ロボットアームで落下テスト、見えてきた「壊れやすさ」とは
落下試験も過酷だ。
ロボットアームでiPhoneやMacBookを持ち上げ、下に向けて落とす。その様子は高速度撮影が可能なカメラで収録され「どこを向いて落ちるのか」「どう落ちると壊れるか」などがチェックされている。
iPhoneが落ちる様を見るのもなかなか心苦しいのだが、MacBookが床に落ちる様子はもっと痛々しい。落下した瞬間にディスプレイが波打つようにひしゃげていく。ただ、そうやって衝撃を逃してもいるようだ。
こうしたテストで壊れる際には、おもしろい傾向も見えているという。最初に床に落ちた時より、そこから跳ねて2度目に床にぶつかった時の方が壊れやすいのだとか。
もちろん落とさない方がいいわけだが、「万が一」の場合にも壊れづらいよう配慮はなされている。
振動も故障につながりやすい。自動車やバイクからの一定周期で起こる強い振動が、内部のパーツに影響を与えることがあるからだ。
実際、あるメーカーのバイクの振動とは、かなり相性が悪い時期もあったようだ。
そこで、台の上に製品を配置し、巨大なモーターで幅広い周波数帯の振動を与えるテストが実施されている。さまざまなシチュエーションで起きる振動が製品にどのような影響を与えるのか、日々検証されているわけだ。
バッテリーは「修理しやすさ」にも配慮
現在の機器ではバッテリーのテストも重要だ。特にスマートフォンの場合、日々充電と放電が繰り返される関係から、バッテリーに対する負担が大きい。
スマホに対する要求の中でも「より長く動作すること」が求められるため、検証も重要なものになる。
Durability Labでももちろんバッテリーのテストは実施されている。
テストは製品としてだけでなく、iPhoneの中に組み込まれる前の「バッテリーパック」の段階でも行われる。製品に組み込む前にテストしている理由は、これから生産する製品での安定性を確認するためだ。
いろいろな充電状況・周囲の気温(暑い場所も寒い場所も想定)、時には折り曲げた時なども想定、充電・放電の安定性がテストされている。
同時に公開されたのが「修理しやすさ」に対する配慮だ。「修理する権利」への注目も集まっているが、同時に、製品を長く使う人が増えていることの影響もある。
最近はiPhoneを5年以上使う人も増えているという。ただ、バッテリーの劣化は避けられないので、途中で修理・交換が必要にもなる可能性も高い。
アップルも含め、ほとんどのスマホメーカーでは、バッテリーをある種の接着剤や両面テープで固定している。そのため、取り外しには注意も必要だし、時間もかかる。
そこでアップルは「iPhone 16」と「iPhone 16e」から、新しい固定方式を採用した。それが「電気誘導接着剤剥離法」と呼ばれるものだ。
従来の両面テープと異なり、内部の電極に電流を流すと、1分30秒で「剥がれる」状態になる。
吸盤でバッテリーをくっつけて持ち上げるだけで、バッテリーや本体が傷むこともなく、接着剤が残ることもなくきれいに外れる。電流を流すと言っても、市販されている9Vの電池でいい。
ただし、これは我々が自分でバッテリー交換を自由に行うことを想定したものではない。新しいバッテリーの取り付けには専用器具も必要になるし、日本では認定を受けた事業者以外の修理は違法だ。
とはいえ、こうした技術の導入により、修理時間の短縮などが図れるのは間違いない。
修理情報の集積がアップルの強み
実のところ、Durability Labのような設備は珍しいものではない。大手メーカーならば必ず持っている設備と言える。アップルのものは特に規模が大きいとは感じたが、同種のテストはどこでも行われているものだ。
ただ、アップルには大きな特徴も1つある。
それは「とにかく大量の製品が流通している」ことであり、「Apple Storeから効率的に情報が収集されている」ことでもある。
アップルには「Apple Care+」という有料の製品サポートサービスがある。サービス料金を支払っておくと、さまざまな故障に対応できる。
例えばiPhoneの場合、画面が割れると最大で5万円を超える修理代がかかるが、AppleCare+に入っていると3700円で済む。
利用者にとっては「低価格で修理できる」というメリットがある一方で、アップルにとっては「使っていた期間が明確で、故障に至った経緯の情報もしっかりした故障個体」を手に入れるきっかけが増えるというメリットもある。
壊れた製品とその情報は、メーカーにとって喉から手が出るほど欲しいものでもある。そこから故障の原因を掴み、今後の製品開発に活かすことができるからだ。
アップルの場合には、直販店であるApple Storeがサービス拠点でもあり、Apple Care+が有効に機能することで、「長期間使われた製品がどう壊れるのか」の情報を大量に集めやすくなっている。
何年目の、どのように使われた製品かの情報を精査しつつテストすることで、より壊れにくい製品を作れるわけだ。
もちろん、その情報はDurability Labに集積され、さらに追加検証され、製品設計へと反映されていくことになる。