俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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1話 デッキからカードをドローする

 

 カードゲームが好きだった。

 

 手のひらサイズのカードに、絵があって、文章がある。

 大体5行ぐらいで、長いものならば十数行ぐらいびっしりで、けど短い一行ぐらいのものもあった。

 空いた隙間を埋めるようなフレーバーテキストが好きだった。

 

 一枚一枚に意味があった。

 そんなカードを四十枚集めて組んだデッキが好きだった。

 一つ一つじゃあ大したことが出来ない。

 けれど集まればデッキという形でゲームが出来る。

 同じようなデッキを持っている人がいて、それと向かい合って遊ぶ。戦う。競い合う。

 

 それがカードゲーム。

 

 そんなゲームが好きだった。

 薄っぺらい紙切れでやりとりする時間が好きだった。

 

 死ぬまで好きだった。

 

 

 だから……

 

 

 

「ゲームセット、ウォンバイ。2ー1で和山くんの勝利です」

 

「しゃあ! やったぜ!」

 

「くそ!! 負けたぁ!」

 

 テーブルを挟んで勝った負けたと一喜一憂している小学生たちを見て、ジャッジをしていた僕はクスリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  俺の切り札は光らない

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 時刻は20時。

 最後の利用客が帰っていったのを見届けてから、看板をひっくり返す。

 営業中から閉店に。

 こうでもしないとまだ空いていると突撃してくる客がたまに出るからだ。

 この世界は情熱的な客が多いのだ。

 

「茂札くん、おつかれー」

 

 カードパックのがらの詰まったゴミとそれ以外の勝手にいれられたものを仕分けしていると、馴染みのある声をかけられた。

 

「あ、店長。お疲れ様です」

 

 在庫の整理をしていたのだろう。

 店の奥から出てきた店長に頭を下げながら、資源ごみとプラゴミを分けていく。

 

「あーまたジュースのボトル入ってるね、パックがら」

 

「昨日みたいにアルコールの缶がないだけまだマシっすよ」

 

「うちは子供の客も多いからお酒は禁止なのにね~」

 

 この店。

 ホビーショップMeeKingは、8台の長テーブルのあるゲームスペースとは別に、休憩スペースでなら軽食が可能になっている。

 飲食物は販売していないが、自販機に客が持ち込んでいるコンビニの飯や、お菓子を食べれる場所も用意しておかないと常連客を維持しにくい。

 MeeKingはまだ小さな個人店舗だからそれぐらいしかないが、もっと大型の大きな店なら専用のレストランや大型のバトルフィールドを併設しているのも珍しくない。

 

 ……真剣に考えるとなにいってんだこいつと思うが、しょうがない。

 ここではそういうものなのだ。

 

「茂札くん、今日も悪いね。高校生なのにこんな働いてもらっちゃって」

 

「しっかりバイト料も貰ってますし、仕事ですから」

 

「くぅ~えらい! 最近の若い子らしくないや!」

 

「それ褒めてます?」

 

 口で会話しながらも手は止めない。

 箒で大雑把に床のゴミを片付けてから、水拭きも出来る掃除機を使って床を掃除していく。

 

 あーくそ、柔らかいゴムかなんか使ってる靴の客がいたな。あとでブラシで擦っておかねば、ぐぬぬ。

 

「そうだ、店長。今日もテーブル使っていいですか、片付けはするんで」

 

「ああいいよ、というか”バトルフィールド”使っても別にいいけど」

 

「そっちはいいです。電気代もかかりますし、一人で回すだけなんで”スピリット”稼げませんからね」

 

「そう思うなら対戦すればいいのに。茂札くん、かなりやるでしょ」

 

「いやーまだまだですよ」

 

 テーブルを片付けながら、僕は本心から言う。

 それはそれとして今日、面白いデッキを回している子がいた。

 リストは公開されてないが、大体構築は読めた。

 

 忘れないうちに少し回してみたい。

 

 

 ガラン。

 

「ん?」

 

 扉につけているベルの音がした。

 振り返ると、帽子を被った中学生ぐらいの……多分女の子かな? が息を切らして立っていた。

 

 ん? あの子の右手の腕輪は……

 

「あーすいません、もう店閉まって「すみません!!」はい?」

 

 

「カードをください!!!」

 

 

「は??」

 

 そんな切羽詰まった叫びに、僕は困惑した。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 彼女は、ユウキと名乗った。

 どうしても今カードが必要なのだと頭を下げられて、押し入ってきた子は今。

 

「……ストレージ漁ってるけど、どうする?」

 

「いや、うーん、PC立ち上げます?」

 

 安売りのストレージを必死の形相で漁っている。

 ポンポンとカゴにいれてるけど、まさか。

 

「あの枚数、デッキ組めそうな数だね」

 

「いやないでしょ。シングル買いでデッキ構築するんじゃないんですから」

 

 しかし、シングル買いのみでデッキを組む奴は殆どいない。

 ありえないわけではなく、ほぼ出来ないのだ。

 

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 多少強い程度のレアでも万単位、話題になるような奴ならば二桁に届く。

 その上、売ったりして市場に流すやつも殆どいないせいで価格は高騰している。

 

 だからデッキを組むにはパックをめくって、大まかなデッキの形を組むしかない。

 

 ――構築済み(ストラクチャー)デッキなんてものはここにはないのだから。

 

「すみません、これください!」

 

 そういって出されたカゴのカードはざっくりみても40枚近くあった。

 嘘だろ、メインデッキをマジで組むつもりか。

 

「あの、もしかしてストレージでデッキ組むつもり? パックをめくったほうが」

 

「お金がないんです! あの、これ、私のお年玉で」

 

 そういって出された四枚の紙幣に、店長が困惑している。

 中学生としては必死のお金なんだろう。

 

 しかし。

 

「メインデッキは40枚、ライフデッキには20枚いるよ? ライフカードはもってる?」

 

「えっ、これだけじゃバトル出来ないんですか!?」

 

「あ~~、いやライフカードはそんな高くないから、うん、ちょっとまってね。よかったら上げるよ。茂山くん、一応このメインデッキ確認してあげて」

 

「うっす」

 

 メインデッキ40枚。

 ライフデッキが20枚。

 

 それがユウキが買おうとしているカード、Liberalise(リベライズ)Feature(フィーチャー)。通称【Life(ライフ)】だ。

 

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「制限がかかってなければ同名カードは三枚までだから……ん?」

 

 バラバラにカゴにいれられたカードを、値段確認のために同名カード同士で整理していくうちに気づく。

 妙に強いカードが数枚と、全体のカードシナジーがあっている。

 というかテーマがあっているやつだ。

 

 【ブレイバー】シリーズか。

 確か前のところだと、デッキテーマになってたな。

 

 環境のリスト――リストを公開しているような奴は今の世にはいないから、あくまでも自分が創ってきたリストではまだ見覚えがないデッキだ。

 しかし、悪くはない。

 ざっとみたところ、コストカーブが歪んでるが、上手く引けば回せるだろう。

 が。

 

「……こんなカード、ストレージにいれるわけねえんだけど」

 

 ストレージにいれておくような性能じゃないのがかなりある。

 性能と値段からしても一桁は上がるはずだと思うが、事前に見ただろう店長が何も言わないなら僕も口を出すべきではない。

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。値段はついてるしね」

 

 たまにあるのだ。

 入れた覚えがないカードとか、扱ってないはずのカードが剥いたパックから出ることが。

 この世界ではそういうこともないわけじゃない。

 

 それと、今枚数を数えたんだが。

 

「これ1枚足りないぞ? 39枚しかないけど」

 

「あ、いいんです。1枚はもっているので」

 

 持ってる?

 なにか使いたいカードのために合わせてデッキを組んだのか?

 

「はい、デッキに合わせた色のライフデッキだよ」

 

「あの、あと千円ぐらいしかなくて……足りますか」

 

「いいよいいよ、倉庫の肥やしになってたようなもんだからあげるよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 商売人としてどうなんだ?

 と思うが、将来の客候補と思えばいいかな。

 

 店長もなんだかんだでお人好しだ。

 

「ありがとうございました!! すみません、お店閉まってたのに! すみません、もういきます!」

 

 出来上がったばかりのデッキをブカブカのジャケットのポケットに放り込んで、そのまま飛び出していった。

 いやまて!

 スリーブもつけていないデッキをそのまま!?

 クソ硬いカードだからいいけど、せめてデッキケースにいれろよ!

 

「ちょ、もう真夜中だよ!? フツオくん! 追いかけていって!」

 

「えっ?!」

 

「相手女の子だよ!? 送ってあげるべきでしょ!」

 

「あ、はい」

 

 というわけでなんか強引に追い出された。

 

「いやまあ、確かに子供が出歩いていいような時間じゃないけどさぁ」

 

 店員用のエプロンをつけたままでなんでこんなことに。

 

「確か、こっちのほういったよな」

 

 若さ溢れるダッシュで飛び出していった少女。

 ドア越しに見えた後ろ姿の方角から推測し、小走りに追う。

 確かこちら側には駅はなかったはず。

 この近所に用があったってことか?

 そんなことを思いながら周囲を見渡していると、不意に暗がりになにかチカっとした光が見えた気がした。

 

「……なんだ?」

 

 肌がざわっとした。

 まだそんな寒くもないのに鳥肌が立つ。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 なんとなく足音を忍ばせながら向かってみると、さらに奥から何度も光が見えた。

 それに誘導されている気がして何度も後ろを振り返り、腰につけたデッキホルダー――金属製で、ベルトに吊り下げる形のもの――に手を触れる。

 万が一のための護身用に必要なのだ、こんなものが。

 

 逆にいえばこれがないと揉めることも多々あるということなんだが……

 

「あれは」

 

 そして、僕は辿り着いた。

 

 

 

「勇者たちの魂を宿して、見参せよ! 召喚、勇者王(ブレイブ)(GO)!!」

 

「馬鹿な!? コスト7の大型クリーチャーをコストなしで!?」

 

「ブレイブGOの召喚コストは、墓地に眠るブレイバーの数だけ減る! 私の墓地のブレイバーの数は七人!」

 

「しかし、お、お前のライフは残り一点! 次の俺のターンで削りきれ」

 

「貴方のターンはこない!」

 

「なにっ!?」

 

「ブレイブGOの能力! ブレイブGOのパワーとディフェンスは墓地のブレイバーたちの合計数+1となり、さらに召喚コストが0になっていた場合に限り速攻能力を得る!」

 

「馬鹿な!? 速攻、貫通もちのパワー8だと!?」

 

「GO! ブレイブ、勇気斬!!」

 

 

 

 その叫びと共に召喚された巨大ロボが、少女の前にいた対戦相手らしきものを吹き飛ばした。

 なんかぶっ飛ばしてた。

 

 腕につけていた腕輪……薄々感じていたけど、がなんか変形? 展開したのだろう、カード対戦盤(バトルボード)になっていて。

 それでカードを買ったばかりの女子中学生が、多分大人っぽい男をカードバトルでぶっとばす。

 うん、これは。

 

 

「販促アニメ一話だ、これ」

 

 

 前世で遊んでいたカードバトルが世界メジャーになっている世界に転生した僕は、そう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





どこで運命に出会うかなんてわからない
だが、今この時が運命だと私は確信している

――迷子の運命
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