわね…』 すると徘徊中のアビスセイレーンとアビスフィッシュが桜花姫を発見した直後…。大勢で彼女に殺到したのである。 「あんた達は私を相手に…命知らずね…」 桜花姫は余裕の様子であり多数のアビスセイレーンとアビスフィッシュを相手に変化の妖術を発動する。
第十話
安楽死 桜花姫が無数の深海底アンデッドを相手に奮闘する同時刻…。アクアヴィーナスとアクアキュベレーは自宅の地下室にて隠れたのである。アクアヴィーナスは突然の深海底アンデッドの出現に恐怖したのか全身がプルプルと身震いする。 「アクアヴィーナス…大丈夫よ…桜花姫様が国境で深海底アンデッドの大群と奮闘中だからね…」 母親のアクアキュベレーは身震いし続けるアクアヴィーナスに慰撫したのである。 「桜花姫が…」 極度の恐怖心によりビクビクし続けたアクアヴィーナスであるものの…。桜花姫の存在に一時的に緊張感が緩和されたのである。 『桜花姫なら…大丈夫だよね…』 アクアヴィーナスは桜花姫の存在に一安心した直後…。 「ヘぇ…桜花姫って名前の異国の魔女がアクアユートピアの国境で奮闘中なのね♪」 突如として彼女達の目前より素肌が灰白色の悪魔的人魚が出現したのである。 「ひゃっ!母様!」 「貴女は一体何者なの!?」 突如として出現した悪魔的人魚にアクアヴィーナスとアクアキュベレーは戦慄し始め…。極度の恐怖心からか全身が膠着化したのである。一方の悪魔的人魚は満面の笑顔で自身の名前を名乗り始める。 「私が何者なのかって?私の名前はアビスサキュバスよ♪厳密には人魚タイプの最上級アンデッドかしら♪」 「アビスサキュバス?最上級アンデッドですって…」 アビスサキュバスは魔法によりアクアキュベレーの身動きを封殺したのである。 「きゃっ!」 アクアキュベレーはアビスサキュバスの金縛りの魔法で身動き出来なくなる。 「母親の人魚は身動き出来なくなったわね♪」 アビスサキュバスは身動き出来なくなったアクアキュベレーに冷笑したのである。 「母様!?」 一方のアクアヴィーナスは身動き出来なくなったアクアキュベレーに恐怖する。 『母様が…私は…如何すれば?』 するとアビスサキュバスは落涙し始めるアクアヴィーナスを冷笑したのである。 「愛娘のあんたは極度の弱虫みたいね♪」 アクアヴィーナスは弱虫の一言にピクッと反応する。 「如何やら図星かしら♪あんたは否定出来ない様子ね♪」 アビスサキュバスは再度魔法を発動したのである。 「弱虫のあんたは私の魔法で永眠しなさいね♪」 アクアヴィーナスはアビスサキュバスの魔法の影響からか突如として極度の眠気により衰弱化し始め…。 「えっ…はぁ…」 昏睡したのである。 『アクアヴィーナス!?』 突如として昏睡し始めたアクアヴィーナスにアクアキュベレーはゾッとする。 「安心なさい♪あんたの愛娘は私の催眠魔法で安楽死出来るのだからね♪」 『アクアヴィーナスが…安楽死ですって!?』 アクアキュベレーは身動き出来ないものの…。動揺したのである。 「弱虫の愛娘を安楽死させてから…母親のあんたも私が殺しちゃうから安心するのね♪親子仲良く天国に旅立てるのよ♪最高よね♪」 アビスサキュバスは冷笑する。
第十一話
夢想世界 アクアヴィーナスが昏睡してより同時刻…。 『彼女は幼少期の…私かしら?』 アクアヴィーナスは自身の夢想世界で幼少時代に人魚の子供達から迫害された過去の光景を直視する。 『ひょっとして此処は…私自身の過去の記憶かしら?』 子供のアクアヴィーナスはとある道端で数人の人魚の子供達から…。 「あんたは人一倍弱虫ね♪アクアヴィーナス♪」 「四六時中ウジウジしちゃって…鬱陶しいのよ…」 「あんたは二度と出歩かないで!人魚の疫病神!」 「あんたが出歩くだけでアクアユートピアの海水が汚染されちゃうからね♪」 「アクアヴィーナスは外出しないのが無難だわ♪あんたは目障りなのよ♪」 周囲の者達に迫害される光景にアクアヴィーナスは涙腺より涙が零れ落ちる。 『如何してこんな光景が?』 想起したくない過去の光景にアクアヴィーナスは逃げたくなる。すると過去の光景がパッと消滅したかと思いきや…。 「えっ!?」 視界全体が漆黒の暗闇に覆い包まれる。 「ひゃっ!」 暗闇の空間にアクアヴィーナスは畏怖したのである。 『如何して突然暗闇に!?』 「えっ?」 彼女の背後より…。 「結局は貴女も…私から逃げちゃうのね…」 アクアヴィーナスの背後には血塗れの幼少時代のアクアヴィーナスが佇立する。 「えっ…私は…」 幼少時代の彼女は殺気立った形相でありアクアヴィーナスを睥睨したのである。 「如何して私ばかり…私ばかりが…」 幼少時代のアクアヴィーナスは短剣を所持…。 「傍観者のあんたも気に入らないし…私を迫害した奴等…全員殺したいわ!」 彼女の涙腺から血液の涙がドロドロと流れ出る。 「えっ…」 「手始めに…傍観者の貴女から♪」 幼少時代のアクアヴィーナスは血液の涙がドロドロと流れ出るものの…。不吉の笑顔で目前のアクアヴィーナスを冷笑したのである。 「貴女も目障りだから♪殺しちゃおうかしら?」 幼少時代のアクアヴィーナスがアクアヴィーナスを短剣で刺突する直後…。 「きゃっ!」 突如として幼少時代のアクアヴィーナスは身動きしなくなる。 「えっ!?」 『一体何が!?』 突然の出来事にアクアヴィーナスは驚愕したのである。 『如何して彼女は身動きしなくなったのかしら?』 するとアクアヴィーナスの背後より何者かが背中をポンッと接触する。 「ひゃっ!」 「大丈夫かしら♪アクアヴィーナス♪」 「えっ!?貴女は桜花姫!?」 背後の人物は誰であろう最上級妖女の桜花姫だったのである。 「危機一髪だったわね♪アクアヴィーナス♪」 「桜花姫…吃驚させないでよね…」 アクアヴィーナスは突然の桜花姫の出現に吃驚したものの…。ホッとしたのか彼女の涙腺から大粒の涙が零れ落ちる。 「桜花姫…」 アクアヴィーナスは力一杯桜花姫に密着する。 「アクアヴィーナス…」 「桜花姫!私…今回ばかりは本当に殺されちゃうかと…」 「心配せずとも大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪あんたは心配性ね♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。 「如何して桜花姫がこんな場所に?」 アクアヴィーナスが恐る恐る問い掛けると桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「私は口寄せの妖術であんたの精神世界に進入したのよ♪」 「私の精神世界に進入ですって?」 口寄せの妖術の効果範囲は現実世界の地上世界のみならず…。到達不可能とされる他者の精神世界さえも容易に行き来出来る。 「如何やら私はアクアヴィーナスの夢想世界に移動しちゃったみたいね♪」 「桜花姫…貴女は他者の精神世界にも干渉出来るのね…」 『桜花姫は一体何者なの?精神世界にも干渉出来るなんて神族の化身かしら?』 最早アクアヴィーナスにとって桜花姫は神族の領域であり彼女が何者なのか理解出来なくなる。すると直後…。 「あんた達…」 桜花姫の金縛りの妖術により身動き出来なくなった幼少時代のアクアヴィーナスは肉体が崩壊し始める。崩壊し始めた彼女の内部からは素肌が灰白色…。頭髪が青紫色の悪魔的人魚が出現する。 「彼女がアクアヴィーナスに精神攻撃した張本人みたいね…」 「此奴…アビスサキュバスだわ!」 「アビスサキュバスですって?彼女は一体何者かしら?」 「アビスサキュバスは他者の精神世界に侵入出来る深海底の夢魔よ!」 アビスサキュバスは最上級の実験体アンデッドであるが…。地域によっては深海底の夢魔とも呼称される。 「彼女は深海底の夢魔なのね…」 するとアビスサキュバスは桜花姫を凝視し始める。 「私の魔法を強制的に解除出来るなんて…あんたが噂話の異国の魔法使いかしら?予想以上の強豪なのね…」 『私以外に他者の精神世界に干渉出来る魔女が存在するなんてね…』 アビスサキュバスは意外であると感じる。 『魔力もアビスエキドナスに匹敵するわね…如何やら此奴を仕留めるのは私一人では無理そうだわ…』 桜花姫の妖力は実質深海底の女王アビスエキドナスに拮抗する領域だったのである。アビスサキュバスは自身の魔力では力不足であると感じる。 「あんたはアビスサキュバスだったかしら?今回は私が相手で残念だったわね♪」 『此奴は他者の精神世界に侵入してから相手を衰弱死させる戦法みたいね…』 アビスサキュバスは精神的攻撃が得意であり他者の精神世界へと自由自在に侵入出来…。侵入した人物の辛苦の過去やら惨劇の光景を再現させられる。アビスサキュバスによって精神世界に侵入された人間は忘却したい過去やら辛苦の光景を再体験させられ…。最終的に衰弱死する。 「私が参上したからには♪あんたの悪事も大失敗みたいね♪」 「異国の魔女が…小癪ね…」 アビスサキュバスは殺気立った表情で桜花姫を睥睨したのである。一方の桜花姫は満面の笑顔で変化の妖術を発動し始める。 「あんたは即刻桜餅に…」 「あんたの魔法なんか!」 アビスサキュバスは苦し紛れに召喚魔法を発動する。数十匹もの真蛸を召喚…。 「きゃっ!」 桜花姫の全身に密着させたのである。 『彼女…真蛸を口寄せしたの!?』 桜花姫は真蛸の触手と吸盤に気味悪くなったのか変化の妖術を中断する。 『彼女の魔法を中断させられたわ♪今直ぐ此処から脱出出来そうね♪』 「一か八かよ!」 アビスサキュバスはテレポート魔法を発動…。即座にアクアヴィーナスの精神世界から脱出したのである。 「桜花姫!?アビスサキュバスが逃げちゃったわ!」 「えっ!?」 『畜生…彼女に逃げられるなんて…』 数分間が経過する。 『変化の妖術…発動!』 桜花姫は全身に密着した数十匹もの真蛸を大好きな桜餅に変化…。美味しく頬張ったのである。 「彼奴に逃げられちゃったのは非常に残念ね…アクアヴィーナス…」 「アビスサキュバスに逃げられちゃったのは残念だけど…桜花姫が私の精神世界に干渉しなかったら…私は今頃…」 「あんたが無事なのが何よりよ♪アクアヴィーナス♪」 「桜花姫…」 アクアヴィーナスは桜花姫の返答に内心嬉しくなり…。表情が赤面する。 「兎にも角にも…私達は精神世界から脱出しましょう♪」 桜花姫は口寄せの妖術を発動するとアクアヴィーナスの精神世界から無事脱出出来たのである。
第十二話
封印魔法 アクアヴィーナスの精神世界での出来事から数分後…。間一髪現実世界に戻ったアビスサキュバスは再度深海底魔王城で親玉のアビスエキドナスと再合流したのである。 「アビスサキュバス…貴女は戻ったのね…」 するとアビスサキュバスは恐る恐る状況を報告する。 「アビスエキドナス…異国の魔女と遭遇したけど彼女は想像以上の強豪だったわ…正直私の魔力だけでは異国の魔女に対抗出来ないわ…如何しましょう?」 「近頃の噂話では異国の魔女は深海底魔女のダークスキュランを仕留めた強豪らしいからね…所詮非力のあんただけでは無謀でしょうね…」 アビスエキドナスはアビスサキュバスに失笑し始める。 「はっ!?」 『私が…非力ですって!?』 アビスサキュバスは失笑するアビスエキドナスに一瞬腹立たしくなる。 「アクアユートピア本土にはアビスラメイアスを潜入させたから大丈夫でしょう…彼女には何一つとして魔法による攻撃は通用しないからね…」 アビスサキュバスが根城に戻った同時刻…。アクアユートピア本土に侵攻したアビスラメイアスであるが道端にはアビスセイレーンとアビスフィッシュの死骸が彼方此方に目に付いたのである。 『所詮下級の深海底アンデッドは役立たずの能無しだわ…』 アビスラメイアスは内心尻拭いが面倒に感じる。 『結局尻拭いは私なのね…』 アビスラメイアスはアクアユートピアの中心街へと進入するものの…。 『不自然だわ…』 外部では誰一人として人魚と遭遇しなかったのである。 『生身の人魚が一人も確認出来ないわね…如何して人魚と遭遇出来ないのかしら?』 理由としてダークスキュランが迅速的に国内の人魚達に避難を指示…。アクアユートピアの人魚達は無事に安全地帯へと避難出来たのである。 「ひょっとしてダークスキュランの仕業かしら…」 『彼奴…私の獲物である生身の人魚達を事前に避難させたのね…』 アビスラメイアスは誰一人として人魚を捕食出来ず苛立ち始める。 『腹立たしい深海底魔女だわ…ダークスキュランは発見し次第食い殺さないと!』 すると彼女の背後より…。 「極悪非道の深海底アンデッド!死にたくなければアクアユートピアから退却しなさい!退却しないと貴女を成敗するわよ!」 短剣を所持した四人の人魚達がアビスラメイアスの背後に出現する。 「はっ?退却しないと私を成敗ですって?」 『命知らずね…彼女達は余程死にたいのかしら?』 アビスラメイアスは内心人魚達に呆れ果てる。 「あんた達は…一体何者なの?」 アビスラメイアスが問い掛けると人魚の一人が即答したのである。 「私達はアクアユートピアの守護者だ!あんたが死霊の深海底アンデッドであったとしても!大人しく退却するのであれば私達は手出ししない…」 「退治されたくなければ即刻退却しなさい!」 アビスラメイアスは人魚の発言に呆れ果てる。 『私を退治って…』 「あんた達…人魚の守護者なのね♪私を相手に命知らずなのかしら?」 アビスラメイアスはニコッと冷笑し始める。 「あんた!何が可笑しいのよ!?」 人魚の一人が再度問い掛けるとアビスラメイアスは笑顔で…。 「面白そうだわ♪あんた達が相手でも退屈凌ぎには好都合ね♪最上級である深海底アンデッドの私を相手に奮闘出来るかしら?」 「あんたね…」 アビスラメイアスの態度にピリピリしたのか人魚の守護者達は苛立ち始める。 「此奴…私達とは会話が通用しないみたいだわ…」 するとアビスラメイアスは満面の笑顔で…。 「であれば如何するのよ♪あんた達は私を退治しちゃうのかしら♪」 「此奴…深海底アンデッドの分際で!」 アビスラメイアスの挑発に人魚の守護者達は警戒し始める。 「あんた達♪警戒したみたいね♪私は空腹だし…美味しそうなあんた達の血肉を捕食するわね♪」 「私達の血肉を捕食出来るかしら?アビスラメイアス♪」 相手は自分達よりも格上であり最上級の深海底アンデッドであるものの…。人魚の守護者達は余裕の様子だったのである。 「えっ…あんた達…」 『私よりも格下の人魚なのに…随分と余裕の態度だわ…何故なのかしら?』 アビスラメイアスは彼女達の様子が非常に不思議がる。 「あんた達♪アビスラメイアスを包囲するわよ♪」 リーダー格の人魚の守護者が指示すると三人の人魚の守護者達は笑顔で承諾する。 「了解♪」 彼女達は標的であるアビスラメイアスを包囲したのである。 「ん?」 『彼女達は一体何を開始するのかしら?』 相手は格下の人魚達であり余裕のアビスラメイアスであるものの…。彼女達の行動に警戒したのである。 「あんた達♪私達の魔法でアビスラメイアスを封印するわよ!」 リーダー格の人魚の守護者が三人の人魚の守護者達に封印魔法を指示する。 「オーケー♪」 「私は準備万端よ♪」 「私も♪」 人魚の守護者達は体内の魔力を放出させたかと思いきや…。アビスラメイアスの周囲より直径数十メートル規模の魔法陣が形作られる。 「えっ!?魔法陣ですって!?」 『ひょっとして彼女達は封印魔法を発動するのかしら!?』 一時的であるが…。封印魔法にアビスラメイアスは動揺し始める。 「アビスラメイアス…あんたの魔力を封殺する!」 「覚悟なさい!アビスラメイアス!はっ!」 彼女達はアビスラメイアスに封印魔法を発動したのである。封印魔法は深海底魔女ダークスキュランが使用した最強の高等魔法であり彼女が生前…。あらゆる魔法の通用しないアビスラメイアスの魔力を無力化出来たのは今現在人魚の守護者達が発動した封印魔法である。 「ぎゃっ!」 地面より半透明の血紅色の鉄鎖が出現…。アビスラメイアスの全身を拘束させる。 「ぐっ…」 ダークスキュランは防衛用として国内の人魚達に最低限の戦闘用魔法を伝授させたのである。 『こんな奴等がダークスキュランの封印魔法を!?』 アビスラメイアスは人魚達の発動した封印魔法で完全に身動き出来なくなる。 「アビスラメイアスは身動き出来なくなったわ♪」 「封印魔法は成功ね!私達が封印魔法を解除しなければアビスラメイアスは金輪際身動き出来ないでしょう♪」 アビスラメイアスは意識が喪失したのか完全に身動きしなくなったのである。 「最上級の深海底アンデッドを封殺出来たからね♪」 「一先ずは大物の一体を無力化出来たからね♪一安心だわ♪」 アビスラメイアスの身動きを封殺した彼女達は安堵するものの…。 「私を封印ですって?あんた達は随分と浅慮ね♪」 封印魔法により意識が喪失したアビスラメイアスが満面の笑顔で発言し始める。 「えっ!?」 「此奴…意識が戻ったの!?」 「彼女は本物の怪物かしら…私達の封印魔法が通用しないの!?」 アビスラメイアスは意識が戻ったのか周囲の彼女達を冷笑する。 「あんた達♪残念だったわね♪油断大敵よ♪」 アビスラメイアスは余裕の様子だったのである。 「所詮あんた達程度の魔法で私を封印するなんて不可能なのよね♪」 するとアビスラメイアスは体内の魔力を蓄積させた直後…。 「はっ!」 衝撃波の魔法を発動したのである。 「きゃっ!」 「ぐっ!」 直後…。アビスラメイアスの発動した衝撃波の魔法により四人の人魚達は十数メートル程度吹っ飛ばされる。 「所詮あんた達の封印魔法はダークスキュランの下位互換だわ♪」 アビスラメイアスは最上級の深海底アンデッドの一体であり魔力は絶大である。現実的に通常の人魚が発動する魔法程度では最上級アンデッドの彼女に対抗出来ない。一人の人魚がアビスラメイアスを直視する。 「アビスラメイアス…予想以上の魔力だわ…桁外れの魔力ね…」 『ダークスキュランはこんな規格外の怪物を単独で封印したの?』 彼女達はダークスキュランの強大さを実感したのである。するとアビスラメイアスは自身の魔力を人魚の一人に自慢し始める。 「圧倒的でしょう♪私の魔力♪」 アビスラメイアスはノソノソと彼女に近寄る。 「手始めに気弱そうなあんたから肉体を頂戴するわね♪」 「あんたは…私に何を?」 人魚は恐る恐るアビスラメイアスに問い掛ける。 「何って♪」 アビスラメイアスは人魚の肉体に接触した直後…。 「きゃっ!」 人魚の肉体はズルズルとアビスラメイアスの体内へと吸収されたのである。 『消耗した魔力が蓄積されたわ♪今度は三人の人魚達も捕食しちゃおうかしら♪』 数分後…。中心街にて人魚の守護者達を蹴散らしたアビスラメイアスはダークスキュランの根城の表門へと到達したのである。 「アビスラメイアス!」 「えっ?今度の相手は誰かしら?」 アビスラメイアスの背後には深海底魔女のダークスキュランが佇立する。 「誰かと思いきや…あんたは深海底魔女の…ダークスキュラン♪本物の人魚みたいな姿形ね♪ひょっとしてイメージチェンジかしら?」 「アビスラメイアス…私があんたの暴走を阻止するわ!」 「あんたが私の暴走を阻止出来るのかしら♪私にはあんたの魔法は何一つとして通用しないわよ♪」 「覚悟するのね!アビスラメイアス!」 「あんたは愚か者ね…私を相手に死にたいのかしら?」 彼女達は対峙したのである。
第十三話
猛反撃 ダークスキュランとアビスラメイアスが交戦中…。 『何かしら?』 桜花姫は中心街の根城で強大なる魔力を察知したのである。 『ダークスキュランの根城から魔力を感じるわ…非常に強力みたいだわ…』 「アビスシーワーム以上の大物が根城に出現したみたいね…ひょっとすると最上級アンデッドのアビスラメイアスかしら?」 桜花姫は強大なる魔力の正体が最上級の深海底アンデッド…。アビスラメイアスであると予想する。彼女は即座にダークスキュランの根城へと驀進したのである。移動してより数分後…。桜花姫は根城の表門へと到達したのである。 「えっ!?ダークスキュラン!?」 ダークスキュランはアビスラメイアスの尻尾で拘束され…。彼女はグッタリした様子であり体内の魔力が吸収された状態だったのである。 「ぐっ…桜花姫…」 ダークスキュランはグッタリした表情で桜花姫を直視する。 「彼奴♪人魚の新手かしら♪」 アビスラメイアスも桜花姫の存在に気付いたのである。 「如何やらあんたは異国の人魚みたいね♪アクアユートピア以外にも生身の人魚が存在するなんて吃驚ね♪」 アビスラメイアスは冷笑した表情で桜花姫を注視する。 『如何しましょう?アビスラメイアスには私の妖術は無力化されるし…最上級妖女の私でも迂闊には近寄れないわね…』 桜花姫はアビスラメイアスには手出し出来ず困惑したのである。 「如何やらあんたが噂話の異国の魔女みたいね♪如何しちゃったのかしら♪」 水圧の影響からか桜花姫の妖力が消耗し始め…。息苦しくなる。 「ぐっ…」 『水圧の影響かしら?妖力の消耗が桁外れね…』 桜花姫の重苦しい様子にアビスラメイアスは冷笑する。 「あんたは重苦しそうだわ…如何やら魔力が消耗したみたいね♪ひょっとして水圧の影響かしら?いい気味ね♪」 『彼女♪随分と息苦しそうな様子だわ♪無理しちゃって…』 一方の桜花姫は苦し紛れであるが…。 「何が重苦しいのかしら?私は別に…こんな水圧なんて平気だけど…」 自身が平気であると自負したのである。桜花姫が息苦しい様子なのは一目瞭然でありアビスラメイアスは再度冷笑する。 「強がっちゃって♪無理に強がってもあんたが空元気なのはバレバレなのよ♪」 するとアビスラメイアスは猛スピードで桜花姫に急接近…。 「私からは逃げられないわよ♪異国の魔女♪あんたは覚悟するのね♪」 アビスラメイアスは力任せに彼女を捕縛したのである。 「ぎゃっ!」 「異国の魔女…私は魔力の消耗で空腹なのよ♪」 「アビスラメイアス…私を…如何するのよ?」 桜花姫は睥睨した表情でアビスラメイアスに問い掛ける。 「如何するかって?あんたの肉体から美味しそうな血肉と魔力を頂戴するのよ♪」 アビスラメイアスは捕縛した桜花姫の肉体を露出した素肌に密着し始め…。 「えっ…」 「何方にせよ…あんたは私に捕食される運命なのよ♪観念するのね♪」 桜花姫の肉体はアビスラメイアスの体内に吸収されたのである。 「異国の魔女♪あんたの血肉は非常にビューティフルだわ♪其処等の人魚よりも美味しいわね♪」 「桜花姫!?」 ダークスキュランは桜花姫がアビスラメイアスに捕食される光景に恐怖する。 『桜花姫がアビスラメイアスに吸収されちゃったわ…あんたが死んじゃったらアクアユートピアの運命は…』 人魚王国アクアユートピアにとって最後の希望である桜花姫はアビスラメイアスに捕食され…。ダークスキュランは絶望したのである。 「異国の魔女は片付けられたし♪今度はあんたを♪」 アビスラメイアスは再度ダークスキュランを凝視し始め…。 「ダークスキュラン♪観念するのね♪」 彼女は不吉の笑顔でニヤッと冷笑したのである。 「今度こそあんたの肉体を頂戴するわよ♪覚悟なさい♪」 直後…。 「えっ…」 突如としてアビスラメイアスの肉体は白煙に覆い包まれる。 「アビスラメイアス?一体何が?」 数秒後…。 「なっ!?桜花姫!?」 白煙の中心部から無傷の桜花姫が人魚の状態で出現したのである。 「あんたはアビスラメイアスに捕食されて…ひょっとしてあんたは桜花姫の幽霊なのかしら?」 ダークスキュランは突然の事態に愕然とする。 「私が幽霊なんて失礼しちゃうわね♪ダークスキュラン♪」 「あんたは本物なの?本物の…桜花姫なの?」 ダークスキュランは不思議そうな表情で恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「私なら大丈夫よ♪ダークスキュラン♪私は本物の桜花姫だからね♪」 桜花姫は自身が本物であり大丈夫であると断言する。 「あんたは強豪のアビスラメイアスに捕食されたのに…如何してあんたは無事なのよ?荒唐無稽の魔法を駆使したのかしら?」 ダークスキュランは再度桜花姫に問い掛ける。 「私はアビスラメイアスに捕食されけど彼女の体内で同化したのよ♪」 彼女は肉体を吸収された直後にアビスラメイアスの体内と同化…。体内からアビスラメイアスの肉体を吸収したのである。 「桜花姫はアビスラメイアスと同化したのね…」 ダークスキュランは苦笑いする。 『捕食されたのにアビスラメイアスと同化出来るなんて…私が以前の一件で…甘海老に変化させた彼女を捕食したら…』 ダークスキュランは内心ゾッとしたのである。 「相手を油断させないとね♪」 「桜花姫…あんたは人騒がせだわ…」 ダークスキュランは桜花姫が人騒がせであると感じるものの…。 「最強のあんたが無事だし…一安心ね…」 桜花姫は無事でありダークスキュランはホッとする。 「ダークスキュラン♪あんたが私を心配するなんて意外ね♪ひょっとしてあんたもアクアヴィーナスみたいに心配性なのかしら♪」 「なっ!?誰があんたの心配なんか!桜花姫が仕留められれば誰がアクアユートピアを守護するのよ!?」 ダークスキュランは赤面し始め…。彼女に怒号したのである。 「兎にも角にも♪アビスラメイアスを吸収してから妖力が回復したわ♪私は今回の大事件の黒幕の根城に突入するわね♪」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。彼女の姿形がパッと消失する。 「えっ!?桜花姫!?」 『彼女は…一人で大丈夫なのかしら?相手は深海底アンデッドの始祖なのよ…』 ダークスキュランは桜花姫が強豪のアビスエキドナスを相手に生還出来るのか心配したのである。
最終話
解放 自身の肉体に口寄せの妖術を発動してより数秒後…。 『口寄せの妖術は成功ね♪』 桜花姫はブルーデストピアの深海底魔王城最上層へと一瞬で到達出来たのである。 『深海底魔王城に到達出来たわね♪』 最上層の中心部にはアビスラメイアスに酷似した女性型の半身海蛇の怪物は勿論…。先程アクアヴィーナスの夢想世界で遭遇したアビスサキュバスが佇立する。 『アビスサキュバスと…中央の海蛇みたいな女体の怪物は何者なの?』 彼女の魔力は最上級アンデッドのアビスラメイアスをも容易に上回る。 『彼女の魔力はアビスラメイアス以上ね…ひょっとすると中央の彼奴が深海底アンデッドの親玉かしら?』 女性型の半身海蛇の怪物が深海底アンデッドの親玉であると確信したのである。すると女性型の半身海蛇の怪物が突如として出現した桜花姫に注視し始める。 「ん?彼女は何者かしら?」 「えっ!?あんたは異国の魔女!?」 アビスサキュバスは突然の桜花姫の出現に驚愕したのである。 「私は最上級妖女…桃源郷神国の桜花姫…月影桜花姫よ♪」 「月影桜花姫ですって?あんたが噂話の異国の魔女みたいね…私の名前はアビスエキドナスよ…深海底アンデッドの女王様とでも…」 桜花姫はアビスエキドナスを直視すると満面の笑顔で…。 「アビスエキドナス♪如何やらあんたが今回の大事件の黒幕みたいね♪」 「私が黒幕であれば…如何するのかしら?桜花姫とやら…」 「勿論♪私が妖術であんたを征伐するわよ♪深海底アンデッドの女王様♪」 桜花姫は余裕の態度でアビスエキドナスに挑発したのである。 「地上世界の下等生物であるあんたが…深海底アンデッドの女王である私を征伐すると?あんたの魔力は非常に強力なのかも知れないけれども…所詮地上世界の生命体では深海底の女王である私を仕留めるなんて不可能でしょうね…」 アビスエキドナスは無表情で返答する。今度は手下のアビスサキュバスが冷笑した表情で…。 「無論あんたが地上世界最強の魔女でも♪深海底ではアビスエキドナスを征伐するなんて無謀なのよ♪」 アビスサキュバスも強気の態度で挑発し始める。 「所詮地上世界の生命体ではアビスエキドナスは仕留められないわよ♪アビスエキドナスは深海底アンデッドの始祖であり…深海底の女王様だからね♪死にたくなかったら大人しく私達に降参するのが無難よ♪」 強気のアビスサキュバスであるが…。桜花姫は彼女の様子に呆れ果てる。 「あんたは…雑魚の分際で鬱陶しいわね…」 桜花姫の無関心そうな態度にアビスサキュバスはピリピリし始める。 「なっ!?最上級である深海底アンデッドの私を雑魚ですって!?此奴は腹立たしい小娘ね!」 「あんたの名前はアビスサキュバスだったかしら?雑魚は沈黙するのが無難よ…」 桜花姫はアビスサキュバスに変化の妖術を発動…。 「えっ?」 アビスサキュバスは非力の甘海老に変化させられたのである。桜花姫の変化の妖術で甘海老に変化したアビスサキュバスは魔力を消失…。無力化させられたのである。 「アビスサキュバスが簡単に翻弄されちゃうなんてね…あんたの魔力が強力なのは事実みたいだわ…」 「手下は無力化したわ♪私の相手は親玉のアビスエキドナスだけね…私に大人しく降参するのであればあんたは命拾い出来るかも知れないわよ♪」 「深海底の女王である私が異国の魔法使いを相手に降参ですって?」 アビスエキドナスは冷笑する。 「桜花姫とやら♪私にはあんたの魔法なんて通用しないのよ♪何しろ私はアビスラメイアスの母体であり彼女の上位互換だからね♪」 桜花姫も失笑した表情でアビスエキドナスに反論…。 「強がってもあんたの敗北は確定なのよ♪私は全世界最強の魔女だからね♪」 アビスエキドナスは全世界最強の魔女と自称する桜花姫に再度冷笑したのである。 「あんたが全世界最強の魔女なんて冗談かしら?井の中の蛙大海を知らず…桜花姫にピッタリの格言ね♪」 するとアビスエキドナスの両目が赤色に発光し始め…。 「はっ?あんたは一体何を?」 「月影桜花姫…石化の魔法であんたは石像に変化するのよ!」 「なっ!?石像ですって!?」 アビスエキドナスの両目を直視した影響からか桜花姫の全身が石化したのである。 「世の中にはね…上には上があるのよ♪あんたは思い知りなさい♪」 アビスエキドナスは石化した状態の桜花姫に接触する。 「芸術的だわ♪随分と可愛らしい石像が誕生したわね♪」 『正直…最高傑作の彼女の石像を破壊するのは勿体無いわね♪』 アビスエキドナスにとって石化した状態の桜花姫を破壊するのは非常に心苦しく感じるものの…。 『止むを得ないわ…』 アビスラメイアスは破壊の魔法を発動すると石化した桜花姫の肉体はバラバラに粉砕されたのである。 「邪魔者は完膚なきまでに片付けられたわ…」 『今度こそアクアユートピアを攻略出来そうね♪』 彼女がアクアユートピアへと移動する直前…。 「ん?」 バラバラに砕け散った桜花姫の肉片が白煙に覆い包まれる。 「なっ!?」 桜花姫の石化した状態の肉片は完膚なきまでに消滅したのである。 『桜花姫の肉体が消滅した!?』 突然の超常現象にアビスエキドナスは動揺し始める。 『彼女の肉体は!?』 すると彼女の背後より…。 「残念だったわね♪アビスエキドナス♪」 「えっ!?桜花姫!?如何してあんたが!?」 彼女の背後には無傷の桜花姫が存在する。 「あんたは私の魔法で全身が石化したのでは!?」 「あんたが破壊したのは私の分身体なのよ♪」 「分身体ですって?」 「アビスエキドナス…今度は私が猛反撃するわね♪」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。 「ん?」 『一体何かしら?』 アビスエキドナスの背後から巨大ワームホールが発生したのである。 「ワームホール?」 巨大ワームホールの中心部より…。小型の潜水艦が出現したのである。 「なっ!?」 『此奴は…鋼鉄の白鯨かしら!?』 近代兵器の一種である小型潜水艦の出現にアビスエキドナスは驚愕する。 「今度こそ死滅しなさい♪深海底アンデッドの女王様♪」 小型の潜水艦から数本の魚雷が発射され…。アビスエキドナスの背中に数本の魚雷が直撃したのである。 「ぎゃっ!」 アビスエキドナスは小型潜水艦の魚雷攻撃により粉砕…。周囲には彼女の鮮血やら肉片が無数に飛散したのである。 『親玉のアビスエキドナスを征伐出来たし♪今回の事件は無事解決ね♪』 深海底アンデッドの女王アビスエキドナスは桜花姫の口寄せした小型潜水艦の魚雷攻撃により仕留められる。元凶のアビスエキドナスが仕留められた同時刻…。 『桜花姫が彼女を…アビスエキドナスを…』 深海底魔女のダークスキュランは魔法の水晶玉で桜花姫の様子を一部始終観察したのである。 『深海底アンデッドの女王…アビスエキドナスは完全に消滅したのね…』 今現在でこそ敵対者であるが彼女にとってアビスエキドナスは本物の母親であり内心心残りは感じられるものの…。彼女の呪縛から解放されダークスキュランはホッとしたのである。同時刻…。アクアヴィーナスとアクアキュベレーは自宅の地下壕で待機するも重苦しい空気が感じられなくなり一安心する。 「母様♪周囲の空気が戻ったわ♪」 「深海底アンデッドの大群が全滅したのね♪」 「桜花姫が深海底アンデッドの大群を全滅させたのよ♪」 「アクアユートピアは解放されたのね♪」 人魚王国アクアユートピアは深海底アンデッドの大群から無事に解放され…。国内の人魚達は大喜びしたのである。深海底アンデッドの女王であり始祖とされるアビスエキドナスの死後…。暗闇の深海底では金輪際深海底アンデッドが出現しなくなる。 完結
第零部
第一話
夜番 世界暦九千九百九十二年四月四日の真夜中…。東国武士団の夜番警備隊総大将であった月影鉄鬼丸は東国の国境より出現した悪霊を征伐しに出掛ける。 『東国の国境に悪霊が出現したのか…』 近頃は悪霊の出現頻度が頻繁であり常日頃から多忙である鉄鬼丸は非常に苛立ったのである。東国武士団は神出鬼没の悪霊征伐に対応出来る夜番警備隊を結成させるのだが…。安穏時代は長年の平和の弊害からか凄腕の剣豪は実質一握りだったのである。唯一剣豪と畏怖される武家一族の月影一族名手…。月影鉄鬼丸が悪霊征伐専門の夜番警備隊大隊長に抜擢されたのである。鉄鬼丸は安穏時代の桃源郷神国では随一の剣豪であり彼に対抗出来る剣豪は今現在皆無とも断言出来る。鉄鬼丸の性格は非常に生真面目であり人一倍厳格である。普段は単独での活動が大半であり彼自身の性格上…。同期の仲間達からは取っ付き難い一匹狼とも揶揄される。西国の自宅から移動を開始してより二時間後…。鉄鬼丸は東国の国境に到達したのである。 『此処が神出鬼没の悪霊が出現するとされる…噂話の場所だな…』 鉄鬼丸は恐る恐る周囲を警戒するのだが…。 『悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…』 周囲は暗闇の自然林ばかりで悪霊らしき物体は何一つとして確認出来ない。 『悪霊は出現しないのか?』 数分間が経過するのだが…。神出鬼没の悪霊は出現しない。 「はぁ…」 『今回は仕方ないな…』 今夜は出直そうとかと思いきや…。 「ん?」 鉄鬼丸は突発的悪寒により極度の胸騒ぎを感じ始める。 『突然胸騒ぎが…』 すると数秒後…。 『一体何が出現したのか?』 背後の地中より数体の悪食餓鬼が出現したのである。 『此奴は…悪食餓鬼か…』 鉄鬼丸は即座に護身用の刀剣を抜刀する。 「神出鬼没の悪霊よ…即刻貴様等を征伐する…」 護身用の刀剣を抜刀した鉄鬼丸は神速の身動きで悪食餓鬼に接近…。 「成仏せよ!」 神速の身動きで悪食餓鬼の頭首を斬撃したのである。頭首を斬撃された悪食餓鬼は身動きしなくなる。 『亡者達は成仏したか…』 一体の悪食餓鬼を仕留めるのだが…。 『悪霊は…恐怖心を感じられないのか?本能のみで活動するのか?』 悪食餓鬼は恐怖心が皆無であり彼等の大群は只管に鉄鬼丸へと殺到する。 「地獄の亡者達よ…貴様等は完膚なきまでに成仏せよ!」 鉄鬼丸は神速の身動きによって自身に殺到し続ける悪食餓鬼の大群に反撃…。悪食餓鬼の大群は全滅したのである。 「貴様達程度で…私を食い殺そうなんて片腹痛いわ…」 鉄鬼丸は周囲の様子を確認する。 『如何やら悪霊は片付いたみたいだな…』 鉄鬼丸は自宅へと戻ろうかと思いきや…。背後より無数の殺気を感じる。 「ん?」 『今度は…』 鉄鬼丸は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。 『此奴は…悪霊の新手か?』 背後には無数の悪食餓鬼が融合化した肉団子の怪物が出現…。 『肉団子みたいな図体だな…』 肉団子の怪物は一頭身の肉塊であり鈍足の身動きで鉄鬼丸に近寄る。 『此奴は悪霊の集合体…百鬼悪食餓鬼と呼称される怪物か…』 鉄鬼丸の背後に出現したのは無数の悪食餓鬼が一体化した肉塊の悪霊…。百鬼悪食餓鬼である。 『こんな場所に悪霊の親玉が出現するとは…』 百鬼悪食餓鬼の体表に確認出来る無数の悪食餓鬼の頭部が標的である鉄鬼丸を凝視し始め…。無数の口先から猛毒の瘴気を放射したのである。百鬼悪食餓鬼の瘴気は黒煙であり黒煙に接触した地面…。周囲の植物が枯死したのである。 『此奴は猛毒の瘴気か…』 純血の人間である鉄鬼丸にとって百鬼悪食餓鬼の瘴気は致命傷であり僅少でも体内に吸収すれば毒死は回避出来ない。 『此奴は厄介だな…』 鉄鬼丸は呼吸を我慢した状態で百鬼悪食餓鬼に急接近したのである。 「成仏せよ!悪霊の集合体!」 鉄鬼丸は百鬼悪食餓鬼の胴体を一刀両断…。両断された百鬼悪食餓鬼は肉片が彼方此方に散乱すると無数の悪食餓鬼へと変化する。 『瘴気は浄化されたが…』 同時に放射された猛毒の瘴気は自然と浄化されたのである。 『百鬼悪食餓鬼の肉片から無数の悪食餓鬼に分裂するとは…』 無数の悪食餓鬼が鉄鬼丸に殺到する。 「覚悟しろ!悪霊の大群!」 鉄鬼丸は無数の悪食餓鬼を相手に無双…。数秒間で出現した無数の悪食餓鬼を仕留めたのである。 『今度こそ悪霊は片付けられたか…』 すると国境の殺気も感じられなくなる。 『如何やら無事に終了したみたいだな…』 鉄鬼丸は安堵したのである。無事に事件は解決出来…。 『私は武家屋敷に戻ろうか…』 鉄鬼丸は西国の自宅へと戻ったのである。 「お帰りなさいませ…鉄鬼丸様…」 「春海姫か…」 春海姫は真珠の耳装飾と群青色の着物が特徴的であり頭髪は黒毛の長髪…。両目は半透明の血紅色である。自宅へと戻った鉄鬼丸に女房の春海姫は恐る恐る…。 「鉄鬼丸様♪今夜も無事に戻られましたね…鉄鬼丸様が無事で私は一安心ですよ♪」 春海姫は鉄鬼丸に緑茶を手渡したのである。 「春海姫よ…」 鉄鬼丸は肥大化した春海姫の下腹を恐る恐る凝視し始める。 「鉄鬼丸様?如何されましたか?」 「下腹が以前よりも満月みたいだな…」 「えっ…満月ですか?鉄鬼丸様…」 鉄鬼丸の突発的発言に春海姫は赤面し始める。 「数日後には…私達の赤ちゃんが誕生しますよ♪」 「数日後か…」 『数日後には…こんな俺でも一児の父親なのか…』 普段は厳格の鉄鬼丸であるが…。今日の鉄鬼丸は普段の彼とは別人みたいに温厚だったのである。 『鉄鬼丸様♪』 鉄鬼丸の様子に春海姫は満面の笑顔で微笑み始める。すると鉄鬼丸は恐る恐る…。 「春海姫よ…明日は久方振りに俺と一緒に近辺の川辺で散歩しないか?」 「えっ?」 『鉄鬼丸様と!?川辺で散歩!?』 鉄鬼丸の発言に春海姫は一瞬驚愕する。鉄鬼丸は基本的に一人で行動するのが大半であり自宅でも朝晩の食事以外は単独行動が日常茶飯事だったのである。 「駄目だったか?春海姫?」 「駄目なんて…私と一緒に散歩しましょう♪鉄鬼丸様♪」 春海姫は赤面した表情であるものの…。 『鉄鬼丸様と散歩なんて♪』 内心では鉄鬼丸との散歩に大喜びしたのである。
第二話
桜花 翌日の真昼…。鉄鬼丸と春海姫は近辺の川辺を散歩したのである。周囲は川音と風音の音色が村里全体に響き渡り…。満開に開花した桜花の樹木が川辺に確認出来る。鉄鬼丸は満開に開花した桜花の樹木を直視したのである。 「今日は…桜花の樹木が満開だな…」 「魅了されますね♪鉄鬼丸様♪」 満開に開花した桜花の樹木に二人は感動する。すると桜花の樹木に魅了された鉄鬼丸は恐る恐る…。 「春海姫?突然なのだが…」 「えっ?如何されましたか?鉄鬼丸様?」 鉄鬼丸は普段よりも緊張した様子だったのである。 『鉄鬼丸様…緊張したのかしら?』 鉄鬼丸は一瞬沈黙するのだが…。 「春海姫…」 鉄鬼丸は小声で発言する。 「子供の名前なのだが…俺達の子供が女の子だったら…」 鉄鬼丸は気恥ずかしくなったのか赤面し始めたのである。 「桜花姫なんて…名前は如何だろうか?」 「えっ…桜花姫ですか?」 春海姫は一瞬沈黙するものの…。 「桜花姫ですか♪」 桜花姫の名前に春海姫は微笑んだのである。 「桜花姫♪月影桜花姫♪春季の天女みたいで可愛らしい名前ですね♪鉄鬼丸様♪」 「えっ!?本当に桜花姫なんかで大丈夫なのか!?」 春海姫の返答に鉄鬼丸は驚愕する。 「正直桜花姫なんて適当に名付けた名前なのだが…」 春海姫は驚愕した表情の鉄鬼丸に笑顔で即答したのである。 「勿論…私は大賛成ですよ♪適当だったとしても私は反対しませんよ♪折角鉄鬼丸様が名付けられた名前なのですからね…私は賛成しますよ♪」 春海姫は鉄鬼丸の名付けた子供の名前に賛成する。 「大賛成だったか…春海姫…」 鉄鬼丸は一安心した表情であり内心大喜びだったのである。 「私自身は純血の妖女だから…多分出産予定の子供は女の子でしょうね♪」 基本的に妖女の性質上として母親の妖女は同種の妖女しか出産出来ないとされる。すると鉄鬼丸は恐る恐る問い掛ける。 「突然だが…春海姫よ…」 「如何されましたか?鉄鬼丸様?」 鉄鬼丸は緊張した様子であったが…。 「春海姫は…こんな一匹狼の俺なんかと一緒に生活して幸福だったのか?」 「えっ?突然如何されましたか!?鉄鬼丸様!?」 突然の鉄鬼丸の問い掛けに春海姫は吃驚したのである。 「鉄鬼丸様らしくないですね…」 春海姫は吃驚する反面…。鉄鬼丸の本音が意外にも感じられる。 「俺は正直…人一倍一匹狼の性格だからな…こんな性格だから信頼し合える仲間…友達も皆無だし…」 鉄鬼丸は自分自身の性格が気になるのか不安の様子だったのである。 「春海姫にとって俺との生活は気難しいかなって…気になったのだ…」 「えっ…鉄鬼丸様…」 鉄鬼丸の突然の発言に春海姫は困惑する。 『鉄鬼丸様って…意外と自分自身の性格が気になるのかしら?』 突然の問い掛けに春海姫は困惑するものの…。彼女は満面の笑顔で返答する。 「私は今現在でも幸福ですよ♪私が鉄鬼丸様に見惚れたのですから♪三年前に鉄鬼丸様と対面しなければ私は今頃神出鬼没の悪霊に食い殺されたでしょうね…」 春海姫は三年前の真夜中の散歩中に悪霊と遭遇…。食い殺される寸前に夜番警備隊の鉄鬼丸に守護され鉄鬼丸の勇敢さに見惚れたのである。 「春海姫は人一倍単純だな…春海姫らしいが…」 「えっ…」 『私って…単純なのかしら?』 鉄鬼丸の一言に春海姫は赤面する。 「ですが三年前の悪霊事件に遭遇しなければ…私は鉄鬼丸様とは婚姻出来なかったのですからね♪」 「春海姫は悪霊に食い殺されたかも知れないからな…」 二人は自宅へと戻ったのである。
第三話
初孫 翌日の早朝…。薬屋の蛇体如夜叉が月影家の武家屋敷へと訪問する。 「邪魔するよ♪春海姫♪」 「蛇体如夜叉婆様♪久し振りですね♪」 春海姫は蛇体如夜叉との久方振りの再会に大喜びしたのである。 「春海姫ちゃんよ♪あんたが元気そうで安心したよ♪」 春海姫の元気そうな様子に蛇体如夜叉は一安心する。 「ん?春海姫ちゃん…彼奴は?」 蛇体如夜叉は警戒した様子で問い掛ける。 「えっ?彼奴ですって?誰ですか?」 「あんたの亭主だよ!あんたの亭主は?」 「鉄鬼丸様なら東国の警備に出掛けましたよ…」 「彼奴は出掛けたのかい♪非常に好都合だね…」 蛇体如夜叉は鉄鬼丸が不在でありホッとしたのである。 「えっ…蛇体如夜叉様?好都合って?」 春海姫は一瞬困惑する。 「彼奴は…私は鉄鬼丸が苦手でね…」 蛇体如夜叉は性格的に鉄鬼丸が苦手であり両者は犬猿の仲だったのである。 「鉄鬼丸様は一匹狼で厳格ですからね…」 春海姫は苦笑いしたのである。 「本日は如何されたのでしょうか?蛇体如夜叉婆様?」 問い掛けられた蛇体如夜叉は即答する。 「あんたが月影鉄鬼丸って人間の武士と婚姻してから元気なのか如何なのか確認したかったのさ♪」 「私は毎日元気ですよ♪蛇体如夜叉婆様は心配性ですね♪」 春海姫は満面の笑顔で返答したのである。 「私でも心配するよ!あんたは天女の村里では一番の気弱で病弱だったからね…当然心配するさ♪」 天女の村里とは南国に存在する小村落地帯であり両親を亡くした孤児達は勿論…。人間達に迫害された妖女の子供達が生活する安住の居住地である。幼少期では春海姫も蛇体如夜叉に世話され…。南国の天女の村里で生活したのである。弱肉強食の戦乱時代では各地の戦乱やら疫病によって両親を亡くした大勢の孤児達を蛇体如夜叉が養護…。子供達を世話したのである。 「春海姫ちゃん♪人一倍気弱で病弱だったあんたが…数日後には一児の母親とはね♪非常に感慨深いね♪」 春海姫は赤面した表情で…。 「私にも子供が出来ますからね♪」 すると蛇体如夜叉は小声で発言する。 「如何やら私にとっては初孫だね♪私も初孫と対面したいね♪」 「えっ?初孫ですって?」 春海姫は蛇体如夜叉の初孫の一言に反応したのである。 「初孫は初孫だよ!私にとってあんたは愛娘だからね♪当然としてあんたの愛娘は私にとって正真正銘初孫だよ♪」 「蛇体如夜叉婆様…」 春海姫は蛇体如夜叉の初孫発言に苦笑いする。 「何よりも♪あんたが元気そうで安心したよ♪春海姫ちゃん♪私は退散するね♪」 蛇体如夜叉は南国の村里へと戻ったのである。 「蛇体如夜叉婆様も元気そうで何よりだわ…」 春海姫は元気そうな蛇体如夜叉に微笑み始める。
第四話
死別 翌日の真夜中…。鉄鬼丸は不吉の気配を察知したのである。 『殺気か!?』 警戒した様子で刀剣と武具を装備…。鉄鬼丸は全速力で外出したのである。一方の春海姫は熟睡中であったものの…。 「えっ?」 室内の物音によって恐る恐る目覚める。 『鉄鬼丸様は?』 屏風に装飾された刀剣と甲冑が無かったのである。 『ひょっとして鉄鬼丸様は…』 春海姫は鉄鬼丸が外出したのであると察知する。春海姫が目覚めた同時刻…。 『此処は廃墟神社か…』 一方の鉄鬼丸は近辺に位置する廃墟神社にて無数の殺気を察知したのである。 『ひょっとして此処に悪霊の大群か!?』 鉄鬼丸は暗闇の廃墟神社へと到達するのだが…。廃墟神社には無数の悪食餓鬼の血肉が彼方此方に散乱する。廃墟神社の中心部には藍色の着物姿…。木刀を所持した小柄の花魁の女性が確認出来る。 『彼女は…花魁なのか?如何してこんな場所に花魁が?』 こんなにも真夜中の片田舎に花魁の女性が一人で出歩くのを不自然に感じる。鉄鬼丸は警戒した様子で恐る恐る…。 「悪霊の大群は…花魁のあんたが退治したのか?」 問い掛けられた花魁の女性は背後の鉄鬼丸を無表情で直視し始める。 「其方は…人間の武士だな…」 女性は両目が半透明の群青色であり姿形は人間の女性であるが…。頭髪は銀髪の長髪であり非常に異質的だったのである。 「ん?」 『此奴は姿形が女人でも…正体は人外だろうな…』 鉄鬼丸は彼女の異質的雰囲気から人間とは別物であると察知する。 「女人よ…其方は一体何者なのだ?」 鉄鬼丸は恐る恐る女性に問い掛ける。 「其方は人外なのは確実だな…名前を名乗れ…」 すると花魁の女性は名前を名乗り始める。 「私の名前は【天狐如夜叉】…大陸の神族とでも…」 「なっ!?」 鉄鬼丸は彼女の神族の一言に反応する。 「其方は…大陸の神族だと!?」 自身を大陸の神族と名乗る天狐如夜叉に鉄鬼丸は驚愕したのである。 『今現在の世の中でも…本物の神族が存在するとは…』 太古の旧世界を支配した強大なる神族であるが…。戦乱時代以前の太古の大昔に古代人達との大戦争で敗北したのである。過半数以上の神族が人間達により殺害され…。迫害されたのである。 「古代の伝承では…蛇体如夜叉以外の神族は大昔に全員虐殺されたと…」 今現在生存が確認出来る神族は実質桃源郷神国出身者の蛇体如夜叉のみとされる。 「如何やら今現在では間違った認識が各地で出回ったみたいだな…古代の人間達との大戦争で瀕死の状態だった私は同志達と一緒に異国の土地で肉体を治癒させたのだ…」 天狐如夜叉は数万年前の古代文明時代…。人間達との大戦争で瀕死の状態であり自身の同志達と一緒に異国の土地へと逃亡したのである。 「瀕死から復活した私は以前よりも肉体が強化されたのだ…手始めに神聖なる土地に蔓延する虫けらの大群を蹴散らしたが…こんな奴等では強化された私の実力を発揮するには力不足であるな…」 天狐如夜叉は無表情で鉄鬼丸を凝視し始め…。 「非力の人間だとしても…相当の実力者である其方であれば地面の薄汚い害虫よりは私の実力を発揮出来そうだな…」 天狐如夜叉の雰囲気に圧倒されたのか鉄鬼丸は恐る恐る後退りし始める。 『此奴は其処等の悪霊よりも厄介そうだ…』 鉄鬼丸は対峙しただけで天狐如夜叉の強大さを察知する。 『人間の私では天狐如夜叉には対処出来ない…如何する?』 鉄鬼丸は恐る恐る刀剣を抜刀したのである。 「相手が荒唐無稽の神族であったとしても…」 『私が此奴を阻止しなければ…西国の村里は勿論…何よりも春海姫と…桜花姫が…殺されるかも知れない…』 相手が自身よりも荒唐無稽に強大であっても阻止しなければ西国の村里は勿論…。女房の春海姫と愛娘の桜花姫が天狐如夜叉によって殺害されるのは明白である。 『姿形は非力の女人であっても…此奴は…』 鉄鬼丸は鬼神の形相で天狐如夜叉に睥睨する。 「天狐如夜叉とやら!覚悟しろ!」 鉄鬼丸は神速の身動きによって天狐如夜叉に急接近すると即座に斬撃したのである。すると天狐如夜叉は自身の木刀で間一髪防備する。 「其方は非力の人間としては非常に強力だが…相手が悪かったな…」 直後…。 「なっ!?」 『此奴は…木刀で…』 摩訶不思議の超常現象が発生する。荒唐無稽の超常現象により鉄鬼丸の鋼鉄の刀剣が屈折したのである。 『天狐如夜叉は荒唐無稽の妖術を駆使したのか!?』 「私の刀剣が…一瞬で…」 突然の超常現象に鉄鬼丸は愕然としたのか全身が膠着する。 「非力の其方が不思議がるのも当然であろうな…私の木刀は世界樹の妖星巨木の小枝から形作られた神剣なのだ…人間の刀剣が通用するか…」 「妖星巨木だと?」 天狐如夜叉の所持する木刀は世界樹の妖星巨木から形作られた代物である。神族特有の神力を混入すれば一時的に鋼鉄をも上回る硬質さを発揮出来るとされる。 「私の木刀は神力を混入すれば強度は鋼鉄をも上回る…死滅しろ!非力の人間!」 鉄鬼丸は天狐如夜叉に腹部を斬撃され…。 「ぐっ!」 『此奴…木刀だけで…』 鉄鬼丸は地面に横たわったのである。 「ぐっ…」 『畜生が…』 腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。 「所詮其方は脆弱なる人間風情なのだ…神族の一人である私には勝利出来ない…死滅せよ…非力の人間…」 直後…。天狐如夜叉は身動きしなくなる。一方の鉄鬼丸は恐る恐る…。 「何故だ?何故…あんたは…瀕死の俺を…殺さない?あんたの実力なら俺を…簡単に斬殺出来るだろう?如何して…」 天狐如夜叉は無表情で返答する。 「今更瀕死の其方を斬殺しても無意味だ…失血死するのだな…非力の人間よ…」 すると鉄鬼丸は恐る恐る問い掛ける。 「あんたは…一体…何が主目的なのだ?」 「私の主目的だと?」 天狐如夜叉は即答したのである。 「太古の大昔に存在した…神族の君臨する神世界を再興させたいのだ…」 「神世界の…再興だと?」 「太古の大昔…数万年前の大戦争で私達神族は愚劣なる人間達によって迫害され…完膚なきまでに駆逐されたのだからな…」 古代文明時代当時の神族は多種多様の超能力を所持した異類の少数民族であったが…。大勢の人間達を相手するには多勢に無勢だったのである。人間達との大戦争により大勢の神族が迫害され…。惨殺されたのである。 「今現在の強大化した私であれば…小国程度なら一日で破滅させられる…」 「何故あんたは…私達…人間達に…復讐したいのか?」 鉄鬼丸が問い掛けると天狐如夜叉は即答する。 「即刻人間達を全滅させたいが…幸運にも桃源郷神国には無数の薄汚い悪霊が蔓延中であるからな…彼等によって愚劣なる人間達が駆逐されるのも時間の問題なのだ…私が直接的に手出しせずとも桃源郷神国は無数の亡者達によって死滅させられるであろう…」 天狐如夜叉は地面に横たわった状態の鉄鬼丸を無表情で凝視し続けるのだが…。 「えっ…」 『天狐如夜叉…』 一瞬だが天狐如夜叉の涙腺から一粒の涙が零れ落ちたのである。 『涙腺から…涙を?如何して…彼女は一体何を?』 鉄鬼丸は天狐如夜叉の様子に内心驚愕する。彼女の本心は不明であるが…。 『天狐如夜叉は俺に…如何しろと?』 彼女は鉄鬼丸に無言で泣訴した様子だったのである。すると天狐如夜叉は無言の様子で姿形が消失…。退散したのである。 『畜生…迂闊だったか…』 鉄鬼丸は血塗れの状態であるが…。 「ぐっ…」 『春海姫…桜花姫…』 鉄鬼丸は瀕死の状態で自宅へと戻ったのである。 「ぐっ!」 地面には傷口の鮮血が一滴ずつ出血し続ける。 『畜生が…目前の視界が…』 鉄鬼丸は出血多量により視界が黒化し始め…。 『今夜が俺の…命日とは…』 全身がふら付いたのである。 『畜生が…』 鉄鬼丸は自宅の玄関へと到達するのだが…。力尽きたのか地面に横たわる。 『春海姫…桜花姫…俺は…俺は…』 鉄鬼丸は出血多量によって衰弱化したのである。 『畜生が…明日は桜花姫の出産日かも知れないのに…俺の桜花姫を…俺の両手で抱けないのは…非常に心残りだな…』 直後…。鉄鬼丸は完全に息絶えたのである。玄関口の物音に気付いた春海姫は即座に玄関へと移動したのである。 「えっ?鉄鬼丸様…鉄鬼丸様!?」 春海姫は鉄鬼丸の肉体に接触すると失血死したのだと察知する。 「えっ…」 『如何して…鉄鬼丸様が…』 春海姫は涙腺より涙が零れ落ちる。 「鉄鬼丸様…如何してなの…鉄鬼丸様…」 剣豪…。月影鉄鬼丸が死去したのは桜花姫の誕生日前日の出来事だったのである。皮肉にも鉄鬼丸が死去した翌日の早朝…。愛娘の月影桜花姫が誕生したのである。
第五話
疾病 世界暦四千九百九十二年四月七日の早朝…。月影一族の分家に一人娘の月影桜花姫が誕生したのである。母親の春海姫は前日の月影鉄鬼丸の他界に暗然としたものの…。自身にとって母親であり神族の一人である蛇体如夜叉の協力によって愛娘の桜花姫を精一杯養育したのである。彼女達の精一杯の養育により桜花姫は立派に成長…。彼女は西国一番の童顔美少女であり村里の村人達からは俗界の天女と命名され大変可愛がられたのである。反面一部の人間達からは人間の美少女に変化した妖怪の子供であると冷罵され…。嫌悪されたのである。一方の彼女は自身を毛嫌いし続ける一部の人間達の冷罵は度外視…。特段気にしなかったのである。十二年後の世界暦五千四年五月二十七日の真昼…。桜花姫は暇潰しに村里を散歩したのである。 「退屈だからね…」 『家屋敷に戻ろうかしら?』 桜花姫は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。 「何よ?あんた達?」 同世代らしき三人組の村娘が彼女を包囲したのである。 「あんたが…月影家の月影桜花姫だったわね?」 「気に入らないわね…あんた…態度も気に入らないわ…」 彼女達は桜花姫を睥睨する。 「はっ?」 『何よ?鬱陶しい奴等ね…』 一方の桜花姫は彼女達の態度に苛立ったのである。 『彼女達は何様かしら?相手するのも面倒臭いわね…』 苛立った桜花姫であるが…。 「私は家屋敷に戻りたいの…悪いけど喧嘩なら今度ね…」 桜花姫は面倒臭そうな態度で返答したのである。 「はっ?あんたね…」 「家屋敷には戻さないわよ!桜花姫!」 一人の村娘が隠し持った出刃包丁で桜花姫を威嚇する。 「あんた達は…本気なの?」 普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。出刃包丁に警戒したのである。 「あんたは何もかもが人一倍気に入らないわ…何が俗界の天女よ…」 「両目の瞳孔も血紅色だし…あんたは本物の妖怪みたいだわ…」 「私が…妖怪ですって?」 桜花姫は妖怪の一言に一瞬反応する。 「あんたが妖怪の子供ならあんたの母親も純血の妖怪よね♪」 「妖怪の子供♪妖怪の子供♪」 彼女達は桜花姫を妖怪の子供だと揶揄したのである。 「あんたみたいな妖怪の子供は西国の村里には不要なの…妖怪の子供は金輪際村里には出歩かないで…」 すると桜花姫は無表情で一言…。 「私が妖怪の子供ですって?あんた達は何様なのかしら?」 桜花姫は非常に苛立ったのか出刃包丁を所持する村娘を睥睨したのである。 「何よ?あんたは私達に反抗するの?」 桜花姫は小声で…。 「鬱陶しいわ…」 桜花姫の一言に彼女達は反応する。 「はぁ?何よ?」 「私達が鬱陶しいですって?」 「あんた…私達に反抗するなんて…」 桜花姫は鬼神の表情で村娘に怒号したのである。 「私を妖怪の子供…妖怪の子供って鬱陶しいのよ!何様なのよ!?あんた達…」 桜花姫は即座に妖術を発動…。 『招き猫に変化しろ…』 変化の妖術を発動したのである。 「えっ?」 すると出刃包丁を所持した村娘は桜花姫の発動した変化の妖術により全身から白煙が発生…。白煙に覆い包まれると村娘は招き猫に変化させられたのである。 「きゃっ!招き猫だわ!」 「やっぱり此奴は本物の妖怪なのよ!逃げないと今度は私達が妖怪の子供に殺されちゃうわ!」 二人の村娘は桜花姫の妖術に畏怖したのか即座に逃走する。 『所詮負け犬が…いい気味だわ…』 桜花姫は招き猫に変化した村娘に冷笑したのである。 「あんたは馬鹿者ね…私を妖怪の子供なんて揶揄するからよ…」 不本意であるが…。桜花姫は変化の妖術を解除する。 『人間に戻りなさい…』 解除すると変化の妖術で招き猫に変化させられた村娘は元通りの人間の姿形に戻れたのである。 「えっ!?元通りだわ…私…人間に戻れたの!?」 桜花姫は無表情で村娘に近寄り始める。 「今度私を妖怪だって揶揄するなら…今度こそあんた達を本気で食い殺すわよ…」 「ひっ!御免なさい!」 三人の村娘は桜花姫に戦慄したのか一目散に逃走したのである。 「折角の自由時間が台無しだったわ…鬱陶しい奴等だったわね…」 『今度こそ家屋敷に戻りましょう…』 数分後…。桜花姫は無事に家屋敷へと戻ったのである。 「はぁ…」 『折角の気分転換だったのに…最悪だわ…』 気分転換で出掛けた桜花姫であるものの…。先程の揉め事に疲れ果てる。家屋敷の台所へと移動するのだが…。 「えっ!?母様!?」 母親の春海姫は疲労困憊の状態であり台所の床面へと横たわった状態だったのである。桜花姫は吃驚した様子で床面に横たわった状態の春海姫に近寄る。 「大丈夫!?母様!?」 春海姫の肉体は非常に高熱であり呼吸も重苦しい。 「母様は風邪かしら?」 『如何しましょう?』 すると薬屋であり神族である蛇体如夜叉の存在を想起したのである。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんって薬屋だったわよね?』 「早速薬屋の蛇体如夜叉婆ちゃんに!」 桜花姫は即座に南国の天女の村里へと疾走する。移動してより一時間後…。 「蛇体如夜叉婆ちゃん!」 桜花姫は蛇体如夜叉の家屋敷に到達する。 「桜花姫ちゃん?随分と大慌ての様子だけど…一体何事かね?」 桜花姫は恐る恐る…。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…母様が…」 「春海姫ちゃんが…一体如何しちゃったのかい?」 「蛇体如夜叉婆ちゃん…大変なの…母様が…母様が…死にそうなの…」 桜花姫は落涙したのである。 「母様が…高熱で死にそうなのよ…」 「えっ!?春海姫ちゃんが高熱で死にそうだって!?本当なのかい!?」 突然であるが…。 「一大事だ…止むを得ないね!」 蛇体如夜叉は桜花姫と一緒に西国の村里へと直行したのである。彼女達は移動を開始してより一時間後…。彼女達は西国の桜花姫の家屋敷へと到達する。 「母様!?」 「春海姫ちゃん…大丈夫なのかい!?」 蛇体如夜叉は床面に横たわった状態の春海姫を確認したのである。恐る恐る春海姫の肉体に接触する。 『春海姫ちゃん…』 蛇体如夜叉の表情が一瞬険悪化するのだが…。 「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん!?母様は大丈夫なの!?」 「桜花姫ちゃん♪心配しなくても春海姫ちゃんなら大丈夫だよ♪」 蛇体如夜叉は不安そうな桜花姫に笑顔で返答する。 「春海姫ちゃんは単なる疲労困憊による風邪だからね♪数日間安静にすれば春海姫ちゃんは大丈夫だから♪」 「母様は単純に風邪だったのね…」 桜花姫は極度の緊張状態から解放され一安心したのである。蛇体如夜叉は再度春海姫の左手に接触…。すると重苦しい表情だった春海姫の表情が安楽に変化する。 「母様の表情が…蛇体如夜叉婆ちゃんの神力で母様の風邪が完治したのね…」 桜花姫は大喜びしたのである。直後…。 「えっ…私は?」 春海姫は恐る恐る目覚める。 「母様!」 桜花姫が力一杯春海姫の腹部に密着したのである。 「桜花姫!?如何しちゃったのよ?大慌てね…」 突然の出来事に春海姫は混乱する。 「春海姫ちゃん…突然だから吃驚しちゃったかも知れないけれどね…」 蛇体如夜叉は春海姫に先程の出来事を洗い浚い告白したのである。 「えっ…私が…」 自身が卒倒したのは無自覚であり春海姫は愕然とするのだが…。 「桜花姫…心配させちゃって御免なさいね…」 「大丈夫よ…大丈夫だから…私は…」 桜花姫は落涙する。 「一件落着だね♪私は南国の村里に戻ろうかね…」 「蛇体如夜叉婆様♪感謝します…」 彼女達は蛇体如夜叉に感謝したのである。 「安静が大事だよ♪春海姫ちゃん♪」 すると蛇体如夜叉は笑顔で帰宅する。数分後である。蛇体如夜叉は帰宅中…。 『春海姫ちゃん…あんたは今後…』 彼女の涙腺より涙が零れ落ちる。 『長生き出来ないのね…春海姫ちゃん…』 「桜花姫ちゃんよ…御免ね…あんたの母さんは…」 蛇体如夜叉は春海姫の運命を覚悟したのである。今回の出来事以降…。春海姫は状態が戻ったのか今迄と同様に通常の生活へと戻れたのである。
第六話
天道天眼 四日後の真昼…。桜花姫は暇潰しに西国の天狗山にて登山したのである。不満そうな様子で一息…。 『本当…毎日が退屈ね…』 桜花姫は毎日の日常生活が退屈であり憂鬱だったのである。 『面白そうな出来事でも発生しないかしら?』 桜花姫は山道を移動中…。 「えっ?」 『何かしら?』 突如として天空より無数の石ころが地面に落下したのである。 『石ころ!?』 危険を察知した桜花姫であるが…。突如として岩山の天辺を直視したのである。 「えっ!?」 すると等身大の巨石が落石し始める。 『落石だわ!』 危機を察知した桜花姫であるが…。 「きゃっ!」 桜花姫は不運にも落下した巨石が自身の背中に直撃したのである。 「ぐっ!」 背中の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。 『鮮血が…私は…こんな場所で失血死しちゃうのかな?母様…蛇体如夜叉婆ちゃん…私は死にたくないよ…』 桜花姫は落石の直撃により背中を大怪我…。彼女は瀕死の状態であり意識が遠退いたのである。事故の発生から数時間後…。突然の落石により虫の息であった桜花姫であるが地元の村人達に救助されたのである。村人達の尽力によって救助された桜花姫だが…。彼女の意識は依然として戻らず母親の春海姫は絶望したのである。 「如何して…」 『如何して私の桜花姫が…こんな状態に…』 桜花姫の様子は絶望的であり春海姫は涙腺より涙が零れ落ちる。 「桜花姫…桜花姫!?」 すると家屋敷の戸口より神族の蛇体如夜叉が訪問する。 「春海姫ちゃん!?桜花姫ちゃんが落石で瀕死状態なのは本当なのかい!?」 蛇体如夜叉は地元の村人達から桜花姫の噂話を傾聴…。早急に桜花姫の家屋敷へと直行したのである。 「桜花姫ちゃんは!?」 「蛇体如夜叉婆様…桜花姫は…」 瀕死状態の桜花姫に蛇体如夜叉も絶望する。 『桜花姫ちゃん…』 最早桜花姫は虫の息であり絶望的だったのである。 『彼女は…私にとって自慢の孫娘だったのに…如何して桜花姫ちゃんが?』 蛇体如夜叉も涙腺から涙が零れ落ちる。 「蛇体如夜叉婆様…如何して子供の…桜花姫が母親の私なんかよりも…」 「春海姫ちゃん…」 蛇体如夜叉は彼女の悲痛の発言に何も返答出来なかったのである。 「はぁ…」 春海姫は絶望する。 『私の…私の桜花姫は…』 桜花姫の最期を覚悟した直後…。 「うっ!ぐっ…」 突如として桜花姫の意識が戻ったのである。 「えっ!?桜花姫!?」 「桜花姫ちゃん!?あんたは意識が戻ったのかい!?」 「ぐっ!うっ…はぁ…」 春海姫と蛇体如夜叉は突如として意識の戻った桜花姫に驚愕する。 「はぁ…はぁ…」 桜花姫は恐る恐る目覚める。 「えっ…私は…一体?此処は?」 彼女は寝惚けた様子であり無表情で周囲を直視し始める。 「えっ…母様?蛇体如夜叉婆ちゃん?如何して私はこんな場所に?ひょっとして此処は天国なの?私は…落石で死んじゃったのかしら?」 春海姫は寝惚けた様子の桜花姫に恐る恐る返答する。 「桜花姫…此処は私達の家屋敷よ…現実なのよ…」 「えっ…現実ですって?此処は私達の…家屋敷?」 桜花姫は周辺の様子を確認したのである。 「えっ!?現実ですって!?」 桜花姫は恐る恐る自身の背中を接触…。 「背中の傷口は!?私は落石で…」 蛇体如夜叉は恐る恐る桜花姫の背中の傷口を確認する。 「完治状態だね…あんたは無傷だよ…桜花姫ちゃん…」 「桜花姫の背中が無傷ですって!?」 春海姫も即座に桜花姫の背中を確認する。 「本当ですね…蛇体如夜叉婆様…如何して変化の妖術しか使用出来ない桜花姫が…治癒の妖術を発動出来たのかしら?」 桜花姫が駆使出来る妖術はあらゆる対象を変化させる変化の妖術のみである。現段階の桜花姫では変化の妖術以外の妖術は使用出来ない。 「治癒の妖術ですって?一体何かしら?」 不思議がる桜花姫は背後の春海姫と蛇体如夜叉を直視するのだが…。 「えっ!?桜花姫!?」 「現実かね?桜花姫ちゃんの両目が…」 桜花姫の両目に彼女達は愕然とする。 「えっ!?如何しちゃったのよ?二人とも?」 愕然とする二人に桜花姫は困惑したのである。 「桜花姫…あんたの両目が…半透明の瑠璃色に…」 「私の両目が…瑠璃色ですって!?」 桜花姫の両目の瞳孔は半透明の血紅色であるが…。今現在の彼女の両目は半透明の瑠璃色に発光した状態だったのである。蛇体如夜叉は桜花姫の両目に恐る恐る…。 「ひょっとすると桜花姫ちゃんの両目は…天道天眼かね?」 「天道天眼ですって?天道天眼って何かしら?」 「蛇体如夜叉婆ちゃん…天道天眼って何よ?」 春海姫と桜花姫は不思議そうな表情で蛇体如夜叉に問い掛ける。 「天道天眼はね…五百年前の戦乱時代末期に元祖妖女とされる桃子姫が開眼した伝説の神性妖術だよ…」 「元祖妖女の桃子姫が開眼した神性妖術ですって?」 「正直何が何やら…」 桜花姫も春海姫も内心珍紛漢紛だったのである。 「突然だからあんた達には理解出来ないかも知れないがね…神性妖術の天道天眼を開眼した妖女は現存するあらゆる妖術を駆使出来るらしいよ…当然として天道天眼を開眼出来る妖女は一握りだけどね…」 「あらゆる妖術を!?」 「先程の落石による背中の傷口が完治出来たのも…桜花姫ちゃんは無意識的に治癒の妖術を発動したみたいだね…」 桜花姫は恐る恐る…。 「天道天眼を開眼したのであれば…私は今迄以上に妖術を駆使出来るのかしら?」 「治癒の妖術以外の妖術も駆使出来るかも知れないね…」 蛇体如夜叉は桜花姫の問い掛けに返答に一瞬困惑する。 「桜花姫ちゃんの場合…妖力だけなら普通の妖女よりも桁違いに莫大だからね…無論桜花姫ちゃんが天道天眼を抑制出来るかは別問題だけど…」 桜花姫は誕生当初から通常の妖女よりも妖力が莫大であり天道天眼は勿論…。多種多様の妖術を抑制するのは非常に困難であると予想したのである。下手に高等系統の妖術を連発し続ければ肉体への負担は勿論…。強大過ぎる妖力を抑制出来ず自分自身以外の他者を殺害する可能性も否定出来ない。蛇体如夜叉は今以上に桜花姫が生き辛くなると予想したのである。 「天道天眼を私利私欲に使用するか…其処等の村人達に貢献するかは桜花姫ちゃんの自由だよ…」 蛇体如夜叉は一安心したのか玄関の戸口へと移動する。 「何はともあれ…桜花姫ちゃんが無事なのが何よりだよ…達者でね♪」 蛇体如夜叉は南国の天女の村里へと戻ったのである。移動中…。蛇体如夜叉は無言で帰宅したのである。 『桜花姫ちゃん…ひょっとすると彼女は…桜花姫ちゃんは元祖妖女…桃子姫の再来なのかも知れないね…』 蛇体如夜叉は内心…。天道天眼を開眼した桜花姫が元祖妖女の桃子姫の再来であると予測したのである。蛇体如夜叉が戻ったと同時に…。桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色から半透明の血紅色へと戻ったのである。 「桜花姫…貴女の両目が戻ったわ…」 「えっ?私の両目…戻っちゃったの?」 何がともあれ春海姫は意識が戻った桜花姫にホッとしたのか一安心する。 『桜花姫が無事で良かったわ…』 桜花姫の無事に安堵する一方…。春海姫は先程の桜花姫の両目が瑠璃色に発光した超常現象が気になる。 『天道天眼だったかしら?結局天道天眼って…一体何かしらね?』 春海姫は天道天眼の存在が気になったのである。
第七話
殺害 天狗山での落石事故以降…。特段変化が無かったのか桜花姫と春海姫は平穏に生活したのである。落石事故の一件以後…。桜花姫は何度か天道天眼が発動出来るか試行し続けるのだが天道天眼は一度として発動されない。 「可笑しいわね…」 『天道天眼…発動出来ないわね…』 桜花姫は数日間試行し続けるものの…。 「はぁ…」 『結局…偶然だったのかしら?』 結局天道天眼は一度も発動されなかったのである。 「仕方ないわ…」 『暇潰しに散歩しましょう…』 桜花姫は暇潰しに散歩に出掛ける。近所の村道を移動中…。偶然にも出くわした村人達が桜花姫に畏怖したのか彼女から恐る恐る後退りしたのである。 「えっ?」 『何かしら?如何して村人達は私から後退りするのよ?』 最初は気にならなかったが…。出くわした村里の大人達やら子供達が彼女を直視すると一目散に逃走したのである。 『村人達の私に対する反応…本物の悪霊にでも遭遇した反応みたいだったわ…』 桜花姫は村人達の態度に一瞬腹立たしくなるものの…。 「失礼しちゃうわね…」 気にせず只管に村道を直進し続ける。すると民家の村道にて以前遭遇した村娘と遭遇したのである。 「ひっ!桜花姫!?如何して妖怪のあんたがこんな場所に!?」 村娘は非常に警戒した様子であり恐る恐る後退りする。 「妖怪なんて失礼しちゃうわね!一体何様よ!?私を悪霊みたいに…」 村娘は恐る恐る桜花姫を睥睨したのである。 「全部あんたが悪いのよ!あんたが妖怪の子供だから村人達に毛嫌いされるのよ!何もかもあんたの自業自得でしょうが!」 「ひょっとしてあんた…村人達に喋ったの?」 「えっ…」 桜花姫は問い掛けると村娘は動揺し始める。 「如何やらあんたの反応…図星みたいね…」 桜花姫は彼女の反応に図星であると感じる。村娘は先日の出来事を村人達に告白…。噂話は西国の村里全域に出回ったのである。 「はぁ…私が妖怪の子供ですって…」 「何よ?桜花姫…あんたが私に妖術なんて駆使するからよ…全部あんたが悪いのよ!あんたが出歩かなければ私だって何も…」 桜花姫は村娘の発言に怒気が頂点に到達する。 「如何やらあんたは…」 「何よ…桜花姫…」 村娘は桜花姫に対する極度の恐怖心からか身震いし始める。 「あんたは私に殺されたいみたいね…」 「えっ…桜花姫?あんたは本気なの?本気で私を…」 桜花姫は殺気立った表情である。 『殺気かしら?』 桜花姫の様子から本気の殺意が感じられ…。村娘は彼女の殺気立った形相に戦慄したのである。 『桜花姫の表情…本気っぽいわね…』 一方の桜花姫は今度こそ村娘を本気で殺そうかと思いきや…。 「はぁ…」 『こんなにも無価値の雑魚…殺しても仕方ないわね…』 呆れ果てた桜花姫は家屋敷へと戻ったのである。 「桜花姫…」 『私は…一瞬彼女に殺されるかと…』 村娘は命拾い出来たものの…。極度の恐怖心からか涙腺から涙が零れ落ちる。一方の桜花姫は無事に家屋敷へと戻れたものの…。 「えっ!?」 居室の畳表には数個の石ころが散乱した状態であり室内の障子には複数の風穴が確認出来る。 『一体…何よ?』 寝室へと移動すると春海姫が廃人みたいな様子だったのである。 「母様!?如何しちゃったのよ!?大丈夫!?」 桜花姫は恐る恐る春海姫に近寄る。 「桜花姫…貴女…」 「何よ…母様?」 すると春海姫は落涙したのである。 「桜花姫…貴女は金輪際…昼間は出歩かないで…」 「えっ…母様…一体何を?出歩くなって…何よ?」 先日の村娘との揉め事により桜花姫の噂話は西国の村里全域に拡散する。桜花姫は納得出来ず…。 「如何して私達が我慢するの!?悪いのは私に喧嘩を吹っ掛けた奴等なのよ!」 「桜花姫が悪くないのは理解出来るけれど…私達は普通に生活したいの…私は今後も貴女と平穏に生活したいのよ…」 「母様!私は我慢出来ないわ!」 桜花姫は村人達に対する怒気が頂点に到達したのである。 「母様…私は…今直ぐにでも奴等を…村人達を…」 桜花姫の形相が鬼神の形相に変化し始める。 「私は我慢出来ないわ…今直ぐにでも村人達を皆殺しに!」 「えっ…桜花姫?貴女は一体何を!?本気なの!?」 「私は…」 桜花姫の様子から本気の殺意が感じられる。 『桜花姫…』 春海姫は桜花姫の様子に不安感が頂点に到達した直後…。 「ぐっ!」 春海姫は重苦しそうな様子であり吐血したのである。 「えっ!?吐血!?母様!?如何しちゃったのよ…大丈夫!?」 『一体母様に何が!?如何して母様は吐血したのよ!?』 春海姫は息苦しさから深呼吸が目立ち始める。 「桜花姫…私から…逃げなさい…今直ぐに…貴女を死なせたくないの…私は貴女を…殺したくないのよ…」 「えっ!?」 直後である。春海姫は両目から出血…。どす黒い血液の涙が流れ出る。 『彼女は母様なの!?』 最早今現在の彼女は今迄の春海姫とは完全に別人だったのである。 「母様!?大丈夫!?」 「桜花姫…貴女は今直ぐ私から逃げなさい…私は貴女を…殺したくない…殺したくないのよ…逃げなさい…桜花姫!」 春海姫は皮膚の一部が焼け爛れた状態に変化し始め…。左目の眼球が落下する。彼女は悪霊みたいな形相に変化したのである。 「桜花姫…桜花姫…」 春海姫は幽霊みたいな風貌で桜花姫に近寄る。 「きゃっ!」 『母様が悪霊に!?』 桜花姫は春海姫の様子から神出鬼没の悪霊を連想したのである。 『母様に一体何が!?』 桜花姫は極度の恐怖心からか全身が膠着し始め…。身動き出来ず逃げたくても逃げられなかったのである。 「桜花姫…桜花姫…今直ぐ私から…逃げなさい…」 春海姫は桜花姫の肉体に接触…。 「母様!?殺さないで!」 「私は…貴女を殺したくないのよ…逃げなさい…桜花姫…」 すると春海姫の右目より一粒の涙が零れ落ちる。 「桜花姫…私を…私を殺して…私は貴女の母親として…死にたいのよ…私を殺しなさい…貴女以外の誰かに殺されるよりは…貴女に…殺されるなら…私は…本望よ…」 春海姫は泣訴したのである。 『母様…』 直後である。 「えっ…」 突発的に体内の妖力が急上昇し始める。 『一体何が?』 桜花姫の両目が半透明の瑠璃色に発光した直後…。無意識的に神性妖術の天道天眼が発動されたのである。 『天道天眼だわ…』 如何して突発的に天道天眼が発動されたのかは不明瞭であったが…。 「母様…御免なさい…」 桜花姫は母親の春海姫に念力の妖術を発動したのである。不本意であるが…。 「桜花姫…」 春海姫の頭部は桜花姫の発動した念力の妖術によって破裂したのである。 『母様…母様が…』 「私が…母様を…」 桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。 『私は今後…如何すれば…母様…』 桜花姫は絶望したのである。
第八話
自白 同日の深夜帯…。近所の村人の通報により桜花姫の家屋敷に二人の邏卒が訪問したのである。 「片田舎の西国で殺人事件とは物騒だな…」 「殺人事件が発生したのは月影家の家屋敷みたいだな…」 「月影家って…月影鉄鬼丸の武家屋敷だったよな?」 「鉄鬼丸の武家屋敷で誰か打っ殺されたのか?非常に物騒だな…」 彼等は恐る恐る月影家の家屋敷へと潜入する。居室には無数の石ころが確認出来る。 「噂話では月影鉄鬼丸の妻子は人外の妖女らしいからな…一部の村人達には相当毛嫌いされたとか…」 「仕方ないよな…鉄鬼丸の野郎も人外の妖女なんかと婚姻するなんて単なる馬鹿者だぜ…所詮彼奴は自業自得だよ…」 生前当時鉄鬼丸は妖女である春海姫との婚姻に大勢の人間達が猛反対…。世間体を理由に親類からも軽蔑されたのである。 「当事者の鉄鬼丸は悪霊に打っ殺されちまったし…今更故人の彼奴に愚痴っても仕方ないけど…」 「彼奴は一匹狼で気に入らないが…夜番警備隊にとって剣豪の鉄鬼丸が悪霊に殺されちまったのは相当痛手だよな…今後は如何するべきか?」 鉄鬼丸の死去以後…。悪霊征伐は非常に難儀であり夜番警備隊の人手不足が深刻化したのである。 「潜入するか?」 「嗚呼…」 彼等は恐る恐る家屋敷の寝室へと入室する。 「うわっ!」 「げっ!」 寝室の畳表には頭部の無くなった小柄の女性の遺体は勿論…。飛散した血肉やら肉片が寝室の彼方此方に確認出来る。 「こんな場所で一体何が?」 寝室の隅っこには小柄の少女が頭部の無くなった女性の遺体を凝視し続ける。少女は無表情であり人形みたいな様子だったのである。 「ん?此奴は?武家屋敷の一人娘か?」 「此奴には精気が感じられないな…大丈夫か?小娘は人形みたいだな…」 二人の邏卒は恐る恐る少女に近寄る。 「大丈夫か?武家屋敷で何が発生した?」 すると小柄の少女は落涙した表情…。 「私が殺したの…母様を…私が母様を殺したのよ…」 自白する少女に邏卒は困惑する。 「はぁ?貴様は…一体何を?自分の母親を殺したのか?」 「正直非力そうだが…貴様みたいな非力の小娘が一人の人間をこんな状態に打っ殺せるのか?」 彼等は少女の証言に不思議がるのだが…。 「小娘よ…貴様の名前は?」 「えっ…名前?私の名前は…」 少女は恐る恐る自身の名前を名乗り始める。 「私は桜花姫…月影桜花姫よ…」 「月影桜花姫か…」 「であれば此奴が鉄鬼丸の一人娘だな…」 「何はともあれ…此奴を東国の監獄に連行するぞ…」 「事情は監獄に連行してからだな…一先ずは彼女を連行するか…」 深夜帯の時間帯であるが…。桜花姫は東国の監獄に連行されたのである。
第九話
監獄生活 翌日の早朝…。事件現場の桜花姫の武家屋敷は厳重に調査されたのである。母親の月影春海姫を殺害したのが誰なのかは不明であるものの…。当事者である桜花姫以外に該当者が皆無であり桜花姫は終身刑として一生監獄からは出られなくなる。各独房の鉄格子から数十人もの死刑囚やら罪人達が独房の桜花姫に注目する。 「あんたみたいな可愛らしい小町娘が…こんな殺伐とした場所に連行されちまうなんて傑作だな♪」 「あんたは何しやがったよ♪」 「あんたは本当に罪人なのかよ?誰を打っ殺したのか?」 「こんな非力そうな小娘が誰を打っ殺したのかな♪」 「ひょっとして冤罪か?こんな非力そうな小娘が人間を打っ殺せるのかよ?」 囚人達は紅一点の桜花姫の存在に大喜びしたのである。 「はぁ…」 『面倒臭そうな奴等だわ…』 桜花姫は周囲の反応が鬱陶しかったのか一言も喋らず只管に無視し続ける。 「無視するなよ♪喋れよ♪姉ちゃん♪あんたは誰を殺したのさ?」 「返事しろよ♪姉ちゃん♪」 「此奴は…一言も喋らないな…重度の痴人か?」 囚人達は沈黙し続ける桜花姫を揶揄したのである。すると刀剣を所持した小柄の看守が囚人達の牢屋に近寄ったかと思いきや…。 「貴様等…沈黙しやがれ!処刑されたいのか!?」 怒号する看守に罪人達は沈黙したのである。 「監獄では俺が支配者だ!死刑囚以外…打っ殺されたくなかったら沈黙しな♪俺を苛立たせるなよ!」 すると看守は沈黙し続ける桜花姫を注視し始める。 「こんな非力そうな小娘が殺伐とした独房に打ち込まれるとは…貴様は…子供の分際で自分の母親を打っ殺したみたいだな?自分の母親を打っ殺すとは相当の親不孝だぜ…貴様は如何して自分の母親を打っ殺した?」 問い掛けられた桜花姫だが…。彼女は看守の質問に何も返答しない。 「貴様は…支配者である俺の問い掛けに無視するのか?相当の命知らずか?単純に喋れないだけか?」 看守は桜花姫の態度に苛立ったのか桜花姫の独房に入室したのである。 「先程からの貴様の態度…気に入らないな!」 すると桜花姫は小声で発言する。 「看守さん…」 「貴様…喋られるのかよ…喋れるなら最初から俺の質問に返答しやがれ…」 看守は桜花姫に呆れ果てる。 「私を殺したければ思う存分に殺しちゃえば…今更こんな世の中で長生きしたって仕方ないし…処刑でも私は構わないわよ…」 「はぁ?処刑でも構わないって…」 『此奴…本気なのか?』 看守は桜花姫の態度に苛立ったものの…。 『こんな小娘…正直打っ殺しちまうのは勿体無いよな?』 看守は欲求不満からか性欲が急上昇し始める。 『こんな場所…滅多に小娘なんて打ち込まれないからな♪我慢出来ないぜ…』 看守は恐る恐る桜花姫の胸部を弄ったのである。周囲も死刑囚やら極悪非道の罪人ばかりであり大丈夫であると判断する。一方乳房を弄られた桜花姫であるが…。彼女は人形みたいに無反応だったのである。 『此奴は好都合だ♪小娘は人形みたいに何も反応しないぜ♪此奴は最高だな♪』 看守に翻弄された桜花姫であるが…。彼女は無表情であり只管沈黙し続ける。こんな地獄の独房生活が毎日継続されたのである。桜花姫が地獄の独房生活を開始してより二週間後…。胸部を弄られるばかりか今度は着物を無理矢理に脱衣させられ全裸の状態で犯されたのである。全裸で犯されても桜花姫は只管沈黙した様子であり周囲の各囚人達も看守の行為には嫌悪し始める。
第十話
釈放 地獄の独房生活から一月が経過…。桜花姫は廃人みたいな様子であり一日中一言も喋らなかったのである。今日も看守が桜花姫の独房へと入室する。すると一人の囚人が恐る恐る…。 「看守さん…あんたは遣り過ぎだろ…母親を殺害した重罪犯だとしても…彼女は列記とした女の子だぞ…正直気の毒だぜ…」 看守は囚人の発言に苛立ったのか独房の囚人を睥睨したのである。 「貴様は母親を打っ殺した極悪非道の此奴に肩入れするとは…罪人の分際で俺に口出しするな!」 看守は囚人に怒号する。 「何方にせよ…此奴は自分の母親を打っ殺した極悪非道の重罪犯だからな♪大悪党の此奴には俺が何したって構わないよ♪」 看守は再度桜花姫を直視すると冷笑し始める。 「親不孝の小娘よ…今日も俺に犯させろよ♪俺だって毎日…毎日貴様等の監視で疲労困憊の状態だからな♪此処で俺の欲求不満を解消させろよ…」 すると一言も喋らなかった桜花姫が看守を睥睨したのである。 「何が疲労困憊の状態よ…助平野郎…」 桜花姫の反抗的発言に看守は腹立たしくなる。 「なっ!?貴様は支配者である俺を助平野郎だと!?」 桜花姫の発言に看守は怒号したのである。 「貴様は…何様だよ?自分の母親を打っ殺した重罪犯が…重罪犯の分際で看守の俺に反抗しやがるとは相当の命知らずだな!」 看守は護身用の拳銃を装備する。 「親不孝の小汚い小娘風情が…貴様は即刻処刑だ!覚悟しやがれ!」 看守は恐る恐る拳銃に弾丸を装填させる。 「なっ!?拳銃だと!?」 「小娘は打っ殺されるぞ!大丈夫なのか!?」 「看守さんは本気なのかよ…」 周囲の囚人達は拳銃に畏怖したのである。 「地獄の世界で死んじまった父ちゃんと母ちゃんと再会しな…罪人の小娘♪地獄の世界で死んじまった両親に説教されちまいな♪」 看守が拳銃を発砲する寸前…。 「えっ…小娘?」 半透明の血紅色だった桜花姫の両目が半透明の瑠璃色に発光したのである。両目が半透明の瑠璃色に発光し始めた桜花姫に看守は勿論…。周囲の囚人達が桜花姫の両目に注視したのである。 「ん?小娘の両目が…」 「ひょっとして小娘…本物の妖女なのか?」 囚人達の妖女の一言に看守は反応する。 「なっ!?妖女だって!?此奴の正体は人外の妖女だったのか!?」 看守は妖女である桜花姫に戦慄したのである。 「人外の妖女であれば即刻妖女の小娘を打っ殺さないと!」 看守が桜花姫に拳銃を発砲する直前…。 「えっ…ぐっ!」 看守の頭部から鮮血が流れ出る。 「あんたの脳細胞を一部破壊したわ…あんたは死になさい…」 看守は桜花姫の念力の妖術で脳内の脳細胞を一部破壊され…。即死したのである。床面に横たわった状態の看守に各独房の囚人達は畏怖し始める。 「ひっ!看守が卒倒しやがったぞ!死んじまったのか!?」 「小娘は本物の妖怪だ!今度は俺達が此奴に殺されるぞ!」 「小娘は危険だ!」 すると二人の看守が騒然とした地下壕の監獄へと進入する。 「一体全体何事だ!?」 「ん?此奴は!?」 一人の看守が桜花姫の独房を直視したのである。 「看守だ!大丈夫か!?一体此処で何が発生したのだ!?」 二人の看守は即座に桜花姫の独房へと進入する。 「大丈夫なのか!?」 彼等は床面に横たわった状態の看守の安否を確認したのである。 「看守は無反応だな…」 「如何やら此奴…即死の状態ですね…」 大柄の看守が桜花姫に恐る恐る問い掛ける。 「此処で一体何が発生した?其方が此奴を殺害したのか?」 すると別の独房の死刑囚が恐る恐る…。 「小娘が看守さんを打っ殺しました!此奴の正体は人外の妖女ですぜ!妖女の小娘が荒唐無稽の妖術で看守さんを打っ殺しました…」 「なっ!?小娘が人外の妖女だと!?」 死刑囚の証言に大柄の看守は一瞬動揺したのである。 「其方は本当に人外の妖女なのか!?」 「私は…正真正銘…妖女よ…」 大柄の看守に問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。 「其方は直接手出しせずとも…人間を殺せるのか?」 大柄の看守は戦慄し始め…。恐る恐る刀剣を抜刀したのである。 「姿形は小柄の小娘だが…油断は出来ないな…」 無抵抗の桜花姫を斬首する寸前…。 「看守さん!」 すると気弱の青年らしき囚人が大柄の看守を制止したのである。 「誤解です!彼女は…彼女は仕方なく小柄の看守を殺害しました…」 「仕方なく看守を殺したって?」 「彼女は今迄…」 青年は今迄の出来事を二人の看守に洗い浚い告白する。 「妖女の小娘よ…其方は毎日…理不尽にも看守に犯されたのか?」 問い掛けられた桜花姫は一瞬沈黙するも…。 「周知の事実だけど…私を処刑したければ処刑しちゃえば?今更西国の村里に戻っても私には居場所なんて存在しないでしょうし…別に私は処刑でも構わないわよ…」 桜花姫は無表情で返答したのである。すると看守の責任者らしき人物が小声で…。 「小娘よ…私からの提案なのだが…」 今度は大柄の看守が口出しする。 「看守長?彼女に提案ですと?一体何を妖女の小娘に提案されるのですか?」 「彼女の直接手出しせずとも対象者を殺害出来る妖術…此奴は非常に役立つかも知れないな…治安対策には彼女の荒唐無稽の妖術は妥当かも知れないぞ♪」 「なっ!?小娘の妖術が役立つって…看守長は正気なのですか!?」 大柄の看守は看守長の提案に困惑したのである。 「彼女は正真正銘本物の妖女…自身の母親を殺害した極悪非道の重罪犯なのですよ!?ひょっとして重罪犯である彼女を監獄から釈放させるのですか!?」 大柄の看守は看守長の提案に猛反対する。 「貴殿の意見も理解出来るのだが…」 今現在悪霊の大量発生やら匪賊達の暗躍は東国武士団にとっても非常に痛手であり国全体の大問題だったのである。 「正直東国武士団だけで各地に出没した悪霊は勿論…匪賊達の鎮圧は困難だからな…今回みたいな大問題が再度発生すれば非常に面倒臭いし…東国武士団の面子は完全に丸潰れだぞ…」 近年では各地を武士団の人手不足が深刻化する。匪賊達の暗躍は勿論…。神出鬼没の悪霊問題は国全体の社会問題であり正直猫の手も借りたい状況下だったのである。看守長は恐る恐る桜花姫に近寄る。 「本日より其方を監獄から釈放する…」 「私は母様を殺害した極悪非道の罪人だけど…本当に私なんかを牢獄から解放するの?あんた達は妖女の私に殺されるかも知れないわよ…」 桜花姫は二人の看守に忠告する。 「ですが看守長…彼女は自身の肉親を殺害した極悪非道の罪人なのですよ…世の中の悪霊の出現は大問題ですが…罪人である彼女に悪霊の征伐を任命するのは…何よりも彼女は人外の妖女ですし…」 大柄の看守は桜花姫の釈放には猛反対だったのである。 「不本意だが今現在は猫の手も借りたい状況なのだ…荒唐無稽の妖女でも役立つなら利用するべきだ…今回ばかりは止むを得ないだろう…」 看守長は断言するのだが…。 「えっ…」 『妖女は信用出来るのか?此奴は人外だぞ…』 大柄の看守は人外である桜花姫を信用出来なかったのである。一方の桜花姫は再度無表情で…。 「別に…私は構わないわよ…」 桜花姫は常日頃から退屈であり憂鬱だったのである。 「悪霊の征伐…面白そうね…」 各地に出現する神出鬼没の悪霊を征伐したくなる。 「本当に大丈夫なのか!?」 「別に…悪霊なんて…」 「であれば交渉成立だな…妖女の小娘♪」 看守長は内心大喜びする。 『看守長は…』 大柄の看守は内心呆れ果てるものの…。 『看守長の意向であれば仕方ないですね…』 大柄の看守は桜花姫を凝視したのである。 「妖女の小娘…今回ばかりは其方を監獄から釈放するが…其方の荒唐無稽の妖術で村人達には手出しするなよ…村人達に手出しするならば今度こそ其方は終身刑であるからな…覚悟するのだぞ!」 大柄の看守の警告に桜花姫は無表情で返答する。 「別に…あんた達は心配しなくても大丈夫よ…私に敵対視しないのであれば私は非力の村人達には手出ししないわよ…」 すると看守長は恐る恐る…。 「妖女の小娘よ…其方の名前は?」 「私は桜花姫…月影桜花姫よ…」 問い掛けられた桜花姫は即座に自身の名前を名乗る。 「えっ!?月影桜花姫って…ひょっとして貴女は月影鉄鬼丸様の愛娘ですか!?」 桜花姫が自身の名前を名乗った直後…。看守長と大柄の看守の態度が一変する。 「月影鉄鬼丸って武士は私の父親らしいわね…」 「失礼しました…貴女様が鉄鬼丸様の愛娘だったなんて…」 「私も…貴女様を極悪非道の重罪犯とばかり…大変失礼しました…」 二人の看守は桜花姫に謝罪したのである。 「えっ…私は別に…」 桜花姫は困惑する。 「あんた達…本当に私を牢獄から解放するの?」 「勿論ですとも!桜花姫様!即刻貴女様を牢獄から解放しなくては!」 翌日の真昼である。東国の大名達が桜花姫の処遇を如何するべきか相談した結果…。彼女を監獄から釈放すべきだと決定付けたのである。桜花姫は各地で出没する無数の悪霊やら匪賊達を征伐する不寝番としての活動を最重要条件に…。東国の監獄から無事釈放されたのである。母親である月影春海姫の殺害は完全なる冤罪として扱われ…。死亡した春海姫は神出鬼没の悪霊によって殺害されたとして扱われる。東国武士団は金輪際不寝番の月影桜花姫への侮辱と傷害を重罪と決定付けたのである。徹底して各地の村人達に月影桜花姫への侮辱厳禁を警告し続ける。
第十一話
不寝番 地獄の監獄生活から二週間後の早朝…。桜花姫は無事に祖国である西国の村里へと戻ったのである。東国武士団が警告した影響からか村人達の態度は一変…。桜花姫は彼等から満面の笑顔で無事を出迎えられる。 『御目出度い奴等ね…』 桜花姫は内心村人達の態度に呆れ果てる。 『家屋敷に戻りましょう…』 無事家屋敷へと戻った桜花姫であるが…。 『母様の…遺体が…』 母親の月影春海姫の遺体は片付けられ家屋敷は空っぽの状態だったのである。 『私は…今日から一人ぼっちの生活なのね…』 桜花姫は極度の疲労からか居室で熟睡する。 「えっ?」 深夜の時間帯…。 『真夜中だわ…私は…熟睡しちゃったみたいね…』 極度の胸騒ぎからか桜花姫は目覚めたのである。 「何かしら?」 『胸騒ぎだわ…』 南方の山奥からか無数の気配を察知する。 『気配を感じるわ…』 「気配は大群っぽいけれど…何が出現したの?」 桜花姫は無数の気配が気になり外出したのである。周囲は深夜帯の時間帯からか人気は皆無であり誰一人として出歩く人間は確認出来ない。 『無人地帯だわ…時間帯は真夜中だし当然でしょうけど…』 彼女は真夜中の夜道が平気なのか恐怖心は皆無であるばかりか内心欣喜雀躍の気分だったのである。 『真夜中の夜道って百鬼夜行が出現しそうな雰囲気ね…』 外出から二時間が経過すると桜花姫は南国の村里へと到達する。 『南国だわ…』 気配は南国の村里から感じられたのだが…。 『何も確認出来ないわね…』 南国の村里を眺望するも何も発見出来ない。 『西国の村里に戻ろうかな?』 桜花姫は何も発見出来ず西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 突如として背後より物音が響き渡る。 『物音?』 桜花姫は恐る恐る背後を警戒…。 『一体何かしら…』 背後の道端の地面より三体の赤黒い人型の怪物が出現する。 『此奴…何者なの?』 人型の怪物は全身の皮膚が焼け爛れた状態である。両目の眼球が噴出した風貌であり非常に気味悪く感じる。 「ひょっとして此奴は…」 体格は小柄の桜花姫よりも一回り小柄である。 『悪霊の悪食餓鬼かしら?』 悪食餓鬼は悪霊では最多であり大抵の場合…。暗闇の夜道であれば高確率で悪食餓鬼と遭遇する場合が大半である。悪食餓鬼の戦闘能力は非常に脆弱であり人間の子供であっても鈍器を所持すれば簡単に仕留められる一方…。遭遇頻度が高確率であり悪食餓鬼は悪霊界隈では有名である。 『悪食餓鬼ってこんな怪物だったのね…』 史上初の悪霊との戦闘からか桜花姫は内心…。極度に緊張する。 『噂話では…悪食餓鬼って人間の子供でも仕留められる程度に脆弱らしいけれど…私の妖術で悪食餓鬼を仕留められるのかしら?』 自身の妖術が悪食餓鬼に通用するのか不安だったのである。三体の悪食餓鬼はふら付いた身動きで桜花姫に近寄る。 「神出鬼没の悪霊!あんた達は金無垢の小判に変化しなさい…」 三体の悪食餓鬼は変化の妖術により純金の小判に変化したのである。 「えっ!?」 『現実なの!?私の変化の妖術が悪霊にも通用したわ…』 桜花姫は目前の超常現象に驚愕するものの…。 『神出鬼没の悪霊でも変化の妖術が通用するのね♪』 悪霊を相手に変化の妖術が通用した事実に大喜びしたのである。 『折角だし♪』 純金の小判に変化させた悪食餓鬼に再度変化の妖術を発動…。すると今度は彼女の大好きな桜餅に変化させたのである。 『金無垢の小判が桜餅に変化したわ♪』 正真正銘本物の桜餅であるが…。 『見た目だけなら桜餅だけど…食べられるのかしら?』 桜餅に変化した悪食餓鬼を食べられるのか正直不安だったのである。 『一か八かね…』 桜花姫は恐る恐る桜餅を一口頬張る。 「美味だわ♪」 『風味も本物の桜餅と瓜二つだわ♪』 桜餅を頬張り桜花姫は再度大喜びしたのである。 『案外…悪霊征伐も悪くないのかも知れないわね♪』 最初こそ不安であったが…。今回の悪霊征伐から桜花姫は自信が芽生え始める。 「ん?」 すると今度は周囲より不吉の気配を感じる。 「気配だわ…」 『今度は何が出現するのかしら?』 周囲の農地は勿論…。夜道の地面より数十体もの悪食餓鬼が出現したのである。 『今度は悪食餓鬼の大群ね…』 悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到し始める。 『相手は大群だけど…』 一方の桜花姫は恐る恐る周囲の様子を確認したのである。 『大群を相手に出来るかしら?』 正直不安であったが多数の悪食餓鬼を相手に変化の妖術を発動する。変化の妖術を発動すると周囲の悪食餓鬼は自身の大好物である無数の桜餅に変化したのである。 「悪食餓鬼の大群が桜餅に変化したわ♪」 『変化の妖術は多数の相手にも通用するみたいね♪』 悪食餓鬼の大群を無力化した数秒後…。 『如何やら沈静化したみたいね♪一安心だわ♪』 南国の不吉の気配が感じられなくなる。 『一先ずは西国に戻りましょう♪』 無事悪霊事件を解決すると桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。
第十二話
山猫妖女 桜花姫は暗闇の村道を移動中…。 「えっ…あんた達は?」 真夜中の村道にて神族の蛇体如夜叉と小柄の少女に遭遇したのである。 「桜花姫ちゃん…久し振りだね…」 「あんたは蛇体如夜叉婆ちゃんと…えっ?彼女は誰なのかしら?」 すると小柄の少女は極度の人見知りなのか蛇体如夜叉の背後に隠れ始める。 「小猫姫よ…あんたは桜花姫ちゃんに彼女に挨拶しな!」 小猫姫と命名される少女は四歳位の女の子である。彼女は相当の人見知りなのか気恥ずかしそうな様子で…。 「私の名前は…小猫姫です…」 小猫姫は極度に緊張するのか表情が赤面したのである。 「小猫姫か♪あんたは小猫姫って名前なのね♪」 『ひょっとして彼女も…妖女なのかしら?』 僅少であるが彼女の肉体からは妖女特有の妖力が感じられ…。自身と同様に人外の妖女であると確信する。 「あんたも私と同様に塵芥の妖女なのね♪私は妖女の桜花姫♪月影桜花姫よ♪」 桜花姫は満面の笑顔で名前を名乗る。 「小猫姫♪今後♪私と仲良くしましょうね♪」 すると小猫姫も恐る恐る…。 「私こそ…桜花姫様♪」 小猫姫は赤面した様子であるが微笑み始める。 「私を桜花姫様なんてあんたは堅苦しいわね♪私の呼び方は桜花姫で構わないわよ♪小猫姫♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。 「桜花姫姉ちゃんで♪」 すると蛇体如夜叉が経緯を説明する。 「小猫姫は山猫妖女だよ♪彼女は孤児院で里親募集中だったからね♪今日から私が彼女の母親として孤児の小猫姫を世話するのさ♪」 桜花姫は小声で一言…。 「小猫姫…あんたも母親がね…」 小猫姫は再度沈黙したのである。 「桜花姫ちゃん…」 すると蛇体如夜叉は恐る恐る問い掛ける。 「大丈夫かい?桜花姫ちゃん…」 「私は大丈夫よ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 桜花姫は無表情で大丈夫であると返答する。 「桜花姫ちゃん…あんたは…冤罪で東国の監獄に打ち込まれたって…御免よ…私は何も出来なくて…」 蛇体如夜叉は桜花姫に何一つとして援助が出来ず謝罪したのである。 「気にしないで…蛇体如夜叉婆ちゃん…私は…別に…」 桜花姫は小声で…。 「蛇体如夜叉婆ちゃんが謝罪したって…母様は永遠に戻らないのよ…」 すると蛇体如夜叉は恐る恐る…。 「桜花姫ちゃんよ…あんたの母さん…春海姫ちゃんはね…彼女の本当の死因は…」 途端に桜花姫の表情が険悪化する。 「悪いけど蛇体如夜叉婆ちゃん…母様の話題は終了しましょう…今更後悔したって母様は戻らないのよ…二度とね…」 桜花姫は無表情で西国の村里へと戻ったのである。 『桜花姫ちゃん…』 蛇体如夜叉は自身の無力さを実感…。 『本当に御免よ…私は力不足だったよ…』 涙腺から涙が零れ落ちる。桜花姫は今回の悪霊事件以降…。不寝番としての活動が開始されたのである。
第十三話
異形 南国での悪霊事件から四日後…。近頃の出来事である。北国の村里では異形の怪物が出現するとの噂話が各地の村里で出回る。当然として異形の怪物の噂話は西国の村里にも出回ったのである。怪物の噂話が気になった桜花姫は真夜中の深夜帯…。 『出掛けますかね…』 異形の怪物が出現したとされる北国の村里へと移動したのである。西国の村里から移動してより二時間後…。桜花姫は事件現場とされる北国の村里へと到達したのである。 『異形の怪物?北国の村里ね…』 北国の村里も全体的に殺風景の光景であり確認出来るのは農村地帯…。小規模の小村落のみである。 『当然だけど村人は誰一人として確認出来ないわね…』 時間帯は真夜中であり出歩く村人は誰一人として確認出来ない。何故なのかは不明であるが…。村里の空気は非常に重苦しく感じられる。 『こんな場所に異形の怪物が出現するなんて…一体何が出現したのかしら?』 桜花姫は周囲を警戒したのである。 「今夜は…」 『異形の怪物は…出現するかしら?』 数分間が経過するのだが…。異形の怪物らしき物体は何一つとして確認出来ない。 『異形の怪物…出現しないわね…』 桜花姫は村里全域を隈なく探索したのである。探索活動から一時間後…。 「はぁ…」 『何も出現しないわね…』 異形の怪物らしき物体は一向に出現しなかったのである。 『気配も感じられないし…異形の怪物は出現しないのかしら?』 何も進展せず桜花姫は落胆する。 「仕方ないわね…」 『今回は出直しかしら?』 不本意であるが西国の村里に戻ろうかと思いきや…。 『無数の気配だわ…』 突如として周囲から無数の気配を感じる。 『大群かしら?』 無数の気配に桜花姫は警戒したのである。 『ひょっとして今回も…』 すると直後…。周囲の地面より十数体もの悪食餓鬼が出現する。 「奴等は…」 『悪食餓鬼の大群だわ…』 悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到したのである。 「あんた達は命知らずね…」 悪食餓鬼の大群に包囲された桜花姫であるが…。桜花姫は冷静だったのである。 「命知らずのあんた達には…」 桜花姫は十八番である変化の妖術を発動…。殺到する十数体もの悪食餓鬼を自身の大好きな桜餅に変化させたのである。 『変化の妖術…成功ね♪』 桜花姫の周囲の地面には十数枚もの小皿が配置され…。小皿の中心部には美味しそうな桜餅が確認出来る。 『美味しそうな桜餅ね♪』 桜花姫は地面の桜餅を頬張り始める。桜餅を頬張り始めてより数分間が経過…。 『美味しかったわ♪桜餅♪』 桜花姫は桜餅を鱈腹完食するも手応えが感じられない。 『結局…異形の怪物って悪食餓鬼だったのかしら?』 悪食餓鬼の大群を仕留めた桜花姫であるが異形の怪物は悪食餓鬼以外の悪霊であると思考する。 『空気は重苦しいし…異形の怪物は悪食餓鬼以外の存在でしょうね…』 周囲を警戒してより数秒後…。 「えっ…」 自身の背後より正体不明の存在が接近したのである。 『背後かしら!?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。 「えっ…」 背後に存在するのは背丈が推定十八尺もの巨体である。 『此奴…何よ?』 背後の存在に桜花姫は非常に気味悪くなる。何故なら背後の存在は数十体…。数百体もの全裸の女体が密着した肉団子の集合体であり全体的に百鬼悪食餓鬼を連想させる超自然的存在だったのである。 『ひょっとして異形の怪物の正体って…此奴なの?』 すると体表の数体の女体が桜花姫を直視…。不吉の笑顔で冷笑し始める。 「えっ…此奴は…」 『相当気味悪いわね…一体何者なのかしら?』 桜花姫は恐る恐る女体の怪物から後退りする。 『此奴の正体…恐らくは【魑魅魍魎女体】ね…』 魑魅魍魎女体とは女性系統の悪霊の一体とされ…。特徴的なのは無数の全裸の女体が一体化した集合体である。俗称としては百鬼女体やら女体の集合体…。女性型の百鬼悪食餓鬼とも揶揄される。魑魅魍魎女体は誕生した経緯こそ不明瞭であるが…。正体の一説としては戦乱時代に強姦された女性達の無念の集合体とされるのが一般的解釈である。余談であるが女体の集合体である部分では女体海鼠と共通する。 「あんたが魑魅魍魎女体であれば…私が即刻征伐するわよ!」 すると魑魅魍魎女体の体表に存在する女体の一部が会話し始める。 「小娘♪あんたは妖女ね♪」 「妖女を…如何する?」 「相手は妖女だからね♪手加減せずに食い殺しちゃいましょう♪」 「妖女を食い殺そう♪食い殺そう♪」 「私も賛成♪賛成♪」 魑魅魍魎女体は体表の女体同士で会話したのである。 『魑魅魍魎女体って喋れるのね…』 桜花姫は人語で会話出来る魑魅魍魎女体に内心興味深くなる。 「会話が出来るなら好都合♪あんた達♪覚悟しなさいよ♪」 すると直後…。魑魅魍魎女体は冷笑し始める。 「私達から先制攻撃よ♪」 「あんたこそ覚悟するのね♪妖女の小娘♪」 魑魅魍魎女体は体表に存在する女体の口先より猛毒の瘴気を放射したのである。魑魅魍魎女体の放出した瘴気は非常に強力であり周囲の植物が汚染される。 『瘴気かしら!?』 桜花姫は即座に呼吸を停止させたのである。通常の妖女であれば多少の瘴気なら平気であるものの…。桜花姫は不運にも人間と妖女との混血であり肉体的には純血の妖女よりは脆弱である。 「あんたは息苦しそうね♪」 「ひょっとしてあんたは人間との混血かしら♪」 魑魅魍魎女体は桜花姫が妖女と人間との混血であると洞察する。 「妖女は妖女でも人間との混血なんて好都合だわ♪」 「人間との混血なんて♪あんたは不運ね♪」 すると魑魅魍魎女体の一部の女体の口先から球状の溶解液を発射…。魑魅魍魎女体は桜花姫を標的に球状の溶解液を放出したのである。 「溶解液!?」 桜花姫は放出された球状の溶解液を間一髪回避出来たものの…。同時に瘴気で毒された僅少の空気を吸収したのである。 「えっ…」 直後…。 「ぐっ!」 『迂闊だったわ…』 魑魅魍魎女体の瘴気は非常に強力であり桜花姫は毒された空気の影響からか地面に横たわる。 「如何やら彼女♪呼吸しちゃったみたいだわ♪」 魑魅魍魎女体は地面に横たわった状態の桜花姫に冷笑し始める。 「彼女の体内は瘴気で毒されたみたいね♪いい気味だわ♪」 魑魅魍魎女体は地面に横たわった状態の桜花姫に近寄る。 「彼女を普通に殺しちゃうのは勿体無いわね♪」 「彼女は其処等の小娘よりは可愛らしいわ♪彼女の肉体を吸収しちゃいましょう♪」 「彼女の肉体♪美味しそうだわ♪」 魑魅魍魎女体に接触される寸前…。 「誰があんた達なんかに吸収されるか!」 桜花姫は鬼神の形相で魑魅魍魎女体を睥睨したのである。 「えっ…此奴?」 「彼女…如何して瘴気で毒されたのに平気なのよ?」 「妖女の小娘…瘴気で毒されたのに身動き出来るなんて…」 魑魅魍魎女体は瘴気で毒されても身動き出来る桜花姫に一瞬驚愕…。恐る恐る後退りしたのである。 「今度は…私の出番よ!今度こそ覚悟するのね!魑魅魍魎女体!」 桜花姫は強気の態度であるが…。 『瘴気の影響かしら?妖力が消耗したわね…』 瘴気の悪影響からか体内の妖力は大半が消耗したのである。 「下手に大技の妖術は連発出来ないけれど…」 桜花姫は魑魅魍魎女体に必殺である変化の妖術を発動…。魑魅魍魎女体は自身の大好きな桜餅に変化したのである。 「はぁ…はぁ…」 『魑魅魍魎女体は無力化したわね…』 変化の妖術により魑魅魍魎女体は完全に無力化され…。瘴気で汚染された空気も清浄化したのである。 「魑魅魍魎女体を無力化出来たけれど…」 『彼女の瘴気で体力を消耗しちゃったわね…』 桜花姫は即座に桜餅を頬張る。 『悪霊であっても桜餅はやっぱり美味だわ♪』 桜花姫は桜餅を頬張ると消耗した妖力が戻ったのである。 『一先ずは一件落着ね♪』 北国全域の重苦しい空気も消失…。殺伐とした気配も感じられなくなる。 『私は西国に戻りましょう♪』 桜花姫は一先ず西国の村里へと戻ったのである。今回の悪霊事件以降…。桜花姫は各地の村里に出没した多数の悪霊を妖術で仕留めたのである。
最終話
最上級妖女 月影桜花姫が無報酬の不寝番として活動を開始してより三年間が経過する。桜花姫は各地の村里に出現した数多くの悪霊を征伐…。不寝番として数多くの成果を発揮する。三年後の初春の時期…。 「はぁ…」 桜花姫は自宅の居室で昼寝したのである。 『退屈だわ…』 彼女にとって不寝番としての活動は毎日の日課であり最初こそ不安であったが…。今現在では悪霊征伐が暇潰しの夜遊びにも感じられる。 『悪霊でも出現しないかしら?』 近頃は退屈で仕方なく悪霊が出現しないか期待したのである。同日の真夜中…。 「えっ?」 『胸騒ぎだわ…』 桜花姫は熟睡中であったが極度の胸騒ぎを感じる。 「ひょっとして神出鬼没の悪霊が出現したのかしら?」 気配は大群であり西国の村里全域に接近する感覚である。 「今回も大群っぽいわね…」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る外出する。 「えっ…」 すると村里全域より数千体から数万体もの悪食餓鬼が出現したのである。 『彼等は悪食餓鬼だわ!』 今回は通常の戦闘よりも大多数であり村里全域に悪食餓鬼が各家屋に侵入…。 『悪食餓鬼は普段よりも大群ね…』 彼等は無差別的に村人達を襲撃し始める。 『相手は破格の大群ね…如何しましょう?』 多勢に無勢であり単独で数万体もの悪食餓鬼の大群を征伐するのは荒唐無稽の妖術を連発出来る桜花姫でも非常に困難である。無数の悪食餓鬼の襲撃によって村人達の悲鳴が西国の村里全域に響き渡る。 『如何やら悪霊の大群を仕留める以外に選択肢は無さそうね…』 すると徘徊中の数体の悪食餓鬼が桜花姫の存在に気付いた直後…。我先にと彼女に殺到し始める。 「あんた達は命知らずね…私は妖女なのよ…」 桜花姫は即座に変化の妖術を発動したのである。 「私に挑戦するなんて…あんた達は無謀ね!招き猫に変化しなさい…」 直後…。数体の悪食餓鬼は招き猫に変化したのである。 『悪食餓鬼は他愛無いわね…』 逃走する村人達の背後より…。十数体もの悪食餓鬼が追尾する。 「あんた達の相手は私よ…」 桜花姫に反応したのか十数体もの悪食餓鬼は桜花姫に殺到したのである。 『所詮は雑魚ね…』 今度は砂金の妖術を発動する。十数体もの悪食餓鬼の肉体は一瞬で砂金に変化…。彼等の全身が一瞬で崩れ落ちたのである。すると逃走中だった村人達が桜花姫に近寄る。 「貴女様は…ひょっとして桜花姫様では?」 彼等は恐る恐る謝罪したのである。 「大変失礼しました…桜花姫様…」 「今迄の桜花姫様に対する無礼を…」 「えっ…あんた達…何よ?」 一方の桜花姫は困惑する。 「私達は今迄…桜花姫様を極悪非道の妖怪とばかり…」 桜花姫は謝罪する彼等に無表情で返答したのである。 「謝罪は不要よ…死にたくなかったらあんた達は一先ず逃げなさい…こんな場所で長居し続ければあんた達は悪霊に食い殺されるわよ…」 「承知しました!」 「失礼しました!桜花姫様!」 村人達は即座に逃亡する。 「えっ?」 すると直後…。 「きゃっ!」 民家の路地裏より女性らしき悲鳴が響き渡る。 「今度は女性の悲鳴だわ…」 『村娘かしら?』 桜花姫は即座に路地裏へと移動したのである。 「えっ?」 路地裏では一人の小柄の村娘が五体もの悪食餓鬼に包囲され…。村娘は逃げられなくなったのである。 「きゃっ!私は悪霊に殺されちゃうよ!誰か!誰か!」 村娘は必死に叫び続ける。 『彼女は…周囲の悪霊を仕留めないと食い殺されるわね…』 桜花姫は恐る恐る現場に近寄るのだが…。 「えっ…」 桜花姫は現場の村娘に絶句する。 『彼奴って…』 彼女は三年前に桜花姫を妖怪の子供と揶揄した村娘の主犯格だったのである。 『彼女は…如何するべきなのかしら?』 一瞬彼女を救出するべきなのか躊躇し始める。 『彼女は命拾いすれば…私に恩を仇で返すでしょうし…』 桜花姫は彼女を放置して戻ろうかと思いきや…。 『月影桜花姫…彼女を…彼女を救済して…』 「えっ!?」 『何よ!?』 突如として彼女の脳裏に女性らしき美声が響き渡る。 「あんたは…誰なの!?」 突然の女性らしき美声に桜花姫は驚愕したのである。 『私は貴女の前世なのよ…月影桜花姫…』 女性らしき美声は自身を桜花姫の前世と名乗る。 「あんたが…私の前世ですって?」 桜花姫は突然の超常現象に混乱したのである。 『突然だから吃驚しちゃったかも知れないけれど…貴女は自由自在に天道天眼を使用出来るわ…今後…天道天眼を発動出来れば神出鬼没の悪霊を浄化出来るでしょう…』 天道天眼の一言に反応する。 『私が天道天眼を…自由自在に…』 桜花姫は恐る恐る女性らしき美声に問い掛ける。 「一体如何すれば私は天道天眼を開眼出来るの?」 『私が貴女に…私自身の妖力を分け与えるわね…』 「あんたの妖力を…私に?」 すると直後…。 「私の妖力が…倍増した感覚だわ…」 今迄よりも桜花姫の妖力が何倍も倍増したのである。 『私の妖力を貴女に分け与えたのよ…金輪際貴女は思考するだけで天道天眼を自由自在に発動出来るわ…』 「あんたが一体何者なのかは不明瞭だけれど…感謝するわね…」 桜花姫は再度女性らしき美声に問い掛ける。 「結局…あんたは何者なの?正直親近感が…」 『私は…』 彼女が自身の本名を名乗り始める直後…。 『貴女の…』 自身の前世と名乗る女性らしき美声が彼女自身の脳裏に響き渡らなくなる。 「えっ…」 『先程の超常現象は一体…女性みたいだったけど結局彼女は何者だったのかしら?摩訶不思議ね…』 すると直後である。悪食餓鬼が村娘に接触する寸前…。 「あんた達♪彼女の血肉は人一倍不味いわよ♪如何しても捕食したいなら別の人間を捕食するのね♪」 五体の悪食餓鬼は背後の桜花姫に反応したのである。彼等はふら付いた身動きで桜花姫に殺到する。 『天道天眼…発動出来るかしら?』 桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させる。 『天道天眼…発動よ!』 直後である。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。 『天道天眼…成功ね♪』 桜花姫は思考するだけで天道天眼を発動出来たのである。 「あんた達…完膚なきまでに焼死しなさい♪」 発火の妖術が発動され…。五体の悪食餓鬼は全身の肉体が突如として自然発火したのである。自然発火してより数秒後…。五体の悪食餓鬼は発火の妖術により全身黒焦げの状態で焼死したのである。 『発火の妖術で悪食餓鬼を仕留められたみたいね♪』 すると桜花姫は無表情で村娘を凝視し始める。一方の村娘は桜花姫の存在に気付いた直後…。愕然とする。 「あんたはひょっとして…妖女の月影桜花姫なの?」 村娘は非常に気まずいのか桜花姫から恐る恐る後退りしたのである。 「人一倍私を毛嫌いし続けたあんたが…妖女の私に救済されるなんて皮肉ね…」 彼女の発言に村娘は何も反論出来なくなる。 「えっ…」 すると彼女は恐る恐る…。 「今迄…御免なさい…桜花姫…私は恩人のあんたを妖怪の子供なんて…」 村娘は落涙した様子であり恩人の桜花姫に謝罪したのである。 「別に今更…金輪際私とは対面しないでね…」 「えっ…桜花姫…」 「西国は危険地帯よ…あんたもこんな場所では死にたくないでしょう?死にたくなければあんたは逃げなさい…」 「承知したわ…桜花姫…」 村娘は一目散に逃走する。 『出現した悪霊の大群を仕留めますかね…』 すると直後である。今度は無数の悪食餓鬼が融合化した百鬼悪食餓鬼が三体も出現し始め…。三体もの百鬼悪食餓鬼が愚鈍の身動きで桜花姫に近寄る。 『此奴は百鬼悪食餓鬼だわ…』 百鬼悪食餓鬼は通常の悪食餓鬼よりも霊力が強力である。 『やっぱり霊力は強力そうね…』 桜花姫は百鬼悪食餓鬼に警戒したのである。 『大物が三体も出現するなんてね…』 百鬼悪食餓鬼の体表に存在する悪食餓鬼の無数の頭部が桜花姫を直視し始め…。彼女を敵対視したのか睥睨したのである。 「あんた達は気味悪さだけは抜群ね…」 三体の百鬼悪食餓鬼は無数の悪食餓鬼の口先から高熱の熱風を放射する。 『熱風だわ!』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。 『妖力の防壁だわ…天道天眼の影響なのかしら?』 天道天眼を使用出来る影響からか思考するだけで妖力の防壁も発動出来たのである。妖力の防壁により百鬼悪食餓鬼の熱風攻撃を無力化…。 『危機一髪だったわね…』 正直危機一髪であり桜花姫は緊張したのである。 「折角だからね♪あんた達は桜餅に変化しなさい♪」 変化の妖術を発動すると三体の百鬼悪食餓鬼を自身の大好きな桜餅に変化させる。 『妖力を消耗しちゃったからね♪』 桜花姫は桜餅に変化した百鬼悪食餓鬼を捕食する。すると背後より気配を感じる。 「えっ?」 背後より複数の跫音が響き渡る。 『今度は何かしら?』 桜花姫は背後からの跫音に警戒したのである。彼女の背後に存在するのは巨体の将兵らしき存在であり桜花姫の背後に佇立する。 『今度は戦死者達の悪霊…骸骨荒武者だったわね…』 骸骨荒武者は硬質の甲冑を装備した巨体の髑髏であり戦死者達の無念の集合体とされる存在である。 『面白そうな相手が出現したわね♪』 骸骨荒武者は愚鈍の身動きで桜花姫に近寄り始め…。装備した硬質の刀剣で桜花姫に攻撃を仕掛ける。 『こんな愚鈍の斬撃なんて♪』 桜花姫は骸骨荒武者の斬撃を容易に回避したのである。 「あんたは…外見とは裏腹に鈍足なのね♪」 骸骨荒武者は身動きが非常に鈍足であり攻撃しても容易に回避出来る。 『大技♪駆使しちゃおうかしら♪』 直後…。夜空が黒雲に覆い包まれる。 『悪霊は完膚なきまでに死滅しなさい♪』 骸骨荒武者の直上より黒雲から落雷が落下…。骸骨荒武者の甲冑は非常に硬質であるが桜花姫の発動させた落雷は非常に強力である。落雷が発生した直後…。 『骸骨荒武者は仕留められたわ♪』 骸骨荒武者は粉微塵に粉砕されたのである。 『落雷の妖術♪大成功ね♪』 桜花姫は骸骨荒武者の撃破に安堵するものの…。 「ん?」 背後より無数の霊力が一体化した存在の気配を感じる。 『此奴はひょっとして…』 桜花姫は背後を直視すると数百体もの女体が一体化した巨体の悪霊が出現する。 「魑魅魍魎女体だったわね…」 魑魅魍魎女体とは三年前に北国の村里で出現した女性系統の悪霊である。 「こんな場所で再会するなんてね♪」 すると魑魅魍魎女体の体表に存在する一部の女体が桜花姫を直視し始め…。不吉の笑顔で冷笑したのである。魑魅魍魎女体は体表の女体同士で会話し始める。 「あんたは♪妖女の小娘ね♪」 「妖女…殺しちゃう♪捕食しちゃう♪如何する?」 「此奴は美味しそうな小娘だわ♪捕食しちゃいましょう♪」 「捕食だね♪捕食しちゃおう♪捕食しちゃおう♪」 一方の桜花姫は天道天眼を開眼した影響で前回よりも冷静だったのである。 「あんたでは私を捕食したくても捕食出来ないわよ♪」 魑魅魍魎女体は桜花姫の返答に再度冷笑する。 「妖女の小娘…」 「此奴は命知らずなのかしら?」 冷笑する魑魅魍魎女体であるが…。 「命知らずなのはあんたでしょう♪今回の私には♪」 桜花姫は即座に変化の妖術を発動したのである。 『魑魅魍魎女体は桜餅に変化しなさい♪』 桜花姫が変化の妖術を発動した直後…。 「えっ?」 魑魅魍魎女体は彼女の大好きな桜餅に変化したのである。 『楽勝だったわ♪桜餅を頂戴するわね♪』 桜花姫は桜餅に変化した魑魅魍魎女体を捕食する。 『やっぱり悪霊でも桜餅に変化させれば美味ね♪』 桜花姫は非常に満足するものの…。 「えっ…」 突如として彼女の背後より巨体の何者かが出現したのである。 『今度は何かしら?』 突如として背後に出現したのは常人の十数倍の巨大さの僧兵であり顔面には縦長の単眼が確認出来る。 『此奴は亡霊破戒僧ね…』 亡霊破戒僧とは戦乱時代に戦死した数多くの僧兵達の無念の集合体とされる上級悪霊である。顔面中央の閉眼した縦長の単眼が特徴的であり自身の身長に匹敵する携帯式の大砲を所持する。 『戦死した僧兵の亡霊だったわね…』 亡霊破戒僧は桜花姫を直視したかと思いきや…。携帯式の大砲で桜花姫を標的に砲撃したのである。 「えっ?」 一瞬の出来事であり桜花姫の上半身は一発の砲弾で吹っ飛ばされたのである。彼女の上半身は砲弾で粉砕され…。地面には無数の血肉が飛散する。下半身のみの遺体が地面に横たわる。亡霊破戒僧は下半身のみの桜花姫の遺体を凝視し続けるのだが…。突如として彼女の下半身から白煙が発生したのである。白煙が発生してより数秒後…。地面に飛散した彼女の血肉は完膚なきまでに消失したのである。 「残念だったわね♪亡霊破戒僧♪あんたが破壊したのは私の分身体なのよ♪」 桜花姫は亡霊破戒僧に攻撃される寸前に分身の妖術を発動…。攻撃の無力化に成功したのである。 「亡霊破戒僧…覚悟なさい♪」 桜花姫は変化の妖術を発動…。亡霊破戒僧を特大の桜餅に変化させたのである。 『桜餅♪頂戴するわね♪』 桜花姫は特大の桜餅を頬張る。 『やっぱり最高ね♪桜餅は美味だわ♪』 桜餅を頬張ってより数分後…。 『今度の別の霊力かしら?』 すると今度は西国の中心地より異質の霊力を察知する。 『如何やら今迄の悪霊とは別物の霊力だわ…』 「中心地では一体何が出現したのかしら?」 桜花姫は即座に西国の中心地へと移動したのである。 「何かしら?」 『無数の火の玉だわ…』 中心地には蛍光色の鬼火が無数に浮遊する。 『如何してこんなにも火の玉が…』 背後より不吉の霊力を感じる。 「えっ?」 桜花姫は背後の気配に警戒…。恐る恐る背後を直視したのである。 『此奴は…』 桜花姫の背後には体長五尺程度の女性らしき巨大頭部が空中を浮遊し続けた状態で桜花姫を直視する。 『悪霊の亡霊生首ね…』 彼女の背後に出現したのは女性の巨大頭部のみの悪霊である亡霊生首だったのである。亡霊生首は桜花姫を凝視したかと思いきや…。不吉の笑顔で冷笑し始める。 「あんたは…気味悪いわね…」 『亡霊生首の笑顔は気味悪いけど悪食餓鬼の霊力よりは強力みたいだわ…』 すると亡霊生首は周囲に浮遊する無数の鬼火を吸収したのである。 「亡霊生首は鬼火を吸収したわ…」 『先程よりも亡霊生首の霊力が上昇したわね…』 先程よりも霊力が強大化した亡霊生首は口先から猛毒の瘴気を放射する。 『瘴気かしら?』 純血の妖女であれば悪霊の瘴気は平気であるのだが…。桜花姫の場合は人間と妖女の混血であり一定以上の瘴気は致命傷である。 『即刻瘴気を浄化させないと…私自身が瘴気で毒されちゃうわね…』 桜花姫は即座に浄化の妖術を発動する。すると亡霊生首が放出した瘴気の毒気は完全消毒されたのである。 『猛毒の瘴気を浄化出来たわね♪一安心だわ♪』 桜花姫は亡霊生首を凝視…。微笑み始める。 「覚悟しなさいよ♪亡霊生首♪」 桜花姫は火球の妖術を発動する。 「亡霊生首!死滅しなさい!」 両手より超高温の火球が発射され…。亡霊生首に直撃したのである。火球の直撃により亡霊生首本体は爆散…。完膚なきまでに征伐されたのである。 『亡霊生首を撃破出来たわね♪』 親玉の亡霊生首を仕留めた直後…。西国全域に徘徊中だった無数の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼が同時に浄化され完全消滅したのである。 「無数の悪霊が浄化されたわ…」 『親玉の亡霊生首を仕留めた影響かしら?』 村里全体が無数の悪霊の霊力によって重苦しい空気であったが…。 『村里の空気が戻ったわね♪』 悪霊が浄化された影響なのか瘴気で汚染された自然も元通りに戻ったのである。 『事件も無事解決出来たし♪一先ずは一件落着ね♪』 「私は戻って熟睡するわよ…」 桜花姫は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。 「桜花姫ちゃん!」 「えっ…誰かと思いきや…あんた達は…」 小柄の老婆と小柄の少女が桜花姫に近寄る。 「蛇神の蛇体如夜叉婆ちゃんと…あんたは山猫妖女の小猫姫だったかしら?」 彼女達は神族の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫だったのである。 「あんた達?こんな真夜中で一体何を?」 「小猫姫がね…西国で悪霊を退治するとか…本当無茶だよ…」 小猫姫は真剣そうな表情で桜花姫を直視し始め…。 「私も…私も桜花姫姉ちゃんみたいに神出鬼没の悪霊を退治したいの!神出鬼没の悪霊は!?私も妖術で悪霊を退治するよ!」 問い掛けられた桜花姫は苦笑いしたのである。 「小猫姫…悪霊なら私が全部仕留めちゃったわよ…」 「えっ…桜花姫姉ちゃんが悪霊を仕留めちゃったの?はぁ…」 小猫姫は悪霊退治が出来ずに落胆する。 「小猫姫って最初は人見知りって印象だったけれど…あんたも私みたいに悪霊を征伐したくなったのね♪」 小猫姫は満面の笑顔で即答したのである。 「勿論だよ♪桜花姫姉ちゃん♪私も桜花姫姉ちゃんみたいに悪霊を退治したいの♪」 桜花姫は笑顔の小猫姫に…。 「今日からあんたは私の妹分に決定ね♪」 「えっ?私が…桜花姫姉ちゃんの妹分?」 『私が…桜花姫姉ちゃんの妹分か♪』 小猫姫は赤面するが内心では大喜びだったのである。すると蛇体如夜叉は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫ちゃんよ…今回は今迄よりも悪霊が大群だったらしいけど…桜花姫ちゃんが一人で片付けちゃったのかい?」 「勿論よ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 桜花姫は神性妖術とされる天道天眼を発動…。半透明の血紅色だった瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。天道天眼の発動により桜花姫は普段よりも体内の妖力が数百倍にも急上昇する。 「なっ!?桜花姫ちゃん…あんたは天道天眼を自由自在に開眼出来るのかい!?」 蛇体如夜叉は驚愕したのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?天道天眼って?」 小猫姫が問い掛けると蛇体如夜叉は解説する。 「天道天眼は一握りの妖女が開眼出来る…森羅万象では唯一の神性妖術とされ…現存する妖術では最強の万能妖術だよ♪」 「えっ…天道天眼って何が最強なの?」 小猫姫は理解出来なかったのか再度問い掛ける。 「天道天眼を開眼出来た妖女は普段よりも体内の妖力を数十倍…数百倍にも急上昇させられるのさ♪」 「普段の妖力を…数百倍に…」 小猫姫は天文学的数値に絶句したのである。 「多種多様の妖術を自由自在に発揮出来るのさ♪当然として天道天眼を開眼するには相応の妖力が必要不可欠だけどね♪」 「私は色んな妖術を駆使出来るのね♪」 桜花姫は大喜びする。すると蛇体如夜叉は恐る恐る…。 「天道天眼を自由自在に扱えるのであれば…今日から桜花姫ちゃんは最上級に君臨する一握りの妖女…最上級妖女だね…」 「えっ…私が最上級妖女ですって?」 桜花姫は最上級妖女の一言に反応する。 「今日から桜花姫ちゃんは一握りの最上級妖女だよ♪今後とも悪霊は各地に出現するだろうからね♪あんたは最上級妖女として各地に出現する悪霊を徹底的に退治しな♪神出鬼没の悪霊を退治し続ければ人間達の妖女に対する評価も変化するだろうよ♪」 「勿論よ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪私は今後も徹底的に悪霊を征伐するからね♪」 天道天眼を自由自在に発動出来る桜花姫は凡庸の妖女から一握りの最上級妖女へと昇格したのである。彼女は今後も各地に出没する神出鬼没の悪霊は勿論…。大勢の匪賊達を征伐したのである。 完結
第零部 特別編
第一話
小村落 世界暦五千八年五月下旬の時期…。真夜中の出来事である。西国内地の北方の山奥には過疎化した閉鎖的小村落が存在する。総人口は四十人程度と最少であり西国出身者でも小村落の存在は知らなかったのである。近頃…。小村落では無数の悪霊が出現するとの噂話が各地に出回る。深夜帯の出来事である。小村落の噂話が気になった最上級妖女…。月影桜花姫は問題の小村落へと直行する。 『西国の北方には無名の小村落が存在したなんて…』 桜花姫自身も悪霊事件が発生する以前は北方の山奥に小村落が存在するのは知らなかったのである。自宅から移動してより数十分後…。 『如何やら此処が…問題の小村落かしら?』 桜花姫は問題の小村落へと到達したのである。 『奇妙だわ…村里の空気が重苦しいわね…』 小村落は非常に殺風景であり七軒程度の家屋が確認出来る。 『こんな場所で長居し続けるのは辛苦だわ…』 小村落の雰囲気は非常に重苦しく気味悪くなる。 『家屋敷に戻りたいわね…』 桜花姫は小村落に雰囲気に圧倒され…。一日も早く自宅に戻りたくなる。 「無数の霊力は感じられるけれど…」 『何かしら?』 悪霊特有の霊力以外に…。 『人間達の…殺意かしら?』 各家屋からは人間達の殺気を痛感したのである。 『小村落は随分と閉鎖的ね…』 桜花姫は村里の雰囲気に嫌悪する。 『今回の事件は非常に厄介そうだわ…』 今回の悪霊事件は桜花姫が想像する以上に厄介であると感じる。 『正直…其処等の悪霊よりも厄介かも知れないわね…』 正直小村落の殺伐とした空気と比較すれば普段の悪霊退治が気楽に感じられる。 『悪霊を仕留めたら即刻家屋敷に戻りましょう…』 すると各家屋から十数人もの村人達が桜花姫に急接近したかと思いきや…。 「何よ?あんた達…」 村人達は陰湿そうな雰囲気であり桜花姫を包囲したのである。 『村人達の様子…陰湿そうね…』 彼等は非常に殺気立った形相であり桜花姫は彼等の雰囲気に嫌悪する。 『非常に物騒だわ…此処の村人達からは私に対する敵意を感じるわね…』 村人達は出刃包丁やら鈍器を所持…。余所者である桜花姫を誰しもが敵対視した様子だったのである。 『彼等の様子から…私は敵対視されたみたいね…』 桜花姫は恐る恐る周囲を警戒する。すると村人達は桜花姫に…。 「余所者は即刻失せろ!」 「部外者は此処から失せやがれ!部外者は進入禁止なのだぞ!」 「小娘!大怪我したくなければ消え失せろ!」 「其方は死にたいのか!?」 桜花姫は村人達の暴言に腹立たしくなる。 「はぁ?私に消え失せろ!?あんた達は何様かしら!?」 桜花姫は鬼神の形相で村人達に睥睨したのである。 「私は西国の月影桜花姫なのよ!」 桜花姫は自身の名前を名乗るものの…。 「西国の月影桜花姫だと?」 「桜花姫なんて知らない名前だな…」 「桜花姫なんて初耳だぞ…小娘は大都会の花魁なのか?」 「何方にせよ…余所者は自宅に戻りやがれ!」 桜花姫にとっては衝撃的であり村人達の反応に絶句したのである。 「えっ…何ですって?」 『此処の小村落は本当に閉鎖的なのね…不寝番の私の名前を知らないなんて…』 小村落は外部との交流が皆無であり隔絶された僻地であると実感する。 「兎にも角にも…私は村里に出現した神出鬼没の悪霊を退治したいの!あんた達は邪魔しないで!」 桜花姫は周囲の村人達に怒号する。 「此奴…女子の分際で…」 「何が悪霊退治だ…其方みたいな貧弱そうな小娘が悪霊を退治出来るか!?」 「村里には悪霊等存在しないぞ!村里に存在するのは神聖なる神木様だけだ!」 桜花姫は一人の村人の発言に反応したのである。 「えっ?悪霊は…存在しない?神聖なる神木様ですって?」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る問い掛ける。 「悪霊が存在しないって何よ?神木様って…何かしら?」 「神木様は私達の村里を守護される絶対的守護神なのだ…余所者は即刻自分の村里に戻れ…余所者である其方が此処に長居し続ければ神木様に呪殺されるのだぞ…」 「神木様にとって私達以外の余所者は敵対者なのだ…」 「余所者の小娘とて…こんな見ず知らずの場所では死にたくないだろう?」 「命拾いしたいのであれば即刻消え失せるべきだ…」 村人達は桜花姫に警告したのである。 「はぁ…」 『此処の村人達を説得するのは不可能みたいね…』 桜花姫は村人達への説得は無理であると判断…。 『今回ばかりは仕方ないわね…』 桜花姫は両目を瞑目させる。直後…。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。 『天道天眼…発動!』 桜花姫は十八番である神性妖術の天道天眼を発動する。同時に桜花姫の妖力が数百倍に増大化したのである。 「うわっ!小娘の瞳孔が…半透明の瑠璃色に発光したぞ!」 「此奴は女人の物の怪なのか!?」 村人達は桜花姫の天道天眼に戦慄する。 「私を物の怪呼ばわりなんて…あんた達は失礼しちゃうわね…」 桜花姫は周囲の村人達に睡眠の妖術を発動…。 「正直あんた達は目障りだからね…長時間熟睡するのね…」 村人達は桜花姫の発動した睡眠の妖術により地面に横たわり始める。 『睡眠の妖術で村人達は熟睡したわね…』 桜花姫は村人達の様子に一安心する。 「はぁ…」 『此処の小村落は想像以上に可笑しな場所だわ…』 小村落のみが俗界とは別の異世界であると感じる。 『悪霊を発見し次第…退治しましょう…』 すると直後…。 「ん?」 周囲より無数の霊力が自身に接近するのを感じる。 『霊力だわ…如何やら相手は大群みたいね…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。 「あんた達は…悪食餓鬼かしら?」 背後には数十体もの悪食餓鬼が地面より出現したのである。 『早速悪霊の登場ね♪』 桜花姫は馴染み深い悪食餓鬼の大群に大喜びする。 『悪食餓鬼…死滅するのね…』 桜花姫は念力の妖術を発動…。悪食餓鬼の大群を自身に殺到する寸前に念力で粉砕したのである。 『所詮相手は悪食餓鬼だから他愛無いわね♪』 周囲の地面には彼等の鮮血やら血肉が彼方此方に飛散する。 「えっ?」 数秒間が経過したのである。 「えっ!?」 彼等の肉片が再度融合化すると肉体の一部が植物へと変化し始め…。 『再生したの!?』 肉体の一部が植物へと変化した一体の悪食餓鬼が誕生したのである。桜花姫は突如として出現した悪食餓鬼の亜種に驚愕する。 『此奴はひょっとして…亜種の【樹体悪食餓鬼】!?』 樹体悪食餓鬼とは悪食餓鬼の亜種であり植物系統の悪霊として知られる。植物の寄生により肉体の一部が変異した悪食餓鬼の一種…。樹体悪食餓鬼は体格こそ通常の悪食餓鬼と同等であるが肉体の一部が植物なのが特徴的である。 『こんな場所に樹体悪食餓鬼が出現するなんて…』 樹体悪食餓鬼は全身から触手を放出し始め…。桜花姫に攻撃する。 「きゃっ!」 樹体悪食餓鬼の触手は桜花姫の全身を覆い包み…。彼女を拘束したのである。 「ぐっ!」 『身動き出来ないわ…樹体悪食餓鬼に圧倒されるなんてね…』 樹体悪食餓鬼の触手により身動き出来なくなった桜花姫であるが…。 「焼失しなさい!樹体悪食餓鬼!」 樹体悪食餓鬼に火炎の妖術を発動する。直後である。樹体悪食餓鬼は桜花姫の火炎の妖術により全身が燃焼され…。焼死したのである。 『樹体悪食餓鬼…仕留められたわね…』 桜花姫は一安心する。 『樹体悪食餓鬼の出現…ひょっとすると今回の悪霊は植物系統の悪霊ね…』 神木の存在も樹体悪食餓鬼と同様に植物系統の悪霊であると予測したのである。 『神木とやらの…居場所を探索しましょう…』 桜花姫は霊力を目印に行動を開始する。 『小山から無数の霊力を感じるわね…一体何かしら?』 近辺の小山から無数の霊力を察知したのである。 『小山に移動しましょう…』 桜花姫は恐る恐る小山へと進入…。暗闇の道中より先程交戦した樹体悪食餓鬼の大群と遭遇したのである。 『今度も樹体悪食餓鬼の大群だわ…』 樹体悪食餓鬼の大群はふら付いた身動きで桜花姫に殺到し始め…。彼等は先程の樹体悪食餓鬼と同様に植物の触手で桜花姫に攻撃したのである。 「あんた達の触手攻撃なんて…私には通用しないわよ!」 桜花姫は火炎の妖術を発動…。周囲の樹体悪食餓鬼を燃焼させたのである。火炎の妖術により樹体悪食餓鬼は燃焼され…。黒焦げに焼死したのである。 『樹体悪食餓鬼は火炎の妖術で容易に仕留められるわね♪』 樹体悪食餓鬼は植物である性質上…。高熱が弱点であり火炎系統の妖術で容易に仕留められる。 「小山の頂上から特大の霊力を感じられるわ…」 『ひょっとすると神木の正体かしら?』 桜花姫は小山の頂上へと驀進したのである。
第二話
神木 移動してより数分後…。小山の頂上へと到達したのである。 『何かしら?』 頂上の中心部には等身大の人間十五人分の巨樹が存在する。 『巨樹だわ…』 巨樹は強烈なる霊力を放出し始め…。 「えっ…」 『此奴の何が神聖なる神木よ…』 桜花姫を気味悪がらせる。 『神木の正体は此奴だったのね…【肉食巨樹】…』 肉食巨樹とは戦乱時代の最中…。数多の人間達の鮮血を吸収した巨樹の悪霊である。肉食巨樹は人間の血肉が大好物とされ…。本体である樹木に近付いた人間を完膚なきまでに捕食するとされる。 『此処の村人達は悪霊の肉食巨樹を神木呼ばわりなんて…肉食巨樹は神木とは程遠い存在でしょうに…』 桜花姫は村人達の感性に呆れ果てる。 「えっ…」 『何かしら?』 すると肉食巨樹の表面より大勢の死没者達の呻き声やら叫び声が響き渡る。 「樹木から叫び声だわ…ひょっとすると肉食巨樹に捕食された人間達の…」 『肉食巨樹に食い殺された彼等を成仏させないとね…』 直後である。肉食巨樹は桜花姫を敵対視すると地面より無数の触手を生成し始め…。桜花姫に攻撃したのである。 『肉食巨樹も触手攻撃を!?』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁により肉食巨樹の触手攻撃を無力化したのである。 「肉食巨樹…あんたを燃焼させるわね…」 肉食巨樹に火炎の妖術を発動させる直前…。周囲の地面より先程遭遇した樹体悪食餓鬼が無数に出現したのである。 『樹体悪食餓鬼の大群!?』 樹体悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到し始める。 「あんた達!邪魔しないで!」 桜花姫は周囲の樹体悪食餓鬼に火炎の妖術を発動…。周囲の樹体悪食餓鬼は一瞬で焼失したのである。 『楽勝だわ…樹体悪食餓鬼の大群一掃出来たわね…』 桜花姫は樹体悪食餓鬼の一掃には成功するものの…。 「きゃっ!」 桜花姫は肉食巨樹の触手に拘束されたのである。 「ぐっ!」 『触手で身動き出来ないわね…如何しましょう?』 すると触手の効力なのか体力が消耗し始める。 「えっ…」 『体力が…肉食巨樹の触手は生命力を吸収出来るの?』 肉食巨樹の触手は拘束以外に対象者の生命力を吸収出来る。一定の時間に生命力を吸収されると衰弱死は回避出来なくなる。 『止むを得ないわね…一か八かよ…』 桜花姫は自爆の妖術を発動…。自身の肉体諸共肉食巨樹の触手を焼失させたのである。自爆してより数秒後…。近辺の地面から桜花姫が出現したのである。 「はぁ…」 『間一髪だったわね…』 桜花姫は自爆の妖術を発動させる直前に分身の妖術を発動する。当然自爆に使用したのは自身の分身体であり彼女自身は無事だったのである。 「猛反撃開始よ!肉食巨樹!覚悟なさい!」 桜花姫は肉食巨樹に業火の妖術を発動する。 「肉食巨樹に捕食された亡者達…あんた達は成仏するのね…」 業火の妖術を発動した直後…。肉食巨樹の樹木が蛍光色の火炎により炎上し始める。すると燃焼し続ける肉食巨樹から無数の悲鳴が響き渡る。 『肉食巨樹に捕食された…亡者達の悲鳴ね…』 数分間が経過…。肉食巨樹は業火の妖術で消滅したのである。 「はぁ…はぁ…」 桜花姫は体力と妖力の消耗により地面に横たわる。 『多少は苦戦したけれど…』 「肉食巨樹と樹体悪食餓鬼の大群を退治出来たわね…」 肉食巨樹の消滅により小村落から感じられた重苦しい空気は沈静化したのである。 『殺伐とした場所だけど…一休みしてから村里に戻りましょう…』 桜花姫は不本意であるが…。極度の疲労から安眠する。翌日の出来事である。東国武士団が事件現場の小村落に介入すると小村落の村人達を拘束する。彼等は東国の牢獄へと連行され…。数日後に全員処刑されたのである。小村落の村人達は悪霊である肉食巨樹を神格化…。神聖なる神木として崇拝したのである。村里を守護する大義名分として小村落に進入した人間達を力任せに拘束…。彼等は拘束した人間達を悪霊である肉食巨樹に人身御供として意図的に捕食させたのである。肉食巨樹の肉体から響き渡った叫び声の正体とは肉食巨樹に捕食された犠牲者達とされ…。彼等は後日全国の僧侶達によって手厚く供養されたのである。
第三話
鬼女 近頃の出来事である。南国の村里では包丁を所持した鬼女が出没するとの噂話が国全体に出回る。樹木の悪霊肉食巨樹と樹体悪食餓鬼との戦闘から五日後…。 『五日前に肉食巨樹と樹体悪食餓鬼を仕留めたのに…こんな短期間で悪霊事件が発生するなんてね…』 噂話が気になった桜花姫は真昼の時間帯に南国の村里へと移動したのである。 「包丁を所持した鬼女…」 『一体何者なのかしら?鬼女の正体が悪霊なのは確実でしょうけど…』 数十分後…。桜花姫は南国の村里へと到達したのである。 「殺風景だわ…」 『鬼女らしき人物は確認出来ないわね…』 周囲の景色は長閑であり何一つとして確認出来ない。 『探索しましょう…』 桜花姫は鬼女の探索を開始する。探索を開始してより数十分が経過…。 「はぁ…」 桜花姫は村里全域を探索するのだが鬼女らしき人物は発見出来ない。 「鬼女を発見出来ないわね…」 『本当に存在するのかしら?鬼女なんて…』 桜花姫は探索に疲れ果てたのか草臥れる。 「今日は出直しかしら?」 『一先ずは西国の村里に戻って一休みしましょう…』 西国の村里に戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 極度の胸騒ぎを感じる。 『何かしら?複数の…殺気?』 住宅街にて複数の殺気を察知したのである。 『住宅街からだわ…早速移動しましょう…』 桜花姫は即座に住宅街へと直行する。 「えっ?」 移動してより数分後…。 『彼女は…何者なのかしら?』 住宅街に到達すると般若の仮面を被った女性が佇立するのが確認出来る。 『般若かしら?』 般若の女性は服装が白装束であり左手には出刃包丁を所持…。彼女の素肌は死没者を連想させる灰白色であり女性が人外の存在なのは確実である。 『左手に出刃包丁…』 彼女からは桜花姫に対する殺気が感じられる。 『殺気だわ…彼女は一体何者なのかしら?ひょっとすると彼女が包丁を所持した鬼女っぽいわね…』 桜花姫は般若の女性が包丁を所持した鬼女であると予想する。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る般若の女性に問い掛ける。 「あんたは…一体何者なの?大人しく般若の仮面を外しなさい…」 すると女性は般若の仮面を外したのである。 「あんたは…」 女性は両目が蛍光色であり人外の存在であると認識出来る。 「あんたの正体…悪霊の【包丁女房】ね…」 包丁女房とは村八分により包丁で殺害された女性の亡霊として知られる。一部の村落では包丁の亡霊とも呼称される。 『鬼女の正体は包丁女房だったのね…』 すると包丁女房は無表情で桜花姫を凝視し始めたかと思いきや…。彼女は不吉の笑顔で桜花姫を冷笑したのである。 「えっ…何よ?あんたは気味悪いわね…」 桜花姫は笑顔の包丁女房を気味悪がる。すると包丁女房は左手に所持した包丁で桜花姫に攻撃し始める。 「ぐっ!」 包丁女房は所持した包丁で桜花姫の腹部に刺突したのである。 「包丁女房…」 桜花姫は腹部を刺突されると吐血し始める。 『迂闊だったわ…突然攻撃するなんて…』 桜花姫は吐血した状態で地面に横たわったのである。吐血してより数秒後…。 『私は…こんな場所で…』 桜花姫は出血多量により息絶える。一方の包丁女房は地面に横たわった状態の桜花姫に接触する。包丁女房は再度冷笑したのである。すると直後…。息絶えた桜花姫の遺体から白煙が発生すると桜花姫の遺体は消滅したのである。桜花姫の遺体が完膚なきまでに消滅すると包丁女房は驚愕する。包丁女房の背後より…。 「残念だったわね♪包丁女房♪」 包丁女房には無傷の桜花姫が満面の笑顔で近寄る。 「あんた♪不思議そうな表情ね♪包丁女房が殺したのは私の分身体なのよ♪」 桜花姫は包丁女房に攻撃される寸前…。咄嗟に分身の妖術を発動したのである。 「包丁女房♪あんたは美味しそうな桜餅に変化しなさい♪」 桜花姫は包丁女房に変化の妖術を発動…。すると包丁女房の全身から白煙が発生したのである。包丁女房は小皿に配置された美味しそうな桜餅に変化する。 『早速桜餅を頂戴するわね♪』 桜花姫は桜餅に変化した包丁女房を捕食したのである。 『神出鬼没の悪霊でも桜餅に変化させれば美味しいわね♪』 桜餅に変化した包丁女房を捕食した直後…。 「ん?」 再度無数の殺気を感じる。 「殺気だわ…」 『今度は複数みたいね…』 桜花姫は周囲に警戒したのである。すると各家屋の板戸から数十体もの包丁女房が同時に出現する。 「包丁女房!?」 『こんなにも大量に出現するなんて…』 無数の包丁女房は先程出現した包丁女房と同様に桜花姫を凝視し始め…。不吉の笑顔で冷笑する。 「包丁女房…あんた達は笑顔が気味悪いわね…」 『笑顔だけは気味悪いけど…護身用の包丁女房は包丁さえ注意すれば対処は容易なのよね♪』 包丁女房は戦闘能力こそ脆弱であり包丁さえ注意すれば身体能力は一般の成人女性と同等である。 「あんた達♪覚悟するのね♪」 桜花姫は先程と同様に無数の包丁女房に変化の妖術を発動…。周囲の包丁女房は小皿に配置された美味しそうな桜餅へと変化したのである。 『美味しそうな桜餅がこんなにも沢山♪』 桜花姫は桜餅に変化した無数の包丁女房を捕食する。数分間が経過…。 『腹一杯だわ♪』 桜花姫は無数の桜餅を食べ続けて満腹状態だったのである。 『包丁女房を征伐出来たし♪鬼女事件は無事解決かしら♪』 桜花姫は鬼女事件の標的である包丁女房を討伐出来たので西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ?何かしら?」 『霊力だわ…今度は包丁女房より強力そうね…』 強大なる霊力が自身に刻一刻と急接近する。 『包丁女房以外にも…悪霊が出現したのかしら?』 先程仕留めた包丁女房よりも強力であり桜花姫は襲撃に警戒したのである。すると桜花姫の背後より…。 『背後から気配?』 背後より不吉の気配を感じる。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。 「あんたは…一体何者なの?」 桜花姫の背後には能面を被った女性が確認出来る。彼女の服装は平安貴族を連想させる煌びやかな和装だったのである。 『此奴は貴族みたいな衣装ね…顔面は能面だし気味悪いわ…何者かしら?』 桜花姫は能面の女性を気味悪がる。すると女性は能面を外したのである。 「えっ!?あんたは…」 桜花姫は女性の素顔に驚愕する。女性の素顔は目鼻が存在せず…。紅色の大口のみだったのである。桜花姫は恐る恐る…。 「ひょっとしてあんたは…悪霊の【大口女官】かしら?」 大口女官とは大飢饉によって自身の子供を食い殺した母親の無念が誕生させたとされる女性の悪霊である。地方によっては別名として大食い女房とも呼称される。 「霊力の正体は大口女官…あんただったのね…」 すると大口女官は人間の口言葉で喋り始める。 「あんたは妖女の小娘だね♪美味しそうな香気だよ♪」 「えっ…あんたは…」 『大口女官って…悪霊なのに人語で喋れるの!?』 桜花姫は人間達の公用語で喋れる大口女官に驚愕したのである。 『大口女官は意志疎通が通用しそうね…』 桜花姫は大口女官が意思疎通の通じる相手であると判断…。恐る恐る大口女官に問い掛ける。 「大口女官?あんたは一体何が目的なの?」 問い掛けられた大口女官は小声で…。 「食べたい…」 「えっ?何ですって?食べたいって何を食べたいのよ?」 大口女官は再度食べたいと発言する。 「小娘のあんたを…食べたい…」 「私を食べたいって…あんたは本気なの?」 桜花姫は大口女官の発言に呆れ果てる。 「はぁ…」 『やっぱり会話出来ても悪霊は悪霊ね…大口女官は徹底的に浄化しないと…』 桜花姫は大口女官に妖術を発動する寸前…。 「えっ?」 『大口女官の肉体が異様に巨体だわ…』 突如として目前の大口女官が巨大化し始めたのである。 「一体何が?此奴は…自由自在に巨大化出来るの?」 大口女官の自身の肉体よりも数十倍もの体格へと巨大化する。桜花姫の問い掛けに大口女官は即答したのである。 「私の体躯が巨大化だって?失礼しちゃうね…あんたの肉体が縮小化したのさ…」 「えっ!?」 桜花姫は恐る恐る周囲の各家屋を直視する。 『私の肉体が…縮小化ですって!?』 周囲の各家屋も大口女官と同様に何もかもが巨大に感じられるのだが…。 『現実なの?』 目前の光景が現実なのか理解出来ず桜花姫は身震いしたのである。 「私は…」 『本当に肉体が縮小化しちゃったの!?』 桜花姫は大口女官の指摘から自身の肉体が一寸程度に縮小化したのだと認識する。 「大口女官…あんたは私に一体何を!?」 「何って?私の霊能力であんたの肉体を収縮させたのさ…」 「私の肉体を収縮って…」 『大口女官は他者の肉体を縮小化出来るのね…』 大口女官の特殊能力は他者の肉体を一寸程度に縮小化出来…。体躯の縮小化した相手を捕食するのが大口女官の手口である。 「あんたは私に捕食される運命だよ…観念しな…」 「誰が観念するか…」 桜花姫は強気の態度で返答する。 「ん?あんたは…自分が圧倒的に不利なのに随分と強気だね…」 大口女官は呆れ果てる。 「圧倒的に不利なのはあんたよ…大口女官…」 「私が不利ですって?」 すると直後…。一寸程度に縮小化した桜花姫の肉体が数秒間で元通りの体格に戻ったのである。 「えっ!?如何して…如何してあんたは元通りの体格に戻れたの!?」 元通りの体格に戻った桜花姫に大口女官は驚愕…。動揺し始めたのである。 「如何して私の霊能力が解除されたの!?私の霊能力を解除するには…私自身を仕留めなければ元通りには戻れないのに…」 「元凶のあんたを仕留められれば…霊能力を解除出来るのね♪」 桜花姫は大口女官の突発的発言に冷笑する。 「如何してあんたは元通りの体格に戻れたのだ?あんたは…一体何を?」 大口女官は何故桜花姫が元通りの体格に戻れたのか恐る恐る問い掛ける。 「大口女官♪仕方ないわね♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 「私は単純に♪巨大化の妖術で自身の肉体を巨大化させただけなのよ♪」 巨大化の妖術とは単純に自身の肉体は勿論…。自分自身以外の他者やらあらゆる物体を倍以上に巨大化させられる妖術である。一瞬であれば肉体の巨大化を維持出来るのだが…。長時間の巨大化状態を維持し続けるのは体力的にも精神的にも不可能であり数分間が限度である。巨大化の妖術の用法は基本的に相手を威嚇する目的のみに限定される。 「巨大化の…妖術だと?」 大口女官は恐る恐る後退りする。 「大口女官♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」 桜花姫は大口女官に変化の妖術を発動したのである。数秒後…。 『美味しそうな桜餅ね♪』 大口女官は小皿に配置された桜餅に変化したのである。 『早速頂戴するわね♪』 桜花姫は桜餅に変化した大口女官を捕食…。食い殺したのである。 『悪霊だとしても桜餅は美味ね♪』 すると大口女官の霊能力が消滅…。桜花姫は元通りに戻ったのを知覚する。 『元通りに戻った感覚だわ♪』 無事元通りの体格に戻れた桜花姫であるが…。 『巨大化の妖術で妖力を消耗しちゃったわね…』 巨大化の妖術により体力と妖力を消耗したのである。 『精霊故山の露店風呂で妖力を回復させないと…』 桜花姫は即座に西国の村里へと直行する。今回は包丁女房の大群と親玉の大口女官を退治出来…。南国の鬼女事件は無事に解決したのである。
第四話
怪魚 悪霊の包丁女房と親玉の大口女官との戦闘から一週間後…。北国の近海では規格外の怪魚が出現するとの噂話が全国各地に出回ったのである。目撃した漁師達による見解では怪魚は全長二町規模…。規格外の巨大さだったとの内容である。巨体の怪魚以外にも上半身が人間の女性…。下半身が銀鱗の大魚である人魚を多数目撃した漁師も存在する。規格外の巨大怪魚と多数の人魚の噂話が気になった桜花姫は真昼時間帯…。 『今度は北国の近海ね…』 早速北国の海岸へと移動したのである。 『全長二町規模の巨大怪魚と…人魚の大群が出現か…』 桜花姫は西国の村里から移動してより二時間後…。桜花姫は北国の海岸へと到達したのである。 『随分と殺風景ね…海岸だから当然かしら…』 海岸は非常に物静かであり砂浜には数隻もの漁船は確認出来るものの…。漁師達の姿形は誰一人として確認出来ない。 「無人地帯だわ…」 『私にとっては好都合だけどね♪』 すると遠方の砂浜より人影を発見する。 『人影だわ…一体誰かしら?』 桜花姫は人影が気になり人影の方向へと移動したのである。 『彼女は村娘みたいだけど?』 砂浜の人影の正体とは水色の着物姿の女性であり彼女は無表情で遠方の海面上を凝視し続ける。 「あんた?」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る女性に問い掛ける。 「一寸?あんた?」 桜花姫は女性に問い掛けるのだが…。女性は只管無表情であり遠方の海面上を凝視し続けたのである。一方の桜花姫は女性に無視され…。 『此奴…』 女性の態度に腹立たしくなる。 「一寸!あんたね!」 桜花姫は女性に怒号したのである。 「無視しないで応答したら如何なのよ!」 すると女性は桜花姫の方向を直視すると冷笑した表情で…。 「貴女も♪私と仲良く入水しましょうよ♪」 「えっ?入水って…あんたは本気なの?」 桜花姫は彼女の一言に再度警戒したのである。 「あんたは一体何者なのよ?」 女性は姿形こそ人間の女性であるが…。 『此奴の正体…恐らくは人外の存在ね…』 桜花姫は女性の正体が人外の存在であると認識する。 『彼女からは霊力が感じられないけれど…』 不吉にも目前の女性からは悪霊特有の霊力は感じられない。すると女性は突発的に全力で疾走したかと思いきや…。 「えっ!?」 女性は海面上へと入水したのである。 『彼女は…』 桜花姫は突然の女性の行動に驚愕する。 『止むを得ないわね…』 桜花姫は変化の妖術を発動…。下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。 『変化の妖術…成功ね♪』 変化の妖術により桜花姫は人魚に変化する。 「私も海中に…」 『彼女を追跡しないと…』 桜花姫は人魚の状態で海中へと沈潜したのである。 『海中は暗闇だわ…』 桜花姫は暗闇の周囲を警戒する。すると背後より…。 「えっ!?あんたは…」 桜花姫は背後の光景に身震いしたのである。先程砂浜で遭遇した女性が暗闇の海中に存在するのだが…。彼女の下半身は銀鱗の大魚であり自身と同様に人外の人魚の姿形だったのである。 「えっ…あんたは人魚!?」 『彼女の正体は人魚だったの!?』 桜花姫は衝撃の光景に驚愕する。 『月影家の家系以外に人魚の血族が存在するなんて…』 桜花姫は人魚の女性に驚愕するものの…。 『彼女には…精気が感じられないわね…』 彼女の素肌は精気を感じさせない灰白色であり全体的に亡霊みたいな雰囲気だったのである。 『ひょっとして彼女の正体…悪霊かしら?』 桜花姫は人魚の女性が神出鬼没の悪霊であると予想する。 「あんたの正体…ひょっとすると【海難遊女】でしょう?」 海難遊女とは生前宿六に裏切られた人妻であり暗闇の海中にて入水したとされる女性の亡霊である。海難遊女は地上では人間の女性の姿形であるものの…。暗闇の海中では人魚の姿形で活動する。海難遊女は特定の地方では別名として亡霊人魚とも呼称される。 「噂話の人魚の正体は海難遊女…あんただったのね!」 人魚の正体とは悪霊の海難遊女だったのである。一方の海難遊女は笑顔で…。 「私が悪霊であれば如何するの?あんたは私を仕留めるかしら?人魚の小娘…」 すると海難遊女は海水で半透明の刀剣を形成させる。 『海水の…刀剣かしら?』 桜花姫は海難遊女の攻撃に警戒する。 「人魚の小娘…先制するわね…」 海難遊女は神速の身動きで桜花姫に急接近したかと思いきや…。 「えっ…」 海難遊女は桜花姫の腹部を斬撃したのである。 「ぎゃっ!」 斬撃により桜花姫の腹部から大量の鮮血が流れ出る。 「人魚の小娘♪あんたは…意外と鈍間ね♪」 『一先ずは終了かしら?』 海難遊女は桜花姫を仕留めたかと思いきや…。 「ん?」 斬撃された桜花姫の肉体は一瞬で消滅したのである。 『彼女は…分身体かしら?』 海難遊女は周囲を警戒する。 『彼女の本体は?』 すると背後より…。 「残念だったわね♪海難遊女♪」 海難遊女の背後には人魚状態の桜花姫が暗闇の海中を浮遊する。 「あんたは先程の攻撃で…分身の妖術かしら?」 「勿論よ♪」 桜花姫は斬撃される直前に分身の妖術を発動したのである。桜花姫は満面の笑顔であり余裕の表情であったが…。 「えっ…」 『何かしら?妖力の消耗…』 人魚の状態を維持し続けるのは非常に苦痛であり妖力が短時間で消耗し始める。 『海中で変化の妖術を維持し続けるのは危険そうね…』 海中での妖力の消耗は想像以上だったのである。 『こんなにも短時間で妖力が消耗しちゃうなんて…海中での長期戦は回避しないと妖力が空っぽに…』 桜花姫の様子から海難遊女は冷笑し始める。 「あんた♪ひょっとすると妖力の消耗かしら?先程から苦痛そうね♪」 「私は…別に…」 海難遊女の問い掛けに桜花姫は苦笑いした表情で返答したのである。 「無理しないの♪変化の妖術を維持し続けるのが苦痛でしょう?」 海難遊女は桜花姫の苦し紛れの返答に再度冷笑する。すると桜花姫は一瞬であるが反応したのである。 「えっ…」 海難遊女は桜花姫の反応に再度挑発する。 「如何やら図星みたいね♪妖女の小娘♪あんたは無理しないで地上に戻ったら?戻らないと此処で衰弱死するわよ♪」 「何ですって?」 「勿論♪私はあんたを地上へは戻らせないけどね♪あんたは私と遭遇したからには海中で窒息死する運命なのよ♪」 「あんたね…」 桜花姫は海難遊女の挑発に腹立たしくなる。 「最上級妖女の私を挑発すると後悔するわよ…海難遊女…」 「後悔ね♪あんたは私を後悔させられるかしら?」 海難遊女は余裕の表情で返答したのである。 「覚悟しなさいよ…海難遊女…」 桜花姫は神性妖術の天道天眼を発動する。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。 「あんたは…両目の瞳孔が瑠璃色に…何かしら?」 「私の十八番…天道天眼よ…」 「天道天眼ですって?」 『妖女の小娘…先程よりも妖力が急上昇したわね…天道天眼の効力かしら?』 一時的であるが…。天道天眼の効力によって桜花姫の妖力が先程よりも数十倍程度に急上昇したのである。 「海難遊女!覚悟するのね!」 桜花姫は海難遊女を標的に変化の妖術を発動…。海難遊女は一瞬で桜餅に変化したのである。暗闇の海中に桜餅が浮遊する。 『桜餅を食べないと…私の妖力が消耗しちゃうわ…』 桜花姫は即座に桜餅に変化した海難遊女を捕食したのである。 『桜餅は美味だけど…』 海中では妖力の消耗が桁外れであり桜餅を食べても妖力の回復力は僅少…。限定的だったのである。 『桜餅でも海中だと妖力の回復は期待出来ないわね…』 「ん?」 すると今度は無数の霊力が自身に急接近するのを察知する。 『無数の霊力だわ…今度は大群ね…』 遠方より上半身が人間の女性…。下半身が銀鱗の大魚である数十体もの人魚が桜花姫に急接近する。 『人魚の大群だわ…』 「海難遊女の大群かしら?」 人魚とは海難遊女であり今度は大群で接近したのである。 「あんたは♪妖女の小娘ね♪」 「妖女の小娘…あんたは人魚に変身出来るなんて♪」 彼女達は桜花姫を凝視…。冷笑したのである。 「あんた達…鬱陶しいわね…」 桜花姫は自身を冷笑し続ける海難遊女の大群に睥睨する。 「あんた達は…砂金に変化しなさい!」 桜花姫は海難遊女の大群に砂金の妖術を発動したのである。砂金の妖術を発動すると海難遊女の大群は砂金に変化し始め…。海水により肉体が一瞬で崩れ去ったのである。 『鬱陶しい奴等だったわ…』 桜花姫は一息する。 「はぁ…」 『海難遊女の大群は仕留められたけれども…』 桜花姫は手応えを感じられない。 『手応えを感じられないわね…多分だけど大物が出現しそうだわ…』 気配は感じられないものの…。桜花姫は大物が出現すると予想する。 『漁師達が目撃した正体不明の怪魚って…一体何かしら?噂話だと怪魚は規格外に巨体らしいけれど…』 桜花姫は巨大怪魚の存在が気になったのである。 『今回の事件では…噂話の怪魚は出現するのかしら?』 噂話の怪魚が出現するのか思考した直後…。 「えっ?」 遠方の海中より無数の殺気が自身に接近するのを感じる。 「何かしら?」 『殺気みたいね…気配は集合体っぽいけれど…』 桜花姫は無数の気配が集合体であると予想する。 『一体何が…出現するのかしら?』 警戒してより数秒間が経過したのである。 「何よ?」 『彼奴は一体…』 海中は漆黒の暗闇であり肉眼では周辺の様子を視認するのは困難であるが…。鯨類をも上回る規格外の巨大移動物体が桜花姫に急接近したのである。 『彼奴は予想以上に巨大だわ…』 正体不明の巨大移動物体は想像以上に巨大であり推定二町規模以上と推測される。周辺は暗闇の海中であり巨大移動物体の全体像を認識出来ないものの…。巨大移動物体の表面には数百個もの発光体が確認出来る。 『無数の発光体だわ…一体何かしら?』 巨大移動物体を視認してより数秒後…。正体不明の巨大移動物体が桜花姫の目前に到達したのである。 『規格外の巨体だけど…』 「此奴の肉体は魚体だわ…」 巨大移動物体には魚類の特徴である背鰭と腹鰭は勿論…。後方には尾鰭らしき部分が確認出来る。巨大移動物体の正体とは規格外に巨体の魚類であり全長は鯨類の十数倍は確実である。 『ひょっとすると此奴は悪霊の…【亡霊百目怪魚】かしら…』 亡霊百目怪魚とは魚類系統の巨大悪霊…。全長は推定二町規模と規格外であり神出鬼没の悪霊では最大級の巨体として知られる。特定の地方では亡霊百目怪魚は単純に巨大怪魚やら亡霊深海魚とも呼称される。亡霊百目怪魚の体表に確認出来る数百個もの発光体は眼目である。亡霊百目怪魚の正体は戦乱時代の海戦にて戦死…。海中にて溺死した戦死者達の無念の集合体とされる魚類系統の悪霊である。 「漁師達が目撃した巨大怪魚って…悪霊の亡霊百目怪魚だったのね…」 余談であるが…。妖怪の絵巻物に登場する巨大妖怪の海難入道は悪霊の亡霊百目怪魚が模範とされる。 『此奴が妖怪絵巻物に登場する海難入道の模範なのね…本当に巨体だわ…』 すると亡霊百目怪魚の体表に存在する数百個もの眼目が桜花姫に注目する。 「えっ…」 『亡霊百目怪魚の視線が人目みたいで気味悪いわね…』 桜花姫は亡霊百目怪魚の視線に身震いしたのである。すると亡霊百目怪魚の体表に存在する数百個もの眼目が黄色に発光したかと思いきや…。全身の眼目より数百発もの光弾が放出されたのである。 『眼目から無数の光弾!?』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。亡霊百目怪魚の光弾を無力化したのである。 「無力化…成功ね♪」 『間一髪だったわ…』 桜花姫は一安心するものの…。 『妖力の防壁で妖力が消耗しちゃったわね…』 先程の妖力の防壁によって桜花姫は妖力を消耗したのである。 『相手は亡霊百目怪魚だからね…如何しましょう?』 桜花姫は妖力の消耗により苦悩する。 『こんな状態では変化の妖術も使用出来ないわね…』 今現在の桜花姫は連戦の影響からか妖力が空っぽの状態であり最早万事休すだったのである。 『妖力が空っぽの状態では亡霊百目怪魚を仕留められないわね…一度出直さないと亡霊百目怪魚は攻略出来ないでしょうね…』 桜花姫は不本意であるが…。 『今回ばかりは止むを得ないわね…』 標的である亡霊百目怪魚を目前に撤退を余儀無くされる。 『今一度…地上に戻って妖力を回復させましょう…』 桜花姫は地上へと移動する寸前…。 「えっ?」 亡霊百目怪魚は大量の海水を吸収し始めたのである。 「えっ!?」 『亡霊百目怪魚は海水諸共私を!?』 桜花姫は大量の海水諸共…。亡霊百目怪魚の体内へと吸収されたのである。 『迂闊だったわ…亡霊百目怪魚に吸収されるなんて…』 亡霊百目怪魚に海水諸共吸収されてより数分後…。 『私は?』 桜花姫は亡霊百目怪魚の体内で目覚める。 『如何やら此処は…亡霊百目怪魚の胃袋みたいね…』 桜花姫は恐る恐る周囲を眺望するのだが…。 『亡霊百目怪魚の胃袋は暗闇だわ…』 亡霊百目怪魚の体内は暗闇であり視界は不良だったのである。 「今後は…如何しましょう?」 『私は此処から脱出出来るのかしら?』 桜花姫は妖力も空っぽの状態であり何一つとして妖術が使用出来ない。 『こんな空っぽの状態では妖術も駆使出来ないし…亡霊百目怪魚の胃袋に長居し続ければ私自身が亡霊百目怪魚の胃液で消化されそうね…』 亡霊百目怪魚の胃酸で消化されるのは最早時間の問題である。 『自力で亡霊百目怪魚の体内から脱出するのは困難ね…』 桜花姫は自力での脱出は困難であると判断…。 『今回ばかりは仕方ないわね…こんな場合は奥の手を駆使する以外に選択肢は無さそうだわ…』 桜花姫は止むを得ず奥の手の使用を決断したのである。 『一か八かよ!』 桜花姫は恐る恐る亡霊百目怪魚の胃袋の表面に接触する。 『融合化の妖術…発動!』 桜花姫の奥の手とは融合化の妖術である。融合化の妖術とは自身の肉体に接触した他者の肉体を吸収する荒唐無稽の妖術…。相手の体内であろうと相手の肉体に接触出来れば常時発動出来る。融合化の妖術は非常に強力であるものの…。微量の妖力で妖術が発動可能である。強力である反面…。桜花姫は生理的理由から滅多に駆使しない妖術である。桜花姫が亡霊百目怪魚の胃袋に接触した直後…。桜花姫の肉体と亡霊百目怪魚の肉体が融合化したのである。亡霊百目怪魚と融合化してより数秒後…。規格外に巨体だった亡霊百目怪魚が縮小化され桜花姫の姿形に変化したのである。 『亡霊百目怪魚と同化出来たわ…融合化の妖術は成功ね♪』 亡霊百目怪魚は桜花姫の体内で同化…。消化されたのである。 『今回は本当に危機一髪だったわ…』 桜花姫は亡霊百目怪魚に辛勝出来…。一安心したのである。 『下手したら敗北する可能性も否定出来なかったでしょうね…』 今回の戦闘では非常に冷や冷やした桜花姫であるが…。 『今度こそ地上に戻りましょう…』 彼女は人魚の状態で海面上へと浮上したのである。
第五話
大富豪 悪霊の海難遊女と亡霊百目怪魚との戦闘から四日後の真昼…。一人の男児が南国の村道にて散歩したのである。 『先日…鬼女の大群が出現したみたいだけど…最近話題の月影桜花姫様が鬼女の大群を退治したみたいだね…』 「一安心♪一安心♪」 男児の名前は【夜桜太郎丸】…。名門の武家一族とされる夜桜一族であり太郎丸は分家の長男である。 『僕も先代の夜桜崇徳王様みたいな武士として村人達に貢献したいな…』 太郎丸は年齢七歳の子供であるが…。東国の軍神とされる夜桜崇徳王みたいに歴史の表舞台で大活躍したいと常日頃から夢見る。反面…。怪談やら悪霊は人一倍苦手であり鬼女の噂話が出回ってからは一歩も外出出来なかったのである。 『僕は戻って一生懸命稽古しないと!』 太郎丸は武家屋敷に戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 『誰だろう?』 突如として前方より緑色の着物姿の女性が佇立する。 『女の人だ…』 女性は無表情で太郎丸を凝視し続ける。 「えっ…」 『如何して女の人は僕を…』 女性は非常に妖艶さを感じさせる美人であるが…。 『気味悪いな…家屋敷に戻らないと…』 全身の皮膚は死没者を連想させる灰白色であり彼女からは精気が感じられない。太郎丸は女性の容姿に気味悪くなる。 『女の人…不吉だな…』 太郎丸が一度瞬きした瞬間である。 「えっ!?」 女性は一瞬で太郎丸の間近に瞬間移動…。二人の距離間は目と鼻の先だったのである。太郎丸は一瞬で間近へと移動した女性に驚愕する。 『女の人は一瞬で…』 太郎丸は女性が人外の存在であると認識…。 『女の人の正体は…妖怪なの!?』 極度の恐怖心からか身体髪膚が膠着したのである。すると女性は笑顔で…。 「あんた♪可愛らしい子供ね♪」 女性は太郎丸の頬っぺたに接触する。 「ひゃっ!」 太郎丸は女性に戦慄したのである。 『僕は…身動き出来ないよ…』 女性から逃げられるのであれば逃げたいのだが…。 『如何して身動き出来ないの!?』 太郎丸は女性に対する恐怖心からか全身の膠着により逃げられなくなる。 「私からは逃げられないのよ♪」 太郎丸が失踪してより三日後…。 「失礼します…」 とある大富豪の使者が桜花姫の家屋敷に訪問する。 『大富豪っぽいわね…』 「あんた?何かしら?」 「貴女様が不寝番の月影桜花姫様ですね…」 使者は恐る恐る桜花姫に会釈し始め…。 「私は武家一族の…夜桜一族分家の使者です…」 「えっ!?夜桜一族って…名門の武家一族の!?」 『やっぱり武家の人間だったわね…』 桜花姫は夜桜一族の名前に驚愕したのである。 「夜桜一族は名門の武家一族でも…私の所属は分家ですがね…」 「夜桜一族分家の使者が…私に用事かしら?」 桜花姫は使者に問い掛ける。 「三日前の出来事なのですが…」 使者は真剣そうな表情で三日前の出来事を一部始終口述したのである。 「太郎丸って若様が…三日間が経過しても夜桜家の武家屋敷に戻らないのね…」 太郎丸は人一倍生真面目であり普段であれば夕方には帰宅する。 「太郎丸様は三日前の真昼…散歩に出掛けたばかりに失踪したのです…私は太郎丸様が無事なのか心配で…心配で…真夜中も眠れません…」 今現在南国の村里では夜桜太郎丸の捜索に南国武士団の捜索隊は勿論…。東国武士団も夜桜太郎丸の捜索に協力するのだが太郎丸の行方は依然として不明だったのである。 「大勢の武士達…村人達が太郎丸様の行方を必死に捜索したのですが…太郎丸様は発見出来ないのですよ…」 「私に夜桜太郎丸の捜索を依頼したいと?」 「桜花姫様は私達常人では想像すら出来ない…摩訶不思議の妖術を駆使出来るのと噂話を村人達から傾聴したのです…桜花姫様の摩訶不思議の妖術で太郎丸様を発見出来ないでしょうか!?」 使者から根気強く依頼された桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。 「仕方ないわね♪」 桜花姫は使者の依頼に承諾する。 「桜花姫様♪大変感謝します…」 桜花姫の承諾に使者は大喜びしたのである。 「太郎丸様が無事発見出来れば…桜花姫様には絶大なる褒美を授与しますから…」 「褒美ね♪褒美なら桜餅だけを用意してね♪私には桜餅以外の褒美は不要よ♪」 「えっ?桜餅ですと?」 使者は桜花姫の返答に拍子抜けする。 「桜餅だけで大丈夫なのですか?桜花姫様?」 「無論ね♪桜餅さえ食べられるのなら私は大満足だから♪」 「承知しました…桜花姫様…是非とも桜花姫様には桜餅を用意しなくては…」 すると使者は太郎丸の似顔絵を桜花姫に手渡すと外出したのである。 「夜桜一族の若様が行方不明なのね…」 『人攫いなのは確実でしょうね…』 桜花姫は今回の事件が人攫いであると予想する。
第六話
真犯人 同日の真夜中の時間帯…。 『先日…悪霊の大口女官と包丁女房を退治したのに…今度も南国の村里で事件発生なんてね…』 桜花姫は失踪中の太郎丸を捜索しに南国の村里へと移動したのである。 『南国も物騒だわ…』 桜花姫は度重なる事件発生に苦笑いする。 『今回の行方不明事件が人攫いであれば…匪賊達か…神出鬼没の悪霊の仕業なのは確実かしら?』 すると道中…。 「えっ?」 『誰かしら?』 桃色の着物姿の女性が村道の中央に佇立する。 『女人?』 女性は無表情で桜花姫を凝視し続ける。 『こんな真夜中の時間帯に女性が一人で出歩くなんて不自然ね…』 桜花姫は前方の女性に警戒したのである。 「あんたは…一体何者なの?」 桜花姫は警戒した様子で女性に問い掛ける。 「こんな暗闇の深夜帯に女性が一人で出歩くなんて不自然だわ…返答次第では実力行使よ…」 桜花姫は強気の態度で女性に発言する。すると女性は失笑した表情で…。 「あんた♪最上級妖女の月影桜花姫ね♪」 「えっ!?」 『如何して此奴は私の名前を!?』 女性は一目で目前の人物が桜花姫であると認識する。 「えっ…霊力かしら?」 突如として女性の肉体から悪霊特有の霊力が感じられる。 『彼女から霊力が感じられるわ…彼女の正体は…神出鬼没の悪霊みたいね…』 すると女性は冷笑した表情で発言する。 「如何やらあんたは私の正体を見破ったみたいね♪やっぱり最上級妖女のあんたを相手に隠し事は通用しないか♪」 女性は隠し持った大鎌を装備…。携帯したのである。 『大鎌だわ…』 「あんたの正体は…【大鎌女郎】ね…」 大鎌女郎とは生前…。村八分により大鎌で殺害された女性の悪霊とされる。列記とした悪霊であるが彼女も人語で他者と会話出来る。 「大鎌女郎も喋れるみたいね…」 「であれば如何するの?」 大鎌女郎は冷笑したのである。 「月影桜花姫…喋れたとしても私に対話なんて通用しないわよ♪」 すると大鎌女郎は身構える。 「あんたは一瞬で即死するのね♪」 大鎌女郎は神速の身動きで桜花姫に急接近…。 『大鎌女郎は身動きが神速ね…』 必殺の大鎌で桜花姫に斬撃したのである。 『桜花姫は…他愛無いわね♪』 大鎌女郎が斬撃した直後…。桜花姫の肉体が一瞬で消滅したのである。 『斬撃した瞬間に小娘の肉体が消滅したわ…彼女の分身体かしら?』 大鎌女郎は周辺を警戒する。 『彼女の本体は?』 大鎌女郎は周辺を警戒するのだが…。桜花姫らしき人物は確認出来ない。 『本物の桜花姫は…一体?』 大鎌女郎の背後より…。 「残念だったわね♪大鎌女郎♪」 「如何やらあんたが本体みたいね…」 大鎌女郎の背後には無傷の桜花姫が佇立する。桜花姫は余裕の様子であり大鎌女郎に挑発したのである。 「であれば今度こそ…桜花姫を…」 大鎌女郎は大鎌で攻撃する寸前…。 「大鎌女郎…あんたでは私を仕留められないわよ…」 桜花姫は大鎌女郎に金縛りの妖術を発動する。 「ん?なっ!?」 『身動き出来ないわ…桜花姫は私に金縛りの妖術を!?』 大鎌女郎は桜花姫の金縛りの妖術によって身動きを封殺されたのである。 「大鎌女郎…私の質問に率直に返答しなさい…」 桜花姫は大鎌女郎の頭部のみに金縛りの妖術を解除する。 「私に質問だと?」 桜花姫は両目を瞑目させる。 『此奴は…一体何を?』 大鎌女郎は桜花姫の様子に再度警戒したのである。 「三日前の出来事だけど…七歳位の武士の男の子が失踪中なのよ…彼を神隠ししたのはあんたなのかしら?」 「七歳位の人間の武士だと?誰だ?私には無関係だな…」 大鎌女郎は桜花姫の質問に無関係であると否認する。 「七歳位の武士を神隠ししたのは私以外の別の悪霊か…人間の仕業だろう?」 「あんたは今回の神隠し事件とは無関係なのね…」 「無論だ…」 大鎌女郎が返答してより数秒間…。桜花姫は沈黙したのである。 「月影桜花姫…あんたは私を如何するのだ?」 大鎌女郎は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「あんたを如何するかって?」 桜花姫は大鎌女郎に変化の妖術を発動…。 「大鎌女郎♪返答感謝するわね♪大鎌女郎は桜餅に変化しなさい!」 直後に大鎌女郎は桜餅に変化する。 『桜餅は頂戴するわね…』 桜花姫は即座に桜餅に変化した大鎌女郎を捕食したのである。 『真犯人が大鎌女郎以外の人物だとしたら…一体誰が夜桜太郎丸を神隠しした真犯人なのかしら?』 すると背後より…。 「えっ?あんた達は?」 五人の村里の子供達が無表情で桜花姫を凝視し続ける。 『彼等は村里の子供かしら?不吉ね…』 子供達の様子から精力は感じられず…。五人とも無感情の人形みたいな雰囲気だったのである。 「あんた達は傀儡人形みたいね…誰に洗脳されたのかしら?」 『恐らくは神出鬼没の悪霊か…妖女の仕業でしょうね…』 何者かが摩訶不思議の効力で子供達を無力化…。洗脳したのだと予想する。すると子供達は隠し持った包丁を携帯したのである。 「あんた達…包丁を…」 『止むを得ないわね…』 桜花姫は包丁に警戒する。 『不本意だけど…』 桜花姫は子供達に睡眠の妖術を発動…。数秒間が経過すると子供達は地面に横たわったのである。 『真犯人は恐らく神出鬼没の悪霊なのは確実ね…』 桜花姫は再度夜桜太郎丸の捜索を開始する。
第七話
監禁 桜花姫が探索を開始し始めた同時刻…。南国の山奥に位置するとある洞窟にて三人の子供達が何者かによって監禁されたのである。二人の子供が恐怖心で落涙する。 「私達…殺されちゃうのかな?」 「父ちゃん…母ちゃん…僕は死にたくないよ…」 女の子と男の子が落涙し続ける最中…。 「二人とも♪大丈夫だよ♪僕達は無事に戻れるからさ♪絶対に!」 彼こそは名門の夜桜一族分家の夜桜太郎丸である。太郎丸も洞窟に監禁されたが…。非常に冷静であり前向きな様子だったのである。 「あんたは何を根拠に…何が大丈夫なのよ!?」 「僕達は悪霊に食い殺されちゃうよ…村里には戻れないよ…」 二人の子供達は悲観的であり太郎丸は困り果てる。 『二人とも…説得するのは駄目みたいだな…』 すると洞窟の表口より先程の緑色の着物姿の女性が三人に近寄る。 「心配せずとも…私はあんた達を食い殺さないから安心なさい♪」 女性は満面の笑顔で自分達を食い殺さないと発言する。 「えっ…」 『食い殺さないって?』 彼女の発言に太郎丸は勿論…。二人の子供達は一瞬安堵したのである。 「食い殺さないけれど♪あんた達は私の人形として活用するわよ♪」 「私達を…人形ですって?」 女性は少女に凝視し始める。 「手始めに小娘♪あんたから♪」 「えっ!?私!?」 少女は極度の恐怖心により膠着化…。彼女は逃げたくても逃げられない。 「あんたは♪可愛らしいわね…」 女性は赤面した表情で少女に接近する。 「今日からあんたは私の人形よ♪」 すると女性は少女に接吻し始め…。彼女の精気を吸収したのである。前代未聞の光景に太郎丸と少年は絶句する。 「えっ…」 『女の人は一体何を!?』 女性に接吻された少女は地面に横たわるものの…。数秒間が経過すると目覚める。彼女の表情は無表情であり無感情の人形みたいな様子だったのである。 『女の子…本物の人形みたいだ…一体何が?』 太郎丸は衝撃の光景に身震いする。 「貴女は…彼女に何を?貴女は一体何者なのですか?」 太郎丸は恐る恐る女性に問い掛ける。 「私が何者なのか?私は神出鬼没の悪霊よ♪」 問い掛けられた女性は笑顔で自身の正体が神出鬼没の悪霊であると即答する。 「えっ…悪霊…」 『女の人の正体は…悪霊なの!?』 太郎丸は人一倍悪霊が苦手であり極度の恐怖心により全身が膠着化したのである。 「私はね♪あんたみたいな男児は大好物なのよ♪」 すると女性は太郎丸に接近する。 「是非ともあんたは私の人形に♪」 女性は赤面した表情であり両手で太郎丸の頭部に接触…。一方の太郎丸は抵抗出来ず女性に接吻される寸前である。 「あんたは破廉恥ね♪【霊魂婦女子】♪」 「えっ…霊魂婦女子って?」 霊魂婦女子とは生前…。不妊症により子供が出来ず自死したとされる女性の悪霊である。霊魂婦女子は接吻により子供を自身の奴隷として扱える霊能力を保持する。子供を亡くした母親達の無念の集合体である亡霊女房の亜種とされる。 「あんたは!?何者なの!?」 霊魂婦女子は背後の人物に警戒…。睥睨する。 「私が何者なのか?私は桜花姫♪最上級妖女の月影桜花姫よ♪」 霊魂婦女子の背後には最上級妖女の桜花姫が佇立したのである。一方太郎丸は桜花姫を直視…。 「えっ…月影桜花姫様…」 『彼女は…女神様みたいな女の人だな♪彼女が月影桜花姫様か♪』 太郎丸は桜花姫に見惚れたのか赤面したのである。 「月影桜花姫だと?であれば大鎌女郎は…」 「勿論大鎌女郎は私が仕留めたわよ♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「あんたは大鎌女郎を仕留めるとは…」 霊魂婦女子と大鎌女郎は共謀関係だったのである。 「霊魂婦女子♪あんたは霊能力で村里の子供を奴隷みたいに扱ったみたいだけど♪私の出現であんたの野望は阻止されるわね♪」 桜花姫は霊魂婦女子に挑発する。 「あんたね…」 『妖女の小娘の分際で…』 霊魂婦女子は桜花姫に睥睨したのである。 「霊魂婦女子♪如何するのよ♪非力のあんたでは私には反撃出来ないでしょう♪」 桜花姫に挑発された霊魂婦女子であるが…。 「仕方ないわね…不本意だけど…」 霊魂婦女子は先程奴隷化した少女を人質に隠し持った包丁を仕向ける。 「あんたが下手に身動きすれば…私は彼女を殺害するわよ…」 霊魂婦女子は本気だったのである。 「人質かしら?」 『彼女は本気だわ…悪霊らしい手口だけど…』 桜花姫は人質の出現により下手に手出し出来なくなる。 「桜花姫♪如何するの?下手に身動きしちゃえば彼女は絶命するわよ♪」 霊魂婦女子は冷笑したのである。一方背後の太郎丸は恐る恐る…。 『正直…悪霊は苦手だけど…』 太郎丸は身震いした様子で護身用の小刀を携帯したのである。 「女人の悪霊!御免なさい!」 太郎丸は謝罪と同時に護身用の小刀で霊魂婦女子の腹部を刺突…。 「なっ!?あんたは…」 霊魂婦女子は吐血したのである。 「ぐっ!」 「えっ!?あんたは霊魂婦女子を…」 桜花姫も太郎丸の突発的行動に驚愕する。 「あんたは…如何して私を?」 霊魂婦女子は悲痛そうな表情で太郎丸を凝視し始める。太郎丸は大声で…。 「桜花姫様!彼女を!霊魂婦女子を桜花姫様の妖術で成仏させて下さい!」 太郎丸は桜花姫に霊魂婦女子の成仏を懇願したのである。 「私を…成仏させるって!?」 霊魂婦女子は冷や冷やし始める。 「承知したわ…」 桜花姫は再度霊魂婦女子を凝視する。 「霊魂婦女子!覚悟なさい!」 桜花姫は浄化の妖術を発動したのである。 「えっ…」 『涼風かしら?』 冷や冷やした霊魂婦女子であるが…。涼風の影響からか素肌が人間らしい肌色へと変化したのである。 「貴方達…御免なさいね…」 霊魂婦女子は落涙した表情で太郎丸と二人の子供に謝罪する。三人の子供達に謝罪した直後…。霊魂婦女子は消滅し始める。 「えっ…霊魂婦女子が…」 「如何やら霊魂婦女子は成仏出来たみたいね…」 洞窟内部で涼風が発生すると霊魂婦女子は消滅したのである。 『霊魂婦女子…』 太郎丸は消滅した霊魂婦女子に合掌する。霊魂婦女子の消滅と同時に人質として利用された少女の意識が戻ったのである。 「えっ!?私は…一体?」 「如何やらあんたは正気に戻ったみたいね♪」 桜花姫は一安心する。 「あんた達♪洞窟から脱出するわよ♪」 暗闇の洞窟から脱出してより数分後…。霊魂婦女子に監禁された少年と少女は無事に村里へと戻ったのである。 「ひょっとしてあんたが夜桜一族の夜桜太郎丸かしら?」 桜花姫は太郎丸に問い掛ける。 「勿論ですとも♪僕が夜桜一族の長男坊…夜桜太郎丸です♪夜桜一族でも僕の家系は分家ですけどね♪」 太郎丸は満面の笑顔で即答する。 「月影桜花姫様♪大変感謝します♪」 太郎丸は桜花姫に一礼したのである。 「別に♪今回はあんたの行動で霊魂婦女子を無事に浄化出来たし♪あんたって…気弱そうだけど勇敢だわ♪」 「えっ…僕が…勇敢ですか?」 太郎丸は赤面し始める。 「無事に武家屋敷に戻ったら…即刻桜花姫様の功績を報告しますからね♪」 太郎丸は一目散に武家屋敷へと戻ったのである。一方の桜花姫は太郎丸を見届けてより数分後…。 「神隠しの事件は無事に解決出来たし♪」 『私も西国に戻ろうかしら?』 桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。
第八話
雪女 悪霊の霊魂婦女子と大鎌女郎を仕留めてより二日後…。真昼の時間帯である。 『今度は妖怪雪女が西国の廃村に出現ですって?』 近頃…。西国の廃村では妖怪絵巻物に登場する妖怪雪女が出没するとの噂話が国全体に出回る。妖怪雪女の噂話が桜花姫は早速行動を開始したのである。 『北国では雪美姫って名前の…粉雪妖女が有名だけど…』 北国には粉雪妖女の雪美姫と呼称される妖女が存在する。 『彼女は今回の雪女事件とは無関係よね?妖女特有の妖力も感じられないし…』 廃村からは妖女特有の妖力が感じられず…。今回の雪女事件では妖女は無関係であると確実視する。桜花姫は自宅から移動してより一時間後…。 『廃村だわ…』 「此処に雪女が出現するのかしら?」 桜花姫は無人の廃村へと到達したのである。 『人気は皆無だわ…如何やら廃村は無人地帯みたいね…』 桜花姫は周囲を警戒する。 『前回の肉食巨樹の事件もだけど…西国にこんな廃村が存在するなんてね…』 すると突然…。 「きゃっ!」 突如として猛吹雪が発生したのである。 『猛吹雪だわ…』 突然の猛吹雪に桜花姫は驚愕する。 『此処は雪国みたいな景色ね…如何して此処だけ猛吹雪が…』 猛吹雪により廃村全域が雪景色へと変化…。桜花姫は周囲を眺望したのである。 「えっ?」 『何かしら?気配?』 背後より不吉の気配を感じる。 『背後には?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。 「あんたは…何者なの?」 彼女の背後には白装束で黒髪の長髪…。妖艶さを感じさせる小柄の美少女が佇立する。美少女は無表情で桜花姫を凝視したのである。僅少であるものの…。 『霊力だわ…』 美少女からは悪霊特有の霊力が感じられる。桜花姫は恐る恐る…。 「あんたからは…悪霊特有の霊力を感じるわね…」 『彼女の正体…恐らくは悪霊ね…』 桜花姫は彼女の正体が悪霊であると察知する。 「あんたは神出鬼没の悪霊ね…ひょっとしてあんたは【亡霊雪女郎】かしら?」 亡霊雪女郎とは生前に大寒波により凍死したとされる女性の亡霊として知られる。北国では妖怪雪女とも呼称される。余談であるが…。亡霊雪女郎の存在が怪談絵巻物に登場する妖怪雪女の模範とされる。 「妖怪雪女の正体は亡霊雪女郎…あんただったのね…」 すると亡霊雪女郎は無表情で…。 「其方が噂話の妖女…月影桜花姫か?」 亡霊雪女郎は人間の口言葉で喋り始める。 「如何してあんたは私の名前を?」 桜花姫は名前を認知する亡霊雪女郎に内心大喜びしたのである。 『神出鬼没の悪霊にも私の名前が知られるなんてね♪私も有名人だわ♪』 名前を認知され内心嬉しくなった桜花姫であるが…。 「折角だけど…私は悪霊のあんたを退治するわね…」 「其方は私を退治すると?出来るかな?」 亡霊雪女郎は桜花姫に挑発する。 「此奴は手始めだ…」 すると亡霊雪女郎は霊能力で氷柱を複数生成させたのである。 『氷柱かしら?』 桜花姫は亡霊雪女郎の攻勢に警戒する。亡霊雪女郎は霊能力により生成させた氷柱を空中浮揚させたのである。 「氷柱で其方を刺殺する…覚悟しろ…」 直後…。複数の氷柱が桜花姫を目標に飛翔したのである。 「亡霊雪女郎は氷柱を長距離用の武器に…」 『であれば妖力の防壁で氷柱攻撃を無力化するだけよ!』 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。高速で接近する亡霊雪女郎の氷柱攻撃を無力化したのである。 「其方は…妖力の防壁で私の氷柱を無力化するとは…」 一方の桜花姫は満面の笑顔で…。 「間一髪だったわね♪私にはあんたの遠距離攻撃は通用しないわよ♪」 桜花姫は亡霊雪女郎に火炎の妖術を発動したのである。 「亡霊雪女郎…あんたは火炎の妖術で焼死しなさい♪」 突如として亡霊雪女郎の肉体が発火し始め…。 『此奴!?発火だと!?』 亡霊雪女郎の肉体は突然の発火によって肉体が崩れ落ちる。 「大寒波で凍死した女人の亡者…成仏するのね♪」 亡霊雪女郎の肉体は火炎の妖術により数十秒間で水化…。亡霊雪女郎は完膚なきまでに氷解されたのである。 『亡霊雪女郎の肉体は氷塊みたいね…』 火炎の妖術で亡霊雪女郎を瞬殺した桜花姫であるが…。 『亡霊雪女郎って…こんな程度の悪霊なのかしら?』 手応えを感じられなかったのである。 「えっ!?」 彼是と思考した直後…。 『背後から霊力!?』 突如として背後より気配を察知したのである。 「月影桜花姫…今更気付いても手遅れだぞ…」 亡霊雪女郎は神速の身動きで桜花姫に急接近したかと思いきや…。背後から氷塊の刀剣で桜花姫の胸部を一突きしたのである。 「ぐっ!あんた…」 「油断したな…月影桜花姫…」 氷塊の刀剣で一突きされた桜花姫は吐血する。 「其方は失血死するのだ…」 吐血した桜花姫であるが…。満面の笑顔で応答する。 「あんたこそ油断したわね♪亡霊雪女郎♪」 桜花姫は余裕の様子だったのである。 「ん?其方…」 『彼女…私を相手に随分と余裕だな…』 亡霊雪女郎は桜花姫の動向に警戒する。 「私と一緒に死にましょうね♪亡霊雪女郎♪」 直後である。 「なっ!?」 『高温化だと!?彼女は何を!?』 桜花姫の肉体が高温化し始め…。 「はっ!?」 爆発したのである。 「えっ…ぎゃっ!」 亡霊雪女郎も桜花姫の自爆により爆散…。高熱の熱気により亡霊雪女郎は全身が一瞬で氷解したのである。全身の肉体が氷解した亡霊雪女郎であるが…。水化した状態から女体を形成させる。亡霊雪女郎は数秒間で復活したのである。 「物騒だな…桜花姫は自爆を駆使するとは…」 『先程の自爆攻撃は私自身も危なかったが…』 冷や冷やした亡霊雪女郎であるものの…。 『邪魔者である月影桜花姫は自身の妖術で爆死したからな…』 肉体が元通りに復活出来て安堵する。 『今度は周囲の村里を襲撃するか…』 亡霊雪女郎が行動を開始する直前…。 「久し振りね♪亡霊雪女郎♪」 「なっ!?其方は!?」 亡霊雪女郎の背後には無傷の桜花姫が佇立する。 「何故だ!?月影桜花姫は自身の妖術で自爆して…如何して爆死した其方が存在するのだ!?」 亡霊雪女郎は突如として出現した桜花姫に驚愕し始め…。目前の光景が現実なのか混乱したのである。 「随分と不思議そうな表情ね♪亡霊雪女郎♪私は自爆分身の妖術を駆使したのよ♪」 「自爆分身の…妖術だと?」 自爆分身の妖術とは分身の妖術の応用の一種…。自身の分身体を爆弾として使用する自爆攻撃型の妖術である。匪賊に拘束された場合やら敵地を直接攻撃する場合に使用される妖術であり基本的に悪霊との戦闘では使用されない。 「亡霊雪女郎は大人しく私に食べられちゃいなさい♪」 「其方…」 桜花姫は亡霊雪女郎に変化の妖術を発動…。亡霊雪女郎は定番である桜餅に変化したのである。 『変化の妖術♪成功ね♪』 桜花姫は笑顔で小皿に配置された桜餅に近寄る。 『亡霊雪女郎♪頂戴するわね♪』 桜花姫は即座に桜餅へと変化した亡霊雪女郎を捕食する。 『其処等の悪霊でも…やっぱり桜餅は美味だわ♪』 すると亡霊雪女郎の霊力が消失…。彼女の霊力が感じられなくなる。 『亡霊雪女郎の霊力が消失したわ♪廃村は元通りの状態ね♪』 雪景色だった周辺も元通りの廃村へと戻ったのである。亡霊雪女郎を退治してより数分後…。 『今回の事件も無事解決ね♪』 「私は村里に戻ろうかしら?」 桜花姫は村里に戻ったのである。
第九話
黒雲 悪霊の亡霊雪女郎を仕留めてより一週間後…。大都市部である東国郊外に位置する山奥での出来事である。時間帯は早朝…。二人の猟師達が狩猟を目的に山道を移動する。 「頭領?野獣一匹も発見出来ませんね…如何しますか?」 周囲からは清涼の涼風と川音が響き渡るものの…。野鳥やら野兎一羽も発見出来ず二人は苛立ったのである。弟子である小柄の猟師が大柄の頭領に問い掛ける。 「可笑しいな…平時であれば小鳥やら野兎なんて其処等で見物出来るのだが…小動物一匹とも遭遇しないとは…」 大柄の頭領も困り果てる。すると小柄の猟師が身震いした様子で恐る恐る…。 「荒唐無稽かも知れませんが…悪霊の仕業とか?」 「悪霊って…其方は子供かよ?」 一瞬小柄の猟師の発言には呆れ果てるのだが…。 『非現実的かも知れないが…』 大柄の頭領は近年の度重なる悪霊事件の頻発に神出鬼没の悪霊を否定出来なかったのである。 「俺も悪霊の存在は全否定しないさ…ひょっとすると此奴は嵐の前の静けさなのかも知れないな…野兎一羽確認出来ないからな…」 大柄の頭領の発言に小柄の猟師は畏怖し始める。 「頭領…神出鬼没の悪霊が出現するかも知れませんし…山奥から脱出しましょうよ…俺はこんな場所で悪霊と遭遇したくないです…」 「今更何を…」 すると大柄の頭領は猟銃を携帯したのである。 「俺達は護身用の猟銃を装備したからな…奴等が襲撃を仕掛けるなら猟銃で猛反撃するだけだ…」 「えっ…猛反撃って?」 『神出鬼没の悪霊を相手に俺達の猟銃なんて通用するのだろうか?』 小柄の猟師は内心不安がる。彼等は山道を歩き回ってより十数分後…。 「頭領?」 小柄の猟師は再度不安そうな表情で大柄の頭領に問い掛ける。 「ん?如何した?」 一方の頭領は面倒臭そうな態度で返事する。 「頭領は…気味悪くないのですか?」 「気味悪いって?何が気味悪いのだ?」 「周辺の空気が…先程よりも重苦しく感じるのです…」 空気は非常に重苦しく疲労が蓄積されたのである。 「頭領は何も感じられませんか?」 「空気が重苦しいか…」 頭領も周囲の空気が先程よりも重苦しいと自覚し始める。 「正直…此処で長居し続けるのは辛苦だな…」 すると突然…。暗闇の自然林より無数の呻き声が響き渡る。 「ひっ!」 小柄の猟師は無数の呻き声に畏怖したのである。 「頭領!呻き声です…」 「一体何事だ…呻き声だと?」 「物の怪の呻き声でしょうか!?」 頭領も遠方の自然林から響き渡る呻き声には無視出来ない。 『此奴が畏怖するのも理解出来るな…此奴は相当気味悪いぜ…』 頭領は長年の経験からか不吉の気配を感じる。 「気配…」 『気配は感じるのだが…人間は勿論…動植物とも似ても似つかない…気配の正体は人外の化身だろうか?呻き声の正体は一体…やっぱり物の怪なのか?』 姿形は確認出来ないものの…。人外の気配は確実に二人に接近中だったのである。 『一体何が…接近中なのだ?』 頭領は警戒した様子で恐る恐る猟銃に銃弾を装填させる。 「頭領…何が出現するのでしょうか?」 「正直俺にも…何が何やら…」 『気配の正体が人外なのは確実だろうが…』 二人が警戒してより数分後…。 「ん?なっ!?」 突如として両者の目前より黒雲が発生したのである。 「黒雲だと!?」 黒雲の内部から数十体もの悪食餓鬼が融合した亜種…。親玉の百鬼悪食餓鬼が出現したのである。 「ひっ!悪霊だ!」 「此奴は…百鬼悪食餓鬼か!?」 百鬼悪食餓鬼の出現に二人は驚愕…。 「頭領!御免なさい!」 小柄の猟師は極度の恐怖心からか一目散に逃走したのである。 「なっ!?」 『彼奴…恐怖心で逃げやがったか…』 百鬼悪食餓鬼は鈍足の身動きで頭領に接近する。 『畜生が…止むを得ないか!』 百鬼悪食餓鬼の体表に存在する悪食餓鬼の頭部が頭領を睥睨したのである。 『此奴は…気味悪いな…』 頭領は百鬼悪食餓鬼に恐怖を感じるものの…。 「神出鬼没の悪霊!覚悟しやがれ!」 頭領は目前の百鬼悪食餓鬼に猟銃を発砲したのである。発砲した弾丸は百鬼悪食餓鬼を貫通…。傷口からは出血が確認出来るのだが百鬼悪食餓鬼は怯まない。 「畜生が…」 『銃弾が直撃しても死なないとは…』 頭領は何発か百鬼悪食餓鬼に銃撃するものの…。 『悪霊には弾丸が通用しないのか?』 百鬼悪食餓鬼は怯まず頭領に接近し続ける。 『此奴は相当危険だな…』 頭領は不本意であるが撤退を決意…。 『一か八かだ…』 一目散に逃走したのである。
第十話
山椒魚 同日の真昼…。南国の村里より夜桜一族分家の夜桜太郎丸が勉学を目的に出掛けたのである。 『東国へはもう少しかな?』 周囲は暗闇の自然林であり真夜中に感じられる。 「不吉だな…」 『時間帯は真昼なのに…周辺は深夜帯みたいだな…』 太郎丸は暗闇の光景に畏怖したのか身震いする。 『此処を突破すれば大都会の東国に到達する…もう少しの辛抱だ…』 太郎丸はもう少しの辛抱であると自身に断言…。太郎丸は暗闇の山道を直進し続けたのである。すると道中…。 「ん?」 遠方より無数の呻き声が山道全域に響き渡る。 「えっ…」 『大勢の…呻き声かな?』 太郎丸は無数の呻き声に畏怖したのである。 「一体何が?」 太郎丸は無数の呻き声に戦慄するのだが…。 『呻き声の正体は何者だろう?』 無数の呻き声の正体が気になったのである。 『一か八か…』 太郎丸は決断…。無数の呻き声が響き渡る方向へと移動したのである。移動してより数分後…。 「なっ!?」 呻き声の正体とは無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼の大群だったのである。数十体は確認出来る。 「奴等は…悪霊の大群だ…」 『妖怪絵巻物の百鬼夜行みたい…』 百鬼悪食餓鬼の大群は百鬼夜行を連想させる不吉の光景だったのである。太郎丸は警戒した様子で百鬼悪食餓鬼の大行列に恐る恐る追尾する。 『彼等の目的地は?』 百鬼悪食餓鬼の大行列を追尾してより一時間後…。自然林を脱出すると殺風景の平地へと到達する。平地の中心地には数百体もの百鬼悪食餓鬼が確認出来る。 「えっ…」 太郎丸は異様の光景に身震いする。 『悪霊の大群だ…』 太郎丸は遠方から彼等の動向を観察する。 『彼等は一体何を?』 百鬼悪食餓鬼の大群は何一つとして身動きせず…。只管佇立し続けるだけである。 『こんな場所で長居し続けるのも無意味だね…』 「戻ろうかな?」 太郎丸は戻ろうかと思いきや…。突如として数百体の百鬼悪食餓鬼が融合化し始めたのである。 「えっ!?」 『悪霊の大群が融合化した…』 数百体もの百鬼悪食餓鬼が融合化…。巨大山椒魚を連想させる規格外の怪物へと変化したのである。 『怪物だ…山椒魚みたいだな…』 怪物の表面には数千体…。数万体もの悪食餓鬼の顔面が確認出来る。彼等の呻き声が平地全域に響き渡る。怪物の全長は一町規模と規格外に巨体であり太郎丸は平地の光景が現実の光景なのか理解出来なくなる。 『彼奴は危険だ…逃げないと殺される…』 怪物に戦慄した太郎丸は一目散に逃走したのである。 「桜花姫様…」 『不寝番の月影桜花姫様なら山椒魚の怪物を仕留められるかな?』 太郎丸は逃走中に不寝番の桜花姫なら先程の怪物を仕留められると思考する。太郎丸は西国の村里へと直行したのである。一目散に移動してより数十分後…。太郎丸は目的地である西国の村里へと到達したのである。 「西国の村里だ…」 『此処に桜花姫様が…』 西国の村里は片田舎であり全体的に殺風景であるのだが…。一際目立つ武家屋敷が一軒確認出来る。 『武家屋敷だ…』 太郎丸は武家屋敷へと移動したのである。 『家名は?』 玄関口の家名を確認すると月影家の三文字が確認出来る。 「月影家だ…」 『ひょっとすると武家屋敷は桜花姫様の家屋敷だろうか?』 太郎丸は緊張した様子で恐る恐る…。 「御免下さい!月影桜花姫様!」 すると玄関口より一人の女性が戸口を開放させる。 「誰かと思いきや…あんたは夜桜一族の太郎丸?」 女性は不寝番であり最上級妖女の月影桜花姫である。 「こんな場所に一人で訪問するなんて…私に用事かしら?」 「桜花姫様!大変です!緊急事態ですよ!」 「えっ…何が緊急事態なのよ?」 桜花姫は困惑する。 「東国の…山奥の平地で…」 太郎丸は先程の出来事を一部始終洗い浚い告白したのである。 「東国の山奥で山椒魚みたいな怪物が出現したのね…」 「桜花姫様の妖術で山椒魚の怪物を退治出来ないでしょうか?」 「勿論よ♪悪霊征伐は私の使命だからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で承諾…。 「悪霊を征伐するわよ!太郎丸!」 「僕も同行しますよ♪」 桜花姫は太郎丸と一緒に東国へと移動したのである。
第十一話
迎撃 桜花姫と太郎丸が行動を開始してより同時刻…。東国郊外では先程出現した山椒魚の怪物が大都市部の東国へと進行中だったのである。東国武士団は現地の村人達から情報を入手…。迅速的に対応したのである。郊外近辺には数百人規模の迎撃部隊と多数の大砲が用意され…。郊外近辺は要塞化されたのである。 「巨体の怪物が出現したって噂話は本当なのか?」 突然の事態に東国武士団は大混乱…。怪物の出現が本当なのか疑問視する者達も少なくなったのである。 「何人かの武士達も規格外の巨大山椒魚を目撃したらしいからな…怪物の噂話は本当なのだろう…」 「今回は神出鬼没の悪霊なのかな?」 現場は騒然とする。すると直後…。 「ん?」 遠方の山奥より小規模の地響きと無数の呻き声が響き渡る。 「呻き声だと!?」 「一体何が!?」 「呻き声の正体は悪霊なのか!?」 無数の呻き声に現場の隊員達は畏怖したのである。 「貴様達!狼狽えるな!」 部隊長が畏怖し続ける隊員達に怒号する。 「最前線である俺達が悪霊に戦慄して如何するのだ!?俺達が悪霊を阻止しなくては大勢の町民達が殺されるかも知れないのだぞ…俺達は東国を守護する防波堤なのだ!」 部隊長の叱咤激励に彼等は沈黙したのである。一時的に沈黙してより数分後…。無数の呻き声と同時に地響きが小刻みに響き渡る。 「地響きか…」 迎撃部隊の隊員達は一瞬地響きに畏怖するものの…。誰一人として逃亡しなかったのである。 「総員…戦闘配置だ…大砲に砲弾を装填させるのだ…」 部隊長が命令すると隊員達は各拠点に配置された大砲に砲弾を装填し始め…。 「砲弾…準備完了しました!」 直後である。遠方の自然林から一町規模の巨大山椒魚が出現…。 「此奴が噂話の物の怪か…規格外の巨獣だな…」 巨大山椒魚は想像以上の巨大さであり皮膚の表面には無数の顔面が確認出来る。無数の顔面からは不吉の呻き声が響き渡り…。現場の隊員達を身震いさせる。 「貴様等!狼狽えるなよ!巨獣を仕留めるのだ!砲撃を開始せよ!」 部隊長の命令と同時に各拠点に配置された大砲から多数の砲弾が発射されたのである。十数発もの砲弾が巨大山椒魚の体表に直撃…。炸裂したのである。砲弾の炸裂により近辺では爆発音が連続的に響き渡る。 「巨獣を仕留めたか!?」 多数の砲弾が直撃した巨大山椒魚であるが…。巨大山椒魚は砲撃に怯まず只管驀進し続けたのである。 「畜生が…巨獣は一筋縄では仕留められないか?」 部隊長は苛立ち始める。周囲の隊員達は巨大山椒魚に畏怖…。 「駄目だ…」 「逃げないと…殺される!」 極度の恐怖心により逃走する隊員達も出始める。 「なっ!?貴様等!逃走するな!此処で巨獣を仕留めないと東国が壊滅するのだぞ!怯まず応戦しろ!」 部隊長は逃亡中の隊員達に怒号したのである。すると巨大山椒魚は口部を開放し始め…。高熱の火炎を放射したのである。 「ぎゃっ!」 「うわっ!」 最前線の迎撃部隊は巨大山椒魚の猛反撃により総崩れ…。一方の巨大山椒魚は人口密集地の市街地に接近したのである。
第十二話
足跡 巨大山椒魚が迎撃部隊を一蹴してより同時刻…。桜花姫と太郎丸は目的地の東国へと急行する。 「東国の方向から霊力を感じるわ…非常に強力ね…」 「えっ!?先程の怪物は強力なのですか!?」 太郎丸は驚愕したのである。すると周囲より無数の霊力を感じる。 「霊力だわ…悪霊かしら?」 「桜花姫様?如何されましたか?」 太郎丸は突如として警戒し始める桜花姫の様子に不安がる。 「桜花姫様…何が…何が出現するのですか?」 「悪霊の大群よ…」 「えっ…悪霊の大群ですって?」 周辺の地面より数十体…。数百体もの悪食餓鬼が出現したのである。桜花姫と太郎丸は悪食餓鬼の大群に包囲される。 「ひっ!悪霊の大群!?」 太郎丸は悪食餓鬼の大群に畏怖…。極度の恐怖心からか全身が膠着化したのである。一方の桜花姫は太郎丸が大袈裟であると感じる。 「太郎丸…あんたは本当に大袈裟ね…こんな悪霊に畏怖しちゃうなんて…」 桜花姫は内心呆れ果てる。 「桜花姫様は恐怖を感じられないのですか!?」 「別に♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「えっ…」 『桜花姫様は一体何者なのか?』 太郎丸は桜花姫が何者なのか理解出来なくなる。 「あんた達♪私に挑戦するなんて無謀ね♪」 桜花姫は周囲の悪食餓鬼に挑発したのである。すると悪食餓鬼の大群は二人に殺到し始める。 『定番の♪』 桜花姫は周囲の悪食餓鬼に変化の妖術を発動…。悪食餓鬼の大群は小皿に配置された桜餅に変化したのである。 「えっ!?悪霊の大群が桜餅に…」 「妖力を消耗したからね♪」 桜花姫は桜餅に変化した悪食餓鬼の大群を捕食し始める。 「えっ…桜花姫様?」 太郎丸は桜花姫の様子が衝撃的であり絶句する。 『桜餅って…悪霊だよね?』 太郎丸は内心苦笑いしたのである。桜花姫は桜餅を食べ始めてより数分後…。桜餅を完食したのである。 「妖力が回復したわ♪太郎丸♪目的地に移動するわよ♪」 「勿論ですとも!桜花姫様!」 桜花姫と太郎丸が移動を再開してより数十分後…。二人は東国の郊外近辺に到達したのである。 「えっ…」 「なっ!?」 二人は目前の光景に絶句…。目前の光景は地獄絵だったのである。破壊された大砲の残骸は勿論…。地面には黒焦げの焼死体が彼方此方に確認出来る。 「此処では一体何が…」 「恐らくは悪霊に焼殺されたみたいね…」 「彼等は悪霊に!?」 周辺の地面には五問規模の足跡が存在したのである。 「足跡かしら?随分と巨大ね…」 「恐らくは怪物の足跡でしょうね…」 すると桜花姫は瞑目する。 「あんたが目撃した怪物って山椒魚みたいな形状だったのよね?」 「勿論です…山椒魚の怪物は肉体も規格外でしたよ…全長は恐らく一町は確実でしょうね…」 「怪物の全長が一町規模ね…ひょっとすると今回の悪霊は…【百鬼山椒魚】かも知れないわ…」 「百鬼山椒魚ですか?」 百鬼山椒魚とは上級悪霊の一体として知られる。悪食餓鬼の亜種であり上位互換とされる無数の百鬼悪食餓鬼が融合化…。誕生する破格の上級悪霊として認識される。百鬼山椒魚の外見は四足歩行の山椒魚であるものの…。非常に巨体であり全長は推定一町規模と規格外である。 「百鬼山椒魚は上級悪霊の一体みたいだからね…正直厄介だわ…」 「えっ…百鬼山椒魚は上級悪霊ですか!?」 『百鬼山椒魚…即刻対処しないと東国の城下町が襲撃される…』 すると桜花姫は太郎丸に指示する。 「太郎丸?東国に移動して百鬼山椒魚を阻止するわよ…」 「勿論ですとも!桜花姫様!百鬼山椒魚の暴走を阻止しましょう…」 二人は再度東国に移動を開始したのである。
第十三話
一件落着 桜花姫と太郎丸が行動を再開してより同時刻…。国境の迎撃部隊を一掃した百鬼山椒魚は東国郊外へと到達したのである。 「不吉だ…呻き声かな?」 「呻き声の正体は物の怪だろうか…」 無数の呻き声に国境を警備する見張り役達が恐怖する。 「一体何だろう?何が近付いて…」 二人の見張り役達は警戒したのである。数秒後…。 「ん!?」 「彼奴は山椒魚の怪物だ!」 見張り役達は接近中の百鬼山椒魚を直視する。 「此奴は現実なのか?」 「迎撃部隊は突破されたか…」 二人の見張り役達は目前の光景に絶望し始め…。極度の恐怖心で身動き出来なくなったのである。 「山椒魚の怪物に突破される…東国は滅亡だ…」 「畜生が…俺達は如何すれば!?」 東国の滅亡が現実的であると確実視した直後…。 「百鬼山椒魚!あんたの相手は私よ!」 女性の呼号が響き渡る。 「女人の…呼号なのか?」 女性の呼号と同時に百鬼山椒魚は身動きが停止したのである。 「えっ?何が?山椒魚の怪物が…身動きしなくなったぞ…」 「俺達は命拾い出来たのか?一先ずは安心だな…」 二人の見張り役達は命拾い出来…。安堵したのである。一方の百鬼山椒魚は背後を直視し始める。百鬼山椒魚の背後には最上級妖女の月影桜花姫と夜桜一族の夜桜太郎丸が佇立する。 「桜花姫様…此奴が…先程僕が遭遇した山椒魚の怪物ですよ…」 「此奴が百鬼山椒魚なのね…間近で遭遇すると本当に規格外の怪物ね…」 『亡霊百目怪魚もだけど…こんな規格外の怪物が神出鬼没の悪霊なのかしら?』 桜花姫は百鬼山椒魚の規格外の巨大さに悪霊なのか疑問視したのである。一方の太郎丸は恐る恐る問い掛ける。 「桜花姫様?百鬼山椒魚を一人で仕留められるのですか?」 桜花姫は不安そうな表情で問い掛ける太郎丸に満面の笑顔で断言する。 「私は最上級妖女なのよ♪相手が最上級悪霊だろうと仕留められるでしょうね♪」 桜花姫は天道天眼を発動…。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。 「えっ…」 『桜花姫様の両目が瑠璃色に変色するなんて…』 太郎丸は桜花姫の両目の変色に不思議がる。 「桜花姫様の妖術でしょうか?」 「神性妖術…天道天眼よ…」 「天道天眼ですか?」 『桜花姫様の妖術は摩訶不思議だ…』 桜花姫は天道天眼の発動により体内の妖力が数十倍にも急上昇したのである。 「百鬼山椒魚♪覚悟なさい♪」 桜花姫は余裕の気分であったものの…。百鬼山椒魚は口部を開口させると高熱の熱風を放射したのである。 『熱風かしら!?』 「太郎丸!」 桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪熱風の無力化に成功したのである。 「はぁ…危なかったわ…」 桜花姫は太郎丸が無事なのか確認する。 「太郎丸も無事みたいね…」 「桜花姫様…感謝します…」 太郎丸も桜花姫の発動した妖力の防壁により無事だったのである。二人は一安心するのだが…。 「なっ!?今度は瘴気!?」 百鬼山椒魚は全身から猛毒の瘴気を放射させたのである。 『百鬼山椒魚は全身から猛毒の瘴気を放出したのね…』 百鬼山椒魚の瘴気は非常に強力であり周辺の草木が枯死され…。周辺の自然界が汚染されたのである。 「ぐっ…桜花姫様…息苦しいです…」 太郎丸は百鬼山椒魚の瘴気により衰弱化し始め…。 「桜花姫様…僕は…」 太郎丸は地面に横たわったのである。 「太郎丸…喋らないで…」 桜花姫は地面に横たわった状態の彼を制止させる。 『百鬼山椒魚を仕留められれば…瘴気の拡大を鎮静化出来るかしら?』 桜花姫は全身全霊の妖力を収縮させたのである。 『百鬼山椒魚…』 「あんたは覚悟なさい!」 全身全霊の妖力で超高温の火の玉を形成させる。桜花姫は火の玉を飛翔させると標的の百鬼山椒魚に直撃させたのである。 『直撃したわ!』 超高温の火の玉が百鬼山椒魚に直撃すると百鬼山椒魚は爆散し始め…。完膚なきまでに死滅したのである。 「大物の百鬼山椒魚を仕留めたわね…」 百鬼山椒魚を仕留めた影響からか先程拡大した猛毒の瘴気が消失…。自然に浄化されたのである。 「桜花姫様…僕は…一体如何すれば?」 太郎丸も百鬼山椒魚の瘴気によって一時的に衰弱化したものの…。百鬼山椒魚の消滅により体内の瘴気が浄化されたのである。 「太郎丸…体内の瘴気は浄化されたけど当分は安静が必要不可欠よ…」 「安静ですと?」 「あんたは武家屋敷に戻って安静にしなさい…体力を回復させないと…」 実際問題太郎丸は瘴気によって体力が消耗…。体内の瘴気が浄化されたとしても油断出来ない。 「承知しました…桜花姫様…」 太郎丸は自宅へと戻ったのである。太郎丸が戻ってより数秒後…。 『兎にも角にも…一先ずは一件落着ね…』 「私も…西国に戻ろうかしら?」 桜花姫も西国の村里へと戻ったのである。
最終話
無人島 上級悪霊の百鬼山椒魚を退治した同時刻…。とある無人島での出来事である。藍色の着物姿の女性が水晶玉を所持…。女性が両目を瞑目させると水晶玉の表面よりとある場所の光景が映写されたのである。 「彼女が…」 『月影鉄鬼丸と名乗る武士の愛娘…月影桜花姫か…』 彼女こそは銀狐の神族天狐如夜叉…。彼女は桜花姫の実父月影鉄鬼丸を殺害した張本人である。 「彼女は天道天眼を開眼させ…覚醒させるとは見事だな…」 『彼女は人間と妖女の混血なのに天道天眼をこんなにも使いこなせるとは…彼女は天道の化身なのか?』 今迄にも数多くの妖女が神性妖術の天道天眼を開眼出来たものの…。桜花姫みたいに天道天眼を使いこなせた妖女は誰一人として存在しなかったのである。 『彼女の正体…恐らくは元祖妖女…桃子姫の再来だろうな…』 天狐如夜叉は桜花姫が桃子姫の再来であると確実視する。 「彼女の成長は非常に興味深いな♪」 『今後の展開が面白くなりそうだ♪』 天狐如夜叉は日に日に強大化し続ける桜花姫が興味深くなる。 「今後とも薄汚い無間地獄の悪霊を蹴散らし続け…妖力を強大化させるのだぞ…最上級妖女の月影桜花姫…」 『私が主目的を達成するには…其方の天道天眼が必要不可欠なのだからな…』 すると疲労の蓄積からか極度の眠気に急襲されたのである。 「はぁ…」 『睡魔か?眠たくなったな…』 天狐如夜叉は洞窟に戻って睡眠する直前…。 「ん?」 『何事か?』 突如として気配を感じる。 『気配は複数か…』 外部の様子が気になった天狐如夜叉は気配の感じる場所へと移動したのである。天狐如夜叉が移動してより同時刻…。無人島にて異国の海賊団が上陸したのである。 「如何やら無人島みたいだな…」 「人気は無さそうだ…」 「こんな無人島だと…宝物は期待出来ないな…」 すると船長らしき人物が発言する。 「今日から此処を俺達の拠点として活用する…無人島を占拠するぞ…」 彼等が無人島を占拠する直前…。 「ん?あんたは…誰だ?」 彼等の目前より藍色の着物姿の女性が無表情で佇立する。 「此奴は無人島の住人か?」 「船長♪此奴は異国の小娘みたいだぜ♪」 「可愛らしい小娘だ♪犯しちまいたいぜ♪如何しますかい?」 海賊団は短剣を携帯すると女性を包囲したのである。すると船長らしき人物が彼女に問い掛ける。 「異国の小娘よ…あんたは何者だ?」 女性は無表情で名前を名乗り始める。 「私の名前は天狐如夜叉…神族の一人だ…」 「はぁ?神族だと?」 『冗談だろ?』 天狐如夜叉の返答に船長は呆れ果てる。すると周囲の海賊達が天狐如夜叉の返答に爆笑したのである。 「姉ちゃんよ♪面白い冗談だな♪」 「此奴は傑作だぜ♪」 彼等は天狐如夜叉の神族の一言に揶揄する。 「神族なんて大昔に全滅しちまっただろう♪姉ちゃんは冗談が面白いな♪」 「気の毒に♪あんたは孤独で脳味噌が狂っちまったのかよ♪」 周囲の海賊達に冷笑された天狐如夜叉であるものの…。彼女は無表情で装備品の木刀を抜刀したのである。 「此奴…木造の刀剣か?」 「棍棒が俺達に通用するか…異国の小娘を打っ殺せ!」 船長の命令により周囲の海賊達は護身用の短剣を携帯…。大勢で天狐如夜叉に殺到したのである。 『愚か者達が…』 一方の天狐如夜叉は海賊達に呆れ果てる。海賊団は天狐如夜叉を攻撃するのだが…。天狐如夜叉は神速の身動きで反撃すると包囲した海賊団を一瞬で蹴散らしたのである。 「なっ!?えっ…」 船長は突然何が発生したのか理解出来ず愕然とする。 「一体…何が?」 正気に戻ると砂浜の地面には斬殺された部下達の遺体は勿論…。血塗れの木刀を所持した天狐如夜叉が無表情で船長を凝視し続ける。 「えっ…現実なのか?」 『如何して…こんな…』 船長は周囲の光景に戦慄する。 「今度は親玉の其方が…私の相手だな…」 天狐如夜叉は身構える。すると船長は身震いした様子で…。 「俺が…俺が悪かったよ…即刻無人島からは撤収するから…今回は見逃して貰えないか?手出ししたのは反省するからよ…俺はこんな場所で死にたくない…」 船長は天狐如夜叉に謝罪…。命乞いしたのである。 「小物が…命乞いとは…」 天狐如夜叉は船長の様子に呆れ果てるものの…。 「其方は情けないな…死にたくないか…」 天狐如夜叉は命乞いする船長を見逃したのである。 「覚悟しやがれ!小娘!」 一方の船長は護身用の拳銃を所持…。背後から天狐如夜叉に発砲したのである。天狐如夜叉は即座に気配を察知…。木刀で銃弾を無力化したのである。 「えっ…銃弾が!?」 「拳銃程度が私に通用するか…」 船長は恐る恐る…。 「あんたは…本当に神族なのか?神族は大昔に…全滅したのでは?」 「私が神族だから如何なのだ?極悪非道の人間風情が…」 天狐如夜叉は問答無用で船長を殺害したのである。 『邪魔者は仕留めた…』 海賊団を蹴散らしてより数分後…。 『今度こそ眠ろうか…』 天狐如夜叉は洞窟へと移動したのである。 『最上級妖女の月影桜花姫よ…其方は今後とも神出鬼没の悪霊を仕留め続け…天道天眼を覚醒させるのだぞ…』 桜花姫の成長を期待する。 完結
第四部
第一話
人工性妖女 悪霊の集合体であり悪霊の始祖とされる邪霊餓狼が消滅してより一年後の清明の時期…。世界暦五千二十四年四月十七日十六時半の出来事である。北国に聳え立つ天神山の洞窟ではとある虚無僧集団が集結する。 「同志達よ…全員集合したな…」 虚無僧集団の首領らしき人物が頭陀袋からとある木材の破片を入手したのである。 「ん?木材の…破片でしょうか?」 部下の一人が恐る恐る問い掛けると首領らしき人物は一息する。 「此奴は…能面の付喪神の肉片だよ♪」 「能面の…付喪神の肉片ですと?」 能面の付喪神とは通称小面袋蜘蛛の肉片である。 「能面の付喪神って?器物の悪霊の…小面袋蜘蛛ですよね?」 「勿論だとも♪」 首領らしき人物は笑顔で即答する。 「えっ…」 一方周囲の者達は小面袋蜘蛛の肉片に一瞬気味悪がる。 「二年前に西国近隣の廃村で…付喪神の肉片を回収したからな…」 「頭領…付喪神の肉片を如何されるのでしょうか?」 虚無僧の一人に恐る恐る問い掛けられると虚無僧の頭領は背後に存在する物体を直視し始める。 「此奴だよ…」 「えっ?女人の…死体でしょうか?」 頭領の背後には腐敗した小柄の女性の遺体が確認出来る。 「えっ…女人の死体なんて気味悪いですね…」 女性の遺体は皮膚の劣化により遺体の一部は完全に白骨化した状態だったのである。 「此奴の体内に退治された小面袋蜘蛛の肉片を含有させ…一握りとされる最上級妖女をも上回る!史上最強の人工性の妖女を誕生させるのだよ…所謂全知全能の姫神様とでも呼称するか…」 「なっ!?全知全能の…姫神様ですと!?」 「本気なのですか?頭領…」 人工性妖女を誕生させる前代未聞の大計画であるが…。周囲の者達は本当に人工性妖女が誕生するのか如何なのかを疑問視したのである。 「人工性の妖女なんて…現実的に実現出来るのでしょうか?」 「実現出来るかは断言出来ないが…一か八かの大博打だ…成功すれば神聖なる姫神様が俗界に誕生されるのだ!」 頭領は恐る恐る小面袋蜘蛛の肉片を女性の遺体の内部に混入させる。 「準備は完了したぞ…」 女性の遺体に小面袋蜘蛛の肉片を混入させた直後である。 「一体何が発生するのか?」 女性の遺体に小面袋蜘蛛の肉片を混入させた直後に一瞬であるが…。 「なっ!?」 女性の遺体が一瞬ピクッと身動きしたのである。 「一瞬だが…女人の死体が身動きしたぞ!」 彼等は恐る恐る女性の遺体に近寄る。 「死体が身動きしたって!?本当なのか!?」 「本当に女人の死体が身動きしたのか!?」 彼等は女性の遺体が身動きするのか再確認するものの…。女性の遺体は停止した様子であり何一つとして反応しない。 「彼女は…身動きしなくなったな…」 「先程の超常現象は一体…何だったのか?」 彼等は落胆したのである。 「見間違いだろうな…」 「死体が身動きするなんて現実的に…」 数秒後…。遺体の腐敗した部分が猛スピードで再生され遺体は新鮮なる生身の女体へと変化したのである。 「うわっ!現実なのか?」 「腐敗が…再生し始めたぞ!」 すると生身の女体は深呼吸し始める。 「此奴は本物の生身の生者みたいだな…実験は成功したのか!?」 周囲の者達は超常現象が現実の出来事なのか混乱したのである。一方頭領は実験の成功に大喜びする。 「私達の計画は大成功したのだ♪俗界に全知全能の姫神様が誕生されたぞ!」 生身の女体は外見のみなら黒髪で長髪の童顔美少女であり体格は小柄であるものの…。非常に容姿端麗である。直後…。瞑目した生身の女体が恐る恐る目覚める。 「目覚められましたか?姫神様♪」 頭領は生身の女体に姫神と呼称する。 「頭領?彼女は…姫神様は人形みたいな女性ですね…」 生身の女体は人形みたいな容姿であり一部の部下は彼女を気味悪がる。一方の彼女は警戒した様子であり血紅色の瞳孔で恐る恐る周囲を凝視したのである。 「姫神様…別に警戒されなくても大丈夫ですよ♪」 警戒し続ける彼女に頭領は笑顔で発言する。 「私達は姫神様である貴女様に従事したいだけなのですから♪」 すると生身の女体は緊張が緩和したのか多少強張った表情が変化し始め…。無表情に戻ったのである。 「本日より貴女様の名前は…全知全能の姫神様…姫神【ウィプセラス】様なんて如何でしょうか?」 虚無僧の頭領は誕生したばかりの人工性妖女の名前を姫神ウィプセラスと名付ける。姫神ウィプセラスとはとある古代伝統宗教…。信仰の対象である姫神ウィプセラスとしての名称である。今回誕生した人工性妖女の名前を姫神のウィプセラスから引用…。ウィプセラスを彼女の正式名として名付けたのである。 「彼女はウィプセラスですか♪」 「ウィプセラスとは太古の大昔に存在したとされる全知全能の姫神の名称でしたね♪悪くないでしょう♪」 部下達はウィプセラスの名前に賛成する。一方姫神ウィプセラスと名付けられた生身の女体は無表情で頭領を凝視し始める。 「ん?一体如何されたのでしょうか?ウィプセラス様?」 すると部下の一人が恐る恐る…。 「ひょっとして彼女は…ウィプセラス様は空腹なのでは?」 「空腹か…」 一方の彼女は無反応であり一言も喋らない。 「ひょっとするとウィプセラス様は人語を喋れないのでしょうか?」 直後である。先程から無表情だったウィプセラスであるが…。突如としてニコッと微笑み始める。 「えっ?」 「ウィプセラス様?」 ウィプセラスの突然の笑顔に周囲の虚無僧は動揺したのである。 「ウィプセラス様…何が可笑しいのでしょうか?」 彼女は微笑み始めたかと思いきや…。ウィプセラスは自身の右腕から複数の蛸足らしき触手を生成させると虚無僧集団の頭領を拘束したのである。 「うわっ!何事だ!?ウィプセラス様!?如何されるのですか!?」 頭領は触手の吸盤により皮膚が密着…。身動き出来なくなる。 「ウィプセラス様!何故…私を!?」 頭領はウィプセラスの触手によって全身が覆い包まれ…。ズルズルと彼女の体内へと吸収される。 「ひっ!」 「此奴…触手で頭領を捕食しやがったぞ!」 「此奴は女体の怪物だ!」 警戒した周囲の虚無僧は即座に護身用の刀剣を抜刀したのである。 「女体の物の怪が!」 「此奴は姫神様の欠陥だ!即刻姫神様の紛い物を仕留めろ!」 彼等はウィプセラスを姫神の紛い物と呼称する。対するウィプセラスは彼等の攻撃に危惧したのか即座に両腕から無数の触手を生成し始め…。体内の触手で周囲の人間達を拘束したのである。触手の吸盤が皮膚に密着され身動き出来なくなる。 「うわっ!」 「ぎゃっ!」 彼等も先程の頭領と同様にズルズルと彼女の体内へと吸収されたのである。数秒間が経過するとウィプセラスの肉体が元通りに戻ったのである。すると直後…。 「私…人間…食べたい…人肉を…食べたい…食べたい…食べたい…」 ウィプセラスは片言であるが人間の口言葉で発語し始める。彼女は恐る恐る周囲を警戒した様子で暗闇の洞窟から脱出…。ウィプセラスは全裸の状態で物静かな山道を直進したのである。暗闇の洞窟から脱出したウィプセラスであるが…。夕方の時間帯にて三人組の匪賊達と山道の道中で遭遇したのである。 「ん?彼奴は誰だ?」 「村娘の姉ちゃんか?」 匪賊達はウィプセラスに近寄る。 「全裸だが…あんたは誰かに犯されちまったのか♪であれば相当不運だったな♪」 匪賊達に問い掛けられたウィプセラスであるが彼女は何も返答しない。 「此奴…聾者なのか?」 「如何やら此奴は本当に喋れないみたいだな…」 すると大柄の匪賊は全裸の彼女にムラムラしたのである。 「姉ちゃんは巨乳で可愛らしいな♪犯しちまいたいぜ♪」 すると大柄の匪賊が彼女の乳房を弄り始める。 「此奴は饅頭みたいに柔軟だな♪」 乳房を弄られたウィプセラスであるが…。 「ん?此奴は…」 一方の彼女は無反応であり表情も無表情だったのである。 「此奴は人形みたいで気味悪いな…普通の女子だったら悲鳴か抵抗するだろうに…無反応だぜ…」 すると匪賊の一人が無抵抗のウィプセラスに畏怖したのか恐る恐る後退りする。 「此奴…ヤバそうだぜ…」 「ヤバそうだって?こんな全裸の小娘相手に畏怖しやがって♪あんたは小心者だな♪こんな小娘の何がヤバそうだよ♪」 大柄の匪賊はウィプセラスに畏怖し始めた匪賊を揶揄したのである。直後…。 「食べたい…」 「ん?」 突如として食べたいと発言する彼女の一言に匪賊達は反応する。 「此奴…食べたいって…」 「食べたいって…何を食べたいのか?」 大柄の匪賊に問い掛けられたウィプセラスは満面の笑顔でニコッと微笑み始める。 「人間…食べたい♪人間♪食べたい♪私♪空腹♪空腹♪」 満面の笑顔でニコニコし始めるウィプセラスに匪賊達は気味悪くなる。 「はっ?貴様は一体何を?正気なのか?」 「如何やら脳味噌がぶっ壊れちまったみたいだな…此奴は重度の痴人なのか?」 「此奴を相手するのは面倒だ…戻ろうぜ…」 彼等はウィプセラスにドン引きする。すると直後である。 「えっ!?」 ウィプセラスは自身の左腕から無数の触手が生成すると大柄の匪賊の肉体は覆い包み…。ズルズルと大柄の肉体諸共匪賊を自身の体内に吸収したのである。 「ひっ!」 「はっ!?此奴は女体の怪物か!?人間を捕食しやがったぞ!」 「俺達も女体の怪物に食い殺される!逃げろ!」 ウィプセラスに戦慄した二人の匪賊は一目散に彼女から逃走…。一方のウィプセラスは一息する。 「今度は妖女♪妖女が食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 大勢の人間達を捕食した影響からかウィプセラスは先程の状態より若干大人びた雰囲気へと変貌したのである。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 ウィプセラスは空腹の様子であり洞窟から脱出する。
第二話
展墓 翌日の真昼…。西国の月影桜花姫は久方振りに死去した父親の月影鉄鬼丸と母親の月影春海姫の墓参りに出掛けたのである。 『父様と…母様…』 桜花姫は恐る恐る両親の墓石に接触する。 『久し振りね…』 桜花姫は両目を瞑目し始め…。恐る恐る合掌する。 『父様…母様…』 すると直後である。突然彼女の背後より…。 「桜花姫ちゃんが両親の墓参りとは…非常に珍妙だね♪」 「きゃっ!」 桜花姫は吃驚した様子であり即座に背後を直視したのである。 「誰かと思いきや…蛇体如夜叉婆ちゃん…吃驚させないでよね…」 「御免よ♪御免よ♪吃驚させちゃったね♪桜花姫ちゃん♪」 蛇体如夜叉は笑顔で謝罪する。 「今迄の私は悪霊征伐と匪賊征伐で多忙だったからね…仕方ないわよ…時たまだけど墓参りしないと…」 桜花姫は無表情で発言したのである。 「久方振りに元気そうな桜花姫ちゃんと対面出来たからね…今頃はあんたの両親も大喜びだろうよ♪」 蛇体如夜叉が満面の笑顔で発言するのだが…。 「如何だろうか?実際母様は私が殺しちゃったのよね…こんな親不孝の私なんかと再会して母様が大喜びするのか正直疑問だけど…」 桜花姫は無表情で返答したのである。 『桜花姫ちゃん…』 蛇体如夜叉は桜花姫の雰囲気に一瞬気まずくなる。 『桜花姫ちゃんの雰囲気…正直気まずいね…』 蛇体如夜叉は村里に戻ろうかと思いきや…。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?」 すると桜花姫は恐る恐る蛇体如夜叉に問い掛ける。 「結局私の父様って…どんな人物だったの?」 「えっ?あんたの父親がどんな人物だったかって…」 蛇体如夜叉は桜花姫の突然の質問に一瞬困惑するものの…。 「あんたの父親…月影鉄鬼丸はね…第一印象は優男とは程遠い印象だったかね?性格は誰よりも生真面目だけど…必要以上に厳格って印象だったかな?正直ね…」 「私の父様って…僧侶の八正道様とは正反対みたいね…」 『必要以上に生真面目で厳格って…面倒臭そうな性格だわ…』 桜花姫は蛇体如夜叉の返答に苦笑いしたのである。 「普段の彼奴は…鉄鬼丸は厳格で一匹狼だったけれども…人一倍人情味で情熱的だったかな?誰よりも熱血漢だったのは事実だよ…」 「父様は熱血漢だったのね♪一匹狼なのは私みたいだね…私の父様って♪」 桜花姫はニコッと微笑み始める。 「一匹狼っぽい部分は桜花姫ちゃんっぽいね♪本当に親子だよ♪あんた達は♪」 「本当よね♪私も多人数よりは一人で行動するのが大好きだからね♪」 桜花姫と蛇体如夜叉は談笑したのである。
第三話
遭遇 桜花姫と蛇体如夜叉が談笑した同時刻…。 「はぁ…」 粉雪妖女の雪美姫は北国郊外の山道を通行したのである。 『最近は退屈過ぎて仕方ないわ…』 雪美姫は花魁として活動中であったが…。時たま匪賊の征伐にも尽力したのである。邪霊餓狼の消滅以後…。世の中は非常に平和であり桜花姫の影響からか匪賊達の活動も小規模化したのである。 「其処等の匪賊達も桜花姫に畏怖しちゃったのかしら?本当に世の中は退屈だわ…」 『こんなにも世の中が平和だと…私が活躍したくても活躍出来ないわね…面白そうな大事件でも発生しないかしら?』 雪美姫は日常が退屈であると愚痴り始めるのだが…。 「えっ!?」 十数メートルもの近距離より全裸の女性が満面の笑顔で歩行するのが確認出来る。 『此奴!?如何して全裸なの!?』 全裸状態の女性に雪美姫は驚愕したのである。 『如何して彼女は全裸なのよ!?笑顔も気味悪いし…此奴は一体何者なの?』 全裸の女性が非常に気味悪いと感じる。雪美姫は全裸の女性を素通りするのだが…。彼女は素通りする雪美姫をヘラヘラとした表情でジロジロと凝視し続ける。全裸の彼女を無視したい雪美姫であるが…。 「あんた…鬱陶しいわね!先程から何よ!?」 雪美姫は苛立った様子でありヘラヘラし続ける全裸の女性に怒号したのである。 『此奴…』 雪美姫は非常に苛立ったのか全身がピリピリし始める。 「あんたは…私を苛立たせるわね!」 雪美姫はピリピリするものの…。 「あんたの名前は?」 彼女に名前を問い掛ける。すると彼女は満面の笑顔で…。 「私♪名前♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪」 彼女は自身の名前をウィプセラスと名乗る。 「えっ…ウィプセラスですって?ウィプセラスなんて異国の人間みたいな名前ね…あんたは異国出身の人間なのかしら?」 ウィプセラスと名乗る女性はヘラヘラした様子である。一方の雪美姫は気味悪くなったのか警戒した様子で恐る恐る後退りする。 『此奴…正体は悪霊なの!?』 現段階ではウィプセラスと名乗る全裸の女性が何者なのかは正体が不明瞭であり雪美姫は非常に気味悪がる。 『悪霊って一年前だったかしら?桜花姫が邪霊餓狼って悪霊の親玉を浄化させちゃったから…彼女は悪霊とは完全に別物よね?彼女の肉体からは悪霊特有の霊力らしい霊力なんて感じられないし…』 彼女の肉体からは悪霊特有とされる霊力は何一つとして感じられず悪霊とは無縁の存在であると確実視する。 『何方にせよ…此奴が厄介なのは確実だわ…此奴の正体は一体何者なのかしら?』 雪美姫は警戒した様子でウィプセラスに睥睨し始める。 「あんたの名前はウィプセラスだったかしら?悪いけどあんたは私の妖術で凍死しなさい…」 雪美姫は即座に粉雪妖術を発動…。ウィプセラスの両足を氷結させたのである。 「ぎゃっ!私…身動き出来ない…身動き出来ない…」 ウィプセラスは両足の凍結により身動き出来なくなる。 「ウィプセラスは身動き出来なくなったわね♪いい気味だわ♪」 雪美姫は身動き出来なくなったウィプセラスに冷笑する。一方氷結の妖術によって身動きを封殺されたウィプセラスであるが…。 「食べられない♪妖女♪食べられない♪」 こんな状態でも彼女は余裕なのかヘラヘラし続けたのである。 「えっ…あんたは正気なの?」 ウィプセラスは異常であり雪美姫はドン引きする。 『此奴は…桜花姫以上に狂気的ね…気味悪いわ…』 ウィプセラスの全身を氷結させる寸前…。 「えっ!?」 ウィプセラスは両腕より蛸足を連想させる無数の触手を生成したのである。 『両腕から蛸足!?』 ウィプセラスの体内より出現した無数の触手が雪美姫の全身に密着する。 「ひゃっ!」 「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」 触手の吸盤が全身の皮膚に密着すると雪美姫は気味悪くなる。 『畜生…一か八かよ…』 雪美姫は一か八か粉雪分身の妖術を発動…。皮膚の表面より無数の粉雪を地面に飛散させる。無数の触手に拘束されて数秒後…。拘束された雪美姫の全身はウィプセラスの触手に覆い包まれ触手諸共彼女の体内へと吸収されたのである。 「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」 雪美姫を捕食したウィプセラスは大喜びする。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 ウィプセラスは満足したのかヘラヘラした様子で移動を再開したのである。ウィプセラスが退散した数秒後…。飛散した無数の粉雪が再度融合化すると女体を形成させる。無数の粉雪が女体を形成させた数秒後…。 「はぁ…」 粉雪妖女の雪美姫が元通りの姿形に復活したのである。 『危機一髪だったわね…もう少しで彼奴に食い殺されるかと…』 雪美姫は無事でありホッとする。 『粉雪分身の妖術を発動しなかったら…私は確実にウィプセラスって怪物に食い殺されたでしょうね…』 雪美姫は再度周囲を警戒したのである。 「ウィプセラスって女体の怪物…彼奴は下手すれば神出鬼没の悪霊よりも厄介かも知れないわね…」 『最上級妖女の桜花姫だったら…怪物の彼奴を…』 雪美姫はウィプセラスに対抗出来るのは桜花姫以外には存在しないと確信する。彼女は即座に西国の村里へと直行したのである。
第四話
入浴中 同日の夕方…。最上級妖女の月影桜花姫は毎日の日課である精霊故山の露天風呂に入浴したのである。 『極楽浄土♪極楽浄土♪』 桜花姫は露天風呂の適温の湯加減に満足する。 「精霊故山の露天風呂は湯加減も適温だし…」 『消耗しちゃった妖力も回復させられるから最高ね♪本物の極楽浄土だわ♪』 露天風呂の湯加減に満足した桜花姫であるが…。 「えっ?」 背後よりガサガサッと人気に気付いたのである。 『人気!?何かしら!?』 桜花姫は警戒した様子で背後を凝視する。 「一体何者なの!?」 すると背後の岩陰より茶髪の童顔美少女が出現したのである。 「桜花姫姉ちゃん…」 「誰かと思いきや…あんたは山猫妖女の小猫姫…」 背後の人物は山猫妖女の小猫姫であり桜花姫は一安心する。 「あんたは人騒がせね…小猫姫…一瞬吃驚しちゃったわ…」 「御免ね♪桜花姫姉ちゃん♪」 桜花姫は小猫姫の出現に満面の笑顔で…。 「あんたは純粋無垢の女の子なのに入浴中の女性を覗き見するなんてね♪助平の八正道様みたいだわ♪あんたも相当の物好きみたいね♪」 「助平って…私は…別に…」 小猫姫は苦笑いし始める。同時刻…。東国の寺院では八正道が突如としてクシャミしたのである。 「えっ…一体何事でしょうか?」 『誰か私の噂話でも…奇妙ですね…』 八正道は彼是と思考し続ける。同時刻…。小猫姫は赤面した様子で恐る恐る着物を脱衣したのである。 「私も…久し振りに精霊故山の露天風呂に入浴したくて…」 小猫姫は恐る恐る周囲を警戒…。多少緊張した様子で石造りの露天風呂へと入浴したのである。 「小猫姫♪別に警戒しなくても大丈夫よ♪女同士だから気にしないの♪」 「桜花姫姉ちゃんは全裸でも平気なのかも知れないけれども…私は…」 小猫姫は表情が赤面し始める。 「小猫姫♪あんたは意外と処女なのね♪」 桜花姫は笑顔で入浴中の小猫姫に近寄る。 「処女のあんたは♪」 「えっ…何よ?桜花姫姉ちゃん…」 小猫姫は近寄る桜花姫に再度警戒する。 「小猫姫…」 桜花姫は彼女の乳房を凝視し始める。 「あんたのおっぱいって…饅頭みたいで柔軟だわ♪」 「えっ?おっぱいが饅頭って?」 小猫姫は珍紛漢紛だったのである。一方の桜花姫は赤面した表情で恐る恐る…。 「御免あそばせ♪小猫姫♪」 小猫姫の巨乳のおっぱいを力一杯弄ったのである。 「きゃっ!桜花姫姉ちゃんの助平!突然何するのよ!?」 小猫姫は桜花姫の突然の行為に動揺し始める。 「何って?あんたのおっぱいは本当に饅頭みたいで可愛らしいわね♪」 「えっ!?饅頭って…」 小猫姫は赤面したのである。 『桜花姫姉ちゃんって…意外と変態なのね…』 小猫姫は内心桜花姫の行為に呆れ果てるものの…。 「私だって!桜花姫姉ちゃんに仕返ししちゃうからね!」 小猫姫も桜花姫に仕返しする。彼女も力一杯桜花姫の乳房を接触…。 「きゃっ!いや~ん♪小猫姫の助平♪」 桜花姫も赤面したのである。 「何が助平だよ♪助平なのは桜花姫姉ちゃんも一緒でしょう♪」 二人が弄り合った直後…。 「えっ?」 「桜花姫姉ちゃん?如何したの?」 「気配だわ…」 再度背後から気配を感じる。 「気配だって?」 「今度は誰かしら?」 「一体誰だろうね?」 彼女達は恐る恐る背後を警戒…。背後の岩陰より人気を感じる。 「あんたは…誰なの?ひょっとして覗き見かしら?」 すると岩陰から水色の着物姿の花魁が出現する。 「あんたは…粉雪妖女の雪美姫…」 「雪美姫姉ちゃんだ…」 「桜花姫と小猫姫…あんた達は入浴中だったのね…」 「雪美姫?あんたも入浴する?」 「急用なのよ…桜花姫…」 雪美姫は深刻そうな表情であり桜花姫も表情が変化したのである。 「急用ですって?一体何かしら?」 「昼間の出来事だけど…」 雪美姫は先程の出来事を一部始終説明し始める。
第五話
下級妖女 雪美姫が桜花姫と接触した同時刻…。徘徊中のウィプセラスは東国の天空山頂上へと移動したのである。天空山とは東国の最高峰であり標高三キロメートル規模の巨山…。東国最大級の観光地である。数年前は悪霊の出現により登山者は減少傾向であったが邪霊餓狼の消滅以後…。再度登山者が増加し始める。天空山の頂上では鎖鎌を所持するとある童顔の美少女が武術の修行に尽力する。 『私も一生懸命修行し続けて…最上級妖女の月影桜花姫様は無理でも…妹分の小猫姫には勝利したいわね…』 彼女は妖女の【山茶花姫】…。年齢は山猫妖女の小猫姫と同年代であり山茶花姫にとって彼女は好敵手だったのである。山茶花姫の家系は最強の忍者一族であり彼女の先祖達は戦乱時代では諜報活動は勿論…。要人の暗殺任務で大活躍したのである。安穏時代は非常に平和であり忍者の仕事は限定的であるものの…。山茶花姫は唯一の女性忍者であり極悪非道の匪賊の諜報活動やら暗殺任務に従事したのである。余談であるが…。幼少期の寺子屋時代では山茶花姫は小猫姫と同期だったのである。彼女が小猫姫を好敵手として意識するのは寺子屋での生活も影響する。 「えいっ!」 山茶花姫は鎖鎌の大鎌を投擲しては近辺の樹木をグルグルに絡まらせる。 『雷光斬撃の妖術…発動!』 両手より雷光斬撃の妖術を発動…。体内から放電させた雷光を所持品の鎖鎌に流電させたのである。直後…。樹木が黒焦げに燃焼する。 『上出来♪上出来♪』 山茶花姫は修行の成果に大喜びしたのである。 「修行の成果かしら?」 『こんな私でも♪山猫妖女の小猫姫になら対抗出来そうね♪』 山茶花姫は自身の上達にホッとした直後…。 「えっ?」 僅少であるが突如として別の妖力が天空山頂上に接近するのを感じる。 『妖力を感じるわね…一体何かしら?』 山茶花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。 「あんたは…一体何者よ?」 『此奴も…妖女なのかしら?』 山茶花姫の背後には全裸の女性が佇立…。彼女はヘラヘラした表情で修行中の山茶花姫を凝視したのである。 『此奴は…神出鬼没の悪霊みたいな雰囲気で気味悪いわね…』 全裸の女性からは複数の妖力が感じられ山茶花姫は不吉に感じる。 『此奴の体内からは複数の妖力が感じられるわね…彼女は一体何者なのかしら?』 すると全裸の女性は満面の笑顔で…。 「私♪ウィプセラス♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 全裸の女性は子供っぽい口調で自身をウィプセラスと名乗り始める。 「ウィプセラスですって?あんたみたいな妖女は初耳だわ…」 『彼女の体内から僅少の妖力が複数感じられるけれども…彼女の正体は一体何者なのかしら?ひょっとすると異国出身の妖女とか?』 ウィプセラスは異質的存在であり純血の妖女なのか疑問視する。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 「此奴…」 『先程から食べたい…食べたいって鬱陶しいわね…』 山茶花姫は只管食べたいと連呼し続けるウィプセラスに大層苛立ったのである。 「あんたみたいな下級妖女…即刻死になさい!」 山茶花姫は即座に鎖鎌を投擲…。ウィプセラスを捕縛したのである。身動き出来なくなったウィプセラスであるが…。ヘラヘラとした表情で山茶花姫を凝視し続ける。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」 山茶花姫はヘラヘラし続けるウィプセラスに気味悪がる。 「あんたみたいな痴人と遭遇するなんてね…覚悟するのね!」 山茶花姫は妖力を発動…。 「自爆しろ…」 山茶花姫は標的のウィプセラスに自爆の妖術を発動したのである。 「えっ♪」 直後…。ウィプセラスの肉体は自爆の妖術によってバラバラに粉砕される。天空山頂上にはウィプセラスの血肉やら肉片が地面に飛散したのである。 「所詮は下級妖女…あんたみたいな下級妖女が私を食い殺すなんて無謀なのよ…」 山茶花姫は戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 飛散した周辺の肉片がピクピクッと鼓動すると一瞬で融合化したのである。融合化した肉塊は等身大の女体を形作り…。 「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」 元通りのウィプセラスに戻ったのである。 「なっ!?」 『此奴は…不死身なの!?』 山茶花姫は復活したウィプセラスにゾッとする。 「此奴…」 『肉体をバラバラに粉砕させても元通りに戻れるなんて…ウィプセラスは神出鬼没の悪霊以上に厄介そうね…』 山茶花姫はウィプセラスの生命力に驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。 「今度は私の出番♪私の出番♪私の出番♪」 ウィプセラスは捕食した雪美姫の氷結の妖術を発動し始め…。 「えっ!?」 山茶花姫の両足を氷結させたのである。 『氷結ですって!?』 山茶花姫は両足の氷結により身動き出来なくなる。 「ぐっ…」 『此奴は…氷結の妖術を駆使出来るの!?』 するとウィプセラスは両腕より無数の触手を生成させたかと思いきや…。生成させた無数の触手で山茶花姫を拘束したのである。 「きゃっ!」 『両腕から蛸足!?此奴は一体何者なの!?』 触手の吸盤により山茶花姫の身動きを封殺する。 「ぐっ!」 『迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…』 山茶花姫の身体髪膚はウィプセラスの触手に覆い包まれる。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 全身がウィプセラスの触手に覆い包まれてより数秒後…。 『私は…こんな痴人に食い殺されるなんて…無念だわ…』 無数の触手に覆い包まれた山茶花姫の肉体は無数の触手諸共ウィプセラスの体内へと吸収されたのである。一方のウィプセラスは山茶花姫の捕食に成功…。大満足の様子だったのである。 「御馳走様♪御馳走様♪」 妖女の山茶花姫を食い殺したウィプセラスは天空山から退散する。
第六話
捕食者 天空山での戦闘が終了した同時刻…。粉雪妖女の雪美姫は桜花姫の家屋敷にて真昼の出来事を一部始終告白したのである。 「あんたの粉雪の分身体が…ウィプセラスなんて名前の正体不明の怪物に捕食されちゃったのね…」 「桜花姫姉ちゃん?ウィプセラスって女人の怪物は悪霊の一種なのかな?」 小猫姫はボソッと発言する。 「ウィプセラスの正体が神出鬼没の悪霊なら悪霊特有の霊力を感じられるでしょうし…私が即刻退治するわよ…神出鬼没の悪霊は主体の邪霊餓狼が消滅しちゃったから俗界では出現したくても出現出来ないでしょうね…」 元凶の邪霊餓狼が完全消滅した影響により以後…。神出鬼没の悪霊は俗界には出現しなくなる。 「昼間に遭遇した彼女からは悪霊特有の霊力は感じられなかったわ…悪霊とは完全に別物っぽかったけれど…雰囲気的に妖女とも似ても似つかない異類の存在でしょうね…無理矢理に解釈するなら妖女の亜種とか?」 現段階ではウィプセラスの正体は不明瞭であり彼女達はモヤモヤしたのである。すると桜花姫は恐る恐る…。 「ウィプセラス…彼女の正体が神出鬼没の悪霊でも…純血の妖女にも該当しないのであれば…神族の一人である可能性とかは?」 「えっ?ウィプセラスが神族の一人ですって?」 「神族は該当しないよ…桜花姫姉ちゃん…」 神族の仮説に小猫姫は否定する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん以外の神族は大昔の大戦争で全滅しちゃったらしいからね…」 小猫姫の発言に雪美姫も同意したのである。 「私も小猫姫と同感だわ…ウィプセラスには神族みたいな神秘性なんて皆無だったし…彼奴は小汚い無邪気の子供っぽい印象だったわね…」 「であればウィプセラスの正体って…一体何者なのかしら?」 結局…。ウィプセラスの正体が何者なのか不明瞭であり彼女達はモヤモヤした様子で解散したのである。小猫姫は帰宅途中…。 「えっ…何だろう?」 西国と南国の国境山道よりフラフラした状態で歩行し続ける正体不明の人影を発見したのである。 『人影かな?』 周囲は暗闇であり人影の正体は不明瞭であるが…。 「一体何者なの?」 『雰囲気だけなら悪霊っぽいけれど…』 人影はフラフラした身動きで小猫姫の方向に接近する。 『悪霊は親玉の邪霊餓狼が消滅しちゃったから出現しないし…こんな真夜中に一体何者だろう?』 正体不明の人影がフラフラした状態で小猫姫の間近へと近寄る。 「えっ!?」 『女の人!?全裸だし…彼女は何者かな?』 人影の正体とは全裸の女性であり小猫姫を直視するとニコッと微笑み始める。一方小猫姫は全裸の女性に警戒したのである。 「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪」 彼女の口言葉に小猫姫はハッとする。 『食べたいって…ひょっとして彼女が雪美姫姉ちゃんの粉雪分身を捕食した女人の怪物…ウィプセラスなの!?』 小猫姫は全裸の女性が女人の怪物ウィプセラスであると察知…。 『如何しましょう?』 小猫姫は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。 『此奴の正体が本当に怪物のウィプセラスであれば…』 小猫姫はウィプセラスに睥睨し始める。 「あんたがウィプセラスなら!山猫妖女の私が徹底的に征伐するよ!」 小猫姫はウィプセラスとの遭遇に警戒する。 「私♪ウィプセラス♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」 ウィプセラスは只管ヘラヘラした様子で小猫姫に近寄ったのである。 「あんたは何者よ!?私に近寄らないで!」 小猫姫は近寄り続けるウィプセラスに威嚇する。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 小猫姫に威嚇されたウィプセラスであるが…。彼女はヘラヘラした様子であり只管食べたいと連呼し続ける。 「此奴…」 『ウィプセラスは会話が通じないの?』 小猫姫は非常に苛立ったのか大声で…。 「ウィプセラス!私に近寄るな!」 小猫姫は鬼神の形相でウィプセラスに怒号する。 『仕方ないね…』 小猫姫は全身全霊の妖力を発揮…。変化の妖術を発動すると彼女は伝説の妖獣に変化したのである。 「はっ!」 小猫姫の妖力は莫大であり近寄ったウィプセラスの肉体は一瞬で粉砕され…。周辺の地面にはバラバラに粉砕された無数の血肉やら肉片が飛散したのである。 『簡単に仕留めちゃったね…全身に妖力を放出させただけなのに…ウィプセラスは私が想像する以上に脆弱なのかな?』 小猫姫は全身に妖力を放出させただけでありウィプセラスの肉体は非常に脆弱なのか簡単に粉砕される。 「こんな場所で長居し続けたくないし…」 『即刻戻らないと…蛇体如夜叉婆ちゃんが心配するよね?』 小猫姫は南国の自宅に戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 背後より気配を感じる。 『何だろう?』 小猫姫は背後の様子を直視する。するとバラバラに粉砕されたウィプセラスの血肉が融合化し始め…。 『ウィプセラス!?』 元通りの女体の姿形に戻ったのである。 「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」 元通りに再生したウィプセラスに小猫姫は驚愕する。 「えっ!?」 『此奴…肉体がバラバラでも元通りに復活出来るの!?』 小猫姫は警戒した様子で口先に妖力を凝縮させる。 「死滅しろ!ウィプセラス!」 口先より高熱の雷球を発射…。高熱の雷球はウィプセラスの肉体に直撃すると彼女の肉体は非常に脆弱であり簡単に粉砕されたのである。 『今度こそ…』 焦土化した山道には黒焦げの肉片が散乱する。 『今度こそ…ウィプセラスは死滅したのかな?』 小猫姫は恐る恐る警戒したのである。 『ウィプセラスは…復活しないよね?』 ウィプセラスの肉体を完膚なきまでに破壊した数秒後…。一部の小指サイズの肉片が等身大サイズに細胞分裂し始める。細胞分裂した肉片は等身大の女体を形成させる。 「えっ!?」 小猫姫は目前の超常現象にゾッとしたのである。 『ウィプセラスは不死身なの!?』 等身大の女体はウィプセラスの肉体へと形作られる。 「私♪元通り♪復活♪復活♪復活♪」 ウィプセラスは完膚なきまでに全身の肉体を粉砕されたとしても不老不死の性質上…。肉体は何度でも復活出来る。 「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」 ウィプセラスはヘラヘラした様子で再度小猫姫に近寄ったのである。 「死滅しろ!ウィプセラス!」 小猫姫は再度高熱の雷球を発射するのだが…。ウィプセラスは両手より無数の触手を生成させると小猫姫の高熱の雷球を吸収したのである。 「えっ…」 『私の雷球が吸収されるなんて…』 妖力の吸収能力によって小猫姫の必殺の雷球を無力化する。 「あんたの妖力♪美味しい♪妖力♪美味しい♪」 ウィプセラスは小猫姫の妖力を吸収すると大喜びしたのである。 「今度はあんた♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 ウィプセラスは再度両手から無数の触手を発動…。無数の触手で妖獣形態の小猫姫を拘束したのである。 「きゃっ!」 『身動き出来ない…如何すれば!?』 ウィプセラスの触手により拘束され…。小猫姫は完全に身動き出来なくなる。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 彼女の触手が皮膚に密着すると全身の妖力が吸収され…。小猫姫は一瞬で元通りの少女の姿形に戻ったのである。 「ぐっ!」 『変化の妖術が解除されちゃった…私…怪物に食い殺されちゃうよ…』 小猫姫は極度の恐怖心からか涙腺から涙が零れ落ちる。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…私は…こんな場所で死にたくないよ…』 小猫姫はウィプセラスの体内へと吸収される直前…。突如としてウィプセラスの肉体がパンッと破裂したのである。 「きゃっ!」 突然の出来事に小猫姫は吃驚する。 「えっ!?」 『ウィプセラスが…一体何が発生したの?』 直後…。何者かが小猫姫の背中をポンッと接触する。 「ひゃっ!」 吃驚した小猫姫は即座に背後を直視…。 「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」 突如として小猫姫の背中を接触した人物とは誰であろう最上級妖女…。月影桜花姫だったのである。 「御免あそばせ♪小猫姫♪大丈夫かしら?」 「桜花姫姉ちゃん♪」 小猫姫は桜花姫の参上に命拾い出来…。ホッとしたのである。 「小猫姫…私が参上しなかったらあんたは今頃彼奴に食い殺されたでしょうね…危機一髪だったわね♪」 「桜花姫姉ちゃん…感謝するね…私は大丈夫だよ♪」 小猫姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「如何して桜花姫姉ちゃんがこんな場所に?」 「あんたの妖力は勿論だけど…複数の妖女の妖力を同時に察知したからね♪」 「複数の妖力?」 桜花姫は南国の国境より小猫姫と数人の妖女の妖力を察知したのである。 「ひょっとして彼女が…怪物のウィプセラスかしら?」 「桜花姫姉ちゃん…此奴がウィプセラスみたいだよ…」 「ウィプセラスは外見だけなら普通の女の子っぽいけどね…」 直後…。念力の妖術でバラバラに粉砕されたウィプセラスの血肉が融合化すると元通りに戻ったのである。 「私♪元通り♪元通り♪復活♪復活♪」 復活したウィプセラスはヘラヘラした表情で桜花姫の方向を凝視し始める。 「あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 「ウィプセラスは私が想像する以上に厄介そうだわ…粉砕された肉体が瞬時に復活するなんてね…」 『ウィプセラスは性質上不老不死みたいね…』 桜花姫はウィプセラスに警戒したのである。 『彼女の肉体からは小猫姫と雪美姫の妖力と…別の誰かの妖力が感じられるわね…』 現段階ではウィプセラスが何者なのかは不明瞭であるが…。彼女が妖女の妖力を複数吸収したのは確実であると認識出来る。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 するとウィプセラスは雪美姫の氷結の妖術を発動したのである。氷結の妖術により桜花姫の両足が氷結され…。桜花姫は身動き出来なくなる。 『雪美姫の氷結の妖術かしら?』 氷結の妖術により身動き出来なくなった桜花姫であるが…。彼女は普段と同様に冷静沈着だったのである。直後…。ウィプセラスは両手から無数の触手を生成させ氷結により身動き出来なくなった桜花姫を拘束する。 「桜花姫姉ちゃんが拘束されちゃった!」 小猫姫はウィプセラスの触手によって拘束された桜花姫に冷や冷やしたのである。 「心配しなくても大丈夫よ…小猫姫…」 「えっ…桜花姫姉ちゃん?」 桜花姫はウィプセラスに捕食されても可笑しくない状態であるが…。彼女は普段と同様に冷静沈着であり小猫姫は非常に不思議がる。 『ウィプセラスに食い殺されちゃうかも知れない状況なのに…如何して桜花姫姉ちゃんは冷静なの?』 するとウィプセラスはヘラヘラした様子で…。 「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」 桜花姫の肉体はウィプセラスの触手により覆い包まれる。 「桜花姫姉ちゃん!?」 『桜花姫姉ちゃんがウィプセラスに食べられちゃう!私は如何すれば!?』 目前の光景に戦慄する小猫姫であるが…。ウィプセラスの触手に覆い包まれた桜花姫の肉体から白煙が発生し始める。すると無数の触手に覆い包まれた桜花姫の肉体がポンッと完膚なきまでに消滅したのである。 『桜花姫姉ちゃんの肉体が消滅!?桜花姫姉ちゃんの本体は!?』 小猫姫は勿論…。 「えっ?妖女は?妖女は?」 ウィプセラスでさえも何が発生したのか理解出来ない。するとウィプセラスの背後より何者かがポンッと彼女の背中を接触する。 「えっ?あんた?誰?誰?」 「残念だったわね♪ウィプセラス♪」 「桜花姫姉ちゃん!?」 『やっぱり無事だったのね…冷や冷やしちゃったよ…』 冷や冷やした小猫姫であるが…。桜花姫は健在であり彼女はホッとしたのである。 「妖女?妖女?」 「あんたが拘束したのは私の分身体なのよ♪」 桜花姫はウィプセラスに食い殺される寸前…。分身の妖術を発動したのである。 「残念だったわね♪ウィプセラス♪あんたみたいなお馬鹿さんが最上級妖女である私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」 するとウィプセラスは周囲をキョロキョロさせる。 「覚悟しなさい♪ウィプセラス♪」 ウィプセラスは圧倒的に不利であると判断…。雷撃分身の妖術を発動したのである。雷撃分身の妖術とは自爆分身の妖術の類似妖術とされる。通常の分身の妖術を自爆攻撃用に転用させた応用型の高等妖術として知られる。雷撃分身の妖術は分身体を一時的に自爆…。同時に高火力の雷撃を発生させ相手を感電死させる自爆系統の高等妖術である。ウィプセラスの肉体が雷光に変化したかと思いきや…。 「なっ!?」 桜花姫と小猫姫を急襲したのである。 『雷光分身の妖術かしら!?』 桜花姫は自身の肉体と小猫姫に防壁の妖術を発動…。間一髪雷光分身による雷撃攻撃を無力化したのである。 「危機一髪だったわね♪小猫姫♪」 桜花姫は勿論…。小猫姫は一安心する。 「私は命拾い出来たけれど…結局ウィプセラス…彼奴には逃げられちゃったね…」 ウィプセラスは雷撃分身の妖術を発動したと同時に逃亡したのである。 「彼奴に逃げられちゃったのは残念だわ…今回ばかりは仕方ないわね…」 最早桜花姫でも彼女の妖力を察知出来ず…。 「ウィプセラス…」 『今度遭遇したら確実に彼奴を仕留めましょう…』 逃亡したウィプセラスを追撃するのは不可能だったのである。 『結局彼奴は何者なのかしらね?ウィプセラスの体内からは複数の妖力が感じられたけれど…微妙に違和感が…彼奴は純血の妖女なの?純血の妖女とは別物なのかしら?』 ウィプセラスの体内からは複数の妖女特有の妖力を感じられるのだが…。純粋無垢の妖女と比較した場合ウィプセラスは絶妙に異質的存在だったのである。すると小猫姫が恐る恐る発言する。 「桜花姫姉ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんだったらウィプセラスの正体が何者なのか判明出来るかも知れないよ…」 「であれば即刻南国の村里に直行しましょう♪」 彼女達は南国の村里へと直行したのである。
第七話
正体 移動してより数分後…。二人は蛇体如夜叉の自宅へと到達したのである。 「今晩は♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 桜花姫は満面の笑顔で挨拶するのだが…。 「えっ…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん?」 蛇体如夜叉は居室の床面にグッタリと横たわった状態だったのである。小猫姫は衝撃の光景にハッとした表情で蛇体如夜叉に殺到し始める。 「蛇体如夜叉婆ちゃん!?」 すると蛇体如夜叉が恐る恐る目覚めたのである。 「えっ?小猫姫かい…如何しちゃったのかな?」 「蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫なの?」 問い掛けられた蛇体如夜叉は小声で返答する。 「私なら大丈夫だよ…常日頃の疲労が蓄積しちまっただけだから…」 「はぁ…疲労だったのね…」 蛇体如夜叉の返答に小猫姫は一安心したのである。 「吃驚しちゃったわ…一瞬冷や冷やしちゃったよ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 一方の桜花姫も…。 「本当よ…蛇体如夜叉婆ちゃんは人騒がせね…」 「二人とも本当に御免ね…あんた達には心配させちゃったね…」 蛇体如夜叉は彼女達に謝罪する。 「気にしないで♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 「私達は大丈夫だから♪」 「あんた達…」 小猫姫と桜花姫は蛇体如夜叉の様子に一安心したのである。数秒間が経過すると桜花姫は恐る恐る蛇体如夜叉に問い掛ける。 「蛇体如夜叉婆ちゃん?突然の質問なのだけど…」 「突然の質問だって?何だろうかね?」 桜花姫は先程の出来事を一部始終蛇体如夜叉に口述したのである。 「ウィプセラスと名乗る正体不明の女人とは…」 蛇体如夜叉は瞑目し始める。 「私と小猫姫は彼女の正体が純血の妖女なのか神族なのか…知りたくてね…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん?ウィプセラスは神族なの?妖女なの?」 すると蛇体如夜叉は発言する。 「神族は該当しないだろうね…俗界で私以外の神族は実質存在しないからね…」 「神族が該当しないのであれば消去法で…彼女の正体は妖女かしら?」 「微妙だけど…妖女とも無縁かな…」 妖女の存在も否定したのである。 「妖女とも無縁であれば…彼女は一体何者なのかしら?ひょっとすると天空世界の天女の一種とか?」 「桜花姫姉ちゃん…」 『彼奴が天空世界の天女って…』 小猫姫は桜花姫の天女の発言に苦笑いする。蛇体如夜叉は一瞬沈黙するものの…。 「ひょっとするとウィプセラスの正体は…極悪非道の人間達によって生誕させられた人工性の妖女とか…」 「えっ!?人工性の妖女ですって!?」 桜花姫と小猫姫は蛇体如夜叉の人工性の妖女発言に驚愕する。 「人工性って…ウィプセラスは人間によって誕生させられた妖女なの!?」 「人為的に妖女なんて出来ちゃうの?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「三百年前の伝承だけれどね…」 三百年前の出来事である。とある村里の夫婦が疫病で死去した愛娘の遺体に世界樹として認識される妖星巨木の破片を愛娘の遺体に含有…。逝去した愛娘は元通りの姿形に復活したのである。愛娘の復活に大喜びした夫婦であったが…。死者蘇生によって復活した愛娘は生前とは別人だったのである。姿形こそ生前の少女であるが…。彼女は悪霊以上の怪物へと変貌したのである。夫婦は本能のみの怪物へと変化した彼女によって食い殺され…。只管近隣の村里で暴れ回る。一晩中暴れ回った彼女は最終的に村里の妖女と僧侶によって退治されたのである。 「所謂人間の愚行による悲劇だね…」 すると桜花姫は呆れ立てた様子で…。 「結局は人間達の自業自得ね…当然の結果だわ♪所詮死去した人間を完全に復活させるなんて不可能なのよ…口寄せの妖術以外はね♪」 桜花姫は愛娘を怪物として復活させた夫婦の行為を自業自得であると軽蔑する。 「先程の大昔の伝承からウィプセラスの正体が判明したわね…」 「ひょっとしてウィプセラスの正体って人間達の愚行によって復活した…女性の遺体だったのかしら?」 「ウィプセラスは…人為的に誕生させられた愚物なのは確実だね…」 結論は断言出来ないが…。ウィプセラスの大凡の正体を把握した桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。
第八話
増殖 深夜帯のウィプセラスとの戦闘から五日後…。人工性妖女のウィプセラスの行方は不明であり彼女は出現しなくなる。ウィプセラスとは遭遇しなかったが…。若齢の村娘が神隠しに遭遇するとの行方不明事件が合計三件も連続的に発生したのである。近隣の村人達は勿論…。各地の武士団も行方不明者である村娘達を捜索するのだが行方不明者達は誰一人として発見されない。神隠しに遭遇した三人の村娘は共通して人外の妖女だったのである。神隠しの噂話は国全体に出回り桜花姫も村人達から神隠しの噂話を熟知する。噂話を熟知した当日…。桜花姫は暇潰しに東国の茶店で一休みしたのである。 『神隠しの事件ね…』 「行方不明者達は三人とも純血の妖女か…」 彼女はフッとウィプセラスの存在を連想する。 『今回の事件って…恐らくだけど犯人はウィプセラス…』 「彼女の仕業なのは確実でしょうね…」 すると直後…。 「あんたは桜花姫かしら?」 「えっ?誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の雪美姫?」 花魁の雪美姫が同席したのである。 「こんな茶店で一休みなんて…桜花姫らしいわね♪」 「和菓子屋は私にとって毎日の日課だからね…当然でしょう…」 机上には小皿と桜餅は勿論…。緑茶が確認出来る。 「雪美姫?如何してあんたはこんな場所に?」 問い掛けられた雪美姫は満面の笑顔で返答する。 「単なる気分転換よ♪気分転換♪」 「あんたも気分転換なのね…」 すると雪美姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「如何やら桜花姫も…神隠しの事件が気になるみたいね…」 「今回の相手は今迄出現した悪霊よりも厄介そうだし…」 「最上級妖女のあんたでも厄介って感じるのであれば…今回の相手は余程手強いみたいね…私なんて場違いだわ…」 雪美姫はウィプセラスを相手に命拾い出来た自身に愕然とする。 「ウィプセラスは妖女を捕食しても妖力を自由自在に制御出来るみたいだから彼女の妖力を感じられないのよね…正直私でも彼奴の妖力を察知するのは困難だわ…」 「桜花姫でも察知出来ないなんてウィプセラスは想像以上に厄介ね…」 ウィプセラスは絶大なる妖力を保持するのだが体内の妖力を自由自在に消失させられ…。彼女の居場所を正確に特定するのは実質困難である。彼女達が和菓子屋で満喫した同時刻…。東国郊外に位置する山道にて二人の東国武士団の邏卒が巡邏する。 「近頃は悪霊も匪賊も出現しなくなったが…物騒だよな…」 大柄の邏卒が発言すると小柄の邏卒が返答したのである。 「村娘が三人も行方不明だからな…彼女達は神隠しにでも遭遇したのだろうか?」 「神隠しね…本当に神隠しだとすれば俺達では如何にも出来ないぞ…神隠しであれば西国の月影桜花姫様の出番だよな…」 「西国の月影桜花姫様だったら神隠しでも簡単に解決出来そうだからな♪」 「正直今回の事件も彼女が適任だよな…凡人の俺達なんて場違いだぜ…」 彼等は談笑するのだが…。直後である。 「ん?誰だろう…」 二人の邏卒は山道の道中にて不吉の女性に遭遇する。 「彼奴は…女人かな?」 「こんな山道で女人が一人で出歩くなんて…何者だろうか?」 女性は紫色の着物姿であり非常に小柄の体格であるのだが…。雰囲気は非常に異質的であり身動きは緩慢である。 「ふら付きやがって…此奴は普通に歩けないのか?」 二人の邏卒は女性の身動きに苛立ち始める。一方の彼女は只管フラフラした様子で山道を歩行したのである。彼等は女性の様子に苛立つものの…。 「此奴は悪霊みたいで気味悪いな…」 「可笑しな女子だな…」 二人の邏卒は女性の様子に気味悪くなったのである。すると女性は二人の邏卒を直視し始める。 「食べたい♪食べたい♪食べたい♪」 彼女はニコッとした表情で二人の邏卒を凝視すると食べたいと連呼したのである。 「はっ?食べたいって…何を?」 邏卒の一人に問い掛けられた女性は満面の笑顔で…。 「あんた達♪人間♪食べたい♪私♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪」 自身をウィプセラスと名乗る女性はヘラヘラした表情で二人の邏卒に近寄る。 「ウィプセラスだって?」 「ウィプセラスとは其方の名前か?異国の人間みたいな名前だな…であれば其方は異国の人間なのか?」 二人の邏卒は只管にヘラヘラし続けるウィプセラスに呆れ果てる。 「此奴は…重度の痴人なのか?」 「村八分で脳味噌がぶっ壊れちまったのか?であれば此奴は相当に気の毒だな…」 すると小柄の邏卒が抜刀する。 「近寄るな!女人の痴人!近寄れば其方を斬殺するぞ!」 威嚇されたウィプセラスであるが…。彼女は只管ヘラヘラした様子であり刀剣を抜刀した彼等に近寄り続ける。 「其方は…如何やら殺されたいらしいな…」 直後である。ウィプセラスは両腕から無数の触手を生成し始め…。 「なっ!?」 無数の触手で刀剣を抜刀した邏卒を拘束したのである。 「触手だと!?」 「人間♪食べたい♪人間♪食べたい♪」 拘束された邏卒はウィプセラスの触手に覆い包まれ…。ズルズルと彼女の体内へと吸収される。 「ひっ!此奴は女体の怪物だ!」 大柄の邏卒は恐怖心により一目散に逃走したのである。 「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」 ウィプセラスは大満足した様子であり大喜びするのだが…。 「えっ?」 突如としてウィプセラスの左腕全体がモゴモゴと蠢動し始める。左腕が蠢動し始めてより数秒後…。ウィプセラスの左腕先端から数十個ものビー玉サイズの肉塊が排出されたのである。 「ん?ん?ん?」 ウィプセラスは体内から排出された無数の肉塊を凝視する。すると直後である。右腕から排出された無数の肉塊が人型を形成…。数十体もの等身大の女体を形作る。無数の肉塊は等身大の全裸の女性へと変化し始める。 「あんた達♪あんた達♪私の♪子供♪子供♪」 彼女の体内から排出された無数の肉塊はウィプセラスの分身体であり姿形は彼女と瓜二つだったのである。一方のウィプセラスは無数の分身体と対面…。大喜びしたのである。すると周囲の分身体は母体であるウィプセラスを直視すると彼女達もウィプセラスと同様に大はしゃぎし始め…。満面の笑顔でヘラヘラし始めたのである。 「あんた♪母様♪母様♪私の母様♪」 「私♪空腹♪空腹♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 「人間♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」 彼女達はウィプセラスと同様にヘラヘラした表情で只管食べたいと連呼し始める。
第九話
分身 母体のウィプセラスが無数の分身体を誕生させた同時刻である。桜花姫は西国の自宅にて昼寝するのだが…。 「えっ!?」 無数の妖力を察知したのである。 『何かしら!?』 突如として出現した複数の妖力が一瞬でバラバラに分裂するのを察知…。 『無数の妖力がバラバラに砕け散った様子だわ…一体何が出現したのよ?』 桜花姫は無数の妖力の正体がウィプセラスの妖力であると予想したのである。 『ひょっとして無数の妖力はウィプセラスの妖力かしら?』 桜花姫は無数の妖力が気になったのか即座に外出する。 『非常に厄介だわ…即刻移動しましょう…』 桜花姫は分裂し始めた無数の妖力の感じられる場所へと直行したのである。桜花姫が行動を開始した同時刻…。各地の村里ではウィプセラスの分身体である【分裂女体】が無数に出没しては遭遇した村人達を触手で食い殺したのである。当然としてウィプセラスの分裂女体は大都市部である東国の中心街にも多数出現する。 「ん?」 東国の寺院では八正道が暇潰しに昼寝中であったが…。 『何やら外部が騒然としますね…』 外部の様子が気になった八正道は二階の雨戸を開放したのである。 『一体何事でしょうか?』 恐る恐る外部の様子を直視した直後…。 「なっ!?」 八正道は外部の異様の光景に驚愕する。 『一体何が!?現実なのでしょうか!?』 逃走する町民達は勿論…。逃走中の町民達の背後には数十人もの全裸の女性がふら付いた様子で逃走中の町民達を追尾したのである。 「えっ…彼女達は…」 『人間の女性なのでしょうか?』 前代未聞の異様の光景に八正道は何が発生したのか理解出来なくなる。 『現実の出来事なのでしょうか?』 外部の衝撃的光景に八正道は絶句したのである。すると直後…。 「えっ!?」 彼女達の両腕から真蛸を連想させる触手が無数に発生したのである。無数の触手は逃走中の町民達を容易に拘束する。町民達は全身を彼女達の触手に覆い包まれ…。彼女達に捕食されたのである。 「げっ!」 町民達が食い殺される場面を直視した八正道は気味悪くなる。 『地獄絵だ…ひょっとして彼女達は女体の悪霊なのでしょうか!?』 一瞬彼女達を女体の悪霊と解釈するのだが…。 『ですが神出鬼没の悪霊は桜花姫様が元凶とされる邪霊餓狼を退治されたみたいなので…神出鬼没の悪霊は該当しないでしょうね…』 「であれば彼女達の正体は一体…何者なのでしょうか?」 八正道は混乱したのである。すると一体の分裂女体が二階の八正道を発見する。 「なっ!?」 分裂女体は八正道を直視し続けるとニコッと満面の笑顔で微笑み始める。 「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」 ゾッとした八正道は即座に雨戸を密閉させたのである。 『こんな場所で長居し続ければ…私も彼女達に食い殺されるかも知れない!』 八正道は即座に自室へと移動…。 『止むを得ないですね…護身用に退魔霊剣を装備しなくては!』 屏風に装飾された退魔霊剣を護身用に所持したのである。 『先程の女人の怪物は悪霊よりも厄介かも知れませんね…』 すると直後…。 「なっ!?女人の怪物…如何してこんな場所に?」 二階の室内より一体の分裂女体が進入したのである。 「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」 分裂女体は満面の笑顔で八正道に接近する。一方の八正道は恐る恐る分裂女体から後退りしたのである。 「人外なのは一目瞭然ですが…貴女様は一体何者でしょうか?」 問い掛けられた分裂女体はヘラヘラした様子で…。 「私♪ウィプセラスの子供♪子供♪あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」 彼女は満面の笑顔で只管に食べたいと連呼する。 「ウィプセラスの子供ですと?」 『如何やらウィプセラスと呼称される異国の名前みたいな人物が…今回の大事件の元凶みたいですね…』 八正道は即座に退魔霊剣を抜刀したのである。 『止むを得ないですね…』 相手の姿形は人間の女性であり八正道は手出しし辛いが…。 『正直相手が正体不明の怪物であっても…か弱き女性の姿形では本領を発揮出来ませんが…』 分裂女体の退治を覚悟する。 「ウィプセラスとやらの分身体…御免!」 八正道は止むを得ず神速の身動きでスパッとウィプセラスの分裂女体を一刀両断…。分裂女体の肉体は左右に両断されたのである。 『相手が極悪非道の悪霊であれば…問答無用に仕留められるのですが…』 相手は人外の怪物であるものの…。 「ウィプセラスの分身体…人外の怪物であっても…」 『姿形が人間の女性では非常に罪深いですね…』 八正道は自分自身が人間の女性を殺害した気分であり極度の罪悪感が芽生え始める。警戒した様子で恐る恐る両断された分裂女体に近寄る。 『結局…彼女は何者だったのでしょうか?人外の怪物なのは確実なのでしょうが…』 八正道は警戒した様子で分裂女体の生死を確認する。恐る恐る分裂女体の皮膚に接触すると分裂女体の感触は死没者の感触だったのである。 「彼女の肉体…遺体の感触ですね…」 『ウィプセラスは死没者なのでしょうか?』 八正道は両断された分裂女体に合掌する。 「女体の怪物…成仏されよ…」 数秒間が経過すると八正道は一息したのである。 「はぁ…」 『一体何故…こんな超常現象が突然発生したのでしょうか?』 一安心した直後…。 「なっ!?」 両断された分裂女体の双方の半身がピクピクッと身動きし始めたのである。 『身動きするなんて…』 左右両方の半身が双方とも再生され…。一体のみだった分裂女体が二体の分裂女体へと完全分離したのである。 『彼女はバラバラに砕け散ると別の個体として増殖するのでしょうか?』 二体に分裂した分裂女体は目覚め始めると八正道を凝視する。 「食べたい♪食べたい♪人間♪」 「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」 彼女達はヘラヘラした表情で八正道に近寄る。 「増殖するのであれば非常に厄介ですね…」 『彼女達を迂闊に斬撃しても増殖するのは明白…一体如何すれば?』 八正道は混乱したのである。彼女達から後退りした直後…。突如として二体の分裂女体が氷結により身動き出来なくなる。 「氷結ですと!?」 『突然何が?』 すると背後より何者かがポンっと八正道の背中を接触したのである。 「えっ?」 「危機一髪だったわね…八正道…」 「貴女様は…粉雪妖女の雪美姫様でしたか…」 雪美姫は氷結の妖術によって二体の分裂女体の身動きを一時的に封殺する。 「大変感謝しますね♪雪美姫様♪」 八正道は大喜びした様子で雪美姫に感謝したのである。 「雪美姫様の加勢で私は命拾い出来ました♪」 八正道は満面の笑顔で雪美姫に謝礼するのだが…。 「勘違いしないで!あんたを守護しないと桜花姫が心配するからね…」 八正道は桜花姫の名前にハッとした表情で反応したのである。 『桜花姫様…』 「彼女は一体?」 「桜花姫…彼奴なら今頃は…」 雪美姫は窓際から山奥を眺望する。
第十話
強大化 八正道と雪美姫が合流した同時刻…。桜花姫は北国の国境に到達したのである。 「はぁ…包囲されたわね…」 北国の国境へと到達した桜花姫であるが…。六体もの分裂女体に遭遇すると彼女達に包囲されたのである。 『相手は六体ね…』 「あんた達は…ウィプセラスの分身体かしら?姿形だけなら母体のウィプセラスと瓜二つね…」 母体であるウィプセラスと同様に六体の分裂女体はヘラヘラした表情で…。 「あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 彼女達は只管に妖女を食べたいと連呼し続ける。 「あんた達は妖女である私を食い殺したいみたいね♪あんた達に出来るかしら?妖女は妖女でも…私は其処等の妖女とは別格だからね♪」 「あんた♪美味しそう♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」 「食べたい♪食べたい♪妖女♪妖女♪妖女♪」 六体の分裂女体はヘラヘラした様子で桜花姫に近寄る。 「あんた達も本体と同様に会話が成立しないのかしら?先程から鬱陶しい奴等ね…」 桜花姫は分裂女体の赤子みたいな言動に苛立ったのである。即座に十八番の天道天眼を発動…。半透明の血紅色であった両方の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。 「あんた達みたいな分身体でも♪肩慣らしには好都合ね♪」 天道天眼の影響により桜花姫の妖力が通常よりも数十倍へと急上昇する。 『念力の妖術…発動!』 桜花姫は念力の妖術を発動したのである。 「あんた達…死になさい!」 念力の妖術を発動した直後…。六体の分裂女体は念力の妖術によって全身が破裂したのである。地面には分裂女体の血肉やら肉片が一面に飛散する。 『所詮は分身体…他愛無いわね…』 桜花姫は分裂女体を相手に楽勝であると感じるものの…。地面に飛散した無数の肉片が再度等身大の女体を形成したのである。先程飛散した無数の血肉は数百体もの分裂女体へと変化する。 『増殖かしら?ウィプセラスの分身体は想像以上に面倒臭いわね…』 ウィプセラスの分裂女体は一体をバラバラに粉砕しても一部分の肉片から再生出来…。無限に分裂女体の大群を増殖し続けられる。 『彼女達は肉体をバラバラに粉砕しても肉片からでも再生し続けて…無尽蔵に分身体を増殖し続けるみたいね…』 最終的に数百体もの分裂女体が再度桜花姫を包囲したのである。 「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」 「妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 圧倒的に不利であり周囲は絶望的光景であるものの…。対する桜花姫は平常心であり余裕の様子だったのである。 「好都合だわ♪あんた達は桜餅の材料として活用出来そうね♪」 桜花姫は恐る恐る周囲の分裂女体を警戒するものの…。 「あんた達は…桜餅に変化しなさい!」 今度は十八番である変化の妖術を発動したのである。すると周囲の分裂女体がポンっと白煙に覆い包まれ…。彼女達は小皿に配置された桜餅に変化したのである。 「楽勝♪楽勝♪」 『妖力を消耗しちゃったからね…妖力を回復させないと♪』 妖力の消耗により桜花姫は周囲の桜餅をパクパクと鱈腹頬張り始める。すると彼女の背後より…。 「彼女は桜花姫だわ!」 「桜花姫様!」 雪美姫と八正道が近寄る。 「雪美姫と八正道様ね…」 「えっ?如何して地面に沢山の小皿が?」 雪美姫は地面の小皿を直視すると絶句したのである。 「ひょっとして地面の小皿は全部…あんたが…」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「勿論♪ウィプセラスの分身体よ♪」 「桜花姫…あんたは変化の妖術を駆使したのね…」 雪美姫と八正道は内心呆れ果てる。 「勿論よ♪雪美姫♪」 『馴染み深い光景だわ…桜花姫らしいわね…』 『今更…桜花姫様の行動には驚愕しませんね…』 雪美姫と八正道は桜花姫の悪食に苦笑いしたのである。 「妖力は回復出来たし♪今度は本体のウィプセラスを征伐しましょうかね♪」 「桜花姫様が出陣されなければ被害が今以上に拡大しますからね…即刻怪物の母体とされるウィプセラスの征伐を急行しなくては…」 桜花姫一同は行動を開始する直後…。 「えっ?何かしら?」 桜花姫は再度警戒したのである。 「桜花姫様?一体如何されましたか?」 八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「相手は一体なのに複数の妖力を感じるのよね…」 「複数の…妖力ですと?」 「雪美姫?あんたも複数の妖力を感じるでしょう?」 桜花姫は雪美姫に問い掛けたのである。 「私でも感じられるわね…彼奴の妖力は非常に強力だわ…最早其処等の妖女では対処出来ない領域でしょうね…」 雪美姫も桜花姫と同様に複数の妖力を感じる。 「えっ?はぁ…」 『人間の私には何が何やら理解不能なのですが…』 人間の八正道には何一つとして妖力が感じられない。 「雪美姫?ひょっとすると彼奴かしら?」 「彼奴だわ…今回の事件は彼奴が元凶よ…」 雪美姫と桜花姫は会話が成立するのだが…。 「彼奴ですと?彼奴とは一体誰なのでしょうか?」 八正道は珍紛漢紛だったのである。 『やっぱり私には何が何やら理解出来ませんね…』 八正道は周囲をキョロキョロし始める。すると数秒後…。 「えっ?人影でしょうか?」 山中の自然林から人影らしき物体を発見したのである。 「彼女は村里の…女性ですかね?」 人影の正体は女性であると認識する。 「彼女は一体?人間の女性っぽいですが…」 国境の自然林より体格は小柄であり煌びやかな紫色の着物姿の女性がフラフラした状態で三人に近寄り続ける。 「彼女は村里の女性でしょうか?非常に不自然ですが…」 「如何やら私達が出向かなくても大丈夫そうね…」 紫色の着物姿の女性は桜花姫を直視するとニコッと微笑み始める。 「妖女♪人間♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」 桜花姫は恐る恐る…。 「彼女は人工性妖女…ウィプセラスだわ…」 三人の目前に出現した女性とはウィプセラスの本体だったのである。 「ウィプセラス…如何やら此奴が本体みたいね…」 「彼女がウィプセラスと名乗る女人の怪物ですか?外見のみなら普通の小町娘っぽいのですが…」 雪美姫はウィプセラスの妖力に戦慄したのか恐る恐る後退りし始める。 「外見だけなら普通の小町娘だけれども…ウィプセラスは妖力だけなら桜花姫に拮抗するわね…」 「えっ!?ウィプセラスの妖力が桜花姫様の妖力に拮抗ですと!?ウィプセラスは桜花姫様に匹敵する程度に強力なのですか!?」 八正道は雪美姫の発言に驚愕したのである。 「ウィプセラスは前回よりも桁外れに強大化したみたいだわ…一目瞭然ね…」 ウィプセラスは今迄に雪美姫の粉雪分身と忍者妖女の山茶花姫の妖力は勿論…。彼女達以外にも三人の妖女を捕食したのである。多数の妖女を捕食し続けた結果…。最上級妖女である桜花姫にも対抗出来る妖力を保持したのである。 『此奴は今迄に何人の妖女を捕食したのかしら?』 最早強大化した彼女を相手に妖力で対抗出来るのは最上級妖女の桜花姫…。実質彼女だけである。 「ウィプセラス…此奴を仕留めるには一筋縄では無理そうね…最上級妖女の桜花姫以外では彼女に対抗出来ないわ…」 「一体如何すればウィプセラスの暴走を阻止出来るのでしょうか?」 ウィプセラスはヘラヘラした表情で…。 「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪美味しそう♪美味しそう♪」 彼女はニコッとした表情で桜花姫を直視したのである。 「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」 するとウィプセラスは右手に妖力を凝縮させ高熱の火球を発射する。 『火球の妖術かしら?』 桜花姫は妖力の防壁を形成…。ウィプセラスの火球攻撃を無力化したのである。 「ウィプセラス♪こんな程度の妖術で私を仕留めるなんて不可能よ…」 桜花姫はウィプセラスに挑発する。一方のウィプセラスは鎌鼬の妖術を発動…。突風の白刃が桜花姫を急襲する。 『今度は鎌鼬の妖術かしら?』 桜花姫は再度妖力の防壁で鎌鼬の妖術を無力化したのである。 「こんな程度の妖術では私を食い殺すなんて不可能だわ…あんたは出直しなさい♪ウィプセラス♪」 『所詮其処等の妖女の猿真似ばかり…不老不死の性質は厄介だけどウィプセラスは妖力が強大なだけね…』 ウィプセラスは妖力のみなら最上級妖女の桜花姫と同等程度に強力であるが…。自身の発動する単発的妖術では最上級妖女の桜花姫を仕留めるには力不足である。 『注意すべきは彼女の触手だけね…』 ウィプセラスは妖力こそ膨大であるが…。彼女を相手に注意するべきは相手を拘束出来る触手のみである。桜花姫は猿真似ばかりのウィプセラスでは手応えを感じられない。 「食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」 桜花姫に指摘されたウィプセラスであるが…。彼女はヘラヘラとした表情であり只管に食べたいと連呼し続ける。 「ウィプセラスには悪いけど…あんたは相当の痴人みたいね…」 「此奴が強力なのは体内の妖力だけだからね…恐らくだけど彼女の脳味噌は赤子同然でしょうよ…」 桜花姫と雪美姫はウィプセラスに呆れ果てる。 「あんたは桜餅に変化しなさい…」 桜花姫はウィプセラスに変化の妖術を発動したのである。 「えっ?」 ウィプセラスに変化の妖術を発動するのだが…。ウィプセラスは大好物の桜餅に変化しない。 「あんた♪妖力♪美味しい♪美味しい♪あんた♪食べたい♪食べたい♪」 桜花姫の妖力を吸収するとウィプセラスは大喜びしたのである。 「彼奴…桜花姫の妖術が通用しないなんて…」 「ひょっとして彼女は桜花姫様の妖力を吸収されたのでしょうか?」 すると先程よりもウィプセラスの妖力が増幅される。 「此奴…私の妖力を吸収したみたいね…」 『ウィプセラスは面倒臭い相手だわ…』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の雪美姫と八正道に逃亡を指示する。 「雪美姫…八正道様…あんた達は即刻逃げなさい…ウィプセラスは一筋縄では仕留められないわ…」 「最上級妖女の桜花姫でもウィプセラスは簡単には仕留められないのね…」 「承知しました…桜花姫様…」 直後である。 「えっ!?」 突如として桜花姫はビクッと反応する。 「桜花姫!?」 「なっ!?桜花姫様の両足に蛸足が…ウィプセラスの触手ですか!?」 何時の間にか桜花姫の両足にウィプセラスの触手が接触…。桜花姫は完全に身動きを封殺されたのである。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 ウィプセラスは満面の笑顔であり只管に妖女を食べたいと連呼し続ける。 「ぐっ!」 『迂闊だったわ…ウィプセラスなんかに拘束されるなんて…』 触手の特性からか体内の妖力がウィプセラスの触手に吸収されたのである。 『私の妖力が…彼女に吸収されるわ…』 ウィプセラスの触手により身動き出来なくなった桜花姫は触手で全身を覆い包まれ…。桜花姫はウィプセラスの体内へと吸収されたのである。 「きゃっ!桜花姫がウィプセラスに食べられちゃったわ!」 「桜花姫様が…ウィプセラスに食い殺されるなんて…」 『現実なのか!?』 最強の桜花姫が捕食され雪美姫は勿論…。八正道は絶望したのである。両者とも涙腺より涙が零れ落ちる。 「桜花姫様が…」 「はぁ…桜花姫…」 『最早私達では…ウィプセラスに対抗出来ないわ…』 二人は強大化したウィプセラスに絶望したのである。一方のウィプセラスは満足したのか満面の笑顔で…。 「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」 今迄よりもウィプセラスの妖力が桁外れに強大化したのである。 『触手で桜花姫の本体を吸収した影響かしら?ウィプセラスの妖力が今迄以上に増幅されたわね…』 雪美姫は規格外に強大化したウィプセラスに戦慄する。半透明の血紅色であったウィプセラスの瞳孔が半透明の瑠璃色に変化…。 「なっ!?ウィプセラスの両目が…瑠璃色に変化した…一体何故!?」 八正道はウィプセラスの変化に驚愕する。一方の雪美姫は身震いした様子で…。 「此奴…桜花姫の天道天眼を開眼したのね…」 ウィプセラスは桜花姫の肉体を吸収した影響からか彼女の十八番である天道天眼を容易に開眼させたのである。 「彼女は…桜花姫様の天道天眼を使用出来るなんて…」 「桜花姫を捕食した影響だわ…ウィプセラスは規格外の怪物ね…」 ウィプセラスは規格外の妖力であり雪美姫は彼女の強大さを察知する。 『最早私なんて場違いでしょうね…』 一方のウィプセラスは雪美姫と八正道を凝視し始めたかと思いきや…。 「今度はあんた達♪人間♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」 ウィプセラスは満面の笑顔でニコッと微笑み始める。今現在のウィプセラスは最上級妖女をも上回る史上最強の怪物へと大進化したのである。 『ウィプセラス…最早彼女は神族の領域だわ…一体誰がウィプセラスに対抗出来るのかしら?』 雪美姫はウィプセラスに対抗出来る妖女は存在しないだろうと思考する。 「八正道?」 「何でしょうか?雪美姫様?」 雪美姫は恐る恐る…。 「八正道…あんただけでも逃げなさい…」 「えっ?ですが雪美姫様…」 雪美姫の指示に八正道は困惑したのである。 「正直人間のあんたでは此奴には対抗出来ないわ…あんただけでも…」 「雪美姫様…」 八正道は不本意であるが…。 『仕方ないですね…人間の私では力不足でしょうし…』 「承知しました…雪美姫様…」 八正道は一目散に逃走したのである。 『私は…こんな場所で二度も殺されるのね…』 雪美姫は一息する。 『桜花姫?私は如何すれば?あんたがウィプセラスなんかに食い殺されちゃったから私は今度こそ地獄の世界に逆戻りだわ…あんたが捕食されちゃったし今度は二度と俗界には戻れなくなるわね…』 ウィプセラスはヘラヘラした表情で雪美姫に近寄る。 「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」 「私は正直…」 『二度も死にたくないけれども…』 雪美姫は死期を覚悟する。ウィプセラスは両手より無数の触手を生成し始め…。雪美姫を拘束したのである。 「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」 一方の雪美姫はウィプセラスを睥睨したのである。 「私を食い殺したければ食い殺しなさいよ!食いしん坊!」 全身が触手に覆い包まれる寸前である。 「ん?あらら?あらら?」 突如としてウィプセラスは身動きしなくなる。 「えっ!?」 雪美姫は身動きしなくなったウィプセラスに驚愕したのである。 『一体何が…ウィプセラス!?』 先程はヘラヘラした表情のウィプセラスであったが…。 『如何してウィプセラスは私を食い殺さないのかしら!?彼女に何が!?』 今現在の彼女は無表情であり雪美姫は何が発生したのか理解出来ない。生成された触手がウィプセラスの体内へと戻ったのである。 『ウィプセラスは…』 「あんたは如何して私を…食い殺さないの?」 雪美姫は恐る恐るウィプセラスに問い掛ける。雪美姫が問い掛けた直後…。 「えっ!?」 ウィプセラスの肉体がポンっと白煙に覆い包まれる。ウィプセラスの肉体が白煙に覆い包まれてより数秒後…。地面には小皿に配置された桜餅が存在したのである。 「桜餅かしら!?」 『一体全体何が発生したの!?如何して桜餅がこんな場所に!?』 雪美姫は恐る恐る地面の桜餅に近寄る。 「如何してウィプセラスは桜餅なんかに変化しちゃったのかしら?桜花姫はウィプセラスに食い殺されちゃったのよね?如何してウィプセラスが桜餅に…」 すると桜餅がポンッと白煙に覆い包まれ…。ウィプセラスに食い殺された月影桜花姫が出現したのである。 「雪美姫?」 「えっ!?あんたは桜花姫!?」 『如何してウィプセラスに食い殺された彼女が…』 雪美姫は突如として出現した桜花姫に驚愕し始め…。 「一体何が発生したの!?如何して桜花姫が!?」 目前の彼女が本物の桜花姫なのか恐る恐る問い掛ける。 「あんたは本物の月影桜花姫かしら?桜花姫は先程ウィプセラスに食い殺されたのよ…あんたは本当に桜花姫なの?」 すると桜花姫は雪美姫の問い掛けに即答する。 「私は一時的にウィプセラスに吸収されちゃったけどね♪ウィプセラスの体内で彼女を食い殺したのよ♪」 「えっ…あんたはウィプセラスの体内で彼女を食い殺したの?」 『桜花姫って…寄生虫なのかしら?』 雪美姫は想像するだけで気味悪くなる。 「ウィプセラスは妖力だけが私を上回っても所詮は出来損ない♪結局妖女の出来損ないが最上級妖女の私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」 桜花姫を捕食したウィプセラスは一時的に彼女の妖力を入手出来たものの…。桜花姫の妖力は其処等の妖女とは桁外れであり彼女程度の知力では桜花姫の妖力は扱い切れず真逆に体内から吸収されたのである。 『桜花姫は捕食されても死なないなんてね…あんたは油虫かしら?』 雪美姫は捕食されても死滅しない桜花姫を油虫であると感じる。 「桜花姫は本当に不死身みたいね…何を如何すれば最上級妖女のあんたを殺せるのかしら?」 「多分私の場合寿命以外では無理でしょうね♪」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「寿命だけって…」 『桜花姫の場合…寿命が妥当なのかも知れないわね…』 桜花姫の返答に雪美姫は苦笑いしたのである。 「兎にも角にも♪各地で暴れ回るウィプセラスの分身体を一掃しないと♪」 桜花姫は変化の妖術を発動…。すると各地で徘徊し続けるウィプセラスの分裂女体を桜餅に変化させたのである。 「彼女達を浄化出来たわ♪ウィプセラスの分身体を一掃出来たし一安心ね♪」 「一先ずは安心だわ…ウィプセラスの妖力は感じられないし…」 彼女達は事件解決に安堵する。
第十一話
昏倒 桜花姫と雪美姫が安堵した同時刻…。八正道は逃走中にてウィプセラスの分裂女体に包囲されるも彼女達は突如として桜餅に変化したのである。 「えっ!?ウィプセラスの分身体が桜餅に変化した!?」 『如何して彼女達は桜餅に変化したのでしょうか?』 突然の超常現象に八正道は混乱するものの…。 『北国の国境に戻りましょうかね…』 八正道は即座に北国の国境へと直行したのである。 「雪美姫様!貴女様は無事だったのですね…」 「あんたは八正道…無事に戻れたのね…」 すると八正道は桜花姫を直視したのである。 「なっ!?桜花姫様!?」 八正道はウィプセラスによって捕食された桜花姫に驚愕したのである。 「私は桜花姫様の幽霊にでも遭遇したのでしょうか!?桜花姫様はウィプセラスに捕食されたのでは!?」 八正道は一人で大騒ぎし始める。大騒ぎし続ける八正道の様子に桜花姫と雪美姫は苦笑いしたのである。 「八正道…あんたは馬鹿者ね…吃驚するのは理解出来るけど彼女は本物の月影桜花姫だからね…」 雪美姫は深刻そうな八正道に呆れ果てる。 「えっ?本物ですか?貴女様は本物の桜花姫様ですか?」 「私は本物の桜花姫よ♪八正道様♪」 桜花姫は満面の笑顔で自身が本物であると発言する。 「はぁ…貴女様は本物の桜花姫様でしたか…私は桜花姫様の幽霊と遭遇したとばかり…一安心ですね♪」 八正道は目前の人物が本物の桜花姫であると認識出来…。ホッとしたのである。 「八正道様♪無事だったのね♪」 「桜花姫様!無事で良かったですよ…」 八正道は桜花姫との再会に落涙し始め…。涙腺から涙が零れ落ちる。 「先程は桜花姫様がウィプセラスに食い殺されたとばかり…桜花姫様が無事で良かったですよ…」 「心配させちゃったわね♪八正道様♪御免あそばせ♪」 桜花姫は満面の笑顔で謝罪したのである。 「桜花姫様が無事なのが何よりですよ♪ですが桜花姫様は肉体をウィプセラスに吸収されたのに如何して無事に戻れたのですか?」 八正道に問い掛けられた桜花姫は先程ウィプセラスに捕食されてからの経緯を一部始終説明する。 「桜花姫様は体内から彼女の肉体を吸収されたのですか…」 『表現が非常に失礼かも知れませんが…桜花姫様は油虫に匹敵する生命力ですね…桜花姫様は天道の化身なのでしょうか?』 八正道は桜花姫の生命力に苦笑いしたのである。 「気の毒だし…ウィプセラスに捕食された彼女達も解放しないとね♪」 桜花姫は再度…。口寄せの妖術を発動する。周囲より白煙が発生するとウィプセラスによって捕食された忍者妖女の山茶花姫は勿論…。三人の妖女が出現したのである。 「えっ?私達は一体?」 彼女達は何が発生したのか理解出来ずに混乱する。 「あんた達はね♪」 桜花姫は今迄の出来事を洗い浚い彼女達に告白したのである。 「えっ?私達…ウィプセラスって怪物の妖女に食い殺されたのですか?私自身記憶が曖昧でして…」 桜花姫は動揺し始める山茶花姫に満面の笑顔で返答する。 「ウィプセラスは私の体内で熟睡中だし♪安心なさい♪」 「月影桜花姫様♪大変感謝します♪妖女の怪物に食い殺された私達を救済出来るなんて…桜花姫様は本物の女神様みたいですね♪」 「こんな私が本物の女神様なんて♪あんたは大袈裟ね♪」 『私が本物の女神様ですって♪』 山茶花姫の発言に桜花姫は内心大喜びしたのである。 「感謝しますね♪桜花姫様♪」 彼女達は安心した様子であり解散…。各自の村里へと戻ったのである。一方の桜花姫一行もウィプセラスと分裂女体の暴走を無事解決出来…。安堵したのである。 「今回も一件落着ですね♪桜花姫様♪」 「兎にも角にも…ウィプセラス関連の大事件は無事に解決出来たし♪私達も解散しましょう♪」 「今回の大事件も無事に解決出来ましたからね♪折角なので私の寺院で茶会しませんか?桜花姫様の大好きな桜餅も用意しますよ♪」 「桜餅ですって♪八正道様♪」 桜花姫は八正道の桜餅の一言に笑顔で反応する。 「桜花姫…あんたは本当に桜餅が大好きね…毎回桜餅で食傷しないのかしら?」 雪美姫は苦笑いしたのである。 「早速八正道様の寺院に移動しましょう♪雪美姫は如何するかしら?」 「今回は私も参加するわ…暇潰しにね…」 一同は東国へと移動する直前…。背後より妖力を感じる。 「妖力だわ…」 「妖力ですと?」 一同の背後には山猫妖女の小猫姫がプルプルと身震いした様子で近寄る。 「はぁ…はぁ…」 「えっ?あんたは桜花姫の妹分の…小猫姫かしら?」 「小猫姫?大慌てね…如何しちゃったのよ?」 桜花姫が問い掛けると小猫姫は小声で…。 「桜花姫姉ちゃん…」 すると彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。 「えっ!?小猫姫!?大丈夫!?」 「一体…如何されたのでしょうか?小猫姫様…」 普段は人一倍人懐っこく笑顔の絶えない小猫姫であるが…。一同は突如として落涙し始めた小猫姫に何事かと心配したのである。 「大丈夫?小猫姫?一体如何したのよ?」 問い掛けられた小猫姫は恐る恐る桜花姫を直視する。 「桜花姫姉ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんが…蛇体如夜叉婆ちゃんがね…」 「蛇体如夜叉婆ちゃんが…如何したのよ?」 直後である。 「蛇体如夜叉婆ちゃんが…死にそうなの…」 「えっ…」 小猫姫の発言に桜花姫は勿論…。同行者の八正道と雪美姫も沈黙する。 「蛇体如夜叉婆ちゃんが…死にそうですって?」 小猫姫は一部始終告白したのである。蛇体如夜叉は三日前以前から体調が悪化し始め…。小猫姫には秘密にするも三日前に自宅の居室で昏倒したのである。本人は平気であると言明するのだが…。本日の早朝より吐血したのである。 「病院へは?」 「蛇体如夜叉婆ちゃんは受診を拒否したの…」 「承知したわ…小猫姫…」 すると八正道は恐る恐る…。 「桜花姫様…如何されますか?」 「八正道様…御免なさいね…予定変更よ…」 桜花姫は口寄せの妖術を発動すると自分自身の肉体を蛇体如夜叉の家屋敷へと瞬間移動させたのである。 「なっ!?桜花姫様…」 「彼女は…一瞬で…」 八正道と雪美姫は驚愕するものの…。 「一大事ですからね…」 「八正道…私達は一先ず解散しましょう…」 「今回ばかりは止むを得ないですね…」 八正道と雪美姫は解散したのである。一方桜花姫は口寄せの妖術にて蛇体如夜叉の家屋敷へと一瞬で瞬間移動する。蛇体如夜叉は瀕死の状態であり居室で寝込んだ状態だったのである。 「誰かと思いきや…あんたは桜花姫ちゃんかね…」 蛇体如夜叉は寝込んだ状態であるが…。桜花姫に気付いたのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…」 桜花姫は恐る恐る寝転ぶ蛇体如夜叉に近寄る。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫?」 問い掛けられた蛇体如夜叉は瞑目したのである。 「桜花姫ちゃん…如何やら私の寿命は…恐らくは数日間だろうね…」 「えっ…数日間なの?」 普段は誰よりも元気であり人一倍冗談の大好きな蛇体如夜叉であるが…。今回ばかりは本当であると実感する。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 桜花姫は涙腺より涙か零れ落ちる。 「桜花姫ちゃんよ…大丈夫かい?桜花姫ちゃんらしくないね…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃん!」 桜花姫は力一杯蛇体如夜叉に密着したのである。 『桜花姫ちゃん…』 蛇体如夜叉はボソッと発言する。 「あんたと小猫姫は…私にとって自慢の孫娘だよ…」 「私と小猫姫が…蛇体如夜叉婆ちゃんの自慢の孫娘?」 桜花姫は蛇体如夜叉の孫娘の一言に内心嬉しくなる。 「私は老衰で旅立つかも知れないけれども…桜花姫ちゃんは桜花姫ちゃんらしく自由に生きな♪」 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 すると蛇体如夜叉はスヤスヤと熟睡したのである。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…眠っちゃったな…』 桜花姫は物静かな様子で熟睡中の蛇体如夜叉を見守る。
第十二話
行動開始 とある無人島では神族の一人…。天狐如夜叉が摩訶不思議の水晶玉で桜花姫の様子を一部始終観察したのである。 『月影桜花姫…天道天眼を存分に覚醒させたか…』 天狐如夜叉は冷笑する。 『彼奴の天道天眼を奪取するか…』 自身の目的を達成出来ると判断…。天狐如夜叉は行動を開始したのである。 『であれば早速…桃源郷神国本土に移動するか?』 天狐如夜叉は瞬間移動の神術を発動する。 『此処が桃源郷神国か…物静かな場所だな…』 天狐如夜叉は一瞬で桃源郷神国本土へと到達したのである。 『海岸の砂浜には…人気は無さそうだな…』 天狐如夜叉は周囲を警戒する。 『此処に月影桜花姫が…』 天狐如夜叉が到達したのは西国の海岸の砂浜であり人気は皆無だったのである。すると遠方より…。 「きゃっ!誰か!誰か!」 女性らしき悲鳴が響き渡る。 「ん?」 『何事か?』 天狐如夜叉は女性の悲鳴が気になったのか警戒した様子で悲鳴が響き渡った場所へと移動したのである。 『女人の悲鳴か?』 移動してより数分後…。海岸近辺の砂浜より三人の少女達が六人の無頼漢達に拘束された状態だったのである。天狐如夜叉は遠方から様子を観察する。 『奴等は人間の匪賊達か?愚か者達が…』 天狐如夜叉は彼等の愚行に呆れ果てる。 『人間達の愚劣さは…数万年前と同様だ…』 太古の大昔から人類は進歩が皆無であると判断する。 『非常に不愉快だな…』 天狐如夜叉は護身用の木刀を抜刀し始め…。 『手始めに奴等を…蹴散らせるか?』 天狐如夜叉は再度瞬間移動の神術を発動したのである。一瞬で匪賊達の目前へと瞬間移動…。 「なっ!?貴様は一体何者だ!?」 匪賊達は突如として出現した天狐如夜叉に愕然とする。 「此奴…突然出現しやがるとは…」 「此奴は人間の小娘っぽい外見だが…人外の妖女なのか?」 一人の匪賊が妖女と発言したのである。すると天狐如夜叉は鬼神の形相でギロッと睥睨し始める。 「私が…人外の妖女だと?不愉快だな…」 天狐如夜叉の形相に匪賊達は一瞬後退りするのだが…。 「此奴…女人の物の怪みたいだが所詮相手は一人だ!」 「武器も木刀だけだ!女人の物の怪を打っ殺しちまえ!」 彼等は全員で天狐如夜叉に殺到したのである。 『命知らずの愚か者達が…』 天狐如夜叉は神族の身動きで反撃…。 「ぐっ!」 「ぎゃっ!」 木刀のみで自身よりも大柄の匪賊達を五人も瞬殺したのである。負傷した一人の匪賊が天狐如夜叉に畏怖し始め…。 「俺が…俺が悪かったよ…降参するから…金輪際女人には手出ししないからよ…」 匪賊は天狐如夜叉に命乞いしたのである。 「其方は命乞いか?」 天狐如夜叉は命乞いする匪賊に睥睨し始める。 「私は貴様達みたいな人間が大嫌いだからな…焼失せよ!」 彼女は無慈悲だったのである。即座に業火の神術を発動…。 「えっ…ぎゃっ!」 突如として匪賊の肉体が発火し始める。匪賊は業火の神術により一瞬で白骨化したのである。 『人類は…死滅するべきだな…』 天狐如夜叉の介入によって命拾いした三人の少女達であるが…。先程の光景から天狐如夜叉の神術に畏怖したのである。 「あんたは…物の怪…」 「私達も殺されるわ!」 「逃げないと!今度は私達が物の怪に!」 少女達は一目散に逃走する。 『私が…物の怪か…』 三人の少女達も殺そうかと思いきや…。 『何方にせよ…彼女達も私の目的で死滅する運命なのだからな…』 今回だけは見逃したのである。 『再度…月影桜花姫を捜索するか?』 天狐如夜叉は桜花姫の捜索を開始する。
第十三話
気分転換 強豪のウィプセラスと無数の分裂女体との戦闘から二週間が経過…。桜花姫は自宅の居室でゴロゴロと寝転び続ける。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫なのかな?』 桜花姫は四六時中寝転ぶものの…。蛇体如夜叉の様子が気になったのである。蛇体如夜叉は小猫姫により介抱されるも急速の老衰からか体調は日に日に悪化…。蛇体如夜叉の状態は虫の息だったのである。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 桜花姫は日に日に衰弱化し続ける蛇体如夜叉が気になり食欲も減退…。極度の不安と憂鬱からか大好きな桜餅も食べたくなくなる。 「はぁ…」 気分転換に別の場所へと移動したくなる。 「止むを得ないわね!」 『気分転換に出掛けましょう…』 桜花姫は気分転換に外出したのである。外出してより一時間後…。桜花姫は西国の海辺に移動したのである。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫なのかな?』 彼女は遠方の水平線を眺望し続けるものの…。如何しても蛇体如夜叉の様子が気になる。すると直後…。 「はっ!」 『深海底のアクアユートピアなら…』 桜花姫は深海底地帯の人魚王国アクアユートピアに移動すれば気分転換が出来ると思考したのである。 『気分転換にアクアユートピアで暇潰ししましょう…』 桜花姫は即刻変化の妖術を発動…。 『人魚に変化よ♪』 すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。 『準備完了ね♪』 再度桜花姫は妖術を発動する。 『口寄せの妖術…発動♪』 自分自身の肉体に口寄せの妖術を発動させたのである。発動してより数秒後…。桜花姫は一瞬で深海底地帯の人魚王国アクアユートピアへと瞬間移動したのである。 『口寄せの妖術…成功♪アクアユートピアに移動出来たわね♪』 桜花姫は背後を直視し始め…。 『アクアヴィーナスの家屋敷だわ♪』 桜花姫が口寄せの妖術により瞬間移動したのはアクアヴィーナスの家屋敷の玄関口正面だったのである。桜花姫はトントンッと玄関口のドアを力一杯ノックする。するとアクアヴィーナスがドアを開放したのである。 「誰かしら?えっ!?貴女はイーストユートピアの桜花姫!?」 アクアヴィーナスは突如として訪問した桜花姫に吃驚する。 「御免あそばせ♪アクアヴィーナス♪久し振りね♪あんたは元気だったかしら?」 桜花姫は満面の笑顔で挨拶したのである。 「本当ね…桜花姫♪久し振りね♪私は元気よ♪貴女とは去年の五月以来だわ♪」 吃驚したアクアヴィーナスであるものの…。桜花姫との久方振りの再会に大喜びしたのである。 「あんた…地上世界のイーストユートピアからこんな深海底に移動するのに…大変だったでしょう?」 「大丈夫よ♪口寄せの妖術を発動したから一瞬でアクアユートピアに移動出来たわ♪」 口寄せの妖術で肉体を移動させられ…。妖力の消耗を最小限化出来たのである。 「桜花姫はテレポート魔法を駆使したのね…」 数秒後…。アクアヴィーナスは恐る恐る問い掛ける。 「ひょっとしてアクアユートピアで大事件が発生したの?」 アクアヴィーナスは桜花姫の訪問したのがアクアユートピアで大事件が発生したのではとビクビクしたのである。 「心配しないで♪アクアヴィーナス♪単なる暇潰しよ♪暇潰し♪あんたは本当に人一倍心配性なのね♪」 「はぁ…暇潰しだったのね…」 『一瞬冷や冷やしちゃったわ…』 アクアヴィーナスは内心ホッとする。 「邪魔するわね♪アクアヴィーナス♪」 桜花姫はリビングルームへと移動したのである。 「アクアヴィーナスの母様♪」 「えっ!?貴女様はイーストユートピアの月影桜花姫様!?」 リビングルームでは母親であるアクアキュベレーが読書中であったが…。突然の桜花姫の訪問に驚愕する。 「読書中だったのね♪御免あそばせ♪」 謝罪した桜花姫であるがアクアキュベレーは満面の笑顔で…。 「気になさらないで♪桜花姫様♪久し振りですね♪去年は本当に感謝しますね♪」 「感謝したいのは私よ♪暇潰し出来たから私は大満足よ♪」 すると突如としてコンコンッとドアが響き渡る。 「えっ?今度は誰かしら?」 アクアヴィーナスが恐る恐る玄関のドアを開放した直後…。 「ひっ!」 アクアヴィーナスは極度の恐怖心により全身が膠着したのである。 「ダークスキュラン…如何してあんたが私の家屋敷に!?」 玄関のドアをノックしたのは誰であろう深海底魔女のダークスキュランでありアクアヴィーナスは彼女に対する極度のトラウマからかビクビクし始める。 「あんたは…何様かしら?アクアヴィーナス…失礼しちゃうわね…」 ビクビクし続けるアクアヴィーナスにダークスキュランは一瞬苛立ったのである。すると直後…。桜花姫とアクアキュベレーも玄関口へと移動したのである。 「ひゃっ!あんたはダークスキュラン!?」 母親のアクアキュベレーもダークスキュランの訪問にビクッと反応する。 「如何してあんたがこんな場所に!?」 一方の桜花姫は満面の笑顔で…。 「誰かと思いきや…あんたはダークスキュランだったのね♪如何してあんたがアクアヴィーナスの家屋敷に?」 桜花姫はヘラヘラした様子でダークスキュランに問い掛ける。 「えっ…」 『桜花姫様…』 アクアキュベレーは勿論…。 『桜花姫は平気なのかしら?ダークスキュランを相手に友達感覚みたいだわ…』 アクアヴィーナスはダークスキュランを直視しても畏怖しない桜花姫を不思議がる。するとダークスキュランは桜花姫を直視し始め…。 「月影桜花姫…アクアヴィーナスとアクアキュベレーのハウスであんたの魔力を察知したからね…」 「私の魔力ですって?」 ダークスキュランは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫?時間帯は大丈夫かしら?」 「ひょっとしてダークスキュランは私に用事とか?」 「勿論…多忙であれば無理にとは…」 問い掛けられた桜花姫は即座に返答する。 「大丈夫よ♪気にしないで♪ダークスキュラン♪ひょっとして今度も大事件発生かしら!?私は毎日の生活が退屈で憂鬱なのよね♪大事件発生なら私は大歓迎よ♪」 桜花姫は大事件発生に期待したのである。 「であれば好都合よ…早速私のハウスに移動しましょう…」 するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。 「桜花姫?大丈夫なの?相手は深海底魔女のダークスキュランよ?」 桜花姫は心配性のアクアヴィーナスに満面の笑顔で返答したのである。 「心配しなくても大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪今現在のダークスキュランは人畜無害なのよ♪彼女では私に手出し出来ないわ♪」 「本当に…大丈夫なのかしら?」 心配するなと断言されたアクアヴィーナスであるが…。 『正直心配だけど…』 内心では非常に不安に感じる。 「早速移動しましょう…桜花姫…」 「勿論よ♪あんたのハウスとやらに道案内してよ♪ダークスキュラン♪」 桜花姫は変化の妖術で再度人魚に変化…。ダークスキュランと一緒に彼女の家屋敷へと移動したのである。 「あんたもアクアユートピアで普通に生活したのね…結局ダークスキュランはブルーデストピアの魔法城へは戻らないのかしら?」 問い掛けられたダークスキュランは小声で返答する。 「二度と戻りたくないわね…ブルーデストピアの居心地は気味悪くなるわ…」 今現在のダークスキュランにとって失楽園のブルーデストピアは居心地が最悪であり近辺に移動するだけでも気味悪くなる。桜花姫はダークスキュランの返答にニコッと微笑み始める。 「あんたは心情も洗い浚い浄化されたみたいね♪」 『口寄せの妖術で純粋無垢の彼女を復活させたのは大正解だったわね♪』 桜花姫は内心彼女を復活させた口寄せの妖術の成功に大喜びする。彼女達は道中では無言で移動したのである。海中の町道を移動してより数分後…。桜花姫はダークスキュランの家屋敷へと到達する。 「到着したわよ…桜花姫…」 「此処があんたの家屋敷なのね…」 ダークスキュランの家屋敷も貝殻のデザインであり人魚王国アクアユートピアでは一般的デザインだったのである。 『ダークスキュランの家屋敷も…此処では案外普通の家屋敷みたいね…』 桜花姫は恐る恐るダークスキュランの家屋敷へと進入する。家内のリビングルームは意外にもシンプルであり小道具らしき家具は皆無である。 「室内は意外と空っぽなのね…」 「私は出来るだけ室内をシンプルにしたいのよ…」 すると桜花姫はダークスキュランに問い掛ける。 「大事件って何が発生したの?」 問い掛けられたダークスキュランは即答する。 「【ダークスプライト】って人魚の深海底魔女が是非とも異国の魔法使いである桜花姫に対面したいみたいよ…」 「ダークスプライトって人魚の深海底魔女が私に対面したいですって?」 ダークスプライトとはアクアユートピア出身の深海底魔女であり魔力こそはダークスキュランより一段階下回るものの…。使用出来る魔法の種類はダークスキュランよりも豊富である。 「異国の見ず知らずの住民が私に用事なんて…一体何事かしら?」 「ダークスプライトはアクアユートピア唯一の深海底魔女の医者なのよね…」 「深海底魔女の医者ですって?」 ダークスプライトはアクアユートピア唯一の深海底魔女の医者であり常日頃から魔法医薬品の製造を研究する。 「ダークスプライトって深海底魔女が私に用事なのよね?彼女の居場所は?」 「ダークスプライトは今現在ブルーデストピアよ…」 「ブルーデストピアですって?ブルーデストピアってダークスキュランの魔王城の存在する場所だったわよね?」 「彼女は一人で魔法の医薬品を研究したいらしいのよ…アクアユートピアではダークスプライトは随一の異端者だから…」 今現在ダークスプライトは失楽園のブルーデストピアに在住…。常日頃から魔法の医薬品を研究中だったのである。 「早速ブルーデストピアに直行よ…」 桜花姫はブルーデストピアへと直行する寸前…。 「桜花姫…忘れ物よ…」 「えっ?忘れ物ですって?」 ダークスキュランは桜花姫に魔法石のブルークリスタルを手渡したのである。 「えっ?ブルークリスタルかしら?」 「今現在のあんたの魔力は強豪のアビスラメイアスは勿論…アビスエキドナスをも上回るかも知れないけれど…深海底の環境下では魔力の消耗は陸地とは段違いだからね…」 深海底の住人は深海底での生活が基本であり魔力の消耗は微量であるが…。桜花姫の場合地上世界での生活が基本であり深海底での環境下では妖力の消耗は絶大である。 「私のブルークリスタルは魔力の回復以外にも…海底下の地図としても使用出来るからね…」 桜花姫は不安そうな表情で恐る恐る…。 「ダークスキュランの魔法で私をあっと言う間にブルーデストピアに瞬間移動させられないの?」 問い掛けられたダークスキュランは気難しい表情で返答する。 「ブルーデストピアの海域ではダークスプライトが人工的に誕生させた深海底アンデッドの大群が潜伏中なのよね…私があんたをあっと言う間にテレポーテーションさせちゃうとあんたの大好きな深海底アンデッドを仕留められなくなるわよ…」 桜花姫はダークスキュランの深海底アンデッドの一言に反応したのである。 「えっ!?深海底アンデッドの大群ですって♪」 桜花姫は両目をキラキラさせた表情へと変化する。 「はぁ…」 『やっぱり彼女は単純だわ…』 ダークスキュランは桜花姫の様子に苦笑いしたのである。 「深海底アンデッドなら私が仕留めちゃうわよ♪」 ダークスキュランは内心ホッとする。 『私以外の誰かをテレポート魔法で目的地に移動させるのは正直面倒臭いのよね…彼女の脳味噌が単細胞で好都合だったわ…』 ダークスキュランは内心テレポート魔法の使用を億劫であると感じる。 「早速ブルーデストピアに直行するわね♪」 桜花姫はブルークリスタルを所持した状態で一目散にブルーデストピアへと直行したのである。 「桜花姫…彼女は本当にじゃじゃ馬だわ…」 『桜花姫らしいけど…』 ダークスキュランは苦笑いした様子で桜花姫を見届ける。
第十四話
不老不死 桜花姫が移動を開始してより一時間後…。失楽園のブルーデストピアでは貝殻形状の一軒家が存在する。一軒家の住人である深海底魔女の医者…。ダークスプライトが魔法の水晶玉で桜花姫の動向を観察したのである。 「ん?」 『彼女は何者かしら?』 ダークスプライトは深海底魔女の一員であり頭髪が銀髪のストレートロングと青紫色の瞳孔…。下半身は銀鱗の大魚である。両方の耳朶には真珠のピアス…。皮膚は魔族を連想させる水色だったのである。 『ひょっとして彼女が一年前に最上級の深海底アンデッド…アビスエキドナスを仕留めた異国の魔法使いかしら♪』 「彼女が異国の魔法使いであれば…」 ダークスプライトは召喚魔法を発動する。ダークスプライトが召喚魔法を発動した同時刻…。桜花姫はブルーデストピアの海域へと直進するのだが無数の気配を察知する。 「えっ…」 『何かしら?無数の魔力?』 周囲は暗闇の海底下であるが無数の気配が殺到するのは確信出来る。桜花姫は周囲の海中をキョロキョロさせ警戒したのである。 『早速深海底アンデッドの大群が出現したのかしら?』 すると直後…。全身血塗れの人魚の大群が猛スピードで桜花姫に急接近する。 『彼女達は…アビスセイレーンかしら?』 全身血塗れの人魚の大群とは無数のアビスセイレーンであり彼女達は生者である桜花姫に殺到したのである。 『私に挑戦するなんて無謀なのよ♪』 桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動…。一時的であるが体内の妖力が通常よりも数百倍に急上昇する。 「あんた達は覚悟するのね♪」 無数のアビスセイレーンが桜花姫に接触する寸前に念力の妖術を発動したのである。すると突如として無数のアビスセイレーンの肉体が肥大化…。パンっと彼女達の肉体が破裂し始める。 『他愛無いわ…楽勝ね♪』 桜花姫の周囲の海中には無数の血肉が飛散したのである。 『空腹だし♪』 今度は飛散した無数の血肉に変化の妖術を発動する。すると周囲に飛散した無数の血肉を大好きな桜餅に変化したのである。 『桜餅を頂戴するわね♪』 桜花姫はパクパクと其処等の桜餅を鱈腹食べ始める。 「えっ?」 すると彼女の背後より…。 「あんた達はアビスダーキニーだったかしら?」 二刀流の悪魔的人魚アビスダーキニーが三体も出現したのである。 「食事中に邪魔するなんて…何様かしら?」 『彼女達の特殊能力は直接斬撃しなくても…相手を斬撃出来るのよね…』 アビスダーキニーは遠方から一振りするだけで相手を斬撃出来…。斬殺出来る特殊能力である。 『こんな場所で特殊能力を発動されると厄介だからね…』 桜花姫は三体のアビスダーキニーに変化の妖術を発動…。すると三体のアビスダーキニーは桜餅に変化したのである。 「折角だからあんた達も♪頂戴するわね♪」 桜餅に変化した三体のアビスダーキニーを捕食する。桜花姫が暗闇の海中で奮闘する同時刻…。ブルーデストピアに存在する一軒家ではダークスプライトが水晶玉で桜花姫の様子を只管観察し続ける。 「彼女…アクアユートピアでの噂話は本当だったのね…」 『殺害したアビスセイレーンやらアビスダーキニーの血肉を異国のスイーツに変化させて捕食しちゃうのね…本当に彼女はダークスキュラン以上に悪趣味だわ…』 異端者のダークスプライトでも桜花姫の悪食にはドン引きしたのである。 「如何やら彼女が悪食なのは事実みたいね…」 『可愛らしい外見なのに勿体無いわ…』 ダークスプライトは桜花姫を可愛らしいと感じるものの…。悪癖である悪食には勿体無いと感じる。 「彼女の実力は本物みたいね…」 『魔力は私とダークスキュランを上回るでしょうね…』 桜花姫の魔力が自身は勿論…。ダークスキュランをも上回ると確信する。
第十五話
採血 同時刻…。アビスセイレーンの大群を仕留めた桜花姫は只管に失楽園のブルーデストピアへと驀進したのである。 『此処からダークスキュランに匹敵する魔力を感じるわね…』 魔力の正体が何者なのかは不明であるものの…。 『ひょっとするとダークスプライトって深海底魔女の魔力かしら?』 ブルーデストピアから感じられる魔力が深海底魔女ダークスプライトの魔力であると予想する。移動を再開してより一時間半が経過…。桜花姫は目的地のブルーデストピアに無事到達したのである。本来であれば三十分も経過すれば体内の妖力を消耗するのだが…。ダークスキュランのブルークリスタルの効力により暗闇の深海底でも長時間の力泳が可能だったのである。 『ひょっとして目的地のブルーデストピアかしら?』 海底下には無数の鯨類やら魚類の白骨体は勿論…。十数隻もの船舶の残骸が深海底の彼方此方に確認出来る。 「以前も通過したけど…」 『ブルーデストピアは気味悪そうな場所ね…』 周囲は暗闇であるが千里眼の妖術を発動すると数キロメートルの長距離より貝殻形状の一軒家を発見する。 「こんなにも暗闇の場所に一軒家だわ…」 『私はダークスプライトの家屋敷に到達したのかしら?』 桜花姫は超特急で力泳し始め…。貝殻形状の一軒家へと直行したのである。力一杯力泳し始めてより十五分後…。一軒家の玄関口に到達したのである。 「室内から妖力を感じるわ…」 『ひょっとして深海底魔女…ダークスプライトかしら?』 桜花姫は恐る恐る玄関口のドアをノックする。 「御免下さい…」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る玄関口のドアをノックするのだが…。無反応だったのである。 「えっ?」 一軒家の内部には魔力が感じられ…。 『ひょっとして居留守かしら?』 居留守なのは確実である。 『悪趣味ね…居留守なんて私に対する嫌がらせかしら?』 苛立った桜花姫であるが突然背後より…。ポンッと何者かが桜花姫の背中に接触したのである。 「きゃっ!」 桜花姫の背後には人魚の童顔美少女が佇立…。素肌は水色だったのである。 「突然何するのよ!吃驚するじゃない!」 桜花姫は背後の人魚に怒号する。すると人魚は笑顔で…。 「あんたが異国の魔法使いの月影桜花姫なのね♪」 「えっ…如何して私の名前を?あんたは一体何者なのよ?」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る人魚に問い掛ける。 「私は深海底魔女のダークスプライトよ♪深海底の医者とでも♪」 童顔美少女の人魚とは深海底魔女であり人魚王国アクアユートピアでは唯一の医者…。ダークスプライト本人だったのである。 「あんたがダークスプライトだったのね…私は妖女だからね…」 「妖女ですって?あんたの祖国では魔法使いは妖女って呼称されるのね…」 「妖女は妖女でも私は列記とした最上級妖女なのよ♪留意しなさいね♪」 桜花姫は自身を最上級妖女であると断言する。 『ダークスプライトって深海底の魔女だけど想像よりは普通の人魚っぽいわね…』 桜花姫は苦笑いしたのである。 『正直下半身はダークスキュランみたいな真蛸かと…』 当初は深海底魔女のダークスキュランと同様…。イメージ的に下半身が真蛸の生命体であると予想したのである。一方のダークスプライトは桜花姫を凝視し始め…。 「あんたは…何を想像したのかしら?ひょっとして私の下半身が真蛸だとでも想像したのかしら?」 「えっ…別に…」 桜花姫は一瞬ドキッとする。 『ダークスプライトって読心術が出来るの?』 桜花姫は冷や冷やしたのである。 「こんな場所で長居し続けても仕方ないわ…折角だし♪」 ダークスプライトは桜花姫をリビングルームへと案内する。 『彼女の家屋敷って意外と普通だわ…』 ダークスプライトの家屋敷の室内は意外にも洋式風でありアクアヴィーナスの家屋敷と同様の雰囲気だったのである。するとダークスプライトは満面の笑顔で…。 「桜花姫…魔法を解除しても大丈夫よ♪」 「えっ?」 ダークスプライトの家屋敷にも防水用のシールド魔法により人間の状態でも生活出来る。桜花姫は変化の妖術を解除すると深呼吸したのである。 「呼吸出来るわ…此処なら普段の状態でも大丈夫みたいね…」 するとダークスプライトは表情が赤面し始め…。 「意外だわ…あんたは人間の状態でも可愛らしいわね♪」 「えっ?私が可愛らしいなんて♪ダークスプライトは大袈裟ね♪」 『私が可愛らしいですって♪』 桜花姫は赤面するが内心大喜びする。 「折角だし…私も久方振りに…」 魔法を解除するとダークスプライトも人間の少女の姿形に変化したのである。 「深海底の人魚は基本的に人間の状態で生活するのは時たまだからね…」 「人魚達は地上世界とは真逆なのね…」 桜花姫は恐る恐る…。 「ダークスプライト?今回の用事は一体何かしら?」 「私は最強生物のあんたを利用して…前代未聞の魔法新薬を研究したくてね♪」 ダークスプライトにとって魔法新薬の研究とは娯楽であり趣味である。 「前代未聞の魔法新薬ですって?」 『私には何が何やらサッパリだわ…魔法新薬って何よ?』 桜花姫は珍紛漢紛であり内心困惑する。 「私は常日頃から多種多様の魔法の医薬品を研究するのが趣味なのよ♪」 ダークスプライトは満面の笑顔で断言したのである。 「あんたは地上世界では最強の魔法使いって噂話だし♪あんたの血液を媒体に魔法の新薬を開発出来ないかなって♪」 「私に新薬の開発に協力しろと?」 桜花姫が問い掛けるとダークスプライトは一瞬沈黙するのだが…。 「勿論よ♪桜花姫♪」 ダークスプライトは満面の笑顔で返答する。 「無論あんたは暇潰しに協力するでしょう?私の研究に♪」 桜花姫はダークスプライトの問い掛けに一瞬困惑するのだが…。 『仕方ないわ…暇潰しにダークスプライトに協力しましょうかね…』 「承知したわ…ダークスプライト…」 桜花姫の承諾にダークスプライトは大喜びしたのである。 「感謝するわね♪桜花姫♪」 「ダークスプライト?協力だけど…私は具体的に何を如何すれば?」 桜花姫は恐る恐る問い掛ける。 「具体的も何も…心配しなくてもあんたは身動きしないでジーッとし続けるだけよ♪リラックス♪リラックス♪」 「えっ?ジーッとし続けるだけなの?」 桜花姫は拍子抜けする。 「絶対に身動きしないでね♪僅少でも身動きしちゃうと研究出来ないから…」 「えっ…」 『絶対って…大丈夫なのかしら?』 桜花姫はダークスプライトの絶対の一言に内心不安に感じるものの…。 「承知したわ…ダークスプライト…」 『ダークスプライトは私に一体何するのかしら?』 桜花姫はダークスプライトの指示に多少緊張する。ダークスプライトは恐る恐る桜花姫の右手を接触したのである。 「えっ…ダークスプライト?如何したのよ?」 ダークスプライトは数秒間沈黙するのだが…。 「なっ!?本当に!?現実なの!?」 ダークスプライトはハッとした表情で驚愕したのである。 「えっ!?如何しちゃったのよ!?ダークスプライト!?一体何が?」 ダークスプライトの反応に桜花姫は一瞬吃驚する。 「一通りあんたの細胞を調査した結果…今現在のあんたの細胞は本当に不老不死みたいね…最低限の栄養分は必要不可欠でしょうけど…」 桜花姫はダークスプライトの不老不死の一言に反応したのである。 「えっ!?私の細胞が不老不死ですって!?本当なの!?」 「あんたの細胞は正真正銘…万能細胞よ…」 ダークスプライトは魔法で桜花姫の体内を一通り調査…。彼女の各細胞は不老不死の万能細胞であると判明する。 「正直私も吃驚したわ…俗界に不老不死の生命体が実在するなんて…やっぱりあんたは完全無欠の最強生物だったのね…」 すると桜花姫は恐る恐る…。 「如何して私の各細胞が不老不死なのよ!?」 問い掛けられたダークスプライトは困惑するがボソッと問い掛ける。 「ひょっとするとあんたは…最近異類の肉塊を食べなかったかしら?」 「えっ…異類の肉塊ですって?」 『異類の…肉塊って?ひょっとしてウィプセラスかしら?』 栄養分の摂取は最低限必要不可欠であるが…。桜花姫は人工性妖女ウィプセラスの肉体と同化してより桜花姫の各細胞は不老不死の万能細胞へと大進化したのである。ダークスプライトは世紀の大発見にニコッと微笑み始める。 「長時間は必要不可欠でしょうけれど…あんたの万能細胞を解析出来れば不老不死の新医薬品を実現させられるかも知れないわ♪栄養分さえ最低限摂取し続ければ不老不死も実現化出来るでしょうね♪」 『不老不死の新医薬品を大量に製造出来れば私は億万長者ね♪』 ダークスプライトは内心不老不死の新医薬品による大儲けを夢見たのである。一方の桜花姫は恐る恐る…。 「不老不死の…新医薬品ですって?」 ダークスプライトは戸棚から注射器を所持する。 「えっ…何かしら?」 『運針?』 桜花姫は不思議そうに注射器の注射針を凝視したのである。 「注射器よ♪」 「注射器って何かしら?」 「魔法の医療道具とでも♪注射器であんたの血液を採取するの♪」 「えっ…血液を採取ですって?こんな運針で血液を採取出来るの?」 「出来るわよ♪絶対に身動きしないでね…身動きするとあんたの血液を採取出来なくなるからね…」 「如何するのよ?ダークスプライト…」 桜花姫は一瞬ピクッと反応する。 「覚悟しなさいね♪桜花姫♪」 するとダークスプライトは桜花姫の左腕にチクッと注射…。直後である。 「ひゃっ!」 桜花姫は突然の苦痛に大声で大絶叫し始め…。 「ぎゃっ!」 リビングルーム全体に桜花姫の悲鳴が響き渡る。 「注射器に畏怖しちゃうなんて…あんたは大袈裟ね♪弱虫の子供みたいよ♪」 ダークスプライトは注射器に畏怖する桜花姫に微笑したのである。 「私は!中身は子供だよ!」 桜花姫は揶揄するダークスプライトに怒号したのである。血液の採取が終了する。 「はぁ…はぁ…私は…一瞬死んじゃうかと…」 桜花姫は極度の疲労困憊からかグッタリし始める。 「桜花姫♪注射程度で死んじゃうなんてあんたは大袈裟ね♪」 ダークスプライトは再度桜花姫に微笑する。すると先程の注射の傷口が一瞬で治癒したのである。 「あんたの回復力は抜群だわ♪」 「はぁ…私は最上級の妖女だからね…こんな程度の傷口なんて簡単に…」 「研究材料は入手出来たし♪今回は感謝するわね♪桜花姫♪」 するとダークスプライトは笑顔で…。 「折角だし…ショートケーキでも食べない?」 桜花姫はショートケーキの一言に反応したのである。 「えっ!?ショートケーキですって♪」 桜花姫は一瞬ワクワクするものの…。 「御免なさいね…私は…食欲が…」 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 蛇体如夜叉の様子が気になるのか食欲が減退する。 「あんた…食べたくないみたいね…」 『桜花姫は悩み事かしら?』 ダークスプライトは桜花姫の様子から悩み事であると察知したのである。すると桜花姫は恐る恐る…。 「ダークスプライト?老衰状態の人間を…元通りの状態に戻せる医薬品は存在しないのかしら?」 「老衰から復活させる医薬品ですって?」 桜花姫は一部始終蛇体如夜叉の事柄を洗い浚い口述したのである。 「蛇体如夜叉ってあんたの知人が老衰状態なのね…」 ダークスプライトは沈黙する。すると彼女は恐る恐る…。 「残念だけど…今現在老衰状態から復活させる魔法の医薬品は存在しないわ…寿命ばかりは私の魔法医薬品でも如何にも出来ないのが現実なのよね…不老不死の魔法新薬を実現出来るなら別でしょうけど…現実問題として不老不死の魔法新薬は存在しないからね…」 「えっ…」 内心ショックであり桜花姫は沈黙したのである。 「私は…戻らないと…」 『当然よね…私は何を期待したのかしら?』 するとダークスプライトは恐る恐る…。 「御免なさいね…桜花姫…私は何も出来ず…」 「別に…気にしないで♪ダークスプライト♪」 桜花姫は笑顔で返答したのである。すると桜花姫は自分自身に口寄せの妖術を発動…。一瞬で桃源郷神国に戻ったのである。 「えっ?」 『彼女は…テレポート魔法を使用したのかしら?』 ダークスプライトは一瞬で消失した桜花姫に驚愕する。
第十六話
強奪 同時刻…。桜花姫は無事に失楽園のブルーデストピアから桃源郷神国の西国の海岸へと戻れたのである。 『私は…無事に桃源郷神国へと戻れたのね…』 桜花姫は一息する。 「はぁ…」 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 桜花姫は涙腺から涙が零れ落ちる。 『私は今後…如何すれば?』 日に日に体調が悪化し続ける蛇体如夜叉に数分間落涙し続けたのである。落涙してより数分後…。桜花姫は泣き止んだのである。 『家屋敷に戻ろうかな?』 自宅へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ?」 突如として背後より何者かの気配を感じる。 「気配だわ…」 『人外なのは確実みたいだけど…何かしら?』 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。 「あんたは…一体何者なの?」 桜花姫の背後には煌びやかな藍色の着物姿の女性が佇立…。彼女の体格は小柄であり左手には一本の木刀を所持する。 『彼女は花魁かしら?外見だけだったら普通の人間っぽいけれど…』 彼女の両目は半透明の群青色であり神秘性を感じさせる。頭髪は銀髪の長髪であり非常に異質的雰囲気だったのである。 『非常に神秘的ね…彼女は一体何者なの?彼女の肉体からは何一つとして妖力が感じられないわね…』 彼女の雰囲気は非常に神秘的であり超自然的存在の一種である妖女とも別物である。すると女性は無表情で桜花姫を直視し始め…。 「其方は…最上級妖女の月影桜花姫だな…発見したぞ…」 「えっ!?如何して見ず知らずのあんたが私の名前を?」 彼女とは初対面であるが…。桜花姫は自身の名前を熟知する花魁らしき女性に驚愕したのである。 「あんたは…何者なの?」 「私が何者なのか?私の名前は天狐如夜叉…神族の一人だ!」 問い掛けられた花魁らしき銀髪の女性は自身を神族の一人…。天狐如夜叉であると名乗り始める。 「えっ!?あんたは神族の一人ですって!?」 桜花姫は天狐如夜叉の神族の一言に驚愕する。 『神族なんて…蛇体如夜叉婆ちゃん以外の神族は大昔に全滅したって…』 桜花姫は幼少期…。蛇体如夜叉からは自身以外の神族は太古の大昔に全滅したと知らされたのである。 「不思議そうな表情だな…月影桜花姫よ…私は正真正銘神族の一人だぞ…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん以外の神族は…大昔の戦乱で全員殺されたって…」 「其方の反応は…彼奴と一緒だな…」 「彼奴ですって?彼奴って誰なのよ?」 天狐如夜叉は一瞬沈黙する。沈黙してより数秒後…。 「月影鉄鬼丸と名乗る…人間の武士だよ…」 「えっ?月影鉄鬼丸って…」 『父様の名前!?』 桜花姫は父親の鉄鬼丸の名前を熟知する天狐如夜叉に再度驚愕したのである。 「其方にとって鉄鬼丸と名乗る人間は肉親なのだろう?」 「如何して見ず知らずのあんたが私の父様の名前を?あんたは一体?」 桜花姫は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。 「三十二年前の四月初旬だったか…其方の父親…月影鉄鬼丸を殺害したのは誰であろう私なのだからな…」 「えっ…あんたが…私の父様を殺した張本人なの?」 桜花姫は衝撃の事実に一瞬沈黙する。 「月影桜花姫よ…肉親である父親を殺害した私を憎悪するか?私に復讐したくないか?月影桜花姫…」 すると桜花姫は無表情で…。 「別に…」 「はっ?其方は…」 天狐如夜叉は桜花姫の反応が不思議に感じる。 「其方の反応は意外だな…身内を惨殺した相手を憎悪しないとは…其方にとって父親の存在とは?」 「今更父様を殺したって自白されても…私自身は生前の父様を知らないからね…」 実際問題鉄鬼丸が殺害されたのは桜花姫の出産日前日の出来事である。 「其方は相当の奇人だな…月影桜花姫…」 「私が奇人だから何よ♪天狐如夜叉♪」 奇人と軽蔑されても桜花姫は平気だったのかニコッと微笑み始める。 『月影桜花姫…此奴に常識は通用しないな…』 天狐如夜叉は内心呆れ果てる。 「あんたは純血の神族みたいだけど…大昔の伝承では神族は全滅したって…正直今現在の世の中に純血の神族が存在するなんて驚愕よ…」 今現在では神族の存在は伝説的存在として扱われる。実際彼等に対する世間一般の認識も架空の神話程度の認識だったのである。 「今現在では間違った認識が各地に出回ったのだな…数万年間も経過すれば神族の存在が忘却されるのも仕方ないか…」 桜花姫は不思議そうな表情で天狐如夜叉に問い掛ける。 「如何して神族の一人であるあんたが…今更こんな場所に?天狐如夜叉は一体何が目的なのよ?」 桜花姫の質問に天狐如夜叉は即答する。 「其方の自慢である神性妖術の天道天眼を…確保したいからな…」 「えっ?私の…」 『天道天眼を確保ですって?』 桜花姫は理解出来なかったのか混乱したのである。 「其方の天道天眼を入手出来れば…私の主目的である地上世界の全人類を完膚なきまでに殲滅出来…神族のみが君臨する神世界の再興が実現出来るのだからな…」 太古の大昔に神族は人間達との大戦争に敗北してより…。天狐如夜叉は大勢の同志達が極悪非道の人間達によって殺害されたのである。大戦争での人間達の醜悪さを熟知…。太古の大戦争を契機に天狐如夜叉は人間達を憎悪したのである。 「人間達に対する復讐であり…滅亡した神世界を再興させる絶好の機会なのだ…」 「人間達の殲滅に…私の天道天眼が必要なの?」 「勿論だとも…」 天狐如夜叉は即答する。 「天道天眼は術者の脳内の想像を具現化させる無限の効力を発揮出来るからな…所謂万能の神術とでも…」 「えっ!?」 『脳内の想像を具現化ですって…』 天道天眼は万能の神性妖術であり術者の想像を現実世界で具現化させる無限の超常現象を発揮出来る。今迄桜花姫が数多くの超常現象やら多種多様の妖術を使用出来たのは彼女の想像が具現化された結果である。 「即刻…其方の天道天眼を頂戴する…覚悟せよ!月影桜花姫!」 すると桜花姫はギロッと天狐如夜叉を睥睨し始める。 「私の天道天眼を頂戴ですって?」 「其方は妖術で私を仕留めるのか?」 天狐如夜叉の発言に苛立ったのか天道天眼を発動したのである。 「当然でしょう…誰が見ず知らずのあんたなんかに私の天道天眼を提供するか…」 「其方の神性妖術…天道天眼か…先程よりも妖力が増大化したみたいだな…」 桜花姫は血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。同時に体内の妖力が先程よりも数百倍に増大化し始める。 「天狐如夜叉!あんたこそ覚悟するのね!あんたは桜餅に変化しなさい!」 桜花姫は天狐如夜叉に変化の妖術を発動したのである。 「ん?」 変化の妖術を発動するのだが…。天狐如夜叉は桜餅に変化しない。 「えっ!?」 『如何して天狐如夜叉は桜餅に変化しないのよ!?』 桜花姫は桜餅に変化しない天狐如夜叉に動揺したのである。 「其方程度の妖術なんて私には通用しない…何故なら…」 天狐如夜叉は桜花姫に木刀を誇示する。 「木刀かしら?木刀が如何したのよ?」 「私の木刀は木刀でも…其処等の木刀とは格別だぞ…此奴は妖星巨木の小枝から彫刻された神聖なる神器の一種なのだからな!」 「妖星巨木ですって!?」 桜花姫は驚愕したのである。天狐如夜叉の所持する木刀は妖星巨木の小枝から誕生した神器の一種であり荒唐無稽の妖術を無力化出来…。器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に妖力を吸収出来る。 「私の神聖なる木刀には貴様程度の子供騙しの妖術は何一つとして通用しない…今度は私が其方に反撃するぞ…」 天狐如夜叉は神速の身動きにより桜花姫の目前に一瞬で急接近…。 「えっ?」 「成仏せよ…」 天狐如夜叉は彼女の腹部を斬撃したのである。 「ぎゃっ!」 天狐如夜叉の所持する木刀は鋼鉄の刀剣に匹敵する強度…。相手を斬殺する芸当も可能である。 「ぐっ…」 腹部を斬撃された桜花姫は腹部から出血し始め…。 『迂闊だったわ…』 桜花姫はバタッと地面に横たわる。 「何が最上級妖女だ…所詮其方は妖術を無力化出来れば其処等のか弱き人間の小娘同然なのだ…」 天狐如夜叉は地面に横たわった状態の桜花姫に近寄る。 「あんたは…一体何を?」 「今度こそ其方の天道天眼を頂戴するぞ…」 桜花姫の右手に接触したのである。 「月影桜花姫よ…覚悟するのだな…」 天狐如夜叉が接触した直後…。 「えっ…」 桜花姫は金縛りにより身動き出来なくなる。 『一体何が!?身動き出来ないわ!』 数秒後…。 「はっ!?」 桜花姫は金縛りが解除されて身動き出来たのである。一方の天狐如夜叉は微笑した表情で桜花姫を凝視する。 「其方から天道天眼を頂戴したぞ…」 「えっ!?」 桜花姫は天狐如夜叉の発言に愕然としたのである。 「あんたは…私の天道天眼を!?」 「今現在の其方は天道天眼を使用出来なくなった…」 天道天眼を奪取された桜花姫は多種多様の妖術を使用出来ず…。最早天道天眼を発動出来ない桜花姫では天狐如夜叉に対抗するのは不可能である。 「最早其方は戦闘不能だ…月影桜花姫…」 「あんたは…私の天道天眼を…」 天道天眼の発動を試行するが…。 「えっ…」 桜花姫の瞳孔から天道天眼が発動されない。 『私…』 一方の天狐如夜叉は険悪化した表情で…。 「其方の肉体からは数百体?数千体もの薄汚い亡者達の気配を感じるぞ…其方はか弱き小町娘とは裏腹に薄汚い亡者の集合体か…」 「なっ!?俗界の女神様である私を…亡者の集合体ですって?」 桜花姫はギョッとした鬼神の形相で天狐如夜叉を睥睨したのである。 「其方みたいな薄汚い亡者の集合体なんかに神族の神聖なる天道天眼は宝の持ち腐れだな…」 本来ならば天狐如夜叉に変化の妖術を発動したい桜花姫であるが…。十八番の天道天眼を使用出来ない状態ではあらゆる妖術を使用出来なくなる。 「天道天眼とは本来は神族の眼光なのだ…」 「天道天眼が…神族の眼光ですって?」 天道天眼は神族界隈では別名として神族の眼光とも呼称される。 「神族の眼光は純血の神族である私にこそ相応しいのだ…」 「如何して私に天道天眼が?」 桜花姫の疑問に天狐如夜叉は即答する。 「小娘の分際である其方が神聖なる天道天眼を開眼出来たのは世界樹の妖星巨木が関係するのだ…」 妖星巨木とは本来神族の鮮血を吸収した超自然的樹木である。五百年前の戦乱時代に西国の桃子姫が妖星巨木の果実を採食…。神族の眼球とされる神性妖術の天道天眼を開眼したのである。 「皮肉にも其方は桃子姫と名乗る元祖妖女の再来なのだ…桃子姫の再来であるからこそ神族の眼光を使用出来ただけだ…」 桜花姫は恐る恐る…。 「金輪際…私は妖術を使用出来ないの?」 「非力の其方に妖術だと?当然であろう…」 問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。 「今迄桜花姫があらゆる妖術を使用出来たのは神聖なる天道天眼の効力なのだよ!神族の眼光を使用出来なくなった其方は金輪際何一つとして妖術を行使出来ないのだ…本日より其方は一握りとされる最上級妖女から弱小の下級妖女へと降格したのだ…」 『いい気味だな…月影桜花姫…』 天狐如夜叉は妖術を使用出来なくなった桜花姫に冷笑したのである。 「私が弱小の下級妖女ですって…」 『此奴…』 桜花姫は天狐如夜叉の発言に腹立たしくなる。直後…。 「其方はしぶといな…下級妖女の月影桜花姫よ…」 『此奴の生命力は油虫に匹敵するな…』 斬撃された腹部の傷口が自然に治癒されたのである。 『私なら大丈夫…大丈夫よ…妖術が使用出来なくても…』 彼女は幼少期に天道天眼を開眼する以前から妖力のみは通常の妖女の数十倍を所持…。体内の妖力のみなら人一倍莫大だったのである。桜花姫は体内の妖力により自力で傷口を再生させる。 「妖術を行使出来ずとも…肉体が本能的に外傷を自然治癒させるとは…」 『月影桜花姫…此奴は悪運だけなら人一倍だな…』 すると半透明の群青色だった天狐如夜叉の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。 「えっ!?天道天眼だわ…」 天狐如夜叉は天道天眼を発動したのである。 「神族の眼光である…其方の身動きを封殺するぞ…下級妖女の月影桜花姫…」 桜花姫は天狐如夜叉が再度発動した金縛りの神術により身動き出来なくなる。 「ぐっ!」 『私は…身動き出来ないわ…ひょっとして金縛りの妖術かしら?』 天狐如夜叉は冷笑した様子で身動き出来なくなった桜花姫に問い掛ける。 「金縛りの気分は如何かな?月影桜花姫よ…今迄其方が自分以外の他者に行使した妖術だぞ♪今度は其方が自分以外の他者によって踏み躙られるのだ…」 桜花姫は何も反論出来ず…。沈黙の数秒間が経過する。 「極悪非道の其方は死後の世界とされる…地獄の世界に直行するのが相応しい…」 直後…。 「えっ!?」 桜花姫は天狐如夜叉の発動した口寄せの神術によって死後の世界とされる地獄の世界へと幽閉されたのである。 『神族の眼光を無くした其方は単なるか弱き小娘なのだ…其方は二度と俗界へは戻れなくなる…地獄の世界で未来永劫無限の苦痛を精一杯体感するのだな…下級妖女の月影桜花姫よ…』 自身にとって最大の邪魔者である桜花姫は地獄の世界へと幽閉出来…。天狐如夜叉は冷笑したのである。 『一先ずは邪魔者の月影桜花姫は幽閉出来たからな…目的の第一段階は成功だ!』 天狐如夜叉は目的の第一段階の達成により撤収する。
第十七話
大地獄 天狐如夜叉の発動した口寄せの妖術により強制的に地獄の世界へと幽閉された桜花姫は気絶した状態で地面に横たわったのである。天狐如夜叉の神力によって地獄の世界に幽閉されてより数分後…。 「えっ…」 桜花姫は意識が戻ったのである。 『何かしら?此処って…』 目覚めた直後…。桜花姫は周辺の光景を直視するとハッとした表情で驚愕する。 「えっ!?」 『一体全体何が!?』 周辺を眺望すると地上全域が灼熱の火山地帯であり清涼の森林やら海水は何一つとして確認出来ない。空気も重苦しく非常に殺伐とした場所である。 『空気は重苦しいし…随分と殺伐とした場所ね…』 「ひょっとして本物の地獄の世界なのかしら?」 桜花姫は自分が存在する世界が地獄の世界であると認識する。 『此処が地獄の世界であれば…私は本当に死んじゃったのかしら?』 自身の生死こそ不明瞭であるが…。 『こんな場合こそ!』 桜花姫は両目を瞑目させる。 『駄目だわ…天道天眼が発動されないわね…』 「やっぱり天道天眼は天狐如夜叉に強奪されちゃったのね…」 桜花姫は絶望する。 『私は…今迄…』 十八番の天道天眼を使用出来ず…。極度の恐怖心からか桜花姫は全身が身震いしたのである。 『妖術が使用出来なくなるなんて…』 今迄は天道天眼の乱用により天下無敵の気分であったが…。天道天眼を無くした今現在では自分自身の非力さに絶望する。 『私は今後…他者に踏み躙られるのかしら?』 今迄は妖術が使用出来なくなるとは想像も出来なかったのである。 『私は今後…如何すれば?』 すると周囲より…。 「えっ?」 周囲をキョロキョロさせると自身の周囲には数体の悪食餓鬼が出現したのである。 『彼等は悪食餓鬼!?』 十八番の天道天眼を発動出来れば桜花姫にとって大喜びの光景なのだが…。 『こんな状態では悪霊に対抗出来ないわ…』 妖術を何一つとして使用出来ない非力の状態では脆弱の悪食餓鬼ですらも脅威に感じられる。 『悪食餓鬼を相手に…』 「止むを得ないわね…」 桜花姫は落涙するものの…。 『逃げないと悪霊に食い殺されちゃうわ!』 彼女は一目散に逃走したのである。 『岩陰だわ…』 桜花姫は四百メートルもの長距離より岩陰を発見すると岩陰にて潜伏する。 「はぁ…はぁ…」 『今後は如何しましょう?悪霊に追撃されるし此処は最悪ね…』 岩陰で一休みした桜花姫であるが…。 『妖術が無くなっただけでこんなにも苦悩させられるなんて…』 彼女にとって最大の武器であった妖術を使用出来ず今後は如何するべきなのか苦悩したのである。 「はぁ…」 一息した直後…。 「えっ…」 『気配だわ…』 周囲の地中より無数の気配を感じる。 『霊力かしら?』 彼女の感じる気配とは悪霊特有の霊力であり悪食餓鬼よりも強大である。 『悪食餓鬼とは別物だわ…』 桜花姫は警戒したのである。 『一体何が出現するのかしら?』 警戒してより数秒後…。近辺の地面より無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼が五体も出現したのである。 「百鬼悪食餓鬼!?」 『五体も!?』 桜花姫は五体もの百鬼悪食餓鬼の出現に極度の恐怖心を感じる。実質天道天眼を所持しない状態では通常の悪食餓鬼さえも仕留められず…。悪食餓鬼の上位互換であり親玉である百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは確実に不可能である。 『天道天眼が無くなった状態では百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは不可能だわ…』 桜花姫はビクビクした様子で…。 『万事休すね…如何しましょう?』 地面から出現した五体の百鬼悪食餓鬼から後退りする。非力の状態では殺されるのは必須である。 『今日が私の命日なのね…』 桜花姫は最期を覚悟した直後…。 「ん?」 突如として自身の右腕がモゴモゴッと蠢動したのである。 「えっ…」 桜花姫はモゴモゴッと蠢動し始めた右腕に気味悪くなる。 「私の…右腕が…」 『現実なの?』 右腕が蠢動し始めてから数秒後である。 「げっ!?」 『右腕から触手!?』 桜花姫の右腕から無数の蛸足らしき触手が出現し始め…。接近する五体の百鬼悪食餓鬼を拘束したのである。 『如何して私の右腕から…触手が?』 桜花姫は自身の右腕から出現した無数の触手に気味悪くなる。 『此奴はひょっとしてウィプセラスの…』 右腕より出現した触手とはウィプセラスの肉体の一部だったのである。桜花姫は一週間前にウィプセラスとの戦闘で彼女の肉体と同化した結果…。皮肉にもウィプセラスの肉体を吸収した影響で本能的に彼女の特殊能力が発動されたのである。桜花姫は不本意であるが触手で拘束した五体もの百鬼悪食餓鬼の肉体を覆い包み…。五体の百鬼悪食餓鬼を自身の体内へと吸収したのである。 「はぁ…」 『ウィプセラスみたいで気味悪いわ…』 桜花姫は自分自身の意思で悪霊を吸収するが自身の肉体の変化にドン引きする。 「私…如何しちゃったのかしら?」 『正直気味悪いけど…』 ウィプセラスの特異能力を受容…。 「不本意だけど…」 『天道天眼を使用出来ないのであればウィプセラスの触手も止むを得ないわね…』 覚悟した桜花姫は再度行動を開始したのである。行動を再開してより五分後…。 『甲冑の人骨だわ…』 今度は全身に鎧兜を装備した巨体の人骨と遭遇したのである。 『此奴は戦死者達の悪霊…骸骨荒武者だったわね…』 骸骨荒武者とは戦乱時代に戦死した戦死者達の無念の集合体とされ左手には重厚なる金砕棒を所持する。 『骸骨荒武者が出現するなんてね…』 骸骨荒武者は鈍足の身動きで桜花姫に接近したのである。 『相手が誰であろうと…』 桜花姫は体内から触手を生成させる直前…。骸骨荒武者は背後から何者かの攻撃によりバラバラに粉砕される。 「えっ!?」 『一体何が!?』 桜花姫の目前には右手に雷光の刀剣を所持した小柄の武士が佇立する。 『武士だわ…一体何者かしら?』 正体不明の武士は鬼神を連想される甲冑を装備…。無表情で目前の桜花姫を凝視したのである。 「こんなにも殺伐とした場所で…貴様みたいなか弱き小娘が落下するとは非常に不運だったな…」 「はっ?何が不運なのよ?」 桜花姫は腹立たしくなったのか武士の発言にムッとする。 「貴様はか弱き女子の外見とは裏腹に相当の大悪人みたいだな…」 「なっ!?」 桜花姫は武士の大悪人の一言に反応したのかピリピリしたのである。 『此奴…』 「地上世界の女神様である私を大悪人ですって!?」 桜花姫は睥睨した表情で武士に怒号する。 「小娘は相当の短気だな…基本的に地獄の世界には悪党しか存在しないからな…貴様自身も相当の大悪人なのだろう…」 桜花姫は武士の発言に再度苛立ったのか小声で…。 「あんたは…私に殺されたいのかしら?あんたは相当の命知らずみたいね…」 すると武士は無表情で返答したのである。 「貴様に殺されるも何も…所詮俺は亡者の身分だからな…俗界では二度も殺された極悪非道の荒武者なのだぞ…」 「えっ?あんたは二度も殺されたって?」 『此奴は…亡者なのは確実だけど…其処等の悪霊とは随分異質的だわ…』 亡者の武士は今迄出現した悪霊と比較すると非常に人間らしく理性的であり桜花姫は意外に感じる。 『今迄に遭遇した奴等と比較すると非常に人間っぽい雰囲気ね…世の中にはこんな悪霊も存在するのね…』 桜花姫は恐る恐る亡者の武士に問い掛ける。 「あんたは亡者みたいだけど理性的ね…一体何者なの?あんたの名前は?」 すると武士は即座に名前を名乗り始める。 「俺は…北国最強の鬼神だった…月影幽鬼王だ…」 「えっ!?あんたは月影幽鬼王ですって!?」 桜花姫は幽鬼王の名前に驚愕したのである。 『月影幽鬼王って…』 「あんたは戦乱時代に活躍した北国の武士だったわよね?」 「勿論だ…」 月影幽鬼王とは戦乱時代に大活躍した武士の一人…。幽鬼王は北国出身者であり月影一族総本家の一人である。生前の幽鬼王は数多くの悪逆非道の愚行によって今現在では史上最悪の大悪党として熟知され…。大勢の大衆からは嫌悪されたのである。 「こんなにも殺伐とした場所で本物の月影幽鬼王と遭遇しちゃうなんて…」 桜花姫は幽鬼王との遭遇に冷や冷やする。 「歴史学では…生前のあんたは極悪非道の大悪党だったって…」 「俺が史上最悪の大悪党か…妥当だろうな…」 大衆からは極悪非道の大悪党として扱われる幽鬼王であるが…。彼自身は特段気にならなかったのである。 「生前当時の俺は兎にも角にも誰かを打っ殺したかったからな…俗界の愚民達が俺を大悪人だの極悪非道だの扱おうが構わんさ…俺は大悪党で上等だ…」 「大悪党で上等って…」 『此奴も相当の異端者だわ…地獄の世界でこんな大悪党と遭遇するなんて私は人一倍不運なのかも知れないわね…』 正直桜花姫は幽鬼王との遭遇に面倒臭いと感じる。 「貴様は…」 すると幽鬼王は桜花姫に小声でボソッと発言する。 「二度目に俺を打っ殺した…天女の小娘と瓜二つだな…」 桜花姫は幽鬼王の天女の一言に反応したのである。 「えっ…天女の小娘ですって?」 『天女の小娘なんて一体誰なのかしら?』 幽鬼王は険悪化した表情で…。 「桃子姫って…名前の天女の小娘だったか?貴様は雰囲気だけなら天女の彼奴に瓜二つだな…」 「桃子姫って…」 『元祖妖女だったわね♪』 桜花姫は桃子姫の名前を傾聴すると内心大喜びする。 『最初は吃驚しちゃったけど…私の前世が元祖妖女なのは正直意外だったわ♪』 自身の前世に大喜びし始めた桜花姫であるが…。 「当然として貴様と桃子姫では性格は似ても似つかないか…桃子姫は少なくとも貴様よりは気弱で上品そうだったからな…」 桜花姫は幽鬼王の発言にピクッと反応したのである。 「えっ?」 「貴様の印象は好戦的で強欲そうな雰囲気…正真正銘のじゃじゃ馬だな…」 「なっ!?あんたね!」 『女神様の私をじゃじゃ馬なんて失礼ね…此奴は腹立たしい武人だわ!』 桜花姫は幽鬼王の失言にピリピリし始める。 「地上世界の女神様である私にじゃじゃ馬ですって!?あんたは何様かしら!?」 変化の妖術を使用出来るのであれば即刻幽鬼王に駆使したいのだが…。 『月影幽鬼王…妖術さえ使用出来れば…こんな武人の悪霊なんて簡単に仕留められちゃうのに!』 彼女にとって最大の十八番である天道天眼が使用出来ないので当然変化の妖術も使用出来ず桜花姫は余計に苛立ったのである。 「貴様みたいなじゃじゃ馬の小娘が自身を地上世界の女神様を自称するとは…片腹痛いぜ…」 幽鬼王は自身を地上世界の女神様と自称する桜花姫を揶揄する。 「ぐっ…此奴…」 『神族の天狐如夜叉から天道天眼を奪還したら…今度こそあんたを桜餅として食い殺すから覚悟しなさいよ…月影幽鬼王!』 幽鬼王に反論出来ず苛立った桜花姫であるが…。一息したのである。 「幽鬼王?」 桜花姫は不安そうな表情で恐る恐る幽鬼王に問い掛ける。 「結局私って…死んじゃったの?」 桜花姫の問い掛けに幽鬼王は即答する。 「貴様の生死だと?残念だが…今現在の貴様の肉体は生者の肉体だな…」 「えっ!?」 『生者の肉体ですって…』 衝撃の事実に桜花姫は一瞬驚愕するも…。 『私は無事なのね♪心配しなくても大丈夫みたいね♪』 桜花姫はホッとしたのである。 「今現在の貴様は所謂仮死状態なのだ…」 「仮死状態なら私は俗界に戻れるのね♪」 僅少であるが…。希望が芽生える。 「私は即刻地獄の世界から脱出しないと…」 『俗界に戻って思う存分に熟睡するわよ!』 桜花姫は地獄の世界からの脱出を決意したのである。 「貴様は俗界に戻りたければ…地獄の石門に移動するのだな…」 「地獄の石門ですって?何かしら?」 「地獄の石門は…」 地獄の石門とは俗界と黄泉の世界との境目であり完全なる死者は通過出来ないが仮死状態の生命体は勿論…。生者であれば地獄の石門を通過出来るとされる。 「地獄の石門って場所を通過しちゃえば私は俗界に戻れちゃうのね♪早速地獄の石門に移動しましょう♪」 桜花姫はルンルンの気分であるが…。 「地獄の石門を突破するには石門の門番…地獄朧車って門番の上級悪霊を仕留めなければ地獄の石門へは通過出来ないぞ…」 「えっ…地獄朧車ですって?」 地獄朧車とは悪霊の一体であり俗界では上級の悪霊として認識される。上級悪霊の地獄朧車は其処等の悪霊とは別格であり天道天眼を所持しない状態では悪戦苦闘は確実…。場合によっては悪戦苦闘による敗死の可能性も否定出来ない。 『地獄朧車って…悪霊は悪霊でも最強の上級悪霊だったわよね…妖術を駆使出来ない私に強豪の地獄朧車を攻略出来るのかしら?』 桜花姫は妖術を駆使しないで上級悪霊の地獄朧車を仕留められるのか非常に不安がる。恐る恐る幽鬼王を凝視したのである。 『正直…此奴も今一信用出来ないのよね…』 正直幽鬼王は戦乱時代の大悪党であり先程の情報源は非常に胡散臭いと感じる。すると幽鬼王はギロッとした表情で桜花姫を睥睨し始める。 「小娘よ…貴様は俺を信用出来ないか?」 「げっ!」 幽鬼王が問い掛けると桜花姫はビクッと反応したのである。 「貴様の表情…如何やら図星みたいだが…こんな見ず知らずの亡者の助言を信用するのは無理だろうな…」 桜花姫はボソッと一言…。 「悪いけどあんたは極悪非道の大悪人だし…私は正直…亡者のあんたを信用したくても信用出来ないのよね…」 幽鬼王は桜花姫の本音に無表情で返答する。 「別に貴様は俺を信用せずとも構わんが…門番の地獄朧車を仕留めなければ貴様は二度と俗界へは戻れなくなるぞ…いっその事未来永劫地獄の風景を満喫するか?時間が経過し続ければ貴様は否が応でも亡者達の仲間入りだぞ…」 「えっ…私が亡者達の仲間入りですって?私は俗界に戻れなくなるの?」 「嗚呼…」 仮死状態であっても一定の時間が超過すれば俗界へは戻れなくなる。 「こんな場所で亡者達の仲間入りなんて御免だわ!」 『仕方ないわね…一先ずは地獄の石門に移動しましょう…』 桜花姫は地獄の石門を目標に行動を開始する。 『妖女の小娘風情が…自力で地獄の世界から脱出出来るかな?』 幽鬼王は桜花姫の背中を凝視し続ける。すると直後…。 「久方振りだな♪鬼神の月影幽鬼王♪」 何者かが幽鬼王の背後より挨拶したのである。 「なっ!?貴様は…」 幽鬼王は何者かによる突然の挨拶に一瞬驚愕する。 「貴殿と再会するのは五百年前以来だな♪幽鬼王♪貴殿は元気そうだな♪」 「誰かと思いきや…貴様は東国の軍神…夜桜崇徳王か!?」 背後から幽鬼王に挨拶した人物とは戦乱時代に活躍した武士の一人…。東国の軍神として各国の領主達から畏怖された夜桜崇徳王だったのである。 「如何して地獄の世界とは無縁の貴様がこんな場所に!?一体何が発生したのだ?」 崇徳王の姿形は若武者であるものの…。彼自身の肉体は霊体であり全身は半透明化した状態である。すると霊体の崇徳王は満面の笑顔で…。 「私は久方振りに大昔の好敵手に再会したくなったのだ♪貴殿が元気そうで安心したよ♪月影幽鬼王♪」 幽鬼王は笑顔の崇徳王にピリピリしたのである。 「此奴は…気に入らない野郎だな…何が元気そうで安心したよ…」 苛立った様子の幽鬼王であるが…。一方の崇徳王は再度笑顔で返答する。 「幽鬼王よ♪貴殿は以前よりも穏健化したな♪歓喜だぞ♪」 「はっ!?」 崇徳王の発言に幽鬼王は怒号し始める。 「何が穏健化だ!五百年間が経過したとしても俺にとって貴様は打倒すべき怨敵であり誰よりも気に入らない人間だ!」 崇徳王に怒号した幽鬼王であるが…。崇徳王は笑顔で返答したのである。 「五百年前の貴殿であれば…憎悪の対象である私に即刻復讐しただろうな…私に復讐するのであれば阿修羅武神の霊力だって再度利用するだろうよ…」 崇徳王の発言に幽鬼王はピクッと反応する。 「貴様は…今更こんな場所で亡者の俺に説教したいのか?」 五百年前の俗界での戦闘は幽鬼王にとって最大の黒歴史であり想起するだけでも腹立たしくなる。 「幽鬼王よ…先程の見ず知らずの少女が気になるのだろう?」 「なっ!?」 幽鬼王は再度ピクッと反応したのである。 「如何やら図星みたいだな♪幽鬼王よ♪」 「崇徳王…貴様はやっぱり気に入らないな…」 幽鬼王はピリピリする。 「幽鬼王よ…折角の機会だ…彼女の脱出に協力したら如何なのだ?本来彼女は俗界の生者であり…黄泉の地獄に存在するべき人間とは無縁の存在であろう…」 崇徳王は恐る恐る…。 「何よりも彼女は私の女房…桃子姫様と瓜二つなのだ…こんなにも殺伐とした場所で桃子姫様と瓜二つの少女を死なせたくない…」 すると霊体の崇徳王が消滅し始める。 「なっ!?崇徳王!?」 幽鬼王は腹立たしくなる。 『崇徳王の野郎…勝手に消滅しやがって…』 崇徳王の霊体が消滅してより数分後…。 『夜桜崇徳王…五百年間が経過しても彼奴は気に入らない野郎だぜ…』 幽鬼王は両目を瞑目させる。 『崇徳王の野郎…今更俺に対する至上命令か?』 崇徳王の発言が気に入らなかったのか非常に腹立たしくなるものの…。 「ん?」 『突然視界が…』 一時的に自身の視界が白色化し始める。 『一体全体何が?』 突如として幽鬼王の視界が白色化した直後である。彼自身の脳裏から生前にて両親を殺害された少女を斬首した光景は勿論…。怨敵である桃子姫やら小梅姫と交戦した光景が幽鬼王の脳裏に発現されたのである。 『此奴は俺の生前の…大昔の記憶なのか?如何して今更…生前の光景が?』 生前の記憶が発現され…。幽鬼王は困惑したのである。 『ひょっとして崇徳王の霊力なのか?』 「畜生が…崇徳王の野郎…今更亡者の俺に如何しろと?」 先程の光景に影響されたのか桜花姫の様子が気になり始める。 『彼奴は…』 不本意であるが…。 『正直…崇徳王の野郎に服従するのは気に入らないが…』 幽鬼王は桜花姫の尾行を決意したのである。 「一か八かだが…暇潰しに妖女の小娘を地獄の世界から追放するべきか?」 『こんな場所で彼奴に死なれても傍迷惑だからな…』 幽鬼王も行動を開始する。
第十八話
石門 桜花姫が移動を開始してより三十分が経過…。周辺の道中より無数の霊力を察知したのである。 「無数の霊力だわ…」 『ひょっとして地獄の悪霊かしら?』 桜花姫はソワソワした様子で周囲を警戒する。数秒間が経過すると周囲の地面より数十体…。数百体もの悪食餓鬼が出現したのである。 『彼等は悪食餓鬼かしら?』 無数の悪食餓鬼は物珍しい様子で桜花姫に殺到する。 「毎回…毎回鬱陶しい奴等ね…」 『相手が悪食餓鬼程度なら…今現在の私でも仕留められるかしら?』 桜花姫は両腕から無数の触手を生成し始め…。殺到する無数の悪食餓鬼を体内の触手で拘束したのである。 「折角だからあんた達の肉体♪頂戴するわね♪」 触手で拘束した悪食餓鬼の全身を覆い包み…。多数の悪食餓鬼諸共自身の体内へと吸収したのである。 『気味悪いけど…ウィプセラスの特殊能力も案外役立つのね♪』 ウィプセラスの特殊能力が便利であると感じる。移動し続けてより数分後…。 『石造りの城門?』 桜花姫は石造りの四十尺サイズの城門らしき巨大物体を発見する。 『ひょっとして地獄の石門かしら?』 城門らしき石造りの物体とは目的地である地獄の石門だったのである。 「此奴を通過出来れば…私は暑苦しい地獄の世界から無事に脱出出来るのね♪」 『案外楽勝だったわ…』 桜花姫は楽勝であると感じるものの…。 「えっ…」 背後から強大なる霊力を感じる。 『霊力かしら?』 桜花姫は恐る恐る背後を警戒…。 『此奴はひょっとして…石門の門番…』 桜花姫の背後には等身大サイズの巨大鬼首と巨大牛車が一体化した巨体の悪霊が出現…。巨体の悪霊はギロッとした鬼神の形相で桜花姫を睥睨したのである。 『此奴は上級悪霊の地獄朧車だわ…』 地獄朧車とは戦乱時代に斬首された武将達の無念の集合体である。霊力は通常の悪霊よりも桁外れに強力であり数多くの神出鬼没の悪霊では上級に君臨する上級悪霊の一体として知られる。 『如何やら地獄の石門に地獄朧車が出現するのは本当だったのね…』 以前南国の鬼面山に出現した地獄朧車は口寄せの妖術によって異世界に存在する巨大兵器を召喚…。口寄せした異世界の巨大兵器の使用によって強豪の地獄朧車には間一髪辛勝出来たのである。 「はぁ…面倒ね…」 『如何しましょう?』 今回は十八番の天道天眼が使用出来ず…。自力で上級悪霊の地獄朧車を仕留めるのは確実に不可能である。 『門番の地獄朧車を仕留めないと…地獄の石門を突破出来ないのね…』 桜花姫は人一倍自身が災難であると感じる。すると地獄朧車の車体前方の巨大鬼首が人語で発語し始める。 「コムスメヨ…キサマハゾッカイノセイジャカ?イキテイルニンゲンガ…ヨミノジゴクニオチルトハ…キサマハカヨワイコムスメノブンザイデアリナガラ…マレニミルソウトウノワルダナ…」 「はっ?」 『此奴…』 地獄朧車の発言に桜花姫は全身がプルプルし始める。 「マアイイ…ドノミチキサマハ…ココデシヌ…ウンメイナノダカラナ…」 「何が運命よ!私はこんな場所では死なないわよ!」 桜花姫は地獄朧車の発言に否定したのである。 「ミノホドシラズナコムスメフゼイガ…キサマハコノママ…イキテカエレルトハオモウナヨ!ココデキサマヲ…ブッコロシテヤルゼ!」 地獄朧車は車体前方の巨大鬼首の口部を開口させる。 「コレデモクライヤガレ!ミノホドシラズノコムスメフゼイ!」 地獄朧車は口先から霊力で形作った高熱の火球を発射したのである。 『火球だわ…一か八かよ!』 地獄朧車の高熱の火球が直撃する直前…。桜花姫は両手から触手を生成させ高熱の火球を吸収したのである。 『ウィプセラスの触手って…悪霊の霊力も吸収出来るのね♪』 「予想以上に便利だわ♪ウィプセラスの特殊能力♪」 ウィプセラスの吸収力は万能であり荒唐無稽の妖術やら神通力は勿論…。神出鬼没の悪霊の霊力さえも無力化出来る。 『ウィプセラスの特殊能力を駆使しちゃえば天道天眼が無くても地獄の石門を突破出来るかも知れないわね!』 桜花姫はウィプセラスの特殊能力により地獄の世界から脱出出来ると確信する。すると地獄朧車は再度口先を開口させる。 「オレノコウゲキヲムリョクカスルトハ…キサマハアクウンノツヨイオンナダナ…シカシ…キサマガワラッテイラレルノモ…ココマデダ!」 地獄朧車の口先より鋼鉄の大砲が出現したのである。 「えっ!?今度は大砲!?」 「コイツハオクノテダ…コノタイホウデ…キサマヲフットバシテヤルゼ!カクゴシヤガレ…ミノホドシラズノコムスメ!」 数秒後…。 『実弾なの!?』 鋼鉄の大砲から鋼鉄の砲弾が発射されたのである。 『止むを得ないわね…今度こそ一か八かよ!』 桜花姫は触手で肉塊の防壁を生成するのだが…。 「きゃっ!」 鋼鉄の砲弾により肉塊の防壁は容易に破壊され桜花姫は吹っ飛ばされたのである。 「ぐっ…」 吹っ飛ばされた影響で背後に位置する地獄の石門表面に激突…。桜花姫はグッタリとした状態で地面に横たわる。彼女は恐る恐る自身の両腕を直視したのである。 「えっ…」 体内の触手で硬化させた桜花姫の両腕は地獄朧車の砲撃により吹っ飛ばされ…。地面には大量の肉片と鮮血が流れ出る。 『迂闊だったわ…両腕が破壊されちゃうなんて…』 先程の攻撃は通常の実弾による物理的攻撃である。荒唐無稽の霊力さえも吸収出来るウィプセラスの特殊能力が発揮出来ず…。容易に破壊されたのである。 「コンドコソトドメダ!コノママキサマヲヒキコロシテヤル!カクゴシロ!」 地獄朧車は猛スピードで地面に横たわった状態の桜花姫に急接近する。一方の桜花姫は逃げたいのだが…。 『逃げたいけど…こんな状態では…無理そうね…』 先程の砲撃によって両腕が吹っ飛ばされた悪影響で逃げたくても逃げられない。 『私は…俗界には戻れなくなるわ…結局私は亡者達の仲間入りなのね…』 桜花姫は俗界に戻れないと覚悟した直後…。 「ナンダト!?ギャッ!」 突如として地獄朧車が爆散したのである。 「えっ!?」 『何事なの!?』 突然の出来事に桜花姫はハッとした表情で驚愕する。 『一体何が発生したのかしら?』 「如何して地獄朧車は爆散したのよ?」 すると桜花姫の背後より…。 「えっ…あんたは?」 「こんな雑魚を相手に瀕死の状態とは…貴様は桃子姫よりも脆弱だな…」 「誰かと思いきや…あんたは月影幽鬼王!?」 桜花姫の背後に出現したのは先程遭遇した月影幽鬼王であり左手には携帯式の榴弾砲を装備する。 「如何して亡者のあんたが…生身の生者である私なんかを?あんたは悪霊の仲間でしょう?如何してあんたは同族の悪霊を仕留めたのかしら?」 幽鬼王はギロッとした表情で桜花姫を睥睨し始め…。 「えっ…何よ?幽鬼王…」 桜花姫は幽鬼王の表情に一瞬ドキッとする。 「こんな場所で生者の貴様に死なれちまうと非常に面倒だからな…恐らく貴様の死後は地獄の世界で確定だろうし…」 彼にとって死後の地獄の世界とは最高の楽園だったのである。生者の桜花姫が地獄の世界に滞留するのは勿論…。此処で活動されるのは目障りに感じる。 「私は…今度こそ俗界に戻れるのね♪」 桜花姫は大喜びする。 「感謝するわね♪月影幽鬼王♪私は…悪霊のあんたを誤解しちゃったみたい♪」 桜花姫は幽鬼王に感謝するのだが…。 「勘違いするなよ…妖女の小娘…俺にとって生身の生者は敵対者同然なのだ…所詮亡者と生者は相容れないのだからな…」 幽鬼王は桜花姫の発言を全否定する。 「貴様は鬱陶しい小娘だな…」 すると桜花姫は只管ニコッとした表情で…。 「天狐如夜叉から天道天眼を無事奪還出来たら…幽鬼王♪悪霊のあんたを本物の生者として復活させるわね♪生者と死者が相容れないならあんたが生者として復活すれば解決でしょう♪」 幽鬼王は桜花姫の発言にピクッと反応したのである。 「俺を生者として復活させると?残念だが俺は二度と俗界へは戻りたくないな…」 桜花姫は生者への復活を拒否した幽鬼王を意外であると感じる。 「えっ?折角生身の人間として俗界に戻れるのに勿体無いわね…あんたは俗界に戻りたくないの?正直居心地だけなら此処よりも最高よ♪」 問い掛けられた幽鬼王は小声で即答する。 「俺にとって生身の肉体は非常に脆弱で不自由だ…最強を希求する俺には共存共栄の俗界は相応しくない…生身の肉体は寿命にも束縛されるからな…」 幽鬼王にとっては今現在の悪霊の肉体が大満足であり生身の人間として復活したくなかったのである。 「何よりも地獄の世界は悪霊の魔窟だ…地獄の世界であれば思う存分に無数の悪霊を仕留められるからな…地獄の世界は俺にとっての極楽浄土だ…」 すると桜花姫はニヤッと微笑み始める。 『私も寿命で旅立つなら退屈そうな極楽浄土の天国なんかよりも…殺伐とした地獄の世界に旅立ちたいわね♪』 最初こそは不安であったが…。桜花姫は地獄の世界に魅了されたのである。 『天国は退屈って印象だし…案外地獄の世界って面白いのかも知れないわね♪』 すると直後…。 「何かしら?」 「地獄の石門が開門されたな…如何やら時間みたいだ…」 地獄の石門は生身の生者である桜花姫に反応すると自動的に開門したのである。 「地獄の石門が開門されたわ…私は俗界に戻れるのかしら?」 「地獄の石門が生身の生者である貴様に反応したみたいだ…地獄の石門を通過出来れば貴様は俗界に戻れるかも知れないぞ…」 桜花姫は満面の笑顔で…。 「達者でね♪幽鬼王♪」 「小娘…貴様は…」 「えっ…何よ?幽鬼王?」 幽鬼王は寂然とした様子であり恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「貴様の…名前は?」 「えっ…私の名前ですって?」 桜花姫は一瞬表情が赤面するものの…。笑顔で名前を名乗る。 「私の名前は桜花姫♪最上級妖女の…月影桜花姫よ♪」 「貴様は最上級妖女の…月影桜花姫か…」 幽鬼王はボソッと小声で本音を口走る。 「桜花姫とやら…貴様が戦乱時代の人間で生前の俺と遭遇しちまったら…俺の人生は大分変化したのかも知れないな…」 『幽鬼王♪』 桜花姫は幽鬼王の本音に内心嬉しくなる。 「勿論…私も一緒よ♪月影幽鬼王♪」 『私と桃子姫…生誕した時代が真逆だったら私達は幸福だったのかしら?如何やら私達は生誕した時代を間違えちゃったみたいね…』 桜花姫は内心殺伐とした戦乱時代に羨望したのである。 「兎にも角にも…貴様にとって本来の居場所は俗界なのだろう?即刻俗界に戻りやがれ…正直貴様は人一倍目障りだからな…」 「勿論よ♪御免あそばせ♪」 桜花姫は恐る恐る地獄の石門を通過…。 「えっ…」 背後を直視すると地獄の石門が自動的に閉門されたのである。 『地獄の石門が閉門しちゃったわね…』 僅少であるが…。 『私は金輪際地獄の世界へは戻れなくなったのね…』 「地獄の世界も…私にとっては案外悪くないのかも知れないわ…」 桜花姫は内心寂然に感じる。 『俗界に戻らないと…八正道様とか小猫姫が心配するわよね…』 周辺を直視すると視界全体が漆黒の暗闇空間であり非常に不吉である。 「周辺は暗闇だわ…如何やら此処は生死の境界線みたいね…」 『私は…俗界に戻れるのかしら?』 桜花姫は俗界に戻れるのか不安に感じる。すると数秒後…。 「えっ…」 突如として強烈なる眠気を感じる。 『眠気だわ…』 突然の眠気により桜花姫はパタッと地面に横たわり始め…。極度の疲労困憊からか衰弱化したのである。 『私の…意識が…』 生死の境界にて彼女の意識が喪失する。
第十九話
危篤 一時的に死後の世界である黄泉の地獄に幽閉された桜花姫であるが…。地獄の住人である月影幽鬼王の協力によって桜花姫は俗界と地獄の世界の境界線とされる地獄の石門を無事通過出来たのである。生死の境界とされる漆黒の空間にて衰弱化した桜花姫は自身の自宅にて目覚める。 「えっ…」 『私は?』 桜花姫は寝惚けた様子であり周囲を直視し始める。 『此処って馴染み深い光景ね…』 極度の安心感によりホッとしたのである。 「此処は私の…家屋敷だわ…」 『私は…地獄の世界から無事に脱出出来たのね♪』 無事に殺伐とした地獄の世界から戻れたと実感出来…。桜花姫は大喜びする。 『早速今回の出来事を誰かに自慢しちゃおうかしら♪』 地獄の世界での出来事は滅多に体験出来ない出来事であり誰かに自慢したくなる。 『最初に自慢するなら…八正道様よね♪』 すると直後である。何者かが自宅の板戸をトントンッとノックする。 「えっ?」 『誰かしら?』 桜花姫は恐る恐る玄関へと移動すると玄関口には粉雪妖女の雪美姫が自宅に訪問したのである。 「誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の雪美姫?私に用事かしら?」 「桜花姫…」 雪美姫は非常に深刻そうな表情で桜花姫を凝視する。 「桜花姫…大変なのよ…」 桜花姫は雪美姫の深刻そうな表情に一瞬ゾッとしたのである。 「えっ…何が大変なのよ?雪美姫?」 雪美姫は恐る恐る…。 「あんたの仲間…蛇体如夜叉って老女だったかしら?」 「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃんが…何よ?雪美姫…」 桜花姫は蛇体如夜叉の名前にソワソワし始める。 「蛇体如夜叉…危篤状態らしいのよ…」 「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃんが…危篤状態ですって?」 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 蛇体如夜叉は危篤状態であり今夜が山場だったのである。 「桜花姫…今直ぐ私と一緒に南国の村里に直行しましょう…」 「承知したわ…雪美姫…」 外出すると時間帯は深夜帯であり星空が眺望出来る。すると雪美姫が桜花姫の方向を直視し始める。 「桜花姫…あんたが三日間も留守だったから心配したのよ…」 「えっ?」 『三日間ですって?』 桜花姫は三日間も地獄の世界に滞在中だったのである。 『私って三日間も地獄の世界に幽閉されたのね…』 別次元である地獄の世界での幽閉が影響したのか桜花姫は時間の感覚が麻痺する。 「桜花姫?大丈夫なの?」 桜花姫は疲れ果てた様子であり雪美姫は心配したのである。 「心配しなくても私なら大丈夫よ…雪美姫♪」 桜花姫は笑顔で返答する。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 内心では蛇体如夜叉の様子が気になりソワソワしたのである。
第二十話
永眠 彼女達は移動を開始してより二時間後…。桜花姫と雪美姫は南国の村里に存在する天女の村里に到達したのである。 「南国の村里だわ…」 「蛇体如夜叉婆ちゃんの家屋敷は…」 真夜中の村内を移動してより数分後…。桜花姫と雪美姫は蛇体如夜叉の自宅へと到着したのである。 「桜花姫姉ちゃん…」 「桜花姫様でしたか…」 蛇体如夜叉の自宅には八正道と小猫姫は勿論…。 「蛇体如夜叉婆ちゃんが…」 居室の中心部には衰弱化した状態の蛇体如夜叉が確認出来る。最早蛇体如夜叉は虫の息であり発語も不可能だったのである。 「桜花姫姉ちゃん…」 小猫姫は落涙した様子で桜花姫を直視する。 「小猫姫…」 桜花姫は恐る恐る小猫姫に近寄る。 「御免なさいね…三日間も留守しちゃって…」 小猫姫に謝罪したのである。 「大丈夫…大丈夫よ…気にしないで…桜花姫姉ちゃん…」 小猫姫は小声で返答する。 『小猫姫…』 桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。 「蛇体如夜叉婆ちゃんは…」 衰弱化した蛇体如夜叉は最早両目を瞑目させ素肌も土気色の状態だったのである。桜花姫は蛇体如夜叉の変化に傷心する。 『老衰かしら?蛇体如夜叉婆ちゃん…』 桜花姫は恐る恐る土気色の蛇体如夜叉の皮膚に接触したのである。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…こんな状態では…』 桜花姫が接触した直後…。蛇体如夜叉は全身の筋力がスーッと脱力したのである。 「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 蛇体如夜叉は老衰により息絶える。 「蛇体如夜叉様は…老衰による自然死ですね…」 八正道は両手で老衰した蛇体如夜叉に合掌する。一方沈黙状態の雪美姫は内心…。 『こんな発言は近親者の桜花姫と小猫姫には出来ないけれど…蛇体如夜叉の死に方は理想の死に方よね…出来るなら私自身も…』 不謹慎であるが雪美姫は蛇体如夜叉の死に方を理想の死に方であると感じる。すると直後である。 「えっ!?蛇体如夜叉婆ちゃん!?」 自然死した蛇体如夜叉の肉体が突如としてピカッと発光したかと思いきや…。蛇体如夜叉の全身が白色の白蛇に変化したのである。 「なっ!?蛇体如夜叉様が白蛇に!?一体何が!?」 「白蛇だわ…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん?」 数秒後…。白色の白蛇は粒子状の発光体に変化すると消滅したのである。 「如何やら蛇体如夜叉様は天空世界に旅立たれたのでしょうね…」 八正道が発言すると雪美姫も発言する。 「最期に白蛇に変化するなんて摩訶不思議ね…一体何事だったのかしら?」 「本来蛇体如夜叉婆ちゃんは白蛇の神族なのよ…」 「蛇体如夜叉の正体は白蛇だったのね…」 すると桜花姫は恐る恐る小猫姫の様子を直視したのである。 『先程から小猫姫は無言だわ…一言も喋らないわね…』 先程から小猫姫は沈黙し続けた様子であり一言も喋らない。一時間は沈黙の空気であり誰しもが室内の重苦しい空気が気まずいと感じる。沈黙の一時間が経過してより数分後…。一同は無言で解散したのである。帰宅中…。桜花姫は深夜帯の夜空を眺望する。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 桜花姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。 『本当に死んじゃったのね…蛇体如夜叉婆ちゃん…二度と…』 蛇体如夜叉の家屋敷から退出してより一時間後…。桜花姫は無事に自宅へと戻ったのである。 「はぁ…」 桜花姫は自宅の居室にて寝転び始める。 『倦怠感かしら?』 度重なる出来事からか桜花姫は精神的にも肉体的にも疲れ果てる。 『熟睡しちゃいましょう…』 桜花姫は睡眠したのである。
第二十一話
精霊 帰宅してより数時間が経過する。数時間熟睡し続けた桜花姫であるが…。 「えっ…」 摩訶不思議の気配により目覚める。 『何かしら?』 桜花姫は気配の正体が気になったのか恐る恐る外出する。周囲の空間には虹色の発光体が無数に浮遊した状態だったのである。 「無数の発光体だわ…」 『一体何かしら?』 桜花姫は摩訶不思議の光景に愕然とする。すると今度は精霊故山から摩訶不思議の神通力を察知したのである。 『ひょっとして神通力かしら!?』 精霊故山の方角から神通力が感じられる。 『精霊故山の方向ね…移動しましょう!』 気になった桜花姫は即座に精霊故山へと直行する。精霊故山の天辺を直視すると天辺全体が虹色の発光により光り輝いたのである。 『精霊故山では一体何が発生したのかしら?』 自宅から移動してより数分後…。桜花姫は精霊故山の頂上へと到達する。 「えっ?」 『頂上の中央に…広葉樹だわ…』 精霊故山の頂上中心地には十五間サイズの巨大広葉樹が存在…。巨大広葉樹の木枝には虹色の単葉やら果実が無数に確認出来る。桜花姫は一息すると恐る恐る…。 『ひょっとして広葉樹の正体は…妖星巨木かしら?』 精霊故山の頂上中心部に聳え立つ巨大樹木とは世界樹の妖星巨木だったのである。 『如何して世界樹の妖星巨木がこんな場所に?』 妖星巨木は突発的に出現する摩訶不思議の超自然的樹木とされるが…。突然の妖星巨木の出現に意味深さを感じる。すると突如として妖星巨木の樹木全体がピカッと虹色に発光したのである。 「きゃっ!」 突然の樹木の発光によって桜花姫は両目を力一杯瞑目させる。樹木が発光してより数秒後…。 「えっ…」 桜花姫は両目を見開くと彼女の目前には小柄の巫女装束の女性が佇立する。 「あんたは…誰なの?」 彼女は黒髪の長髪であり桜花姫と瓜二つの容姿だったのである。桜花姫は自身と瓜二つの女性に恐る恐る近寄る。 「姿形は巫女っぽいけれど…あんたは巫女の霊体かしら?」 巫女装束の女性の瞳孔は半透明の瑠璃色であり桜花姫は驚愕する。 「あんたは…一体何者なのよ?」 『彼女の両目…半透明の瑠璃色だわ…ひょっとして天道天眼かしら?ひょっとすると彼女も妖女なのかしら?』 巫女装束の女性は恐る恐る問い掛ける桜花姫に名前を名乗り始める。 「姿形は元祖妖女の…桃子姫であるが…私自身は妖星巨木の精霊なのだ…」 「えっ…妖星巨木の精霊ですって?」 雰囲気こそ事件後の二年前以前とは若干変化したものの…。妖星巨木の精霊との遭遇は悪霊事件後の二年前以来である。 「あんたの容姿…元祖妖女の桃子姫だったのね…」 「桃子姫の死後…彼女の魂魄は樹体である私自身と同化したのだからな…」 「今現在の妖星巨木と桃子姫の魂魄は一心同体なのね…」 桜花姫は再度妖星巨木の精霊に問い掛ける。 「如何してあんたは精霊故山の頂上に出現したのよ?」 「最上級妖女の月影桜花姫よ…単刀直入に発言するが…」 すると妖星巨木の精霊は一息したのである。 「其方は天狐如夜叉と名乗る…神族の暴走を徹底的に阻止するのだ…」 「天狐如夜叉ですって!?」 桜花姫は天狐如夜叉の名前に反応する。 『彼奴は私の天道天眼を奪取した神族の一人だったわよね?』 桜花姫は天狐如夜叉の名前に腹立たしくなる。 「私が天狐如夜叉の暴走を阻止ですって?」 「天狐如夜叉は神族でも最強に部類される絶対的存在なのだ…今現在俗界で彼女を阻止出来るのは…恐らく最上級妖女である月影桜花姫…其方のみであろう…」 妖星巨木の精霊は桜花姫の実力を高評価するのだが…。 「残念ね…妖星巨木の精霊…」 「月影桜花姫?何が残念なのだ?」 桜花姫は落胆した様子で返答する。 「先日の出来事だけどさ…生憎私はね…天狐如夜叉って神族に天道天眼を奪取されちゃって…金輪際天道天眼を駆使出来なくなったのよ…」 桜花姫は困惑したのである。 「天狐如夜叉が其方の天道天眼を奪取されたのか?其方が天狐如夜叉に天道天眼が奪取されたのは本当なのか?月影桜花姫?」 妖星巨木の精霊は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「天道天眼が無くなった私では天狐如夜叉を阻止したくても阻止出来ないわよ…」 「非常に信じ難い内容であるな…邪霊餓狼を浄化させた最上級妖女の其方が天道天眼を奪取されるとは…」 妖星巨木の精霊は落胆する。 「残念だけど…今現在の私は何一つとして妖術が使用出来ない下級妖女なのよね…今現在の私は単なる役立たずの小娘風情なのよ…」 問い掛けられた桜花姫は困惑した表情で発言したのである。 「先程の内容が事実であるなら…地上世界は勿論…全世界の滅亡は絶対的に回避出来なくなるな…」 「全世界の滅亡ですって!?天狐如夜叉は一体何を?」 桜花姫は愕然とした表情で恐る恐る妖星巨木の精霊に問い掛ける。 「天狐如夜叉は其方から奪取した天道天眼の効力で全世界に存在する下級種族を滅亡させ…恐らくは神族のみが君臨出来る神世界を創造するのだろう…」 本来天道天眼は神族でも最高神に分類される神族の所有物であり高等の神術である。神族でも最高神に分類する神族が神族の眼光…。所謂天道天眼を発動すると無限の森羅万象をも翻弄出来るとされる。 「如何すれば天狐如夜叉の野望を阻止出来るのよ?」 「止むを得ないな…此奴は最終手段だぞ…」 「最終手段ですって?」 突如として妖星巨木の精霊の左手より虹色に発光する摩訶不思議の果実が出現…。 「虹色の果実だわ…一体何かしら?」 妖星巨木の精霊は桜花姫に虹色の果実を手渡したのである。 「妖星巨木の神聖なる果実だ…此奴は戦乱時代に元祖妖女である桃子姫が菜食した代物であるぞ…」 妖星巨木の果実を菜食した人間は妖力を所持出来るとされる。 「私の神聖なる果実を菜食すれば…妖女である其方は再度…神性妖術の天道天眼を開眼出来…下級妖女から一握りの最上級妖女に戻れるかも知れないぞ…」 「えっ…天道天眼を?」 桜花姫は緊張したのか一息する。 『妖星巨木の果実で私は最上級妖女に戻れるのかしら?』 妖星巨木の精霊に手渡された虹色の果実を恐る恐る一口菜食したのである。 「えっ?」 直後…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。 「如何やら其方に天道天眼が戻ったみたいだな…」 「本当に♪私に天道天眼が戻ったの♪」 肉体に妖力が戻ったのかは無感覚であったが…。桜花姫は天道天眼の開眼に大喜びしたのである。 「えっ…」 天道天眼を開眼してより数秒後…。 『体内から妖力が戻った感覚だわ…』 「やっぱり私に妖力が戻ったのね♪」 桜花姫は天道天眼の開眼によって本来の妖力が戻ったと自覚出来たのである。 「余談であるが…此処で其方が衰弱死しなかったのは奇跡だ…」 「えっ?私が衰弱死ですって?何が奇跡なのよ?」 妖星巨木の精霊はボソッと一言…。 「基本的に私の果実を菜食した人間は…即刻衰弱死するのだ…」 「えっ!?」 桜花姫は精霊の一言に一瞬絶句したのである。 『衰弱死って…』 本来妖星巨木の果実とは別名禁断の果実として知られる。普通の人間が妖星巨木の果実を菜食した場合…。数秒間で衰弱死するとされる。誰しもが妖星巨木の果実によって妖力は所持出来ない。 「私と桃子姫があんたの果実で死ななかったのは…」 「所謂其方と桃子姫は運命的存在であり…最初から人外の妖女として覚醒すべき人間の小娘であっただけだ…」 「えっ…はぁ…」 『正直…私には何が何やらサッパリだわ…』 桜花姫は内心珍紛漢紛だったのである。 「兎にも角にも♪私には天道天眼と本来の妖力が戻ったし♪妖星巨木の精霊には感謝するわね♪」 すると妖星巨木の精霊は真剣そうな表情で…。 「折角だが月影桜花姫よ…其方に対面したい人物が三人…存在するのだ…」 「えっ?三人も?」 『私に対面したい人物ですって?一体誰なのかしら?』 妖星巨木の精霊は自身の神通力で三体もの霊体を口寄せしたのである。桜花姫の背後より三人の半透明の人物が出現…。一方の桜花姫は警戒した様子で恐る恐る三人の霊体を直視したのである。 「えっ!?あんた達は…」 半透明の人物達とは老衰により死去した老婆の蛇体如夜叉と群青色の着物姿の女性が一人…。若齢の若武者が佇立する。 「あんたは蛇体如夜叉婆ちゃんと…母様!?若武者は誰かしら…」 「若武者は其方の実父…月影鉄鬼丸と名乗る人間の武士だ…」 「若武者のあんたが…私の父様なのね…」 群青色の着物姿の女性とは桜花姫の実母…。月影春海姫であり若齢の若武者は父親の月影鉄鬼丸である。すると蛇体如夜叉は満面の笑顔で…。 「桜花姫ちゃん♪あんたと再会出来て何よりだよ♪元気そうだね♪」 蛇体如夜叉は桜花姫との再会出来大喜びする。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんなのね…」 一方の桜花姫は蛇体如夜叉との再会に涙腺から涙が零れ落ちる。 「桜花姫ちゃんらしくないね…落涙しないの♪今現在の私は自然界と一体化した超自然的存在だよ♪」 蛇体如夜叉は老衰の影響により人間の老婆としての肉体は維持出来なくなったが…。彼女の魂魄は自然界の一部として一体化したのである。 「消滅したのは実体としての肉体だけだからね♪あんまり悲観しないでね…桜花姫ちゃんよ♪」 桜花姫は気まずそうな表情で…。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…私自身は大丈夫だけど…小猫姫が…」 蛇体如夜叉は小猫姫の名前に一瞬不安に感じる。 「小猫姫…彼女はね…」 小猫姫は蛇体如夜叉の自然死により彼女自身の傷心は想像以上であると予想出来る。桜花姫も小猫姫を元気付けるには如何するべきなのか困惑したのである。 「小猫姫は人一倍純粋無垢だからね…当分は時間が必要不可欠だろうね…」 「私は彼女を…小猫姫を元気付けたいわ…元気付けたいけど…」 桜花姫は意気消沈状態の小猫姫を元気付けたいと発言…。困惑した桜花姫に蛇体如夜叉は再度笑顔で発言する。 「桜花姫ちゃん♪彼女なら大丈夫だよ♪」 「えっ?何が大丈夫なのよ?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「時間が解決するさ♪小猫姫には時間が必要不可欠だけどね…」 小猫姫の様子から現状では蛇体如夜叉の永眠から一時的に気力が消失…。彼女を元気付けるのは非常に困難であるものの時間が解決すると蛇体如夜叉は思考する。 『小猫姫は無理に元気付けないのが無難かしら…』 すると今度は母親の春海姫が笑顔で発言したのである。 「桜花姫♪久し振りね♪貴女が元気そうで安心したわ♪」 「えっ…母様…」 桜花姫は春海姫との再会に気まずくなる。春海姫に恐る恐る…。 「御免なさい…母様…私は二十年前に母様を…」 恐る恐る謝罪した桜花姫であるが春海姫は笑顔で返答する。 「気にしないで♪桜花姫♪」 「えっ…母様?私は妖力で母様を殺したのよ…気にしないなんて私には出来ないわよ…私は母様を殺した極悪非道の重罪犯なのよ…」 春海姫は一息すると真実を告白したのである。 「桜花姫…私の本当の死因はね…悪食餓鬼の毒素が原因なのよ…」 「えっ?悪食餓鬼の毒素ですって?」 桜花姫は一瞬動揺する。 「桜花姫…私はね…」 春海姫は鉄鬼丸と婚姻する三年前の真夜中…。春海姫は悪食餓鬼に襲撃され左手を大怪我したのである。外傷自体は軽傷であったが愛娘の桜花姫が誕生してより十二年後…。春海姫は悪食餓鬼の毒液が全身に転移したのである。蛇体如夜叉の治癒の神術でも延命治療が限界だったとされる。 「本当の原因は悪霊の毒素なのよ…悪食餓鬼の毒素は非常に強力なの…神族の蛇体如夜叉婆様でも治療出来ない程度に…」 悪食餓鬼は悪霊でも脆弱の代名詞であるが…。彼等の毒素は非常に強力であり怪力乱神の神族でも致命的とされる。 「桜花姫は自分自身を自責しないで…」 春海姫の発言により心情の罪悪感が解消されたのである。 「貴女は何も悪くないのよ…桜花姫♪」 「母様…」 桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。今迄は母親の春海姫を殺害した罪悪感により辛苦されたが…。春海姫との再会により長年の罪悪感から解放されたのである。すると今度は父親の鉄鬼丸が発言する。 「桜花姫なのか?こんなにも美人に成長するとは…姿形は母さんみたいだな…」 「えっ…」 『私が美人ですって♪』 桜花姫は鉄鬼丸の美人の一言に赤面し始め…。 『鉄鬼丸様…』 母親の春海姫も赤面したのである。 「私が母様みたいな美人なんて♪父様は大袈裟ね♪」 すると鉄鬼丸は小声で…。 「初対面だが…俺は桜花姫が元気そうで安心したよ…今迄大変だったな…桜花姫…悪かったな…桜花姫は今迄一人で辛かっただろう?」 鉄鬼丸は桜花姫に謝罪したのである。 「別に父様が謝罪しなくても…案外一人でも気楽だったし♪悪霊征伐も匪賊征伐も面白かったわよ♪」 「此奴…」 『桜花姫は外見とは裏腹に随分と活気だな…誰に影響されたのやら?』 鉄鬼丸は彼女のか弱そうな外見とは裏腹に活気であると感じる。 「私は一人でも幸福よ♪父様が心配しなくても私は大丈夫だからね♪」 「俺が心配しなくても大丈夫そうだな…桜花姫が幸福であれば俺は大満足だ♪」 「父様♪」 桜花姫は鉄鬼丸の発言に微笑み始める。鉄鬼丸は意外にも今迄のイメージとは裏腹に優男であると感じる。 「父様?」 「ん?如何した?桜花姫?」 桜花姫は真剣そうな表情で恐る恐る問い掛ける。 「父様って…天狐如夜叉って名前の神族に殺害されたの?」 「彼奴か…天狐如夜叉…」 桜花姫に問い掛けられると鉄鬼丸の表情が険悪化したのである。 「想起したくない過去であるが…俺が天狐如夜叉に斬殺されたのは事実だ…」 桜花姫はハッとした表情であり愕然とする。 「やっぱり父様が神族の天狐如夜叉に殺害されたのは本当だったのね…」 すると鉄鬼丸は恐る恐る…。 「当時の天狐如夜叉の心境は不明だが…彼奴の表情からは人間達に対する憎悪よりも自身の心情の悲痛さを感じられたな…俺の推測だが…彼女は俺に自身の暴走を阻止しろと泣訴した様子だったと感じるよ…」 「えっ?天狐如夜叉が?」 『誰よりも冷酷そうな彼奴が父様に泣訴?』 桜花姫は内心半信半疑だったのである。 「天狐如夜叉か…」 蛇体如夜叉は真剣そうな表情でボソッと発言する。 「えっ!?天狐如夜叉?神族ですって…」 すると今度は春海姫がハッとした表情で反応したのである。 「鉄鬼丸様は極悪非道の悪霊によって殺害されたのでは!?」 鉄鬼丸が死去した当時は誰しもが悪霊によって殺害されたと認識する。 「当時の俺は神出鬼没の悪霊を征伐しに出掛けたが…悪霊は木刀を所持した女人によって退治されたのだ…」 「木刀を所持した女人が天狐如夜叉だったのね…」 「無論だとも…」 すると春海姫は恐る恐る鉄鬼丸に問い掛ける。 「如何して天狐如夜叉って神族の一員が鉄鬼丸様を殺害されたのですか?」 「恐らくは肩慣らしか…別の誰かに教唆されたか…」 「天狐如夜叉の肩慣らしで鉄鬼丸様は…」 『天狐如夜叉…』 春海姫の表情が鬼神の形相へと変化したのである。 「えっ…母様…」 「春海姫ちゃん…」 桜花姫は勿論…。蛇体如夜叉も春海姫の表情に畏怖したのである。 「春海姫…俺は復讐なんて望まないさ…当時の彼奴の真意も不明瞭だし…」 春海姫と桜花姫は鉄鬼丸の発言に反応する。 「鉄鬼丸様…」 「父様…」 鉄鬼丸の発言から春海姫の表情が戻ったのである。 「剣豪の父様が瞬殺されるなんて…天狐如夜叉は剣術も超一流なのね…」 「桜花姫ちゃんよ…天狐如夜叉はね…」 今度は蛇体如夜叉が発言する。 「彼奴は姿形こそ小柄の小娘風情だけど…常人なんて簡単に瞬殺されるだろうよ…天狐如夜叉は剣術も達人だよ…」 桜花姫は妖星巨木の精霊を直視…。 「彼奴の木刀は妖星巨木の小枝で形作られた代物だったわよね?」 「勿論である…天狐如夜叉の木刀は私の肉体の一部から形作られた刀剣だからな…神力を混入させれば鋼鉄の刀剣だって簡単に屈折させるばかりか…荒唐無稽の妖術だって無力化出来る代物だぞ…」 「天狐如夜叉の木刀は厄介ね…」 『私の妖術も無力化されるでしょうし…一体何を如何すれば天狐如夜叉を相手に対抗出来るのかしら?』 桜花姫は再度妖星巨木の精霊に質問したのである。 「天狐如夜叉に対抗するには如何すれば?」 桜花姫の問い掛けに妖星巨木の精霊は即答する。 「天道天眼と木刀を所持する天狐如夜叉に対抗するには…天道天眼と退魔霊剣が必要不可欠だな…」 「退魔霊剣ですって?」 すると退魔霊剣の一言に鉄鬼丸が反応したのである。 「退魔霊剣とは東国の軍神であり…歴史的偉人である夜桜崇徳王が所持したとされる伝説の刀剣だな…天道金剛石の…」 「勿論だとも…」 すると桜花姫が発言する。 「退魔霊剣は八正道様が…」 「八正道だと?八正道とは一体誰なのだ?」 鉄鬼丸は桜花姫に問い掛ける。 「八正道様はね…」 すると蛇体如夜叉が満面の笑顔で返答する。 「八正道は人間の僧侶で桜花姫ちゃんの理解者だよ♪彼奴は助平だけど列記とした人格者だからね♪其処等の人間達とは別格だよ♪」 「助平って…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 桜花姫は苦笑いしたのである。一方の春海姫は笑顔で…。 「人一倍内気だった桜花姫にも人間の理解者がね♪是非とも八正道様って法師様には感謝しないと♪」 「こんな殺伐とした俗界にも聖者が存在するとは…八正道とやらには感謝しても感謝し切れないな…」 春海姫と鉄鬼丸は一安心する。妖星巨木の精霊は再度発言したのである。 「兎にも角にも…今現在天道天眼を所持した天狐如夜叉は最高神にも匹敵する絶対的存在なのだ…今現在天狐如夜叉に対抗出来るのは実質…最上級妖女である月影桜花姫だけだからな…」 天道天眼を開眼した天狐如夜叉は最早最高神にも匹敵する超越的存在へと大進化…。最早彼女に対抗出来るのは天道天眼を所持する桜花姫以外には存在しない。 「えっ…」 三人の様子に変化が発生する。直後…。 「一体何が?三人の肉体が…」 突如として半透明だった三人の肉体が消滅し始める。 「如何やら時間みたいだね…桜花姫ちゃん…」 蛇体如夜叉は満面の笑顔で桜花姫を直視し始め…。 「桜花姫ちゃんよ♪彼女を…天狐如夜叉を復讐心から解放してね♪あんたなら…あんた達なら出来るよ♪」 「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 蛇体如夜叉と天狐如夜叉は太古の大昔は悪友の関係だったのである。 「彼奴は列記とした神族の一人だけど…精神的には非常に未熟だからね♪」 正直天狐如夜叉の存在は気に入らなかったが…。 「私なりに精一杯努力するよ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 桜花姫は笑顔で返答したのである。 「大変かも知れないけど小猫姫と仲良く支え合いな♪間違っても口寄せの妖術なんかで自然界の一部である私を復活させないでね…私を復活させても桜花姫ちゃん自身が…」 「えっ…」 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 桜花姫は一瞬困惑するものの…。蛇体如夜叉の希望を尊重したのである。 「約束するよ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」 すると今度は母親の春海姫が発言する。 「桜花姫…達者でね♪私は何時迄も貴女の今後を見守るから♪」 「母様…」 桜花姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。今度は父親の鉄鬼丸が発言したのである。 「桜花姫よ…今後も大変だろうが…桜花姫は桜花姫らしく精一杯自由に生きろ!」 鉄鬼丸は一息する。 「俺にとっても…春海姫にとっても桜花姫は最愛の宝物だからな…天狐如夜叉なんかに殺されるなよ!桜花姫らしく精一杯頑張れよ…」 「父様…勿論よ♪」 数秒間が経過すると三人の肉体は完全に消滅したのである。 「はぁ…三人には二度と…」 『再会出来ないのね…』 桜花姫は内心切なくなり涙腺から涙が零れ落ちる。 「天狐如夜叉との戦闘は今迄とは比較出来ない大激戦が予想されるだろう…最悪全世界の滅亡も否定出来ない…」 「私が彼奴を…天狐如夜叉を征伐するわよ…相手が最強の神族だからって私は手加減しないから…」 桜花姫は断言する。 「であれば一安心だ…桜花姫…其方には期待するぞ!」 数秒後…。今度は精霊の肉体が消滅し始める。 「えっ?あんたの肉体が…」 「如何やら私自身も時間みたいだな…」 妖星巨木の精霊は最後に…。 「最上級妖女の月影桜花姫よ…天狐如夜叉から全世界を救済するのだ…最上級妖女の其方ならば全世界を…」 妖星巨木の精霊の肉体は完全消滅したのである。妖星巨木の精霊が消滅した直後…。 『滅亡からの全世界の救済なんて…』 「私なんかに出来るのかしら?」 天道天眼を開眼した桜花姫だが正直不安だったのである。
第二十二話
天空魔獣 故人である三人との再会から一週間後の早朝…。 『今現在でも近海の海底下に彼奴が…』 桃源郷神国の裏側に位置する青海原のとある絶島では神族の天狐如夜叉が到達したのである。 『十二人の最高神によって封印された…伝説の天空魔獣が存在するみたいだな…』 数十万年前もの太古の古代文明時代…。神族の最盛期であり地上世界には高度化された無数の神族による巨大文明社会が構築されたのである。とある某月某日…。天空世界より全長が小大陸規模の天空魔獣が出現したのである。規格外の天空魔獣は世界各地で暴れ回り大勢の神族やら人間達を大虐殺…。地上世界の各大陸の陸地をバリバリと食い散らかしたのである。天空魔獣は神族でも最強の部類とされる十二人の最高神と交戦…。空前絶後の長期戦が展開されたが最高神の超越的神力によって天空魔獣は暗闇の深海底にて封印されたのである。難敵であった天空魔獣の封印には成功するものの…。十二人の最高神は神通力の消耗によって衰弱死したのである。天空魔獣の暴走によって地上世界の地形が大幅に変化…。天空魔獣の暴走こそ神族が弱体化する決定的要因だったのである。 『目的地に移動するか…』 天狐如夜叉は天道天眼の効力により結界を発動…。目的地である深海底の海底下へと移動したのである。暗闇の海中を移動してより数分後…。天狐如夜叉は目的地の海底下へと到達する。 『今回は古代世界で大勢の神族を殺害した天空魔獣を復活させ…地上世界に君臨し続ける愚劣なる人間達を駆逐する!』 天狐如夜叉は海底下を凝視したのである。地上からは二十キロメートルの深度であり周辺は暗闇の海中であったが…。目的地の海底下中心部には規格外の巨大海亀らしき巨大岩石物体が確認出来る。全身の体表には血管らしきマグマが確認出来…。全身の彼方此方に火山が隆起する。 『此奴は…数十万年前に十二人の最高神によって封印された天空世界の天空魔獣…』 「通称…【羅刹大皇帝】だな…」 天空魔獣羅刹大皇帝と呼称される規格外の怪物は全身が凸凹した岩石の肉体である。凸凹した岩石の甲羅表面には無数の巨大人面が確認出来…。巨大海亀の尻尾の部分は凸凹した岩石の巨大海蛇の形状だったのである。本体前方に位置する巨大海亀の前額部は勿論…。本体後方に位置する巨大海蛇の前額部には醜悪なる人面が確認出来る。封印された羅刹大皇帝の全身には金剛石で形作られた巨大鉄鎖により封殺され…。羅刹大皇帝は封印の影響により完全に身動き出来ない状態だったのである。すると甲羅部分の巨大人面の一部が天狐如夜叉の神力に反応し始め…。 「ん?彼奴は…」 人語で喋り始める。 「こんな暗闇の深海底に人外の小娘風情か?」 甲羅部分の巨大人面は海中を浮遊し続ける天狐如夜叉をギロッと直視する。 「貴様は…一体何者だ?」 甲羅部分の巨大人面は流暢に問い掛けたのである。 「私の名前は天狐如夜叉…崇高なる神族の一人だ…」 「神族の一人だと?」 「貴様は神族の小娘なのか?今度こそ最高神の封印で身動き出来なくなった私を完膚なきまでに死滅させるのか?」 甲羅部分の巨大人面は天狐如夜叉に再度問い掛ける。 「私が身動き出来なくなった其方を死滅すると?残念だが正反対だ…」 甲羅部分の巨大人面に問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。 「私は天空魔獣の其方を…最高神の封印から解放させるのだ…」 封印から解放すると宣言した天狐如夜叉であるが…。羅刹大皇帝の甲羅部分の巨大人面は失笑したのである。 「私を封印から解放だと?貴様は正気なのか?」 「最強の十二人の最高神ですら衰弱化させた私を…貴様みたいな神族の小娘風情が私を解放させるなんて…貴様は余程の命知らずであるな…貴様は私に殺されたいのか?」 羅刹大皇帝にとって十二人の最高神以外は食材同然であり甲羅部分の巨大人面は天狐如夜叉の実力を過小評価する。 『先程から此奴は鬱陶しい海亀だな…』 天狐如夜叉は羅刹大皇帝の言動に目障りだと感じる。 「羅刹大皇帝は封印から解放されたくないのか?折角の絶好機なのだぞ…封印から解放されたくないのであれば私は地上世界に帰還するだけだ…」 一方の羅刹大皇帝は天狐如夜叉に警告する。 「破壊者である私を復活させた瞬間…私は再度地上世界で思う存分に暴れ回る…私が一度暴れ回れば今度こそ全世界の滅亡は確定的であるぞ…」 現実問題として十二人の最高神に匹敵する実力者は存在しない。羅刹大皇帝が封印から解放させれば今度こそ世界の滅亡は現実化する。 「私を解放させるからには相応の覚悟は必要不可欠だぞ?如何する?神族の小娘?私を神族の封印から解放させるか?未来永劫暗闇の深海底で私を放置し続けるか?」 羅刹大皇帝の巨大人面に警告された天狐如夜叉であるが…。彼女は無表情で返答したのである。 「地上世界全域を滅亡させるには其方の絶大なる魔力が必要不可欠なのだ…所詮人類による地上世界の滅亡は私にとっても好都合だからな…」 「地上世界の滅亡か…面白そうだな…」 すると今度は別の巨大人面が発言する。 「貴様が私を神族の封印から解放するのか!?であれば貴様は即刻封印を解除させるのだ!私は今度こそ大暴れして全世界を打っ壊すからよ♪封印を解除しやがれ!神族の小娘風情!」 更なる別の巨大人面は天狐如夜叉に失笑したのである。 「私を復活させた瞬間…問答無用にあんたを食い殺しちまうかも知れないぜ♪覚悟しろよな♪私は相手が神族の小娘だろうと容赦しないからな…」 巨大人面の発言に天狐如夜叉は呆れ果てる。 「私が破壊者の其方を封印から解放させたとしても…今現在の羅刹大皇帝は相応に弱体化した状態だからな…間違っても今現在の其方では天道天眼を所持する私を食い殺すなんて夢物語だぞ…」 数十万年間もの長期間の封印の影響からか羅刹大皇帝の魔力は太古の古代文明時代から相当弱体化した状態だったのである。 「畜生が!本調子であればこんな神族の小娘…簡単に打っ殺せるのだが…」 「今現在の状態であれば…貴様に協力するのが無難みたいだな…神族の小娘よ…」 「本来なら敵対者である神族の小娘に協力するのは正直気に入らないが…今回ばかりは止むを得ないな…神族とは一時休戦だ…」 非常に苛立った羅刹大皇帝であるが…。格上の天狐如夜叉に服従する。 『一先ずは…羅刹大皇帝との交渉は成立だな…』 羅刹大皇帝との交渉成立に天狐如夜叉は冷笑したのである。 「羅刹大皇帝…早速其方の封印を解除するからな…」 天狐如夜叉は恐る恐る両目を瞑目する。 『神族の眼光…発動!』 群青色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。 『羅刹大皇帝…神族の封印を解放されよ…』 「はっ!」 直後…。念力の効力により羅刹大皇帝の全身の身動きを封殺した金剛石の巨大鉄鎖がバリッと破壊されたのである。すると羅刹大皇帝の封印が全面的に解除され…。本体の先端部分に位置する巨大海亀の頭部部分がハイテンションで大喜びしたのである。 「ヤッタゼ!トウトウシンゾクノフウインガ…カイジョサレタカ!ヒサカタブリニ…チジョウデオオアバレシテヤルゼ!」 本体の先端に位置する巨大海亀の頭部部分が天狐如夜叉を直視し始める。 「オレノフウインヲカイジョシタノハ…シンゾクノネエチャンカ!?アリガトサンヨ♪シンゾクノネエチャン♪セッカクノキカイダ!サッソクダガ…チジョウノガイチュウドモヲ…クイコロシニデカケルカ!」 羅刹大皇帝は封印が解除された影響からか非常に興奮気味である。 『此奴は…下手すれば扱い切れないかも知れないな…』 実質羅刹大皇帝は殺戮と破壊のみの破壊者であり天狐如夜叉は警戒したのである。本来の魔力が戻れば天道天眼を駆使したとしても全盛期の羅刹大皇帝をコントロールするのは非常に困難であると感じる。 『羅刹大皇帝が長期間の封印の影響で多少弱体化したのが何よりだな…』 天狐如夜叉は一先ず地上世界へと戻ったのである。
第二十三話
アスピドケロン 両者が利害の一致で活動を開始した同時刻…。深海底地帯のアクアユートピアでは深海底魔女のダークスキュランが魔法の水晶玉で深海底の異変をキャッチする。 「えっ?」 『魔法の水晶玉が反応したわ…一体何かしら?』 ダークスキュランは警戒した様子で恐る恐る魔法の水晶玉に投影された深海底の光景を直視…。 「なっ!?」 『此奴は…』 水晶玉の光景にダークスキュランは戦慄したのである。 『現実なの!?』 魔法の水晶玉には神族の天狐如夜叉は勿論…。暗闇の海底下には封印が解除された規格外の羅刹大皇帝が映写される。 『此奴は太古の古代文明時代に地上世界で暴れ回った深宇宙の天空魔獣…羅刹大皇帝…別名はアスピドケロンだったかしら?』 アスピドケロンとは西洋神話に登場する巨大海亀の怪物として知られる。アスピドケロンは全体像が規格外の巨大さである。甲羅部分の体高のみでも数千メートルもの天空に到達出来…。全長は小大陸に匹敵する大サイズとして有名である。西洋神話の知名度からか場所によっては天空魔獣の羅刹大皇帝を別名アスピドケロンやら極東方面の諸国では岩石大怪獣やら岩石海亀…。深宇宙の宇宙海亀と呼称する地域も少なからず存在する。 『羅刹大皇帝…胸騒ぎの原因は此奴だったのね…』 「神族の封印が解除されたなんて…」 ダークスキュランは羅刹大皇帝の出現に極度の恐怖心からか全身がプルプルと身震いし始める。 『大昔の伝承では羅刹大皇帝の大暴れで旧世界全域が滅亡寸前だったとか…』 魔法の水晶玉に映写された天狐如夜叉を直視したのである。 『如何して羅刹大皇帝の封印が解除されたのかしら?ひょっとして海中の小柄の少女が…羅刹大皇帝の封印を解除したのかしら?非常に厄介だわ…』 突然の緊急事態にダークスキュランは決断する。 『兎にも角にもアクアユートピアの人魚達には国外への外出を徹底的に禁止させないと!羅刹大皇帝に遭遇すれば即刻殺害されるでしょうね…』 ダークスキュランは即刻国外への外出禁止をアクアユートピア全域に発令…。国外への外出は全面的に禁止されアクアユートピアの国境は完全に封鎖されたのである。二人の人魚の側近達がダークスキュランの家屋敷に訪問する。 「ダークスキュラン様…国内の平民達には国外への外出禁止を発令しました!」 「国境全域もシールド魔法で封鎖出来ました!国内の安全は確保出来た模様です!」 「シールド魔法は完了したのね!上出来だわ…」 するとドアがノックされたのである。 「ん?誰かしら?」 アクアヴィーナスの母親であるアクアキュベレーがソワソワした様子で入室する。 「あんたはアクアヴィーナスの母親…アクアキュベレーだったかしら?」 「ダークスキュラン!大変よ!」 「えっ!?今度は何事なの!?」 アクアキュベレーの様子にダークスキュランは吃驚したのである。 「彼女が…アクアヴィーナスが…国外に出掛けちゃったのよ!」 アクアキュベレーは落涙する。 「えっ…アクアヴィーナスが!?」 『彼女はこんな状況で国外に出掛けちゃったの!?』 ダークスキュランは呆れ果てる。 「はぁ…」 『アクアヴィーナス…彼女は人一倍気弱で弱虫なのに随一のトラブルメーカーなのね…彼女には危機感が皆無なのかしら?』 すると側近の一人が恐る恐る…。 「ダークスキュラン様…彼女を救出されますか?」 ダークスキュランは一息する。 「彼女には…アクアヴィーナスには悪いけれど…アクアユートピアの危機的状況下で彼女の救出は出来ないでしょうね…」 ダークスキュランは守護者としてアクアヴィーナスの救出よりもアクアユートピアの安全を優先したのである。 「えっ!?ダークスキュラン!?」 ダークスキュランの発言にアクアキュベレーはビクッと反応…。 「私のアクアヴィーナスは如何なるのよ!?あんたは彼女を見殺しに…」 ダークスキュランの優先順位に納得出来ず彼女に失望したのである。 「別に私は…彼女を見殺しなんて…」 困惑したダークスキュランは恐る恐る…。 「正直私自身の魔力だけではアクアユートピアの国内を守護するのが精一杯なのよ…アクアヴィーナス…彼女には悪いけれど今回ばかりは如何にも出来ないのよ…」 「ダークスキュラン…あんたね…」 『やっぱり此奴はアクアユートピアを侵略した大悪党だから所詮私達なんて手駒同然なのよね…』 アクアキュベレーはダークスキュランに再度憎悪したのである。
第二十四話
海亀 同時刻…。国外へと出掛けたアクアヴィーナスは暗闇の深海底を移動中に極度の胸騒ぎを感じ始める。 『先程から胸騒ぎを感じるわね…一体何かしら?』 アクアヴィーナスは極度の恐怖心からかビクビクする。 「不吉だわ…」 『早急にアクアユートピアに戻ろうかしら?』 彼女はアクアユートピアに戻ろうかと思いきや…。 「えっ…」 海底下を直視すると規格外の岩石の巨大塊状が移動するのを発見する。 「何かしら?」 『岩石の…塊状?海亀の甲羅っぽいわね…』 凸凹した岩石の移動物体は規格外の巨大さである。海底下の巨大移動物体を凝視し続けると上部の表面には無数の巨大人面が確認出来る。 「ひゃっ!」 『甲羅部分には無数の人面だわ…一体何よ!?』 甲羅部分の無数の巨大人面にアクアヴィーナスは戦慄したのである。 『ひょっとして此奴は巨大海亀の怪物かしら?』 海底下の巨大移動物体を凝視し続けると小大陸規模の規格外の巨大海亀であると認識出来る。 『現実なの?こんな規格外の怪物が深海底に存在するなんて…』 すると甲羅部分の表面に存在する巨大人面の一部が直上を遊泳し続けるアクアヴィーナスを発見したのである。 「彼奴は…ん?人魚の小娘か?」 甲羅部分の巨大人面は自我を所持…。彼等は人語で発言する。 「如何やら彼奴は人魚の小娘みたいだな…余程死にたいらしいな…」 「肩慣らしには好都合だが…如何するよ?」 「空腹だからな…いっその事人魚の小娘を食い殺しちまうか?」 「私は腹ペコなのだ♪人魚の小娘を食い殺そう♪」 「小食だが腹ごしらえに人魚の小娘を食い殺そうぜ♪私は空腹なのだ!彼奴の血肉を味見するだけでも…」 無数の巨大人面が相談し始める。すると本体の先端に位置する巨大海亀の巨大頭部が大声で…。 「セナカノガンメンドモ!サッキカラコソコソハナシヤガッテ…オレハクウフクナンダ!ダイチヲクウノヲユウセンシヤガレ!アンナコバンザメデハ…ハラノタシニモナラン!メスノコバンザメハホウチシテオケ!」 甲羅部分の巨大人面は落胆する。 「折角の間食なのに…」 「仕方ないな…」 「人魚の小娘は放置だな…一先ずは大陸の陸地を鱈腹平らげるか…」 「折角の食事が…勿体無いぜ…」 巨大海亀の頭部が怒号すると甲羅部分の無数の巨大人面は沈黙したのである。巨大海亀の怪物は大南海へと直進…。アクアヴィーナスは命拾いしたのである。 「はぁ…はぁ…」 『彼奴は私を見逃したのかしら?一瞬海亀の怪物に食い殺されるかと…』 アクアヴィーナスは周辺の海中を警戒する。 『先程の怪物は一体何者だったのかしら?深海底アンデッドの一種とか?』 アクアヴィーナスは巨大海亀の正体が気になるものの…。 『イーストユートピアの桜花姫なら巨大海亀の怪物を退治出来るかな?』 アクアヴィーナスは即刻桃源郷神国に直行したのである。
第二十五話
自害 アクアヴィーナスが羅刹大皇帝と遭遇した同時刻…。桜花姫は暇潰しに東国の茶店へと来店したのである。彼女は大好きな桜餅を鱈腹頬張る。 『やっぱり桜餅は美味ね♪』 「最高だわ♪」 すると桜餅を吟味する彼女の背後より…。 「最上級妖女の月影桜花姫ちゃん♪」 何者かが彼女の背中を接触する。 「きゃっ!」 桜花姫は驚愕したのである。 「誰よ!?吃驚するじゃない!」 背後を直視すると背後の人物は粉雪妖女の雪美姫…。彼女だったのである。 「えっ?雪美姫…あんただったのね…」 「御免あそばせ♪桜花姫♪」 雪美姫は満面の笑顔で謝罪する。 「あんたね…吃驚させないでよね…折角の娯楽が台無しじゃない…」 「御免♪御免♪」 雪美姫も同席したのである。 「雪美姫?今日は何事かしら?面白そうな大事件でも発生したの?」 桜花姫が問い掛けると雪美姫は深刻そうな表情で…。 「あんたの妹分…山猫妖女の小猫姫だったかしら?彼女…今日の早朝に自害し掛けたみたいなのよ…」 桜花姫は雪美姫の自害の一言に絶句する。 「えっ?」 『小猫姫が…自害し掛けたって?』 蛇体如夜叉が永眠して以降…。小猫姫は肉体的にも精神的にも参った様子であり台所の出刃包丁で自害し掛けたのである。桜花姫は突然の雪美姫からの報告にゾッとする。 「今日は私が寸前で彼女を阻止したから大丈夫だったけれども…」 今回は雪美姫の参上により氷結の妖術を駆使…。危機一髪小猫姫の自害を阻止出来たのである。 「一歩間違えれば小猫姫…彼女は本当に自死しちゃうかも知れないわ…」 雪美姫の発言に極度の不安が募り始める。 「小猫姫…」 蛇体如夜叉の霊体との会話により自然界と一体化した事実を小猫姫に説明したものの…。彼女は納得しなかったのである。 「雪美姫?小猫姫の様子は如何なのかしら?」 「彼女なら八正道の寺院で休憩中みたいよ…」 「八正道様の寺院で休憩中なのね…」 今現在小猫姫は八正道の寺院で寝転び…。八正道が彼女の様子を見守る。 「八正道様は…大丈夫なのかしら?」 『八正道様だけだと正直不安だわ…』 桜花姫は内心小猫姫が暴走しないか正直不安だったのである。 「桜花姫…心配しなくても大丈夫よ♪八正道は純粋無垢の真人間だけど悪霊の邪霊餓狼とも互角に接戦出来た実力者なのよ♪小猫姫が純血の妖女だとしても簡単には…」 雪美姫は楽観視するのだが…。桜花姫は小猫姫の様子が気になる。 『雪美姫には悪いけど…今現在の彼女は放置出来ないわね…』 直後…。突如として桜花姫の姿形が消失する。 「えっ?桜花姫?桜花姫は!?」 雪美姫は店内の周囲をキョロキョロしたのである。 「はぁ…」 『行動が迅速的ね…彼女は口寄せの妖術で移動しちゃったのかしら?』 雪美姫は桜花姫の迅速さに苦笑いする。
第二十六話
木魚 同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術により自身の肉体を八正道の寺院へと瞬間移動させたのである。 「八正道様?」 恐る恐る玄関の戸口をノックするのだが…。 「無反応ね…奇妙だわ…」 『止むを得ないわね…』 桜花姫は恐る恐る警戒した様子で寺院へと進入したのである。 『八正道様は?』 洋式風の応接間へと入室する。 「えっ!?」 応接間には八正道がグッタリとした表情で床面に横たわった状態だったのである。 「八正道様!?大丈夫!?返事して!」 桜花姫はソワソワした表情で八正道に近寄る。恐る恐る八正道の安否を確認する。 「はぁ…」 『八正道様…』 桜花姫は八正道の様子から無事が確認出来…。 『八正道様は大丈夫そうね…』 安堵したのである。 「えっ?」 すると床面に横たわった状態の八正道の左側の真横には木魚が確認出来る。 『木魚だわ…如何して木魚がこんな場所に?』 すると床面に横たわった状態の八正道が目覚める。 「うっ!私は…一体?」 「八正道様?大丈夫?」 「えっ?貴女様は桜花姫様でしたか…」 桜花姫が恐る恐る問い掛けると八正道は意識が戻った様子であり彼女の存在に気付いたのである。八正道は意識が戻ったものの…。 「ん!?小猫姫様…小猫姫様は!?」 「小猫姫ですって?」 「如何やら私は…小猫姫様に木魚で後頭部を殴打されたらしいのですが…」 八正道は恐る恐る先程の出来事を告白する。 「えっ!?小猫姫が八正道様に木魚を!?」 桜花姫は八正道の証言からゾッとしたのである。 『ひょっとして彼女は…』 桜花姫は極度の恐怖心からか全身が身震いし始める。 『小猫姫…』 即座に二階の居室へと移動したのである。 「えっ…桜花姫様?一体如何されましたか?」 二階の居室に到達すると中央の屏風を直視する。 『小猫姫…』 屏風に装飾された退魔霊剣が何者かによって窃盗されたのである。 「なっ!?私の退魔霊剣が…」 八正道は精神的ショックからか全身が脱力する。 「一体誰が…私の退魔霊剣を窃盗したのでしょうか…」 桜花姫は小声で…。 「恐らくは小猫姫の仕業でしょうね…恐らく彼女以外には…」 「えっ!?小猫姫様が…退魔霊剣を!?」 八正道は動揺したのである。 「一体小猫姫様は退魔霊剣を何に使用されるのでしょうか?」 「八正道様…御免なさいね…」 「桜花姫様?」 桜花姫は自分自身に口寄せの妖術を駆使する。 「桜花姫様は行動力が迅速的ですね…」 『ですが小猫姫様は…大丈夫なのでしょうか?』 八正道は小猫姫が無事なのか心配する。
第二十七話
絶縁 同時刻…。桜花姫は小猫姫の居場所へと自身の肉体を口寄せしたのである。 「口寄せの妖術は成功ね♪」 小猫姫は無事であり桜花姫は一安心する。 『小猫姫は無事みたいね…』 小猫姫は退魔霊剣を所持した状態で東国と南国の国境に位置する山道にて移動中だったのである。 「えっ…桜花姫姉ちゃん…」 「小猫姫…あんたは人騒がせね…」 桜花姫は無表情で小猫姫を凝視し始める。 「如何して…桜花姫姉ちゃんがこんな場所に?」 小猫姫は突発的に出現した桜花姫と遭遇…。小猫姫は気まずそうな様子であり一時的に後退りする。 「残念だったわね…小猫姫…私からは逃げられないわよ…大人しく八正道様の退魔霊剣を渡しなさい…退魔霊剣は八正道様の所有物なのよ…」 指摘された小猫姫であるが…。彼女は桜花姫に睥睨したのである。 「絶対に渡さない…相手が桜花姫姉ちゃんでも退魔霊剣は絶対に渡さないよ!今日は私の命日なのよ!邪魔しないで!」 今現在の小猫姫からは極度の敵意が感じられる。 「小猫姫…あんたね…」 桜花姫は小猫姫の発言に呆れ果てる。 「馬鹿者だわ…何が命日よ…」 すると小猫姫は落涙し始める。 「私を死なせてよ…桜花姫姉ちゃん…所詮私なんて…」 「はぁ…小猫姫…あんたは正真正銘馬鹿者ね…」 桜花姫は自暴自棄の小猫姫に呆れ果てる。 「あんたが自害したって…誰も大喜びしないわよ…」 「所詮私なんて一人では何も出来ないし…未来に希望なんて何一つとして無いよ…いっその事…私は自害してから…天国で蛇体如夜叉婆ちゃんに再会するの…」 桜花姫が冷静に制止するも…。小猫姫は頑固だったのである。 「小猫姫…あんたは相当の頑固ね…」 桜花姫は小猫姫に呆れ果てる。 「今現在のあんたと再会しても…蛇体如夜叉婆ちゃんは大喜びしないわよ…」 呆れ果てた桜花姫であるが…。一方の小猫姫は睥睨した表情で只管発言する。 「桜花姫姉ちゃん…私を…私を殺したければ思う存分に殺せば!?」 「えっ…」 小猫姫の鬼神の形相に桜花姫は一瞬圧倒される。 「いっその事…私を桜花姫姉ちゃんの大好きな桜餅に変化させて私を食い殺しちゃえば!?桜花姫姉ちゃんだって桜餅を食べられるから満足出来るよ!」 小猫姫は真顔で発言したのである。 「小猫姫…あんたは本気なの?」 「私は…本気だよ!私は桜花姫姉ちゃんに食い殺されて天国の蛇体如夜叉婆ちゃんに再会するの!」 一方の桜花姫は小猫姫の言動に腹立たしくなったのか全身がプルプルし始める。 「小猫姫…」 苛立った桜花姫は無表情で…。 「あんたね…」 「何よ?桜花姫姉ちゃん?」 桜花姫は力一杯小猫姫の頬っぺたを引っ叩いたのである。 「きゃっ!」 力一杯頬っぺたを引っ叩かれた小猫姫は地面に横たわる。 「小猫姫?好い加減目覚めたかしら?」 桜花姫は呆れ果てた表情で地面に横たわった状態の小猫姫を凝視する。一方の小猫姫は頬っぺたを引っ叩いた桜花姫を殺伐とした形相で睥睨したのである。 「突然何するのよ!?桜花姫姉ちゃん!?」 「何って…」 桜花姫は呆れ果てた表情で発言する。 「小猫姫…滑稽だわ…何が桜餅よ…所詮あんたみたいな意気地なしは私の大好きな桜餅に変化させたとしても不味いだけなのよ…あんたが天国で蛇体如夜叉婆ちゃんと再会したとしても…蛇体如夜叉婆ちゃんは小猫姫に失望するでしょうね…私を馬鹿にするのも好い加減にしなさい!」 桜花姫は無表情であり無理矢理に退魔霊剣を回収したのである。一方の小猫姫は何も反論出来ず…。沈黙したのである。 「退魔霊剣は八正道様の所有物だから返却するわよ…」 すると桜花姫は再度無表情で発言する。 「小猫姫には悪いけど…今日から私はあんたとは絶縁ね…自害したければ勝手に自害するのね…甘ったれるのも好い加減にしなさい!」 桜花姫は無表情で退散したのである。山中を移動中…。 『小猫姫の…馬鹿者!』 桜花姫は後悔したのか涙腺より涙が零れ落ちる。 「小猫姫…」 『彼女は…大丈夫なのかしら?』 正直小猫姫が自害しないか不安だったのである。 『小猫姫は本当に自害しないわよね?大丈夫よね?』 桜花姫は小猫姫の様子が気になるのか再度戻ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 突発的にグラグラッと地面全体が大規模の地響きにより震動したのである。 『一体全体何事なの!?ひょっとして地震かしら!?』 地響きは数秒間で沈静する。 「えっ…」 『先程の地響きは一体何だったのかしら?』 すると彼女の前方より…。 「桜花姫!?」 「えっ?あんたは…」 ピンク色のロングドレスと赤髪の小柄の女性が大慌ての様子で桜花姫に近寄る。 「誰かと思いきや…あんたはアクアユートピアのアクアヴィーナス!?あんたが元気そうで安心したわ♪」 「はぁ…はぁ…桜花姫…」 赤髪の女性とはアクアユートピアのアクアヴィーナスだったのである。 「大丈夫?アクアヴィーナス?」 彼女は非常にソワソワした様子であり桜花姫は恐る恐る問い掛ける。 「今度は何事かしら?ひょっとしてアクアユートピアで大事件が発生したの?」 「桜花姫…大変なのよ!」 「何が大変なのよ?」 アクアヴィーナスは真剣そうな表情で…。 「西海の深海底で海亀みたいな怪物が出現したの!陸地みたいに巨体だったわ…私…一瞬海亀の怪物に食い殺されるかと…」 「海亀みたいな怪物ですって?」 桜花姫は一瞬沈黙する。 『幼少期に蛇体如夜叉婆ちゃんが巨山みたいな海亀の怪物が出現したって…先程の大地震は怪物の仕業だったのかしら?』 桜花姫は神族の昔話で旧世界を襲撃した巨体の怪物の伝承を想起したのである。 『先程の大地震って…大昔の伝承と関連するのかしら…』 「海亀みたいな怪物…気になるわね…」 アクアヴィーナスは恐る恐る…。 「桜花姫…如何しましょう?」 彼女は極度の恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。 「海亀の怪物の正体が旧世界を襲撃した天空魔獣であれば…恐らく私以外の妖女では対抗出来ないでしょうね…」 「えっ…」 アクアヴィーナスは極度の絶望感により沈黙する。 『最上級妖女の私でも…全世界規模の怪物を相手に攻略出来るのかしら?』 普段の彼女であれば大喜びで敵対者の征伐に出掛けるのだが…。今回の戦闘は今迄の戦闘とは桁違いの大スケール規模であり自身の妖力のみで前代未聞の怪物に対抗出来るかは正直未知数だったのである。 「アクアヴィーナスは東国の八正道様の寺院で待機しなさい…東国の寺院へは私が道案内するから…」 「えっ?八正道様って誰なの?」 桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「八正道様は人間の僧侶よ♪天空世界の仏様を擬人化した存在だから大丈夫よ♪」 「えっ?はぁ…」 『仏様を擬人化って何者なのかしら?』 アクアヴィーナスは内心珍紛漢紛であったが…。桜花姫と一緒に東国の寺院へと急行したのである。
第二十八話
対敵 急行してより十数分後…。彼女達は東国の寺院へと到達したのである。 「八正道様!」 桜花姫は玄関を力一杯ノックする。戸口から八正道が彼女達を出迎える。 「えっ?桜花姫様と…ん?同行者の女性は?」 アクアヴィーナスは八正道に恐る恐る自身の名前を名乗る。 「私は…アクアヴィーナスです…」 すると桜花姫が満面の笑顔でアクアヴィーナスを紹介する。 「彼女は人魚王国のアクアユートピアの人魚なの♪私の女友達よ♪」 「人魚王国アクアユートピアですと?貴女様は異国の人魚の女性で桜花姫様の友人でしたか♪」 『彼女は女神様みたいな女性ですね♪』 八正道は一瞬アクアヴィーナスに見惚れる。 「八正道様…一定の時間だけど…彼女を八正道様の寺院に保護出来ないかしら?」 「えっ?彼女を保護ですと?私は構いませんが…一体何が発生したのですか?」 「一大事なのよ…全世界規模の…」 「えっ!?全世界規模の…一大事ですか?」 八正道は桜花姫の発言に絶句する。桜花姫は太古の古代文明時代の天空魔獣が出現した事実を洗い浚い八正道に報告したのである。 「えっ!?旧世界に封印された…伝説の天空魔獣が出現したのですか!?」 するとアクアヴィーナスがボソッと一言…。 「私は暗闇の深海底で巨大海亀みたいな怪物と遭遇しました…」 「巨大海亀みたいな…怪物ですと?」 「正直遭遇した当初は…天空魔獣に食い殺されちゃうかと…」 アクアヴィーナスは恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。 「アクアヴィーナス様が無事なのが何よりですよ♪」 「感謝します…」 「ですが桜花姫様…旧世界の天空魔獣が出現するとは前代未聞の一大事ですね…一体如何すれば天空魔獣を対処出来るのでしょうかね?」 「当然だけど…私の妖術で対抗する以外には…」 『天空魔獣に私の妖術が通用するのか如何なのかは不明だけど…』 桜花姫は八正道に退魔霊剣を手渡したのである。 「八正道様?」 「えっ…退魔霊剣ですと?」 すると八正道は恐る恐る…。 「小猫姫様は…無事ですか?」 「えっ…」 『小猫姫は…』 問い掛けられた桜花姫は一瞬ビクッと反応するものの…。 「彼女なら…大丈夫よ♪八正道様♪小猫姫は自害しないって私と約束したから♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答する。 「であれば一安心ですね♪」 「小猫姫は当分…ソッとしましょう…彼女には時間が必要よ…」 「承知しました♪桜花姫様♪」 直後である。再度地面がグラグラッと震動したのである。 「えっ!?地響きだわ!」 「なっ!?地震でしょうか!?」 突然の地響きに八正道とアクアヴィーナスは動揺するのだが…。桜花姫は冷静だったのである。 「今度も地震だわ…」 『頻発する地響きは天空魔獣の仕業なのかしら?』 突然…。 「えっ!?」 近辺より摩訶不思議の神力を感じる。 『一体何かしら!?神通力でも妖力でも無縁そうだわ…ひょっとして気配の正体は神族!?』 刻一刻と急接近し続ける神力の気配に桜花姫は警戒したのである。 「八正道様とアクアヴィーナスは即刻寺院に避難して!」 即座に八正道とアクアヴィーナスに指示する。 「えっ!?桜花姫!?今度は何よ!?」 「一体何が発生したのですか?桜花姫様?」 突然の桜花姫の指示に二人は再度動揺したのである。 「神族が接近中みたいなの…」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。 「恐らく気配から判断して…私達の敵対者だわ…」 「えっ?神族の敵対者ですと!?」 「危険そうなの?桜花姫?」 八正道とアクアヴィーナスは接近する神族の気配に不安がる。 「相手は本物の神族だからね…下手すれば私達が殺されるかも知れないわ…」 桜花姫の様子は冷静であったが…。内心では戦慄したのである。 「承知しました…桜花姫様…」 「承知したわ…」 八正道とアクアヴィーナスは承諾する。 『殺されるって…桜花姫が戦慄する程度に神族って相当ヤバいのかしら?』 アクアヴィーナスはビクビクし始める。すると寺院の表門より…。 「えっ?彼女は何者でしょうか?」 木刀を所持した青色の着物姿の女性が進入したのである。 「誰かしら?人間の…女性?」 八正道とアクアヴィーナスも女性に警戒する。桜花姫は恐る恐る…。 「彼女は天狐如夜叉…神族の一人だわ…此奴が気配の正体よ…」 「彼女が神族の一人なのですか?外見のみなら人間の女性みたいですね…」 「本当ね…彼女は外見だけなら人間の女性っぽいわね…」 すると天狐如夜叉は無表情で発言する。 「無数の亡者達の集合体…月影桜花姫よ…貴様は死後の世界とされる黄泉の地獄から自力で脱出するとは…相当の強運だな…」 対する桜花姫はヘラヘラした表情で返答したのである。 「心配せずとも♪私は天国からでも地獄の世界からでも全身全霊で脱出するから安心しなさい…」 「悪運と食欲だけは人一倍だな…月影桜花姫…如何やら私は其方を悪運と食欲だけが長所の小娘だと見縊り過ぎたみたいだ…」 「私の長所が悪運と食欲だけかしら?」 直後…。桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。 「其方は…」 『神族の眼光を…』 天道天眼を開眼した桜花姫に天狐如夜叉は一瞬驚愕する。 「残念だったわね♪天狐如夜叉♪あんたから一時的に天道天眼を奪取されちゃったけど…妖星巨木の精霊から再度天道天眼を頂戴したのよ♪」 桜花姫は満面の笑顔で断言したのである。 「世界樹の妖星巨木はこんな妖女の小娘に味方するとは…こんな下等生物に肩入れするとは古代の造物主も堕落したな…」 対する天狐如夜叉は内心苛立った様子であり妖星巨木の精霊に罵倒する。 「私は即刻天空魔獣の暴走を阻止したいだけなの…邪魔しないで…」 天狐如夜叉は天空魔獣の一言に反応したのである。 「天空魔獣だと?貴様達は天空魔獣の暴走を阻止するか…」 普段は無表情の天狐如夜叉であるが…。冷笑したのである。 「天狐如夜叉…あんたは何が可笑しいのよ?」 問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。 「天空魔獣を封印から解放させたのは誰であろう私なのだからな…今頃は全世界各地で大暴れだろうよ…」 「えっ!?あんたが天空魔獣の封印を!?」 彼女の発言に一同は反応したのである。すると八正道は恐る恐る…。 「先程から気になったのですが天空魔獣とは…ひょっとして大昔に地上全体で暴れ回ったとされる羅刹大皇帝でしょうか?」 「羅刹大皇帝って?」 「羅刹大皇帝は太古の旧世界で大暴れした巨大海亀の怪物ですよ…伝承では十二人の最高神によって封印されたとか…」 八正道は桜花姫とアクアヴィーナスに説明する。 「ですが如何して神族の一員である天狐如夜叉が…古代に封印された旧世界の怪物を復活させたのですか?旧世界の怪物によって数千体もの神族が惨殺されたのですよね?」 八正道は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。すると天狐如夜叉は無表情で即答する。 「大勢の仲間達が羅刹大皇帝によって食い殺されたのは周知の事実であるが…今現在の私にとって羅刹大皇帝以上に地上世界を君臨し続ける人間達こそ完膚なきまでに殲滅すべき存在なのだ…」 「天狐如夜叉は如何して私達人間を殲滅したいのですか?」 「私が人間達を殲滅したい理由だと?」 天狐如夜叉は恐る恐る一息したのである。 「貴様達下等生物でも人類史の歴史学を勉学すれば理解出来るだろうが…愚劣なる人間達の歴史とは戦乱と自然界を汚染させるばかりだ…恐らくは後代の世界でも人間達による戦乱と自然界の破壊活動は何度も継続されるであろう…未来永劫…」 桜花姫は彼女の発言にハッとした表情で反応する。 『ダークスキュランの時空の光球ね…』 桜花姫は時空の光球で発現された数多の戦乱の光景を想起したのである。 『今後も戦乱時代みたいな大動乱期が何度も到来するのかしら?』 正直自身も未来世界の戦乱時代を体験出来ればと希求する。 『今後も大動乱期が到来するなら面白そうだわ♪出来るなら今後の時代を見届けたいわね…』 桜花姫は内心ワクワクしたのである。するとアクアヴィーナスが恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。 「如何してあんたは本来仕留めるべき相手を復活させたのよ?あんたは純血の神族だし…人間達を仕留めるならあんた一人でも簡単でしょう?」 問い掛けられた天狐如夜叉はアクアヴィーナスに返答する。 「地上世界の人間達だけを殲滅するなら私一人でも容易いだろうが…桃源郷神国には数多くの妖女が安住する武陵桃源なのだ…最上級妖女である月影桜花姫が死後の世界から生還したからには非常に不都合なのだよ…」 「不都合ですって?」 正直天狐如夜叉にとって無力化した桜花姫が俗界に戻ったのは予想外であり目的を達成するには数多の妖女と彼女の存在は不都合だったのである。 「天狐如夜叉…私から質問なのですが?」 今度は八正道が質問する。 「人間達を殲滅したとしても天空魔獣の羅刹大皇帝と純血の神族である天狐如夜叉は敵対関係なのですよね?羅刹大皇帝は大勢の神族を殺害した猛者でしょうし…貴女様を敵対視…裏切る可能性だって否定出来ませんよ…」 「恩人の私を敵対視するのであれば今度は羅刹大皇帝を殲滅するだけだ…今現在の羅刹大皇帝は長年の封印によって相当弱体化した状態なのだ…今現在の羅刹大皇帝ならば私単独でも簡単に仕留められる…所詮彼奴は私の手駒だからな…」 復活させた羅刹大皇帝であるが…。今現在は長年の封印の影響からか相当弱体化した状態である。天狐如夜叉に反抗したとしても容易に対処出来る。 「私から天道天眼を奪取したのは…天空魔獣の羅刹大皇帝の封印を解除したかったからなのね…」 「えっ!?桜花姫様!?」 八正道は桜花姫の発言に動揺し始める。 「天道天眼を奪取されたって…彼女とは一体何が!?」 「先日の出来事だけどね…」 問い掛けられた桜花姫は先日の出来事を洗い浚い公言したのである。 「桜花姫様は彼女に天道天眼を奪取されたなんて…」 「本物の死後の世界にも幽閉されちゃったし…数日間は一苦労だったわ…」 桜花姫は今迄の一苦労からか一息する。 「遅かれ早かれ…私が羅刹大皇帝の封印を解除した以上…全世界が滅亡するのは時間の問題だ…」 「えっ…全世界の滅亡ですと?」 所詮羅刹大皇帝は人間達を殲滅する手駒であり神性妖術の天道天眼を所持した天狐如夜叉にとって弱体化した羅刹大皇帝は目的を完遂させる手駒だったのである。 「最早私は後戻り出来ない段階へと到達したのだ…月影桜花姫よ…其方は私の神術で再度地獄の世界に招待されるか?天空魔獣の羅刹大皇帝によって陸地諸共食い殺されるか?如何する?」 すると天狐如夜叉は天道天眼を発動…。 「最早長話は無用である…貴様達の身動きを半永久的に封殺する…」 直後である。 「なっ!?」 「えっ!?」 天狐如夜叉の金縛りによって八正道とアクアヴィーナスは身動き出来なくなる。 「八正道様!?アクアヴィーナス!?」 『金縛りでしょうか?肉体の動作が…』 八正道は身動きしたいが金縛りにより身動き出来ない。 『彼奴の魔法かしら?私…身動き出来ないよ…』 アクアヴィーナスは涙腺より涙が零れ落ちる。 「非力である二人の身動きは封殺出来たが…月影桜花姫…最上級妖女である其方には私の金縛りが通用しなかったか…」 桜花姫には天狐如夜叉の金縛りが発動されず自由自在に身動き出来たのである。桜花姫は鬼神の形相で天狐如夜叉を睥睨する。 「天狐如夜叉…神族でもあんたみたいな傍若無人の神族は本当に気に入らないわ…」 『蛇体如夜叉婆ちゃんからは此奴を救済してって依頼されちゃったけれど…彼女を相手に手加減出来ないわね…』 天道天眼を所持する天狐如夜叉に対抗するには全身全霊で挑戦しなくては接戦出来ないと確信する。 『天狐如夜叉を相手に中途半端の妖力では今度こそ地獄の世界に逆戻りね…』 桜花姫も天道天眼を発動したのである。天道天眼を発動すると彼女の妖力が通常よりも数百倍へと増大化する。 「桜花姫も神族の眼光を発動したか…其方が神族の眼光を発動したとしても私の木刀は妖力を吸収する神器…其方が勝利する可能性は皆無であるぞ…」 天狐如夜叉の木刀は妖星巨木の小枝から形作られた神器の一部であり妖力による攻撃は木刀に吸収される。桜花姫は恐る恐る後退りする。 『天道天眼を使用出来ても…単独で此奴を仕留められるかしら?』 すると直後である。八正道の所持する退魔霊剣がカタカタッと振動し始める。 『退魔霊剣が勝手に振動するなんて…超常現象でしょうか?』 退魔霊剣がカタカタッと不自然に振動したかと思いきや…。退魔霊剣が空中を浮遊したのである。数秒後…。 「えっ?」 退魔霊剣は桜花姫の目前に落下したのである。 『八正道様の退魔霊剣かしら?如何してこんな場所に?ひょっとして私に退魔霊剣を所持しろと?』 摩訶不思議の超常現象であったが…。 『正直剣術とか武術は…人一倍苦手だけど…』 桜花姫は武器の使用は不本意であるが恐る恐る退魔霊剣を所持したのである。 「ん?退魔霊剣だと?」 『天道金剛石の刀剣か?』 天狐如夜叉は桜花姫に警戒し始める。 『退魔霊剣なら愚鈍の私でも天狐如夜叉に対抗出来るかも知れないわね…』 桜花姫と天狐如夜叉は無言で対峙したのである。
第二十九話
霊魂 桜花姫と天狐如夜叉が交戦し始めた同時刻…。 『私は今後…如何すれば?』 山猫妖女の小猫姫は南国の山道にて歔欷したのである。 『蛇体如夜叉婆ちゃんは死んじゃったし…桜花姫姉ちゃんには絶縁されちゃったし…所詮私なんて…一人では何も出来ないよ…』 小猫姫は誰一人として味方が存在せず…。絶望したのである。 『私は…今後如何するべきなのよ?蛇体如夜叉婆ちゃん…所詮私なんて…』 すると直後…。背後より摩訶不思議の気配を感じる。 「えっ…」 『何だろう?』 背後には全身白色の大蛇が歔欷し続ける自暴自棄の小猫姫を凝視したのである。 「白蛇なのかな?」 『随分巨体だけど…』 小猫姫は警戒した様子で恐る恐る白色の大蛇に近寄る。 『神秘的だな…』 白色の大蛇は非常に神秘的であり小猫姫は見惚れる。白色の大蛇に接触した直後である。白色の大蛇が人語で…。 「山猫妖女の小猫姫よ♪久し振りだね♪」 大蛇は満面の笑顔で発言し始めたのである。 「えっ!?大蛇が喋った!?」 突如として人語で発言する白色の大蛇に小猫姫は驚愕する。 「如何して貴方は私の名前を?貴方は何者なの?」 問い掛けられた白色の大蛇は満面の笑顔で即答する。 「小猫姫♪別に吃驚しなくても♪私だよ♪私♪私は蛇神の蛇体如夜叉さ♪」 白色の大蛇は自身を蛇神の蛇体如夜叉と名乗る。 「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん!?白蛇の正体は蛇体如夜叉婆ちゃんなの!?」 「勿論…私だよ♪小猫姫♪」 問い掛けられた蛇体如夜叉は満面の笑顔で即答する。大蛇の両目の瞳孔を直視し続けると故人の蛇体如夜叉の面影が感じられる。 「本当だ…」 『両目は蛇体如夜叉婆ちゃんだね…』 小猫姫は白色の大蛇の正体が蛇体如夜叉であると確信する。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…」 小猫姫は再度落涙したのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃん!」 彼女は力一杯蛇体如夜叉に密着する。 「小猫姫よ…あんたは本当に甘えん坊だね♪」 すると蛇体如夜叉は小声で…。 「心配させちゃったね…御免ね…小猫姫…今迄辛かっただろう?」 蛇体如夜叉に問い掛けられた小猫姫は小声で返答する。 「正直ね…」 「あんたは人一倍正直者で純粋無垢だね♪小猫姫♪」 すると小猫姫は恐る恐る…。 「蛇体如夜叉婆ちゃんは老衰で死んじゃったのに…如何してこんな場所に?ひょっとして蛇体如夜叉婆ちゃんの幽霊なの?」 蛇体如夜叉は小猫姫の問い掛けに即答する。 「今現在の私は肉体こそ寿命で消滅しちゃったけれどね♪私の霊魂は自然界と一体化したのさ♪」 「蛇体如夜叉婆ちゃんの霊魂が自然界と一体化したのは本当だったのね…」 蛇体如夜叉は肉体としての死後…。小猫姫の様子を見守った蛇体如夜叉であるがメソメソし続ける小猫姫を心配したのである。 「私はあんたの様子が気になってね♪」 蛇体如夜叉は本来の姿形であるが一時的に実体化…。出現したのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃん…私はね…」 小猫姫は死にたくなり自害し掛けた事実は勿論…。桜花姫との軋轢から彼女に絶縁させられた事実を洗い浚い告白したのである。 「小猫姫は桜花姫ちゃんと絶縁しちゃったのかね…」 小猫姫の告白に蛇体如夜叉も悲痛に感じる。 「私は…二度と桜花姫姉ちゃんとは…仲直り出来ないかも…」 彼女の涙腺から再度涙が零れ落ちる。 「私は…本当は桜花姫姉ちゃんと仲直り出来るなら…仲直りしたいよ…出来るなら元通りの生活に戻りたいの…」 蛇体如夜叉は桜花姫と仲直りしたいと本音を告白する小猫姫に満面の笑顔で…。 「小猫姫♪安心しな♪御免なさいって普通に謝罪すれば桜花姫ちゃんと仲直り出来るさ♪当然八正道もね♪」 「えっ…私は桜花姫姉ちゃんや八正道様と…仲直り出来るかな?大丈夫なの?」 小猫姫は桜花姫と仲直り出来るのか非常に不安に感じる。 「あんたは心配性だね…小猫姫♪」 蛇体如夜叉は再度満面の笑顔で断言する。 「桜花姫ちゃんは基本的に人間関係では無欲恬淡だからね♪小猫姫が想像する以上にね♪あんたは心配しなくても大丈夫だよ♪」 小猫姫は内心不安であったが…。 「私は…桜花姫姉ちゃんと八正道様に謝罪するよ!蛇体如夜叉婆ちゃん!」 小猫姫は二人への謝罪を決意したのである。 「小猫姫♪」 『元通りの小猫姫だね♪』 蛇体如夜叉は彼女の前向きな姿勢に一安心する。すると蛇体如夜叉は小猫姫を直視すると大昔のとある人物を想起したのである。 「小猫姫…あんたは小梅姫って名前の妖女と瓜二つだね…」 「えっ?小梅姫って誰なの?蛇体如夜叉婆ちゃん?」 「小梅姫はね…大昔に存在した元祖妖女…桃子姫の愛娘だよ♪」 桃子姫の名前に小猫姫は反応する。 「桃子姫って?五百年前の元祖妖女の…彼女の愛娘が私に瓜二つなの?」 「勿論だよ♪あんたと小梅姫は瓜二つだね♪人一倍正義感で人懐っこいし♪」 蛇体如夜叉が孤児であった小猫姫を養子として出迎えた理由は小梅姫と瓜二つであり小猫姫が彼女の再来であると察知したからである。すると蛇体如夜叉は再度笑顔で…。 「ひょっとすると小猫姫は小梅姫の再来なのかも知れないね♪」 「えっ?こんな私が…」 『元祖妖女…桃子姫の…愛娘の再来なのね♪』 小猫姫は赤面するが内心では大喜びしたのである。一瞬であるが…。小猫姫はニコッと微笑み始める。 「おっ!小猫姫♪如何やら笑顔が戻ったみたいだね♪」 蛇体如夜叉は小猫姫の笑顔に大喜びする。 「えっ?」 小猫姫は赤面したのである。 「やっぱり小猫姫には笑顔が一番だよ♪」 「蛇体如夜叉婆ちゃん♪」 すると直後…。 「えっ!?蛇体如夜叉婆ちゃん!?」 実体化した蛇体如夜叉の肉体であるが突如として半透明化し始めたのである。 「蛇体如夜叉婆ちゃんの肉体が…半透明に…」 「如何やら時間みたいだね…小猫姫…」 「えっ…」 蛇体如夜叉は最後に…。 「小猫姫…今後は大変かも知れないけどね…あんたはあんたらしく大勢の村人達と仲良く生活しな♪あんたは人一倍甘えん坊だけど人懐っこい性格だから大丈夫だよ♪勿論桜花姫ちゃんや八正道とも仲良くね♪間違っても自害だけは絶対に実行しないでね…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん…」 「時たまだけど…私の墓参りは忘れないでね♪約束だよ♪小猫姫♪」 「絶対に約束するよ…蛇体如夜叉婆ちゃん…墓参りも忘れないから…」 小猫姫は再度落涙し始める。 「小猫姫…最後だけどね♪私にとって…あんたとの生活は毎日が幸福だったよ♪私にとってあんたは…自慢の孫娘だからね♪」 「蛇体如夜叉婆ちゃん…」 「感謝するね♪小猫姫♪元気でね♪」 半透明化した蛇体如夜叉の肉体が消滅したのである。 「えっ…」 『蛇体如夜叉婆ちゃんの…肉体が…』 蛇体如夜叉の消滅に小猫姫は寂然と感じるのだが…。 「私…」 『八正道様の寺院に戻ろう!』 小猫姫は桜花姫と八正道への謝罪を決意する。 『私は戻って桜花姫姉ちゃんと八正道様に謝罪しないと!』 正直不安であるが…。小猫姫は八正道の寺院へと直行したのである。
第三十話
神世界 小猫姫が行動を開始した同時刻…。寺院の庭園では桜花姫と天狐如夜叉が対峙したのである。 「其方は完膚なきまでに死滅せよ!亡者の集合体…月影桜花姫よ!」 天狐如夜叉は護身用の木刀に自身の神力を集中…。木刀の剣先から蛍光色の雷球を形成させたのである。 『高熱の雷球だわ…』 桜花姫は天狐如夜叉の攻撃に警戒する。 「死滅するのだ…桜花姫!」 天狐如夜叉は蛍光色の雷球を形成させた直後…。木刀の剣先から蛍光色の雷球を発射したのである。蛍光色の雷球が桜花姫に急接近するのだが…。 『こんな攻撃で!』 桜花姫は退魔霊剣で一振りする。直前に天狐如夜叉の雷球を消滅させたのである。 「あんたの攻撃なんか…私には通用しないわよ♪」 桜花姫は天狐如夜叉に挑発する。 「月影桜花姫よ…自身の妖力のみで私の神力を消滅させるとは…以前よりも強大化したな…」 「今度は私の出番みたいね♪天狐如夜叉♪」 桜花姫は自身の妖力を退魔霊剣に集中させる。すると銀色だった退魔霊剣の白刃は血紅色の霊気に覆い包まれる。 「其方の所持する刀剣は本物の妖刀だな…」 天狐如夜叉は勿論…。 『血紅色の霊気…退魔霊剣は本物の妖刀みたいですね…』 所有者である八正道も血紅色の妖力に覆い包まれた退魔霊剣を直視すると正真正銘妖刀であると感じる。 「覚悟しなさい!」 桜花姫は妖刀へと変化した退魔霊剣を一振りする。妖力に覆い包まれた退魔霊剣を一振りした直後…。退魔霊剣の効力からか寺院の表門を消滅させる程度の衝撃波を発生させたのである。寺院の前方近辺より推定二百メートル規模のクレーターが形作られる。 「えっ…」 『一振りだけでこんなにも威力が…』 桜花姫は勿論…。所有者の八正道は間近で退魔霊剣の威力を直視すると愕然としたのである。 『桜花姫様が退魔霊剣に妖力を集中させただけで…こんなにも絶大なる威力を発揮出来るなんて…最強の桜花姫様に退魔霊剣とは鬼に金棒ですね…』 八正道は退魔霊剣の威力に戦慄する。一方のアクアヴィーナスも…。 『恐らくは桜花姫の魔力の効力よね…深海底では最強の魔女だったダークスキュランと…彼女の親玉であるアビスエキドナスが桜花姫に撃退されちゃうのも納得だわ…』 するとクレーターの中心部より結界を構築した天狐如夜叉が浮遊する。 「桜花姫の妖力は絶大なる高威力だ…其方の力量は下等生物である其処等の妖女のみならず…下手すると十二人の最高神にも相当するかも知れないな…」 「私が…最高神に相当ですって?」 天狐如夜叉は東国最高峰…。天空山の方向を眺望したのである。 『私は主目的を達成しなくては…桜花姫と彼女の仲間達を排除するのは後回しだな…一先ずは…』 天狐如夜叉は自身の主目的を優先…。突如として彼女の姿形がパッと消滅する。 「天狐如夜叉!?」 『彼女に逃げられちゃったわ…残念ね…』 桜花姫は金縛りによって身動き出来なくなった八正道とアクアヴィーナスの金縛りを解除したのである。 「えっ?私達…自由に身動き出来るわ…」 「感謝しますね…桜花姫様…今回も桜花姫様に救助されましたね…」 八正道とアクアヴィーナスは命拾い出来…。桜花姫に感謝する。 「桜花姫…あんたは本当に最強ね…」 アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫が最強であると発言したのである。 「当然でしょう♪私は最上級妖女の月影桜花姫だからね♪」 彼女は満面の笑顔で二人に返答する。 「ですが桜花姫様が退魔霊剣を一振りしただけで…二町規模の陸地が一掃されるなんて衝撃ですね…」 八正道は退魔霊剣が人間である自身よりも妖女である桜花姫が所持するのが相応しいと感じる。 『ひょっとすると退魔霊剣は私みたいな人間よりも人外の妖女が所持してこそ本来の効力を発揮出来るのかも知れませんね…』 直後である。 「えっ!?」 退魔霊剣が虹色に発光したかと思いきや…。巫女装束の小柄の女性が退魔霊剣の白刃から出現したのである。 「きゃっ!」 「うわっ!退魔霊剣から巫女の女性が…彼女は何者でしょうか?」 八正道とアクアヴィーナスは驚愕する。巫女装束の女性は人外であるものの…。実体化した存在である。 「桜花姫!?彼女は一体何者なのよ!?」 アクアヴィーナスはソワソワした様子で桜花姫に問い掛ける。 「はぁ…あんたね…」 一方の桜花姫は冷静であり実体化した巫女装束の女性に呆れ果てる。 『誰かと思いきや…』 桜花姫は突如として実体化した巫女装束の女性に恐る恐る…。 「あんたは妖星巨木の精霊かしら?あんたは人騒がせね…」 巫女装束の女性とは妖星巨木の精霊だったのである。 「月影桜花姫と彼女の仲間達よ…私だ…」 妖星巨木の精霊は即答する。 「八正道様から退魔霊剣を私に手渡ししたのはあんたかしら?」 「無論である…」 するとアクアヴィーナスは恐る恐る…。 「桜花姫?彼女は一体何者なの?あんたの知人かしら?」 アクアヴィーナスの問い掛けに桜花姫は笑顔で返答する。 「彼女は世界樹の妖星巨木の精霊なのよ…姿形は小柄の美少女だけど…本体は世界樹の樹木だからね♪厳密には世界樹が擬人化した超自然的存在かしら…」 「貴女様は妖星巨木の精霊でしたか…」 『妖星巨木の精霊がこんなにも美人の女性だったとは…彼女が地上世界の造物主なんて衝撃的ですな…』 八正道は妖星巨木の精霊に見惚れたのか赤面したのである。 「其方は僧侶の身分であるが…こんな見ず知らずの私に見惚れたのか?其方は僧侶の身分で相当の物好きみたいだな…」 妖星巨木の精霊に問い掛けられた八正道は動揺し始める。 「えっ!?私は別に…何も貴女様に対する恋心は…」 八正道は必死に誤魔化したのである。 『やっぱり八正道様は相当の物好きなのね♪』 桜花姫は八正道の様子にニコッと微笑み始める。すると妖星巨木の精霊は八正道を直視するとボソッと発言したのである。 「如何やら其方が桜花姫の理解者である人間の僧侶みたいだな…悪霊の集合体…邪霊餓狼に憑霊されても健康体とは意気衝天だな…」 「意気衝天こそが私にとって最大の美点ですからね♪邪霊餓狼に憑依されたとしても私は一生涯現役ですよ!」 八正道は妖星巨木の精霊に一生涯現役であると断言する。 「熱血漢の其方であれば…神出鬼没の悪霊に憑霊されても大丈夫そうだな…肉体的にも頑丈そうだ…」 すると今度は桜花姫が発言したのである。 「妖星巨木の精霊…あんたは今迄雲隠れしたのね…」 妖星巨木の精霊は雲隠れした状態で桜花姫に追尾…。彼女と同行したのである。 「桜花姫よ…やっぱり其方には見破られたか…」 「当然でしょう♪私に雲隠れしても気配で察知出来るのよ♪雲隠れしたって私は簡単に見破っちゃうからね♪」 桜花姫は最初から妖星巨木の精霊が自身の背後に追尾したのを察知する。 「先程の絶大なる妖力だ…今現在の其方であれば天狐如夜叉の暴走を阻止出来るかも知れないな…」 「早速天狐如夜叉を仕留めちゃいましょう♪」 「勿論ですとも♪桜花姫様♪即刻神族の天狐如夜叉を降参させ…騒動の黒幕である彼女の暴走から私達の俗界を守護しましょう!」 するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。 「桜花姫?彼奴の居場所は?逃げられちゃったけど彼奴を追尾出来るの?」 「アクアヴィーナス♪心配しなくても天狐如夜叉の居場所なら千里眼の妖術で把握したから大丈夫よ♪」 桜花姫は天狐如夜叉が撤退した直後に千里眼の妖術を発動…。彼女の居場所を正確に把握出来たのである。 「天狐如夜叉の居場所は天空山の頂上だからね♪」 「天空山とは…東国の最高峰ですね…」 天狐如夜叉は天空山の頂上にて逃亡…。潜伏したのである。 「早速天空山に移動しましょう!私達は天狐如夜叉を追撃するのよ!」 「勿論ですとも♪桜花姫様♪即刻天狐如夜叉を追撃しましょう!私達で彼女の暴走を徹底的に阻止するのです!」 一同は天空山へと移動する直前…。 「ん?」 とある白猫が出現する。 「えっ…」 『何かしら?白猫?』 白猫が桜花姫の目前に接近したのである。 「白猫だわ…」 桜花姫は恐る恐る白猫に接触する。 「こんな場所に白猫が…野良猫でしょうか?随分人懐っこいですね…」 「白猫…桜花姫が大好きみたいね…」 八正道とアクアヴィーナスも人懐っこい白猫に注目したのである。すると直後…。突如として白猫の肉体から白煙が発生する。 「えっ?」 白猫が白煙に覆い包まれたかと思いきや…。ポンッと小柄の美少女が出現する。 「えっ!?白猫が人間の女の子に!?」 アクアヴィーナスは驚愕したのである。 「誰かと思いきや…あんたは山猫妖女の小猫姫…」 白猫の正体は誰であろう山猫妖女の小猫姫…。彼女だったのである。 「白猫の正体はあんただったのね…小猫姫…」 一方の小猫姫は恐る恐る桜花姫を凝視し始める。 「桜花姫姉ちゃん…私だよ…」 先程の軋轢により桜花姫も小猫姫も非常に気まずいのか二人の表情が強張る。 「えっ…」 『桜花姫様…小猫姫様…』 二人の様子から八正道は勿論…。アクアヴィーナスも動揺したのである。 『桜花姫?如何したのかしら?』 気まずい雰囲気からか空気が重苦しくなる。 『二人の表情が…非常に気まずいですね…』 『何かしら?重苦しい空気だわ…私達は場違いね…』 八正道とアクアヴィーナスは二人の気まずい雰囲気に恐る恐る後退りし始める。 「小猫姫…」 「桜花姫姉ちゃん…」 部外者の八正道とアクアヴィーナスは当然であるが…。当事者の桜花姫と小猫姫も内心気まずい空気であると感じる。小猫姫は多少強張った表情であったが…。涙腺から涙が零れ落ちる。 「桜花姫姉ちゃん…八正道様…心配させちゃって御免なさい!」 小猫姫は桜花姫と八正道の二人に謝罪したのである。 「小猫姫様…」 「小猫姫…」 一方の桜花姫も涙腺より涙が零れ落ちる。 「私こそ御免なさいね…小猫姫…」 「えっ…桜花姫様…」 「桜花姫が…」 『無慈悲の桜花姫でも落涙するのね…正直意外だわ…』 八正道とアクアヴィーナスは落涙し始めた桜花姫の様子に驚愕したのである。 「私は妹分の小猫姫に絶縁なんて…最低だよね…」 「私だって…私だって何度も自害し掛けて!桜花姫姉ちゃんや八正道様を心配させちゃったから…私こそ最低だよ…」 すると桜花姫は満面の笑顔で…。 「私は何時迄もあんたの姉貴分だから心配しないでね♪」 桜花姫の発言に小猫姫も満面の笑顔で返答する。 「勿論だよ♪私だって何時迄も桜花姫姉ちゃんの妹分だからね♪」 彼女達は笑顔で断言し合ったのである。 「金輪際自害は禁止だからね…小猫姫…約束出来るわよね?」 桜花姫の問い掛けに小猫姫は満面の笑顔で…。 「私は大丈夫よ…桜花姫姉ちゃん♪私は蛇体如夜叉婆ちゃんとも約束したから♪」 「えっ…」 桜花姫は彼女の発言に一瞬絶句する。 「小猫姫?蛇体如夜叉婆ちゃんって?」 小猫姫は先程の摩訶不思議の出来事を洗い浚い告白したのである。 「霊体だったけど…蛇体如夜叉婆ちゃんとも再会出来たから…私なら大丈夫だよ♪吹っ切れたからね♪桜花姫姉ちゃん♪」 「ひょっとすると蛇体如夜叉婆ちゃんは…余程小猫姫が心配だったみたいね…」 『今現在の小猫姫の様子なら…蛇体如夜叉婆ちゃんも安心出来るよね…』 桜花姫は勿論…。八正道も小猫姫の吹っ切れた様子に一先ずホッとする。 「一件落着です♪何はともあれ桜花姫様と小猫姫様が無事に仲直り出来たので一安心ですね♪正直私自身もホッとしましたよ♪」 「小猫姫との関係改善は一件落着だけど…天狐如夜叉…今度は彼女の暴走を阻止しないとね…」 小猫姫は恐る恐る問い掛ける。 「天狐如夜叉って…誰なの?桜花姫姉ちゃん?」 「天狐如夜叉は神族の一人でね…蛇体如夜叉婆ちゃんの大昔の悪友なのよ…」 「蛇体如夜叉婆ちゃんの…大昔の悪友?」 「私は彼女を復讐心から…解放するのよ…」 普段の桜花姫であれば敵対者が非力の人間であっても我先にと征伐するのだが…。今回ばかりは異例だったのである。 「桜花姫様…」 「桜花姫姉ちゃん…」 今回の桜花姫は誰しもが異例中の異例であると感じる。すると小猫姫は真剣そうな表情で…。 「桜花姫姉ちゃん!私にも協力させてよ!私も桜花姫姉ちゃんの妹分として協力したいからね!」 桜花姫は小猫姫の前向きな意気込みにニコッと微笑んだのである。 「勿論よ♪小猫姫♪姉貴分の私に協力してね!」 桜花姫一行は再度直行する寸前…。 「最上級妖女の月影桜花姫ちゃん♪悪友の私を放置するなんて…あんたは本当に意地悪よね♪」 今度は粉雪妖女の雪美姫が出現する。 「あんたは粉雪妖女の雪美姫?」 すると雪美姫はアクアヴィーナスの存在に気付いた直後…。 「えっ?あんたは誰よ?異国の人間かしら?」 雪美姫はアクアヴィーナスを凝視したのである。 「えっ…」 アクアヴィーナスはビクビクした様子で恐る恐る名前を名乗り始める。 「私は…アクアユートピアの…アクアヴィーナスです…」 アクアヴィーナスは小声であり雪美姫は内心苛立ったのである。 「あんたは…アクアヴィーナスですって?」 すると桜花姫が笑顔でフォローする。 「彼女は人魚王国…アクアユートピアの人魚で私の悪友なのよ♪アクアヴィーナスは人一倍気弱だから彼女には意地悪しないでね♪雪美姫♪」 「あんたは異国の人魚なのね…」 『彼女…取っ付き難そうな性格だわ…挙動不審で根暗っぽいし…相性的にも私とは仲良く出来なさそうな雰囲気ね…正直彼女は苦手かも知れないわ…』 雪美姫は内心内気のアクアヴィーナスと仲良くするのは困難であると感じる。桜花姫は周囲を確認する。 「全員♪集合したわね♪」 桜花姫は恐る恐る一息したのである。 「恐らくだけど今回は今迄の戦闘とは比較出来ない大激戦が予想されるわ…各自…自宅に戻りたかったら遠慮せずに戻りなさい…今回ばかりは無理強いしないから…」 桜花姫の発言に一同は即答する。 「桜花姫様♪今回の戦闘が前代未聞の大激戦であっても…私はいつ何時であっても桜花姫様に同行しますからね!」 「私だって桜花姫姉ちゃんに同行するよ!私は桜花姫姉ちゃんの妹分だからね!」 「まぁ…一人で自宅に戻っても退屈だからね…今回ばかりはあんたの悪友として桜花姫の大活躍を見届けるわ♪」 今度はアクアヴィーナスも小声で返答する。 「私は何も出来ないけれど…私も貴女に同行するわ…桜花姫…」 今度は妖星巨木の精霊も…。 「是非とも最上級妖女としての其方の奮闘…見届けるか…恐らく今回は空前絶後の大戦闘が予想されるだろうからな…」 桜花姫の発言に一同は同行を覚悟する。 「あんた達♪」 『最高の仲間達ね♪』 桜花姫は内心仲間達の同行に大喜びしたのである。 「早速天空山の頂上に移動するわよ…」 桜花姫は口寄せの妖術を発動する。自分自身の肉体と一同を天空山の頂上を目標に瞬間移動…。桜花姫一行は目的地である天空山の頂上へと無事に到達出来たのである。 「口寄せの妖術…成功ね♪」 「天空山の頂上ですか…頂上からの景色は非常に絶景ですな♪桜花姫様♪」 「私達は…一瞬で天空山に到達しちゃったのね…」 周辺の景色を眺望すると桃源郷神国各地の村里全域が眺望出来る。 「絶景の景色だわ♪桜花姫♪今日が観光だったら最高なのにね…」 観光なら最高であると発言する雪美姫に桜花姫が満面の笑顔で…。 「雪美姫♪天狐如夜叉の問題を片付けてから思う存分に観光しちゃえば♪」 今度は小猫姫が恐る恐る問い掛ける。 「桜花姫姉ちゃん?天狐如夜叉は?」 「天狐如夜叉ですって?」 すると一同の背後より一人の小柄の女性が無表情で佇立する。 「天空山に到達するとは…貴様達は非常に幸運であったな…」 「あんたは天狐如夜叉!?」 桜花姫一行は背後の天狐如夜叉に驚愕したのである。 「貴様達…空前絶後の儀式を開始するぞ…」 「空前絶後の儀式ですって?あんたは一体何を?」 桜花姫が問い掛けると天狐如夜叉はニヤッとした表情で…。 「月影桜花姫と…彼女の仲間達よ…貴様達は神族の眼光…所謂天道天眼の本当の効力を体感するのだ…」 「天道天眼の…本当の効力ですって?」 今度は妖星巨木の精霊が警戒した様子で恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。 「天狐如夜叉よ…其方は本気なのか?儀式を発動すれば何もかもが…」 「無論私は本気だとも…最早後戻りは出来ないからな…」 天狐如夜叉は即答したのである。天狐如夜叉の返答に妖星巨木の精霊はソワソワした様子で身震いし始める。 「えっ…妖星巨木の精霊?大丈夫なの?」 桜花姫は恐る恐る妖星巨木の精霊に問い掛ける。普段は物静かな妖星巨木の精霊であるが…。 「皆の衆!此奴は危険だぞ!」 彼女は非常にソワソワした様子であり妖星巨木の精霊の様子から一同は絶句する。 「えっ!?天狐如夜叉が危険ですと!?一体何が危険なのですか!?妖星巨木の精霊様!?」 「一体如何しちゃったのよ!?妖星巨木の精霊!?」 突如として天狐如夜叉に畏怖する妖星巨木の精霊の反応に一同は動揺したのである。 「皆の衆…彼女の儀式によって死にたくなければ精霊の私か桜花姫の肉体に接触するのだ!天狐如夜叉は本気だ…」 「えっ…本気って?」 「儀式って…天狐如夜叉は一体何を?」 周囲の者達は何が何やらサッパリであり状況を理解出来ない。妖星巨木の精霊は周囲の反応に必死に勧告する。 「兎にも角にも…彼女の儀式で死にたくなければ私か桜花姫に接触するのだ!天狐如夜叉は本気だぞ!皆の衆は死にたいのか!?」 精霊の突然の指示に混乱した一同であるが…。一同は恐る恐る精霊の指示に承諾したのである。八正道と雪美姫には妖星巨木の精霊が接触…。アクアヴィーナスと小猫姫には桜花姫が接触したのである。すると数秒後…。 「相応の神力は蓄積されたぞ…愚劣なる者達よ…絶望せよ!体感するのだ!神世界が再興される瞬間を!」 天狐如夜叉は再度天道天眼を発動する。 「神聖なる神族を除外する…森羅万象の愚劣なる生命体…冥界の愚劣なる亡者達よ…神聖なる神族の神世界から完膚なきまでに…浄化されよ!」 直後である。地上世界全域の人間達は勿論…。森羅万象に存在するあらゆる生命体が粒子状の発光体に変化し始める。数秒後…。あらゆる生命体は完膚なきまでに消滅したのである。 「えっ…」 近場の道場で剣術修行中だった忍者妖女…。山茶花姫は自身の肉体の変化に気付いたのである。 『一体何が!?』 粒子状の発光体に変化し始める自身の肉体に戦慄し始め…。 「きゃっ!」 『私は!?死にたくないよ…』 山茶花姫は完膚なきまでに消滅したのである。一方深海底地帯のアクアユートピアではアクアヴィーナスの母親であるアクアキュベレーが…。 「えっ!?」 『全身が!?一体何事なの!?』 アクアキュベレーは消滅し始める自身の肉体に恐怖する。 『アクアヴィーナス…私は…』 アクアキュベレーは肉体諸共消滅したのである。一方国境のダークスキュランはアクアユートピア全体をシールド魔法で守護するのだが…。 「えっ?」 彼女は恐る恐る消滅し始める自身の肉体を直視したのである。 『ひょっとして消滅の…魔法かしら?』 ダークスキュランは消滅の恐怖よりも空虚に感じられる。 『結局私は…二度も殺されるのね…』 深海底のアクアユートピアの人魚達は勿論…。海中の生物達も完膚なきまでに消滅したのである。同時刻…。危険区域とされる失楽園のブルーデストピアでも同様の超自然的現象が発生したのである。 「えっ?」 深海底魔女のダークスプライトも粒子状に消滅し始める。 「何かしら?」 『世界の消滅魔法だわ…私を消滅させられるなんて…神族の制裁なのかしら?全世界は…滅亡する運命なのね…』 ダークスプライトも完膚なきまでに消滅したのである。同時刻…。死後の世界とされる地獄の世界では各地の亡者達が粒子状の発光体に変化したのである。 「はっ?」 『此奴は…何事だ?』 地獄の住人である月影幽鬼王は周囲の悪霊が消滅する光景を直視する。 『亡者達が…消滅だと?』 突然の超常現象に幽鬼王はハッとしたのである。 『如何して亡者達は消滅したのだ?』 周囲の悪霊が粒子状の発光体に変化し始め…。完膚なきまでに消滅したのである。 『非常に不自然だな…一体何が発生しやがった?』 幽鬼王は自身の肉体を直視する。 「ん?」 無数の粒子状の発光体へと変化…。肉体が消滅し始める。 「畜生が…」 『気に入らないな…俺も消滅するのかよ…』 幽鬼王自身も周囲の亡者達と同様完膚なきまでに消滅したのである。死後の世界である地獄の世界は虚無の世界であり亡者達の霊体は誰一人として存在しない。
第三十一話
和解 消滅の儀式が終了した同時刻…。天空山の頂上では術者の天狐如夜叉が桜花姫一行を凝視する。 「非常に残念であったな…貴様達だけは無事であったか…」 天狐如夜叉は無事だった桜花姫一行に落胆したのである。 「神族の儀式を回避するとは…貴様達は誰よりも強運であるな…」 「私達が…幸運ですって?」 すると雪美姫が恐る恐る…。 「えっ…一体何が発生したのよ!?結局神族の儀式って何だったのよ?」 雪美姫に問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。 「先程の神族の儀式で何が発生したのか?神聖なる神族を除外する低次元の下劣なる下等種族を…存在諸共完膚なきまでに消滅させたのだ…今現在下劣なる下等種族で無事なのは天空山の貴様達だけだぞ…」 「なっ!?」 「存在を…消滅ですって!?」 天狐如夜叉の発言に一同は絶句したのである。 「地上世界のあらゆる下等生物達は無論…冥界の薄汚い亡者達も全員駆除したからな…神族の支配する神聖なる神世界に薄汚い害虫の存在は相応しくない…薄汚い害虫は駆除して当然であろう?」 天狐如夜叉の発動した消滅の神術により地上世界は勿論…。死後の世界である冥界は虚無地帯であり今現在地上世界で無事なのは桜花姫一行だけである。 「神族の眼光と神通力を所持する月影桜花姫と…妖星巨木の精霊を駆除出来なかったのは非常に残念だ…貴様達は人一倍幸運であったな…」 天道天眼に対抗出来るのは神通力か天道天眼を所持する妖女か妖星巨木のみとされ天狐如夜叉の消滅の効力でも桜花姫と妖星巨木は消滅を無効化出来…。彼女達に接触した一同も無事だったのである。 「えっ…私の…アクアキュベレー母様は?」 「勿論アクアユートピアの人魚達も完膚なきまでに消滅したからな…最早暗闇の海中にも生命体は何一つとして存在しないのだ…」 天狐如夜叉は恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスに即答する。 「えっ…」 『アクアキュベレー母様が…消滅ですって?』 実母のアクアキュベレーの消滅にアクアヴィーナスは落涙したのである。 「母様が死んじゃうなんて…」 「アクアヴィーナス…」 桜花姫は落涙するアクアヴィーナスに極度の悲痛さを感じる。 『いい気味だ…』 一方の天狐如夜叉は落涙するアクアヴィーナスの様子に冷笑したのである。 「勿論…其方も仕留めるから安心しろ…か弱き人魚の小娘よ…」 冷笑する天狐如夜叉に八正道は全身が身震いし始める。 「天狐如夜叉…貴女様は…」 天狐如夜叉の横暴さに腹立たしくなった八正道は即座に護身用の連発銃を所持し始め…。恐る恐る弾丸を装填させたのである。 「天狐如夜叉!貴女様だけは!」 周囲の者達は八正道の様子に愕然とする。 「えっ!?八正道様!?」 「八正道!?」 八正道は鬼神の形相で天狐如夜叉に怒号したのである。 「何が神族ですか!?何が神世界ですか!?崇高なる神族であったとしても貴女様みたいな極悪非道の大悪党は絶対に看過出来ません!」 対する天狐如夜叉は八正道の言動に呆れ果てる。 「其方は醜悪なる人間の分際で…神族である私を大悪党と侮辱するとは…其方は命知らずの愚か者だな…余程死にたいのか?」 「貴女みたいな極悪非道の神族は…」 今現在の八正道は正真正銘鬼神の形相であり天狐如夜叉を睥睨したのである。 「えっ…八正道様?」 『普段は誰よりも大仏様みたいな八正道様が…こんなにも感情的なんて…』 八正道の様子に桜花姫は勿論…。 「えっ…」 『八正道様が…本物の仁王様みたい…』 『八正道って…こんな鬼神みたいな形相の人間だったっけ?』 小猫姫と雪美姫も天狐如夜叉に睥睨し続ける八正道の形相に戦慄したのである。桜花姫は恐る恐る…。 「八正道様…あんまり彼女に反抗し過ぎると何を仕出かすか…」 桜花姫はビクビクした様子で八正道を制止したのである。 「ですが桜花姫様!彼女は大勢の民衆達は勿論!地上世界のあらゆる動物達を消滅させた極悪非道の大悪党なのですよ!今回の大罪は崇高なる神族であっても絶対に許容出来ません!」 「八正道様…相手は本物の神族なのよ!?天狐如夜叉に反抗すれば…今度は八正道様が彼女に殺されちゃうわ…」 桜花姫は必死に八正道を制止するのだが…。 「天狐如夜叉の大罪を黙認するのは私には出来ません!」 八正道は只管感情的に怒号し続ける。 「私は彼女に逆襲する覚悟ですよ…失礼かも知れませんが…今回ばかりは桜花姫様の指示であっても…私は天狐如夜叉に逆襲しなくては…」 「八正道様…」 『相当の殺意だわ…八正道は本気ね…』 普段は誰よりも温厚篤実である八正道であるが…。今回の八正道からは強烈なる本気の殺意が感じられる。 「天狐如夜叉!私が一人の人間として…神族である貴女様を征伐します!」 怒号し続ける八正道に天狐如夜叉は再度呆れ果てる。 『人間風情が…』 「人間の僧侶…其方は相当の命知らずだな…人間の分際で神族の眼光を所持する私を征伐すると?片腹痛いわ…」 対する八正道は不本意であるが…。最早後戻りが出来ないと覚悟する。 『一か八かの大博打です!』 「天狐如夜叉…覚悟するのです!」 八正道は一か八か天狐如夜叉に連発銃を発砲したのである。 「無謀だな…」 『所詮は人間の玩具で…』 天狐如夜叉は木刀でガードするのだが…。 「はっ!?」 連発銃の弾丸は木刀を屈折させ天狐如夜叉の胸部を貫通したのである。 「ぐっ…其方は…」 天狐如夜叉は口先から吐血する。 「えっ…」 一同は予想外の事態に再度絶句したのである。 『天狐如夜叉の木刀が…』 本来なら鋼鉄をも両断出来る天狐如夜叉の木刀であるが…。一発の銃弾によって簡単に屈折したのである。 「其方は…本当に発砲するとは…」 天狐如夜叉は一瞬であるが…。動揺したのである。一方の八正道は身震いした表情で恐る恐る…。 「天狐如夜叉…貴女は最後の最後で油断しましたね…油断大敵ですよ…」 一方の天狐如夜叉は八正道を睥睨したのである。 「其方は醜悪なる…人間の分際で…」 すると桜花姫が不思議そうな表情で問い掛ける。 「如何して八正道様の連発銃で…天狐如夜叉の木刀が簡単に屈折したのかしら?」 桜花姫の疑問に八正道は即答する。 「彼女の木刀は恐らく小面袋蜘蛛と同質の素材で形作られた代物でしょう…」 天狐如夜叉の木刀は妖星巨木の小枝で形作られた代物である。天狐如夜叉の木刀は妖力を吸収出来る反面…。妖力を使用しない通常の攻撃には無力である。 「彼女の木刀は妖力を吸収出来るかも知れませんが…妖力を使用しない攻撃なら通用するかも知れないと予想したのです…」 「人間である私の父様は此奴に殺害されたのよ…」 すると妖星巨木の精霊が解説する。 「恐らくだが当時…其方の父親…月影鉄鬼丸が彼女に殺害されたのは装備品の木刀に自身の神力を混入させたのであろう…」 本来であれば天狐如夜叉の木刀は自身の神力を混入すると鋼鉄をも両断出来る。真逆に神力を混入しなければ単なる木刀同然の代物である。 「完全に天狐如夜叉の油断だったのね…」 「ですが正直…一か八かの大博打でしたがね…私自身最期を覚悟しましたから…」 八正道自身は大博打であり天狐如夜叉に反撃されるのを覚悟で発砲…。最悪天狐如夜叉に殺害されるのは覚悟したのである。 『八正道は摩訶不思議の人物だ…彼自身は純血の人間なのだろうが…其処等の常人と比較すると八正道は異質的だな…』 妖星巨木の精霊は八正道の性質を凝視し続ける。 『油断したとしても相手は正真正銘神族の一角…単なる人間の攻撃程度が怪力乱神の神族に通用するのだろうか?』 妖星巨木の精霊は八正道には通常の人間には存在しない潜在的効力が秘められたのだと思考する。 『八正道には法力やら妖力は勿論…神通力とは別物の…摩訶不思議の超能力が存在するのかも知れないな…』 一方八正道の大博打で胸部を大怪我した天狐如夜叉であるが…。自身の神力により銃撃による傷口を治癒させたのである。 「貴様等…地上世界の下等生物の分際で!全員死滅させる!」 天狐如夜叉は口寄せの神術を発動する。 「小面袋蜘蛛だわ…三体も口寄せしたのね…」 周囲の地面から三体もの小面袋蜘蛛を出現させたのである。小面袋蜘蛛の出現に桜花姫以外の一同は驚愕する。 「えっ!?蜘蛛の怪物!?」 「ひっ!器物の悪霊…小面袋蜘蛛だわ!」 「桜花姫姉ちゃん!最強の妖術で小面袋蜘蛛を撃退出来ないの!?」 三体の小面袋蜘蛛は桜花姫一行の周囲を包囲したのである。 「小面袋蜘蛛を撃退するにも…三体を同時に相手するのは私でも困難ね…」 桜花姫は冷静沈着の様子で発言する。 「三体の小面袋蜘蛛よ!二人を除外して四人は人外の妖女だ!思う存分に奴等を食い殺すのだ!」 小面袋蜘蛛は死亡した神族の霊魂が器物に憑霊した憑依系統の悪霊である。妖星巨木の樹木誕生した器物の超自然的存在であり荒唐無稽の妖力は通用せず…。妖女にとって小面袋蜘蛛は最大の天敵とされる。 「如何するのよ!?桜花姫!?小面袋蜘蛛には私達の妖術なんて何一つとして通用しないわよ!」 桜花姫以外の二人の妖女は勿論…。 「桜花姫!あんたの魔法で三体の蜘蛛の怪物を撃退出来ないの!?」 アクアヴィーナスはビクビクした様子であり力一杯桜花姫に密着し始める。妖女が小面袋蜘蛛を仕留めるのは実質的に困難であり大技の妖術を駆使したとしても妖術は無力化され…。妖力が吸収されるのは明白である。 「桜花姫様…非力の私では武器を使用しても三体もの小面袋蜘蛛を同時に相手するのは不可能です…一体如何すれば?」 正直多勢に無勢であり武器を所持する八正道だけで三体もの小面袋蜘蛛を仕留めるのは実質不可能…。 『止むを得ないわね…』 「一か八かよ…」 桜花姫は一瞬瞑目する。 『口寄せの妖術…発動!』 桜花姫は神通力を駆使しなければ発動出来ない口寄せの妖術を使用したのである。自身の細胞の一部を三体もの小面袋蜘蛛の体内より口寄せする。天狐如夜叉は桜花姫の様子に恐る恐る…。 「ん?其方は…一体何を発動したのだ?荒唐無稽の妖術を駆使しても小面袋蜘蛛には通用しないぞ…」 「単なる大博打よ…」 桜花姫は即答する。 「単なる大博打だと?」 『此奴は…一体何を?小細工なのか?』 天狐如夜叉は桜花姫の動向に警戒したのである。すると数秒後…。小面袋蜘蛛が三体同時にポンッと白煙に覆い包まれる。 「なっ!?私の小面袋蜘蛛が…」 白煙に覆い包まれた三体の小面袋蜘蛛が直後に三人の桜花姫へと変化したのである。 「えっ!?如何して桜花姫が…三人?」 「桜花姫姉ちゃんが…三人も!?分身の妖術なの?」 「ひょっとして彼女達は…桜花姫様の分身体でしょうか?」 「如何して蜘蛛の怪物が桜花姫の姿形に変化したのかしら?桜花姫の魔法なの?」 突然の出来事に桜花姫を除外する一同は驚愕する。一方の天狐如夜叉は苛立った様子であり桜花姫を睥睨したのである。 「其方は…小面袋蜘蛛の体内に其方の異物を混入させたな?」 一方の桜花姫は満面の笑顔で即答する。 「口寄せの妖術で小面袋蜘蛛の体内に私自身の小細胞の一部を混入させたのよ♪ひょっとして不都合だったかしら♪天狐如夜叉♪」 彼女は口寄せの妖術で自身の小細胞の一部を小面袋蜘蛛の体内に混入…。強豪の最上級悪霊吸血貴婦人やら人工性妖女ウィプセラスとの戦闘で披露した融合化の妖術を駆使したのである。融合化の妖術により混入させた自身の小細胞を小面袋蜘蛛の体内から一体化…。小面袋蜘蛛本体を素材に自身の完全なる分身体を形作ったのである。 「自身の細胞と小面袋蜘蛛の肉体を利用して自分自身の分身体を形作るとは…其方はか弱き小娘の外見とは裏腹に…中身は醜悪なる怪物同然だな…」 天狐如夜叉の怪物発言にピリピリする。 『此奴…地上世界の女神様である私を醜悪なる怪物ですって?』 「私の分身体!彼女の身動きを封殺しなさい!」 桜花姫は自身の三体の分身体に指示したのである。三人の桜花姫の分身体は無言の様子で天狐如夜叉に金縛りの妖術を発動…。 「ぐっ…貴様等…」 『此奴は金縛りの妖術か…こんな妖女の小娘に身動きを封殺されるとは…』 天狐如夜叉は三人の桜花姫の金縛りの妖術によって完全に身動き出来なくなる。 『何故だ…何故?私は人間の僧侶を相手に油断したのだろうか?如何して人間の僧侶に反撃しなかった?妖星巨木の木刀さえ破壊されなければ…こんな奴等なんて…畜生…』 最早木刀が無くなった状態では天道天眼を所持しても桜花姫と三人の分身体に対抗するのは不可能である。 『神世界の再興は間近なのに…私はこんなひ弱の小娘に殺されるのか?』 天狐如夜叉は再度桜花姫を睥睨する。一方の桜花姫は身動き出来なくなった天狐如夜叉に一歩ずつ近寄る。 「天狐如夜叉…抵抗出来ないでしょう?あんたは観念しなさい…」 すると小猫姫が大声で…。 「桜花姫姉ちゃん!彼女を殺さないで!」 小猫姫は必死の様子で桜花姫に制止したのである。 「えっ?小猫姫?」 必死に制止する小猫姫に周囲の者達は勿論…。天狐如夜叉もハッとした表情で小猫姫に注目し始める。 「天狐如夜叉は悪者かも知れないけれど…彼女は蛇体如夜叉婆ちゃんの友人なのよ…彼女を殺しちゃったら蛇体如夜叉婆ちゃん…絶対に悲しんじゃうよ…」 小猫姫は涙腺から涙が零れ落ちる。すると桜花姫は満面の笑顔で返答する。 「心配しなくても大丈夫よ♪小猫姫♪私は彼女を復讐心から解放させたいだけなのよ♪蛇体如夜叉婆ちゃんとも約束したからね♪安心しなさい♪」 桜花姫は金縛りの妖術を解除…。金縛りの妖術により身動き出来なくなった天狐如夜叉を解放したのである。 「えっ!?桜花姫!?折角此奴の身動きを封殺出来たのに…此奴の金縛りを解除しちゃうの!?此奴を自由にしたら今度こそ私達に手出しするわよ…何よりも此奴は私の母様を殺した極悪非道の張本人なのよ!?」 アクアヴィーナスは天狐如夜叉に警戒したのか恐る恐る後退りする。 「心配しなくても大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪彼女は大分弱体化した状態だわ♪抵抗したくても抵抗出来ないわよ…」 天狐如夜叉は先程の消滅の効力により九分九厘の神力を消耗…。最早彼女は抵抗出来ない無力の状態である。天狐如夜叉は神力の消耗によってバタッと地面に横たわる。 「大丈夫!?天狐如夜叉!?」 小猫姫は地面に横たわった状態の天狐如夜叉に近寄る。一方の天狐如夜叉は恐る恐る小猫姫を直視したのである。 「野良猫みたいな妖女の小娘よ…其方は…敵対者である私を庇護するとは…」 「あんたは蛇体如夜叉婆ちゃんの友人でしょう?庇護するのは当然だよ…」 小猫姫の発言に天狐如夜叉は苦笑した様子で返答する。 「其方は蛇神の蛇体如夜叉の知人なのか?」 『彼奴は…蛇体如夜叉は神族の一員なのにこんな小娘達と交流したのか?』 天狐如夜叉は蛇体如夜叉に呆れ果てる。 「蛇体如夜叉婆ちゃんにとって…私と桜花姫姉ちゃんは唯一無二の孫娘なの…」 「小娘達二人が…蛇体如夜叉の孫娘だと?」 『冗談だろうか?』 天狐如夜叉は冗談かと思いきや…。小猫姫は再度涙が零れ落ちる。 「えっ…」 『野良猫の小娘?』 天狐如夜叉は恐る恐る小猫姫に問い掛ける。 「蛇体如夜叉は?」 「蛇体如夜叉婆ちゃんは…先日…老衰で死んじゃったよ…」 「彼奴は老衰で死去したのか…」 天狐如夜叉は無表情であり沈黙したのである。 『蛇体如夜叉…』 桜花姫は沈黙する天狐如夜叉に再度問い掛ける。 「天狐如夜叉…如何するのよ?今度こそ私と勝負するの?」 問い掛けられた天狐如夜叉は一瞬苛苛立つものの…。 『今更こんな状態で…桜花姫と勝負しても…』 「私は降参するよ…最早神力も空っぽの状態だ…こんな状態では貴様達と勝負したとしても敗北するだろうからな…」 不本意であるが天狐如夜叉は桜花姫に降参する。 「あんたは♪意外と潔白なのね♪天狐如夜叉♪」 天狐如夜叉はヘラヘラする桜花姫に腹立たしくなったのかピリピリしたのである。 『此奴…何が純白だ…腹立たしい小娘だな…』 すると八正道は恐る恐る…。 「天狐如夜叉?貴女の神力で消滅させられた大勢の村人達やら動物達を元通りには戻せませんか?天狐如夜叉の神力を駆使すれば可能なのでは?」 「私の神力で村人達と動物達を元通りに戻せるかだと?」 問い掛けられた天狐如夜叉は一瞬困惑したのである。 「あんたは…今度も私達に手出しするの?」 桜花姫が恐る恐る問い掛けると天狐如夜叉は彼女に睥睨するものの…。 「降参するよ…私の敗北だ…神世界の再興を実現出来ないのは非常に残念だったが…人間達への復讐は達成出来たからな…今更貴様達に手出ししても無意味だ…」 天狐如夜叉の様子に一同はホッとしたのである。 「再生は可能なのですか?天狐如夜叉?」 八正道は再度質問すると天狐如夜叉は返答する。 「再度…神族の眼光を発動すれば消滅した生命体を完全に復活させられるが…生憎私には神力が消耗した状態だからな…再度消滅した生命体を元通りに復活させるには莫大なる神力を蓄積させなくては不可能だぞ…神力を蓄積させたとしても時間が経過し続ければ間に合わなくなる…」 「えっ…時間ですと?」 桜花姫を除外する周囲の者達は絶望したのである。すると桜花姫が恐る恐る…。 「私にも出来ないかしら?天狐如夜叉?」 天狐如夜叉は桜花姫の問い掛けに無表情で返答する。 「其方自身も神族の眼光を所持する最上級妖女であるが…再生の妖術は相当の妖力が必要不可欠だろう…場合によっては術者が衰弱死するかも知れない…其方の半身は人間だからな…肉体的には貧弱だ…」 不運にも桜花姫は半分が人間の血縁であり肉体的には貧弱である。 「消滅した大人数を再生するには相当の妖力と相応の覚悟が必要不可欠なのね♪仕方ないわ♪」 桜花姫は余裕の表情で返答する。 「えっ…本当に?」 「術者が…衰弱死ですと?」 桜花姫以外の一同は衰弱死の一言にビクッと反応したのである。再生の妖術は天道の領域とされる。森羅万象に存在するあらゆる生命体を再度復活させるには相応の妖力が必要不可欠…。対象が前代未聞の森羅万象規模とされ最悪の場合術者が衰弱死する可能性は否定出来ない。 「あんた達♪心配性ね♪あんた達が心配しなくても私なら大丈夫よ♪再生の妖術なんかで私は死なないからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で発言したのである。 「ですが桜花姫様…再生の妖術は…」 「あんたが死んじゃったら…金輪際私はあんたと夜遊び出来ないでしょう…」 「桜花姫姉ちゃんが死んじゃったら…私は…今度こそ…」 「桜花姫…あんたは死なないでよ…」 「あんた達…」 桜花姫は極度に心配する一同に困惑し始める。 『如何しましょう?』 すると直後…。 「きゃっ!」 「地響きです!」 「今度も地震かしら!?」 再度グラグラッと地面全域に地響きが発生したのである。 「なっ!?」 八正道は東方の海面上を直視する。 「桜花姫様!?東海の海面上に岩石の巨山が此方に接近中ですよ!」 「えっ?」 広大無辺の海面上には標高のみでも天空に到達する巨大移動物体が出現したかと思いきや…。規格外の巨大移動物体は桃源郷神国本土に急接近する。 「岩石の巨山ですって?」 桜花姫も岩石の巨山に注目したのである。 「えっ…」 『何かしら?』 今度は雪美姫が恐る恐る…。 「現実なのよね?桜花姫?」 一同は海面上の光景が現実なのか実感出来ない。 「彼奴は…」 するとアクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫に密着し始める。 「アクアヴィーナス?大丈夫?」 「ひょっとして私が深海底で遭遇した…巨大海亀の怪物かしら…」 アクアヴィーナスは落涙した表情で発言する。 「えっ…巨大海亀の怪物ですって?彼奴がアクアヴィーナスの目撃した巨大海亀の怪物なのね…」 「彼奴は規格外の怪物だね…こんな規格外の怪物を桜花姫姉ちゃんの妖術で仕留められるのかな?」 巨大移動物体は全体的に巨大海亀の形状であり全身は凸凹した岩石の肉体…。尻尾の形状は岩石の巨大海蛇であり背中の甲羅部分には無数の巨大人面が確認出来る。 「先程から頻発する地震の正体は巨大海亀の彼奴だったのね…」 先程から地震が頻発し続けたのは巨大海亀の怪物が世界各地で暴れ回った影響である。すると天狐如夜叉が恐る恐る…。 「彼奴は天空魔獣…羅刹大皇帝だぞ…天空世界の怪物だ…」 すると妖星巨木の精霊が羅刹大皇帝の名前に反応する。 「羅刹大皇帝だと!?此奴が天空世界より出現したとされる旧世界の天空魔獣か…こんなにも規格外の怪物だったとは…」 「羅刹大皇帝は神族でも最上級に君臨する十二人の最高神が全身全霊で封印した規格外の怪物だったのだ…封印の解除直後であれば私一人でも仕留め切れる程度の実力であったが…」 雪美姫は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。 「えっ…彼奴は神族のあんたでも仕留められないの!?」 「残念だが否定出来ないな…天空魔獣の羅刹大皇帝を対処するには彼奴を上回る相応の神通力が必要不可欠だからな…最早羅刹大皇帝は一筋縄では仕留められない…」 羅刹大皇帝は世界各地の陸地を頬張った影響からか先程よりも魔力が増大化…。最早全盛期に匹敵する状態だったのである。 「羅刹大皇帝の魔力がこんなにも急速に増大化するとは予想外であった…」 『羅刹大皇帝は短時間で世界各地の大陸を暴食したのか?』 天狐如夜叉は自身の悪行に悔恨する。 『羅刹大皇帝を封印から解放したのは間違いだったな…何故私はこんな怪物を復活させたのか?』 すると雪美姫は再度天狐如夜叉に問い掛ける。 「天狐如夜叉!?一体如何すれば彼奴を仕留められるのよ!?今直ぐに彼奴を封印する方法とか…」 天狐如夜叉は小声で返答する。 「私に相応の神力が戻れば…一か八か羅刹大皇帝に対抗出来る可能性が…」 「一か八かってあんたね…今直ぐ彼奴を仕留めないと私達が食い殺されちゃうかも知れないのよ!如何するのよ!?」 雪美姫はパニック状態だったのである。すると桜花姫が満面の笑顔で…。 「神族のあんたが無理なら…私が自力で天空魔獣の羅刹大皇帝を仕留めるわ♪」 単独で羅刹大皇帝を仕留めると断言した桜花姫であるが周囲の者達は猛反対する。 「桜花姫様!?本気なのですか!?相手は地上世界全域を破壊するかも知れない規格外の怪物なのですよ…」 「本当よ…桜花姫…相手は陸地を丸ごと平らげる規格外の怪物なのよ…一人で羅刹大皇帝を仕留めるなんて最強のあんたでも無茶よ…」 「桜花姫でも…巨大海亀の怪物は…」 「私も同感だよ…今回ばかりは桜花姫姉ちゃんでも…」 「あんた達は極度の心配性なのね♪私は最上級妖女なのよ♪今回だって大丈夫よ!」 周囲の者達の反応に桜花姫は只管満面の笑顔で返答したのである。すると妖星巨木の精霊がボソッと一言…。 「一か八かの確率であるが…今度も桜花姫が仙女に覚醒出来るのであれば…」 「えっ?妖星巨木の精霊?仙女に覚醒ですって?」 桜花姫と一同は妖星巨木の精霊に注目する。 「桜花姫が今度も仙女に覚醒出来るのであれば…天空魔獣の羅刹大皇帝を仕留められる可能性が上昇するかも知れない…」 「私が仙女に…」 二年前の妖星巨木との戦闘を想起したのである。 「桜花姫様が全知全能の仙女に覚醒出来れば…極悪非道の羅刹大皇帝を征伐出来るのですね!であれば桜花姫様は早速仙女に♪」 八正道は勿論…。周囲の者達に希望が芽生える。 「桜花姫が完全に天空魔獣の彼奴を仕留められるかは断言出来ないが…何も実行しないよりは可能性が…」 すると桜花姫は妖星巨木の精霊に近寄る。 「私は早速仙女に覚醒するわ!一体如何すれば私が仙女に覚醒出来るのかしら?」 問い掛けられた妖星巨木の精霊は一瞬沈黙するものの…。恐る恐る発言し始める。 「特定の妖女が完全無欠の仙女に覚醒する最重要条件として莫大なる妖力は勿論…神性妖術の天道天眼が必要不可欠なのだ…桜花姫の妖力は非常に強力であるが…仙女に覚醒するには其方自身の妖力のみでは力不足であるからな…完全無欠の仙女に覚醒するのであれば周囲の者達の妖力を精一杯吸収するのだ…」 「私以外の妖女の妖力を吸収ですって?」 桜花姫は背後の雪美姫と小猫姫は勿論…。人魚のアクアヴィーナスを凝視し始める。 「如何やら今回は…あんた達の妖力が必要不可欠みたいね…」 すると小猫姫は満面の笑顔で…。 「桜花姫姉ちゃん♪私の妖力…一思いに吸収しちゃってよ♪」 「小猫姫…」 小猫姫は桜花姫の左手に接触すると急速に妖力が消耗したのである。 「ぐっ!」 「えっ…小猫姫!?大丈夫なの!?」 桜花姫は小猫姫を心配するが…。一方の小猫姫は再度満面の笑顔で返答する。 「私なら…大丈夫だよ♪桜花姫姉ちゃん…心配しないで♪」 「小猫姫…御免なさいね…」 小猫姫の妖力は非常に莫大であり彼女の妖力を吸収すると今迄よりも桁外れの妖力が桜花姫の体内へと蓄積されたのである。すると今度は雪美姫が恐る恐る…。 「今回ばかりは止むを得ないわね…桜花姫…私の妖力も思う存分に吸収しちゃいなさいよ♪」 雪美姫は右手で桜花姫の胸部に接触したのである。 「いや~ん♪雪美姫の助平♪あんたは相当の物好きなのね♪」 「桜花姫♪あんたのおっぱいって…饅頭みたいで柔軟だわ♪」 『雪美姫も…意外と助平なのね…』 雪美姫の乳房の接触により桜花姫は赤面する。 「なっ!?」 『私は…』 一方の八正道は桜花姫と雪美姫の光景に赤面するも…。 「失礼しました…如何やら私は場違いみたいですね…」 八正道は即座に瞑目したのである。必死に瞑目する八正道に小猫姫は笑顔で…。 「興奮しちゃって♪八正道様って意外と助平だね♪」 小猫姫は八正道を揶揄する。 「えっ!?私は…別に何も…興味なんて…皆様方は非常に破廉恥ですな…」 小猫姫に揶揄され八正道は必死に誤魔化すものの…。表情が赤面したのである。桜花姫の乳房を弄った雪美姫であるが…。 「ぐっ…」 『妖力の消耗かしら?桜花姫の吸収力は予想以上に強力だわ…一瞬で大半の妖力が吸収されちゃったわね…』 雪美姫は体内の妖力を吸収され十数秒間で妖力の大半を消耗したのである。今度はアクアヴィーナスが恐る恐る桜花姫に近寄る。 「桜花姫…私の魔力も…一思いに吸収して…」 「アクアヴィーナス…無理させちゃって御免なさいね…」 「私なら大丈夫よ…桜花姫…貴女は気にしないでね…」 アクアヴィーナスはビクビクした様子である。不本意であるが恐る恐る桜花姫の右手に握手したのである。すると直後…。 「ぐっ!」 桜花姫の肉体に接触しただけで体内の魔力が急速に消耗したのである。 『体内の…魔力が…一瞬で消耗しちゃうなんて…』 アクアヴィーナスは疲労が蓄積され…。彼女の大半の魔力は桜花姫の体内へと吸収されたのである。 「御免なさいね…アクアヴィーナス…今回は必要以上に無理させちゃったわね…」 桜花姫は疲労困憊のアクアヴィーナスに謝罪する。 「大丈夫よ…桜花姫…気にしないで♪私は…私なら大丈夫だから♪」 アクアヴィーナスは非常に重苦しい表情であるが…。笑顔で返答したのである。 「妖力は蓄積されたわ♪あんた達…感謝するわね♪」 桜花姫は彼女達に謝礼する。 「八正道様…」 今度は八正道を直視…。 「如何されましたか?桜花姫様?」 名刀の退魔霊剣を手渡したのである。 「八正道様の退魔霊剣…返却するわね…退魔霊剣は今現在の私には不要みたい…」 「承知しました…桜花姫様…」 すると直後…。桜花姫の全身がピカッと光り輝いたのである。 「なっ!?桜花姫様の肉体から閃光が…」 「桜花姫姉ちゃん!?」 「一体何が…発生したの?桜花姫は大丈夫なの?」 「ひょっとして今度も桜花姫の魔法かしら?」 突然の彼女の発光に一同は瞑目する。彼女の全身が発光してより数秒後…。周囲の者達が桜花姫に注目するが頂上の中心部には球状の発光体が確認出来る。 「発光体だわ…何かしら?」 「桜花姫は?無事なの?」 「桜花姫姉ちゃん…大丈夫かな?」 すると球状の発光体が女体を形成し始める。球状の発光体は巫女装束の女神へと変化したのである。 「えっ…彼女は天空の女神様?」 「彼女は天空世界に君臨される天女みたいですね…」 彼女は両目を瞑目した様子であり頭部には金冠…。背後の背中には円形の光背が確認出来る。八正道は恐る恐る…。 「貴女様は月影桜花姫様なのでしょうか?」 女性は八正道を直視すると満面の笑顔で返答する。 「八正道様♪私よ♪月影桜花姫よ♪」 「貴女様は桜花姫様ですか!?一瞬天空世界の女神様かと…」 彼女は女神様の一言に赤面…。 「私が天空世界の女神様なんて♪八正道様は大袈裟ね♪」 桜花姫は内心では大喜びしたのである。 「あんたは…本当に桜花姫なのかしら?」 「本当ね…別人みたいだわ…貴女は本物の桜花姫なの?」 雪美姫とアクアヴィーナスは目の前の人物が桜花姫本人なのか確認する。 「普段の童顔っぽいあんたとは別人みたいだわ…随分と可愛くなったわね♪桜花姫♪一瞬別人かと錯覚しちゃったわ♪」 「普段の貴女よりも大人っぽいわね…桜花姫…」 雪美姫とアクアヴィーナスも仙女へと覚醒した彼女に見惚れる。 「雪美姫♪アクアヴィーナス♪あんた達も大袈裟ね♪」 『今現在の私って♪大人っぽくって可愛らしいのかしら♪』 桜花姫は再度大喜びする。すると妖星巨木の精霊が桜花姫に近寄る。 「如何やら成功だな…月影桜花姫よ…今現在の其方は二年前の其方よりも強大であるぞ…今現在の其方は百人力?千人力の妖女だな…」 「千人力なんて…私は最上級妖女だから当然でしょう♪今回は小猫姫以外にも…雪美姫とアクアヴィーナスの妖力も吸収出来たからね♪」 今現在の彼女は今迄で最大級の妖力を保持する。 「今現在の其方であれば天空魔獣の羅刹大皇帝とも思う存分に対抗出来そうだ…」 「当然でしょう♪私は最上級妖女だからね♪」 今度は天狐如夜叉が恐る恐る桜花姫に近寄る。 「最上級妖女の月影桜花姫よ…」 「天狐如夜叉?一体何よ?」 「其方の神族の眼光と…手土産として私自身の神力も其方に分け与える…思う存分に私の神力を吸収するのだ…月影桜花姫よ…」 「えっ?天狐如夜叉…あんたは本気なの?」 「彼奴を…破壊者の羅刹大皇帝を仕留めるのであれば止むを得ないからな…正直今現在の私では戦力不足だ…」 『天狐如夜叉…』 天狐如夜叉の表情を直視すると今現在の彼女の表情からは先程の殺伐とした雰囲気は感じられない。 『今現在の彼女は仏様みたいな雰囲気ね…天狐如夜叉は正気に戻ったのかしら?』 天狐如夜叉の様子に意外であると感じる。天狐如夜叉は桜花姫の肉体に接触…。直後である。 「えっ!?あんた!?」 桜花姫は勿論…。周囲の者達も天狐如夜叉の変化に驚愕する。 「あんたの頭髪が…黒髪に…」 銀髪の長髪だった天狐如夜叉の頭髪が黒髪へと変色したのである。 「神族の眼光と…私自身の神力を桜花姫に分け与えたのだ…其方は気にするな…」 天狐如夜叉は桜花姫に自身の神力を分け与え…。神力の消耗により銀髪の頭髪が黒髪に変化したのである。 「最上級妖女の月影桜花姫よ…私は其方の肉親である父親を殺害した張本人だからな…今現在非力の私に出来る唯一の贖罪だ…」 一方の桜花姫はニコッと微笑み始める。 「気にしないで♪天狐如夜叉♪父様の一件は私の出産日の前日の出来事でしょう♪私は気にしないから大丈夫よ♪」 周囲の者達は桜花姫の発言に驚愕する。 「えっ…桜花姫様…相手は桜花姫様の父君様を殺害された当事者なのですが?」 「桜花姫姉ちゃん…」 「あんたは自分の父親が殺されたのに…気にしないって…」 「私だったら問答無用に復讐しちゃうけど…桜花姫の感覚は異常ね…」 「月影桜花姫…彼女にとって家族の基準とは…一体?」 気にしないと発言する桜花姫に周囲の者達は一瞬ドン引きしたのである。 「兎にも角にも…私は大暴れし続ける彼奴を仕留めるわね♪」 桜花姫は飛翔の妖術を発動…。桜花姫の肉体が空中へと浮遊したのである。 「桜花姫様…御無事で!無事に戻られたら桜花姫様の大好きな和菓子を沢山用意しますからね!」 「桜花姫姉ちゃん!精一杯頑張ってね!私達は桜花姫姉ちゃんを応援するからね!海亀の怪物を退治しちゃってよ!」 「あんたらしく大暴れしなさいよ♪桜花姫♪」 「桜花姫…絶対に死なないでね…絶対に戻りなさいよ!貴女が死んじゃったら…私は承知しないからね!」 桜花姫は仲間達の声援に大喜びする。 「あんた達♪勿論よ♪私は一仕事するからね♪」 一同は天空へと飛翔した桜花姫を見届ける。
第三十二話
最終決戦 仙女の桜花姫が広大無辺の天空へと飛翔し始めた同時刻…。天空魔獣の羅刹大皇帝は桃源郷神国本土に急接近したのである。 「タイリクヲゾンブンニクッタナ…アトハコノシマグニダケダ!チッポケナシマグニダガ…イガイトカミゴタエハアリソウダゾ…サッソクコノシマヲ…タベルトスルカ!」 すると背中の甲羅部分の巨大人面が発言し始める。 「此奴は小規模の島国か?」 「小規模の島国だか…此処から無数の生命体の気配を感じるぞ…」 「生身の生命体か♪こんな小規模の島国にも生身の生命体が存在するのか?此奴は久方振りに満足出来そうだな♪」 「コノママリクチノガイチュウモロトモ…シマグニヲクッテヤルゼ♪」 島国の桃源郷神国本土へと驀進し続ける羅刹大皇帝であるが…。 「羅刹大皇帝!あんたの相手は最上級妖女である私よ!」 羅刹大皇帝は上空の美声に反応する。 「ん!?」 「誰だ!?」 「女子っぽいが…」 「彼奴は何者だ?」 甲羅部分の無数の巨大人面が天空を浮遊し続ける桜花姫を直視したのである。 「彼奴は天女の小娘か?」 「天女の小娘から妖力と神通力の両方を感じるぞ…彼奴は一体何者だ?」 「天女の小娘が相手とは久方振りに面白そうだな♪早速天女の小娘を打っ殺そうぜ♪」 羅刹大皇帝の甲羅部分である無数の巨大人面が会話し始める。すると前方の巨大海亀の頭部と尻尾部分の巨大海蛇が上空の桜花姫を直視したのである。 「アイツハテンニョノコムスメカ!?キサマハナニモノダ!?」 問い掛けられた桜花姫は即座に自身の名前を名乗る。 「私は最上級妖女の月影桜花姫よ!羅刹大皇帝!あんたを征伐するわ!」 征伐すると断言した桜花姫に甲羅部分の巨大人面の一部が反応したのである。 「貴様みたいな非力の小娘が破壊者である私を征伐するだと?片腹痛いわ!」 「彼奴は非力そうな小娘だな…命知らずの愚か者だ…」 「私を相手に天女の小娘は余程の命知らずみたいだな…手始めに天女の小娘を死滅させるか?」 すると巨大海亀の頭部が再度発言する。 「コノチッポケナシマグニヲクウノハアトマワシダ!マズハテンニョノコムスメカラ…ブッコロシテヤルゼ!カクゴシナ!テンニョノコムスメ!」 すると直後…。甲羅部分の無数の巨大人面が上空の桜花姫を直視すると口部を開口させたのである。 「えっ?」 桜花姫は羅刹大皇帝の動向に警戒する。 『羅刹大皇帝は一体何を?』 直後である。 「イッキニイッセイコウゲキダ!トットトシニヤガレ!テンニョノコムスメ!」 甲羅部分の無数の巨大人面が口部を開口させた直後…。口部から無数の火球を発射したのである。一発の火球は直径数十メートル規模であり大気圏上空にて広範囲に爆散…。上空全体より大陸をも消滅させる大爆発と衝撃波が何百発から何千発も頻発したのである。桜花姫は上空の超絶的光景を直視する。 『規格外の威力だわ…羅刹大皇帝の火球が一発でも桃源郷神国本土に直撃すれば陸地は完全に消滅するわね…』 すると一発の巨大火球が上空の桜花姫に急接近…。 「なっ!?」 『火球かしら!?想像以上の威力だわ!』 桜花姫は咄嗟に妖術を発動する。 『止むを得ないわね!』 桜花姫は異次元転送の妖術を発動…。自身に急接近する巨大火球がパッと消滅したのである。巨大火球は異次元空間へとテレポート…。転送された巨大火球は異次元空間にて爆散したのである。 「はぁ…」 桜花姫は冷や冷やする。 『危機一髪だったわ…』 羅刹大皇帝の全身から発射される高火力の巨大火球は一撃であっても一国さえ消滅させる高威力である。多種多様の物理的攻撃を無力化出来る妖力の防壁は勿論…。上位互換とされる神通力の防壁でも羅刹大皇帝の攻撃を防ぎ切れるか正直未知数だったのである。 「アイツハシブトイコムスメダナ!アイツハヨウジュツデ…オレノコウゲキヲ…カイヒシヤガッタカ…」 上空の桜花姫を仕留め切れず…。羅刹大皇帝の海亀部分が激怒する。一方甲羅部分の巨大人面が冷静に発言し始める。 「仕方ないさ…相手は豆粒みたいに小柄だからな…」 「意外と身動きも機敏そうだな…」 「私の攻撃を異次元空間へと転送させるとは…ひょっとすると天女の小娘は太古の最高神以上に厄介かも知れないな…」 「彼奴は神族以上に面白そうだ♪」 「天女の小娘は十二人の最高神以上か♪久方振りに大暴れ出来るぜ!」 「天女の小娘は神族をも上回るとは…」 甲羅部分の巨大人面は仙女の桜花姫を警戒したのである。 「勿論♪私は最上級妖女なのよ!即刻あんたを片付けちゃうから安心しなさい♪」 桜花姫の挑発的発言に苛立ったのか羅刹大皇帝の巨大海亀の頭部がギロッと天空の桜花姫を睥睨する。 「コイツ…コムスメノブンザイデ…オレヲナメヤガッテ!ドウヤラコムスメハオレニ…コロサレタイミタイダナ!」 「羅刹大皇帝…今度は私が反撃するわよ!」 桜花姫は両手より神通力を凝縮…。高熱の雷球を形成したのである。 「羅刹大皇帝!あんたは死滅しなさい!」 羅刹大皇帝の背中の甲羅部分を目標に高熱の雷球を発射…。高熱の雷球を背中の甲羅部分に直撃させたのである。 『羅刹大皇帝の甲羅部分に直撃したわ!』 高熱の雷球が羅刹大皇帝の甲羅部分に直撃したと同時に周辺がピカッと発光したかと思いきや…。数十キロメートルもの大爆発を発生させたのである。地上世界全域に衝撃波が発生…。絶大なる破壊力により天空山の頂上から羅刹大皇帝と奮闘中の桜花姫を見守る八正道一行も彼女の神通力に愕然とする。 「今現在の桜花姫様は…神話の領域ですね…」 「現実の出来事なのかしら?桜花姫は何もかもが規格外過ぎるわ…」 「異次元の領域だね…桜花姫姉ちゃんは天道の化身みたいだよ…」 桜花姫の大戦闘は荒唐無稽であり誰しもが恐怖心を感じる。一同が奮闘中の桜花姫を見守り続ける同時刻…。桜花姫は恐る恐る爆心地の海面上を眺望する。 『羅刹大皇帝は?』 「えっ…」 海面上の羅刹大皇帝は無傷であり甲羅部分は勿論…。全身の皮膚の表面には掠り傷すら皆無だったのである。 「コノテイドノコウゲキリョクカ?キサマゴトキヨウジョノコムスメ…コンナショボイヨウジュツデハ…オレヲタオスコトハデキナイゾ…」 甲羅部分の巨大人面も上空の桜花姫を直視…。彼等も桜花姫に失笑し始める。 「所詮貴様は非力の小娘なのだ♪」 「貴様程度の神通力では…私は永久的に仕留められないぞ!」 「天女の小娘♪如何するよ?」 「私を仕留められるかな?」 甲羅部分の巨大人面は桜花姫に挑発したのである。一方の桜花姫は羅刹大皇帝の頑強さに驚愕する。 『此奴は…ビクともしないわね…』 羅刹大皇帝の肉体は金剛石をも上回る強度であり外部から羅刹大皇帝の皮膚を直接破壊するのは非常に困難である。 『羅刹大皇帝の肉体…予想以上に頑強だわ…』 桜花姫は恐る恐る羅刹大皇帝の様子を直視…。 『此奴の体内からは何千体…何万体もの神族の怨念を感じられるわ…』 太古の古代文明時代の神族との大戦争で羅刹大皇帝は数千体から数万体もの神族を食い殺したのである。 『神族の怨恨かしら?』 羅刹大皇帝から発生し続ける神族の怨念が桜花姫を気味悪がらせる。 『止むを得ないわね…』 「今度は…」 桜花姫は口寄せの妖術を発動…。高度十キロメートルの天空より巨大ワームホールを発生させる。巨大ワームホール中心部から近代兵器である大型飛行兵器…。所謂大型の戦略爆撃機を出現させたのである。突如として上空のワームホールから出現した大型戦略爆撃機に八正道は反応する。 「なっ!?上空に鋼鉄の鳥類が出現しましたけど…一体何でしょうか?ひょっとして鋼鉄の鳥類も桜花姫様の妖術ですかね?」 「恐らくは…近未来世界の殺戮兵器だろうよ…」 天狐如夜叉が返答したのである。 「えっ…近未来世界の殺戮兵器ですと?」 「口寄せの妖術は死没者やら其処等の下等生物以外に…あらゆる次元に存在する小道具でさえも自由自在に口寄せ出来るのだ…」 天狐如夜叉の解説に一同は沈黙する。すると上空を飛行する大型戦略爆撃機の機体底部から一発の大型爆弾が投下され…。羅刹大皇帝の甲羅部分に着弾する直前である。大型爆弾が数百メートルの上空にてピカッと高熱の閃光が炸裂し始め…。一瞬の閃光に天空山の一同は両目を瞑目させたのである。閃光が炸裂してより数秒後…。広範囲の大爆発を発生させたのである。羅刹大皇帝の甲羅上部にて数十キロメートルものキノコ雲が形作られる。巨大キノコ雲を直視したアクアヴィーナスはプルプルと身震いし始める。 『時空の光球だわ…』 以前ダークスキュランの使用した魔法…。時空の光球から再現された地獄の光景を想起したのである。 「はぁ…はぁ…」 アクアヴィーナスは恐怖心により身震いし始める。 「アクアヴィーナス様?大丈夫ですか?」 アクアヴィーナスを心配したのか八正道は恐る恐る問い掛ける。 「御免なさい…私は…大丈夫です…」 「ですが…」 巨大キノコ雲の光景に八正道は恐る恐る…。 「戦慄の光景ですね…近未来の世界の人類は…一撃で一国をも崩壊させる殺戮兵器を実現させるのですか…」 八正道の発言に周囲の者達は畏怖したのである。同時刻…。 『如何かしら?』 桜花姫は爆心地である羅刹大皇帝の甲羅部分を確認するのだが…。 「えっ…」 『大型爆弾でも無傷ですって…』 桜花姫は近代兵器の大型爆弾でも無傷の羅刹大皇帝に愕然とする。甲羅部分の巨大人面が再度喋り始める。 「先程の攻撃は花火か?痛くも痒くもない…人間程度の爆弾が私に通用するか!」 「私の甲羅部分を破壊するには火力不足だな!天女の小娘!」 桜花姫は羅刹大皇帝の頑強さを実感する。 「根本的に羅刹大皇帝を仕留めるには…」 『此奴の体内に存在する神族の怨念を浄化させなければ…羅刹大皇帝は仕留められないわね…』 羅刹大皇帝に捕食された古代の神族の怨念が非常に強力であり桜花姫の妖術も通用しなかったのである。 「アソビハオワリダ!テンニョノコムスメ!」 すると羅刹大皇帝は巨大海亀の頭部…。甲羅部分の無数の巨大人面と尻尾の巨大海蛇から雷撃の光線を全身から拡散…。発射したのである。 「えっ!?」 桜花姫は即座に神通力の防壁を発動…。雷撃の光線をガードしたのである。広範囲に拡散された雷撃の光線は天空山の頂上にも乱射されたのである。危機を察知した桜花姫の三人の分身体が妖力の防壁を発動…。雷撃の光線から一同を守護したのである。一人の分身体が背後の様子を確認…。 「あんた達…大丈夫かしら?」 桜花姫の分身体の問い掛けに八正道は満面の笑顔で即答する。 「私達なら大丈夫ですよ♪感謝します…桜花姫様の分身体様♪」 八正道は桜花姫の分身体に一礼したのである。すると雪美姫が恐る恐る…。 「こんな戦闘…何もかもが規格外過ぎて全世界が滅亡しても可笑しくないわね…大昔の神族はこんな規格外の怪物を封印したのよね?」 妖星巨木の精霊が返答する。 「神族であっても最上級に君臨する十二人の最高神が総出で大集結しても…天空魔獣の羅刹大皇帝を仕留め切れず…実質羅刹大皇帝を封印するのが精一杯であったからな…」 「私達が想像する以上の出来事が…太古の古代文明時代で発生したのですね…」 八正道は勿論…。以外の者達も太古の古代文明時代の出来事に愕然としたのである。 「十二人の最高神は羅刹大皇帝との戦闘によって神力の消耗と戦闘による後遺症で全滅したらしいからな…」 「桜花姫姉ちゃん…大丈夫かな?十二人の神族でも羅刹大皇帝を討伐出来なかったのに桜花姫姉ちゃんが一人で羅刹大皇帝を征伐出来るのかな?」 小猫姫は桜花姫が羅刹大皇帝を相手に勝利出来るのか非常に不安に感じる。 「大丈夫よ…桜花姫なら…」 普段は小心者のアクアヴィーナスであるが…。桜花姫は大丈夫だと断言する。 「えっ?」 「えっ…アクアヴィーナス様?」 周囲の者達がアクアヴィーナスに注目したのである。 「二年前の出来事だけど…私の祖国…人魚王国アクアユートピアは極悪非道の深海底の魔女と無数の深海底アンデッドに侵略されちゃったけど…彼女の孤軍奮闘でアクアユートピアに平和が戻ったのよ…今回だって大丈夫よ!桜花姫なら巨大海亀の怪物を仕留められるわ!彼女なら絶対に…此処に戻れるわよ!」 「えっ!?桜花姫様が極悪非道の深海底の魔女から貴女様の祖国を守護されたのですか!?」 八正道は勿論…。一同は驚愕したのである。 「桜花姫…彼奴は私達に秘密で異国なんかに…」 「桜花姫姉ちゃんが異国でも悪者を征伐したなんて…初耳だよ…」 「恐らく彼女に私達の常識なんて通用しないわ…桜花姫だから…」 アクアヴィーナスの発言に妖星巨木の精霊も同意する。 「私もアクアヴィーナスとやらの発言には同意するぞ…彼奴は存在自体が荒唐無稽だからな…多分彼女には私達の常識は通用しないであろうな…月影桜花姫は確実に私達の予想を裏切るであろう…何故なら桜花姫だからな…」 普段は無表情の精霊であるが…。僅少にも苦笑いする。八正道は満面の笑顔で…。 「兎にも角にも…今現在の私達に出来るのは桜花姫様の大勝利の祈願です!私達は桜花姫様の大勝利を精一杯祈願しましょう♪」 「勿論だよ♪桜花姫姉ちゃんなら羅刹大皇帝を仕留められるよ♪全員で桜花姫姉ちゃんを応援しましょう!」 「勿論ですとも♪小猫姫様♪」 「私には何も出来ないし止むを得ないわね…」 「私も奮闘中の桜花姫でも見守ろうかしら♪」 八正道一行が奮闘中の桜花姫を再度見守ったのである。
第三十三話
全身全霊 八正道一行が桜花姫を見守る同時刻…。桜花姫は羅刹大皇帝の対処に苦悩する。 『羅刹大皇帝には通常の物理的攻撃は通用しないし…如何すれば羅刹大皇帝を仕留められちゃうのかしら?』 羅刹大皇帝が規格外に強力なのも神族の怨念が要因とされる。 『厄介なのは羅刹大皇帝本体よりも彼奴の体内に存在する神族の怨念なのよね…』 困惑した桜花姫であるが…。 『神族の怨念が相手なら…』 突如としてハッとしたのである。 『妖星巨木の悪霊を浄化させた…秘術は如何かしら!?』 二年前の悪霊騒動で妖星巨木に憑霊した悪霊の集合体を浄化させた秘術…。日輪天光を想起したのである。 『憑依した悪霊を浄化出来る日輪天光だったら…羅刹大皇帝の体内の怨念を浄化出来るかも知れないわ!』 天空魔獣の羅刹大皇帝に日輪天光が通用するかは未知数であるが…。 『一か八かよ!』 桜花姫は一か八か日輪天光の使用を決意する。桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させる。 「コムスメノヤツ…ナニヲスルキダ?」 一方の羅刹大皇帝は突如として両目を瞑目させた桜花姫に警戒したのである。すると甲羅部分の各部巨大人面が会話し始める。 「彼奴は?」 「小娘の様子が可笑しいぞ…」 「ん?天女の小娘…彼奴は一体何を?」 「天女の小娘は恐怖心で身動き出来なくなったのか?」 「今度こそ天女の小娘を打っ殺そうぜ♪」 「天女の小娘を打っ殺せる絶好機だぞ!今度こそ総攻撃で彼奴を…」 巨大海亀の頭部が返答する。 「イヤ…コイツハフシゼンダゾ…ナニカハジメルツモリダ!コムスメハナニカ…タクランデイヤガルニ…チガイナイゾ!」 「小細工か?」 「小細工とは…」 「今更小細工を駆使したとしても私を仕留めるのは不可能だぞ…」 「反撃する絶好の機会だぞ!今直ぐにでも天女の小娘を打っ殺そうぜ!」 一方の桜花姫は再度両目を開眼させる。 「今度こそあんたを仕留めるわよ!羅刹大皇帝!」 「ハカイシャデアルオレヲ…シトメルダト?キサマテイドノヨウジュツデハ…オレハシトメラレナイゾ!モハヤウツテガナイキサマガ…ドウヤッテハカイシャデアルオレヲ…シトメルトイウノダ?ワルアガキハヨセ…ヨウジョノコムスメ…」 桜花姫は両手より神通力を凝縮…。虹色の粒子状の発光体が桜花姫の両手より収縮されたのである。 「ン?キサマハ…イッタイナニヲスルキダ?」 直後…。 『秘術…日輪天光…発動!』 「はっ!」 桜花姫はあらゆる怨恨を浄化させる秘術日輪天光を発動する。両手に収縮された全身全霊の神通力の閃光を発動したのである。螺旋状に光り輝く全身全霊の日輪天光の閃光は羅刹大皇帝の甲羅部分直上に直撃…。周囲全体が虹色に光り輝いたのである。広範囲に光り輝く虹色の閃光に八正道は感動…。 「神聖なる閃光ですね…桜花姫様の妖術でしょうか?」 八正道は涙腺より涙が零れ落ちる。 「桜花姫姉ちゃんの…妖術なの?」 「彼女の発動したのは秘術…日輪天光だ…」 妖星巨木の精霊が解説する。 「日輪天光ですと?日輪天光とは…一体?」 「日輪天光とは成仏出来ない地獄の亡者達を浄化させる史上最強の最終秘術であるぞ…私自身も二年前の悪霊事件では彼女の駆使した日輪天光によって悪霊の集合体から無事解放されたのだからな…」 すると先程から無言だった天狐如夜叉が発言する。 「えっ?彼女が…」 『桜花姫が妖星巨木に憑依した悪霊の集合体を…浄化したのか?』 天狐如夜叉は桜花姫に対する認識が変化し始める。 「先程の内容が本当なのであれば…」 『彼女なら羅刹大皇帝の体内の…神族の怨念を浄化させられるかも知れないな…』 同時刻…。桜花姫の日輪天光は羅刹大皇帝の甲羅部分に直撃するが羅刹大皇帝本体はピンピンした様子であり怯まない。 「コイツハナンダ?タダノヒカリカ?コンナコケオドシノコウゲキデハ…イタクモカユクモナイゼ!ショセン…ムダナアガキダナ!」 日輪天光は怨念を浄化させる閃光であり直接的殺傷能力は発揮されない。 『大丈夫…羅刹大皇帝の体内の怨念は着実に弱体化したわ…』 桜花姫は冷静であり対する羅刹大皇帝は彼女の様子を不思議がる。 「ン?ヨウジョノコムスメ?」 『アイツハヤケニレイセイダナ…ヨウジョノコムスメハ…イッタイナニヲタクランデイヤガル?』 数秒後…。 「羅刹大皇帝に惨殺された太古の神族の怨念!あんた達は完膚なきまでに浄化されなさい!」 桜花姫は全身全霊の神通力で日輪天光を照射したのである。すると羅刹大皇帝の全身より何万体もの神族の霊魂が出現し始め…。彼等の怨念は日輪天光の閃光により浄化されたのである。 「ナッ!?シンゾクノタマシイガ…タダノヒカリデ…ジョウカサレタダト!?」 体内の神族の霊魂は浄化され羅刹大皇帝は大幅に弱体化し始め…。 「ん?私の魔力が…弱体化するとは…」 「突然眠気が…」 「一体何が発生したのだ?如何して眠気が…」 「気力が…」 甲羅部分の各部巨大人面も沈黙したのである。 「羅刹大皇帝…弱体化したわね♪」 「キサマ…コムスメノブンザイデ!」 羅刹大皇帝は天空の桜花姫を睥睨する。 「羅刹大皇帝!最早あんたは単なる海亀同然なのよ…観念しなさい!」 「セカイノハカイシャデアルオレガ…タンナルウミガメダト!?ヨウジョノコムスメガ…ナメタマネヲシヤガッテ!」 「古代の天空魔獣…あんたは特大の桜餅に変化しなさい!」 桜花姫は変化の妖術を発動したのである。 「ハッ!?エッ…」 規格外の巨大さの羅刹大皇帝であるが…。変化の妖術の効力により白煙に覆い包まれ大皿と特大の桜餅に変化したのである。 『羅刹大皇帝は桜餅に変化したわね♪』 「今度は♪」 自分自身に口寄せの妖術を発動…。海面上にて移動したのである。海面上にプカプカと浮動し続ける特大の桜餅と大皿を発見する。 『桜餅♪発見♪発見♪』 桜花姫は特大の桜餅をパクっと鱈腹頬張ったのである。 「桜餅♪」 『やっぱり美味だわ♪』 桜花姫は特大の桜餅を頬張ると大喜びする。日輪天光の使用によって神通力を消耗したものの…。 『神通力は蓄積されたわね♪』 特大の桜餅を鱈腹頬張ると消耗した神通力が回復したのである。 『私は天空山に戻りましょう♪』 桜花姫は再度口寄せの妖術を発動…。天空山の頂上へと無事戻ったのである。天空山の頂上にて突然ポンっと白煙が発生し始め…。白煙の中央より桜花姫が出現する。 「うわっ!桜花姫様!?」 「きゃっ!桜花姫!?」 周囲の者達は突如として出現し始めた桜花姫に愕然とする。 「突然桜花姫姉ちゃんが出現するから吃驚しちゃったよ…」 「あんた達♪御免あそばせ♪」 桜花姫は満面の笑顔で謝罪したのである。 「ですが桜花姫様…無事に戻られたのですね…」 八正道は感動の再会に落涙する。 「無事で良かったですよ…桜花姫様♪」 「八正道様は大袈裟ね♪」 すると妖星巨木の精霊が桜花姫に近寄る。 「見事だったぞ!月影桜花姫!十二人の最高神でも封印するのが精一杯だった天空魔獣の羅刹大皇帝を…一握りの最上級妖女である其方が一人で征伐するとは…」 「天空魔獣の羅刹大皇帝を征伐出来たのはあんた達が協力したからよ♪恐らく今回ばかりは私一人では天空魔獣の羅刹大皇帝を仕留め切れなかったでしょうね…」 今度は天狐如夜叉が発言する。 「月影桜花姫が十二人の最高神をも上回ったのは事実だ!最早俗界で其方と拮抗出来る存在は実質皆無であるぞ…其方は唯一無二の全世界最強の超越的存在なのだ!」 「全世界最強の超越的存在なんて…表現が大袈裟過ぎるわね♪」 『私って♪本当に全世界最強の超越的存在なのね♪』 内心では大喜びだったのである。今度は小猫姫と雪美姫が近寄る。 「桜花姫姉ちゃんが無事に戻れたから一安心だよ♪正直冷や冷やしちゃったけど♪」 「羅刹大皇帝みたいな規格外の怪物を一人で仕留めちゃったからね…私は一生涯桜花姫には反抗出来ないわ…」 「あんた達♪」 すると今度はアクアヴィーナスが恐る恐る…。 「本当だわ…あんたは私達の常識が通用しないわね…桜花姫は本当に地上世界の生命体なのかしら?桜花姫は本当に何者なの?天道の化身とか?」 「私は地上世界の女神様だからね♪」 地上世界の女神様を自称する桜花姫に一同は苦笑いする。 「あんた達…何よ?如何して苦笑いするのかしら?」 桜花姫は周囲の反応にムッとしたのである。一同が談笑してより数分後…。 「消滅しちゃった人間達…動物達…羅刹大皇帝によって破壊された世界各地の大陸を元通りに再生させるわね♪」 桜花姫は天地創造の再生の妖術を発動する。天狐如夜叉の神力によって消滅した人間達やら動物達は勿論…。羅刹大皇帝の暴走により暴食された世界各地の大陸が元通りに再構築されたのである。 「完了したわね♪消滅した民衆達と羅刹大皇帝に破壊された陸地が元通りの状態に戻ったわ♪」 「桜花姫様…やっぱり貴女様は本物の女神様ですな♪」 最早桜花姫は天道の領域であり一同は愕然とする。 「今回の大事件も無事に解決したわ♪村里に戻りましょう♪」 桜花姫は西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ…」 桜花姫は極度の疲労困憊の影響からか突如としてバタッと地面に横たわる。 「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」 「桜花姫様!?」 「桜花姫!?」 神通力の消耗からか仙女の姿形から元通りの桜花姫に戻ったのである。 「桜花姫姉ちゃんが…元通りの姿形に戻っちゃったわ…」 すると天狐如夜叉が地面に横たわった状態の桜花姫に恐る恐る接触する。 「安心しろ…彼女は極度の疲労困憊で一時的に衰弱化しただけだ…一休みすれば元通りに復活するだろうよ…」 「桜花姫様は単純に疲労されただけなのですね…一安心ですよ…」 「やっぱり桜花姫は人騒がせね…冷や冷やしちゃったわ…」 「私も吃驚したわ…」 「桜花姫姉ちゃん…大丈夫なのね…一安心だよ…」 桜花姫の様子に一同は一安心したのである。 「事件は解決出来たし…」 「如何やら私達の出番は…」 「此処で終了みたいね…」 桜花姫の三体の分身体が自然消滅する。 「えっ?桜花姫様の分身体が消滅するなんて…」 「事件が無事に解決出来たからな…私も退散するか…」 今度は妖星巨木の精霊が消滅したのである。 「今度は妖星巨木の精霊が消滅したわ…」 すると雪美姫が恐る恐る周囲の者達に問い掛ける。 「あんた達は如何するのよ?」 八正道は返答する。 「私は東国の寺院に戻りますよ…度重なる戦闘によって疲労された桜花姫様を介抱しなくては…私達は失礼しますね…」 八正道は疲労困憊の桜花姫を背負った状態で退散したのである。八正道と桜花姫が退散してより数秒後…。 「私も南国の天女の村里に戻ろうかな♪」 小猫姫は満面の笑顔で返答したのである。 「私は…」 アクアヴィーナスはソワソワした表情で…。 「私はアクアユートピアに戻らないと…母様達が私を心配するだろうし…」 すると雪美姫は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。 「天狐如夜叉…あんたは今後如何するのよ?」 「私は…」 正直気まずいのか天狐如夜叉は沈黙したのである。 「天狐如夜叉姉ちゃん♪」 小猫姫が満面の笑顔で彼女の両手に接触する。 「其方は…」 「今日から私と一緒に天女の村里で居候しましょうよ♪折角の機会だし♪」 「えっ!?小猫姫!?あんたは本気なの?此奴は今回の大事件の首謀者なのよ…」 雪美姫は小猫姫の居候発言に驚愕したのである。一方の天狐如夜叉は恐る恐る…。 「こんな私で大丈夫なのか?山猫妖女の小猫姫よ…私は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の大悪党なのだぞ…」 困惑した天狐如夜叉であるが小猫姫は平気そうな様子であり満面の笑顔で返答する。 「消滅しちゃった人間達は元通りに戻れたのよ♪大丈夫よ♪天狐如夜叉姉ちゃん♪」 「小猫姫…其方は…」 無表情の天狐如夜叉であったが…。彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。 『蛇体如夜叉よ…彼女は…小猫姫は人一倍純情可憐だな…如何して蛇体如夜叉が小猫姫を孫娘として深愛するのか…私にも理解出来るよ…』 「兎にも角にも…今回の大事件は無事に解決出来たからね♪私も戻ろうかしら♪」 雪美姫は笑顔で発言する。一連の大事件が無事に解決すると桜花姫一行は解散したのである。
第三十四話
挨拶 天空魔獣羅刹大皇帝との大激戦から二週間が経過…。今回の大事件後アクアヴィーナスは無事に深海底のアクアユートピアへと帰還出来たのである。深海底魔女のダークスキュランと母親のアクアキュベレーにこっ酷く説教され大泣きするものの…。翌日にはアクアヴィーナスの無事を大喜びされたのである。非常にギクシャクしたダークスキュランとの関係も改善され…。人魚王国アクアユートピアは本当の意味で深海底の楽園へと変化したのである。一方の粉雪妖女の雪美姫は不倫により別居中だった亭主との関係改善に成功…。今現在では本当の夫婦として亭主との同居を再開したのである。一方居候生活を開始した山猫妖女の小猫姫と天狐如夜叉の様子であるが…。 「天狐如夜叉姉ちゃん♪私と一緒に蛇体如夜叉婆ちゃんの墓参りしない?」 「蛇体如夜叉の墓参りか?」 『私は如何するべきか?』 天狐如夜叉は一瞬困惑するものの…。 「折角の墓参りだからな♪」 天狐如夜叉は笑顔で返答する。 「小猫姫♪今回は私も一緒に同行するよ♪」 天狐如夜叉は小猫姫と一緒に蛇体如夜叉の墓参りに移動したのである。墓場へと到達した彼女達は蛇体如夜叉の墓石へと到達する。 「如何やら此処が…蛇体如夜叉の墓石みたいだな…」 「蛇体如夜叉婆ちゃん…」 小猫姫は恐る恐る合掌したのである。 『蛇体如夜叉婆ちゃん…』 すると彼女の涙腺より一粒の涙が零れ落ちる。 「小猫姫…」 『蛇体如夜叉は老衰であったとしても…彼女にとって最愛の蛇体如夜叉との死別は相当辛苦であったのだろうな…』 天狐如夜叉は恐る恐る小猫姫に接触する。 「えっ?天狐如夜叉姉ちゃん?」 「蛇体如夜叉は最愛の小猫姫と再会出来て…今頃は極楽浄土で大喜びだろうよ♪」 「えっ…」 小猫姫は不安そうな表情で…。 「本当かな?蛇体如夜叉婆ちゃんは私と再会出来て大喜びかな?」 「当然大喜びだろうよ♪蛇体如夜叉にとって小猫姫は最愛の孫娘なのだからな♪」 天狐如夜叉は笑顔で断言する。 「天狐如夜叉姉ちゃん♪」 「やっぱり小猫姫には笑顔が一番だな♪」 「えっ…本当に?天狐如夜叉姉ちゃん♪」 小猫姫に笑顔が戻ったのである。 「御免よ…小梅姫…」 「えっ?天狐如夜叉姉ちゃん?」 天狐如夜叉は蛇体如夜叉の墓地の左側に隣接する墓地へと移動する。彼女は両目を瞑目させ恐る恐る合掌したのである。 『天狐如夜叉姉ちゃん…誰の墓石だろう?』 気になった小猫姫は恐る恐る墓石に彫刻された名前を覗き見するのだが…。 「えっ!?」 小猫姫は墓石の名前に驚愕する。 『月影鉄鬼丸って!?』 天狐如夜叉が合掌した墓石の名前とは誰であろう月影桜花姫の父親…。月影鉄鬼丸の墓石だったのである。 『月影鉄鬼丸って桜花姫姉ちゃんの…父様の名前だったよね!?如何して部外者の天狐如夜叉姉ちゃんが桜花姫姉ちゃんの父様に?』 小猫姫は驚愕する。 「えっ…」 『天狐如夜叉姉ちゃん…』 瞑目する天狐如夜叉の涙腺から一粒の涙が零れ落ちる。 『ひょっとして天狐如夜叉姉ちゃんは…贖罪したいのね…』 墓参りから数分後…。 「小猫姫…家屋敷に戻ろうか?」 「戻ろう♪戻ろう♪天狐如夜叉姉ちゃん♪」 小猫姫は帰宅途中…。 「きゃっ!」 村里の村道にて小柄の若武者の美青年とぶつかったのである。 「うわっ!」 小猫姫と若武者は地面に横たわる。 「小猫姫!?大丈夫か!?」 一方ぶつかった若武者が恐る恐る…。 「失礼しました!御嬢さん…御怪我は?大丈夫ですか?」 若武者は即座に小猫姫に謝罪したのである。 「私なら…大丈夫よ…大丈夫だから…あんたは心配しないで…」 すると若武者と小猫姫は目線が合致したかと思いきや…。 「えっ…」 「はぁ…」 両者とも表情が赤面したのである。若武者は内心…。 『彼女は本物の天女なのかな?こんなにも美人の女性が存在するなんて…私は俗界の女神様と遭遇したのか!?』 一方の小猫姫も内心ドキドキする。 『如何して私はこんなにも緊張するの!?ひょっとして私は…』 赤面する小猫姫に天狐如夜叉は微笑み始める。 『ひょっとすると小猫姫…恋心かな♪』 すると直後である。 「なっ!?」 半透明の白蛇が天狐如夜叉の背後に出現する。 「其方は蛇神の…蛇体如夜叉なのか!?」 「天狐如夜叉よ…久方振りだね♪」 突如として天狐如夜叉の背後に出現したのは蛇神の蛇体如夜叉だったのである。 「蛇体如夜叉…如何して其方がこんな場所に?」 「天狐如夜叉♪単なる挨拶だよ♪久方振りに大昔の悪友に再会したかったのさ♪」 「突然の再会とは…其方らしいな…蛇体如夜叉よ…」 「あんたが元気そうで安心したよ♪天狐如夜叉♪」 天狐如夜叉は突然の超常現象に混乱する。 「混乱するのも当然かね♪大丈夫♪時間は一時的に停止させただけだから♪」 天狐如夜叉は恐る恐る停止状態の小猫姫と若武者の様子を直視したのである。 「如何やら今現在…此処で身動き出来るのは私と蛇体如夜叉だけみたいだな…」 「天狐如夜叉よ…人一倍人間達を毛嫌いしたあんたがこんなにも心境が変化しちゃうなんてね…予想外だよ♪一体何があんたの心境をこんなにも変化させたのかね?」 「鬱陶しいな…蛇体如夜叉は…其方は本当に気に入らない悪友だ…」 すると天狐如夜叉はボソッと小声で…。 「蛇体如夜叉よ…結局私は何を間違えたのか?」 恐る恐る蛇体如夜叉に問い掛ける。 「結果的に神族の宿敵であった羅刹大皇帝は桜花姫ちゃんの大活躍によって仕留められた…遅かれ早かれ羅刹大皇帝の封印は脆弱化した状態だったからね♪あんたが羅刹大皇帝の封印を解除しなくても封印は自力で解除されただろうよ…何方にせよ…」 蛇体如夜叉は天狐如夜叉の問い掛けに否定しなかったのである。 「何よりもあんたを暴走させたのは悪霊の仕業だろうからね…気にしないの♪あんたが人間達を憎悪しても全滅させるなんて行動は実行出来ないだろうからね♪」 天狐如夜叉は蛇体如夜叉の発言にビクッと反応する。 「神族の天狐如夜叉にも憑霊出来るなんて…悪霊の集合体は相当強力だね…」 「私自身の心情の脆弱さを悪霊の集合体なんかに利用されたのだ…非常に屈辱的だが私は未熟だ…」 天狐如夜叉は古代文明時代の人間達との大戦争に敗北…。悪霊の集合体は大戦争の敗北により絶望した彼女に憑依したのである。一方の天狐如夜叉は無意識的にも悪霊の集合体に憑依された状態で自分自身の悪心と人間達に対する憎悪が増幅され…。前代未聞の大規模計画を実行する。 「今現在の私は小猫姫と一緒だ…彼女と一緒なら私は大丈夫だよ!」 天狐如夜叉が人間達に対する復讐心と悪心が浄化されたのは小猫姫の邂逅である。 「天狐如夜叉に憑霊した悪霊は浄化されたとしても…人間達は非常に野蛮だからね…あんたは今後も人間達に対する抑止力として活動しな♪悪人が出現すれば徹底的に征伐しなよ…勿論殺さない程度に♪」 「私自身が人間達に対する抑止力か?私なりに努力するよ…」 蛇体如夜叉は再度満面の笑顔で…。 「天狐如夜叉♪一言余計かも知れないけどね…今後とも孫娘の小猫姫とは仲良くしてね♪彼女は人一倍純粋無垢の女の子だから…誰よりも繊細だよ…」 「当然だよ…蛇体如夜叉♪彼女は其方にとって最愛の孫娘なのだろう?」 「勿論だとも♪」 蛇体如夜叉は満面の笑顔で即答する。 「勿論…今回の大事件の功労者である桜花姫ちゃんとも仲良くしなよ♪天狐如夜叉にとって桜花姫ちゃんは気に入らないのかも知れないけれど…彼女も私にとっては孫娘の一人だからね♪小猫姫と同様に彼女も大事にしてね♪」 「なっ!?」 桜花姫の名前にビクッと反応したのである。 『人一倍不埒で下劣この上ない彼奴が蛇体如夜叉の孫娘だと!?私には蛇体如夜叉の感性が理解出来ないな…』 天狐如夜叉は桜花姫の名前にピリピリするのだが…。 「正直月影桜花姫は気に入らない妖女の小娘だが…私なりに努力するさ…」 すると突如として蛇体如夜叉に肉体が消滅し始める。 「えっ…」 天狐如夜叉は恐る恐る…。 「蛇体如夜叉?肉体が…」 「如何やら時間みたいだね…天狐如夜叉…」 「時間だと?蛇体如夜叉よ…其方は消滅するのか?」 「達者でね♪天狐如夜叉♪」 蛇体如夜叉の肉体は無数の発光体に変化すると消滅したのである。 『蛇体如夜叉…』 蛇体如夜叉の肉体が消滅すると停止された時間は再度経過し始める。 「ん?」 『時間が…戻ったのか?』 すると小猫姫とぶつかった若武者は小猫姫の様子にホッとしたのである。 「御嬢様に御怪我が無さそうなので安心しましたよ♪」 若武者は恐る恐る…。 「御嬢さん…貴女様に御詫びなのですが…」 若武者は三両もの小判を小猫姫に手渡したのである。 「えっ!?」 『私なんかに三両も小判を!?』 純金の小判に小猫姫は驚愕する。 「御怪我が無くても貴女様みたいな天女を連想させる女性にぶつかっちゃいましたからね…是非とも貴女様には贖罪しなければ…」 「大袈裟だよ…別に…私は大丈夫なのに…」 小猫姫は困惑したのである。 『人間にも…こんな若武者が存在するとは…』 人一倍人間を憎悪する天狐如夜叉であるが…。 『正直人間は気に入らない存在だが…当分は様子見が必要だな…』 若武者の行動に彼女は微笑み始める。すると天狐如夜叉は笑顔で…。 「人間の若武者よ♪其方は人一倍幸運だったな…」 「えっ?幸運ですと?何が幸運なのですか?」 「今回ぶつかった相手が最上級妖女の桜花姫なら其方みたいな小坊主…簡単に食い殺されただろうよ♪」 「えっ…本当ですか?」 若武者は天狐如夜叉の発言にドン引きする。 「天狐如夜叉姉ちゃん…」 『桜花姫姉ちゃんでもぶつかった程度では…天狐如夜叉姉ちゃんは桜花姫姉ちゃんが相当大嫌いなのね…』 小猫姫は苦笑いしたのである。 「若武者よ…今回はぶつかった相手が小猫姫で幸運だったな…」 「えっ…小猫姫って…」 若武者の表情が変化し始める。 「貴女様は…ひょっとして不寝番の桜花姫様の妹分とされる…」 「私は…小猫姫…山猫妖女の小猫姫よ…」 小猫姫は恐る恐る若武者に自身の名前を名乗る。すると小猫姫との遭遇に若武者は大喜びしたのである。 「貴女様が山猫妖女の小猫姫様でしたか♪私は小猫姫様が大好きでして…本日が休暇であれば…是非とも私と一緒に東国の歓楽街で遊歩しませんか?勿論料金は私が全額負担しますから♪小猫姫様は気になさらなくて大丈夫ですからね♪」 「えっ…」 『私は如何するべきなのかな?』 小猫姫は見ず知らずの若武者を相手に困惑するのだが…。 「小猫姫よ…折角の機会だ♪」 天狐如夜叉は笑顔で発言する。 「勉学として此奴と遊歩したら如何なのだ?其方も暇潰しには好都合であろう?」 小猫姫は赤面するのだが…。 「はぁ…仕方ないね…」 『見ず知らずの男子と遊歩なんて…正直緊張するな…』 内心不本意であるが小猫姫は承諾したのである。 「私の名前なのですが…私は名門の武家一族…夜桜一族の夜桜太郎丸です!身分としては武士の身柄ですよ♪」 若武者は自身を夜桜一族の夜桜太郎丸と名乗る。 「えっ?夜桜一族って…東国の夜桜崇徳王の武家一族だっけ?」 小猫姫の問い掛けに太郎丸は即答したのである。 「勿論ですとも!私自身の家系は夜桜一族でも…正確的には分家としての家柄ですけれどね♪」 夜桜太郎丸は戦乱時代に活躍した東国の軍神…。夜桜崇徳王の子孫であり彼自身の家系は夜桜一族の分家に該当する。 「太郎丸君だったかな?あんたの一族って名門の夜桜一族なのね…」 「勿論ですとも♪小猫姫様♪」 すると天狐如夜叉が鬼神の形相で太郎丸にギロッと睥睨したのである。 「夜桜太郎丸とやら…彼女は人一倍純粋で繊細なのだぞ…純情可憐の小猫姫を裏切るか…彼女を落涙させるならば私は即刻其方を惨殺するから覚悟するのだな…夜桜太郎丸!私は絶対に容赦しないぞ!其方が如何しても純情可憐の小猫姫と遊歩したいのであれば相応の覚悟は必要不可欠だ…」 「ひっ!承知しました…」 太郎丸は天狐如夜叉の恫喝にビクビクし始める。 『天狐如夜叉姉ちゃん…太郎丸君に誤解されちゃうよ…』 小猫姫は天狐如夜叉の様子に再度苦笑いしたのである。 『太郎丸君…初対面なのに気の毒だね…』 小猫姫は天狐如夜叉の恫喝によりビクビクし続ける太郎丸が気の毒であると感じる。小猫姫は恐る恐る太郎丸に…。 「太郎丸君…気にしないでね♪」 「小猫姫様?」 「本当の天狐如夜叉姉ちゃんは女神様みたいな女性だから♪太郎丸君は心配しなくても大丈夫よ♪」 「えっ…本当ですか!?小猫姫様!?」 太郎丸は女神様の一言に驚愕する。 『本当に…小猫姫様の保護者である女性は女神様でしょうか?』 太郎丸は笑顔の小猫姫に苦笑いしたのである。 「太郎丸よ…私は監視役として其方に追尾するからな…覚悟するのだぞ…」 「えっ!?貴女様が私の監視役ですか!?」 天狐如夜叉の発言に太郎丸は再度動揺する。 「太郎丸とやら…私が其方の監視役だと不都合か?否が応でも私は其方を監視し続けるからな…」 天狐如夜叉は太郎丸に急接近したのである。 「えっ!?別に…」 「小猫姫と遊歩したければ私が其方の監視役として同行するのが最重要条件だぞ…太郎丸よ…」 天狐如夜叉は動揺し続ける太郎丸に睥睨…。最重要条件を提示したのである。 「えっ…はぁ…」 太郎丸は内心困惑する。 『太郎丸君…蛇に睨まれた蛙状態だね♪』 小猫姫は太郎丸が気の毒に感じるものの…。太郎丸と天狐如夜叉の遣り取りに微笑み始める。 『天狐如夜叉様って女性は…美人だけど鬼神みたいな雰囲気だな…』 太郎丸は内心天狐如夜叉が鬼神みたいに感じる。 『天狐如夜叉様が私の監視役か…正直緊張するな…下手に行動すれば本当に殺されそうな雰囲気だし…』 太郎丸は極度の緊張感に身震いしたのである。
第三十五話
研究 同時刻…。人魚王国アクアユートピアの深海底魔女ダークスキュランの根城では深海底魔女ダークスプライトが訪問する。 「久し振りね♪ダークスキュラン♪」 「えっ!?あんたはダークスプライト!?如何してあんたが私の根城に!?」 ダークスキュランは突然のダークスプライトの訪問に吃驚したのである。 「失礼しちゃうわね♪何も吃驚しなくても♪」 ダークスプライトは満面の笑顔で発言する。 「ダークスキュランは元気そうね♪安心したわ♪」 一方のダークスキュランは彼女が鬱陶しかったのか面倒臭そうな態度で…。 「あんたは私に用事かしら?私はあんたと会話するのは面倒臭いのよね…」 「ギスギスしないで♪ダークスキュラン♪」 ダークスプライトはヘラヘラした様子でありダークスキュランは彼女の態度にカリカリしたのである。 「アスピドケロンの大事件は無事解決したみたいね♪」 「事件は解決したけど…事件解決の功労者はイーストユートピアの魔法使い…月影桜花姫なのよね…」 「月影桜花姫ね♪」 するとダークスプライトはニヤリとする。 「何かしら?ダークスプライト?」 「ダークスキュラン♪あんたの協力が必要なのよ♪」 「私の協力が必要ですって?」 『彼女の依頼は色んな意味で面倒なのよね…今度は何事かしら?』 ダークスキュランは呆れ果てる。 「協力って何よ?ダークスプライト?」 ダークスプライトは血紅色の宝石を手渡したのである。 「えっ?血紅色の…宝石かしら?」 「宝石はね♪結晶化した彼女の…月影桜花姫の血液なのよ♪」 「えっ!?桜花姫の血液ですって!?」 ダークスキュランは再度驚愕する。 「以前彼女の血液を採血したのよ♪」 「採血って…あんたは桜花姫の血液を採取するなんて大胆不敵ね…」 ダークスキュランは困惑したと同時に苦笑いする。 『ダークスプライトって相当のチャレンジャーね…』 ダークスキュランは大胆不敵のダークスプライトに内心呆れ果てる。一方のダークスプライトはニヤニヤした表情で発言する。 「今現在の月影桜花姫は細胞が不老不死なのよ♪」 「不老不死の細胞ですって?桜花姫が?」 ダークスプライトは以前桜花姫と接触した出来事を洗い浚い説明したのである。 「桜花姫はアビスエキドナスとの戦闘以後も不死身の怪物を食い殺したのね…」 『桜花姫が不老不死に到達するなんて…彼女は正真正銘の女神に大進化したのね…彼女は一体全体何者なのかしら?』 最早桜花姫は別次元の高次元的存在でありダークスキュランは多少の出来事では驚愕しなくなる。するとダークスプライトは小声で…。 「彼女の血液をベースに不老不死の魔法新薬を研究したいのよ♪折角だからあんたも一緒に研究しましょうよ♪不老不死を現実化出来る絶好機なのよ♪」 ダークスキュランは困惑するのだが…。 「仕方ないわね…今回だけよ…」 『不老不死を実現出来るかは不明瞭だけど…暇潰しには好都合よね♪』 彼女は僅少であるが不老不死の研究に興味深くなる。 「ダークスキュラン♪協力♪感謝するわね♪」 ダークスプライトはダークスキュランの協力に大喜びする。
最終話
再会 二人の深海底魔女が不老不死の研究を開始してより同時刻…。粉雪妖女の雪美姫は暇潰しに東国の八正道の寺院へと訪問する。 「八正道?」 「えっ?誰かと思いきや…貴女様は粉雪妖女の雪美姫様ですか♪本日は如何されましたか?」 「暇潰しよ♪暇潰し♪」 「雪美姫様も暇潰しですか?暇潰しで私の寺院に訪問されるなんて雪美姫様は桜花姫様みたいですね♪」 雪美姫は警戒した様子で周囲をキョロキョロしたのである。 「八正道?あんたは桜花姫の居場所を知らない?私は彼奴に用事なのだけれど…」 桜花姫の居場所を問い掛けられた八正道は恐る恐る…。 「えっ?桜花姫様なら先程桜餅を食べられてから…地獄の世界に出掛けるとか?」 「えっ?地獄の世界ですって?」 雪美姫は珍紛漢紛だったのである。 「地獄の世界って何よ?」 「正直私自身も何が何やら?桜花姫様の行動は摩訶不思議ですね…」 「彼奴は本当に気紛れね…」 「気紛れなのは桜花姫様らしいですがね♪」 「本当よね♪」 雪美姫と八正道が談笑した同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術により自分自身の肉体を死後の世界とされる地獄の世界へと口寄せしたのである。 『口寄せの妖術…成功ね♪』 最早桜花姫の駆使する口寄せの妖術は死後の世界とされる地獄の世界さえも行き来出来る領域へと到達する。 『久方振りだわ♪地獄の世界は無数の悪霊が出現しそうな雰囲気ね♪』 死後の世界である地獄の世界へと到達した彼女は周辺の殺伐とした景色を眺望したのである。 『神出鬼没の悪霊を仕留めるなら地獄の世界は最適の場所だわ♪』 桜花姫は殺伐とした地獄の世界の雰囲気にワクワクし始める。彼女の目前には鬼神の甲冑を装着した武士が佇立する。 「久し振りね♪月影幽鬼王♪あんたは元気だったかしら?」 すると武士は警戒した様子で背後を直視したのである。 「なっ!?貴様は…」 「御免あそばせ♪幽鬼王♪」 桜花姫と遭遇した武士とは誰であろう地獄の世界の住人…。北国の鬼神月影幽鬼王だったのである。 「貴様は…大悪党の月影桜花姫か?」 「大悪党は一言余計だわ…私は誰よりも温厚篤実で地上世界の女神様なのよ!こんな私に大悪党なんてあんたは失礼しちゃうわね!」 「女神様だと?」 『自分で地上世界の女神様を自称するとは…此奴は自己陶酔なのか?』 幽鬼王は桜花姫の言動に呆れ果てる。 「月影桜花姫…俺は二度と地獄の世界へは逆戻りするなと忠告しただろ…自分から地獄の世界に逆戻りするとは貴様は相当の馬鹿者か?」 幽鬼王は鬼神の形相で桜花姫を睥睨し始め…。非常に呆れ果てたのである。 「仕方ないでしょう…俗界は毎日が平和だから私にとっては退屈なのよね♪基本的に悪人しか存在しない地獄の世界でなら思う存分に悪霊を征伐出来るでしょう♪」 「貴様は相当の物好きみたいだな…自分から極悪非道の亡者しか存在しない地獄の世界に参上するとは余程の単細胞か?生身の生者にとって地獄の世界の居心地は最悪だぞ…俺も最初は気味悪かったぜ…」 「最悪かしら?別に私は気にならないわね♪」 「命知らずの単細胞が…貴様は相当の異常者なのだろうな…」 すると直後…。徘徊中の周囲の亡者達が生者である桜花姫に気付き始めたのである。 「如何やら地獄の亡者達が生身の生者である貴様に反応しやがったぞ…自分から地獄の世界に参上したのを後悔するぜ…」 再度幽鬼王に忠告された桜花姫であるが…。彼女は満面の笑顔で返答する。 「私は後悔しないわ♪今度の私なら大丈夫だからね!」 「ん?」 『此奴は以前と比較すると…随分と余裕そうだな…常人なら発狂するだろうに…こんなにも殺伐とした場所で桜花姫は平気なのか?』 桜花姫は余裕の様子であり幽鬼王は非常に不思議がる。 「何故なら♪今回の私には…」 桜花姫は神性妖術である天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。 「桜花姫…」 『両目の瞳孔が瑠璃色に発光するとは…』 桜花姫は満面の笑顔で幽鬼王を直視する。 「私の神性妖術…天道天眼よ♪」 「天道天眼だと?」 『如何やら此奴の奥の手みたいだな…』 幽鬼王は桜花姫の天道天眼を恐る恐る直視…。 『彼女の瞳孔は彼奴と…桃子姫と一緒の眼光みたいだな…桜花姫は彼奴と同様の妖術を駆使出来るのか?』 幽鬼王は五百年前の桃子姫を想起したのである。 『ひょっとして桜花姫は?彼奴の…桃子姫の再来なのか?』 幽鬼王は小声でボソッと一言…。 「やっぱり貴様は桃子姫と名乗る妖女と瓜二つだな…」 すると桜花姫はニコッと微笑み始める。 「私が桃子姫と瓜二つも何も♪私は彼女の再来だからね♪」 「貴様…桜花姫は本当に彼奴の再来だったのか!?」 「勿論よ♪」 幽鬼王は桜花姫が元祖妖女…。桃子姫の再来である事実に驚愕する。 「貴様みたいなじゃじゃ馬の小娘が桃子姫の再来だったとは驚愕だな…天地が引っ繰り返りそうな気分だぞ…」 すると周囲の悪霊が桜花姫に殺到し始める。 「桜花姫…亡者達に包囲されちまったぞ…一体如何するよ?」 「私が神出鬼没の悪霊を相手に如何するかって?」 桜花姫はニコッと微笑み始める。 「仕方ないわね♪地獄の亡者達♪あんた達は私の大好きな桜餅に変化しなさい♪」 桜花姫は殺到する周囲の亡者達に変化の妖術を発動したのである。 完結
第四部 特別編
第一話
夜戦 世界暦五千二十四年六月中旬の出来事である。最上級妖女の月影桜花姫が天空魔獣の羅刹大皇帝を仕留めてより一月が経過した時期…。女性忍者として活躍する忍者妖女の山茶花姫は東国の山奥に存在する天王山に参上したのである。 『此処が問題の天王山ね…』 近頃…。天王山では登山者が山中にて匪賊達に襲撃される大事件が発生したのである。山中に暗躍する彼等は近隣の村里にも襲撃し始める。匪賊達の襲撃に天王山近隣の村人達は襲撃に畏怖したのである。 『極悪非道の匪賊達は私が徹底的に仕留めるわよ!』 匪賊達による襲撃事件の噂話を熟知した山茶花姫は匪賊征伐を目的に真夜中の天王山を視察する。 「こんな私だって…」 『世の中の極悪非道の悪人達を仕留めて…最上級妖女の月影桜花姫様みたいに…』 山茶花姫は東国では唯一の女性忍者であり純血の妖女であるが…。人一倍生真面目の性格であり一握りの最上級妖女とされる月影桜花姫を尊敬する一人である。今回の事件発生は彼女にとって大活躍出来る絶好機…。内心では自身の出番が到来したと大喜びだったのである。自宅から移動してより一時間後…。山茶花姫は天王山の天辺に到達したのである。天王山は全体的に物静かであり自然林からは清涼なる風音は勿論…。川音が山中全体に響き渡る。 『天王山は物静かで常日頃の苛立ちが浄化されるわね…』 山茶花姫は天王山の自然に魅了されたものの…。 「えっ?」 数分間が経過すると暗闇の自然林から無数の人気を感じる。 『何かしら?山中から無数の殺気を感じるわね…』 山茶花姫は恐る恐る両目を瞑目させる。 『人数は恐らく十七人程度かしら?即刻片付けないと!』 暗闇の自然林より十数人もの無頼漢達がゾロゾロと出現したのである。 「ん?こんな暗闇の場所に誰かと思いきや…」 「此奴は面白そうだな♪忍者の小娘が一人で登山しやがるとは♪」 匪賊達は侵入者である山茶花姫を包囲し始める。 「此奴は傑作だぜ♪忍者の姉ちゃんは命知らずの小娘だな♪」 「こんなにも暗闇の場所に一人で…忍者の姉ちゃんは余程死にたいらしいな♪」 「此奴は殺しちまうのは勿体無いぞ♪折角の機会だ♪小娘を夜遊びの小道具として扱うのも悪くないだろうぜ♪」 彼等は下心が全開であり山茶花姫の出現に大喜びしたのである。 『下劣だわ…登山者達はこんな奴等に惨殺されたのね…』 山茶花姫は彼等を軽蔑する。 「相手が忍者だとしても…所詮は小娘一人だぞ♪多勢に無勢だぜ♪」 「忍者の姉ちゃんよ♪あんたは多勢に無勢だが如何するかな?」 一方の山茶花姫は険悪化した表情で周囲の無頼漢達を睥睨したのである。 「あんた達が天王山で登山者達を襲撃した極悪非道の匪賊達ね…最近は近隣の村里も襲撃したとか…」 無頼漢達は山茶花姫の苦言に開き直る。 「俺達が登山者を襲撃したから如何した?俺達は単純に自分達の領地を防衛しただけだぞ…侵入者を打っ殺すのは当然の正当行為であろう?」 「近隣の村里を襲撃したのも俺達の領地を守護しただけだからな…」 「俺達は相手が誰であろうと侵入者は確実に打っ殺すからな!相手が無抵抗の赤子であろうと…非力の小娘であっても容赦しないさ!」 開き直った匪賊達は護身用の刀剣を抜刀し始める。 「当然…貴様も侵入者だ!相手が忍者の小娘だからって俺達は容赦しないぞ!」 「覚悟しな!忍者の小娘!」 一方の山茶花姫は愛器である鎖鎌を携帯する。 「天王山があんた達の領地ね…理由が身勝手過ぎるわ…」 山茶花姫は余裕の表情であり匪賊達は彼女の態度に苛立ったのである。 「此奴…気に入らない小娘だな…打っ殺されたいのか!?」 「忍者でも相手は小娘一人!構わん!相手が忍者の小娘だろうと打っ殺せ!」 すると五人の匪賊が山茶花姫に殺到し始める。 『こんな匪賊程度なら…私一人でも対処出来そうだわ…』 山茶花姫は神速の身動きで護身用の鎖鎌を駆使…。殺到する五人の匪賊達を容易に仕留めたのである。 「ぎゃっ!」 「ぐっ!」 五人の匪賊達は両方の足首を鎖鎌で斬撃され…。彼等は地面に横たわったのである。 「残念だったわね…あんた達程度の実力では私は仕留められないわよ…」 山茶花姫の実力に周囲の匪賊達は恐る恐る後退りする。 「ひゃっ!此奴…小柄だが相当の実力者だぞ!」 匪賊達は山茶花姫に畏怖したのである。 「貴様等!狼狽えるな!」 大柄の匪賊が無表情の山茶花姫を睥睨する。 「此奴が相当の実力者であっても…所詮相手は忍者の小娘一人だぞ!構わん!忍者の小娘を打っ殺せ!全員で忍者の小娘を袋叩きだ!」 山茶花姫は呆れ果てる。 「はぁ…あんた達は本当に命知らずなのね…」 山茶花姫は不本意であるが感電の妖術を発動…。 『正直こんな奴等を相手に妖術を駆使するのは勿体無いけれど…仕方ないわね…』 鎖鎌を地面に刺突させると地面に不殺生程度の雷撃を流し込ませる。流し込まれた雷撃により周囲の匪賊達は感電したのである。 「ぎゃっ!」 「うわっ!」 周囲の匪賊達は感電の妖術により気絶する。 「匪賊達は気絶したかしら?」 感電の妖術とは第一に体内から発生させた雷撃を鎖鎌に流し込み…。第二に鎖鎌を地面に刺突させる。第三に地面に刺突させた鎖鎌から雷撃を地面に流し込ませる。最終的に相手を感電死させる雷撃系統の広範囲妖術である。大勢の敵対者達に包囲された場合にこそ有用的であり周囲の敵対者達を一網打尽に攻撃出来る。場合によっては攻撃対象である大人数の相手を感電死…。即死させられる。 『匪賊達は全員…気絶したわね…』 山茶花姫は匪賊達が気絶したか一人ずつ確認する。 『大丈夫かしら?』 今回は相手が死なない程度に手加減したのである。 「一先ずは任務完了ね…」 『即刻…東国武士団に報告しましょう…』 山茶花姫は東国へと移動する直前…。 「えっ…」 『今度は何かしら?』 背後より人気を感じる。 『人気だわ?』 山茶花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。 『人間の僧侶かしら?』 人気の正体とは錫杖を所持した一人の僧侶だったのである。 「誰かと思いきや…貴方は寺院の法師様でしょうか?」 僧侶は山茶花姫の問い掛けに即答する。 「娘さん…私は単なる通りすがり僧侶ですが…如何されましたか?」 「貴方は通りすがりの僧侶ですって?」 「貴女様みたいな容姿端麗の娘さんが…こんなにも真夜中の山中に一人で出掛けられるなんて…ん?」 僧侶は山茶花姫の背後に横たわった状態の匪賊達を直視し始め…。一瞬彼女に警戒するものの山茶花姫の容姿にハッとする。 「貴女様には見覚えが…ひょっとすると貴女様は以前…」 「私の名前は山茶花姫♪忍者妖女の山茶花姫ですよ♪ひょっとして法師様は…」 山茶花姫も僧侶の容姿を想起したのである。 「貴方は以前…月影桜花姫様と一緒に同行された法師様ですよね?」 すると僧侶は笑顔で名前を名乗る。 「私の名前は僧侶の八正道です♪貴女様は忍者妖女の山茶花姫様でしたか♪」 僧侶の正体は誰であろう八正道だったのである。 「山茶花姫様は以前…桜花姫様の妖術によって極悪非道の女性の怪物…ウィプセラスから救出された妖女の一人でしたよね♪貴女様が元気そうで何よりですよ♪」 「えっ…」 山茶花姫は一瞬戦慄する。彼女が戦慄した理由としては人工性妖女…。ウィプセラスの存在である。被害者である山茶花姫にとってウィプセラスは最大のトラウマであり彼女の名前を想起するだけでも山茶花姫はゾッとし始める。 『ウィプセラスって…』 突如として山茶花姫はソワソワし始めたかと思いきや…。彼女の顔色が悪化し始める。八正道は極度の恐怖心によりソワソワし始める山茶花姫に恐る恐る…。 「大丈夫でしょうか?山茶花姫様?不快でしたかね?何やら山茶花姫様の顔色が…」 「失礼しました…私なら…大丈夫ですから…八正道様…気にしないで…」 山茶花姫は苦し紛れに苦笑いする。 『山茶花姫様…本当に大丈夫でしょうか?』 八正道は山茶花姫の様子を心配したのである。 『ひょっとすると山茶花姫様にとってウィプセラスは余程恐怖の対象だったのでしょうかね?彼女がウィプセラスに畏怖するのも当然でしょうね…』 八正道は山茶花姫がウィプセラスに畏怖するのは当然であると認識する。すると山茶花姫は恐る恐る八正道に問い掛ける。 「八正道様は如何してこんな暗闇の場所に?」 「私は単純に真夜中の山中で食事を満喫しに出掛けたのですよ…」 「こんなにも真夜中の山中で食事ですか?」 『こんな殺伐とした場所で食事なんて特異的だわ…八正道の趣味かしら?』 八正道にとって真夜中の食事は醍醐味であり一日の日課である。山茶花姫は内心八正道の趣味が特異的であると感じる。 「近頃は東国の山奥に匪賊の襲撃が頻発したらしいので彼等の襲撃に警戒したのですが…山茶花姫様が極悪非道の匪賊達を退治されたみたいなので一安心ですよ♪」 匪賊達を征伐した山茶花姫に八正道は感謝する。 「八正道様♪山中の危険は回避出来ましたからね♪真夜中の食事なら思う存分に満喫出来ますよ♪」 「折角の機会ですし♪山茶花姫様も私と一緒に食事しませんか♪野外用の土鍋を用意しましたので♪山茶花姫様は一仕事されて空腹なのでは?」 八正道は満面の笑顔で山茶花姫に食事を勧誘するのだが…。 「八正道様…今回ばかりは御免なさいね!私は即刻東国の武士団に現状を報告しに移動しなくては!匪賊達の征伐は私の任務なので!」 山茶花姫は残念そうな表情で返答する。 「承知しました…山茶花姫様…極悪非道の匪賊達である彼等を放置し続ければ大変ですからね…」 山茶花姫は神速の身動きで東国へと直行したのである。 「山茶花姫様…」 『如何やら彼女は人一倍生真面目なのでしょうね♪』 八正道は人一倍生真面目の山茶花姫に感心する。翌日の早朝…。天王山の頂上で気絶した匪賊達は東国の武士団によって全員逮捕されたのである。
第二話
和菓子屋 天王山での夜戦から二日後の真昼…。忍者妖女の山茶花姫は気分転換に東国中心地の歓楽街にて出歩いたのである。普段は忍者風の服装であるが…。今回は煌びやかな花柄の着物姿であり小町娘同然の容姿である。山茶花姫は歓楽街の大路を通行中…。 「ん!?あんたは可愛らしい姉ちゃんだな♪」 山茶花姫は不運にも三人組の無頼漢達に包囲されたのである。 「はっ?何よ…あんた達は?」 無頼漢達との遭遇に山茶花姫は警戒…。 『ひょっとして彼等は破落戸かしら?』 彼女は警戒した様子で三人組の無頼漢達から恐る恐る後退りしたのである。 「小町娘の姉ちゃんよ♪あんたは…相当の美人だな♪此処で食べちまいたいぜ♪」 「はっ?突然何よ?食べちゃいたいなんて気味悪いわね…」 山茶花姫は面倒臭そうな態度で返答する。 「俺達と一緒に思う存分一遊びしないか?あんたは容姿端麗で最高だぜ♪」 「小町娘のあんたなら大歓迎だよ♪」 無頼漢達は山茶花姫との遭遇に上機嫌の様子なのだが…。 『折角の休日なのに最悪だわ…こんな奴等と遭遇するなんて面倒臭いわね…』 山茶花姫は彼等の様子に呆れ果てる。 『如何して私はこんな奴等と遭遇するのかしら?天道の悪ふざけなの?天道の悪ふざけだとしたら相当不愉快だわ…』 山茶花姫は自身がとことん不運であると感じる。 「はぁ…悪いけど一遊びしたかったら小町娘の私なんかよりも世間知らずの花魁と一遊びしちゃえば?私は多忙なのよね…」 『こんな奴等と一緒に活動なんて…時間が勿体無いわ…』 一方の無頼漢達は山茶花姫の返答に落胆したのである。 「姉ちゃんは多忙なのか…」 「姉ちゃんが多忙なら仕方ないな…」 直後…。無頼漢達は護身用の小刀を抜刀する。 『小刀!?こんな人通りの場所で!?』 山茶花姫は突如として小刀を抜刀し始めた無頼漢達に再度警戒したのである。 「俺達と一遊びしたくなければ大人しく金品を手渡せよ♪あんただってこんな場所では死にたくないだろう?」 「俺達に大人しく金品を手渡すなら小町娘のあんたを見逃すぜ♪如何するよ?小町娘の姉ちゃん♪」 山茶花姫は恐る恐る周囲を警戒する。 『相当理不尽ね…如何しましょう?歓楽街の大路でこんな奴等を相手に私の正体が妖女だって判明すると面倒臭いし…』 山茶花姫は忍者としての仕事柄…。町民達に自身の正体を認知されたくなかったのか妖術の使用に躊躇したのである。 『こんな状況下…私は如何するべきなのかしら?』 彼女は困惑するのだが…。直後である。 「ひっ!」 「うわっ!」 彼等は小刀の異変に驚愕する。 「ひょっとして此奴は妖術なのか!?」 突如として無頼漢達が所持する小刀が瞬間的に冷凍されたのである。 「えっ!?」 『氷結ですって!?一体何が発生したのかしら!?』 突然の超常現象に無頼漢達は勿論…。山茶花姫も驚愕したのである。 『ひょっとして氷結の妖術かしら!?妖女の仕業なのは確実だけど…一体誰が氷結の妖術を発動したの!?』 近辺で妖女特有の妖力は感じられるものの…。 『術者は?』 山茶花姫は周囲を警戒したのである。 『誰なのか?不明ね…』 氷結の妖術は誰が発動したのかは特定出来ない。無頼漢達は妖術で冷凍された小刀を地面に放棄したのである。 「逃げろ!」 「妖女に打っ殺されちまうぞ!」 彼等は一目散に逃走したのである。 『一体…何が発生したのかしら?摩訶不思議ね…』 「一先ずは…一件落着なのかしら?」 摩訶不思議の出来事であるが山茶花姫は何事も無かった様子で移動を再開し始め…。近場の和菓子屋で休憩する。普段の彼女は和菓子屋の菓子類は食べないが今回は大福を味見したのである。 『和菓子って意外と美味なのね♪』 山茶花姫は大福を美味しそうに頬張る。すると直後…。紫色の着物姿の小町娘と水色の着物姿の花魁が山茶花姫の隣席へと着席する。 『彼女達…誰かしら?』 山茶花姫は警戒した様子で恐る恐る隣席の二人を確認…。奇妙にも彼女達からは摩訶不思議の妖力が感じられる。 「えっ!?」 『彼女達は…本物の妖女だわ…如何して妖女がこんな場所に?ひょっとすると先程の氷結の妖術は二人の何方かね…』 山茶花姫は二人の妖女に警戒するものの…。 『危害は無さそうだけど…』 何事も無かった様子で只管緑茶を摂取し続ける。緑茶を全量摂取した数秒後…。 「あんた♪妖女♪大好き♪大好き♪」 突如として紫色の着物姿の小町娘がニコッとした表情で山茶花姫に近寄り始める。小町娘は満面の笑顔で彼女の乳房を弄ったのである。 「きゃっ!突然何するのよ!?あんたは助平なの!?」 山茶花姫は小町娘の突然の行為に驚愕する。すると同行者である花魁の女性が小町娘に注意したのである。 「ウィプセラス!駄目でしょう!あんたは大人しくしなさい!」 「ウィプセラスって…えっ!?」 山茶花姫はウィプセラスの名前に戦慄し始め…。 「はぁ…」 山茶花姫は極度の恐怖心からか気絶したのである。 「あんた!?大丈夫!?確りして!」 突如として気絶した山茶花姫に花魁の女性は勿論…。大勢の客人が床面に横たわった状態の山茶花姫に注視し始める。 「此奴は…大丈夫なのか?」 「確りしろよ!姉ちゃん!大丈夫なのか!?」 「此奴は病気かよ!?」 「突然卒倒しちまったからな…此奴は一大事だぜ…」 突然の山茶花姫の卒倒に店内全体が騒然とする。
第三話
前途多難 山茶花姫が店内で気絶してより一時間後…。 「はぁ…私は…」 和菓子屋で気絶した山茶花姫であるが目覚めたのである。 『此処は?』 周囲を直視すると家屋敷の居室であるのは認識出来る。 「如何やらあんた♪目覚めたみたいね♪」 「えっ…貴女様は?」 彼女は先程和菓子屋で接触した花魁の女性である。 「私の名前は雪美姫♪粉雪妖女の雪美姫よ♪」 「えっ…粉雪妖女の雪美姫様?貴女はひょっとして月影桜花姫様の親友の!?」 「私が桜花姫の親友なんて♪」 『私も…桜花姫の影響で国全体の有名人なのね♪』 桜花姫の影響力であるものの…。雪美姫は国全体の有名人である事実に内心大喜びしたのである。 「雪美姫様?私は一体…如何してこんな場所に?」 山茶花姫は雪美姫に場所を問い掛ける。 「此処は八正道の寺院よ♪」 「えっ…此処って八正道様の寺院ですか?」 「あんたはね…一時間前に和菓子屋で気絶しちゃったのよ…突然あんたが卒倒しちゃったから吃驚しちゃったわ…」 「私が和菓子屋で気絶ですか…」 すると山茶花姫は突如としてハッとした表情で警戒し始める。 「雪美姫様!?彼奴は!?ウィプセラスは!?」 雪美姫は突然警戒し始めた山茶花姫に吃驚するものの…。 「えっ…ウィプセラスですって?」 雪美姫は気まずくなったのか恐る恐る山茶花姫の背後を指差したのである。 「ウィプセラスなら…あんたの真後ろだけど…」 山茶花姫は雪美姫の発言に一瞬ゾッとする。 「えっ?ウィプセラスが…私の真後ろですか?」 山茶花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認…。 「ひっ!」 山茶花姫の背後にはウィプセラスが佇立する。 「如何してあんたがこんな場所に!?」 「私♪ウィプセラス♪あんた♪大好き♪大好き♪大好き♪」 彼女はヘラヘラした様子で山茶花姫に力一杯密着したのである。二人の光景に雪美姫は微笑み始める。 「あんたって余程…ウィプセラスに気に入られちゃったみたいね♪非常に微笑ましい光景だわ♪」 雪美姫は他人事みたいに発言する。 「雪美姫様!何が微笑ましい光景ですか!?私は…彼女に食べられちゃいますよ!」 山茶花姫はウィプセラスに対する極度の恐怖心からか全身が膠着化したのである。 「山茶花姫♪心配しなくても大丈夫よ♪彼女は以前みたいに誰かを捕食しないから♪」 「えっ…」 山茶花姫は恐る恐るウィプセラスの表情を直視…。 『捕食しないのかしら?』 彼女からは何一つとして敵意も悪意も感じられない。 「本当に…大丈夫なのですか?本当に彼女は誰かを食べたりしないのですか?」 「今現在の彼女は桜花姫の口寄せの妖術で復活させた傀儡人形だからね♪」 「ウィプセラスが傀儡人形ですって?口寄せの妖術ですか?」 今現在存在するウィプセラスは最近桜花姫が自身の気紛れにより口寄せの妖術で復活させた手駒…。正真正銘の傀儡人形である。彼女自身は生前が純粋無垢の性格であり特段変化らしい変化は何一つとして感じられない。 「ウィプセラスは以前みたいに自分以外の誰かを食い殺したりしないから♪山茶花姫が過剰に心配しなくても大丈夫なのよ♪」 今現在のウィプセラスは人畜無害であるものの…。 「ですが彼女は…ウィプセラスは以前私を捕食して…」 山茶花姫にとってウィプセラスはトラウマであり恐怖の対象だったのである。 『ウィプセラスが人畜無害でも山茶花姫が過剰に畏怖するのは当然の反応よね…山茶花姫には時間が必要だわ…』 雪美姫は被害者である山茶花姫には時間が必要不可欠であると感じる。 「あんたは♪大好き♪大好き♪」 一方のウィプセラスは只管山茶花姫に密着し続ける。 「はぁ…」 『私は今後…如何すれば?』 山茶花姫は今後を不安視したのである。 『前途多難だわ…』 数秒後…。 「皆様方…私は失礼します…」 すると居室より僧侶の八正道が入室する。 「貴方は…八正道様?」 「山茶花姫様♪目覚められたのですね♪体調は大丈夫ですか?」 「体調は大丈夫ですよ♪八正道様♪」 彼女は笑顔で返答したのである。 「大丈夫そうですね♪山茶花姫様が無事なので一安心ですよ♪」 八正道は山茶花姫の様子にホッとする。 「八正道?桜花姫は?」 雪美姫は恐る恐る八正道に問い掛ける。 「桜花姫様なら早朝に地獄の世界で極悪非道の悪霊を征伐するって…出掛けられたのですが…」 「地獄の世界ですって?地獄の世界って何かしら?」 「正直私にも…何が何やらサッパリですね…」 雪美姫も八正道も近頃の桜花姫の行動には珍紛漢紛だったのである。 「桜花姫は本当に自由奔放だわ…」 「自由奔放なのは桜花姫様らしいですがね♪」 すると山茶花姫は恐る恐る…。 「御免なさい…私は…仕事に戻らないと…」 「えっ?山茶花姫?仕事って何よ?」 問い掛けられた山茶花姫は一瞬睥睨した表情でウィプセラスをチラ見する。 『ウィプセラス…此奴と一緒の空間なんて御免だわ…ウィプセラスと一緒の場所に長居し続けると私自身が可笑しくなりそうだわ…』 山茶花姫は精神的に疲弊した様子でありウィプセラスから逃げたくなる。 「失礼しました…」 山茶花姫はピリピリした様子で退出したのである。 『山茶花姫は不機嫌そうだわ…多分だけどウィプセラスが原因でしょうね…山茶花姫は本当に彼女が苦手なのね…』 雪美姫は山茶花姫の心情を察知する。
第四話
居候 一方の山茶花姫は不機嫌そうな態度で一目散に自身の家屋敷へと戻ったのである。 「はぁ…」 『私は…踏んだり蹴ったりだわ…』 山茶花姫は極度の疲労困憊からか一息する。 『桜花姫様…如何して口寄せの妖術なんかで荒唐無稽のウィプセラスを復活させちゃったのかしら?無責任過ぎるわ…』 内心桜花姫の気紛れの行為に傍迷惑であると感じる。 『ウィプセラス…』 「彼奴とは二度と出くわしたくないわね…」 居室へと移動した直後…。 「えっ!?あんたは!?」 家屋敷の居室には先程遭遇したウィプセラスが存在する。 「あんたは♪大好き♪大好き♪」 彼女はヘラヘラした様子で只管に山茶花姫が大好きであると連呼し続ける。 「ウィプセラス!?如何してあんたが私の家屋敷に!?」 山茶花姫は恐る恐る後退りするのだが…。 「あんた♪妖女♪大好き♪大好き♪」 ウィプセラスは力一杯彼女に密着したのである。 「きゃっ!」 ウィプセラスは小柄の可愛らしい外見とは裏腹に…。 『此奴…相当の金剛力だわ…本当に妖女なの!?』 意外と怪力なのか山茶花姫は必死に振り解こうにも振り解けない。 「ぐっ!」 『彼女からは逃げられないわ…』 山茶花姫は観念する。 「あんたが私を大好きなのは理解したから…好い加減私を解放してよ…」 「私♪あんた♪大好き♪大好き♪」 ウィプセラスは満面の笑顔で山茶花姫を解放したのである。 「あんたは…何が目的なのよ!?如何して私に付き纏うのよ!?あんたは好い加減鬱陶しいのよ!」 「あんた♪大好き♪あんた♪大好き♪」 山茶花姫は真剣の表情で問い掛けるのだが…。ウィプセラスはヘラヘラした様子で只管に大好きと連呼し続ける。 『此奴!腹立たしいわね!何が大好きよ…』 ウィプセラスは満面の笑顔で只管ヘラヘラし続けるものの…。対する山茶花姫は彼女の態度に苛立った様子でありピリピリする。すると直後である。 「失礼するわよ♪山茶花姫♪」 玄関より粉雪妖女の雪美姫が訪問する。 「貴女は雪美姫様…」 「御免あそばせ♪山茶花姫♪あんたが帰宅してからウィプセラスが脱走しちゃったのよ…あんたの家屋敷からウィプセラスの妖力を察知したのよね♪」 山茶花姫が一目散に帰宅後…。何時の間にかウィプセラスは八正道の寺院から脱走したのである。 「ウィプセラスは居室ね…」 雪美姫は家屋敷の居室へと移動する。 「ウィプセラス…好い加減八正道の寺院に戻りなさい…寺院に戻らないと今度も桜花姫に食べられちゃうわよ…あんたは二度も桜花姫に食べられたいのかしら?」 「えっ…」 突如としてウィプセラスはビクッと反応したかと思いきや…。彼女は神速の身動きで山茶花姫の真後ろに隠れ始める。普段はニコニコとした満面の笑顔でありヘラヘラし続けるウィプセラスであるが…。 「えっ!?ウィプセラス!?」 今回の彼女は非常にビクビクした様子だったのである。 『ウィプセラスでも恐怖心でビクビクするのね…ひょっとすると桜花姫様がウィプセラスの弱点なのかしら?』 山茶花姫は極度の恐怖心によってビクビクし始めた表情のウィプセラスに正直意外であると感じる。 「あんたね…」 『本当…ウィプセラスは子供みたいで単純だわ…』 雪美姫はウィプセラスに呆れ果てる。 「私…寺院なんか…戻りたくない…戻りたくない…戻りたくない…」 「ウィプセラス…」 『気の毒ね…』 山茶花姫は只管戻りたくないと連呼し続けるウィプセラスに感情移入したのか彼女を気の毒に感じる。山茶花姫は恐る恐る…。 「ウィプセラス?あんたは…本当に八正道様の寺院には戻りたくないの?」 「戻りたくない!絶対!寺院!戻りたくない!あんたと一緒!あんたと一緒!私!あんたと一緒!寺院!戻らない!絶対!絶対!」 ウィプセラスは山茶花姫の問い掛けに即答したのである。 「ウィプセラス…」 『彼女の表情…本当に寺院には戻りたくないみたいね…』 山茶花姫は不本意であるが…。 「ウィプセラス?あんたは私と一緒に…居候したいの?」 ウィプセラスは居候の一言に反応したのか再度ニコッとした表情で返答する。 「居候したい♪居候したい♪あんた♪大好き♪大好き♪」 「はぁ…」 山茶花姫は再度一息する。 『止むを得ないわね…』 山茶花姫は不本意であるが…。 『生憎彼女に悪気は無さそうだし…』 ウィプセラスとの居候生活を決意する。 「御免なさいね…雪美姫様…私は彼女と居候します…」 「えっ!?あんた…本気なのかしら!?」 雪美姫は山茶花姫の突発的発言に絶句したのである。 「山茶花姫?あんたは本当に大丈夫なの?相手は桜花姫よりも食いしん坊のウィプセラスなのよ?無理しないでね…」 雪美姫は山茶花姫が正気なのか心配する。 「私なら大丈夫ですよ♪雪美姫様♪」 『ウィプセラスは桜花姫様が弱点みたいだし…』 山茶花姫はウィプセラスの弱点を熟知すると笑顔で返答したのである。 「山茶花姫…」 『人一倍ウィプセラスを毛嫌いし続けた山茶花姫がね♪こんなにも彼女の心境が変化するなんて意外だわ…』 彼女の心境の変化に絶句した雪美姫だが…。 「ウィプセラスとの居候生活は大変かも知れないけど…頑張ってね♪私はあんたを応援するわよ♪山茶花姫♪今後問題が発生したら私か桜花姫に相談しなさいね♪」 「感謝します♪雪美姫様♪問題が発生したら逸早く相談しますので♪」 「今回の一件は八正道に報告するからね♪」 雪美姫は再度八正道の寺院へと戻ったのである。雪美姫が戻った直後…。 「私♪あんたと居候♪居候♪居候♪」 山茶花姫との居候生活にウィプセラスは大喜びしたのである。 「ウィプセラス?」 すると山茶花姫は恐る恐る…。 「私と居候したいなら絶対条件として…金輪際誰かを食い殺したりしないのよ!絶対に約束出来るわよね?ウィプセラス?」 「私♪誰も♪食べない♪食べない♪大丈夫♪大丈夫♪私♪約束する♪約束する♪」 ウィプセラスは満面の笑顔で即答する。 「私の名前は忍者妖女の山茶花姫よ…」 山茶花姫はウィプセラスに自身の名前を名乗ったのである。 「山茶花姫♪山茶花姫♪大好き♪大好き♪」 『ウィプセラス…意外と人懐っこい性格なのね…』 山茶花姫は僅少であるが…。人一倍無邪気で人懐っこいウィプセラスの様子に微笑み始める。 『ウィプセラスが人畜無害なのは本当っぽいわね…やっぱり私は彼女を過剰に畏怖し過ぎたみたいね…』 彼女はウィプセラスが人畜無害であると認識出来…。一安心したのである。
第五話
夜道 山茶花姫とウィプセラスが居候生活を開始してより六日後…。真夜中の出来事である。一人の村里の少女が南国の山道を移動する。 「はぁ…はぁ…」 『真夜中の山道は悪霊が出現しそうで気味悪いわね…』 彼女は松茸採取からの帰宅中であり大急ぎで暗闇の山道を移動したのである。 『今日はこんなにも大量の松茸を採取出来たからね♪』 少女は父親と母親が大喜びする表情にワクワクする。 『父ちゃんも母ちゃんも大喜びするかな♪』 少女はワクワクした様子で真夜中の山道を移動中…。 「えっ…」 『気味悪いな…こんな真夜中に誰だろう?』 目前より二人の黒服の大男達と遭遇する。 『男の人達が…二人…』 大男達の様子に奇妙であると感じるのか少女は恐る恐る素通りするものの…。 「小娘…其方は…」 黒服の大男に問い掛けられる。 「えっ!?」 少女はビクッと反応し始める。 「何ですか?私に用事ですか?」 少女は警戒した様子で恐る恐る背後を直視したのである。 「こんな真夜中に貴様みたいなひ弱の小娘が一人で出歩くとは…其方は余程危機感が皆無なのだな…其方みたいな小娘は山中の野良犬に食い殺されるぞ…」 一人の黒服の大男は少女に警告する。 『匪賊っぽくないけれど面倒臭そうな奴等だわ…如何しましょう?』 彼等の様子に少女は恐る恐る警戒したのである。 「小娘は…こんな真夜中に神出鬼没の悪霊にでも遭遇したいのか?」 「悪霊ですって?」 少女は悪霊の一言に再度反応する。 『悪霊って不寝番の月影桜花姫様が退治したらしいし出現しないわよね?』 最上級妖女の桜花姫が邪霊餓狼を退治した噂話は各地の村里で出回り始め…。神出鬼没の悪霊が俗界に出現しない事実は誰しもが周知したのである。 「暗闇の真夜中だからな…神出鬼没の悪霊が出現するかも知れないぞ…」 正直面倒に感じるのか少女は恐る恐る返答する。 「失礼ですが…私は帰宅中です…自宅に戻らないと両親が心配するので…」 少女は家屋敷に戻ろうと思いきや…。 「であれば仕方ないな…」 一人の黒服の大男が護身用の連発銃を携帯したのである。 「ひゃっ!」 『拳銃!?』 少女は連発銃に恐怖…。全身が身震いしたのである。 「こんな時間帯に夜遊びする小娘は世の中に不要なのだ…其方は救済の女神様…姫神様の人柱として救済の姫神様に生命力を授与するべきなのだよ!」 黒服の大男は少女の左側の脚部を狙撃…。 「ぎゃっ!」 銃弾により脚部を狙撃された少女は地面に横たわる。 「ぐっ…」 『如何してこんな…』 左側の脚部からは大量の鮮血が流れ出る。 『父ちゃん…母ちゃん…私は…死にたくないよ…』 意識が朦朧としたのか少女は意識が遠退いたのである。 「小娘は気絶したみたいだな…」 「此奴なら姫神様の人柱として利用出来そうだな♪本拠地に戻ろうぜ…」 「嗚呼♪戻ろう♪戻ろう♪」 二人の黒服の大男達は気絶した少女をとある場所へと連行する。近頃…。各地の村里で若齢の村娘が何者かによって連行される誘拐事件が多数発生したのである。誘拐事件の頻発により各地の村里では若齢の女性は出歩けなくなる。
第六話
一致団結 連続誘拐事件発生から五日後…。東国の中心街では忍者妖女の山茶花姫が和菓子屋にて大福と三色団子を鱈腹頬張る。 「三食団子♪美味だわ♪」 『和菓子って意外と最高ね♪』 山茶花姫は美味しそうに和菓子を頬張り続ける。 「如何やら元気そうね♪山茶花姫♪」 山茶花姫の隣席にて粉雪妖女の雪美姫が同席したのである。 「貴女様は粉雪妖女の雪美姫様!?如何して雪美姫様がこんな場所に!?」 突然の雪美姫の出現に山茶花姫は驚愕する。 「暇潰しよ♪暇潰し♪近頃は桜花姫も不在だし面白くないのよね…」 「桜花姫様は不在ですか…」 『ひょっとして桜花姫様は常日頃から大忙しなのかしら?』 桜花姫は近頃…。地獄の世界での悪霊征伐に無我夢中であり俗界では不在中だったのである。 「最近は桜花姫も留守中だし退屈だからね…暇潰しに面白そうな大事件でも発生しないかしら?」 雪美姫は最上級妖女の桜花姫に影響されたのか武陵桃源の日常生活が退屈に感じ始める。すると山茶花姫は恐る恐る…。 「ですが雪美姫様…近頃は各地の村里で若齢の女性の行方不明事件が頻発したみたいですよ…」 「行方不明事件ですって?」 雪美姫はニコッと微笑み始める。 『大事件かしら♪面白そうね♪』 各地の村娘の行方不明事件に雪美姫は内心ワクワクする。 「山茶花姫♪折角の機会だし♪」 雪美姫はニヤッとした表情で…。 「雪美姫様?」 『雪美姫様の表情…何かしら?』 山茶花姫は動揺し始める。 「私達二人だけで村娘の行方不明事件を調査しましょうよ♪今回の大事件は非常に面白そうだわ♪」 今回発生した村娘の行方不明事件は最上級妖女の桜花姫も不在である。雪美姫は自分達で大事件を解決出来る絶好機であると思考する。 『別に面白くないけれど…雪美姫様にとっては面白いのかしら?』 雪美姫は久方振りの大事件にワクワクした様子であるものの…。一方の山茶花姫は内心苦笑いしたのである。 「幸運にも今回の行方不明事件は面倒臭い桜花姫も不在だからね♪今回は私達だけで大事件を解決させちゃいましょう♪」 「私達だけで大事件の調査ですか…」 山茶花姫は一瞬沈黙するものの…。 「雪美姫様…承知しました!私は事件の調査に協力しますよ…」 『正直行方不明者の女性達の居場所も気になるし…今回は好都合だわ…』 山茶花姫は行方不明事件の調査に承諾したのである。 「如何やら交渉成立ね♪山茶花姫♪今回はあんたの協力が必要不可欠だからね…」 「行方不明の女性達の居場所を調査したいですからね…」 二人は一致団結…。 「行動開始は今夜よ♪場所は南国の農村地帯ね♪」 「承知しました…雪美姫様…」 山茶花姫は雪美姫の指示に承諾したのである。
第七話
追跡 当日の真夜中に雪美姫と山茶花姫は南国の村里に存在する農村地帯で集合する。 「雪美姫様♪」 「山茶花姫♪今夜は普段着なのね♪」 今回の山茶花姫は仕事用の正装ではなく普段着である朱色の着物姿だったのである。 「本日は私自身の自発的行動ですからね!普段の仕事とは別ですよ…」 集合した彼女達であるが…。突如として別物の気配を感じる。 「ん?」 「雪美姫様も感じられるのですか?」 「複数の妖力だわ…気配の正体は妖女ね…」 「私達以外の妖女ですか…」 複数の妖力は一歩ずつ彼女達に接近する。 「はぁ…」 山茶花姫は妖力の正体を察知したのである。 『誰かと思いきや…』 山茶花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。 「ウィプセラス…あんただったのね…」 「山茶花姫♪山茶花姫♪山茶花姫♪」 複数の妖力の正体とは人工性妖女のウィプセラスだったのである。 「ウィプセラスは居室で熟睡中だったのに…私を追尾したのね…」 『ウィプセラスらしいけど…』 自宅の居室で熟睡中だったウィプセラスであるが…。コッソリと外出した山茶花姫の背後を追尾したのである。 「山茶花姫♪山茶花姫♪山茶花姫♪」 ウィプセラスはヘラヘラした様子で山茶花姫の腹部に力一杯密着し始める。 「はぁ…」 『ウィプセラスは…』 山茶花姫は気配の正体にホッとした反面…。ウィプセラスに呆れ果てる。 「ウィプセラスって本当に甘えん坊の子供みたいね…」 ウィプセラスの様子に雪美姫は苦笑いしたのである。 「仕方ないわね…ウィプセラス…」 すると山茶花姫は恐る恐る…。 「今回は大事件の行方不明者達の調査だから大人しくしなさいね…絶対に約束出来るわよね?ウィプセラス…」 「山茶花姫♪山茶花姫♪大丈夫♪大丈夫♪約束する♪約束する♪」 彼女は満面の笑顔で返答する。 『ウィプセラス…本当に大丈夫なのかしら?正直不安だわ…』 山茶花姫は大はしゃぎし続けるウィプセラスに内心不安に感じる。 「ですが雪美姫様?大事件を解決するにも…何も情報源が無ければ行動は出来ません…如何しましょう?」 「本当よね…」 二人は苦悩したのである。 「如何するべきか?」 『こんな場合こそ…桜花姫の協力が必要不可欠なのよね…』 雪美姫は内心桜花姫が非常に有能であったかを実感する。すると直後である。 「えっ?」 「如何されましたか?雪美姫様?」 雪美姫は恐る恐る遠方を指差したのである。 「彼等は?」 自分達の現在地から数キロメートルもの長距離に位置する村道にて数人の黒服の人物達を発見する。 「雪美姫様…彼等は黒服の集団でしょうか?彼等は一体何を?」 「こんな真夜中に行動するなんて非常に不自然ね…」 『服装も異質的だわ…胡散臭そうな宗教団体っぽいのは確実かしら?』 彼等は全身をフードで覆い隠した状態であり非常に異質的だったのである。雪美姫は彼等が宗教団体の団員であると予測する。 「雪美姫様?如何します?」 「彼等の動向…気になるわね♪」 山茶花姫が恐る恐る問い掛けると雪美姫はニヤッと冷笑したのである。 「山茶花姫とウィプセラス♪彼等を追跡しましょう♪」 「えっ…大丈夫でしょうか?雪美姫様?」 山茶花姫は大丈夫なのか不安がる。 「追跡♪追跡♪面白そう♪面白そう♪」 ウィプセラスは心配性の山茶花姫とは正反対に大喜びだったのである。 「如何やらウィプセラスは大賛成みたいよ♪山茶花姫♪」 山茶花姫は恐る恐る返答する。 「ですが雪美姫様?下手に行動すると非常に面倒ですし…如何しましょうか?何一つとして証拠が無ければ彼等には手出し出来ませんし…何よりも私は雲隠れの妖術は使用出来ませんよ…」 「山茶花姫…あんたって本職が忍者なのに意外ね…」 山茶花姫は列記とした忍者妖女であるが…。隠密系統の雲隠れの妖術は使用出来ない。するとウィプセラスが全身の肉体を透明化させる。 「えっ!?ウィプセラス!?」 「如何やら彼女は雲隠れの妖術を駆使出来るのね♪好都合だわ♪」 数秒後…。ウィプセラスは雲隠れの妖術を解除する。 「大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪雲隠れ♪雲隠れ♪」 ウィプセラスは山茶花姫の左手に接触し始め…。雲隠れの妖術を駆使すると二人の姿形が透明化したのである。 「山茶花姫も姿形が透明化したわね♪」 『透明化したウィプセラスに接触すれば私自身も透明化出来るわね♪』 雪美姫も恐る恐るウィプセラスの肉体に接触し始め…。雪美姫も彼女達と同様に姿形が透明化したのである。 「全員透明化に成功したいみたいね♪今度は私が瞬間移動の妖術を発動するわね♪」 雪美姫は瞬間移動の妖術を発動…。彼女達は黒服の人物達の背後へと一瞬で移動したのである。 「瞬間移動の妖術…成功ね♪」 黒服の人物達は雪美姫の美声に反応したのか背後を直視する。 「ん!?誰だ!?えっ!?」 彼等は警戒した様子で恐る恐る背後を確認するのだが…。 「誰も…」 彼等の背後には何も存在しない。 「先程の美声は一体何だったのか?」 「女子みたいだったが…俺達の…空耳だったのか?」 すると一人の男性が身震いしたのである。 「ひょっとして女人の悪霊が出現したとか?」 「馬鹿者が!今時悪霊なんて存在するかよ♪所詮悪霊なんて子供騙しだろうに…恐らく常日頃の疲労の所為だろうぜ…先程の美声は単なる空耳だろうよ…」 「はぁ…空耳だったか…人騒がせだぜ…」 「吃驚したよ…気味悪いし本拠地に戻ろうぜ…」 「嗚呼…戻ろうか…」 彼等は再度歩き始める。すると雪美姫は苦笑いしたのである。恐る恐る小声で…。 「二人とも…御免あそばせ♪」 二人に謝罪する雪美姫に山茶花姫は小声で返答する。 「雪美姫様…私…一瞬心臓が急停止しちゃうかと…」 「御免♪御免♪今度は注意するからね♪」 山茶花姫は恐る恐る…。 「ですが彼等は…本拠地って…」 山茶花姫は先程の黒服の人物達の発言が気になる。 「如何やら彼等はとある秘密組織の構成員っぽいわね♪二人とも彼等の追尾を続行しましょう!」 彼女達は再度黒服の人物達を追跡したのである。彼等の追跡から数十分後…。村里の中心地に位置する楼閣へと到達したのである。山茶花姫は小声で…。 「楼閣みたいですね…」 「如何やら此処が奴等の本拠地みたいだわ…」 楼閣の表門には六人の黒服の集団がヒソヒソと私語する。 「今回で人柱は存分に回収出来たからな♪」 「人柱の生命力を授与すれば…今度こそ本物の姫神様が誕生しますね♪」 山茶花姫と雪美姫は姫神の一言に反応したのである。 「姫神様ですって?」 「姫神様って…一体何かしら?」 すると小柄の黒服の男性がヘラヘラした様子で…。 「今年の四月下旬の出来事らしいが…北国の奴等が姫神様の紛い物を誕生させたらしいのだが…当事者達は全員姫神様の紛い物に食い殺されたらしいぞ♪」 「姫神様の紛い物は何もかもが中途半端で知力も赤子同然だったらしいからな♪」 「姫神様の出来損ないに食い殺されるなんて傑作だぜ♪自業自得だよな♪」 「東国での大騒ぎは姫神様の紛い物が大暴れした所為だったか…」 彼等は冷笑したのである。 『姫神様の紛い物ですって?』 山茶花姫は再度反応する。彼女は恐る恐るウィプセラスを直視したのである。 『ひょっとして姫神様の紛い物って…ウィプセラスなのかしら?』 山茶花姫は姫神の紛い物の正体を人工性妖女のウィプセラスであると予想する。 「結局東国の大騒ぎで姫神様の紛い物は悪霊捕食者の月影桜花姫に退治されたらしいな…紛い物は何もかもが中途半端だった…所詮知力も神通力も赤子同然だから西国の月影桜花姫に仕留められたとしても構わんが…」 「前回誕生させたのは姫神様の紛い物だったから仕方ないよ…今度こそ俺達は本物の完全無欠の姫神様を誕生させるぞ…」 彼等は本拠地の楼閣へと進入したのである。黒服集団が楼閣へと進入した数秒後…。ウィプセラスは雲隠れの妖術を解除する。山茶花姫は雪美姫に恐る恐る…。 「雪美姫様?」 「何かしら?山茶花姫?」 「先程の彼等の内容…姫神の紛い物って…ウィプセラスでしょうか?」 山茶花姫の問い掛けに雪美姫は恐る恐る返答する。 「先程の奴等の内容から判断して…ウィプセラスが姫神の紛い物である可能性は否定出来ないわね…東国での大騒ぎとか…桜花姫が姫神の紛い物を退治したとか…」 真偽こそ不明瞭であるものの…。ウィプセラスは俗界の姫神として誕生する予定だったと推測したのである。 「断言は出来ないけれど…ウィプセラスの正体は恐らく姫神として誕生させられた人工性の妖女だったのね…」 「私♪姫神♪姫神♪姫神♪」 一方のウィプセラスはヘラヘラし始める。 「何方にせよ…奴等が胡散臭そうな宗教団体なのは確実でしょうね…」 「如何するの?山茶花姫?奴等は…徹底的に征伐しちゃう?今回の事件は人間達が相手だし…奴等を攻略するだけなら私達だけでも楽勝っぽいけれど…」 山茶花姫は雪美姫の問い掛けに一度一息したのである。 「彼等は極悪非道の悪人達みたいですが殺害は回避したいですね…出来るなら彼等は殺傷せずに拘束するべきかと…」 「極悪非道の悪人達でも殺傷しないなんて…あんたって諜報活動やら暗殺が本職なのに意外と穏健的なのね♪西国の誰かさんとは正反対だわ♪」 雪美姫は不殺生の山茶花姫を敵対者であれば徹底的に容赦しない桜花姫とは正反対であると感じる。 「何よりも彼等からは情報源を収集出来ますからね…悪人達から情報源を掌握すれば私達は東国の武士団に通報するのみです…」 「山茶花姫♪あんたは人一倍生真面目ね♪」 雪美姫は山茶花姫の様子に微笑み始める。
第八話
人身御供 同時刻…。楼閣の内部では数十人もの黒服の集団が宴会場にて集結する。宴会場の中心部にて黒服集団の教祖らしき人物が周囲の者達を見渡したのである。 「姫神教の崇高なる信者達よ!明日の早朝で本物の…完全無欠の姫神様が此処に生誕されるのだからな!」 姫神教とは桃源郷神国に存在する古代伝統宗教の一種であり姫神教の信者達は虚構の存在である姫神を信仰する過激派宗教団体…。姫神教団の一派である。 「神聖なる完全無欠の姫神様を俗界に生誕させるには…器物である肉体に六人もの女性達の心臓が必要不可欠なのだ!」 すると別室から六人もの若齢の女性が数人の信者達に連行され…。無理矢理に宴会場の中心部へと移動させられる。 「今度は姫神様の本体である器物を用意するのだ…」 数人の信者達は別室から木乃伊状態の超大型蜘蛛の残骸を運び込んだのである。 「なっ!?此奴は…」 「巨大蜘蛛の…死骸!?本物なのか!?」 周囲の信者達は宴会場の中心部に運び込まれた超大型蜘蛛の木乃伊に驚愕し始め…。一瞬畏怖したのである。 「初見の貴様達が驚愕するのも当然だろう!此奴は数年前に人間達によって仕留められた付喪神の一体…所謂小面袋蜘蛛の死骸であるからな!」 小面袋蜘蛛とは造物主として認知される妖星巨木の樹体から誕生した器物の悪霊の一体とされ…。特定の地方では能面の付喪神とも呼称される。宴会場に運び込まれたのは数年前に人間達によって退治された個体である。 「能面の付喪神の遺体に六人の人柱の心臓を授与させ!今度こそ完全無欠の姫神様を俗界に生誕させるのだ!」 教祖は護身用の懐刀を携帯する。教祖の懐刀に六人の女性は畏怖したのである。 「ひっ!」 「私達…此処で殺されるの!?」 拘束された彼女達は恐怖心により身震いし始める。すると一人の少女が教祖に泣訴したのである。 「私は…こんな場所で死にたくないよ…父ちゃんと母ちゃんに再会したいよ…」 少女の涙腺から涙が零れ落ちる。 「貴様達は神聖なる姫神様に精選された救世主なのだぞ!今現在でこそ辛苦であるが…貴様達にとっては人生最大の試練である!数十年後には天空世界で両親の霊魂とも再会出来るのだからな…今回は気の毒であるが神聖なる姫神様に貴様達の新鮮なる心臓を授与するのだ!」 教祖の発言に彼女達は絶望したのである。 「今回の儀式で貴様達の霊魂は天空世界で救済されるであろう!」 『所詮貴様等は単なる人身御供だ…精一杯恐怖するのだな♪』 教祖は心情にて彼女達の様子に冷笑する。
第九話
潜入 教祖が儀式を開始する同時刻…。山茶花姫は笑顔でウィプセラスに指示する。 「ウィプセラス♪再度雲隠れの妖術で透明化しなさい♪」 「山茶花姫♪山茶花姫♪雲隠れ♪雲隠れ♪」 ウィプセラスは大喜びした様子で雲隠れの妖術を発動…。ウィプセラスの姿形が透明化する。 「私達も…」 山茶花姫と雪美姫は透明化したウィプセラスに接触すると姿形も透明化したのである。すると雪美姫が恐る恐る…。 「姿形が透明化しただけでは楼閣には潜入出来ないわよ…如何するのよ?」 「大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪」 ウィプセラスは満面の笑顔で大丈夫と連呼する。 「大丈夫って…あんたね…」 するとウィプセラスは霊体の妖術を発動したのである。霊体の妖術とは一時的に実体としての肉体を霊化させる妖術でありあらゆる場所を透過出来る。 「えっ!?私達…」 山茶花姫は半透明化した自身の肉体に驚愕し始める。 「ウィプセラスが発動したのは霊体の妖術みたいね…」 オーバーリアクションの山茶花姫とは正反対に雪美姫は冷静だったのである。 「えっ…霊体の妖術ですって!?」 「今現在の私達は本物の幽霊みたいな存在なのよ…」 「えっ!?私達が本物の幽霊ですって!?」 山茶花姫は一時的に霊化した自身の肉体に再度驚愕…。戦慄したのである。 『山茶花姫…先程から反応が大袈裟ね…肉体が霊化したとしても一時的なのに…』 山茶花姫は反応が非常に大袈裟であり雪美姫は苦笑いする。 「山茶花姫…肉体が霊化したとしても数分間が限度だからね…時間が経過すれば元通りの生身の肉体に戻れるから安心なさい…」 「えっ?はぁ…雪美姫様…」 『私達…元通りに戻れるのね…』 山茶花姫は雪美姫の発言にホッとしたのである。 「二人とも…移動するわよ…」 彼女達は霊体の妖術で玄関の板戸を突破すると通路へと到達する。雪美姫は恐る恐る背後の山茶花姫とウィプセラスの方向を直視したのである。 「山茶花姫と…ウィプセラス…」 「えっ?何でしょうか?雪美姫様…」 雪美姫は山茶花姫とウィプセラスに指示する。 「大丈夫かも知れないけれど…今後は小声で対応するわよ…此処からは大声では喋らないでね…」 「承知です…雪美姫様…」 「私♪大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪」 山茶花姫とウィプセラスは小声で返答する。 「ですが雪美姫様?楼閣の内部は非常に物静かですね…此処からだと人気は感じられません…」 楼閣内部の通路は非常に物静かであり誰一人として人気は感じられない。 「えっ?」 『何かしら?』 十数メートルの距離より板戸が確認出来…。板戸を透過すると三人は宴会場へと到達したのである。 『奴等は…こんなにも大勢で一体何を?』 山茶花姫は周囲をキョロキョロさせる。宴会場の内部では数十人もの信者達は勿論…。宴会場の中心部には巨大蜘蛛の残骸と拘束された六人もの少女達が確認出来る。衝撃の光景に山茶花姫は口走りそうになるものの…。 「山茶花姫…」 「えっ…」 「無口よ…」 山茶花姫は一瞬口走りそうになるも雪美姫に制止される。 「失礼しました…雪美姫様…」 今現在の彼女達は雲隠れの妖術と霊体の妖術の混成で本物の幽霊同然である。誰一人として彼女達の姿形は確認出来ず…。幽霊状態の彼女達の気配も察知出来ない。山茶花姫は恐る恐る小声で発言する。 「宴会場の中心部に…規格外の巨大蜘蛛の死骸でしょうか?」 雪美姫は小声で発言し始める。 「恐らく数年前に退治された小面袋蜘蛛の死骸みたいね…」 「小面袋蜘蛛とは器物の悪霊でしたね…」 「別名…能面の付喪神だったかしら?恐らく彼等は小面袋蜘蛛の死骸と人間の少女達を利用した禁断の儀式を開始するみたいだわ…」 「禁断の儀式ですって?」 『禁断の儀式って…彼等は一体何を開始するのかしら?』 山茶花姫と雪美姫は彼等の動向を注意深く警戒する。すると中心部の教祖が護身用の懐刀を携帯したのである。 「か弱き女子達よ…貴様達は神聖なる姫神様の生誕として生身の心臓を授与するのだ!貴様達の犠牲によって経世済民の世の中が実現するのだぞ!」 教祖は懐刀を一人の少女に近付ける。 「ひっ!」 少女は恐怖心により落涙したのである。 「手始めに其方からだ…覚悟するのだぞ!」 教祖が少女を斬殺する直前…。山茶花姫は大声で制止したのである。 「絶対に駄目よ!」 山茶花姫の大声により一時的に室内全体が静止する。 「ん!?先程の大声は…一体誰だ!?」 同時にウィプセラスの妖術が解除され…。三人の姿形が実体化したのである。 「なっ!?貴様達は一体何者だ!?突然出現するとは…妖怪なのか!?」 「貴様達は女子に変化した物の怪なのか!?」 「女子の侵入者だぞ!三人とも捕獲しろ!」 突然の彼女達の出現に周囲の信者達は勿論…。 「えっ…彼女達は?」 「彼女達は一体何者なのかしら?突然出現するなんて…」 人柱の少女達も突如として出現し始めた彼女達に驚愕したのである。山茶花姫は険悪化した表情で教祖を睥睨する。 「あんた達…無抵抗の女の子達に手出しするなんて最低ね!」 山茶花姫の発言に教祖は腹立たしくなったのか怒号したのである。 「貴様達は極悪非道の妖女だな!神聖なる姫神様の神聖なる儀式を妨害するとは…言語道断だ!」 山茶花姫は怒号する教祖に呆れ果てたものの…。 「何が神聖なる儀式よ!あんた達の行為は単なる人殺しでしょうが!」 山茶花姫は教祖の発言に反論したのである。 「なっ!?私達の神聖なる儀式が単なる人殺しだと?」 『所詮無神論者の分際で…小娘風情が!』 教祖は山茶花姫の反論に腹立たしくなる。 「全知全能なる姫神様を信仰する私達が…単なる人殺しであると!?非常に滑稽であり…非常に不愉快だな…」 教祖は背後の少女達を直視し始める。 「彼女達六人の犠牲だけで俗界に存在する数百万人…数千万人もの人間達が神聖なる姫神様の神通力によって救済されるのだぞ!神聖なる姫神様の生誕こそが新世界の真理!無論全知全能の超越的存在であり…温厚篤実の姫神様にとって無神論者である貴様達でさえも救済の対象者なのだ!死にたくなければ…即刻帰宅するのだな!無神論者の貴様達とてこんな場所では死にたくないのだろう?」 すると雪美姫が満面の笑顔で返答する。 「帰宅するなら狂信者のあんた達を徹底的に拘束してから帰宅するわね♪何が全知全能の姫神様よ♪所詮姫神なんて虚構の存在でしょうに…」 雪美姫は姫神が虚構の存在であると揶揄したのである。 「貴様等…」 『神聖なる姫神様が…虚構の存在であると!?無神論者の分際で神聖なる姫神様を愚弄するとは命知らずの愚か者達だな!』 姫神の存在を全否定された教祖は周囲の信者達に指示し始める。 「姫神教の崇高なる信者達よ!神聖なる姫神様の存在を侮辱する三人の無神論者達を徹底的に殺害するのだ!物の怪である彼女達を処刑せよ!」 「はっ!承知しました!教祖様!」 「神聖なる姫神様を愚弄する無神論者達は許容出来ません!」 教祖の指示に信者達は拳銃やら懐刀を装備したのである。信者達の様子に雪美姫はワクワクし始める。 「山茶花姫♪ウィプセラス♪如何やら奴等は本気みたいよ♪如何する?」 「止むを得ませんね…雪美姫様…ウィプセラス…」 山茶花姫は着物に隠し持った鎖鎌を装備したのである。 「朱色の着物姿の妖女は女性忍者だったか!」 「相手は多勢に無勢だ…三人の妖女を殺害しろ!」 信者達は彼女達に殺到するものの…。 「人間のあんた達が私達に手出しするなんて無謀ね♪」 雪美姫は凍結の妖術を発動する。 「なっ!?俺達の両足が!?」 雪美姫の凍結の妖術により前方の信者達の両足が凍結化したのである。 「凍結だと!?」 「妖術なのか!?身動き出来ないぞ!」 雪美姫は満面の笑顔で警告する。 「あんた達♪無理矢理に身動きすれば両足が切断しちゃうかも知れないわよ♪両足が凍結した状態だからね♪」 雪美姫の警告に信者達は畏怖したのである。 「ひっ!」 「両足が…切断だって!?」 氷結の妖術により彼等は下手に身動き出来なくなる。一方山茶花姫はウィプセラスに指示する。 「ウィプセラス!妖術は許可するけど…彼等は殺さない程度に手加減するのよ!」 「大丈夫♪大丈夫♪山茶花姫♪山茶花姫♪私♪人間♪殺さない♪殺さない♪殺さない♪」 ウィプセラスは山茶花姫の指示にヘラヘラした表情で理解…。承諾する。 「死滅しやがれ!妖女の無神論者達!」 連発銃を装備した数人の信者達がウィプセラスと山茶花姫に発砲したのである。ウィプセラスは即座に両腕から無数の触手を生成し始め…。触手の表面を硬化させると肉塊の鉄壁を形成したのである。ウィプセラスの肉塊の鉄壁は非常に頑丈であり連発銃の銃弾が無力化される。 「銃弾を無力化するなんて…」 「紫色の着物の妖女…女体の怪物なのか!?」 すると直後である。 「ん?」 「えっ…」 突如として信者達の肉体から赤子らしき肉塊が発生したかと思いきや…。 「うわっ!此奴は赤子だ!?」 「なっ!?此奴は一体!?」 「此奴は…赤子の妖怪なのか!?」 突如として発生した赤子らしき肉塊は一瞬で全裸の女体へと急成長したのである。 「えっ!?今度は女体だと!?」 女体はウィプセラスに瓜二つの成人女性へと爆発的に急成長する。ウィプセラスに瓜二つの女体の大群は周囲の各信者達に力一杯密着…。密着された信者達は必死に抵抗するのだが彼女達の力量は人外だったのである。 「あんた♪大好き♪大好き♪大好き♪」 彼女達はヘラヘラした表情であり非常に力強く人間の成人男性をも上回る。 「えっ…精気が…」 「体力が…」 信者達はウィプセラスと瓜二つの彼女達に精気を吸収されたのである。 「はぁ…正直…天国みたいだな♪」 「此奴は♪女体の…天国なのかな?」 一部の信者は女体に悩殺され大喜びの様子であるが…。彼等は精気を吸収された影響でバタッと床面に横たわり始める。 「えっ…」 『ウィプセラス…』 「芸術的光景ね…」 『別の意味で壮絶過ぎるわ…』 前代未聞の光景に山茶花姫と雪美姫は勿論…。 「彼女達…妖怪なの?」 「気味悪いね…」 拘束された六人の村娘もウィプセラスによる分裂女体の異様の光景にはドン引きしたのである。 「ウィプセラスは胞子の妖術を発動して…無数の分裂女体を誕生させたのね…」 「分裂女体?胞子の妖術って何ですか?」 雪美姫が再度解説する。 「胞子の妖術はね…」 胞子の妖術とは人工性妖女ウィプセラス特有の特殊能力であり異類系統の妖術である。全身から極小サイズの肉塊を胞子状態で大量発生…。相手の肉体に固着させ彼女の分身体である分裂女体を無数に誕生させる特異的妖術である。母体であるウィプセラスの肉体から発生した極小サイズの肉塊は通常の肉眼では認識出来ない。極小サイズの肉塊は大気中の酸素を吸収すると数分間で赤子状態に形成され…。数秒間で等身大の成人女性の状態へと爆発的に急成長させる。彼女の肉体に接触した対象者は急速に体内の精気を吸収され…。最終的には衰弱死する。 「胞子の妖術はウィプセラスらしい禁断の妖術ですが…異様の光景ですね…」 「前代未聞の妖術だからね…」 山茶花姫と雪美姫は全裸の状態で床面に横たわる信者達に密着し続けた無数の分裂女体に苦笑いしたのである。ウィプセラスは胞子の妖術を強制的に解除…。無数の分裂女体は白煙に覆い包まれる。信者達を衰弱死させる寸前にポンッと消滅したのである。衰弱化した信者達の様子に教祖は勿論…。拘束された村娘達は愕然としたのである。 「一体何が…荒唐無稽過ぎる…」 『如何してこんな展開に!?』 教祖は彼女達の妖術に絶望したのか目的は達成出来ないと判断…。 「畜生が!」 『一か八か此処から脱出しなくては!』 教祖は一目散に宴会場から逃走を開始する。 「山茶花姫!教祖が逃げちゃうわ!」 「一寸あんた!絶対に逃がさないわよ!」 山茶花姫は逃走中の教祖に鎖鎌を投擲…。 「ぐっ!畜生が!」 間一髪逃走中の教祖を拘束したのである。三人の妖女は拘束により身動き出来なくなった教祖に近寄る。 「あんたね!好い加減観念しなさい…」 すると雪美姫は満面の笑顔で…。 「残念だったわね♪姫神教の教祖様♪私達の介入であんたが信仰する完全無欠の姫神様は未来永劫誕生出来なくなったのよ♪所詮姫神なんて虚構の夢物語だったわね♪」 「畜生が!こんな小娘の無神論者達に…姫神様の誕生が阻止されるなんて!」 「無神論者って鬱陶しいからあんたは沈黙しなさい…」 雪美姫は睡眠の妖術で教祖を一時的に睡眠させる。一方の山茶花姫は拘束された村娘達に近寄り始め…。 「あんた達♪大丈夫だからね♪」 「感謝します…」 「私達…本当に殺されちゃうかと…」 「私達は…村里に戻れるのね…」 彼女達は余程恐怖したのか涙腺から涙が零れ落ちる。 「大丈夫よ…あんた達は大丈夫だからね…」 すると一人の少女が恐る恐る…。 「ひょっとして貴方達は本物の妖女ですか?」 「私達は正真正銘…人外の妖女よ♪」 問い掛けられた山茶花姫は笑顔で返答したのである。 「正真正銘妖女でしたか♪私♪本物の妖女と遭遇したかったのです♪」 少女は彼女達との遭遇に大喜びする。一方の雪美姫は満面の笑顔で…。 「あんた達♪今回遭遇した妖女が私達みたいな女神様で幸運だったわね♪世の中には妖女は妖女でも…月影桜花姫って人一倍強欲で鬼神みたいな無慈悲の女狐も存在するから用心するのよ♪彼女は本物の猛者だから気に入らなければあんた達みたいな気弱そうな小娘なんて簡単に食い殺されるでしょうね♪」 「えっ…」 『雪美姫様…』 山茶花姫は雪美姫の本音に苦笑いする。 『桜花姫様を鬼神の女狐って…桜花姫様に知られたら…』 すると直後である。突如として天上から金属製の洗面器が落下し始め…。洗面器は雪美姫の頭頂部に直撃したのである。 「ぎゃっ!」 洗面器の直撃と同時に雪美姫は床面に横たわる。 「えっ!?」 『如何して雪美姫様の頭上に突然洗面器が!?天道の悪ふざけなのかしら?』 山茶花姫は恐る恐る天井を直視したのである。 『ひょっとすると月影桜花姫様の天罰なのかしら?』 山茶花姫はクスッと微笑する。一方の雪美姫は頭頂部を弄ったのである。 「桜花姫…」 『彼女は地獄耳なのかしら?本当に油断出来ないわね…』 山茶花姫は床面に横たわった状態の雪美姫に恐る恐る近寄る。 「雪美姫様?大丈夫ですか?」 「はぁ…」 『口は禍の元だわ…やっぱり桜花姫は油断出来ないわね…』 桜花姫は想像以上の地獄耳であり油断大敵であると実感する。 「貴方達…楼閣から脱出しましょう…」 「承知しました…」 山茶花姫の指示に六人の村娘達は恐る恐る姫神教団の楼閣から脱出したのである。姫神教団によって拘束された村娘達は三人の妖女の大活躍によって無事に保護され…。各自村里へと戻ったのである。今回の行方不明事件は姫神教団による拉致事件であり姫神教の教祖を中心に…。数十人もの信者達は全員武士団に逮捕されたのである。
第十話
事件後 姫神教団による拉致事件から三日後の真昼…。山茶花姫とウィプセラスは気分転換に八正道の寺院へと訪問する。 「山茶花姫様とウィプセラス♪本日は如何されましたか?」 「暇潰しですかね…」 山茶花姫は苦笑いしたのである。 「折角の機会ですし♪茶会でも如何でしょうか♪」 八正道は山茶花姫とウィプセラスの訪問に大喜びする。即座に彼女達を応接間へと案内したのである。 「全体的に異国風の洋室みたいですね…」 山茶花姫は洋式風の応接間に驚愕する。 「二年前に応接間を異国風に大改装したのですよ♪何しろ私は異国の異文化が大好きですからね♪」 「意外ですね♪八正道様♪」 「折角私の寺院に訪問されたのです…二人には菓子類を用意しなくては…」 八正道は即座に洋菓子であるカステラケーキと紅茶をテーブルに配置したのである。 「洋菓子のカステラケーキです♪如何でしょうか?」 「えっ!?カステラケーキですか!?」 山茶花姫は洋菓子であるカステラケーキに再度驚愕する。 「山茶花姫様は大袈裟ですな…別に吃驚されなくても♪」 「吃驚しますよ!こんな貴重品を私達なんかに…頂戴出来ません!」 山茶花姫は遠慮したのである。 「山茶花姫様♪遠慮されずとも大丈夫ですよ♪」 すると八正道は小声で…。 「私にはとある異国の友人が存在しますからね♪彼から無料で頂戴したのですから♪」 「えっ?」 『とある異国の友人ですって!?八正道様って一体何者なの!?』 とある異国の友人が存在する八正道を摩訶不思議の人物と感じる。すると八正道は再度小声で…。 「今回ばかりは特別ですからね♪無論甘党の桜花姫様には秘密ですよ♪」 「えっ…」 『桜花姫様には…秘密ですって?』 山茶花姫は困惑したのである。 「今回は私からの大サービスです♪何しろ貴方達は三日前の行方不明事件で連行された六人もの女性達を無事に救出されたのですからね♪何よりも姫神教団による行方不明事件が無事に解決出来たみたいなので私自身ホッとしましたよ…」 山茶花姫は八正道の発言に赤面するものの…。 「今回の大事件は私一人では解決出来ませんでした…」 山茶花姫は恐る恐る隣席のウィプセラスを直視したのである。 「今回の行方不明事件はウィプセラスと…粉雪妖女の雪美姫様の協力で解決出来たのですから♪」 山茶花姫は満面の笑顔で主張する。 「ウィプセラスですか…」 『彼女も今回の事件解決に貢献したのですね♪』 八正道はウィプセラスの表情を直視したのである。 『ウィプセラス…遭遇した当初は極悪非道の敵対者でしたが…本来の彼女は純粋無垢の子供なのでしょうね♪』 八正道は多少大人しくなったウィプセラスの変化に微笑み始める。
第十一話
邂逅 過激派の新興宗教団体…。姫神教団による六人の村娘の拉致事件から六日間が経過する。同日の真夜中に彼女達は山中の夜道を散歩したのである。 「私♪山茶花姫と散歩♪散歩♪散歩♪散歩♪山茶花姫♪」 ウィプセラスは山茶花姫との散歩に大喜び…。満面の笑顔で散歩する。 「ウィプセラスは一晩中満面の笑顔ね…」 山茶花姫は笑顔のウィプセラスに苦笑いする一方…。 『ウィプセラスは悩み事が何一つとして無さそうだわ…』 悩み事の無さそうなウィプセラスに羨望したのである。 『私も彼女みたいに常日頃から満面の笑顔で散歩したいわ…』 すると二人で真夜中の山道を散歩中…。 「えっ?」 道中より煌びやかな藍色の着物姿の女性と遭遇する。 『こんな真夜中の山道で女性が一人で…一体何者なの?花魁の女性かしら?』 一瞬妖艶の女性を不審に感じるのだが…。 『彼女は…失礼だけど人外っぽいわね…ひょっとすると彼女の正体も私達と同様に妖女なのかしら?』 女性は摩訶不思議にも神秘的雰囲気であり人外であるのは一目瞭然である。反面…。彼女からは妖女特有の妖力らしい妖力は何一つとして感じられない。 『彼女からは妖力も感じられないし…一体何者なの?』 山茶花姫は女性の正体が気になり彼是と思考し始める。彼女達が摩訶不思議の女性と擦れ違った直後…。女性は二人を注視し始める。 「人外の妖力を感じられるな…二人とも純血の妖女だな…」 山茶花姫は女性の突然の発言にビクッと反応したのである。 「ひゃっ!」 一方のウィプセラスはヘラヘラした様子で花魁の女性に反応する。 「私♪妖女♪妖女♪妖女♪」 ウィプセラスの様子に女性は微笑したのである。 「紫色の着物の妖女は随分と個性的だな…外見とは裏腹に精神力は赤子なのか?」 「彼女の名前はウィプセラス…私の子供みたいな存在です…」 山茶花姫はウィプセラスを自身の子供みたいな存在であると発言する。 「彼女は其方の子供みたいな存在なのか?随分と元気そうで肉体的には大人びた子供みたいだな…」 「えっ?はぁ…彼女は姿形だけなら成人女性でしょうかね…」 『ウィプセラスって子供の体格としては私よりも大柄なのよね…』 山茶花姫は女性の発言に苦笑いしたのである。 「私♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪妖女♪妖女♪妖女♪」 「ウィプセラスとやら…愉快そうで何よりだ…」 一方の女性もウィプセラスの様子に苦笑いする。すると山茶花姫は恐る恐る女性に問い掛ける。 「貴女様は一体何者でしょうか?初対面の私達を一目で妖女だと察知出来る洞察力…非常に失礼かも知れませんが…貴女様は人外なのは確実ですね…」 山茶花姫の問い掛けに女性は自身の名前を名乗り始める。 「私の名前は天狐如夜叉…神族の一人だぞ…」 花魁の正体とは誰であろう神族の天狐如夜叉…。彼女だったのである。 「えっ?」 『神族って…』 一方の山茶花姫は天狐如夜叉の神族の一言に驚愕する。 「えっ!?貴女様は神族の一人ですって!?」 「其方も其処等の者達と同様の反応だな…」 天狐如夜叉は驚愕し始める山茶花姫に苦笑いしたのである。 「其方は反応が随分と大袈裟であるな…私が神族である事実が吃驚する程度の内容なのか?」 天狐如夜叉は大袈裟であると感じる。 「当然吃驚しますよ!神族って大昔の伝承では絶滅したらしいですし…こんな場所で神族の女性と遭遇出来るなんて!」 怪力乱神の神族は大昔に人間達との大戦争で敗北…。絶滅したとの見方が世間一般では通説とされる。 「如何やら今現在では間違った伝承が各地に出回ったらしいな…」 天狐如夜叉は太古の古代文明時代の伝承を山茶花姫とウィプセラスに解説したのである。山茶花姫は興味深そうな様子で傾聴し続けるのだが…。一方のウィプセラスは内容が理解出来ず珍紛漢紛だったのである。彼女は退屈そうな様子で彼方此方をキョロキョロし始める。天狐如夜叉の解説から数分後…。 「天狐如夜叉様が俗界で唯一の神族なのですね…」 「以前は私にとって唯一の悪友…蛇体如夜叉と名乗る蛇神の神族が俗界に存在したのだが…彼女は今年の四月下旬に老衰で逝去したらしいな…」 「蛇体如夜叉様は老衰でしたか…」 山茶花姫は一瞬沈黙するものの…。 「私の名前は忍者妖女の山茶花姫です!本職は忍者ですよ♪」 「其方は純血の妖女であり忍者の一人だったとは…外見的に山猫妖女の小猫姫とは同年代っぽいな…」 「えっ?山猫妖女の…小猫姫ですって?」 『小猫姫…小猫姫…』 小猫姫の一言に彼女の表情が一瞬で変化したのである。 「えっ?山茶花姫?山茶花姫?山茶花姫?」 普段は満面の笑顔のウィプセラスも表情が変化した山茶花姫を恐る恐る直視し始め…。沈黙したのである。 「山茶花姫とやら?大丈夫なのか?」 山茶花姫は天狐如夜叉の問い掛けに無表情で…。 「失礼しました…天狐如夜叉様…気になさらないで…私なら大丈夫ですよ…」 山茶花姫は非常に殺気立った形相であり天狐如夜叉とウィプセラスは一瞬ゾッとしたのである。 『忍者妖女の山茶花姫とやら…ひょっとして山猫妖女の小猫姫との関係性は犬猿の仲なのか?』 山茶花姫の様子から小猫姫は禁句用語であると察知する。 『如何やら彼女にとって小猫姫の名前は禁句っぽいな…』 すると山茶花姫は天狐如夜叉に問い掛ける。 「天狐如夜叉様はこんな場所で一体何を?」 「私はとある妖女を捜索中なのだよ…」 「とある妖女ですか?一体誰なのでしょうか?とある妖女って?」 天狐如夜叉は恐る恐る…。 「最上級妖女の…月影桜花姫だよ…」 「えっ!?月影桜花姫様ですって!?」 山茶花姫は大袈裟に反応する。 『山茶花姫とやら…先程から反応が大袈裟だな…』 天狐如夜叉は先程からの山茶花姫の反応に苦笑いしたのである。 「天狐如夜叉様は最上級妖女の桜花姫様に用事ですか!?」 「桜花姫に急用なのだ…最上級妖女の彼女であれば今回の一大事は容易に対処出来そうなのだが…」 山茶花姫は天狐如夜叉の急用の一言に再度問い掛ける。 「桜花姫様に急用ですって!?対処って…天狐如夜叉様は一体何を対処されるのでしょうか!?」 天狐如夜叉は山茶花姫の反応に内心苛立ったのである。 『此奴は…先程から反応が鬱陶しいな…正直山茶花姫は非常に面倒臭い性格なのかも知れないな…』 天狐如夜叉は過剰に干渉する山茶花姫に内心ドン引きするものの…。 「山茶花姫とやら…仕方ないな…」 天狐如夜叉は一息したのである。 「私自身の予知夢であるが…地上世界は勿論…全世界が滅亡する光景を予知夢で直視したのだ…」 天道天眼の効力を消失した天狐如夜叉であるが…。彼女は予知夢により近未来世界で発生する出来事を事前に察知出来る特異能力だけは健在だったのである。 「えっ!?全世界が滅亡ですって!?予知夢ですよね!?一体何が原因で全世界が滅亡するのですか!?」 「山茶花姫とやら…」 『此奴は余程の神経質なのか?やっぱり面倒臭い性格だな…』 天狐如夜叉は山茶花姫のオーバーリアクションには内心呆れ果てる。 「全世界滅亡の主原因は巨大隕石の落下だろう…」 「巨大隕石の…落下ですか?」 「推定二里規模の巨大隕石が地上世界に落下する予知夢だ…」 所謂八キロメートル規模の巨大隕石が地上世界に落下…。全世界各地が焦土化する内容の予知夢だったのである。天狐如夜叉の予知夢の内容に山茶花姫は驚愕し始め…。 「巨大隕石の落下で全世界が滅亡ですって!?」 極度の精神的ショックからか山茶花姫はバタッと気絶したのである。 「はぁ…」 『全世界の滅亡…私達は…こんな場所で死滅するのね…私…長生きしたかったのに…如何して…』 山茶花姫は無気力化した表情であり地面に横たわる。 「山茶花姫とやら!?大丈夫か!?」 「山茶花姫!?山茶花姫!?山茶花姫!?山茶花姫!?大丈夫!?大丈夫!?大丈夫!?大丈夫!?」 突如としてバタッと卒倒した山茶花姫に天狐如夜叉は勿論…。ウィプセラスも動揺したのである。 『如何やら山茶花姫は私の予知夢の内容で精神的に参ったのであろうな…』 するとウィプセラスは必死の表情で天狐如夜叉に問い掛ける。 「天狐如夜叉!?天狐如夜叉!?山茶花姫!?山茶花姫!?山茶花姫!?大丈夫!?大丈夫!?大丈夫!?」 ウィプセラスは突然の山茶花姫の卒倒によりパニック状態だったのである。 「ウィプセラスとやら…其方が心配せずとも彼女は大丈夫だ…一時的に気絶しただけだから肉体的には大丈夫だからな…其方は安心するのだぞ…」 ウィプセラスは山茶花姫の状態にホッとする。 「山茶花姫♪山茶花姫♪山茶花姫♪大丈夫♪大丈夫♪」 彼女に満面の笑顔が戻ったのである。
第十二話
天空山 山茶花姫が気絶してより一時間後…。 「えっ…」 『私は…一体?』 とある故山の頂上にて山茶花姫は目覚める。 「如何やら目覚めたみたいだな…山茶花姫とやら…」 「えっ?貴女様は天狐如夜叉様でしたっけ?私は一体何を?」 ウィプセラスは目覚めた山茶花姫に力一杯密着し始め…。 「山茶花姫♪山茶花姫♪山茶花姫♪」 彼女は山茶花姫の復活に大喜びしたのである。 「ウィプセラス?随分大喜びの様子だけど…如何しちゃったのよ?」 「忍者妖女の山茶花姫よ…其方は本当に人騒がせな妖女だな…心配したぞ…」 「えっ…私が人騒がせって?」 『私は此処で何が?』 彼女は意識が完全に戻ったのかハッとする。 「えっ!?私は…此処で気絶しちゃったのね…」 「正気に戻ったみたいだな…山茶花姫よ…」 山茶花姫の様子に天狐如夜叉もホッとしたのである。 「御免なさいね…天狐如夜叉様…私は吃驚し過ぎて…」 すると彼女は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。 「先程の天狐如夜叉様の予知夢ですが…巨大隕石が地上世界に落下するのは一体何時なのでしょうか?」 問い掛けられた天狐如夜叉は一息し始める。 「正確には…恐らく明日の早朝だろうな…」 「えっ…明日の…早朝ですか?」 『明日の早朝に…全世界が滅亡…』 山茶花姫は天狐如夜叉の返答に絶望したのか全身が膠着化したのである。 「安心しろ…最上級妖女の月影桜花姫であれば巨大隕石の落下を容易に阻止出来るだろう…彼女の千人力の妖力であれば片手間で片付くだろうよ…実際に彼女は天空魔獣の羅刹大皇帝にも勝利したのだからな…」 今現在の桜花姫の妖力は未知数であり地上世界で彼女に拮抗する妖女は存在しない。 「月影桜花姫様ですか♪桜花姫様は最強ですからね♪」 世界の滅亡に絶望した山茶花姫であるが…。桜花姫の名前の影響からか途端に希望が芽生える。 「桜花姫…今回の一大事こそ彼女の存在が必要不可欠なのだ…」 「月影桜花姫様ですね♪早速最上級妖女の桜花姫様に巨大隕石落下の情報を報告しないと!」 山茶花姫が移動を開始する直前…。 「残念だが…月影桜花姫は俗界には存在しないみたいだ…」 「えっ…月影桜花姫様が俗界には存在しないって?」 山茶花姫は天狐如夜叉の一言に一瞬ゾッとしたのである。 「俗界では桜花姫らしき彼女特有の妖力が何一つとして感じられないのだ…」 「えっ?如何して桜花姫様の妖力が感じられないのですか?」 「彼奴は恐らく…死後の世界に…」 山茶花姫は天狐如夜叉の死後の世界の一言に驚愕する。 「死後の世界って…えっ!?桜花姫様は亡くなられたのですか!?桜花姫様が亡くなられたのであれば…誰が巨大隕石を!?」 山茶花姫はソワソワしたのである。 「はぁ…」 『山茶花姫は本当に大袈裟だな…』 天狐如夜叉は先程から過剰に反応する山茶花姫に内心鬱陶しいとさえ感じる。 「安心しろ…桜花姫は恐らく自由自在に死後の世界を行き来出来るのだ…今頃は地獄の世界で大暴れだろうよ…」 「えっ?」 『桜花姫様は…死後の世界を自由自在に行き来出来る?』 山茶花姫は理解出来なかったのかポカンとしたのである。 「御免なさい…私には何が何やらサッパリです…死後の世界を行き来出来るって何ですか?」 「其方は理解出来なくて当然なのだ…桜花姫は存在自体が異質的であるからな…本当の意味で彼女を理解出来るのは彼女に拮抗し得る極悪非道の異端者だけだ…彼奴を理解出来ない山茶花姫は正常だから安心しろ…」 「えっ?」 『私が…正常ですって?』 山茶花姫は内容が理解出来ず再度ポカンとする。 「ですが如何すれば巨大隕石の落下を阻止出来るのですか?最上級妖女の桜花姫様が俗界に存在されないのであれば全世界が…」 「生憎今現在の私には神族の眼光…天道天眼を発動出来ないからな…」 天狐如夜叉は天空魔獣羅刹大皇帝との大激戦で桜花姫に天道天眼を授与して以降…。強大なる神力を発動出来なくなったのである。 「ん?彼女は…」 「えっ…如何されましたか?天狐如夜叉様?」 天狐如夜叉は先程からヘラヘラし続けるウィプセラスを直視し始め…。 『先程から気になったのだが…ウィプセラス…彼女の妖力は絶大なる妖力だな…』 天狐如夜叉はウィプセラスの妖力に驚愕したのである。 「ウィプセラスの妖力…彼女は最上級妖女の桜花姫に匹敵するな…」 「えっ…ウィプセラスの妖力が…桜花姫様の妖力に匹敵ですって?」 天狐如夜叉は恐る恐るウィプセラスに近寄る。 「精神力と知力こそ赤子同然であるが…ウィプセラスは妖力だけなら最上級妖女の桜花姫に匹敵するぞ…」 山茶花姫もウィプセラスに注目したのである。 『ウィプセラスは所謂妖女の集合体みたいだし…妖力だけなら其処等の妖女よりは強力なのよね…』 ウィプセラスは生前に五人の妖女を捕食した影響からか妖力は非常に絶大であり最上級妖女の桜花姫にも拮抗する。 「山茶花姫よ…其方とウィプセラス…二人で協力すれば巨大隕石の落下を阻止出来るかも知れないぞ!」 天狐如夜叉は山茶花姫とウィプセラスに期待したのである。 「えっ…巨大隕石を…私達が?」 『私とウィプセラスが協力すれば…巨大隕石落下を阻止出来るのかしら?』 するとウィプセラスは満面の笑顔で…。 「私♪山茶花姫と協力♪協力♪協力♪協力♪」 彼女は大喜びしたのである。 「ですが天狐如夜叉様?ウィプセラスの妖力は強力かも知れませんが…私自身の妖力は非常に微弱ですよ…実戦用の武器が無ければ人間の女性と同然ですし…」 山茶花姫は基本的に実戦用の武術による戦法が得意である反面…。武術を行使しない妖術による戦法は滅法不得意である。彼女自身の妖力は非常に貧弱であり妖女としては下級妖女の部類に位置する。 「其方自身の妖力が微弱でも山茶花姫には相応しい武器が存在するぞ…桃源郷神国には其方の妖力を最大限に発揮出来る武器が存在するのだ♪」 「私の妖力を最大限に発揮出来る武器ですか?」 『私の妖力を最大限に発揮出来る武器ですって…一体何かしら?』 山茶花姫は武器の存在が気になるのかソワソワし始める。 「山茶花姫よ…早速目的地に案内するぞ…」 天狐如夜叉は彼女達に武器の場所を案内したのである。
第十三話
退魔霊剣 三人が移動を開始してより一時間後…。 「二人とも…此処が目的地だぞ…」 彼女達は武器の存在する特定の場所へと到達する。 「えっ?寺院ですか?此処って八正道様の寺院ですよね?此処に武器が?」 武器が存在する場所とは八正道の寺院だったのである。 「八正道の寺院には史上最強の武器が存在するのだ…」 「八正道様の寺院に史上最強の武器が存在するのですか?」 すると天狐如夜叉は玄関の板戸をノックする。 「ん?こんな真夜中に誰でしょうか?」 八正道は恐る恐る板戸を開放させる。 「誰かと思いきや…神族の天狐如夜叉様と山茶花姫様…ウィプセラスも…こんな真夜中の時間帯に一体全体何事でしょうか?」 突然の真夜中の来客に八正道は吃驚したのである。 「ひょっとして今度も…大事件でも発生したのでしょうか?」 八正道は恐る恐る彼女に問い掛ける。一方の天狐如夜叉は恐る恐る…。 「八正道よ…突然で悪いのだが…」 天狐如夜叉は八正道に事情を一部始終説明したのである。 「えっ!?全世界が滅亡する予知夢を!?天空世界から巨大隕石が地上世界に落下するのですか?」 「八正道の宝物である退魔霊剣を…忍者妖女の山茶花姫に貸与出来ないか?今回の一大事を阻止するには八正道の退魔霊剣が必要不可欠なのだ…生憎最上級妖女の月影桜花姫も不在だからな…」 「えっ…桜花姫様も不在なんて…」 突然の非常事態に困惑した八正道であるが…。 「仕方ないですな♪今回ばかりは全世界が滅亡するかも知れない一大事ですからね…全世界の救済であるなら止むを得ないでしょう♪」 八正道は山茶花姫に退魔霊剣の貸与を許可したのである。 「感謝します♪八正道様♪」 数分後…。八正道は山茶花姫に退魔霊剣を手渡したのである。山茶花姫は両目をキラキラさせた表情で…。 「伝説の退魔霊剣ですか♪」 『戦乱時代の偉人…東国の軍神として知られる…夜桜崇徳王様が所有された伝説の名刀でしたね♪』 山茶花姫は退魔霊剣の白刃に感動する。 「本来退魔霊剣は最高神が創造した神器の一部なのだ…人間の上位互換である人外の妖女が所持すれば本来の何十倍もの力量を発揮出来るであろう!」 「えっ…」 『退魔霊剣は最高神が所持した神器だったなんて…』 八正道は退魔霊剣の正体に驚愕したのである。 「正確には天空魔獣…羅刹大皇帝の皮膚の一部から形作られた代物であるが…」 「退魔霊剣の正体が…以前桜花姫様が退治された羅刹大皇帝の皮膚の一部だったとは驚愕ですね…」 天道金剛石は羅刹大皇帝の硬質細胞の一部とされ…。最高神の神器である退魔霊剣は羅刹大皇帝の肉体から彫刻された宝刀だったのである。 「無論妖女でも武術の熟練者に限定されるだろうが…退魔霊剣の使用は人一倍武術の熟練者である山茶花姫が随一の適任者であろうな…」 すると山茶花姫は恐る恐る八正道に一礼する。 「八正道様…無事に巨大隕石から全世界を守護出来たら…八正道様の退魔霊剣を返却しますので…今回ばかりは…」 「大丈夫ですよ♪山茶花姫様♪私は貴女様の健闘を見届けますからね♪」 八正道は満面の笑顔で返答したのである。 「八正道様♪」 「であれば山茶花姫とウィプセラス…早速巨大隕石の落下地点へと移動するぞ!私が案内するからな…」 天狐如夜叉は再度二人を案内する。移動してより数十分後…。彼女達は巨大隕石の落下地点らしき場所へと到達したのである。 「此処は天空山ですか?」 隕石の落下地点とは東国の最高峰…。天空山の頂上だったのである。 「絶景の景色ですね…天空山の頂上から国全体が眺望出来るなんて…」 天空山は観光地として有名であり大勢の登山者達が最高峰の天空山で観光する。 「巨大隕石が落下するのは恐らく明日の早朝だ…山茶花姫…ウィプセラス…二人とも覚悟出来たか?」 「明日の…早朝ですか?」 『明日の早朝に巨大隕石が地上世界に落下するのね…』 山茶花姫は極度の緊張感からか途端に身震いしたのである。
第十四話
救世主 山茶花姫一行が桃源郷神国最高峰の天空山に到達した同時刻…。最上級妖女の桜花姫は口寄せの妖術により死後の世界である地獄の世界から俗界へと無事戻ったのである。 『今回も面白かったわね♪地獄の悪霊征伐♪』 桜花姫は極度の退屈さから地獄の世界での悪霊征伐が日常化し始める。 『今度も退屈凌ぎに地獄の世界で大暴れしちゃおうかしら♪』 悪霊征伐に疲労した桜花姫は自宅の居室でゴロゴロと寝転んだのである。 『睡眠♪睡眠♪』 彼女は仰向けで寝転ぶのだが…。 「何かしら?」 異様の空気に桜花姫はソワソワし始める。 『室内の空気が重苦しいわね…』 すると直後である。 「えっ!?」 突如として居間に設置された神棚の神鏡がバリッと罅割れる。 「吃驚しちゃったわ…」 『神棚の神鏡が罅割れるなんて…』 桜花姫は突如として罅割れた神鏡に気味悪くなる。 『気味悪いわね…大事件が発生したのかしら?』 桜花姫は気になったのか即座に出歩いたのである。 『場所は東国っぽいけれど…』 桜花姫が行動を開始した同時刻…。天空山では山茶花姫一行が真夜中の上空を眺望したのである。 「天狐如夜叉様?特段何も無さそうですけど…本当にこんな場所に巨大隕石が落下するのでしょうか?」 真夜中の夜空は曇天であり何一つとして巨星らしき物体は確認出来ない。 「姿形こそは確認出来ないだろうが…巨大隕石は着実に接近中であるぞ!」 天狐如夜叉は巨大隕石が確実に地上世界に接近中であると断言する。すると彼女は恐る恐る…。 「巨大隕石の速度は…予想以上に高速だな…」 冷静であった天狐如夜叉だが巨大隕石の接近に緊張したのである。 「えっ!?予想以上に高速ですって!?」 『こんなの私には絶対無理よ!』 山茶花姫は再度絶望したのか逃走し始める。 「なっ!?山茶花姫!?」 「御免なさい!やっぱり私には無理です!」 彼女は号泣し始め…。全速力で天空山の頂上から逃走し始めたのである。 「山茶花姫!?山茶花姫!?山茶花姫!?」 普段はヘラヘラするウィプセラスでさえも山茶花姫の突然の逃走には吃驚する。ウィプセラスは即座に左腕から触手を複数発動したのである。 「ウィプセラスよ…」 『彼女は体内から触手を生成させられるのか…彼女は意外と有能だな…』 彼女の左腕から生成された複数の触手は逃走中の山茶花姫を捕捉…。 「ぎゃっ!」 『ウィプセラスの触手かしら!?身動き出来ないわ…』 山茶花姫はウィプセラスの触手により身動き出来ず再度天空山の頂上へと戻されたのである。 「山茶花姫よ…其方は予想以上に小心者だな…」 天狐如夜叉は弱気の山茶花姫に呆れ果てる。 「天狐如夜叉様…」 山茶花姫は落涙した様子で…。 「絶対私には無理よ!妖術では山猫妖女の小猫姫よりも数段階下回るのに…所詮私なんて…武器を使用しなければ何も出来ない下級妖女なのよ!」 山茶花姫は自身を下級妖女と自虐したのである。 「山茶花姫よ…今現在世界を救済出来るのは其方とウィプセラスだけなのだ!其方の潜在的妖力は小猫姫と同等?武器さえ入手出来れば彼女を上回るかも知れないのだぞ!其方の潜在的妖力は未知数だ…」 天狐如夜叉は山茶花姫の潜在的妖力を過大評価するのだが…。 「天狐如夜叉様…私を過大評価しないで…私は大昔から誰よりも脆弱だったのよ!所詮雑魚の下級妖女なのよ…私なんて…」 山茶花姫は列記とした純血の妖女であるが…。幼少期から必殺の妖術が何一つとして上手く扱えなかったのである。周囲の妖女からは雑魚妖女やら下級妖女と侮辱され…。村里の子供達からは物の怪やら負け犬妖女と揶揄されたのである。 「武器を行使しないと何も出来ない私に…山猫妖女の小猫姫を上回るなんて虚構の夢物語だわ…私は…純血の妖女なのに妖術の才能なんて皆無なのよ!」 弱気の山茶花姫であったが…。ウィプセラスは満面の笑顔で山茶花姫の右手をポンッと接触したのである。 「えっ?ウィプセラス?何よ?」 「山茶花姫♪山茶花姫♪大丈夫♪大丈夫♪私♪協力♪協力♪」 『ウィプセラス…』 先程から緊張し続けた山茶花姫であるが…。ウィプセラスの満面の笑顔に極度の緊張が緩和されたのである。 『ウィプセラス…私は…彼女と一緒なら!』 誕生した当初はトラウマの対象であったウィプセラスであるが…。今回はウィプセラスの存在が彼女にとって心強く感じられる。 「ウィプセラスに勇気付けられるなんてね♪」 山茶花姫は赤面した様子であるが笑顔で返答したのである。 「ウィプセラス♪私と一緒に世界を守護しましょう!あんたと私は一心同体よ!」 ウィプセラスは山茶花姫の一心同体の一言に大喜びする。 「山茶花姫♪私達♪一心同体♪一心同体♪世界♪守護♪守護♪守護♪」 「山茶花姫とウィプセラスは一心同体だ♪」 『彼女達なら大丈夫そうだな♪』 彼女達の前向きな様子に天狐如夜叉はホッとしたのである。 『如何やら今回ばかりは桜花姫の出番は無さそうだ…残念だったな♪最上級妖女の月影桜花姫♪』 すると直後…。 「えっ…」 「二人とも…油断は出来ないぞ!」 曇天だった上空の中心部より規格外の巨大飛行物体が確認される。 「ひょっとして巨大隕石ですか!?」 「無論…此奴が世界滅亡の正体だ!」 陸地へと急接近する巨大隕石の影響からか地上世界全体がグラグラッと震動し始める。巨大隕石は直径八キロメートルもの規格外の巨大さである。 『こんな岩石の塊状が…地上なんかに落下すれば世界滅亡は否定出来ないわ!』 山茶花姫は背後のウィプセラスを恐る恐る直視する。 「ウィプセラス!」 「山茶花姫♪山茶花姫♪山茶花姫♪」 ウィプセラスはヘラヘラした様子で山茶花姫の背中に接触したのである。 「えっ?ウィプセラス?」 ウィプセラスが自身の背中に接触する。すると彼女の体内の莫大なる妖力が自身の体内に蓄積されたのである。 『ウィプセラスの妖力だわ…彼女の妖力はこんなにも強力だったのね…』 山茶花姫はウィプセラスの強大さを再認識する。 「ウィプセラス♪感謝するわね♪」 山茶花姫に感謝されたウィプセラスは表情が赤面し始め…。 「大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪」 ウィプセラスは只管に大丈夫であると連呼する。 「ウィプセラス!私達で…巨大隕石を破壊するわよ!」 山茶花姫は恐る恐る両目を瞑目し始め…。体内の妖力を退魔霊剣に蓄積させる。 「はっ!」 山茶花姫は退魔霊剣を一振りしたのである。 「砕け散りなさい!」 直後…。退魔霊剣の刃先から藍色の閃光が放出されたのである。 「えっ!?」 『退魔霊剣から藍色の閃光が…』 放出された藍色の閃光は上空の巨大隕石表面に直撃…。 「見事だぞ!山茶花姫!」 「閃光が巨大隕石に直撃したわ!」 閃光の直撃によって巨大隕石表面より直径四キロメートル規模の傷跡が形作られる。 「先程の攻撃で巨大隕石の表面が破壊されたが…巨大隕石は健在だな…」 「巨大隕石は予想以上に頑強ね…私に破壊出来るかしら?」 巨大隕石は依然として健在であり先程よりも地上への落下のスピードは加速し続ける。巨大隕石の落下スピードは加速し続けるものの…。 「今度こそ…ウィプセラス!」 山茶花姫とウィプセラスは怯まなかったのである。 「私達は巨大隕石を破壊するわ!」 『私だって…最上級妖女の月影桜花姫様みたいに!』 山茶花姫は全身全霊の妖力を退魔霊剣に蓄積…。 「はっ!」 全身全霊で退魔霊剣を一振りしたのである。退魔霊剣の刃先から再度藍色の閃光が放出され…。閃光が巨大隕石の表面に直撃したのである。 「二人とも!直撃したぞ!」 天狐如夜叉は上空の光景に注視する。 『今度は如何なる!?』 数秒後…。 「巨大隕石に亀裂だわ…迎撃出来たの!?」 巨大隕石の表面から赤色の亀裂が無数に発生し始める。直後…。 「えっ!?」 巨大隕石は地上世界に落下する直前に大爆発したのである。 「巨大隕石が爆散したぞ!」 大爆発の影響からか大爆発した巨大隕石の破片が地上の各地に飛散するものの…。閃光の威力は絶大だったのか巨大隕石の破片はビー玉サイズに縮小されたのである。 「山茶花姫よ…其方とウィプセラスの尽力によって巨大隕石の落下は阻止出来たな♪見事だったぞ♪」 「山茶花姫♪隕石♪爆発♪隕石♪爆発♪」 彼女達の全身全霊により巨大隕石の落下は無事に阻止出来…。天狐如夜叉とウィプセラスは大喜びしたのである。 「私達…」 『巨大隕石の落下を阻止出来たのね…』 一方の山茶花姫はホッとしたのか全身が脱力し始め…。フラッと地面に横たわったのである。 「山茶花姫!?山茶花姫!?大丈夫!?大丈夫!?」 ウィプセラスは突如として地面に横たわった状態の山茶花姫を心配する。 「心配するな…ウィプセラスよ…」 天狐如夜叉は恐る恐る山茶花姫に接触したのである。 「彼女は全身全霊の妖力を駆使して疲労しただけだぞ…一休みすれば彼女は大丈夫だろうよ♪」 すると山茶花姫は自身を心配し続けるウィプセラスを恐る恐る直視し始め…。 「御免なさいね…ウィプセラス…貴女は心配しなくても私は大丈夫だからね…」 「山茶花姫…山茶花姫…山茶花姫…」 山茶花姫の様子にウィプセラスは安心したのである。 『ウィプセラス…人一倍赤子みたいなあんたでも…心配するのね♪』 当初は無邪気で食いしん坊のイメージだったウィプセラスであるが…。他者を心配する様子に内心嬉しくなる。 「天狐如夜叉様♪巨大隕石の落下は無事に阻止出来たので一安心ですね♪」 山茶花姫は満面の笑顔で天狐如夜叉に発言する。 「忍者妖女の山茶花姫よ…今現在の其方は小猫姫を上回れたのだぞ♪其方は自分自身を卑下するな…」 「えっ…」 山茶花姫は天狐如夜叉の発言に絶句したのである。 『私が…小猫姫を?』 「私は…小猫姫を突破出来たのね♪」 一時的だったとしても…。彼女にとって好敵手だった小猫姫を超越出来た事実に山茶花姫は内心大喜びする。 「二人とも♪一件落着だ♪戻ろうか…」 「戻りましょう♪ウィプセラス♪」 山茶花姫一行は戻ろうかと思いきや…。突如として極度の胸騒ぎからか彼女達はゾッとしたのである。 「えっ!?」 『一体何かしら…』 「ひょっとして山茶花姫とウィプセラスも感じるのか?」 上空から正体不明の巨大物体が猛スピードで急接近するのを感じる。山茶花姫はギョッとした表情で恐る恐る…。 「天狐如夜叉様?ひょっとして…」 「彼奴は恐らく…第二の巨大隕石だな…」 彼女達は再度上空を直視したのである。 「折角破壊出来たのに…第二の巨大隕石なんて!」 「先程の巨大隕石よりも桁外れの巨大さだぞ!如何やら先程破壊した巨大隕石は彼奴の欠片だったみたいだな…」 「えっ!?私達が破壊したのは巨大隕石の欠片だったの!?」 上空全体には規格外の巨大さである岩石の巨大物体が確認出来…。先程破壊した巨大隕石よりも桁外れに巨大である超大型巨大隕石が地上世界に急接近する。 「私達は一体如何すれば…」 『こんなの阻止出来ないわよ…』 天空全体を覆い包む規格外の超大型巨大隕石の出現に彼女達は絶望したのである。 「今度こそ世界は滅亡するの!?」 すると突如として彼女達の背後より気配を感じる。 「あんた達♪随分と大慌てね♪」 背後の何者かが天狐如夜叉の背中をポンッと接触したのである。 「誰かと思いきや…其方は今更…」 天狐如夜叉は背後の人物に呆れ果てる。 「えっ…貴女は?」 「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」 気配の正体は誰であろう最上級妖女の月影桜花姫…。彼女だったのである。 「最上級妖女の月影桜花姫様ですか?」 「あんた達♪私に相談せず内緒で活動するなんて意地悪ね♪巨大隕石を破壊するなら私にも相談しなさいよ!」 「何が意地悪だ!其方は今迄不在だったろうが…其方が地獄の世界なんかで遊戯中に此方は大変だったのだぞ!」 天狐如夜叉はヘラヘラし続ける桜花姫に腹立たしくなる。 「桜花姫は本当に気紛れな妖女だな!」 「気にしないの♪気にしないの♪一休み♪一休み♪」 桜花姫は只管にヘラヘラし続ける。 「やっぱり其方は…私にとって其方は誰よりも気に入らない小娘だな…」 天狐如夜叉は桜花姫の様子に呆れ果てる。すると桜花姫も上空の超大型巨大隕石を眺望したのである。 「異様の気配は天空の彼奴だったのね♪」 桜花姫は上空の超大型巨大隕石にワクワクし始める。 「桜花姫様…随分と嬉しそうですね…」 山茶花姫は嬉しそうな様子の桜花姫に苦笑いしたのである。桜花姫は満面の笑顔で山茶花姫とウィプセラスに…。 「あんた達♪精一杯頑張ったみたいね♪天空の巨大隕石は最上級妖女の私が対処するから一安心なさい!」 桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動する。 「桜花姫様の両目が半透明の瑠璃色に発光したわ…一体何かしら?」 不思議そうに桜花姫の両目を凝視し続ける山茶花姫に天狐如夜叉が解説し始める。 「桜花姫の妖術は神族の眼光…所謂神性妖術の天道天眼だ…此奴を開眼出来れば変幻自在の神族と同等の効力を発揮出来るぞ…」 「えっ!?天道天眼ですって!?」 『天道天眼って一握りの妖女が開眼出来る伝説の神性妖術だったわよね!?桜花姫様が一握りの最上級妖女って理由も納得だわ…』 山茶花姫は天道天眼の存在に驚愕したのである。 「今度は♪」 すると桜花姫は全身の神通力を行使する。彼女の身体髪膚がピカッと発光したかと思いきや…。桜花姫は巫女装束の仙女の姿形に変化したのである。今現在の桜花姫は自力で全能の仙女に覚醒出来る。 「えっ!?桜花姫様…本当に桜花姫様なの?」 『彼女は先程の桜花姫様とは別人みたいだわ…一体何かしら?』 山茶花姫は仙女の姿形に変化した桜花姫に驚愕する。 「桜花姫様は本物の女神様みたいですね…」 山茶花姫は仙女の姿形である桜花姫に見惚れる。 「えっ…私が本物の女神様なんて♪山茶花姫は大袈裟ね♪」 桜花姫は赤面するものの…。 『私が女神様♪』 内心では大喜びしたのである。 「桜花姫よ…其方は自力で天下無敵の仙女に変化したのだ!即刻其方の神通力で天空の巨大隕石の落下を阻止しろ!絶対に巨大隕石を破壊するのだぞ!」 天狐如夜叉は桜花姫に超大型巨大隕石の落下阻止を強制する。 「私は空腹だからね♪一思いに巨大隕石を阻止しちゃうわよ!」 桜花姫は飛行の妖術を発動…。空中を浮遊したのである。 「桜花姫…精一杯奮闘するのだぞ!」 天狐如夜叉は勿論…。 「桜花姫様…」 「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」 山茶花姫とウィプセラスも空中を浮遊する仙女の桜花姫を見届ける。山茶花姫一行が見届けた同時刻…。桜花姫は上空の成層圏を突破すると広大無辺の宇宙空間へと到達したのである。 『此処が天空世界なのね…予想以上に神秘的だわ…』 周囲の星雲を眺望するものの…。 「想像以上ね…如何やら地上世界に接近中だわ…」 『巨大隕石は規格外に特大だわ!』 急接近中の超大型巨大隕石は推定十二キロメートル規模と前代未聞の巨大さであり地球型惑星を容易に上回る巨大さだったのである。 『こんなにも規格外の巨大隕石が地上世界に落下すれば地上世界は容易に粉砕されるでしょうね…』 「一か八かの大博打だわ!」 桜花姫は地球に接近中の超大型巨大隕石に変化の妖術を発動する。 『如何かしら?』 数秒間が経過…。直後である。接近中の超大型巨大隕石が白煙により覆い包まれ…。ポンッと数十センチメートルもの特大サイズの巨大桜餅に変化したのである。 『一か八かの大博打だったけれど♪変化の妖術が成功したわ♪』 桜花姫は宇宙空間で浮遊し続ける巨大桜餅に接近する。 『先程の変化の妖術で妖力が消耗しちゃったし♪特大の桜餅を頂戴するわね♪』 桜花姫は特大の巨大桜餅を食べ始める。
第十五話
大団円 桜花姫が宇宙空間で巨大桜餅を食べ始めてより同時刻…。地上世界では突如として消滅した超大型巨大隕石に山茶花姫とウィプセラスは驚愕したのである。 「えっ!?天空の巨大隕石が突然消滅したわ…桜花姫様が妖術で巨大隕石を消滅させたの!?」 「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」 山茶花姫とウィプセラスは驚愕した様子で広大無辺の天空を眺望し続けるのだが…。 『月影桜花姫は…無重力の天空世界でも桜餅を鱈腹頬張れるのか?彼奴は行動も異質的だな…』 天狐如夜叉は広大無辺の宇宙空間で巨大桜餅を頬張れる桜花姫に内心呆れ果てる。 『兎にも角にも…彼女達の奮闘によって地上世界の滅亡が阻止出来たのは何よりだな♪私も安心して熟睡出来そうだ…』 天狐如夜叉は心情より微笑んだのである。巨大隕石を阻止してより数分後…。 「桜花姫様だわ♪」 桜花姫は無事に地上世界の天空山頂上へと戻れたのである。 「口寄せの妖術♪成功ね♪」 三人は無事に地上世界へと戻った桜花姫に近寄る。 「桜花姫様♪無事に天空世界から戻られたのですね♪」 「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」 山茶花姫とウィプセラスは広大無辺の宇宙空間から無事に戻った桜花姫に大喜びしたのである。 「月影桜花姫よ…」 すると天狐如夜叉も恐る恐る…。 「其方は上空の天空世界から無事に戻れたのだな…単独で羅刹大皇帝を仕留めた其方であれば当然の結果であろうが…」 「勿論よ♪天狐如夜叉♪私は俗界で唯一無二の最上級妖女なのよ♪私の妖術なら相手が天体規模の巨大隕石でも簡単に破壊しちゃうからね♪」 桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。 「兎にも角にも…今回は三人の妖女の奮闘で地上世界が救済されたのが何よりだ…」 四人は巨大隕石の落下を阻止出来…。一同は再度大喜びする。 「隕石落下は無事に解決出来たし♪私達は解散しましょう♪」 一段落すると一同は解散したのである。 「桜花姫様♪天狐如夜叉様♪本日は大変感謝します♪二人とも達者で♪」 山茶花姫は二人に会釈する。 「あんた達もね♪」 「山茶花姫とウィプセラスにも感謝するぞ♪今日は思う存分に休養するのだぞ♪」 桜花姫と天狐如夜叉は笑顔で返答すると帰宅したのである。 「ウィプセラス?私達も戻ろうかしら?」 「戻ろう♪戻ろう♪戻ろう♪山茶花姫♪」 数分間が経過すると山茶花姫とウィプセラスは一緒に帰宅する。帰宅中に山茶花姫は笑顔で…。 「ウィプセラス♪今回はあんたの協力で無事巨大隕石を阻止出来たからね♪今夜の夕飯は鴨鍋よ♪」 「私♪鴨鍋♪鴨鍋♪食べたい♪食べたい♪」 鴨鍋の一言にウィプセラスは大喜びしたのである。
第十六話
会食 巨大隕石の落下阻止から三日後の真昼…。粉雪妖女の雪美姫は暇潰しに東国のとある饂飩屋にて食事したのである。 「はぁ…」 『退屈過ぎる…退屈過ぎるわ…桜花姫も常日頃からこんな心情だったのかしら?』 雪美姫は極度の退屈さから桜花姫の心情を理解する。 「誰かと思いきや…其方は粉雪妖女の雪美姫か…」 「えっ!?あんたは!?」 誰であろう神族の天狐如夜叉が彼女の隣席に同席したのである。 「あんたは神族の天狐如夜叉!?」 雪美姫は天狐如夜叉の出現に吃驚する。 「何も吃驚せずとも…こんな饂飩屋で粉雪妖女の其方と遭遇するとは奇遇だな…」 「如何してあんたがこんな場所に?意外ね…」 雪美姫が恐る恐る問い掛けると天狐如夜叉は即答したのである。 「私は人間界を観察したいのだ…問題児の月影桜花姫は勿論だが…今後は人間達と共存するには必要不可欠だからな…」 「人間界の観察ね…」 『以前は人間達を毛嫌いした天狐如夜叉だけど…随分と一変したわね?一体何が彼女をこんなにも変化させたのかしら?』 雪美姫は天狐如夜叉の変化に驚愕する反面…。何を契機に彼女の心情が一変したのか非常に気になる。 『やっぱり小猫姫の影響なのかしら?』 天狐如夜叉が変化出来たのは小猫姫の影響力であると予想する。すると天狐如夜叉は笑顔で…。 「問題児の桜花姫やら其方みたいな妖女でも…愚劣なる人間達と共存出来たのだ♪神族の私だって…」 一方の雪美姫は笑顔で返答する。 「あんたなら出来るわよ♪小猫姫と一緒に頑張ってね♪」 「小猫姫か…」 天狐如夜叉は一瞬赤面するものの…。 「小猫姫と一緒なら…こんな私でも頑張れそうだ…私にとっても小猫姫は唯一無二の宝物だからな♪」 天狐如夜叉の前向きな姿勢に雪美姫は微笑み始める。すると天狐如夜叉は真剣そうな表情で…。 「雪美姫?其方は二年前に…妖術で国内全域を寒冷化させたのは本当なのか?」 「えっ…」 『如何して天狐如夜叉が二年前の寒冷化事件を!?』 天狐如夜叉の突然の問い掛けに雪美姫は絶句する。彼女にとって二年前の寒冷化大事件は人生史上最大の黒歴史であり想起したくない過去だったのである。 「天狐如夜叉?一体…誰から?」 雪美姫は気まずい表情で恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。 「事実なのだな…雪美姫?」 「一体誰が…天狐如夜叉に喋ったのよ?」 雪美姫は睥睨した表情で問い掛けたのである。 「誰って?当然月影桜花姫だが…桜花姫以外に存在するのか?」 「えっ!?桜花姫ですって!?」 『彼奴…やっぱり桜花姫だったのね!』 雪美姫は桜花姫に腹立たしくなる。一方の天狐如夜叉は失笑し始める。 「雪美姫は一度…桜花姫の妖術で桜餅に変化させられ♪桜餅として捕食されたのだな♪不謹慎だが傑作だな♪」 「傑作って…」 雪美姫は赤面したのである。 「傑作ってあんたね!何を面白がって!」 雪美姫は失笑し続ける天狐如夜叉に激怒したのである。 「気にするな♪雪美姫よ♪桜花姫が人一倍異端者なのは存分に理解出来たぞ♪」 面白がった天狐如夜叉であるが…。再度真剣そうな表情へと変化する。 「其方は不本意だったのだろう?」 「えっ…何が不本意なのよ?」 雪美姫は天狐如夜叉の発言に一瞬動揺するものの…。 「私自身も雪美姫も境遇は一緒だからな…」 「えっ?あんたと私が一緒の境遇ですって?」 「事件が発生する先日に…雪美姫は悪霊に憑霊されたのだろう…」 天狐如夜叉の発言に雪美姫は混乱する。 「私が悪霊に憑霊されたって?」 「雪美姫が事件を発生させる前日に人型の黒雲に遭遇しなかったか?」 「人型の黒雲…えっ!?」 雪美姫はハッとしたのである。 「うろ覚えだけど…」 二年前の寒冷化事件を発生させる前夜…。雪美姫は宿六の不倫発覚が大変ショックであり宿六に対する怒気と極度の悲哀から四六時中落涙したのである。自分自身如何するべきなのか苦悩し続けた直後…。自身の背後より正体不明の人型の黒雲が出現したのである。雪美姫は人型の黒雲に警戒するのだが…。無意識的にも人型の黒雲に憑依されたのである。人型の黒雲に憑依された直後…。彼女は自分自身以外の者達に対する殺意と憎悪が増強したのである。 「正直記憶は曖昧だけど…人影の正体は悪霊だったのね…」 雪美姫の証言から天狐如夜叉は人影の正体を確信する。 「雪美姫に憑霊した人影の正体は恐らく実体化した邪霊餓狼の怨念だろう…」 「えっ!?実体化した邪霊餓狼の怨念ですって!?」 「私自身も三十二年前の出来事だが…地上世界より目覚めた時期に正体不明の人影と遭遇して…憑霊されたのだ…」 「えっ?神族のあんたが悪霊に憑霊された…邪霊餓狼って悪霊の集合体よね?如何して神族のあんたが悪霊の集合体なんかに憑霊されたのよ?」 天狐如夜叉は物静かな様子で返答したのである。 「私は数万年前に勃発した人間達との大戦争で敗走した…数多くの神族が極悪非道の人間達に殺害され…迫害されて…」 敗走した天狐如夜叉は暗闇の深海底へと入水…。暗闇の深海底で長期間永眠し続けたのである。数万年が経過…。地上世界が清浄化したと同時に天狐如夜叉は地上世界へと戻ったのである。久方振りに地上世界へと戻れた天狐如夜叉であるが…。彼女は逃亡しか出来なかった自身の無力さと仲間を見殺した罪悪感により苦悩したのである。苦悩し続けた彼女の背後より…。人型の黒雲が出現したのである。 「人影は自身を犬神の神族と名乗ると…愚劣なる全人類…地上世界に存在する下等生物全種を殲滅しろと私に命令して…私の肉体に憑霊したのだ…」 人型の黒雲に肉体が憑霊された結果…。天狐如夜叉は最終的に禁断の儀式を実行したのである。 「心苦しいが…私は邪霊餓狼の誘導によって滅亡の儀式を実行したのだ…」 「犬神の神族?邪霊餓狼の正体って…犬神の亡霊だったのね…」 邪霊餓狼とは本来…。古代人達との大戦争で生還した神族の一人だったのである。天狐如夜叉が深海底にて休眠中…。戦乱時代末期にて犬神の神族は北国の鬼神月影幽鬼王によって殺害されたのである。犬神の神族は悪霊の集合体邪霊餓狼として復活…。無数の亡者達の亡魂と融合化し続けて強大化したのである。邪霊餓狼は今迄にあらゆる亡者達を神出鬼没の悪霊として実体化…。あらゆる生命体に憑霊しては全人類の殲滅を画策し続けたのである。 「小猫姫と対面する以前の私は精神的には非常に未熟だった…未熟だったからこそ悪霊の邪霊餓狼に憑霊されたのだ…彼女と対面しなければ私自身は破滅しただろうな…」 天狐如夜叉は再度雪美姫を凝視する。 「私と雪美姫が悪霊に憑霊されたのは人生に絶望したのが契機であろう…邪霊餓狼は人生に絶望した人間に憑霊して活動するからな…本体である肉体が消滅したとしても…呪力のみは残留思念として憑依させた他者に残存し続けるのだ…」 すると数秒後…。雪美姫はポロポロと涙が零れ落ちる。 「雪美姫?如何した?」 「正直良かったわ…私に事件を実行させたのは邪霊餓狼が原因だったのね…」 今迄は極度の罪悪感により心苦しかった雪美姫であるが…。真実を熟知出来て安心したのである。 「雪美姫よ…私自身も同罪だ…」 「悪霊に誘導されたとしても私達は実行犯だからね…精一杯贖罪しましょう♪」 「当然だとも…雪美姫…」 すると天狐如夜叉は赤面した表情でボソッと発言する。 「小猫姫は勿論だが…異端者の月影桜花姫にも感謝しなければ…正直私にとって彼奴は気に入らないし…必要悪であるが…」 天狐如夜叉は桜花姫を必要悪であると表現するものの…。 『天狐如夜叉は無理しちゃって♪本当は桜花姫とも仲良くしたいのね♪』 雪美姫は天狐如夜叉の心情を察知したのである。 「今後…人間達と共存するには長時間が必要不可欠だが…私なりに努力するさ…」 「一緒に頑張りましょうよ♪天狐如夜叉♪」 「勿論だとも…雪美姫…今後は雪美姫と行動する時間も増加しそうだな…」 両者は今後とも仲良く出来ると実感する。すると雪美姫は笑顔で…。 「折角だし天狐如夜叉♪四日後の花火大会♪あんたも参加しましょうよ♪」 「花火大会だと?恒例行事なのか?」 「勿論よ♪桃源郷神国では一年に一度国全体で開催されるのよ♪折角だし天狐如夜叉も一年に一度の花火大会に参加しましょうよ♪」 天狐如夜叉は一瞬困惑したのである。 「仕方ないな…私も一年に一度の花火大会に参加するのも悪くないな♪」 『今回の花火大会も…人間達と共存する社会勉強だからな…』 天狐如夜叉の返答に雪美姫は大喜びする。 「決定ね♪」 彼女達は食事を再開したのである。
最終話
花火 巨大隕石の落下阻止から一週間後の真夜中…。桃源郷神国国内の恒例行事である花火大会が国全体で開催されたのである。東国の歓楽街では大勢の町民達が天空の花火を眺望…。歓楽街の大路には無数の提灯やら多種多様の屋台が櫛比する。近海には何十隻もの屋形船が確認出来る。 「山茶花姫♪山茶花姫♪花火♪花火♪花火♪」 歓楽街の人通りでは浴衣姿のウィプセラスが満面の笑顔で大はしゃぎしたのである。周囲の町民達は大はしゃぎし続けるウィプセラスに注目する。 「ウィプセラス!子供みたいに大はしゃぎしないの!町民達に迷惑でしょう!」 山茶花姫は赤面した表情で大はしゃぎし続けるウィプセラスに注意したのである。すると彼女達の背後より…。 「ウィプセラスの保護者みたいね♪山茶花姫は♪」 「えっ!?貴女様は月影桜花姫様!?」 彼女達は歓楽街の人通りにて桜花姫一行と邂逅したのである。 「ウィプセラスの母親みたいですね♪山茶花姫様は♪」 「八正道様も…」 山茶花姫は気恥ずかしくなったのか表情が赤面する。すると天狐如夜叉はウィプセラスに恐る恐る…。 「ウィプセラスは沈黙し続ければ成人の女子同然であるが…非常に勿体無いな…」 「仕方ないわよ♪天狐如夜叉♪ウィプセラスは外見だけなら童顔の美少女だけど脳味噌は赤子同然だからね…」 桜花姫は笑顔で発言する。すると山茶花姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫様?山猫妖女の小猫姫は?」 「えっ…」 桜花姫は突然の山茶花姫の問い掛けに困惑したのである。 「小猫姫ですって?彼女は…」 桜花姫は沈黙するのだが…。 「あんたが心配しなくても♪山猫妖女の小猫姫なら夜桜太郎丸って彼氏と一緒に熱愛中だから私達とは別行動なのよ♪」 雪美姫が小声で山茶花姫に告白する。 「山茶花姫が心配しなくても小猫姫は大丈夫だからね♪」 小猫姫は若武者の夜桜太郎丸と一緒に別行動で花火大会に参加したのである。 「えっ…夜桜太郎丸?」 『彼氏ですって?』 突如として山茶花姫の表情が無表情へと変化し始める。 「彼氏って…一体何かしら?小猫姫に彼氏ですって?」 山茶花姫は無表情で雪美姫に再度問い掛ける。 「愛人よ♪愛人♪小猫姫も太郎丸との恋愛に無我夢中みたいなのよね♪」 初日こそは緊張したものの…。今現在では小猫姫と太郎丸は友達関係から恋愛関係に発展したのである。 「愛人ですって?」 『山猫妖女の小猫姫に愛人が…愛人がね…小猫姫に…』 山茶花姫は雪美姫の愛人の一言に沈黙し始めたかと思いきや…。僅少であるが彼女の形相が殺気立った鬼神の形相に変化し始めたのである。 「はぁ…雪美姫…あんたは極度の馬鹿者ね…」 桜花姫は雪美姫の言動に呆れ果てる。 「えっ…何よ?桜花姫?」 雪美姫は珍紛漢紛の様子だったのである。 『山茶花姫?』 雪美姫は恐る恐る山茶花姫の表情を直視し始める。 「えっ…」 『非常に気まずいわね…私は馬鹿者だわ…』 雪美姫は山茶花姫の様子から内心後悔したのである。 「御免なさいね…山茶花姫…小猫姫の話題は私の作り話だから…」 雪美姫は恐る恐る山茶花姫に謝罪する。一方の山茶花姫は無表情で…。 「気にしないで下さい…雪美姫様…別に雪美姫様は何も悪くないですよ…」 「えっ…山茶花姫…」 山茶花姫は気にするなと発言するが彼女の様子から雪美姫は勿論…。周囲の者達は非常に気まずくなる。実際問題…。山茶花姫と小猫姫の関係性は犬猿の仲であり山茶花姫にとって小猫姫の話題は禁止事項である。 「山茶花姫…」 桜花姫は沈黙し始めた山茶花姫が気の毒に感じる。 「山茶花姫♪あんたは別に気にしなくても…」 桜花姫は沈黙する山茶花姫を慰撫したのである。 「桜花姫様…別に山猫妖女の小猫姫が人間の誰かと熱愛中であっても…私自身は何も気にしませんから…桜花姫様が心配されなくても私は大丈夫ですよ…」 彼女自身は気にしないと断言するものの…。小猫姫に対する極度の嫉妬心からか内心ピリピリする。するとピリピリし続ける山茶花姫に天狐如夜叉が無表情で一言…。 「忍者妖女の山茶花姫よ…」 「天狐如夜叉様?今度は何ですか?」 山茶花姫はピリピリした様子で返事したのである。 「其方にとって小猫姫は好敵手なのかも知れないが…其方みたいな崇高なる妖女が人間の無頼漢なんかと熱愛して如何するのだ?男女交際は其方の自由であるが…何も自分自身を他者と比較しなくとも…」 天狐如夜叉の意見に賛同したのか桜花姫も助言する。 「私自身も天狐如夜叉の意見に賛同するわ♪山茶花姫にとって山猫妖女の小猫姫は好敵手でしょうけど…所詮小猫姫は小猫姫だし…あんたはあんただからね♪彼女に対抗して無理に恋愛しなくても…」 桜花姫は笑顔で無邪気のウィプセラスを直視したのである。 「何よりも山茶花姫は彼女を子育てしないとね♪あんたは誰よりも幸福なのよ♪」 「えっ…」 『私が誰よりも幸福ですって?』 山茶花姫は恐る恐る背後でヘラヘラし続けるウィプセラスを直視する。 「ウィプセラス…」 「山茶花姫♪山茶花姫♪山茶花姫♪」 ウィプセラスは山茶花姫に力一杯密着したのである。 「本当…あんたは誰よりも甘えん坊の子供みたいね…ウィプセラス♪」 山茶花姫は甘えん坊のウィプセラスが微笑ましくなる。 「山茶花姫♪大好き♪山茶花姫♪大好き♪」 桜花姫は満面の笑顔で山茶花姫に近寄る。 「あんた達♪今夜は折角の花火大会なのよ♪」 桜花姫は暗闇の夜空を指差したのである。 「ギスギスしないの!あんた達も♪私達と一緒に夜空の花火を眺望しましょうよ♪」 「勿論ですよ♪桜花姫様♪花火を眺望しましょう♪」 山茶花姫は笑顔で返答する。一同は天空の光り輝く無数の花火を眺望…。無数の花火に感動したのである。無数の光り輝く花火は暗闇の夜空全体を照明させる。 完結

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