トランプ制裁が明らかにした経済ネットワーク
資金をめぐる政治的対立が、いかに広範囲な経済的影響をもたらすかが、2025年春の連邦助成金凍結で明らかになった。この措置が明らかにしたのは、ハーバード大学が単なる教育機関ではなく、巨大な経済エコシステムの中核として機能している現実である。
研究現場では前例のない混乱が生じている。具体的には、ポスドク契約が12カ月から3カ月に短縮され、ラボでは実験動物の処分が決定された。18年間稼働していたナノテクノロジー機器施設も閉鎖に追い込まれる。学部長たちは採用・昇給の停止、不動産契約の終了、建設プロジェクトの中止などの緊縮計画を作成し、資金確保に奔走している。
影響は大学の枠を超えて広がっている。政権は当初の22億ドル凍結から調査対象を拡大し、最大90億ドル規模の研究費審査を実施している。この審査は、ハーバードと提携するボストンの病院群にも及んでいる。これらの病院は大学の直接管轄外だが、医学部教員を雇用し共同研究を実施しているため、助成金審査の対象となった。
さらに影響は全米に拡大している。ハーバードは570件以上の共同研究助成金(同大学が受けた連邦資金を他機関に再配分するもの)を停止せざるを得なくなり、全米32州の関連機関に深刻な影響を与えている。テキサス大学医学部とのウイルス研究や、ミシガン州における先天性心疾患の新生児ケアに関する取り組みなど、命に関わる研究連携が打撃を受けている。
ハーバード大学はマサチューセッツ州経済の中核的存在でもある。
主要雇用主として約1.9万人を直接雇用し、地主として年間14.5億ドルを州内企業に支出している。160社以上のスタートアップ企業を輩出し、年間65万人の観光客も呼び込んでいる。ある試算によれば、助成金凍結だけでボストン全体のGDPが最大29億ドル減少し、1.5万人の雇用に影響を及ぼす可能性があるとされる。
こうしたリスクは多層的に現れている。最先端研究停滞による国際競争力の低下、カナダや英国への高度人材流出の加速、そして地域経済への深刻な打撃である。留学生・研究者の減少は大学周辺の小売業や不動産市場に直接影響し、関連企業・研究機関を含むエコシステム全体の縮小を招く恐れがある。