大学院教育を充実させても、その先のキャリアが見通せないようでは優秀な人材は集まらないだろう。まして、留学生の研究に壁を作るような姿勢は認めがたい。
文部科学省は本年度の新規事業として、「世界トップレベルの大学院教育拠点」の創出に19億円の予算を充てた。国際化や産学連携を進め、質の高い博士人材を育てるのが狙いという。
通常6年かかる学士と修士の修業期間を5年で終えられる制度の創設も、議論を進めている。
日本の博士号の取得者数は減少傾向が続く。2023年度の大学院博士課程への進学者は約1万5千人で、20年前から約2割も減った。人口当たりで欧米の主要国や韓国と比べると、最も少ない。
博士が敬遠される背景には、その後の研究ポストの少なさと不安定な雇用環境がある。国立大は04年の法人化以降、人件費などに充てられる運営費交付金の削減が続き、教員数も減少している。支給期間の限られた補助金が増えたため、任期付きの研究職を渡り歩く「ポスドク」も少なくない。
出口のデザインをおざなりにしたまま、場当たりに「大学院重点化」を進めた国の責任は重い。
ここにきて文科省は、博士号取得者を採用した企業の税額を優遇するなど、産業界の受け入れを促す働きかけも強めている。
京都では、京都大と島津製作所が連携し、修士課程を終えた院生が社員の身分を得た上で、博士課程に進学できる仕組みを設けた。
ただ、現状では博士人材を積極採用する企業は、研究部門がある製造業やIT関連などの一部にとどまる。政府が本腰を入れるべきは、基礎研究から最先端の技術開発までを担う大学での安定的な受け入れを広げることだろう。
一方で文科省は、博士課程の院生に支給している生活費の対象を日本人に限る方針を固めた。昨年度の受給者の4割が、中国出身者を中心とする留学生だったことが国会で問題視されたためとみられる。「大学院の国際化」を目指すとしてきた従来方針と矛盾する。
大学研究の多くはチームで行っており、日本人の大学院生が少ない中、留学生が国内の研究を下支えしている面は大きい。
排外主義と大学への圧力を強める米国のトランプ政権の動きにあおられたかのような転換は、国内外に誤ったメッセージを送ることになりかねない。日本の研究力や大学活力の低下を招く恐れもある。撤回すべきだ。