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【終】だってわたくし、悪役令嬢でしょう?

本編、完結致します。

長らくおまたせいたしました!

王宮の四阿。

王妃のみが使用することを許された、王宮の薔薇園の、更に奥深く。

そこで、お茶会が開かれていた。

座っているのはルナリア。そして向かいに王妃。

ただただ静かに、二人は優雅な、洗練された仕草で紅茶を愉しむ。

音もなく、そっとティーカップを置いた王妃はようやく口を開いた。


「あそこまで、わたくしの愛しい我が子を追い込まなくても良かったのではなくて?」

「……」


ルナリアはちらりと視線だけを向けた。


「わたくしは…本当にルナリアが我が子になるのだとそう思っていたのに…!」


非難めいた口調だが、そんなものルナリアには響かない。

公爵としてルナリアが決意した時点で、あの魔力鐘を鳴り響かせた、あの瞬間に将来の王妃としての道など考えるに値しないものになってしまったのだから。


「よりにもよってあの聖女…」


きっとこの(ひと)は、ルナリアを先代公爵と同一視しているのかもしれない、と確信めいて思ってしまった。

少しずつ追い詰めるつもりだったのに、王への糾弾が心に効きすぎてしまったのだろうか。口調が、もう既に王妃のそれではないのだ。

かつての旧友に話しかけるような、砕けたものとなってしまっている。



──────申し訳ございません、王妃殿下。我が母の友たる貴女様の御心を、壊してしまった。けれど、子が廃嫡されてしまうだなんて貴女にはまともな心があればこそ、耐えられない。だから…。



心の中で謝罪をして、絵姿として残された母の笑みを真似て、優雅に笑って見せた。


「まぁ、愛する者と結ばれるだなんてまるで貴女のようではないの!」


遥か彼方、ルナリアの記憶に残る母の喋り方を、声の抑揚を必死に思い起こしながら続けた。


「育て方を間違えたのならば、もう譲ってしまいなさいな」

「なに、を」

「王子のスペアなぞ、幾らでもいるでしょうに!」


母と王妃の友情関係は時として歪なものであったと、執事のカインから聞いた事がある。

普段は大変仲が良いのに、ふとしたきっかけで罵り合うのだと。とはいえ極めて短時間で、あまり長くは続かない。

仲良くあればあるほど、心の声が漏れやすくなってしまっているのだろうか、と予測してみる。

だがしかし、あの二人は一体どんな付き合いをしてきたんだ、と内心ツッコミを入れながらも、立場は大貴族であった王妃とルナリアの母。

そういう友としての在り方もあるのだろうか、と頭の片隅で考えながらかつての母のように言葉を続けてみた。


「いいのよ、子のやった事は本人に責任を取らせれば。貴女は愛する王と、次代のこの国を見守ればよろしいじゃないの」

「そう、なの、かしら」

「そうよ。今まで十二分に頑張ってきたのだもの。それくらい良いわ、ええ、そうに決まっているじゃない!」


大袈裟に、王妃として今までの努力や功績、そしてこれまでの彼女の存り方などは決して否定をせず、早いところ現在の地位から降りて引っ込め、と言葉に含めて、背中を思い切り言葉で押してやる。

幼子のように考え込んで、迷いに迷った末に『そうね』と、ようやく是の回答を得たルナリアは笑みを深くする。

定期的に会いに行くと伝え、しっかりと手を握り、親友に微笑みかけるようにして、見えない毒を孕ませ侵食させるよう言葉を続ける。


「準備は早々にしなくてはならないわよ?」

「そうよね…早く、えぇ…そう、ね」


悲しげに微笑んだ王妃の様子に、少しだけ胸が痛んでしまう。

幼い頃の記憶が脳内をぐるぐると走る。


迷うな。躊躇もするな。

母の友であろうと、結果としてこの人の子育てが失敗してしまったのは事実。否、この人を含む現王家の子育ての失敗だ。


総入れ替えをしてしまわなければならぬ。

そのためには、まずはこの人が邪魔なのだ。


残りの紅茶を全て飲み干し、立ち上がると少女のように微笑む王妃に一礼し、もうやってくることはないのに『またね』と手を振る。



もう、振り返ることはしなかった。



──────────



「お姉様、どうして養子なんかと言い始めましたの?このソルフェージュに見合うような子なんて、なかなか見つかりませんわよぉ…」

「アリシア、泣き言を言わないの」

「だってぇ…」


「…わたくしのお母様、自分で結婚相手を選んだ結果がこれよ?」


「あ」


己で結婚相手を選び、その結婚相手がやらかしたあれこれ。

それならば、優秀な他の血を入れてしまうのも1つの手段だと、ルナリアは思ったのだが。


「とはいえ、わたくし達が本気を出して探すとなると…この国では難しいのよね…」

「もう他国でも良くありませんこと…?」

「それもまた一考かしら…」


ぼやく二人の少女(とはいえ一人は成人したばかりだが)、そして釣書を読んではほいほいと投げ捨てるファリトゥス。

投げ捨てられた釣書を一纏めにして紐で縛るミトス。

なかなかにシュールな光景が広がっているが、公爵家の使用人達は苦笑いだけを浮かべて片付けを手伝ってくれている。

ルナリアが王宮で告げた『養子』の一言は思いもよらない速度であちらこちらに広まった。

公爵領はもとより、ルナリアと学園で学んでいたものは藁にもすがる思いを持ち、釣書を送り付けてきている者もいる。

シンデレラストーリーのような華やかなものではないと分からないのだろうか。


普通の感覚を持っている人間は、この魔窟のような貴族社会では到底生きていけないというのに。


だが、学園でのルナリアの変わりっぷりを目の当たりにしていた生徒達が一縷の望みをかけて、釣書を送り付けてくるのもそれはそれで理解はできてしまった。


「はぁ…迂闊な事を言うものではないわね…身に染みたわ。わたくしともあろう者が」

「お姉様、休憩いたしましょ!」


「ご準備、出来ております。どうぞこちらに」


執事やメイドが既に用意していたティーセット。

色とりどりのケーキや、シンプルな焼き菓子、季節の果物が綺麗に盛られた皿。

ソファに腰を下ろして座り、ひと息ついて紅茶をゆっくりと飲むアリシアは、ケーキを選んでから思い出したように全員を見渡した。


「そうそう、第二王子は王太子教育を順調にこなされているそうですわ」

「それは何より」

「ファリトゥスのおじさまが後押ししてくれたりしましたものね。第三王子殿下は恙無く我が家にいらっしゃいましたの」


うふ、と嬉しそうに破顔するアリシアが、ようやく年相応の笑みを見せる。


「貴方達はそのまま、うまくおやりなさい」

「えぇ。それに、第三王子ったらあたくしと考え方も似ていらっしゃるの!きっと当家は益々上手くいくわね。ううん、上手くいかせてみせるわ!」


自信満々な、それを叶えるだけの言葉の強さと行動力。

アリシアは選んだイチゴのタルトを切り分けてひとくち食べる。


「で、お姉様はどうなさるの?」

「養子はひとまず置いておこうかしら。とはいえ結婚相手を見つけるのもこれ以上になかなかの難問ではあるわけだし…少し旅でもしてきましょうか……」


「え」

「はい?」


ミトスとファリトゥスがポカンと目を丸くする。


「筆頭公爵家当主が何言ってんだお前は!!」

「ルナリア嬢?!」

「まぁ聞いてくださらない?わたくし達が支持する王家がこれからも続くとは限らないでしょう?今回のようなことは懲り懲りなんだもの、わたくし」

「それ、は。…まぁ、うん…」


思わず言葉に詰まるミトスだが、そもそもルナリアはこの世界が『ゲーム』のまま進んでいったとしても、とんでもなく逸脱した思考回路の持ち主だった事を忘れてはいけない。

悪役令嬢だと言うのであれば、言う通りにしてやろうと宣言したとしても魔王なんぞ、普通は召喚しない。

あくまであれはゲームとして、主人公に都合のいいストーリーだからこそ、ではあるのだが…考えると身震いした。というか、そんなもん召喚できてしまうものなのか、とルナリアから話を聞いた三人は戦慄したのだが、当の本人は『ゲームの筋書き通りにやっていたらそうなっていたんでしょうね』とあまりにあっけらかんとしていたのだが。


現在のルナリアは徹底的に、完膚なきまでにありとあらゆる手段を用いて、魔力に頼ることなく敵を全て潰している。

王家であろうと、己の平和な未来のためならばそれは単なる障害物でしかない。だから、容赦などせずにやり尽くす。


養子の件についてもそうだ。

口からぽろりと出てしまったとはいえ、ルナリアからしてみれば『万が一己に何かあって、公爵家が無くなってしまう事態は避けたい。追い出した兄だった生き物が帰ってこられないように念には念を入れる。だから、自分のような猛者が欲しい。ついでに王家に関わられすぎるのも嫌だから、彼奴らの助けなど借りない』ということらしい。

まず前提条件の『自分のような猛者』がハードルが高すぎる、とアリシアが悲鳴をあげたのだが割愛する。


「現王家に新しい風が吹くのは決定しているとはいえ、わたくしの家はあまり外に出ないから新しいものを取り込めないでしょう?」

「あぁ…」


ソルフェージュは公爵家ではあるものの、他の公爵家と比較してみれば対外的な活動は活発ではないのだ。

言われてみれば、と三家の当主は納得する。


「別にわたくしが外に出てはならない、などという制約はないのだもの。ならば、少しは外のものを取り入れるべく動いてみるのも有りではなくて?」


問いかけてはいるが、ほぼ確定事項としてルナリアが話しているのを三人とも理解している。

勿論、控えてくれている使用人たちもだ。

何も一年や二年、まるっと不在にする訳ではないと伝えてみれば、使用人たちは特に安心していた。

せいぜい数週間、それも二週間がいい所だろう。


実はこのゲーム、続編があったりするのだがその本編ではルナリアが出てきていない。続編は続編でヒロインが出てきてあれやこれやするのだが、マナよりはだいぶマシな性格だったと思う。

悪役令嬢のルナリアがいない時点で、プレイする気は無かったのだが情報だけは仕入れていたのだ。


だから、続編のヒロインと遭遇しないよう気をつけなければならない。

遭遇して、そのヒロインまでもが転生者というものであればろくな結果にならないのは目に見えているのだから。


一作目でいなくなった、表舞台から消されてしまった悪役令嬢が、今まさに生きて生を謳歌しているだなんて。


そんなもの、バグでしかない。


うっかり続編のヒロインに出会ってしまっては、また妙な強制力やらが働いてしまうかもしれない。だから。


「外の国の知識を仕入れて、より良い領地を運営するために…わたくし、少しだけ出かけてきますわ。シナリオをぶち破って、皆様に協力していただいて、ようやく手に入れた未来なんですもの」

「よく言うわ。俺らがいなくてもやり遂げるくらいのメンタル持ち合わせてんだろうが」

「ええ。でも、邪魔な者に対しては全力で嫌がらせをしてさしあげたいじゃない?…謂れもない罪をあれやこれや着せられて、このわたくしが許すとお思いになったの?」

「思いませんわ、お姉様」

「貴女らしい、という他ありませんね」


くつくつ、と三人は笑う。

それにつられてルナリアも優雅に、妖艶に微笑む。


「その人にとっての悪役でも、他の人にとっては悪役令嬢なんかじゃないことを………ただ示しただけなのだけれど……ふふっ、………あぁ……………元王太子殿下も……聖女様も…………この国の唯一たる王も王妃も、全て何もかも…わたくしの邪魔をするだけの()()()()()だったわ………。まさに、彼らにとってわたくしは『悪役令嬢』でしょうねぇ……」


うふふ、と笑ってから紅茶を飲み干して、彼女はゆるりと言葉を続けた。


「でも仕方ないわ。だって…」





「わたくし、『悪役令嬢』でしょう?ならば、望むままに演じて差し上げましてよ。そうして、己の行動を、言動を悔やめば良いのだわ。容赦なんかしてあげないんだから」




さぁ、掴み取った『未来』をこれから始めよう。

ひとまず、これにて本編は終了いたします。

書いては消し、書いては消し、の相当な難産でした…!

もっと色々詰め込みたかったのですが、長くなりすぎると読んでくださる方が疲れ切ってしまうかな、と思ってみたり、書いている側も疲れたりと、色々あるのでこの辺りが落とし所なのかな、と思います。


ですが、書きたい小ネタが少々あるので、番外編として書き連ねていく予定です。

その時はまた、お付き合いくださると幸いです。


ありがとうございました!

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