トランプ大統領が、さまざまな大統領令や政策を次々に打ち出していることについて、アメリカのメディアは、わざと大量の情報をあふれさせ、メディアや野党・民主党の批判をかわす戦略だと伝えています。
これは、洪水のように情報をあふれさせることから、「フラッド・ザ・ゾーン戦略」と呼ばれます。
こうして発信される大量の情報の中には、事実に基づいていないとか、誇張されているなどという指摘も相次ぎ、真偽が波紋を呼ぶことも少なくありません。
トランプ大統領は、ことし2月、南部フロリダ州で開かれたイベントで、ロシアによる侵攻が続くウクライナのゼレンスキー大統領について「選挙なき独裁者であるゼレンスキーは、もっと迅速に動くべきだ」と強く批判しました。
トランプ大統領のこうした発言に対しては、ドイツの当時のショルツ首相がSNSで「ゼレンスキー大統領の民主的な正当性を否定するのは、単純に間違っていて危険だ」と批判するなど、ヨーロッパ各国で反発が広がる事態となりました。
トランプ大統領 就任半年「ファクトチェック」団体への批判も
アメリカのトランプ大統領が就任してから、まもなく半年となる中、今、難しい課題に直面しているのが「ファクトチェック」です。
トランプ大統領が発信する情報について、アメリカの団体が真偽を検証していますが、その活動自体に対して「偏っている」といった批判的な意見もSNS上などで増えています。
誤った情報の拡散やファクトチェックに詳しい専門家は、「事実が何か」についての受け止めにも「分断」が進んでいると指摘します。
トランプ大統領が発信する大量の情報 真偽が波紋も
また、5月には、南アフリカのラマポーザ大統領との首脳会談で、トランプ大統領は南アフリカで少数派の白人が迫害を受け殺害されていると主張し、ラマポーザ大統領や報道陣らに記事が印刷された紙の束を見せました。
しかし、このうちトランプ大統領が「埋葬されている白人農家の人たちだ」と紹介した画像について、ロイター通信は、ロイター通信の記者がアフリカ中部のコンゴ民主共和国で撮影した映像から切り出されたものだと確認されたと指摘しました。
トランプ政権が事実を正確で公正に発信しているかについて国民がどう考えているか、大手調査会社「ユーガブ」は調査を行い、2月に発表しました。
それによりますと、
▽「非常に信頼する」は25%
▽「ある程度信頼する」は19%
▽「あまり信頼しない」は13%
▽「全く信頼しない」は38%で
半数以上が「信頼しない」と答えました。
「ファクトチェック」団体 その活動とは
アメリカのファクトチェック団体、「ポリティファクト」は2007年に創設され、政治家の発言やSNS上の情報などの真偽を検証する活動を行っています。
民主党のオバマ氏と共和党のマケイン氏が激しく争った2008年の大統領選挙でのファクトチェックの活動が評価され、翌年、優れた報道に贈られるピュリツァー賞を受賞しました。
ワシントンにある事務所では20人ほどのスタッフが在籍していて日々、情報の検証作業にあたっています。
スタッフはまず、SNS上にある政治家の発言や情報などから誤情報の可能性があり、本当かどうか検証が必要だと考えるテーマを選びます。
オープンソースの情報や統計などをもとに根拠に基づくものか調べるほか、発信した本人に連絡を試みることもあるということです。
また、その分野に詳しい専門家などにも話を聞き、事実かどうか検証を進めるということです。
そして、そのスタッフがまとめた報告をもとに、3人の編集者が真偽について評価します。
評価は「事実」「ほぼ事実」「半分事実」「ほぼ事実ではない」「事実ではない」「明らかにでたらめ」の6段階に分かれています。
スタッフの女性は、ファクトチェックを行う意味について「人々は正確な情報にアクセスする権利があり、それが民主主義に役立つからだ。自分たちの周囲で起きていることを知り、オンライン上で読む情報の正確さについて信頼を置けるようにすべきで、事実は重要だ」と話していました。
この団体は、トランプ大統領が2期目の就任後に発信した情報のうち、ウクライナ情勢や不法移民をめぐる発言をはじめ真偽をめぐって論議を呼んでいるものなどについて、29の真偽を検証しました。
その結果、「半分事実」が1つ、「ほぼ事実ではない」が6つ、「事実ではない」が18、「明らかにでたらめ」が4つなど多くが「事実ではない」と評価したということです。
16年にわたり、この団体でファクトチェックに携わっているルイ・ジェイコブソン氏は、トランプ大統領の情報発信の特徴について、「トランプ大統領はほかの政治家と比較しても非常に多くのことを話す。自身のスタッフによって事実関係が確認されてないことや頭の中で思いついたことを口にすることもあり、これは珍しい特徴だ。これほど多くのことを、前もって練習せず、検証もしない状態で発言するアメリカの政治家は見たことがない。その意図や文法的に理解しにくいこともあり、われわれがファクトチェックを諦めることもある」と話しています。
「ファクトチェック」さまざまな課題に直面
一方、ファクトチェックは、さまざまな課題にも直面しています。
ファクトチェック団体、「ポリティファクト」にはここ数年、ファクトチェックの活動に対して懐疑的な見方や批判的な意見がメールやSNS上での書き込みで増えているということです。
「ポリティファクト」が公表している政治家の発言に関する6段階の真偽の評価を疑問視する意見のほか、「立場が偏っている。リベラル寄りでトランプ大統領や政権に厳しすぎる」などといった意見も、少なくないということです。
これに対し、「ポリティファクト」のジェイコブソン氏は「私たちは政治的な争いからは距離を置いたジャーナリズムの団体で、分析的な姿勢を重視している。スポーツの審判が片側を応援しないように特定の立場を支持するわけではない。重要なのは政治の事実に関する有益な情報を届けることだ。なぜなら、ソーシャルメディアの時代に共通の知識の基盤を持つことが必要だからだ」と反論しています。
また、ことし1月、トランプ大統領が就任する直前に、IT大手メタはSNSのフェイスブックやインスタグラムなどで行ってきたファクトチェックを廃止すると発表しました。
メタは、2016年から偽情報への対策として、民間の非営利組織など第三者による投稿内容のファクトチェックの取り組みを始めていましたが、2021年の連邦議会への乱入事件を受けてトランプ氏のアカウントの停止に踏み切るなど、トランプ氏との関係が悪化しました。
メタはかわりにイーロン・マスク氏が所有するXが導入した「コミュニティーノート」と呼ばれる、利用者どうしで指摘するしくみを採用しました。
「ポリティファクト」にとってもメタは大口のスポンサーだっただけに、ファクトチェックの廃止により、団体はスタッフの解雇を余儀なくされるなど資金面で大きな打撃を受けたということです。
また、ジェイコブソン氏は、インターネットやソーシャルメディアで大量の真偽不明の情報が出回るなかで、一つ一つの情報の確認に時間がかかることも課題になっていると指摘しています。
アメリカ国民の受け止めは
ファクトチェックについて、アメリカ国民の間では、受け止めが分かれています。
今月、ワシントン市内で、まちの人たちにファクトチェックについて意見を聞きました。
ミシガン州から来た男性は、ファクトチェックは必要だとしたうえで、「アメリカではいま、真実の意味がゆがめられていると思います。真実は最も大きなマイクを持つ人たちのものではなく、真実を実践し、正直な人たちのものであるべきです」と話していました。
また、バージニア州から来た男性は「正しい情報を知らされているかどうか確かめるために、大統領選挙の時からファクトチェック団体による情報を見るようになりました。この傾向が続けば私たちはウソがあふれる世界に暮らすことになり、将来に希望が見いだせません」と話していました。
一方、トランプ大統領を支持するという男性は「ファクトチェック団体の情報には頼らず、自分自身で情報を確かめます。団体による情報は政治的に偏っているからです」と話していました。
また、フロリダ州から来た男性は「私たちのトランプ大統領は多くのよいことを成し遂げてきました。どう受け止めるかはそれぞれの人によります。しかし、自分は正確だと主張する人たちでさえみな都合のよいように真実をねじ曲げるのです」と話していました。
専門家“分断さらに深まるおそれ”
誤った情報の拡散やファクトチェックに詳しい、「ニューヨーク大学ソーシャルメディア・政治センター」のジーブ・サンダーソン氏は「人々は事実を今も重視している。しかし、事実の定義が二極化していることが課題だ。事実が何か、ということが、このメディア環境の中で変化しているため、ある人にとっては相手側の主張が事実に基づいていないと感じるようになっているのだろう」と述べ、「事実が何か」についての受け止めが多様化しているという認識を示しました。
そのうえで「この傾向はトランプ政権下であらたに始まったわけではなく、以前から異なるメディアが存在することによって、起きていた。トランプ政権はこの傾向を継続させ、悪化させたということだ。今後、分断がさらに深まり、異なる政治的立場を持つ人々がお互いに交流することが難しくなるおそれがある」と述べ、アメリカ社会の分断が進むことに懸念を示しました。
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