ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百十四話 戦士として

「喰らえ!」

 

 ミラが全身から気を放出する。

 すると彼の周囲を黒い竜巻の如き気が荒れ狂い、紫電を伴ったそれはリゼットを追尾し、彼女の全身を縛り上げようと唸りを上げた。

 

「……っ」

 

 回避は困難。そう判断するやリゼットはバリアを展開して黒い竜巻を遮断する。

 そこにミラが飛び込み、下から掬い上げるように拳を突き上げた。

 直撃――したと思った瞬間にリゼットが消えてミラの背後を取る。

 だがそれとほぼ同時にミラが消えてリゼットの背後へと回った。

 リゼットはそれを感知して振り返らずに裏拳を放ち、ミラも咄嗟の反応で防ぐ。

 今度は二人が同時に消え、打撃によって発生した衝撃波が亜空間内に拡散した。

 衝撃と打撃音が幾度も響き、空間全体が揺れる。

 目まぐるしく身体の位置を入れ替えて攻守逆転しながら二人は激しい打撃戦を繰り広げ、僅かな距離で攻撃を交わし合う。

 

「千の剣よ、在れ!」

 

 千本といいつつ、実は本数は適当な気の刃がミラへと殺到した。

 これも気弾連射には違いないが、ベジータなどが好む通常の気弾連射と違うのは一瞬で無数の気弾を生成して本人がすぐにフリーになる所だ。

 また、気弾の形が剣を模しているので殺傷力も通常のそれよりも高い。

 しかしいかに形が違かろうと気は気。今のミラならば吸収してしまう事が出来る。

 両手を広げて気の刃を取り込むが、ここでミラは違和感に気付いた。

 おかしい。込められている気の量があまりにも少なすぎる。

 剣に込められている気の量が、戦闘力にして10程度しかない。

 子供の頃の悟空のかめはめ波程度の威力しか持たされていないのだ。

 

(不味いっ!)

 

 違和感と同時に怖気が走り、咄嗟に剣を避けた。

 その判断はまさに正解で、ミラの脇腹を一本の剣が掠った。

 気で創った剣ではない。物質創造の術で創ったカッチン鋼の剣だ。

 ミラが気を吸収できると見抜いたリゼットは、あえて吸収させるように気の刃を多重展開した上で、その中に少数の実体剣を紛れ込ませたのだ。

 もしミラが気付かずに吸収を続けていたならば。今頃は実体剣によって串刺しにされていた事だろう。

 

(これでは気の吸収は出来ない……!)

 

 異なる歴史では17号に搭載されるはずだった気弾の吸収能力は一つの弱点を抱えている。

 それは、気を吸収する時は必ず一定の姿勢を取る必要があり、かつその間は無防備になってしまうのだ。

 リゼットがそこに気付いた以上、もう迂闊に気の吸収を使う事は出来ない。

 彼女の前でそんな無防備を晒せば、逆にそこを起点に攻め込まれるだけだ。

 そうである以上、吸収出来るはずの気弾であっても、あえて喰らうしかないだろう。

 

(今のはわざと見せたのだな……俺に、この能力を使わせない為に)

 

 ミラは既にリゼットの狙いに気付いていた。

 彼女はあえて今のような攻撃を行う事でこちらの吸収能力を封じたのだ。

 そして分かっていても、ミラはそれに乗るしかない。

 迂闊に吸収能力を使えば、本当にその隙を突かれるだけだからだ。

 

「ならば、攻撃あるのみ!」

 

 再び黒い竜巻が荒れ狂う。

 しかしリゼットは今度は防御も回避もしなかった。

 その技は既に一度見た技だ。二度は通じない。

 自らを追尾する気の嵐をリゼットはまるで気にせず突っ切る。

 命中した瞬間に竜巻と同量同質の気を全身に纏い、同速で回転させる事で完全に、一切の無駄なく相殺してみせたのだ。

 そして技の終わる一瞬の硬直を狙ってミラへ掌打を打ち込んだ。

 吹き飛んでいくミラへ掌を向けて、巨大な気弾を発射して追撃。

 ミラは咄嗟にそれを避けようとするも、直後に気弾が弾けて無数の閃光へと変わってミラへと襲い掛かる。

 慣性の法則など知らぬとばかりにミラが縦横無尽に空を翔けて閃光を避け、外れた閃光が全て上空へと飛び去って行く。

 だがそこで閃光は再び一つに戻り、空から落ちる気功波となってミラへ牙を剥いた。

 

「ぬっ!」

 

 回避は間に合わない。

 ならば吸収か、それとも防御か……。

 一瞬の決断を迫られる中、ミラは咄嗟に腕をクロスして気孔波を受け止めた。

 吸収は駄目だ。リゼットならば確実にその一瞬の隙を突いて来る。

 だが、追い打ちをかけるようにリゼットがミラの下へ陣取った。

 ミラが気功波に苦戦している間に反対側からも発射して挟み撃ちにする気のようだ。

 そしてそれは、形こそ違えど以前にミラを葬った戦い方でもある。

 

「はっ!」

 

 上と下から同時に気功波がミラに炸裂し、完全に捉える。

 決して浅くはないダメージ……しかしミラは苦痛に晒されながらも、すぐに次の手へと出た。

 この挟撃も吸収能力を使わせて無防備を晒させる為のものだろうが、そうはいかない。

 どうせ避けられぬならば、せめて相手にもダメージを与える喰らい方をすればいい。

 そう決断した彼はリゼットの気功波の中へ自ら飛び込み、全身を焼かれながらも気の奔流を逆走してリゼットの前へと躍り出た。

 少しばかりの驚愕を見せるリゼットへ豪腕を叩き付け、しかし手応えがない。

 柔らかな手がミラの拳を包んだと思った次の瞬間、またしても投げ飛ばされていたのだ。

 そこに畳み掛けるようにリゼットが腕を振り上げ、地面から巨大な気の拳が生えてミラを殴り上げた。

 

「はあっ!」

 

 リゼットが気合いの声をあげ、今度は腕を振り下ろす。

 するとそれに呼応して空から巨大な鉄拳が降り注いだ。

 地面に巨神の拳が突き刺さり、だがミラはかろうじて持ちこたえていた。

 己に振り下ろされた巨拳を受け止め、地面に足を付いて踏ん張っている。

 しかしその隙にリゼット本体がミラの懐へと飛び込み――時間が停まった。

 これを認識出来たのはミラもまた時間操作の力を持つトワを取り込んでいたからであり、しかし認識出来ても動けるわけではない。

 彼に理解出来るのはただ、『時間が停まった一秒の間に数万の打撃を叩き込まれた』という事実だけだ。

 

「ぐおっ……が、は……ま、まだだ! まだ俺は戦えるぞ!」

 

 夥しい吐血をしながらもミラの闘志は衰えない。

 身体が悲鳴をあげるのも無視して巨拳を弾き飛ばし、零距離でリゼットへ気功波を放った。

 亜空間に呑み込む暇すらもない攻撃にさしものリゼットも命中を許し、爆煙に包まれる。

 しかし危うい所でバリアが間に合ったのだろう。吹き飛びながら煙から飛び出したリゼットはドレスのケープ部分が破れて肩を露出してこそいるが、ダメージは深くない。

 背中の光輪が輝いて吹き飛ぶリゼットの身体を停止させ、体勢を立て直す。

 そしてゆっくりと着地し、地面に膝をついているミラを見た。

 ダメージの差は、もはや歴然だ。

 

「まだだ……まだ俺は負けん。

俺はこの戦いで、俺自身の限界を超える!」

 

 ミラが吠え、気が爆発的に高まった。

 身体に残る全ての気を振り絞って、命すらも燃やしての最後の勝負を仕掛ける気らしい。

 これを避けるのは容易だ。亜空間に呑み込んで反射する事も出来る。

 しかしリゼットはあえて、その二つを選択肢から除外した。

 戦いに身を置く者として、ミラの男気を買ったのだ。

 

「受けて立ちましょう」

 

 光輪が一際強く輝き、リゼットの身体が垂直に浮遊した。

 気を集約させた両腕を頭上で組み合わせ、前へと突き出す。

 それと同時に周囲に光球が顕現し、バチバチとスパークを迸らせた。

 

「電撃……地獄玉あああッ!!」

「……Raging blast!」

 

 ミラの全てを込めた黒い気弾が空間すらも削りながらリゼットへと牙を剥く。

 それに対し、リゼットは両腕から白い極光を放った。

 二つの光球もそれと同時に気功波を発射し、リゼットの放った光の周囲を囲う二重の螺旋となって本体をサポートする。

 

 そして。

 黒と白。二つの輝きが衝突し、爆ぜた。 

 

 

 ミラが目を開くと、視界に映ったのは亜空間ではなく青い大空だった。

 それを見て理解する。自分の戦いは終わったのだ、と。

 微かに残った最後の記憶で、自分の全てを込めた黒い気功波が白い輝きに呑まれたのを覚えている。

 そして、その先の記憶が一切ない。どうやら打ち負けて直撃を受け、意識を飛ばされたらしい。

 

「俺は……負けたのか」

 

 呟き、それから視線を動かす。

 身体はもう動きそうになく、起き上がる力もない。

 そんなミラの近くには、既にドレスを修復し終えたリゼットが傷の一つもなく佇んでおり、どちらが勝ったのかは問うまでもなく明らかであった。

 だからこのミラの言葉も確認ではなく、単に事実を事実として受け入れただけのものに過ぎない。

 

「ふ、ふふふ……届かなかった、か……。

俺は結局お前に、一度も勝てなかった」

 

 地獄から往生際悪く蘇り、全てを賭けて挑んで、そして負けた。

 その結果に後悔などはない。

 惜しいのは、きっと次の蘇生はもうないという事だけだ。

 今回のような事があった以上、己の魂はすぐに浄化装置にかけられてしまうだろう。

 あるいはリゼットがあの世まで追ってきて二度目の死を与えるかもしれない。

 どちらにせよ、覚悟はしていた事だ。

 これがラストチャンスである事は分かっていた。

 だから悔いはない。この後消滅させられるとしても、それでも彼女に挑むこの数分こそがミラにとっては何にも代えがたい至高の時間だったのだ。

 惜しいのは……もう二度と彼女と戦う事が出来ないという、その事実だけだ。

 

「……ああ……もっとお前達と、戦いたかった」

 

 殺したいわけではない。勝って何をしたいわけでもない。

 やっと分かったのだ。自分に辿り着く頂などいらなかった。

 ただ戦士として歩み続ける事……戦うという事。それそのものが自分の何より望む事だったのだと。

 欲しかったのは最強という名のゴールではない。どこまでも続く道こそが本当に欲しいものだった。

 最強に満足して止まるのではなく、見果てぬ先を目指して歩き続ける事。

 止まらない限り、道は続く。

 武の道と書いて武道。孫悟空が歩み続ける果てのない高み。

 それこそが、ミラの見付けた新たな道であった。

 最強の証明など最早どうでもよく、全てを賭して戦えるという事自体が戦士として最高の宝だったのだ。

 しかしそれに気付いたのはあまりに遅く、数々の悪行を積み重ねた後であった。

 そんな彼に、リゼットではなくセルが語りかける。

 

「ならば傷が癒えた後でそうするがよかろう」

「……何?」

 

 セルは可笑しそうに笑い、リゼットを見る。

 するとリゼットは不機嫌そうにセルから視線を逸らしてしまった。

 

「どういう事だ?」

「簡単な話だ。どうやら我が星の神はお前に止めを刺す気などないらしい。

孫悟空の事を甘い甘いとよく言ってはいるが、彼女も大概人の事を言えんという事だ。

悪党には冷徹になれても、そうでない相手には無慈悲になり切れんのだよ」

「セル」

「事実だろう? そう咎めるような眼で私を見ないでくれ」

 

 リゼットは、決して誰彼構わず慈悲をかける性格ではない。

 少なくとも悟空のように明確な悪人まで見逃す事はしないし、止めを刺すべき場面では躊躇なくそれを実行してしまうだけの冷徹さを備えている。事実、一度はミラやトワの事も遠慮なく消し去っている。

 未来の知識がなければベジータですら出会い頭で始末していただろう。

 だがそれは結局の所、この惑星や己が愛する人々を守ろうとする意思から来るものであって、殺す事そのものを好んでいるわけではない。

 だから、もう惑星の脅威でも何でもなく、ただの戦士となったミラを無理に殺める理由が彼女の中には無くなってしまったのだ。

 ここがターレスとの違いだ。ターレスは理由などなくとも相手を殺せる。

 それ自体が彼にとっては楽しい事だからだ。

 しかしリゼットは理由がなければそこまでは踏み切れない。情を捨て去る事が出来ない。

 純粋にリゼットとの戦いのみを求めた今のミラはもう悪ではない。

 そればかりか、どこまでも真っすぐに己を追うミラの姿はリゼットにとって眩しいものですらあった。

 その在り方はまるで孫悟空のようで、普段は自ら封じている情がどうしても顔を覗かせてしまう。

 リゼットは慈悲を切り捨てて冷徹に徹する事が出来る。

 だが切り捨ててまで無理矢理相手に止めを刺しているという事は、結局の所本質的には甘いという事でしかなく、そもそも甘さを捨てる必要もなく相手を殺してしまえるターレスやベジータ、ピッコロには遠く及ばない。

 

「俺に、生きろというのか?」

「…………勘違いしないで頂きたいのですが、貴方が再び悪行に手を染めるようならば、その時こそ私は貴方を裁きます。今はあくまで様子見だという事を忘れないで下さい」

「直訳するとお前はもう悪人ではないから殺したくない、生きろ。という事だ」

「セル!」

「そんなに怒るな。おお恐い恐い」

 

 リゼットに怒鳴られてセルが肩をすくめる。

 しかしその顔はリゼットをからかうように笑みが張り付いており、彼女を煽っているのが一目瞭然だ。おお、うざいうざい。

 

「私はこれから閻魔様に苦情と、事の終始を報告して来ます。ポポ、彼の手当てを」

「はい、神様」

 

 リゼットはポポに手当を命じて、その場から逃げるように転移した。

 彼女にしてもずっと敵対までしてきた、ある意味ライバルでもあったミラのこの変化にどう対応していいか分からないでいるのだろう。

 ミラはそんな彼女に苦笑してしまい、空を見上げた。

 どうやら、自分は彼女の慈悲によって生かされるらしい。本人は認めないだろうが、随分と慈悲深い神様だ。

 そして、今は素直にそれを嬉しく思った。前までの自分ならば情けをかけられた事を恥と思っただろうし、今でも少しは恥じる心がある。

 しかしそれ以上に、また挑めるという事だけが嬉しかった。

 

(すまないな、トワ。お前があれだけ望んでいた暗黒魔界の復活だが、俺はそれを果たせそうもない。

いや、元より興味などなかったのだろう。俺はただ強い相手と戦えればそれで満足で、自分の強さを再認識する事しか考えていなかった。

そして俺は見付けてしまった……俺が最も望んでいた、全てをぶつける事が出来る宿敵を)

 

 ミラは己と同化してしまったトワへ、心の中で詫びた。

 在りし日の彼女ならば、こんな自分を見て不甲斐ないと怒っただろうか。

 それとも失敗作を嘲っただろうか。

 しかしミラはある意味において、トワすらも予想しなかった成功作だったのだ。

 今や彼は創造主の想定を超えたパワーを得、自らの意思で独り立ちをしている。

 

 しばらくはこの星で生きよう。そうミラは考えた。

 越えるべき壁と、多くの強い戦士がいる……戦いに不便しないこの惑星で。

 俺は戦士として更なる高みへと至りたい。それが、トワの命令すらも超えて彼が自分自身で得た心からの望みであった。




リゼット「…………」  ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……
閻魔(こ……この女の目……養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ。
残酷な目だ……『かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね』ってかんじの!)
リゼット「……何か……言う事はありますか?」
閻魔「」
サイケ鬼「閻魔様羨ましいオニー」
※閻魔相手ならば無慈悲になり切れるリゼットの図。

【神殿の住民】
Mr.ポポ
セル
魔人ブウ
ゴッドガードン×15
兎人参化&兎団
タピオン
ミノシア
ミラ【NEW!】
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