法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

 違憲状態の3期目をつとめる米国大統領に半数近くの州が離反し、カリフォルニアとテキサスの連合軍などが政府軍を制圧しつつあった。フォトジャーナリストとして戦時下の街を取材していたスミスに、憧れているという若い女ジェシーがついてくる。リーはもともと同行していた男性記者ジョエルや、師匠の老人サミーとともに、陥落間近のワシントンへ取材旅行に向かうが……


 2期目のトランプ大統領が生まれる直前に公開された、2024年の米国映画。『28日後…』*1の脚本などで知られるアレックス・ガーランドが監督および脚本をつとめた。

 インディペンデント系ながら評価を高めてきたA24の製作で、おそらく戦争映画としては低予算だが、現代米国を舞台とした内戦描写は充実している。ジャーナリスト視点のロードムービーであるため、戦場の全景はVFXをつかった短いカットですませ、戦場や兵士は主人公まわりの数人を描写すればすむのだろう。
 現代的なスタジアムが難民キャンプになっていたり、都市部の現代的な住宅地で迫真の銃撃戦がおこなわれたりと、アクション重視の架空戦争映画としては見ごたえがあった。ジャーナリスト視点の映画だけあって設定のわりに撮影にはリアリティがあり、ホワイトハウスを舞台とした近年のB級アクション映画*2のなかでクライマックスは最も緊張感があった。


 しかし映像の肌触りにリアリティがあるだけに、あまりにリアリティのない設定がアンバランスな問題はある。たしかに現実のトランプも3期目に色気を出しているが、抵抗をつづけようとするのは左派だけで、最初は難色をしめしても右派は結局は権力になびいていく。
 ジャーナリスト視点のロードムービーであることや、現代的な都市部での戦闘、序盤の都市の空撮といったビジュアルなどで、最初は実話にもとづく『タクシー運転手 約束は海を越えて』*3を連想したが、クライマックスなどでバカバカしいアクションを見せつつも実話が基盤という安心感がない。
 次に似た作品としてホームインベージョンホラーの舞台としてディストピア米国を設定した『パージ』*4も思い出したが、そのようなB級ホラーならではの寓話として解釈するには大作すぎて真面目すぎる。
 もちろん、北朝鮮軍に米国が支配される『レッド・ドーン』のような説得力も寓意性も感じられないような作品とは比較にならない。主人公たちがさまざまな危険に直面するさまざまな出来事だけでアクション重視のロードムービーとしては見ごたえがある。
 やがて愚かな支配者にジャーナリストが会おうとする展開から、ベトナム戦争作品のようで別の物語を描いた『地獄の黙示録』に近い作品と気づけたことで、ようやく寓話として楽しむことができた。主人公側の稚拙な行動も許容できるようになった。
 元となった小説『闇の奥』がジャングルの奥地で未開人たちの長になった白人を描いたように、『地獄の黙示録』はベトナムの奥地で王国をつくった米軍大佐を描いていた。それらの支配者になぞらえるようにワシントンの奥地でホワイトハウスに隠れた大統領を描いたとすれば、実は現代の米国こそが本当に未開で野蛮ということではないだろうか。


 そうした米国の野蛮が特にわかりやすいのが、赤サングラスをかけた男による検問場面だ。先述の『タクシー運転手 約束は海を越えて』や、現実の内戦虐殺を舞台とした『ルワンダの涙』*5でも検問は緊張感ある印象深い場面だったが、この映画の検問はその場面の評価が高いことにうなずける緊張感と、それが一見すると弛緩した空気でおこなわれる居心地の悪さに満ちていた。
 そして赤サングラス男の、どの種類の米国人か?という問いかけは、そのまま国籍をつかった人種至上主義者の欺瞞を浮かびあがらせる。映画では出身地が理由で殺され、米国籍をもつかどうかは気にされない。「日本人ファースト」をかかげている参政党が、帰化しても三代まで参政権をうばおうとしているように。
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帰化した日本国民については、先ほど述べたように孫の世代まで公務に就くことが認められず、曾孫の世代で初めて公務就任が可能となります。つまり公務員や議員にはなれないということです。