自民党が大敗した今回の参議院選挙。とはいえ野党第1党の立憲民主が政権批判票の受け皿になりきったとも言い難い。その背景と今後の展開について、政治学が専門の中北浩爾・中央大教授に聞いた。

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　今回、参政党が躍進したのは「自民党にお灸（きゅう）をすえたい」層が、野党第1党の立憲民主党をスルーしてなだれ込んだからだと見ています。結果、お灸どころか炎上し、自民は大敗を喫しました。

　石破茂首相は「トランプ関税への対応」を理由に居座る誘惑を断ち切って辞任を表明すべきです。まさに、民信なくば立たず。自らが設定した「必達目標」に達しなかったのに辞めなければ、「勇気と真心をもって真実を語る」というスローガンが泣きます。自民は新総裁のもとで早期に立て直しを図るべきです。

　難局をしのぐ方策として、自民と立憲の大連立も取りざたされますが、選択的夫婦別姓などの重要政策で一致が難しい。国民民主党は「玉木雄一郎首相」なら連立入りもあり得るけれども、それで自民がまとまる可能性は低く、連合も反対です。やはり本年度予算に賛成した維新が連立の主なターゲットでしょう。

政権批判の受け皿になりきれなかった立憲

　今後の展開は、石破首相が辞めるか、次の自民党総裁が誰になるかで変わります。コメ問題で名をあげた小泉進次郎氏であれば、首相指名選挙の直後に衆院解散に踏み切り、清新さとスピード感で議席回復を図るのではないでしょうか。参政党の躍進を受けて自民党が右旋回し、高市早苗氏が総裁になる可能性もある。しかし、参議院で過半数を持たない以上、誰が総裁になっても連立の拡大を目指さざるを得ません。

　本来であれば、野党への政権交代が起きるべき局面です。しかし、立憲が野党をまとめきれていない現状では、野田佳彦代表が次の首相となる可能性は低い。

　立憲は、参政が自民票を食うという「漁夫の利」を得て改選22議席を確保したとはいえ、政党の勢いを示す比例区で伸び悩んだ。野党第1党が政権批判票の受け皿になりきれていないというのは深刻な状況です。

　選挙戦を振り返っても、政権交代への本気度が伝わりませんでした。日本記者クラブの討論で、立憲が主張する「安保法制の違憲部分の廃止」について、石破首相から「どの部分が違憲か」と問われた野田氏の答えは「政権をとったら検証する」。これでは無責任です。野田代表が選挙対策のために食料品の消費税ゼロを受け入れ、信念を曲げたことも、コアな支持者を落胆させました。

　そもそも立憲と国民が分かれたままでは政権交代は困難です。しかし国民は玉木代表のもと「反立憲」でネットを中心に支持を得ており、旧民主党の再結集は見通せません。

　今や「平成の政治改革」から30年以上が経ちました。2大政党が低迷して多党化が進んだ結果、「政権交代可能な民主主義」から遠のいています。新たな政治改革の議論を起こすべき時かもしれません。

　「平成の政治改革」は、利益誘導政治がはびこり、政治的リーダーシップが欠如し、金権腐敗の横行している状況を是正することに主眼が置かれました。しかし、目下の最大の懸念はポピュリズムです。

　ポピュリズムは、しばしば大衆迎合主義と訳されますが、本質は反エリート主義です。社会が個人化し、政党組織、政治家の個人後援会、業界団体や労働組合など、社会と政治をつなぐ様々な組織が衰退した結果、人々は政党や政治家との一体感を弱めました。それが反エリート主義を生み出しています。衆院の中選挙区制を廃止し、企業・団体献金への制限を強めた「平成の政治改革」も、この傾向を助長したといえます。

　最近の反エリート主義の最たるものは、財務省解体デモであり、財政規律を敵視する減税ポピュリズムです。医療でたとえると、それは「キノコを食べればがんが治る」という類の「民間療法」であって、科学的根拠に基づく「標準治療」とはいえません。無責任に赤字国債を発行していけば、やがて金融市場からノーを突き付けられるでしょう。しかし、本来であれば、民主主義のプロセスを通じて、いかがわしい政策をはねのけていくことが大切です。

　外国人を敵視する右派ポピュリズムの台頭も憂慮されます。現在のところ、外国人の増加に伴う摩擦がみられるとはいえ、排外主義の動きが日本社会で大々的に高まっているわけではない。しかし、自民や立憲への不満を背景に台頭した新興政党が、福祉排外主義に火をつけることがあり得ないとはいえません。

中北浩爾さん

なかきた・こうじ　1968年生まれ。一橋大学教授などを経て中央大学教授。専門は日本政治外交史。著書に「自民党―『一強』の実像」「自公政権とは何か」「日本共産党―『革命』を夢見た100年」など。