13歳が見た夢。バリアフリー・フェス、Neuma no Mori(ネウマの森)

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「いつか、どんな人も排除されずに、気兼ねなく音楽を楽しみに来られる場所を作りたいんです。車椅子の人や、障害や難病を抱えた人、もちろんそうでない人も。その時が来たら旅人さん、歌ってください」

病院、幼稚園、小学校、支援学校、ライブハウス、いつも何かに阻まれ、たらい回しにされ、穏やかに過ごせる場所をなかなか見つけられず苦しんできた少年が、他の誰かのために、居場所を作ろうとしている。

生まれ持った重度心臓病と、医療事故による脳障害で、余命15歳を宣告された少年、三浦タケヒロ。
彼はやがて、僕のいちばんの親友になった。

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風邪をひいた時、犬が死んでしまった時、新しい歌ができた時、Switch 2の抽選に落ちた時、どんな時もタケくんが連絡をくれた。いい年になっても人付き合いが下手な僕にとって、そんな相手は、人生で初めてだった。
20歳以上の年齢差を越えて、彼と互いに歌のようなものを投げ合いながら7年が過ぎた。

あの日、13歳のタケくんと交わした約束をどうすれば果たせるのか、バリアフリー・フェス、Neuma no Mori(ネウマの森)の開催が決まってからのこの数ヶ月、どれほど考えても答えを出せずにいた。

本番直前まで、横須賀から国分寺の会場へ向かう車中でも演奏内容に改変を加えた。持ち時間は限られているが、タケくんとの7年間をどうにかして詰め込みたい。そして自分の出演がないタイミングであっても今後イベントの根幹を支え得るような要素をなんとか持ち込めないか。
ぐるぐると悩み続けてきたが、タケくんとユウさん親子が仲間の力を借りながら作り上げた草花の生命感あふれる愛らしいステージに楽器を運び込んだ時、ふと吹っ切れるものがあった。

いよいよイベント開幕。医師たちの宣告をぶっ飛ばして20歳を迎えたタケくんが、車椅子から立ち上がりマイクを握りしめ、一言一言たいせつに謝辞を述べてゆく。

「僕はこれからもこの森を目指して旅を続けます。
もしかしたら、途中で僕自身が尽きることもあるかもしれません。
そのときはきっと、ここにいる皆さんや、音楽家の仲間たちが、
Neuma no Moriへと、あなたを連れて行ってくれるはずです。
心はいつも共にあります」


まだ演奏も始まっていないこの時点ですでに、社会に張り巡らされた疎外のバリアに微かな亀裂の入る音がした。

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そこから先の時間を言葉にするのはとても難しい。実質規模としては、僕とbutaji、二人のシンガーソングライターによるツーマンライブだが、駆けつけてくださった皆さんの多様な声と想いが折り重なりあって、どんなフェスにも負けない広く深い空間を生み出すことが出来たように感じた。

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機能性発声障害との診断を受けリハビリに通いながらも、普段よりいっそう濃密に紡ぎ出されてゆくbutajiの声。
そして賢者の如く深遠な瞳をした重度知的障害の白岩次郎が放つ、闇を切り裂く火のような声。
ずっと僕と共に歌ってくれていたキッズエリアの子供たちの芽吹きをはらんだ夏風のような声、声、声。
そして歌声という形でなくとも、それに等しいものを分け与えてくれたみんな。

何をなすべきか、答えをみつけられないまま同じ船に乗り合わせ、ひとつの問いの周囲を旋回してゆく。
やがて、まっさらな場所が現れた。バリアの制約を解かれ、全ての命が本来的な輝きを放つ場所だ。

音楽が鳴り止んだあと、楽器を片付け、互いに名残りを惜しみながら、すっかり陽が落ちた路上へと踏み出す。ありとあらゆる見えない壁が錯綜する路上へと。
ここにいた一人一人が、それぞれの場所へと帰ってゆく。ある者は両足で、ある者は車椅子で。

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世界中がヘイトと排除の論理に絡め取られ、扇動が飛び交う今、最も近しい場所に存在し続けてきた他者ですらまともに正視することが出来ないままの日本社会はこれからますます退行し、分断を深めていくように見える。
このような磁場で可能な歌がどのようなものか、答えが出るのはまだまだこれから先のことだろう。

でも帰宅して脱いだ靴には、草花の一片が付着している。
僕らはこの日まぎれもなく、ネウマの森の入り口に立っていた。

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(Photo by 山口呼夏 ※花の写真と、幼き日のタケくんの写真は七尾の手元にあったもの)

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