なんなんだ。
「ライフデッキから<血走るサファイア>をセットする!」「通ります」
なんなんだ。
「<血に酔うレッドキャップ>を召喚!」「通ります」
こいつは。
「
苛つくんだよ!
ひしめきあうギャラリー共の前で、オレ様は邪魔してきた店員を血祭りに上げている。
そのつもりだった。
「<
「召喚は通します」
だが、なんなんだこいつは。
「攻撃は通さない。胞子ゴブリンの胞子トークン2体で錆斧使いをブロック、タフネス2だから沈みます」
ようやく呼び出した主力クリーチャーが、ゴミのような雑魚ゴブリン二匹に道連れにされて落ちる。
「ッ、数任せの雑魚共が……残りも攻撃だぁ!」「通します。ブロックはしない、ライフで受けます」
狂戦士共が、店員のライフを削り飛ばす。
ファイトが始まってからいつものように動けない。
カードの回りが悪く感じる。
「今のダメージでライフデッキから墓地に落ちた
「オレ様の錆斧を!?」
オレ様の狂戦士が、緑色の菌に覆われた姿で店員の側に起き上がった。
これだ。
じわじわと攻撃は通っているが、肝心なところで邪魔が入る。
とっくの昔にぶちのめしているはずなのに、いいところで受け流されている。
雑魚が!
「ドロー……エンドです。どうぞ」
うざったい店員の動きが止まった。
あんだけ手札を抱えているくせに事故ったか? それともようやくビビったか。
「腰抜けが、ドロー!」
ひしめきあうギャラリー共の前で、オレ様はデッキからカードをドローし。
「ニィ」
勝利を確信した。
「オレ様は場にいる<
デッキから引き当てたブレイズを、バトルボードに叩きつける。
呼び出されるのは蛮人を火達磨にして、燃え上がる炎の魔神。
これがオレ様の絶対的
「な、ブレイズだって!?」
「まさか、あのレアカードを!?」
「嘘だろ、はじめてみた……!」
「あんなのかてっこないよぉ」
その圧倒的な燃え盛る姿に、ギャラリー共から悲鳴が上がる。
いいぜ、これだ。
これがオレ様のファイト、そのあるべき姿!
「通ります」
――だというのに、こいつは!
「見ろ、このブレイズのパワー! 生贄に捧げたクリーチャーのパワーを加えて、さらに速攻・貫通をもっている! この意味がわかるか、ああ? お前はおしまいってことだよ!!」
「……メインは終わりですか」
つまらない返答しかしねえ目の前のクズ。
「終わるわけねえだろ!」
ぶち殺してやる!
「さらに
ブレイズ及び狂戦士共通のタフネスの低さを補う魔法も発動。
万が一のバーンによる除去も問題なくなった。
ゴブリン共で防ごうが、即死する。
お前のライフはもう終わりなんだよ!
「通ります」
何が通りますだ。
何も出来ないだけなら黙ってろ!
「これでバトルだぁ! 死ね!!」
◆
MeeKingの表通り。
そこで二人のLifeファイターがファイトをしていた。
店を奪おうとした男が<
店員さんが
店員さんはなんとか凌いでるけど、相手のクリーチャー――バーサーカーたちのパワーにゴブリンが何度も倒されている。
ライフもジリジリと削られている、完全に圧されているとしかいえない、そんな状態。
私――祇浄ユウキは――店長さんと一緒にファイトを見守るしかなかった。
立ち上る赤黒い血のような炎の魔神。
圧倒的なパワー。
「死ね、ブレイズで攻撃!」
周りから悲鳴が上がった。
「店員さん!」
「茂札くん!!」
私と店長さんが思わず声を上げる。
Lifeのファイトは衝撃が伴う、それもオーバーキルであんな強大なクリーチャーの攻撃なんて受けたら!
「まずい!」
私はデッキからアイーシャのカードを引き抜こうとし――
「ブレイズの攻撃に、
降りかかるブレイズの巨大な拳が静止された。
いや。止めた。
相手が止めたわけじゃない。
「瞬間魔法<黄昏の
「コスト1とXの4点を支払って発動します、対象はブレイズ」
「大型の瞬間魔法だと!?」
「対応ありませんか? なければブレイズが-4/-4になります」
「馬鹿め! その程度でブレイズはとまらねえ……ぇ?!」
巨大な火の魔神がみるみる間に小さくなっていく。
身悶えるように、断末魔のような音を立てて……消えた。
「なぁ、ああ゛!? なにしやがった!?」
「ルールを読んでください。読めないならジャッジ説明を」
混乱する声が周りから上がる。
私も一瞬戸惑って、気付いた。
確かブレイズのステータスは……
「ブレイズはタフネスが0以下になったことにより死亡しました! クリーチャーのステータスダウンでタフネスが0以下になった場合、そのクリーチャーは死亡します。そして、これはダメージではないため<血の喝采>では防げません!」
「え、そうなの?」
「弱体でクリーチャーを破壊するなんて」
「あんな回りくどいやり方で倒されるなんて、見た目だけだったみたい」
店長さんがお店でのジャッジの時のように説明をしてくれる。
それにざわめく周りの人たち。
どうやら知らない人も多かったみたい。
私も今この瞬間までは弱くなって、クリーチャーとのバトルで倒されるものだと思ってたけど。
「っっっ……小賢しいマネを!」
そうか、ブレイズのタフネスは3! 強大なパワーと引き換えにタフネスが低いのが
こんな斃し方があるなんて……
「効果を説明します」
「なに、まだあるのか!?」
「メイン墓地から支払ったコスト未満のクリーチャーを一枚タップ状態で蘇生、<放火範ゴブリン>を蘇生」
店員さんの場に、松明を持ったゴブリンが召喚される。
そして、それは松明を振り回して……あ、投げた!
「場に出た時、コストゾーンのカード一枚を破壊する。俺は<血走るサファイア>を破壊する」
「俺の宝石が!?」
投げた松明が、乱暴な男のコストゾーンに火を付ける。
それで燃え上がっていくのは狂戦士のパワーを引き上げていたサファイア。
「――対応ありますか?」
「うるせえバトルだ! その雑魚共で受け止めきれるかよ、俺の
破壊されるサファイアに構わず、男のバーサーカーたちが店員さんに向かって攻撃する。
「ブロックはしません。ライフで受けます」
サファイアがなくなって弱まったけれど、ライフはしっかりと削られてしまった。
もう残り僅か。
「バカが、残り3点だ! すぐに吹き飛ばしてやる」
「今のダメージでライフデッキから墓地に落ちた
「ちっ……!」
よかった、回復した。
「そちらのメイン2です、なにかありますか?」
「ねえよ! ターンエンドだ!」
店員さんのターンに回る。
「エンドを確認しました。こちらのドローフェイズ、メインデッキからカードを1枚ドロー。ライフデッキから1枚ドロー、コストゾーンに送ります」
「いちいちいわなくても!」
相手のエースは斃したけど、まだ相手の手札は残ってる。
「<受粉ゴブリン>を召喚。通りますか」
「いちいち言うなと――」
「通りますね。なら続けて、通常魔法<腐臭放つ判断>。手札を二枚選んで捨ててください」
「なっ……俺の手札は二枚だぞ!?」
「選んで捨ててください」
「ぐ……くそが!」
いかつい男が残っていた手札二枚を投げ捨てるように墓地に送る。
あの様子を見る限り、とっておきたかったカードなのかもしれない。
そうか、任意選択式の手札破壊って残った手札の枚数だけなら捨てるのを選べないんだ。
「そしてまだ動けない受粉ゴブリン以外で、
「があ!?」
ゴブリン一体を残して、店員さんのクリーチャーが男のライフを吹き飛ばす。
ダメージを受けてライフデッキからコストゾーンにカードがセットされていく。
Lifeの怖いところがここだ。
だから終盤追い詰められるほど、一発逆転の可能性が増えていく。
どんなカードが出てくるのか怖くて、その分ワクワクもする凄いゲームだ。
これでお互いのライフが一撃で……いや、店員さんは回復もしていてブロックのゴブリンが一体残ってるからそのままだと倒せない。
「これなら茂札くんの勝ちね」
店長さんが、安堵したように胸を撫で下ろしてる。
私から見ても大きな胸だ。
≪ねたましい≫
「え、なんかいった?」
「なにもいってないです!」
私の心を代弁したような、ううん、違うけど! な空耳に慌てて、首を降る。
「俺のターンエンド、どうぞ」
店員さんのターンが終わった。
おそらく男のラストターンになる。
◆
くそが。
くそが!
くそがくそがくそが!!
どうしてこうなった!!
オレ様の盤面がたった一枚で、勝つはずだった場が塗り替えられた!
ありえない、ありえない!
なんであんなカードが、ブレイズが、戦えもせずに消される!?
「ターンエンドです」
自分の場を見る。
しかしどう足掻いても残ったバーサーカー共では打点が、いや、数が足りない。
奴を殺し切る事はできない。
「そちらのターンです」
オレ様が負ける?
あんなやつに!
こんなつまらないところで!?
くそが! くそがああ!!
「サレンダーするにしてもドローしてから決めてください」
「う、うるせえ! オレ様は、オレ様はまけねえ!」
こんなところで負けたら、金が! いや、冥牙グループからなにをされるか。
デッキに指をかける。
まだだ! まだ負けちゃいねえ! オレ様のデッキが、こんなところで。
「どろぉおおおおおおお!!」
燃えるように熱く感じるデッキからカードをドローする。
裏返し、そのカードの中身を見た。
見て、オレ様は笑った。
「はっはー! まだだ、オレ様は終わらねえ! 今引いた魔法カード<貪欲の
メイン墓地から<ブレイズ>を含んだカードが五枚引き戻されて、ボードの上でシャッフルされる。
デッキはさらに益々熱く感じる。
共鳴率が高まっている、血が高ぶってくる。
これで大型クリーチャーを、いや、ブレイズをまた引けば勝ちだ!
「通しません」
引こうとしたデッキが、石になったように動かなかった。
「あ?」
「
「は?」
オレ様の魔法カードが打ち消された。
残ったのは。
残ったのはなにもない手札と変わらない盤面だけ。
「対応はありますか?」
「あ、あ、あ」
「さあバトルをどうぞ。俺は死なない程度にライフで受けますし、ブロックもしますが」
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
オレ様は叫んだ。
叫ぶしかなかった。
「最後の最後まであいつは諦めなかった。
なんで断言出来るかって? 最後まで見たからさ」
――迷宮の屍拾い