ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第22話 救出への光明

 この世界には十二の宇宙が存在している。

 十二の宇宙はそれぞれが独立した空間であり、外から見ると惑星のような球状となっている。

 宇宙は環を描くように連なり、各宇宙を繋ぐ狭間は十二の宇宙のどこにも所属しない『中立空間』と呼ばれていた。以前に第七宇宙と第六宇宙が試合を行ったのもこの中立空間だ。

 その中立空間に、ハーツ達コアエリアの戦士の隠れ家はあった。

 ラグスの力によって作り出されたガラスの塊……その内部を拠点とし、彼等は十二の宇宙の中立空間から中立空間へと行き来していたのだ。

 界王神達も全力で捜索しているが、宇宙は広すぎる。

 それが十二もある上にハーツの力で宇宙から宇宙へと瞬時に移動してしまうコアエリアの戦士達を捕捉する事は困難を極めた。

 界王神全員がリゼット級の感知能力を持っているならば話は別だが、話はそう都合よくいかない。

 少なくとも現状で分かるのは『リゼットが感知していない以上、少なくとも第七宇宙にはいない』という事だけだ。

 

 だが、そのコアエリアの戦士達も今は窮地に立たされていた。

 先日の第11宇宙との戦い――いや、ジレンとの戦いで受けたダメージがあまりに甚大すぎるのだ。

 最大戦力であったカンバーはアムズに取り込まざるを得なくなり、ハーツ以外の全員が再起不能と呼べるほどのダメージを受け、最早死を待つだけの身となった。

 ハーツ自身も重傷を負い、すぐには動けないだろう。

 軍事的用語においては戦闘担当の六割を喪失すれば組織的抵抗が出来ない事から全滅と定義される。

 ならばこの状況は間違いなく全滅と呼んでいい。

 コアエリアの戦士達はたった一人の『最強(ジレン)』によって全滅させられてしまったのだ。

 決して油断したつもりも、甘く見積もったつもりもなかった。

 事前に入手した情報から十二分に評価し、難敵と認めた上で必勝を期して進撃をしたのだ。

 

 まず、ジレンが故郷を守りに行く事でプライドトルーパーズとジレンを各個撃破する好機が生まれた。

 いや、生まれたというより、ハーツの読心によって必ずそういう状況になると分かっていたというべきか。

 破壊神候補であるトッポはカンバーならば捻じ伏せられる。速度が厄介なディスポは相性で勝るカミンとオレンならば負ける要素がない。

 他の雑魚はシーラスとラグスの二人だけでどうとでもなる。

 そして後は、後からやって来たジレンをハーツの能力で抑え込みつつ、カンバーのパワーで叩き潰せばいい。

 実際その作戦は途中までは上手くいっていた。誤算だったのはジレンが戻るのが早すぎた事……そして、ジレンがこちらの予想を遥かに超えて強すぎた事だ。

 カンバーを容易く捻じ伏せ、ラグスの攻撃は通じず、カミオレンの再生能力など知らぬと叩き潰された。

 ハーツの重力すら引き千切り、何もかもを正義という名の超暴力で捻じ伏せて破壊する。

 何だアレは。理不尽というにも程がある。

 強さの次元が違えば相性や異能などに意味はなく、等しく粉砕されるのみ。

 まさに正義の化身……『わるものはせいぎのみかたにやられる』などという子供でも分かる勧善懲悪の絵空事をそのまま擬人化したかのような存在だ。

 何とか撤退したものの、最早彼等の理想を叶えるどころではなくなった。

 全王を殺すどころか、天使や破壊神ですらない一人の戦士にここまでやられるなど、どうして予想出来ようか。

 

「……こっぴどく、やられたな……」

 

 壁にもたれかかりながら、掠れた声でハーツが話す。

 彼等が拠点としているガラスの隠れ家は今や、あちこちが罅割れていた。

 この場所を維持しているラグスの命の灯火が消えようとしている証だ。

 

「シーラス……まだ生きているか?」

「…………ああ……だが……もう、目が見えん……。

無念……だ……悪のいない理想の世界…………見たかった……」

 

 ガラスの寝台に寝かされたシーラスが、光のない瞳で届かぬ理想郷へ思いを馳せた。

 時の界王神に歯向かい、裏切ってまで目指した理想。だがその理想は遥か遠く、今となってはもう手が届きそうにない。

 その無念に、シーラスの目から涙が溢れた。

 

「俺も無念だ……君の理想は俺の理想と同じだ。

君と一緒に、神のいない人間だけの世界を……俺達の理想を……見たかった」

 

 ハーツもまた、その声には無念が滲み出ていた。

 最早彼等の計画は完全に破綻した。

 宇宙の種にエネルギーを集めるどころか、当の彼等自身が生き残る事すら出来そうにない。

 

「時間が経てば破壊神達も各々の宇宙へ戻るだろう……タイムオーバーだ」

 

 全王殺しにおいてハーツが最大の障害として考えていたのは、十二の破壊神達であった。

 実力で言えば大神官や天使達の方が上だが、あちらは然程脅威ではない。

 天使は中立を重んじる存在であるが故に、ハーツ達に何も出来ないのだ。

 善も悪も、ただあるがまま……明確な宇宙の害と分かっていても直接の排除に移る事は出来ずに、もしそれを破ってしまえば待っているのは消滅のみ。天使とはそういう、不自由な生き物である。

 出来るのはただ見守る事と導く事だけ。強力な戦士に修行を付けて送り出すくらいならば出来るが、それ以上の干渉は出来ない。

 ならば怖い存在ではない。排除する方法などいくらでもある。

 何なら超ドラゴンボールを集めて、その力で別の時間軸か時の狭間にでも放逐してやればいい。超ドラゴンボールならば全王を消すのは無理でも、大神官や天使くらいなら抹消出来る可能性もあるだろう。

 そして天使(奴等)はそれを指をくわえて見ている事しか出来ないのだ。

 厄介なのはむしろ、力の行使に制約のない破壊神達の方だ。

 だから破壊神達が不在のこの好機を逃すわけにはいかなかった。

 破壊神全員が全王の宮殿に呼ばれている間に今の宇宙を壊し、エネルギーを奪って宇宙の種を育て、そして全王すら殺せる力を手に入れる。そういう手はずだった。

 だが……破壊神がいなくとも、破壊神以上の人間がいた。

 それがハーツの誤算であった。

 

「いいえ……まだ、よ」

 

 諦念に支配されつつあった二人に、ラグスが弱々しく声をかけた。

 彼女の状態も酷いものだ。全身が罅割れ、今にも粉々になってしまいそうである。

 ジレンの一撃が重すぎたのだ。むしろジレンに本気で殴られて即死しなかった彼女のタフさを称えるべきだろう。

 

「ハーツ……私達を……アムズに吸収させて……。

そうすれば……私達は、貴方の力になれる……」

「ラグス……だがそれでは君は……」

「お願い……私は貴方の力になりたい……。

このままじゃ、私は……何も為せないまま……。

そんなの……あまりに、惨めすぎる……」

 

 ラグスもシーラスも、カミンとオレンも、ただ死を待つだけの身だ。

 いや、カミンとオレンは再生能力があるので峠さえ超えれば復活出来るかもしれないがそれも五分だろう。

 再生出来るからといって死なないわけではない。

 限度を超えたダメージを受ければ、そんなものとは無関係に死んでしまうのだ。

 細胞一つ残っていればどんな状態からでも完全復活してしまえる魔人ブウのような本物の化け物とは違う。

 だがアムズに吸収されれば、その力はアムズへと引き継がれる。

 アムズは、神々に対抗する力を得るべくシーラスが造り出した人工生命体だ。

 戦闘を間近で観察する事で戦闘データを収集し、更に吸収する事で対象の力を得る事も出来る。

 加えてアムズは吸収した者の複製体を生み出す能力も備えており、彼がラグスを吸収すればラグスの力を使えるのみならず、その複製を出して兵士にする事も出来るのだ。

 ただし当然、吸収されたオリジナルの意識は消える事となる。

 

「ハーツ……私もだ。私も吸収させろ……。

私達の理想を……こんな所で終わらせるわけにはいかない。

優しい人間達が自由に生きる事の出来る、神なき世界……それをどうか、実現させてくれ……」

 

 シーラスに懇願され、ハーツは俯いた。

 アムズに彼等を吸収させればここからの立て直しは出来る。

 だがそれは理想を共にした者達との別離も意味していた。

 数秒の逡巡……やがてハーツは、意を決したように顔を上げた。

 

「……分かった。アムズ……彼等を吸収してくれ」

 

 その言葉と同時にアムズが、シーラス達へ取りつき同化していく。

 そしてハーツは、独りとなった。

 

 

 第11宇宙でハーツを取り逃がしてしまった後、セル達はひとまず神殿に戻っていた。

 あのまま11宇宙にいても何の意味もないし、一番情報が入って来るのは結局リゼットがいる神殿だと判断したからだ。

 彼等から11宇宙での戦いの顛末を伝えられた悟空達は険しい顔をして話し合う。

 

「そっか……あのジレンでも倒し切れなかったんか……」

「だが敵に与えたダメージは甚大だ。あれではしばらく動けんだろう」

 

 ジレンの強さは悟空が一番知っている。

 そのジレンが倒せなかったというだけで、今回の敵がどれほど厄介なのかも嫌でも分かる。

 とはいえジレンも流石のもので、敵の勢力は既にほぼ壊滅しているらしい。

 もうハーツ達は満足に動けないだろうとセルが予測を口にする。

 

「それで、そのジレンは今どうしてんだ?」

「……キューブ状のエネルギーに閉じ込められたまま、瞑想をしている」

 

 悟空の問いに、セルはどこか困惑した様子で返答した。

 セル達が到着した時、ジレンは既にキューブ状のエネルギーに閉じ込められて動きを封じられている状態だった。

 ジレンならば無理矢理脱出することは可能だったが、それをしてしまうと守るべき星ごと爆破されてしまうので動くに動けなかったのだ。

 

「無理に破れば周囲に被害を齎す檻だ。そこで私達は、ミラをその場に連れて行ってキューブを吸収させる事を提案したのだが……断られてしまった」

 

 どんな特性を持っていようが、気で出来ているならばミラの機能で吸収出来る。

 その方法ならば安全にジレンをキューブから脱出させる事が出来るだろう。

 しかしその手を払いのけたのは、他でもない閉じ込められている張本人であった。

 

「ジ、ジレンさんは一体何を考えているのでしょうか……すぐにでも出る事ができるというのに」

 

 ジレンの意図が読めず、トランクスが非難するような口調で言う。

 すぐに脱出して、戦いの場に復帰する事が出来るのに、何故それをしないのかトランクスには分からない。

 いや、トランクスだけではなくこの場のほとんどの者がジレンの意図が分からずにいた。

 

「さあな。あれは見たところ、時間経過で消えるような生易しいものではない。ジレンもそのくらいは分かるはずだが……」

「……そっか」

 

 皆がジレンの行動に困惑する中、セルの説明に悟空だけがふっと笑った。

 

「大丈夫だ、ジレンはやられっぱなしで終わる奴じゃねえ。それより、敵もダメージを受けたっていうし、これならなんとかなりそうじゃねえか」

「そうですね。次に出てきたら、そこを皆で叩けば……」

「ちょっと待ってくれ。それだとアムズという奴に吸収された11宇宙の戦士達はどうなる?」

 

 21号が楽観的に言うが、そこに四星龍が待ったをかけた。

 確かに敵戦力は削ったが、11宇宙も大きな被害を受けてしまっている。

 トッポやディスポを始めとするプライド・トルーパーズがアムズに吸収されてしまったのを無視して倒しては、トッポ達まで死んでしまうだろう。

 

「大丈夫だ。ドラゴンボールで生き返れる」

「ああ。何の問題もねえ」

 

 あっさりとトッポ達ごと殺す事を前提にして話し始めたのはターレスとバーダックの二人だ。

 流石は殺し殺されの世界で生きてきた荒くれのサイヤ人だ。

 いざとなったら味方ごと仕留めてしまう事に何の躊躇もない。

 いや、これでもターレスとバーダックはまだ、サイヤ人にしては味方に情がある方なのだ。

 だが第11宇宙のメンバーは残念ながら彼等にとっては他人である。故に見殺しに躊躇がない。

 

「そんな……」

「……だが、残酷だがそれしか手がないのも事実か。

まさか都合よく吸収された者だけを引き剥がすような技などないのだからな」

 

 同じサイヤ人でも、そういった手段に抵抗感を示すのはトランクスだ。

 しかし優しさがあっても、現実問題吸収されてしまってはどうしようもない。

 四星龍は、顔を歪めながらもターレスとバーダックの出した答えこそが最適解であると結論を出した。

 だがここで、四星龍の言葉を聞いた悟空が「あ」と声を出す。

 

「それだよ四星龍! おめえいい事言うなあ!」

「は?」

 

 場違いな悟空の明るい声に、四星龍のみならずその場の全員が目を丸くした。

 リゼットはこの時、原作の『心配すんな。殺された人達はドラゴンボールで生き返る』と言っているシビアな悟空の事を思い出していた。

 悟空はこういう時、割とドライに割り切ってしまえる性格をしている。

 しかし続く言葉は彼女の予想に反したものであった。

 

「あるんだよ! 合体とか吸収とかされた奴を引っぺがしちまう技が!」

「え!?」

 

 悟空のまさかの発言に、全員が声をあげた。

 そんな技があるなど、リゼットも聞いた事がない。

 驚く皆の前で悟空はニッ、と口角を上げてその技の名を言った。

 

「『スピリットの強制分離』って技だ。

スピリットっていうのは気と魂の事でさ、こいつを使えば吸収やら合体やらした奴を元に戻しちまえる。

こいつはヤードラッド星人の技なんだが、オラは結局覚える事が出来なくてなあ……。

けど、気の操作も前より上手くなったし今なら覚えられるかもしれねえ」

 

 悟空の言葉を聞いた時、リゼットが真っ先に思ったのは『何で原作で覚えなかったの?』であった。

 いや、答えは分かっているのだ。悟空自身が言っているように覚えられなかったのだろうし、その時間もなかったのだろう。

 ヤードラット星から戻った後は人造人間に備えて三年間修業していたが、少なくともこの時点で入手している情報ではスピリットの強制分離など全く必要になりそうにないから、純粋に実力を上げる修行のみに専念したと分かる。

 その後は心臓病で倒れ、セルゲーム前に修行してセルゲームであの世行きだ。

 セルゲームまでの七日間で習得出来ていればセルを退化させる事も出来ただろうが、一年以上かけて習得出来なかったものを七日間で習得出来るとも思えないし、第一敵を弱くするというのはそもそも悟空の性格に合っていない。

 相手がどんな手段で強くなろうと、悟空は素直にそれを凄いと賞賛出来るし、強い相手と戦える事にワクワクする。

 だから、そもそも積極的に習得しようとすら思わなかったのだろう。

 それは分かる。分かるが……それでも、言わずにはいられない。

 

「悟空君……」

「ん? 何だ神様」

「そんな便利な技があるなら、もっと早く言ってください!

何でそれ話してくれなかったんですか!? ヤードラット星の事をロクに調べなかった私も私ですけど!」

 

 リゼットはもう何か、泣きたかった。

 何とか無事切り抜けられたからいいものの、セルとか魔人ブウとかを恐れてあれこれ考えていた日々は一体何だったというのか。

 どれだけ吸収怖いと頭を悩ませた事か。

 

「いやー、悪ぃ悪ぃ。オラも四星龍の言葉を聞くまで忘れちまってたんだ。

それによ、敵を弱くしちまうってなんかずるいじゃねえか」

 

 悟空は笑いながら後頭部を掻く。

 本当にこの男は時々、賢いのかただのアホなのか分からなくなる。

 

「……フン。俺はむしろ、合体だの融合だので力を増す奴等の方が気に喰わん。自分の力だけで戦うべきだろう」

「固え事言うなよベジータ。オラは強え奴と戦えるんだったら、別に何でもいいぞ」

 

 なるほど、悟空が習得出来ないわけだとリゼットは額を押さえた。

 悟空の中に『相手を弱くして勝ちたい』という考えがないのだから、その技と悟空の相性は最悪である。

 同じフェアを望むサイヤ人の戦士でも悟空とベジータの考えは異なっている。

 悟空の考えるフェアとは一対一で互いの全力を出して戦う事であって、人質だの横槍だのがなければ後は気にしないのだろう。

 そもそも自分達だって変身だの何だのと色々やっているのだから、その事を棚上げして相手のパワーアップ手段だけを非難するのも悟空としては腑に落ちないのかもしれない。

 相手だけにフェアを強いるのはフェアではない。きっと悟空の中にはそういう考えがある。

 一方ベジータの考えるフェアは、小細工をせずに自分の力だけで戦う、というものだ。

 だから合体という手段は気に食わないし、吸収といった自分以外の力でパワーアップする輩も気に入らない。

 以前の彼ならば卑怯だのフェアだのに拘りはしなかっただろう。

 元々、グルドと悟飯達の戦いの最中に背後から奇襲をかけてグルドの首を切り落とし、『戦争にきたねえもクソもあると思うか』と言い切るような男だったはずだ。

 やはり、何だかんだで地球の影響を大きく受けているという事か。

 

「では、この中の誰かにヤードラット星でその技を習得して貰う……という方向でいきましょう。

上手くいけば吸収されてしまった第11宇宙の皆を殺す事なく、敵だけを仕留める事が可能になるかもしれません。問題は誰が行くかですが……」

「スピリットのコントロールには静かな心と気の操作が必要なんだ。

オラが思うに一番適任なのは神様なんだが……」

 

 『スピリットの強制分離』を今から戦術に組み込むならば、当然すぐに習得出来る者をヤードラット星に行かせなければならない。

 習得に一年も二年もかかるようでは話にならないだろう。

 まず、この中でそういった技との相性が最もいいのは満場一致でリゼットだ。

 元々気の操作という面においては他の追随を許さず、メタルクウラ戦では『魂に触れる』という離れ業までやってのけた点からスピリットを扱う下地は既に完成している。

 技の一つである『ヒーローズ・ゴッドミッション』に至っては気で仮初の肉体を創って、そこにあの世から魂を召喚して宿らせているのだから、既に自力でスピリットの操作に行き着いていると言っても過言ではない。

 過去には魔人ブウの悪の心だけを破壊した事もある。

 故に彼女ならば習得に一日もかからないというのが悟空の考えであった。

 

「興味深い技ですし、この騒動が終われば習得したいとも思っていますが……今は無理です」

 

 リゼットは残念そうに首を振り、ゴッドミッションによるアバター作成を続行する。

 彼女は現在、近いうちに行われるだろう対メタルクウラ軍団に備えて兵士を量産している最中だ。

 今、手を休めることは出来ない。

 

「孫悟空は相性が悪そうだな……相手を弱くするというのは好まんだろう」

「ああ。オラが前に覚える事が出来なかったのも、そういう部分が影響してたんだと思う」

 

 ミラの言葉に悟空も頷いて肯定する。

 

「ミラは……」

「俺もあまり向いているとは思えんな……俺もどちらかといえば強い奴と戦いたい方だ。

それに俺自身がトワを取り込む事で強さを得たという事もあるからな」

 

 ミラも悟空と同じく、ストイックに強さを求める戦士だ。

 そしてその為の手段にあれこれケチを付ける方ではない。

 強さの形も努力の形も人それぞれで、それぞれの強みと素晴らしさがある。

 多くの歴史を見てきたからこそ、そう思えるようになったのだ。

 

「俺は……まあ言うまでもねえな。どう考えても向いてねえ」

「ああ。心を静かにするなんざ、俺達に出来るわけがねえ」

 

 早々に諦めたのはターレスとバーダックだ。

 こちらは相手を弱くするという事に抵抗はないだろうが、そもそもの問題として単純に細かい技を使うのに向いていない。

 心を静かにして戦うなど、一番この二人からは縁遠いだろう。

 

「俺も向いていないだろう。相手を自分の都合よく弱体化させるというのはどうもな……」

 

 四星龍もミラや悟空と同じく、強い相手と戦いたいというタイプだ。

 相手を自分の土俵に引きずり下ろすようなやり方は好ましく思っていない。

 そうなると後はセル、トランクス、21号の三人が候補だろう。

 セルはリゼットの細胞を多く持つために技術という点ではリゼットに次ぐ技巧派であり、戦闘においても特にこれといった拘りがない。

 21号はそのセルの上位互換として造り出された存在だ。適性は高いだろう。

 トランクスもサイヤ人としては落ち着いた心の持ち主で、加えて絶望の未来で戦って来た彼はまず何よりも勝利を優先する。フェアプレイでは何も守れないという事を誰よりも痛感している男だ。手段には拘らない。

 そして誰もベジータを候補には入れていなかった。

 

「神様、俺がやります。

奴等は元々、俺達タイムパトローラーが倒さなければならない相手だ。

だから俺がそのスピリットの強制分離を会得して、トッポさん達を救い出します!」

 

 トランクスが名乗りを上げ、リゼットも頷く。

 彼ならば不足はない。適性もあるだろうし、万一ハーツ達が別の時間軸に逃げても彼ならば追跡出来る。

 それにこの先、多くの時間軸で戦うだろう彼にとってスピリットの強制分離は必ずや大きな力になるはずだ。

 習得する為の時間は限られているが、逞しく成長した今のトランクスならば必ずやり遂げるだろうとリゼットは確信していた。

 

「待て」

「父さん……」

 

 だがここで、今まで沈黙を守っていたベジータが声を挟んだ。

 言いたい事は予想出来る。

 大方、『貴様にはサイヤ人の誇りがないらしいな』とでも言うのだろう。

 だが次にベジータの発した言葉は、この場にいる誰もが予想していないものであった。

 

「……俺がやる。そのスピリットの強制分離とやら……俺が身に付けてやる」




【俺はただフェアに戦いたいだけなんだ】
漫画版『超』で飛び出したベジータの言葉。
良くも悪くも『超』のベジータは以前までとは別人であるという事を象徴している。
昔の彼なら絶対に言わなかっただろう一言。
「戦争に汚ねえもクソもあると思うか」
ベジータはどちらかといえばフェアな戦いからは一番程遠い所にいたタイプで、そういう考えを「甘すぎてヘドが出るぜ!」という側だったように思われる。
今にして思えば魔人ブウ戦のベジットの「よく言うぜ。自分だって散々吸収とかしたくせによ」という台詞はベジータの性格が強く出たものだったのかもしれない。

【AI生命体アムズ】
シーラスの作り出したAI生命体。相手を吸収してパワーアップし、更にそのコピーを生み出せる。
ぶっちゃけシーラスよりこいつの方がやばい。

【スピリットの強制分離】
他者から得た気、魂、生命エネルギーを無理矢理分離させてしまう技。
また合体や吸収による同化も解除してしまう。
ただし相手を殴らなければ効果がないので、相手が吸収してパワーアップするタイプだったとしても実力差があった場合はそもそも攻撃が当たらずにボコボコにされてしまう事もある。
ちなみにこの技でゼノバース発動中のリゼットを殴った場合、気の無限回復を阻害出来る。
ただし阻害してもまたすぐに回復が再開されるので殴り続けなければ意味がないが、そもそもそれだけ攻撃を当てらるなら(リゼットは紙装甲なので)普通にKOした方が早い。

ところでターレスを殴ったら、今までに食べた神聖樹の実のエネルギーを放出してターレスに滅ぼされた惑星が蘇るのだろうか……?
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