ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第四十二話 ソリッドステート・スカウター

 脱力――全身から力を完全に抜き、余計な力みを捨てる。

 己自身がまるで空になったかのようにイメージし、力の伝達を妨げる一切を排除。

 そして、そこから地を踏み抜く事で助走も前動作も省き、瞬間にして最高速度を叩き出した。

 残像すらも残さぬそれはまさに瞬間移動にも等しい速度を生み出し、リゼットの身体をコルド大王の懐まで無音で運ぶ。

 

「!?」

 

 驚くコルド大王がすぐに迎撃しようとしたが、その腕をサポート気弾が弾いた。

 そうしてガラ空きになった胸元に掌を当てる。

 その状態から踵、膝、腰、背中、肩、腕、手首へと続く27箇所の関節を連結加速させ通常の攻撃を遥かに超える加速を生み出した。

 通常の、戦闘力にして10程度の格闘家でもこれを完全に使いこなしたならばあるいは音速を超えるやもしれぬ絶技。それをリゼットの身体能力で行えば、その速度は最早光すら軽く凌駕する。

 この加速を乗せての掌底! コルド大王の胸を衝撃が貫き、内部に気が浸透する。

 ピンポイントで狙うのは心臓だ。この戦いを派手にする気などリゼットには毛頭なく、長引かせる気すら皆無。

 いざとなれば地球ごと爆破すればいいと考えている相手に時間と暇を与えるのは最大の愚行だ。

 だから何もさせない。

 

(捉えた――心臓)

 

 内部へと気を送り込み、心臓付近に浸透させたソレを爆発させる。

 夥しい量の血を吐き出しながらコルド大王が崩れ落ち、何時の間にか立ち位置を変えていたリゼットは返り血の一つも浴びる事なく大王を見下ろしていた。

 それは何と早過ぎる決着だろうか。

 そして何と呆気なく、何と簡単な終わりだろうか。

 生まれてより今日まで強敵と出会った事すら皆無。宇宙の帝王として君臨し続けてきたコルド大王の、生まれてより初のダウン。

 何故銀河の辺境の惑星の神がこんな意味のわからない強さなのだ、と思わずにはいられない。

 成人男子の平均戦闘力が5にも満たない弱小種族が地球人だ。

 突然変異であろうと100を超えれば上出来……ならばそこに居る神の強さなど、300もあればお釣りがくる。

 だがこの女神の戦闘力は軽く見積もっても、2億のコルド大王を一撃で下すものであり、完全に地球という惑星のレベルと一致していない。

 

「がっ……はァ……! お、お……!」

「まだ息がありますか。心臓を潰したはずなのですが……生命力も段違いという事なのでしょうね」

 

 リゼットが指を動かす。

 するとリゼットの周囲を旋回していた光球が鎖へと変化し、コルド大王の両手両足を拘束した。

 先も述べたが、コルド大王には何もさせない。

 たとえ死にかけていようが、彼ならば地面に手を突いた状態から本気の気弾を撃つだけで地球を壊せてしまう。

 だから手は上に向け、大の字にするように縛り上げた。

 その上で白い剣を創造し、刃をコルドへと向ける。

 

「ま、待て……っ! た、たのむ、見逃して、くれ……。

わ、わしが悪かった……こ、この星には何もしない……頼む……」

 

 コルドは恥も外聞も捨てて己の身の安全だけを懇願した。

 彼は生まれた時より強者だった。

 苦戦した経験などなく、敵すらいなかった。

 故にここまで追い詰められた事などあるわけもなく……逆境を知らぬが故に酷く脆かった。

 この戦いが他ならぬ彼自身の指示によって宇宙中に配信されている事も忘れ、宇宙の人々が見守る中で彼は己の命を助けてくれと叫んだ。

 何たる皮肉。こうなるべきは女神の方だったはずで、彼女の無様な最期を演出する為に舞台を整えたというのに。

 気付けば主演女優は舞台監督となり、己こそが主演となっていた。

 タイトルは『処刑』。主人公は己の最期を悟って惨めに命乞いをして尊厳を地に落とし、それでも許されずに殺されてしまうという救いのない三流芝居。

 彼はそれを自ら演じる事となってしまったのだ。

 そして、監督が変わったからといって脚本は何も変わらない。

 変わったのは役者と舞台監督のみ。結末は何も手を加えられず、そのまま執行される。

 

「でしょうね。死人はこの星に手出しなど出来ません」

「ま、待っ……!」

 

 構わずに超能力で剣を射出。

 剣はコルドの上で1回転して勢いを付け、そのまま彼の身体を両断した。

 更に鎖が深く絡み付き、コルド大王の遺体を上空へと運ぶ。

 ――爆破。

 コルド大王の遺体を塵へと還し、もう用はないとばかりにケープを翻して背を向けた。

 否、背を向けたのではない。唖然としているフリーザ軍の兵士達全員へと向き直ったのだ。

 絶対だと思っていた自分達の主の余りに呆気ない末路に呆然としていた兵士達に向け、リゼットは腕を一振りする。

 

Mortes innumerabilia,ibi(死よ、無数に在れ)

 

 視界を焼く光が一瞬で全兵士の間を駆け抜け、その命を停止させた。

 超能力により脳と心臓の両方を強制的に停止させられた兵士達は音もなく崩れ落ち、その死体を大地の上で晒す。

 命在る格下では決してリゼットには勝てない。何故ならこれがあるからだ。

 実力の差があるならば戦いという行為すらそこには要らず、超能力による金縛りを体内に送り込む事で脳と心臓を止めてしまえば、それで終了だ。

 リゼットは常に対格上の戦いを考えて修練を積んでいる。

 だが彼女は同時に最悪の格下殺しでもあるのだ。

 余りにも一方的な決着にヤムチャ達はゴクリと喉を鳴らし、苦笑いをするしかなかった。

 

 

「そ、そんな……パパが!」

「ヒュウ、さっすが神様。また強くなったんじゃねえか?」

「気が測れんから分からんが、確実に以前よりも腕を上げているだろう」

 

 コルドの瞬殺劇にフリーザが絶句し、悟空とピッコロが関心を向けていた。

 勿論これに焦ったのはフリーザだ。

 父の実力はサイボーグと化した自分よりも上だった。

 それがああまで容易く殺られたのだ。

 つまり、あの女がいる時点で己の勝ちはほぼ消えているという事になる。

 もしもフリーザが気を測る力を持っていたならば、そんな事には地球に来る前に気付けたかもしれない。

 クウラの最大戦闘力を4億7千万と正確に認識さえ出来ていたならば……それを倒した女がいる時点で勝ち目などないと理解出来たのだろう。

 だがフリーザにそんな事が出来るわけもなく、仮に気を測る事が可能な部下がいたとしても『クウラ様の方が上です』などとほざけばフリーザに殺されるに決まっているので嘘を吐くしかない。

 無論直接対決などコルドが認めるはずもなく、フリーザは自分とクウラの戦力差を把握出来ぬまま今日という日を迎えてしまった。

 その代償がこの、詰み確定の状況である。

 

「ハッ、どうしたよフリーザ。こんなはずじゃなかったってか?」

「ぐ……黙れ! 雑魚風情が!」

「おいおい、雑魚だなんて酷え言い草じゃねえか。

それじゃあ……こうすりゃあ話を聞いてもらえるのかな?」

 

 ターレスが不敵に笑い、拳に力を込めた。

 すると彼の気が変質し、頭髪が逆立つ。

 黄金の気が全身を包み、疑似的な超サイヤ人へと変化した。

 悟空も一度は見せた、超サイヤ人へ変身する前段階の姿だ。

 

「なっ……!?」

 

 これにはフリーザだけではなく、悟空やベジータも度肝を抜かれた。

 まさかの予期せぬターレスの覚醒である。

 いや、違う。今まさに覚醒しようとしている。

 超サイヤ人の条件は3つ。

 一つ、最低限の戦闘力である300万への到達。

 二つ、穏やかな心。

 そして三つ、激しい怒り。

 最初の条件である300万にはナメック星での戦いで到達した。

 二つ目の条件は穏やかになる事で増すS細胞……ターレスとは本来無縁だったはずのそれだが、しかし地球での生活とスノとの出会いが彼に穏やかさを与えていた。

 そして最後の激しい怒りだが、こんなものはターレスにとって条件でも何でもなかった。

 怒りなど常に感じていた。

 惑星ベジータを消され、バーダックとギネを殺されたあの日からずっと、己の無力さと、『家族』を奪ったフリーザへの怒りが尽きる事はなかった。

 今ここにすべての条件は満たされ、彼は伝説へと至る資格を得た。

 ならば怒れ。

 この怨敵へ、サイヤ人全ての仇へ。今こそ怒りをぶつけろ。

 一度はカカロットへ譲った……己の無力さ故に譲るしかできなかった望みを今こそ果たすために。

 今度こそ、この手で決着を着けるために。

 

「おおおおおおおおおおおーーーッ!!」

 

 ターレスが吠え、逆立った髪が黄金に変色した。

 彼を中心に突風が吹き荒れ、目の前に出現したそれにフリーザは震えた。

 黄金の髪。緑色の瞳。

 どれも見間違えるはずがない……その姿は、紛れもなく超サイヤ人と呼ばれるものであった。

 

「超サイヤ人は一人じゃねえ……ここにもいたというわけだ」

「そ、そんな……まさか、貴様までもが……」

「――俺の勝ちだな」

 

 ターレスが飛び込み、フリーザの頬へと肘をめり込ませる。

 更に腹に拳を打ち込み、サイボーグの機械の上から強引に衝撃を与えた。

 フリーザも咳き込みながら拳を振るうがターレスの方が速い。

 背後に回り込み、フリーザを羽交い絞めにしてから背中に容赦なく蹴りを何度も叩き込み、彼の身体を宙へと上げた。

 更にその先に回り込み、ダブルスレッジハンマー。フリーザの頭部へと拳をめり込ませ、地面へ叩き落とす。

 

「この猿野郎がぁ!」

 

 フリーザが激昂し、跳躍すると空中へ手を掲げた。

 追い詰められた時の手段が被っている辺り、やはりクウラと兄弟なのだろう。

 かつて惑星ベジータをも滅ぼした業火の如き巨大な気の塊……スーパーノヴァを以て惑星諸共ターレスを消す事を選んだのだ。

 それに対しターレスが取ったのは迎撃。

 右拳にありったけの気を集め、不敵に笑う。

 その姿にフリーザは一瞬、かつて己に歯向かってきた彼そっくりのサイヤ人を幻視した。

 

「『……これで全ての因縁が決着(おわ)る』」

 

 気を更に高め、ターレスが呟く。

 その背後に見えるサイヤ人(バーダック)の幻影と声が重なり、フリーザは一瞬、過去にタイムスリップでもしたかのような錯覚を受けた。

 

「バーダックの運命……ギネの運命」

 

 悟空達はあえて手を出さない。

 万一の時にいつでも動けるように備え、戦いはターレスに任せていた。

 彼だけの、譲れない因縁があると悟ったのだ。

 

「貴様の運命」

 

 フリーザには益々、今の状況があの日の光景と重なって見えた。

 たった一つ違うのは相手が超サイヤ人だと言う事。

 違う、負けるわけがない。

 俺は宇宙最強だ! その自負を以て火球を更に巨大にする。

 

「そして、この俺の運命も……!

――これで最後だああああああッ!!」

 

 ターレスが掌から解き放ったその技の名こそファイナルスピリッツキャノン。

 かつてバーダックが使用した彼の最大の技であり、フリーザをいつか倒すならばこの技しかないと決めていたものだ。

 激突する青い気弾と赤い火球。その光景はかつての焼き直しであり、だが結果は異なった。

 かつては飲み込まれて消えた青い輝きは決して消えず、逆にフリーザの火球を押し返している。

 

「ば、馬鹿な……! この俺が……フリーザ様が……下等な、猿野郎などに……!

こ、こんな……こんな……!」

「くたばれフリーザーーーーッ!!」

「こ、こん――」

 

 火球がフリーザを呑み込んだ。

 それだけに終わらず、火球を貫いてきた魂の砲撃がフリーザへ迫る。

 その刹那、フリーザは確かに観た。

 

 ――己へ迫る気弾が、あの日確かに殺したはずのサイヤ人(バーダック)の姿になるのを。

 

 その光景を目に焼き付け、今度こそフリーザは宇宙の塵となった。

 

 

 この日、宇宙は真の意味でコルドやフリーザの恐怖から解放された。

 いかに勢力が衰退しようと、やはりコルド大王やフリーザという悪の帝王は人々にとって抗い難い恐怖そのものだったのだ。

 しかしそれが地球に訪れた事で地球の神や、そこに住むサイヤ人によって死を迎え、宇宙の様々な星域に映像配信されたのだ。

 無論、この機を逃す反乱組織ではない。

 いくつもの惑星から義勇軍が発足され、惑星連合となってフリーザ達の残存戦力を徹底的に叩いた。

 特に獅子奮迅の活躍を見せたのが高い戦闘力を誇る『永遠の美』の若き総帥ザーボンだ。

 彼は白いコートをはためかせ、女性達の黄色い歓声を浴びながらいくつもの戦場に姿を現し、フリーザ系列の惑星を執拗なまでに攻撃した。

 かつて栄華を誇ったフリーザ傘下の星々も、こうなれば惨めなものだ。

 今まで他者を食い物として甘い蜜を吸い続けてきた報いとばかりにあらゆる惑星から非難を受け、ついに重い腰をあげた銀河パトロールからも『第一級犯罪星間』として指定された。

 特にフリーザと密接な関係を築き、他の惑星を買い取っていた星には重い罰が下され、銀河パトロールによる『絶滅爆弾』の投入も珍しくはなかったという。

 勿論抵抗はあった。

 いかに大将を失ったといえど、相手は宇宙最強の軍隊フリーザ軍だ。

 様々な惑星のエリートを集めたその軍勢に人々は苦しめられ、多大なる苦戦を強いられた。

 だが宇宙の人々は女神の名の下に手を取り合い、宇宙の自由の為に戦った。

 更に戦局を動かしたのが、かつてフリーザ一味の勝手な欲望によって絶滅の危機に瀕し、しかし地球からやってきた女神達に救われ、地球のドラゴンボールで蘇生された者達――即ち、化物集団ナメック星人の参戦であった。

 実はザーボンとの間にも一悶着あったのだが、ここで幸いだったのはザーボンが殺したナメック星人の数が少なかった事だ。

 そのほとんどはドドリアや手下が行っており、ザーボンのやった事など老人二人を殺したくらいである。

 勿論大罪には違いない。だがザーボンは『フリーザに命令されて仕方なくやっていた。女神と出会って心を入れ替えた。今は償いの為にこうして戦っている』と熱弁。人の好すぎるナメック星人達はこれを信じ、過去を水に流してしまった。お人よしすぎる。

 しかし人はよくとも戦闘力はまさに化物。

 畑仕事をしているだけの若者が戦闘力3000を超え、戦闘タイプのネイルに至っては42000の頭のおかしい集団は次々とフリーザ軍残党を叩き潰し、瞬く間にその勢力を削った。

 だが何よりもやばいのが、こいつの存在である。

 

「ポルンガ! フリーザ軍残党の持っている武器を全部消して下さい!」

『オッケー』

「ポルンガ! フリーザ軍残党の食料を全て消して下さい!」

『オッケー』

「ポルンガ! フリーザ軍残党の物資も全て消して下さい!」

『オッケー』

 

 もはや何でもありであった。

 ほら、お前等はこの龍に用があって平和なナメック星を侵略して星を爆破までしやがったんだろう?

 喜べよ、これがお前等の欲しがってた龍だぞ。

 そう言わんばかりに激怒したナメック星人達は躊躇を捨ててポルンガを投入し、反則としか呼べない所業に出た。

 普段温厚で優しい人ほど本気で怒ると怖いのだ。

 一つ目の願いで全ての武器を奪われ、二つ目の願いで全ての食料を奪われ、三つ目の願いで物資も全て奪って星を更地にされた。一体ここからどう逆転しろというのだ。

 これによりとうとうフリーザ軍残党は何も出来なくなってしまい、やがて全面降伏を経て組織そのものの完全解体へと移行する事となる。

 

 そして女神への熱狂的な信仰は留まる事なく、今日も増え続けている。

 これからもきっと、様々な惑星にて世界を救った神話として語り継がれ、信仰が消える事はないだろう。

 尚、それら全てが本人の全く与り知らぬ話であった。

 一方ザーボンは崩壊したコルド軍を吸収し、ますますその勢力を拡大。

 銀河パトロールの大株主となって実質上頂点に君臨し、更に自費で銀河パトロールの類似組織をいくつも設立することで銀河パトロールの価値を相対的に下げて発言力と影響力を低下させた。

 それでいて、銀河パトロールと同等の規模の組織をいくつも下部組織に持つことによって自らは銀河王を上回る発言力と影響力を手にし、実質的に銀河を支配してみせた。

 いつしか人は彼を、超銀河王ザーボンと呼んだ。




|0M0) オレノデバン……
↑未来トランクスルー
リゼット「あっ」

~???~
タイムパトローラー「………………」
謎のイケメン「あの人、何か今日は凄い上機嫌ですね」
時の神様「ええ。あの歴史を見てからずっとニヤニヤしてるわ」
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