一言では表現できないハーバードと中国との関係
2020年から2024年にかけて、ハーバードが受け取った外国政府からの寄付は1億5100万ドルに達する。主要提供国はアラブ首長国連邦、サウジアラビア、エジプト、カタールなど中東地域に偏っており、教育省の報告書によると、こうした資金が研究テーマの選定や成果の発表に微妙な影響を与える可能性が指摘されている。
より複雑なのは中国系資金の流入である。非政府系資金でいうと、イギリスと並び中国・香港からの資金流入が多い。公衆衛生大学院は正式名称を「ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院」といい、2014年に香港の実業家T.H.Chanの名前を冠して命名された。これは3億5000万ドルの寄付を受けたもので、当時ハーバード大学史上最大の寄付であった。
ハーバード大学では、中国共産党関連組織との連携について米議会から国家安全保障上の懸念が示されているものの、、ケネディスクールに限って言えば、「中国脅威論」の下で安全保障や資金の流れは統制されている状況がある。安全保障関連の一部セミナーでは、中国系留学生の出席が非公式に制限されているケースも見受けられた。一方、同校の留学生は中国人が多くを占め、重要な収入源となっている。
複数の大学関係者によると、ある大型フェローシップでは学生の奨学金が中国系富裕層の資金で賄われているが、受給者にはその事実が知らされていない。関係者の証言によれば、見返りとして寄付者親族の入学優遇、学長や著名教授との優先面談権が提供されているとされる。
資金源の多様性という観点から見ると、ケネディスクールのメインキャンパス6棟のほぼすべてがユダヤ系アメリカ人寄付者の名前を冠している現実は、特定の資金源への依存度の高さを物語っている。それゆえ、2023年のイスラエル・ハマス戦争をめぐる大学の対応は、重要な資金源であるユダヤ系寄付者の強い反発を招いた。
30年以上にわたってケネディスクールに寄付を続け、ウェクスナーの名前を冠したキャンパスを持つウェクスナー財団は2021年度に240万ドルをイスラエル官僚向けフェローシップに拠出していたが、2023年12月に大学の対応を「道徳的に不適格」として資金提供を打ち切った。
ハーバードの事例が示すのは、現代の高等教育における根本的ジレンマである。政府、企業、個人、海外からの多重依存構造において、各資金源が持つ政治的・経済的利害と学問の自由の間に生じる不可避な緊張関係。財源の多様化は一見リスク分散のように見えるが、それぞれが異なる圧力をもたらす以上、完全な中立性を維持することは困難である。