俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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タップ
アンタップの用語がMTGなどの商標用語だったため、置き換えました

タップ→ステイ
アンタップ→レディ


六話 手札のカードをコストを支払って発動する

 

 

 流れていく風景。

 真正面から切り裂いていく風の感触。

 耳に嵌めたワイヤレスイヤホンからのナビ音声を聞きながら、僕はペダルを漕いでいた。

 

『目的地まであと200メートルです』

 

「そろそろか」

 

 信号のある交差点、それが青になっていることを確認しながら直進し、曲がるべき場所で停止。

 背負ったリュックの重みをしっかりと確認しながら、二段階右折で進んでいく。

 

「駐輪場が近くにあればいいけど」

 

 早起きした分まだ時間に余裕はあるけど、停める場所を求めてうろうろはしたくない。

 そんな事を考えながら僕は最後の200メートル先へ自転車を走らせた。

 

 本日はシフトのいれていない祝日。

 目的地はまだ行ったことがないカードショップ。

 

 目的は一つ出稽古……休日大会に参加するのだ。

 

 今生における学校は完全週休2日制である。

 僕の現在の一週間におけるスケジュールは週5日はMeeKingでのバイト。

 休みの土曜日は護身術のため、朝から昼過ぎまで道場に通い、日曜日と平日のどれか一日はカドショの野良大会に参加するために開けている。

 MeeKingでも小さな大会はやっているが、自分が店員で参加出来ない。

 デッキの構築やプレイの感触は家での一人回しで積めるが、プレイングの経験値は実践経験でしか得られない。

 戦わないゲームの腕なんて停滞する一方だ。

 だから最低でも週一で野良試合ならぬ大会に参加することにしている。

 

 

 

「え、テーブルじゃないんですか?」

 

 

 

 目的のカードショップを見つけた僕は、なんとか駐輪場も見つけてそこに日頃から酷使している愛車の自転車を駐めた。

 電車代とバス代の節約の対価に払った汗を、タオルと無香料の制汗剤でケアしながら辿り着いたのだが。

 

「はい。本日のサンデー・サンクス・ライフ大会はバトルフィールド限定になっています」

 

「え、ネットだとテーブルってなってましたけど」

 

「申し訳ありません。急遽の変更だったのでサイトでの変更が間に合ってなかったようで、バトルボードのレンタルは無料で行っていますのでお使いになりますか?」

 

「あ、大丈夫です。自前のはもってますので」

 

 大会申込みの受付のお姉さんが申し訳無さそうに頭を下げるのに慌てて手を振る。

 

 ……最近はこういうのが多いな。

 

 自分は対戦はテーブルのほうが好きなので、カドショでの公認非公認大会問わずにテーブルでの大会を参加している。

 しかし、最近はネットでの大会告知がどこもかしこもバトルフィールドとボードでの参加限定になっている。

 ”スピリット”での稼ぎも出来るし、派手なファイトが出来るからバトルフィールドでの大会のほうが店としてはありがたいというのも理解は出来る。

 

 出来るが、バトルフィールドは場所を取るからよほど大きい店舗じゃないと大会まで開けないはずだった。

 

「すごいんですね。フィールドでの大会開催なんて、新しく増設でもしたんですか?」

 

「ええ。最近新しい対戦フィールド会場(Lifeコロッセオ)が出来たんですよ、このあたりの店舗は皆そこを使っています。設備も最新ですし、参加したらフリードリンクサービスもありますから、参加しますか?」

 

 ――そのコロッセオ、他の店潰して造ったやつでは?

 

 確かこの店、冥牙グループ系列だったか。

 いや幅広くやってるからどこかしら関わってるだろうけど、意味深に感じる。

 感じる、が。

 

「あ、じゃあ参加します」

 

「では500円の支払いとこちらの名前、デッキ名と身分証明書の提示をお願いします」

 

「ここですね」

 

 市外まで自転車を走らせたのに参加しない理由もない。

 学生証の提示と一緒に名前の記入、それとデッキ名を軽く記載する。

 

 この世界、デッキ名とかの記入は求められるがリスト――デッキを構築しているカードのレシピの提出はない。

 前世の大きめの大会だとあった不正禁止のための処置がないのだ。

 だから大会に優勝してもリストの公開がされたり、それを参考にするとか、同じデッキタイプが流行るとかもない。

 バトルボードでのイカサマ防止が幾つもあるとはいえ、こういうところで販促アニメの世界なんだなって実感する。

 

 リストの公開は先人たちの知恵の共有だ。

 

 トップメタの環境調査にもなるし、成果を出したデッキは共有され、分析され、対策とそれに対する対策が行われる。

 そうやってどんなデッキを握っているか、握られているデッキに対抗するか、あるいは立ち向かってくるメタデッキを返り討ちにするか、知恵の絞りどころだ。

 

 それを繰り返し、繰り返し、新しいカードが刷られる事に、あるいは既存のカードとの強烈なシナジーが発見される度に、ネットや……大会を通じて情報は伝播していく。

 広がる情報をどう噛み砕いて解釈するか、利用するか、あるいは吸収するか。

 

 そんなことをいつも繰り返してた。

 そんなことをいつもやっていた。

 そんなことを延々とやれた。

 

 それだけでずっと楽しかった。

 

 だけど、この世界では出来やしないのだ。

 

 カードのプレイングテクニックは専門の道場や塾に、あるいは家庭教師や個人的な先達から教わるしかない。

 デッキの構築なんて誰にも教えてもらえない。

 アドバイスはされても、自分のデッキを惜しげもなく教えるとか、他のデッキのレシピを知ろうとするなんてスパイとか、セクハラのように扱われる。

 強いデッキやその回し方なんて一子相伝というのも珍しくないし、専用のデッキは封印されていて資格ある者以外は触れることも出来ないなんてものもある。

 

 そういう問題を意識してどこぞにはLifeを学ぶための学園都市なんてのもあるらしいが、僕には興味ない。

 

 こういうのはあくまでも趣味でいいんだ。趣味だからいいんだ。

 

 ただそれだけで楽しみたかった。

 

 だからこそ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 大会の開始前というのはいつだって、どんな歳だってピリピリした緊張と比例するようなワクワク感がある。

 何度味わってもいいものだ。

 

『サンデー・サンクス・ライフ~~店、一回戦開始十分前です。参加選手はお集まりください』

 

「きたか」

 

 フリードリンクで貰ったスポーツドリンクの紙コップをゴミ箱にいれてから、持ち歩いている小瓶から数個ラムネを取り出して齧る。

 ボリボリと噛み砕く感触を楽しみながら、ジャケットから取り出したいつもの革手袋(レザーグローブ)をはめる。

 これ肘まであるからクソ暑いし、夏になったら絶対野外とかだと使いたくないんだけど使わないといけないのがしんどい。

 今回の大会は金のある暗黒メガコーポの出資(買収)会場だろうから空調が効いててよかった。

 

「えーと参加ステージは……」

 

 横並びのテニスコートのように並べられたバトルフィールドの脇を、参加アプリの表示に従いながら歩いていく。

 すでにフィールドにはスタンバっている気が早いファイターもちらほらいて、見ていて楽しい。

 

 ちらほらいるモヒカンとか、西部劇のようなジャケットと拍車のついた靴を履いてる奴とか、何故か顔を隠すような真っ赤なマフラーつけたやつとか、変なのが大会に出ると見かけるから楽しいものだ。前世のコミケ会場かよとたまに思うが、昔からそんなもんだから慣れてしまった。

 自分のデッキとのドロー運(運命力)を上げるというか、共鳴率とやらを上げやすくなる効果もあると大真面目に、全身に宝石飾りとか指輪をたくさん嵌めたLifeのプロファイターのインタビューも見た気がする。

 

「ここか」

 

 スマホの端末で書かれたフィールドの数値とアルファベットを確認。

 膝上までしかない短いミニスカートの一般的な格好の美少女っぽいファイターとまともな一般人っぽい奴が、ファイトを始めようとしている隣のフィールドに入る。

 

 

「なんだ、弱そうな奴じゃないか」

 

 

 向かい側の立ち位置。

 メタリックなバトルボードを既に展開した鼻ピアスに……トゲトゲのついたチョーカー、首輪? をつけた男のファイターだ。

 

「俺は雑魚には用はねえ、さっさとサレンダーしたほうが身のためだぜ」

 

「貴方が対戦相手ですね、よろしくおねがいします」

 

 まずは挨拶しておく。

 

「ああ゛?」

 

 この世界の大会は三戦式があまり採用されておらず、一回で勝敗が決まる。

 今回はスイス式トーナメント(スイスドロー)の三回戦、勝っても負けても三回も戦える。

 

 左手を振ってボードを展開。

 デッキホルダーから取り出したメインデッキをボードのデッキカセットにセットし、ライフデッキホルダーからの取り出したライフデッキをもう一つのデッキカセットにセット。

 低い唸り声とボードのラインに沿って脈動するように青白い線が走る。

 

「メインデッキ40,ライフデッキ20。スタンバイオーケー」

 

 口頭確認。

 癖のようなもの、あるいは集中するためのルーティーン。

 

 とりあえずサイドボードのカードは使わずに、デフォルトの【ア・ナイト】でいく。

 

「さっさとはじめるぜぇ!」

 

『開始一分前、スタンバイをお願いします』

 

 急かす相手の声を聞き流しながら、深呼吸。

 フィールドの外を見れば、コロッセオと呼ばれるだけあって少ない数の観客席が埋まっている。

 前世の大会とはまた別のプレッシャーがいつだってかかってくる。

 

 野良大会でこれだ。

 プロの大会でならチケットが販売されるし、もっと大きな大会……例えばうちの学校、確か垂れ幕があったLife部の出場が決まったエレ……なんだっけかな。

 エクレアという大会だったら数千、万単位ぐらいの観客がつくんだろうか。

 僕だったら心臓が耐えられそうにない。

 

 辞めて正解だったな、となぜか思うし。

 

 揉めることになったかつて顔なじみだった彼女のことを少しだけ考えて……『十秒前』 頭から消す。

 

 

『レディぃぃいいいいいいい――――――――ファイト!!』

 

 

 お互いにメインデッキから五枚のカードを抜き、さらにライフデッキから二枚引き抜く。

 これで初期ライフはお互いに18から開始され、ライフは特定のカードを使わない限り原則最大値が20だ。

 

 ポーン。

 

「僕の先行です。レディ・アップキープ・ドローフェイズはスキップ、ライフデッキからカードを一枚コストゾーンに、土地(ゾーン)セットします」

 

 手札を見る。

 先行ターンはドローが出来ない五枚の手札。

 

 ……あ、もう復讐姫きた。ドロソに使うか、中盤になるまでいらんし。

 

「ターンエンドです」

 

 手札のチェックを完了、覚えやすいように並びを調整(ハンドシャッフル)

 

「はん、動けないならあっという間に死ぬぜ? 俺のターン、ドロー! ライフデッキから土地(ゾーン)をセット! そんで俺は手札k」

 

 

「対応します」

 

 

「は?」

 

「メインフェイズステップ開始時に瞬間魔法<蔑み>を発動したいです。通りますか?」

 

「なんだそりゃあ?」

 

「対戦相手一人を対象とし、そのプレイヤーは自分の手札を公開する。その中から幻獣(クリーチャー)を一枚選ぶ。そのプレイヤーはそのカードを捨てる。これはコスト(1)を支払うことによって、打ち消すことが出来る」

 

「……つ、つまり?」

 

「その土地からコストを出せば打ち消せます」

 

「ッ、ふざけんな!」

 

「通るのなら手札を公開してください」

 

「くそ!」

 

 相手の妨害札がない、あるいは出さなかったことの承認を得る。

 バトルボードを通して相手の手札情報が、こちらのボードのモニターに投影される。

 

 ふぅん、なるほど。

 

 この手札と握ってるサポートと汎用札からして――弾丸犬(ミサイルドッグズ)か。

 

 

 

 

 戦い方(ゲームプラン)は決まった。

 





 固く握りしめられた拳は宝箱に似ている

               ――喰手の調達屋
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