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大阪・関西万博のパビリオンで3億円超の工事代金未払いを出したGLイベンツ社とは

幸田泉ジャーナリスト、作家
GLイベンツ社が元請けになって建設したルーマニアのパビリオン=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博会場で、2025年6月21日、筆者撮影

 大阪・関西万博の海外パビリオン建設を巡り、次々に「工事代金の未払い」が発覚している。中でも金額が大きいのは、イベント会社「GL events Japan」(本社・東京港区)による未払いだ。GL社はフランス資本の大企業で、日本法人は2016年に設立。ルーマニア、セルビア、ドイツ、マルタのパビリオンを元請けしていたが、下請け業者らによるといずれも未払いがあり、被害者の訴えを合計すると3億円を超える。6月23日に、四つのパビリオンの被害者らが記者会見し、「GL社は『このままでは開幕に間に合わない』と助けを求めて来て、協力させるだけさせて、支払いになると手のひらを返す。いったいどういう会社なのか」と口をそろえた。

完工後に契約解除通知

ルーマニアパビリオンの内部。現場で建設に携わった下請け業者は「変更だらけの工事で大変だった」と話すが、入口ドアからの光が入り、映像が見えづらい=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博会場で、2025年6月21日、筆者撮影
ルーマニアパビリオンの内部。現場で建設に携わった下請け業者は「変更だらけの工事で大変だった」と話すが、入口ドアからの光が入り、映像が見えづらい=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博会場で、2025年6月21日、筆者撮影

 

 ルーマニアパビリオンの一次下請け、大阪府内の建設会社S社は、昨年10月、建設工事をGL社から4億4000万円で請け負った。この建設会社の取締役によると、契約金、着工金、中間金は支払われたが、完工後、30日以内に支払われるはずの完工金1億2500万円が未払いのままだという。

 万博開幕3日前の4月10日に完成し、開幕した4月13日にGL社に完工金の請求書を送付した。支払いがないため、再三にわたって電話やメールで請求しており、それに対しGL社は「検討中なのでもう少し待ってほしい」と回答していた。ところが、6月中旬に「契約違反があるので、契約を解除する」という書類が送られてきたという。

 取締役は「すぐGL社に行き、契約違反とは何なのか聞いたが、『責任者がフランスに帰っている』と何の回答もなかった」と話す。この建設会社は別の海外パビリオンの建設をしていたところ、GL社から「ルーマニアもやってほしい」と頼まれて引き受けることになった。「図面はいいかげんだし、工事が始まってからも変更だらけ。全部で100カ所ぐらいあった。すべて言われた通りにして仕上げたのに契約違反だという。工事が終わってから契約解除なんてあり得ない」と怒り心頭だ。

「クライアントが『気に入らない』と言うので払わない」

セルビアのパビリオン。6000万円以上の工事代金未払いが発覚している=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博会場で、2025年6月21日、筆者撮影
セルビアのパビリオン。6000万円以上の工事代金未払いが発覚している=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博会場で、2025年6月21日、筆者撮影

 ルーマニアとセルビアのパビリオンで内装工事をした大阪府内の建設会社D社は、ルーマニアで約2300万円、セルビアで約2400万円が未払いになっている。D社の幹部は「パビリオンはオープンして、みんな展示を楽しんでいるのに、工事代金は払われない」と嘆く。GL社は6月後半、「クライアントが展示を気に入らず、我が社もお金をもらっていないので、D社にも払えない」と説明したという。

 セルビアとルーマニアのパビリオン建設で大工や電気工らを手配した大阪府内の建設会社H社は、セルビアで約260万円、ルーマニアで3090万円の未払いに遭っている。H社社長は「明日までに職人を用意してとか無茶ぶりもされた。必死に頼んで来てもらった人たちにただ働きさせるわけにいかない」と、自社の運転資金を使って立て替え払いをしているが、という。

 ドイツのパビリオンで職人を集めた大阪府内の不動産会社E社は、この人件費約1000万円がGL社から払われていない。E社幹部は「GL社から『人が足りない』と言われて集めた。人件費の踏み倒しは人権無視の所業だ」と憤る。E社はセルビアのパビリオンにもかかわっており、重機などのリース代、燃料代などのうち約3150万円がGL社から払われていない。幹部は「GL社の財務担当とは何度もやり取りしたが、まもなく支払うかのように引き延ばすだけだった。GL社のような大きな会社がこんなことをするとは、信じられない」と話す。

 

 マルタパビリオンの建設工事を請け負って約1億2000万円が支払われず、GL社を相手取って訴訟を起こしている建設会社社長は「未払いの大きさは、我々のような中小企業が自社で乗り越えられる金額ではない。土地を売ったり、車を売ったり、差し出せるものは差し出して今まで耐えてきた。もう、差し出せるものは自分の命しか残っていない」と記者会見で窮状を訴え、国、大阪府、万博協会などによる緊急融資、立て替え払いなどの救済策を求めた。

GL社は電話番号が言えない会社

GLイベンツ社の大阪オフィス。電話は通じないが、多くの人が働いている=大阪市住之江区のアジア太平洋トレードセンタービル(ATCビル)5階で、2025年7月1日、筆者撮影
GLイベンツ社の大阪オフィス。電話は通じないが、多くの人が働いている=大阪市住之江区のアジア太平洋トレードセンタービル(ATCビル)5階で、2025年7月1日、筆者撮影

 GL社はホームページによると、日本では東京に2カ所、愛知に1カ所、大阪に1カ所、オフィスがある。筆者は東京のオフィスに電話して未払い問題について取材しようとしたが、「ここでは情報がない。大阪オフィスに聞いてください」とのことなので、大阪オフィスの電話番号を確認した。しかし、この番号にかけても「ただ今、電話に出られません」とアナウンスが流れる。未払いの被害者から取締役の電話番号とメールアドレスを聞き、電話してみたが留守番電話になり、メールにも返答はない。

 7月1日、在阪ジャーナリスト数人でGL社の大阪オフィスを訪ねた。対応した男性は「アポなしで来られても対応できない」と言う。「公表されている電話番号はいつもつながらない。どの番号に電話すればアポが取れるのか」と何度聞いても、「上司に伝える」としか回答しない。会社とは思えない対応は、工事代金未払いの被害者の嘆きと共通する。

 この会社が来年、再来年に日本で開催されるビッグイベントに参画することが明らかになっている。

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ありがとうございます。
ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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