ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第29話 消えた神々

 ――地球、カリン塔。

 

 そこでは、リゼット達が不在の時にもしメタルクウラや他の敵が地球に襲撃をかけて来た時の為にピッコロが残り、空を見上げていた。

 空は青く、太陽もよく見える。この空には先程まで確かに地球を覆うように展開されていたはずの結界があった。

 しかしそれが突然消えた事で妙な胸騒ぎがしている。

 地球への敵の侵入を阻む為にリゼットが張った結界が消えた……クウラを倒し、結界を維持する必要がなくなったから消したのだと思いたい。

 しかし、あの慎重なリゼットが、まだコアエリアの戦士という敵が残っている状況でそれをやるだろうか?

 どうにも腑に落ちないし、自分の中の先代の神が心配していて鬱陶しい。

 

「どう見る、カリン」

「……よくて、死の間際……というところですかのう」

 

 ピッコロの問いに、カリンが気落ちしたような声で答えた。

 リゼットが施した封印術の解除条件は三つ。リゼットが任意で解除するか、強引に破られるか……あるいはリゼットが死ぬか、だ。

 一度施したリゼットの術は本人が死んだところで消えるような柔なものではない。

 しかしリゼットはあえて、自らの死を解除条件に組み込んでいた。

 それはリゼットが死んで封印がそのままになってしまうと、地球が永久に宇宙から隔離されたままになってしまうからだ。

 リゼットの封印はヘブンズゲートの応用で、地球の周囲を異空間へのゲートで覆うというものである。

 やり方はこうだ。まず三角形の形状にしたゲートを展開する。

 それを数枚展開して繋ぎ合わせ、二十面体にして地球を囲うのだ。

 こうする事によって実質的に360度ほぼ全てがヘブンズゲートの入口となり、外からは誰も侵入出来ないし、無理に飛び込めば異空間送りとなる。

 更にその内側には瞬間移動を阻むバリアまで展開され、二重の防壁となっている。

 これは界王神だろうと突破出来ない封印だが、逆に言えばリゼットが死んでそのままになってしまうと、誰も解除出来ず地球が宇宙から切り離された孤独の星になってしまう。

 だからセーフティー機能として、リゼットが死んだら自動解除されるようになっているのだ。

 状況を見るに、明らかにそれが起動したとしか思えない。

 無理矢理楽観的に見るならば、よくて死の間際……瀕死状態になって解除された、という可能性もなくはないが、ピッコロもカリンも、リゼットが瀕死くらいで解除されるような脆い術を施すとは思えなかった。

 

「ダークドラゴンボールを使うか?」

「……いや、まだ早い。わしは信じたいのです」

 

 仮にリゼットが死んでいても、ダークドラゴンボールを使えば蘇生出来る。

 しかし死んでいなければ無駄撃ちだ。

 このドラゴンボールは万一の時の為の最後の切り札である。迂闊に使うわけにはいかなかった。

 どうする事も出来ずに空を見上げるしか出来ない二人だったが、すぐ近くに二人分の気配が現れた事で振り向く。

 

「ピッコロさん、よかった……やっと地球に来る事が出来ました」

 

 現れたのは界王神とキビトであった。

 封印のせいで地球に来る事が出来ずに途方に暮れていた界王神だったが、リゼットの結界が消えた事で彼はようやく地球に来る事が出来たのだ。

 

「界王神様……リゼット達とクウラとの戦いはどうなっていますか?」

「……なんだかピッコロさんに丁寧な対応をされるというのは慣れませんね」

「む……」

 

 ピッコロはつい最近まで、界王神の事は呼び捨てにしていたし敬語も使っていなかった。

 ターレスやベジータのように乱暴な口調で接していたのだ。

 それが先代との融合でこうも変わったのだから、互いに慣れないのは仕方ないだろう。

 

「こちらではつい先程、ビッグ・ゲテスターの崩壊を観測しました。リゼットさん達の勝利です。

コアエリアの戦士達は11宇宙との戦い以降は動きがありません」

 

 コアエリアの戦士達が11宇宙に手を出してジレンに手酷い目に遭わされたという情報は、界王を通してピッコロの耳にも入っている。

 そしてそれから動きがないというのなら、界王神は何をしに来たのだろうか?

 怪訝に思うピッコロに、界王神は自らの耳飾りを外すと、それをピッコロに差し出した。

 

「これは……ポタラ? 確か第6宇宙の女サイヤ人が使っていた……」

「ええ、私達界王神の切り札です……と言っても私自身、知ったのはつい最近の事なんですけどね。

これを、貴方達に預けておきたいのです」

「何故?」

「……嫌な予感がするのです」

 

 界王神は何かを恐れているかのような、緊張した面持ちで話す。

 

「クウラは倒され、コアエリアの戦士も既に壊滅状態……これ以上何かが起こるはずがない……そう思いたいのですが、どうしても胸騒ぎが止まらない。まだ何かが起こる……そんな気がするのです」

 

 界王神自身にも、今自分が感じている不安の正体は分からない。

 何故なら、ただの勘だからだ。

 

「気のせいならばそれが一番いいのです。私の勘違いであって欲しい。

きっと貴方達から見れば私は、慎重を通り越した臆病者で、神経質に過ぎるのでしょう。

……それならば、それが一番いいのです。私の気のせいだった時は、どうか無能な神とお笑い下さい」

「界王神様……」

「しかし何かあった時、その脅威に対抗出来るのはきっと貴方達だけです。

私は界王神でありながら弱く、未熟で……情けない話ですが、その脅威に対抗する力がない」

 

 だから、と界王神は押し付けるようにしてピッコロの手の上にポタラを置いた。

 

「今のうちに、貴方達にこれを預けておきたいのです」

 

 界王神はまるで何か覚悟を決めたように微笑み、そして一歩引いた。

 そしてあろう事か、ピッコロに対し、頭を深々と下げた。

 

「どうか……この宇宙を、守ってください」

 

 その姿に、ピッコロはゆっくりと頷いた。

 界王神が嫌な胸騒ぎがすると言っているのは、紛れもない事実なのだろう。

 きっと彼は覚悟している。この先に『何か』とんでもない事が起こるという事を。

 そして予感している。その時自分はもしかしたら、ただでは済んでいないかもしれないと。

 だから動ける今のうちにピッコロに自分の切り札を預け、宇宙の命運を託したのだ。

 一つの宇宙の神たる者が、下界の民に頭を下げる……決して軽い決意ではない。

 己の最高神としてのプライドを投げうってでも、未熟なりに、弱いなりに……この宇宙を愛し、守ろうとしている男の姿がそこにあった。

 

「……どうしてその付き人(キビト)が、貴方にそこまで忠義を尽くすのか……少し分かった気がしますよ、界王神様」

 

 ピッコロは柔らかく笑み、界王神の決意を受け取った。

 その姿に界王神も安心したように微笑み、二人は固い握手を交わす。

 

 

 ――界王神がこの世界から消えたのは、それからわずか、24時間後の事であった。

 

 

 クウラとの戦いは終わった。

 ビッグゲテスターの残骸もセルや21号、四星龍やミラといった宇宙空間でも戦えるメンバーによって念入りに破壊し尽され、完全に抹消された。

 神殿は『永遠の美』の護衛艦に囲まれながら地球への帰路につき、悟空達は各々次なる戦いに向けて休憩をとっている。

 しかし宿敵との戦いをかろうじて制したリゼットだけは、僅かな休憩ではどうにもならない。

 彼女は現在、治療カプセルの中で回復に努めており、既に身体の傷はほぼ癒えている。

 しかし二日が経った今も死んだように深い眠りについており、目を覚ます気配がない。

 一応生きているようなのでそのうち目を覚ますとは思うのだが、セルだけは妙に顔色が悪く、落ち着かない。

 決して無傷の勝利ではなかった……苦戦を予想して多めに持ってきた仙豆も無限に湧き続けるメタルクウラとの戦いでラスト一粒を残してほぼ使い切ってしまい、ターレス達も今は、銀河パトロールの医療スタッフによる治療を受けている。

 無傷なのはブウに似た性質を持つ21号と、再生能力を持つセルだけだ。

 しかしそれでも、結果を見れば犠牲者なしの勝利だ。

 あの悪夢のような鋼鉄の軍団と戦ってのこの戦果は偉業と呼んでいいだろう。

 リゼットが眠りについている今、ヘブンズゲートですぐに帰る事は出来ない。

 悟空やセルの瞬間移動ならば帰還も可能だが、今はここですぐに動けるように待機しているので動く理由がない。

 何かあればすぐに界王から悟空へ伝言が入り、悟空がそれを皆に伝える。そういう手筈になっていたのだ。

 勿論界王とは定期的にテレパシーで連絡を取り、今のところは問題なしとの返答を受けている。

 ならば今は体を休めるべき時だ。いずれ来る決戦の為に、休める時は休んでおいたほうがいい。

 ――これは果たして、判断ミスだったのだろうか?

 悟空が事態の変化に気付いたのは、疲れが大分取れてから何となく界王にコンタクトを取ろうとした時であった。

 

「なあ界王様、まだコアエリアの奴等は動かねえか?」

『大丈夫じゃ。問題は何もない』

 

 コアエリアの戦士達はジレンによって実質全滅させられている。

 それを考えれば、たった数日で動けるはずがない。

 しかし何事にも例外があるし、念の為確認しようとした悟空の判断は決して間違えたものではなかっただろう。

 そして界王からの返答もこれまでと同じ、『問題なし』であった。

 

「そうは言うけどよ、このまま終わるとはどうも思えねえんだよな。神様も必ずあいつらが動くって言ってたし、多分まだ終わってねえと思うんだ」

『心配しすぎじゃ。何かあればわしが教えてやる』

「そうかぁ? まあ、それならいいんだけどよ……でも、こういう時の神様の読みって大体当たってるんだよ……」

 

 悟空は最初、界王の返答を何もおかしいとは思わなかった。

 何せまだクウラとの戦いから二日だ。

 コアエリアの戦士達もジレンにこっぴどくやられたのだし、まだ休んでいるとしても何の不思議もない。

 しかし、何かが引っかかった。

 疑う根拠があるわけではなく、あえて言うならばリゼットが『必ず』隙を突かれると言った事だけだが……それがどうしても気になるのだ。

 

「なあ界王様、本当に問題はねえのか? 悪いんだけどよ、ちょっとコアエリアの奴らの事を探ってみちゃあくれねえか? 何もねえならねえでいいんだ」

『大丈夫じゃ。問題は何もない』

「界王様そればっかじゃねえか。昨日も同じ事言って…………」

 

 悟空が無言になり、ここ二日間の界王との会話を思い出す。

 界王はずっとこればかりを言っていた。

 呑気なものだと思っていたが……しかしおかしい。

 いくらなんでも呑気すぎやしないか? 仮にも今は宇宙の危機のはずだ。

 少なくともクウラとの戦いが終わった直後は、まだ緊張感のようなものが感じられた。しかし今はそれすらない。

 悟空は嫌な予感がし、界王星に瞬間移動をしようと額に指を当てた。

 そこでようやく気付く……界王の気が、感じられない。

 背筋を冷たいものが走る。

 いつからだ……? いつから、界王の気はなかった?

 界王星は遥か遠くにあるせいで、瞬間移動の為に意識して感知しようとしなければ界王の気を感じる事などない。

 だから今の今まで、界王の気がない事に悟空は気付けなかった。

 それでもかろうじてバブルスとグレゴリーの気を探知し、瞬間移動する事に成功した。

 

「界王様!」

 

 界王星に移動したと同時に悟空は界王を呼んで走る。

 探し人は確かにそこにいた。

 いつも通りに呑気に、界王星に立っている。

 

「どうした? 何も起こっていないぞ。全て問題なしじゃ」

「界王様……」

 

 そこにいるのは確かに見覚えのある界王の姿だった。

 だが悟空は嫌な予感が当たっていた事を確信してしまう。

 

「――じゃねえな。誰だおめえ」

 

 悟空が一歩踏み込み、界王ではない誰かを捕えようと腕を伸ばした。

 そして掴んだ……その瞬間、界王の姿は嘘のように消え、悟空の手の中には一枚の札だけが残されていた。

 今の界王は、この札が見せていた幻覚だったのだ。

 悟空はずっと、幻の界王を相手に会話をしていた……その事に気付いた悟空は界王星中を探し回り、界王の家の中で縛られていたバブルスとグレゴリーを発見した。

 

「おめえ達! 界王様はどうしたんだ!?」

「そ、それが突然消えてしまわれたのです……そして山羊のような顔の男があの札で、界王様の幻を……」

 

 グレゴリーから話を聞き、悟空の表情が一層険しいものへと変わった。

 界王が消えた……界王なのだから星から星への転移くらい、もしかしたら出来るかもしれない。

 しかしバブルスやグレゴリーに何も言わず、突然自らの意思で消えるとは考えにくい。

 何より今は非常事態真っ最中だ。十二宇宙のあちこちが荒らされているこの状況で、界王が悟空に何も言わずに持ち場を離れるはずがない。

 つまり界王は『消えた』のではない……『消された』のだ、と悟空は考えた。

 

「……界王様が消えたのは、いつだ?」

「ええと、地球時間で言えば24時間ほど前です」

 

 24時間前……つまり、クウラとの戦いを終えた翌日には界王はすり替えられていたという事か。

 悟空の額を、一筋の冷や汗が伝う。

 どうやって界王を消したのかは分からないが、完全に出し抜かれた事を悟空は悟った。

 悟空達は、界王からの連絡が入るまでの待機としてずっと神殿にいた。何かあればすぐに界王から連絡が入るという前提で、いつでも動けるようにしていたのだ。

 だがその前提が24時間も前に崩壊していたとあれば、悟空達はただ無意味に一切の情報が遮断された状態で丸一日待機していた事になる。

 決して長い時間ではない。だが……今の悟空達のレベルなら、惑星を滅ぼして撤収するには十分すぎる時間だ。

 いくら悟空でも、他の宇宙や第7宇宙の遥か遠くで何が起きているかは分からない。

 それを知る為の界王との連絡網だったし、何かあれば界王神が瞬間移動で知らせに来るだろうという安心もあった。

 だがこの分だと、界王神も消えていると考えて間違いない。

 

「その通りです悟空さん。貴方達は出し抜かれたのですよ。

貴方が今見た幻は第4宇宙の札使いダーコリさんの能力……そしてそれを取り込んだ男の仕業です」

「っ!」

 

 悟空の心を読んだように、静かな……しかし咎めるような声が聞こえた。

 咄嗟に振り向くと、そこには薄っすらと透明になりつつある大神官の姿があった。

 

「大神官様……!? 一体何があったんだよ!?」

「超ドラゴンボールです。下界の何者かが超ドラゴンボールを使い、神々を別の時間軸に放逐したのです。私だけはかろうじて抵抗していますが、それも長くは続かないでしょう」

「神々って……界王神様やビルス様、全ちゃんもか!?」

「はい、龍神ザラマを除く全ての神々です。ザラマだけ残されたのは、追放した先でドラゴンボールが作られる事を願いを叶えた者が警戒したからでしょう。今十二宇宙にはザラマを例外として神が一柱もおりません」

 

 事態は、悟空の予想を遥かに超える危険な領域へ入っていた。

 まさかの龍神以外の神の不在。

 心のどこかで、いざとなればビルスやウイスがいるのだから最悪中の最悪にだけはならないと考えていた悟空だが、そのセーフティーネットは既に崩壊していた。

 

「消滅ではなく放逐にした理由は、万一にも超ドラゴンボールの力ですら及ばない可能性を危惧してのものでしょう」

「ま、待てよ! 誰も全ちゃんに危害を加える事は出来ねえってビルス様から聞いたぞ!」

「その通りです。誰も全王様を倒す事は出来ません……しかし、移動は危害ではありません。何より全王様ご自身が抵抗なされませんから」

 

 全王とは全宇宙の頂点であり、絶対無敵の存在だ。

 実の所、全王に被害が及びそうな時は大神官がバリアを張ったりしているので本当に無敵かは怪しい部分もあるが、とにかく全王が無敵の存在というのは神々の間では常識である。

 だが、だからこそ全王には決定的に欠如しているものがある。

 それは『警戒心』、そして『危機感』だ。

 自分が害される事など絶対ないのだから、警戒などしない。

 全王にとって宇宙とはいわば、スケールの大きい町作りゲームのようなもの……画面の中のキャラクターがどれだけ強かろうと、それを前にして防御姿勢を取る事はない。

 抵抗する必要など感じた事がないほどの無敵。

 無敵とは字の如く『敵』が『無』いという事――故に無抵抗。防御という概念が全王にはない。

 悟空は全王呼び出しスイッチを持っているが、仮に悟空が別の時間軸に行って、面識のない状態でスイッチを押したとしても、全王は抵抗せずにその場に現れるだろう。

 今回はたまたま、スイッチを押したのが悪意ある者で、行き先が別の時間軸だった……それだけの話なのだ。

 

「神々がいねえ、か……ん? でも待てよ? うちの神様は今も神殿にいるぞ?」

「ほう、それはいい情報です。もしかすると、純粋な神のみが願いの対象だったのかもしれませんね」

 

 現在十二宇宙には神がいないと大神官は語ったが、例外としてリゼットだけは何故か残ってしまっている。

 この理由を大神官は、リゼットが純粋な神ではないからと推察した。

 あるいは別の理由があってあえて残したのか、願いの叶え方が悪くてリゼットだけ例外になってしまったのか……どちらにせよ、今はその点について議論する時ではない。

 

「……なあ大神官様。そっちの方で気付けなかったんか? オラが言えた事じゃねえのは分かってるけどよ」

 

 悟空は、もっと早く気付けなかったのかと大神官に訊ねた。

 界王から連絡がある事前提で丸一日も騙され続けていた自分が言う事ではないかもしれない、と思いつつも流石にこれは言っておくべきだと思ったのだ。

 大神官達や天使ならば、全王宮にいながらにして全宇宙で起きている事を観察する事は出来るはずだ。

 少なくともコアエリアの戦士達が他の宇宙を襲った時点で神々がしっかり動いていれば、ここまで事態は悪化していない。

 そういえば未来世界でも、ブラックとザマスが全宇宙の神々を殺していたのに全王や大神官が対処している素振りすらなかった事を悟空は思い出した。

 

「いいえ、気付いておりましたよ。何も出来ませんでしたが」

「どういう事だ?」

「私達天使は常に中立です。善悪どちらに与する事も、戦う事もありません。そして天使の掟を破った者は消滅してしまうのです……跡形もなく」

「……!」

 

 それは、悟空が初めて聞く天使の大きすぎる弱点であった。

 十二人の天使と大神官は宇宙最強の存在だ。破壊神すら彼等には及ばない。

 だが戦う事がそのまま消滅に繋がるのでは、いくら強くても宝の持ち腐れだ。

 実質、脅威を排除出来ないと言っているに等しい。

 つまり実際の宇宙最強戦力は破壊神で、その破壊神も界王神の方を仕留めてしまえば巻き添えで死ぬ。そして天使はそれを指をくわえて見ている事しか出来ない。

 ……ブラックとザマスがあれだけ好き勝手できるわけだ、と今更ながらに悟空は納得した。

 

「……戻って来る事は出来ねえのか?」

「不可能です。界王神達は念入りに時の指輪を没収されていますし、全王様は時間を渡る事は出来ませんので……それが出来るのは時の界王神ですね。ああ、そうそう、彼女は無事ですよ。元々時間軸から切り離された場所にいるので、願いの対象外だったようです」

 

 トランクス達の上司である時の界王神クロノアは健在……これは不幸中の幸いだった。

 彼女さえ無事ならば、別の時間軸に放逐された全王達を救出する事も可能だろう。

 

「悟空さん……これは貴方とリゼットさんが招いた事態とも言えます」

「どういう事だ?」

「今回の件を引き起こした者達の狙いが分かった時……もう今から破壊神を派遣しても間に合わない状態でも、全王様ならば宇宙ごと消してしまうという解決方法がありました。敵は上手く身を隠し、個人を特定する時間はない……しかし超ドラゴンボールが使用された場所は分かっておりました」

「……どこだ?」

「第7宇宙。リゼットさんがクウラとの戦いの後に眠りに就いた隙を突いて侵入したのでしょう」

 

 全王の能力ならば、宇宙ごと消す事も、個人だけを狙って消す事も出来る。

 だが敵もその事は分かっていたのだろう。

 呼び出しつつも自らは姿を隠し、全王に消されないようにしたのだ。

 勿論僅かな時間さえあれば、大神官がその隠蔽すら突破して犯人の特定に成功しただろうが、それよりも敵が願いを叶える方が僅かに早かった。

 

「全王様は第7宇宙を消す事をよしとされませんでした。貴方やリゼットさん、そしてペンギン村の友達を消したくないと……」

「全ちゃん……」

「これこそまさに私が危惧していた事です。全王様は何者にも害される事のない絶対の存在……しかし、貴方達と出会った事で友達という弱さを得てしまいました。常に公正、絶対であるはずの全王様に迷いが生じる……あってはならぬ事です」

 

 かつて、リゼットが全王にペンギン村を紹介した時……アラレ達と楽しそうに遊ぶ全王の姿に、どこか剣呑な視線を向けていたのが大神官であった。

 きっとその時から彼なりに、危機感を抱いていたのかもしれない。

 ある意味宇宙の絶対のシステムである全王に、迷いが生じる。消したいものと消したくないものの好みが出来てしまう。

 それは、本来不可避のはずの全王の裁きから逃げる抜け道となってしまう。

 全王とはある意味この宇宙の法則であり現象そのもの……物の落ちる速度が同じであるように、ただ、そうあるべきモノとして存在している。

 その現象が好みを持ち、個人によって落下速度が変わったりしてしまったら、もうそれは法則ではない。

 全王の『絶対』が崩壊する……それは宇宙の秩序を乱してしまう可能性があるのだ。

 だが悟空は、嬉しそうに笑った。

 

「大神官様……そう固え事言うなよ。成長したんだよ、全ちゃんは。喜ぼうぜ」

「成長ですか……しかしそれで敵に付け込まれては……」

「大丈夫だ」

 

 まだ不満そうな大神官に、悟空は安心させるように力強い笑みを向けた。

 

「オラ達が何とかする」

 

 自信満々に悟空が言い切った。

 何とか出来る根拠も、理由もない。

 それでも彼の顔には何とか出来るという強い確信だけがあり、大神官は毒気を抜かれたように瞬きをした。

 

「全ちゃんが成長して、宇宙を消さないって選択をした事を間違いなんかにしねえ……絶対だ。

オラ達が何とかしてやる。そんで……消さなくてよかったって、全ちゃんに思わせてみせるさ」

 

 悟空達と出会う前の全王ならば、一瞬の迷いもなく宇宙ごと敵を消してしまっただろう。

 だが全王はそれをしなかった。ならば、その成長を間違いにしては駄目だ。

 いや、絶対に間違いになどさせない、と悟空は決意する。

 

「全ちゃんや皆に伝えてくれ。『絶対助ける。だから少しだけ、そこで遊んで待っててくれ』ってな」

「……貴方は不思議な人ですね。こんな事態だというのに……どうしてでしょう。貴方なら、本当に何とかしてくれそうな……そんな気がします」

「ああ、任せろ」

 

 神々は放逐され、唯一残った神であるリゼットも今は深い眠りに就いている。

 宇宙のあちこちが荒らされ、まさに今は未曽有の事態の真っ最中だ。

 宇宙最高の殺し屋ヒットは倒れ、宇宙最強のジレンも出し抜かれた。

 だが、それでもだ。それでも。

 

 ――この世界には、悟空がいる。

 

 決して神ではないし、宇宙最強でもない。リゼットのように石橋を叩いて、叩きすぎて石橋ごと不安要素を潰して万全を期すタイプでもない。

 ハッキリ言って隙だらけだし、間が抜けているし、ドジで楽観的で、宇宙の命運を預けるヒーローとしてはあまりに不安要素が強すぎる。

 しかしそれでも、何とかしてくれそうな不思議な存在感が悟空にはあった。

 道中でどんなに苦戦しても、道に迷っても、時にはコースアウトして迷走しても……それでもこの男の背を追い続けた先には、皆が笑って迎えられるゴールがある。

 そう思わせてくれる存在こそが、孫悟空であった。

 

「……わかりました。どのみち、今は貴方達に任せるより他になさそうです。下界の人間に神々の命運を託すなど本来あってはならないのですが……」

 

 ――任せましたよ、悟空さん。

 

 そう言い、大神官が差し出した手を悟空が掴んだ。

 二人は互いを認めるようにガッシリと強く握る。

 

 そして大神官は、最初の咎めるような表情とは打って変わった、穏やかな笑みのままその場から消え去った。




【ちょっと分かりにくかったので時系列】
・2日前
クウラとの戦い終了。悟空達は地球への帰還を始める。
地球の結界消滅。界王神がピッコロにポタラを託す。
この時点ではまだ悟空が連絡を取っている界王は本物。
・1日前
神々が消えて界王が偽物とすり替えられる。

・現在
界王がすり替えられていた事と神々の不在を知る。

【これもしかして最初から全王に話してれば被害出なかった?】
そうでもない。
もし全王に話すor破壊神を呼ぶために全王宮に行くという選択肢を取っていた場合、全王は第7宇宙の地球を除く全てを消していた。
今回はあくまで第7宇宙の『どこに』いるかが分からなかったから消さなかっただけ。
もしかしたらリゼットや悟空が説得する事で第7宇宙を消さずにクウラだけ消してくれたかもしれないが、その場合でも第6宇宙などは消されてしまう。
多少マシになったが、それでも迂闊に頼っていい相手ではない。
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