日米で合意 相互関税15% 自動車関税も15%【詳しく】

アメリカのトランプ大統領は22日、関税措置をめぐる交渉で日本と大規模な合意を締結したと明らかにしました。日本がアメリカに巨額の投資をする一方、アメリカは8月1日から発動するとしていた日本への25%の関税を15%に引き下げるとしています。また、自動車関税についても既存の関税率とあわせて15%とすることで合意したということです。

記事後半ではトランプ大統領の会見や、アメリカと各国の関税交渉の状況などについて詳しくお伝えしています。

アメリカのトランプ大統領は日本時間23日の朝、ワシントンを訪問している赤澤経済再生担当大臣と会談しました。その後、日本時間午前8時過ぎにトランプ大統領はSNSに関税措置をめぐる交渉で日本と大規模な合意を締結したと投稿しました。

投稿では、日本がアメリカに5500億ドル、日本円にしておよそ80兆円を投資するとしています。

そのうえで、トランプ大統領は「おそらく最も重要な点は、日本が自動車やトラック、コメやほかの農産物を含む貿易で国を開放することだろう」としています。

一方「日本は相互関税としてアメリカに15%を支払う」と投稿し、日本への書簡で8月1日から課すとしていた25%の関税を15%に引き下げるとしています。

石破総理大臣と赤澤経済再生担当大臣もそれぞれ記者団に対して日米で合意したことを明らかにしました。

最大の焦点となっていた自動車に対する25%の関税については、これを半分の12.5%とし、既存の関税率である2.5%とあわせて、15%とするということです。自動車部品に対する25%の関税については、それぞれの品目にもともと課されていた関税率を含めて15%に引き下げるということです。

赤澤大臣は記者団に対して15%未満の製品は既存の関税率とあわせて一律で15%となる一方、15%以上の関税がかかっている製品は新たな関税は課されず、既存の関税率のままだと説明しました。

一方、コメについてはアメリカからミニマムアクセスと呼ばれる枠内で、輸入割合を実質的に拡大するほか、鉄鋼製品とアルミニウムに課されている50%の関税は変わらないということです。

トランプ大統領はホワイトハウスで与党・共和党の議員らとの会合に出席し「歴史上、最大の貿易合意に署名した。日本は最高のメンバーをここに送り、われわれは長く、厳しい作業を進めてきた。これはみんなにとってすばらしい取り引きとなる」と述べ、今回の合意の意義を強調しました。

そしてトランプ大統領はアラスカ州におけるLNG=液化天然ガスの開発計画について、日本と合意することになると述べ、エネルギー分野での投資に期待感を示しました。トランプ政権としては日本から大規模な投資を引き出すことで関税の引き下げに応じたものとみられます。

◇トランプ大統領 SNS全文

われわれは日本との大規模な合意を締結した。
おそらく過去最大の合意だろう。
日本はわたしの指示のもと、アメリカに5500億ドルを投資し、その利益の90%をアメリカが受け取るだろう。この合意は数十万人の雇用を創出するだろう。
これはかつてない規模のものだ。
おそらく最も重要な点は、日本が自動車やトラック、コメやほかの農産物を含む貿易で国を開放することだろう。
日本はアメリカに対して15%の相互関税を支払う。
これはアメリカにとって特に日本との良好な関係を今後も維持する点で非常に喜ばしいことだ

ベッセント財務長官「日本側は革新的な解決策を提案」

トランプ政権で関税措置をめぐる日本との交渉を主導してきたベッセント財務長官は、23日、ブルームバーグテレビのインタビューで「日本政府は合意に向けた準備ができていた。トランプ大統領は日本の交渉団を大統領執務室に招いて、とても充実した交渉を行った。彼らはタフネゴシエーターだったが、トランプ大統領はもっとタフだったということだ」と述べました。その上で「日本側はとても革新的な解決策を提案してきた。革新的な枠組みを日本が提供する用意があったため、日本への関税は15%となった」と振り返りました。

日米合意の関税の仕組みは

アメリカのトランプ政権が新たに打ち出した関税は、自動車などの特定の品目に追加でかけている関税と、国や地域別に課している関税に大きく分けられます。

経済産業省によりますと、自動車には、もともと2.5%の関税がかかっていました。そこに4月、25%の追加関税が発動され、現在は27.5%となっています。今回の合意では、追加関税の25%が半分の12.5%に引き下げられ、もともとの2.5%と合わせて、関税率は15%になるとしています。

また、自動車部品にはもともと品目によって数%の関税がかかっていて、5月から追加関税の25%が上乗せされていました。今回の合意により、これらの部品もすべて関税率は15%となります。

一方、国や地域別に課している関税は、幅広い品目が対象で4月から一律10%が上乗せされています。日本に対しては、来月1日、25%に引き上げられる予定でした。今回の合意では、25%が15%になったうえ、もとの関税率が15%未満だった品目は15%が上限となります。すでにそれ以上の関税が課されている品目には、上乗せ前のもとの関税率が維持されます。

米メディア 関税交渉の詳細伝える

アメリカのメディア、ブルームバーグは23日、日本とアメリカの関税交渉における詳細を伝えています。

日本の5500億ドルの投資について、政府高官の話として日本側の約束はトランプ大統領自身がアメリカ国内で投資を監督できる政府系ファンドのようなものだとする一方、法的なことやその他詳細は詰めている段階だとしています。

また、政府高官によりますと日本は
▽ボーイング社の航空機100機を購入すること
▽コメの購入を75%増やすこと
▽農産物やその他の製品80億ドル、日本円にしておよそ1兆2000億円分を購入することで合意したとしています。
▽このほかアメリカ企業に関連する防衛支出を年間140億ドルから170億ドル日本円でおよそ2兆5000億円に引き上げることも合意したとしています。

石破首相 “関税対応に全力を尽くす”

石破総理大臣は23日午後3時半ごろ、自民党本部で記者団に対し「日米が合意したが、対米輸出品目は4000を超え、それぞれの取り扱っている会社や事業者にとっては極めて重大な問題だ。合意が確実に実行されるよう、きちんとこたえていくことは非常に大事だ。あす赤澤経済再生担当大臣が帰国したら報告を受けることにしており、国民生活がきちんと守られるよう全力を尽くしたい」と述べました。

石破首相「日米両国の国益に一致する形での合意」

動画(10分43秒)

石破総理大臣は23日午前11時ごろ、総理大臣官邸で記者団に対し、アメリカの関税措置を受けた日米交渉について「今般、アメリカの関税措置に関する日米協議について、トランプ大統領との間で合意に至った」と明らかにしました。焦点となっていた自動車などについて、ことし4月以降に課された25%の追加関税率を半減し、既存の税率を含めて15%とすることで合意したとし「世界に先がけ数量制限のない自動車、自動車部品関税の引き下げを実現することができた」と述べました。
また8月1日に25%が課されることになっていた相互関税については15%にとどめ、対米貿易黒字を抱える国の中でこれまでで最も低い数字となると説明しました。
さらに半導体や医薬品といった経済安全保障上、重要な物資については、仮に将来、関税が課されることになった場合、日本が他の国に劣後する扱いとはならないよう確約を得たことも明らかにしました。
またコメについては既存の「ミニマムアクセス」と呼ばれる仕組みの枠内で、日本のコメの需給状況なども勘案しながら輸入割合を増やすとした上で、農業を犠牲にする内容は一切含まれていないとしています。

そして「『関税より投資』と、ことし2月のホワイトハウスでの首脳会談で 私がトランプ大統領に提案して以来、一貫してアメリカに対して主張し、働きかけを強力に続けてきた結果だ。守るべきものは守った上で日米両国の国益に一致する形での合意を目指してきた。トランプ大統領との間でまさにそのような合意が実現することになった」と成果を強調しました。

【自身の進退について】
石破総理大臣は、今回の成果を踏まえ、自身の進退をどう考えるか問われ「赤澤大臣が帰国し、詳細な報告を受ける。実際に実行するにあたっては、 アメリカ政府の中で、必要な措置を取っていくことになる。そのあたりも含め、そういうようなことを、よく精査をしていきたいと考えている」と述べました。

石破首相「世界に役割を果たすことに資する」

動画2分29秒

石破総理大臣は、午前9時すぎ総理大臣官邸に入る際、記者団に対し「赤澤経済再生担当大臣から1報は受けている。トランプ大統領、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官との会談の前にも連絡はあり、必要な指示を出しているし、私と赤澤大臣で方針に何らそごはない。必要に応じてトランプ大統領との電話や対面での会談を行う」と述べました。

その上で「内容についてはこれから報告も受けるので精査する。自動車やほかの産品について国益をかけてお互いに全力でギリギリの交渉をしてきた。政府として、国益を守り、お互いに日米が力を合わせて雇用を創出し、いい物をつくり、世界にいろいろな役割を果たしていくことに資するものになると考えている」と述べました。

赤澤経済再生相「任務完了」SNSに投稿

赤澤経済再生担当大臣は、アメリカのトランプ大統領と会談したあと、日本時間の午前9時前、旧ツイッターの「X」にメッセージを投稿しました。この中では「本日、ホワイトハウスに行きました。任務完了しました。すべての関係者に心から感謝です」としています。
また、ホワイトハウスの階段の踊り場に飾られていたという先月のG7=主要7か国首脳会議にあわせた石破総理大臣とトランプ大統領の首脳会談の写真を紹介し「トランプ大統領と会談中の上司(石破茂総理)の写真を発見したので記念撮影しました」とつづっています。

トランプ大統領と赤澤大臣の会談の様子 写真投稿

トランプ大統領が日本との合意について発表したあと、ホワイトハウスの高官はSNSにトランプ大統領と赤澤経済再生担当大臣の会談の様子を収めた白黒の写真2枚を投稿しました。

1枚目の写真では、ホワイトハウスの大統領執務室で赤澤大臣が資料を手にしながらトランプ大統領とやりとりをしている様子が収められ、ルビオ国務長官や、交渉を主導したベッセント財務長官、それにラトニック商務長官らが同席しています。そしてトランプ大統領の机には「Japan Invest America」、日本はアメリカに投資すると印刷されたボードが置かれ、そこには「10%の関税」や、「自動車」、「医薬品」、「15%」などの記載が確認できます。もともと4000億ドルと印刷されていた部分は、手書きの文字で5000億ドルと上書きされ、投資額をめぐって議論が行われたことがうかがえます。

また、2枚目の写真にはトランプ大統領と赤澤大臣が机を挟んで握手を交わしている様子が収められています。

グラス駐日大使「日米の新たな黄金時代へ 輝かしいディール」

アメリカのグラス駐日大使はSNSに、トランプ大統領と赤澤経済再生担当大臣がホワイトハウスで握手を交わす写真とともにコメントを投稿しました。SNSでは「アメリカと日本の新たな黄金時代に向けた、輝かしいディールだ。トランプ大統領と石破総理大臣のリーダーシップとビジョンのもと、両国は真に歴史的な合意を締結することができた」などとしています。

ベッセント財務長官「日本との長年の同盟関係をさらに深く」

トランプ政権で関税措置をめぐる日本との交渉を主導してきたベッセント財務長官は、SNSに「偉大な同盟国の1つである日本と歴史的な合意に至った。石破総理大臣や赤澤大臣は、われわれの貿易チームと相互に利益があるパートナーシップを実現するために、尽力してくれた。そのことを称賛する」と投稿しました。その上で「トランプ大統領のもとで新たな黄金時代を迎えるなか、日本との長年の同盟関係をさらに深め、新たな段階の両国の協力を築いていく、決意を表明できることをうれしく思う」としています。

ラトニック商務長官「主要産業をアメリカに戻すためのもの」

赤澤経済再生担当大臣と交渉を重ねてきた、トランプ政権の閣僚のひとり、ラトニック商務長官もSNSに投稿し、トランプ大統領の投稿を引用したうえで「最も偉大な交渉者であるトランプ大統領に代わり、この協議に携わることができて光栄だった。5500億ドルの投資はアメリカの主要産業をアメリカに戻すためのものだ。この勝利はまだ終わっていない。始まりに過ぎない」としています。

ロリンズ農務長官「新たな市場を開拓 黄金時代を切り開く」

アメリカのロリンズ農務長官は「常に農家を第一に考えてくれて感謝する」とSNSに投稿しました。そのうえで「この歴史的な合意は、アメリカの農家や牧場主に前例のない利益をもたらし、かつてはアクセスできないと考えられていた新たな市場を開拓し、地方繁栄の黄金時代を切り開く。トランプ大統領が農家にとって史上最も偉大な大統領だという地位は確固たるものとなった」としています。

《【詳しく】トランプ大統領の発言》

「歴史上、最大の貿易合意に署名した」

トランプ大統領は、22日、ホワイトハウスでの共和党議員らとの会合で、日本との関税措置をめぐる交渉について「私はさきほど、歴史上、最大の貿易合意に署名した」と述べました。

「みんなにとってすばらしい取り引き」

トランプ大統領は「日本は最高のメンバーをここに送り、われわれは長く、厳しい作業を進めてきた。これはみんなにとってすばらしい取り引きとなる。過去の取り引きとは多くの点で異なるすばらしいものだと言える」と述べました。

「アラスカ州 LNG 日本と合意することになる」

トランプ大統領は「われわれはアラスカ州におけるLNG=液化天然ガスについて日本と合意することになる」と述べました。

「多くの金が流入」

トランプ大統領は「われわれは国として非常に順調だ。われわれは強い。多くの金が流入している。関税は、私と、この部屋にいる数人以外の人たちが考えていたよりも、よりよい効果が出ている」と述べました。

「友人からも敵からも長い間 搾取されてきた」

トランプ大統領は「私が日本と大声で言い合っていたら、誰かが『バイデンがこんなことをするなんて想像できるか』と言った。交渉なんてなく、搾取されるだけだっただろう。われわれは友人からも敵からも長い間、搾取されてきた。そして友人の方がひどかった」と述べました。

「日本にとって この合意はすばらしい」

トランプ大統領は、ホワイトハウスでの共和党議員らとの会合を終えて会場を去る際、報道陣に向かって「日本にとって、この合意はすばらしい」と親指を立てながら大きな声で語りかけました。

日米交渉 これまでの経緯

今回の日米交渉は、アメリカのトランプ大統領がことし3月から4月にかけて自動車や鉄鋼・アルミニウムへの追加関税、それに、すべての国や地域を対象とした10%の一律関税を発動したほか、「相互関税」を打ち出したことがきっかけでした。

石破総理大臣はことし4月、赤澤経済再生担当大臣を交渉の担当閣僚に指名し、ベッセント財務長官らとの交渉がスタートしました。1回目の閣僚級による日米交渉の際には、交渉に先立って赤澤大臣とトランプ大統領の会談が急きょ開催。会談後には赤澤大臣が「トランプ大統領は端的に言えば『日本が協議の最優先だ』と述べていた」と語り、トランプ大統領もSNSに「大変光栄に思う。大きな進展だ」と投稿していました。

その後、赤澤大臣は3か月間に7回という異例の頻度でアメリカを訪れ、貿易拡大、非関税措置の見直し、経済安全保障の協力の分野で議論を重ねてきました。

【交渉焦点“自動車関税”】
これまでの交渉で日本が最も強く主張してきたのが日本経済への影響が大きい「自動車の追加関税」の見直しです。
日本側は当初、追加関税の撤廃を求めていましたが、交渉が進むにつれて撤廃は難しいとみて関税率の引き下げに方針を切り替えました。具体的には、アメリカの自動車産業への貢献度に応じて自動車の追加関税を引き下げる仕組みなどを提案。しかし、関係者によると貿易赤字のさらなる削減を求めるアメリカ側との隔たりは埋まらなかったということです。

実際、6月に開催されたG7サミット=主要7か国首脳会議にあわせた日米首脳会談でも合意に至らず、交渉の難しさが浮き彫りとなりました。

【相互関税の期限迫る】
交渉が難航する中、迫ってきたのが相互関税の一時停止期限となる7月9日でした。それに先立ってトランプ大統領は、アメリカから日本への自動車の輸出が少ないとして「これは公平ではない」として容易に譲歩するつもりはないという姿勢を示したほか、相互関税をめぐって「日本は30%か35%の関税、もしくはわれわれが決定する関税を支払うことになる」と発言。強まるトランプ大統領からのプレッシャーに対し、日本の政府関係者からは真意が見えにくいとする声も出ていました。

その後、7月8日にはトランプ大統領は日本からの輸入品に対して8月1日から25%の関税を課すと明らかにしました。25%の関税が課される期日が8月1日に迫り、日本政府は歩み寄りの余地を探っていました。

元 交渉担当官 “交渉評価も再び話が持ち上がる可能性も”

第1次トランプ政権時、日米貿易協定の交渉に日本政府担当官としてあたった関西学院大学の渋谷和久教授は、今回の日米の合意について「日本側がどうしても避けたかった自動車の事実上の数量規制に相当する関税割当やコメのミニマムアクセスの外枠での輸入の拡大など、日本として受け入れられない内容は回避して、自動車の追加関税の引き下げも実現したので、相当交渉チームは頑張ったというのが率直な感想だ」と述べました。

自動車の追加関税などの撤廃には至らなかったことについては「日本にかけられている関税がほかの国と比べて不利でなければ経済に対する影響は大きくない。関税率をゼロに戻せというのは今のトランプ政権に対して相当無理な注文だ。その状況にまでアメリカを譲歩させるには日本側も相当な譲歩をしなければならなくなる。それを考えると今回の合意のほうがいいという判断だと思うし、非常に妥当な判断だったと考えている」との認識を示しました。

一方、今後については「アメリカは日本に対してこれ以上の関税は課さないという約束はしていない。今回の関税交渉はいったんこれで落ち着くとみられるが、再び関税について話が持ち上がる可能性もある。まずは今回の合意の中にある日本側の必要な手続きを速やかに行い、アメリカと約束した内容を全然していないじゃないかと言われないようにしていく必要がある」と指摘しています。

米 元高官「ベッセント財務長官の訪問は重大な意味」

関税措置をめぐる日米の合意について、USTR=アメリカ通商代表部の元高官で、トランプ政権の1期目で日本などとの交渉にあたったマイケル・ビーマン氏がNHKのインタビューに応じました。

ビーマン氏は詳細はまだ分からないとしたうえで、アメリカが日本に課すとしていた25%の関税の引き下げと引き換えに日本がアメリカに投資を行う用意があることなどが盛り込まれていて、今のところ、多くの人に安心感を与えるだろうと述べました。

また、今回の交渉が合意にいたった要因として「日本は追加の関税措置なしでは済まないという現実を受け入れる必要があった。最終合意に至るには参議院選挙を乗り越える必要があったことは明らかだった」と述べ、選挙後でなければ日本側が最終的な提案をできなかっただろうと分析しました。

ベッセント財務長官が先週、日本を訪れ、石破総理大臣などと会談したことについて「その時点で相当実質的な協議が行われたに違いないと思う。あの訪問は日米どちらの側も説明している以上に重大な意味を持っていたと思う」と述べてベッセント長官の日本訪問が交渉において重要なカギとなったという認識を示しました。

そのうえでビーマン氏はトランプ政権が日本を含む各国との合意を相次いで発表していることについては他の国に対して圧力をかけるための戦略の一部になっているとも指摘しています。

◆アメリカ これまでの各国との関税合意

アメリカは関税措置をめぐる交渉で、これまでに、イギリス、ベトナム、インドネシア、フィリピンと「合意した」と発表しています。また、中国とは関税率を大幅に引き下げることで合意したうえで、一部の関税を一時停止し、貿易協議を続けています。

【イギリス】
イギリスとの合意は5月初旬に発表され、イギリスで生産された自動車の輸入については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとしています。鉄鋼製品やアルミニウムへの50%の追加関税については、イギリス政府によりますと英米合意で関税を免除される唯一の国となったとして、合意どおり関税0%に向けて前進していくとしています。

【ベトナム】
ベトナムとは7月初旬にトランプ大統領がSNSですべての輸入品に対して20%の関税を課すという内容で合意したと発表しています。ことし4月に発表されたベトナムへの相互関税などは46%で、実現すれば大幅な引き下げとなります。この発表を受け、ベトナム外務省の報道官は最終的な合意に向けた詰めの作業を進めると明らかにしています。

【インドネシア】
インドネシアとの間では7月中旬にトランプ大統領がSNSで、交渉の合意を明らかにしました。そして22日、ホワイトハウスは貿易協定の枠組みについて合意したと発表し、アメリカ製品のインドネシアへの輸出にあたっては、農産物や自動車製品など99%以上の品目について関税障壁が撤廃されるとしています。そしてインドネシアへの相互関税などは、19%となっています。ことし4月に発表された関税率は32%でしたが、大幅に引き下げられることになります。

【フィリピン】
フィリピンとの間では7月22日、トランプ大統領はワシントンを訪れたマルコス大統領と会談しました。会談後、トランプ大統領は「合意した」とSNSに投稿し、アメリカはフィリピンからの輸入品に対して19%の関税を課す一方、フィリピンはアメリカに市場を開放し、関税を撤廃すると明らかにしました。ことし7月にトランプ大統領が書簡で示した関税率は20%でした。

中国メディアも速報で伝える

アメリカの関税措置をめぐる日米交渉が合意したことについて、中国でも多くのメディアが速報で伝えています。

国営の新華社通信は「日本はアメリカの主要な貿易相手国の1つで、両国はこれまで貿易赤字や為替、自動車市場への参入をめぐり貿易摩擦が生じてきた」と指摘したうえで、トランプ大統領が自身のSNSへの投稿で合意について明らかにした内容を伝えています。

中国共産党系のネットサイト「環球網」は、赤澤経済再生担当大臣が「任務完了しました」と、SNSに写真付きで投稿したメッセージを紹介しています。そのうえで、「結局丸め込まれたのか?」などSNSに日本語で投稿されたコメントを引用し「一部のネットユーザーは日本がアメリカに大幅に譲歩したとして不満を抱いている」とも伝えています。
中国外務省報道官「貿易協力の環境維持を」
アメリカの関税措置をめぐる日米交渉が合意したことについて、中国外務省の郭嘉昆報道官は23日の会見で「中国は一貫して、各国が平等な対話と協議を通じて意見の違いを解決し、経済、貿易における良好な協力環境を維持するよう主張している」と述べ、原則的な立場を強調しました。

韓国メディア「劇的な妥結だ」韓国は今週協議へ

韓国メディアは、相次いで速報で伝え、このうち、通信社の連合ニュースは「劇的な妥結だ」と伝えています。

韓国は、アメリカのトランプ政権から当初の日本と同様に、8月1日から輸入品に25%の関税を課すと通知されていて、期限が迫る中、ク・ユンチョル副首相兼企画財政相らが今週アメリカを訪問し、ベッセント財務長官らと協議を行う予定です。韓国大統領府の報道官は、23日の記者会見で「協議において、韓国の国益をさらに探るために努めると聞いている。私たちの交渉に参考になる部分があれば参考にしたい」と述べました。

有力紙の中央日報は「今週後半は、韓国にとって通商外交の分水れいになるだろう」と指摘しています。

また、自動車産業をめぐり、日本の自動車メーカーの株価が上昇したことも報じられていて、連合ニュースは「韓国としても、アメリカに対する最大の輸出品である自動車の関税を下げなければならないという宿題を抱えている。今後の関税交渉で、非関税障壁の撤廃などアメリカ側の要求が激しくなるという見方がある。韓国と産業構造が似ている日本が『成果』を出したことで今回の合意の詳しい内容にも関心が集まっている」と伝えています。

【解説】今回の合意 背景は

経済部 池川陽介デスク解説(日本時間午前10時)

動画は2分11秒。データ放送ではご覧になれません。

ワシントン支局 記者解説(日本時間午前8時50分)

(ワシントン支局 小田島拓也記者)
Q.日米交渉、なぜ合意したのか?

A.トランプ大統領が、日本の提案を評価したということに尽きると思います。トランプ大統領はSNSで「最も重要な点は日本が自動車や農産物などの貿易を拡大することだ」と強調していて、貿易赤字、貿易の不均衡の解消につながると判断したものとみられます。
トランプ大統領は来月1日から日本からの輸入品に25%の関税を課すことを明らかにし、交渉の関係者は、最後通ちょうを突きつけた形だという見方を示していました。
その期限が迫りトランプ大統領が日本に対して圧力を強めるような厳しい発言を繰り返す中、日本との交渉を担うベッセント財務長官が18日に石破総理大臣と会談。終了後にはSNSに「日米双方に利益のある形での貿易の合意は依然として実現可能な範囲にある」などと投稿し、合意は可能だというメッセージを送っていました。

交渉がまとまらずに来月1日、関税を発動することになれば金融市場が再び混乱する恐れもあり、主要な貿易相手である日本をはじめ、ほかの国との交渉を急ぎたい思惑もトランプ政権側にはあったものとみられます。

国際部 デスク解説(日本時間午前8時30分)

(国際部・豊永博隆デスク)
Q.日米交渉の合意、これまでに入っている情報を整理してほしい。

A.トランプ大統領は自身のSNSには大規模な合意、日本はアメリカに5500億ドルを投資する、数十万の雇用を創出するとしている。そして自動車、トラック、コメ、その他、農産物などで国を開放するとして、相互関税は15%だとしている。これが一律関税10%と上乗せ部分の合計なのか、詳細はまだ分からない。日米で協議してきた内容がアメリカの貿易赤字削減、そしてアメリカの製造業復活につながるものだとトランプ大統領が評価したものだとみられる。詳細はこのあとの大統領の発言やホワイトハウスから発表される文書を確認しないといけない。

Q.今後のスケジュールは?
A.今後はホワイトハウスからの大統領令やなんらかの合意文書などの発表があるはずでそれを待ちたい。合意によって8月1日の関税期限がなくなるものとみられるが、そのあたりもなんらか発表があるかもしれない。

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