第13回人々の「被害者感情」肯定で伸びた参政党 民主主義に突きつけた課題

聞き手 シニアエディター・尾沢智史

 参院選の台風の目となった参政党。政治学者の山崎望さんは、参政党が支持された理由を、有権者の不安や被害者感情を「肯定」したことだと考えます。参政党の「躍進」が日本の民主主義に突きつけた課題とは何か。その課題をどう乗り越えればいいのかを聞きました。

 ――参院選で、参政党は大きく議席を増やしました。この「躍進」をどう見ますか。

 「いくつかの要因が重なっていると思います。まず、自民党の右派、すなわち旧安倍派の支持者の離脱です。石破茂政権で主導権を失い、選択的夫婦別姓や改憲、歴史認識で主張を出せない右派に失望し、その受け皿として参政党に流れたところはあるでしょう」

 「『減税ポピュリズム』に乗ったところもあると思います。物価、とりわけ食料品価格の高騰で、不安や不満が広まっている。『手取りを増やす』を掲げた国民民主党をはじめ、多くの政党が減税を打ち出しましたが、国民民主が比例候補擁立のごたごたで一時失速した。そこから離れた人々が減税と社会保障料減額を掲げた参政党へ移ったというところもあったでしょう」

 「とはいえ、一番大きいのは『日本人ファースト』です。インバウンド(訪日客)で、外国人の存在が可視化され、それへの違和感を抱いた人が少なくない。また、動画やSNSを通じて、外国人による犯罪など、フェイクも含んだ『外国人問題』が拡散されました。異文化の流入が可視化されたことへの不安や、体感治安の悪化を感じる人たちにとって、参政党はその被害者感情を否定せず、承認・肯定してくれる存在なのです。『外国人が優先されている政策の結果だ』という物語を与え、『日本人が優先されるべきだ』と主張したことが、支持につながったのでしょう」

 ――参政党は、非科学的な主張や陰謀論に近い主張をしているとも批判されます。

 「反ワクチンや、小麦の有害性を説くなどの要素やスピリチュアルな側面、陰謀論的なグローバル金融資本批判などの要素があるのは確かですが、コアな支持者以外は、必ずしも支持していないのではないでしょうか。少なくとも主要な政策とは見られていない。今回の『躍進』とはあまり関係がないように思います」

 ――参政党の主張は、既成政党への反動や逆張りなのでしょうか。それとも現在の政治に対する、ある種の新しい選択肢と見なすべきなのでしょうか。

 「参政党の主張には自由民主主義(リベラルデモクラシー)の観点からみて、さまざまな問題が存在しています。排外主義的な主張や高齢者を軽視するような主張、国民の権利の制限など、枚挙にいとまがないほどです。しかし、それをどうやって批判していくのかが問題です」

 「選挙期間中にも、参政党への批判はありましたが、その批判の方向性には違和感も覚えました。神谷宗幣代表の『子どもを産めるのは若い女性だけ。高齢の女性は子どもを産めない』という発言は、おおむね性と身体に対する自己決定権を否定する意見として批判されました。しかし、神谷氏は少子化の文脈で発言しています。『高齢の女性』という言い方は差別的にも見える不適切なものですが、仮に閉経後の女性について議論しているならば、医学的には誤りと言いにくい。タブー化された論点に切り込むことで、少子化に対する人々の不安を、目に見えるかたちにしたという見方もできます。性と身体に対する自己決定権は良しとして、では少子化問題にはどう対応するのか、と問うています」

 「神谷氏は、『今まで間違えていたんですよ、男女共同参画とか』とも発言して批判を受けました。男女共同参画は否定すべきではありませんが、神谷氏の発言は、女性が長時間労働に駆り立てられていることに少子化の要因を見いだし、長時間労働を批判しているようにも読めます。女性の社会参加が新自由主義経済にからめとられて、過酷な競争を強いられることは、フェミニズムがずっと批判してきたことでもある。女性の長時間労働への批判という点では共通しているともいえるのです」

 ――部分的には否定しにくいところがあると。

 「神谷発言を批判するなら、その構想全体の実効性を問うべきです。『女性が結婚して家庭に入れば、出産する人は増える』と考えているようですが、共働き家庭と専業主婦の家庭を比較すると、共働きのほうが子どもが多いという研究があります。神谷氏の主張は誤った前提に立っていて、社会構想として現実性がないと批判したほうが、議論がかみ合うものになったのではないでしょうか」

 ――こうした主張を掲げた参政党が選挙によって選ばれるとすれば、社会はどう向き合っていけばいいのでしょうか。

 「民主主義の手続きだけで、参政党的なものをすべて排除するのは難しいでしょう。とはいえ、現在の日本の政治は、自由民主主義に基づいています。民主主義によって参政党が選ばれたとしても、自由主義の観点から批判することは可能です。『参政党的なもの』は、人権の軽視という自由主義に反する主張を含んでいるからです」

 「また、民主主義の手続きによって選ばれたとしても、それは一度の選挙の結果でしかありません。選挙の期間外でも、議論を通じて『参政党的なもの』を変えていくことは不可能ではないでしょう。デモやパブリックコメント、恒常的な与野党への陳情、マスメディアによるフォーラム開催など、さまざまな場での議論を通じて民主主義の力を行使することはできるのです」

 ――参院選での「参政党現象」は、日本の民主主義に何を突きつけていると考えますか。

 「民主主義の危機だと思います。参政党の主張は、外国人を切り離し、働く女性を切り離し、高齢者を切り離してばらばらにすることで、政治の根本の部分を掘り崩している。日本人ファーストといいながら、『国民』を切り刻んで解体しているのです」

 「それに対抗するには、人々の不安感を頭ごなしに否定するのではなく、想像力や直観に働きかけるべきかもしれません。『日本人ファースト』というけれど、この社会から外国人がいなくなったら、コンビニなどの人手が足りなくなるんじゃないか。そういった身近なレベルでの想像力が大事になってくると思います」

 ――議席を増やしたことで、現実の政治にも影響してくるのでは。

 「怖いのは、既存の政党が、参政党の主張に引きずられてしまうことです。今回の参院選でも、『日本人ファースト』に対抗するために、各党が『外国人問題』に触れざるをえなくなった。参政党が、自民党の保守勢力などに対し、議席以上の影響力をもつことで、政治全体がずるずると『参政党的なもの』に引きずられてしまう恐れがあります。その意味でも、民主主義にとって非常に危険な状態だと思います」

山崎望さん

 やまざき・のぞむ 1974年生まれ。中央大学教授。専門は現代政治理論。著書に「来たるべきデモクラシー」、編著に「奇妙なナショナリズムの時代」など。

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    津田正太郎
    (慶応義塾大学教授・メディアコム研究所)
    2025年7月23日7時0分 投稿
    【視点】

    この記事で言われている「被害者感情」の広がりは、日本のみならず、多くの先進国でみられる現象です。社会、経済的な難問が積み上り、社会を支える諸制度に対する不信感が広がる一方で、明るい将来展望を描くことが難しくなっています。 それら難問にはいくつもの要因があり、理解するのも容易ではないのですが、「誰それが悪い」ことにすれば手っ取り早く理解できるわけです。解決にしても「誰それ」を排除すれば済むという話になります。 「誰それ」の中身は、政権かもしれませんし、財界かも、官僚かも、既存メディアかも、外国かも、知識人かも、もしかすると「影の政府」かもしれません。どれであっても、そのせいで虐げられているのは「普通の国民」である「私たち」だという物語が出来上がります。 実際には「普通の国民」のなかに様々な利害の対立が存在し、そのことが問題の解決を難しくしているのですが、物語のなかではそうした利害対立は消去され、普通ではない「誰それ」が悪いということにされてしまいます。 ただし、そのような被害者感情は自然発生的であるだけでなく、意図的に煽られている部分もあります。さまざまなデマも混ざり合って「虐げられている私たち」という意識が高められるわけです。 そうした状況に対して、即効性のある解決策はなかなか見当たらないわけですが、一方ではデマに対しては地道に修正を図りつつ、他方では社会的、経済的な難問に地道に取り組み、人びとが明るい将来展望を描ける土台を作っていくことが必要なのではないでしょうか。なにせ「難問」なので、決して容易ではないと思いますが…

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    伊藤昌亮
    (成蹊大学文学部現代社会学科教授)
    2025年7月23日7時0分 投稿
    【視点】

    積極財政で「真ん中」を守る、と言い切った政党が支持を受けたのが今回の選挙だったのではないでしょうか。それが国民民主党と参政党です。「真ん中」とは、前者にとっては「現役世代」、後者にとっては「日本人」でした。 福祉国家はこれまで、高齢者や外国人を含む、貧困層やマイノリティなどの「端っこ」を守ろうとしてきました。「現役世代」や「日本人」などの「真ん中」は強い存在だったので、あらためて守る必要もなかったのですが、しかし近年、そこが傷んできており、「自分たちをこそ守ってほしい」と訴えているのでしょう。誰にも聞いてもらえなかったそうした「被害者感情」を参政党が「肯定」したという山崎さんの見立ては、そのとおりだと思います。 「真ん中」を守る姿勢を示すための最も効果的なやり方は、「端っこ」を切り捨てる姿勢を示すことです。そのため神谷氏は外国人のみならず、高齢者、障害者、性的マイノリティなどを切り捨てる発言を繰り返してきました。それはもちろん許されることではなく、糾弾されるべきですが、しかし一方で、「真ん中」のどんな部分がどう傷んでいるのか、どう守ってほしいと願っているのかを丁寧に見ていくことも、また必要なのではないでしょうか。

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