売り上げ世界一も“一人負け”状態 なぜ「クール」だったナイキは失墜してしまったのか
理由(4):ファッションブランドを目指しすぎて「原点」を忘れた
先のGQ誌では、ナイキ元幹部のコメントとして「スポーツに根ざしたブランドではなく、ZARAやH&Mのような、よくありがちなライフスタイルブランドを目指していた時期があった」と解説しています。 従来の商品企画がバスケットボールやサッカー、陸上などスポーツカテゴリー別の商品開発体制だったのを一時やめて、メンズ、ウイメンズ、キッズなどのターゲット別に再編成したのです。ファッションブランドであればそれでも良いでしょうが、ナイキはスポーツブランドです。これではトップアスリートや各スポーツを楽しむ人々の満足のいく商品開発につながりません。 その反省を生かしてか、現在はナイキのたたきあげで一時は離れていたエリオット・ヒル氏をCEOに据え、直販戦略を見直し「アスリートを全ての中心に据える」とあらためてナイキの原点に立ち返る方針を掲げています。
今こそ「原点回帰」が必要だ
筆者は二度ほど、米国のナイキ本社を訪れたことがあります。入り口には2つの池があり、グローバルブランドとして販売先である世界の東(東洋)と西(西洋)を表しています。奥に見えるポールには、支社がある国の旗も掲揚しています。こうした光景は、海外企業でもなかなか見られないものです。 写真には石畳のようなものも見えると思います。石と石の間が10センチほど開いており、案内してくれたナイキの社員は「足元をしっかり見て経営しろ」という自戒の念を込めて「あえて」間隔をあけているのだと説明してくれました。その他、社内にはナイキがアスリートのためにどのような思いで商品を作り、ナイキの商品がどんな試合結果をもたらしてきたかといった「原点」を感じる写真やポスターを多数掲示していました。 米国のスターバックスがそうであるように、ナイキもまた、忘れてはいけない原点、同社のカルチャーとは異なる経営に走っていたことが不振を招いたのではないかと筆者は考えています。
アシックスとミズノが好調の理由
視点を変え、ナイキが苦しむ一方で国産の2ブランドが業績好調なのはどのような理由なのでしょうか。 アシックスは「オニツカタイガー」ブランドが絶好調で、2024年12月期の売上高は954億円と、直近5年間でおよそ2倍に拡大しています。創業者の鬼塚喜八郎氏に由来するブランドを起点に、アシックスの世界ブランド展開をさらに進め、2030年には売上高1兆円を目指しています。 アシックス本体では「パフォーマンスランニング」という、ランニングシューズを主力商品に据えたカテゴリーの売り上げを伸ばしています。高付加価値商品に力を入れ、北米のランニング専門店でのシェアも2023年度から2倍ほどの19.5%に高めています。2025年に東京で開催予定の世界陸上でも高反発の商品をデビューさせる予定で、世界での販売網を順調に拡大しています。 同社の売り上げのうち海外比率はすでに80%を超えており、オニツカタイガーでファッションブランド的なイメージを作りつつも、軸はランニングシューズであるという点はブレていません。これが成長の一大要因となっています。 一方のミズノは海外売上比率が38.7%とアシックスほど高くありませんが、年々比率を上げており、特にブラジルや中国が好調です。商品カテゴリーではフットウェアとアパレルが好調で、競技スポーツ向け商品を軸に売り上げを伸ばし、ファッションにも使えるスポーツスタイルの高機能シューズを投入し、女性や若年層などの新規客を獲得しています。 このようにアディダス、アシックス、ミズノの3社は、あくまでも「アスリートのためのスポーツブランド」という立ち位置からブレておらず、フットウェア商品を軸にして自社商品の機能性に磨きをかけて、高付加価値商品を生み出す戦略をベースにした上で、ライフスタイル、ファッション商品を付加しています。 一方のナイキは「ライフスタイルブランドとしてのナイキ」が前に出すぎた感があります。ナイキ本来の強みだった「アスリートに寄り添うスポーツブランド」というイメージが薄れ、ファッションイメージに偏り過ぎてしまったこと、同時にナイキが持っている本来の商品力の強さが見えづらくなってしまったことが、苦戦の理由と考えられます。 ナイキは今こそ、ロゴマークに込めた意味とともに、競合の原点主義を参考にしつつ、世界で支持を受けてきたブランド価値に立ち返るべきではないでしょうか。小学生のときからナイキの靴を履いてきた筆者は、再浮上に期待しています。 (岩崎 剛幸)
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