ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
「何が……起こっている……!?」
クウラの困惑した声が、ビッグゲテスターに響いた。
今起きている事が信じられない。説明が出来ない。
クウラの執念を前に、もう満足に動く事すら出来ないリゼットが取った手段……それは彼の常識を超えていた。
クウラが高速で拳を、蹴りを繰り出す。その一発一発が今のリゼットにとっては致死の一撃。
だがその悉くが、外れている!
リゼットはほとんど避けていない。
ダメージが深く、避けるほどの体力もない。
自力での回避は最早不可能……ならば、方法は一つ。
――相手に外してもらうしかない。
「こんな……こんな馬鹿な事が!?」
――確実に当たるはずのクウラの拳が、リゼットの頬を掠めて明後日の方向を殴った。
リゼットは確かに、ほんの僅かに回避動作を取ったが、それでも両者の体力とスピードを考えれば回避出来るはずがない攻撃だった。
続けてクウラが殴る……当たったと確信するも、やはりリゼットを外して別の場所を殴っていた。
繰り出す拳の全てが、蹴りの悉くが、まるでリゼットを中心に斥力でも発生しているかのように逸れて行く。
(何だ……? 避けられている……? 違う!
リゼットが避けているのではない。
クウラが自分で勝手に外している!
無論、クウラにリゼットに対する仏心など一切ない。放つ攻撃の一打一打、全て殺す気で、当てる気で放っている。
リゼットの動きを予測し、視線の動き、足運び、気配、これまでに収集したデータ、癖、好む傾向、それらを全てかけ合わせて、高度な予測と先読みを交えて攻撃している。
だが、それこそがクウラが攻撃を外している理由であった。
リゼットは足運びや視線、僅かな仕草……そして身体が満足に動かない今、唯一満足に繰り出せる攻撃の気配――殺意や敵意といったものを高密度に放つことで本物の攻撃と相手に錯覚させるほどのエア打撃を駆使し、クウラの空振りを誘っているのだ。
「……どうなっている……? 何故、クウラは攻撃を外しているんだ……?」
メタルクウラ軍団の相手をしながら、横目で戦いを見ていたミラが困惑したように呟いた。
彼の眼には、クウラが勝手に攻撃を外し続けているようにしか見えない。
そしてこれは、実際に相対したクウラにも分からない。
何故自分が攻撃を外しているのか、当の本人すら理解出来ないのだ。
「くそっ、何故だ! 何故当たらない! ビッグゲテスター! 奴の動きを計算しろ! 次の動きを割り出せ!」
クウラがむきになり、何とか攻撃を当てようと更にリゼットの動きを予測する。
見ろ、もう半死人だ。立っているのもやっとだ。当てれば倒せる!
だがそれは逆効果。予測すればするほど……読みに長けた達人であればあるほど、リゼットの誘導に乗って逆に自ら攻撃を外してしまう。
優れた戦士ならば誰もが程度の差はあれど踏み込む、『身体が勝手に動く』領域。
その到達点が身勝手の極意である事は言うまでもないが、身勝手の極意に届かないまでも優れた戦士ならば誰でも、意識する前に身体が動くのは当然の事だ。
それは戦士としての直感であり、反射であり、そして積み上げた経験そのものである。
その無意識下の動きが、支配されている。
これはいわば、身勝手の極意の逆だ。
自らの身体が勝手に動いて回避するのが身勝手の極意ならば、今リゼットがやっているのは、『敵の身体を勝手に動かして外させる』行為。
まるで自らが世界の中心であるかのように、敵の全てを支配する。
弱い地球人だからこそ、敵の攻撃に当たってはならない。
リゼットの戦いは常に当たればそこで終わりかねない即死圏内の綱渡りで、だから回避の技術が飛躍的に伸び続けた。
読み間違えれば崖から転落するという状況の連続が鋭い読みを……そして敵の読みの上を往き、あまつさえ支配・誘導するという極致への到達を可能とした。
肉体的に恵まれていたならば、決してこの技には辿り着けなかっただろう。
何故リゼットがこの技の体得に至ったのか……それはきっと破壊神にも、天使にも、大神官にすら理解出来ない。何故なら到底、まともな道筋で辿り着ける領域ではないからだ。
殴り殴られが当たり前の悟空達の戦いの中に、殴られたらそこで終わりかねないほどの脆弱さで飛び込んで彼等と肩を並べるというのは尋常な事ではない。
蜘蛛の糸ほどのか細い糸の上を全力疾走して蛇の道を渡り切るかのような無謀、暴挙。
だがリゼットはその道を突き進んだ……いや、彼女にはその道しかなかったのだ。
だからこそ、リゼットは彼女だけの最果てに到達した。
これこそが地球人上がりの神であるリゼットが到達した極致。集大成。
敵の攻撃を決して、中心である自分へ届かせない。
その周囲に見えない球があるように外させる。
名付けるならばさしずめ――『自己中心の極意』!
満足に身体を動かせないという窮地の最中、持っている札を組み合わせる事で、この局面でリゼットは新たな奥義を編み出したのだ。
「……はあ!」
そして、クウラが攻撃を外し無防備となった隙を狙うようにリゼットの指がクウラの胸を突き刺し、引き裂いた。
今の消耗し切ったリゼットではもう、『破壊』すら満足に行使出来ない。
かといって呑気に回復魔法など使おうものなら、いかに自己中心の極意があっても流石に隙が大きすぎる。
この至近距離での打ち合いの最中に回復している暇などないし、どのみち両者の実力差では回復したところで
だから出力は最低限。指先のみに集約し、今までのように放つのではなく纏ったまま使う。
人差し指一本のみに集めた破壊のエネルギーでクウラの装甲を裂き、内部の機械を消し去って行く。
「ガアアアアアアア!!」
クウラがリゼットを掴もうと手を伸ばす……だが、掴んだのは残像。
ビッグゲテスターの高度なコンピュータならば残像と実体の誤認などありえない。
ましてや今のダメージを負ったリゼットの残像拳など、たかが知れている。
しかし実像と区別の付かない虚像を生み出しているのはクウラ自身だった。
秀でたボクサーがシャドーボクシングをする時、そこにはいないはずの対戦相手が外からでもハッキリ視える事があるという。
他者にも見えるほどの鮮明なリアルシャドー!
クウラは、本物のリゼットと重なるようにしてそれを生み出し、そのリアルシャドーに攻撃していた。
……いや、させられていた。
だが本物のリゼットはそこから少しずれた位置にいる。だから当たらない。勝手に外してしまう。
この自己中心の極意は決して無敵の奥義ではない。
むしろリゼットのエア打撃や視線の動き、足運びなどの本来は見逃してしまう些細な仕草や誘いに気付いてくれるほどの対達人限定の奥義である。
仮にこの奥義を何も考えていない相手……例えばブロリーやカンバー相手に使用したところで、彼等は何一つ気付かないままリゼットに攻撃をクリーンヒットさせてベジータを岩盤送りにしてしまうだろう。
だがクウラは違う。他の誰でもない、クウラだからこそ……打倒リゼットを目指し、誰よりもリゼットの動きを観察してデータを集めて来た彼だからこそ、他の誰よりもこの技が刺さるのだ。
「……ふっ!」
今度は足の指先に破壊のエネルギーを集約させ、蹴りの一閃でクウラの足を引き裂いた。
体勢を崩しながらもクウラが繰り出した拳はリゼットから僅かに逸れ、加えてリゼット自身が廻る事で完全に受け流しつつ今度は左手の指先でクウラの喉を貫いて内部コードを千切った。
十全に使えなくなったからこそ、逆に練度を増す。
今までよりも遥かに精度の上がったリゼットの『破壊』を前に、もうクウラの装甲は役に立たない。
だがクウラも馬鹿ではない。自分の攻撃が外れている原理は分からないが、とにかく外してしまうという事実は認識した。
そしてリゼットの動きがよくなったわけではない事もまた把握している。
ならば現状打開の手段として、広範囲攻撃という結論に達するのは当然の事であった。
「消し飛べえ!」
「――っ!」
クウラを中心として、全方位に気が放出された。
この選択は大正解である。
当たらないというならば、逃げ場のない攻撃をしてしまえばいい。
それだけでリゼットの開眼したばかりの新奥義は呆気なく破られ、リゼットが吹き飛ばされて地面を転がった。
この好機を逃すクウラではない。ここぞ好機と追い打ちの構えに入り、リゼットもすぐに起き上がって迎撃の姿勢を取る。
「うおおおおおおおおおお!」
「……ああああああああっ!」
クウラとリゼットが同時に手を前に翳し、気を解放した。
両者共にもう限界を超えて、自滅への道を歩み始めている。
それでも、ここで膝を折るわけにはいかない。
勝利はもう目の前に。そして敗北はすぐ後ろに。
生と死、勝利と敗北の瀬戸際で二人の気が衝突した。
「ぐううううう……おおおおおお!」
「…………っ!」
二人の距離は僅か1m。まさに目の前で気がぶつかり合い、押し合う。
その衝突の最中、リゼットの背中の光輪が高速回転を始めた。
外から気を取り込んで、威力を上昇させて押し切るつもりだ。
同時に今まで以上の強い気がリゼットから吹き出し、威力が跳ね上がった。
――バーストリミット。過去にもゼノバースとバーストリミットの同時使用は行っていた。
制御する為にあえてマイナス方面にバーストリミットをかけるという本来とは逆の使い方だ。
しかし今は違う。マイナスではなく、戦闘力を倍加させる本来の使い方に戻している。
当然身体への負担は凄まじく、長時間の使用は出来ない……どころか、間違いなく戦闘後には後遺症が残るだろう。最悪死ぬかもしれない。それも覚悟の上での最後の押し込みだ。
じりじりとリゼットの気がクウラの気を押し込み、勝敗の天秤がリゼットに傾く。
――だが。
「お、おオ、お……まだ、だあ……! 俺が……この俺があ……!
三回も、同じ、相手にィ……! 負けるかあああああ……!
俺が! 俺がァ――俺が最強なんだあああああああッ!!」
「――っ!?」
――憎悪。そして執念。
クウラの深紅の眼が輝き、限界を超えた反動で顔に亀裂が走った。
眼の下に罅が入り、赤い輝きが漏れる様はまるで血の涙を流しているようにも見える。
全身の至る箇所が砕け、爆発が起こる。クウラの圧倒的すぎるパワーにビッグゲテスターが断末魔の悲鳴を上げている。
だがオーバーロードを気にせずクウラが更に出力を上げ、無理矢理押し込んだ。
ここで終わってもいい。粉々になろうと構わない。
この戦いに勝利さえ出来るならば! こいつに勝てるならば!
「ぐ……う……! あああああ……っ!」
リゼットが無茶な技の併用の反動で全身から血を流し、足が震える。
だが負けたくないのはこちらも同じだ。
ここで負けてしまえば、この鋼鉄の悪魔はきっと第7宇宙を滅ぼしてしまうだろう。
コアエリアの戦士との戦いを悟空達に託した以上……何がなんでも、この男だけはここで仕留める!
――バーストリミット三倍――更に四倍!
限界を超えた、更にその先へ!
「はあああああああああぁぁーーーーーーッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!!」
数秒に続く押し合い……その結果、臨界を迎えた気が二人の中央で爆発し、共に吹き飛ばされた。
クウラは何度も床をバウンドし、リゼットは壊れた玩具のように壁に衝突して墜落……ピクリとも動かない。
しばらくの静寂……それを破ったのは、床を引っ掻くような音であった。
最早クウラは死んでいてもおかしくない。
いや、死んでいなければおかしい。
身体は自壊し続け、内部の機械が見えている。
配線が露出して火花を上げ、脳も半分はリゼットに破壊されたはずだ。
だが彼はそれでも執念だけでこの世に留まり、ゆっくりと立ち上がった。
それから牛歩のような歩みで宿敵に近付き、倒れているリゼットの首を掴んで持ち上げた。
リゼットは……もう動かない。
目は固く閉じられ、息も止まり……心臓も止まっている。
――リゼットは死んでいた。
恐らくは先ほどの相打ちが最後の力だったのだろう。
元々リゼットは悟空やベジータといったサイヤ人ほど強靭な生命力としぶとさを持っていない。
ピッコロのように首から上さえ無事ならばバラバラにされても再生し、命を繋ぐような出鱈目な身体も持っていない。
いかに神になろうが、元は脆い地球人の少女の肉体に過ぎない。
死ぬ時は呆気なく死ぬ……そういう儚い存在でしかないのだ。
「……ふ……ふはは……」
クウラの口から笑い声が零れた。
崩壊は進み、全身には亀裂が走っている。
それでも彼は、己の崩壊すら気にせず心底からの歓喜の声をあげた。
「ふはははははは! はーっはっはっはっはっは!」
リゼットの首を掴んでいたクウラの指がもげ、リゼットが力なく床に落ちる。
「死んだ……死んだか、地球の神よ! 勝った……! 俺の勝ちだ!」
ミラは信じられないという顔でその光景を凝視し、そしてクウラは外郭が剥がれてコードだけになった右手を強く握りしめた。
「この世で俺に敵う者はいない!」
クウラの勝利宣言に応じるように、ビッグゲテスターの外でいくつもの岩礁が砕け散る。
ビッグゲテスターも既に崩壊が始まっており、折角手に入れた宇宙最強の戦力もこのまま崩れていくのみだが、クウラの心には勝利の歓喜だけがあった。
「俺が宇宙最強だ!」
取り戻したプライドを掴むように左手を握りしめ、またしても宇宙の岩礁が崩壊していく。
無数のメタルクウラもビッグゲテスターの制御を離れて次々と自壊を始めている。
「ハーーーッハハハハハハハハハ!!」
遂に怨敵を葬ったという達成感。
勝利の美酒に酔いしれ、クウラは笑う。
まさに彼は今、歓喜の絶頂にあった。
遂に取り戻した最強の誇りを握りしめ、胸の内を駆け巡る喜びに身を委ねる。
――ここに、地球の神は堕ちた。
ビッグゲテスター内には無情にも、最強に返り咲いた帝王の勝利の笑い声が響き渡っていた。
★
「んあ? それでももし危険と出会ってしまったらどうすりゃええかじゃと?」
場所は変わってカメハウス。
そこでは亀仙人が弟子からの質問に答えていた。
護身の完成とは即ち危険に出会わぬ事。出会えぬ事。
だがそれでも出会ってしまった場合はどうすればいい?
相手がこちらを殺したくて殺したくて……逢いたくて逢いたくて……一途に追いかけて来て……。
そんな奴と出会ってしまえばどうすればいい?
しかも相手の方が強くて、どうしようもない場合は。
その疑問に亀仙人は髭を撫で、そしてあっさりと言う。
「そりゃあ……諦めて殺されてやるしかないんじゃないかのう……。
そうすれば相手の気も晴れるじゃろ……多分」
それは答えになっているようで答えになっていない。
確かに殺されれば相手は満足するだろう。
だがそれでは護身も何もない。本末転倒ではないか。
しかし亀仙人は言葉を続ける。
「事、勝負というものに限るならばじゃが……どんな勝負も、相手が死ねばそこで終わり。
勝ちも負けもなく、それ以上先に進む事はない。
つまり、もしも完璧に『死』を擬態出来るならば……それで相手を騙す事が出来るならば護身の勝ちという事じゃな」
……まあ、死体ごと消そうとするような相手には、一時的に満足させるだけで何の意味もないんじゃがな。
そう言い、亀仙人はカラカラと笑った。
★
――一瞬……だった。
勝利の歓喜に酔いしれ、リゼットから視線を外したのは瞬き一瞬の間にも満たない僅かな時間だった。
クウラは決して油断するつもりはなかった。
倒れていても尚危険な相手であると認識し、常に意識の片隅にリゼットの存在を留めているはずだった。
だが勝利の歓喜が全てを上回り、クウラの心を……魂を染め上げ、刹那の間だけ全てを忘れさせ――しかしクウラはすぐに、勝利の美酒に酔う自らを律して意識を怨敵の遺体へ向けようとした。
繰り返すが一瞬の事だった。クウラがリゼットから視線を外したのは本当に一瞬だったのだ。
「……馬鹿な……!」
装甲が剥がれ落ちたクウラの胸を、誰かの手刀が貫いていた。
勝利を確信し、クウラが気を取られた瞬間を狙った完全な奇襲。それは防御の暇も与えずにクウラを捉えた。
一体何が起こったのか……それを認識するのに数秒の時間を要し、クウラは震えながら自分の胸を見下ろした。
そこには、殺したと思ったはずの地球の神がいた。
一度は消えたはずの忌まわしい輝きを背負い、クウラに決定的な一撃を加えている。
殺したはずだ。いや、確かに
見間違いなどではない。勝利に浮かれて確認を怠ったのでもない!
確かに、確実に! 死んでいるのを確認したのだ。
呼吸が止まり、心臓も止まり、生命活動を停止していた。
ビッグゲテスターの測定を経て、死亡と診断したのだ。間違いなくあの瞬間奴は死んでいた。
だがそれはリゼットの擬態であった。
心臓を含む全生命活動を停止させ、一時的に完全な仮死状態に自らを追い込む事で完成する『死』と言う名の護身。それをもってリゼットはクウラの油断を誘ったのだ。
あのまま戦闘を続行していればクウラを倒すより先に自分が死ぬ。脳を半分破壊されても動き続ける出鱈目生物を相手に正面から命の削り合いをしては分が悪い。リゼットはそう考えた。
ならば
正直、危険な賭けではあった。
仮死状態になっている間は完全な無防備で気の防御もゼロに落ちる。
追い打ちの気弾の一発も撃ち込まれればそこで本当に終わっていただろう。
だがあれほどに勝利と、自分を殺す事に拘っていたクウラがその怨敵の死体という確かな
少しくらいはそれを残し、勝利の余韻に浸るのではないか。
あるいは映画で悟空やベジータを殺さずにビッグゲテスターのエネルギーとして取り込もうとしたように身体を残そうとするかもしれない。
勿論確証はなかった。問答無用で追い打ちをかけてくる可能性も十分にあった。
だから本当に賭けだったのだ。
普段は石橋を叩き、不確定要素を排除して確実な勝利を求めるリゼットが、今回ばかりは柄にもなくギャンブル同然の行動に出た。それほどまでにクウラは強かった……恐ろしかった。
そんな事はクウラには分からない。
ただ、確かに死んだはずの相手が動いているという不可解さだけがある。
だがどうでもよかった。ならば今度は念入りに死体を消滅させるだけだ!
そう決断したクウラが攻撃に移るよりも先に、リゼットが残った僅かな力を振り絞っての一撃を放つ。
「
クウラの胸の中で破壊のエネルギーが炸裂し、クウラが光の粒子となって消えていく。
先程までと違い、間違いなく直撃だ。
それでも万全のクウラならば耐え切ったかもしれないが、オーバーヒートを起こして弱り切った今のクウラでは抗う術がない。
「ぐおおおおおおおお! まだだ! まだ終わるものかああああ!」
クウラが腕を伸ばし、リゼットの頭を掴む。
だが掴んだその腕が消滅し、いよいよ破壊の力はクウラの頭にまで及び始めた。
それでも彼は諦めない。消えていく身体からコードを伸ばし、リゼットに絡み付かせる。
「――っ!」
リゼットに絡み付いたコードが気を吸収していく。
リゼットのエネルギーを奪い、消滅に抗おうとしているのだ。
それでもリゼットは破壊を止めず、クウラが確実に消えていく。
彼の失敗は勝利の美酒を味わってしまった事。あまりに甘美なその味に酔ってしまった事だ。
失った最強という名のプライドを取り戻した高揚感と絶頂感。それはここまで溜めに溜めただけあってまさに至上の幸福……クウラの予想すら上回るほどの勝利の美酒はクウラの心にあってはならない空白を生み出してしまった。
さっさと死体を消してしまうべきだったのだ。追い打ちをかけるべきだったのだ!
だがクウラは最後の最後、勝利をまさに手中に収めたその瞬間に最も外してはならない一手を遅らせた。
あるいは、もしかしたら僅かなりとも、自分を二度も負かした相手をあっさり塵にする事への拒否感があったのかもしれない。
それは、彼が遂に最後まで捨て去る事の出来なかった……最後の『甘さ』であった。
「またしても……! またしてもォォォ!」
――またしても、自らの『甘さ』に敗れるのか!?
クウラはこの瞬間に、自分が何よりも優先して倒すべきだった本当の敵の正体を知った。
それは自分自身! 自らの心の中に巣喰う甘さという悪魔!
捨てたつもりだった。リゼットを殺すために傲慢さも油断も捨て去ったはずだった。
だが勝利を確信した一瞬、心の中に隙を作ってしまった。
いかに全身を鋼鉄で覆っても、心だけは鋼鉄に出来ない。
勝利への渇望、そしてそれが満たされた瞬間の歓喜。そしてほんの僅かな、己をここまで追い込んだ宿敵への――。
そうした様々な想いが、最後の最後で勝てたはずの戦いを敗北へ変えた。
勝利の為に全身を鋼鉄化したクウラに唯一残された、鋼鉄化出来なかった部分――心。
それが、クウラに残された最後にして最大の隙だったのだ。
――俺が……俺が倒すべきは、この女ではなかった!
――倒すべきだったのは……俺自身の『甘さ』……。
――それでも……それでも、尚!
「貴様はァァ……!」
クウラはこの瞬間、自らの生存を完全に捨てた。
一秒後に死んでもいい。消えても構わない。
「俺にいいィィ…………!」
実質的な敗北でいい。宇宙を守りきれたという名誉もやろう。
他の何もかもをくれてやっても構わない。
だから、たった一つの『結果』だけを寄越せとクウラは残された最後の力を振り絞って動かないはずの身体を執念のみで動かす。
「俺に殺されるべきなんだああああああああああァァァァァァーーーーッ!!」
血を吐くような叫びをあげ、クウラが自らの修復を投げ捨てて首だけでリゼットに食らい付こうとマスクを破って大口を開け、飛び掛かった。
狙いは頸動脈。この一撃で奴の命をもっていく!
一秒だけでいい。一秒だけ奴より長く生き延びれば己の勝利だ!
『破壊』によって無へ還っていく意識の中でクウラは最後の一瞬まで勝利のみを求め――。
――そして、結果を見届ける事なく彼の意識は完全に消滅した。
「…………」
クウラの最後の攻撃はリゼットに届かなかった。
その寸前で力尽きたように消え去り、光の粒子となって完全な消滅を迎えたのだ。
そしてクウラの消滅を見届けたリゼットは一瞬、憂うような表情を見せ……そのまま意識を失った。
甘さ「
クウラ「クソがァ!!」
というわけで、前から引っ張って来た憎悪モンスターと化したクウラとの決戦が終わりました。
流石にもう復活しません。これで終わりです。
頭の中でストーリーを考えていた時はもうちょっと綺麗な感じのライバルキャラになる予定だったのですが、実際に書いた結果、憎悪純度200%の和解の可能性など1mmもないスーパー憎悪モンスタークウラと化しました。
まあ綺麗なライバル枠はミラがやったし、クウラはこれでええかなって。
正直ここまで汚いクウラになるとはこの海のリハクの眼をもってしても……。
【自己中心の極意】
土壇場でリゼットが辿り着いた、ここまでの戦いの集大成。
集大成のくせに登場したその1話で破られたクッソ情けない奥義。補正が短すぎる。お前フェアリモンかよ。
エア打撃や視線の動きなどの様々な要素を組み合わせる事で相手の先読みを狂わせ、相手に攻撃を外して貰う技。
外すと言っても、実際は1センチとかそのくらいしかズレていないが、それでも回避には十分。
本来は気付かないような些細な要素を組み合わせる事で誘導しているので、相手が細かい仕草や隙に気付いてくれる達人であればあるほど、逆に刺さる。
自らを中心とし、その中心に決して敵は届かない。
ただしあくまで敵の攻撃を誘導しているだけなので、広範囲攻撃には弱いし、ブロリーのような何も考えていない相手には一切効果がない。
そもそも勝手に極意名乗ってるけど、身勝手や我儘と違って別に神の力でも何でもない。
【集束破壊】
元々本家ビルスの『破壊』の劣化版だったリゼット流の『破壊』をあろう事か、更に劣化させた技。
ビルスの『破壊』のように相手の全身が消える事はなく、あくまで『破壊』を纏わせた指先が当たった部分にしか効果がない。ただし集束している分、指先一本のみに限れば本家を上回る。
ぶっちゃけ指先のみのメドローア。
このくらい出来ないとクウラの装甲を貫けなかった。
【死んだフリ】
死を装う事で相手の攻撃を中断させ、油断を誘う技。ズルい。
死体に対してすぐに追い打ちをかけなかったり、勝ち誇ったりする相手全般に有効。
つまりドラゴンボールの敵キャラには大体効く。
今回の戦闘でも勝利の決め手となった。
死んだフリ>やっとたどり着いた集大成
結局変に捻った技より、こういうシンプルな技の方が有用なんや!
【フェアリモン】
デジモンフロンティアに登場する主役メンバーの一人が進化するデジモン。
デジモン作品において主役メンバーの初進化回は補正がかかり、その回だけは主人公デジモンすら噛ませ犬にするほどの大活躍をするのが基本だが、このフェアリモンは初進化なのに普通に敵に負けるというありえないデビューを果たした。