米航空宇宙局(NASA)でプラズマなどを研究する知人の物理学者が言う。「科学者が大挙して米国を去る日も遠くないかもしれない」
5月、トランプ政権は、次期会計年度(2025年10月~26年9月)でNASAの予算を一気に約24%削減する方針を示した。職員の3分の1をカット。研究費は約半分に減額し、月や火星の有人探査計画に力を入れるという。
トランプ大統領は就任式で「火星に星条旗を立てる」と宣言した。アポロ11号の月面着陸(1969年)を上回る偉業を達成したいとの野望からだろう。
しかし、宇宙開発における米国の名声はそうした派手な成果のみによって生まれたものではない。冒頭の物理学者らのような、宇宙の深淵(しんえん)に近づこうとする地道な研究をも抱え込む懐の深さが、優秀な人材を世界中から集めることにつながった。同じことは他の科学分野にもいえる。
国立衛生研究所(NIH)で働くフランス人の女性研究者は「NIHに採用されて米国に移り住んだときは、メジャーリーグに昇格したマイナーリーガーのようにうれしかった」と振り返る。潤沢な予算と良質な環境で思う存分に研究に打ち込める―と。
そのNIHもトランプ政権の標的だ。これまでに発表された計画では、関連機関を含む予算全体の4割近い約180億ドル(約2兆6千億円)を削減するとし、「すでに多くの研究室が実質的に活動を停止した」(女性研究者)。
トランプ政権のこうした姿勢は、教育省の解体方針や、名門ハーバード大をはじめとする教育機関への圧力、外国人留学生に対する締めつけなどとも重なる。
第二次大戦の前後にかけ、米国は欧州出身の科学者らの受け皿となった。原爆開発を推進した「マンハッタン計画」に、ナチスの迫害を逃れたユダヤ人科学者が多く参加したことはよく知られる。
だが、「今では逆に、欧州に職を求める研究者が急増している」と前出の物理学者は明かす。トランプ政権が科学研究や教育に背を向ける中、米国からの「知の流出」が起きているというのだ。
日本でもこの機に外国人留学生を誘致する動きが広がるが、官民を問わず、研究職ポストの少なさや採用年齢などの制約が指摘される。より柔軟に人材を呼び込むためにできることは多いはずだ。
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大内清
2002年入社。静岡支局、カイロ留学、外信部などを経て、10~17年に中東支局長。21年から現職。妻と娘はひげのない顔を見たことがない。