MAMOR 最新号

9月号

定価:780円(税込)

 防衛省は自衛官としての任期を終えて民間会社などに就職する人材を「自衛隊新卒」と呼んでいます。自衛隊新卒は、在隊時に身に付けたスキルで即戦力として活躍できるといわれています。では自衛官はいったいどのようなスキルを身に付けているのか? お笑い芸人として活躍する元自衛官に話を聞いてみました。

体に染み込んだ“礼儀”は一生の宝です(やす子)

【お笑い芸人 やす子】
1998年山口県生まれ。2017年入隊。施設科隊員として京都府の大久保駐屯地の第3施設大隊に所属。ドーザ手(ブルドーザーのオペレーター)として勤務。19年に陸士長で退職後上京し、清掃員の仕事を経てお笑い芸人の道へ。劇場でのライブのほか、テレビやドラマでも活躍中。現在は即応予備自衛官としても活動中。

 開口一番、「社会人としての良識の全てを、自衛隊で教えていただきました」と話すやす子さん。

「当時の上官や先輩方はストイックな努力家ばかりで、私は心から尊敬していました。ですから、言われたことに『はい!』と返事をし、背筋を伸ばして話を聞き、ドアを先に開けて見送るなど、尊敬の気持ちを態度で表すことを義務と感じたことはありません」と続けて話す。

「礼儀正しい振る舞いが身に付いたおかげで、今でも無意識に体が動きます。先輩芸人からほめていただくことも多く、この習慣は一生の宝ですね」

大きな声でのあいさつは芸の基本につながります

自衛官時代の写真(本人提供)

 自衛官時代はたくさん叱られたと振り返るやす子さん。

「部下の成長のため、あえて厳しい言葉で、本気で指導してくださいました。その気持ちが伝わるから、訓練のとき『どうしたら相手の気持ちに応えられるか』を真剣に考えました」

 その結果として得られたのが「観察力」や「先を察知する力」だと話す。

画像: 事務所が運営する劇場や動画サイトなどで公演を行うやす子さん。自衛隊ネタだけでない、新規ネタも考案し日々お客さんを前に披露している

事務所が運営する劇場や動画サイトなどで公演を行うやす子さん。自衛隊ネタだけでない、新規ネタも考案し日々お客さんを前に披露している

「今は毎日お笑いの現場に立っていますが、その場の空気を読んで、『自分は今、何を求められているのか』を判断できるのは、自衛隊で培った特技です。大きな声を出せるようになったのも、自衛隊の訓練のおかげ。

 上官に『大きな声で簡潔に報告しろ』と教わり、劇場でもよく声が通りますし、今のネタ作りに役立っています。私の芸人としてのスキルは、全て自衛隊で身に付けたものと言っていいかもしれません」

仲間との連携を意識するのは部隊でも舞台でも同じです(トッカグン小野寺)

【お笑い芸人 トッカグン小野寺】
1983年宮城県生まれ。2001年入隊。第2特科群第110特科大隊に所属し宮城県の仙台駐屯地で勤務。203ミリ自走りゅう弾砲の射撃操作などを行う砲手として活動。03年に陸士長で退職し、08年に元自衛官の同級生とお笑いコンビ「トッカグン」を結成。20年にコンビを解散し、現在はソロユニットとして活動中。予備自衛官としても活動している。

 元自衛官の相方とのコンビを解散し、今はピン芸人となった小野寺さん。だが基本的なスタンスはコンビ時代と変わらないそうだ。

「芸名の由来でもある火砲などを取り扱う部隊にいました。私が取り扱っていた203ミリ自走りゅう弾砲は1人では動かせないため仲間との連携が大事です。効率よく動かせるよう、みんなでやり方を工夫して訓練をしました。お笑いの現場も、共演者のキャラを把握し、動きを読み、盛り上げるために工夫するなど自衛隊の訓練で得たスキルが生かせていると思います」と教えてくれた。

画像2: 自衛官時代の写真(本人提供)

自衛官時代の写真(本人提供)

「自衛隊では集団生活をして、同僚は命を預け合う仲間なのでコミュニケーションが重要です。それはどの世界でも大切なことですし、自衛隊時代に覚えた経験が活用できるのは自信にもつながります」

人間関係の形成にも自衛隊の経験が生かせます(フルーツポンチ 亘健太郎)

画像: 人間関係の形成にも自衛隊の経験が生かせます(フルーツポンチ 亘健太郎)

【お笑い芸人 亘健太郎(フルーツポンチ)】
1980年神奈川県生まれ。99年に航空自衛隊に入隊。第3航空団整備補給群装備隊・武器小隊員として青森県の三沢基地で勤務。2004年に空士長で退職。同年、コンビ「フルーツポンチ」を結成。ツッコミ担当として舞台やテレビなどで活動中。現在は予備自衛官としても活動している。

「お笑いという自衛隊と全く違う世界に入りましたが、周りの方への礼儀や気配りなど、人間関係を築く上で経験が生きているなと感じます。社会人の基本かもしれませんが、自然と身に付いていたんだと自衛隊を辞めてから気が付きました」

画像3: 自衛官時代の写真(本人提供)

自衛官時代の写真(本人提供)

 先述のトッカグン小野寺さんをはじめ、元自衛官同士の共演も多い。

「元自衛官芸人は楽屋をきれいに使うんです。整理整頓もスキルといえますよね」と亘さん。自分では当たり前にしているが、思い返せば自衛官時代の経験が生きていると感じていることもある。

「訓練では同じことを繰り返すので異変に気が付きやすい。お笑いの現場でも一瞬の変化を見逃さずにツッコむといった“気付き”が大きな笑いになることもあります。気付く力も付いていたんだと思います」

(MAMOR2021年10月号)

<取材・文/MAMOR編集部>

入隊して得たスキルが役立つ!

 ゲリラやテロリストとの闘いから一変、国同士の正面衝突というひと昔前の戦争と同じ様相を呈しているロシアによるウクライナ侵略。

 ドローンや各種ハイテク兵器など新しい装備品も登場し、転換期を迎えている世界の防衛産業。その実態を軍事技術に詳しい井上孝司氏に聞いた。

欧米企業が上位を占め、中国の防衛産業が急上昇

2022年の軍事費の割合(アメリカドルで換算した主要国のシェア率)。アメリカが約40パーセントを占め、圧倒的な世界シェアとなっている SIPRI調査を元に編集部で作成

 東西冷戦の終結で軍縮や予算削減が続いてきた世界の防衛産業が、2022年に勃発したウクライナ戦争や23年のイスラエル・パレスチナの紛争などで注目され始めた。

 軍事関連の調査研究を専門に行うストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のリポートでは、22年度に世界で最も軍事費が多いのはアメリカの約118兆円で世界全体の39パーセントを占め、次いで中国が約39兆円で13パーセント、ロシアが約12兆円で3.9パーセントとなっている。日本の防衛関係費は約6兆円で世界第10位だ。

2022年3月、防衛省はウクライナへの支援として非武器である防弾チョッキを提供。ウクライナはロシアの侵略以降、大量の装備品支援を受け世界4位の装備品輸入国となった

 また防衛関連企業の売上高に目を向けると上位は欧米企業が占めている。SIPRIの調査では1位はロッキード・マーティン社の約633億ドル、2位はRTX社(注)で約396億ドル、3位がノースロップ・グラマン社の約324億ドルとアメリカ企業が続くが、「4位の中国航空工業集団、8位の中国兵器工業集団、10位の中国南方工業集団と10位内に中国企業が3社入っている。中国は国ぐるみで軍事企業を拡大させています」と井上氏。

世界の主な防衛産業企業

画像: ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調査を元に編集部で作成

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調査を元に編集部で作成

世界の主な防衛産業の企業と本社所在地。円の大きさは売上(2022年)の大きさを示す。アメリカ、中国、ヨーロッパの企業が上位を占める。

世界の軍事支出の推移

画像: 『令和6年版 防衛白書』を元に編集部で作成

『令和6年版 防衛白書』を元に編集部で作成

1998年から2024年までの主要国の軍事費推移(倍率は1998年と2024年の比較)。各国とも支出は増えているが中国の拡大が著しい。

合併と吸収を繰り返し専業化と巨大化が進む

画像: アメリカのメリーランド州に本社を置くロッキード・マーティン社。合併や吸収を繰り返し、世界有数の航空宇宙・防衛企業に成長した

アメリカのメリーランド州に本社を置くロッキード・マーティン社。合併や吸収を繰り返し、世界有数の航空宇宙・防衛企業に成長した

 現在の防衛産業のトレンドは大きく2つあると井上氏は語る。

「1つは大手企業の専門専業化で、1990年代からM&Aで選択と集中が進みました。もう1つは航空機や艦船など装備品そのものよりも、搭載する機器類が注目されています」

 21世紀に入り装備品のハイテク化、複雑化と開発・製造コストの上昇が続き、大手防衛企業は、専門性の高い企業との合併などで巨大化。得意分野を鮮明に打ち出し、それまでの百貨店的な業態から巨大専門店へと変貌を遂げている。

「例えばロッキード・マーティン社は、戦闘機や航空機用の各種ミサイルは手掛けていますが、陸上装備品はあまり製造しておらず航空機に強い。

 そして情報通信、宇宙、サイバー、無人機などの分野へは、グーグル、アマゾンなどの大手IT企業からスタートアップ企業まで、従来の防衛産業とは異なる業種からも参入し、有望な新進企業を大手が吸収する構図になっています」と井上氏は続ける。

深化する国境を越えた企業間のネットワーク作り

画像: 2023年12月、木原稔防衛大臣(当時、写真中央)はグラント・シャップス イギリス国防相(右)、グイード・クロセットイタリア国防相との間で、次期戦闘機の共同開発に関する政府間機関の設立に関する条約を締結し、協力関係を深めた

2023年12月、木原稔防衛大臣(当時、写真中央)はグラント・シャップス イギリス国防相(右)、グイード・クロセットイタリア国防相との間で、次期戦闘機の共同開発に関する政府間機関の設立に関する条約を締結し、協力関係を深めた

「防衛産業でM&Aが行われる背景には企業の生き残り戦略もありますが、航空機や戦車といった装備品より、そこに搭載する電子機器やセンサーなどが価格的に高くなっている現状も影響しています」と井上氏。

「1社で全てを完結して生産するより、ある企業が生産した機器をさまざまな航空機メーカーの機体に搭載したほうがコストや納期などの点で効率が良い。日・英・伊で共同開発される次期戦闘機のように、国境を越えた国際分業もやりやすい」と新たな潮流を説明する。

「製造コストが上昇したため複数の企業でリスクと経費を分担し、みんなで作ってみんなで買う構図です」

 現在、防衛産業は世界的に成長期にあるという。ウクライナ戦争以降、各国とも平時から備えが必要だという認識が出てきたためだ。「装備品の生産を通じた国際ネットワークは、盛んになると思われます」と井上氏は予想している。

(注)旧社名はレイセオン・テクノロジーズ。アメリカのバージニア州に本社を置く航空宇宙・防衛企業

井上孝司氏

【井上孝司氏】
軍事研究家、テクニカルライター。主な著書に『現代ミリタリー・ロジスティクス入門』(潮書房光人新社)などがある

(MAMOR2025年3月号)

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

<文/古里学>

どうなるどうする日本の防衛産業

 日本を含むインド太平洋地域の国々に繁栄と安定をもたらすべく、日本が提唱した外交方針「自由で開かれたインド太平洋(略称:FOIP<Free and Open Indo-Pacific>)」。その実現の一環として、24年6月に行われたのが「乗艦協力プログラム」である。

 毎年内容を変えて行われており、2024年度は6月20日にグアムを出港して26日に横須賀へ入港、そして東京、横浜でも研修を実施するトータル11日間のコースが組まれた。

 マモル特派員は護衛艦『いずも』に同乗。航海の最後に、各国からの参加者に「乗艦協力プログラム」の感想と、今回の経験を今後どう生かしていきたいかをインタビューした。

 代表して東ティモール、シンガポール、サモア独立国、パプアニューギニア、ラオスのシップライダーたちの生の声をお届けする。

東ティモール:今回の交流を生かして、各国との「架け橋」になりたい

【東ティモール国防軍海軍 ヌノ サンチェス・ダ コンテイサオ少尉】

「今回のプログラムの中で特に参考になったのは、各国の紹介や課題発表です。私自身プレゼンするにあたって、東ティモールは小さな国であり、自分の国にばかり多くの問題があると考えていましたが、太平洋島しょ国各国、そのほか東南アジア各国にもそれぞれ悩み、問題があることを知ることができ、とても勉強になりました。

 この航海を機に、私自身が、私の国と、今回交流を深めた各国との架け橋になりたいと思っています。今回のシップライダープログラムで『いずも』に乗せていただいたことに感謝します。本当にありがとうございました」

【東ティモール民主共和国】
2002年、インドネシアから独立。海上兵力は強化中であり、総人員は250人規模。艦艇は哨戒艇3隻。24年にオーストラリアから2隻の艦艇を導入予定

サモア独立国:IUUは地域共通の問題。近隣諸国との協力を深めたい

【サモア警察 ティロマイ マリリン・ガトロアイ巡査】

「この航海を通じて、IUU(注)が地域諸国の抱える共通の課題であることを知ることができたのはとても大きかったです。このプログラムは、多くの国々からの参加者と知見を共有できる貴重な場でした。

 サモアに帰り、得た情報を紹介することによって、自国の課題解決への助けにしたいと考えます。特に、人的、物的、金銭的な各種リソースの不足が、サモアの課題解決への障害となっている現状、これを改善するため、近隣諸国や各組織とのパートナーシップ、助け合いを通じて、海洋安全保障に関わる問題に取り組むことの重要性を理解しました」

(注)IUU=Illegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)の略で、「密漁」をはじめとする不法な漁業のこと

【サモア独立国】
軍隊はなく、有事にはニュージーランドが支援する。国家警察であるサモア警察に海上部門があり、オーストラリアから供与された哨戒艇などを保有する

シンガポール:貴重な機会に感謝。地域諸国による共同対処強化を

【シンガポール海軍 ナターシャ・ウォン ユン テン大尉】

「まずは、防衛省・自衛隊がこのような貴重な機会を与えてくださったことに感謝します。プログラムの全てが貴重で役に立つものでした。

 海賊対処など、共通の脅威に対しては、地域間諸国における共同対処が重要であることは言うまでもありません。自国に戻ってからは、本プログラムで得た知識、例えば国際海洋法条約など、さまざまなことを意思決定の場で活用できるよう努めていきたいと考えます。

 私たちは引き続き、共通する海洋安全保障上の課題に立ち向かうべく、志を同じくするパートナーとの協力を強化していきます」

【シンガポール】
フリゲート艦や潜水艦などを保有。2009年、チャンギ海軍基地にIFC(情報融合センター)を設置し、同志国との情報共有を通じて海洋安全保障の維持強化を図っている

パプアニューギニア:各国の課題点を共有、再確認。近隣との連携強化を進言したい

【パプアニューギニア国防軍海上部門 ペドロ チャラキ・ダリッド士官候補生】

「乗艦中、多くの日本文化に触れられたこと、そして参加メンバーを通じてほかの国の文化にも触れることができ、大変有意義でした。各国の海軍、海上警察が抱える課題を知ることができたのも興味深い点です。

 特に、海賊やIUUが共通の問題として認識されていることを確認できたことはとても大きな収穫です。帰国後は、本プログラムで得た知識を、領海やEEZ(注)における実際の哨戒活動に生かすとともに、近隣諸国との共同の取り組みをさらに増やすよう、上層部に進言していきたいと考えています」

(注)排他的経済水域(Exclusive Economic Zone)。領土沿岸(低潮線)から200海里(約370.4キロメートル)の海域を指し、この領域内にある水産、鉱物資源などの経済的権利を優先できる

【パプアニューギニア】
海軍兵力は200人規模。オーストラリアから供与された哨戒艇4隻を保有。2023年、アメリカ軍との防衛協力協定を締結し、アメリカ軍は6つの拠点を使用可能に

ラオス:普段触れない海軍種の活動を理解。幅広い交流ができた

【ラオス人民軍陸軍 ケトハム・カウァン大尉】

「全てのプログラムが有意義で、参加することによって知見が開けました。特に、日ごろ関係のない海軍種の人々がどのような活動をし、何に注力しているのかを知ることができたのは大きいと思います。

 また、カンボジア、ベトナムといった近隣諸国はもちろんのこと、普段接する機会が少ない、それ以外の幅広い国々のメンバーと交流を持てたことを、とてもうれしく思います。ラオスに戻って、今回、自分が得たものを共有したいと考えています」

【ラオス人民民主共和国】
内陸国のため海軍を持たないが、陸軍に河川部隊があり、メコン川などで警戒を行う哨戒艇を保有している。ちなみに内戦で消滅した旧ラオス王国には「海軍」があった

海上自衛隊を代表する艦、『いずも』乗組員の誇り

 また、護衛艦『いずも』の中心人物たちに、今回の「乗艦協力プログラム」を受け持つにあたっての心構えや準備における苦労、さらには『いずも』の今後について尋ねた。

護衛艦『じんつう』、『おおなみ』、『きりしま』各艦長を経て2024年5月から『いずも』艦長を務める石寺1佐。人を思いやる心と任務完遂を追求する姿勢を部下に求める

 ゲストを迎える立場から艦長・石寺1等海佐は、その意義を次のように述べた。

「本プログラムを通じて、海洋秩序の維持、インド太平洋地域の繁栄と安定に寄与できることは非常に光栄です。乗組員一同、各国の背景を理解、尊重し、一人ひとり丁寧におもてなしすべく、準備をしてきました。私自身、参加者との絆を深める機会を得たことは大変うれしく思います」

 さらに石寺艦長は、乗組員が中心となって企画したイベントについても、「日本を知ってもらうことで、利害関係を超えた人と人とのネットワークを作ろうと、乗組員も積極的に協力してくれました」とも語った。

護衛艦『しらぬい』を経て『いずも』乗組員になった砲術士の富永2尉。立入検査隊の指揮官補佐も兼務。本プログラムでは広報係補佐として準備に奔走

 さらに、砲術士の富永2等海尉は、各プログラムの運営にあたって気を配った点について話してくれた。

「一番は安全、かつ快適にゲストが過ごせるように取り計らうことを重視しました。今回、訓練を行いながらの接遇となりましたので、安全管理や保全管理に万全を期し、ゲストが不便のないよう、また乗組員も交流しやすいようにサポートしました」

護衛艦『きりしま』、『はるさめ』、『たかなみ』を経て、『いずも』のぎ装員になった伊藤曹長。以来、『いずも』に乗り続ける生き字引的存在

『いずも』の曹士をまとめる立場の先任伍長・伊藤海曹長は、交流プログラムを通じて乗組員にも成長を促したかったという。

「知識で知っているのと、実際に触れ合って知るのとでは大きく違います。各国のシーマンたちと直接会って話して、肌で感じ、視野を広げてほしい。そのために、交流プログラムの開催時間など、乗組員にも積極的に関わってもらうための工夫をしました」

 このプログラムの成功は、主催した防衛省スタッフはもちろん、協力を惜しまなかった乗組員たちの助力があってのこと。そして護衛艦『いずも』は、次なるステージへ向かう。石寺艦長は語る。

「年度内には、F−35B戦闘機を搭載するための第2次改修が予定されています。『いずも』は海自を代表する艦として常に国民の皆さまからの期待も大きいものと理解しています。今後もそれに応えられるよう、乗組員一同、努力を続けます」

自衛官の苦労を味わえた航海後記

 航海中一番の楽しみは食事。毎食メニューも工夫され、味はどれもおいしかった。体を動かす隊員に合わせてなのか、少し味が濃いめのものが多かった印象。割り当てられた部屋は幹部用で、2段ベッド2台の4人部屋。風呂は「海水風呂」で、思った以上にしょっぱいが、とても温まる。

 ただ、最後に軽く真水のシャワーで流さないと少しべとつく。トイレは、使用後バルブをひねって海水を流す以外、陸上のトイレと変わりない。そして何より印象的だったのが艦上からの眺め。太平洋のど真ん中、水平線上には陸地もほかの船も全く見えない。爽快感と同時に寂しさも感じた。

 乗組員の日々の苦労とちょっとした楽しみ、両方を味わえた航海だった。彼らの献身で、日本の海は守られているんだなと、改めて実感した。

(MAMOR2024年11月号)

<文・写真/臼井総理>

マモル特派員が見た笑顔あふれる艦上交流

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

 かつて入間基地で撮影するときに、「あの機体は写らないようにしてください」と自衛官に注意されることがあった。指さす先には、異様な形状をした巨大な飛行機があり、その詳細は航空自衛隊の主要装備一覧にも掲載されていない。

 今回、そのシークレット装備をマモルがスクープし、全容を明らかにする。

輸送機「C-1」の機体を電子戦の仕様に改修

 一部のマニアには「カモノハシ」という愛称で知られている、この異形の航空機は、航空自衛隊の電子戦機EC-1(以降EC-1)だ。

 川崎重工業が開発した国産輸送機C-1の機体をベースに、主に電子戦の訓練用航空機として、1機のみが改造された。入間基地(埼玉県)に所在する航空戦術教導団電子作戦群の電子戦隊が1986年から運用しているが、電子戦に関する情報は、空自はもとより世界各国においても秘匿性が高いため、これまではその存在が公にされることはなかった。

 EC-1は飛行しながら電波を傍受したり、その電波を識別して情報収集を行ったり、電子戦の訓練支援などでは妨害電波の発信なども行う。そのため機体にはアンテナや電波妨害装置が各所に搭載されている。外部に露出している器材は、気流や天候などの影響で損傷する恐れがあるため、アンテナ・フェアリング(注・以降レドーム)と呼ばれる外殻で覆っている。

 機首にあるレドームは左右に広がる黒い膨らみとなっていて、その愛称で呼ばれる由来だ。また、電波妨害装置のシステムを運用するための操作画面(表示制御コンソール)は、機体の前方に搭載されており、後方には電波妨害装置に関わる器材が積み上げられている。

画像: 輸送機「C-1」の機体を電子戦の仕様に改修

 EC-1のキャビンに設置された、電子戦に使用される操作画面に向かう隊員たち。電子操作の外川3等空佐(写真手前)が各器材の操作員の任務全般を指揮し、目標に対して妨害電波を発信する「ジャミング」を実施する訓練を行う。

 なお、機内の暗い状態での作業に目が慣れるようにするため、表示制御部では赤い照明灯が使用されている。

これが電子戦機EC‐1だ!

画像1: これが電子戦機EC‐1だ!

 世界で唯一の電子戦機であり、“珍機”ともいわれるEC-1。航空自衛隊の公式ホームページなどにもその情報が公開されていない機体だ。今回の取材ではEC-1の実態にできうるかぎり肉薄し、その装備を紹介する。

1.胴体底にある受信用アンテナ

 胴体中央の底部には、小さな受信用のアンテナを装備、それをレドームが覆っている尾翼付近にある、後方に向けたアンテナ。尾翼の下には、機体の後方の目標に向けて妨害電波を発信するアンテナがあり、それを大きなレドームが覆っている。

2.尾翼付近にある、後方に向けたアンテナ

 尾翼の下には、機体の後方の目標に向けて妨害電波を発信するアンテナがあり、それを大きなレド
ームが覆っている。

3.機体側面には複数のアンテナ

 胴体両サイドの前方(写真上)と後方には、機体前方や側面、後方の目標に向けて妨害電波を発信するアンテナがあり、レドームが覆っている。

4.コックピット両脇にあるモニターパネル

 コックピット内は正操縦士、副操縦士、その後方に機上整備員航法士の4人を配置。左右前方には発信する妨害電波や、敵から発信される妨害電波の状況を確認することができる小型のディスプレイ、ECMモニターパネルが設置されている。

 コックピット内には、電波状況を確認できるECMモニターパネル(写真は左側)が設置されている。

5.機体の大部分に電子戦器材を搭載

 機体の後方には、収集したデータを記録する機器や周波数変換器など多くの器材を搭載しているため、機体の総重量はC-1に比べ大幅に増えている。

6.機首にも妨害電波発信アンテナを装備

 機首にある大型のレドームの中には、前方の妨害電波を発信するアンテナや気象アンテナなどがある。レドームの表面にある白い筋は被雷した際、そのエネルギーを逃がすための装備。機首下部にある開口部は空気取り入れ口となっている。

(注)アンテナ・フェアリングは、レーダー・アンテナを保護するためのドームで覆われていることから一般的にはレドームと呼ばれている 

<文/魚本拓 写真/荒井健>

世界に1機だけの電子戦機を独占スクープ!

(MAMOR2025年4月号)

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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