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<記者の目>年金改革法案 国会審議入り=吉田啓志(政治部)

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民進は政争避け議論を

 年金制度を巡り、民進党は先祖返りをしているように映る。今国会で審議入りした年金制度改革関連法案を「年金カット法案」と攻撃する様が、実態の伴わない年金改革案を掲げて2009年に政権を得た民主党の姿に重なるからだ。しかし、将来世代の年金を守ることに主眼を置く今回の法案は、検討に値する。だれもが反対したくなるような批判で政争化を狙うのではなく、冷静な議論に立ち返ることを民進党に強く望む。

賃金の下落幅に合わせ給付抑制

 「(年金減を)物価か賃金の低い方に合わせるえげつない制度」(井坂信彦衆院議員)「次の衆院選では『年金が下がります』と掲げるべきだ」(玉木雄一郎衆院議員)

 今国会で民進党は、政府の年金改革法案に関し、2点を徹底的に批判している。年金の伸びを抑える仕組み(マクロ経済スライド)の強化と、物価より現役の賃金が下がった時の新たな年金の扱いだ。物価より賃金の下げ幅が大きい時、今は年金を物価下落分しか下げていないが、法案は賃金の下落幅にそろえて年金を下げる内容となっている。

 年金の増減は原則、物価の動きに連動させる。ただ、現役の保険料をお年寄りの年金に回す「仕送り方式」が制度の基本。支え手の先細りを踏まえ、04年の年金改革では約20年間、年金の伸びを物価の伸びより1%程度抑えるマクロ経済スライドの導入が決まった。給付を23年度までじわじわ引き下げ、15%減らした時点でやめる予定だった。

 ところが、物価が下落するデフレ時には同スライドを適用しない、との制約が足かせとなった。制度変更以降、物価下落が続き、適用されたのは1度(15年度)だけ。このため、年金水準は1%たりとも削られていない。そこで今回の法案では、デフレでカットできない年の減額分は持ち越し、物価上昇時にまとめて引き下げることにした。

 04年改革では、保険料に上限(厚生年金は年収の18・3%)を設け18年度以降は引き上げない「保険料固定方式」も導入した。理論上、今後100年間の年金の保険料収入総額は確定している。一定の給付財源を高齢世代と将来世代が分け合う仕組みなので、年金抑制が遅れるほど若者の年金財政は苦しくなる。逆に、抑制に早く着手するほど将来世代の給付は改善する。

 民進党は「政府案では将来世代の給付も減る」と批判するが、これは違う。お年寄りに痛み分けを求め今の若者の年金を守るのか、お年寄りの年金には手をつけない代わりに将来世代の年金を傷めるのか--。焦点は「足元か未来か」の選択だ。

痛みを分け合い将来世代を守れ

 年金では、世代間格差が指摘される。よく取りざたされるのが「払った保険料に対し、何倍の年金をもらえるか」。厚生年金で1945年生まれは5・2倍だが、85年生まれ以降は2・3倍といった数値だ。私はこうした議論にはくみしない。年金受給者の中には、若いころカツカツの暮らしの中から年金などない親に仕送りをしていた人も多い。片や現役世代は、親から手厚い教育費や遺産を受けている人も少なくない。物があふれ、戦中戦後世代の若い時分よりずっと豊かだ。年金だけを取り上げて「若い世代は損」「高齢者は恵まれ過ぎ」と世代間対立をあおるべきではない。

 それでも、今回の法案は趣が異なる。物価より現役の賃下げ幅が大きい時に年金も賃金減少率と同じだけカットすれば、確かに年金の価値は若干下がる。ただ、今なお現役の賃金は低迷が続く。若い世代と高齢世代を公平に扱うという点で、一刀両断にすべき案だとは思えない。今のお年寄りに、「孫世代の年金を守るため、少しだけ我慢をしていただけませんか」と問いかけるのは誤りだろうか。

 民主党の年金改革案は給付を現役の賃金と人口減少率で調整する仕組みだった。つまり、物価より賃金が下がった場合は年金も下がるはずで、今の政府案と大差ない。民進党の長妻昭元厚生労働相は「民主案の要点は(全額税で負担する)最低保障年金がある点だ」と反論するものの、最低保障額の党内合意はできていない。「年金たたき」で再浮上を狙う民進党の姿は見苦しい。

 もちろん、今回の法案を実施するとしても、低年金で暮らすお年寄りへの配慮は不可欠となる。多額の資産を持ち高額の年金を受けている人もいる。高齢世代内の格差は大きく、富裕層への年金課税強化による格差縮小は喫緊の課題だ。今後の低年金防止に向け、厚生年金の適用拡大といった積み残しの宿題にも早急に着手する必要がある。

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