社説:生活保護費過大支給 県裁決重く受け止めよ
秋田市が生活保護費の障害者加算認定を誤って過大に支給していた問題を巡り、当事者に返還を求めた市の決定を違法として県が取り消す裁決を下した。一部の当事者が昨年、市の決定を不服とし、取り消すよう求める審査請求を県に提出していた。市は裁決を重く受け止め、今後の対応を考えるべきだ。
問題は2023年5月に会計検査院の指示を受けて実施した調査で判明した。障害者加算の認定誤りによって117世帯120人に計約8100万円を過大に支給。期間は最長で02年からの21年間に及ぶが、市は対象者に対し、時効が成立しない過去5年分の返還を求めている。
取り消しを求める審査請求で当事者は、自身に責任がないことなどを理由としていた。過大に支給したのは市であり、受け取っていた側には非はない。当事者が毎月の生活保護費から返還することになれば、最低限度の生活も送れなくなる恐れがあるとの指摘もある。返還に理解が得られにくいのは当然だ。
県の裁決は今月11日付。返還を求める市の決定について、法の目的や社会通念に照らして妥当性を欠くものと認められるとして「違法というべきである」と結論付けた。
理由として、市が月々の分割払いによる返還も可能としている点について「請求人に対する最低限度の生活の保障の趣旨に実質的に反する恐れがあるか、自立を阻害する恐れがあるかなどについて具体的に検討した形跡が見当たらない」と指摘。決定は市の裁量権を逸脱または乱用したものと判断した。
障害者加算認定の誤りによる過大支給を巡っては、千葉県と岩手県も地元自治体に対して返還決定は違法として取り消す裁決を下している。これまでの秋田市の考えは変える必要があるということだろう。
沼谷純市長は市議会6月定例会の一般質問で「県との協議や過大支給があった他都市の対応状況なども踏まえ返還の適否を判断する」「当事者はずっと不安な状態に置かれる。少なくとも7月中には回答したい」などと答弁していた。県の裁決を踏まえた対応が待たれる。
過大支給の経緯について、市は職員の認識の誤りから生じたと説明している。弁護士などからは第三者委員会を設置して検証するべきだとの声もある。そうした指摘も踏まえ、市は再発防止の徹底を図らなければならない。
市によると、今年6月末時点で120人中115人の返還額を決定。このうち自立更生費の控除で返還額がゼロ円になった36人と、県の裁決を受けた3人を除いた76人に計約3千万円の返還を求めている。
当事者らの支援団体は、返還を求められている人全員に対する返還決定を取り消すべきだとしている。こうした点も考慮した上で、市には誠実な対応が必要になる。