それは、あまりにも王道すぎた   作:親指ゴリラ

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エンディング

 

 ――Congratulations‼︎

 

「――見せてあげますよ。

 ただの人間の魔法使い、その最高到達点の力を」

 

 ――アクアが仲間になりました。

 

 

「あの、リティーさん?」

「ふむ、なるほど」

「すみません、聞こえてますか?」

「はい、だいたい分かりました」

「……? なんの話ですか?」

「仕様の話ですね。アクアさんが仲間になったみたいです」

「いま私そう言いましたよね!? ……あれ? 伝わってなかった感じですかね!?」

 

 それなりにカッコつけた言葉を丁寧にスルーされ、アクアは肩透かしを食らっていた。あれだけ熱心に勧誘してきたくせに、まるで他人事のような口調で加入を伝えられた事にも不満がある。

 恥ずかしさを誤魔化すためにやや大袈裟に問いただすも、リティーは既に平時のやや焦点の合わない瞳でアクアを見つめている。

 

「いえ、仲間になるという言葉の意図は伝わりました。しかし、それがシステム的に“仲間になる”という挙動になるかはまた別の話なのです。ストーリーとして考えれば、ノンプレイアブルのゲストキャラとかも居ますからね」

「……? あの、つまりどういう事ですか?」

「これからよろしくお願いします、という事です」

 

 相変わらずリティーの口にする言葉の意味は半分ほども理解できない。だがアクアは差し出された小さい手を見て、自分が歓迎されている事だけは理解できた。

 今後はこの独特のテンポ感に合わせて生きていくという事を考えれば、早まった判断をしたのではという疑念も否めない。溢れ落ちそうになるため息を飲み込んで、リティーの手を取る。

 

「なるほど、なるほど」

「どうしました?」

「いえ、仲間が増えるというのは思いの外嬉しいことだなと。改めて感慨に耽っていたといいますか」

「そうですか……まぁ、なんですか。その気持ちは私も分かる気がします。なんだかんだ……はい、今まで一人で生きてきましたから」

 

 満足そうなリティーの様子を見たことで、アクアの中にも仲間が出来たことへの実感が湧いてくる。思い返せば、前に人と手を握った事すら遥か昔の出来事だった。

 目の前の不思議生物がまともな人間の枠に当てはまるかは謎だが、少なくとも見た目だけはアクアと遜色ないほどの美少女だ。仲間、その二文字を噛み締めて締まりなく笑う。

 

 

「ところで、アクアさんは結構鍛えているんですね」

「え? そうですか?」

「はい。見たところ加入時点でレベル58……本日のダンジョン探索で得た経験値を考慮したとて元々かなりのレベルだったことが推測できます」

「その、レベル? ってのはなんなんでしょうか? 話の文脈的に、私の力量に関する何かだとは思うんですけど」

「はい、その通りです。僕は自身を含むパーティーメンバーの力量を自分の常識に当てはめ、具体的な数値で把握することができます。レベルというのは、一定の経験値を取得した際に加算されていく生命の強度の値ですね。簡単に、値が大きいほど強いという事で理解してもらえれば」

 

 それはまたしても、アクアの常識外の摂理だった。

 しかし、ある程度は受け入れやすい。魔法使いも潜在的な魔力の総量を数値で表現する事があるため、数値で強さを測るというのはまだ常識の範囲内の行為だとは思える。尤も、それが相対的な比較ではなく絶対的な基準のある測定であるのは面食らうが。

 

「あれ? でもダンジョンに潜った時には既に私の能力的なものは把握していたんですよね?」

「それはあくまで戦闘上の性能(スペック)の話ですね。どのような事が出来るのか、どう戦うのかといった……その個人が使える技などを表面的に読み取っているにすぎません。今回は仲間になっていただいた事で、より詳しく数値でアクアさんの戦闘力を知る事ができました」

 

 分かるような、分からないような話だった。

 アクアはとりあえず、リティーの話を素直に受け入れることにした。一つ一つに細かいツッコミを入れていたら、いつまで経っても話が進まない気がしたからだ。

 

「なるほど……? ちなみに、リティーさんから見て私ってどれくらい強いんですか?」

「レベルという点で見れば、それなりのものですね。この街の上位冒険者のレベルより10程度は高いです。ダンジョンに入って鍛えていないのにこの強さ。これまでの研鑽が伺えます」

「そう、ですか? あの、上位の冒険者の人をあまり知らないのですが……()()、この街の冒険者って魔法使い並みに強いんですか? 私が58だとして、上位冒険者は50弱という事ですよね?」

「はい。あくまでレベルだけを見ればそうなります。ですが、レベルはあくまでその人の成長度合いを測るための指標になります。潜在能力が低い人はレベルの上限自体が低いですし、どれだけ鍛えても各種パラメータが劇的に伸びることはありません。これは相対的な評価ではなく、あくまでその個人個人の限界から逆算した値になりますので……レベルが近いとしても、戦って勝てるかはまた別の話になります」

「う、う〜ん……難しいですね?」

「あまりこういった例えをするのも良くないのですが、蟻の天才がどれだけ鍛えてレベル100になったとしてもゾウのレベル1には勝てないという事です」

 

 それは残酷な内容だったが、紛れもない事実でもあった。たとえ蟻がどれだけ鍛えたとしても、重量が劇的に増えるわけでもなければ限界を超えた怪力を発揮できるわけでもない。ゾウを相手にするのであれば、生まれたての赤子にも敗北するのは想像に難くない。だが、同じ蟻の低レベル相手なら楽々勝てるだろう。

 

 この街でアクアに勝てる人間というのは、そのレベル差以上に、生まれもった性能の差を理由にして希少な存在だった。勿論、戦いを避けて毒殺や暗殺をしようとすれば話は別だが……同じ舞台に立って直接戦おうとすれば、アクアに勝てるのは指折りの強者だけだった。

 そう思うくらいには、リティーはエレメンタル・ウィザードを評価している。そもそも、成り立ちからしてただの人間とは違いすぎる生命体なのだから。

 

 しれっとゾウに例えられたアクアは、リティーの言葉に納得したような顔で頷く。

 

「ふ〜ん……じゃあ、私はそこら辺の冒険者さんよりは強いって事ですか?」

「ええ、少なくとも正面から戦ってもそうそう負ける事はないでしょう。勿論、あくまで数値を根拠にした仮定の話にはなりますが」

「……ちなみに、リティーさんはどれくらいなんですか? その、レベルだと」

「今のジョブでしたら、マスター・アルケミストのジョブレベル20、熟練度30ですね」

「……待ってください。何か評価軸が違いませんでしたか? その表現なら、私は魔法使いレベル58ということですか?」

「いえ、アクアさんはあくまでアクアさんとしてレベル58ですね。僕はレベルの評価がその時のジョブ毎に別れているので、ジョブレベルが最大で20、ジョブの熟練度が最大で30の評価になります」

「……あの、なんでそんなややこしい事になってるんですか? ジョブレベルと熟練度の違いとは……?」

「システムがそういう評価を下しているからそうなっている、としか」

「そうなんですね……」

 

 アクアはもういい加減全部忘れて、今すぐにでも寝たい気持ちになっていた。

 ダンジョンでは大して戦闘こそしていないものの、五時間もリティーと二人で過ごして気疲れしている。ダンジョンを出たら出たでいざこざで精神的に消耗し、食事を経て多少は気力が回復したものの、こうしてリティーの家に招かれ今後の身の振り方を決めたことで疲労が溜まった。

 

 これから先、行動を共にするならば。まだまだ語るべきことも、決めておくべきルールもあるだろう。仲間として、遅かれ早かれ相談しておくべき()()もある。

 だが、とてもじゃないけど今はそんな気分にはなれなかった。

 

 リティーの認識しているシステムに疲労ゲージが実装されているならば、今のアクアは真っ赤な危険域で表示されている事だろう。そのゲージがどれだけ戦闘に影響するかによっては、リティーから休息を申し出てもおかしくはなかった。

 

 だが、現実にそのようなものは実装されていない。

 そして、目の前の不思議生命体には相手を気遣うための人の心が割と足りていない。

 

 故に、アクアは自ら解散を申し出た。

 

 

「あの、色々と話が積もっていますが……もう遅いことですし、とりあえず今日のところは解散しませんか?」

「そうですか。まだ、話し足りないですが」

「まぁ、そのですね……な、仲間になったわけですから。これから幾らでも話す時間はありますよ」

「それもそうですね」

 

 名残惜しい気持ちはアクアにもあった。だが、流石に一日で色々な事が起こりすぎた。精神的な許容量を大きく超えて、色々なものが溢れる寸前だった。

 とりあえず、一度眠りにつく必要がある。

 戦闘に必要なもの以外は、この街に着いた時に取った宿に置いてある。少し割高の浴場付きの宿だったが、この時間にはもう火も落とされているだろう。勿体無いが仕方がない。いつも通り魔法で身を清めて、それから睡眠を取る。これからの予定を頭の中で軽く積み立てながら、アクアは席を立とうとして――。

 

「では、一緒に寝ましょうか」

「え?」

 

 

 

「では、おやすみなさい」

「え?」

 

 アクアはこれまでの人生の中でも、一二を争うほどの緊張感の中にいた。リティーの家に備え付けられている風呂に入ることを促され、リティーの私物と思われるパジャマを渡されたかと思いきや、いつの間にか、やたらいい匂いのするベッドの中に転がされている。

 

 一瞬で時間が過ぎ去ったかのような現状に、困惑するアクア。王国でも上澄みの美少女であるアクアとベッドに入っているにも関わらず、平常運転のリティー。

 

「んぎゅ?」

 

 アクアの口から疑問混じりの悲鳴が漏れた。何か重い物によって、口を含む顔の半分近くが塞がれたからだ。部屋の灯りは既に落とされていて、何が起きたのかをすぐに理解することは出来ない。

 もしや、襲われているのか。そう思って塞がれていない方の目を動かせば、その正体がアクアの視界に映り込んだ。

 

 それは、あまりにも大きすぎた。

 大きく、柔らかく、重く。

 そして、何よりも豊満だった。

 

 アクアの顔にのしかかっていたのは、リティーの大きすぎる胸だった。しかもリティーの両手はアクアの頭を抱き寄せるように添えられていて、大きな尻と太ももで胴を押さえられている。

 

 つまり、アクアはリティーに抱き締められていた。それも、リティーのむっちりとした体で包み込まれるような形で。

 アクアは思わず、無意識のうちに息を大きく吸い込んだ。元は男性という事を一切感じさせない、石鹸と体臭の混ざった甘い匂いがアクアの鼻腔を通って頭の中に満たされていく。それがむず痒かったのか、リティーが「んっ」と小さい声を上げた。

 

 アクアが覚えていたのは、ここまでだった。

 あまりにも大きすぎる衝撃によって、疲弊していた彼女の精神は限界を迎え、自らその意識を手放した。

 

 

 ――キズナが深まり、アクアの攻撃力が上がった!

 

 こうしてアクアはリティーの云うところの「キズナエピソード」を満たした事で、本人も気づいていなかった力の一端を解放させたのだった。

 リティーはシステムを通してその事実を認識し、満足そうに頷いてそのまま自らも眠りについた。

 

 彼女は“特異点”シンギュラリティー。

 自分と仲間が強くなるためには手段を選ばず、どんな恥ずかしい行動も躊躇わない狂人。

 元が男であるにも関わらず、必要とあれば痴女の如き行いも自ら進んで行えるのが彼女の強みだった。むしろ、バトル演出が挟まらないで強くなれるだけ楽で良いとすら考えていた。

 そこに、相手の都合を考えられるだけの人の心は無い。

 アクアはこれからも強さと引き換えに、少しずつ精神的な何かを捻じ曲げられていくことになる。

 

 

 

「アクアさん、朝ですよ。起きてください」

「――――はっ!?」

「おはようございます、ご飯出来てますよ」

 

 目覚めを促すリティーの声によって、アクアの意識が覚醒する。声の発生源へと目を向ければ、そこにはコック帽を被りエプロンを纏ったリティーの姿があった。

 

「はぇ? ……えっと、リティーさん?」

「はい、リティーです。おはようございます」

「お、おはようございます……? ……え? え?」

 

 何故か自分の部屋にリティーがいる。そう思ってアクアは自分の記憶を遡り、リティーの家に泊まった事を思い出した。その事実に納得できるかどうかは別の話であるため、アクアの混乱はまだ解消されていない。

 

「あ、あの……リティーさん?」

「はい」

「リティーさんって、元々は男の人なんですよね?」

「はい。母のお腹の中から出てきた時は性別:男性でした。アルファーでの正式な身分も男性で登録されていますね」

「私、リティーさんと同じベッドで寝ていましたよね?」

「はい。ぐっすり休まれていましたよ」

「――――いやいやいやいや!! 何をそんなに落ち着いているんですか!? 同じベッドで寝ちゃったんですよ!?」

「逆に、何をそんなに慌てているんですか?」

「分からないんですか!? ……え、本当に心当たりのカケラもない感じですか!?」

「はい」

「はいじゃないですよね!?!?」

 

 リティーはアクアが何故声を荒げているのかを理解していなかった。

 リティーがした事といえば、アクアのキズナエピソードである“添い寝”イベントを達成させただけ。これは(シン)の場合は背中合わせで話が進むが、(リティー)の場合は正面から抱き合う事になる。あくまで現状はリティーとして存在しているため、仕様通りにストーリーを進行させてスチルを回収したという認識になる。

 

 それ以外で何かあったかというと、リティーに心当たりはない。中身男の偽メスガキの本物巨乳に溺れさせられたアクアの心情は、全く考慮していない。リティーの頭の中の辞書にセクハラという言葉は存在していなかった。

 

「アクアさんの服は洗濯しておきましたので、着替えちゃってください。パジャマはその辺に置いといてくださいね」

「え? あ、はい……はい? 洗濯?」

「はい。洗濯用の魔術があるので、僕の服のついでに済ませておきました」

「あ、あぁ、それならまぁ……ありがとうございます?」

「はい、どういたしまして」

 

 リティーが指差した先で、アクアの服が綺麗に畳まれている。魔法学校を卒業した証であるマントも含めて、全て綺麗に洗われていた。

 なんとなく釈然としないアクアを他所に、リティーはテキパキと掛け布団を畳んでから部屋を出ていく。その後ろ姿が見えなくなった瞬間、アクアは大きなため息を吐き出す。起きたばかりだというのに、無駄に疲れた気がした。

 

 用意されていた服に袖を通し、そこで気がつく。

 アクアが身につけている服は、魔法具であるマントを除けば市製品と大して変わらない一般的な王国の服装だった。使っているうちに消耗するし、ほつれが出来ている場所もあった。

 それが、新品とは言わずとも生活の跡を感じさせない程度には修繕されている。魔術でやったのか、それとも手作業で直したのか。そのどちらなのかは分からないが、どちらにせよちゃんと礼を言い直した方が良さそうだった。

 

 服を着て、その上からマントを羽織る。壁に立てかけられている杖を引き寄せれば、いつも通りの美少女魔法使いアクアの完成だ。

 

 リティーを追って部屋を出る。

 

 美味しそうな匂いに釣られて廊下を進めば、出来た料理を机に配膳しているリティーの姿が見えた。料理が苦手なアクアよりよっぽど女の子している姿に、謎の焦りが生まれたのを自覚する。

 

 色々、本当に色々と思うところはあるが。

 アクアは昨日、リティーの仲間になると言ってしまった。正直今から既に不安が止まらないし、昨日のような破茶滅茶が日常になるという現実を思えば震えも止まらない。

 

 どう考えても出会ったばかりで即決する事ではないし、明らかに流されて決断した事も否定できない。

 

 

 だが、それでもリティーの語る“真の仲間”になりたいと思ってしまった。なろうとしてなれるものなのか、本当に続く付き合いなのかは分からない。それでも、仲間が欲しいという気持ちはアクアもリティーも同じ物だったから。

 

 

「おはようございます! リティーさん! 今日こそ見せてあげますよ、天才美少女魔法使いの力を!!」

 

 こうして二人は、新しい一歩を踏み出した。

 

 

 ――――――水の少女編

           おしまい――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、こうなるんですね」

「……? なんの話ですか?」

「いえ、こちらの話です。おかわり要りますか?」

「あ、お願いします」





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