ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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ベルモッド「全王様に呼び出されたせいでジレンの活躍を見逃してしまった俺の哀しみは計り知れない…………」


第21話 正義の化身

「ごはッ……あァ!」

 

 ジレンの拳が深々と腹にめり込み、ハーツが苦悶の声をあげた。

 かろうじて貫通はされていない。

 インパクトの瞬間に咄嗟にハーツが気を跳ね上げてヒットを倒した時の本気の姿――名付けるならば『(スーパー)ハーツ』とでも呼ぶべき姿になり、その上で更に重力のキューブを自分とジレンの間に挟んで防御した事で、刹那のタイミングではあったが命拾いをした。

 だがそれでも尚、ジレンの剛腕はキューブを砕いてハーツに突き刺さり、大打撃を与えていた。

 続けてジレンが拳を打ち下ろすも、これを受けては一撃で意識をもっていかれると判断したハーツは逃げるように離脱してジレンと距離を取った。

 

「予想以上だ……いいだろう、俺の本気を見せてやる。震えろ……俺の力に!」

 

 ハーツの目つきが変わり、キューブ状のエネルギーが全身を取り巻いた。

 コートを脱ぎ捨て、気を最大まで高める。

 そしてジレンに掌を翳し、重力を最大で叩き込んだ。

 

「ぬっ……うぅぅ……ッ」

 

 ジレンの高度が下がり、力むように歯を食いしばる。

 強さとは決して気の多寡やフィジカルによる戦闘力だけで決まるものではない。

 一芸に秀でた異能があれば、それは時に戦闘力を凌駕する。

 そうした特殊能力はある程度の差があれば無効化されてしまう傾向にあるが、それはあくまで相手に直接働きかけるような能力の場合だ。

 例えば餃子やフリーザの使う超能力などは、相手との差が開きすぎてしまえば何の効果もない。

 しかしハーツの持つ異能は重力の操作であり、相手ではなく空間に作用する。

 ならばジレンといえど通じない道理はなく、ジレンには現在数千……いや、数万、数十万倍という超重力が圧し掛かっていた。

 

 だが、ここにいるのはジレン。

 破壊神をも超えた男だ。

 

「ぬうううぅ……おおおぉぉぉッ!!!」

 

 ジレンが吠え、紅蓮の気が全身から放出された。

 彼に気取った異能の類はなく、変身もない。

 単純なフィジカルと気のパワー、そして卓越した技術で何もかもを捻じ伏せる。

 シンプルに強くて速くてでかくてタフで疲れ知らずで、そして正確無比。

 それがジレンの強さだ。

 単純明快であるが故に弱点らしい弱点がない。

 重力をかけられたままジレンが飛び、ハーツを殴り飛ばした。

 

「ぐはああァっ!?」

 

 ハーツが吹き飛び、いくつもの建造物を突き破って地面を抉った。

 それでも勢いが止まらずに二転三転と回転し、まるでスーパーボールのように何度もバウンドしてようやく地面に倒れる。

 

「ば……馬鹿な……っ! 化け物か……君は……!」

 

 ハーツが激しく咳き込み、地面を赤く濡らした。

 視界が何度も暗転し、全身がガクガクと震える。

 この震えがダメージによるものか、それとも別の要因によるものかは分からない。

 ただ、一つだけ分かった事がある。

 ――このままでは絶対に勝てない。

 それだけの、残酷な事実だけをハーツはやっと正しく認識した。

 

「と……とんでもない奴だな、君は……だが……切り札があってよかった……」

 

 ハーツはよろめきながら立ち上がり、両手を広げた。

 すると彼の後ろに巨大な水晶――宇宙の種が現れ、ハーツに近付いていく。

 

「まだ完全ではないが、試すとしよう。この宇宙の種の力を!」

 

 宇宙の種が眩い光を放ち、ハーツと一体化した。

 ハーツの全身が黄金に輝き、感じられる圧力が一気に上がる。

 いくつもの宇宙を壊滅状態に追い込むことで得た超パワーをその身に宿すことでハーツは己の力を高めたのだ。

 

「第2ラウンドだ!」

「何度来ようが同じだ!」

 

 ハーツが飛翔し、ジレンが迎え撃った。

 激しい打撃の音が連続して響き渡り、衝撃波が何度も拡散する。

 ハーツの重力操作は戦闘力とは無関係の所にある異能だ。

 したがってその出力は通常時だろうが超ハーツだろうが変化せず、先程同様にジレンに振り切られるのは分かっていた。

 だが今はハーツも全力に加えて宇宙の種の後押しを受けており、スピードもパワーも増している。

 だというのに、重力を浴び続けているジレンがそれと互角に渡り合うとは何の冗談だろうか。

 しかもハーツは心を読み、ジレンの攻撃を先読みし続けているのに、全く有利にならない。

 

「ぐっ!? こ、こいつ……」

 

 攻防の最中、ハーツは早くも痛みを訴え始めた己の四肢に驚愕した。

 互角の攻防だと思っていた。だがそうではない。

 ジレンの一撃一撃、その全てが確実にハーツの手足にダメージを刻んでいる。

 重力で縛っても尚、ジレンは強い。

 ジレンのダブルスレッジハンマーがハーツに叩き込まれ、ガードしたというのにハーツの身体が地面に高速で激突した。

 爆発したように砂塵が舞い上がり、隕石でも落ちたかのようなクレーターの中心でハーツが痛みに呻く。

 そこにジレンが飛び込み、回転してハーツの腹を踏みつけた。

 咄嗟にハーツはジレンにかかっている重力を操作して自分から遠ざけようとするが、それでもジレンは止まらない。

 

「ご、お……!?」

 

 ハーツの口から夥しい血が吐き出された。

 そのハーツの髪を掴んで無理矢理引き上げ、今度は胸に豪腕をめり込ませた。

 まだ終わらない。ジレンの拳が弾幕となり、ハーツを痛めつける。

 ハーツもやられっぱなしではない。ジレンの首に蹴りを放ち、その反動で離れて気弾を連射してぶつけた。

 だが煙幕の中から飛び出したジレンの瞳が輝き、目力だけでハーツの動きが止められ、更に殴られる。

 間違いなく重力はかけている。

 ハーツの重力操作は、ただ上から下に働くような単純なものではない。

 常にハーツに有利になるよう働き、ジレンが攻撃をする際には重力というよりはむしろ斥力となってジレンを遠ざけようとする。その威力を全力で殺しにかかる。

 重力と言えど、上下左右の方向は問わない。

 この力により常にジレンの攻撃は軽く、逆にハーツの攻撃は重くなっているのだ。

 実際それは間違いなく効果を発揮しており、ジレンの攻撃によるダメージを何十分の一にまで削ぎ落している。

 だというのに――重い!

 ジレンの拳の一発一発、その全てが驚くほどの威力でハーツの命を削る。

 弱体化させてこれか……威力を殺してこれか!

 鮮血に染まる視界の中でハーツはジレンという男の底知れない強さに改めて驚愕していた。

 

(ま、不味い……このままでは……ッ! 俺の理想を叶える前に、こ、殺される……)

 

 ジレンという正義の化身を前に、ハーツの心に久しく忘れていた死への恐怖が蘇りつつあった。

 何とか身体を動かしてジレンから距離を取り、荒く息を吐きながらジレンを見る。

 ジレンの立っている場所は常にかかり続けている超重力によってへこみ、崩落している。

 だというのにジレンだけが浮遊してその場に残り続ける。

 全身に力を込め、血管を浮きだして鬼の形相で佇んでいる。それが今は恐ろしく思えた。

 宇宙の種がこの身に完全に馴染んでいない事を考慮しても、異常な強さだ。

 

「恐ろしい強さだ……俺をここまで圧倒するとはな。

だが、だからこそ惜しい……君の不自由さが哀れでならない。

なあジレン……その力を、人間の為に使わないか?

俺と共に全王を倒そう。人間の真の自由の為に」

「人間の自由だと?」

「そうだ。俺達は打倒全王を目指している。

全王が……いや、神々がいる限り人間は真に自由になる事は出来ない。

全王の気紛れ一つでいつでも消されてしまう。

君のその磨き上げた力も……そこに至る過程も……育った世界も人々も、善も悪も関係なく、子供が玩具に飽きたら捨てるのと同じように消されるんだ。

俺はその真実に気が付いた時、いてもたってもいられなくなった」

 

 ハーツの言葉がどこまで本気で、どこまで本当なのかはジレンには分からない。

 何故ならジレンには心を読む力など備わっていないのだから。

 だが、多くの悪人を見続けてきたジレンから見ても、少なくともハーツは嘘を吐いていないように見えた。

 

「俺は人間が……世界が好きだ……。

今はこうして敵対しているが君の事も尊敬している。

正義を! 君の魂を! パワーを! 尊敬している……。

ああ、人の輝きは素晴らしい。どんな逆境にあっても生きようとする魂こそが偉大なのだ。

だが全王はそれを理解しない! 関心も持たずに消し去ってしまう」

 

 大仰な手ぶりを交え、ハーツは演説するように語る。

 その口調には熱が籠り、彼の持つ人々への愛と神々への怒りが綯交ぜになっているように感じられた。

 

「俺は……フューという男に過去の歴史をいくつも見せられた。その中には全王に消された世界もあった……力の大会で君達が消される世界もあった……。

神の一方的な侵略を受け、必死に抗った眩しい人々が無情に消され、世界ごと全王に消される……救いのない世界もあった……。

この理不尽を知った時、俺は何かしなければならないと思った! 何もせずにはいられなかった!

知ってしまった以上、見て見ぬ振りは出来ない。

だから俺は! 人間が真に自由に生きられる世界を創る事を決めたのだ!

しかし全王が生きていては、それも消し去られてしまうだろう。

だから俺は全王を倒すと決めた! そして真に人間が自由に生きる、神のいない俺の理想の世界を築き上げるのだ!」

 

 ハーツはそこまで語り、今までとうってかわった優しい笑みを浮かべた。

 そしてジレンへ手を差し伸べる。

 

「ジレン……君もまた、世界の不条理さを嘆く男……世界の理不尽さを知っている男……。

俺と共に来い……俺と君は分かり合える。俺達で世界を救うんだ。

……同志になろう……ジレン……」

 

 静かな、しかし妖しい色気を含んだ声でジレンを魔道へと誘う。

 彼の言っている事は決して出鱈目なものではない。

 全王が気紛れ一つで世界を消してしまう存在だという事もまた事実であり、それはあの力の大会でジレンも思い知った事だ。

 それでも、ジレンの心に迷いなどない。

 だから差し伸べられた手を無視して拳を放ち、ハーツも読心で読んでいたそれを難なく回避した。

 

「下らん。その人間を攻撃しておいて、人間を救うなどと宣う男を俺が信じるとでも思ったか」

「ふ……確かに、それを言われちゃあ反論出来ないな。俺――矛盾してるからさぁ!」

 

 ジレンとハーツの腕が衝突し、再び攻防が再開された。

 ハーツが高速で飛び回り、反動を無視して自らに重力操作をかける事で実力以上のスピードを出す。

 だがジレンは己を中心として全方位に紅蓮の気を放ち、ハーツを捉えた。

 動きが鈍ったハーツの足を掴み、急降下して地面へ振り下ろした。

 惑星が大きく揺れ、そのまま大地を抉りながらハーツを振り回す。

 だが直後、背中から予測せぬ気弾を受けてよろめき、ハーツを離してしまった。

 

「オ゙レ゙トォ……タタカェェ……」

「……しつこい奴め!」

 

 気弾を撃ってきたのは、仕留めたはずのカンバーであった。

 マスクは完全に壊れて口が剥き出しになり、鼻は潰れて歯はほとんどへし折れている。

 片目は潰れ、腕は滅茶苦茶に折れ、足からは折れた骨が肉を突き破って外に露出している。

 身体も至る箇所に焼け跡と打撃痕があり、抉れ、へし折れ、無事な箇所が見当たらない。

 まさに半死半生……いや、もう死んでいない方がおかしい。

 既に意識もないだろうに、それでもカンバーは闘争本能だけで立ち上がっていた。

 元々カンバーは本能だけで生きているに等しい男だ。

 故に意識が失われ、理性が飛ぼうとも……身体がある限りは動き続ける。

 その様はまさに戦闘欲に支配された動く屍であった。

 殺さない限りカンバーは止まらない。

 

「ハアアァァァァ……ッ」

 

 口を大猿のように大きく開き、頬が音を立てて裂ける。

 口から唾液と血を滴らせ、まるで萎える気配のない闘争心だけでカンバーは最高の強敵へと向かった。

 その顔面にジレンの拳が突き刺さって吹き飛ばすも、今度はハーツがジレンの背中を蹴る。

 

「ぬううう……小賢しい奴等め!」

 

 ジレンが怒りに吠え、カンバーとハーツの頭を掴んだ。

 それを衝突させて額を割り、更に二人同時に地面に叩き付ける。

 だがジレンから離れた地面が盛り上がり、ハーツとカンバーがそこから飛び出す。

 地面に叩き付けられると同時にジレンの手から脱出して地面を掘り進んで距離を取ったのだ。

 そのまま助走をつけて二人が並んでジレンへと挑みかかった。

 

「おおおおおぉぉぉッ!!」

 

 ジレンが吠える。

 

「だああああらあああああッ!」

「グガアアアアアアアアアアッ!!」

 

 ハーツとカンバーも負けじと吠える。

 三人が衝突した空間が捻じれ、その圧倒的なパワーにより罅割れた。

 そして打撃戦。ハーツとカンバーが全力で攻撃し、ジレンもたった一人で互角以上に渡り合う。

 ハーツとカンバーの拳が同時にジレンの顔にめり込んで気功波を発射するも、ジレンは決して倒れない。

 彼の後ろには守るべき人々がいる。守るべき世界がある。

 仲間達がいる。そして二度と譲ってはならない正義がある。

 あの大会で孫悟空と第七宇宙の地球の神に教えてもらった。

 トッポ達に教わった。

 たとえ一人で戦っていても自分は一人ではないという事を。

 常に支えられているのだという事を。

 

『だから……次は一人じゃなくて、おめえを支えてくれる仲間と一緒にかかってこい。

そうすりゃあおめえは今よりもうんと強くなれる』

 

 力の大会の決着の際に孫悟空に言われた言葉を思い出す。

 独りじゃない……。

 一度は仲間など要らぬと全てを捨てた。

 信頼など無価値だと断じた。

 そんな自分を、それでもトッポ達は信じてくれたのだ。そして仲間だと今も言ってくれる。 

 その信頼を二度と裏切らぬ為にも……。

 

「俺は! もう二度と、悪に屈したりはしない!

俺が! いや、俺達が――この宇宙を守ってみせる!!」

 

 ジレンの気がこの期に及んで更に上昇した。

 太陽よりも熱く燃え盛る炎がハーツの重力すらも吹き飛ばし、彼の顔面に拳が叩き込まれた。

 轟音を立ててハーツが吹き飛び、続けてジレンの拳がカンバーの胸を貫いた。

 ジレンには『悪人であっても命は奪わない』という信念がある。

 だから圧倒的な実力差がありながら、ラグスもシーラスも、カミオレンもかろうじて命を繋いでいる。

 だがカンバーは……この戦闘意欲だけで動く男は身体が動く限り戦い続けるという事をジレンは理解した。

 故にこの瞬間のみ、信念の限界に迫る事をジレンは決断する。

 己の独りよがりな信念よりも大切な『正義』を守る為に!

 

「消え失せろォォォォ!」

「グオオオオオオオオオ!!」

 

 貫いたまま、腕から気を放出した。

 するとカンバーは内側から焼かれ、細胞ごと滅却されていく。

 宇宙まで貫く火柱が立ち昇り、カンバーの悲鳴が小さくなっていく。

 数秒にも渡る業火……それが終わった時、カンバーの姿は完全に漆黒に染まり、炭化していた。

 

「オレ……ト……タタカ…………エ……」

 

 その言葉を最後に、カンバーが崩れ落ちた。

 これでもギリギリ、かろうじて生きている。生命活動という点のみで語ればカンバーは死んでいない。

 しかし死ぬのも時間の問題だろうし、仮に生き延びても二度とまともな生活は送れないだろう。

 戦士としては完全なる『死』を迎えたと断じて間違いはない。

 最後の最後まで戦闘の事しか考えていない、ある意味ではサイヤ人らしい男だった。

 そんな闘争心だけの獣を葬ったジレンは次にハーツを仕留めるべく、ゆっくりと歩き出す。

 一歩踏むごとに大地が揺れ、足跡が刻まれる。

 ジレンのダメージも決して軽くない。

 それでも彼は揺らがない。

 何故なら彼は『最強』だからだ。

 最強と信じてくれる仲間達の為に。この宇宙で暮らす全ての力なき人々の為に。そして己自身のプライドの為に。

 この正義と誇りがある限り決して負けない。

 正義(誇り)という名の馬に騎乗し、全ての悪を薙ぎ倒してどこまでも突き進む。故にこその誇りある騎兵達(プライドトルーパーズ)

 決してジレンは倒れない。折れない、朽ちない、砕けない。そして諦めない。

 その背中には、宇宙に暮らす弱き人々全員の……そして仲間達の『信頼』が乗っているのだから。

 

 ――だがそれ故に……彼の弱点もまた、仲間であった。

 

「……むっ」

 

 ジレンを、キューブ状の気が閉じ込めた。

 それはこの戦闘で何度も見た、ハーツが操る独特な気だ。

 だがそんなものはジレンの動きを止めるには至らない。

 ジレンならばいくらでも力づくで脱出してしまえる。

 だが……ジレンは動けなかった。

 この気のキューブの特徴を一目で理解してしまえたから、彼は止まらざるを得なかった。

 

「これは……」

 

 ジレンが苦渋に満ちた表情を浮かべる。

 彼を閉じ込めているキューブは、きっと触れればその瞬間に惑星そのものを巻き込んで大爆発を起こすだろう。

 無論そんなものはジレンには(・・・・・)効かない。

 星が爆発して宇宙に放り出されようとジレンの最強は崩れない。

 だが……ジレンはよくても、周囲はそうではない。

 倒れている仲間達……トッポ、ディスポ……そしてプライドトルーパーズの仲間達。

 この星に生きる儚い命達。

 ジレンが動けば、彼自身は無事でも他が死ぬ。

 

「ハァ……ハァ……ッ。

あまり……使いたい手ではなかったが……素直に認めよう、ジレン。

君はまさに宇宙最強だ……今の俺達では、まだ勝てない……。

だから、小細工を……使わせてもらう事にした……」

「貴様……ッ」

 

 ジレンの額に血管が浮かび、拳を握る。

 だが動けない。彼が正義であるが故に、何もさせて貰えない。

 そんなジレンの前でハーツはよろめきながらも重力操作でコアエリアの戦士達を浮遊させた。

 

「宇宙の種のエネルギーはもう十分集まった……。

そしてもう一つ……AI生命体アムズよ……そこの連中を取り込むといい」

 

 ハーツが声をかけると、今まで空に浮いていた黒い物体が下降した。

 大して脅威を感じなかった為にジレンの中での優先順位は低く、今まで気にもしていなかったが、それが不味かった。

 アムズと呼ばれた黒い浮遊体はトッポに近付き、赤い光を放つ。

 すると、次の瞬間にはトッポが消えてしまっていた。

 

「なっ……馬鹿な! 何をした!?」

「ハァ……ハァ……。

そいつは……そこで倒れているシーラスと言う男が作ったAI生命体でね。

戦闘データを吸収する事でパワーアップ出来るんだ。

ゼェ……ゼェ……。

そして今、トッポを吸収した……破壊神候補の力は、アムズを劇的にパワーアップさせる事だろう」

「……っ!」

 

 呼吸をするのも辛いのか、言葉が途切れ途切れになりながらもハーツがアムズの能力を説明した。

 彼の言う通りにアムズの気が一気に膨れ上がり、その姿もトッポとどこか似たものになる。

 続けてアムズはディスポを吸収し、更に他のプライドトルーパーズも取り込んでいく。

 

「や……やめろおおお!」

 

 消えていく。

 こんな自分を信じてくれた仲間達が。

 仲間を見捨てた自分を、それでも見捨てずにいてくれた皆が。

 もう二度と失わないと決めたのに。

 今度こそ守り抜くと誓ったのに。

 それなのに、ジレンは何も出来なかった。

 今すぐ飛び込む事は出来る。

 キューブを破壊してあのアムズという敵を砕くのにジレンならば一秒もかからない。一撃で終わる。

 その後に半死半生のハーツを仕留める事もジレンならば容易いだろう。

 そう……ジレンは勝とうと思えば勝てるのだ。

 この星と、この星に生きる人々と、そして仲間達を見捨てて独り善がりの戦いに徹してしまえばここでハーツ達の暴虐を止める事が出来る。

 それは最終的には、これから彼等によって齎される被害を食い止める事になるだろうし、結果的には被害を少なくする最善の手段かもしれない。

 だが、それが出来ない。何故なら彼は……悲しいほどに、正義だから。

 最後にほぼ死体と化していたカンバーを取り込み、アムズは役目を終えたように空へ戻った。

 そんなアムズを睨みながらも歯噛みし、憤怒と悲しみが綯交ぜになったような表情で震えるジレンを見下ろしながらハーツは笑う。

 

「この宇宙で得るべきものは得た。

カンバーを失ったのは痛手だったが……引き際は弁えないとな……。

それに……他の宇宙からお客人も来ているようだ……。

流石に今は……相手をするのは無理があるな……」

 

 ハーツは口から血を流しながら、胸を押さえる。

 コアエリアの戦士達はジレンとの戦闘では敗れたが、最終的な勝利を掴む事には成功した。

 試合に負けて勝負に勝つといったところか。

 だがカンバーを失い、カミンとオレン、ラグスとシーラスは重傷を負わされて瀕死……いや、ダメージを見るに最早再起不能か。おまけにハーツまでもが深手を負って満足に動く事も出来なくなった。

 これがジレンたった一人によって齎された損害だというのだから、どうかしている。

 

「さらばだジレン……何よりも強かった男よ。俺は君との戦いを決して忘れない」

 

 最後にそう言い残し、コアエリアの戦士達が消え去った。

 後に残されたジレンは敗北感に打ちひしがれながら、拳を震わせる事しか出来ない。

 その近くに光の柱が降り注ぎ、中から第七宇宙の界王神が姿を現した。

 続けてトランクス、セル、バーダックが現れるも残念ながら一歩遅い。ハーツは既に退却した後だ。

 

「しまった! 遅かった……」

「ちっ、逃げ足の速え野郎だ!」

 

 界王神が出遅れた事を悔い、バーダックがコアエリアの戦士の引き際のよさに悪態をつく。

 だがジレンは、それを気にしている余裕もなかった。

 彼が考えているのはたった一つだ。

 奪われた仲間達を取り戻し、そしてハーツ達を今度こそ倒す。

 それだけを考え、ジレンは悔しさに震える。

 

 ――このままでは終わらせない。そう、ジレンは固く心に誓った。




ジレン大暴れ終了。
結果的には負けたようなものですが、強さは十分に発揮したんじゃないでしょうか。
一応ジレン一人でコアエリアの戦士に与えたダメージは以下の通りになります。
・ハーツ(重傷)
・カンバー(退場)
・シーラス(再起不能)
・ラグス(再起不能)
・カミン(再起不能)
・オレン(再起不能)

遅れは取ったけど、力の大会編ラスボスとしての格は最小限のダメージで済んだかなと思います。

【戦闘力】
超ハーツ(IN宇宙の種):90兆
まだ究極ではない。
宇宙の種のエネルギーが少ない状態だったが、それでもかなりの戦闘力加算となった。
これに加えて重力操作による自己バフに相手のデバフ、更に読心もあるので数値より遥かに強い。

が、数値以上に強いのはジレンにも言える事だった。
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