【記者ノート】携帯、漫画…癒えない悲しみ 熊本県立高3年の女子生徒いじめ自殺訴訟が終結
2013年にいじめを苦に自殺した熊本県央の県立高3年の女子生徒=当時(17)=の遺族が、県と当時の同級生8人に損害賠償を求めた訴訟が終わった。母親を訪ねると、娘が使っていた携帯電話を見せてくれた。「電源は入りにくくなったけれど、まだ解約していないんです」 娘が好きだった青色の「ガラケー」。データを移した別の携帯電話の連絡先には、当時の同級生とみられる名前が並ぶ。自殺の引き金となったダンス練習の様子を映した動画もあった。 県の第三者委員会が15年にまとめた調査報告書は、女子生徒が体育大会のダンス練習で同級生から厳しい言葉を浴びたことなど9件をいじめと認定した。ただ同級生の氏名は黒塗りで、いじめの動機なども分からなかった。 母親は「真相が知りたい」と裁判を望み、娘の自殺から8年後に熊本地裁に提訴。母親の申し立てに伴う開示命令が最高裁決定で確定したことを受け、生徒名を示した報告書が開示された。真相究明に一歩近づいたと母親は喜んでいた。
しかし、黒塗りが外れた報告書でも詳しいことは分からないまま。ほかに調べようもなく、母親は県への訴えを取り下げるなどして、訴訟を終わらせる道を選んだ。 「ほら、漫画もいっぱいになったでしょ」。居間の一角にある娘の机には、人気漫画「ONE PIECE(ワンピース)」が数十冊置かれていた。娘が大好きだった作品。母親は単行本が発売されるたびに1冊ずつ買い、机に並べてきた。読まれることのない漫画はどれも新しい。 この春、母親は娘の13回忌の法要を営んだ。生きていれば29歳。結婚して、子どもがいたかもしれない。夢だった菓子職人になり、店を構えていたかもしれない-。夫にも病気で先立たれ、一人で遺影と向き合う日々が続く。 娘の携帯電話の料金を、今も支払う。「いつか、娘が帰ってくるんじゃないかと思うと…」。自宅の庭先を見つめる目が潤んだ。 いじめで子を失った親の悲しみは、時間が過ぎても癒えることはない。こんな悲劇は繰り返されてはならない。(臼杵大介)