トピック

VAIOがやってる高品質を安くするってどんな魔法?上位機種ゆずりの10万円台ノートの作り方がためになる

~定番ノート「VAIO F16とF14」で知る開発現場の創意工夫

VAIO F16(左)とVAIO F14

 VAIOのノートPCというと、高品質・高性能なプレミアムモデルの印象が強いが、お手頃価格のスタンダードモデルもラインナップしている。今年6月に発売された2025年型の「VAIO F16」と「VAIO F14」がそれだ。

 価格はいずれも14万円台から。直販サイトのVAIOストアソニーストアでは、8月8日まで発売記念キャンペーンや買い替え応援キャンペーンによる割引も利用できる。10月にはWindows 10のサポートが切れるため、これを機にVAIO F16もしくはVAIO F14を検討してみるのもよいだろう。

 ただ、「こういったエントリー機に近いモデルでは価格なりのチープな作りなんでしょ?」などと思われがち。 しかしそこはさすがのVAIO、まったくそんなことはなかった。VAIO開発陣は「ほとんど上位モデル譲り」というくらいチープな要素が見当たらないのである。

 なぜそんなことが可能なのか、不思議に思うことだろう。VAIO F16とVAIO F14のリーズナブルな価格の理由に迫るべく、開発・生産拠点である長野県は安曇野にあるVAIO本社工場に伺い、開発者のみなさんに話を聞いた。

品質は上位モデルと変わらないのに、なぜVAIO F16/F14は安く作れるのか

上位モデルの品質を引き継ぎつつなぜ安価に作れるのか、VAIO F16とVAIO F14の開発者に聞いた

 VAIO F16とVAIO F14は、VAIOのノートPCの中では10万円台からのエントリー機という立ち位置ではあるものの、 実は外装の多くや中身の機能、耐久性能については上位モデルと同等の品質をそのまま受け継いでいる。仕様的にはまったくチープではないのだ。 にも関わらず、価格は大幅に抑えた。

 もちろん搭載しているCPUのグレードや各種インターフェイスの仕様は異なるため、そこで価格差が生まれているところもあるだろう。しかしそれでも、たとえばフラグシップのVAIO SX14-Rとの価格差10万円以上というのは、CPUやインターフェイスの違いだけでは説明がつかないように思われる。

開発本部プロダクトセンター部長の鈴木一也氏。VAIO S13を担当したメンバーがVAIO F16とVAIO F14の開発も手がけていると話す

 VAIO F16/F14がそこまでの低価格を実現できているのはなぜか。ヒントは開発体制にある。実はVAIO F16/F14の開発メンバーの多くが、3月に発売された上位機種のVAIO S13の開発も手がけているのだ。VAIO S13はモビリティに特化した13.3型のモバイルノートで、約1.019kgからという軽さを実現した機種だ。

 ではなぜモバイルノートのVAIO S13の開発経験がVAIO F16/F14に関係するのかというと、それは両者の間に共通する部分が多くあることから見えてくる。

 たとえば、メイン基板を始めとするいくつかのパーツが共通化されている。 VAIO F16/F14の筐体内部のメイン基板は上位機種のVAIO S13と同じものを使用しており、指紋センサー、バッテリー、カメラといったパーツもVAIO S13と同じものだ。

開発本部エレクトリカルプロジェクトリーダーの清水貴裕氏。電気設計を担当
VAIO F16/F14の内部を見比べ
VAIO F16/F14の筐体内部

 基板の共通化によって新規設計が不要になるのはもちろんのこと、それに伴う評価検証の工程についても省くことができる。また、流用パーツは「VAIOとして問題のない品質であること」をすでに確認済みという意味。それを別筐体に搭載するにあたり改めて評価が必要になる部分はあるものの、 「VAIO S13開発時の評価結果があるので、それを元に新たに評価すべき部分を絞り込める」のもコスト減には効果的だという。

上位のVAIO S13と共通化されたパーツ
片側に2ポート配置されたUSB Type-C。上位モデルにならって左右側面に1つずつ配置することも検討したが、コスト面を考慮してVAIO S13の設計を受け継いだ

 上位モデルで開発済みのデバイスを使用することによって、開発コストを抑えたり、品質上のリスクを軽減する対策を行なって問題を起こさなくすることも、コスト軽減対策の1つという。「 VAIO F16/F14だけでなく、VAIO S13も含めて多くのデバイスを3モデルで共有することにより、ボリュームを稼ぐことでも、コストを軽減している。とりわけ使用にあたって一定のライセンス料が必要になる部品は、大量に使うほどコストメリットが出てくる 」とのことだ。

開発本部プロジェクトリーダーの市川英志氏。生産数の多さもコスト低減につながっている、と語る

 ソフトウェアにおいても、上位モデルから流用しているものが多い。たとえば、3つのマイクを活用した高精度なAIノイズキャンセリング機能と、カメラ設定を含めて容易に設定変更ができるようにした「VAIOオンライン会話設定」アプリがそれだ。最上位のVAIO SX14-Rとほぼ同じ機能が利用されている。

開発本部ソフトウェアプロジェクトリーダーの山口博士氏。ソフトウェア開発を担当

 「 3マイクを一番最初に実装した最上位のVAIO SX14-Rで、性能を引き出すために試行錯誤して確立されたノウハウをそのまま使用した。VAIO F16/F14に入れるにあたってはこの機種用の調整は必要だったものの、開発はスムーズに進められた 」という。これにより、同等性能を低コストで実装できたそうだ

VAIO SX14-Rから継承された3マイク
中央に見える小さな三角形が3つ目のマイク

 ただし、CPUやカメラなどのハードウェアは、VAIO SX14-Rとは異なるものを使用している。VAIO F16/F14はNPUを内蔵しないCoreプロセッサで、Windows スタジオエフェクトのようなNPU搭載機種向けの機能を利用できない。カメラ機能について代わりの実現方法が必要という問題が出てくる。

上位モデルとアプリの差異はない
上位機種と同等の機能を備えた「VAIOオンライン会話設定」アプリ

 そのため、「 従来機種で使っていた背景ぼかしなどの機能をそのまま使うことで、新たな機能実装を最小限に抑えた。さらにバッテリーの消費に関しても配慮し、CPUでの処理をチューニングすることで、上位モデルと同等の機能を実現した」 という。ベースが流用であっても、新機種に移植するにあたっては個別の調整が不可欠だったことが分かる。

 VAIO F16/F14は低コストを追求したモデルではある。しかしそこには 「日常的にPCを使う方にとって本当に必要な機能については、上位機種と変わらないユーザー体験を提供できるように」というVAIOならではの、ある意味コスト度外視のこだわりも要所要所に詰め込まれているのだ。

品質向上とコストダウンを両立させた取り組みも

 VAIO F16/F14は、既存モデルの要素の流用だけで低価格を達成しているわけではない。新たな取り組みや新たな技術により、品質をこれまで以上に高めながらコスト減につなげている部分もある。

開発本部メカニカルプロジェクトリーダーの斉藤謙次氏。ディスプレイ部を含むメカ部分の開発を担当。基本的に自宅で仕事をしているとのことで、リモート参加となった

 たとえばVAIO F14の重量は、旧モデルから約110g軽量化した約1.23kgとなった。 この110g減に最も貢献しているのが、一段と薄型化したディスプレイパネルだ。とはいえ、先ほど触れた通りVAIO F14は上位モデルと同様の品質試験をパスしている。つまり、薄型化したにも関わらず強度は増している、ということになる。

ディスプレイパネルを軽量化
ディスプレイ部分の外装は旧モデルと変わらないが、ディスプレイパネルは軽量化されている。これにより、本体の軽量化につなげた

 これはまさに新たな取り組みがもたらした成果だ。「 ネジの締結部分を増やして剛性を高めるなど、VAIOの開発部隊で可能な対応はしつつ、耐久試験の評価結果をパネルメーカーさんとも共有して対策を検討していただいた。 そうしたメーカーさんとの密な協力体制を築けたことが品質の向上につながっている」と明かす。

VAIO F14/F16の底面カバー
VAIO F14/F16の底板。VAIO F14についてはネジの締結数を4カ所増やし、剛性を高めている

 そしてもう1つ、 前世代のVAIO F14/F16で採用された、天板の加色に用いられている「IMR」(インモールド転写)という技術も重要だ。 天板にはコスト低減のために樹脂素材を使用しており、その天板を射出成型するのと同時に塗料によって着色する技術となっている。従来は射出成型後の工程で塗装する流れになっていたので、塗装工程を1つ省いたような形だ。

天板の塗装には強いこだわりがある
IMR(インモールド転写)という手法で着色した天板
よく見ると単色ではなく、微細なキラキラ感がある。樹脂素材だがチープ感がない

 こういった技術は量産段階で大きなコストメリットが見込める。 通常の塗装だと難しいこともあるキラキラしたメタリックが入ったような加工も可能で、樹脂であっても「質感が良く、すごくきれいな仕上がり」になった。塗装に強いこだわりを持つVAIOにおいても満足のできる品質で、低コストと高品質の両立を実現できたという。

新色のサテンシルバーも用意
サテンシルバーは2025年型の新色。カラーバリエーションの構成もターゲットユーザーに合わせて変えている

上位機種のこだわり要素が詰まった「明らかにおトク」なモデル

 「安いものには理由がある」とはよく言われることだが、ことVAIOにおいては完全にポジティブな意味での理由しかない、ということが分かっただろうか。

 上位モデルでコストをかけて作り込み、そのノウハウを生産台数の多いスタンダードモデルに反映させることで低価格を実現する。そして時にはコストパフォーマンスをさらに高める新たな取り組みにも挑戦していく。

 「 安くていいものをお届けしたいというのは、全社が一体となって思っていること。スタンダードでリーズナブルな価格帯のモデルであっても、VAIOらしさはもちろんのこと、上位機種に取り入れたこだわりもできるだけ詰め込めむようにしている 」と語る。

異なる機種の開発であっても「ワンチーム」の意識で取り組んでいると話す

 VAIOは、カスタマイズモデルの注文も可能なECサイトのVAIOストアやソニーストア、大量導入の相談ができる法人窓口に加え、最近は製品を手に取りながら店員に購入相談できる実店舗が拡充されたため、消費者にとって購入の選択肢に入りやすくなった。

 そして、購入後のテクニカルサポートについても、開発・製造に関わる部隊が集約されている安曇野の本社工場が担っており、VAIOはまさに日本のユーザーのための、日本のノートPCと言える存在になってきたと言えるだろう。

  高性能な上位モデルは当然魅力的ではあるけれど、その品質がリーズナブルに手に入るVAIOのスタンダードモデルにもまた魅力がある。開発者らが「明らかにおトク」と口を揃えるのも納得だ。 店舗でも実際に確認できるので、価格以上の品質の高さをぜひチェックしてみてほしい。

 なお、VAIOは7月22日より、VAIO F16とVAIO F14の両機種について、Core 7 150U搭載モデルを追加した。これに伴い、メモリ32GBとSSD 1TBを選択できるようになった。さらに、VAIO F16についてはWQXGA(2,560×1,600ピクセル)ディスプレイも選べるようになっている。大容量化、高解像度化したいといった人には朗報と言える。

VAIO F16とVAIO F14を手に持つ開発者の面々

「定番」を目指したスタンダードモデル「VAIO F16/F14」とは?

 ここまでで、VAIO F16とVAIO F14がただの低価格路線のノートPCでないことが十分に理解できたことと思う。最後に、両機種についてどういったノートPCであるか、改めて紹介していこう。

VAIO F16のサテンゴールド(左)、VAIO F14のネイビーブルー(中)およびサテンシルバー(右)

 16型の「VAIO F16」はデスクトップPCからの乗り換えも想定した据え置き利用に適したノートPCとして、14型の「VAIO F14」は外に持ち出す場合でも使いやすいハイブリッドワーク向けノートPCだ。筐体サイズは違えども、そこに込められているコンセプトは“定番”で一貫している。

VAIO F16
VAIO F14

 “定番”とは何であるか、という定義には、VAIOとして以下の4つの条件を定めている。

  • 見やすい大画面
  • 長持ちする品質・安心
  • 普段使いに“ちょっといい”性能
  • 快適なオンラインコミュニケーション

見やすい大画面

 具体的には、「見やすい大画面」は各カテゴリにおける最大サイズの画面を採用し視認性を高めているという意味。VAIO F16は、このクラスだと15.6型がまだ標準的だが、それよりも一回り広げた16型とし、2,560×1,600ピクセルの高解像度モデルもラインナップしている。また、14型は13.3型がメインだったビジネスノートにおいて最近のトレンドとなっている少し大きめのサイズだ。

16型と14型の画面を採用
VAIO F16
VAIO F14
16型/14型の画面の見え方を比較
VAIO F16は16型(2,560×1,600ピクセル ※高解像度モデルの場合)、VAIO F14は14型(1,920×1,080ピクセル)。VAIO F16では、より広いデスクトップスペースを活用できる

長持ちする品質・安心

 「長持ちする品質・安心」は、安曇野VAIO本社工場で行なわれる最終検査工程「安曇野FINISH®」を経ている、というのが1つ。VAIO F16/F14はいずれも全機種共通品質試験とモバイルノート向けの標準品質試験が実施され、一定以上の耐久性を備えることを保証している。

上位モデル譲りの頑丈さ
上位機種と同じく過酷な耐久試験を突破

 VAIO F14については持ち運び用途も多いことから、上位モデルと同等のMILスペック準拠の試験、および127cmからの落下を想定した試験を含む、モバイルノート向け特別品質試験も実施している。つまり、耐久性は上位モデルと同等だ。さらに「長持ち」という点では、独自の充電制御機能「いたわり充電モード」でバッテリー寿命を延ばして長く使える工夫を加えており、これも上位モデル同様となる。

充電の上限を設定するなどしてバッテリー寿命を延ばせる「いたわり充電モード」

普段使いに“ちょっといい”性能

 「普段使いに“ちょっといい”性能」は、Coreプロセッサ シリーズ1を採用(法人向けモデルでは、Coreプロセッサ シリーズ2、もしくは第13世代Core i5も選択可能)し、省電力ながらハイパフォーマンスなCPUを搭載しているのもそうだが、インターフェイスの豊富さもポイントだ。USB Type-CとType-Aが2ポートずつの計4ポートに加え、有線LANやHDMI出力を装備する。VAIO F16はそこにフルサイズのSDカードスロットも追加されている。

インターフェイスに不足なし
USB 3.1 Type-Cポート2基に、有線LANポートも装備
VAIO F16はフルサイズのSDカードスロットを利用可能

 また、ヘアライン仕上げのアルミ一枚板を用いたキーボード面、チルトアップヒンジ、天板の金属ロゴなど、上位モデルでも採用している外装や構造をそのまま取り入れている点も“ちょっといい性能”と言える要素だろう。担当者いわく「スタンダードモデルであってもVAIOの価値をしっかり感じていただける、というところを大切にして作り込んでいる」とのこと。

エントリーモデルには見えない質感の高さ
質感の高いアルミ一枚板のキーボード面
チルトアップヒンジはVAIOらしさを象徴するような存在
天板のロゴには金属素材を使用しており、ここも質感にこだわり

快適なオンラインコミュニケーション

 最後の「快適なオンラインコミュニケーション」は、主にWeb会議周りのハード・ソフト的な装備として盛り込まれている部分を指す。たとえば「3つ目のマイク」を搭載し、それを活用することによってPC本体の正面にいるユーザーの声をメインに拾い、それ以外のノイズを低減する「AI ノイズキャンセリング」機能が代表的なものだ。

上位モデルと同じ3マイク構成
Web会議に不可欠なカメラと、その左右にあるステレオマイク
3つ目のマイクによって効果的なAIノイズキャンセリングを可能にしている

 カメラについても「バーチャル背景」や「プライバシーフレーミング」といった機能が利用できるようになっている。これらの機能は最上位モデルのVAIO SX14-Rなどに搭載されているもので、スタンダードモデルのVAIO F16/F14にも今回いよいよ実装されたわけだ。

ノイキャン機能も変わらず優秀
上位機種と同じ「AI ノイズキャンセリング」機能
「バーチャル背景」や「プライバシーフレーミング」などの機能がスタンダードモデルでも使える

 VAIOが、世の中の定番ノートPCとすべく、心血を注いだVAIO F16とVAIO F14。やはりVAIOが作るものは、どんなものであろうとVAIOらしさが宿っている。この取材を通して、プレミアムモデルからスタンダードモデルまで変わらないVAIOの一貫した開発姿勢を知ることができた。

長野県安曇野のVAIO本社工場
本社工場のエントランスはビジネス関係者向けのショールームとなっており、過去に製造を手がけた懐かしい機器が並ぶ