二十世紀なかばのポーランドで、美しい川を楽しむ家族がいた。家族は広々とした邸宅に住んで、現地の女性に下働きさせ、美しい庭で子供たちが遊んでいる。しかし鉄条網のついた塀で視界を閉ざした向こう側では奇妙な音が響き、美しい青空を煙が汚していた……
同名の小説を原作とする2024年の米国映画。アウシュビッツ強制収容所の生活を題材にして、カンヌ映画祭グランプリやアカデミー長編映画賞などに輝いた。
音響が重要と聞いていたのでヘッドホンをつかって、プライムビデオで吹替版を視聴した。ナチスの訳語として国家社会主義ではなく国民社会主義をつかっていたところが現代的。
監督と脚本をつとめたジョナサン・グレイザーの作品を見るのは初めてだが、アカデミー賞においてイスラエルのガザ虐殺を明確に批判したことは当時の報道で印象に残っている。
アカデミー国際長編映画賞「関心領域」の英監督、ガザでの戦争について声明 受賞スピーチで - BBCニュース
監督は受賞スピーチで、パレスチナ自治区ガザで続く戦争に焦点を当て、ユダヤ人としての自分たちの存在やホロコーストが、ガザでの占領行為に「乗っ取られていることに異議を唱える」と述べた。
また作品自体も、虐殺そのものは映像で見せず、虐殺の情景をさえぎりながら清潔な生活をおこなう一家を描いたというコンセプトは有名で興味をもったのだが、それゆえ意外性を感じることはできなかった。
さらに興味関心のある分野に近い作品のため、登場人物は虐殺で豊かな生活ができていることは自覚しているといった情報も感想で見聞きしているため、確認作業のような試聴体験になったことは残念だった。
おそらく地味なサスペンス映画として事前情報をもたずに視聴して、徐々にアウシュビッツ収容所所長一家の物語と理解していくのが最も良い試聴態度なのだろうと思う。
それでいて、コンセプトは事前情報をもたないほうが良さそうなわりに、歴史についての事前情報は多くもっていないと理解が難しそうな場面も多かった。さすがに最後の時代を超えた描写くらいは理解できるが、暗視映像にうつる少女は感想で先に情報を見かけていないと理解できなかっただろう。監督は観客を信頼しているのか信頼していないのか。
とはいえ、さすがにコンセプトにそった映像作品としてはよくできている。邸宅や庭は当時らしい生活感あるセットデザインでありつつ無機質に撮影され、、塀の向こうにチラチラ見える武骨な屋根との対比をきわだたせる。画面全体が赤く染まる場面なども印象深かった。
そして、豊かな生活をしている一家がユダヤ人の虐殺を知っているという情報はもっていたが、女性たちの会話でかつてユダヤ人家族とつきあいがあったこと、その家族の家のカーテンがほしくて追いだした後に落札しようとしたことなどを堂々と語りあう場面は衝撃的だった。
アニメ映画でたとえると、『窓ぎわのトットちゃん』*1のように戦時でも生活を楽しもうとしていたろうとしていた人々に関心をもたなかった真実をつきつける作品というより、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』*2のように被害者意識から復讐のように他民族から収奪していく人々が家族の幸福にしか関心をもたない罪を描いた作品というべきか。
先日の参院選では、「日本人ファースト」をかかげ、セクシャルマイノリティを危険視し、障碍者をきりすてようとする参政党が多数の議席を獲得した。そのような現代日本と、この映画の描いた世界は極めて近いところにある。
参政党・神谷宗幣代表の過去19年間の発言を総ざらい 議会質問、書籍、ブログ、YouTube、雑誌 差別や戦争助長する発言の数々 | Tansa