「破壊され、墓地に送られた
「なにっ、まだ効果が!?」
「墓地・デッキから「勇気」と名のつくカード一枚を探し出し、手札に加える事が出来るよ! 私はデッキから<手を取り合う勇気>を手札に加える! そして、そのまま発動! これは瞬間発動が出来る!」
「残っていた4コスト分か?! しかし、なにを……」
「へへ、偶然だけどね。手を取り合う勇気の効果! このターン、破壊されたクリーチャー1体を墓地から私のフィールドに召喚する!」
「ッ、無駄だ! 勇者王が蘇ったところで我の<近衛騎士・プラナタン>が全て受け止める!」
「私が召喚するのは――<
「なっ!? 我のヴァルキュリアがぁああああああああ」
「あ、NTRだ!」
「王様が寝取られちゃった……!」
「わ、ぁ」
「寝取ってないよ?! どこでそんな言葉覚えたのさぁ!?」
多分インターネットじゃないかな。
そんなことを思いながら、僕はバトルフィールドで繰り広げられる最後の攻防をジャッジとして見届けていた。
もちろん戦っているのは僕じゃない。
店にやってきた桃色の髪をポニーテールに結わえた女子中学生――
彼女はLifeを本格的に始めることにしたようだ。
きっかけはおそらく、いや間違いなく昨晩のファイトだろう。
どういう事情があったのかわからないけれど、昨晩人目のしれない場所でファイトをしていた彼女は対戦相手の男を見事に撃破していた。
その奥で縛られていたおそらく友人かそれともただの同級生か、同じセーラー服の少女と抱き合っていたのを僕は見届けて去った。
え? 顔出しをしろ? あんな名前しか知らない相手に年上の男がいきなり現れたら怪しさ満載だろ。
警察に通報だけしておいて、店長には彼女は駅に入ってったようですとだけ伝えておいたよ。
まあこうやってここでファイトしてるんだから無事に終わったんだろう。
そんでなんでファイトなんてしているかというと……
「アイーシャの効果で手札に加えたカード<ブレイバー・疾風>を召喚! このカードは自分の場に他クリーチャーがいる時、瞬間発動で召喚出来る! こい、疾風の勇者!」
「ふん! たかがパワー2のクリーチャー! 我のライフには届かんぞ!」
「疾風は風のごとく止まらない! これは潜伏効果を持ち、ブロック出来ない!」
「なっ」
「そして、うん! コストゾーンの魔石カード、<ザ・エントリー>をステイして墓地に送って効果発動! 指定したクリーチャー一体のパワーを上げる、ヒーローは決める時は外さない! 疾風のパワーを3アップ!」
「我のライフを!?」
「――疾風怒濤!!」
あーうん、今見事に吹き飛ばされたマントを着けた小学生――
が、カドショ素人として店にやってきたユウキちゃんにファイトを誘ったのだ。
それも引き当てたばかりのレアカード、アイーシャまで小学生グループの代表としてデッキにいれて。
王として迷える民に手本を見せてやろう!
と、バトルフィールドとバトルボードまで使ったのにね。
「ゲームセット! ウォンバイ。ユウキちゃんの勝利です」
「やったぁ!」
ぴょーんと飛び上がって、全身で勝利を喜ぶユウキちゃん。
うーん若いなぁ。
とはいえいいバトルだった。
「く……見事だ、小娘。名前はなんだったか」
「
「かみじょう、ユウキか。褒めてやろう、認めてやろう!」
「あり、がとう?」
「褒美だ、これはくれてやる」
そういってデッキから引き抜いたカードを、ピュッと手裏剣みたいにミカドくんが投げた。
それを両手でとっさに受け止めるユウキ。
「え、アイーシャ?! これ、レアカードじゃあ」
「ふん、我のデッキよりもお前の貧弱なデッキにこそ必要だろう」
「いいんじゃない? 王門よりも使いこなせてたし」
「これだから男子はー! ちょっと可愛いからって贔屓しちゃって!」
「くくく、マセガキ!」
「ええい、黙れ貴様らー!!」
……なんか自然にカードをあげちゃったけど、いいのか?
まあ問題なさそうだな。
でも一応念の為。
「あー一ついいかな」
「は、はい?」
戯れてる小学生たちに苦笑しているユウキへ、少し声を小さくして言う。
「そのカード結構高いし、大事にしてあげてくれ」
「えっ、高いんです?」
「うん、5桁後半ぐらい」
ひぅ、と息の根が止められるような声を上げたが、うんすまない。
レアカードは高いんだよね、この世界。
「だ、だいじにしまひゅ!」
「そうしてくれると助かるよ」
ガクンガクンと首を縦に振る彼女に苦笑して。
気付く。
冷ややか視線に。
ユウキの手に持ったカード、アイーシャのカードから視線を感じた。
ああ…………なるほどね。
――導かれてるな。
◆
それから。
しばらくはいつも通りの日常が続いた。
どうやらユウキ少女はMeeKingがお気に店になってくれたらしい。
小学生たちのグループと仲良くなって、女の子の一人にはお姉様! とかいわれてた。
どうやらあれこれとイベントをこなしているらしく、やれ学校での部活探しにファイトしたとか、部活に入ったら気に入らないといわれてファイト仕掛けられたとか、猫探しにいったらヤンキーに捕まっていてファイトしたら実は保護していただけで心優しいヤンキーだったとか。
そんなのがフリースペースのとこからたまに聞こえてくる。
どうやら順調に販促アニメストーリーをやってるらしい。
僕、Lifeのアニメ全然見てなかったからどういうシナリオがあるのか知らないんだよなぁ。
ブレイバーがテーマとしてあったのは前世知識のは知ってるし、デッキは仮組みして回して見たけど普通に回った。
今のカードプールでも選んでギミックを入れればトップメタは少し厳しいけど、Tier2ぐらいになら食い込めるだろう。
覚えがないストレージに大体必須カードが揃ってたのも納得が出来る。
「店長~、このカードってどういう時に使えばいいんです?」
「うん、それはね」
僕がレジで客を捌いている中、店長はユウキ少女になにやらカードの質問をされていた。
いやレジは1台分しかないからしょうがないけど、あんたずっと喋ってるじゃねえか。
雑談してないで仕事しろ、ずっと僕だけ働いてるんだが?
なんか最近客の入りも多くなってるし、忙しい。
「ユウキちゃんはうちの福の神かもねー」
そんなこといってないで仕事しろ。
後はバイト増やしてくれ、女子中学生はバイト入れないからもっと年上の、力仕事も出来る大人の男とかでいいから。
「茂札くんはPC操作も速くて助かるよ~」
「投稿の返信もできるようになってくださいよ、AI作成した奴でいいですから」
「そこらへんよくわからないし~」
このアマ……
美人じゃなかったらしばいてるぞ。
これ僕いなかったらカードリスト、入力終わらなかったんじゃないだろうか。
仕入れるたびにテキストとか画像のスキャンとかでカード注文のサイトにデータベースに打ち込んでるんだけど、ここ入って半年でようやく目処がついたんだよなぁ。
ストレージの内容? 無理言うな、あと一年ぐらい時間くれ。
「高校卒業まで茂札くんに働いてほしいなー」
「三年間費やせと? さすがに受験もありますから来年には辞めますよ」
「卒業後の進路決まってなかったら店員になってもいいんだよ?」
「この店が潰れてなかったらいいですね」
「ひどい!」
「冗談です」
そんなとりとめもない会話をしていた時だった。
バンという大きな音を立てて、店の扉が開いた。
「な、なに?」
ベルの音が遅れて聞こえる中、そこには大きな男が立っていた。
モヒカンだった。
世紀末かよ。
というか肩パットとか時代が違うんだが。
「ここがぁ、巷で噂の店かぁ! ああん!」
「あ、あの、お客様。大声を上げられると困ります」
店長が慌てて対応するも、目もくれずにずんずんと店内に入ってくる。
店内のお客様たちが引いてるのも目に入ってないのだろう、カードケースに目線を向けたのを見てから僕はテーブルの下のスイッチに指をかけた。
これで契約してる警備会社に一発で通報がいく。
「店はちんけじゃが、まあまあいいカードが揃ってるのぉ」
「店長、通報していいですか?」
「あ、う「店の持ち主はてめえか!」 ひぃ!?」
不審者が店長に目を向けて、左腕の裾をめくった。
そこにあるバトルボード、ギラギラと装飾が施されているものだった。
あ、この展開は。
「この店は今日から冥牙グループのものになる!」
「はぁいい!?」
「ちゃんと買収だ、おら、これにサインしろ!」
そういって突き出したのはなんらかの契約書。
目の前に突き出された紙を、店長が上から下まで目を通して……唖然とした顔で叫んだ。
「はあああああ!? なんです、この金額! ボッタクリなんだけど!」
「なにぃ?! 文句があるっていうのか!」
「ある、あるに決まってます! こんなの、いえ、どんな金額でも私の店を売ったりしません! そもそもこんな金額土地代にもなりませんよ!」
「そうか、じゃあ――ファイトだ!」
うわ、来た。
左腕を振って、バトルボードを展開した不審者改め地上げ屋に、僕はスイッチから手を離した。
この手のファイト――カードバトルでの結果は民事不介入。
信じられないだろうが法律にもそう書いてある、神事の一種である内容に警察は介入出来ないのだ。
そのため専用のLife課とかが警察にあると聞いたことがある、が。
「く……わ、わかりました。私が勝ったら出ていってもらいますからね!!」
「まってください、店長。店長のデッキはたしかないはずです!」
正確には仕舞い込んでいて、ずっと触ってないみたいな話を前に聞いたのだ。
最近回してないのに勝てるわけがない。
「あんだぁ、じゃあ不戦勝ってことだな!」
なんでそうなる。
「わ、私がやる!」
「ユウキちゃん!?」
「あんだぁ、このちんちくりんは?」
「だめよ、ユウキちゃん! 貴方には関係な「関係あります!」」
「まだこの店にきてそんな長くないけど、このお店はいい店です! 店長さんが大切にしてるのがわかるし、ここが、MeeKingがなくなったらここが大好きな皆が困っちゃう! だから!!」
ユウキ少女が青い宝石の嵌まった腕輪を振り、バトルボードを展開する。
「ははは! お前みたいなガキが、オレ様の
僕はPCのキーボードを叩く。
開くのはMeeKingの販売ページ。
検索ワードは……
「そうだよ!」
イキり散らす大の大人相手にも堂々と向かい合うユウキ少女。
その後ろには不透明なシルエットと……見覚えのある
「おもしれえ! だが、てめえは部外者だぜ? 代理をするっていうなら相応のリスクも追加してもらおうか!」
「リスク?」
「負けたら服でも脱いでもらおうか!」
「なっ!?」
「貧相な身体でもそうしたら多少は楽しめるかもしれねえけどな」
「っ……」
「駄目よ、ユウキちゃん!「いいよ、勝てば――」」
「お客様、困ります」
用事が済んだ僕が声をかけて、割って入った。
「なに?」
「他のお客様の迷惑になりますので、外に出てもらってよろしいでしょうか」
「おい、なんだ、て」
「私はこの店の店員です。話に口を出す権利は当然ありますが」
「茂札くん?!」
店長に左手を突き出して静止する。
こいつは久々に使うが、ちゃんと動作確認は資格を持っている店長のお墨付きだ。
「てめえ……やる気か?」
「鈍いですね? 言語がわからないです? 自動通話のAIオペくんにでも普段喋ってるんですか? それでちゃんと発動宣言とか出来ますか?」
「あ゛あ゛?!」
今にも殴りかかってきそうな強面の男に、
「おい、ファイトしろよ」
この世界の流儀に従って、一度は言ってみたかった名台詞を吐いた。
統一言語が失われた?
今、私が振るっている言葉を君は理解しているはずだ
言いたいことも、するべきこともわかるだろう
――理知的な暴力