ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百二十九話 模倣

「うおおおおおおッ!」

「てやああああああッ!」

 

 第6宇宙のナメック星人であるサオネルとピリナが猛攻を仕掛けていた。

 二人はただのナメック星人ではない。

 第6宇宙に生きる全てのナメック星人が宇宙を守るために、二度と戻れぬ覚悟で融合した超ナメック星人だ。

 いわば第6宇宙の全てのナメック星人……故にその強さは潜在能力を解放した悟飯とすら渡り合うレベルにまで到達している。

 対し、それを迎え撃つのは先代と融合して一人のナメック星人へ戻ったピッコロだ。

 未だにマントもターバンも外さない彼はサオネルとピリナの猛攻すら涼しい顔をしたまま受け流していた。

 その動きからは無駄が省かれ、流れる水のように二人のパワーを受け流している。

 

「こ、これが……第7宇宙のナメック星人の力……!」

 

 圧倒的な差にサオネルが呻き、そこを狙い澄ましたようにピッコロの手刀が二人を弾き飛ばした。

 舞台端まで吹き飛んだ二人は何とか立ち上がるが、戦力差は絶望的だ。

 だが、二人の顔はどこか清々しいものであった。

 他所の宇宙ではあるが……それでも、ナメック星人は終わりではない。

 こんなにも強い男がいてくれた。それが何だか嬉しかった。

 

「見事だ……こんなにも強い同胞がいた事を嬉しく思う……」

「……ああ、俺もだ」

 

 ピリナの賛辞にピッコロも笑みと共に答えた。

 こんな出会いでなければ互いの宇宙の事で一晩語り明かす事も出来ただろう。

 それを残念に思いながらピッコロは掌を翳し、二人を吹き飛ばした。

 サオネルとピリナが脱落し、これで第6宇宙で残るのはヒットのみ。いよいよ後がなくなってしまった。

 ……いや、後がないのは第6宇宙だけではない。

 悟飯の方を見れば彼は第10宇宙のムリチムとナパパを落とし、オブニとの一騎打ちに臨んでいる。

 また、第4宇宙のキャウェイは巻き込まれないように逃げ回りつつ、戦闘不能に陥っていた第2宇宙のザーブトとラバンラを発見してコソコソと舞台から落としていた。せこい。

 つまりこの時点で残りは18人。いよいよ人数で第7宇宙が他宇宙の合計よりも多くなってしまった。

 しかし本番はここからだ、とピッコロは考えていた。

 何故なら奴が……ジレンがまだ残っている。

 

 

 リゼットがアニラーザを倒していた時、悟空達の戦いも佳境へと入っていた。

 『身勝手の極意』――神々の領域でそう呼ばれる奥義は、身体のあらゆる箇所が勝手に判断して敵の攻撃を回避し、攻撃を行うというものだ。

 悟空のそれは不完全なものながら、それでもジレンと互角の攻防を繰り広げるに至っている。

 だが残念ながら、これでもまだ互角止まりだ。

 いわばこの状態は“兆”。身勝手の極意の入り口に足を踏み入れているに過ぎず、奥義を使ってようやくリゼットが素で出来ている事に並んでいるに過ぎない。

 

「サイヤ人か……興味深い存在だ。

だがその熱さがお前の限界だ!」

 

 身勝手の極意は長続きせず、悟空の拳はジレンに容易く受け止められた。

 そのまま気功波で吹き飛ばされてしまった悟空を、落ちる寸前で実体化したヒルデガーンが救出する。

 更に追撃に入ろうとしたジレンの前に立ち塞がったのは三体の分身セル、四星龍、そして乱入してきたベジータであった。

 ベジータは今まで第11宇宙のカーセラル、ココットを相手にしていたのだが、そちらが片付いたらしい。

 見れば、観客席にいつの間にかカーセラルとココットが座っている。

 

「第7宇宙の戦士達か……止めておけ。お前達では俺には勝てん。

さっさとあの白い女か緑色の男を連れてこい」

「……舐めやがって」

 

 ベジータの額に血管が浮かぶ。

 雑魚扱いされている……そう感じたのだ。

 いや、実際にそう思われているのかもしれない。

 リゼットやピッコロほどの強さはなく、悟空のように界王拳を使えるわけでもなければ身勝手の極意に目覚めかけているわけでもない。

 またしてもベジータは、悟空に先を越されたのだ。

 

「いつもだ……いつもあの野郎は俺の先をいきやがる……並んだと思ったら引き離しやがる……。

な、何度目だ……これで何度目だ……いい加減にしろ……!

サイヤ人の王子を……このベジータ様を、舐めるなあああ!」

 

 ベジータが駆け、ジレンに挑む。

 次々と拳を繰り出すがその全てが呆気なく受け止められ、虫でも払うような腕の一振りで弾かれてしまった。

 地面を転がり、ジレンの恐るべき強さに四星龍と分身セルが戦慄する。

 ベジータはフラフラと立ち上がるも、たった一発で足に来てしまったのか、小鹿のように震えていた。

 

「無駄な事は止めろ。お前の拳は傲慢だ……純粋さの欠片もないその拳では俺には勝てん」

「傲慢だと? 確かに俺は傲慢だ……だが、それは俺のプライドそのものなんだ」

 

 ベジータは笑い、そして拳を握り込む。

 またしても悟空に先を行かれた。ウイスの語っていた『身体が勝手に判断する』領域には今度こそ自分が先に行こうと思っていたのに、気付けばいつも悟空が先にいる。

 だがそもそも、ベジータに身勝手の極意は向いていなかったのだろう。

 彼は今、悟空に先を越された事でその事に気が付いた。

 

「お前も孫悟空と同じあの技を使うつもりか?」

「ふ……たった今その考えを捨てた所だ。

アレは俺には向いていない。どうあっても自分を捨てる事など俺には出来ん。

身勝手の極意はカカロットや神が勝手にやっていればいい。俺は俺のやり方で限界を超える」

 

 ベジータと悟空は土壌が違う。

 悟空は丁寧に基本を積み重ね、多くの師に学んできた武道家だ。

 身勝手の極意を習得する土台が既に出来ている。

 しかしベジータはそうではない。

 

「俺が誰かに教えを乞うというのがそもそも間違えていた……。

当然だ……俺は生まれながらのエリートだったからな。父であるベジータ王にも戦い方を教わった事などない。

カカロット達が地球でお遊びの武道会などをやっている間にも俺はずっと、宇宙で命がけの戦いを続けてきたんだ!」

 

 殻の破り方を間違えていた。

 ベジータと悟空は土壌が違うのだから、悟空向きの方法を真似ていたのではいつまで経っても二番手に甘んじるしかない。

 悟空の真似をするのではなく、ベジータ独自の道を探す。

 そうする事こそが悟空を超える方法だと、ベジータは気が付いたのだ。

 思えばターレスは最初からその事に気付いていたのだろう。

 だから彼は最初から悟空と全く異なる道へ進み、そして超サイヤ人4という彼だけの変身を手にする事が出来た。

 結論を言ってしまえば、ブルーという変身そのものがターレスやベジータなどの現場叩き上げの戦士には向いていなかったのだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 ならば今こそ悟空と違う道へ進もう。

 自分を捨てたりせず、どこまでも傲慢に。

 力をひたすらに高めて、今こそ殻を破る。

 ベジータの叫びが木霊し、武舞台が揺れる。

 青かった髪が更に色濃く染まり、放つオーラにはキラキラとした輝きが含まれる。

 瞳にも今までとは異なる光が宿り――そしてベジータは限界を超えた。

 

「これが俺の全てだ! ジレン!」

 

 ベジータが地を蹴って突進した。

 そのスピードは今までよりも速く、そして鋭い。

 受けた腕に響く重さにジレンの顔が僅かに険しくなり、ベジータを侮れぬ相手と認めた。

 

「っちゃあああああ! だだだだだだ!」

 

 攻める、攻める。

 ベジータの怒涛の連撃がジレンをガードの上から叩き、押し込んでいく。

 しばらくジレンはそのままベジータを見ていたが、やがて彼を認めるように言う。

 

「確かに強くなった……認めよう。お前は強い。だが……」

 

 次の瞬間、声が後ろから聞こえた。

 ベジータが振り向くよりも速くジレンの肘が彼の頭を打ち、地面へ倒れこませる。

 何をしたのかは、端から見ていたセルにも分からない。

 四星龍だけがかろうじて、ジレンの動きを捉えていた。

 今ジレンは、とんでもない速度でベジータの背後に回り込み、そして攻撃を仕掛けたのだ。

 

「それで俺に勝てるかは別問題だ」

「不味い!」

「行くぞ、セル!」

 

 ベジータ一人では荷が重い。

 そう判断し、四星龍と三体の分身セルがジレンへ挑んだ。

 ベジータもすぐに起き上がり、再びジレンへと立ち向かう。

 

「ぶるわあああああ!」

「焼き尽くしてくれる!」

「カカロットの出番はないぜ!」

 

 数の上では五対一。加えて一人一人が魔人ブウを遥かに凌ぐ実力者だ。

 だが相手は破壊神をも超えた男。戦いが開始されてより終始、圧倒されているのは数で勝るベジータ達の方であった。

 即席故の連携の拙さはあるだろう。

 時には味方が邪魔になっている事もあるだろう。

 だがそれでも超を付けてもいい達人が五人で攻めているのだ。普通に考えて圧倒出来ない方がおかしい。

 なのに圧倒するどころかされている。いくら攻撃してもダメージがほとんど通らない。

 

「おおおおおォォ!」

 

 四星龍が気を全開にし、身体の温度を上げる。

 今の彼は触れるだけでダメージを与える6000度の、太陽の化身だ。

 しかしそれでも戦局が変化していない。

 大した脅威ではない、というわけではない。十分に驚異的な能力だ。

 だがそれでも変わらないほどに、ジレンが強すぎるのだ。

 四星龍達の怒涛の攻めを冷静に防ぎ、弾き、避け、そればかりか隙あらば反撃すら行う。

 ベジータの腹に剛腕が突き刺さり、分身セルを手刀で切り飛ばし、四星龍の頭を掴んで地面にめり込ませる。

 四星龍の熱すら物ともしていない。膨大な気が防御膜となり、ジレンの手を保護してしまっている。

 

「ビッグバンアタック!」

「バーストアタック!」

「「かめはめ波!」」

 

 四人が同時に攻撃を放つも、ジレンは膨大な気の圧力でそれを防ぎ、そればかりか跳ね返してしまった。

 ベジータと四星龍の前に咄嗟に分身セルが飛び出してバリアを展開する。

 これが功を奏してベジータと四星龍はダメージを少なく抑えることが出来た。だが……。

 

「ぎええええええええっ!」

「そ、そんな……!」

 

 二体の分身セルが消し飛び、分身セルがこれで全滅してしまった。

 そして、ダメージを抑えたと言ってもゼロではない。

 ベジータと四星龍は地面に倒れ、荒く呼吸している。

 ジレンはそこに止めも刺さずに背を向けた。

 

「戦士よ……眠……」

 

 言いかけている最中に、空気を読まずに別方向から飛来した白い流星がジレンを殴り飛ばした。

 光の正体は、アニラーザを叩き落し、こちらの援護に駆け付けてきたリゼットだ。

 衝撃で吹き飛んでいくベジータをヒルデガーンに回収させ、ジレンと向き合う。

 両足には再び鎖が戻っており、ベジータ達が稼いだ時間のおかげで気の乱れは治ったようだ。

 リゼットは自然体で佇みながら、先程の悟空が見せた力を思い返していた。

 『身勝手の極意』――神々がそう呼んでいたあの姿は、超サイヤ人などと異なり、サイヤ人特有の変身というわけではなく、どちらかというと神専用の変身のようなものであるとリゼットは考えていた。

 リゼット自身も身勝手の極意に極めて近い領域におり、自然に身体が動くが、これはただの慣れと練度が齎すものであって身勝手の極意とは全く違う。

 何より、リゼットが行うそれに戦闘能力の上昇効果はない。

 ならば身勝手の極意とは一体何なのか。リゼットはこれを、神の気を細胞の隅々まで行き渡らせる事で成立する、『神の気の完全なコントロール』であると推測していた。

 神の気のみが実現させ得る奥義。神の気と肉体の完全な同化……それこそが身勝手の極意の正体ではないだろうか。

 そして細胞の隅々まで行き渡った神の気が闘志に呼応し、身体を勝手に動かす。

 悟空は恐らく、その天才的なセンスを以て神の気を身体と同化させたのだ。

 神の気を纏うのではなく、神の気と一つになる……それは彼が行う完成ブルーよりも更に一段階上の世界だ。

 悟空は神の気を無駄に放出する事を止め、体内に閉じ込める事で完成ブルーという奥義を完成させるに至った。

 だが閉じ込めただけで、一体化までは果たしていない。

 無駄に放出されていた神の気を体内に閉じ込めるだけで、大幅なパワーアップが果たせたのだ。

 ならば完全な同化に成功したならば、一体どれだけのパワーアップが出来るのか……。

 その兆を悟空は見せつけてくれた。

 

(本当に……気付けば先を歩いていますね、悟空君は)

 

 何というセンス。何という天才。

 孫悟空の恐ろしい所は、この桁外れの戦闘センスにこそある。

 単純な戦闘力という点で見れば元々は下級戦士だったのだろう。ベジータ曰く落ちこぼれだ。

 しかしその戦闘センスは天才と呼ぶ他なく、気付けば自分もベジータも悟空の背中を見ている。

 同じく戦いに生きる者として妬かずにはいられない。

 孫悟空は闘争に愛されている。

 

(しかし、完全ではない)

 

 見たいと思った。

 孫悟空が完成させる、真の身勝手の極意を。

 この大会はジレンに勝たずして第7宇宙の勝利はあり得ない。

 だがジレンはあまりに強く、ベジータ、四星龍、分身セル×3の組み合わせですらまるで太刀打ち出来ない。

 この分だとリゼットを含めた第7宇宙総がかりでも勝つのは難しいだろうし、仮に勝てても多大な犠牲を払ってしまうだろう。

 だがそんなジレンに唯一対抗し得るのが、悟空の見せてくれた身勝手の極意だ。

 まだ完成はしていない……しかし、悟空ならばきっと、切っ掛けを与えれば完成させてくれる。

 故にリゼットは、悟空を飛翔させるべく彼の踏み台になる事を決意した。

 

「悟空君!」

 

 ジレンと相対したまま、倒れている悟空へと声をかける。

 悟空の救援にはセルが向かってくれたので、そのうち回復するだろう。

 だが現状では回復してもまだ勝てない。

 ならばこそ、悟空には見せておかなければならない。彼が見せた身勝手の極意“兆”の戦いを。それを外から客観的に見た時の光景というものを。

 そうすればきっと、彼なら答えに辿り着けるから。

 

「私とジレンの戦いをよく見ていて下さい。

貴方の身勝手の極意はまだ完成していない。

完成に何が足りないのか、何が必要なのか。

貴方ならばきっと、見極められると信じています」

 

 リゼットはそう言い、目を閉じた。

 思い出すのは先程の悟空の動き。

 リゼットは身勝手の極意を身に付けているわけではない。どう身に付ければいいのかも分からない。

 取っ掛かりは見えたが、リゼットがこれを習得するには修練が必要だろう。

 リゼットは悟空のようにぶっつけ本番でいきなり技を習得してしまえる天才ではない。

 積み重ねた土台があって初めて覚える事が出来るタイプだ。

 故にこれから行うのは身勝手の極意ではなく……ただの物真似。

 

(確かこう……力を抜いて、意を消して……)

 

 その時、その場の全員が驚くべき物を目にした。

 その場に立っているリゼットの姿が一瞬、別の誰かに見えたのだ。

 感じられる気の流れが、静かな瞳が、無形の構えが。

 それはまるで、先程の孫悟空のように。

 

 ――象形拳というものがある。

 より優れた者に倣い、その動きを模倣して取り入れる武だ。

 獲物を狙う蟷螂の動きを模倣した蟷螂拳。蛇の動きを真似た蛇拳。

 その他、虎や獅子、熊、豹、鳥など真似る先達には事欠かない。

 牙を持たぬ人の身で獅子になる。爪を持たぬ人の腕で熊となる。

 翼がなくとも鳥になり、鎌がなくとも蟷螂へと変わる。

 ただの模倣。そう言われてしまえばそれまでだ。否定する要素はどこにもない。

 仮に火を吹いて戦うゴジラ拳なるものを完成させたとしても、所詮は真似事だろう。

 しかし優れた象形拳の使い手はそこに、真実オリジナルの動物がいるかのように錯覚させるほど上手く憑依(まね)るという。

 身近な例で言えば、狼の動きを真似た狼牙風風拳や龍の力強さを模倣した龍拳などが該当するだろうか。

 特に孫悟空の龍拳に至っては気を操る事で自らが神龍と化すという離れ業までやってのけている。

 ましてやここで真似ているのは280年の武を誇るリゼット。

 それを見ているのは宇宙の存亡をかけた戦いに出るほどの達人達だ。

 当然、その観察力は神がかっている。

 ならばこそ見える虚像(しんじつ)

 神がかった観察眼で、積み上げた武で、全力で孫悟空を真似る。

 故に完成する――いわば、孫悟空拳とでも言うべき型。

 強い意思を感じさせる瞳が、力強い動きが、立ち上る気が、そこにいるはずのリゼットを薄くしていく。

 今やリゼットの実体は希薄となり――そこに込められた孫悟空(おもい)だけが実体化を果たしていた。

 

「オ、オラ……?」

 

 無論悟空本人にも見えている。

 そこに立つ、身勝手の極意を発動した自分自身の姿が。

 それを見てジレンは顔を険しくし、ビルスは拳を震わせていた。

 

模倣(まね)たというのか……身勝手の極意をッ!」

「恐るべき観察力、と言う他ありませんね。身勝手の極意を身に着けたわけではなく、身勝手の極意を使った悟空さんを再現(まね)た。

簡単に出来る芸当ではありません」

「何て奴だ……」

 

 ウイスの説明にビルスは背筋が凍る思いを感じていた。

 神の奥義である身勝手の極意を極めた者は数少ないながら存在している。ウイスもその一人だ。

 だが、身勝手の極意を習得していないのに再現した者など、未だかつて存在しない。

 恐るべき観察眼。恐るべき再現力。

 孫悟空は闘争に愛されているが、それに比肩するほどにリゼットは武に愛されている。

 そうビルスは痛感し、自らに届き得る者がこんなにも現れたこの時代に目覚める事が出来た幸運に感謝した。

 

「行きます」

 

 宣言。それと同時に攻撃の気配すらなくリゼットの手刀がジレンの側頭部へめり込んだ。

 頭蓋が軋むほどの衝撃に体勢を崩しかけるも、ジレンはすぐにリゼットへ反撃の一打を放つ。

 当たればカチカッチン鋼すらビスケットのように砕いてしまう比類なき剛拳。

 それがリゼットの細い身体を貫く――否、貫いたはずだった。

 しかしまるでリゼットの身体が宙に同化したかのように手応えがなく、フワリとジレンの背後に着地する。

 直後、ジレンの身体を数多の打撃が襲い、打ちのめした。

 リゼットはただ避けただけではない。

 すれ違い様に、ジレンに認識させる事すら許さず光速の拳撃を雨あられと放っていたのだ。

 そして今さらになってジレンの肉体が攻撃を受けた事を認識し、故に遅れてダメージが発生してしまった。

 そう、ジレンは自分が殴られた事にすら気付けなかったのだ。

 

「おいウイス! まさかリゼットの奴、身勝手の極意を完成……」

「いえ、あれも模倣です。身体が勝手に攻撃しているわけではありません。

あくまでリゼットさんは脳で判断してから身体を動かしています。

恐らくは悟空さんの見せた“兆”から、身勝手の極意の完成形を予想し、それを再現してみせただけ……ただの先読みです。ただし、恐ろしく精度の高い未来予知にも等しい先読みですが……」

 

 驚愕するビルスとウイスの見ている前で更に戦闘は続く。

 ジレンがギアを上げ、リゼットを強敵と認めて拳の弾幕を放つ。

 だがこれも当たらない。

 まるでリゼットがそこにいないかのように拳が空振りを続ける。

 それは傍目からは避けていないようにすら見える奇妙な光景であった。

 

「お、おいヴァドス。もしかしてあれってヒットの技じゃないのか? ほら、別空間に逃げるっていう……」

「いいえ、違いますよシャンパ様。リゼットさんは別空間に退避などしておりません。

しっかりと、あそこにいます」

「けど実際、拳が突き抜けてるじゃねーか?」

「避けていますよ、ちゃんと。その動きがあまりに無駄なく、最小限である為に避けていないように見えるだけです」

 

 尚も拳を打ち続けるジレンへと、リゼットは無防備に一歩近付く。

 拳はやはり当たらない。当たっているように見えるのだが、悉くリゼットを突き抜けてしまっている。

 “通り”抜けているのではない。“透り”抜けている。

 一見すると緩やかにすら思える緩慢な速度で、残影の尾を残しながらリゼットがジレンの背後へ回り込んだ。

 それに反応してジレンが拳を薙ぐも、やはり残影を捉えるのみ。

 まるで流水のようにゆったりと、それでいて透り抜けるように翻弄する。

 これならばいっそ、ここにいるのは幻で本体は別の場所にいると言われた方がまだマシだっただろう。

 だがそれを否定するようにリゼットが掌打を放ち、ジレンの腹を打ち抜いた。

 

「ごっ……!?」

 

 ジレンが胃液を吐き、そのまま身体ごと後方へと吹き飛ばされた。

 追撃はない。リゼットはそれを静かに見つめ、やがて小さく息を吐いた。

 その直後にどっと汗が吹き出し、荒く呼吸を繰り返して肩を揺らす。

 

(流石は、神の奥義……真似るのは少し無茶でしたかね。

少し真似ただけでこの消耗とは)

 

 身勝手を習得しないままにそれ以上の動きをするという事。

 それは即ち、それだけ先を読んで動かなければならないという事だ。それだけ神経をすり減らすという事だ。

 普段ならば絶対にやらないだろう。僅か数秒の優位の為に体力と精神力を大幅に削るなど愚策でしかない。

 だが、今回に限って言えば十分に価値があるとリゼットは確信していた。

 

「見ていましたか、悟空君。

今、私が見せた動きこそが貴方の辿り着く到達点……の予想図です。

私は少し真似ただけでこの様ですが、貴方なら完成させる事が出来ると確信しています」

 

 そう言い、茫然としている悟空へと笑いかけた。

 先はこれで見せた。ならば不慣れな物真似はもう終わりでいいだろう。

 少しばかり体力を使い過ぎたが、それだけの価値はきっとある。

 体力を消耗したリゼットへジレンが近付いて来る。

 タフな男だ。あれだけ打ったのに、もう平然としている。

 

「恐るべき技の冴えだ。しかしそれもここまでのようだな。お前は侮れん……ここで落とさせてもらう」

「悪いが、それをやらせるわけにはいかんな」

 

 リゼットを落としたいジレンだが、しかし彼の前にまたしても新たな敵が立ち塞がった。

 それは先代と融合する事でスーパー・パワーを得た新生ピッコロだ。

 気付けばジレンは第7宇宙の戦士達と一人で戦う構図になってしまっており、追いつめられていた。

 彼は戦略を間違えたのだ。

 余裕を見せて最初は静観するのではなく、もっと仲間が残っているうちに戦うべきだった。

 落ちかけたディスポや仲間を救うべきだった。

 そうすれば、実力では彼に及ばないまでも壁になるくらいの事は彼等にも出来たかもしれない。

 ジレンが他の戦士を倒すまでの間、第7宇宙の戦士を身を張って止める……その程度は出来ただろう。

 だがジレンは仲間を見捨てた。そもそも仲間とすら思っていなかった。

 だから彼は一人残され、トッポもターレスに阻まれて近付けない。

 

「……弱者が何人群れようと、同じ事! 第11宇宙を守る為にも、俺は負けん!

俺が……俺一人の力で……! 俺が宇宙を、守ってみせるッ!!」

 

 ジレンが叫び、ピッコロがターバンとマントを脱ぎ捨てる。

 そして二人の超戦士が真っ向から拳を衝突させた。




【戦闘力】
・サオネル&ピリナ:1兆3000億前後
二人がかりとはいえアルティメット悟飯と互角以上に戦ってみせた。
第6宇宙のナメック星人全員が融合したナメックの化身。
どうせならこの二人で更に融合しておけばよかったのに。
アニメでは合体パワーに慣れるまで時間がかかり、本気を出せるようになったのは彼ら以外が全員落ちてから。
戦力は悪くなかったが、慣れるまでが長すぎた。
漫画版では味方のはずのケールに近付いたら暴走した彼女に叩き落されてしまった。
融合したナメックの人達が浮かばれない。

・キュアベジータ:40兆
ブルーのハートは希望の印! 煌めく星のプリンス、キュアベジータ!
やたら格好いいBGMをバックに変身したベジータの新形態。目が綺麗。
ファンからは『キラキラベジータ』や『キュアベジータ』と呼ばれている。
ヒーローズなどでは『覚醒ベジータ』というらしい。
原作、Z、GTを含め、初めてベジータが悟空の後追いではなく独自の進化を遂げた瞬間。
界王拳20倍ブルーと同格のような扱いだったので、そのくらいの強さとしておく。
アニメ版ではキャベとの約束を果たすために覚醒したが、このSSでは特にそんな約束はしていなかったので漫画版の流れで覚醒した。
なので強さは同じだが、友情パワーが乗っていない。

・孫悟空(身勝手の極意『兆』):66兆
身勝手の極意を発動した悟空。しかしまだ完成ではない。
単純な戦闘力で測れる技ではないので数値があまり当てにはならず、数値以上の強さを持つ。
とはいえ20倍でダメージが通らないジレンにダメージを通しているので一応20倍よりは上と思っていい。

・リゼット(身勝手模倣):62兆
身勝手の極意を模倣したリゼット。
ただの物真似であって別に覚醒でも何でもない。
なので戦闘力はゼノバース+バーストリミット1/2から変化なし。
敵の攻撃は単純に来る前に予測して、あたかもオート回避しているかのような精度で回避しているだけ。ぶっちゃけただの凄い先行入力。
ジレンにダメージを通しているのは、単純にジレンの防御が緩むタイミングを見切り始めただけ。
いかに無敵の肉体であっても、神経を注がなければ無敵の強度は保てない。
17号曰く『無防備の状態で攻撃を受ければ効く』
身勝手の極意『極』と遜色ない動きを経験と見切りと先読みと勘だけでやっているのでめっちゃ疲れる。


【残り選手】
第2宇宙
ザーロイン

第3宇宙
ビアラ

第4宇宙
キャウェイ

第6宇宙
ヒット

第9宇宙
ベルガモ

第10宇宙
オブニ

第11宇宙
ジレン
トッポ
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