「ふたなりを書いたら、もう記事を書くなと命じられた」 VICE記者Ana Valensが語る“検閲と排除”の全貌【独占証言/Steam規制報道削除の裏側】
クレジットカード会社による表現規制が、ついにSteamにまで及んだ。
2025年7月、世界最大のPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」が、決済業者の基準に従って成人向けコンテンツの規制強化を発表。
この問題は、同年2月のニコニコ動画での海外カード決済停止、3月の同人誌サイトへの警告に続く、いわゆる「金融検閲」の最新事例として日本でも報道され注目を集めている。
そのSteam規制をいち早く報じたVICE(米国の若者向けニュースメディア)傘下のゲーム専門「Waypoint」の記者が、記事を削除され、抗議の末に辞職する事件が起きた。 表現の自由をめぐるこの騒動の舞台裏で、何が起きていたのか?
私は記者Ana Valens本人に直接問い合わせ、メールでの証言を得た。
そこにはAftermathの報道では書かれなかった、Slack命令による削除、性的テーマの全面禁止、そして“ふたなり”連載を理由にした取材停止命令の詳細が語られていた──。
第1章:SteamとVICE、2つの変質
2025年7月、PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」は、性的表現を含む成人向けゲームに対して新たな規制方針を導入した。
「決済業者および関連するカードネットワークや銀行のルール・基準に違反する可能性がある一部の成人向けコンテンツを禁止する」というもので、曖昧ながらも重大な表現規制を意味する。
この変化について最初に報じたのが、VICE傘下のゲームメディア「Waypoint」だった。記者Ana Valensは、Steamの規制強化はオーストラリアの反ポルノ表現団体「Collective Shout」による働きかけが背景にあるとし、複数の記事でその詳細を追った。
だが数日後、その記事がサイトから削除され、Valens本人が抗議の上で退職した──。
さらに他の記者も連鎖的に退職し、編集長までもが職を辞する事態に発展する。
この一連の騒動は、日本でも注目を集めた。
翻訳家・表現規制問題に詳しい兼光ダニエル真氏が、Twitter(現X)でこの件を紹介し、引用元として以下の記事を共有している。
反ポルノ表現規制団体がクレカ会社等を経由しSteamに対し圧力をかけ発売承認済みタイトルを取り下げさせた事件について報道した記事が運営上層部から圧力で削除され、記者が退職する事件が発生。どうもアダルトな話題を取り上げるのを忌避する流れが一部で発生している模様。https://t.co/CChpTVILQ9
— 兼光ダニエル真 Dan Kanemitsu (@dankanemitsu) July 21, 2025
ここで、紹介されていたのは、米ゲームメディア「Aftermath」が掲載した「Waypoint Writers Quit Over Removal Of Articles Related To New Steam Policy」 (Steam新方針記事削除をめぐりWaypointライターが退職)という記事である。
この記事によれば、Ana Valens記者が「Collective Shout」というオーストラリアの反ポルノ団体とSteam規制の関連を報じた2本の記事が、VICE傘下Waypointから削除された。削除命令はVICEの親会社Savage Venturesから出されたもので、記事内容に法的問題はなかったとされる。Valens氏は抗議の意を示して退職し、他の記者3名と編集長も連鎖的に辞職。わずか数日でWaypointチームの大部分が去るという異常事態となった。
しかし、その後ろには、既存の報道からはうかがい知れない、もっと根深い"内部の構造"があった。
私は今回、Ana Valens本人に直接コンタクトを取り、本人の許可のもとでこの件についての証言を得た。彼女はAftermathにも語らなかった複数の事実を語ってくれた。
その証言には「ふたなりを扱ったら、もう記事を書くなと命じられた」という驚くべき言葉も含まれていた。
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